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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  B32B
管理番号 1041385
異議申立番号 異議2000-71676  
総通号数 20 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 1991-03-20 
種別 異議の決定 
異議申立日 2000-04-25 
確定日 2001-06-11 
異議申立件数
事件の表示 特許第2966436号「複合材料の製造法」の請求項1に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 特許第2966436号の請求項1に係る特許を維持する。 
理由 1.手続きの経緯
本件特許第2966436号の発明は、平成1年8月3日に特許出願され、平成11年8月13日にその特許の設定登録がなされたが、その後、河井清悦より特許異議の申立てがなされ、平成12年8月17日付けで取消理由通知がなされ、その指定期間内である平成12年10月24日(平成12年10月26日特許庁受領)に特許異議意見書が提出されたものである。

2.本件発明
本件特許第2966436号の発明は、その特許請求の範囲請求項1に記載された下記のとおりのものと認める。
「長尺フィルムであるプラスチック基材表面に、巻取りながら酸素又は酸素を含むガスを励起したイオンビームを照射、基材表面の電荷を除去した後、又は照射と同時に金属又は金属化合物を蒸着する複合材料の製造法であって、基材表面のイオンビームの電流密度が10μA/cm2未満であることを特徴とする複合材料の製造法。」
(以下、「本件発明」という)

3、特許異議申立ての理由の概要
(1)特許異議申立人の主張の概略
特許異議申立人河井清悦(以下、「申立人」という)は、証拠として甲第1〜4号証を提出し、概略次のような主張をしている。
「本件発明は、甲第1及び2号証に記載された発明から当業者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定に違反して特許されたものであるから、本件発明に係る特許は取り消されるべきものである。」

4、申立人が提出した甲号証の記載事項
甲第1号証:特開昭58-12317号公報
a.「気相メッキにより金属薄膜磁気媒体を製造する方法において、薄膜形成面にイオン化された酸素を導入することを特徴とする薄膜磁気媒体の製法。」(特許請求の範囲)
b.「図は本実施例に使用する蒸着装置である。同図中、(1)は真空槽、(2)は槽(1)内に配された回転円筒キャンを示し、非磁性基体(例えばポリエチレンテレフタレートフイルム)(3)が供給手段(4)より回転円筒キヤン(2)の外周を縫って矢印方向に走行し巻取手段(5)に巻取られるようになされる。(6)はるつぼ(7)内に収納された蒸着源(例えばCo-Ni合金)で、電子銃(8)からの電子ビーム(9)による加熱で蒸発し、その金属蒸気(所謂蒸着ビーム)(10)がシャッター(11)を介して走行する非磁性基体(3)の限定された蒸着面(12)上に所要の入射角θをもつて斜め蒸着される。一方、イオンガン(13)が配され、これより蒸着面(12)に酸素イオン(14)が導入される。このイオンガン(13)はガス導入管のまわりに高周波コイルが配され高周波を印加することによりガスをイオン化し、このようにイオン化したガスを加速するガンによって構成されている。又、(15)は蒸着面(12)に同時に電子ビーム(16)を照射して酸素イオンの電荷を中和するための電子ガンである。」(第2頁左上欄6行〜右上欄4行)
c.「このとき蒸着面には図のイオンガン(13)により酸素イオン(02+)(14)が0.35mA/cm2の割合で加速電圧3kVで導入された。又このとき蒸着面には同時に電子ビーム(16)も照射され酸素イオン(14)の電荷を中和する様にしてある。」(第2頁右上欄11〜16行)
上記aの記載において、「薄膜磁気媒体」は「複合材料」であるといえるから、上記a〜cの記載を総合すると、甲第1号証には「長尺フィルムであるプラスチック基材表面に、巻取りながら酸素又は酸素を含むガスを励起したイオンビームを照射し、照射と同時に金属を蒸着する複合材料の製造法」の発明(以下、「甲第1号証の発明」という)が記載されていると認められる。
甲第2号証:特開昭61-295365号公報
d.「有機基板の表面に、約50〜2000eVのエネルギをもつ反応性イオンあるいは電子、または約0.2〜500eVのエネルギをもつ光子よりなる低エネルギ粒子を照射すること、上記基板の表面から約10〜300Åの深さ部分の化学構造が変化するまで上記照射を続けること、金属膜を、毎秒約1〜100Åの初期速度で上記の照射表面に付着させること、および上記基板上に所定の厚さの金属が付着するまで上記の金属付着を続けることからなる、金属-有機基板の接着力を改善する方法。」(特許請求の範囲)
e.「例2 やはりポリイミドに銅を付着させた。アルミニウムで被覆したシリコン・ウエハにポリイミドをスピン・コーティングした。銅を付着する前に、標準的スパッタ・イオン・ガンを使って250eVで酸素または窒素分圧2〜3×10-4torr.で、反応性窒素および酸素イオン衝撃をその場で実施した。イオン・ビーム密度は、一時間の間1マイクロアンペア/cm2のオーダであつた。この処理の後、処理したポリイミド表面に厚さ8ミクロンの銅層を付着させた。」(第7頁右上欄1〜11行)
甲第3号証:実願昭61-44911号の公開マイクロフィルム(実開昭62-157968号公報)
f.「同一の真空容器に、同一基板を照射する複数のイオン源と、蒸着装置とを備えたものにおいて、電極間距離が異なるイオン源のイオンビームを引き出すプラズマ電極と加速電極とを有することを特徴とする薄膜制作装置。」(実用新案登録請求の範囲)
甲第4号証:特開昭62-211369号公報
g.「蒸気化した第1の材料とイオン化した第2の材料とが反応することにより形成されてなることを特徴とする、化合物薄膜。」(特許請求の範囲第1項)

