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審決分類 審判 全部無効 2項進歩性 訂正を認める。無効としない B05C
管理番号 1040281
審判番号 審判1999-35321  
総通号数 20 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 1991-03-28 
種別 無効の審決 
審判請求日 1999-06-25 
確定日 2001-01-22 
訂正明細書 有 
事件の表示 上記当事者間の特許第2832457号発明「両面同時塗工装置」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 訂正を認める。 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。 
理由 1.手続の経緯
(1)特許第2832457号の請求項1に係る発明についての出願は、平成1年8月10日に出願され、平成10年10月2日にその発明について特許の設定登録がなされた。
(2)これに対して、請求人は、請求項1に係る発明は、甲第1乃至4号証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであり、したがって、請求項1に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたと主張し、証拠方法として甲第1乃至4号証を提出した。
(3)被請求人は、平成12年4月6日に訂正請求書を提出して訂正を求めた。
また、同日に答弁書を提出し、
「ア.被請求人は、請求人に対して、本件審判についての利害関係を有していることの立証を求める。
イ.訂正後の請求項1に係る発明は、甲第1乃至4号証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。」
と主張した。
(4)請求人は、平成12年7月18日に弁駁書を提出し、
「ア.請求人は、本審判の請求人適格としての利害関係を有する。
イ.訂正後の請求項1に係る発明は、
イ-1.訂正明細書の作用の欄に記載した内容を動作させることはできず、発明としては未完成であり、産業上利用できない発明であるから、特許法第29条第1項柱書の要件を具備せず、
イ-2.甲第1,3,4号証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、
特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。」
と主張した。
(5)平成12年10月12日に口頭審理が行われ、請求人及び被請求人は口頭審理陳述要領書を提出した。

2.当事者適格
請求人が弁駁書において提出した甲第5号証のカタログによれば、請求人が「DOUBLE-SIDED COATER」などの両面同時塗工装置の製造販売元であることは明らかであり、請求人は請求項1に係る特許の存否に利害関係を有しているといえる。
したがって、請求人は本件審判請求の請求人適格を有しているものと認められる。

3.訂正の適否に対する判断
(1)訂正事項
ア.特許請求の範囲の請求項1に記載の「且つ搬送路」(特許公報の第1頁第1欄第10行)を「且つこの離接移動自在な状態で搬送路」と訂正する。
イ.特許公報の第2頁第3欄第15行の「且つ搬送路」を「且つこの離接移動自在な状態で搬送路」と訂正する。
(2)訂正の目的の適否、新規事項の有無及び拡張・変更の存否
訂正事項アは他方のダイを押圧する押圧手段の押圧状態を限定して明確にしたものであり、特許請求の範囲の減縮に、訂正事項イは訂正事項アにより特許請求の範囲が訂正されたことに伴い、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載との整合を図るためのものであり、明りょうでない記載の釈明に、それぞれ該当する。また、訂正事項ア,イは特許公報の第2頁第3欄第49行〜同頁第4欄第13行における「即ち、基材Aが薄くなると・・・形成する。」の記載、及び同第3頁第6欄第12〜18行における「もし、基材Aに厚薄があった場合・・・からである。」の記載に基くものであり、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張又は変更するものでもない。
(3)訂正後の請求項1に係る発明
