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審決分類 審判 全部無効 1項1号公知 訂正を認めない。無効とする(申立て一部成立) G09F
審判 全部無効 特36 条4項詳細な説明の記載不備 訂正を認めない。無効とする(申立て一部成立) G09F
審判 全部無効 2項進歩性 訂正を認めない。無効とする(申立て一部成立) G09F
管理番号 1040936
審判番号 審判1998-35387  
総通号数 20 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 1990-07-30 
種別 無効の審決 
審判請求日 1998-08-25 
確定日 2001-06-20 
事件の表示 上記当事者間の特許第2105678号「磁気泳動表示パネル」の特許無効審判事件についてされた平成11年 1月25日付け審決に対し、東京高等裁判所において審決取消の判決(平成11(行ケ)年第0067号平成12年10月11日判決言渡)があったので、さらに審理のうえ、次のとおり審決する。 
結論 特許第2105678号の請求項1、3に係る発明についての特許を無効とする。 特許第2105678号の請求項2に係る発明についての審判請求は、成り立たない。 審判費用は、その3分の1を請求人の負担とし、3分の2を被請求人の負担とする。 
理由 一.手続の経緯・本件発明の要旨
一-1.手続の経緯
本件特許第2105678号発明に係る出願は、平成1年1月23日に出願され、平成8年1月29日における出願公告を経て、本発明は平成8年11月6日に特許の設定の登録がなされたものである。
その後、平成10年8月25日に本件特許に対して特許の無効の審判が請求され、平成10年11月27日付けで訂正請求され、平成11年1月25日、「訂正を認める。本件審判の請求は、成り立たない。」とする審決がなされたところ、東京高等裁判所において審決取消の判決(平成11年(行ケ)第67号、平成12年10月11日判決言渡)があったので、本件についてさらに審理をし、平成13年1月12日付けで訂正拒絶理由を通知し、期日を指定して意見書を提出する機会を与えたが、被請求人からは何らの応答はなかった。

一-2.訂正の可否に対する判断
平成10年11月27日付けの訂正請求書の訂正事項について検討すると、訂正明細書の請求項1に係る発明は、刊行物1(特公昭59-31710号公報)に記載の発明であって特許法第29条第1項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものであるから、この訂正は平成11年法律第41号による改正前の特許法第134条第5項で準用する同法第126条第4項の規定に適合しないので、当該訂正は認められない。

一-3.本件発明の要旨
(1)本件発明
本件発明は、特許明細書及び図面からみて、その特許請求の範囲に記載されたとおりの、
「【請求項1】 2枚の基板間を多セル構造となし、このセル内に磁性粒子と、分散煤と、着色剤と、所望により増稠剤とから成る分散液体を封入した磁気泳動表示パネルにおいて、
(A)粒子径として10〜150μmのものが90重量%以上であり、
(B)見掛密度が0.5〜1.6g/cm3であり、
(C)飽和磁化が40〜150emu/gである磁性粒子
を用いることを特徴とする磁気泳動表示パネル。
【請求項2】 磁性粒子が、水素還元法で作られた多孔質黒色酸化鉄である請求項1の磁気泳動表示パネル。
【請求項3】 磁性粒子が、樹脂被覆された磁性粒子である請求項1の磁気泳動表示パネル。」
にあるものと認められる。

二.当事者の主張及び証拠方法
二-1.審判請求人の主張及び証拠方法
二-1-1.審判請求人の主張
審判請求人の主張は、要するに、次のとおりである。
(イ)本件特許の請求項1に係る発明は、その出願の日前に公知の甲第1号証(特公昭59-31710号公報)に記載された発明であり、その特許は特許法第29条第1項第1号の規定に違反してなされたものである。
(ロ)本件特許の請求項1に係る発明は、その出願の日前に公知の甲第1号証(特公昭59-31710号公報)に記載された発明から当業者が容易に想到できる程度のものに過ぎないので、その特許は特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものである。
(ハ)請求項2に係る発明は、明細書の記載からはその発明を実施することができないので、その特許は特許法第36条第4項に規定する要件を満たしていない出願に対してされたものである。
(ニ)請求項3に係る発明はその出願の日前に公知の甲第1号証(特公昭59-31710号公報)及び甲第2号証(特公昭51-10959号公報)に記載された発明から当業者が容易に想到できる程度のものに過ぎないので、その特許は特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものである。
(ホ)また、請求項3に係る発明は、明細書の記載からはその発明を実施することができないので、その特許は特許法第36条第4項に規定する要件を満たしていない出願に対してなされたものである。

