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審決分類 |
審判 全部無効 2項進歩性 無効とする。(申立て全部成立) F04D |
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管理番号 | 1042704 |
審判番号 | 審判1998-35507 |
総通号数 | 21 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 1993-06-08 |
種別 | 無効の審決 |
審判請求日 | 1998-10-23 |
確定日 | 2001-07-23 |
事件の表示 | 上記当事者間の特許第2782569号「水中ポンプ」の特許無効審判事件についてされた平成11年10月22日付け審決に対し、東京高等裁判所において審決取消の判決(平成11年(行ケ)第0429号平成13年 1月31日判決言渡)があったので、さらに審理のうえ、次のとおり審決する。 |
結論 | 特許第2782569号の特許請求の範囲第1項に記載された発明についての特許を無効とする。 審判費用は、被請求人の負担とする。 |
理由 |
1.手続の経緯・本件発明 本件特許第2782569号に係る出願は、昭和61年12月16日に出願された実願昭61-192312号を原出願とする分割出願である実願平4-34155号を平成4年5月22日に特願平4-130776号として出願変更したものであって、その発明(登録日:平成10年5月22日。以下、「本件発明」という。)の要旨は、特許明細書及び図面の記載からみて、特許請求の範囲に記載された次のとおりのものである。 「中間ケーシングに弾性材製の上部ケーシング及び下部ケーシングを取り付けるとともに、下部ケーシングの側面を覆うようにストレーナを取付けた水中ポンプにおいて、下部ケーシングの底面を覆う下部ケーシングカバーを設け、前記ストレーナと下部ケーシングと上部ケーシングとを前記中間ケーシングに共締固着する複数本のボルトを設け、前記ストレーナは下部ケーシングカバーと係合する段部を有し、そして前記ストレーナの底面は段部以外の所で下部ケーシングカバーから離れて設けられており、前記複数本のボルトの各々は、ストレーナの段部より下部ケーシングカバーと下部ケーシングと上部ケーシングを貫通して中間ケーシングに螺合しており、前記段部の外周端は壁部分がなく開放されていることを特徴とする水中ポンプ。」 2.請求人の主張 これに対して、請求人は、 (1)証拠方法として、 甲第1号証(サービスブック「日立水中ビルジポンプB-PS250A」昭和52年3月発行)、甲第2号証の1(日立水中ビルジポンプ「B-PS250A」の「ポンプ組立構造図」)、甲第2号証の2(「生産記録」(日立製作所家電製造部ポンプ課作成))、甲第2号証の3(「取扱説明書」(出荷製品に梱包したもの))、甲第2号証の4(「調査結果報告書」(日立製作所検査部第1家電検査課調査による))、甲第3号証(宣誓供述書:昭和50年11月頃設計を担当した田辺正敏の署名捺印した宣誓供述書)、甲第4号証(意匠登録第479929号公報)、甲第5号証(特公昭44-20312号公報)、甲第6号証(実公昭38-23277号公報)、甲第7号証(実開昭52-92408号公報)、甲第8号証(米国特許第3153382号明細書)、甲第9号証(特公昭45-14747号公報)、甲第10号証(意匠登録第483795号公報)を提出すると共に、田辺正敏を証人とする証人尋問の申立をし、 本件発明は、本件出願前に頒布された刊行物である甲第1号証又は甲第4号証に記載された発明、及び本件出願前に周知の構成(参照例として、甲第5号証,甲第6号証)に基いて、 又は、本件出願前に日本国内において製造販売された日立水中ビルジポンプ「B-PS250A」の構造、及び本件出願前に周知の構成(参照例として、甲第5号証,甲第6号証)に基いて、 当業者が容易に発明をすることができたものであり、したがって、本件発明の特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされた旨主張し、 又、 (2)証拠方法として、甲第11号証(実願昭61-192312号(実開昭63-98497号)の明細書及び図面)、甲第12号証(実願平4-34155号の明細書及び図面)を提出し、 本件出願は、明細書及び図面の記載が不備であり、したがって、本件発明の特許は、特許法第36条第3項及び第4項の規定に違反してされた旨主張している。 