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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  A47G
管理番号 1039314
異議申立番号 異議2000-74446  
総通号数 19 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2000-03-07 
種別 異議の決定 
異議申立日 2000-12-12 
確定日 2001-04-28 
異議申立件数
事件の表示 特許第3051846号「カーペット」の請求項1、2に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 特許第3051846号の請求項1ないし2に係る特許を維持する。 
理由 1. 本件は、特許第3051846号に関し、その特許請求の範囲【請求項1〜2】に係る発明につき受けた特許を取消すべきことを請求して提起した異議申立事件に存する。

2. 本件の手続きの経緯の概要は、以下のとおりである。
1) 登録:平成12年4月7日
2) 出願:平成10年8月26日
3) 公報:平成12年6月26日特許公報発行
4) 異議:平成12年12月12日申立人ニッシン株式会社より異議申立

3. 本件請求項1、2に係る発明は、特許請求の範囲【請求項1〜2】に記載された以下のとおりのものである。
「【請求項1】下撚方向を同じくする太さが2〜5メートル番手で下撚回数が150〜250回/mの複数本の混紡単糸(11・12・13)を、その下撚方向と同じ方向に上撚を掛けて撚り合わせた合撚糸(14)がカットパイル(15)に使用されており、上撚回数が混紡単糸の下撚回数と同等、または、それ以下となる100〜220回/mであり、その混紡単糸(11・12・13)の7〜20重量%を熱融着性繊維が占め、混紡単糸(11・12・13)の80〜93重量%を羊毛繊維が占め、その熱融着性繊維が羊毛繊維に融着しており、カットパイル(15)の先端(16)では下撚の解撚トルクと上撚の解撚トルクが同じ方向に作用して各混紡単糸毎にまとまった複数個のカットパイル片(21・22・23)に分離しており、カットパイル片の先端(17・18・19)のカット断面はランダム方向に現れ、パイル面ではカットパイル(15)の先端が複数個のカットパイル片(21・22・23)に分かれ、それらの先端(17・18・19)の傾き方向がランダムであり、各カットパイル片の羊毛繊維間が熱融着性繊維によって接合され、上撚によって付けられたカットパイル片の螺旋形クリンプが消失しておらず、各カットパイル片の先端(17・18・19)では下撚の解撚トルクによっては繊維間が解れず収束した下撚状態に維持されていることを特徴とするカーペット。
【請求項2】 前掲請求項1に記載のカーペットが、ダブルフェースウイルトンカーペットであることを特徴とする前掲請求項1に記載のカーペット。」

4. 異議申立人の主張
これに対して、異議申立人は、証拠方法として、
1). 甲第1号証の1 ニッシン株式会社が1997年10月に頒布した[織じゅうたん光彩]1997to2000Vol.6の見本帳を撮影した写真
2). 甲第1号証の2 甲第1号証の1の見本帳の製品番号2200の見 本の部分を拡大した写真
3).甲第2号証の1 フジライトカーペット株式会社本社商品企画課
マネージャー林慶泉の証明書
4).甲第2号証の2 フジライトカーペット株式会社商品物流サービス課
マネージャー長堀浩章の証明書
5).甲第2号証の3 日本オーナメント株式会社営業企画部営業企画課課 長山崎茂雄の証明書
6).甲第2号証の4 株式会社角仲代表取締役中島三舞郎の証明書
7).甲第3号証 財団法人毛製品検査協会関西検査所の試験結果報告書
8).甲第4号証 特関昭62-117869号公報
8).甲第5号証 特開平8一13315号公報
10).甲第6号証 特開平2一845205号公報
11).甲第7号証 特開昭56一58025号公報
12).甲第8号証 特開昭55一16935号公報
13).甲第9号証 「カーペット辞典」日本カーペット工業組合 平成 8年11月発行の表紙、第97頁、奥付、裏表紙の各写し
