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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  H01L
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  H01L
管理番号 1041326
異議申立番号 異議1998-71457  
総通号数 20 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 1996-08-20 
種別 異議の決定 
異議申立日 1998-03-26 
確定日 2001-06-11 
異議申立件数
事件の表示 特許第2659000号「薄膜トランジスタの製造方法」の請求項1に係る特許に対する特許異議の申立てについてされた平成12年2月10日付異議の決定に対し、東京高等裁判所において決定取消の判決(平成12年(行ケ)第125号、平成13年4月9日判決言渡)があったので、さらに審理のうえ次のとおり決定する。 
結論 特許第2659000号の請求項1に係る特許を維持する。 
理由 1.手続きの経緯
本件特許2659000号に係る出願は、昭和62年2月6日に出願された特願昭62年26677号の一部を特許法第44条第1項の規定により、平成7年12月18日に特願平7年328613号として特許出願され、平成9年6月6日に設定登録されたものである。その後、牧田由男、セイコーエプソン株式会社及び富士通株式会社からそれぞれ特許異議の申立があり、取消理由通知がなされ、その指定期間内である平成10年9月29日に訂正請求がなされ、この訂正請求に対して訂正拒絶理由通知がなされた。当審では、同特許異議の申立てにつき審理した上、平成12年2月10日に「訂正を認めない。特許第2659000号の特許を取り消す。」との決定をした。

これに対し特許権者は、平成12年4月17日、本件決定の取消しを求める本件訴えを東京高等裁判所に提起した(平成12年(行ケ)第125号)後、同年12月22日、本件明細書の記載を訂正する旨の訂正審判の請求をしたところ、当審で同請求を訂正2000-39163号事件として審理した上、平成13年2月14日、上記訂正を認める旨の審決をした。
しかして、この訂正審決の確定により特許請求の範囲の請求項1が下記のとおり訂正されたから、本件発明の要旨を本件訂正前の特許請求の範囲の請求項1記載のとおりである旨認定したことが結果的に誤りであったことに帰し、この要旨認定を前提とした本件決定は瑕疵があるものとして、審決を取消す旨の判決(平成13年4月9日言渡)があった。

2.本件発明の要旨
本件発明の要旨は、上記訂正審判において請求された訂正明細書の特許請求の範囲請求項1に記載された次のとおりのものである。(以下、「本件発明」という。)
「プラズマを発生させる放電室と、前記放電室で励起したプラズマ中のイオンをガラスからなる絶縁基板上の多結晶あるいは非晶質シリコン膜に照射する処理室と、前記放電室と前記処理室の間に設けられた電極と、前記電極と前記放電室を挟んで反対側に設けられた別の電極とを備えたイオンシャワードーピングのための装置を用い、
前記ガラスからなる絶縁基板上に、チャンネル部とソース、ドレイン部となる多結晶あるいは非晶質シリコン膜を形成した後、前記シリコン膜上に形成したマスクを用いて前記シリコン膜のソース、ドレイン部に、前記ガラスからなる絶縁基板から離れた位置にある前記放電室のプラズマ空間中で形成された周期律表III又はV族元素イオンを含む不純物イオン及び水素イオンを前記放電室のプラズマ空間中から前記別の電極の反対側へ引出し加速し前記処理室内のシリコン膜に同時に照射して、不純物イオンの注入によって発生した前記シリコン膜の欠陥を水素イオンで補償しながら、ソース、ドレイン領域を形成することを特徴とする薄膜トランジスタの製造方法。」

3 特許異議申立の概要(刊行物の項番は、取消理由通知と異なる。)
3.1 特許異議申立人:牧田由男は、甲第1号証(刊行物1:特開昭58-21864号公報)、甲第2号証(刊行物2:特開昭56-138921号公報)、甲第3号証(刊行物3:特開昭58-28867号公報)及び参考資料1(刊行物4:特開昭61-22669号公報)を提出し、本件発明は、甲第1〜3号証から当業者が容易になし得た発明であり、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、特許を取り消すべきであると主張している。