二-1-2.証拠方法
(1)甲第1号証 特公昭59-31710号公報
(2)甲第2号証 特公昭51-10959号公報
(3)甲第3号証 特公昭57-27463号公報
(4)甲第4号証 特公昭57-46439号公報
(5)由第5号証 特開昭53-21945号公報
(6)甲第6号証 特公昭59-47676号公報
(7)甲第7号証 特公昭62-53359号公報
(8)甲第8号証 米国特許第5,151,032号明細書
(9)甲第9号証 標準ふるい比較表「粒体工業通論」(日刊工業新聞社発行)第233頁抜粋」
(10)甲第10号証 戸田工業株式会社報告書
(11)甲第11号証 「実用化学辞典」(朝倉書店発行)第273頁抜粋
(12)甲第12号証の1 「改訂電気材料」(コロナ社発行)第199頁、第200頁抜粋
(13)甲第12号証の2 東都化成株式会社報告書
(14)甲第12号証の3 ゴーセノールの特性報告書
(15)甲第12号証の4 三菱レイヨン株式会社製品カタログ
(16)甲第13号証 同和鉄粉工業株式会社製品カタログ
(17)甲第14号証 「最新磁気解析・遮蔽設計と磁性応用技術」(総合技術センター発行)第260頁抜粋
(18)甲第15号証 「電子材料シリーズフェライト」(丸善発行)第163頁抜粋
(19)甲第16号証 試験結果報告書

二-1-3.甲各号証記載事項
(1)甲第1号証:特公昭59-31710号
甲第1号証は、磁気力利用の表示装置セットを開示するものであり、以下の記載が認められる。
(1)-1.第1頁第1欄第27行〜第30行に、
「磁性微粒子と分散媒と微粒子増穂剤と、所望により着色剤とから成る降伏値5dyne/cm2以上の塑性分散液体を2枚の基板間に封入した磁気パネル」と記載されている。
第3頁第6欄第20行〜第33行に、
「貫通した個々の独立したセルを有する板の片面に基板を貼った後、各セル中に塑性分散液体を封入し、その後他面に基板を貼って磁気パネルを作る」と記載されている。
(1)-2.第2頁第4欄第36行〜第37行に、
「磁性微粒子の大きさは、直径10ミクロン以上がよい。」と記載されている。
第4頁第8欄第42行〜第5頁第10欄第43行に、
塑性分散液体の配合例が1〜12例開示されており、その配合例において、磁性微粒子の大きさは100〜325メッシュ及び100〜250メッシュの範囲内であることが示されている。
(1)-3.第5頁第9欄第5行〜第10行に、
「トダカラーKN-320(戸田工業(株)製のマグネタイト)40部とエポトートYD-017(東都化成(株)製の固形エポキシ樹脂)の40%メチルエチルケトン溶液25部を練合し、これを乾燥、粉砕、分散して100〜325メッシュの黒色の磁性微粒子30部を得た。」(配合例1)と記載されている。
上記の磁性微粒子は、配合例1だけではなく、配合例2〜6,8,12でも使用されている。
(1)-4.第2頁第3欄第36〜41行に、
「全くぼけがない鮮明でコントラストの高い文字、模様の表示ができい、その表示は長時間安定に保持することができ、かつ消去する際は、汚れを残さずきれいにその表示を消し去れる磁気パネルが得られることを見出したのである。」と記載されている。

(2)甲第2号証:特公昭51-10959号
甲第2号証は、表示方法を開示するものであり、以下の記載が認められる。
第2頁第3欄第32行〜第35行に、
「従って比重の重い磁性粉に、比重.の軽い樹脂やろうなどの物質を被覆して見せかけ比重の軽い磁性粒子とし、分散煤の比重と一致させることが望ましい。」と記載されている。

