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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) G10K
管理番号 1042666
審判番号 審判1999-7674  
総通号数 21 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 1994-06-07 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 1999-05-06 
確定日 2001-07-25 
事件の表示 平成 4年特許願第290767号「カラオケ装置」拒絶査定に対する審判事件[平成 6年 6月 7日出願公開、特開平 6-161480]について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯・本件発明
本願は、平成4年10月5日の出願であって、その請求項1に係る発明は平成13年3月26日付けの手続補正書によって補正された明細書及び図面の記載からみて、特許請求の範囲の請求項1に記載された次のとおりのものと認める。(以下、「本件発明」という。)

【請求項1】
曲データに含まれる複数の楽器パートの演奏データと外部から入力される特定の楽器パートの実演奏データとに基づき楽音信号を生成する楽音合成手段と、
マイクから入力される音声信号を前記楽音信号と混合して出力する出力手段と、
曲データに含まれる描画情報に基づき背景画像を表示する背景表示手段と、
曲データに含まれる歌詞情報に基づき背景画像に重畳して歌詞画像を表示する歌詞表示手段と、
演奏操作される毎に前記実演奏データを前記楽音合成手段に出力する外部演奏操作手段と、
曲データに含まれる、予め設定された特定の楽器パートの演奏ガイド表示のための演奏データに基づき前記外部演奏操作手段の演奏ガイド表示を行う演奏ガイド表示手段と
を備えたことを特徴とするカラオケ装置。

