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審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 F16D |
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管理番号 | 1040422 |
審判番号 | 審判1998-15026 |
総通号数 | 20 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 1991-03-12 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 1998-09-25 |
確定日 | 2001-05-18 |
事件の表示 | 平成 1年特許願第191854号「内拡式ドラムブレーキ」拒絶査定に対する審判事件[平成 3年 3月12日出願公開、特開平 3- 56723]について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
1.手続の経緯・本願発明 本願は、平成1年7月25日の出願であって、その請求項1に係る発明は、平成10年5月25日付け及び平成10年10月24日付け手続補正書によって補正された明細書及び図面の全記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1に記載された次のとおりのものと認める。(以下「本願発明」という) 特許請求の範囲 「1.回動側と共に回転するブレーキドラムを設け、このブレーキドラムの内側で、その軸心回りに一対の半円弧状のブレーキシューを配設し、互いに対向する両ブレーキシューの各一端側を固定側に設けたアンカーピンにそれぞれ係合させてこのアンカーピンの軸心回りに上記各ブレーキシューを回動自在とし、各ブレーキシューの各他端側間に長円形状のカムを介設し、このカムを上記固定側に回動操作可能に支承し、上記カムの軸心、ブレーキドラムの軸心及びアンカーピンの軸心を結ぶ仮想直線と上記カムの長軸とが一致するよう上記カムを非制動姿勢としたとき、このカムの各平坦面の全面に両ブレーキシューの各他端側の端部に形成された平坦なカム面が接触するようにし、上記カムの一方への回動でこのカムを上記仮想直線に対し傾斜するよう上記カムを制動姿勢としたとき、このカムの長軸方向の各端部の円弧面が上記各ブレーキシューの前記の平坦なカム面に係合して上記各ブレーキシューを拡開し、各ブレーキシューの外周面をブレーキドラムの内周面に摩擦係合させるようにした内拡式ドラムブレーキにおいて、上記長円形状のカムはその長軸方向の両端にある略半円の円弧面とその短軸方向の両端にある平坦なカム面とが角張らないようになめらかにつながれかつカムの軸心に対して対称形である基本形状を備え、上記カムの制動姿勢における上記両ブレーキシューのうちの一方のブレーキシューの前記の平坦なカム面に係合する上記アンカーピンから遠い側にある上記カムの係合部が、前記カムの基本形状の円弧面より上記の平坦なカム面側に向かって突出する前記基本形状の円弧面の曲率半径以下の曲率半径の凸状円弧面からなる突出係合面で構成され、前記突出係合面の凸状円弧面と前記一方のブレーキシューの前記の平坦なカム面に面するカムの平坦面とが角張らないようになめらかにつながれ、制動姿勢における前記一方のブレーキシューの前記の平坦なカム面の前記仮想直線に対する拡開量と、制動姿勢における前記他方のブレーキシューの前記の平坦なカム面の前記仮想直線に対する拡開量とがほぼ同じになることを特徴とする内拡式ドラムブレーキ。」 2.引用刊行物記載の発明 これに対して、原査定の拒絶の理由に引用された、本願の出願前である昭和54年7月12日に頒布された実願昭52-174928号(実開昭54-98980号)のマイクロフィルム(以下「引用例1」という。)