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審決分類 審判 全部無効 1項2号公然実施 無効としない D21H
審判 全部無効 4項(5項) 請求の範囲の記載不備 無効としない D21H
審判 全部無効 2項進歩性 無効としない D21H
管理番号 1040838
審判番号 審判1995-5618  
総通号数 20 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 1991-07-29 
種別 無効の審決 
審判請求日 1995-03-15 
確定日 1996-04-03 
事件の表示 上記当事者間の特許第1865936号発明「熱接着紙シート」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。 
理由 I. (本件発明)
本件特許第1865936号(以下、「本件特許」という。)は、平成2年8月7日(優先権主張1989年8月8日、日本国)に出願され、平成5年10月27日に出願公告(特公平5-77800号公報参照)され、平成6年8月26日に設定の登録がされたものであり、明細書の請求項1乃至請求項8には次の発明が記載されている。
「1.温湿度の変化によってその凹凸の大きさが変わる凹凸をクレープ加工またはエンボス加工によって設けたスチーム通過性の紙シート材の一面に、熱可塑性で感熱収縮性の感圧接着剤の層を設けてスチームアイロンの使用による接着を可能とした熱接着紙シート。
2.請求項1の記載において、クレープ加工のクレープ率を5〜100%とした熱接着紙シート。
3.請求項1の記載において、エンボスの版の深さをシート厚さの1/2〜50倍とした熱接着紙シート。
4.請求項1の記載において、温湿度の変化によってその凹凸の大きさが変わる凹凸の深さが紙シート材の厚みの1/2〜50倍である熱接着紙シート。
5.請求項1の記載において、スチーム通過性の紙シート材が疎水性感熱収縮繊維そのものの不織布、または、疎水性感熱収縮繊維を5%以上混抄した紙材である熱接着紙シート。
6,請求項1の記載において、スチーム通過性の紙シート材が木材パルプと疎水性感熱収縮繊維の混抄の裏打紙を設けた合成樹脂シートである熱接着紙シート。
7.請求項1の記載において、熱可塑性で感熱収縮性の感圧接着剤が融点が60℃〜150℃であり、10〜100μmの層厚に形成されている熱接着紙シート。
8.クレープ加工またはエンボス加工によって表面に温湿度の変化によってその凹凸の大きさが変わる凹凸を設けたスチーム通過性の紙シート材の一面に、熱可塑性で感熱収縮性の感圧接着剤の層を設け、且つ、他面に織布、編布、不織布、耐熱性合成樹脂薄皮、コルクあるいは木材の薄皮、皮革、金属箔等の被覆材を張り合わせたスチームアイロンの使用による接着を可能とした熱接着紙シート。」
II.(請求人の主張)
これに対し、請求人は、「特許第1865936号の特許を無効とする。審判費用は被請求人の負担とする。」との審決を求め、その理由として、次の2つの理由をあげ、証拠方法として甲第1号証乃至甲第12号証及び検甲第1号証を提出している。
(無効理由1)
本件特許の請求項1乃至請求項8に記載された発明は、いずれも甲第1号証乃至甲第6号証に記載された発明及び甲第7号証の日本国内において公然知られ公然実施をされた発明に基づき当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、その特許は同法第123条第1項第1号により無効とすべきである。
そして、請求人は、上記の理由を証明するために以下の証拠方法を提出している。
甲第1号証
特開昭56-26098号公報
甲第2号証
特開昭56-26100号公報
甲第3号証
実公昭54-2242号公報
甲第4号証
実公昭38-14404号公報
甲第5号証
実開昭51-124102号公報
甲第6号証
実公昭63-50320号公報
甲第7号証
サンコー工業株式会社製「アイロン襖紙」品番131「ピクニック」
甲第8号証
サンコー工業株式会社製「アイロン襖紙」品番131「ピクニック」の掛紙