2.引用刊行物
(1)これに対して、当審における、平成13年1月11日付けの拒絶理由通知書で引用した刊行物1(特開平4-13188号公報)には、以下の事項が記載されている。
(1-a)「本発明は、複数の楽曲の楽音情報が格納された楽音情報記録媒体から所定の楽曲の楽音情報を読み出し、この情報に基づいて伴奏音楽を再生するようにしたカラオケ装置の改良に関する。」(1頁右下欄6行ないし9行)
(1-b)「[発明が解決しようとする課題]上記従来のカラオケ装置では、歌い手が選択した楽曲の伴奏音は、予め入力された楽音情報によって定まる一定の音楽である。従って、歌い手は、その一定の決められた伴奏音楽に合せて歌を歌うのみであり、その伴奏音に関して歌い手以外の第三者が参加することはできなかった。しかしながら、近年におけるカラオケ装置は、身近なグループで歌を楽しむという目的で用いられることが多く、歌い手以外の者もその演奏中の伴奏に何らかの形で参加し、その場の雰囲気を盛り上げたいという希望を持つ場合がある。」(2頁右上欄10行ないし20行)
(1-c)「本発明は上記課題に鑑みなされたものであり、その目的は、カラオケ装置の楽音情報記録媒体に予め格納された楽音情報に基づく再生音楽だけでなく、他の楽器音を使用者の意志により任意に合成して再生することのできる楽器音合奏機能付きカラオケ装置を提供することにある。」(2頁左下欄12行ないし17行)
(1-d)「第1図は本発明のカラオケ装置の好適な実施例の概略構成図であり、カラオケ装置本体10には楽音情報記録媒体である記憶部12が設けられており、この記憶部12には多数の楽曲の楽音情報がMIDI情報として格納されている。この格納情報の中には伴奏音を発生するための各楽器の発音タイミング情報やその楽曲のテンポ情報などを含んでいる。この楽音情報記憶媒体12にはCPU14が接続されておりCPU14は使用者によって選択指定された楽曲の楽音情報を楽音情報記憶媒体12から読み出し出力する。CPU14から出力された楽音情報は、楽音情報変換手段16に送られる。この楽音情報変換手段16は、入力された楽音情報に基づき伴奏音信号を再生出力するものである。すなわち、デジタル信号であるMIDI情報などを各楽器の伴奏音とするため、アナログ情報である伴奏音信号に再生出力するものである。」(3頁左上欄下から4行ないし右上欄14行)
(1-e)「合奏音再生手段としてのミキシングアンプ26には、楽音情報変換手段16からの伴奏音信号16a-1〜16a-nが入力されると共に、各アンドゲート22からの楽器音信号が入力されている。そして、ミキシングアンプ26には歌い手の歌を入力するためのマイクロホン28が接続されており、また出力ラインはスピーカ30に接続されている。次に、上記構成の実施例の動作について説明する。まず、歌い手の希望する楽曲が選択されるとCPU14は記憶部12からその楽曲の楽音情報を読み出し、楽音情報変換手段16では、これを伴奏音信号16aに変換し、ミキシングアンプ26に送る。」(3頁右下欄下から1行ないし4頁左上欄15行)
(1-f)「また、歌い手または歌い手以外の第三者が、この楽曲の伴奏音に加えて、例えばリズム楽器によるリズム音を加えようとする場合、楽器音発生部18から所望のリズム楽器を選択し、図示していないスイッチ等を操作することにより対応する楽器音発生手段20を作動させることができる。楽器音発生部18には楽器情報変換手段16から発音タイミング情報及びテンポ情報が送られているので、第三者の選択した楽器音発生手段20からは、現在指定された楽曲のテンポに合ったリズム音信号が出力されかつその発音タイミングが楽曲の流れに対応している。この時、この伴奏音が邪魔になるような場合には、第三者あるいは歌い手はミュートスイッチS1またはS2を操作することによってリズム楽器音の合奏を中止することも可能である。なお、本実施例では楽器音発生部18をカラオケ装置本体10に対して着脱可能な構成としたので、この楽器音発生部18を取り外した場合には、楽器音を合奏しない通常のカラオケ装置として機能させることができる。以上のように本実施例によれば、カラオケ装置を使用する場合に、歌い手あるいは歌い手以外の者も楽器音発生部18を任意に操作し、楽器音を発生させあるいは中止し、さらに合奏させるリズム楽器の種類を種々に変えながら伴奏音楽を合成することができ、現在歌っていない者も歌い手と一体になって楽しむことができる。」(4頁左上欄16行ないし左下欄3行)
(1-g)「なお、本発明は、上記実施例の構成に限定されるものではなくその要旨の範囲で種々の変形が可能である。例えば、楽器音発生部18は、カラオケ装置本体10内部に配置することも可能である。また、楽器音発生部18には独自にそのテンポを設定するための手段を設けることも可能であり、その場合には、例えば2拍子、3拍子、4拍子などのリズムによって楽器音を出力させることができる。」(4頁左下欄4行ないし12行)
(1-h)「さらに、楽器音発生部18をアナログ信号の出力手段ではなく、MIDI情報などのデジタル信号の出力装置として構成することも可能であり、その場合には、アンドゲート22からの出力は、一旦楽音情報変換手段16に入力させることとなる。」(4頁右下欄1行ないし6行)

(2)同じく拒絶理由通知書で引用した刊行物2(実願平2-98381号(実開平4-55070号)のマイクロフィルム)には、以下の事項が記載されている。
(2-a)「前記検出手段により検出された記憶領域から順次演奏データを読み出し、該演奏データに基づき押鍵すべき鍵を指示するガイド手段がさらに設けられたことを特徴とする請求項1記載の電子楽器。」(実用新案登録請求の範囲(2))
(2-b)「例えばメロディパートが記憶されているトラックTrlを前記トラックナンバー表示部1に表示させて、前記マイナスワンモードを設定すれば、メロディを除く他の演奏データに基づき自動演奏がなされる。よって、この電子楽器の使用者は、前記メロディを除く自動演奏に合わせて、メロディのみをマニュアル演奏することにより、あたかも楽曲全体を自分で演奏しているがごとき演奏感を得ることができるとともに、また、前記マイナスワンモードにより、順次各パートを除く自動演奏を実行させ、これに合わせて除いたパートをマニュアル演奏することにより、各パートごとの演奏練習が可能となるのである。」(3頁9行ないし4頁1行)
(2-c)「また、前記ガイド手段が設けられている構成においては、前記自動演奏が実行されると、前記指定手段により指定されたパートの演奏データに基づき押鍵すべき鍵が指示され、よってこの電子楽器の演奏者は、ガイド手段の指示に従って押鍵することにより指定したパートの演奏を行い得る。」(7頁7行ないし12行)

