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審決分類 審判 全部申し立て 1項2号公然実施  H01F
審判 全部申し立て 発明同一  H01F
審判 全部申し立て 1項1号公知  H01F
審判 全部申し立て 2項進歩性  H01F
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  H01F
管理番号 1041497
異議申立番号 異議2001-70898  
総通号数 20 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 1998-05-22 
種別 異議の決定 
異議申立日 2001-03-23 
確定日 2001-07-09 
異議申立件数
事件の表示 特許第3091142号「角型チップインダクタ」の請求項1、2に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 特許第3091142号の請求項1ないし2に係る特許を維持する。 
理由 1.手続きの経緯
本件特許3091142号に係る出願は、平成8年10月31日に出願され平成12年7月21日に設定登録されたが、その後特許異議申立人コーア株式会社による異議の申立がなされたものである。

2.本件発明
本件特許3091142号の請求項1,2に係る発明(以下、「本件発明1,2」という。)は、その特許請求の範囲の請求項1,2に記載された事項により特定される次のとおりのものである。
「【請求項1】柱状の胴部と、この胴部の両端よりほぼ直角方向に延びる脚部とを有し、全体がコの字型またはH型をしたコアに対して、上記胴部に導線を巻回するとともに、該導線の両端を導出する電極を上記脚部の端部全面に形成し、前記胴部に面した側の電極の幅を0.2mm以下とするとともに、前記胴部と反対側の電極の幅を0.3mm以上で、かつ前記コアの高さの1/2以下としたことを特徴とする角型チップインダクタ。
【請求項2】上記脚部のエッジ部に面取り部を設けたことを特徴とする請求項1に記載の角型チップインダクタ。」

3.特許異議申立ての理由の概要
特許異議申立人は、証拠として甲第1号証(特開平9-219333号公報)、甲第2号証(原茂雄氏の陳述書)、甲第3号証(コーア株式会社のチップインダクタ(製品コード:KQ1008)の英文仕様書)、甲第4号証(KOA SPEER ELECTRONICS,INC.(社)で制作したチップインダクタKQ1008のカタログ)、甲第5号証(コーア株式会社で制作したチップインダクタのカタログ)、甲第6号証(株式会社フォノン明和が作成したインダクタ用電極付コア寸法図)、甲第7号証(客先承認を受けて返却された空芯チップインダクタKQ1008の納入仕様書)を提出し、本件発明1,2は、甲第1〜7号証に記載された公知公用の発明である、もしくは甲第1〜7号証に記載された公知公用の発明から当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第1項もしくは第2項の規定に違反してなされたものであるから、本件発明1,2の特許を取り消すべき旨主張している。

4.特許異議申立人が提出した甲各号証記載の発明
4.1 甲第1号証(特開平9-219333号公報)
甲第1号証は、チップインダクタおよびその製造方法に関し、図1〜図5と共に以下の点が記載されている。
【0003】 なお、磁界などの特性が低下したりコイルに半田が回り込んでしまうなどの問題が生じるため、鍔部16,16の対向する面である内面には電極が位置しないように形成している。
【0011】 図2において、1はチップインダクタで、このチップインダクタ1は、例えばフェライトや比透磁率μが約1のアルミナ(Al2O3)を主成分とする無機材料などにて、略四角柱状の巻回胴部2とこの巻回胴部2の両端に一体にフランジ状に形成した鍔部3,3とにて断面が略H字形状に成型されたコア4を有している。また、コア4の鍔部3,3の同方向の一周面、および鍔部3,3の端面の一部には、一周面から端面に亘って電極5,5がそれぞれ印刷形成されている。なお、これら電極5,5は、例えば銀(Ag)-パラジウム(Pd)系の導電ペースト8が被覆形成され、この導電ペースト8にて形成した電極としての電極膜10の表面に図示しないニッケル(Ni)メッキおよび半田(錫(Sn)-鉛(Pb)系)メッキがそれぞれ施されて多層に形成されている。なお、電極膜10のみ、あるいは半田メッキを施すのみでもよい。
【0012】 そして、このコア4の巻回胴部2には、ポリウレタン被覆電線などの導線6が巻回されてコイル7が構成されている。また、この導線6の両端部は、鍔部3,3に形成された電極5,5に半田などにてそれぞれ接続される図示しない引出線となっている。
【0015】 次に、このコア4を電極形成の導電ペースト8を貯溜する槽9まで搬送し、この槽9内の導電ペースト8の液面に対してコア4の軸方向が交差するように傾斜した状態で槽9に向けてコア4を移動する。そして、図3に示すように、一方の鍔部3の一周面および端面の一部を導電ペースト8に浸漬する。なお、この浸漬の際、鍔部3,3の対向する面である内面には導電ペースト8が付着しないようにする。
【0018】 次に、図4に示すように、コア4の巻回胴部2にポリウレタン被覆電線などの導線6を巻回してコイル7を巻装する。そして、この導線6の両端部の図示しない引出線を、鍔部3,3に形成した電極5,5に半田などにてそれぞれ接続する。

