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審決分類 審判 訂正 2項進歩性 訂正しない H04N
管理番号 1042637
審判番号 訂正2001-39025  
総通号数 21 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 1991-06-20 
種別 訂正の審決 
審判請求日 2001-02-13 
確定日 2001-07-23 
事件の表示 特許第2913704号に関する訂正審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.請求の要旨
本件審判の請求の要旨は、特許第2913704号発明(平成1年10月31日特許出願、平成11年4月16日設定登録)の明細書を審判請求書に添付した訂正明細書のとおりに訂正しようとするものである。
上記訂正明細書の特許請求の範囲の記載は次のとおりである。(以下、「訂正発明」という。)

【請求項1】撮像ビデオ信号を生成するカメラ部と該撮像ビデオ信号を記録媒体に記録する記録部と該撮像ビデオ信号を出力する出力部とを備えたビデオカメラ装置において、
上記カメラ部は、
撮像素子からの撮像アナログ信号をデジタル信号に変換するアナログ-デジタル変換手段と、
上記アナログ-デジタル変換手段からのデジタル信号から、デジタル輝度信号及びデジタル色差信号から構成されるデジタルコンポーネント信号を生成するデジタル信号処理手段と
を備え、
上記記録部は、
上記カメラ部から出力された上記デジタルコンポーネント信号を受け取り、該デジタルコンポーネント信号を上記記録媒体に記録できるようにデジタル的に処理するデジタル信号処理手段と、
上記記録部のデジタル信号処理手段から出力された上記輝度信号及び色差信号から構成されたコンポーネント信号で記録媒体に記録する記録手段と
を備え、
上記出力部は、
上記カメラ部から上記記録部に供給されているデジタルコンポーネント信号と同じデジタルコンポーネント信号を受け取り、当該デジタルコンポーネント信号からデジタルコンポジット信号をデジタル的に生成する手段と、
上記デジタルコンポジット信号から、コンポジット形式の出力ビデオ信号を生成する手段と
を備えたことを特徴とするビデオカメラ装置。

2.訂正拒絶理由
平成13年3月12日付けで通知した訂正拒絶理由の概要は、次のとおりである。
「訂正明細書の特許請求の範囲に記載された請求項1に係る発明は、刊行物1ないし4に基づいて当業者が容易に発明できたものであるから、特許出願の際独立して特許を受けることができるものではない。したがって、本件の審判請求は平成6年改正特許法附則第6条第1項の規定によりなお従前の例によるとされる特許法(平成5年改正法)第126条第3項の規定に適合しないから、本件の審判請求は成り立たない。」

3.引用刊行物の記載事項
(1)訂正拒絶理由に引用した刊行物1(実願昭60-106594号(実開昭62-14880号)のマイクロフィルム、審査段階で審査官が引用した引用文献)の3頁2行ないし5頁16行には、第3図ないし第5図に関して、以下の事項が記載されている。
「〔従来の技術〕
カメラ一体型VTRで、輝度信号と色信号とを夫々別々のチャンネルに同時に記録するようにしたものでは、第3図に示すような記録方式が採用される場合がある。
すなわち、第3図に示す記録方式は、テレビカメラより得られた輝度信号と色信号のうち色信号、例えば一対の色差信号R-Y,B-Yの時間軸を夫々通常の1/2に圧縮すると共に、これら圧縮された一対の色差信号を同図Bに示すように時分割して多重にして形成した時分割圧縮色差信号Cと輝度信号Yとを、第4図に示すように、互いに隣り合うチャンネルに同時に記録するようにしたものである。
PHは水平同期パルス、PY,PCは時間軸調整用の基準パルスである。
このような記述方式を採用したカメラ一体型VTRの回路構成の概略を第5図に示す。
第5図において、10はカメラ一体型VTRを示し、これはテレビカメラ部10Aとこのカメラ部10Aに連結自在になされたVTR(一体型用VTR)10Bとで構成され、レンズLを介して被写体が撮像体(撮像管もしくはCCDなどの半導体を使用した撮像素子、図では説明の便宜上撮像管)に投影され、これより得られた撮像信号は信号処理回路2に供給されて、例えば輝度信号Yと、一対の色差信号R-Y、B-Yが形成される。
輝度信号Y及び一対の色差信号R-Y、B-Yは出力端子3A〜3Cに導出され、これら出力端子3A〜3Cには一体型のVTRI0Bが取り外し自在に接続される。従って、このVTRI0Bが接続されたときには、第3図に示すように色差信号R-Y、B-Yが時間軸圧縮された状態で輝度信号Yと共に2チャンネル同時記録される。
なお、5は同期信号の発生器であって、これより出力された同期信号SYNCが加算器6に供給されて輝度信号Yに重畳される。
同期信号の重畳された輝度信号Y及び一対の色差信号R-Y、B-Yはさらにエンコーダ7に供給されて、標準方式のビデオ億号(コンポジットのテレビジョン信号)SCが形成される。このビデオ信号SCではアンプ8及び整合用の抵抗器(抵抗値は75Ω)9Dを経て外部出力端子3Dに供給される。この例では抵抗器9Dと並列にさらに、抵抗器9Eが接続されると共に、これより外部出力端子3Eが導出されて2チャンネル構成になされた場合を示す。
これら外部出力端子3D,3Eには標準方式のビデオ信号SCが得られるものであるから、ここに通常のVTR(図示せず)を接続することによって、標準方式のビデオ信号SCを記録することができ、またモニタを接続すれば撮像出力をモニタすることができる。」

