• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  A61K
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  A61K
管理番号 1039356
異議申立番号 異議2000-71111  
総通号数 19 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 1998-08-04 
種別 異議の決定 
異議申立日 2000-03-17 
確定日 2001-05-07 
異議申立件数
事件の表示 特許第2950273号「ウシロタウイルス病ワクチン」の請求項1ないし22に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 特許第2950273号の請求項1ないし4、12ないし15に係る特許を取り消す。 同請求項5ないし11、16ないし22に係る特許を維持する。 
理由 I.手続の経緯
特許第2950273号の請求項1〜22に係る発明は、平成9年1月27日に特許出願され、平成11年7月9日に設定登録され、その後、特許異議申立がなされ、取消理由通知がなされ、特許異義意見書が提出されたものである。
II.本件発明
特許第2950273号の請求項1〜22に係る発明は、特許明細書の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1〜22に記載された、次のとおりのものである。
「【請求項1】ウシロタウイルスの内、RT-PCR法により血清型別された2種以上の異なる血清型の株に対する中和抗体産生を刺激する性質を示す1種または2種以上の株を組み合わせたワクチン製造用株が不活化されたウシロタウイルス病ワクチン。
【請求項2】前記ワクチン製造用株が、RT-PCR法により血清型別されたG6P5型のウシロタウイルス株である請求項1記載のウシロタウイルス病ワクチン。
【請求項3】前記ワクチン製造用株が、RT-PCR法により血清型別されたG6P5型およびG10P11型の2種のウシロタウイルス株である請求項1記載のウシロタウイルス病ワクチン。
【請求項4】前記ワクチン製造用株が、RT-PCR法により血清型別されたG6P5型およびG6P11型の2種のウシロタウイルス株である請求項1記載のウシロタウイルス病ワクチン。
【請求項5】ウシロタウイルスとして、RT-PCR法により血清型別された2種以上の異なる血清型の株に対する中和抗体産生を刺激する性質を示す1種または2種以上の株を用い、このウシロタウイルスに感染した細胞を界面活性剤入りの緩衝液に浮遊させた後、ホモジナイザーで細胞を破壊してウイルス粒子の抗原性を損なうことなく抗原を取り出し、この抗原を不活化することを特徴とするウシロタウイルス病ワクチンの製造方法。
【請求項6】前記細胞として、アカゲザルの胎児腎臓由来株化細胞を用いてなる請求項5記載のウシロタウイルス病ワクチンの製造方法。
【請求項7】前記界面活性剤として、非イオン性界面活性剤を用いてなる請求項5記載のウシロタウイルス病ワクチンの製造方法。
【請求項8】不活化した抗原にオイルアジュバントを添加してなる請求項5記載のウシロタウイルス病ワクチンの製造方法。
【請求項9】前記ウシロタウイルスとして、RT-PCR法により血清型別されたG6P5型のウシロタウイルス株を用いてなる請求項5記載のウシロタウイルス病ワクチンの製造方法。
【請求項10】前記ウシロタウイルスとして、RT-PCR法により血清型別されたG6P5型およびG10P11型の2種のウシロタウイルス株を用いてなる請求項5記載のウシロタウイルス病ワクチンの製造方法。
【請求項11】前記ウシロタウイルスとして、RT-PCR法により血清型別されたG6P5型およびG6P11型の2種のウシロタウイルス株を用いてなる請求項5記載のウシロタウイルス病ワクチンの製造方法。
【請求項12】ウシロタウイルス病に対して動物(ただし、ヒトは除く。)を免疫化する方法であって、ウシロタウイルスの内、RT-PCR法により血清型別された2種以上の異なる血清型の株に対する中和抗体産生を刺激する性質を示す1種または2種以上のワクチン製造用株が不活化されたウシロタウイルス病ワクチンを動物(ただし、ヒトは除く。)に投与することからなるウシロタウイルス病に対して動物(ただし.ヒトは除く。)を免疫化する方法。
