• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  B28C
管理番号 1041192
異議申立番号 異議1999-73732  
総通号数 20 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 1992-05-28 
種別 異議の決定 
異議申立日 1999-10-05 
確定日 2001-02-05 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第2877939号「窒化アルミニウムグリーンシートの製造方法」の請求項1に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 訂正を認める。 特許第2877939号の請求項1に係る特許を維持する。 
理由 I.手続きの経緯
本件特許第2877939号に係る手続きの経緯の概要は、以下のとおりである。

平成2年10月19日 特許出願
平成11年1月22日 特許権の設定の登録
平成11年4月5日 特許掲載公報の発行
平成11年10月5日 特許異議の申立て
平成12年1月6日付 取消理由通知
平成12年3月10日 意見書及び訂正請求書の提出
平成12年3月17日付 申立人への審尋
平成12年5月26日 回答書の提出
平成12年9月11日付 訂正拒絶理由通知
平成12年11月21日 意見書(第2回)の提出

II.訂正の適否についての判断
1.訂正事項
a.特許請求の範囲の請求項1に「窒化アルミニウム粉末、界面活性剤、結 合剤及び有機溶媒と混合して」とあるのを、「、窒化アルミニウム粉末、 界面活性剤、結合剤及び有機溶媒の合計量100重量部に対して、1〜5 0重量部混合して」と訂正する。
b.明細書第3頁第3〜4行(特許掲載公報第3欄第7〜8行)に「窒化ア ルミニウム粉末、界面活性剤、結合剤及び有機溶媒と混合して」とあるの を、「、窒化アルミニウム粉末、界面活性剤、結合剤及び有機溶媒の合計 量100重量部に対して、1〜50重量部混合して」と訂正する。

2.訂正の目的の適否、新規事項の有無及び拡張・変更の存否
上記訂正事項aは、シートの一部の混合量を特定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とする訂正に該当する。
また、上記訂正事項bは、上記訂正に伴なって、発明の詳細な説明の記載部分に生じた不整合な記載を訂正して、特許請求の範囲の記載との整合を図るものであり、明りょうでない記載の釈明を目的とする訂正に該当する。
そして、これらの訂正は、願書に添付された明細書第8頁第3〜8(特許公報第4欄第46行〜第5欄第1行)に「混合されるグリーンシートは、窒化アルミニウム粉末、界面活性剤、結合剤及び有機溶媒の合計100重量部に対して1〜50重量部、さらに好ましくは10〜40重量部の範囲であることが、得られるグリーンシートの品質を安定化させ、かつ、製造効率を良好に維持するために好ましい。」と記載されていることから、願書に添付した明細書に記載した事項の範囲内であって、実質的に特許請求の範囲を拡張又は変更するものではない。

3.独立要件についての判断
(1)訂正後の発明
訂正請求書に添付した訂正明細書の請求項1に係る発明(以下、「訂正後の発明」という。)は、その特許請求の範囲の請求項1に記載された以下のとおりのものである。
「窒化アルミニウム粉末、界面活性剤、結合剤及び有機溶媒を混合したのち成形して得たシートの一部を、窒化アルミニウム粉末、界面活性剤、結合剤及び有機溶媒の合計量100重量部に対して、1〜50重量部混合してシートに成形することを特徴とする窒化アルミニウムグリーンシートの製造方法。」

(2)当審が通知した取消理由及び訂正拒絶理由の概要
(i)当審が通知した取消理由の概要は以下のとおりである。
本件の請求項1に係る発明は、その出願前に国内において頒布された下記の刊行物1ないし3に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
よって、本件の請求項1に係る特許は、拒絶の査定をしなければならない特許出願に対してなされたものである。

刊行物1:特開昭61-117150号公報(特許異議申立人が提出した甲 第1号証)
刊行物2:特開昭62-52180号公報(同甲第2号証)
刊行物3:特開昭59-155911号公報
(ii)当審が通知した訂正拒絶理由の概要は以下のとおりである。
訂正後の発明は、その出願前に国内において頒布された下記の刊行物1及び2に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
よって、訂正後の発明は、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

刊行物1:特開昭61-117150号公報(特許異議申立人が提出した甲 第1号証)
刊行物2:特開昭62-52180号公報(同甲第2号証)

