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審決分類 |
審判 全部申し立て 5項1、2号及び6項 請求の範囲の記載不備 A61K 審判 全部申し立て 特174条1項 A61K 審判 全部申し立て 2項進歩性 A61K 審判 全部申し立て 特36 条4項詳細な説明の記載不備 A61K |
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管理番号 | 1039338 |
異議申立番号 | 異議2000-72844 |
総通号数 | 19 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許決定公報 |
発行日 | 1995-11-21 |
種別 | 異議の決定 |
異議申立日 | 2000-07-17 |
確定日 | 2001-04-25 |
異議申立件数 | 1 |
事件の表示 | 特許第3003504号「電解質輸液剤」の請求項1、2に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 |
結論 | 特許第3003504号の請求項1ないし2に係る特許を維持する。 |
理由 |
【1】本件発明 特許第3003504号(平成6年5月13日出願、平成11年11月19日特許権の設定登録)の請求項1,2に係る発明は、その特許請求の範囲の請求項1,2に記載されたとおりの以下のものである。 「 【請求項1】 カルシウムイオン及び/あるいはマグネシウムイオン並びに炭酸水素イオンを含有する電解質を含む輸液剤において、クエン酸及び/あるいはクエン酸塩を1〜5mEq/l含有し、かつpHが7.0〜7.8であり、容器の空間のガスが不活性ガスと炭酸ガスの混合ガスで置換されていることを特徴とする電解質輸液剤。 【請求項2】 カルシウムイオンの含量が2.5mM以下、マグネシウムイオンの含量が、2.5mM以下であり、炭酸水素イオン20〜35mMを含有する請求項1に記載の電解質輸液剤。 」 【2】特許異議申立てについての判断 (1)申立ての理由の概要 特許異議申立人中島勝也による特許異議申立ての理由の概要は、以下のようなものである。 (1-A)平成10年9月21日付手続補正書における請求項の補正に係る事項は、本件出願当初の明細書に根拠がなく、新規事項を含むものであるから、請求項1、2の発明は特許法第17条第2項の規定に違反しており、取り消されるべきものである。 (1-B)請求項1,2に係る発明は、甲第1号証、甲第3〜8号証(甲第1号証:特公昭63-4527号公報、甲第3号証:特開昭59-101421号公報、甲第4号証:特開昭50-111223号公報、甲第5号証:特開平5-148149号公報、甲第6号証:特公平4-56626号公報、甲第7号証:特開平5-261141号公報、甲第8号証:臨床眼科,(1991)45(9) p.1551-1554。なお、甲第2号証は本件特許第3003504号出願に係る平成10年7月21日付拒絶理由通知書、甲第9号証は同出願に係る平成10年9月21日付意見書である)に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定に違反しており、取り消されるべきものである。 (1-C)本件請求項1及び2に係る発明は、発明の詳細な説明の記載によって十分裏付けられていない。特に、不活性ガスとしてどのようなものが採用されるのか、該不活性ガス及び炭酸ガスとして具体的にどの程度使用するのかについて、各請求項中に規定がなくまた発明の詳細な説明の項によっても裏付けられていない。故に、本件請求項1,2に係る発明は、特許法第36条第4項及び同条第5項第1号及び第2項の規定に違反しており、取り消されるべきものである。 (2)対比・判断 (2-A) 申立ての理由(A)について 本件特許出願に係る平成10年9月21日付手続補正書における補正の内容は、 (a)補正前の請求項1の「電解質を含む輸液剤において」を「カルシウムイオン及び/あるいはマグネシウムイオン並びに炭酸水素イオンを含有する電解質を含む輸液剤において」と補正し、 (b)請求項1を引用する請求項2において、カルシウムイオン及び/あるいはマグネシウムイオンの濃度について、各々補正前に「0〜2.5mM」とされていたのを、0とならないよう各々「2.5mM以下」と表現を補正し、 (c)請求項1に「容器の空間のガスが不活性ガスと炭酸ガスの混合ガスで置換されている」との要件を加え、 (d)請求項1の「クエン酸」を「クエン酸および/あるいはクエン酸塩」と補正し、 (e)請求項1にガス置換の要件を加えたことに伴い、実施例1〜3を参考例1〜3に、実施例4,5を実施例1,2に各々補正する、 ものである。