及び同昭和51年5月14日に頒布された実願昭49ー135216号(実開昭51-61488号)のマイクロフィルム(以下「引用例2」という。)には、それぞれ次の事項が記載されている。 2-1 引用例1 (1)第2頁第13行〜第4頁第18行 「本考案によるリーデイング・トレーリング・シュー型内部拡張式ブレーキは、リーデイングシュー側カム応動面のブレーキカムが接当作用する部分と、トレーリングシュー側カム応動面のブレーキカムが接当作用する部分とのシュー応動中心からの距離が相異するも、この距離が相異することに起因した両シューの応動量の差を、カム応動面角部の曲率差をもって吸収してブレーキカムの回転に伴なう両シューの応動量を等しくしてあるので、両シューを等しく制動作用させて、片効を解消できる。 従って、本考案は、カム応動面の角部を所要曲率の曲面に形成するといった簡単な構造改良をもって、前記の問題を解消できて、確実、安全な制動作用を発揮し得るリーデイング・トレーリング・シュー型内部拡張式ブレーキを提供し得るに至った。 以下、本考案の実施例を図面に基づいて説明すると、ブレーキドラム(6)内の直径方向で対向する二箇所夫々に、ドラム内周面に沿った弓形状で、その外周面にライニング(A)が貼着されてあるシューを、その一端部をして、ドラム軸芯と平行で相近接する軸芯(O1)・(O2)周りに揺動自在に設けることにより、リーディングシュー(1)とトレーリングシュー(2)とを構成し、これらシュー(1)・(2)の揺動遊端側にドラム軸芯と平行な軸芯周りに回転操作されるブレーキカム(5)を設け、前記シュー(1)・(2)の揺動遊端部夫々に前記カム(5)の特定方向への回転に伴ないこのカム(5)に押圧されて、シュー(1)・(2)を外方、つまり、制動方向に同時に揺動させるカム応動面(3)・(4)を形成する第三部材(7)・(8)を取付け、かつ両シュー(1)・(2)間に亘って、これら両シュー(1)・(2)を非制動方向に揺動付勢するスプリング(9)を設けてあるリーデイング・トレーリング・シュー型内部拡張式ブレーキにおいて、前記カム(5)が同時に接当するカム応動面(3)・(4)の角部(3A)・(4A)の曲率(R1)(R2)に、シュー揺動軸芯(O1)・(O2)からの距離が短かい側の角部と距離が長い側の角部とのカム(5)の回転に伴なう各揺動軸芯周りで揺動移動量に差を付けて、両角部(3A)・(4A)の揺動軸芯(O1)・(O2)からの距離が相異するに拘わらず、両シュー(1)・(2)の応動変位量を同一にするような差を付けてある。 尚、カム応動面(3)・(4)の残る角部は、第三部材(7)・(8)を同一物とするために他方のカム応動面(4)・(3)の角部(4A)・(3A)と同一に構成してある。」 この記載事項及び第1図、第2図の記載を参酌すると当該引用例1には、 (1)ブレーキドラム(6)を設け、このブレーキドラム内の直径方向で対向する二箇所夫々に、ドラム内周面に沿った弓形状で、その外周面にライニング(A)が貼着されてあるシューを、その一端部をして、ドラム軸芯と平行で相近接する軸芯(O1)・(O2)周りに揺動自在に設けることにより、リーディングシュー(1)とトレーリングシュー(2)とを構成し、これらシュー(1)・(2)の揺動遊端側にドラム軸芯と平行な軸芯周りに回転操作されるブレーキカム(5)を設け、各シュー(1)・(2)を外方、つまり、制動方向に同時に揺動させるカム応動面(3)・(4)を形成する第三部材(7)・(8)を取付け、かつ両シュー(1)・(2)間に亘って、これら両シュー(1)・(2)を非制動方向に揺動付勢するスプリング(9)を設けてあるリーデイング・トレーリング・シュー型内部拡張式ブレーキにおいて、前記カム(5)が同時に接当するカム応動面(3)・(4)の角部(3A)・(4A)の曲率(R1)(R2)に、シュー揺動軸芯(O1)・(O2)からの距離が短かい側の角部と距離が長い側の角部とのカム(5)の回転に伴なう各揺動軸芯周りで揺動移動量に差を付けてあることで、両角部(3A)・(4A)の揺動軸芯(O1)・(O2)からの距離が相異するにも拘わらず、両シュー(1)・(2)の応動変位量を同一にする内部拡張式ブレーキ、 という技術事項(以下「引用例1記載の発明」という)が記載されているものと認められる。 