訂正後の請求項1に係る発明は、訂正明細書の特許請求の範囲の請求項1に記載された次のとおりのものである。
「基材用搬送路の外側に該搬送路を介して対峙する二つのダイを配設し、各ダイは、搬送路を横断する方向に沿って延設した塗工液押出スリットと、塗工液押出スリットより基材搬出側に位置する搬送路の局部と対面し且つこの局部との間で塗工液溜空間を形成するリップ面とを備え、両ダイのリップ面を上記搬送路を介して対向させ、前記二つのダイの一方のダイを固定し、他方のダイを前記搬送路に向かって離接移動自在に配置し且つこの離接移動自在な状態で搬送路に向かって押圧手段で押圧したことを特徴とする両面同時塗工装置。」
(4)独立特許要件の判断
ア.特許法第29条第1項柱書違反について
ア-1.請求人が弁駁書において主張した「訂正後の請求項1に係る発明は、特許法第29条第1項柱書の要件を具備せず、特許出願の際独立して特許を受けることができない。」は、審判請求の理由を補正するものであるが、請求書の要旨を変更するものであり、特許法第131条第2項本文の規定により、その補正は認められない。
ア-2.以上のとおり、上記主張は請求書の要旨を変更するものと認められ、本来検討を要するものでないが、上記主張を職権にて検討する。
上記主張の概略は、以下のa乃至dである。
a.訂正後の請求項1に係る発明では、定量的に塗工液が出ているか否かが不明であるため、訂正明細書の作用の欄に記載した動作が必ず行われるとは限らない。
b.訂正後の請求項1に係る発明では、塗工液の粘度が不明であるため、訂正明細書の作用の欄に記載した動作が必ず行われるとは限らない。
c.訂正後の請求項1に係る発明では、基材が厚くなり塗工液溜の内圧が上昇しようとしても基材の下方開放部のために内圧が上昇せず、訂正明細書の作用の欄に記載した動作が必ず行われるとは限らない。
d.訂正後の請求項1に係る発明では、押圧力P1及びP2をどのようにして釣り合わせるのかが不明であるため、訂正明細書の作用の欄に記載した動作が必ず行われるとは限らない。
以下に上記主張a乃至dについて検討する。
<aについて>
ダイを用いた塗工では、均一な塗工膜厚みを得ようとするのが一般的であり、そのために、基材の搬送速度を一定に維持すること、及び塗工液押出スリットから塗工液を定量的にに押出すことが一般事項として採用されているところであり、また訂正後の請求項1に係る発明は、塗工液を定量的に押出すことを包含し、排除するものではない。
<bについて>
訂正後の請求項1に係る発明の両面同時塗工装置は、リップ面が搬送路の局部との間で塗工液溜空間を形成するため、塗工液溜空間に塗工液溜を形成することができる粘度の塗工液が供給されるものであり、また訂正後の請求項1に係る発明は、塗工液の粘度が高粘度であるものを包含し、排除するものではない。
<cについて>
訂正後の請求項1に係る発明の両面同時塗工装置は、塗工中は基材の厚みに関係なく塗工液溜の内圧と押圧手段の押圧力とが釣り合っており、搬送中の基材に厚薄があったとしても、この釣り合い状態を維持しつつ離接移動自在な押圧手段の出力端がこの厚薄に応じて塗工液溜と共に進退するため、塗工液溜の内圧に大きな変化はなく、また訂正後の請求項1に係る発明は、上記釣り合い状態を包含し、排除するものではない。
<dについて>
押圧力P1及びP2を釣り合わせる手段は、適宜採用し得る周知の技術手段でよく、又、訂正後の請求項1に係る発明は、押圧力P1及びP2を釣り合わせる手段を包含し、排除するものではない。
以上のとおりであるから、訂正後の請求項1に係る発明は、発明としては未完成であり、産業上利用できない発明であるとした請求人の主張は採用しない。
イ.特許法第29条第2項違反について
(a)甲第1乃至4号証記載の発明
請求人が提出した甲第1号証(特公昭55-46223号公報)には、
公報第3頁第5欄第24〜28行の「これらの噴流部材は米国特許第3418970号、同第3521602号に開示されたごとき型式のもので、大体L字形に近いブラケット20に載ってウエブ材料15の対向両面に配置される。」なる記載、同第3頁第5欄第36行〜第4頁第7欄第6行の「第3図によれば・・・噴流部材18には横方向に細長いオリフィス34を間に挟んで規定する一対のリップ部材30,32をそなえ、この間を通って塗被材が隣接するウエブ材料15面に向けジェット又は細流として噴出して衝突する。・・・一対のハンドル又はアクチュエータ38は噴流部材の背部に直立していて、この噴流部材を、第3図に示す動作位置と第4図に示す後退位置との間をロッド又は回転軸21の軸線のまわりに手で回す手段を与える。対向噴流部材17は清浄化又は調節に際して斜めに反り返らされる。・・・はたらきをする。」なる記載、第1乃至4図の記載内容、及びリップ部材30,32はリップ面を有していることが当業者にとって自明であること等からみて、