(3)当審の判断
(i)各刊行物に記載された発明
刊行物1:
押出成形原料の製造方法に関し、
イ.「本発明は押出成形後乾燥されたセラミック原料を調整して再利用する 押出成形原料の製造方法に関するものである。」(第1頁左下欄下から第 7〜5行)、
ロ.「近年、電子部品としてのセラミック材料の発展には目さましいものが あり、アルミナを主成分とするアルミナ基板、チタン酸バリウムを主成分 とするセラミックコンデンサ、遷移金属酸化物を主成分とするサーミスタ 、酸化鉛、酸化ジルコニウム、酸化チタンを主成分とする圧電体、あるい は酸化亜鉛、酸化ビスマスを主成分とする電圧非直線性抵抗器など種々の ものが開発され、広範な用途に供されている。」(第1頁左下欄下から第 3行〜右下欄第6行)、
ハ.「押出成形の手順としては、上記バインダーとセラミック原料、水など とを混合した後、可塑性を持つ原料に練り上げ(通常混練あるいは混和と 呼ばれる)、これを押出成形機により押出成形し、乾燥させる。その後成 形体の打抜き、切断などの加工を行い、所定の形状を得ている。」(第2 頁左上欄第1〜6行)、
ニ.「この場合、特に押出成形されたシートから円板を打抜く場合など円板 打抜き後に残る屑の量は多く、その量はシート全体の30%〜50%に達 する。そこで、この打抜シート屑を再度、混練しなおして再利用すること が行なわれている。」(第2頁左上欄第7〜11行参照)、
ホ.「ところが、一度押出成形後乾燥された成形体は可とう性、保形性を持 っているため、粉砕して混練しても、かなり固い0.1〜2mm程度の粒
子が残存し、押出成形した場合、成形体中に粒状で存在し、従って成形体 が不均一となり、品質上問題があった。これに対して、従来打抜シート屑 などを加熱してバインダーを分解飛散させ、粉体にもどして使用するとか 、あるいは打抜シート屑をボールミルで粉砕し乾燥させて用いるなどの方 法がとられている。(第2頁左上欄第11〜20行)
と記載され、
ヘ.実施例では、セラミック原料として、酸化アルミニウム、メチルセルロ ース、グリセリン及び水を用いて混合し、混練して押出成形原料とし、こ れをシート状に押出成形後乾燥させ、円板を多数打抜き、打抜後のシート 屑を、メチルセルロースと多価グライコールを含む60℃に保たれた水溶 液中に30分浸漬した後、該水溶液中から取り出し、これを7℃に冷却し 、その後ニーダを用いて再び混練し、押出成形原料として、押出成形によ り、厚み1mmのシート状に成形したこと(第2頁左下欄)
が記載されている。
刊行物2:
「窒化アルミニウムグリーンシート」に関し、
ト.「本発明の窒化アルミニウム組成物は、前記窒化アルミニウム粉末、結 合剤、焼結助剤及びアルカリ土類金属ハロゲン化物をそれぞれ前記配合割 合で混合する他に必要に応じて解膠剤、可塑剤等を添加混合することを何 んらさまたげるものではなく、しばしば好適な態様として利用される。」
(第5頁右上欄第9〜14行)
チ.「該解膠剤は一般にセラミック粉末の成形の際に使用されることが公知 の化合物を特に限定されず用いうる。一般に好適に使用される代表的な解 膠剤を具体的に例示すれば例えば・・・;非イオン系の界面活性剤;・・ ・等である。」(第5頁右上欄下から第2行〜左下欄第7行)
リ.「本発明の窒化アルミニウム組成物の使用態様について以下に説明する
。該使用に際しては、一般に分散媒体中に分散させた形態で使用するのが 好適である。・・・上記分散媒体即ち溶媒は上記の分散性、溶解性及び乾 燥性の要求を満足するものであれば特に限定されないが、一般的には非水 系溶媒を選択するのが好適である。特に好適に使用される溶媒の代表的な ものを具体的に例示すれば、例えばアセトン、・・・等のケトン類、エタ ノール・・・等のアルコール類、ベンゼン、・・・等の芳香族炭化水素、 あるいはトリクロルエチレン、・・・等のハロゲン化炭化水素の1種又は 2種以上を混合して使用するのが好ましい。」(第5頁右下欄下から第3 行〜第6頁右上欄第1行)
ヌ.「前記のようにして得られた窒化アルミニウム組成物即ち前記(i)窒化 アルミニウム粉末、(ii)結合剤、(iii)焼結助剤 及び(iv)アルカリ土類金 属ハロゲン化物或いは必要に応じて可塑剤、解膠剤等を溶剤に混合し一般 には泥漿にする。この泥漿はシート成形機例えばドクターブレード方式の シート成形機を用いてフィルム例えば・・・等の合成樹脂製フィルム上に シート状に形成する。次いで該シートの成形物は室温〜溶剤の沸点間の温 度で該溶剤を飛散させて乾燥し、所謂窒化アルミニウムグリーンシートと する。(第6頁左下欄第2〜14行)
と記載されている。
刊行物3:
「セラミックグリーンシートの製造方法」に関し、
ル.「セラミック粉末と有機溶剤および有機結合剤とをボールミル等で混合 して一定の粘度を有するスラリーを作り、このスラリーをドクターブレー ド法等を用いてプラスチックキャリアテープ上にシート化し、これを乾燥 した後、プラスチックキャリアテープから剥離してセラミックグリーンシ ートを作る製造方法において、前記スラリーに界面活性剤を重量比で0. 5〜4.0%含有させることを特徴とするセラミックグリーンシートの製 造方法。」(特許請求の範囲第1項)
が記載されている。

