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審決分類 審判 全部無効 2項進歩性 無効とする。(申立て全部成立) A47B
管理番号 1038676
審判番号 無効2000-35093  
総通号数 19 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 1995-10-09 
種別 無効の審決 
審判請求日 2000-02-15 
確定日 2001-05-10 
事件の表示 上記当事者間の特許第2760279号発明「電動式移動ラック装置の移動制御装置」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 特許第2760279号の請求項1及び2に係る発明についての特許を無効とする。 審判費用は、被請求人の負担とする。 
理由 1 手続の経緯・本件発明
本件特許第2760279号の請求項1及び2に係る発明(平成6年3月28日出願、平成10年3月20日設定登録。)は、平成11年6月7日の訂正請求によって訂正された明細書及び図面からみて、その特許請求の範囲の請求項1及び2に記載されたとおりのものであり、分説して記載すると次のとおりである。
「【請求項1】a.レール上に相互に接離可能に載接される複数の移動ラックからなり、移動ラックが相互に隣接する移動ラックと対向する前パネルの側面を有してなる電動式移動ラック装置に電気的に接続されて、移動ラック間に形成された通路が非使用状態の際に移動ラックを所望の位置まで移動させる駆動手段を備えて電動式移動ラック装置を制御する移動制御装置であって、
b.前記前パネルの側面に設けられて移動ラック間に形成された通路への進入と退出とを非接触状態で検出する検出手段と、
c.前記検出手段が検出した進入と退出との状態に応じて前記通路を形成している移動ラックの移動と移動禁止とを決定する移動決定手段とを具備してなり、
d.前記移動決定手段の決定に基づいて前記駆動手段が電動式移動ラック装置を制御するようにした上で、
e.前記通路への侵入と退出との回数の差が0である場合に前記移動ラックの移動を許可するように構成したことを特徴とする電動式移動ラック装置の移動制御装置。
【請求項2】a.レール上に相互に接離可能に載接される複数の移動ラックからなり、移動ラックが相互に隣接する移動ラックと対向する前パネルの側面を有してなる電動式移動ラック装置に電気的に接続されて、移動ラック間に形成された通路が非使用状態の際に移動ラックを所望の位置まで移動させる駆動手段を備えて電動式移動ラック装置を制御する移動制御装置であって、
b.前記前パネルの側面に設けられて移動ラック間に形成された通路への進入と退出とを非接触状態で検出する検出手段と、
c.前記検出手段が検出した進入と退出との状態に応じて前記通路を形成している移動ラックの移動と移動禁止とを決定する移動決定手段とを具備してなり、
d’.前記移動決定手段の決定に基づいて前記駆動手段が電動式移動ラック装置を制御するようにしておき、
f.前記検出手段が、略水平方向に離間して配置され受信する信号が前記進入と退出とにより遮断された際に出力信号を出力する形成された1つの通路に対して2台の受信部と、
g.該受信部に対向して配置され受信部に信号を送出する送信部と、
h.それぞれの受信部から出力される出力信号のいずれか一方が消滅した時点から残る他方が消滅する時点までの時間差に基づいて進入と退出とを判別する進退判別部と、
i.進退判別部の出力する信号に基づいて通路への進入と退出との回数の差を演算する演算部とからなり、
j.移動決定手段が、演算部が演算した差が0である場合に駆動手段に移動ラックの移動を許可する信号を出力するセット/リセット部からなることを特徴とする電動式移動ラック装置の移動制御装置。

2 請求人の主張の概要
本件請求項1及び2に係る発明は、甲第1号証〜甲第3号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、その特許は無効にすべきものである。

3 被請求人の主張の概要
請求人がいかなる利害関係を有するか否かが不明である。仮に、利害関係を有していたとしても、本件請求項1及び2に係る発明は、甲第1号証〜甲第3号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

4 請求人の利害関係の有無
請求人は、甲第1号証である特開昭59-64403号公報として出願公開された特許出願の出願人である。甲第1号証に記載された発明は移動棚装置に関し、本件発明「電動式移動ラック装置の移動制御装置」と同一の技術分野における発明であるから、請求人の発明が属する技術分野において、無効であるべき発明が特許されて保護を受けることになれば、請求人の不利益となるおそれがあると認められ、請求人は利害関係を有すると認められる。