(3)甲第3号証:特公昭57-27463号
甲第3号証は磁気泳動表示法を開示するものであり、以下の記載が認められる。
(3)-1.第2頁第3欄第38行〜第43行に、
「第1図示の装置では、透明な表面板1と透明または不透明な裏面板2(透明なものはプラスチック、ガラスなど、不透明なものは金属など)と磁性粒子3を分散した塑性流動性液体4を封入し、表面板1に垂直に仕切り5を設けてある。」と記載されている。
(3)-2.第1頁第2欄第15行〜第2頁第3欄第22行に、
「磁性粒子の分散媒として塑性流動性液体を用いる。塑性流動性液体に、増穂剤や着色性や陰べい力を与え磁性粒子とのコントラストを高める染料、顔料を添加する。」といった内容の記載がある。
(3)-3.第3頁第5欄第18行〜第23行に、
「トダカラーKN320(戸田工業(株)製のマグネタイト)27部とゴーセノールGM14(日本合成化学工業(株)製のポリビニールアルコール)の20%水溶液15部を三本ロールで練合し、乾燥、粉砕を行って250〜325#の黒色の磁性粒子20部を得た。」と記載されている。

(4)甲第4号証:特公昭57一46439号
甲第4号証は、磁気泳動表示板の消去装置を開示するものであり、以下の記載が認められる。
(4)-1.第1頁第2欄第33行〜第2頁第3欄第3行に、
「透明な表面板1と透明または不透明な裏面板2の間に磁性粒子3を着色分散媒4に分散してなる分散系5を充填し、表面板1と裏面板2の周緑を閉塞し、磁性粒子3の分散を防止し密度を均一にするためハニカム構造の仕切り6を表面板1と裏面板2に固着して表示板Aをなしてある。」と記載されている。
(4)-2.第3頁第5欄第6行〜第12行に、
「トダカラーKN320(戸田工業(株)製のマグネタイト)27部とゴーセノールGM14(日本合成化学工業(株)製のポリビニールアルコール)の20%水溶液15部を三本ロールで練合し、乾燥、粉砕をおこなって250〜325#の黒色の磁性粒子20部となす。」と記載されている。

(5)甲第5号証:特開昭53-21945号
甲第5号証は、磁気泳動表示板を開示するものであり、以下の記載が認められる。
(5)-1.第1頁第1欄第3行〜第9行に、
「非極性溶剤に微粉末増穂剤、必要に応じて着色剤を分散させ、更に磁界の作用で泳動する磁性粒子を分散させてなる塑性流動性液体を、前記非極性溶剤を阻害しない硬化型接着剤により、少なくとも表面板が透明又は半透明な表面板と裏面板との間のセル構造体中に封入した磁気泳動表示板。」と記載されている。
(5)-2.第2頁第6欄第7行〜第12行に、
「トダカラーKN-320(戸田工業(株)製のマグネタイト)40部およびエポトートYD-017(東都化成(株)の固形エポキシ樹脂)の40%メチルエチルケトン溶液25部を練合し、乾燥、粉砕して100#〜325#の黒色の磁性粒子30部を得た。」と記載されている。

(6)甲第6号証:特公昭59一47676号
甲第6号証は、磁気パネルを開示するものであり、以下の記載が認められる。
(6)-1.第1頁第1欄第23行〜第30行(請求項1)に、
「磁性微粒子と分散媒と微粒子増穂剤と、所望により着色剤とから成る塑性分散液体を2枚の基板間に封入した磁気パネル」と記載されている。
(6)-2.第3頁第5欄第23行〜第24行に、
「磁性微粒子の大きさは直径10ミクロン以上が最も好適である。」と記載されている。
(6)-3.第5頁第9欄第44行〜第10欄第6行に、
「トダカラーKN320(戸田工業(株)製のマグネタイト)40部とエポトートYD-017(東都化成(株)製の固形エポキシ樹脂)の40%メチルエチルケトン溶液25部を練合し、これを乾燥、粉砕分級して100〜325メッシュの黒色の磁性粒子を前記白色の液体に混合分散して塑性分散液体を得た。」と記載されている。