3.2 特許異議申立人:セイコーエプソン株式会社は、甲第1号証(刊行物5:特開昭61-48979号公報)、甲第2号証(刊行物6:特開昭61-14762号公報)、甲第3号証(刊行物7:特開昭63-194326号公報)及び参考資料(刊行物8:特許第2516951号公報)を提出し、本件発明は、甲第1号証又は甲第2号証と同一、もしく甲第1号証又は甲第2号証から当業者が容易になし得た発明であり、また、本件発明は親出願に係る特許第2516951号の請求項1に係る発明と同一であって不適法な分割出願なので出願日の遡及が認められず甲第3号証(親出願の公開公報)と同一であり、特許法第29条第1項第3号もしくは同法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、特許を取り消すべきであると主張している。

3.3 特許異議申立人:富士通株式会社は、甲第1号証(刊行物9:第47回応用物理学会学術講演会講演予稿集28p-M-1「低電圧イオンシャワーによる不純物ドーピング」昭和61年9月27〜30日)、甲第2号証(刊行物10:特開昭56-85877号公報)、甲第3号証(刊行物11:特開昭58-168278号公報)及び甲第4号証(刊行物12:特開昭58-216285号公報)を提出し、本件発明は、甲第1〜4号証から当業者が容易になし得た発明であり、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、特許を取り消すべきであると主張している。

4 分割出願が適法か否かの検討
特許異議申立人:セイコーエプソン株式会社は、本件発明は親出願に係る特許第2516951号の請求項1に係る発明と同一であって不適法な分割出願なので出願日の遡及が認められないと主張しているので、分割出願が適法か否かについて検討する。
本件発明の親出願に係る特許第2516951号の請求項1に係る発明(刊行物8参照:以下、「親発明」という。)は、次のとおりである。
「【請求項1】容器内に周期律表第III族元素又は第V族元素を含む不純物及び水素イオンを含有するプラズマ空間を形成し、前記プラズマ空間中から不純物イオン及び水素イオンを引き出して、基板上に形成された多結晶あるいは非晶質シリコン薄膜上に照射し、前記多結晶あるいは非晶質シリコン薄膜上に形成したマスクを用いて選択的に前記多結晶あるいは非晶質シリコン薄膜に前記不純物イオン及び水素オンを同時に導入することを特徴とする半導体装置の製造方法。」
本件発明と親発明を対比すると、本件発明の構成要素である「放電室と記処理室の間に設けられた電極と、前記電極と前記放電室を挟んで反対側に設けられた別の電極とを備えた」点、「ガラスからなる絶縁基板上」である点、及び照射するのが「ソース、ドレイン部」である点が、親発明にはなく、明らかに両者は同一ではない。
したがって、本件分割出願は適法であり、出願日の遡及は認められる。
よって、刊行物7:特開昭63-194326号公報(親出願の公開公報)は、本件特許出願前に頒布された刊行物とは認められない。

5 各刊行物に記載された発明
5.1 刊行物1:特開昭58-21864号公報
刊行物1は、「アクテイブ・マトリツクス基板」に関するものであり、以下の点が第5図と共に記載されている。
「ソース・ドレイン34,35にはN+拡散(PチャネルならP+)がなされ」(第2頁左下欄第13行〜第14行)
「透明基板40上に、・・・ゲート電極41・・・ゲート絶縁膜42・・・シリコン層43を形成する。(第5図(イ))この状態でネガレジストを上面に塗布し、透明基板の下側から全面露光・・・現像するとゲート電極41のパターン通りにレジスト45が残る。このレジスト45をマスクとして不純物イオンを打込むと、ソース・ドレイン部46にはイオンが打込まれて低抵抗層となり」(第2頁左下欄第18行〜第3頁左上欄第1行)