14). 検甲第1号証 ニッシン株式会社が1997年10月に頒布し た[織じゅうたん光彩]1997to2000Vol.6の見 本帳
15). 証 人 氏名 林 慶泉
住所 東京都中央区新川1丁目22番11号
フジライトカーベット株式会社本社商品企画課マネージャー
16). 証 人 氏名 山崎 茂雄
住所 東京都北区浮島5丁目14番2号
日本オーナメント株式会社営業企画部営業企画課課長
を、それぞれ、提出並びに申し出をし、
「イ). 本件特許の請求項1および請求項2に係る各発明は、
その出願前に頒布された甲第1号証の見本帳に添付のカーペット見本に基づいて、これに甲第4号証〜甲第7号証の周知もしくは公知の技術を適用して、当業者が容易に発明をすることができたものであり、
ロ). あるいは、甲第8号証に記載の発明に甲第4号証〜甲第7号証に記載の公知あるいは周知の技術を適用して糸使いを変更することにより、当業者が容易に発明をすることができたものであると認められるから、
特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。
したがって、上記各発明に係る特許は、いずれも同法第113条第2号の規定により取り消されるべきものである。」
旨、主張している。

5. ところで、上記甲第1号証の1、2の「製品番号2200」に係るカーペット(以下、「甲第1号証に係るカーペット」という。)は、外観から窺うに、抑も、本件発明の如きカットパイルカーペット用に供せられる「カットパイル」ではなく、ループパイルカーペット用に供せられる「ループパイル」であって、本件発明とは表面の形状や態様を著しく異にしている。
それ故、
イ.「この彎曲したカットパイル片の形状や、一直線状になったワイヤーの引き抜き跡、傾斜したカットパイル片の上端のカット断面、微かなV字状溝は、シャリング後も僅かにパイル面に残る。」という問題点及び、
ロ.「パイルは一定方向に傾斜する方向性を有しており、この方向性はカットパイルに強く現れるので、カットパイル布帛のパイル面は、それを見る方角によっては濃くも淡くも見える。上布ダブルウイルトンと下布ダブルウイルトンは、それらのパイル面を上下向かい合わせに織成されるので、それらを同一平面上に並べると、それらのパイルの傾斜方向が左右又は前後対称になり、それらのパイル面に濃淡光沢差が生じる。」という問題は生じず、
されば、
「カーペットの製品仕様が同じであっても製法の相違によってパイル面に外観上の差異が生じないようにすること、特に、同じ図柄で上下2枚同時に織成される上布ダブルウイルトンと下布ダブルウイルトンのパイルの方向性をなくし、両者を同じフロアーに並べて敷詰施工し得るようにすることを目的とする。」
という本件発明が解決課題として、標榜した技術的基盤を欠いている。
さらに、甲第1号証に係るカーペットは、その態様と甲第3号証の記載から窺うに、パイルを組成する単糸は殆ど羊毛から成っており、本件発明の混紡単糸が採択する、7〜20重量%を熱融着性繊維が占め、80〜93%を羊毛繊維が占めるという構成を全く欠如している。
したがって、本件【請求項1〜2】に係る発明のカーペットは、下撚方向を同じくする複数本の混紡単糸を、その下撚方向と同じ方向に上撚を掛けて撚り合わせた合撚糸によってカットパイルが形成されており、その混紡単糸の7〜20重量%に熱融着性繊維が使用されており、その熱融着性繊維が混紡単糸80〜93重量%を占める他の非熱融着性繊維に融着していること(第1の特徴)、
さらに、本件発明に係るカーペットは、上記第1の特徴に加えて、混紡単糸7〜20重量%を熱融着性繊維が占め、混紡単糸の80〜93重量%を羊毛繊維が占めていること( 第2の特徴)、
という構成を具備しているのに対し、上記甲第1号証に係るカーペットは、このような構成を採るニーズが存しておらず、斯かる構成を備えないものである。
されば、本件【請求項1、2】に係る発明が構成として発現する
「i). 熱融着性繊維が羊毛繊維に融着しており、カットパイルの先端では下撚の解撚トルクと上撚の解撚トルクが同じ方向に作用して各混紡単糸毎にまとまった複数個のカットパイル片に分離していること、
