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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G11B
管理番号 1038976
審判番号 不服2000-2895  
総通号数 19 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 1995-05-19 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2000-03-02 
確定日 2001-05-31 
事件の表示 平成 5年特許願第274259号「磁気記録装置」拒絶査定に対する審判事件[平成 7年 5月19日出願公開、特開平 7-130099]について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯・本願発明
本願は、平成5年11月2日の出願であって、その請求項1に係る発明は、平成11年10月27日付け及び平成12年3月30日付け手続補正書によって補正された明細書及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1に記載された次のとおりのものと認める。(以下「本願発明」という)
「カード等の磁気記録媒体の走行速度に対応して300BPI以下の記録密度に対応するタイミング信号を発生するエンコーダと、このエンコーダからタイミング信号が入力され、このタイミング信号の間隔をtとしたとき、このタイミング信号に対応する記録密度/設定記録密度をnとして予め求めて該nを予めメモリに記憶しておき、該メモリに記憶した上記nを用いて、t×nの間隔のクロック信号を作成することにより上記設定記録密度に対応したクロック信号を生成する演算部とを備え、上記設定記録密度に対応した上記クロック信号により、データを上記磁気記録媒体に記録するようにしたことを特徴とする磁気記録装置。」

2.引用例
これに対して、原査定の拒絶の理由に引用された、本願の出願の日前である平成5年2月5日に頒布された実願平3-53944号(実開平5-8752号)のCD-ROM(以下、「引用例」という)には、
「【0007】
図1の実施例は、モータの回転に同期した高周波のパルス信号を発生するエンコーダ部1と、エンコーダ部1からのエンコーダ出力信号4を入力してそれを指定された分周比に分周する分周部2と、分周部2からの分周出力信号5を入力してそれに同期して磁気記録媒体の磁気ストライプに対して情報の記録・再生を行う磁気記録部3と備えている。
【0008】
上述のように構成された磁気ストライプリーダライタは、図2に示すように、エンコーダ部1から、モータの回転に同期した高周波のパルス信号のエンコーダ出力信号4が発生される。このエンコーダ出力信号4は、分周部2に入力し、そこであらかじめ指定されている分周比に分周されて分周出力信号5として出力される。分周部の分周比は、任意の値に設定する。
」(第4頁第1〜12行)
「【考案の効果】
以上説明したように、本考案の磁気ストライプリーダライタは、モータの回転に同期した高周波のパルス信号を発生するエンコーダ部と、エンコーダ部の出力信号を所定の分周比に分周する分周部とを設け、分周部の分周比を任意の値に設定することにより、磁気ストライプに対して複数の記録密度で情報を記録できるという効果がある。」(第4頁第17〜22行)
の記載があり、これらの記載及び図面を参照すると、引用例には以下の発明が記載されていると認める。(以下、「引用例記載の発明」という)
「モータの回転に同期した高周波のパルス信号を発生するエンコーダ部と、複数の記録密度に応じた任意の分周比をあらかじめ指定しておき、エンコーダ部の出力信号を指定した分周比で分周する分周部とを設け、分周部からの分周出力信号により、情報を磁気記録媒体の磁気ストライプに複数の記録密度で記録をするようにした、磁気ストライプリーダライタ。」

3.対比
本願発明と引用例記載の発明とを対比すると、
(1)引用例記載の発明の「磁気ストライプ」の形状の「磁気記録媒体」は、本願発明の「カード等の磁気記録媒体」に相当する。
(2)引用例記載の発明の「モータ」は、「磁気記録媒体」を走行させるためのモータであると認められるから、引用例記載の発明の「モータの回転に同期した高周波のパルス信号を発生するエンコーダ部」は、本願発明の「カード等の磁気記録媒体の走行速度に対応して」「タイミング信号を発生するエンコーダ」に相当する。
(3)引用例記載の発明の「分周出力信号」は「複数の記録密度に応じた任意の分周比をあらかじめ指定しておき、エンコーダ部の出力信号を指定した分周比で分周」した信号であるから、本願発明の「設定記録密度に対応したクロック信号」に相当する。
(4)「分周比」とは入力周波数の1/Nの出力周波数を得るときの「N」であること、及び、記録密度は記録の際に使用する周波数に比例することは、当業者にとって自明であるから、引用例記載の発明の「分周比」とは、
[分周比]=[パルス信号の周波数]/[分周出力信号の周波数]
=[パルス信号に対応する記録密度]/[分周出力信号に対応する記録密度]
を意味し、前記(2)(3)より、前記[パルス信号に対応する記録密度]は本願発明の「タイミング信号に対応する記録密度」に相当し、前記[分周出力信号に対応する記録密度]は本願発明の「設定記録密度」に相当するから、引用例記載の発明の「分周比」は本願発明の「タイミング信号に対応する記録密度/設定記録密度」及び「n」に相当する。
(6)引用例記載の「分周部」は、「パルス信号」から「分周比」(すなわちn)を用いて、「分周出力信号」すなわち[パルス信号の間隔]×[分周比](すなわちt×n)間隔のクロック信号を作成しているから、本願発明の「演算部」に相当する。
(7)引用例記載の発明は、「分周比」すなわち「n」を予め設定しているから、「n」を予め求めており、また引用例記載の発明は、前記「n」を後で分周部が使用しているから、指定した前記「n」を分周部で使用可能なように保持する手段を有していると認められる。データを保持する手段としてメモリは周知慣用手段であることを鑑みると、引用例記載の発明は、実質的に「n」を記憶するメモリを有していると認められる。
(8)引用例記載の発明の「磁気ストライプリーダライタ」が本願発明の「磁気記録装置」に相当する
から、本願発明と引用例記載の発明は
「カード等の磁気記録媒体の走行速度に対応するタイミング信号を発生するエンコーダと、このエンコーダからタイミング信号が入力され、このタイミング信号の間隔をtとしたとき、このタイミング信号に対応する記録密度/設定記録密度をnとして予め求めて該nを予めメモリに記憶しておき、該メモリに記憶した上記nを用いて、t×nの間隔のクロック信号を作成することにより上記設定記録密度に対応したクロック信号を生成する演算部とを備え、上記設定記録密度に対応した上記クロック信号により、データを上記磁気記録媒体に記録するようにしたことを特徴とする磁気記録装置。」
である点で一致し、以下の点で相違する。
・相違点
本願発明のエンコーダは「300BPI以下の記録密度に対応するタイミング信号を発生する」のに対して、引用例記載の発明のエンコーダは発生するタイミング信号がいくつの記録密度に対応するのか規定されていない点。

