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審決分類 審判 全部無効 2項進歩性 無効とする。(申立て全部成立) G02B
管理番号 1040313
審判番号 審判1999-35218  
総通号数 20 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 1995-06-06 
種別 無効の審決 
審判請求日 1999-05-11 
確定日 2001-03-30 
事件の表示 上記当事者間の特許第2713858号の特許無効審判事件について、併合の審理のうえ、次のとおり審決する。 
結論 特許第2713858号の請求項1に係る発明についての特許を無効とする。 審判費用は、被請求人の負担とする。 
理由 1.手続きの経緯
本件特許第2713858号の発明「月の投影器」は、平成5年11月24日に出願され、平成9年10月31日に特許権の設定の登録がなされ、その後、特許異議の申立てがなされ、訂正請求がなされ、訂正が認められ、維持決定がなされた。 これに対して、平成11年5月11日に香川県より特許無効の審判(平成11年審判第35218号)が請求され、平成11年7月6日に株式会社西村製作所より特許無効の審判(平成11年審判第35342号)が請求された。
当審は、口頭審理を行った後、平成11年8月22付けで、無効理由を通知したが、これに対し、被請求人から何ら応答がされなかった。
2.本件特許発明
「観察に十分な光量が得られる口径を有する大型天体望遠鏡の光束の取出口に、該大型天体望遠鏡とは反対側の端部である先端部が取出口よりも大径になっている筒形ハウジングを接続すると共に、該筒形ハウジングの先端部にスクリーンを設置し、取出口から導いた光束を前記スクリーンに拡大して投影可能としたことを特徴とする月の投影器。」
3.無効の請求の理由及び答弁についての概要
3.1 請求人香川県が主張する無効理由の概要
3.1.1 請求人香川県が、同請求人が提出した甲第1号証(「天体望遠鏡ガイドブック」 昭和40年7月31日第1版発行 株式会社誠文堂新光社 表紙 163〜165頁 210〜212頁 226〜229頁 奥付)、甲第2号証(「観察と撮影 図説月面ガイド」1988年12月10日第2刷発行 立風書房 表紙 目次 115頁 奥付)及び甲第3号証(「新訂天体写真マニュアル」平成4年5月30日新訂第1刷発行 株式会社地人書館 表紙 l17頁 奥付)に基づいて主張する無効理由の概要
本件特許発明は、特許後に訂正請求が認められており、訂正後の特許請求の範囲【請求項1】は、下記のとおりである。
「a:観察に十分な光量が得られる口径を有する大型天体望遠鏡の光束取出口に、
b:望遠鏡とは反対側の端部である先端部が取出口よりも大径になっている筒形ハウジングを接続すると共に、
c:該筒形ハウジングの先端部にスクリーンを設置し、
d:取出口から導いた光束を前記スクリーンに拡大して投影可能とした
e:ことを特徴とする月の投影器。」
(1)本件特許発明と第1号証の記載事項との対比
1 甲第1号証の図51に開示された装置は、本件特許発明の要件bにほぼ相当する構成である。ただ、筒形ハウジングの先端部が大径か否かは図中明白ではないけれども、拡大撮影するからには少なくとも先端部は大径でなければならないことと、同号証211頁の図65のB,Cには先端部が大径の筒形ハウジングの構成が明示されているので、図51と図65の両方を総合すると、本件特許発明の要件bが開示されていると認められる。
2 また、上記図51、図65の装置はいずれも拡大撮影装置であるが、同号証226頁24行〜227頁2行の記事には、すりガラスに像を投影させることが解説されているので、本件特許発明の要件cである「スクリーンを設置」することと、要件dである「拡大して投影」することが開示されていると認められる。
3 さらに、図51の装置は、その名(サン・アンド・ムーンカメラ)の通り月を撮影できるものであるから、図65の装置にすりガラスを用いて月を投影する要件eも、開示されていると認められる。
4 以上の理由により、甲第1号証には本件特許発明の要件b,c,d,eが開示されていると認められる。
ただし、甲第1号証中の望遠鏡は全て普通の口径のものであるため、本件特許発明の要件aは開示されていない点で相違する(相違点I)。
(2)そこで、つぎに上記相違点Iを検討する。
相違点Iに関する要件a「観察に十分な光量が得られる口径を有する大型天体望遠鏡」は、特許異議申立後の訂正請求により追加されたものである。
