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審決分類 |
審判 全部申し立て 5項1、2号及び6項 請求の範囲の記載不備 C23C 審判 全部申し立て 2項進歩性 C23C 審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載 C23C |
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管理番号 | 1041135 |
異議申立番号 | 異議2000-71060 |
総通号数 | 20 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許決定公報 |
発行日 | 1991-03-12 |
種別 | 異議の決定 |
異議申立日 | 2000-03-13 |
確定日 | 2001-02-13 |
異議申立件数 | 1 |
訂正明細書 | 有 |
事件の表示 | 特許第2949290号「アモルファスシリコン系半導体膜の製法」の請求項1、2に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 |
結論 | 訂正を認める。 特許第2949290号の請求項1ないし2に係る特許を維持する。 |
理由 |
1.本件の経緯 本件特許第2949290号は、平成1年7月26日に出願し、平成11年7月9日に設定登録され、同年9月13日に特許公報に掲載されたところ、平成12年3月13日に山口雅行から特許異議の申立を受けたものであって、その後、取消理由通知がなされ、その指定期間内である平成12年11月9日に訂正請求がなされたものである。 2.訂正の適否についての判断 (1)訂正事項 a、特許請求の範囲の請求項1の「光導電層」を、「電子写真感光体用の光導電層」と訂正する。 b、特許請求の範囲の請求項2の「光導電層」を、「電子写真感光体用の光導電層」と訂正する。 c、特許請求の範囲の請求項1の「気相成長させるべく気相成長ガス」を、「気相成長させるべくシリコン元素含有ガスを含む気相成長ガス」と訂正する。 d、特許請求の範囲の請求項1の「反応室内への流入ガス量」を、「反応室内へ流入するシリコン元素含有ガス量」と訂正する。 e,平成10年7月16日付手続補正書第2頁5行(本件特許公報第3欄13〜14行)の「a-Si系半導体膜気相成長用ガス」を、「シリコン元素含有ガスを含むa-Si系半導体膜気相成長用ガス」と訂正する。 f、平成10年7月16日付手続補正書第2頁7行(本件特許公報第3欄16行)の「反応室内流入ガス量」を、「反応室内へ流入するシリコン元素含有ガス量」と訂正する。 g、平成10年7月16日付手続補正書第2頁14行(本件特許公報第3欄26行)の「流入ガス量」を、「シリコン元素含有ガス量」と訂正する。 h、平成10年7月16日付手続補正書第2頁8行(本件特許公報第3欄17行)の「光導電層」を、「電子写真感光体用の光導電層」と訂正する。 (2)訂正の目的の適否、新規事項の有無及び拡張・変更の存否 上記aおよびbの訂正は、光導電層を電子写真感光体用に限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、また、上記hの訂正は、発明の詳細な説明中の特許請求の範囲に対応する記載を上記aおよびbの訂正に整合させるものであるから、特許請求の範囲の減縮に伴って生じた明りょうでない記載の釈明を目的とするものである。また、上記c〜gの訂正は、気相成長ガスがシリコン元素含有ガスを含むものであること、反応室内への流入ガス量はシリコン元素含有ガス量を指すものであること、を明確にするものであるから、明りょうでない記載の釈明を目的とするものである。 そして、本件明細書の例4(本件特許公報第6欄23行から第7欄44行)には、第1表に示す条件により形成されたa-Si光導電層は電子写真感光体として好適であること、本件明細書第4頁16行から第6頁3行(本件特許公報第3欄40行から第4欄16行)には、気相成長ガスはシリコン元素含有ガスを含むものであることが記載されており、また、本件明細書の例4の第1表ではSiH4ガス量(sccm)と高周波電力(KW)との関係から電力/ガス量の比率(W/sccm)が算出されており、上記ガス量は、シリコン元素含有ガス量として記載されているといえるから、上記a〜hの訂正は、願書に添付した明細書に記載した事項の範囲内のものである。 