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審決分類 審判 一部申し立て 2項進歩性  B29C
管理番号 1041369
異議申立番号 異議2001-70812  
総通号数 20 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 1992-08-17 
種別 異議の決定 
異議申立日 2001-03-12 
確定日 2001-06-11 
異議申立件数
事件の表示 特許第3087230号「電子写真複写機用クリーニング・ブレード」の請求項1及び6に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 特許第3087230号の請求項1及び6に係る特許を維持する。 
理由 I.手続き経緯・本件請求項1及び6に係る発明
本件特許第3087230号の請求項1及び6に係る発明(平成3年5月15日出願(優先権主張 平成2年5月21日 日本)、平成12年7月14日設定登録。)は、特許明細書の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1及び6に記載された次のとおりのものである。
【請求項1】分子量1000〜3000のポリオールとポリイソシアネートとから調製したイソシアネート基含有5〜8%のウレタンプレポリマーからなる主剤を、一般式(I)で示されるイミダゾール系硬化触媒の有効量と分子量60〜150の低分子量ポリオールとからなる硬化剤成分と共に、イソシアネート基/水酸基当量比1.0〜1.2にて、混合撹拌した後、又は混合撹拌しつつ、予め加熱した型内に注入することを特徴とする電子写真複写機用クリーニング・ブレードの製造方法。
【請求項6】分子量1000〜3000のポリオールとポリイソシアネートとから調製したイソシアネート基含有5〜8%のウレタンプレポリマーからなる主剤を、一般式(I)で示されるイミダゾール系硬化触媒の有効量と分子量60〜150の低分子量ポリオールとからなる硬化剤成分と共に、イソシアネート基/水酸基当量比1.0〜1.2にて、混合撹拌した後、又は混合撹拌しつつ、予め加熱した型内に注入して製造されてなる電子写真複写機用クリーニング・ブレード。
II.申立ての理由の概要
申立人加藤修一は、証拠として甲第1号証(特開昭62-134678号公報)、甲第2号証(特開平2-202509号公報)及び甲第3号証(岩田敬治編「ポリウレタン樹脂ハンドブック」第118〜119頁 日刊工業新聞社 昭和62年9月25日)を提出し、請求項1及び6に係る発明は、甲第1号証及び第2号証、あるいは甲第1号証及び甲第3号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定に違反したものであるから、特許を取り消すべき旨主張している。
III.甲各号証記載の発明
甲第1号証には、「ポリオール成分として分子量600〜3000の2官能ポリオール75〜95重量%と3官能ポリオール25〜3重量%とを分子主鎖中に含み、且つ、イソシアネート基を4〜10重量%含有するウレタンプレポリマーを硬化剤にて硬化させてなることを特徴とする電子写真複写機用クリーニング・ブレード。」(特許請求の範囲)に関して、「2官能ポリオールの分子量が600よりも少ないときは、得られるポリウレタンが十分な機械的強度と耐寒性とをもたない。他方、2官能ポリオールの分子量が3000よりも多いときは、得られるポリウレタンが十分な低永久歪性をもたず、更に、プレポリマーも粘度が高すぎるので作業性に劣る。」(第3頁左上欄第5〜11行)、「3官能ポリオールの分子量は、特に限定されるものではないが、通常2000以下が適当である。」(第3頁左上欄下から第5〜3行)、「ウレタンプレポリマーは、イソシアネート基含有量が4〜10重量%、好ましくは5〜8重量%の範囲である。」(第3頁左上欄第7〜9行)、「硬化剤も従来から知られているものを適宜に用いることができ、例えば、1,4-ブタンジオール、エタンジオール、ネオペンチルグリコール、・・・・等用いられる。」(第3頁左下欄下から第6行〜右下欄第1行)、「硬化剤として、好ましくは、3官能以上の多官能性硬化剤が一部併用される。