「ウエブ材料15用搬送路の外側に該搬送路を介して対峙する二つの噴流部材17,18を配設し、各噴流部材17,18は、搬送路を横断する方向に沿って延設したオリフィス34と、オリフィス34よりウエブ材料15搬出側に位置する搬送路の局部と対面するリップ面とを備え、両噴流部材17,18のリップ面を上記搬送路を介して対向させ、前記二つの噴流部材17,18の一方の噴流部材を固定し、他方の噴流部材を前記搬送路に向かって離接移動自在に配置した両面同時塗工装置。」
に関する発明が記載されている。
(なお、請求人は、甲第1号証には、各噴流部材17,18のリップ面が搬送路の局部との間で塗工液溜空間を形成することについて記載若しくは示唆されているとし、以下のように主張した。
<塗工液の粘度,吐出量、ウエブ材料の搬送速度を調整すれば塗工液の液溜を形成し得る。塗工液を噴射してウエブ材料に衝突させると塗工液がウエブ材料上に膨出するとの技術常識を勘案すると塗工液の液溜は形成される。訂正後の請求項1における「各ダイは・・・この局部との間で塗工液溜空間を形成するリップ面とを備え」の記載によれば、塗工液溜を作る必要はなく塗工液溜空間を作れば良いのであり、その意味で甲第1号証記載の両面同時塗工装置は塗工液溜空間を形成するリップ部材30,32を備えている。>
しかしながら、甲第1号証には、「噴流部材18には横方向に細長いオリフィス34を間に挟んで規定する一対のリップ部材30,32をそなえ、この間を通って塗被材が隣接するウエブ材料15面に向けジェット又は細流として噴出して衝突する。」(第3頁第6欄第2〜6行)、及び「リップ部材30,32はノズルとしてはたらき又ウエブ材料15の両面に均一な塗被材のカーテンを付着せしめる。」(第3頁第6欄第39〜42行)との記載はあるものの、塗工液の粘度,吐出量、ウエブ材料の搬送速度を調整して塗工液の液溜を形成すること、及び塗工液を噴射してウエブ材料に衝突させると塗工液がウエブ材料上に膨出して塗工液の液溜が形成されること、について記載も示唆もされていない。また、訂正明細書の第2頁第16〜20行には、「第7図に示す如く・・・塗工液B1,B2は、基材Aに導かれて、基材Aとリップ面15,16との間に形成された塗工液溜空間S1,S2に至り、一定厚みの塗工液溜B1-1,B2-1を形成する。」と記載されており、塗工液溜空間を形成するリップ面は、塗工状態のときに塗工液溜を形成するものである。
したがって、甲第1号証記載の各噴流部材17,18のリップ面は、搬送路の局部との間で塗工液溜空間を形成するものではない。)
同甲第2号証(特開昭62-95169号公報)には、
公報第2頁右下欄第14行〜第3頁第5行の「第1図は本発明の一実施例を示す説明図である。1はウエブであり、ウエブの保持ロール7,8により塗布部に搬送され、磁性塗布液2が塗布ヘッド(押出口)3により押し出されウエブ上に塗布される。塗布ヘッド3はウエブ1を押しつけており、塗布液が送液されていないときはウエブ1と塗布ヘッド3は離れており、塗布直前に両者を接触させる。塗布ヘッド3は塗布ヘッドを固定する架台4に取り付けられており、塗布ヘッド支持台5に乗っている。架台は塗布ヘッド移動装置6により、図面上で左右方向に移動出来るようになっている。」なる記載、及び第1図の記載内容等からみて、
磁性液塗布装置において、「塗布ヘッド3をウエブ1搬送路に向かって離接移動自在に配置し且つ搬送路に向かって押圧手段で押圧した」構成が記載されている。
同甲第3号証(特開昭62-140670号公報)には、
公報第1頁左下欄第5〜15行の「(1)搬送ローラ上を搬送されるシート状物からなる基材上に、スリット状の吐出口を有するダイから吐出される低粘度塗料をコーティングする装置において、前記ダイを、該ダイの前記スリット状吐出口と前記搬送ローラの表面との間の距離が可変可能な、バランスウエイトを用いた浮動型ダイに構成し、該ダイのスリット状吐出口側の面の前記基材巾方向両側に、基材の表面に接触し基材の表面とスリット状吐出口との間隔を一定に保つ間隔保持手段を設けたことを特徴とする浮動型ダイを有するコーティング装置。」なる記載、同第4頁右下欄第3〜13行の「ダイ4は変位されるものの、滑走部材11は常にごく僅かの押圧力で基材1側に摺接されており、滑走部材11の厚みは所定の一定厚みであるから、搬送されてくる基材1の表面の位置が多少変動しても、リップ部7先端面、つまりスリット状吐出口3の位置と基材1の表面位置との間隔は常に一定値に保たれる。したがって、スリット状吐出口3から吐出される低粘度塗料5は、均一に保たれた基材1との間隔部に吐出され、基材1上に均一な膜厚でコーティングされる。」なる記載、及び第1〜3図の記載内容等からみて、