さらに、上記a〜hの訂正は、その内容からみて、実質上特許請求の範囲を拡張したり、変更したりするものではないことは明らかである。 してみると、上記訂正は、特許法第120条の4第2項第1号もしくは第3号に掲げる事項を目的とするものであり、同条第3項で準用する同法第126条の第2項および第3項の規定に適合するものであるから、上記訂正は認める。 3.特許異議の申立てについての判断 (1)訂正後の本件発明 訂正後の本件発明は、訂正請求書に添付した全文訂正明細書の特許請求の範囲の請求項1および2に記載された次のとおりのものである。 [請求項1]光導電性をもったアモルファスシリコン系半導体膜を基板表面に気相成長させるべくシリコン元素含有ガスを含む気相成長ガスを反応室内に0.01〜0.1Torrのガス圧力で充填し、上記気相成長ガスに印加する高周波電力と、反応室内へ流入するシリコン元素含有ガス量に対する比率を、1〜6W/sccmにした状態下でグロー放電させて電子写真感光体用の光導電層を成膜するアモルファスシリコン系半導体膜の製法。 [請求項2]カーボン元素含有ガス、ゲルマニウム元素含有ガス、スズ元素含有ガス、酸素元素含有ガス、窒素元素含有ガスの少なくとも一種を含む前記気相成長ガスをグロー放電させて、カーボン、ゲルマニウム、スズ、酸素、窒素の少なくとも一種から成る添加元素Aとシリコン元素Siとの組成比率をSi1-xAxで表して0<x<0.5とした電子写真感光体用の光導電層を成膜する請求項(1)記載のアモルファスシリコン系半導体膜の製法。 (2)特許異議申立人の主張 特許異議申立人山口雅行は、甲第1〜5号証および参考資料1〜4を提出して次のi)〜iii)の主張をしている。 i)本件請求項1に係る発明は、本件特許の出願前に頒布された刊行物である甲第1〜5号証に記載された発明であり、また、本件請求項2に係る発明は、甲第1号証および甲第3号証に記載された発明であるから、本件請求項1および2に係る発明は、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないものである。 ii)本件請求項1および2に係る発明は、本件特許の出願前に頒布された刊行物である甲第1〜5号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。 iii)本件明細書の記載が不備であるから、本件特許は、その明細書が特許法第36条第3項および第4項の規定を満たしていない出願に対してなされたものである。 (3)検討・判断 i)特許法第29条第1項第3号違反について 甲第1号証(特開昭63-304673号公報)には、「水素化アモルファス半導体を主たる光電変換動作する光活性層とした光起電力装置において、上記光活性層における光入射側領域での1個のシリコン原子と2個の水素原子とが結合したSi-H2結合の量を他方側領域でのそれより多くしたことを特徴とする光起電力装置。」(特許請求の範囲)が記載されており、その第1表の形成条件のP型層(3P)の欄には、RF(radio frequency=高周波)パワー(W)30、反応ガスおよび流量(sccm)SiH4:5、B2H6:0.5、CH4:0.5、反応圧力(Torr)0.1であることが示されており、高周波電力(W)/シリコン元素含有ガス(sccm)は6W/sccmになるが、甲第1号証の第1頁左下欄12〜13行等に記載されているように、それは、太陽光発電等に利用される光起電力装置に関するもので、甲第1号証には、電子写真感光体用の光導電層を成膜することは示されていない。 甲第2号証(特開平1-99213号公報)には、「高周波印加電極と接地電極の間に発生するグロー放電中に、基板を設置・もしくは進行せしめて該基板上に薄膜を形成するインライン成膜装置において、該高周波印加電極表面が凹凸状に形成されていることを特徴とする成膜装置。」(特許請求の範囲)が記載されており、その[実施例]の欄には、成膜条件として、ジシラン10cc/min、高周波電力50W、反応圧力0.1Torrであることが示されており、高周波電力(W)/シリコン元素含有ガス(sccm)は5W/sccmになるが、甲第2号証の従来技術の欄に記載されているように、それは、電卓等の民生機器や電力用太陽電池に用いられる非晶質シリコン系の半導体薄膜を成膜するもので、甲第2号証には、電子写真感光体用の光導電層を成膜することは示されていない。 