ii). カットパイル片の先端(17・18・19)のカット断面はランダム方向に現れ、パイル面ではカットパイル(15)の先端が複数個のカットパイル片(21・22・23)に分かれ、それらの先端(17・18・19)の傾き方向がランダムであり、各カットパイル片の羊毛繊維間が熱融着性繊維によって接合され、上撚によって付けられたカットパイル片の螺旋形クリンプが消失していないこと、
iii). 各カットパイル片の先端(17・18・19)では下撚の解撚トルクによっては繊維間が解れず収束した下撚状態に維持されていること」
を、構成要件の要素とするのに対して、
上記甲第1号証に係るカーペットにおいては、抑も該カーペットがカットパイルではないところ、このような構成要件を具有しないものである。
それ故、このものに、他の公知・周知例即ち甲第4号証〜甲第7号証(詳述は、後記する。)に記載の技術を如何に組合せ勘案しても、上記甲第1号証に係るカーペットは、本件特許請求の範囲【請求項1、2】に係る発明の構成要件と大幅に懸隔し、基盤となる技術思想につき根本的に相違するものであるところ、このものと上記公知(周知)例に基づいて当業者が容易に想到することができたものと認めることはできないものというべきである。
このように、上記甲第1号証に係るカーペットは、本件【請求項1〜2】に係る発明とは構成を著しく異にし、課題解決の基盤を大幅に懸隔しているものであるから、本件発明の特許を取り消すための審理に実質上有効且つ適切なものとはいい得ないものであるので、これについての公知性等に関する証拠調べは行うには及ばない。
故に、異議申立人の申し出た検甲第1号証の検証に係る証拠調べ、並びに、証人林 慶泉及び証人山崎 茂雄の証人尋問については、これを、行わない。

6. [提出刊行物の記載]
1) 特開昭62-117869号公報(甲第4号証刊行物:以下、「4号証刊行物」という。)には、以下の事項が図面とともに記載されている。
イ) 「低融点短繊維と他の短繊維とからなり、低融点短繊維の混紡率が1.0〜10.0重量%で、かつ熱処理を施して溶融接着させた紡績糸をカットパイルおよび/またはループパイルに使用したことを特徴とするカーペット。」(公報第1頁左欄特許請求の範囲(1))
ロ) 「カットパイルカーペットにおいてはパイルでの毛抜け、 カットパイル の尖端が開くことによる弾力不足、裏面の見かけの悪さ等の問題がある。」(第1頁右欄7〜10頁)
ハ) 「他の短繊維は、ポリエステル、ポリアミド、ポリアクリロニトリル、等の合成繊維、獣毛繊維、他の天然繊維等の短繊維の単独またはそれらの混合繊維である。」(第2頁上段右欄20行〜下段左欄3行目)
2) 特開平8-13315号公報(甲第5号証刊行物:以下、「5号証刊行物」という。)には、以下の事項が図面とともに記載されている。
イ) 「【請求項1】 カットパイルおよび/またはループパイルを有するウールタフトカーペットであって、芯部に融点170℃以上の高融点ポリアミド、鞘部に融点130℃以下の低融点ポリエステルを配した芯鞘複合バインダー繊維とウールを主体とする短繊維からなり、バインダー繊維の混紡率が2〜20重量%で、かつバインダー繊維で熱融着している紡績糸でパイルが形成されていることを特徴とするウールタフトカーペット。」(公報2頁左欄【特許請求の範囲の請求項1】)
ロ) 「 【0027】
得られたバインダー繊維とナイロン6繊維(4デニール、51mmカット長)およびニュージーランド産のクロスブレッドウールを10:10:80の重量割合(ナイロンとウールはベージュ色に綿染したもの)で混綿し、紡毛式により紡績後、撚糸して撚り数:s160/z230、番手2/4.0Nmの紡績糸を得た。」(公報段落番号【0027】)
3) 特開平2-84520号公報(甲第6号証刊行物:以下、「6号証刊行物」という。)には、以下の記載が、図面とともに記載されている。
イ) 「1.糸内の不連続繊維又は連続フィラメントの幾らか又は全部を結合させることによつてパイル糸中の実際の撚りを安定化することにより、カーベートを含む糸パイル布帛のタフト明確性及び外観保持性を改良する方法であつて、 ……………………別の工程で行う方法。」(公報第1頁左欄特許請求の範囲1.)