(2)同刊行物2(特開平1-220593号公報、取消決定の刊行物1、異議申立人が提出した甲第1号証)には以下の事項が記載されている。
第3頁左下欄第5行ないし同頁右下欄第5行に、第1図に関して、
「撮像部12は、図示のように撮影レンズ16、絞り18、シャッタ20、撮像デバイス22、測光・測距機構、ビューファインダ(図示せず)及びこれらの駆動機構などの静止画像の撮影に必要な要素を有し、撮像レンズ16の合焦、絞り18の制御、シャッタ20の開閉などは制御回路24から制御線26を介して制御される。撮像デバイス22は、たとえばCCDもしくはMOSなどの固体撮像デバイス、又は撮像管が有利に使用される。固体撮像デバイスの場合は、その撮影セルアレイには色フィルタ28が装着され、同期発生回路30から駆動線32を通して受けるクロックに応動して色変調された映像信号をその出力34に点(画素)順次にて出力する。色フィルタ28の色セグメント配列は適宜のものが使用される。撮像デバイス22の映像信号出力34はアナログ・ディジタル変換器(ADC)36の入力に接続され、同変換器36はその入力34のアナログ形式の映像信号を、たとえば8ビットの対応するディジタルデータに変換してその出力38に出力する信号変換回路である。」
と記載されている。
第3頁右下欄第5ないし12行に、第1図に関して、
「出力38は信号処理回路40の入力に接続されている。信号処理回路40は、後に詳述するが、入力38の映像信号をRGBの色信号に分離し、例えば、白バランスの調整及び階調(γ)補正などの必要な映像信号処理をこれに施した後、その出力42に出力するか、またはさらに輝度信号Y及び色差信号R-Y、B-Yを形成してその出力42に出力する映像信号処理回路である。」
と記載されている。
第3頁右下欄第12ないし20行に、第1図に関して、
「出力42は帯域圧縮回路80の入力に接続されている。帯域圧縮回路80は、入力42の色信号RGBまたは輝度信号Yおよび色差信号R-Y、B-Yをデータ圧縮してその出力82に出力するデータ圧縮回路である。帯域圧縮回路80において行われるデータ圧縮の方法としては、例えば直交変換符号化、適応符号化、DPCM、予測符号化、ブロック符号化、ベクトル量子化等の1または複数が用いられる。」
と記載されている。
第6頁左上欄第7ないし14行に、
「制御回路24は制御線54を通してメモリ90に書込みアドレス、書込みイネーブル、チップセレクトおよびクロックなどの制御信号を出力する。これに同期して、メモリ90の順次の記録位置にはデータ線92に入力される映像信号が次々に書き込まれる。こうして1コマの画像のデータ圧縮された映像信号データがメモリ90の記憶領域にコンポーネント信号データの形で蓄積される。」
と記載されている。