5 甲第1号証ないし甲第3号証
5-1 甲第1号証:特開昭59-64403号公報
(従来の移動棚装置について)
「原動モータにより駆動されて相互に密集し、また、相互間に作業通路を形成可能に並設された複数の移動棚と、移動棚相互間に形成されるべき通路にそれぞれ対応して設けられた通路選択スイッチと、通路選択スイッチの選択操作によって指定された通路位置とそのときの移動棚の位置との関係から移動させるべき移動棚及びその移動の向きを判別する判別回路と、判別回路の判別に従って移動棚を移動させる駆動回路とを有してなる移動棚装置は既に知られている。」(2頁左上欄7〜16行)
(移動棚装置の外観構成について)
「第1図及び第2図において、適宜の間隔をおき相対峙して定置された棚1A、1A間には、物品出入口に対して直角方向に移動可能に、かつ、側面が同一面上に位置するように複数の移動棚が並設されている。定置棚1A及び移動棚1の一方の側パネル3には、t直接手動的に操作する操作パネル2が設けられている。定置棚1A、1Aの側パネル3には発光・受光ポスト4、4が固定されており、発光・受光ポスト4、4の適宜の高さ位置、例えば床面から1m程度の高さ位置には、発光器5A、5Bと、これら発光器からの光7A、7Bをそれぞれ受光する受光器6A、6Bが設けられている。一組の発光器5Aと受光器6Aは、他の一組の発光器5Bと受光器6Bよりも外側に位置していて、棚間に形成された通路内に人間又はフォークリフト等が入るときは発光器5Aからの光7Aを遮断したあと発光器5Bからの光7Bを遮断し、逆に通路から出るときは光7Bを遮断したあと光7Aを遮断するようになっている。」(2頁右上欄15行〜同左下欄13行)
「第10図の例は、移動棚装置が設置された室の相対向する壁42,42に第1の発光・受光器43,43を、また、相対向する棚相互間に第2の発光・受光器44,44をそれぞれ設けたものである。」(3頁右上欄8〜11行)
(通路内の作業者の進入退出の検知及び棚の移動について)
「ところで、上記のようにして形成された通路内に、作業者、フォークリフト、クレーンなどがが入ったとすると、まず、外側の受光器6Aへの光が作業者等により遮断されたあと内側の受光器6Bへの光が遮断され、それぞれの受光器のスイッチが一旦切換えられたのち原状に復帰する。従ってそれぞれの受光器6A、6Bが接続されたFF1、FF2は反転したあと原状に復帰し、それぞれの出力信号a、bは第18図に示されているように信号aが先行し、信号bが遅れて出力される。・・・FF3は信号gの入力によりリセットされ、・・・カウンタCNTのアップ・ダウン切換端子に入力されてカウンタをアップに切り換える。一方、信号gは・・・O1の出力信号lとして力ウンタCNTのクロック端子CLKに入力される。よってカウンタCNTは信号lを加算方向にカウントし、・・・デコーダCDCは・・・デジタル表示素子41に数字の「1」を表示させて通路内に一人、あるいは1台のフォークリフトが入っていることを表示する。同様にして、上記通路に今一人作業者等が入ったとすると、カウンタCNTは一つ加算して・・・表示素子41に数字の「2」が表示される。上記のように、通路内に一人でも入っていると、・・・a3、a5、a7はゲートが閉じられる。従って、通路内に一人でも入っている状態では遠隔操作によって開指令を発しても開指令信号は遮断されてしまい、遠隔操作による通路形成は不可能になって安全性が確保されることになる。また、・・・リレーコイルLが励磁され、接点L0がオフになってロック信号が発せられ、もって、通路内に人がいる以上、手動による直接操作でも棚を動かすことができず、通路内の作業者の安全が確保されることになる。
次に、通路内の作業者等が通路から出る場合について考える。この場合はまず、受光器6Bへの光が作業者等により遮断されたあと受光器6Aへの光が遮断されるから、第19図に示されているように、まずFF2の出力bが反転したあとFFIの出力aが反転する。・・・a1から信号fが出力され、FF3のセット端子Sに入力される。・・・カウンタCNTをダウンに切り換える。一方、信号fは・・・O1に入力される。O1は・・・信号lを出力し、これを力ウンタCNTのクロック端子CLKに入力するから、カウンタCNTは信号lが入力されるたびに減算していく。この減算に従い表示部41における表示も減算される。こうして通路内に作業者等がいなくなると、表示部41の表示は「0」となり、・・・a3、a5、a7の各入力の1つは「H」となり、・・・開指令信号を発することが可能な状態になる。・・・