(ii)対比・判断
訂正後の発明の目的は、従来窒化アルミニウムグリーンシートは、ロットごとにシートの見掛密度のバラツキが大きく、従って、これから得られる窒化アルミニウム焼結体の収縮率のバラツキが大きくなるという問題を解決し、品質の安定した窒化アルミニウムグリーンシートを製造することにあり、訂正後の発明では、一旦製造した窒化アルミニウムグリーンシートの一部を、グリーンシートの原料100重量部に対して、1〜50重量部混合して、再度グリーンシートを製造することにより、該目的を達成するものである(本件特許掲載公報第2欄下から第9行〜第3欄第4行、同第4欄第46行〜第5欄第1行参照)。そして、訂正後の明細書の「原料と混合される窒化アルミニウムグリーンシートは、焼結体の寸法に応じて切断された際に発生するシート屑、あるいはグリーンシートの端部でシートの厚みが所定の厚さを満足していない部分(すなわちシートの耳)を利用することが、シート屑のリサイクルと云う上からも最も経済的である。」という記載(同公報第4欄第40〜45行参照)から明らかなように、一旦製造された窒化アルミニウムのグリーンシートには、「シート屑」も含まれるものである。
そこで訂正後の発明と、刊行物1乃至刊行物3に記載された発明とを対比すると、これらの刊行物のいずれにも、一旦製造した窒化アルミニウムグリーンシートの一部を、グリーンシートの原料(窒化アルミニウム粉末、界面活性剤、結合剤及び有機溶媒)100重量部に対して1〜50重量部混合して、再度グリーンシートを製造する点については記載がない。
即ち、刊行物2、3に記載されているように、窒化アルミニウム粉末、界面活性剤、結合剤及び有機溶媒を混合したのち成形して、窒化アルミニウムグリーンシートとすることは、本件出願前にすでに周知であるが、刊行物2及び刊行物3には、一旦製造されたグリーンシートの一部をグリーンシートの原料(窒化アルミニウム粉末、界面活性剤、結合剤及び有機溶媒)に混合してグリーンシートを製造することについては何等示唆する記載もない。
また、刊行物1には、押出成形されたセラミックグリーンシートの打抜シート屑を再利用すること、即ち、即ち一旦製造されたセラミックグリーンシートから、セラミックグリーンシートを成形することが記載されているが、実施例の記載(記摘記事項ヘ)からも明らかなように、刊行物1に記載された発明では、シート屑に特定の処理を施し、その処理を施した原料のみを用いてセラミックグリーンシートとするものであって、セラミックグリーンシートと、セラミックグリーンシートの原料とを混合する点については記載がない。
さらに、刊行物1には、従来技術として、「打抜シート屑などを加熱してバインダーを分解飛散させ、粉体にもどして使用するとか、あるいは打抜シート屑をボールミルで粉砕し乾燥させて用いるなどの方法がとられている。」と記載されており(上記摘記事項ホ)、これらの従来技術の記載も、グリーンシートの打抜屑をセラミックグリーンシートの原料に混合して用いることを示唆するものではない。
よって、刊行物1にはグリーンシート屑を再利用することについては記載があるものの、グリーンシート屑に何らかの処理を施した後、それだけを用いてグリーンシートを成形するにとどまり、グリーンシート屑をグリーンシートの原料に混合することまでは記載がなく、それを示唆する記載もないといわざるをえない。
したがって、訂正後の発明が、刊行物1ないし刊行物3に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとすることはできない。