(3)同刊行物3(特開昭59-211394号公報)には以下の事項が記載されている。
3頁左上欄4行ないし右上欄11行に、第2図に関して、
「ROM30には、輝度データY、色差データR-Y及びB-Yの他に端子35及び36からクロックパルスがアドレス入力として供給される。端子35からのクロックパルスは、第3図Aに示す周波数2fscのもので、端子36からのクロックパルスは、第3図Bに示す周波数fscのものである。これらのクロックパルスは、周波数4fscのサンプリングクロックと同期したものである。第3図に示すように、これらのクロックパルスが共に低レべルの1/4fscの期間をT1とし、次の期間をT2とし、この次の期間をT3とし、更に次の期間をT4とすると、期間T1でデータ変換テーブル31が選択され、期間T2でデータ変換テーブル32が選択され、期間T3でデータ変換テーブル33が選択され、期間T4でデータ変換テーブル34が選択される。この動作が繰り返されることによつて、ROM30の出力には、デイジタルコンポジットカラービデオデータが読出される。
このROM30の出力データがD/Aコンバータ37に供給され、アナログのコンポジットカラービデオ信号に変換されて、加算器38に供給される。この加算器38には、端子39及び40の夫夫からバースト信号及び同期信号が供給され、加算器38の出力がローパスフイルタ41を介して出力端子42に取り出される。このローパスフイルタ41は、ナイキストフイルタである。出力端子42には、例えばカラーモニタのビテオ入力端子が接続される。」
3頁右下欄5行ないし12行に、第4図に関して、
「コンポジットカラービデオデータの読出しは、前述の一実施例と同様にして行われる。
ROM50から読み出された同期信号及びバースト信号を含むコンポジットカラービデオデータがD/Aコンバータ37によってアナログ信号に変換され、ローパスフィルタ41を介して出力端子42に取り出され、図示せずも、カラーモニタに供給される。」
と記載されている。

(4)同刊行物4(特開昭62-186688号公報)には以下の事項が記載されている。
2頁右下欄6行ないし18行に、第1図に関して、
「カラーエンコーダ6では、3原色信号からマトリクス回路により、Y(輝度)信号、(R-Y)信号、(B-Y)信号が生成され、(R-Y)信号及び(B-Y)信号によりカラーサブキャリア信号が直交2相変調されることで、搬送色信号が形成され、Y信号と搬送色信号とが混合され、更に、同期信号及びバースト信号の付加がなされる。カラーエンコーダ6は、これらの信号処理をディジタルで行う。カラーエンコーダ6から得られるディジタルコンポジットビデオ信号がD/Aコンパータ7によりアナログ信号に変換され、出力端子8にアナログのNTSC方式のコンポジットビデオ信号が得られる。」
と記載されている。

4.対比
訂正発明と刊行物1に記載されたカメラ一体型VTRを対比すると、刊行物1に記載された「撮像体1及び信号処理回路2」、「VTR10B」、「エンコーダ7、アンプ8、及び整合用の抵抗器9D、9E」がそれぞれ訂正発明の「撮像ビデオ信号を生成するカメラ部」、「該撮像ビデオ信号を記録媒体に記録する記録部」、「該撮像ビデオ信号を出力する出力部」に相当し、刊行物1の「輝度信号Y及び一対の色差信号R-Y、B-Y」はコンポーネント信号であるから、
両者は、
「撮像ビデオ信号を生成するカメラ部と該撮像ビデオ信号を記録媒体に記録する記録部と該撮像ビデオ信号を出力する出力部とを備えたビデオカメラ装置において、
上記カメラ部は、
撮像素子からの輝度信号及び色差信号から構成されるコンポーネント信号を生成する信号処理手段と
を備え、
上記記録部は、
上記カメラ部から出力された上記コンポーネント信号を受け取り、輝度信号及び色差信号から構成されたコンポーネント信号で記録媒体に記録する記録手段と
を備え、
上記出力部は、
上記カメラ部から上記記録部に供給されているコンポーネント信号と同じコンポーネント信号を受け取り、当該コンポーネント信号からコンポジット信号を生成する手段と、
を備えたビデオカメラ装置。」
である点で一致し、以下の点で相違している。