このように、通路内に人間などがいるときはこれを検知して棚を移動不能に拘束するから、誤って開指令信号を発したとしても棚が移動することはなく、通路内の作業者の安全を確保することができる。」(6頁左下欄20行〜7頁右下欄20行)

5-2 甲第2号証:特公昭57-13289号公報
(可動棚に設けられた一対の反射型光電スイッチについて)
「集束時にそれぞれ相隣る間口が衝接しかつ奥行方向に移動可能なように配設された単位棚群(A0、A1、A2)のうち、任意の相隣る単位棚間に通路に相当する空間を形成しうるように構成された可動棚(A1、A2)において、前記各単位棚における前記各通路の出入口側に2個づつそれぞれ配設された反射型光電子スイッチ(OP11、OP12:OP21、OP22:OP31、OP32)と、前記単位棚間の通路への人または物の進入により前記外側の反射型光電子スイッチ(OP11、OP21、OP31)が動作してから内側の反射型光電子スイッチ(OP12、OP22、OP32)が動作した場合に前記各単位棚を走行させないようにロックし、前記単位棚間の通路より外への人または物の退出により前記内側の反射型光電子スイッチ(OP12、OP22、OP32)が動作してから外側の反射型光電子スイッチ(OP11、OP21、OP31)が動作した場合に前記各単位棚のロックを解除する装置とを具えたことを特徴とする可動棚。」(特許請求の範囲及び第1図)
(一対の反射型光電スイッチによる棚のロックとロック解除について)
「このように形成された第2通路内に作業者が侵入する場合に、外側の反射型光電子スイッチOP21が最初に動作するが、その奥側のスイッチOP22が動作していないため、総括補助リレーOPXは動作しない。その後作業者がさらに通路の奥に進入すると、奥側の反射型光電子スイッチOP22が動作され、その光電子スイッチ補助リレーOP22×が動作されて自己保持される。それから再び作業者が通路の奥から外側の反射型光電子スイッチOP21の前を通って通路外に出ると、今度は総括補助リレーOP×が動作され、インタロックが解除される。」(6欄28〜39行)

5-3 甲第3号証:実願昭54‐4815号(実開昭55‐104941号)のマイクロフイルム
(移動棚の互いに対向する側壁に取り付けられた信号発信部と信号検知部について)
「床面に並列に敷設された軌条1(図中1本のみ示す)上に、多数の移動棚移動棚2a、2b、2・・・が1通路3を確保して置き並べられており、同移動棚2a、2b、2・・・は、下部に電動力による走行手段を備え、側板4a、4b、4・・・に任意に取り付けられた操作盤5a、5b、5・・・の操作により移動自在となるようにされている。このように構成された移動棚において、信号発信部7及び信号検知部8が、通路3への進入ロ近傍において、通路3を挟んで隣り合う移動棚2a、2bの互いに対向する任意の個所、たとえば棚2aの前面であって側板4aの側壁6a及び棚2bの後面であって側板4bの側壁6b上で、しかも棚の高さの略中央部にそれぞれ取付けられている。この場合、信号は光であっても、超音波であっても差し支えない、要するに人体が信号発信部と信号検知部との間を通過する際に、信号に何らかの変化を検知することができるような媒体であればよい。たとえば信号が光である場合に、信号発信部は7は発光素子であり、信号検知部8は受光素子であって、受光素子は光束9が遮断されることを検知して図示されない制御装置を介して、たとえば走行用モータへ印加されるべき電源電圧をカットしあるいは走行用モータと走行車軸との駆動接続を解除して、全移動棚2a、2b、2・・・の走行を禁ずるインターロック回路を動作させるようになっている。」(4頁10行〜5頁15行)
6 対比・判断
(請求項1に係る発明について)
本件請求項1に係る発明と甲第1号証刊行物(以下、「引用例1」という。)に記載された発明(以下、「引用例発明1」という。)とを対比すると、引用例発明1の「移動棚1」は請求項1に係る発明の「移動ラック」に相当し、一般に移動ラックはレール上を移動するもの(甲第2、3号証参照)であり、引用例1第1図の記載からみて、引用例発明1の「移動棚1」もレール上に相互に接離可能に配置されていることが認められる。
また、引用例発明1の「側パネル3」は、請求項1に係る発明の「前パネル」に相当し、引用例発明1の「側パネル3」も「移動ラックが相互に隣接する移動ラックと対向する前パネルの側面」を備えるものであることが認められる。
さらに、引用例発明1は、2組の発光・受光器を備えた、棚間に形成された通路への進入と退出とを非接触状態で検出する検出手段を有し、2組の受光器の検出信号の時間的な前後関係によって、人等が単位棚間の通路に進入しまた退出したことを検出し、進入したときはアップカウントし、退出したときはダウンカウントし、このアップ・ダウンの結果が「0」なら移動棚の移動を可能とし、通路選択スイッチの選択操作によって指定された通路位置とそのときの移動棚の位置との関係から、移動させるべき移動棚および移動の向きを判別し、この判別に基づいて移動棚を駆動させるものであるから、請求項1に係る発明と引用例発明1とは、