4.2 甲第2号証(原茂雄氏の陳述書)
甲第2号証は、甲第1号証の発明者である原茂雄氏の陳述書である。この陳述書には、大略以下の事項が記載されている。
・原茂雄氏は、平成8年2月13日以前に甲第1号証の発明に係るチップインダクタの開発を行い、特許出願に到ったこと。
・このチップインダクタがコーア株式会社において、製品コードKQ1008等として製品化されたこと。1996年(平成8年)3月よりサンプル出荷が開始され、本件特許出願時の10月には既に月産100万個の量産体制を確立していたこと。その製品がコーア株式会社において製造され、国内外の顧客に販売されたこと。
・製品の製造・販売の過程で、甲第3号証に示す仕様書が作成され、甲第4号証および甲第5号証に示すカタログが販売用資料として作成され、頒布されたこと。
・米国においては1996年5月にラスベガスで開催されたEDS(Electronic Distributor Show)’96にて、上記製品の発表が行われたこと。国内については、1996年10月のエレクトロニクスショー’96において、コーア株式会社の新商品として展示され、甲第5号証に示すカタログの配布を行ったこと。
・製品の外観形状については、秘密保持義務を一切課していなかったこと。

4.3 甲第3号証(コーア株式会社のチップインダクタ(製品コード:KQ1008)の英文仕様書)
英文仕様書の3/9頁及び4/9頁には、空芯チップインダクタの構造及び寸法が記載されている。すなわち、柱状の胴部と、この胴部の両端よりほぼ直角方向に延びる脚部とを有し、全体がH型をしたコアに対して、上記胴部には導線が巻回されている。そして、脚部の底面全面に形成した電極は、胴部に面した脚部の側面には形成されておらず、胴部と反対側の脚部の側面には、脚部の側面に沿って0.45±0.15(mm)の幅で形成されている。

4.4 甲第4号証(KOA SPEER ELECTRONICS,INC.(社)で制作したチップインダクタKQ1008のカタログ)
甲第4号証には、甲第3号証に記載したものと同様のチップインダクタKQ1008の構造が図示されている。

4.5 甲第5号証(コーア株式会社で制作したチップインダクタのカタログ)
甲第5号証には、その5頁右下の隅に、「1996年9月 KOA株式会社営業本部作成」との記載があり、甲第3号証に記載したものと同様のチップインダクタKQ1008の構造が図示されている。

4.6 甲第6号証(株式会社フォノン明和が作成したインダクタ用電極付コア寸法図)
甲第6号証は、株式会社フォノン明和により98.01.16に新規作成されたインダクタ用電極付コア寸法図であり、コア全体としての外形寸法が、軸方向長さ:2.50mm、幅:2.00mm、高さ:1.70mmであって、電極が、脚部の底面全面に形成されると共に、該電極が胴部と反対側の脚部側面において、0.3〜0.6mm、脚部側面の胴部側の面において、最大で0.2mmであること、また、脚部の各エッジ部はいずれも丸みを帯びて(曲率半径Rを付けて)いることが示されている。

4.7 甲第7号証(客先承認を受けて返却された空芯チップインダクタKQ1008の納入仕様書)
甲第7号証には、発行1996.9.4の記載があり、仕様確認の欄に96.9.20等の日付印が押されており、甲第3号証に記載したものと同様のチップインダクタKQ1008の構造が図示されている。