かかる硬化剤の具体例として、例えば、1,1,1,-トリメチロールプロパン、グリセリン、1,2,6-ヘキサントリオール、1,2,4-ブタントリオール、トリメチロールエタン、・・・・・・等の3価及びこれ以上の多価アルコール、・・・・・アミノ多価アルコールを挙げることができる。」(第3頁右下欄第3〜末行)、「これらの硬化剤は、前記ウレタンプレポリマーに対して、通常、イソシアネート基とポリオール及び硬化剤の水酸基又はアミノ基の有する活性水素の当量数との比が1.00〜1.50になるように配合される。」(第4頁左上欄第6〜10行)、「このようにして得られた液状のゴム組成物は、例えば、射出成型法、押出成型法、遠心鋳造法或いは所望の金型に流延することにより板状に成型し、必要に応じて、熱処理及び熟成した後、使用する電子写真複写機の規格に合わせて裁断され、クリーニング・ブレードとして供される。」(第4頁左上欄第11〜16行)と記載され、その実施例には、2官能ポリオールとして分子量2000のポリカプロラクトンポリオール90重量%及び3官能ポリオールとして分子量約800のプラクセル308(ε-カプロラクタムのトリメチロールプロパンによる開環重合物、ダイセル化学工業(株)製)10重量%からなるポリオール混合物をポリイソシアネートと反応させてなるウレタンプレポリマー100重量部と硬化剤(1,4-ブタンジオール6重量部及びトリメチロールプロパン0.5重量部)とを混合し、予め約140℃に加熱した金型に注入し、1時間硬化させた後、成形物を金型より取出し、温度110℃の加熱炉で24時間熱処理した後、室温で10日間熟成し、厚さ2mmの電子写真複写機用ブレードを得たことが示されている。
以上の記載をまとめると、甲第1号証には、「ポリオール成分として分子量600〜3000の2官能ポリオール75〜95重量%と3官能ポリオール25〜5重量%とを分子主鎖中に含み、且つ、イソシアネート基を4〜10重量%、好ましくは5〜8重量%含有するウレタンプレポリマーを硬化剤と、イソシアネート基/水酸基当量比を1.0〜1.5にて、混合撹拌した後、予め加熱した型内に注入して硬化させる電子写真複写機用クリーニング・ブレードの製造法」及び「該製造方法により製造された電子写真複写機用クリーニング・ブレード」が開示されているといえる。
甲第2号証には、「長繊維マットとポリウレタン樹脂とからなる繊維強化ポリウレタン樹脂組成物において、ポリウレタン樹脂がa.有機ポリイソシアネート b.分子量300〜700の官能基数3以上を有するポリエーテルポリオール c.エチレングリコール及び/又は1,3ブタンジオール d.硬化触媒として一般式に示されるイミダゾール化合物からなりaとb+cの比率が130/100〜180/100重量比である、該ポリウレタン樹脂組成物と長繊維マットの比率が90/10〜50/50重量比であることを特徴とする繊維強化ポリウレタン樹脂組成物。」(特許請求の範囲、一般式の化学式の記載は省略)に関して、以下の記載がある。
「従来のウレタン化触媒を用いて反応性を高めると、液の増粘が早すぎてウレタン組成物が十分に長繊維マットに浸透せず硬化する。」(第2頁左上欄下から第2行〜右上欄第1行)、「本発明者等は、特定のウレタン組成物、特定の触媒、そして長繊維マットを組み合わせることにより低温硬化性及び、成形品の物性が優れていることを見い出し本発明に至った。」(第2頁右上欄第12〜15行)
甲第3号証には、ポリウレタン(以下、PUという。)を生成する反応において、触媒はPUの生成に大きく寄与するため、触媒の選択とそれらの適量の使用はきわめて重要で、配合液の反応混合物の流れ性、発泡時のセル形成、硬化の速さなどに影響を与えること(第118頁第4〜6行)、代表的なアミン系触媒の泡化反応活性と樹脂化反応活性、およびこれらの活性比を表3.30に示すと記載され、「表3.30 代表的なアミン触媒の反応活性」には、1,2-ジメチルイミダゾールは、TDI/ジエチレングルコールのゲル化反応定数は3.69、TDI/水システムの泡化反応による反応定数は0.28であることが示されている。
IV.対比・判断
1.本件請求項1に係る発明について