【請求項13】前記ワクチン製造用株が、RT-PCR法により血清型別されたG6P5型のウシ口夕ウイルス株である請求項12記載のウシロタウイルス病に対して動物(ただし、ヒトは除く。)を免疫化する方法。
【請求項14】前記ワクチン製造用株が、RT-PCR法により血清型別されたG6P5型およびG10P11型の2種のウシ口夕ウイルス株である請求項12記載のウシロタウイルス病に対して動物(ただし、ヒトは除く。)を免疫化する方法。
【請求項15】前記ワクチン製造用株が、RT-PCR法により血清型別されたG6P5型およびG6P11型の2種のウシロタウイルス株である請求項12記載のウシロタウイルス病に対して動物(ただし、ヒトは除く。)を免疫化する方法。
【請求項16】ウシロタウイルス病に対して動物(ただし、ヒトは除く。)を免疫化する方法であって、ウシロタウイルスとして、RT-PCR法により血清型別された2種以上の異なる血清型の株に対する中和抗体産生を刺激する性質を示す1種または2種以上の株を用い、このウシロタウイルスに感染した細胞を界面活性剤入りの緩衝液に浮遊させた後、ホモジナイザーで細胞を破壊してウイルス粒子の抗原性を損なうことなく取り出した抗原が不活化されたウシロタウイルス病ワクチンを動物(ただし、ヒトは除く。)に投与することからなるウシロタウイルス病に対して動物(ただし、ヒトは除く。)を免疫化する方法。
【請求項17】前記細胞が、アカゲザルの胎児腎臓由来株化細胞である請求項16記載のウシロタウイルス病に対して動物(ただし.ヒトは除く。)を免疫化する方法。
【請求項18】前記界面活性剤が、非イオン性界面活性剤である請求項16記載のウシロタウイルス病に対して動物(ただし、ヒトは除く。)を免疫化する方法。
【請求項19】不活化された抗原にオイルアジュバントが添加された請求項16記載のウシロタウイルス病に対して動物(ただし,ヒトは除く。)を免疫化する方法。
【請求項20】前記ウシロタウイルスが、RT-PCR法により血清型別されたG6P5型のウシロタウイルス株である請求項16記載のウシロタウイルス病に対して動物(ただし、ヒトは除く。)を免疫化する方法。
【請求項21】前記ウシロタウイルスが、RT-PCR法により血清型別されたG6P5型およびG10P11型の2種のウシロタウイルス株である請求項16記載のウシロタウイルス病に対して動物(ただし、ヒトは除く。)を免疫化する方法。
【請求項22】前記ウシロタウイルスが、RT-PCR法により血清型別されたG6P5型およびG6P11型の2種のウシロタウイルス株である請求項16記載のウシロタウイルス病に対して動物(ただし、ヒトは除く。)を免疫化する方法。」
III.引用刊行物記載の発明
先の取消理由通知において引用した刊行物(異議申立人が提出した甲号証)の記載事項
1.刊行物1:J. Clin. Microbiol., 25(6), pp.1052-1058(1987)(甲第1号証)には、以下の事項が記載されている。
「ノトバイオート子牛におけるウシロタウイルスの異なる血清型間での防御:血清抗体と糞便抗体応答の特異性
<要約>
先の研究では、種々なウシロタウイルスU.S.分離株の血清型と交差免疫性について調べられた(G.N.Woode,N.E.Kelso,T.F.Simpson,S.K.Gaul,L.E.Evans,and L.Babiuk,J.Clin.Microbiol.18:358-364,1983)。ノトバイオート子牛は、異なる2つの血清型に属する3種のウイルスをワクチンとして投与された後、2つの血清型の代表であるB641またはB223により攻撃された。本研究では、更に多くの子牛で試験を繰り返し、抗体応答の特異性を測定し、防御試験成績との比較がなされた。異なる血清型間での防御は、ホモ及びへテロ株間の両方でみられたが、血清型に直接的には左右されなかった。B223株は、B223及びB641株の攻撃ウイルスに対してホモおよびへテロの防御を示した。これは、B641株がB223株に対する防御を誘導しなかったことから、片交差であった。新生牛下痢症ウイルスワクチンは、ホモ(B641株に対して)およびへテロ(B223株に対して)のどちらも防御を誘導し得なかった。プラック減少法により測定された血清中および糞便中の中和抗体価は、攻撃ウイルスに対する防御能の指標とはならなかった。新生子牛下痢症ウイルスまたはB641株で免疫された子牛では、各へテロ攻撃ウイルスに対する中和抗体が産生されたが、防御はできなかった。プラック減少法により測定された攻撃後の糞便中の中和抗体は、ワクチンウイルスに対する反応が攻撃ウイルスに対するそれを上回っていた。」(表題及び要約の項)