2-2 引用例2 (1)第1頁第14行〜第2頁第6行 「この考案は内拡式ブレーキにおいて、対のブレーキシュが均等に作動するように改善したものに関する。 内拡式ブレーキにあっては対のブレーキシュの開きが等しくないので所謂片ぎきになると云う致命的な欠点があり、これを改善するために幾多の努力がなされている。例えば特公昭30-1504号公報で開示されているように、ブレーキシュを左右均等に押圧拡張せしむるに適すべくカムの内部摺動円弧面を一側に向って半径を漸次小ならしめて形成するのであるが、これに従うと上記問題点は解消できるとしても、ブレーキカムの加工が著しく困難である。」 (2)第4頁第10行〜第5頁第19行 「即ち、図示例では横断面真円形のアンカーピン(6)の径(B)を横断面扁平形のブレーキカム(11)のカム幅(C)よりも大きくすることによって、アンカーピン(6)に近い側に対の隙間(12)(12a)を形成したものであって、アンカーピン(6)とブレーキカム(11)の心間直線(L)に対して、図示の角度αおよびβがカム(11)の動きに対しブレーキシュ(4)(5)はα>βに関係になるように制動前は維持又は保持させ、カム(11)を矢印(A)方向に作動せしめて、ライニング部材(9)(10)がドラム(2)の内周面に最大に押付けられた時、α=βになるべくしたものである。 勿論、上記構成はこの考案の実施一例であって、次のような構成にすることが可能である。そのひとつはアンカーピン(6)の径(B)をブレーキカム(11)のカム幅(C)よりも大きくすることなく、ブレーキカム(11)の対向面(11a)(11b)即ち、カム面を内方つまり、アンカーピン(6)に向う従って漸次先細状のテーパー面にすることであり、この場合でも対向面(11a)のみをテーパー面にすることは自由である。 他の変形例は上記変形例が対向面(11a)(11b)をテーパー面にしたのに対し、ブレーキシュ(4)(5)の対向面(4a)(5a)をアンカーピン(6)に向うに従って漸次拡幅状のテーパー面にするものであり、この変形例の場合でも対向面(4a)のみをテーパー面にすることは自由であり、要するにこの考案ではブレーキシュ(4)(5)の対向面(4a)(5a)とブレーキカム(11)の対向面(11a)(11b)を平坦面となし、制動前にあってはカム(11)の作動方向と反対側のアンカーピン(6)に近い側に、少なくとも楔状の隙間(12)を形成したものである。」 この記載事項によると当該引用例2に記載される発明は、対のブレーキシュが均等に作動するように改善した内拡式ブレーキであって、 第1図を参酌するに、互いに対向する両ブレーキシューの各一端側をそれぞれその軸心回りに回動自在に係合するアンカーピン(6)に関し、ブレーキカム(11)の軸心、ブレーキドラム(2)の軸心及びブレーキカム(11)の長軸を結ぶ直線L上に、その軸心を持つ一本のピンであること、 また、ブレーキシュ(4)(5)の対向面(4A)(5A)とブレーキカム(11)の対向面(11A)(11B)を平坦面となし、制動前にあってはカムの作動方向と反対側のアンカーピンに近い側に、少なくとも楔状の隙間(12)を形成してなるものであるが、その実施例として、アンカーピンの径を横断面扁平形のブレーキカムのカム幅より大きくすることによるもの、ブレーキカムの対向面をアンカーピンに向かうにしたがって漸次先細状のテーパー面にすることによるもの、ブレーキシュの対向面をアンカーピンに向かうにしたがって漸次拡幅状のテーパー面にすることによるもの、また前記の各実施例でテーパー面を片面のみとすることによるもの等自由に採用できること、 等の技術事項が記載されているものと認められる。 