特許異議の申立は、本件審判の甲第1号証と同一の証拠方法を以って新規性の欠如を主張したものであったが、特許異議審査の経過をみると、訂正前の特許発明について取消理由通知を発しており、その後訂正により特許維持決定が出されている。このことは、要件aによって特許性が認められたものと解される(もっとも、異議申立理由は特許法第29条第1項新規性のみで、特許法第29条第2項進歩性は主張していなかったから、進歩性について判断があったか否かは不明である)。
ここで、問題は、訂正による上記要件aの追加が進歩性を認める根拠となりうるか否かであるが、この点は次の二つの理由により否定されるべきである。
第1に、口径の大きな大型天体望遠鏡と口径が普通の天体望遠鏡との間で光量の相違があることは認められるが、その相違は程度の問題であって、当業者が設計上の要求に従い適宜選択できる程度の違いでしかない。よって、口径を大型に限定しても、それによってもたらされる効果は当然に推考できる程度のものである。
第2に、甲第2号証および甲第3号証に示すように、月を観察するのに、必ずしも大きな口径の望遠鏡である必要はないのであるから、本件発明が「口径の大きな望遠鏡」に限定されたとしても、そのことは本件発明に本質的な差異をもたらさないはずである。なお、像を拡大する場合、より多くの光量を必要とするであろうことは容易に推測されるが、それに対応して口径を大きくする程度は前記第1で述べたごとく、設計的選択事項にすぎない。
よって、甲第1号証に記載された普通の望遠鏡の拡大投影構造を大型天体望遠鏡に適用することは、何ら特別の困難性のないものである。また、その効果も当然に類推できる範囲のものであり、格別顕著な差異は在しないものである。
したがって、上記要件aに係る相違点Iは進歩性を認めうる要件とは云えない。
(3)上記理由により、本件特許発明は、要件b〜eを開示ないし示唆した甲第1号証に基づき、当業者が容易に発明をすることができたものであって、進歩性を有していないことは明らかである。
3.1.2 請求人香川県が、同請求人が提出した甲第4号証(「宇宙を見るI」 1989年5月25日初版第1刷発行 株式会社 恒星社厚生閣 表紙 目次 21〜25頁 奥付)、甲第5号証(「新版天体望遠鏡ガイドブック」 1988年5月25日初版第1刷発行 株式会社誠文堂新光社 表紙 目次 111 〜118頁 奥付)及び甲第6号証(カタログ「Nikon 20cm 15cm 屈折赤道儀」株式会社ニコン精機事業部 表紙 10〜14頁 裏表紙)に基づいて主張する無効理由の概要
(1)本件特許発明と甲第4号証の記載事項との対比
甲第4号証に記載された太陽の投影観察法は、初級からプロ級に至る種々の天体観測書に紹介されている周知の技術であるが、その内容は、23頁16〜24行および23〜24頁の図3、図4によると、「望遠鏡の接眼レンズ(光束の取出口)に望遠鏡とは反対側にスクリーンを設置し、接眼レンズ(取出口)から導いた光束をスクリーンに拡大して投影可能とする」というものである。
上記甲第4号証の技術を本件特許発明と比較すると、「スクリーンを設置すること」、「取出口から導いた光束をスクリーンに拡大して投影すること」の2点において共通していることが明らかである。
そして、甲第4号証記載の技術が、大型天体望遠鏡でないこと(相違点1)、筒形ハウジングを用いてないこと(相違点2)、月でなく太陽の投影器であること(相違点3)、スクリーンを後方から見ず望遠鏡側から観察すること(相違点4)の4点で相違しているものである。
(2)そこで、上記相違点1〜4について検討する。相違点1に関する望遠鏡が大型か小型かについては、設計上の選択の問題にすぎず本質的な相違でない。
相違点2に関する筒形ハウジングを用いるか否かは、当業者が容易に選択できる問題にすぎない。なぜならば、天体を拡大撮影する装置に関する甲第5号証の図面に示されたカメラアダプターは筒状ハウジングに相当する部材であって、これは図面上明らかに望遠鏡の光束取出口より大径であり、さらに甲第6号証の写真に示された天体写真撮影装置も明らかに筒状ハウジングを用いており、望遠鏡の光束取出口より大径のものであるから、このような大径の筒状ハウジングは周知の技術手段と認められる。よって筒状ハウジングを用いることは、光の乱れを防止するなどの要請に基づき当業者が任意に取捨選択する事項と云わざるをえない。
相違点3に関する月の投影器か太陽の投影器かの違いは、いずれも天体観測の範疇に入るものであり、天体観測ガイドブック等(例えば、甲第4,5,7号証の目次参照)でも、太陽観測と月の観測は並べて解説される程の親近性のあるものである。よって、太陽の投影に関する手段・手法を月の投影に応用する程度は、当業者であれば何の困難もなく類推できる程度にすぎない。