5.本件発明と甲各号証記載の発明との対比・判断
本件発明1,2と特許異議申立人が提出した甲第1,3,4,5,7号証記載の発明とを対比すると、甲第1,3,4,5,7号証のいずれも、脚部側面の胴部側の面には電極が形成されていない。すなわち、甲第1,3,4,5,7号証には、本件発明1,2の構成要件である「電極を脚部の端部全面に形成」する点が記載されていず、さらにこれらを示唆する記載もない。
また、従来、角形チップインダクタでは脚部側面の胴部側の面には電極を形成しない方が特性上よいとされていたことは、本件発明1,2のように脚部側面の胴部側の面にも電極を形成することに対する阻害要因と考えられるので、本件発明1,2は、甲第3,4,5,7号証から当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。。
そして、本件発明1,2は、前記構成要件を具備することにより、「電極ペーストが導線に付着することを防止するとともに、実装時の半田付着領域を大きくして接合強度を高くできる」という特許明細書記載の効果を奏するものである。
したがって、本件発明1,2が、甲第1,3,4,5,7号証記載の発明と同一であるとも、甲第3,4,5,7号証記載の発明から当業者が容易に発明をすることができたものとも認められない。

次に、甲第6号証は、電極が胴部と反対側の脚部側面において、0.3〜0.6mm、脚部側面の胴部側の面において、最大で0.2mmであること、また、脚部の各エッジ部はいずれも丸みを帯びて(曲率半径Rを付けて)いることが示されているが、本件特許出願日以前にコーア株式会社において採用されていたと認めるに足る記載はない。
さらに、甲第6号証の図面が、製品「KQ1008用」であるとの記載は上部枠外の肉筆部分だけであり、他の部分は肉筆でないことを勘案すると後から追記したとも考えられ、甲第6号証が、製品「KQ1008用」であるとの確証は得られない。
仮に、甲第6号証が、製品「KQ1008用」の製造図面であるとしても、甲第6号証には、「新規 98.01.16 新規作成」と記載されているように、本件特許出願後の1998.1.16時点において新規に作成された図面であることが明らかである。そして、他の甲第1,3,4,5,7号証の図面は、全て脚部側面の胴部側の面には電極が形成されておらず、且つ脚部の各エッジ部はいずれも丸みを帯びていないのであるから、甲第6号証の図面とは大きく異なっている。製品の型番が「KQ1008」と同じであっても、途中で一部変更することがないとはいえず、本件特許出願前にも甲第6号証の図面のとおりであったとは限らない。さらに、本件特許出願前に甲第6号証の図面のとおりに200万個近くも製造していたのであれば、当然本件特許出願前の日付の製造図面があってしかるべきであり、「制定年月日として、98.01.16(平成10年1月16日)の記載があるが、この図面の形状及び寸法はコーア株式会社の製品KQ1008に本件特許出願時前から採用されていたものである」との特許異議申立人の主張は、にわかには信じ難い。
また、上記事項に照らせば、甲第2号証における原茂雄の陳述書に基づいて証人尋問を行っても、甲第6号証に示されたものが、本件発明の出願時である平成8年10月31日以前に日本国内において公然知られていたか、公然実施をされていたとの確証が得られる可能性はきわめて小さいものといわざるを得ない。
したがって、甲第6号証に示されたチップインダクタが本件特許出願前に日本国内において公然知られていたとも、公然実施をされていたとも認められないとするのが相当である。

6.むすび
以上のとおりであるから、特許異議の申立ての理由によっては本件発明1,2についての特許を取り消すことはできない。
また、他に本件発明1,2についての特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2001-06-14 
出願番号 特願平8-290908
審決分類 P 1 651・ 161- Y (H01F)
P 1 651・ 111- Y (H01F)
P 1 651・ 113- Y (H01F)
P 1 651・ 121- Y (H01F)
P 1 651・ 112- Y (H01F)
最終処分 維持  
前審関与審査官 佐藤 匡  
特許庁審判長 内野 春喜
特許庁審判官 西脇 博志
橋本 武
登録日 2000-07-21 
登録番号 特許第3091142号(P3091142)
権利者 京セラ株式会社
発明の名称 角型チップインダクタ  
代理人 小杉 良二  
代理人 堀田 信太郎  
代理人 渡邊 勇  

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