3.被請求人の主張 一方、被請求人は、 (1)本件発明は、本件出願前に頒布された刊行物である甲第1号証又は甲第4号証に記載された発明、及び本件出願前に周知の構成(参照例として、甲第5号証,甲第6号証)に基いて、 又は、本件出願前に日本国内において製造販売された日立水中ビルジポンプ「B-PS250A」の構造、及び本件出願前に周知の構成(参照例として、甲第5号証,甲第6号証)に基いて、 当業者が容易に発明をすることができたものではない旨主張し、 又、 (2)本件出願の明細書及び図面には、記載不備がない旨主張している。 4.甲第1号証及び甲第5号証 (1)甲第1号証(サービスブック「日立水中ビルジポンプB-PS250A」昭和52年3月発行)には、日立水中ビルジポンプ「B-PS250A」の構造が記載されており、第2頁の図1『ポンプ各部の名称(A)』及び図2『ポンプ各部の名称(B)』、第3頁の図3『寸法図』、第4頁左欄の『5.構造説明 充分に水封を考慮したモートルケーシング内にコンデンサ誘導電動機を入れ、その軸に羽根車を直結した竪型のポンプです。・・・ポンプ部は羽根車をおおう吸込側ストレーナおよびケーシングから成り立っています。』、第8頁右欄の『(3)羽根車(イ)ストレーナ41の取付けねじ43三本をゆるめてストレーナ41を取外します。・・・』、第10頁左欄〜右欄の『(分解)(イ)シールオサエ31の取付けねじ34三本をゆるめてシールオサエを取外しますと・・・(組立)(イ)メカニカルシールおよびダストシール38の装着される部分(モートルケーシング9,シールオサエ31及びシャフト)を・・・(ル)取付けねじ34三本でシールオサエ31を固定してください。』、第15,16頁の『11.サービス部品一覧表』、第17頁の『12.構造説明図』等の記載内容、及び証人田辺正敏の証言内容を参酌すると、 「モートルケーシング9(上記サービス部品一覧表では「ケーシングブクミ」)にケーシング46(鋳物製;証人田辺正敏の証言)をケーシングパッキン42を介して取り付けるとともに、ケーシング46の側面を覆うようにストレーナ41を取付けた水中ポンプにおいて、前記ストレーナ41とケーシング46とケーシングパッキン42とを前記モートルケーシング9に共締固着する三本の取付けねじ43(上記サービス部品一覧表では「シボ」)を設け、前記ストレーナ41はケーシング46と係合する段部を有し、そして前記ストレーナ41の底面は段部以外の所でケーシング46から離れて設けられており、前記三本の取付ねじ43の各々は、ストレーナ41の段部よりケーシング46とケーシングパッキン42を貫通してモートルケーシング9に螺合しており、前記段部の外周端は壁部分がなく開放されている水中ポンプ。」 が記載されている。 そして、モートルケーシング9には、シールオサエ31(鋳物製;証人田辺正敏の証言)が三本の取付ねじ34(上記サービス部品一覧表では「十サラネ」)で取付けられており、モートルケーシング9の下部及びシールオサエ31とケーシング46とで羽根車44,45(上記サービス部品一覧表では「ハネグルマ」)を収容する室が画成されている。 (2)甲第5号証(特公昭44-20312号公報)には、公報第1頁左欄第29〜35行の『本発明は遠心ポンプ装置、・・・可潜型の装置、即ち水中に完全に沈めることができ且つ垂直軸及び電動機装置が一緒に組込まれたポンプ・ハウジングより成る装置に係る。』、同第2頁左欄第24〜44行の『第1図に示す遠心ポンプ装置の下方部分において、垂直軸は参照数字1、電動機固定子ハウジングは2、図示の実施例では電動機装置のために配設された外部冷却ジャケットは3、羽根車は4、ポンプ・ハウジングの底部分は5、その上方部分は6で示されている。ポンプ・ハウジングはゴム製保護ライニングでもって内部を被覆されるようになされており、しかしてこのライニングは、ポンプ・ハウジングの下方部分では数字7、ハウジングの上方部分では数字8によって示されている。ポンプの枠9が外部冷却ジャケット3に連結配置されており、しかしてこの枠は篩の形に構成されている。羽根車4は2つのナット10及び11によって電動機軸の切欠き12上に固設されている。ポンプ・ハウジングの上方部分6にはスリップリング・ホルダ13が配設されていて、上方では電動機ハウジングの底部14に連結され且つ下端では軸を取巻く室14aを閉鎖しており、特にポンプ・ハウジングを閉鎖するものであり、しかして前記室14aの中にはポンプ・ハウジングからの流体が浸入する。』