甲第9号証
サンコー工業株式会社製「アイロン襖紙」パンフレット
甲第10号証
株式会社大阪サンコーの審判請求人宛 昭和63年6月1日付 見積書
甲第11号証
株式会社大阪サンコーの審判請求人宛 平成1年2月25日付 納品書
甲第12号証
サンコー工業株式会社(代表取締役 佐古田瑞夫)の甲第7号証「アイロン襖紙」品番131「ピクニック」に関する「アイロン襖紙」についての陳述書
検甲第1号証
サンコー工業株式会社製「アイロン襖紙」品番131「ピクニック」製品
(無効理由2)
本件特許は、特許法第36条第4項に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであり、その特許は同法第123条第1項第3号により無効とすべきであるとして、概ね次の(A)及び(B)を根拠として挙げている。
[根拠(A)]
請求項1及び請求項8においては、凹凸の深さを限定していないが、発明の詳細な説明の実施例1のエンボスロール版の深さを50μmで加工したもの、及び実施例2のクレープ率4%の凹凸を設けたものでは、スチームアイロンを使用した場合でも熱圧部と未熱圧部の境界に皺の発生したことが明示されているから、発明の詳細な説明に記載された作用を奏し、効果を奏するためには凹凸の深さを限定する必要がある、また、接着時及び接着後も紙シート材の皺の発生を防止することを目的としているものであり、そのためには、シートの凹凸部の谷部の裏側が接着されるような凹凸深さを限定する必要がある。
[根拠(B)]
請求項2乃至請求項4は凹凸を形成するクレープ加工のクレープ率又はエンボス加工のエンボス 版及び形成された凹凸の深さを限定しているが、これ等の数値の限定の意義は発明の詳細な説明には開示されておらず、実施例の記載からは数値の臨界的意義も確認できない。
更に、クレープ加工やエンボス加工を施した後は紙シート材の復元力が働き、クレープ加工機やエンボス版の深さより浅い凹凸となるのが常識であり、復元力は紙シートの素材によって異なるものであるから、かかる数値より構成を特定し、その作用効果を推測できるものではない。
そして、請求項4において、凹凸の深さは紙シート材の厚みの50倍が最大値であるとしているが・例えば障子紙や襖紙では紙シート材の厚さは100μm〜300μm程度であるから、その50倍といえば、実施例1の場合では7.5mm(紙シートの厚さ150μm)となり、1mmにも至らない厚みのシートに7.5mmもの深さの凹凸が形成されたものをスチームアイロンで押圧して接着した場合に、本件特許発明の効果を達成できるものか発明の詳細な説明に記載された実施例のみでは推測し難い。
III.(被請求人の主張)
一方、被請求人は、結論と同趣旨の審決を求め、請求人の主張は理由がないものである旨答弁している。
そして、被請求人は、以下の証拠方法を提出している。
乙第1号証
本件特許発明と甲第1号証乃至甲第7号証を比較した一覧表
乙第2号証
金沢地方裁判所平成六年(ヨ)第二○五号
特許権侵害禁止仮処分命令申立事件において審判請求人側が疎乙第二一号証として提出したサンコー工業株式会社作成の「アイロン貼り襖紙についての陳述書」
乙第3号証
金沢地方裁判所平成六年(ヨ)第二○五号
特許権侵害禁止仮処分命令申立事件において審判請求人側が疎乙第四号証として提出した「成績書」
IV.(当審の判断)
そこで、請求人が主張する無効理由1,2について検討する。
(無効理由1について)
1-(1)
請求人が提出した甲第1号証乃至甲第6号証には、各々次の技術事項が記載されている。
甲第1号証
「木材パルプ層上に、平均繊維長0.2〜1.4mm、太さ20〜50μより成る合成パルプを木材パルプに混抄した混抄層を抄き合わせ、かつ合成パルプの重量比が全木材パルプに対し3〜20%である2層抄き合せ原紙上に、インキ画像を形成し、次いで透明コート剤を塗布形成した後、エンボスロールにてエンボス加工を施して成る紙壁紙。」(特許請求の範囲の記載参照)が図面とともに記載されている。
甲第2号証