相違点4に関する観察法であるが、スクリーンを後方から見ても観察できることは、人々が経験上知っていることである。
(3)以上のとおりであるから、上記相違点1〜4は、いずれも当業者が適宜選択して採用できる程のものであり、当業者であれば、甲第4〜6号証を参酌することにより、本件発明は容易に発明することができたものと云わざるをえない。
3.2 請求人株式会社西村製作所が、同請求人が提出した甲第1〜3号証に基づいて主張する無効理由の概要
(1)本件特許発明と証拠に記載された発明との対比
先ず、本件特許発明と甲第1号証に記載された発明とを対比すると、両者は、(b)光束の取出口に、該大型天体望遠鏡とは反対側の端部である先端部が取出口よりも大径になっている筒形ハウジングを接続している点、(c)筒形ハウジングの先端部にスクリーンを設置している点、(d)取出口から導いた光束を前記スクリーンに拡大して投影可能としている点、(e)本件特許発明が月の投影器である点で共通し、本件特許発明が、(a)観察に十分な光量が得られる口径を有する大型天体望遠鏡であるのに対し、甲第1号証中の望遠鏡は大型天体望遠鏡に限定されたものではない点で、両者は相違しております。
しかしながら、上記(a)の点についてみると、甲1号証の発明と極めて親近性のある甲2号証の発明により公知の構成であります。
すなわち、甲2号証に開示された望遠鏡は、反射望遠鏡ではあるものの、<5>証拠の説明の(2)に詳述したように、(a)大型望遠鏡である点、(c)筒型ハウジングの先端にスクリーンを設置している点、(e)月の投影器である点で本件特許発明と共通点を持ち、(b)筒型ハウジングを有している点、(d)スクリーンに投影可能としている点の構成も示唆されており、本件特許発明と極めて近い技術分野に属するものです。
よって、甲第1号証の発明において、甲第2号証の発明の(a)大型望遠鏡である点を採用し、新たな望遠鏡を構成することは、当業者であれば、何ら特別の困難性のないものであります。しかも、口径の相違は程度の問題であって、月を観察するため、また像を拡大するのに対応して、得られる光量を増加すべく口径を大きくする程度は、設計的選択事項に過ぎません。また、その効果も当然に類推できる範囲のものであり、格別顕著な差異は在しないものであります。
(3)上記理由により、本件特許発明は、構成要件(b)〜(e)を開示ないし示唆した甲第1号証に基づき、当業者であれば構成要件(a)を開示した甲第2号証を参酌することにより、本件発明は容易に発明をすることができたものと言わざるを得ません。
3.3 請求人香川県が主張する無効理由に対する被請求人三鷹光器株式会社の主張の概要
3.3.1 請求人香川県が提出した甲第1号証(天体望遠鏡ガイドブック 昭和40年7月31日第1版発行 株式会社誠文堂新光社 表紙 163〜165ページ 210〜212ページ 226〜234べ-ジ 奥付)、甲第2号証(昭和59年当時、生駒山宇宙科学館長を務めていた浜根洋氏より提供された証明書)及び甲第3号証(平成10年12月28日付の平成10年異議第74034号の特許異議意見書)に基づいて同請求人が主張する無効理由に対する被請求人三鷹光器株式会社の主張の概要
甲2及び甲3に、月を観察するのに必ずしも大きな口径の望遠鏡である必要はないと示されているため、望遠鏡の口径を大きくする程度のことは、設計的選択事項であると主張している。しかしながら、甲2及び甲3は、天体写真を撮影する場合の光量を説明しているものであり、スクリーンに拡大投影する説明ではない。写真撮影であれば、感光フィルムを用いるため、今までも述べてきた通り、月の明るさでも十分である。
以上要するに、審判請求人は、第1の無効理由として、甲1に、要件b〜eが開示ないし示唆されているため、本件特許発明は進歩性がないと主張している。
しかしながら、甲1には、「内部に絞りやシャッターが存在せず、先端部が大径で、拡大投影を目的としたハウジング」が開示されていない。また、「そのハウジングを大型天体望遠鏡と組み合わせることにより、月の拡大投影が可能になる技術思想」も何ら示されていない。従って、当業者といえども、この甲1から本件特許発明を容易に発明することはできない。
3.3.2 請求人香川県が提出した甲第4〜6号証に基づいて同請求人が主張する無効理由に対する被請求人三鷹光器株式会社の主張の概要
甲4には、望遠鏡の接眼部(取出口)から導いた光束をスクリーンに拡大して投影可能とする技術が開示されていると主張している。甲4は、太陽観測に関するものであるため、太陽観測の場合は、前述のように、安全性を考慮して、スクリーンに投影して観察するが一般的である。但し、本件特許発明は、月の投影に関するもので、太陽観察に関する甲4とは、審判請求人も認めているように、以下の点で相違している。