5.2 刊行物2:特開昭56-138921号公報
刊行物2は、「不純物導入層の形成方法」に関するものであり、以下の点が第2図と共に記載されている。
「被処理物が配置され、不純物又は不純物を含む物質が導入された容器内に放電を発生せしめ、該放電によって生ずる不純物又は不純物を含む物質のイオンを前記被処理物の表面に導入し、該被処理物表層部に不純物導入層を形成することを特徴とする不純物導入層の形成方法。」(特許請求の範囲)
「本発明は不純物導入層の形成方法にかかり、特に浅い不純物導入層の形成方法に関する。」(第1頁左下欄第11行〜第12行)
「又本発明の方法をイオン・ビーム・エッチング装置を用いて行う第2の実施例に於ては、第2図に示すように上部にマイクロ(μ)波導入窓8を有し、中間部にイオン加速電極9を有し、下部に絶縁された試料台10を有する真空容器3の試料台10上に被処理物例えばSi基板4を載置し、ガス導入管5から真空容器3内へ20[cc/分]の量で例えばPH3:H=1:99の組成を有する混合ガスを導入しながら、排気管6から排気を行って真空容器3内の混合ガスの圧力を例えば0.1[Torr]とする。
そして真空容器3の上部に配設された導波管11を通して、例えば2.45[GHz]のμ波を真空容器3内の混合ガスに照射し放電を起こさせ、この放電によって発生したP及びPとHの化合物のイオンを例えば600[V]の電位差を与えた加速電極9により加速し、イオン電流1[mA/cm2]の条件で例えば1[分]間Si基板4の表面に注入する。
そして上記注入条件に於てSi基板4の表層部に形成されるPの注入層即ちN+-Si層は、Pの表面濃度1020[個/cm2]程度で、深さ50[Å]程度の極めて薄い均一な層となり、この極めて薄いN+-Si層のP濃度や深さの値はP或るいはPの化合物を含むガスの組成,流量及び圧力やイオンの加速電圧,イオン電流等の条件を一定にすれば極めて再現性よく形成することができる。
なおこの不純物導入層は活性化するために熱処理を施す場合もある。
又上記イオン・ビーム・エッチング装置を用いる方法に於てはイオン電流の測定が可能であるので不純物導入層の不純物濃度を極めて精度よく制御することができる。
上記第1,第2の実施例に於ては、何れも本発明を被処理基板の一面全体に薄い不純物導入層を形成する場合について説明したが、本発明の方法はフォト・レジスト等のマスク材を用いて基板面に選択的に不純物導入層を形成する際にも適用することができる。」(第2頁右上欄第2行〜左下欄第19行)
「以上説明したように本発明の方法によれば、不純物濃度が充分に制御された浅い不純物導入層を正確な深さに形成することができる。
又本発明の方法に於ては被処理基板を載置する電極或るいは試料台全面に不純物イオンが同時に照射されるので、多数枚の被処理基板の同時処理が可能なので作業能率が大幅に向上するとともに、比較的安価なドライ・エッチング装置を兼用することができるので設備費を大幅に削減することができる。」(第2頁右下欄第19行〜第3頁左上欄第8行)
また、第2図の記載から、プラズマ空間は被処理物から離れた位置にあることは明らかである。
以上の記載から、刊行物2には、「上部にマイクロ(μ)波導入窓を有し、中間部にイオン加速電極を有し、下部に絶縁された試料台を有する真空容器の試料台上に被処理物を載置し、被処理物から離れた位置にあるプラズマ空間中で形成されたイオンをプラズマ空間中から引出して、被処理物に導入する不純物導入層の形成方法」が記載されている。

5.3 刊行物3:特開昭58-28867号公報
刊行物3は、「アクティブ・マトリックス基板」に関するものであり、以下の点が第6図と共に記載されている。
「透明基板60上にシリコン薄膜61を形成後ゲート絶縁膜62を・・・形成する。その後ゲート電極66を・・・形成して、このゲート電極をマスクにイオン打込み法、熱拡散法等により不純物濃度の高い低抵抗部ソース・ドレイン63,64・・・を形成する。」(第2頁左下欄第17行〜右下欄第4行)

5.4 刊行物4:特開昭61-22669号公報
刊行物4は、「薄膜トランジスタ及びその製造方法」に関するものであり、以下の点が記載されている。
「水素イオンをイオン注入によって、多結晶シリコン膜(2)に含有させる。・・・イオン注入によりダングリングボンドが減少する」(第3頁左上欄第2行〜第9行)