3.対比 本願発明と、引用例1記載の発明とを対比すると、 本願発明における「ブレーキドラム」は、引用例1記載の発明における「ドラム(6)」に相当し(以下、同様。)、「一対の半円弧状のブレーキシュー」は、「ドラム内周面に沿った弓形状のリーディングシュー(1)とトレーリングシュー(2)」に、「両ブレーキシューの各一端」は、「その一端」に、「各ブレーキシューの各他端側」は、「シュー(1)・(2)の揺動遊端側」に、「アンカーピン」は、「揺動軸芯(01)・(02)」に、「カム」は、「ブレーキカム(5)」に、「カムの軸心」は、「ドラム軸芯と平行な軸芯」に、「各ブレーキシューのカム面」は「カム応動面(3)・(4)」に、及び「内拡式ドラムブレーキ」は、「内部拡張式ブレーキ」に夫々相当することは明らかである。 そして、本願発明も、引用例1記載の発明のいずれも車両制動用として用いられるドラムを用いたブレーキであって、両者のカムのいずれもが、回転中心で所定の角度範囲内で回転、すなわち揺動することで、ブレーキシューを作動させるものであることも明らかである。 したがって、本願発明と、引用例1記載の発明とを対比すると、その一致点と相違点は、次のとおりである。 [一致点] ブレーキドラムを設け、このブレーキドラムの内側で、その軸心回りに一対の半円弧状のブレーキシューを配設し、互いに対向する両ブレーキシューの各一端側をアンカーピンにそれぞれ係合させてこのアンカーピンの軸心回りに上記各ブレーキシューを回動自在とし、各ブレーキシューの各他端側間にカムを介設し、このカムを上記固定側に回動操作可能に支承し、上記カムを非制動姿勢としたとき、このカムの各面に両ブレーキシューの各他端側の端部に形成されたカム面が面接触するようにし、上記カムを制動姿勢としたとき、このカムと両ブレーキシューとが前記面接触状態から他の接触状態に移行して係合することにより上記各ブレーキシューを拡開し、各ブレーキシューの外周面をブレーキドラムの内周面に摩擦係合させるようにした内拡式ドラムブレーキにおいて、上記カムの制動姿勢におけるカムとブレーキシューとの接触位置(係合位置)のアンカーピンからの距離が両ブレーキシュー間で相違することに起因する両ブレーキシューの拡開量の差を、このカム機構を構成する要素(カム或いはブレーキシューのカム面)の輪郭に所要の曲率を形成することにより解消せしめるようにした内拡式ドラムブレーキ。 [相違点] (1)本願発明では、ブレーキドラムが回転側であり、アンカーピンが固定側であることが特定されているのに対して、 引用例1記載の発明ではブレーキドラムとアンカーピンのいずれが回転側或いは固定側であるかが明確でない点。 (2)互いに対向する両ブレーキシューの各一端側をそれぞれその軸心回りに回動自在に係合するアンカーピンに関して、 本願発明ではカムの軸心、ブレーキドラムの軸心及びカムの長軸を結ぶ仮想直線上に、その軸心を持つ一本のピンであるのに対して、 引用例1記載の発明では、仮想直線との関連記載はなく、二本の軸芯である点。 (3)カム形状に関して、 本願発明では「長円形状」であって、「前記形状のカムはその長軸方向の両端にある円弧面とその端軸方向の両端にある平坦なカム面とがカム軸心に対して対称形である基本形状を備えており」との特定がなされるのに対して、 引用例1記載の発明では、カム形状が「長円形状」をなすものか、また、基本形状がどのようなものかが明確ではない点。 (4)カムの各面と各ブレーキシューのカム面との接触状態に関して、 本願発明では、非制動姿勢としたとき、「このカムの各平坦面の全面に両ブレーキシューの各他端側の端部に形成されたカム面が接触するようにし、」とされ、制動姿勢としたとき、「このカムの長軸方向の各端部の円弧面が上記各ブレーキシューの平坦なカム面に係合して上記各ブレーキシューを拡開し、」とされるのに対して、 引用例1記載の発明では、どのような接触状態であるかが明確ではない点。 (5)カム機構を構成する要素(カム或いはブレーキシューのカム面)の 輪郭に所要の曲率を形成することに関して、 本願発明では、原動体たるカムであり、そしてこのカムは、制動姿勢における両ブレーキシューのうちの一方のブレーキシューの平坦なカム面に係合するアンカーピンから遠い側にあるカムの係合部が、カムの基本形状の円弧面より上記の平坦なカム面側に向かって突出する前記基本形状の円弧面の曲率半径以下の曲率半径の凸状円弧面からなる突出係合面で構成され、前記突出係合面の凸状円弧面と前記一方のブレーキシューの前記の平坦なカム面に面するカムの平坦面とが角張らないようになめらかにつながれている形状をもつものであるのに対して、 引用例1記載の発明では、従動体たる各ブレーキシューであり、そしてこれらの各ブレーキシューは、カムが同時に接当する平坦なカム応動面の角部の曲率に所要の差を設けたものであり、その曲率半径は、ブレーキシューの揺動軸芯からの距離が長い側の角部は曲率半径を小さく、ブレーキシューの揺動軸芯からの距離が短い側の角部は曲率半径を大きく形成してある点。 4.当審の判断 上記相違点について検討する。 4-1 相違点(1)ないし(4)について 本願発明も、引用例1記載の発明のいずれも車両制動用として用いられるドラムを用いたブレーキであり、回転を制動するためにブレーキドラムと接触するブレーキシューのいずれの一方を固定側とし、残る他方を回転側とするかは、従来より、部材配置、使用用途或いは求められる仕様等の各種要請に応じて、適宜決定されている。 よって、相違点(1)に係るブレーキドラムとブレーキシューを回転操作可能に支承するアンカーピンのいずれを回転側或いは固定側とするかによって、ブレーキの制動作用に格別な差異が生じるものではなく、この点は当業者が適宜採用し得た程度のことである。 次に、本願発明が有する相違点(2)に係る「カムの軸心、ブレーキドラムの軸心及びカムの長軸を結ぶ直線上に、その軸心を持つ一本のピンからなるアンカーピン構成」、相違点(3)に係る「カム形状」、及び相違点(4)に係る「カムの各面と各ブレーキシューのカム面との接触状態」に関しては、 引用例1の記載及び第1図及び第2図の記載を参酌するに、非作動姿勢にしたときに、カム(5)が同時に接当するブレーキシューのカム応動面(3)・(4)との関係においてカム(5)の短軸側端面が平坦面を形成しており、カム(5)の長軸側端面が円弧様形状をなしていること、更に、 引用例1の記載には、「カム(5)が同時に接当するカム応動面(3)・(4)」、「カム(5)の特定方向への回転に伴いこのカム(5)に押圧されて、シュー(1)・(2)を外方、つまり、制動方向に同時に揺動させるカム応動面(3)・(4)を形成する第三部材(7)・(8)を取付け」及び「両角部(3A)・(4A)の揺動軸芯(01)・(02)からの距離が相違するに拘わらず、両シュー(1)・(2)の応動変位量を同一にする」と記載されていることからして、カムの面と両シュー(1)・(2)とカム(5)が接当することが把握できることからして、刊行物1に記載された技術事項が備えているものであり、また、本願明細書中において、従来の内拡式ドラムブレーキ(1)の小型車両用ドラムブレーキ(特開昭56-160438号公報参照)として引用されるものに加えて、実願昭59-35225号(実開昭60-149536号)のマイクロフィルム等が存在するように従来周知のものでもあって、いずれの構成も当業者が採用するに格別困難なものとはいえず、それらにより得られる作用効果も当業者であれば容易に推察可能なものである。 4-2 相違点(5)について カム機構における所要の曲率を形成する構成要素が、本願発明がブレーキカムであるのに対して、引用例1記載の発明ではブレーキシューである点、及び、 本願発明におけるブレーキカムが、制動姿勢における両ブレーキシューのうちの一方のブレーキシューの平坦なカム面に係合するアンカーピンから遠い側にあるカムの係合部が、カムの基本形状の円弧面より上記の平坦なカム面側に向かって突出する前記基本形状の円弧面の曲率半径以下の曲率半径の凸状円弧面からなる突出係合面で構成され、前記突出係合面の凸状円弧面と前記一方のブレーキシューの前記の平坦なカム面に面するカムの平坦面とが角張らないようになめらかにつながれている形状をもつものである点、について検討する。 