本件請求項1に係る発明(以下、「前者」という。)と甲第1号証に記載の発明(以下、「後者」という。)を対比すると、後者において硬化剤として例示され、実施例でも使用されている、1,4-ブタンジオール及びトリメチロールプロパンは、前者における、分子量60〜150の低分子量ポリオールからなる硬化剤に相当するから、両者は、「ポリオールとポリイソシアネートとから調製したイソシアネート基含有ウレタンプレポリマーからなる主剤を、分子量60〜150の低分子量ポリオールからなる硬化剤成分と共に、特定のイソシアネート基/水酸基当量比にて、混合撹拌した後、予め加熱した型内に注入して硬化させる電子写真複写機用クリーニング・ブレードの製造方法」で一致するが、
ウレタンプレポリマーの原料のポリオールについて、その分子量を前者は、「1000〜3000」と特定しているのに対して、後者は、「ポリオール成分として分子量600〜3000の2官能ポリオール」及び「3官能ポリオール」の2成分を要件必須とし、「3官能ポリオール」の分子量は特に限定されておらず、実施例では、2官能ポリオールの分子量2000、3官能ポリオールの分子量約800のもの使用している点(相違点a.)、ウレタンプレポリマーのイソシアネート基含有量について、前者は5〜8%と特定しているのに対して、後者は4〜10重量%好ましくは5〜8%としている点(相違点b.)、前者は、一般式で表されるイミダゾール系化合物を硬化触媒として有効量使用するのに対して、後者は、硬化触媒の使用については、何も記載していない点(相違点c.)、
成分の混合に際してのイソシアネート基/水酸基当量比を前者では、1.0〜1.2と特定しているのに対して、後者は1.0〜1.5としている点(相違点d.)、で相違している。
1-1.相違点a〜d.についての検討
(相違点a.)について
後者の実施例におけるポリオール成分について、2官能ポリオール及び3官能ポリオールの重量割合に基づいて、ポリオールの分子量を計算すれば、約1880となり、前者の分子量「1000〜3000」と重複するから、この点は実質的な相違点ではない。
(相違点b.)について
後者は、4〜10重量%好ましくは5〜8%としているから、好ましい範囲の5〜8%を選定することは、当業者において、容易になし得た限定にすぎない。
(相違点d.)について
イソシアネート基/水酸基当量比は、1.0となるようにするのが通常であるから、1.0〜1.5の範囲中で、好ましい範囲として、1.0〜1.2を選定する程度のことは当業者において、容易になし得た限定にすぎない。
(相違点c.)について
申立人は、本件請求項1に係る発明は、甲第1号証及び第2号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものと主張しているので、(相違点c.)について、甲第2号証を検討する。
甲第2号証の長繊維マットとポリウレタン樹脂とから繊維強化ポリウレタン樹脂組成物は、繊維強化されているため、このような組成物からのクリーニングブレードでは、電子写真の感光体表面に圧接し、感光体を摺擦してクリーニングする場合、電子写真の感光体表面を傷付けることが想定されるから、甲第2号証の繊維強化ポリウレタン樹脂組成物を電子写真複写機用クリーニングブレードに適用することは不適当と考えるのが当業者の技術常識と認められる。そして、甲第2号証におけるポリウレタン樹脂化の方法は、甲第1号証に記載された発明のプレポリマー法とは異なる一段反応であり、その上、甲第1号証に記載された発明は硬化触媒の使用を何も示唆していないのであるから、硬化触媒としての甲第2号証の一般式で示されるイミダゾール化合物を、甲第1号証に記載された、電子写真複写機用クリーニングブレードの製造法に、適用することは当業者が容易に想起できたこととはいえない。
また、甲第1号証に記載された、電子写真複写機用クリーニングブレードの製造法において、当業者の技術常識から見て、ポリウレタン化学的には硬化触媒の使用が想起し得たとしても、電子写真複写機用クリーニングブレードに要求される性能からすれば、硬化触媒として公知の化合物であれば、どのようなものでも使用できるというものではないから、単に硬化触媒として、一般式に示されるイミダゾール化合物が公知であることを根拠として、その化合物を、電子写真複写機用クリーニングブレードの製造法の硬化触媒とすることが、当業者が容易になし得たことであるとすることはできない。