「a.レール上に相互に接離可能に載接される複数の移動ラックからなり、移動ラックが相互に隣接する移動ラックと対向する前パネルの側面を有してなる電動式移動ラック装置に電気的に接続されて、移動ラック間に形成された通路が非使用状態の際に移動ラックを所望の位置まで移動させる駆動手段を備えて電動式移動ラック装置を制御する移動制御装置であって、
b’.移動ラック間に形成された通路への進入と退出とを非接触状態で検出する検出手段と、
c.前記検出手段が検出した進入と退出との状態に応じて前記通路を形成している移動ラックの移動と移動禁止とを決定する移動決定手段とを具備してなり、
d.前記移動決定手段の決定に基づいて前記駆動手段が電動式移動ラック装置を制御するようにした上で、
e.前記通路への侵入と退出との回数の差が0である場合に前記移動ラックの移動を許可するように構成したことを特徴とする電動式移動ラック装置の移動制御装置。」
で一致し、
通路への進入と退出とを検出するb’の検出手段について、請求項1に係る発明が、移動ラックの前パネルの側面に設けるのに対して、引用例発明1は、定置棚の前パネルに固定された発光・受光ポストに設ける例、1組は相対向する壁に、1組は移動ラックの相対向する面に設ける例等を開示するものの、移動ラックの前パネルの側面に設けるものではない点で相違する。
上記相違点を検討する。
甲第2号証刊行物(以下「引用例2」という。)には、電動式移動ラック装置において、移動ラック間の各通路への進入退出を検出する検出器を各通路の出入口側の移動ラックの相対向する面に設けることが記載され、甲第3号証刊行物(以下、引用例3という。)には、「信号発信部7及び信号検知部8が、通路3への進入ロ近傍において、通路3を挟んで隣り合う移動棚2a、2bの互いに対向する任意の個所、たとえば棚2aの前面であって側板4aの側壁6a及び棚2bの後面であって側板4bの側壁6b上で、しかも棚の高さの略中央部にそれぞれ取付けられている。」と記載され、検出器を取り付ける「移動棚の前面であって側板の側壁」は、本件発明の「移動ラックの前パネルの側面」に相当するから、引用例3には、電動式移動ラック装置において、移動ラック間の各通路への進入を検出する検出器を各通路の進入口近傍の移動ラックの前パネルの側面に設けることが開示されている。
そして、引用例1に記載のものも、二対の検出器の一対を、移動ラックの相対向する面に設けるものであるから、移動ラック間の通路への進入ないし退出を検出する検出器を移動ラックの相対向する面に設けることは、周知のことであると認められる。
また、通路への作業者等の進入ないし退出を検出するためには、作業者の出入口近辺に設ける必要があることは明らかであり、引用例3には、検出器の設置個所として、移動ラックの前パネルの側面が開示されているから、本件発明の進入退出検出器を移動ラックの前パネルの側面に設けるようなことは、当業者が容易になし得ることである。
被請求人は、請求項1に係る発明は、検出手段が移動ラック毎に設けてあるので、移動ラックにもたれて検出手段が動作することを防止することができ、しかも、前パネルの側面に設けてあるので、通路内の作業範囲の外側に設けられているものとなり、通路内の作業中に誤って検出手段を作動させることを確実に防止することができるという格別な効果を奏すると主張している。
しかしながら、通路への進入退出検出手段が移動ラック毎に設けてあるので、移動ラックにもたれて検出手段が動作することを防止することができるという作用効果については、引用例2に記載のものも、検出手段が移動ラックの相対向する面に設けてあることによって、移動ラックにもたれて検出手段が動作することを防止できるものであり、当業者が容易に予測しうる範囲内のものである。
また、通路への進入退出検出手段が通路内の作業で誤作動することのないように配置することは、進入退出検出手段が当然備えていなければならないこと(ちなみに、引用例1〜3に記載のものも、検出手段は出入口近くに設けられ、誤作動の防止を図っているものと認められる。)であるから、当業者であれば当然に考慮するものであり、格別のものとはいえない。
(請求項2に係る発明について)
請求項2のa,b,cは、請求項1に係る発明のa,b,cであり、請求項2のd’はdと同義である。