(相違点1)大型天体望遠鏡でないこと。
(相違点2)筒形ハウジングを用いてないこと。
(相違点3)月でなく太陽の投影器であること。
(相違点4)スクリーンを後方から見ず望遠鏡側から観察すること。
相違点1については、前記第1の無効理由の説明を援用している。つまり、大きな口径と、小さな口径の光量の相違は、単なる設計上の選択事項であると主張している。しかしながら、今までも述べてきた通り、小型望遠鏡の光量では、複数の人が同時に観察できるような大きさの投影像(例えば、バレーボール大)は絶対に得られない。従って、単なる設計上の選択事項ではない。
相違点2については、当業者が容易に選択できる問題であると主張している。
その理由として、甲5及び甲6を示している。しかしながら、甲5及び甲6に示されているものは、前記甲1と同様に、あくまでもカメラのボディーであり、内部には光量を制限する 「絞り」や、光を遮る「シャッター」が存在する。そして、甲5及び甲6の場合においては、拡大しようとする割合も、フィルムの大きさが限界であり、それ以上大きく拡大しようとする思想がない。つまり、甲5及び甲6に示されているカメラのボディーは、複数の人が同時に観察可能な程度にまで拡大しようとする目的を明らかに有していない。以上のことから、甲5及び甲6に示されたカメラのボディーと、本件特許発明の筒形ハウジングとは、構成も、目的(効果)も異なったものである。
相違点3については、月の投影器か太陽の投影器かの違いは、いずれも天体観測の範疇に入るものであり、天体観測ガイドブック等で並べて解説される程の親近性があるため、太陽の投影に関する手段・手法を、月の投影に応用する程度のことは、当業者であれば、何の困難もなく類推できると主張している。しかしながら、太陽の投影と月の投影とは、技術的に全く異なったものであり、太陽の拡大投影が行われているからといって、月の拡大投影が容易に行えるものではない。それは、月の光量に起因した困難性が存在するからであり、現実に、本件特許発明が提案されるまでに、少なくとも日本国内においては、月の拡大投影装置が実施された事実はない。
相違点4については、甲7(本件特許の出願後の資料)の13頁を示し、月の投影像をスクリーンの後部から観察する例を示しているが、重要なのは、拡大した投影が後部から見えるかどうかである。甲7の13頁のように、非常に小さな像(コイン状)を投影する場合は、像も明るいため、後部から観察することができるが(これは、従来より行われていたピント合わせ手法)、拡大した投影を後部から明瞭に観察できるかどうは、甲7には記載されていない。それは、甲7において、月の像を拡大して投影しようとする思想がないからである。つまり、当業者といえども、否、当業者であるからこそ、月の光量に起因した困難性を知悉しており、単に拡大しただけでは、明瞭な投影をスクリーンの後部から確認できないことを知っているからである。
以上要するに、審判請求人は、第2の無効理由として、甲4〜甲6から、当業者であれば、本件特許発明を容易に発明できるため、本件特許発明は進歩性がないと主張している。しかしながら、甲4〜甲6には、「内部に絞りやシャッターが存在せず、先端部が大径で、拡大投影を目的としたハウジング」が開示されていない。また、「そのハウジングを大型天体望遠鏡と組み合わせることにより、月の拡大投影が可能になる技術思想」が何ら示されていない。従って、当業者といえども、甲4〜甲6から本件特許発明を容易に発明することはできない。
3.3.3 請求人株式会社西村製作所が主張する無効理由に対する被請求人三鷹光器株式会社の主張の概要
本件特許発明の構成は、以下のような内容である。
a:観察に十分な光量が得られる口径を有する大型天体望遠鏡の光束の取出口に、
b:該大型天体望遠鏡とは反対側の端部である先端部が取出口よりも大径になっている筒形ハウジングを接続すると共に、
c:該筒形ハウジングの先端部にスクリーンを設置し、
d:取出口から導いた光束を前記スクリーンに拡大して投影可能とした
e:ことを特徴とする月の投影器。
構成要件a〜eの全てを開示していない甲1と、構成要件aのみ示唆し且つそれ以外の構成要件b〜eは全く開示していない甲2を組み合わせて勘案しても、本願発明を容易に発明することはできない。
3.4 口頭審理における両当事者の主張の概要
3.4.1 請求人香川県の主張の概要
1 審判請求の趣旨及び請求の理由は、審判請求書(平成11年審判第35218号)及び本日付け口頭審理陳述要領書記載のとおり。
2 平成11年審判第35218号の乙第1号証及び乙第2号証の証拠の成立を認める。乙第3号証及び乙第4号証は不知。