甲第3号証(特開昭63-113469号公報)には、「支持体と、該支持体上に、シリコン原子を母体とし、水素原子およびハロゲン原子の中の少なくともいずれか一方を含有する非単結晶材料で構成された光受容層を有する電子写真用光受容部材において、前記光受容層が前記支持体側より順に電荷注入阻止層と電荷発生層と電荷輸送層とが積層された層構成とされ、且つ前記電荷輸送層が、炭素原子、窒素原子および酸素原子の中の少なくとも一種を含有すると共に、伝導性を制御する物質を、層厚方向に不均一な分布状態で含有する部分を少なくとも有することを特徴とする電子写真用光受容部材。」(特許請求の範囲第1項)等が記載されており、その第21表や第22表には、内圧および電力(W)/シリコン元素含有ガス(sccm)比率が、訂正後の本件請求項1に係る発明でいう0.01〜0.1Torrおよび1〜6W/sccmの範囲内である例が挙げられているが、そこで使用されている電力はマイクロ波のものであって、本件請求項1でいう高周波電力は使用されていない。 甲第4号証(特開昭61-85859号公報)には、「基体上に非晶質シリコンを主成分とする光導電層が形成されており、該光導電層の同一表面に受光部の少なくとも一部を構成する間隔を設けて一対の電極が配設されているフォトセンサの製造法において、光導電層をグロー放電によるプラズマ中で堆積せしめるに際し、先ず比較的大きな放電電力にて堆積を行ない、次に放電電力を徐々に減少させながら堆積を継続し、膜厚方向に関し少なくともその一部において屈折率が膜厚方向に連続的に変化した光導電層を形成することを特徴とする、フォトセンサの製造法。」(特許請求の範囲第3項)等が記載されており、その実施例2における放電電力(W)50および30の場合は、実施例1におけるSiH4ガス流量10sccm、ガス圧0.07Torr、高周波電源13.56MHzと同じ条件で行われているから、高周波電力(W)/シリコン元素含有ガス(sccm)は5W/sccmおよび3W/sccmになるが、そのフォトセンサは、フアクシミリやデジタル複写機や文字読取装置等の画像情報処理装置の光入力部として用いられるもので、甲第4号証にも、電子写真感光体用の光導電層を成膜することは示されていない。 甲第5号証(特開昭62-132374号公報)には、「基板上に非晶質シリコンを主成分とする光導電層が形成されており、該光導電層の同一表面に受光部の少なくとも一部を構成する間隔を設けて一対の電極が配設されているフォトセンサにおいて、光導電層が水素含有率の異なる2層以上の積層膜からなり、該積層膜の最下層の水素含有率が20原子%以上であることを特徴とする、フォトセンサ。」(特許請求の範囲)等が記載されており、その実施例2における放電電力(W)50および30の場合は、実施例1におけるSiH4ガス流量10sccm、ガス圧0.07Torr、高周波電源13.56MHzと同じ条件で行われているから、高周波電力(W)/シリコン元素含有ガス(sccm)は5W/sccmおよび3W/sccmになるが、そのフォトセンサは、フアクシミリやデジタル複写機や文字読取装置等の画像情報処理装置の光入力部として用いられるもので、甲第5号証にも、電子写真感光体用の光導電層を成膜することは示されていない。 結局、甲第1〜2号証および甲第4〜5号証には、電子写真感光体用の光導電層を成膜することは示されていないし、甲第3号証には、訂正後の本件請求項1に係る発明でいう0.01〜0.1Torrおよび1〜6W/sccmの範囲内である例が挙げられているが、そこで使用されている電力はマイクロ波であり、訂正後の本件請求項1に係る発明は、甲第1〜5号証に記載された発明ではない。また、請求項1を引用している訂正後の本件請求項2に係る発明も、甲第1号証および甲第3号証に記載された発明ではない。 したがって、上記i)の主張は理由がない。 ii)特許法第29条第2項違反について 上記i)で検討したように、甲第1号証に記載された光起電力装置や甲第2号証に記載された成膜装置は、太陽光発電等に利用される光起電力装置に関するものであり、また、甲第4号証に記載され製造法で得られるフォトセンサや、甲第5号証に記載されたフォトセンサは、ファクシミリやデジタル複写機や文字読取装置等の画像情報処理装置の光入力部として用いられるものであって、これらの、膜硬度、耐刷性、一定の膜厚等の要求される性能が電子写真感光体の皮膜の場合と同等のものであるとはいえず、その成膜条件として甲第1,2,4,5号証に記載の条件を転用すれば電子写真感光体用にも良好な結果が得られるといえる事実は何ら示されていない。 