浮動型ダイを有するコーティング装置において、「ダイ4を基材1搬送路に向かって離接移動自在に配置し且つこの離接移動自在な状態で搬送路に向かって押圧手段で押圧した」構成が記載されている。
同甲第4号証(特開昭59-173164号公報)には、
公報第1頁左下欄欄第5〜16行の「(1)コーターダイ及び該コーターダイに隣接して設けられた基材搬送ローラーを有するコーティング装置において、コーターダイ及び基材搬送ローラーのうちの少なくとも一方を変位制御装置(スプリングを除く)を介して支持し、該コーターダイ又は基材搬送ローラーをコーターダイからの粘性体の吐出圧力の作用により上記変位制御装置に抗して変位するようにしたことを特徴とするコーティング装置。(2)変位制御装置がエアーシリンダーであることを特徴とする特許請求の範囲第(1)項記載のコーティング装置。」なる記載、同第2頁右下欄第13〜20行の「しかる後、コーターダイ2と基材搬送ローラー3との間に基材1を通過させ、コーターダイ2の先端の吐出口から粘性体4を吐出させる。この吐出によりコーターダイ3は、変位制御装置6による塗工圧力(負荷圧力)に抗して浮上し、コーターダイ2からの粘性体4の吐出圧力の変動に応じて上下動し所定の吐出圧力をもって粘性体4を基材1上に均一にコーティングする。」なる記載、及び第1,2図の記載内容等からみて、 コーティング装置において、「コーターダイ2を基材1搬送路に向かって離接移動自在に配置し且つこの離接移動自在な状態で搬送路に向かって変位制御装置6で押圧した」構成が記載されている。
(b)対比・判断
訂正後の請求項1に係る発明と甲第1号証に記載された発明とを対比すると、後者の「ウエブ材料15」,「二つの噴流部材17,18」,「オリフィス34」は、それぞれ前者の「基材」,「二つのダイ」,「塗工液押出スリット」に相当する。
したがって、両者は、
「基材用搬送路の外側に該搬送路を介して対峙する二つのダイを配設し、各ダイは、搬送路を横断する方向に沿って延設した塗工液押出スリットと、塗工液押出スリットより基材搬出側に位置する搬送路の局部と対面するリップ面とを備え、両ダイのリップ面を上記搬送路を介して対向させ、前記二つのダイの一方のダイを固定し、他方のダイを前記搬送路に向かって離接移動自在に配置した両面同時塗工装置。」
の点で一致し、以下の点で相違する。
訂正後の請求項1に係る発明は、「各ダイは、塗工液押出スリットより基材搬出側に位置する搬送路の局部との間で塗工液溜空間を形成するリップ面を備え、他方のダイを前記搬送路に向かって離接移動自在な状態で搬送路に向かって押圧手段で押圧した」構成を具備するのに対して、甲第1号証に記載された発明は、当該構成を具備しない点。
相違点について検討する。
訂正後の請求項1に係る発明は、「各ダイは、塗工液押出スリットより基材搬出側に位置する搬送路の局部との間で塗工液溜空間を形成するリップ面を備え、他方のダイを前記搬送路に向かって離接移動自在な状態で搬送路に向かって押圧手段で押圧した」構成を具備することにより、すなわち、「各ダイは、塗工液押出スリットより基材搬出側に位置する搬送路の局部と対面し且つこの局部との間で塗工液溜空間を形成するリップ面を備え、両ダイのリップ面を基材用搬送路を介して対向させ、前記二つのダイの一方のダイを固定し、他方のダイを前記搬送路に向かって離接移動自在に配置し且つこの離接移動自在な状態で搬送路に向かって押圧手段で押圧した」構成により、「基材の厚薄に追従して他方のダイが移動し両ダイ間の押圧力が均衡を保つため、リップ面の出口縁部と基材表面との間に形成する塗工膜形成間隙の間隙寸法を一定値に維持し、基材の両表面に均一厚みの塗工膜を形成する」ものである。