(3)同じく拒絶理由通知書で引用した刊行物3(特開昭60-214178号公報)には、以下の事項が記載されている。
(3-a)「近年、映像と音楽とを組み合わせて鑑賞する傾向が強くなっているが、その代表的なものとして、映像つきカラオケが挙げられる。これは、例えば第一図に示すように、スピーカ(1)からカラオケ用の音楽を再生するのと同時に、受像機(2)の画面にその曲の楽譜や歌詞(21)を表示し、さらに、その背景として、その曲に関係のある映像(22)を映出するものである。そして、これを実現するには、従来は、歌詞をスーパーインポーズした背景映像と音楽とを各々のカラオケ曲について制作し、ビデオディスクに記録していた。」(1頁左下欄下から2行ないし右下欄10行)
(3-b)「第2図において、(3)はCDプレーヤを示し、このプレーヤー(3)には上述のCD、すなわち、例えば、20曲のカラオケの音楽信号Smが記録されていると共に、その各曲の音楽信号に対応するユーザーズビットに、そのカラオケの歌詞のコード信号Scと、ビデオディスク上の背景映像となる映像信号のページ(トラック)を指定するページ信号Spとが記録されているCDがセットされている。なお、信号Scは曲に進行につれて歌詞が順次表示されるように記録され、信号Spは、例えば5秒ごとに背景映像を更新されるように記録されている。」(2頁右下欄2行ないし12行)

3.対比
そこで、本件発明と刊行物1に記載された発明(以下、「刊行物1発明」という。)とを対比すると、
刊行物1発明の記憶媒体12に格納されたMIDI情報が本件発明の「曲データに含まれる複数の楽器パートの演奏データ」に相当し、刊行物1発明の楽器音発生部18からのMIDI情報(上記(1-h)参照)が本件発明の「特定の楽器パートの演奏データ」に相当し、刊行物1発明の楽音情報変換手段16が本件発明の「楽音信号を生成する楽音合成手段」に相当し、刊行物1発明のミキシングアンプ26が本件発明の「マイクから入力される音声信号を前記楽音信号と混合して出力する出力手段」に相当するから、
両者は、
「曲データに含まれる複数の楽器パートの演奏データと特定の楽器パートの演奏データとに基づき楽音信号を生成する楽音合成手段と、
マイクから入力される音声信号を前記楽音信号と混合して出力する出力手段と、
を備えたカラオケ装置。」
である点で一致しており、以下の点で相違している。

相違点1
本件発明においては、
「特定の楽器パートの演奏データ」は「外部から入力される特定の楽器パートの実演奏データ」であり、
「演奏操作される毎に前記実演奏データを前記楽音合成手段に出力する外部演奏操作手段と、
曲データに含まれる、予め設定された特定の楽器パートの演奏ガイド表示のための演奏データに基づき前記外部演奏操作手段の演奏ガイド表示を行う演奏ガイド表示手段と」
を備えているのに対して、
刊行物1発明においては、
「特定の楽器パートの演奏データ」は歌い手または歌い手以外の第三者が、楽曲の伴奏音に加えて、例えばリズム楽器によるリズム音を加える演奏データであり(上記(1-f)(1-h)参照)、
楽音合成手段(楽器情報変換手段16)から発音タイミング情報及びテンポ情報が送られ、前記演奏データを楽音合成手段(楽音情報変換手段16)に出力する楽器音発生部18、及びミュートスイッチS1、S2(上記(1-f)(1-h)参照)
を備えている点。

相違点2
本件発明は、
「曲データに含まれる描画情報に基づき背景画像を表示する背景表示手段と、
曲データに含まれる歌詞情報に基づき背景画像に重畳して歌詞画像を表示する歌詞表示手段と、」
を備えているのに対して、
刊行物1の[実施例]の項にはこの点が記載されていない点。