5.5 刊行物5:特開昭61-48979号公報
刊行物5は、「多結晶シリコン薄膜トランジスタの製造方法」に関するものであり、以下の点が第2図と共に記載されている。
「(1)多結晶シリコン薄膜を用いた薄膜トランジスタにおいて、ソース領域及びドレイン領域をPH3(フオスフイン)またはB2H6(ジボラン)を含む反応性気体をプラズマ分解することによりドーピングして形成することを特徴とする多結晶シリコン薄膜トランジスタの製造方法。
(2)H2(水素)によって希釈されたPH3又はB2H6を含む反応性気体をプラズマ分解することを特徴とする特許請求の範囲第1項記載の多結晶シリコン薄膜トランジスタの製造方法。」(特許請求の範囲)
「(技術分野)本発明は大面積基板に低温プロセス(約600℃以下)により、ソース領域及びドレイン領域を形成して作製される多結晶シリコン薄膜トランジスタの製造方法に関する。」(第1頁左下欄第16行〜右下欄第2行)
「[目的]本発明は、耐熱温度の低いガラス基板上に、欠陥密度の少ないNチヤネル及びPチヤネル多結晶シリコン薄膜トランジスタを大面積にわたって作製することを可能にさせることが目的である。」(第2頁右上欄第15行〜第19行)
「(実施例)第2図は、本発明の実施例を示す図である。同(a)に示すようにガラス基板7上に、多結晶シリコン薄膜8を形成する。その上にゲート絶縁膜9を堆積させ、次いでゲート電極10を形成する。続いて同図(b)で示すように該ゲート電極10をマスクとしてゲート絶縁膜9に示すような形にパターニングしソース領域及びドレイン領域となる多結晶シリコン薄膜の表面を露出させる。そして、Nチヤネル薄膜トランジスタを作製する場合は、PH3プラズマ雰囲気中に、Pチヤネル薄膜トランジスタを作製する場合はB2H6プラズマ雰囲気中にさらすことにより、ソース領域11及びドレイン領域12を形成する。この時、H+も同時に膜中に取り込まれる。プラズマ発生装置としては、誘導結合型あるいは容量結合型の通常のプラズマCVD装置を応用できる。前記PH3ガスあるいはB2H6ガスはH2にて希釈されているのでプラズマ雰囲気の温度は300℃以下におさえる。
これは、膜中に取り込まれたH+が外へ放出されるのを防ぐためである。その後同図(c)に示すように層間絶縁膜13を堆積させ、コンタクトホールをあけてソース電極14及びドレイン電極15を形成して薄膜トランジスタが完成する。
(効果)本発明により、低温(600℃以下)で、多結晶シリコン薄膜トランジスタを作製することができる。しかも不純物拡散にイオン打込み装置を使わずプラズマ分解を用いるので、費用を大幅に低減させることができ、さらに、大面積基板に薄膜トランジスタを作製することが可能となる。まず、不純物の拡散にイオン打込み装置を使わなくてすむということで装置にかかる費用は大幅に削減できる。プロセスは低温でよいので安価なガラス基板を用いることができる。」(第2頁左下欄第5行〜右下欄第19行)
「従ってプラズマ雰囲気中にはH+も多量に発生しており、多結晶シリコン薄膜を水素プラズマ処理する効果も得られる。多結晶シリコンを水素プラズマ雰囲気にさらすと、結晶粒界付近に存在するダングリングボンドがH+によって終端化されSi-H結合が生成される。ダングリングボンドはトラップ中心として働くが、そのトラップ中心が減少するため、従って易動度が増大するという効果がある。本発明を実施すれば、ソース領域及びドレイン領域を形成すると同時に多結晶シリコン薄膜を水素プラズマ処理することができるので易動度の向上が計れるという大きな効果が期待できるものである。一方、水素プラズマによりトラップ中心を終端化しながらPあるいはBをドーピングするので、不純物原子の活性化率も向上するものである。
以上述べてきたように、本発明は、信頼性のよい多結晶シリコン薄膜を用い、安価なガラス基板上に大面積にわたって薄膜トランジスタを作り込むことを可能にする。しかも、多結晶シリコンに本質的に多量に含まれるダングリングボンドを低減させながらソース領域及びドレイン領域を形成するという優れた不純物拡散方法を用いているので薄膜トランジスタの易動度を増大させるという効果もあわせて持っている。」(第3頁左上欄第10行〜右上欄第14行)
以上の記載から、刊行物5には、耐熱温度の低いガラス基板上に、欠陥密度の少ないNチヤネル及びPチヤネル多結晶シリコン薄膜トランジスタを大面積にわたって作製することを可能にさせることを目的とする「ガラス基板上に、多結晶シリコン薄膜を形成した後、その上に形成したゲート電極をマスクとして用いて前記多結晶シリコン薄膜のソース領域、ドレイン領域を、H2によって希釈されたPH3又はB2H6を含む反応性気体をプラズマ分解したプラズマ雰囲気中にさらすことによりソース、ドレイン領域を形成することを特徴とする多結晶シリコン薄膜トランジスタの製造方法。」が記載されている。