3.当審の判断
上記相違点について検討する。
「磁気記録媒体の走行速度」と「エンコーダ」が発生する「タイミング信号」との関係は、磁気記録媒体を走行する手段とエンコーダとの間の、例えばギヤ比に応じて適宜設定可能な事項であるから、エンコーダの構造とエンコーダが発生するタイミング信号がいくつの記録密度に対応するかは適宜設定可能な設計的事項であると認められる。
してみると、エンコーダが発生するタイミング信号を300BPI以下の記録密度に対応させたことに、エンコーダの構造上、格別の点は見いだせない。また、その他の格別の点も認められない。
したがって、エンコーダが発生するタイミング信号がいくつの記録密度に対応するように設定するかは適宜選択し得る設計的事項にすぎない。

4.出願人の意見
出願人は、平成12年3月30日付け手続補正書で補正された審判請求書において、
「本願の請求項1に係る発明は、(中略)基本的に任意の異なる記録密度に対応するクロック信号を作り出すことができます。」
と主張しているが、本願発明の「演算部」は、「タイミング信号に対応する記録密度」と「設定記録密度」とで定義される「n」を用いて、演算部の入力の「タイミング信号」と出力の「クロック信号」との関係t×nを示しているにすぎず、任意の異なる記録密度に対応するクロック信号を作り出すための具体的な構成を有しているわけではない。したがって出願人のこの主張は、発明の構成に基づく主張ではない。
また出願人は
「引用文献1記載の技術では、(中略)エンコーダ自体が複雑な構造で高コストのエンコーダとなり、実用的ではありません。」
と主張している。しかし前記「3.当審の判断」で述べたように、エンコーダの構造とエンコーダが発生するタイミング信号がいくつの記録密度に対応するかは適宜設定可能な設計的事項にすぎず、引用例記載の発明のエンコーダが「複雑な構造で高コストのエンコーダとなり、実用的ではありません」という出願人の主張は失当である。
さらに出願人は
「本願の請求項1に係る発明は、(中略)演算部で作成するものであり、この構成は引用文献1記載の“分周部”とは異なる新規なもの」
と主張しているが、前述したように本願発明の「演算部」は、「タイミング信号に対応する記録密度」と「設定記録密度」とで定義される「n」を用いて、演算部の入力の「タイミング信号」と出力の「クロック信号」との関係t×nを示しているにすぎず、前記「2.対比」の一致点で述べたように、引用例記載の発明の「分周部」の入力と出力も同様の関係を有するから、本願発明の「演算部」は、引用例記載の発明の「分周部」と同一の機能を有するものであり、機能以外には構成を特定していない以上、構成の相違を認めることができない。

なお、入力信号の周波数をn/m倍したクロック、すなわち単なる分周ではないクロックを出力する手段は、例えば、
鈴木康夫、樋口武尚共編「特許パルス回路辞典」 株式会社オーム社(昭和55年5月20日)第436頁(第516頁ではこれを「分周回路」と呼称)
特開平3-54774号公報
に記載されているように周知である。

5.むすび
したがって本願発明は、引用例に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2001-03-06 
結審通知日 2001-03-13 
審決日 2001-03-26 
出願番号 特願平5-274259
審決分類 P 1 8・ 121- Z (G11B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 西山 昇  
特許庁審判長 高瀬 博明
特許庁審判官 伊東 和重
田良島 潔
発明の名称 磁気記録装置  
代理人 本多 章悟  
代理人 樺山 亨  

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