(7)甲第7号証:特公昭62-53359号
甲第7号証は、磁気力利用の表示装置セットを開示するものであり、以下の記載が認められる。
(7)-1.第2頁第3欄第22行〜第25行に、
「この発明は磁性微粒子と分散煤と微粒子増稲剤と、所望により着色剤とから成る降伏値5dyne/cm2 以上の塑性分散液体を2枚の基板間に封入した磁気パネルである。」と記載されている。
(7)-2.第5頁第10欄第13行〜第17行に、
「トダカラーKN-320(戸田工業社製のマグネタイト)90部とエポトートYD-017(東部化成社製の固形エポキシ樹脂)の40%メチルエチルケトン溶液25部を練合し、これを乾燥、粉砕分級して100〜325メッシュの黒色の磁性粒子40部を得た。」と記載されている。

(8)甲第8号証:米国特許5,151,032の明細書
甲第8号証は本件特許の優先権を主張して出願された米国特許明細書であり、
その第3欄第45行〜51行に、
「これらの粒子は下記のごとく製造される。硫化鉄鉱(FeS2)を倍焼して多孔質酸化鉄(Fe203 )を得て、その多孔質酸化鉄に水素雰囲気下において還元を行うことにより第三・四酸化鉄(Fe304 )を得る。これに適した形態の材料は同和鉄粉工業株式会社で作られている。」と記載されている。
ただし、甲第8号証は本出願前頒布された刊行物でない。

(9)甲第9号証:標準ふるい比較表
甲第9号証によれば、
Tyler No.100 目開き 150μm
Tyler No.250 目開き 63μm
Tyler No.325 目開き 45μm
となっている。

(10)甲第10号証:戸田工業株式会社FAX送付状
甲第10号証には、KN-320,MRM-400のσs(emu/g)の値が、83.0と74.5であることが示されている。 ただし、公知日、刊行物であることの証明はさていないので証拠価値は不明である。

(11)甲第11号証:実用化学辞典
甲第11号証には、酸化鉄のd5.12〜5.24と示されている。

(12)-1.甲第12号証の1:改訂電気材料
甲第12号証の1には、エポキシ樹脂と、メタクリル樹脂の比重が示されている。

(12)-2.甲第12号証の2:東都化成株式会社報告書
甲第12号証の2には、樹脂エポトートYD-017の比重が示されている。証拠価値は不明である。

(12)-3.甲第12号証の3:ゴーセノールの特性報告書
甲第12号証の3には、樹脂ゴーセノールの比重が示されているが、証拠価値は不明である。

(12)-4.甲第12号証の4:三菱レイヨン株式会社製品カタログ
甲第12号証の4には、樹脂アクリベットVHの比重が1.19と示されているが、証拠価値は不明である。

(13)甲第13号証:同和鉄粉工業株式会社製品カタログ
甲第13号証には、球形鉄粉の見掛密度が示されているが、証拠価値は不明である。

(14)甲第14号証:最新磁気解析・遮蔽設計と磁性応用技術
甲第14号証には、「一例として直径0.2μmのマグネタイトについてみると、飽和磁化は80emu・g-1」が示されている。

(15)甲第15号証:電子材料シリーズ フェライト
甲第15号証には、粒子サイズ0.1〜0.5×0.01〜0.05μmのγ-Fe203の飽和磁化が70〜75emu/gが記載されている。

(16)甲第16号証:試験報告書、測定報告書、測定データ
甲第16号証は、甲第1号証、甲第3号証、甲第4号証、甲第5号証及び甲第7号証の実施例に開示された製造法によって再現した磁性粒子についての、それぞれの見掛密度と飽和磁化を測定した結果を示すものであると述べられているが、証拠価値は不明である。

