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審決分類 審判 全部申し立て 発明同一  D01F
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  D01F
管理番号 1039295
異議申立番号 異議2000-70961  
総通号数 19 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 1996-02-06 
種別 異議の決定 
異議申立日 2000-03-06 
確定日 2001-05-02 
異議申立件数
事件の表示 特許第2944891号「エアバッグ基布用ポリエステル繊維」の請求項1に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 特許第2944891号の請求項1に係る特許を維持する。 
理由 I.手続の経緯・本件発明
本件特許第2944891号の請求項1に係る発明についての出願は、平成6年7月19日に出願され、平成11年6月25日に特許の設定登録がされ、その特許公報が平成11年9月6日に発行された。これに対して、平成12年3月6日付で東レ株式会社より特許異議の申し立てがなされた。
本件請求項1に係る発明(以下、本件発明という。)は、特許請求の範囲請求項1に記載された下記のとおりのものである。
「繰返し単位の90モル%以上がエチレンテレフタレートであるエアバッグ基布用ポリエステル繊維であって、該繊維が下記(a)〜(e)の要件を同時に満足することを特徴とするエアバック基布用ポリエステル繊維。
(a)固有粘度IVが0.8以上
(b)単繊維繊度Dが0.3〜4.0デニール
(c)引張強度Tが8.0g/de以上
(d)引張伸度Eが14%以上
(e)断面圧縮応力Fが20kg/mm2以下」
II.特許異議申立人の主張の概要
特許異議申立人は、甲第1号証(特願平5-94540号(特開平6-306728号公報参照))、甲第2号証(特開平4-214437号公報)及び参考資料(東レ株式会社、齋藤磯雄及び田原昭夫作成の平成12年3月1日付け実験証明書)を提示して次の主張をしている。
1.本件発明は、参考資料を参酌すると、先願としての甲第1号証に記載された発明と同一であるから、その特許は、特許法第29条の2の規定に違反してされたものである。
2.本件発明は、甲第2号証に記載された発明であるから、その特許は、特許法第29条第1項の規定に違反してされたものである。
III.当審の判断
1.証拠方法の記載
a.先願の明細書(特開平6-306728号公報参照)には次の記載がなされている。
a-1.「表面に樹脂をコートしないエアバッグ用基布において、総繊度220D以上450D未満、単糸繊度0.6d以上3d未満、強度8.0g/d以上、伸度12.0%以上、交絡度20以上である実質的に無撚りのマルチフィラメントを用い、かつ布帛の下記式で表されるカバーファクタKが2000以上であることを特徴とするエアバッグ用基布。
K=NW×DW0.5+NF×DF0.5ただし、NW :タテ糸密度(本/インチ)、DW:タテ糸繊度(デニール)、NF:ヨコ糸密度(本/インチ)、DF:ヨコ糸繊度(デニール)。」
(特許請求の範囲請求項1)
a-2.「【実施例】以下、実施例により本発明を詳細に説明するが、本文もしくは実施例中の各物性は、次のようにして測定した。
(1)固有粘度IV:オストワルド粘度計を用いて、オルソクロロフェノール100mlに対し、試料3gを溶解した溶液の相対粘度ηrを25℃で測定し、次の近似式によりIVを算出した。
IV=0.0242ηr+0.2634
ただし、ηr=(t×d)/(t0×d0)、t:溶液の落下時間(秒)、t0:オルソクロルフェノールの落下時間(秒)、d:溶液の密度(g/cc)、d0:オルソクロルフェノールの密度(g/cc)」(段落【0044】)
a-3.「実施例1 IV=1.0のポリエチレンテレフタレートチップを通常の溶融紡糸法により、ホール数144の口金を用いて紡糸した。このとき紡糸温度は300℃であり、口金直下には、長さ300mm、温度300℃の加熱筒を用い、紡糸速度は500m/minとした。紡出糸を、巻き取ることなく引き続き210℃の温度で5.4倍に延伸熱処理した後、エア交絡をかけながら3.0%の弛緩率でリラックス処理を施し、420D、144フィラメントの延伸糸を得た。得られたフィラメントの物性は、単糸繊度2.92dであり、強度8.8g/d、伸度14.2%、交絡度30であった。」(段落【0054】)
a-4.「次いで、上記フィラメントをタテ糸、およびヨコ糸に用い、織密度タテ55本/吋、ヨコ52本/吋の平織を作製した。」(段落【0055】)
b. 甲第2号証には次の記載がなされている。
b-1.「フィラメントの太さが4dtexか又はそれより小さく、糸番手が250-550dtexの範囲である高強力のポリエステルフィラメント糸からなる、エアバッグ用のコートされていない合成糸からなる布帛。」
(特許請求の範囲請求項1)
b-2.「ポリエステル糸の強力が60cN/texより大きく、破壊伸びが15%より大きい請求項1に記載の布帛。」(特許請求の範囲請求項2)
b-3.「請求項1-12のいずれか一つに記載の布帛から本質的に製造されるエアバッグ。」(特許請求の範囲請求項13)
b-4.「フィラメントの太さが4dtexより小さく、糸番手が250-550dtexの範囲である高強力のポリエステルフィラメント糸を織ることからなる、エアバッグ用のコートされていない布帛を製造する方法。」
(特許請求の範囲請求項18)
b-5.「ポリエステル糸の強力が60cN/texより大きく、破壊伸びが15%より大きい請求項18に記載の方法。」(特許請求の範囲請求項19)