本件請求項1に係る発明は、従来の型成形法は、予め接着処理を施した取付け具を装入した型内にウレタンプレポリマーを注入し、加熱硬化させてクリーニング・ブレードを製造する方法では、型の製作技術上、単一の型で成形し得るクリーニング・ブレードの数は極めて限られ、通常、一個乃至二個である。従つて、大量生産するには、膨大な数の型を必要とし、更に、ウレタンプレポリマーの型内硬化を行なわせるための大型の炉設備を必要とし、製作費用が極めて高価となるという問題を解決することを目的としてなされたものである。(本件特許公報段落【0003】〜【0004】参照)
そして、本件請求項1係る発明は、硬化触媒として、前記一般式(I)で表わされるイミダゾール誘導体を用いることによつて、ウレタンプレポリマーを70℃以上の温度において、数分、通常、2〜3分にて硬化させることができるという効果を奏するものである。
上記相違点c.の点を要件とすることにより、本件請求項1に係る発明は、電子写真複写機用クリーニング・ブレードとして、甲第1号証に記載された発明からは、予期し得ない効果を達成するものである。(比較例及び実施例1〜2参照。)
以上のとおりであるから、本件請求項1に係る発明は、甲第1号証及び甲第2号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易に想到し得たものとは認められない。
次に、申立人は、本件発明は、甲第1号証及び第3号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものと主張しているので、(相違点c.)について、甲第3号証を検討する。
甲第3号証には、ポリウレタンの製造において、硬化触媒の使用及び代表的アミン触媒の一例として、1,2-ジメチルイミダゾールが記載されている。
硬化触媒の使用を示唆する記載の何もない、甲第1号証に記載された、電子写真複写機用クリーニングブレードの製造において、当業者の技術常識から見て、ポリウレタン化学的には硬化触媒の使用が想起し得たとしても、電子写真複写機用クリーニングブレードに要求される性能からすれば、公知の硬化触媒化合物であれば、どのようなものでも使用できるというものではないから、単に硬化触媒として、1,2-ジメチルイミダゾールが公知であることを根拠として 、その化合物を、電子写真複写機用クリーニングブレードの製造法において、硬化触媒として選定することが、当業者が容易になし得たことであるとすることはできない。
以上のとおりであるから、本件請求項1に係る発明は、甲第1号証及び甲第3号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易に想到し得たものとは認められない。
2.本件請求項6に係る発明について
本件請求項6に係る発明は、本件請求項1に係る発明の製造方法により製造されてなる電子写真複写機用クリーニング・ブレードであるから、本件請求項6に係る発明と甲第1号証の「該製造方法により製造された電子写真複写機用クリーニング・ブレード」とを対比すると、「1.本件請求項1に係る発明について」で述べた一致点及び相違点と同様の一致点及び相違点がある。そして、「1.本件請求項1に係る発明について」で述べた理由と同様に、相違点c.の点で、本件請求項6に係る発明は、甲第1号証及び第2号証、あるいは甲第1号証及び甲第3号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとは認められない。
5.むすび
以上のとおりであるから、特許異議申立の理由及び証拠によっては、本件請求項1及び6に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件請求項1及び6に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2001-05-23 
出願番号 特願平3-110256
審決分類 P 1 652・ 121- Y (B29C)
最終処分 維持  
前審関与審査官 野村 康秀  
特許庁審判長 高梨 操
特許庁審判官 仁木 由美子
加藤 志麻子
登録日 2000-07-14 
登録番号 特許第3087230号(P3087230)
権利者 バンドー化学株式会社
発明の名称 電子写真複写機用クリーニング・ブレード  
代理人 牧野 逸郎  

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