これに対して、甲第1号証に記載された発明は、「各ダイは、塗工液押出スリットより基材搬出側に位置する搬送路の局部と対面するリップ面を備え、両ダイのリップ面を基材用搬送路を介して対向させ、前記二つのダイの一方のダイを固定し、他方のダイを前記搬送路に向かって離接移動自在に配置した」構成により、「基材の両表面に塗工膜を形成すると共に、対向噴流部材の清浄化又は調節に際して、一方のダイを固定し他方のダイを搬送路に向かって離接移動自在に配置する」ものである。すなわち、甲第1号証に記載された発明において、二つのダイの一方のダイを固定し、他方のダイを搬送路に向かって離接移動自在に配置する目的は、他方のダイを清浄化又は調節に際して斜めに反り返らせるためであって、塗工時には、二つのダイは所定塗工動作位置に停止した状態とされるものである。したがって、甲第1号証に記載された発明においては、「各ダイは、塗工液押出スリットより基材搬出側に位置する搬送路の局部との間で塗工液溜空間を形成するリップ面を備え、他方のダイを前記搬送路に向かって離接移動自在な状態で搬送路に向かって押圧手段で押圧した」構成を具備する必要はない。
一方、甲第2号証には、磁性液塗布装置において、「塗布ヘッド3をウエブ1搬送路に向かって離接移動自在に配置し且つ搬送路に向かって押圧手段で押圧した」構成が、甲第3号証には、浮動型ダイを有するコーティング装置において、「ダイ4を基材1搬送路に向かって離接移動自在に配置し且つこの離接移動自在な状態で搬送路に向かって押圧手段で押圧した」構成が、甲第4号証には、コーティング装置において、「コーターダイ2を基材1搬送路に向かって離接移動自在に配置し且つこの離接移動自在な状態で搬送路に向かって変位制御装置6で押圧した」構成が、それぞれ記載されている。しかしながら、甲第2乃至4号証記載の塗布装置,コーティング装置は、いずれも基材の片面だけを塗工するものであり、しかも、「塗工液押出スリットより基材搬出側に位置する搬送路の局部と対面し且つこの局部との間で塗工液溜空間を形成するリップ面」を備えることについて記載も示唆もしていない。
してみると、甲第1号証に記載された発明において、「各ダイは、塗工液押出スリットより基材搬出側に位置する搬送路の局部との間で塗工液溜空間を形成するリップ面を備え、他方のダイを前記搬送路に向かって離接移動自在な状態で搬送路に向かって押圧手段で押圧した」構成を具備せしめ、訂正後の請求項1に係る発明のような構成とすることが、当業者にとって格別困難なく想到し得るものとは認められない。
したがって、訂正後の請求項1に係る発明は、特許出願の際独立して特許を受けることができるものである。
(5)むすび
以上のとおりであるから、上記訂正は、特許法第134条第2項、及び同条第5項で準用する特許法第126条第2-4項の規定に適合するので、当該訂正を認める。

4.特許無効の理由に関する判断
本件特許の請求項1に係る発明は、訂正請求による訂正が認められるので、上記3.(3)に記載されたとおりのものと認められる。そして、本件特許の請求項1に係る発明は、上記3.(4)イ.で示したように、特許無効の理由で示した甲第1乃至4号証に記載された発明から当業者が容易に発明をすることができたものとすることはできない。
よって、結論のとおり審決する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
両面同時塗工装置
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】基材用搬送路の外側に該搬送路を介して対侍する二つのダイを配設し、各ダイは、搬送路を横断する方向に沿って延設した塗工液押出スリットと、塗工液押出スリットより基材搬出側に位置する搬送路の局部と対面し且つこの局部との間で塗工液溜空間を形成するリップ面とを備え、両ダイのリップ面を上記搬送路を介して対向させ、前記二つのダイの一方のダイを固定し、他方のダイを前記搬送路に向かって離接移動自在に配置し且つこの離接移動自在な状態で搬送路に向かって押圧手段で押圧したことを特徴とする両面同時塗工装置。
【発明の詳細な説明】
【産業上の利用分野】
本発明は、プラスチックフイルム,布,金属板又は紙等の帯状基材の両面に、塗工液を同時塗工するための両面同時塗工装置に関する。
【従来の技術】
従来、両面同時塗工装置は、第8図に示す如く、基材用搬送路Rが浸漬する液溜部1aを設けた塗工液溜具1と、液溜部1aより基材搬出側に配置したスクイズロール2とを備え、液溜部1aを通過する帯状基材Aの両面に塗工液Hを付着させ、スクイズロール2を通過する際に塗工膜厚みを規制するものである。
【発明が解決しようとする課題】
従来の両面同時塗工装置は、低粘度の塗工液には適しているが、高粘度の塗工液には不適である。何故ならば、高粘度の塗工液の流動性が非常に悪いため、溜液部1aに基材Aを浸漬することが非常に困難であり、仮に浸漬することができたとしても、多量に付着した塗工液の膜厚みをスクイズロール2で規制すること及び平滑な塗工膜表面を得ることが非常に難しいからである。