また、甲第3号証には、電子写真用光受容部材の成膜条件の例として訂正後の本件請求項1に係る発明でいう0.01〜0.1Torrおよび1〜6W/sccmの範囲内であるものが挙げられているが、そこで使用されている電力はマイクロ波であり、また、甲第3号証には、高周波電力を使用した例も表2〜4、7,10,13、26〜28,30,33,38,39に示されているが、その内圧(W)はいずれも0.35以上であって、本件請求項1に係る発明で特定する0.01〜0.1Torrの範囲を超えるものであり、上記マイクロ波を、その周波数の著しく異なる高周波電力に替える場合に、その室内圧、放電電力、ガス流量等を同様の条件下で成膜すれば同様に良好な結果が得られるとされる事実は示されていない。 してみると、電子写真感光体の光導電層を成膜するに際して、シリコン元素含有ガスを含む気相成長ガスを反応室内に0.01〜0.1Torrのガス圧力で充填し、上記気相成長ガスに印加する高周波電力と、反応室内へ流入するシリコン元素含有ガス量に対する比率を、1〜6W/sccmにした状態下でグロー放電させるという条件は、甲第1〜5号証の記載をみても、当業者にとって容易に想到し得るものではない。 そして、本件請求項1に係る発明が、シリコン元素含有ガスを含む気相成長ガスを反応室内に0.01〜0.1Torrのガス圧力で充填し、気相成長ガスに印加する高周波電力と、反応室内へ流入するシリコン元素含有ガス量に対する比率を、1〜6W/sccmにした状態下でグロー放電させるという構成によって、その条件外の場合と比較して、高い成膜速度が得られ、また、電子写真感光体として好適な光導電層を成膜することができるという優れた効果を奏することは、本件明細書の例1〜8により示されているところである。 なお、特許異議申立人山口雅行は、参考資料1(田中一宜(編著)、「アモルファス半導体の基礎」、(株)オーム社、昭和58年5月10日第1版第3刷発行、p.162-163)、参考資料2(「最新アモルファスSiハンドブック」、(株)サイエンスフォーラム、昭和58年3月31日発行、p.27-32)、参考資料3(特開昭60-243663号公報)および参考資料4(特開昭62-52558号公報)を提出して、スピン密度、ダングリングボンドの数及び成膜速度について一般的に論じているが(特許異議申立書第14頁18行から第16頁2行)、本件請求項1および2に係る発明の上記条件の選択について具体的に言及するものではなく、上記判断に影響を及ぼすものではない。 したがって、訂正後の本件請求項1に係る発明は、甲第1〜5号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではないし、また、請求項1を引用している訂正後の本件請求項2に係る発明も、甲第1〜5号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではなく、上記ii)の主張も理由がない。 iii)特許法第36条違反について 申立人は、本件請求項1には「光導電性をもったアモルファスシリコン系半導体膜」と記載されているが、この「光導電性」とはどの程度の特性をもつものかが明確でないし、また、本件明細書の発明の詳細な説明中にもその定義はなされていないから、本件請求項1には、発明の構成が明確に記載されていない、と主張する。 しかし、「光導電性」は周知の性質であり、その程度を一定範囲に特定しないと明細書の記載が明確でないとされるものではないし、また、本件請求項1の「光導電性をもったアモルファスシリコン系半導体膜」は、上記訂正により、「電子写真感光体用」のものに限定されており、上記主張で指摘する点は解消している。 また、申立人は、本件請求項1における「反応室内への流入ガス量」は、シラン含有ガスのみを意味するのか、その他のH2等のガスをも含むのか不明であるから、本件請求項1には、発明の構成が明確に記載されていない、と主張する。 しかし、本件請求項1における「反応室内への流入ガス量」は、上記訂正により、「反応室内へ流入するシリコン元素含有ガス量」と訂正され、上記主張で指摘する不備は解消している。 したがって、上記iii)の主張も理由がない。 4.むすび 以上のとおりであるから、上記訂正は認める。 そして、訂正後の本件請求項1および2に係る特許は、特許異議の申立の理由ならびに証拠によっては取り消すことができない。 また、他に訂正後の本件請求項1および2に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり決定する。 |