3 甲第6号証のルーペは、ピントを合わせるためのものである。
4 甲第8号証及び甲第9号証は、甲第6号証の説明を補充するだけのものである。
3.4.2 請求人株式会社西村製作所の主張の概要
1 審判請求の趣旨及び請求の理由は、審判請求書(平成11年審判第35342号)及び本日付け口頭審理陳述要領書記載のとおり。
2 平成11年審判第35342号の乙第1号証の証拠の成立を認める。
3 特許権侵害訴訟において被請求人は、カメラ付きのものも本件特許に属すると主張しているので、「カメラ付きのものは含まない。」と言う主張は矛盾する。
3.4.3 被請求人の主張の概要
1 答弁の趣旨及び答弁の理由は、平成11年審判第35218号は平成11年8月8日付け答弁書、平成11年審判第35342号は平成12年2月22日付け答弁書及び本日付け口頭審理陳述要領書記載のとおり。
2 請求人香川県提出の甲1号証乃至甲第7号証及び請求人株式会社西村製作所提出の甲第1号証乃至甲第3号証の証拠の成立を認める。
3 請求人香川県の本日付け提出の甲第8号証及び甲第9号証は、甲第6号証には主要部分の開示はなく、それを補充するためのものであり、審判請求の要旨を変更するものである。
4 請求人香川県提出の甲第6号証について
(1) 形状は、本件特許発明のものに筒状は似ているが、カメラのボディにすぎない。
(2) 暗くて被写体の確認ができない、したがって、ルーペが必要である。
5 平成11年審判第35342号の平成12年2月22日付け答弁書第1頁下から3行目「新規性」の記載を「進歩性」と訂正する。
6 請求人株式会社西村製作所提出の甲第2号証のものは、実際の天体を投影していない。
7 請求人株式会社西村製作所の本日付け口頭審理陳述要領書の新たな主張は、請求の要旨を変更するものである。
8 本件特許発明のものは、投影用として製品化したものであるので、侵害訴訟において属するという主張をしたものである。
9 請求人香川県の無効理由1に対して「口径が違う。」ことを反論する。
3.5 香川県が提出した甲1〜6号証について
3.5.1 甲第1号証の記載内容
甲第1号証(「天体望遠鏡ガイドブック」 昭和40年7月31日第1版発行 株式会社誠文堂新光社 表紙 163〜165頁 210〜212頁 226〜229頁 奥付)には、163頁末行〜164頁13行および図51に、「サン・アンド・ムーン・カメラ」なる名称の月・太陽撮影装置が記載されている。
この月・太陽撮影装置は、図51から明らかなように、望遠鏡の光束の取出口に筒状ハウジングを接続し、筒形ハウジングの先端部に拡大撮影装置を設置したものである。
なお、上記の構造は163頁末行〜164頁1行にかけて、「望遠鏡のドゥロー・チューブに直接ねじこみ」と記載されている。また、164頁9〜13行には、「筒の…他方にフオーカル・プレーン・シャッターと映像拡大装置がついている」とあり、望遠鏡の取出口から導いた光束を映像拡大装置により拡大して撮影可能にしている点が示されている。
同号証の211頁には、「図65」として、天体写真撮影装置の内部を示す原理説明図が記載されている。この図65のB,Cには、望遠鏡の光束の取出口に、望遠鏡とは反対側の端部である先端部が取出口よりも大径になっている筒形ハウジングが記載されている。また、同号証の226頁20行〜227頁2行には、太陽・月などの撮影方法についても、上記図65に関連する記事として、「対物鏡の焦点のところにすりガラスをおくと、物体の像がはっきり写ってきます。このすりガラスのかわりに乾板またはフィルムをおくと物体の像を写すことができます(図65-A)。」と記載されている。
3.5.2 甲第2号証の記載内容
甲第2号証(「観察と撮影 図説月面ガイド」1988年12月10日第2刷発行 立風書房 表紙 目次 115頁 奥付)には、月の観察が、口径の小さな望遠鏡でも十分可能であることが記載されている。すなわち、115頁には「月は明るく、大きいので天体写真の中でもっとも写しやすい対象である。口径6cm程度の望遠鏡でも月の満ち欠けや大きなクレーターは写るし、口径15cm以上の望遠鏡であればこの写真 集の月面写真と同様の写真が撮影できる。」と記載されている。
3.5.3 甲第3号証の記載内容
甲第3号証(「新訂天体写真マニュアル」平成4年5月30日新訂第1刷発行 株式会社地人書館 表紙 l17頁 奥付)の117頁には、「月は他の天体に比べて豊富な光量をもっているの で、…口径7〜8cm…ならば月面写真には充分といえます。…15cm以上を使用してもあまり意味がない…」と記載されている。
3.5.4 甲第4号証の記載内容