相違点
訂正発明においては、カメラ部は、「撮像素子からの撮像アナログ信号をデジタル信号に変換するアナログ-デジタル変換手段と、上記アナログ-デジタル変換手段からのデジタル信号から、デジタルコンポーネント信号を生成するデジタル信号処理手段とを備え」、記録部は、「該デジタルコンポーネント信号を上記記録媒体に記録できるようにデジタル的に処理するデジタル信号処理手段と、上記記録部のデジタル信号処理手段から出力された上記輝度信号及び色差信号から構成されたコンポーネント信号で記録媒体に記録する記録手段とを備え」、出力部は、「当該デジタルコンポーネント信号からデジタルコンポジット信号をデジタル的に生成する手段と、上記デジタルコンポジット信号から、コンポジット形式の出力ビデオ信号を生成する手段を備え」ているのに対して、
刊行物1においては、カメラ部に撮像素子からの撮像アナログ信号からコンポーネント信号を生成する信号処理手段を備えることが記載され、記録部にデジタル的な手段が備えられているとは記載されておらず、また、出力部はコンポジット形式の出力ビデオ信号を形成することが記載されている点。

5.判断
刊行物2の第1図において、アナログ・デジタル変換器(ADC)36が「撮像素子からの撮像アナログ信号をデジタル信号に変換するアナログ-デジタル変換手段」であり、信号処理回路40が「上記アナログ-デジタル変換手段からのデジタル信号から、デジタルコンポーネント信号を生成するデジタル信号処理手段」であり、第1図の帯域圧縮回路80が「該デジタルコンポーネント信号を記録媒体に記録できるようにデジタル的に処理するデジタル信号処理手段」であり、制御回路24及びメモリ90が「デジタル信号処理手段から出力された輝度信号及び色差信号から構成されたコンポーネント信号で記録媒体に記録する記録手段」であることは当業者には明らかである。
そして、刊行物3の第2図において、ROM30が「デジタルコンポーネント信号からデジタルコンポジット信号をデジタル的に生成する手段」であり(なお、第2図ではD/Aコンバータ37でアナログ信号に変換した後に加算器38でバースト信号及び同期信号を供給しているが、第4図では同期信号及びバースト信号を含むコンポジットカラービデオデータがD/Aコンバータによってアナログ信号に変換されていることから明らかなように、バースト信号及び同期信号の供給をD/Aコンバータの前で行うか後で行うかは設計上の選択である)、D/Aコンバータ37が「上記デジタルコンポジット信号から、コンポジット形式の出力ビデオ信号を生成する手段」であることは当業者には明らかである。また、刊行物4において、第1図のカラーエンコーダ6内で「(R-Y)信号及び(B-Y)信号により・・・搬送色信号が形成され、Y信号と搬送色信号とが混合され、更に、同期信号及びバースト信号の付加がなされる・・・これらの信号処理をディジタルで行う」部分が「デジタルコンポーネント信号からデジタルコンポジット信号をデジタル的に生成する手段」であり、第1図のD/Aコンバータ7が「上記デジタルコンポジット信号から、コンポジット形式の出力ビデオ信号を生成する手段」であることも当業者には明らかである。
そして、刊行物2ないし4に記載されたようなデジタル技術を考慮して、刊行物1のカメラ一体型VTRを、カメラ部は、「撮像素子からの撮像アナログ信号をデジタル信号に変換するアナログ-デジタル変換手段と、上記アナログ-デジタル変換手段からのデジタル信号から、デジタルコンポーネント信号を生成するデジタル信号処理手段とを備え」、記録部は、「該デジタルコンポーネント信号を上記記録媒体に記録できるようにデジタル的に処理するデジタル信号処理手段と、上記記録部のデジタル信号処理手段から出力された上記輝度信号及び色差信号から構成されたコンポーネント信号で記録媒体に記録する記録手段とを備え」、出力部は、「当該デジタルコンポーネント信号からデジタルコンポジット信号をデジタル的に生成する手段と、上記デジタルコンポジット信号から、コンポジット形式の出力ビデオ信号を生成する手段を備え」るようにすることは当業者が容易に想到できたことである。
したがって、訂正発明は刊行物1ないし4に基づいて当業者が容易に発明できたものであるから、特許出願の際独立して特許を受けることができるものではない。