、及び同図面の記載内容等からみて、 「電動機ハウジングの底部14にポンプ・ハウジングの上方部分6及び底部分5を取り付けるとともに、底部分5の側面を覆うようにポンプの枠9を外部冷却ジャケット3に連結配置した水中ポンプにおいて、ポンプ・ハウジングの上方部分6及び底部分5はゴム製保護ライニング8,7でもって内部を被覆されるようになされており、前記ポンプ・ハウジングの底部分5と上方部分6とを前記電動機ハウジングの底部14に共締固着する複数本のボルトを設けた水中ポンプ。」 が記載されている。 5.対比 (1)本件発明と甲第1号証とを対比する。 甲第1号証において、ポンプケーシングを形成するものは、「ケーシング46」と「モートルケーシング9の下部及びシールオサエ31」であり、「ケーシング46」は、本件発明の「下部ケーシング」に相当し、「モートルケーシング9の下部及びシールオサエ31」は、本件発明の「上部ケーシング」の機能を有するものと言える。更に、甲第1号証の「ストレーナ41」、「取付けねじ43」は、それぞれ本件発明の「ストレーナ」、「ボルト」に相当する。 したがって、甲第1号証には、 「モートルケーシング9に鋳物製の下部ケーシングを取り付けるとともに、下部ケーシングの側面を覆うようにストレーナを取付けた水中ポンプにおいて、前記ストレーナと下部ケーシングとを前記モートルケーシング9に共締固着する複数本のボルトを設け、前記ストレーナは下部ケーシングと係合する段部を有し、そして前記ストレーナの底面は段部以外の所で下部ケーシングから離れて設けられており、前記複数本のボルトの各々は、ストレーナの段部より下部ケーシングを貫通してモートルケーシング9に螺合しており、前記段部の外周端は壁部分がなく開放されている水中ポンプ。」 が記載され、 本件発明の「中間ケーシングに弾性材製の上部ケーシング及び下部ケーシングを取り付けた水中ポンプにおいて、下部ケーシングの底面を覆う下部ケーシングカバーを設け、前記ストレーナと下部ケーシングと上部ケーシングとを前記中間ケーシングに共締固着する複数本のボルトを設け、前記ストレーナは下部ケーシングカバーと係合する段部を有し、そして前記ストレーナの底面は段部以外の所で下部ケーシングカバーから離れて設けられており、前記複数本のボルトの各々は、ストレーナの段部より下部ケーシングカバーと下部ケーシングと上部ケーシングを貫通して中間ケーシングに螺合している」事項について記載されていない。 そうすると、本件発明と甲第1号証発明の相違点は、本件発明が中間ケーシングに弾性材製の上部ケーシング及び下部ケーシングを取り付けた水中ポンプであるのに対し、甲第1号証にはこの記載がない点(以下「相違点1」という。)、本件発明が下部ケーシングの底面を覆う下部ケーシングカバーを設けているのに対し、甲第1号証にはこの記載がない点(以下「相違点2」という。)、ボルトにより共締固着される対象として、本件発明が中間ケーシング、上部ケーシング、下部ケーシング及び下部ケーシングカバーが含まれるのに対し、甲第1号証にはこの記載がない点(以下「相違点3」という。)並びに本件発明ではストレーナ段部の係合する対象が下部ケーシングカバーであるのに対し、甲第1号証ではこの記載がない点(以下「相違点4」という。)である。 (2)次に、本件発明と甲第5号証とを対比する。 甲第5号証には、「ポンプ・ハウジングの底部分は5、その上方部分は6で示されている。ポンプ・ハウジングはゴム製保護ライニングでもって内部を被覆されるようになされており、しかしてこのライニングは、ポンプ・ハウジングの下方部分では数字7、ハウジングの上方部分では数字8によって示されている。」(3欄28行目〜33行目)との記載がある。この記載及び第1図によれば、甲第5号証発明においては、上から順に、「ポンプ・ハウジングの上方部分」、「ゴム製保護ライニング8」、「ゴム製保護ライニング7」及び「ポンプ・ハウジングの底部分5」が配置されていると認められる。他方、本件発明においては、上から順に、「中間ケーシング」、「弾性材製の上部ケーシング」、「弾性材製の下部ケーシング」及び「下部ケーシングカバー」が配置されている(本件発明の要旨)。 甲第5号証において、ポンプケーシングの最上部に位置する「ポンプ・ハウジングの上方部分6」は、本件発明のモーターケーシングに相当する電動機室とポンプケーシングの中間に位置するものともいえるから、本件発明の「中間ケーシング」に相当するというべきである。そうすると、甲第5号証発明の「ゴム製保護ライニング8」、「ゴム製保護ライニング7」及び「ポンプ・ハウジングの底部分5」は、それぞれ、本件発明の「弾性材製の上部ケーシング」、「弾性材製の下部ケーシング」及び「下部ケーシングカバー」に相当する。