(4)まとめ
以上のとおりであるから、訂正後の発明は、特許出願の際独立して特許を受けることができるものである。

4.むすび
よって、上記訂正は、特許法120条の4第2項の規定及び同条第3項で準用する同法第126条第2項から第4項の規定に適合するので、当該訂正を認める。

III.特許異議の申立てについて
1.本件発明
前項II.に記載したとおり、平成12年3月10日付け訂正請求書による訂正請求は認められるところとなったので、本件の請求項1に係る発明は、同訂正請求書に添付した訂正明細書の特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定されるとおりのものである。(前項「II.3.(1)訂正後の発明」の項を参照)

2.申立理由の概要
特許異議申立人は、証拠として下記の甲第1号証及び甲第2号証を提出して、本件の請求項1に係る発明は、甲第1号証に記載されたものであるから特許法第29条第1項第3号の規定により特許を受けることができないものであり、また、本件の請求項1に係る発明は、甲第1号証及び甲第2号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件の請求項1に係る特許は取り消されるべきものである旨主張してる。

甲第1号証:特開昭61-117150号公報
甲第2号証:特開昭62-52180号公報

3.当審の判断
甲第1号証及び甲第2号証は、それぞれ前記刊行物1及び刊行物2と同一であり、各刊行物に記載された発明については、前述のとおりである。
本件の請求項1に係る発明は、前項「II.3.(3)当審の判断」の項で詳述したと同様の理由により、甲第1号証に記載された発明であるとすることができないばかりでなく、甲第1号証及び甲第2号証に記載された発明から当業者が容易に発明をすることができたものであるとすることもできない。