また、細胞培養の項には、MA-104細胞が採用されている。さらに、第1054頁には、表1として異なるウイルス株の攻撃に対して防御効果を有することについて示されている。
2.刊行物2:Comp. Immun. Microbiol. Infect. Dis., 16(3),pp.235-239(1993) (甲第2号証)には、以下の事項が記載されている。
「新しいアジュバント添加不活化ウシロタウイルスワクチンの野外での有効性評価
<要約>
水中油エマルションを形成するアジュバント(Montanide ISA50)で調製された不活化牛ロタウイルスワクチンを用い、新生子牛下痢症の予防について野外試験を行った。妊娠最終月に注射するようにデザインされたRomovac50ワクチンは、フロイントの不完全アジュバントを用いて調製された古典的なワクチンと同等の効果が得られた。このように、ワクチン免疫母牛の乳汁を摂取した子牛では、非免疫母牛の子牛に比べ、新生時の下痢の発生率が顕著に低下していた。また、Romovac50は低粘度であり注射が容易であること,組織への刺激が少ない点で古典的なフロイントのアジュバント添加ワクチンより勝っていた。」(表題及び要約の項〈訳文参照〉)
「Romovac50
先の報告どおり、Romovac50はアカゲザル胎児腎由来の株化細胞であるMA-104で培養したウシロタウイルス81/36F株の108.50TCID50/0.2mLを用い調製された。
ワクチン調製は、ウイルス浮遊液を0.5%ホルマリンで不活化し、等量の”MontanideISA50”(Seppic,パリ)アジュバントに添加し、Silversonホモジナイザーで5分間、3000rpm撹拌し行った。エマルションは2mLずつディスポーザブルプラスチック製注射器に分注され、4℃下で保存した。各注射器はワクチンの1容量を含んでいた。」(材料及び方法の項 第236頁〈訳文参照〉)
3.刊行物3:Comp. Immun. Microbiol. Infect. Dis., 6(4),pp.321-332(1983) (甲第3号証)には、以下の事項が記載されている。
「ウシロタウイルス細胞病原性株を用いた子牛での実験感染および交差防御試験
<要約>
4種のウシロタウイルス細胞病原性株(81/32F,81/36F,81/40F,82/80F)が野外飼養の新生子牛に対して病原性を示した。各株について3頭の子牛を経口的に感染させた。発熱した牛の全頭で元気消失および下痢が認められた。
81/36F株感染群の1頭と81/40F株感染群の1頭の計2頭は、瀕死の状態で殺処分された。81/36F感染群の3番目の牛は死亡した。剖検では、典型的なロタウイルス感染症と考えられる小腸の病変が局在していた。投与後13日まで、感染牛の糞便からウイルスが分離された。用いられたウシロタウイルスは病原性に多少の違いがあることが推測された。交差防御試験では、1株(81/36F)が他株よりも抗原的に複雑であることが明らかとなった。」(表題及び要約の項〈訳文参照〉)
「<考察>
交差防御試験により、81/40F株と82/80F株の間にはお互いに防御がみられたが、これらの2株は81/36F株の感染に対しては防御できないか、または弱い防御であった。しかしながら、後者の株(81/36F)に対する血清で免疫された子牛は、他の2株のどちらによる攻撃に対しても耐えた。この結果は81/36F株の病原性の高さと関係しているのかもしれない。第二の可能性は、このウイルス株が今回用いた他の2株よりも複雑な抗原構造を持っていることである。ウシロタウイルス間での抗原的に異なる株の存在、もしくはこのウイルス群内に優勢抗原型が存在することが示唆された。従って、(81/36F株)抗血清がへテロのウイルスで攻撃された子牛を防御するので、81/36F株はここで検討された3株の中では優勢抗原型と考えられた。」(p.328下から3行目〜p.331,9行目〈訳文参照〉)
また、ウイルスの分離の項には、MA-104細胞によるウシロタウイルスの培養についても示されている。(323頁25行〜36行)
4.刊行物4:Vet. Microbiol.,48,pp.367-372(1996) (甲第4号証)には、以下の事項が記載されている。