6.意見書における請求人の主張について
当審は平成13年3月12日付け訂正拒絶理由書において上記と実質的に同一の認定判断を行い、これについて意見がありましたら意見書を提出してくださいと請求人に通知した。請求人は平成13年5月22日付けで意見書を提出したが、訂正拒絶理由通知の認定判断に直接反論することなく、独自の観点で訂正発明と刊行物1ないし4(引用例1ないし4)とを対比し、「本件訂正発明は、引用例1〜4の記載に基づいて当該技術分野の通常の知識を有する者が容易に発明できたものではありません。」(意見書9頁17行ないし21行)と主張しているので、以下、意見書における請求人の主張について検討する。

(1)請求人は意見書5頁11行ないし18行で、
『また、本件訂正発明は、さらに、Aの構成として記載されている「撮像ビデオ信号を記録媒体に記録する記録部」及びC1の構成として記載されている「上記デジタルコンポーネント信号を上記記録媒体に記録できるようにデジタル的に記録できるようにデジタル的に処理するデジタル信号処理手段」という特徴のある構成を備えている。つまり、撮像ビデオ信号を記録する記録部の処理に焦点を当てると、上述した構成A及びC1は、カメラ部から供給されたコンポーネント形式のビデオ信号を、記録媒体に記録できるようにデジタル的に信号処理する機能を実現するための構成である。』
と主張しているが、請求項1には「デジタル的に記録できるように」とは記載されていないから、請求人の主張は誤りである。
そして、本件特許公報には、「PF-DS(30a)でダウンサンプルされた輝度信号YD=Y4はデジタル-アナログ変換器(32)に供給されてアナログの輝度信号Yに変換される。」(特許公報4頁7欄22行ないし25行)、「CTDMをデジタル-アナログ変換器(34)に供給してアナログ信号に変換し、上記したアナログ変換された輝度信号とこの色差信号は共にFM変調器(18)及び(25)でFM変調され、互いにアジマス角の異なる輝度信号記録ヘッド(21)と色差信号記録ヘッド(28)に供給される。」(特許公報4頁8欄11行ないし16行)と記載されていることから明らかなように、本件明細書にはアナログ信号に変換してから記録することは記載されているが、デジタル的に記録することは記載されていないから、仮に、請求人が「デジタル的に記録するように」を追加する訂正審判の請求を行ったとしても新規事項違反であるからそのような訂正は認められないことになる。

(2)請求人は意見書6頁5行ないし26行で、
『この引用例2に記載されたデジタル電子スチルカメラは、シャッタ開放によって得られた1コマの静止画像(スチル画像)を処理する装置であるので、撮影した1コマの静止画像をデジタル信号処理し記録媒体に記録するための時間的な規制は特にない。つまり、撮影した静止画像信号を確実に記録できるのであれば、記録のための信号処理にかかる時間は1秒でもあっても良いし2秒であっても良く、ある決まった短い所定期間内に処理しなければならないという時間的規制は全くない。一方、本件訂正発明のようなビデオカメラ装置は、30フレーム/秒からなる動画のビデオ信号を処理する装置であるので、各フレームを1/30秒という所定期間内に信号処理しなくてはいけないという時間的な規制がある。
つまり、引用例2に記載された電子スチルカメラの帯域圧縮回路80は静止画像を信号処理する回路であって、本件訂正発明の記録手段はビデオ信号を処理する回路であるので、信号処理される対象物が、静止画像(スチル映像信号)とビデオ信号という点において根本的に異なる。従って、引用例2の帯域圧縮回路80における「静止画像を記録媒体に記録できるようにするための信号処理」と、本件訂正発明の記録手段における「ビデオ信号を記録媒体に記録できるようにするための信号処理」とは、明らかに異なる。
従って、この引用例2と本件訂正発明とを対比すると、引用例2には、撮像された静止画像信号を記録媒体に記録できるようにデジタル信号処理することについては記載されているが、本件訂正発明の構成A、及びC1の構成によって実現される(ii)「カメラ部から供給されたデジタルのビデオ信号を記録媒体に記録できるように信号処理する機能」に対応する構成については、全く記載されておらずまた示唆もされていない。』
と主張しているが、本件請求項1には、「30フレーム/秒からなる動画のビデオ信号を処理する装置」とは記載されていないから、請求人の主張は請求項に基づいた主張ではない。
そして、本件特許公報に、「従来のカメラ一体型VTRや、電子スチルカメラ等のビデオカメラ装置では・・・」(特許公報2頁3欄14行ないし15行)と記載されていることからすれば、訂正発明の「ビデオカメラ装置」を「30フレーム/秒からなる動画のビデオ信号を処理する装置」と限定して解釈することもできない。(請求項をこのように訂正するように訂正審判の請求を行えば訂正が認められることを示唆するものではない。)
したがって、訂正発明が「30フレーム/秒からなる動画のビデオ信号を処理する装置」であることを前提とした上記請求人の主張は根拠がない。
また、請求人は刊行物2に記載されたものが「撮影した静止画像信号を確実に記録できるのであれば、記録のための信号処理にかかる時間は1秒でもあっても良いし2秒であっても良く、」と主張しているが、請求人は1秒ないし2秒でなければならないという証拠は提出していない。そして、処理時間は信号処理手段の処理速度に依存するものであるから、刊行物2に記載されたものにおいても処理速度が大きい信号処理手段を用いれば高速化できると考えられるから、この点からも請求人の主張は根拠がない。