二-2.被請求人の主張及び証拠方法
二-2-1.被請求人の主張
被請求人は、次のように答弁している。
甲第1、3〜7号証はいずれも分散液に特徴がある発明であり、消去の発明もある。これらの発明は、磁性粒子に着目したものではなく、したがって磁性粒子の具体的製造方法は記載されていない。しかるに請求人は、甲第1号証の単なる磁性粉末にエポキシ樹脂被覆する一般的記載を取り上げ、これに請求人が新に開発した、磁性粉末とエポキシ樹脂の混練条件、乾燥条件、粉砕条件、分級条件を加えて乾燥粉末の製造方法を作成し、これにより磁性体の乾燥粉末を製造し、これが甲第1号証に記載された磁性粒子であると強引且つ一方的に決め付け、この誤った認識に基づいて見掛密度や飽和磁化、粒径について論じており、かかる主張は事実に反することおびただしい主張であり、申立で主張する甲第1号証の配合例1を再現したという主張は事実に反する。
よって、本件特許の請求項1の発明は甲第1号証の発明と同一ではなく、当業者が甲第1号証の発明に基づいて容易に発明をすることができたものではないので、特許法第29条第1項第3号或いは第2項の規定に該当しない。
本件特許の請求項2の発明の磁気粒子は、乙第2号証に記載されているように存在しているので、本件特許の請求項2の発明は明細書の記載により当業者が容易に実施できるものであり、同法第36条第4項の規定を満たしている。
本件特許の請求項3の発明は甲第1号証及び甲第2号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではなく特許法第29条第2項の規定に該当しない。実施例3には不明瞭な記載があるので削除された。したがって、実施不能の問題は解消した。
このように請求人の甲立の根拠には理由がない。
よって、本件無効審判の請求は成立しない、との審決を求める。

二-2-2.証拠方法
(1)乙第1号証 戸田工業株式会社 CS本部 EPM・MPM・CFM事業フレーム部長 森本 雅昿作成の連絡書
(2)乙第2号証 同和鉱業株式会社新素材事業本部 FPT事業部長 山内 憲大郎、同和鉄粉工業株式会社 取締役工場長 青井 桂吾 作成の報告書

二-2-3.乙各号証記載事項
(1)乙第1号証 戸田工業株式会社製磁性粒子トダカラーKNー320の新旧の物性値が示されている。
(2)乙第2号証 水素還元法で製造した多孔質黒色酸化鉄の特性値が示されている。

三.当審の判断
三-1.審判請求人の主張二-1-1(イ)について(請求項1、29条1項について)
本件特許の請求項1に係る発明と甲第1号証の明細書及び図面に記載された発明と比較すると、判決文の「(4)同一性の判断」に記載されているように、『引用例の配合例1に記載された発明は、「磁気により鮮明な記録表示および消去ができる磁気パネルと、この磁気パネルに磁界を作用させる磁気手段とを組合せてなる磁気力利用の表示装置」(2欄12行目〜15行目)で、その磁性粒子は、請求項1の発明の磁気泳動表示装置と同様に、適度な粒子径及び飽和磁化を備えることは、当然のことである。しかも、上記磁気パネルに用いられる磁性粒子に適度な見掛密度が要求されることも、引用例に記載されている。すなわち、「磁性微粉末の沈降を防止するため、例えば磁性微粉末を極く微細な粒子にするか、磁性微粉末に低比重の樹脂等を多量コーティングして磁性微粉末の見かけの比重を分散媒の近くまで下げる」(3欄5行目〜8行目)との記載は、請求項1の発明の当初明細書に記載された上記「見掛密度と分散液体の密度が近似する」ことと同趣旨であるから、引用例記載の「見かけの比重」は、請求項1の発明の「見掛密度」に相当するものである。したがって、磁性粒子について、請求項1の発明のように粒子径、見掛密度及び飽和磁化を特定することは、単なる設計的事項であり、引用例の配合例1がその磁性粒子として適度な粒子径、見掛密度及び飽和磁化を備えていることは前示のとおりであって、他に請求項1の発明と引用例記載の発明に構成上の相違点は認められないから、両発明は同一のものというべきである。』から、本件特許の請求項1に係る発明と甲第1号証の明細書及び図面に記載された発明と同一である。(詳細は、審決取消の判決〔平成11年(行ケ)第67号、平成12年10月11日判決言渡〕の判決文を参照。)
尚、訂正請求は認められないが、数値限定の技術的意味を考えるにあたっては、訂正請求書に記載された内容を考慮して判断することができる。