「平均繊維長0.8〜1.4mm、太さ20μ〜50μより成る合成パルプを重量比で3〜20%、木材パルプに混抄して成る原紙上に、インキ画像を形成し、次いで透明コート剤を塗布形成した後、エンボスロールにてエンボス加工を施して成る紙壁紙。」(特許請求の範囲の記載参照)が記載されている。
甲第3号証
「裏打ち紙の表面に合成樹脂層を設け、該裏打ち紙の裏面に再湿糊層を設けてなる再湿壁紙において、少なくとも裏打ち紙の裏面が凹凸形状を有し該裏打ち紙の裏面凸部に再湿糊層を設けてなる再湿壁紙。」(実用新案登録請求の範囲)が図面とともに記載されており、同壁紙は「少なくとも裏打ち紙1の裏面が凹凸形状を有し、しかもその裏打ち紙1の裏面凸部に再湿糊層3を設けたものであるから、従来の再湿壁紙のように、水の吸収が再湿糊層3のみに限らず、裏打ち紙1にもある為、長時間水中に浸漬したり、繰り返し水中に浸漬する必要がなく、しかも従来の再湿壁紙に比し、再湿糊剤量が少量でよい利点がある。」(公報第3欄第38行目〜第4欄第38行目)との記載がある。
甲第4号証
「酢酸ビニール系樹脂エマルジョン(感熱接着剤)を主体とし、これにC.M.Cを混和したエマルジョンを壁、襖紙1の裏面に塗布乾燥して層2を形成し、熱かけによって貼着する壁、襖紙。」(実用新案登録請求の範囲)が記載されている。
甲第5号証
「壁面等の内装用シートの裏面に、加熱することにより一時的に軟化して良好な粘着性を示す熱賦活性接着剤層(感熱接着剤層)を設けてなる内装材。」(実用新案登録請求の範囲)が記載されている。
甲第6号証
「障子紙原紙の片側に80〜100℃の温度域で溶融接着性を示す低融点樹脂層(感熱接着剤層)を設け、 さらに同低融点樹脂層上に滑り剤の極薄層を設けて成る熱接着障子紙。」(実用新案登録請求の範囲)が記載されている。
そこで、まず本件特許の請求項1に記載された発明と上記甲第1号証乃至甲第6号証に記載された技術とを対比すると、
本件特許の請求項1に記載された発明は、その請求項1に記載されるように「温湿度の変化によってその凹凸の大きさが変わる凹凸をクレープ加工またはエンボス加工によって設けたスチーム通過性の紙シート材の一面に、熱可塑性で感熱収縮性の感圧接着剤の層を設けてスチームアイロンの使用による接着を可能とした熱接着紙シート。」であって、その明細書に記載されるような「熱接着紙シートの接着時において、広いシートの一部分をアイロンで加熱したときに、熱圧部の平面方向の収縮が凹凸部の高さ方向の収縮に吸収されて、シートに皺が発生することがない。」という作用効果を奏するためには、「凹凸を設けたスチーム通過性の紙シート材」と、その一面に設けられる接着剤の層が「熱可塑性で感熱収縮性の感圧接着剤の層」であることとが一体不可分の構成であることが必要で、これを分離して論ずることができない。すなわち、本件特許の請求項1に記載された発明は、「クレープ加工またはエンボス加工によって凹凸を設けたスチーム通過性の紙シート材の一面に、熱可塑性で感熱収縮性の感圧接着剤の層を設ける」ことによって始めて上記明細書記載の作用効果を奏するようになるものである。
これに対し、甲第1号証に記載された紙壁紙は「通気性を有しエンボス加工により凹凸が設けられているが、同紙壁紙には熱可塑性で感熱収縮性の感圧接着剤の層が設けられてなく、また、同号証には、それを示唆する記載もない。
また、甲第2号証に記載された紙壁紙も甲第1号証のものとほぼ同様に、通気性を有しエンボス加工により凹凸が設けられているが、同紙壁紙には熱可塑性で感熱収縮性の感圧接着剤の層が設けられてなく、また、同号証には、それを示唆する記載もない。
また、甲第3号証に記載された再湿壁紙は、裏打ち紙の表面に合成樹脂層が設けられており、スチーム通過性のないことが明かであり、その一面に設けられる接着剤の層も再湿糊剤層であり、裏打ち紙にはエンボス加工によって設けられた凹凸を有するものの、この凹凸は前記再湿接着剤の再湿を良くするためのものである。
また、甲第4号証に記載された壁、襖紙は、その一面に熱かけによって貼着することができるエマルジョン層(感熱接着剤層)が設けられているものの、同壁、襖紙はクレープ加工またはエンボス加工によって設けられた凹凸を有していない。