発明の名称 |
(54)【発明の名称】 アモルファスシリコン系半導体膜の製法 (57)【特許請求の範囲】 【請求項1】光導電性をもったアモルファスシリコン系半導体膜を基板表面に気相成長させるべくシリコン元素含有ガスを含む気相成長ガスを反応室内に0.01〜0.1Torrのガス圧力で充填し、上記気相成長ガスに印加する高周波電力と、反応室内へ流入するシリコン元素含有ガス量に対する比率を1〜6W/sccmにした状態下でグロー放電させて電子写真感光体用の光導電層を成膜するアモルファスシリコン系半導体膜の製法。 【請求項2】カーボン元素含有ガス、ゲルマニウム元素含有ガス、スズ元素含有ガス、酸素元素含有ガス、窒素元素含有ガスの少なくとも一種を含む前記気相成長ガスをグロー放電させて、カーボン、ゲルマニウム、スズ、酸素、窒素の少なくとも一種から成る添加元素Aとシリコン元素Siとの組成比率をSil-xAxで表して0<x<0.5とした電子写真感光体用の光導電層を成膜する請求項(1)記載のアモルファスシリコン系半導体膜の製法。 【発明の詳細な説明】 〔産業上の利用分野〕 本発明はグロー放電分解法において高い成膜速度により気相成長させることができたアモルファスシリコン系半導体膜の製法に関するものである。 〔従来技術及びその問題点〕 近時、グロー放電分解法により成膜形成したアモルファスシリコン系半導体膜(以下、アモルファスシリコンをa-Siと略す)を用いた電子部品デバイスが実用化されている。例えば太陽電池、光センサ、電子写真感光体、密着型イメージセンサなどが挙げられる。 しかしながら、a-Si膜をグロー放電分解法により形成した場合、その成膜速度が低いという問題点がある。 a-Si感光体ドラムの場合、a-Si摸の厚みは一般的に約20〜40μmであり、その大きな厚みにより製造所要時間が約5〜10時間に至っている。 〔発明の目的〕 本発明者等は上記事情に鑑みて鋭意研究に努めた結果、グロー放電分解法のなかで反応室内部のガス圧力及び高周波電力並びに反応室に流入するガス量をそれぞれ所定の範囲内に設定した場合、成膜速度が著しく大きくなることを見い出した。 従って本発明は上記知見に基づいて完成されたものであり、その目的は高い成膜速度が得られたa-Si系半導体膜の製法を提供することにある。 〔問題点を解決するための手段〕 本発明に係るa-Si系半導体膜の製法は、シリコン元素含有ガスを含むa-Si系半導体膜気相成長用ガスが導入される反応室の内部を0.01〜0.1Torrのガス圧力に、上記ガスに印加する高周波電力の反応室内へ流入するシリコン元素含有ガス量に対する比率を1〜6W/sccmにしてグロー放電させて電子写真感光体用の光導電層を成模するようにしたことを特徴とする。 以下、本発明を詳細に説明する。 a-Si膜の高速成膜化には反応室流入ガス量を大きくするか、或いは印加する高周波電力を大きくすることが考えられ、そのために50〜300sccmのガス流量並びに50〜300Wの高周波電力が製造条件として採用されている。 これに対して、本発明においては反応室内部のガス圧力を0.01〜0.1Torrの範囲内に設定し、しかも、高周波電力のシリコン元素含有ガス量に対する比率(以下電力/ガス量の比率と略す)を1〜6W/sccmの範囲内に設定した場合、高い成膜速度が得られることが特徴である。 このように数値限定した理由は、ガス圧力が0.01Torr未満の場合には高周波電力が流入ガスに十分伝搬されないためであり、0.1Torrを越えた場合には気相中での反応速度が大きくなり、粉体生成量が増大し、これに伴って基板上の成膜速度が小さくなるためである。 また、電力/ガス量の比率が1W/sccm未満の場合には流入ガスの分解に要する電力が不足し、そのために未分解ガスが排出し、ガスの利用効率が低下する。一方、6W/sccmを越えた場合には流入ガスの分解に要する電力に比べて過剰な電力が印加され、これにより、電力効率が低下する。 本発明においては、上記a-Si膜にカーボン、ゲルマニウム、スズ、酸素、窒素のいずれか少なくとも一種の元素を添加しても本発明の目的が達成できる。その添加元素AとシリコンSiとの組成比率をSil-xAxと表した場合、x値が0<x<0.5の範囲内であればよい。 かかるa-Si系半導体膜を製作するに当たって用いられる気相成長用ガスには下記の通りの種々のガスが挙げられる。 シリコン元素含有ガスとしてSiH4,Si2H6,Si3H8,SiF4,SiHF3,SiH2F2,SiH3Fなどがある。 