ロ) 「カーペット羊毛90%及び4デニール51mm二成分ポリエステル結合性繊維10%を含有する単糸紡毛糸を1mについて170回の撚りを有する250テックスに紡績した。単糸の二つを一緒に試験することによつて、1mについて140回の撚りで(撚りの反対方向で)双糸500テックス糸を作つた。」(公報第6頁下段左欄12〜18行)
ハ) 「カーペット羊毛90%及び15デニール76mmの2成分ポリエステル10%を含有する単糸準梳毛糸を1mについて136回の撚りで310テックスに紡績した。次いで単糸の両端を一緒にして100回/mで撚り(反対方向に)双糸620テックス糸を作った。」(公報第6頁下段右欄11〜16行)
4) 特開昭56-58025号公報(甲第7号証刊行物:以下、「7号証刊行物」という。)には、以下の事項が図面とともに記載されている。
イ) 「1.下撚りを付与した複数本の単糸を合撚してなる糸条でパイルを形成せしめた後、該パイルを切断して複数本の単糸に分割することを特徴とするカットパイルカーペットの製造法。
2.単糸への下撚り方向と単糸を合撚りする際の上撚り方向とが同一である特許請求の範囲第1項記載のカツトパイルカーペットの製造法」
(公報第1頁左欄「特許請求の範囲1.2.項」)
ロ) 「合撚時の上撚り方向は、撚り掛け効率、パイル切断後の単糸への分割の容易さから、単糸の下撚り方向と同一の方向とするのが望ましい。」
(公報第2頁上段右欄10〜12行)
5) 特開昭55-16935号公報(甲第8号証刊行物:以下、「8号証刊行物」という。)には、以下の事項が、図面とともに記載されている。
イ) 「1 複数本の糸条からなる合撚糸パイルとするカットパイルカーペットにおいて、前記パイルの先端部が該パイルを形成する糸条毎に分離しており、かつ分離している少くとも2種類の糸条が撚り方向を異にすることを特徴とするカットパイルカーペツト。」(公報第1頁左欄特許請求の範囲の欄第1項)
ロ) 「更に合撚糸の撚固定を目的として熱セツトを行うが、熱セツトは通常の場合弛緩状態で行った方がバルキー性を損なうことが無く好ましい。
このようにして得られた合撚りセツト糸を基布にカットパイル状にタフテイングすると、パイルの先端がタフティング工程、后染めの場合は染色工程、パッキング仕上げ工程などで受ける外力によつて複数の糸条に分離し極めてユニークな外観と感触を呈するに至る。分離した糸条の先端は撚固定が行われているため、上撚による形態変形がそのまま残り、例えば無撚の糸条を用いた場合でもパイル先端は、一見して上撚と同じ撚が付与されたような形態を呈する。」(公報第2頁下段左欄9行〜同段右欄1行)
ハ) 「以上の如く、本発明によれば、パイルの先端部分が該パイルを形成する糸条毎に分離し、根元の部分は分離せず一体であり、かつ分離している2種類の糸条の撚り方向が異なるから、カーペツトの表層部分は、分離した糸条による特異な外観と触感、つまり縫糸使いのような光沢と触感を有するばかりでなく枝分かれした糸条によるカバリング性がアップして地すけが極めて少ない。」(第2頁下段右欄14〜第3頁上段左欄2行)
ニ) 「実施例1
レギュラータイプのナイロン6嵩高撚縮加工糸(1400de/68fil)にZ方向の撚り(200T/M)を付与して糸条とし、一方、濃染タイプのナイロン6嵩高撚縮加工糸(2800de/136fil)にS方向の撚り(100T/M)を付与して糸条とした。
次いで、両者を合撚(100T/M、S撚り)させたあと、撚り止めセット、つまりハンク状にしてオートクレーブで130℃×30分セツトし、得られた合撚糸をパイル糸として、ゲージ5/320のタフト機によつてステッチ6ケ/インチ、パイル長17mmのカットパイル状にタフトした。」
(公報第3頁6行〜18行)
6) 平成8年11月日本カーペット工業組合発行
「カーペット辞典」(甲第9号証刊行物:以下、「9号証刊行物」という。)には、以下のとおりの事項が記載されている。
「ダブルフェイスカーペット[face to face carpet]
JIS用語
「二重パイルの織機でつくったカットパイルの織じゅうたん」
二重織り、別名フェイス・ツウ・フェイスともいうカーペットで、製法によって名付けられた名前である。即ち、表裏二重の地組織に、パイルのたて糸を織り込み、織上りにしたがい、上下の真中をナイフで切り、同時に表裏むかいあった同柄2枚のカーペットが出来上る。普通二丁ひを使う。パイル糸が従来の一枚織りのものよりかなり節約でき、生産も多い。 →ウイルトンカーペツト」(97頁右欄中段)