三-2.審判請求人の主張二-1-1(ロ)について(請求項1、29条2項について)
本件特許の請求項1に係る発明と甲第1号証の明細書及び図面に記載された発明は同一であるから、容易性は判断しない。

三-3.審判請求人の主張二-1-1(ハ)について(請求項2、36条について)
請求人は請求書の第25頁第18行目〜第26頁末行において、「本件特許の請求項2に特定した水素還元法によってつくられた黒色酸化鉄であって、しかも実施例に挙げる特性を有するものは存在し得ないことは明らかである。」と、また「本件請求項2記載の発明の磁性粒子は、これが水素還元法でつくられた多孔質酸化鉄とするには非論理的であり、本件特許公報の発明の詳細な説明の記載からは、当業者が容易に本件請求項2記載の発明を実施することができない。」旨主張し、
請求項2に係る発明は、明細書の記載からはその発明を実施することができないので、その特許は特許法第36条第4項に規定する要件を満たしていない出願に対してされたものであると主張している。ここで、請求人が特許法第36条第4項に規定する要件を満たしていない旨主張している条項は、平成6年改正後のものであって、平成1年に出願された本件出願に適用されるべき特許法第36条は、平成2年法律第30号による改正前すなわち昭和60年法律第41号による改正後のものとなるから、昭和60年法律第41号による改正後の特許法第36条第3号に規定する要件を満たしていないという主張として検討する。

甲第8号証(米国特許5,151,052の明細書)の第3欄第43〜58行目には、「一方、(1)の磁性粒子は、当初から所望の粒子径を持った酸化鉄粒子を水素還元して製造した磁性粒子である。これらの粒子は下記のごとく製造される。硫化鉄鉱(FeS2)を焙焼して多孔質酸化鉄(Fe2O3)を得て、その多孔質酸化鉄に水素雰囲気下において還元をおこなうことにより第三、四酸化鉄(Fe3O4)を得る。これに適した形態の材料は同和鉄粉工業株式会社で作られている。このようにして得られた多孔質黒色第三、四酸化鉄をそのままあるいは樹脂粘結溶液と混合処置を行った後使用し、乾燥した生成物を分級する。従って、多孔質低密度であるけれども、(1)の磁性粒子は角の崩れや表面の磨減に対する抵抗力が大きく、表示パネルの着色を効果的に防止できる。」と記載されており、水素還元法で作られた多孔質黒色酸化鉄が同和鉄粉工業株式会社で作られていることが明記されており、さらに、被請求人の提出した、乙第2号証によれば、同和鉄粉工業株式会社が、水素還元法で多孔質黒色酸化鉄を製造していることが明らかであるから、請求人が主張するように、磁性粒子が水素還元法で作られた多孔質酸化鉄とするには非科学的(「非論理的」は非科学的の意味と解される。)であるとの主張は根拠のないものであり、水素還元法で作られた多孔質酸化鉄の磁性粒子が存在していたと考えるのが妥当である。
このように、水素還元法で作られた多孔質酸化鉄の磁性粒子を磁気泳動表示パネルに用いることにより、表示・消去を繰り返し行ってもパネルの着色がないすぐれた磁気泳動表示パネルが得られるのであるから(本件明細書の第2頁第3欄第10〜12行目「さらに特定の磁性粒子を用いることにより、表示・消去を繰り返し行ってもパネルの着色のない磁気泳動表示パネルを得ることを目的とする。」の記載と、本件明細書の第2頁第4欄第48行目〜第3頁第5欄第2行目「(1)の磁性粒子は、当初から所望の粒子径をもった酸化鉄を水素還元して製造した磁性粒子であるため多孔質低密度ではあっても粒子の角の崩れや摩減に対する抵抗力が大きく、表示パネルの着色が少なくなる。」の記載と、さらに、本件明細書の第4頁第8欄第45〜48行目「水素還元法で製造された多孔黒色酸化鉄、または樹脂被膜された磁性粒子を用いているため、表示・消去を繰り返し行ってもパネルの着色がないすぐれた磁気泳動表示パネルが得られる。」の記載を参照。)、
水素還元法で作られた多孔質黒色酸化鉄の磁性粒子が存在していても、請求人が提出した各甲号証(甲第8号証は除く)、及び、被請求人が提出した各乙号証から、磁気泳動表示パネルに用いられる磁性粒子を、水素還元法でつくられた多孔質黒色酸化鉄とすることが当業者が容易に考えることができたものとすることはできない。
したがって、請求人の主張は根拠のないものであり、本件特許の請求項2に係る発明が、本件特許公報の発明の詳細な説明の記載からは、当業者が容易に本件請求項2記載の発明を実施することができないとの請求人の主張は誤りである。