ゲルマニウム元素含有ガスとしてGeF4,Ge2H6,Ge3H8,GeF4などがある。 カーボン元素含有ガスとしてCH4,C2H2,C2H4,C2H6,CF4,C6H6-nFnなどがある。 スズ元素含有ガスとしてSnH4,Sn(CH3)4などがある。 酸素又は窒素元素の含有ガスとしてO2,N2,NO,N2O,NH3などがある。 更にまた、上記気相成長用ガス以外に周期律表第IIIa族元素や第Va族元素を含むドーピングガス並びにキャリアガスを必要に応じて混合する。 ドーピングガスにはB2H6,PH3,BF3,AsH3などがあり、これらのガスにより成膜したa-Si系半導体膜の価電子制御を行うことができる。 キャリアガスは上述したすべてのガスを輸送するためのガスであり、例えばH2ガスもしくはHe,Ne,Arなどの不活性ガスがある。 かくして本発明の製法によれば、上記の通りに成膜条件を設定したことにより10μm/時以上、更には70μm/時以上という高い成膜速度が得られた。しかも、このようにして得た膜の質を電子スピン共鳴装置(ESR)を用いて欠陥密度に対応するスピン密度を測定して求めたところ、2×1016/cm3以下となり、良質な膜であることを確認した。 〔実施例〕 次に本発明を実施例により詳述する。 (グロー放電分解装置の概要) 本例に用いたグロー放電分解装置は第1図に示す通りである。 図中、1は金属から成る円筒形状反応容器であり、この反応容器1の内部に円筒形状のグロー放電用電極板2が設置され、更に電極板2の内部には円筒形状の基板指示体3、該基板指示体3に装着した円筒形状の基板4が設置されている。また、基板支持体3は基板蔵置体5の上に配置され、この基板載置体5には細管状のヒーター部6が接続され、ヒーター部6により基板支持体3が加熱され、同時に基板4も加熱される。しかも、反応容器1の上部にはモーター部7が設置され、このモーター部7は基板支持体3に接続されている。そして、モーター部7により基板支持体3と共に基板4が回転する。 8はガス導入部、9は電極板2に多数個形成されたガス噴出部であり、a-Si系半導体膜気相成長用ガスはガス導入部8より導入され、ガス噴出部9を介して基板4の面上に吹き付けられ、グロー放電に供される。そして、その放電の残余ガスはガス排出部10より排出される。尚、図中の矢印はガス流の方向を示す。 また、11は高周波電源であり、その一方の出力端子はアース側に接地され、他方の出力端子は反応容器1の周壁に接続され、そして、この周壁と電気的に導通された電極板2にグロー放電用電力が印加される。 以上のような構成のグロー放電分解装置によれば、基板4が所要な温度に設定され、そして、回転しながら基板4と電極板2の間でグロー放電が発生し、これにより、気相成長用ガスが分解するのに伴って基板4上にa-Si系半導体膜が気相成長する。 (例1) 上記グロー放電分解装置にSiH4ガスを600sccmで導入し、基板温度を260℃、ガス圧力を0.05〜0.5Torr、電力/ガス量の比率を0.3〜3.3W/sccmに設定し、成膜速度を測定したところ、第2図に示す通りの結果が得られた。 同図中○印、●印及び△印は測定プロットであり、a,b,cはそれぞれ電力/ガス量の比率が0.3,1.3,3.3W/sccmである場合の成膜速度特性曲線を表す。 第2図に示す結果より明らかな通り、電力/ガス量の比率が小さい場合、即ち低電力パワーの領域においてはガス圧力を上げるに伴って成膜速度が上昇するが、約0.3Torr付近で飽和に至る。一方、電力/ガス量の比率が大きい場合、即ち高電力パワーの領域においてはガス圧力が低下するに伴って成昇速度が上昇する傾向にあることが判る。 (例2) 次にガス圧力が低い領域における電力/ガス量の比率に対する成膜速度を測定したところ、第3図に示す通りの結果が得られた。 同図中○印、●印及び△印はそれぞれガス圧力を0.5Torr,0.3Torr,0.05Torrに設定した場合の測定プロットであり、d,e,fはその成膜速度特性曲線を表す。 第3図より明らかな通り、曲線f、即ちガス圧力が0.05Torrの場合には電力/ガス量の比率を大きくするに伴って成膜速度が大きくなることが判る。 然るに、曲線d、即ちガス圧力が0.5Torrの場合には電力/ガス量の比率を大きくしても成膜速度が飽和する傾向にあることが判る。 本発明者等は上記実施例並びに種々の繰り返し実験によりガス圧力を0.01〜0.1Torrの範囲内に、しかも、電力/ガス量の比率を1〜6W/sccmの範囲内に設定すれば高い成膜速度が得られることを確認した。 (例3) 本例においては、ガス圧力を0.05Torrに、高周波電力を2kwに、基板温度を260℃に設定し、そして、気相成長用ガスとしてSiH4ガスを600sccmでH2ガスで希釈されたB2H6ガスを15〜200sccmで導入し、これにより、SiH4量に対するB2H6量(H2ガスを除いたB2H6ガスの絶対量)の比率B2H6/SiH4を0〜1000PPmの範囲内で変え、それに応じた各種感光層を形成し、その光導電率及び暗導電率を測定したところ、第4図に示す通りの結果が得られた。尚、光導電率は波星600nmの単色光を50μW/cm2の光量で照射して求めた。 同図中、○印及び●印はそれぞれ光導電率及び暗導電率の測定プロットであり、g及びhはそれぞれの導電率特性曲線である。 第4図より明らかな通り、高い成膜速度が得られる条件下において良好な光導電特性が得られ、また、ドーピングによる価電子制御も可能であることが確認できた。 (例4) 本例においては、第1表に示す条件により基板4上にa-Siブロッキング層及びa-Si光導電層を順次形成し、このa-Si感光体の分光感度を測定したところ、第5図に示す通りの結果が得られた。 この測定結果において、分光感度の値を感光体の表面に400Vの電位で帯電させ、次いで50μW/cm2の各種波長の単色光を照射した場合の半減露光量の逆数として示されている。 第5図中○印は分光感度測定プロットであり、iはその特性曲線である。 同図より明らかな通り、500〜700nmの範囲の波長の光に対して良好な光感度を示し、電子写真感光体として好適となる。 (例5) 本例においては、気相成長用ガスとしてSi2H6ガスを用いて、電力/ガス量に対する成膜速度を測定したところ、第6図に示す通りの結果が得られた。 同図中、○印及び△印はガス圧力がそれぞれ0.05Torr及び0.5torrに設定した場合の測定プロットであり、j,kはそれぞれの成膜速度特性曲線を表す。 第6図に示す結果より明らかな通り、曲線jにおいては電力/ガス量の比率を大きくするに伴って成膜速度が大きくなることが判る。然るに曲線kにおいては電力/ガス量の比率を大きくした場合、成膜速度が飽和する傾向にあることが判る。 また、第6図に示す結果を第3図の結果と比較した場合、Si2H6ガスを用いるとSi2H4ガスに比べて著しく成膜速度が高められることが判る。 即ち、同一のガス流量で比較した場合、Si2H6ガスはSiH4ガスに比べて高周波電力が約2倍必要とし、これにより、成膜速度が約2倍高くなった。 上記の結果から低ガス圧の条件下においては電力/ガス量の比率が大きくなるに伴って更に一層ガス分解効率が高くなったと考えられる。そして、本発明者等は粉体の発生量が更に少なくなったことを確認した。 (例5) 次に気相成長用ガスとしてSiH4ガスとGeH4ガスの混合ガスを用いて、下記の通りの成膜条件(i)により気相成長を行ったところ、約5μm/時の成膜速度が得られ、そして、そのSi元素とGe元素の組成比率を測定したところ、Si0.8Ge0.2であった。 成膜条件(i) SiH4ガス量・・・600sccm GeH4ガス量・・・100sccm ガス圧力・・・0.5orr 電力/ガス量の比率・・・1W/sccm 然るに下記成膜条件(ii)により気相成長を行ったところ、約25μm/時の成膜速度であり、その組成比率はSi0.6Ge0.4であった。 成膜条件(ii) SiH4ガス量・・・600sccm GeH4ガス量・・・400sccm ガス圧力 ・・・0.05orr 電力/ガス量の比率・・・3W/sccm (例6) 気相成長用ガスとしてSiH4ガスとC2H2ガスの混合ガスを用いて、下記成膜条件(iii)により気相成長を行ったところ、約8μm/時の成膜速度が得られ、そして、Si元素とC元素の組成比率を測定したところ、Si0.6C0.4であった。 成膜条件(iii) SiH4ガス量・・・600sccm C2H4ガス量・・・300sccm ガス圧力 ・・・0.5Torr 電力/ガス量の比率・・・1W/sccm 然るに下記成膜条件(iv)により気相成長を行ったところ、約28μm/時の成膜速度であり、その組成比率はSi0.7C0.3であった。 成膜条件(iv) SiH4ガス量・・・600sccm C2H4ガス量・・・300sccm ガス圧力 ・・・0.05Torr 電力/ガス量の比率・・・3W/sccm (例7) 気相成長用ガスとしてSiH4ガスとSnH4ガスの混合ガスを用いて、下記成膜条件(V)により気相成長を行ったところ、約5μm/時の成膜速度が得られ、そして、Si元素とC元素の組成比率を測定したところ、Si0.8C0.2であった。 