7. 対比・判断
1) 先述のとおり、甲第1号証に係るカーペットに纏わる公知性等について証明せんとする証拠調群は、これを行うことを要せず、右証拠調は、行わないものとした。
そこで、申立人が、別途提出した、この出願前日本国内において頒布されたところの4号証〜9号証の各刊行物に記載された発明に基づいて、本件特許に係る発明が容易に想到することを得たか否かにつき審案することとする。
本件特許【請求項1】に係る発明につき、申立人は前記のとおり、8号証刊行物に記載された発明に4号証刊行物〜7号証刊行物に記載された公知あるいは周知の技術を適用して糸使いを変更することにより、当業者が容易に発明をすることができた旨主張するものであるところ、
先ず、本件特許請求の範囲【請求項1】に係る発明(以下、「本件第1発明」という。)と8号証刊行物に記載された発明とを対比検討する。
8号証刊行物に記載された「嵩高撚縮加工糸(1400de/68fil)にZ方向の撚り(200T/M)を付与した糸条」は、本件第1発明の「下撚回数が150〜250回/mの単糸」に略相当しており、下撚り回数が若干相違するが、もう一方の「濃染タイプのナイロン6嵩高撚縮加工糸(2800de/136fil)にS方向の撚り(100T/M)を付与した糸条」と相俟って本件第1発明の「複数本の単糸」を実現しており(但し、下撚り方向は反対)、これら複数本の単糸を{撚り回数100T/Mの点で、本件第1発明の上撚り回数(100〜220回/m)を包括}上撚りして合撚させ、このものをタフトして作った「カットパイルカーペット」は、本件第1発明のカーペットに略相当するものということができよう。
しかしながら、本件第1発明の複数の単糸は、羊毛と融着性繊維とが混紡されている混紡単糸であるのに対し、8号証刊行物に記載の単糸は、混紡ではなく同性質の糸条を撚っている点で、本件第1発明と異なり、また複数の単糸が下撚りの方向を相互に反対方向にしている点で、下撚り方向を同じにする本件第1発明と根本的に相違するものであり、加えて、本件第1発明の混紡単糸は、7〜20重量%を熱融着性繊維が占め、80〜93重量%を羊毛繊維が占めるという特定がなされ、その熱融着性繊維が羊毛繊維に融着しいるのに対して、抑も8号証刊行物に記載の単糸は、混紡ではないないから斯かる構成を全く具有しないものである。
斯様に、本件第1発明と8号証刊行物に記載された発明とは、単糸の構成、その素材の重量%、下撚りの方向、具体的な撚りの回数、発現する融着の態様等、単糸自体の構成の共通性を欠くところ、発明の構成要件的中核において共通する構成部分を全く欠如しているものというべきである。

2) 次に、4号証刊行物に記載された発明につき言及するに、
4号証刊行物に記載された「低融点短繊維」と「カットパイルカーペット」は、その構成から、本件第1発明の「熱融着性繊維」と「カットパイルカーペット」に相当しており、この熱融着性繊維が、他の短繊維との混紡率が、1.0〜10.0重量%である点で、本件第1発明の「7〜20重量%を熱融着性繊維が占め」を、包括し、右熱融着性繊維が融着すべき対象となる他の短繊維としての「獣毛繊維」は、本件第1発明の「羊毛」を包括しその重量%は、熱溶融繊維の重量%から推算して90〜99重量%であると捉えられ、かくて本件第1発明の80〜93重量%を包括していると言い得る。
しかし、4号証刊行物に記載の繊維は、撚っているのか、合撚するのか、また撚るとしても、撚りの方向、撚り回数、合撚するとして下撚りと上撚りの方向性が同一か否か、合撚の撚り回数は如何なる回数か等については殆ど記述がない。
したがって、4号証刊行物に記載の発明は、本件第1発明とは、僅少な、局部的部分で一部共通性が散見されるものの発明の中心的構成要件は、全く備えないものというべきである。
他方、上記8号証刊行物に記載された発明は、本件第1発明の基本的構成要件の基盤をなすパイルに使用される単糸自体が全く異なるものであるところ、4号証刊行物に記載の発明を、上記8号証刊行物に記載の発明に組合せ勘案するにしても、8号証刊行物のいかなる構成部分の間隙を、この刊行物に記載のいかなる技術的部分で埋め合わせるというのか予測がつく限りではないというべきである。
それ故、本件第1発明は、8号証刊行物に記載された発明に4号証刊行物に記載された発明を組合せ勘案することにより当業者が、容易に想到することができたものとすることができない。

3) 同様に、5号証刊行物に記載された発明につき、究明するに、