本発明は、従来不可能とされていた高粘度な塗工液の両面同時塗工をも可能にする両面同時塗工装置の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
本発明に係る両面同時塗工装置(以下、「本発明装置」という)が採用した手段は、基材用搬送路の外側に該搬送路を介して対峙する二つのダイを配設し、各ダイは、搬送路を横断する方向に沿って延設した塗工液押出スリットと、塗工液押出スリットより基材搬出側に位置する搬送路の局部と対面し且つこの局部との間で塗工液溜空間を形成するリップ面とを備え、両ダイのリップ面を上記搬送路を介して対向させ、前記二つのダイの一方のダイを固定し、他方のダイを前記搬送路に向かって離接移動自在に配置し且つこの離接移動自在な状態で搬送路に向かって押圧手段で押圧したことである。
なお、他方のダイを所定位置に停止させるためのストッパーを備え、ストッパーは、他方のダイを搬送路に接近した位置で一時停止させる前進待機位置から他方のダイのリップ面を搬送路に当接させることが可能な塗工位置までの間で進退させるようにすることもある。
【作用】
本発明装置の作用を図面に示す実施例に基づいて説明する。
第7図に示す如く、基材用搬送路Rを一定搬送速度で通過する帯状基材Aに向かってダイ11,12の各塗工液押出スリット13,14から定量的に押出された高粘度(例えば、30〜100,000cps)の塗工液B1,B2は、基材Aに導かれて、基材Aとリップ面15,16との間に形成された塗工液溜空間S1,S2に至り、一定厚みの塗工液溜B1-1,B2-1を形成する。塗工液溜空間S1,S2の塗工液溜B1-1,B2-1は、上記塗工液B1,B2の連続的な供給を受けて内圧が上昇し、基材Aの表面局部Aa-1,Aa-2を両側から釣合う内圧で押圧する。押圧された基材Aは、リップ面15,16の中間所定位置を通過して、リップ面15,16の出口縁部15a,16aと基材表面Aa,Aaとの間に塗工膜形成間隙E1,E2を形成し、この間隙寸法W1-1,W1-2を一定値に維持する。上記塗工液溜B1-1,B2-1で内圧の上昇した塗工液B1,B2は、基材表面局部Aa-1,Aa-2に塗着した状態で、一定間隙寸法W1-1,W1-2の塗工膜形成間隙E1,E2を通過して、基材Aの両表面Aa,Aaに一定膜厚W2-1,W2-2の塗工膜B1-2,B2-2を形成する。
基材Aの厚薄により基材Aとリップ面15,16との間に形成される塗工液溜空間S1,S2が変動する場合には、第6図(B)に示す如く、一方のダイ11を所定塗工位置に固定し、他方のダイ12を搬送路Rに向かって離接移動自在に配置し且つ搬送路Rに向かって押圧手段55で押圧することにより均一塗工膜厚みの両面同時塗工ができる。即ち、基材Aが薄くなると、第7図に示す如く、塗工液溜空間S1,S2を厚くして塗工液溜B1-1,B2-1の内圧を低下させる傾向を示すが、押圧手段55の一定押圧力を受けているダイ12は、塗工液溜空間S1,S2を薄くする方向で且つリップ面15,16の押圧力と塗工液溜B1-1,B2-1とが釣合う位置まで前進する。逆に、基材Aが厚くなると、塗工液溜空間S1,S2を薄くして塗工液溜B1-1,B2-1の内圧を上昇させる傾向を示すが、押圧手段55の一定押圧力を受けているダイ12は、塗工液溜空間S1,S2を厚くする方向で且つリップ面15,16の押圧力と塗工液溜B1-1,B2-1とが釣合う位置まで後退する。その結果、押圧手段55で押圧された離接移動自在のダイ12は、塗工液溜空間S1,S2の厚み及び塗工膜形成間隙E1,E2の間隙寸法W1-1,W1-2を一定値とし、基材Aの両表面Aa,Aaに一定膜厚W2-1,W2-2の塗工膜B1-2,B2-2を常に形成する。
【実施例】
(第1実施例)
第1図乃至第4図は、第1実施例の両面同時塗工装置10を示すものである。
本塗工装置10は、第1図に示す如く、基材用搬送路Rの外側適所に、該搬送路Rを介して対侍する二つのダイ11,12を配設してある。該搬送路Rは、ガイドロール45とフローティング乾燥装置46等との間に、垂直状態、水平状態(図示は省略)又は傾斜状態に形成したものである。搬送方向(矢符C方向)に高張力を負荷できない帯状基材A(例えば、布等)の場合には、搬送路Rの両縁外側に、基材Aの耳端部を把持するクリップ付きチェーン(図示は省略)を配設する。