甲第4号証(「宇宙を見るI」 1989年5月25日初版第1刷発行 株式会社 恒星社厚生閣 表紙 目次 21〜25頁 奥付)の第23頁〜第24頁には、太陽の投影法による観察法が記載されており、第23頁および図3,図4によると望遠鏡の接眼レンズより後方に大径の投影板を置き、それに太陽の像を拡大して投影する観察法及び装置が開示されている。
3.5.5 甲第5号証の記載内容
甲第5号証(「新版天体望遠鏡ガイドブック」 1988年5月25日初版第1刷発行 株式会社誠文堂新光社 表紙 目次 111 〜118頁 奥付)の第111頁及び117頁には、望遠鏡に接続されたカメラによる天体の拡大撮影法が開示されている。
3.5.6 甲第6号証の内容
3.5.6.1 甲第6号証の記載内容
甲第6号証(カタログ「Nikon 20cm 15cm 屈折赤道儀」株式会社ニコン精機事業部 表紙 10〜14頁 裏表紙)第14頁の次頁に株式会社ニコンの電話番号が記載され、その東京の局番が3桁となっている。
第10頁〜第13頁には、20cm及び15cm屈折赤道儀システムの仕様が記載されている。
第14頁上段中央には、「拡大天体写真撮影装置 特に月や太陽などを対象に、望遠鏡の対物レンズによる像を拡大撮影、その拡大し全面を写す大型プレートを備えた装置です。・・・中略・・・
拡大焦点距離 75mm
倍率 3.7倍
プレートサイズ 119×164(キャビネ判)
有効画面サイズ 約114mφ
シャッタ1〜1/500秒 B.T付」と記載され、拡大天体写真撮影装置の写真が載せられている。当該拡大天体写真撮影装置の写真によると、当該拡大天体写真撮影装置は、一端に天体を投影するプレートが取り付けられ、大径部分及び小径部分が接続され他端に至る構造である。
3.5.6.2 甲第6号証の開示内容
甲第6号証記載の拡大天体写真撮影装置は、口径20cmの天体望遠鏡に取り付ける装置であって、月などを対象に、望遠鏡の対物レンズによる像を拡大し全面を写す大型プレートを備え、天体望遠鏡に上記小径部分が接続されるようになっており、大径部分を有し、当該大径部分の端部に大型プレートが取り付けられたものである。
ここで、大型プレートは、それを透過して散乱される光を観察するものであることが明らかである。
また、シャッタは、B.T付と記載されているから、シャッタを開放状態にすることができることは明らかである。
さらに、甲第6号証記載の拡大天体写真撮影装置は、像の拡大手段を有していることも明らかである。
甲第6号証記載の拡大天体写真撮影装置が取り付けられる天体望遠鏡は、口径が20cmであるから、月の観察に十分な光量が得られるものである。
なお、甲第6号証のカタログでは、東京の電話番号の局番が3桁であることから、甲第6号証のカタログは、平成3年以前に頒布され、本件出願前公知のものであると認められる。
3.6 請求人株式会社西村製作所が提出した甲甲第1〜3号証
甲第1号証 :天体望遠鏡ガイドブック 昭和40年7月31日第1版発行 株式会社誠文堂新光社 表紙 163〜165ページ 210〜212ページ 226〜234べ-ジ 奥付
甲第2号証 :昭和59年当時、生駒山宇宙科学館長を務めていた浜根洋氏より提供された証明書。
甲第2号証の2:甲第2号証の写しにページ番号、図番等を付加したもの。 甲第3号証 :平成10年12月28日付の特許異議意見書
3.7 被請求人三鷹光器株式会社が提出した乙第1〜4号証の記載事項
3.7.1 乙第1号証
乙第1号証は、’97年版「望遠鏡・双眼鏡カタログ」であって、全国に設置されている大型天体望遠鏡のマップが記載されている。
3.7.2 乙第2号証
乙第2号証は、「図説月面ガイド」であって、月面の拡大写真のコピーが載せられている。
3.7.3 乙第3号証
乙第3号証は、大型天体望遠鏡の観望会の様子を示す写真である。
3.7.4 乙第4号証
乙第4号証は、本件特許発明に係る月の投影器の写真である。
3.8 口頭審理における当審の指摘事項について
当審は、口頭審理において、本件特許発明は、請求人香川県が提出した甲第6号証に基いて当業者が容易に発明できたものである旨指摘し、被請求人に意見を求め、下記の主旨の上申書が提出された。
「6.上申の内容
被請求人は、平成12年5月30日期日の口頭審理において、審判官殿のお考えを直接お聞きすることができましたので、審判官殿のお考えに沿った形で、被請求人の主張を簡単に付け加えさせて頂きたいと思います。
審判官殿は、甲第6号証に「特に月や太陽などを対象に、望遠鏡の対物レンズによる像を拡大撮影、その拡大した全面を映す大型プレートを備えた装置です」という記載があるため、甲第6号証でも本特許発明の意図する「月の投影」が可能で、その投影されたものを本特許発明と同様に「複数の人が同時に観察可能」なのではないか、というお考えをもたれているものと思います。