IV.むすび
以上のとおりであるから、特許異議申立ての理由及び証拠によっては、本件の請求項1に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件の請求項1に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
窒化アルミニウムグリーンシートの製造方法
(57)【特許請求の範囲】
(1)窒化アルミニウム粉末、界面活性剤、結合剤及び有機溶媒を混合したのち成形して得たシートの一部を、窒化アルミニウム粉末、界面活性剤、結合剤及び有機溶媒の合計量100重量部に対して、1〜50量量部混合してシートに成形することを特徴とする窒化アルミニウムグリーンシートの製造方法。
【発明の詳細な説明】
(産業上の利用分野)
本発明は、品質の安定した窒化アルミニウムグリーンシートの製造方法に関する。
(従来の技術)
窒化アルミニウム焼結体は、熱伝導率が高く、エレクトロニクス材料として脚光を浴びている。窒化アルミニウム焼結体を得る方法として、窒化アルミニウム粉末を乾式プレスにより成形して焼成する方法や窒化アルミニウム粉末を湿式成形していわゆるグリーンシートを得、これを焼成する方法等がある。後者におけるグリーンシートの製造は、一般に窒化アルミニウム粉末に界面活性剤、結合剤、有機溶媒等を混合して、ドクターブレード法等によりシートに成形する方法が採用されている。
(発明が解決しようとする課題)
しかしながら、このようにして製造された窒化アルミニウムグリーンシートは、ロットごとにシートの見掛密度のバラツキが大きく、従って、これから得られる窒化アルミニウム焼結体の収縮率のバラツキが大きくなるという問題があった。
(課題を解決するための手段)
そこで、本発明者らは、品質の安定した窒化アルミニウムグリーンシートを製造することを目的として鋭意研究を続けてきた結果、一旦製造した窒化アルミニウムグリーンシートの一部をグリーンシートの原料中に混合して再度グリーンシートを製造することにより上記の目的が達成されることを見いだし、本発明を提案するに至った。
即ち、本発明は、窒化アルミニウム粉末、界面活性剤、結合剤及び有機溶媒を混合したのち成形して得たシートの一部を、窒化アルミニウム粉末、界面活性剤、結合剤及び有機溶媒の合計量100重量部に対して、1〜50重量部混合してシートに成形することを特徴とする窒化アルミニウムグリーンシートの製造方法である。
本発明で使用される窒化アルミニウム粉末は公知のものが何ら制限なく使用しうる。一般に熱伝導性に優れた窒化アルミニウム焼結体を得るためには、酸素含有量や陽イオン不純物の少ないことが好ましい。即ち、AlNを窒化アルミニウム組成とするとき、不純物となる酸素含有量が1.5重量%以下、陽イオン不純物が0.3重量%以下である窒化アルミニウム粉末が好適である。さらに、酸素含有量が0.4〜1.3重量%、陽イオン不純物が0.2重量%以下である窒化アルミニウム粉末がより好適である。尚、本発明における窒化アルミニウムはアルミニウムと窒素の1:1の化合物であり、これ以外のものをすべて不純物として扱う。ただし、窒化アルミニウム粉末の表面は空気中で不可避的に酸化され、Al-N結合がAl-O結合に置き換わっているが、この結合Alは陽イオン不純物とはみなさない。従って、Al-N、Al-Oの結合をしていない金属アルミニウムは陽イオン不純物である。
また、本発明で用いられる窒化アルミニウム粉末の粒子は、粒子径の小さいものが揃っていることが好ましい。例えば、平均粒子径(遠心式粘度分布測定装置、例えば、堀場製作所製のCAPA500などで測定した凝集粒子の平均粒径を言う。)が5μm以下、さらには3μm以下であることが好ましい。
次に、本発明における界面活性剤は、公知のものが何ら制限なく採用できるが、特に、親水性親油性バランス(以下、HLBと略す。)が4.5〜18のもの、さらに好ましくは6.0〜10.0のものが窒化アルミニウムグリーンシートの成形密度が上がるために好適に採用される。尚、本発明におけるHLBはデービスの式により算出された値である。
本発明において好適に使用しうる界面活性剤を具体的に例示すると、カルボキシル化トリオキシエチレントリデシルエーテル、ジグリセリンモノオレエート、ジグリセリンモノステアレート、カルボキシル化ヘプタオキシエチレントリデシルエーテル、テトラグリセリンモノオレエート、ヘキサグリセリンモノオレエート、ポリオキシエチレンソルビタンモノラウレート、ポリオキシエチレンソルビタンモノオレエート等が挙げられる。本発明における界面活性剤は、2種以上を混合して使用しても良く、そのときのHLBは、それぞれの界面活性剤のHLBの相加平均で算出できる。
本発明における結合剤は、一般にセラミック粉末の成形に用いられるものが何ら制限されず使用できる。例えば、ポリビニルブチラール、ポリメチルメタクリレート、ポリエチルメタクリレート、ポリ2-エチルヘキシルメタクリレート、ポリブチルメタクリレート、ポリアクリレート、セルロースアセテートブチレート、ニトロセルロース、メチルセルロース、ヒドロキシメチルセルロース、ポリビニルアルコール、ポリエチレンオキサイド及びポリプロピレンオキサイド等の含酸素有機高分子体等の有機高分子体が1種または2種以上混合して使用される。結合剤として使用する有機高分子体の分子量は特に制限されないが、一般には3,000〜1,000,000、好ましくは5,000〜300,000のものを用いると、グリーンシートは柔軟かつ靭性に富み、種々の加工に際して取り扱いが容易となるために好適である。
本発明における有機溶媒としては、例えば、アセトン、メチルエチルケトン及びメチルイソブチルケトン等のケトン類;エタノール、プロパノール及びブタノール等のアルコール類;ベンゼン、トルエンおよびキシレン等の芳香族炭化水素類;あるいはトリクロロエチレン、テトラクロロエチレン及びブロムクロロメタン等のハロゲン化炭化水素類の1種または2種以上が混合して使用される。
これら界面活性剤、結合剤及び有機溶媒の使用量は、良好な窒化アルミニウムグリーンシートを製造するためには、通常、窒化アルミニウム粉末100重量部に対して、界面活性剤が0.01〜10重量部、好ましくは0.02〜3.0重量部であり、結合剤が0.1〜30重量部、好ましくは2.0〜15重量部であり、有機溶媒が20〜200重量部の範囲から選択される。
前記した各成分は混合され、一般に泥漿と呼ばれる粘稠なペンキ状のスラリーとされる。そして、ドクターブレード等のシート成形機を用いてシートに成形される。次いで、該シート状の成形物は室温〜溶媒の沸点の温度で溶媒を揮散させて乾燥され、窒化アルミニウムグリーンシートとなる。
本発明においてはこうして得られた窒化アルミニウムグリーンシートの一部が再び前記したグリーンシートの原料である窒化アルミニウム粉末、界面活性剤、結合剤及び有機溶媒と混合される。原料と混合される窒化アルミニウムグリーンシートは、焼結体の寸法に応じて切断された際に発生するシート屑、あるいはグリーンシートの端部でシートの厚みが所定の厚さを満足してない部分(すなわちシートの耳)を利用することが、シート屑のリサイクルと云う上からも最も経済的である。
混合されるグリーンシートは、窒化アルミニウム粉末、界面活性剤、結合剤及び有機溶媒の合計量100重量部に対して1〜50重量部、さらに好ましくは10〜40重量部の範囲であることが、得られるグリーンシートの品質を安定化させ、かつ、製造効率を良好に維持するために好ましい。
グリーンシートの一部は、窒化アルミニウム粉末、界面活性剤、結合剤及び有機溶媒を加えて混練して泥漿とし、上記した方法と同様にして窒化アルミニウムグリーンシートを製造することができる。
(効果)
本発明の方法によれば、窒化アルミニウムグリーンシートの見掛密度のロットごとのバラツキを小さくすることができる。従って、本発明の方法は窒化アルミニウムグリーンシートを工業的に製造する場合に有用な方法である。
(実施例)
本発明をさらに具体的に説明するために、以下に実施例および比較例を掲げるが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
実施例および比較例
内容積2lのナイロン製ポットに鉄心入のナイロンボールを入れ、次いで表1に示した窒化アルミニウム粉末100重量部、酸化カルシウム3.0重量部、界面活性剤としてヘキサグリセリンモノオレート2.0重量部、結合剤としてブチラール樹脂10重量部、トルエン100重量部を投入して十分にボールミルで混合し、白色の泥漿を得た。
こうして得られた泥漿を脱溶媒し、粘度を20000cpsに調製した後、ドクターブレード法によりシート成形を行い、室温で2時間、60℃で5時間乾燥して巾10cm厚さ0.8mmのシート成形体(グリーンシート)を作成し、その見掛密度を測定した。
この操作を10回繰返したところ、グリーンシートの見掛密度の平均値は2.21g/cm3であり、標準偏差は0.05であった。
一方、上記と同様にして得たグリーンシートの両端の肉厚部を切取り、これを表1に示した窒化アルミニウム粉末100重量部、酸化カルシウム3.0重量部、界面活性剤としてヘキサグリセリンモノオレート2.0重量部、結合剤としてブチラール樹脂10重量部、トルエン100重量部の合計に対して30重量部添加してボールミルで混合し、泥漿を得た。この泥漿から、上記と同様にしてグリーンシートを成形して、その密度を測定した。そして得られたグリーンシートを再び原料に混合する操作を合計10回繰返したところ、グリーンシートの密度の平均値は2.23g/cm3であり、標準偏差は0.02であった。