4.判断
(1)相違点1について
刊行物2には、「前記マイナスワンモードを設定すれば、メロディを除く他の演奏データに基づき自動演奏がなされる。よって、この電子楽器の使用者は、前記メロディを除く自動演奏に合わせて、メロディのみをマニュアル演奏することにより、あたかも楽曲全体を自分で演奏しているがごとき演奏感を得ることができるとともに、また、前記マイナスワンモードにより、順次各パートを除く自動演奏を実行させ、これに合わせて除いたパートをマニュアル演奏することにより、各パートごとの演奏練習が可能となるのである。」(上記(2-b)参照)と記載されており、また、「前記ガイド手段が設けられている構成においては、前記自動演奏が実行されると、前記指定手段により指定されたパートの演奏データに基づき押鍵すべき鍵が指示され、よってこの電子楽器の演奏者は、ガイド手段の指示に従って押鍵することにより指定したパートの演奏を行い得る」(上記(2-c)参照)とも記載されている。
そして、刊行物2におけるマイナスワンモードにおけるマニュアル演奏データが本件発明の「外部から入力される特定の楽器パートの実演奏データ」に相当し、刊行物2におけるマニュアル演奏するための演奏手段が本件発明の「演奏操作される毎に前記実演奏データを出力する外部演奏操作手段」に相当し、刊行物2におけるガイド手段が本件発明の「曲データに含まれる、予め設定された特定の楽器パートの演奏ガイド表示のための演奏データに基づき外部演奏操作手段の演奏ガイド表示を行う演奏ガイド表示手段」に相当する。
そして、刊行物1には、課題として、「従来のカラオケ装置では、歌い手が選択した楽曲の伴奏音は、予め入力された楽音情報によって定まる一定の音楽である。従って、歌い手は、その一定の決められた伴奏音楽に合せて歌を歌うのみであり、その伴奏音に関して歌い手以外の第三者が参加することはできなかった。しかしながら、近年におけるカラオケ装置は、身近なグループで歌を楽しむという目的で用いられることが多く、歌い手以外の者もその演奏中の伴奏に何らかの形で参加し、その場の雰囲気を盛り上げたいという希望を持つ場合がある。」(上記(1-b)参照)、「本発明は上記課題に鑑みなされたものであり、その目的は、カラオケ装置の楽音情報記録媒体に予め格納された楽音情報に基づく再生音楽だけでなく、他の楽器音を使用者の意志により任意に合成して再生することのできる楽器音合奏機能付きカラオケ装置を提供することにある。」(上記(1-c)参照)と記載されており、この刊行物1に記載された課題を解決するために、関連する技術分野の技術手段の適用を試みることは、当業者の通常の創作能力の発揮である(下記(2)○1参照)。
そして、刊行物1に記載された「楽器音合奏機能付きカラオケ装置」も刊行物2に記載された「電子楽器」も、楽器に関連する装置である点で共通しており、関連する技術分野に属するものであることは明らかであるから、刊行物2に記載された事項を考慮して、刊行物1発明において、「特定の楽器パートの演奏データ」を「外部から入力される特定の楽器パートの実演奏データ」とし、「演奏操作される毎に実演奏データを楽音合成手段に出力する外部演奏操作手段と、曲データに含まれる、予め設定された特定の楽器パートの演奏ガイド表示のための演奏データに基づき外部演奏操作手段の演奏ガイド表示を行う演奏ガイド表示手段と」を備えるようにすることは当業者が容易に想到できたことである。

本件審判手続において、平成13年1月11日付け拒絶理由通知の指定期間内である平成13年3月26日に電話で請求人から面接の要望があった。そして、平成13年3月26日付けで意見書及び補正書が提出され、平成13年4月10日に面接が行われた。以下、この面接で議論されたことに関して述べる。