「 日本国内分離ウシロタウイルスにおけるGおよびP型の分布
<要約>
1992年から1994年にかけて、日本の3県下の下痢を呈した牛235頭から分離されたウシロタウイルス76株に,様々なG型およびP型の組合せがみられた。
最も流行している組合せはG6:P5(46/76、60.5%)であり、以下、G10:P11(13/76、17.1%)、G6:P11(7/76、9.2%)およびG10:P5(5/76、6.6%)の順であった。
BRVG6:P1株はBRV感染に対する適切なワクチン株として良く知られているが、今回の分離株には認められなかった。」(表題及び要約の項〈訳文参照〉)
5.刊行物5:J.Vet.Med.Sci.,57(4):739-741,(1995) (甲第5号証)には、以下の事項が記載されている。
「血清型G10P11ウイルスと両交差中和を示す血清型G6P11のウシロタウイルスの分離
<要約>
散発発生例における下痢発症子牛の35の糞便サンプルからOB94-1〜OB94-4として名付けられたA群ロタウイルス(BRV)の4株を分離した。これらの分離株のVP7(G)およびVP4(P)血清型は、交差中和試験およびGおよびP血清型分類PCR分析によりOB94-1〜OB94-3はそれぞれG6P5、G5P5およびG10P5と判断された。OB94-4は、Lincoln株(G6P1)と片交差であり、KK3株(G10P11)とは弱い抗原的関係を示し、PCR法によりG6P11に分類された。このように、OB94-4は、中和試験において他株とは異なる抗原性をもつ新しいG6BRVであることが示された。」(表題及び要約の項〈訳文参照〉)
さらにテーブル1には、交差中和試験により、分離された4種類のロタウイルスの血清学的性質について各株の抗血清の中和抗体力価が示されている。
6.刊行物6:日本生化学会編、新生化学実験講座1,タンパク質I〜分離・精製・性質〜、(株)東京化学同人発行、35〜39頁、(1990年2月26日)(甲第6号証)には、以下の事項が記載されている。
「2・5・3 界面活性剤による破砕と抽出
界面活性剤を用いて細胞膜を溶解し細胞を破壊する方法は最も手軽な方法である。この場合、目的タンパク質の機能解析を行う場合にはその変性を伴わない界面活性剤を選択する必要がある。・・・界面活性剤としては一般的には1%程度のTriton X-100やNonidet P40が多く用いられる。細胞をリン酸緩衝化生理食塩水(PBS)あるいは、トリス-NaCl溶液(・・・)で2〜3回洗浄した後上記界面活性剤を含む溶液に懸濁し、0℃にて30〜60分静置することにより溶解する。・・・
2・5・4 細胞質、膜画分への分離と抽出
目的タンパク質が細胞質性のものである場合、あるいは膜結合性のものであっても細胞質タンパク質の混在を減らす必要のあるときには細胞を分画することが行われる。最も一般的かつ簡単な方法は界面活性剤を用いずに細胞膜をホモジナイザーや、超音波処理によって物理的に破壊することにより細胞を破砕する方法である。」(36〜38頁)
7.刊行物7:J.gen.Virol.,69,p1411-1414(1988)(甲第7号証)には、オーエスキー病ウイルスの抗原の調製において、オーエスキー病ウイルス感染Vero細胞を非イオン界面活性剤であるNonidetP40で可溶化することが開示されている。(要約の項、及び第1413頁1〜15行〈訳文参照〉)
8.刊行物8:特開平6-247878号公報(甲第8号証)には、以下の事項が記載されている。
「請求項1 牛コロナウイルスに感染した細胞を界面活性剤で溶解し不活化した可溶化抗原に、オイルアジュバントを添加してなる牛コロナウイルス感染症ワクチン。」(特許請求の範囲請求項1)
「またこの発明で用いる界面活性剤は、適度な可溶化活性を持っているという点で・・・トライトン X-100、・・・ノニデットP-40などの非イオン界面活性剤が好ましい。」(段落0012)
「37℃で回転培養した。そして、2〜4日後、ウイルスの増殖極期に培養液および感染HAL細胞を採取し、3000rpm10分間の条件で遠心分離し、沈渣した細胞に非イオン界面活性剤としてトライトンX-100を0.5容量%含む0.01Mグリシン-0.0038Mトリス緩衝液を1010倍量加え、4℃で一夜撹拌した後、100000Gで60分間遠心分離し、その上清(上澄み)にホルマリンを0.1%加えて不活化した。」(段落0013中の記載)
IV.判断