5号証刊行物に記載された「バインダー繊維」、「ウールを主体とする短繊維」及び「カットパイルを有するウールタフトカーペット」は、本件第1発明の「熱融着性繊維」、「羊毛繊維」及び「カットパイル片のカット断面が現れるカーペット」に、それぞれ相当しており、その熱融着性繊維の「混紡率2〜20%」は、本件第1発明の「7〜20重量%を熱融着性繊維が占め」を包括し、反面羊毛繊維は、97〜80重量%をなしているから、本件第1発明にいう「80〜93重量%」を包括しているといい得る。
ところで、上記5号証刊行物に記載の紡績糸は、略本件第1発明における混紡単糸に当たるものと捉えることができないわけではないが、
2〜5メートル番手の太さにするという太さの特定がなく、更にこのものを、合撚してパイルを形成するかどうかについては一切記述がなく混紡単糸相互を撚り合わせて合撚糸を構成するものではないという外はない。
したがって、5号証刊行物には、撚り数を開示しているくだりが存するものの本件第1発明にいう下撚りを行うものであるのか否か、下撚りするとして複数の単糸相互が下撚りする方向につき、複数本すべて同一方向に撚るのか否か、それを上撚りして合撚糸を形成させるのか否か、仮に合撚させるとして、上撚りの方向が、下撚りと同方向か、その際撚り回数は如何なる回数であるのか等については、不詳であり、5号証刊行物に記載の発明は、
本件第1発明の合撚糸における複数本の単糸の下撚方向を同一にすること、特定の下撚回数で下撚りすること 、上撚と下撚とを同一の方向とすること、上撚り回数を下撚回数との同等又はそれ以下とすること等については、何ら記述的契機がなく此等を具有しないものというべきである。
以上のとおりであるから、5号証刊行物に記載の発明は、本件第1発明の構成要件の中枢的構成部分を欠如しているものという外はない。
他方上記8号証刊行物に記載された発明は、本件第1発明の基本的構成要件の基盤をなすパイルに使用される単糸自体が全く異なるものであるから、
この5号証刊行物に記載された発明を、上記8号証刊行物に記載の発明に組合せ勘案するにしても、8号証刊行物に記載の発明の如何なる構成部分の間隙を、この5号証刊行物に記載の如何なる技術的部分で埋め合わせるというのか予測が立たない。
それ故、本件第1発明は、8号証刊行物に記載された発明に5号証刊行物に記載された発明を組合せ勘案することにより当業者において、容易に想到することができたものとすることができない。

4) 更に、6号証刊行物に記載された発明に言及するに、
6号証刊行物に記載の「羊毛90%」、「二成分ポリエステル結合性成繊維10%」及び「1mについて170回の撚りを有する250テックスに紡績した単糸」は、それぞれ本件第1発明の羊毛繊維、熱融着性繊維(それぞれ、本件第1発明における各繊維の重量%を包括)及び「下撚回数が150〜250回/mを包括する複数本の混紡単糸」にそれぞれ、相当していると捉えられる。
そして、本刊行物に記載の「2本の単糸を一緒にして、1mについて140回の撚りで作った双糸500テックス糸」は、本件第1発明における、
「合撚糸の上撚回数が混紡単糸の下撚回数と同等、または、それ以下となる100〜220回/mであり」を、包括している。
また、上記刊行物記載の合撚糸は、カットパイルカーペットに使用されるものであることも明らかである。
しかしながら、6号証刊行物に記載された合撚糸は、下撚りと上撚りの撚りの方向が反対方向となっており、本件第1発明が構成要件として標榜する
「下撚方向と同じ方向に上撚を掛けて撚り合わせた合撚糸」を包括しないものである。
それ故、6号証刊行物に記載の発明を以ては、本件第1発明の構成要件に随伴する、「合撚糸14の下撚と上撚が同じ方向であり、カットパイル15の先端16では下撚の解撚トルクと上撚の解撚トルクが同じ方向に作用するので各混紡単糸毎にまとまった複数個のカットパイル片21・22・23に分離することになる。」という作用・効果は期待することはできない。
尚、附言するに、本件第1発明は、上記のとおり複数のカットパイル片が分離するにも拘わらず、「その各カットパイル片21・22・23の非熱融着性繊維間は融着した熱融着性繊維に接合されているので、各カットパイル片の先端17・18・19では、下撚の解撚トルクによっては繊維間が解れず、収束した下撚状態に維持される。」という、特有の功をも収めている。
したがって、6号証刊行物に記載された発明を以ては、本件第1発明の重要な特徴的構成部分を欠如しており、本件第1発明を予測する限りではないといってしかるべきである。