b-6.「実施例1 315dtex、96フィラメントの高強力ポリエステル糸であるTREVIRA HOCHFESTを用いてコートされていないエアバッグ用の布帛を製造した。個々のフィラメントの太さは3.3dtexである。この糸は以下の特性を有する:破壊強さ20.8N 強力66cN/tex 破壊伸び19% 200℃における収縮率4.7% 融点257℃。」(段落【0026】)
c.参考資料には次の記載がなされている。
c-1.「5.実験の目的 特開平6-306728「エアバッグ用基布」(東レ(株))の実施例1を追試することによって、該実施例1に記載されたポリエステル繊維の、固有粘度IV、単繊維繊度D、引張強度T、引張伸度E、断面圧縮応力Fが、特許第2944891号「エアバッグ基布用ポリエステル繊維」の請求項1で規定する範囲内にあることを証明する。
6.測定試料とするポリエステル繊維の製造 特開平6‐306728の実施例1の記載のとおりに製造した、総繊度420D、フィラメント数144本のポリエステル繊維を測定試料とした。測定条件はいずれも特許第2944891号の特許明細書に規定されたとおりとした。得られたポリエステル繊維の物性は次のとおりであった。 固有粘度IV:1.0 単糸繊度(単繊維繊度D):2.92d 強度(引張強度T):8.8g/d 伸度(引張伸度E):14.2% 交絡度:30
7.結果 得られたポリエステル繊維の断面圧縮応力Fの諸特性を特許第2944891号記載の方法によって測定した結果は次に示すとおりであった。
断面圧縮応力F:15kg/mm2 8.考察 前記のとおり、特開平6-306728の実施例1で得られるポリエステル繊維の固有粘度IV、単繊維繊度D、引張強度T、引張伸度E、断面圧縮応力Fは、特許第2944891号の請求項1に規定する固有粘度IV、単繊維繊度D、引張強度T、引張 伸度E、断面圧縮応力Fの範囲内であることがわかる。 以上」
2.特許異議申立人の主張1について
特許異議申立人は、参考資料(実験証明書)によって、先願明細書記載のポリエステル繊維が、「断面圧縮応力F20kg/mm2以下」の要件であることを立証しているので、検討する。
参考資料には、例えば「特開平6-306728の実施例1のとおりに製造した・・・」というように、実験の内容が引用形式で記載されているために、具体的にどのような操作が行われたか不明な点はあるが、記載のとおりの実験が行われ、記載のとおりの結果が得られたものと認められる。
先願明細書には、固有粘度IVの測定に関しては、オルソクロロフェノールを溶媒とし、25℃において得られたものであることが記載されている。
これに対して、参考資料での実験に用いた試料の固有粘度IVの「1.0」は、「測定条件はいずれも特許第2944891号の特許明細書に規定されたとおりとした。」の記載からみて、本件の特許明細書に規定されたとおり、オルソクロロフェノールを溶媒とし、35℃において得られたものであると解される。
同一の試料であっても、測定温度が違えば、異なる固有粘度IVの値が得られるのが常であるから、測定温度が違うにも拘わらず、固有粘度IVが同じ値(1.0)を示すということは、参考資料での実験に用いた試料は、実質的に先願明細書の実施例のポリエステルと同一の試料とはいえないというべきである。
そのため、参考資料での実験は、先願明細書の実施例の適正な追試実験とはいえない。
参考資料を、先願明書記載のポリエステル繊維が、「断面圧縮応力F20kg/mm2以下」の要件を満たすことの根拠とすることはできないので、本件発明は、この要件の点で相違し、先願明細書に記載されたものであるとはいえない。
3.特許異議申立人の主張2について
本件発明と甲第2号証記載の発明(実施例)とを対比する。
甲第2号証の実施例における、ポリエステルフィラメントの3.3dtexは、換算すると2.97デニール、同じく糸の強力66cN/texは、換算すると7.3g/deとなるから、両者は、エアバッグ基布用ポリエステル繊維であって、該繊維が単繊維繊度Dの数値限定、及び引張伸度Eの数値限定で重複する点で一致するが、前者が、固有粘度IVが0.8以上、引張強度Tが8.0g/de以上、及び断面圧縮応力Fが20kg/mm2以下と特定しているのに対して、後者は、引張強度Tの値として、8.0g/de以上に該当するものを明示していない点及び固有粘度IV及び断面圧縮応力Fについて言及していない点で相違する。
特許異議申立人は、甲第2号証記載のTREVIRA HOCHFESTを入手して、固有粘度IVが0.8以上、断面圧縮応力Fが20kg/mm2以下であることを立証する用意があると述べているだけで、具体的な立証はしていない。
そのため、甲第2号証記載のものが、引張強度Tが8.0g/de以上、固有粘度IVが0.8以上、断面圧縮応力Fが20kg/mm2以下の要件を満たすとはいえない。
したがって、本件発明が甲第2号証記載された発明であると認めることはできない。
IV.むすび
以上のとおりであるから、特許異議申立人の主張及び挙証によって本件特許を取り消すことはできない。
また、他に本件特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2001-04-10 
出願番号 特願平6-166925
審決分類 P 1 651・ 161- Y (D01F)
P 1 651・ 113- Y (D01F)
最終処分 維持  
前審関与審査官 澤村 茂実  
特許庁審判長 高梨 操
特許庁審判官 石井 克彦
仁木 由美子
登録日 1999-06-25 
登録番号 特許第2944891号(P2944891)
権利者 帝人株式会社
発明の名称 エアバッグ基布用ポリエステル繊維  
代理人 前田 純博  

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