そして、甲第5号証発明の「ゴム製」と本件発明の「弾性材製」には差異がなく、両発明において対応する部材は、材質面においても一致する。 また、本件特許明細書には、「ポンプケーシングPCは弾性材例えばゴムで作られた上部ケーシング4と同様に弾性材製の下部ケーシング5とを備え、これらのケーシング4、5によってボリュート室Vが画成され、その中にモータMによって回転するインペラ1が収納されている。」(3欄1行目〜6行目)との記載がある。甲第5号証の第1図においては、羽根車4(本件特許明細書におけるインペラ1に相当する。)がゴム製保護ライニング8及び7によって形成される空間内に収納されることが明確に図示されており、ゴム製保護ライニング8及び7がボリュート室Vを画成していることは明らかである。そうすると、機能面からも、本件発明の上部ケーシング及び下部ケーシングに相当するのは、甲第5号証発明のゴム製保護ライニング8及び7であるというべきであり、このことは、上記の配置順序から対比した結果と一致するものである。 6.当審の判断 本件発明と甲第1号証発明の上記相違点1乃至4について検討する。 相違点1及び2は、前記のとおり、甲第5号証に記載された構成であるところ、甲第1号証発明及び甲第5号証発明はいずれもポンプに係るものであり、一般に当業者がこれらを組み合わせることは容易であって、これを妨げるべき特段の事情はうかがえないから、甲第1号証発明に対して甲第5号証に記載された相違点1及び2に係る構成を採用することは、当業者にとって容易であるというべきである。甲第1号証発明のボルトは、ストレーナからモートルケーシングにまで及んでいるのであるから、その間に存在する部材も当然に貫通するものである。そうすると、甲第1号証発明に相違点1及び2に係る構成が採用された水中ポンプ、すなわち、中間ケーシングがあり、これに弾性材製の上部ケーシング及び下部ケーシングを取り付け、下部ケーシングの底面を覆う下部ケーシングカバーを設けた水中ポンプにあっては、ボルトにより、中間ケーシング、上部ケーシング、下部ケーシング及び下部ケーシングカバーが必然的に共締固着されることとなるから、相違点3に係る構成も、技術上当然に採用されることとなる。また、甲第1号証発明に相違点1及び2に係る構成が採用されれば、下部ケーシングの底面を覆う下部ケーシングカバーを設けた水中ポンプにおいて、段部が係合する対象が下部ケーシングカバーとなることは技術上当然の結果である。そうすると、当業者が甲第1号証発明に対して甲第5号証発明の具備する相違点1及び2に係る構成を採用することが容易である以上、相違点3及び4に係る構成を採用することもまた容易である。したがって、本件発明は、甲第1号証発明及び甲第5号証発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものというべきである。 7.むすび 以上のとおりであるから、本件発明は、甲第1号証及び甲第5号証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件発明の特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものであり、同法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきものである。 審判に関する費用については、特許法第169条第2項の規定で準用する民事訴訟法第61条の規定により、被請求人が負担すべきものとする。 よって、結論のとり審決する。 |
審理終結日 | 1999-10-04 |
結審通知日 | 1999-10-12 |
審決日 | 1999-10-22 |
出願番号 | 特願平4-130776 |
審決分類 |
P
1
112・
121-
Z
(F04D)
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最終処分 | 成立 |
前審関与審査官 | 熊倉 強、高山 芳之 |
特許庁審判長 |
西野 健二 |
特許庁審判官 |
亀井 孝志 舟木 進 氏原 康宏 清田 栄章 |
登録日 | 1998-05-22 |
登録番号 | 特許第2782569号(P2782569) |
発明の名称 | 水中ポンプ |
代理人 | 堀田 信太郎 |
代理人 | 本田 紘一 |
代理人 | 大畑 進 |
代理人 | 渡邊 勇 |
代理人 | 近藤 恵嗣 |