意見書には、「・・・刊行物2に記載された電子楽器が、それ自体内部に楽音合成手段を備えたものであることからも明らかなように、電子楽器は、本来、それ自身で内部の楽音合成手段を駆動して楽音を発生させるものですから、内部に自動演奏機能を備えていたり、他の外部楽器やマイクからの楽音信号をミキシングする機能は備えていても、他の外部楽器からの実演奏データを導入して内部の自動演奏のための演奏データと共に楽音合成手段を駆動することは周知であるとは言えません。」と記載されているが、この記載の意味が不明であった。そこで、面接において請求人に、本件発明において外部演奏操作手段とカラオケ装置とが別体であることを前提にしてこのような意見書を記載したのかと質問したところ、請求人はそのとおりであると答えた。
しかし、本件の特許請求の範囲の「外部から入力される特定の楽器パートの実演奏データ」という記載、及び「演奏操作される毎に前記実演奏データを前記楽音合成手段に出力する外部演奏操作手段」という記載からみて、本件発明の外部演奏操作手段は本件実施例の演奏者が操作できるキーボード27aに対応するものである。また、本件明細書の発明の詳細な説明にも、外部演奏操作手段とカラオケ装置とが別体であることは記載されていない。請求人は請求人自身が補正して特許請求の範囲に記載した「外部」という表現から外部演奏操作手段とカラオケ装置とが別体であると誤解したものと考えられる。面接でこれらの点を指摘したが、請求人は反論することができなかった。したがって、意見書における請求人の主張は誤った前提に基づくものであり、「本願発明は・・・十分に特許要件を備えた発明であります」という請求人の主張は根拠がない。
そして、仮に、本件発明において、外部演奏操作手段とカラオケ装置とが別体であると仮定したとしても、一般に各種装置において、全ての機能を一つの装置内に一体に構成するのか、あるいは、特定の機能を別体に構成するのかは、単なる設計的選択に過ぎない。例えば、刊行物1に「なお書き」で「例えば、楽器音発生部18は、カラオケ装置本体10内部に配置することも可能である。」(上記(1-g)参照)と記載されていることからみても、一体にするか別体にするのかが単なる設計的選択であることは明らかである。したがって、そのように仮定したとしても、相違点1が当業者が容易に想到できたことであることには変わりがない。

また、面接において請求人は、刊行物1には刊行物2と組み合わせることを示唆する記載がないから、刊行物1と刊行物2を組み合わせることはできず、本件発明は特許されるべきである旨主張した。このような請求人の主張は、審査基準の「論理づけ」という表現から、本件発明が引用例から論理的に導かれたときだけ進歩性なしとされ、それ以外の場合は進歩性がある、と誤解したことによるものと考えられる。
審査基準(http://www.jpo.go.jp/info/tt1212-045.htm参照)に記載された「論理づけ」は「理由づけ」の意味であり、「第II部 特許要件」、「第2章 新規性進歩性」、「2.進歩性」、「2.5 論理づけの具体例」に以下のように記載されている。なお、裁判例が例として記載されているが、それらは省略した。

2.5 論理づけの具体例
論理づけは、種々の観点、広範な観点から行うことが可能である。以下にそれらの具体例を示す。
(1)最適材料の選択・設計変更、単なる寄せ集め
○1 最適材料の選択・設計変更など
一定の課題を解決するために公知材料の中からの最適材料の選択、数値範囲の最適化又は好適化、均等物による置換、技術の具体的適用に伴う設計変更などは、当業者の通常の創作能力の発揮であり、相違点がこれらの点にのみある場合は、他に進歩性の存在を推認できる根拠がない限り、通常は、その発明は当業者が容易に想到することができたものと考えられる。
○2 単なる寄せ集め
発明を特定するための事項の各々が機能的又は作用的に関連しておらず、発明が各事項の単なる組み合わせ(単なる寄せ集め)である場合も、他に進歩性を推認できる根拠がない限り、その発明は当業者の通常の創作能力の発揮の範囲内である。
(2)動機づけとなり得るもの
○1 技術分野の関連性
発明の課題解決のために、関連する技術分野の技術手段の適用を試みることは、当業者の通常の創作能力の発揮である。例えば、関連する技術分野に置換可能なあるいは付加可能な技術手段があるときは、当業者が請求項に係る発明に導かれたことの有力な根拠となる。
○2 課題の共通性
課題が共通することは、当業者が引用発明を適用したり結び付けて請求項に係る発明に導かれたことの有力な根拠となる。
引用発明が、請求項に係る発明と共通する課題を意識したものといえない場合は、その課題が自明な課題であるか、容易に着想しうる課題であるかどうかについて、さらに技術水準に基づく検討を要する。
なお、別の課題を有する引用発明に基づいた場合であっても、別の思考過程により、当業者が請求項に係る発明の発明特定事項に至ることが容易であったことが論理づけられたときは、課題の相違にかかわらず、請求項に係る発明の進歩性を否定することができる。試行錯誤の結果の発見に基づく発明など、課題が把握できない場合も同様とする。
○3 作用、機能の共通性
請求項に係る発明の発明特定事項と引用発明特定事項との間で、作用、機能が共通することや、引用発明特定事項どうしの作用、機能が共通することは、当業者が引用発明を適用したり結び付けたりして請求項に係る発明に導かれたことの有力な根拠となる。
○4 引用発明の内容中の示唆
引用発明の内容に請求項に係る発明に対する示唆があれば、当業者が請求項に係る発明に導かれたことの有力な根拠となる。