5.6 刊行物6:特開昭61-14762号公報
刊行物6は、「薄膜電界効果トランジスタの製造方法」に関するものであり、以下の点が第1図と共に記載されている。
「本発明の目的は、ゲート電極とソース・ドレインとを自己整合させた薄膜半導体装置の製造を簡便かつ短時間で行なう薄膜電界効果トランジスタの製造方法を提供することにある。」(第2頁右上欄第18行〜左下欄第1行)
「第1図(a)ではガラス基板(1)上に・・・a-Si膜(2)・・・酸化シリコン膜(3)・・・ゲート電極(4)を形成する。さらに・・・PH3プラズマ中で処理することによりゲート電極(4)をマスクとしてa-Si膜(2)中に不純物原子となるPを添加しソース領域(5)とドレイン領域(6)を形成する。・・・ドーピングガスとしては水素希釈による1000乃至10000ppmのPH3・・・PH3ガス圧は0.1乃至5Torr程度が良い。さらに放電は・・・高周波プラズマ(13.56MHz)であれば良い。・・・水素を含んだプラズマ中でドーピングさせるため、従来技術で示したような水素脱離の問題は生じないことはもちろんであり、更に・・・ドープ領域の膜質の改善が生じ良好なTFT特性が得られる。」(第2頁左下欄第20行〜第3頁左上欄第16行)。
「a-Si膜(2)の代わりに・・・多結晶半導体膜であっても良い。・・・不純物添加用ガスは、PH3のみに限らず、B2H6,AsH6等のドナー又はアクセプター不純物を含むガスであれば良い。」(第3頁右上欄第19行〜左下欄第7行)。

5.7 刊行物9:第47回応用物理学会学術講演会講演予稿集28p-M-1「低電圧イオンシャワーによる不純物ドーピング」昭和61年9月27〜30日
刊行物9は、「低電圧イオンシャワーによる不純物ドーピング」に関するものであり、以下の点が記載されている。
「前書き:MOSFETの高集積化に伴い、短チャンネル効果を低減するための浅い接合を形成する研究、さらに浅い接合を形成するための低エネルギーのイオン注入に関する研究・・・がなされている。我々は簡素な機構のイオンシャワー装置で1〜6kVの電圧で加速したイオンによる不純物のドーピングを行い、不純物の分布や電気的特性等を評価した。
実験内容:実験装置は、高周波(13.56MHz)と静磁場の印加により、10-3〜10-4Torrの圧力下で放電を行い、発生したプラズマから正イオンを引き出し、質量分離を行わず、1〜6keVにイオンを加速して試料への不純物ドーピングを行うものである。ドーピングガスには水素希釈0.5%のPH3及びB2H6を用い、試料として単結晶Si(p型,n型ρ〜10Ω・cm)を用いた。・・・加速電圧:3.5kV」(左欄第1行〜第11行)
「また同時に打ち込まれている水素は・・・ドーピング後の試料に950℃30分のアニールを行い」(左欄下から2行〜右欄第2行)

5.8 刊行物10:特開昭56-85877号公報
刊行物10は、「アモルファス半導体膜の処理方法」に関するものであり、以下の点が記載されている。
「a半導体の薄膜を形成した基板を設置した基板ホルダーと電極とを対向配置したベルジャー内を真空に排気したのち、水素ガスまたはハロゲン族元素を含むガスまたはIII,V族元素と水素の化合物であるB2H6またはPH3等のガスを導入し、上記基板ホルダーと電極間にグロー放電を生じさせ、上記グロー放電によって前記水素ガス,またはフッ素ガス及び上記B2H6ガス,PH3ガス等を分解励起させる。
そして該分解励起させて生じた水素イオン又は原子,分子,フッ素イオン又は原子,分子,またはB2H6ガスおよびPH3ガスの分解励起によって生じた水素イオン又は原子,B,P又はF原子又はイオン等を前記高周波電圧又はDCの印加によって生じた電界や拡散によって基板上のa半導体の膜中に導入し、」(第2頁左下欄第8行〜同頁右下欄第3行)
「水素原子をaSi膜中に導入する場合上記aSi膜上を所定のパターンを有するレジスト又は金属マスク等で被覆すれば、所定のパターンに応じ光導電性又は比抵抗が制御されたaSi膜が形成され」(第3頁左欄第15行〜第19行)