また、先の8号証刊行物に記載の発明は、既に審案したとおり、
本件第1発明の基本的構成要件の基盤をなすパイルに使用される単糸自体が全く異なるものであるから、このものに、この6号証刊行物に記載された発明を組合せ勘案するに、8号証刊行物記載の発明の如何なる構成部分の如何なる間隙をこの6号証刊行物記載の発明で補完するというのか、予期する限りではないという外はない。

5) 更にまた、7号証刊行物に記載された発明につき検討するに、
7号証刊行物に記載された「下撚りを付与した複数本の単糸」、「合撚してなる糸条」及び「パイルを切断して複数本の単糸に分割したカットパイルカーペット」は、本件第1発明の単糸、合撚糸、及び「カットパイル片の先端のカット断面が現れるカーペット」に、相当していると捉えられる。
また、7号証刊行物に記載のものは、「単糸への下撚り方向と単糸を合撚りする際の上撚り方向とが同一である」から、本件第1発明における、
「その下撚方向と同じ方向に上撚を掛けて撚り合わせた合撚糸がカットパイルに使用されており(る)、」ことも、明らかである。
しかしながら、7号証刊行物に記載の発明の単糸は、本件第1発明の「太さが2〜5メートル番手で下撚回数が150〜250回/mの複数本の混紡単糸」を、充足しないものであり、まして、本件第1発明の構成要件である「その混紡単糸の7〜20重量%を熱融着性繊維が占め、混紡単糸の80〜93重量%を羊毛繊維が占め」という混紡率を全く包括しないことも明らかである。
更に、本件第1発明の「上撚回数が混紡単糸の下撚回数と同等、または、それ以下となる100〜220回/mであり(る)、」という要件も具有しないことは、明らかである。
また更に、7号証刊行物に挙示された図面の態様から窺知されるとおり各合撚糸を組成する単糸と単糸は、分離することなく結合しており、ために、本件第1発明の如く「i). カットパイル片の先端のカット断面はランダム方向に現れ、パイル面ではカットパイルの先端が複数個のカットパイル片に分かれること、
ii). それらの先端の傾き方向がランダムであり、各カットパイル片の羊毛繊維間が熱融着性繊維によって接合され、上撚によって付けられたカットパイル片の螺旋形クリンプが消失しておらざること」を発現することは、毛頭あり得ないことというべきである。
斯様に、7号証刊行物に記載の発明は、本件第1発明の基本的特徴的構成要件を具備しておらず、このものから本件第1発明を予測する技術的基盤を欠いているといってしかるべきである。
また、このものを、前記8号証刊行物に記載された発明に組合せ勘案するにしても、8号証刊行物に記載の発明は、既に審案したとおり、本件第1発明の基本的構成要件の基盤をなすパイルに使用される単糸自体が全く異なるものであるから、このものに、この7号証刊行物に記載された発明を組み合わせるに、その如何なる構成要素の如何なる間隙を7号証刊行物に記載の如何なる技術的事項で補充するというのか、予測がつかないものというべきである。
以上のとおりであるから、4〜8号証の各刊行物に記載の発明は、何れも、本件第1発明の構成要件の中枢的構成部分を充足していず、此等に記載の発明を如何に組合せ勘案しても、本件第1発明を容易に想到することを得たものとすることはできないというべきである。
それ故、本件第1発明は、この出願前国内において頒布された刊行物である4号証〜8号証の各刊行物に記載された発明に基づいて当業者が容易に想到することができたものとは認められない。
また、異議申立人が提出した甲第1号証に係るカーペトに4号証〜7号証の各刊行物に記載された発明を組合せ勘案して、本件第1発明を容易に想到することができたか否かであるが、この点は、既に前記5.において審案したとおり、抑も、甲第1号証に係るカーペットは、ループパイルであって、本件第1発明の如き「カットパイル片の先端のカット断面はランダム方向に現れ、パイル面ではカットパイルの先端が複数個のカットパイル片に分かれ(る)」ものではないこと、更に、
甲第1号証に係るカーペットは、パイルの使用に供される単糸が、外形と甲第3号証の記載から窺うに、殆ど羊毛繊維よりなるものであって混紡単糸ではなく、ために、本件第1発明の構成要件として標榜するところの、
「(カットパイルに使用される合撚糸を組成する単糸は混紡単糸であり、)その混紡単糸の7〜20重量%を熱融着性繊維が占め、混紡単糸の80〜93重量%を羊毛繊維が占め、その熱融着性繊維が羊毛繊維に融着していること」