三-4.審判請求人の主張二-1-1(ニ)について(請求項3、29条について)
本件特許の請求項3に係る発明は請求項1に係る発明を全てを引用して、これに磁性粒子が、樹脂被膜された磁性粒子である限定を加えたものであるが、本件特許の請求項1に係る発明は、上述のように甲第1号証と同一であり、また、磁性粒子を樹脂被膜することは、甲第1号証の従来例の記載範囲に「磁性微粉末の沈降を防止するため、例えば磁性微粉末を極く微細な粒子にするか、磁性微粉末に低比重の樹脂等を多量コーテイングして磁性微粉末の見かけの比重を分散媒の近くまで下げると、」(甲第1号証第2頁第3欄第5〜8行目)に記載されており、さらに、甲第2号証の第2頁第3欄第32〜35行目に、「従って比重の重い磁性粉に、比重の軽い樹脂やろうなどの物質を被覆して見かけ比重の軽い磁性粉粒子とし、分散媒の比重と一致させることが望ましい。」と記載されているように、周知のことであるから、甲第1号証の磁性粒子を樹脂被膜することは当業者が容易に推考することができることである。
したがって、本件特許の請求項3に係る発明は、甲第1号証ないし甲第2号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

三-5.審判請求人の主張二-1-1(ホ)について(請求項3、36条について)
本件特許の請求項3に係る発明は、上記三-4で述べたように、甲第1号証ないし甲第2号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項3に記載の発明を示す唯一の実施例3が論理的に実施不可能であり説明を欠くものであるかどうかは判断はしない。

四.まとめ
以上のとおりであるから、
本件特許の請求項1に係る発明は甲第1号証と同一であるから、本件特許の請求項1に係る発明の特許は特許法第29条第1項の規定に違反してなされたものであり、同法第123条第1項第2号に該当する。
本件特許の請求項2に係る発明については、請求人の主張する理由及び提出した証拠方法では、本件特許の請求項2に係る発明の特許を無効とすることはできない。
本件特許の請求項3に係る発明は、甲第1号証ないし甲第2号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件特許の請求項3に係る発明の特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものであり、同法第123条第1項第2号に該当する。
審判に関する費用については、特許法第169条第2項によって準用する民事訴訟法第61条の規定により、請求人が1/3の負担、被請求人が2/3の負担とする。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 1999-01-08 
結審通知日 1999-01-26 
審決日 1999-01-25 
出願番号 特願平1-13477
審決分類 P 1 112・ 111- ZE (G09F)
P 1 112・ 121- ZE (G09F)
P 1 112・ 531- ZE (G09F)
最終処分 一部成立  
前審関与審査官 張谷 雅人川嵜 健  
特許庁審判長 小川 謙
特許庁審判官 関川 正志
江頭 信彦
東 次男
田辺 寿二
登録日 1996-11-06 
登録番号 特許第2105678号(P2105678)
発明の名称 磁気泳動表示パネル  
代理人 久保田 穰  
代理人 渡辺 秀夫  
代理人 大塚 明博  
代理人 大塚 明博  
代理人 大場 正成  
代理人 大場 正成  

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