また、引用例発明1は、受光器6A、6B、発光器5A、5Bを備え、棚間に形成された通路への進入と退出とを非接触状態で検出するように構成し、2組の受光器の検出信号の時間的な前後関係によって、人等が単位棚間の通路に進入しまた退出したことを検出し、「カウンタCNT」によって、進入したときはアップカウントし、退出したときはダウンカウントし、このアップ・ダウンの結果が「0」なら移動棚の移動を可能とし、通路選択スイッチの選択操作によって指定された通路位置とそのときの移動棚の位置との関係から、移動させるべき移動棚および移動の向きを判別し、この判別に基づいて移動棚を駆動させるものである。
請求項2に係る発明と引用例発明1とを対比すると、引用例発明1の「受光器6A、6B」及び「発光器5A、5B」は、請求項2に係る発明の「2台の受信部」及び「送信部」に相当し、引用例発明1も、本件発明の「進退判別部」、「演算部」、「セット/リセット部」に相当するものを備えていることは明らかであるから、請求項2に係る発明と引用例発明1とは、
「a.レール上に相互に接離可能に載接される複数の移動ラックからなり、移動ラックが相互に隣接する移動ラックと対向する前パネルの側面を有してなる電動式移動ラック装置に電気的に接続されて、移動ラック間に形成された通路が非使用状態の際に移動ラックを所望の位置まで移動させる駆動手段を備えて電動式移動ラック装置を制御する移動制御装置であって、
b’.移動ラック間に形成された通路への進入と退出とを非接触状態で検出する検出手段と、
c.前記検出手段が検出した進入と退出との状態に応じて前記通路を形成している移動ラックの移動と移動禁止とを決定する移動決定手段とを具備してなり、
d’.前記移動決定手段の決定に基づいて前記駆動手段が電動式移動ラック装置を制御するようにしておき、
e’.前記検出手段が、略水平方向に離間して配置され受信する信号が前記進入と退出とにより遮断された際に出力信号を出力する形成された2台の受信部と、
f.該受信部に対向して配置され受信部に信号を送出する送信部と、
g.それぞれの受信部から出力される出力信号のいずれか一方が消滅した時点から残る他方が消滅する時点までの時間差に基づいて進入と退出とを判別する進退判別部と、
h.進退判別部の出力する信号に基づいて通路への進入と退出との回数の差を演算する演算部とからなり、
i.移動決定手段が、演算部が演算した差が0である場合に駆動手段に移動ラックの移動を許可する信号を出力するセット/リセット部からなることを特徴とする電動式移動ラック装置の移動制御装置。」
で一致し、
b’の検出手段について、請求項2に係る発明が、移動ラックの前パネルの側面に設けている、すなわち、1つの通路に対して2台の受信部・送信部を移動ラックの前パネルの側面に設けているのに対して、引用例発明1は、移動ラック装置に対して、2台の受信部・送信部を定置棚の前パネルに固定された発光・受光ポストに設けること、または、1台の受信部・送信部は相対向する壁に、他の1台の受信部・送信部は移動ラックの相対向する面に設けること等を開示するものの、2台の受信部・送信部を移動ラックの前パネルの側面に設けるものではない点で相違する。
しかしながら、請求項1に係る発明について述べたように、検出手段を移動ラックの前パネルの側面に設けることは、当業者にとって容易になし得るものであり、引用例発明1は、2台の受信部・送信部を検出手段として備えるものであるから、引用例発明1の2台の受信部・送信部を移動ラックの前パネルの側面に設けることは、当業者にとって容易になし得ることであるといわざるを得ない。
そして、請求項2に係る発明の作用効果について検討しても、請求項1に係る発明の作用効果と同様に、当業者が容易に予測しうる範囲内のものである。

6 むすび
以上のとおり、本件請求項1及び2に係る発明は、引用例1〜3に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件請求項1及び2に係る発明の特許は、特許法29条2項の規定に違反してされたものであり、同法123条1項2号に該当し、無効とすべきものである。
審判に関する費用については、特許法169条2項の規定で準用する民事訴訟法61条の規定により被請求人が負担すべきものとする。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2001-03-02 
結審通知日 2001-03-16 
審決日 2001-03-29 
出願番号 特願平6-56902
審決分類 P 1 112・ 121- Z (A47B)
最終処分 成立  
前審関与審査官 川向 和実  
特許庁審判長 伊坪 公一
特許庁審判官 後藤 千恵子
幸長 保次郎
登録日 1998-03-20 
登録番号 特許第2760279号(P2760279)
発明の名称 電動式移動ラック装置の移動制御装置  
代理人 赤澤 一博  
代理人 石橋 佳之夫  
代理人 久留 徹  

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