5.9 刊行物11:特開昭58-168278号公報
刊行物11は、「薄膜トランジスタの製造方法」に関するものであり、以下の点が第4図と共に記載されている。
「まず透明絶縁性基板41上に不透明金属ゲート電極42を形成した後、全面にゲート絶縁膜43を堆積する(a)。・・・次に全面に例えば低不純物濃度のp型の半導体薄膜44を堆積する(b)。半導体薄膜44としては、多結晶シリコン、マイクロクリスタルシリコン、単結晶シリコンを約1μm以下の厚さに形成する。・・・こうしてゲート電極42にセルファラインされたレジストパターンを形成し、イオン注入48を行ってn+型のソース領域49、ドレイン領域50を形成する(e)。」(第2頁右下欄第4行〜第3頁左上欄第17行)

5.10 刊行物12:特開昭58-216285号公報
刊行物12は、「透過型液晶表示パネル用薄膜トランジスタ」に関するものであり、以下の点が第5図と共に記載されている。
「透明絶縁基板501に多結晶シリコン502を形成・加工し、ゲート酸化膜503を熱酸化あるいはCVD法により形成する。次にゲート電極としてN型不純物を含む多結晶シリコン504を形成・加工し、前記ゲート電極をマスクとして、N型不純物をイオン注入することにより、ソース・ドレイン電極505を形成したのが同図(b)である。」(第2頁右下欄第4行〜第10行)

6 本件発明と各刊行物に記載の発明との対比・判断
本件発明と刊行物1〜6及び9〜12に記載の発明とを対比すると、刊行物1〜6及び9〜12には、本件発明の必須の構成要件である「放電室と処理室の間に設けられた電極と前記放電室を挟んで反対側に設けられた別の電極を備えたイオンシャワードーピング装置」が記載されておらず、さらにこれらを示唆する記載もない。また、本件発明は、前記構成要件を具備することにより、別の電極(背面電極)は、イオンが背面側に照射されることを防止し、結果として「均一なプラズマと所望のイオンを容易に得る事ができ、従って大面積基板に対し均一に短時間で薄膜トランジスタを製造することができる」(特許公報第5頁第10欄第18行〜第20行)という効果を奏するものである。
ゆえに、本件訂正発明が、上記刊行物1〜6及び9〜12に記載された発明と同一であるとも、また刊行物1〜6及び9〜12に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものともすることはできない。

7 むすび
以上のとおりであるから、特許異議の申立ての理由及び証拠によっては本件発明についての特許を取り消すことはできない。
また、他に本件発明についての特許を取り消すべき理由を発見しない。
したがって、本件発明についての特許は拒絶の査定をしなければならない特許出願に対してされたものと認めない。
よって、特許法等の一部を改正する法律(平成6年法律第116号)附則第14条の規定に基づく、特許法等の一部を改正する法律の一部の施行に伴う経過措置を定める政令(平成7年政令第205号)第4条第2項の規定により、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2000-02-10 
出願番号 特願平7-328613
審決分類 P 1 651・ 121- Y (H01L)
P 1 651・ 113- Y (H01L)
最終処分 維持  
前審関与審査官 中西 一友宮崎 園子  
特許庁審判長 内野 春喜
特許庁審判官 橋本 武
松本 邦夫
岡 和久
浅野 清
登録日 1997-06-06 
登録番号 特許第2659000号(P2659000)
権利者 松下電器産業株式会社
発明の名称 薄膜トランジスタの製造方法  
代理人 井桁 貞一  
代理人 内藤 浩樹  
代理人 坂口 智康  
代理人 高橋 隆二  
代理人 菅 直人  
代理人 岩橋 文雄  
代理人 元井 成幸  

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