また、甲第5号証に記載された内装材は、内装用シートの裏面に加熱することにより一時的に軟化して良好な粘着性を示す熱賦活性接着剤層(感熱接着剤層)が設けられているものの、同内装材はクレープ加工またはエンボス加工によって設けられた凹凸を有していない。
また、甲第6号証に記載された熱接着障子紙は、障子紙の一面に低融点樹脂層(熱接着剤層)が設けられているものの、同障子紙はクレープ加工またはエンボス加工によって設けられた凹凸を有していない。
以上、検討した如く、甲第1号証乃至甲第6号証に記載されたものは「クレープ加工またはエンボス加工によって凹凸を設けたスチーム通過性の紙シート材の一面に、熱可塑性で感熱収縮性の感圧接着剤の層を設ける」構成を有していない。
これに対して、本件特許の請求項1に記載された発明は、上記の構成を有することによって、上記したような特有の作用効果を奏するものである。
したがって、本件特許の請求項1に記載された発明は、 甲第1号証乃至甲第6号証に記載されたものに基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとすることができない。
また、請求項2乃至請求項7に記載された発明は、請求項1を引用するものであり、請求項1に記載された発明が、上述のように甲第1号証乃至甲第6号証に記載されたものに基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとすることができないので、請求項2乃至請求項7に記載された発明も、甲第1号証乃至甲第6号証に記載されたものに基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとすることができない。
また、請求項8に記載された発明も、請求項1に記載された発明と同様に「クレープ加工またはエンボス加工によって凹凸を設けたスチーム通過性の紙シート材の一面に、熱可塑性で感熱収縮性の感圧接着剤の層を設ける」点を必須構成要件としているものであり、この点は上述のように甲第1号証乃至甲第6号証に記載されたものに基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとすることができないので、請求項8に記載された発明も、甲第1号証乃至甲第6号証に記載されたものに基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものとすることができない。
1-(2)
次に、請求人が主張するように本件特許の請求項1乃至請求項8に記載された発明が、本件の出 願前に日本国内において公然知られ公然実施をされた発明に基づき当業者が容易に発明をすることができたものであるか否かについて検討すると、
甲第7号証について請求人は、サンコー工業株式会社製「アイロン襖紙」品番131「ピクニック」であると述べているが、同号証は、アイロンで貼るふすま紙の商品外観写真であり、同写真には「アイロンで貼るふすま紙」、「品番131」、「ピクニック」という記載のみが認められるだけであり、この「アイロンで貼るふすま紙」が、どこの製品なのか、また、どのような構造になっているのか不明である。
また、 甲第8号証の掛紙には「アイロンで貼るふすま紙」、「品番131」、「ピクニック」と印刷されていて、品質表示の枠内には「材料:上質紙120g,印刷:水性インキ,裏糊:熱接着性樹脂,表面:擾水加工,表示者 サンコー工業(株)」と印刷されていて、特長の枠内には「・・・▲2▼熱接着なので、手軽に貼れる。(手や服、床等を汚しません)▲3▼少ない道具で、誰にでも貼れる。(カッター、定規、アイロン)・・・)と印刷されていて、更に最下部には「ロッド表示」が印刷されていて上段の番号「6」と下段の英字「G」にパンチ穴があけられている。
また、甲第9号証のパンフレットには種々の品番の襖紙が載っていて、その中に「品番131ピクニック」が載っている。
また、甲第10号証の見積書の写しには、「品名アイロンふすまがみ 品番No121〜133」のものが載っている。
また、甲第11号証について請求人は、納品書と述べているが、同号証は、売上伝票(控)の写しであり、そこには、「種類アイロン襖 品名ピクニック 品番131」が載っている。