しかしながら、甲第6号証のプレートに映し出されている像は、”拡大天体写真撮影装置”という製品の存在目的から合理的に考えれば、あくまでも、写真撮影の「構図」をとるための「ファインダー的」なものに止まるものであって、少なくとも、本特許発明の”月の投影器”のような「月の観察」を目的としたものではないと考えるのが自然です。
月における「観察」とは、本特許発明の訂正明細書【0007】中の記載や、別紙に添付させた頂きました多くの参考資料からも分かりますように、月の「欠け際」や「三日月」の状態を観ることも意味しています。これが本特許発明の目的とする「月の観察」です。本特許発明の効果における「複数の人が同時に観察可能」の ”観察”も、この意味で使わせて頂きましたし、この意味は当業者であれば共通の認識であると思います。
そうした場合に、甲第6号証の”拡大天体写真撮影装置”のプレートに、月の「欠け際」や「三日月」を映してみても、本特許発明の”月の投影器”によって達成されるような「月の観察」に耐えうる像を得ることはできないと思います。
甲第6号証のプレートに、月の「欠け際」や「三日月」を映してみると、確かに、それなりの像は映ります。見た人に、月の像が映るか、映らないかと聞けば、映ると答えると思います。しかし、それは、”拡大天体写真撮影装置”という製品
の存在目的から合理的に考えれば、一人の人が月の像をプレート上において構図的に捉えられる程度のものであり、本特許発明のように「複数の人が同時に観察可能」なものではないと考えられますし、むしろ、甲第6号証の記載から、本特許発明のように「複数の人が同時に観察可能」であるということを読み取ることはできません。
この点で、本特許発明の”月の投影器”では、そもそも「月の観察」という目的があるからこそ技術思想として「観察に十分な光量が得られる口径を有する大型天体望遠鏡」に用いるという構成を採用しているのであって、このような構成ゆえに、複数の人が同時に、月の「欠け際」や「三日月」も、投影により明るく十分に「観察」できる、という効果を発揮するものです。
次に、審判官殿は、仮に、甲第6号証のプレートに、観察に耐えうる像が映らなくても、甲第6号証のような製品を、本特許発明のような大型天体望遠鏡に用いることは容易で、大型天体望遠鏡に用いれば、本特許発明と同様の観察に耐えうる像が得られるのではないかというお考えも持たれているものと思います。
しかしながら、月の観察といえば、今までは、望遠鏡で直接観るか、或いは、写真撮影して観るかの2通りしか方法がなく、月の観察を「投影」により行う思想、発想が全くありませんでした。つまり、事実として、月を「投影」により観察しようとする学問自体がありませんでした。
従って、甲第6号証の利用者としては、プレートに構図やピントをとるための像が映っていれば満足で、それを大型望遠鏡に用いて「投影」により観察しようとする考えを持つことは全くありませんでした。本特許発明の発明者自身も、本特許発明を完成させる過程で従来の写真撮影装置を参考にしたことはありません。
大型天体望遠鏡の利用効率をどのよう高めて、大型天体望遠鏡産業を如何に発展させるかを考えた結果として、第3の方法としての「投影」による新たな月の観察方法を可能にする本特許発明(月の投影器)を創出しただけです。
確かに、本特許発明を知った後では、従来の写真撮影装置を大型天体望遠鏡に適用すれば、本特許発明を容易に得られるものと考えがちですが、前述のように、従来の写真撮影装置には「投影」により月を観察しようとする用途が全くなく、写真撮影装置(カメラ)の技術的延長線上に「投影して観察する」という技術思想を見出すことはできません。そのため、写真撮影装置を大型天体望遠鏡に適用すること自体が困難であると思います。また写真機であるが故に、内部に光量を制限する構造も設けられており、仮に、大型天体望遠鏡に適用しても、本特許発明のような「観察」を可能にする像が投影できるかどうかも不明です。事実、写真撮影装置を実際に大型天体望遠鏡に取付けた例として提出された口頭審理陳述要領書に添付の甲第4号証の9、10に致しましても、月に像がぼやけていて、明瞭に投影されているとは到底思えません。
以上説明しましたように、甲第6号証に代表される各証拠から、本特許発明を容易を発明することはできないと思います。そして、大型天体望遠鏡産業の発達に大変に有用である本件特許は、特許が維持されてしかるべきであると確信致します。
参考資料リスト
1「天体望遠鏡クラブ」第71頁
2「星空ガイド」第216頁
3「天体写真入門」第95頁
4「はじめての天体観察」第115頁