成膜条件(V) SiH4ガス量・・・600sccm SnH4ガス量・・・100sccm ガス圧力 ・・・0.5Torr 電力/ガス量の比率・・・1W/sccm 然るに下記成膜条件(vi)により気相成長を行ったところ、約19μm/時の成膜速度であり、その組成比率はSi0.9C0.1であった。 成膜条件(vi) SiH4ガス量・・・600sccm SnH4ガス量・・・100sccm ガス圧力 ・・・0.05Torr 電力/ガス量の比率・・・3W/sccm (例8) 気相成長用ガスとして酸素(O2)ガス、窒素(N2)ガス、一酸化二窒素(N2O)ガス、アンモニア(NH3)ガスのいずれかのガスとSiH4ガスを用いて、第2表に示す成膜条件により気相成長を行い、その成膜速度並びに膜の組成比率を測定した。 第2表に示す結果より明らかな通り、試料No.(1-A)、(2-A)、(3-A)、(4-A)はそれぞれ試料No.(1-B)、(2-B)、(3-B)、(4-B)に比べて高い成膜速度が得られたことが判る。 〔発明の効果〕 以上の通り、本発明に係るa-Si系半導体模の製法によれば、成膜速度が顕著に大きくなり、これにより、製造効率及び製造コストが改善された。 また、従来のa-Si系半導体膜の製法においては成膜に伴ってグロー放電用反応室の内部に粉体が付着するというという問題点があったが、これに対して、本発明の製法によれば、高い成膜速度が得られたことにより上記粉体の発生量が著しく小さくなり、これにより、粉体がa-Si膜を汚染しなくなった。しかも、得られたa-Si系半導体膜は光導電性に優れており、その結果、高品質且っ高信頼性a-Si系半導体膜が提供できた。 また、上述した実施例においてはa-Si感光体ドラムを製作する場合を例に挙げたが、それ以外に太陽電池、光センサ、密着型イメージセンサ、TFTなどの各種電子部品デバイスにも適用でき、いずれについても低コスト且つ高品質なデバイスとして提供できる。 【図面の簡単な説明】 第1図はグロー放電分解装置の概略図、第2図及び第3図は成膜速度を表す線図、第4図は導電率を表す線図、第5図は分光感度を表す線図、第6図は成膜速度を表す線図である。 2・・・・・・グロー放電用電極板 4・・・・・・基板 8・・・・・・ガス導入部 |
訂正の要旨 |
特許第2949290号の明細書中、特許請求の範囲の減縮を目的として、 a、特許請求の範囲の請求項1の「光導電層」を、「電子写真感光体用の光導電層」と訂正し、 b、特許請求の範囲の請求項2の「光導電層」を、「電子写真感光体用の光導電層」と訂正し、 明りょうでない記載の釈明を目的として、 c、特許請求の範囲の請求項1の「気相成長させるべく気相成長ガス」を、「気相成長させるべくシリコン元素含有ガスを含む気相成長ガス」と訂正し、 d、特許請求の範囲の請求項1の「反応室内への流入ガス量」を、「反応室内へ流入するシリコン元素含有ガス量」と訂正し、 e,平成10年7月16日付手続補正書第2頁5行(本件特許公報第3欄13〜14行)の「a-Si系半導体膜気相成長用ガス」を、「シリコン元素含有ガスを含むa-Si系半導体膜気相成長用ガス」と訂正し、 f、平成10年7月16日付手続補正書第2頁7行(本件特許公報第3欄16行)の「反応室内流入ガス量」を、仮応室内へ流入するシリコン元素含有ガス量」と訂正し、 g、平成10年7月16日付手続補正書第2頁14行(本件特許公報第3欄26行)の「流入ガス量」を、「シリコン元素含有ガス量」と訂正し、 h、平成10年7月16日付手続補正書第2頁8行(本件特許公報第3欄17行)の「光導電層」を、「電子写真感光体用の光導電層」と訂正する。 |
異議決定日 | 2001-01-22 |
出願番号 | 特願平1-193578 |
審決分類 |
P
1
651・
121-
YA
(C23C)
P 1 651・ 534- YA (C23C) P 1 651・ 113- YA (C23C) |
最終処分 | 維持 |
前審関与審査官 | 城所 宏、瀬良 聡機 |
特許庁審判長 |
加藤 孔一 |
特許庁審判官 |
野田 直人 唐戸 光雄 |
登録日 | 1999-07-09 |
登録番号 | 特許第2949290号(P2949290) |
権利者 | 京セラ株式会社 |
発明の名称 | アモルファスシリコン系半導体膜の製法 |