また、検甲第1号証について請求人は、サンコー工業株式会社製「アイロン襖紙」品番131「ピクニック」製品と述べているが、同襖紙は、エンボス加工により凹凸が設けられており、その一面に熱接着剤層が設けられていることが確認できるものの、どこの製品なのか、また、何という製品なのか不明である。
以上、請求人が提出した甲第7号証乃至甲第11号証から襖紙の構成が分かるのは、甲第8号証及び甲第9号証であり、そこには「襖紙の裏糊として熱接着性樹脂が使われていて、アイロンで貼れる」ことが示されているものの、同襖紙にクレープ加工またはエンボス加工によって凹凸が設けられていることについては何ら示されていない。
また、請求人が検甲第1号証として提出した襖紙はエンボスにより凹凸が設けられており、その一面に感熱接着剤層が設けられているものの、この検甲第1号証の襖紙と甲第7号証乃至甲第11号証に示されている襖紙とが同一の構成を有するものと同甲第7号証乃至甲第11号証からは確認することができないので、この検甲第1号証の襖紙がいつ頃から存在したのか不明である。
また、請求人は、平成7年6月6日付けで審判証拠補充書で甲第12号証(被請求人が乙第2号証として提出したものと同一)として、「サンコー株式会社(代表取締役 佐古田 瑞夫)の甲第7号証「アイロン襖紙」品番131「ピクニック」に関する「アイロン襖紙」についての陳述書」を提出して、甲第7号証の「アイロン襖紙」品番131「ピクニック」は、その構成として、エンボスにより凹凸が設けられていて、裏糊に熱可塑性で感熱溶融性接着剤を全面にコーティングしていて、昭和63年4月上旬より発売開始しており、製造記号として、商品に各々添付されている商品ラベルにはその商品が製造された時期を表示する製造記号が付されていて、その上段の数字は製造した年(西暦)の末尾を表わし、下段の英数はその年の月を表わすものでありそれぞれの数字および英字上にパンチ穴があけられており、その位置から製造年月がよみとれる、と述べている。
そこで、この製造記号が付されている商品ラベルである甲第8号証の掛紙についてみると、同掛紙には、その上段の数字「6」と下段の英字「Gにパンチ穴があけられているので、この掛紙は本件審判請求が「平成7年(西暦1995年)3月15日」であることから、それ以前の「西暦1986年(昭和61年)7月」以前のものとなるが「西暦1986年(昭和61年)7月」は、甲第12号証の陳述書で「昭和63年上旬より販売開始した」と述べていることと符合しないので、この甲第8号証の掛紙(この掛紙に包装されていた襖紙も含め)が、いつ製造されたか不明である。
そして、甲第12号証の陳述書は、このように矛盾する曖昧なところがあるので、そこに陳述している「甲第7号証の「アイロン襖紙」品番131「ピクニック」は、その構成として、エンボスにより凹凸が設けられていて、裏糊に熱可塑性で感熱溶融性接着剤を全面にコーティングしていて、昭和63年4月上旬より発売開始している」などの陳述内容も信憑性に乏しい。
したがって、請求人の提出した甲第7号証乃至甲第12号証及び検甲第1号証から本件特許の請求項1乃至請求項8に記載された発明が、本件の出願前に日本国内において、公然知られ公然実施をされた発明であるとも、また、それに基づいて当業者が容易に発明をすることができたものともすることができない。
1-(3)
更に、請求人が提出した甲第1号証乃至甲第12号証及び検甲第1号証の全体から判断しても、本件特許の請求項1乃至請求項8に記載された発明が、それらに基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとすることができない。
(無効理由2について)
2-(1)
請求人が、本件特許は、特許法第36条第4項に規定する要件を満たしていないとして、挙げている、まず根拠(A)について検討すると、
本件特許明細書の発明の詳細な説明の実施例1の比較例のロ-1及びロ-2は、深さが50μmのエンボス版では紙に凹凸を設けることができないことを示すものである。このことは、被請求人が提出した乙第3号証の「成績書の写し」によって裏付けられている。すなわち、乙第3号証によれば、▲1▼糸入り用裏打紙原紙は紙厚が140μmで裏面の表面凹凸量が66μmである。