5「天体観測図鑑」第68頁 」
3.9 当審が通知した無効理由の概要
本件発明は、本願出願前に日本国内で頒布された刊行物である香川県が提出した甲第6号証に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるので、本件特許は特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものであり、同法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきものである。
4. 当審の判断
本件発明と、成立に争いのない甲第6号証に記載された発明を対比すると、甲第6号証の「拡大天体写真撮影装置」及び「大型プレート」は、本件発明の「筒形ハウジング」及び「スクリーン」に相当する。また、甲第6号証の拡大天体写真撮影装置は、シャッタを開放状態にすることができること及び光量を制限する絞りについては、光学技術常識として、光学系の視野を制限するようには設計しないことから、甲第6号証記載の拡大天体写真撮影装置において、写真撮影のための手段は、月の拡大投影観察をなんら妨げないと認められる。
従って、甲第6号証の拡大天体写真撮影装置も月を拡大投影できるものである。
そうすると、両者は、「天体望遠鏡の光束の取出口に、該天体望遠鏡とは反対側の端部である先端部が取出口より大径になっている筒形ハウジングを接続すると共に、該ハウジングの先端部にスクリーンを設置し、取出口から導いた光束を前記スクリーンに拡大して投影可能とした月の投影器。」において一致し、本件発明が、天体望遠鏡として「観察に十分な光量が得られる口径を有する大型天体望遠鏡」を用いるのに対し、甲第6号証に記載された発明はこの構成の記載がない点で相違する。
この相違について検討すると、甲第6号証記載の拡大天体写真撮影装置が取り付けられる天体望遠鏡は、口径が20cmであることを考慮すると、当該天体望遠鏡による月の像を拡大投影して観察するのに十分な光量が得られると認められる。
また、大口径の天体望遠鏡であればより光量を得られ観察に適していることは明らかであり、従って、天体望遠鏡として「観察に十分な光量が得られる口径を有する大型天体望遠鏡」を用いることは当業者が容易に想到できたことであり、上記相違点に特段の意義は認められない。
なお、上記上申書で、「月における「観察」とは、本特許発明の訂正明細書【0007】中の記載や、別紙に添付させた頂きました多くの参考資料からも分かりますように、月の「欠け際」や「三日月」の状態を観ることも意味しています。」と主張する点については、本特許発明が特に月の「欠け際」や「三日月」の状態を観ることを目的としている根拠はなく、また、そのための構成を甲第6号証記載の発明に比して特に有しているとも認められない。
また、本件特許発明が、「複数の人が同時に観察可能」であると主張する点についても、そのための構成を甲第6号証記載の発明に比して特に有しているとも認められない。
従って、上記上申書の意見は採用することができない。
5.結論
よって、本件発明は、請求人香川県が甲第1〜3号証に基づいて主張する無効理由及び請求人株式会社西村製作所が主張する無効理由を検討するまでもなく、本願出願前に日本国内で頒布された刊行物である香川県が提出した甲第6号証に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるので、本件特許は特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものであり、同法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきものである。
審判に関する費用については、特許法第169条第2項の規定で準用する民事訴訟法第61条の規定により、被請求人が負担すべきものとする。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2001-01-22 
結審通知日 2001-02-02 
審決日 2001-02-14 
出願番号 特願平5-293186
審決分類 P 1 112・ 121- Z (G02B)
最終処分 成立  
前審関与審査官 里村 利光  
特許庁審判長 森 正幸
特許庁審判官 高橋 三成
辻 徹二
登録日 1997-10-31 
登録番号 特許第2713858号(P2713858)
発明の名称 月の投影器  
代理人 大竹 正悟  
代理人 山内 康伸  
代理人 赤澤 一博  

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