以上の審査基準の記載から明らかなように、上記の請求人の主張は、上記の(2)○4の場合に相当する。したがって、刊行物1に刊行物2と組み合わせることを示唆する記載があれば、進歩性は否定され、拒絶されることになる。しかし、それ以外の場合は進歩性がある、といえないことは、上記の審査基準の記載から明らかであり、具体例として記載された(1)○1ないし○2、(2)○1ないし○3の場合は、進歩性がない、として拒絶されることになる。また、「論理づけは、種々の観点、広範な観点から行うことが可能である。以下にそれらの具体例を示す。」という記載から明らかなように、進歩性がないとされるのは上記の具体例に限られるのではなく、「種々の観点、広範な観点から」当業者が容易に発明できたことが「論理づけ」すなわち「理由づけ」されれば、進歩性がないとして拒絶されるのである(ただし、「引用発明と比較した有利な効果が、技術水準から予測される範囲を超えた顕著なものであることにより、進歩性が否定されないこともある」(審査基準、2.5(3)参照))。そして、「種々の観点、広範な観点から」進歩性の存在を否定する論理の構築(理由づけ)を試み、「論理づけ」すなわち「理由づけ」できなかった場合に、特許されるのである(審査基準、2.4(2)参照)。
したがって、上記の請求人の主張は誤りであり、上記のとおり相違点1は当業者が容易に想到できたことである。

(2)相違点2について
刊行物3には、「近年、映像と音楽とを組み合わせて鑑賞する傾向が強くなっているが、その代表的なものとして、映像つきカラオケが挙げられる。これは、例えば第一図に示すように、スピーカ(1)からカラオケ用の音楽を再生するのと同時に、受像機(2)の画面にその曲の楽譜や歌詞(21)を表示し、さらに、その背景として、その曲に関係のある映像(22)を映出するものである。そして、これを実現するには、従来は、歌詞をスーパーインポーズした背景映像と音楽とを各々のカラオケ曲について制作し、ビデオディスクに記録していた。」(上記(3-a)参照)、「第2図において、(3)はCDプレーヤを示し、このプレーヤー(3)には上述のCD、すなわち、例えば、20曲のカラオケの音楽信号Smが記録されていると共に、その各曲の音楽信号に対応するユーザーズビットに、そのカラオケの歌詞のコード信号Scと、ビデオディスク上の背景映像となる映像信号のページ(トラック)を指定するページ信号Spとが記録されているCDがセットされている。なお、信号Scは曲に進行につれて歌詞が順次表示されるように記録され、信号Spは、例えば5秒ごとに背景映像を更新されるように記録されている。」(上記(3-b)参照)と記載されており、刊行物1発明に、「曲データに含まれる描画情報に基づき背景画像を表示する背景表示手段と、曲データに含まれる歌詞情報に基づき背景画像に重畳して歌詞画像を表示する歌詞表示手段と、」を備えているようにすることは当業者が容易に想到できたことである。

5.むすび
したがって、本件発明は刊行物1ないし3に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2001-05-15 
結審通知日 2001-05-25 
審決日 2001-06-05 
出願番号 特願平4-290767
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (G10K)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 南 義明  
特許庁審判長 井上 雅夫
特許庁審判官 小松 正
橋本 恵一
発明の名称 カラオケ装置  
代理人 伊丹 勝  

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