(3)請求人は意見書7頁10行ないし24行で、
『・・・仮に、引用例1のVTR10Bの内部に設けられている信号処理回路の部分を引用例2の帯域圧縮回路80に置き換えたとしても、引用例1の回路は動作しない。なぜなら、上述したように、引用例2に記載された電子スチルカメラの帯域圧縮回路80は静止画像を信号処理する回路であって、引用例1のVTR10Bの信号処理回路はビデオ信号を処理する回路であるので、信号処理される対象物が、静止画像(スチル映像信号)とビデオ信号という点において根本的に異なるからである。つまり、帯域圧縮回路80(引用例2)における「静止画像を記録媒体に記録できるようにするための信号処理」と、VTR10B(引用例1)における「ビデオ信号を記録媒体に記録できるようにするための信号処理」とは、明らかに異なる。
従って、つまり、静止画像を記媒体に記録するための処理を行う帯域圧縮回路80を、容易に、ビデオ信号を記録媒体に記録するための理を行うVTR10Bに置き換えることは不可能であって、引用例1のVTR10Bの内部に設けられているであろう信号処理回路の部分を引用例2の帯域圧縮回路80に置き換えたカメラ一体型VTR装置は正常に動作しない。』
と主張している。
上記請求人の主張は、訂正発明が「30フレーム/秒からなる動画のビデオ信号を処理する装置」であることを前提としたものであるが、(2)で述べたように、訂正発明はそのようなものに限定されたものではないから、上記請求人の主張はその前提において誤っている。
仮に、訂正発明が「30フレーム/秒からなる動画のビデオ信号を処理する装置」であると仮定したとしても、以下に述べるように請求人の主張は誤りである。
上記(2)で述べたとおり、刊行物2に記載されたものの処理時間が1秒ないし2秒でなければならないという証拠はなく、刊行物2に記載されたものにおいても処理速度が大きい信号処理手段を用いれば高速化できると考えられる。そして、刊行物2に記載された技術は静止画像に関するものではあるが、画像処理に関する技術である点で刊行物1に記載された発明と共通しており、刊行物2に記載された技術を刊行物1に記載された発明に応用することは当業者にとって格別困難なことではない。したがって、請求人の主張は誤りである。
また、一般に、アナログ技術をデジタル化することは本件出願前から行われており、動画のビデオ信号に関しても、動画のビデオ信号を処理していることが明らかな刊行物4に「カラーエンコーダ6では、3原色信号からマトリクス回路により、Y(輝度)信号、(R-Y)信号、(B-Y)信号が生成され、(R-Y)信号及び(B-Y)信号によりカラーサブキャリア信号が直交2相変調されることで、搬送色信号が形成され、Y信号と搬送色信号とが混合され、更に、同期信号及びバースト信号の付加がなされる。カラーエンコーダ6は、これらの信号処理をディジタルで行う。」(2頁右下欄6行ないし14行)と記載されていることからも明らかなように、動画のビデオ信号をデジタル処理することも本件出願前に当業者に知られていたことである。
そして、刊行物1においては、「撮像体1及び信号処理回路2」(訂正発明の「カメラ部」に相当する。)がコンポーネント信号を生成し、「VTR10B」(訂正発明の「記録部」に相当する。)が「撮像体1及び信号処理回路2」(訂正発明の「カメラ部」に相当する。)から出力されたコンポーネント信号を受け取っているのである。そして、刊行物2においては、信号処理回路40までが刊行物1の「撮像体1及び信号処理回路2」に対応し、帯域圧縮回路80以降が刊行物1の「VTR10B」に対応し、信号処理回路40からのデジタルコンポーネント信号を帯域圧縮回路80が受け取っているのである。
上記のように一般にアナログ技術をデジタル化することは本件出願前から行われているのであり、また、動画のビデオ信号のデジタル処理も当業者に知られているなかで、刊行物1と画像処理技術において共通する刊行物2に記載されたデジタル技術を参考にして、動画のビデオ信号を処理する刊行物1においても、「撮像体1及び信号処理回路2」(訂正発明のカメラ部に相当する。)がデジタルコンポーネント信号を生成し、「VTR10B」(訂正発明の「記録部」に相当する。)が「撮像体1及び信号処理回路2」(訂正発明の「カメラ部」に相当する。)から出力されたデジタルコンポーネント信号を受け取るようにすることは、当業者にとって格別困難なことではない。
したがって、請求人が主張するように、訂正発明が「30フレーム/秒からなる動画のビデオ信号を処理する装置」であると仮定したとしても、請求人の主張は誤りである。