各ダイ11(12)は、搬送路Rを横断する方向に沿って延設した塗工液押出スリット13(14)と、第2図に示す如く、塗工液押出スリット13(14)より基材搬出側に位置する搬送路Rの局部Raと対面し且つこの局部Raとの間で塗工液溜空間S1(S2)を形成するリップ面15(16)とを備えている。両ダイ11,12は、搬送路Rを介してリップ面15,16が対向するように配置してある。ダイ11(12)は、第3図の正面図及び第4図の左側断面図に示す如く、案内具18(19)で搬送路Rに向かって離接移動自在に支持してある。案内具18及び19の夫々は、左右の固定側フレーム20,21の内側に配設した案内レール22,23と、案内レール22,23に円滑に案内されて搬送路Rに向かって進退するものであってダイ11又は12を支持固定する移動フレーム24と、移動フレーム24に出力端26a,26aを接続して移動フレーム24を進退駆動する左右のエアーシリンダー26,26等からなる駆動手段25と、移動フレーム24を所定塗工位置で停止して対向する両ダイ11,12のリップ面15,16の間隔を調節する左右のストッパー27,27とからなる。
前記ダイ11(12)は、第1図及び第2図に示す如く、二つ割りのボディー28,29(30,31)と、ボディー28,29(30,31)の先端に取着したリップ32,33(34,35)とからなり、リップ32,33(34,35)の間に塗工液押出スリット13(14)を形成し、ボディー28,29(30,31)の間に、塗工液Bを塗工液押出スリット13(14)のスリット長手方向(即ち、基材用搬送路Rの横断方向)に均一分散させるためのマニホールド38(39)を形成し、ボディー28(30)に塗工液供給孔(図示は省略)を穿設してある。ダイ11(12)は、塗工液供給装置(図示は省略)から塗工液供給孔に塗工液B1(B2)が供給されると、塗工液B1(B2)をマニホールド38(39)で長手方向へ均一に分散して塗工液押出スリット13(14)に導き、帯状用搬送路Rを通過する基材Aに向かって塗工液B1(B2)を押出す。第2図に示す如く、基材Aの表面局部Aa-1(Aa-2)に押出された塗工液B1(B2)は、矢符C方向に一定速度で搬送中の基材Aに同伴されて楔状の塗工液溜空間S1(S2)に導かれ、一定厚みの塗工液溜B1-1(B2-1)を形成する。この塗工液溜B1-1(B2-1)の塗工液B1(B2)は、上記塗工液B1(B2)の連続的な供給により内圧が上昇し、基材表面局部Aa-1(Aa-2)に塗着した状態で、一定間隙寸法W1-1(W1-2)の塗工膜形成間隙E1(E2)を通過して、基材Aの両面に一定膜厚W2-1,W2-2の塗工膜B1-2(B2-2)を形成する。なお、チキソトロピー特性を有する塗工液B1(B2)にあっては、塗工液溜空間E1(E2)で受ける適切な勇断力により粘度が瞬時に低下し、基材表面Aa(Aa)に対して円滑に塗工される。
なお、本塗工装置10は、高粘度の塗工液B1(B2)の両面同時塗工は勿論のこと、低粘度の塗工液の両面同時塗工も可能である。
(第2実施例)
第5図乃至第7図は、第2実施例の両面同時塗工装置50を示すものである。
本塗工装置50の特徴とする所は、帯状基材搬送方向(矢符C方向)に沿って厚薄のある帯状基材Aの両表面Aa,Aaに対して均一塗工膜厚みの塗工ができるように、二つのダイ11,12の一方のダイ11を所定塗工位置に固定し、他方のダイ12を基材用搬送路Rに向かって離接移動自在に配置し且つダイ12を押圧手段55で搬送路Rに向かって押圧した点である。
本塗工装置50が前記第1実施例の本塗工装置10と大きく異なる点は、ダイ12を案内する案内具19に設けた左右のストッパー57,57と押圧手段55である。各ストッパー57は、移動フレーム24に当接するストッパー先端57aを進退自在としてある。ストッパー先端57aの進退領域は、ダイ12を搬送路Rに接近した位置で一時停止させる前進待機位置(第6図(A)参照)からダイ12のリップ35 (第7図参照)を搬送路Rに当接することが可能な塗工位置(同図(B)参照)までとしてある。上記押圧手段55は、基材用搬送路Rに向かって移動する左右の各出力端56aを移動フレーム24に接続した左右一組のエアーシリンダー56,56からなる。左右のエアーシリンダー56,56に圧縮空気を供給する空気配管系統(図示は省略)は、ダイ12を後退待機位置(第5図参照)からリップ35(第7図参照)の先端が搬送路Rに接近する前進待機位置(第6図(A)参照)まで前進させる圧縮空気を供給した後、上記ストッパー先端57aが塗工位置(同図(B)参照)に向かって後退を開始する信号を受けて、各エアーシリンダー56に所望圧力の圧縮空気を供給して各出力端56aからP2/2の押圧力をダイ12に伝達させ、更に塗工終了のときにダイ12を上記後退待機位置(第5図参照)まで強制後退させる圧縮空気を供給するようにしてある。