(1)請求項1に係る発明について
刊行物1には、ウシロタウイルスのワクチンについて、異なるウイルス株に対しても感受性を示すことが記載されており、刊行物2には、81/36F株ウシロタウイルスの不活化ウシロタウイルスワクチンについて記載され、刊行物3には、ウシロタウイルスの異なる株間の交差防御試験において、防御に差異があること、1種の株が他に2種の株に対し防御されたことが示され、刊行物4には、日本で流行しているウシロタウイルス病について、RT-PCR法によりG6P5型、G10P11型、G6P11型、G10P5型の複数の血清型別したウイルスが分離されたが、ワクチン株として良く知られているG6P1型は分離されなかったことが記載されている。さらに、刊行物5には、血清型別された複数のウイルス株が交差中和反応を有することが記載されている。
そして、ワクチンはウイルス感染による発病を予防するものであって、ウイルス感染を起こすウイルス株を用いてワクチンを製造することが周知であってみれば、ウシロタウイルス病のワクチンのためのウイルス株として、流行しているウイルス株を採用すればよいことは容易に想到できることであり、しかも、ウシロタウイルス感染に対する適切なワクチン株としてRT-PCR法により血清別されたG6P1株についてすでに示されているのであるから、流行しているウシロタウイルス感染に対する型のウイルス株としてRT-PCR法により血清別されたウイルス株を用いてワクチンを製造することに格別の創意を要したということではできない。
また、刊行物3、5によると、2種以上の異なる血清型のウイルス株に対して中和抗体産生を刺激する性質を示すウイルス株が示され、また、刊行物1には、2種以上の異なる血清型のウイルス株に対して防御能を有するワクチンが示されているから、少なくとも、1種のウイルス株から得られたワクチンが2種以上の異なる血清型のウイルス株に対しても感受性を有するワクチンが製造できるであろうことは容易に予測できることといえ、刊行物5に記載のウイルス株を検討して、ワクチン製造のウイルス株として採用することは格別予想外のことではない。
さらに、ウシロタウイルスを不活化することも前記刊行物2に示されている。
そして、本件請求項1に係る発明が奏する効果は、ワクチンにおいて前記刊行物4に示されたウイルス株を採用することにより当然に得られるものであって当業者において容易に予測できるものにすぎない。
したがって、ウシロタウイルスの内、RT-PCR法により血清型別された2種以上の異なる血清型の株に対する中和抗体産生を刺激する性質を示す1種または2種以上の株を組み合わせたワクチン製造用株が不活化されたウシロタウイルス病ワクチンとすることは、刊行物1〜5の記載に基づいて当業者が容易に想到し得たものである。
なお、特許権者は、刊行物5に示されたものは、実験動物(モルモット)を用いたものであり、本件発明のワクチンの対象がウシであるからそのワクチンとしての実効性に問題がある旨述べているが、刊行物5のものは、交差中和試験により他の血清型のウイルス株に対して中和抗体産生が起きることを示しているのであるから、少なくとも、異なるウイルス株間において中和抗体産生能があれば、1種類の型のウイルスでも他の型のウイルスに対して中和抗体産生を刺激する性質を有することが理解できるのであり、ワクチン製造のための実効性のある量を産生する、即ちウイルスの増殖性とは別の問題である。
(2)請求項2に係る発明について
請求項2に係る発明は、請求項1に係る発明において、ワクチン製造用株をRT-PCR法により血清型別されたG6P5型のウシロタウイルス株とするものであるが、既に刊行物1,2にはウシロタウイルスのワクチンが存在することが示され、刊行物4には、ウシロタウイルス感染症のうち、ウイルス株としてRT-PCR法により血清型別されたG6P1がワクチンの製造に適していることも示され、しかも、流行しているウシロタウイルス株としてG6P5型があることが示されているのであるから、ウシロタウイルス病ワクチンとしてG6P5型を採用することに格別の創意を要したということはできない。
したがって、請求項2に係る発明は、刊行物1〜5から容易に発明をすることができたものである。
(3)請求項3に係る発明について