5、対比・判断
本件発明(前者)と甲第1号証の発明(後者)とを対比すると、両者は「長尺フィルムであるプラスチック基材表面に、巻取りながら酸素又は酸素を含むガスを励起したイオンビームを照射し、照射と同時に金属を蒸着する複合材料の製造法」である点において一致しているものの、前者では特に「イオンビームの電流密度が10μA/cm2未満である」という要件を有するのに対して、後者では、イオンビームの電流密度については特に記載されておらず、ただ、実施例(1)に「0.35mA/cm2(合議体注:350μA/cm2)」(上記cの記載参照)が開示されているだけであるという点で相違している。
そこでこの相違点につき検討する。
甲第2号証には、「プラスチック基板表面に、反応性イオンを照射し、金属を蒸着することからなる金属-有機基板間の接着力を改善する方法」が記載されていて、その実施例において、反応性窒素および酸素イオン衝撃を実施する際のイオン・ビーム密度を「一時間の間1マイクロアンペア/cm2のオーダ」とする旨の記載(上記eの記載参照)がなされている。
そこで、後者における実施例(1)のイオンビームの電流密度「350μA/cm2」に換えて、甲第2号証に記載されている「1マイクロアンペア/cm2のオーダ」を採用すれば、一応前者が構成されることになる。
しかしながら、一般的にいって、接着力の改善を目的としたエネルギー線の照射処理においては、処理強度が強いほど高い効果が得られるというのが技術常識であることから、後者における「350μA/cm2」というイオンビームの電流密度を、その350分の1である「1マイクロアンペア/cm2のオーダ」に減少させることを当業者が容易になしうることであるとはいえないし、さらに、上記甲第2号証の実施例において、イオン・ビーム密度を「1マイクロアンペア/cm2のオーダ」とするのは「一時間」という長時間であることから、このような長時間処理する場合におけるイオンビーム密度条件を、「長尺フィルムであるプラスチック基材を巻取りながらのイオンビーム照射処理」という、いわば短時間でのイオンビーム照射処理の場合におけるイオン・ビーム密度として採用することを当業者が容易になしうることであるといえない。
なお、甲第3及び4号証にも、イオンビームの照射処理において、イオンビームの電流密度を「10μA/cm2未満」とすることを示唆する記載はみられない。
そして、本件発明は、「イオンビームの電流密度が10μA/cm2未満である」という要件を含む特許請求の範囲請求項1記載の構成を具備したことにより、本件特許明細書記載のとおりの効果を奏し得ているものと認められる。
したがって、本件発明は、甲第1〜2号証に記載された発明から当業者が容易に発明をすることができたものであるとすることはできない。

6、むすび
上記のとおりであるから、特許異議申立ての理由及び証拠によっては、本件請求項1の発明に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件請求項1の発明に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2001-05-22 
出願番号 特願平1-202005
審決分類 P 1 651・ 121- Y (B32B)
最終処分 維持  
前審関与審査官 鴨野 研一  
特許庁審判長 高梨 操
特許庁審判官 喜納 稔
仁木 由美子
登録日 1999-08-13 
登録番号 特許第2966436号(P2966436)
権利者 凸版印刷株式会社
発明の名称 複合材料の製造法  

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