を、全く備えないものである。
さらにまた、上記単糸の構成上の違いを受けて、甲第1号証に係るカーペットは、本件第1発明が発現する、
「イ) カットパイル(15)の先端(16)では下撚の解撚トルクと上撚の解撚トルクが同じ方向に作用して各混紡単糸毎にまとまった複数個のカットパイル片(21・22・23)に分離していること、
ロ) カットパイル片の先端(17・18・19)のカット断面はランダム方向に現れ、パイル面ではカットパイル(15)の先端が複数個のカットパイル片(21・22・23)に分かれ、それらの先端(17・18・19)の傾き方向がランダムであること、
ハ) 各カットパイル片の羊毛繊維間が熱融着性繊維によって接合され、上撚によって付けられたカットパイル片の螺旋形クリンプが消失しておらず、各カットパイル片の先端(17・18・19)では下撚の解撚トルクによっては繊維間が解れず収束した下撚状態に維持されていること」
という、構成を全く具有しないものである。
このように、甲第1号証に係るカーペットは、本件第1発明の基本的・中核的構成要件を具備しないものであるから、このものに、先に分析的に検討した4号証〜7号証の各刊行物に記載された発明を如何様に組み合わせても、本件第1発明の構成をを予測する限りでないというべきである。
それ故、本件第1発明は、甲第1号証のカーペットとこの出願前国内において頒布された刊行物である4号証〜7号証の各刊行物に記載された発明とに基づいて当業者が容易に想到することができたものとは認められない。

8. 次に、本件特許請求の範囲【請求項2】に係る発明(以下、「本件第2発明」という。)と上記4号証〜8号証刊行物に記載された発明とを対比検討するに、本件第2発明は、上記本件第1発明を、基本的構成要件として、さらに、「ダブルフェースウイルトンカーペットであること」を付加するものである。
前記において審案したとおり、本件第1発明の構成においても上記4号証〜8号証の各刊行物に記載された発明に基づいて当業者が容易に想到することを得なかったものであるところ、これ以上構成要件を特定するところの本件第2発明に至っては、なおさら、上記4〜8号証の各刊行物に記載の発明に基づいて、当業者が容易に想到することができたとすることはできないというべきである。
このことは、9号証刊行物に記載のとおり、ダブルフェースウィルトンカーペットが、この出願前知悉されているとしても、その前提をなす、発明の基本的構成要件の中核部に迫る公知例が存しないところ、上記ダブルフェースウィルトンカーペットがこの出願前周知であるということは、本件第2発明の所謂進歩性を否定する直接の契機とはならないというべきである。
最後に、甲第1号証に係るカーペットにその他の公知・周知例(4号証〜7号証の各刊行物に記載の発明)を組合せることによって、本件第2発明が容易に想到することを得たかどうかについてであるが、既に、前掲本件第1発明についての審案過程で審示したとおり容易に想到できたものとはできなかったものであり、本件第2発明についても、これらの発明をもとに、所謂進歩性を否定することはできないものである。

9. 結語
以上のとおりであるから、
イ) 本件第1、第2の両発明は、甲第1号証に係るカーペットに4号証〜7号証(9号証)の各刊行物に記載された発明を組み合わせて当業者が容易に想到することができたものとは認めることはできない。
ロ) また、本件第1、第2の両発明は、8号証刊行物に記載された発明に、4号証〜7号証(9号証)の各刊行物に記載された発明を組合せて当業者が容易に想到することができたものとも認めることができない。
それ故、本件第1、第2の各発明につき、受けた特許を取り消すべきであるという異議申立人の主張は、採用に値しない。
なお、他に本件第1、第2の各発明の特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2001-04-11 
出願番号 特願平10-257548
審決分類 P 1 651・ 121- Y (A47G)
最終処分 維持  
特許庁審判長 佐藤 洋
特許庁審判官 藤原 稲治郎
熊倉 強
登録日 2000-04-07 
登録番号 特許第3051846号(P3051846)
権利者 堀田カーペット株式会社
発明の名称 カーペット  
代理人 千葉 茂雄  
代理人 蔦田 璋子  
代理人 蔦田 正人  

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