請求項3に係る発明は、請求項1に係る発明において、ワクチン製造用株をRT-PCR法により血清型別されたG6P5型およびG10P11型の2種のウシロタウイルス株とするものであるが、刊行物4には、流行しているウシロタウイルス感染症のウイルス株としてG6P5型及びG10P11型が示されており、また、一般に流行する複数のウイルス株をワクチン製造に用いることは、例えばインフルエンザワクチン等において周知であるから、ウシロタウイルス病ワクチンとして流行しているウイルス株であるRT-PCR法により血清型別されたG6P5型及びG10P11型の2種類のウシロタウイルス株を選択採用することに格別の創意を要したということはできない。
したがって、請求項3に係る発明は、刊行物1〜5から容易に発明をすることができたものである。
(4)請求項4に係る発明について
請求項4に係る発明は、請求項1に係る発明において、ワクチン製造用株をRT-PCR法により血清型別されたG6P5型およびG6P11型の2種のウシロタウイルス株とするものであるが、刊行物4には、流行しているウシロタウイルス感染症のウイルス株としてG6P5型及びG6P11型が示されており、また、一般に流行する複数のウイルス株をワクチン製造に用いることは、例えばインフルエンザワクチン等において周知であるから、ウシロタウイルス病ワクチンとして流行しているウイルス株であるRT-PCR法により血清型別されたG6P5型及びG6P11型の2種類のウシロタウイルスを選択採用することに格別の創意を要したということはできない。
したがって、請求項4に係る発明は、刊行物1〜5から容易に発明をすることができたものである。
(5)請求項5に係る発明について
請求項5に係る発明は、ウシロタウイルスとして、RT-PCR法により血清型別された2種以上の異なる血清型の株に対する中和抗体産生を刺激する性質を示す1種または2種以上の株を用い、このウシロタウイルスに感染した細胞を界面活性剤入りの緩衝液に浮遊させた後、ホモジナイザーで細胞を破壊してウイルス粒子の抗原性を損なうことなく抗原を取り出し、この抗原を不活化することを特徴とするウシロタウイルス病ワクチンの製造方法に関するものである。
これに対し、甲第1号証(刊行物1)には、ウシロタウイルスワクチンについては記載されているものの、ワクチンの製造時において、ウシロタウイルスに感染した細胞を界面活性剤入りの緩衝液に浮遊させた後、ホモジナイザーで細胞を破壊してウイルス粒子の抗原性を損なうことなく取り出すことまでは記載がされていない。
また、甲第2号証(刊行物2)には、ウシロタウイルスワクチンの製造時にホモジナイザーが使用されているが、これは、ワクチン調製においてウイルス浮遊液を0.5%ホルマリンで不活化後アジュバントを添加した時点において行われているものであり、本件請求項5の発明が採用しているワクチンの製造時において、ウシロタウイルスに感染した細胞を界面活性剤入りの緩衝液に浮遊させた後、ホモジナイザーで細胞を破壊してウイルス粒子の抗原性を損なうことなく取り出すものではない。
さらに、甲第6号証(刊行物6)には、動物培養細胞と抽出法に関して、界面活性剤による破砕と抽出が記載され、界面活性剤を用いて細胞膜を溶解し細胞を破砕する方法が手軽な方法であること、界面活性剤としてはTriton X-100やNonidet P40が多く用いられることが記載され、また、細胞質、膜各分の分離と抽出に関して、細胞を分画する場合には、一般的かつ簡単な方法は界面活性剤を用いずに細胞膜をホモジナイザーや、超音波処理により物理的に破壊することにより細胞を破砕する方法があることが記載され、また、刊行物7には、ウイルス感染Vero細胞を非イオン界面活性剤であるNonidet P40 で可溶化することが記載され、刊行物8には、ワクチンの製造において、ウイルス感染細胞を非イオン界面活性剤であるTriton X-100やNonidet P40 で溶解することが記載されているものの、甲第6号証(刊行物6)は、ホモジナイザーで細胞を破壊する場合には、界面活性剤を用いずに行うものであり、しかもこの場合の細胞はウイルスに感染した細胞ではない。また、甲第7〜8号証(刊行物7〜8)には、ホモジナイザーを使用して細胞を処理することについては記載がない。結局、甲第6〜8には、ウイルスに感染した細胞を界面活性剤入りの緩衝液に浮遊させた後、ホモジナイザーで細胞を破壊してウイルス粒子の抗原性を損なうことなく取り出すことまでは記載がされているものではない。
さらに、本件請求項5の発明が採用する非イオン界面活性剤の添加は、細胞成分などの凝集を防ぐ目的で配合されるものであるが、甲第6、8号証(刊行物6、8)には細胞溶解のために配合されているものといえ、界面活性剤の配合目的が両者は異なるものである。