一般にカム機構において、従動体の動きを原動体たるカムの輪郭によって規制するか或いはカムと接触する従動体の輪郭によって規制するようにするかは、適宜選択し得ることであり、内拡式ドラムブレーキのブレーキカムとブレーキシューとの関係においても、同様に選択されていることが引用例2に記載されている。 すなわち、引用例2には、対のブレーキシュが均等に作動するように改善した内拡式ブレーキであって、ブレーキシュの対向面とブレーキカムの対向面を平坦面となし、制動前にあってはカムの作動方向と反対側のアンカーピンに近い側に、少なくとも楔状の隙間を形成してなる発明が記載されており、その実施例として、アンカーピンの径を横断面扁平形のブレーキカムのカム幅より大きくすることによるもの、ブレーキカムの対向面をアンカーピンに向かうにしたがって漸次先細状のテーパー面にすることによるもの、ブレーキシュの対向面をアンカーピンに向かうにしたがって漸次拡幅状のテーパー面にすることによるもの、また、前記の実施例でテーパー面を片面のみとすることによるもの等、自由に選択し得る旨、併せて記載されている。 してみると、ブレーキシューに所要の曲率を形成することに代えてブレーキカムに所要の曲率を形成することは、引用例2に記載された技術事項より容易に想到できることである。 また、引用例1記載の発明においては、ブレーキシューの揺動軸芯からの距離が長い側の角部の曲率と、ブレーキシューの揺動軸芯からの距離が短い側の角部の曲率に、シュー揺動軸芯からの距離が短い側の角部とと距離が長い側の各部とのカムの回転に伴う各揺動軸芯周りで揺動移動量に差を付けている。 このことは、制動姿勢における両ブレーキシューのうち、ブレーキカムと係合している角部の揺動軸芯からの距離が長い側であるブレーキシューの方が、ブレーキカムと係合している角部における移動量を、もう一方のブレーキシューのそれよりも相対的に大きくするものであるから、ブレーキシューに代えてブレーキカムにより上記の作用をさせようとする場合においては、本願発明のようにブレーキカムの円弧面に凸状円弧面からなる突出係合面を設けることにより達成し得ることは当業者が容易に想到し得る程度のことであり、その際凸状円弧面と平坦面とが角張らないようになめらかにつながれている形状とするようなことは、本願の出願前この種のカム機構において周知(例えば、特開昭53-4163号公報、特開昭56-160438号公報、実願昭59-35225号(実開昭60-149536号)のマイクロフィルム)の技術である。 各相違点については上記のとおりであり、また本願発明はその全体構成によっても各引用例記載の技術が有する効果を合わせた以上の格別な効果が期待できるものでもない。 5.むすび したがって、本願発明は、引用例1、引用例2に記載された発明及び周知の技術事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2001-03-07 |
結審通知日 | 2001-03-16 |
審決日 | 2001-03-29 |
出願番号 | 特願平1-191854 |
審決分類 |
P
1
8・
121-
Z
(F16D)
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最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 藤井 新也 |
特許庁審判長 |
酒井 進 |
特許庁審判官 |
和田 雄二 常盤 務 |
発明の名称 | 内拡式ドラムブレーキ |
代理人 | 小宮 雄造 |