エアーシリンダー56,56の出力の合力P2は、第7図に示す如く、襖状の塗工液溜空間S2に形成された塗工液溜B2-1の塗工液B2がダイ12のリップ面16を押圧する押圧力の合力P1と釣合う。もし、基材Aに厚薄があった場合には、ダイ12は、基材Aの厚薄に追従して移動する。追従する理由は、ダイ12が基材用搬送路Rに向かって離接移動自在に配置され且つダイ12の離接移動方向に沿って移動する押圧手段55の出力端56a,56aでダイ12を基材用搬送路Rに向かって押圧し、前記押圧力P1及びP2を釣合わせているからである。ダイ12が追従するため、ダイ12(11)のリップ面16(15)の出口縁部16a(15a)と基材表面Aa(Aa)との間に形成された塗工膜形成間隙E2(E1)の間隙寸法W1-2(W1-1)は一定値に維持されることになり、基材Aの表面Aa(Aa)に一定膜厚W2-1(W2-2)の塗工膜B1-2(B2-2)を常に形成する。
【発明の効果】
以上詳述の如く、本発明に係る両面同時塗工装置(以下、「本発明塗工装置」という)は、次の如く優れた効果を有する。
▲1▼本発明塗工装置は、従来不可能とされていた高粘度な塗工液による両面同時塗工をも可能にするため、塗工液の粘度選択領域を低粘度から高粘度まで広範囲にすることができる。
▲2▼本発明塗工装置は、基材の厚薄に追従して一方のダイが移動し両ダイ間の押圧力が均衡を保っため、リップ面の出口縁部と基材表面との間に形成する塗工膜形成間隙の間隙寸法を一定値に維持し、基材の両表面に均一厚みの塗工膜を形成する。その結果、本発明装置は、従来不可能とされていた非常に薄い数μm程度のダイ塗工が可能となり、新規有用な高粘度用薄膜塗工装置を産業界に提供する効果を有する。
▲3▼本発明塗工装置は、基材の厚薄に追従して一方のダイが移動し両ダイ間の押圧力が均衡を保つため、基材表面とリップ面との間に一定間隙の塗工液溜空間を形成することになり、基材表面とリップ面を接触させることはない。その結果、本発明装置は、高精度に仕上げられたリップ面を傷付けることなく、長時間に亘る塗工を可能とし、塗工設備の稼働効率を飛躍的に向上させる効果を有する。
【図面の簡単な説明】
第1図乃至第4図は同時両面塗工装置の第1実施例を示すものであって、第1図はダイ及び乾燥装置を示す部分断面した側面図、第2図は塗工状態のダイ先端の近傍を拡大して示す側断面図、第3図は装置全体を示す正面図、第4図は第3図のIV-IV線における側断面図、第5図乃至第7図は同時両面塗工装置の第2実施例を示すものであって、第5図はダイが待機状態の側断面図、第6図(A)はダイが前進待機状態の側断面図、第6図(B)はダイが塗工状態の側断面図、第7図は塗工状態のダイ先端の近傍を拡大して示す側断面図、第8図は従来の同時両面塗工装置を示す側面図である。
11(12)…ダイ
13(14)…塗工液押出スリット
15(16)…リップ面
55…押圧手段
R…基材用搬送路
 
訂正の要旨 訂正事項
ア.特許請求の範囲の請求項1に記載の「且つ搬送路」(特許公報の第1頁第1欄第10行)を「且つこの離接移動自在な状態で搬送路」と訂正する。
イ.特許公報の第2頁第3欄第15行の「且つ搬送路」を「且つこの離接移動自在な状態で搬送路」と訂正する。
審理終結日 2000-11-06 
結審通知日 2000-11-17 
審決日 2000-11-28 
出願番号 特願平1-209012
審決分類 P 1 112・ 121- YA (B05C)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 増田 亮子  
特許庁審判長 西野 健二
特許庁審判官 西川 恵雄
清田 栄章
登録日 1998-10-02 
登録番号 特許第2832457号(P2832457)
発明の名称 両面同時塗工装置  
代理人 後藤 文夫  
代理人 内田 敏彦  
代理人 中村 哲士  
代理人 蔦田 璋子  
代理人 富田 克幸  
代理人 蔦田 正人  
代理人 後藤 文夫  
代理人 内田 敏彦  

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