そうすると、例え甲第2号証(刊行物2)にウシロタウイルスワクチンの製造時にホモジナイザーを採用することが示されているとしても、界面活性剤の使用については記載されていないし、また、甲第6号証(刊行物6)記載のホモジナイザーの使用時には界面活性剤を使用しないものであるから、結局、甲第6,8号証(刊行物6,8)に細胞の処理について記載されているとしても、ウシロタウイルスワクチンを製造するに当たり、ウシロタウイルスに感染した細胞を界面活性剤入りの緩衝液に浮遊させた後、ホモジナイザーで細胞を破壊することが容易に想到できたとはいえない。
したがって、請求項5に係る発明は、甲第1〜8号証(刊行物6〜8)の記載から当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。
(6)請求項6〜11に係る各発明について
請求項6〜11に係る各発明は、請求項5に係る発明を引用するものであるから、請求項5に係る発明が甲第1〜8号証(刊行物6〜8)の記載から当業者が容易に発明をすることができない以上、請求項6〜11に係る各発明が、甲第1〜8号証(刊行物6〜8)の記載から当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。
(7)請求項12に係る発明について
請求項12に係る発明は、ウシロタウイルス病に対して動物(だだし、ヒトは除く。)を免疫化する方法であって、ウシロタウイルスの内、RT-PCR法により血清型別された2種以上の異なる血清型の株に対する中和抗体産生を刺激する性質を示す1種または2種以上のワクチン製造用株が不活化されたウシロタウイルス病ワクチンを動物(ただし、ヒトは除く。)に投与することからなるウシロタウイルス病に対して動物(ただし、ヒトを除く。)を免疫化する方法に関するものであるが、ウシロタウイルスの内、RT-PCR法により血清型別された2種以上の異なる血清型の株に対する中和抗体産生を刺激する性質を示す1種または2種以上のワクチン製造用株が不活化されたウシロタウイルス病ワクチンに関しては、既に請求項1について示した判断のとおり、刊行物1〜5に記載された発明に基づいて当業者が格別の創意を要することなくできたものであり、また、ワクチンを用いて動物を免疫化することも刊行物1〜2に示されているように周知である。
したがって、請求項12に係る発明は、刊行物1〜5から容易に発明をすることができたものである。
(8)請求項13に係る発明について
請求項13に係る発明は、請求項12に係る発明において、ワクチン製造用株を、RT-PCR法により血清型別されたG6P5型のウシロタウイルス株とするものであるが、既に刊行物1,2にはウシロタウイルスのワクチンが存在することが示され、刊行物4には、ウシロタウイルス感染症のうち、ウイルス株としてRT-PCR法により血清型別されたG6P1がワクチンの製造に適していることも示され、しかも、流行しているウシロタウイルス株としてG6P5型があることが示されているのであるから、ウシロタウイルス病ワクチンとしてG6P5型を採用することに格別の創意を要したということはできないし、また、ワクチンを用いて動物を免疫化することも刊行物1〜2に示されているように周知である。
したがって、請求項13に係る発明は、刊行物1〜5から容易に発明をすることができたものである。
(9)請求項14に係る発明について
請求項14に係る発明は、請求項12に係る発明において、ワクチン製造用株をRT-PCR法により血清型別されたG6P5型およびG10P11型の2種のウシロタウイルス株とするものであるが、刊行物4には、流行しているウシロタウイルス感染症のウイルス株としてG6P5型及びG10P11型が示されており、また、一般に流行する複数のウイルス株をワクチン製造に用いることは、例えばインフルエンザワクチン等において周知であるから、ウシロタウイルス病ワクチンとして流行しているウイルス株であるRT-PCR法により血清型別されたG6P5型及びG10P11型の2種類のウシロタウイルス株を選択採用してワクチンとすることに格別の創意を要したということはできない。また、ワクチンを用いて動物を免疫化することは刊行物1〜2に示されているように周知である。
したがって、請求項14に係る発明は、刊行物1〜5から容易に発明をすることができたものである。