もともと50μm以上の表面凹凸量を有する原紙(本件特許発明では紙の厚さ150μm、乙第3号証の「成績書の写し」によれば紙の厚さ140μm)に深さ50μmのエンボスロール版でエンボス加工をしても凹凸を設けることはできない。つまり本件特許明細書の比較例のロ-1及びロ-2は、50μmのエンボスロール版でエンボス加工を施しているが、結果明確な凹凸が設けられなかった紙シートであり、この紙シートが接着後において温湿度の変化による伸縮を吸収しないことは当然のことである。
また、同明細書の発明の詳細な説明の実施例2中の「クレープ率4%」である比較例は、結果明確な凹凸が設けられなかった紙シートである。その理由はクレープ率4%の紙シートは、紙製造時において湿紙が乾燥する際に湿紙の収縮によりクレープによる凹凸が消失するからである。
したがって、凹凸の深さに限定はないが、その深さは、本件特許発明の作用効果が奏される程度のものであり、請求人が主張するように本件特許の請求項1及び請求項8に記載された発明は、その発明の詳細な説明に記載したものとは認められないような発明ではなく、また必須構成要件を欠いた発明でもない。
2-(2)
次に、同じく根拠(B)について検討すると、
請求項2で、クレープ加工のクレープ率を5〜100%と限定したのは、本件特許明細書の実施例2の比較例との関係であり、また、請求項4で、凹凸の深さが紙シート材の厚みの1/2〜50倍と限定したのは、同じく実施例1の比較例との関係であって、本件特許発明が、その明細書に記載されている作用効果を奏する範囲を特定したものであるから、これらの数値限定の臨界的意義が確認できないとして、本件特許の請求項2及び請求項4に記載された発明が、その明細書の発明の詳細な説明に記載されたものでないとすることはできない。
更に、請求人は、クレープ加工やエンボス加工を施した後は紙シート材の復元力が働き、クレープ加工機やエンボス版の深さより浅い凹凸となるのが常識であり、復元力は紙シートの素材によって異なるものであるから、かかる数値より構成を特定し、その作用効果を推測できるものではない、と主張しているが、そのクレープ加工機やエンボス版の凹凸の数値は、あくまでも同クレープ加工機やエンボス版によって紙シート材に凹凸が施された後の紙シート材がスチームアイロンの使用により熱圧部と未熱圧部の境界に皺が発生しなくなるようなクレープ加工機やエンボス版の凹凸の数値範囲を特定したものと認められ、また、請求項4において、凹凸の深さを最大値である紙シート材の50倍とした場合に実施例1の場合では7.5mm(紙シートの厚さ150μm)となり、スチームアイロンで押圧して接着した場合に、本件特許発明の作用効果を達成できるものか、その発明の詳細な説明に記載された実施例のみでは推測し難い、と主張しているが、この凹凸の大きさは、紙シート材がスチームアイロンの使用により熱圧部と未熱圧部の境界に皺が発生しなくなるような凹凸の数値範囲を特定したものと認められるので、これらの点も特許法第36条第4項に規定する要件を満たしていないとすることができない。
V.(むすび)
したがって、審判請求人が主張する理由及び提出した証拠方法によっては、本件特許を無効とすることはできない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 1996-01-18 
結審通知日 1996-01-30 
審決日 1996-02-09 
出願番号 特願平2-209799
審決分類 P 1 112・ 532- Y (D21H)
P 1 112・ 121- Y (D21H)
P 1 112・ 112- Y (D21H)
最終処分 不成立  
特許庁審判長 小原 英一
特許庁審判官 河合 厚夫
久保田 健
登録日 1994-08-26 
登録番号 特許第1865936号(P1865936)
発明の名称 熱接着紙シート  
代理人 清原 義博  
代理人 宮田 正道  

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