そして、これらの補正による請求項1,2に係る発明は、順に補正前の請求項1,2に係る発明を各々減縮したものとなっていることは明らかであり、また、上記補正に係る事項は、いずれも本件特許出願当初の明細書に具体的に記載された事項であることは明らかである(補正事項(d)については、例えばクエン酸塩を採用することは当初明細書【0006】【0017】に、クエン酸とクエン酸ナトリウムを加えることも【0017】に記載されていることから、具体的に読みとれるものと認められる。また、その他の補正については、記載箇所を指摘するまでもなく当初明細書中に記載された事項である)。 よって、上記手続補正書による補正は新規事項を含むものとはいえないから、異議申立人の上記理由(A)に係る主張は採用できない。 (2-B) 申立ての理由(1-B)について (2-B-a)各甲号証に記載された発明 甲第1号証には、カルシウムイオン及びマグネシウムイオン並びに炭酸水素イオンを含有し、クエン酸イオンをも含有し、かつpHが7〜7.5である人工房水について記載されており(文献全体、特に特許請求の範囲)、クエン酸イオンが塩基性炭酸カルシウムおよび塩基性炭酸マグネシウムの混合物に由来する沈殿を防止することも記載されており(第1頁第2欄)、クエン酸濃度として0.07〜0.2(W/V)%(10.9〜31.2mEq/lに相当する)加え得ることも記載されており(第2頁第3欄第22〜24行)、具体的に塩化カルシウム2水塩カルシウムイオンを0.18g/l(カルシウムイオン含量1.22mMに相当する)、硫酸マグネシウム7水塩を0.30g/l(マグネシウムイオン含量1.22mMに相当する)、炭酸水素ナトリウムを2.10g/l(炭酸水素イオン含量25mMに相当する)及びクエン酸ナトリウム2水塩を1.00g/l(クエン酸イオン含量15.6mEq/lに相当する)、各々配合することも記載されている(第2頁実施例1の項)。 甲第3号証には、ナトリウムイオン、カリウムイオン、カルシウムイオン、マグネシウムイオン、塩素イオン、硫酸イオン、リン酸水素イオン、炭酸水素イオン、クエン酸イオンおよびD-グルコースを含有し、さらにデキストランが添加されており、しかも前記リン酸水素イオンの少なくとも一部がリン酸リン酸緩衝液により供給されてなる眼科用灌流液について記載されており(特許請求の範囲第1項)、該灌流液のpHが6.8〜8.3であること、炭酸水素イオンの濃度が5〜35mM/lであること、及びクエン酸イオンがクエン酸または塩の形で添加されておりその濃度が0.5〜5mM/lであることも記載されている(例えば特許請求の範囲第2〜5項参照)。また成分例として、カルシウムイオン、マグネシウムイオン、及び炭酸水素イオンの好ましい濃度範囲が順に1〜10mEq/l、0.5〜5mEq/l及び5〜35mEq/l(これらは順に2〜20mM/l、1〜10mM/l及び5〜35mM/lに相当すると認める。以下同様)、特に好ましい濃度範囲が順に1〜5mEq/l、1〜4mEq/l及び15〜30mEq/l(順に2〜10mM/l、2〜8mM/l及び5〜35mM/l)であること、併せてクエン酸ナトリウムの好ましい濃度範囲が0.5〜10mM/l(1.5〜30mEq/l)、特に好ましい濃度範囲が1〜5mM(3〜15mEq/l)であることも記載されている(いずれも第4頁第2表参照)。さらに、クエン酸イオンが、カルシウムイオン及びマグネシウムイオンによる白色沈殿生成の防止効果を有していることも記載されており(第4頁左下欄第2〜6行)、ここでいう白色沈殿がリン酸塩に由来するものであることも記載されている(例えば第4頁左下欄下から第1行〜右下欄第1行)。 甲第4号証には、循環血液容積を保持する等のための、輸液剤に相当すると認められる炭酸水素イオン含有治療用水溶液で、炭酸水素イオンの損失を抑制するために、容器の空間のガスが炭酸ガスとその他の不活性ガスとの混合物で置換されてなるものが記載されており(例えば特許請求の範囲や第11頁左下欄(14)参照)、特に好適にはカルシウムイオン又はマグネシウムイオンをも含んでなり(例えば第2頁右下欄第5〜8行、第4頁第1表や第6〜7頁第2〜5表参照)、該カルシウムイオン又はマグネシウムイオンの好適な濃度が2〜20mM/l、炭酸水素イオンの好適な濃度が10〜40mM/lであり(いずれも第4頁第1表)、かつ特に好適にはpHが7.0〜7.6の範囲内(第4頁左下欄第9行や第6〜7頁第2〜5表参照)である水溶液が記載されている。 甲第5号証には、アミノ酸及び電解質を含有する輸液製剤であって、リンの供給源として多価アルコール又は糖のリン酸エステル又はその塩が配合されており、クエン酸、乳酸、リンゴ酸、グルコン酸、マレイン酸及びマロン酸から選ばれた1種又は2種以上の有機酸を用いてpHが5.0〜8.0に調整されていることを特徴とする輸液製剤について記載されており(特許請求の範囲)、該輸液製剤が加熱殺菌可能であって、具体的には該輸液製剤を容器に充填した後不活性ガスで置換し密封した後加熱滅菌工程に付すことも記載されている(第4頁【0014】)。 甲第6号証には、炭酸水素ナトリウムが配合された医薬用あるいは動物薬用水溶液を容器に充填するにあたり、当該容器の一部を二酸化炭素によって置換することを特徴とする容器内圧の増加防止方法について記載されている(特許請求の範囲)。 