(4)請求人は意見書8頁8行ないし9頁15行で、
『・・・本件訂正発明は、C1の構成として記載されている「上記カメラ部から出力された上記デジタルコンポーネント信号を受け取り」及びD1の一部の構成として記載されている「上記カメラ部から上記記録部に供給されているデジタルコンポーネント信号と同じデジタルコンポーネント信号を受け取り」という特徴のある構成を備えている。本件訂正発明は、これによって、”カメラ部で生成されたコンポーネント形式のデジタルビデオ信号を、コンポジット形式のデジタルビデオ信号を生成する出力部とビデオ信号を記録する記録部との両方にデジタル的に供給する機能”を実現するものである。
ここで、この引用例3及び4は、引用例1及び2に記載されていない部分を補うために引用された引用例であるが、この引用例3及び引用例4には、コンポーネント形式のビデオ信号をデジタル的に生成し、そのコンポーネント形式のビデオ信号からコンポジット形式のビデオ信号をデジタル的に生成することしか記載されておらず、(i)「コンポジット形式のビデオ信号を形成する出力部とビデオ信号を記録する記録部との両方に、カメラ部から出力されたコンポーネント形式のビデオ信号を伝送するという機能」に対応する構成については一切記載されていない。また、ビデオ信号の記録について言及していない引用例3及び引用例4には、(ii)「カメラ部から供給されたコンポーネント形式のビデオ信号を、記録媒体に記録できるようにデジタル的に信号処理する機能」に対応する構成については全く記載されていないことは言うまでもない。
よって、引用例1から引用例4のいずれの引用例にも、本件訂正発明の構成A、C1及びD1の構成によって実現される(i)「コンポジット形式のビデオ信号を形成する出力部とコンポーネント形式でビデオ信号を記録する記録部との両方に、カメラ部から出力されたコンポーネント形式のビデオ信号をデジタル形式で伝送するという機能」を実現するための構成は記載されておらず、また、引用例1のカメラ一体型VTRの記載を基に、引用例2ないし4に記載されたデジタル技術を考慮したとしても、(i)「コンポジット形式のビデオ信号を形成する出力部とコンポーネント形式でビデオ信号を記録する記録部との両方に、カメラ部から出力されたコンポーネント形式のビデオ信号をデジタル形式で伝送するという機能」を実現できるものではない。
さらに、引用例1から引用例4のいずれの引用例にも、本件訂正発明の構成A、及びC1の構成によって実現される(ii)「カメラ部から供給されたコンポーネント形式のビデオ信号を、記録媒体に記録できるようにデジタル的に信号処理する機能」を実現するための構成は記載されていらず、また、引用例1のカメラ一体型VTRの記載を基に、引用例2ないし4に記載されたデジタル技術を考慮したとしても、(ii)「カメラ部から供給されたコンポーネント形式のビデオ信号を、記録媒体に記録できるようにデジタル的に信号処理する機能」は実現できるものではない。』
と主張している。
しかし、刊行物1においては、「VTR10B」(訂正発明の「記録部」に相当する。」)が「撮像体1及び信号処理回路2」(訂正発明の「カメラ部」に相当する。)から出力されたがコンポーネント信号を受け取り、「エンコーダ7、アンプ8、及び整合用の抵抗器9D、9E」(訂正発明の「出力部」に相当する。)が「撮像体1及び信号処理回路2」(訂正発明の「カメラ部」に相当する。)から「VTR10B」(訂正発明の「記録部」に相当する。」)に供給されているコンポーネント信号と同じコンポーネント信号を受け取っているのである。