(10)請求項15に係る発明について
請求項15に係る発明は、請求項12に係る発明において、ワクチン製造用株をRT-PCR法により血清型別されたG6P5型およびG6P11型の2種のウシロタウイルス株とするものであるが、刊行物4には、流行しているウシロタウイルス感染症のウイルス株としてG6P5型及びG6P11型が示されており、また、一般に流行する複数のウイルス株をワクチン製造に用いることは、例えばインフルエンザワクチン等において周知であるから、ウシロタウイルス病ワクチンとして流行しているウイルス株であるRT-PCR法により血清型別されたG6P5型及びG6P11型の2種類のウシロタウイルスを選択採用してワクチンとすることに格別の創意を要したということはできない。また、ワクチンを用いて動物を免疫化することも刊行物1〜2に示されているように周知である。
したがって、請求項15に係る発明は、刊行物1〜5から容易に発明をすることができたものである。
(11)請求項16に係る発明について
請求項16に係る発明は、ウシロタウイルス病に対して動物(ただし、ヒトは除く。)を免疫化する方法であって、ウシロタウイルスとして、RT-PCR法により血清型別された2種以上の異なる血清型の株に対する中和抗体産生を刺激する性質を示す1種または2種以上の株を用い、このウシロタウイルスに感染した細胞を界面活性剤入りの緩衝液に浮遊させた後、ホモジナイザーで細胞を破壊してウイルス粒子の抗原性を損なうことなく取り出した抗原が不活化されたウシロタウイルス病ワクチンを動物(ただし、ヒトは除く。)に投与することからなるウシロタウイルス病に対して動物(ただし、ヒトは除く。)を免疫化する方法に関するものである。
しかしながら、請求項5において既に「ウシロタウイルスとして、RT-PCR法により血清型別された2種以上の異なる血清型の株に対する中和抗体産生を刺激する性質を示す1種または2種以上の株を用い、このウシロタウイルスに感染した細胞を界面活性剤入りの緩衝液に浮遊させた後、ホモジナイザーで細胞を破壊してウイルス粒子の抗原性を損なうことなく取り出した抗原が不活化されたウシロタウイルス病ワクチンの製造」については、甲第1〜8号証(刊行物1〜8)から容易に発明をすることができたとはいえないのであるから、結局、請求項5に記載の製造方法の構成を採用して得られたワクチンを用いて動物(ただし、ヒトは除く。)に投与することからなるウシロタウイルス病に対して動物(ただし、ヒトは除く。)を免疫化する方法の発明である請求項16に係る発明も、甲第1〜8号証(刊行物1〜8)から容易に発明をすることができたとはいえない。
したがって、請求項16に係る発明は、甲第1〜8号証の記載から当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。
(12)請求項17〜22に係る各発明について
請求項17〜22に係る各発明は、請求項16に係る発明を引用するものであるから、請求項16に係る発明が甲第1〜8号証(刊行物6〜8)の記載から当業者が容易に発明をすることができない以上、請求項17〜22に係る各発明が、甲第1〜8号証(刊行物6〜8)の記載から当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。
V.むすび
以上のとおり、本件請求項1〜4、請求項12〜15に係る各発明の特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。
また、請求項5〜11、請求項16〜22に係る各発明の特許については、取消の理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2001-03-16 
出願番号 特願平9-12103
審決分類 P 1 651・ 113- ZC (A61K)
P 1 651・ 121- ZC (A61K)
最終処分 一部取消  
前審関与審査官 森井 隆信  
特許庁審判長 吉村 康男
特許庁審判官 深津 弘
谷口 浩行
登録日 1999-07-09 
登録番号 特許第2950273号(P2950273)
権利者 株式会社微生物化学研究所
発明の名称 ウシロタウイルス病ワクチン  
代理人 柳野 隆生  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