甲第7号証には、炭酸水素イオンを含有する医薬用水溶液を、プラスチック容器に充填し、これをガスバリア性を有する包装材にて包装し、上記容器と包装材との空間部を炭酸ガスを含有するガス雰囲気とすることを特徴とする上記医薬用水溶液の安定化方法について記載されている(特許請求の範囲)。 甲第8号証には、眼内灌流液について記載されており、眼内灌流液が房水の組成を参考にして開発されたものである旨記載されており、房水の例としてカルシウムイオン、マグネシウムイオン、重炭酸イオンを含むものも記載されている(p.1552表1)。 (2-B-b)対比・判断 本件請求項1に係る発明と、甲第1号証及び甲第3〜8号証に記載された各発明とを対比するに、いずれの甲号証にも、電解質輸液剤において、含有するクエン酸及び/あるいはクエン酸塩の濃度を1〜5mEq/lとした点については、記載も示唆も見当たらない。 そして、本件請求項1に係る発明は、上記の点を含む同請求項1に規定される要件を具備することにより、沈殿の析出防止性や生産後の長期保存安定性に優れ、生体にとって合目的な電解質輸液剤を得るという、特許明細書記載の効果を奏するものである。 したがって、本件請求項1に係る発明については、特許異議申立人が提出した甲第1号証及び甲第3〜8号証記載の発明に基づいて容易に発明をすることができたものであるとは言えない。 また、請求項1を引用し技術的に限定されてなる請求項2に係る発明についても同様である。 (2-C) 申立ての理由(1-C)について 請求項1に規定される「不活性ガス」がいかなるガスを意味するかについては、例えば、甲第5号証第4頁【0014】中の「不活性ガス(例えば、窒素ガス、ヘリウムガス等)で置換し」との記載や、 大木・大沢・田中・千原編「化学大辞典」第1版(1989)東京化学同人 の「不活性ガス」・「希ガス」の項 の記載にも示されるように、本件特許の出願時当業者にとり技術常識であったと認められることから、同請求項1の「不活性ガス」なる記載事項が発明の構成に欠くことのできない事項を不明確にする技術用語であるとはいえない。 また、これら「不活性ガス」及び炭酸ガスの混合ガスをどの程度採用するかについては、各実施例をはじめとする特許明細書の記載、及び採用する容器の容量等の諸条件を考慮し、当業者が適宜設定し得る事項に過ぎず、この点、当業者にとり実施が困難であるとすることはできない。 よって、「不活性ガス」として具体的に採用されるガスが記載されておらず、該「不活性ガス」と炭酸ガスの混合ガスを採用する程度について記載されていないからといって、請求項1及び該請求項1を引用している請求項2に規定される「不活性ガスと炭酸ガスの混合ガス」なる要件が、構成として不明瞭であるとはいえないし、また各請求項の規定に基づきかかる「混合ガス」で容器の空間のガスを置換することが、当業者にとり容易に実施し得ないということはできない。 また、例えば本件特許明細書の実施例1,2における輸液剤は、いずれも本件請求項1、2の発明における規定を満たす電解質輸液剤の一態様であり、しかもこれらの輸液剤自体、本件特許出願時の当初明細書にも具体的に記載されていたものであって、この点のみからみても、請求項1、2に係る発明が発明の詳細な説明に記載されていないとする異議申立人の主張については、その根拠が認められない。 そして、これら各実施例に係る記載やその他の発明の詳細な説明の記載、及び「不活性ガス」に係る上記事項を含む本件特許出願時の当業者における技術常識に基づいて、請求項1,2に係る発明に包含される(これら実施例以外の)他の態様の輸液剤を調製し、また使用することは、当業者にとり容易に実施し得ることである。 よって、本件請求項1,2に係る発明が特許法第36条第4項及び同条第5項第1号及び第2項の規定に違反している旨の異議申立人の主張も、これまた採用できない。 【3】むすび 以上のとおりであるから、特許異議申立の理由及び証拠、ならびに当該特許異議申立ての理由及び証拠を踏まえてなされた上記取消理由通知の理由及び証拠によっては、本件請求項1、2に係る発明の特許を取り消すことはできない。 また、他に取り消すべき理由をを発見しない。 よって、結論のとおり決定する。 |
異議決定日 | 2001-03-30 |
出願番号 | 特願平6-124518 |
審決分類 |
P
1
651・
531-
Y
(A61K)
P 1 651・ 121- Y (A61K) P 1 651・ 55- Y (A61K) P 1 651・ 534- Y (A61K) |
最終処分 | 維持 |
特許庁審判長 |
吉村 康男 |
特許庁審判官 |
宮本 和子 大久保 元浩 |
登録日 | 1999-11-19 |
登録番号 | 特許第3003504号(P3003504) |
権利者 | 味の素ファルマ株式会社 |
発明の名称 | 電解質輸液剤 |
代理人 | 高木 千嘉 |
代理人 | 西村 公佑 |