そして、(3)で指摘したように、一般にアナログ技術をデジタル化することは本件出願前から行われているのであり、また、動画のビデオ信号のデジタル処理も当業者に知られているなかで、刊行物1と画像処理技術において共通する刊行物2に記載されたデジタル技術を参考にして、動画のビデオ信号を処理する刊行物1においても、「撮像体1及び信号処理回路2」(訂正発明のカメラ部に相当する。)がデジタルコンポーネント信号を生成し、「VTR10B」(訂正発明の「記録部」に相当する。)がカメラ部から出力されたデジタルコンポーネント信号を受け取るようにし、また、刊行物3、4に記載されたデジタル技術を考慮して、「エンコーダ7、アンプ8、及び整合用の抵抗器9D、9E」(訂正発明の「出力部」に相当する。)が「撮像体1及び信号処理回路2」(訂正発明のカメラ部に相当する。)から「VTR10B」(訂正発明の「記録部」に相当する。)に供給されているデジタルコンポーネント信号と同じデジタルコンポーネント信号を受け取るようにすることは、当業者にとって格別困難なことではない。
なお、請求人は、訂正発明が(i)「コンポジット形式のビデオ信号を形成する出力部とコンポーネント形式でビデオ信号を記録する記録部との両方に、カメラ部から出力されたコンポーネント形式のビデオ信号をデジタル形式で伝送するという機能」を実現するための構成、及び(ii)「カメラ部から供給されたコンポーネント形式のビデオ信号を、記録媒体に記録できるようにデジタル的に信号処理する機能」を実現するための構成を備えたものであることを前提として主張しているが、本件請求項1の記載から、「撮像素子からの撮像アナログ信号をデジタル信号に変換するアナログ-デジタル変換手段」及び「デジタル」という用語を削除してしまえば、アナログビデオカメラ装置として機能することからもわかるように、請求人が主張する「デジタル形式で伝送するという機能を実現するための構成」、「デジタル的に信号処理する機能を実現するための構成」とは、周知の「アナログ-デジタル変換手段」と、「デジタル」という用語だけでしかなく、実際にデジタル機能を実現するための具体的構成は請求項に記載されていない。訂正発明がこのようなものであることからみても、デジタルとは記載されていない刊行物1及びデジタル技術が記載された刊行物2ないし4に基づいて訂正発明は当業者が容易に発明できたものであるという判断が妥当であることは明白である。

7.むすび
以上のとおりであるから、本件の審判請求は平成6年改正特許法附則第6条第1項の規定によりなお従前の例によるとされる特許法(平成5年改正法)第126条第3項の規定に適合しない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2001-05-29 
結審通知日 2001-05-30 
審決日 2001-06-12 
出願番号 特願平1-283305
審決分類 P 1 41・ 121- Z (H04N)
最終処分 不成立  
特許庁審判長 井上 雅夫
特許庁審判官 橋本 恵一
谷川 洋
登録日 1999-04-16 
登録番号 特許第2913704号(P2913704)
発明の名称 カメラ一体型ビデオレコーダ  
代理人 松隈 秀盛  

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