 
訂正の要旨 (1)訂正事項a
特許請求の範囲の減縮を目的として、特許請求の範囲の請求項1に「窒化アルミニウム粉末、界面活性剤、結合剤及び有機溶剤と混合して」とあるのを、「、窒化アルミニウム粉末、界面活性剤、結合剤及び有機溶剤の合計量100重量部に対して、1〜50重量部混合して」と訂正する。
(2)訂正事項b
明りょうでない記載の釈明を目的として、明細書第3頁第3〜4行(特許掲載公報第3欄第7〜8行)に「窒化アルミニウム粉末、界面活性剤、結合剤及び有機溶剤と混合して」とあるのを、「、窒化アルミニウム粉末、界面活性剤、結合剤及び有機溶剤の合計量100重量部に対して、1〜50重量部混合して」と訂正する。
異議決定日 2001-01-18 
出願番号 特願平2-279272
審決分類 P 1 651・ 121- YA (B28C)
最終処分 維持  
前審関与審査官 大工原 大二深草 祐一  
特許庁審判長 江藤 保子
特許庁審判官 唐戸 光雄
小林 明
登録日 1999-01-22 
登録番号 特許第2877939号(P2877939)
権利者 株式会社トクヤマ
発明の名称 窒化アルミニウムグリーンシートの製造方法  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