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審決分類 |
審判 全部無効 4項(5項) 請求の範囲の記載不備 無効としない A61F |
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管理番号 | 1042881 |
審判番号 | 審判1998-35205 |
総通号数 | 21 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 1987-08-13 |
種別 | 無効の審決 |
審判請求日 | 1998-05-13 |
確定日 | 2001-07-24 |
事件の表示 | 上記当事者間の特許第2125313号発明「目の角膜の曲率を修正するための外科的装置」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。 |
理由 |
1、手続きの経緯 本件特許第2125313号の発明は、昭和61年1月30日に特許出願がなされたものであって、平成9年1月13日に特許の設定登録がされ、平成9年2月21日に特許無効審判請求人・株式会社ニデックより本件特許の無効審判が請求され、平成9年10月22日に訂正請求がされ、平成10年3月4日に訂正請求を認め無効審判の請求は成り立たない旨の審決(平成9年審判2828号)がなされ、平成10年8月6日にこの審決は確定したものである。 そして、平成10年5月13日に上記審判請求事件と同じ特許無効審判請求人・株式会社ニデックより本件特許を無効とすべき旨の本件審判が請求され、平成11年4月28日に答弁書が提出され、平成11年12月28日に弁駁書が提出されたものである。 2、本件発明 本件発明は、上記のとおり訂正が認容され確定したから、平成9年10月22日にされた訂正請求書に添付した訂正明細書(以下、単に「明細書」という。)の特許請求の範囲の請求項1に記載された次のとおりのものと認める。(ただし、A〜Eは便宜上付したものである。) A.放射状に厚みが変化するレンズ状の薄片(2、16)形式のゾーンを切除することによる目の角膜(1)の曲率を少なくとも部分的に修正するための外科的な装置であって、 B.角膜物質の光分解を許容するために、その波長が0.2μm近傍のビームを放出することのできる光源(31)と、 C.切除されるべき角膜の前記ゾーン上に前記ビームを指向させて、前記ゾーンの部分上に光スポットを形成させる光学装置(12)と、 を備えた目の角膜の曲率を修正するための外科的な装置において、 D.角膜上の前記光スポットの面積を進行的に変化させることにより、除去されるべき前記ゾーンの全てを前記光スポットによって走査するための手段(8、13、15、20、21、23)を含み、 E.前記レンズ状の薄片の厚みが大きい部分に対応する前記ゾーンは前記ビームに長く露光され、逆に前記レンズ状の薄片の厚みが小さい部分に対応する前記ゾーンは前記ビームに短く露光される ことを特徴とする目の角膜の曲率を修正するための外科的な装置。 3、特許無効の請求の理由の概要 特許無効審判請求人は、明細書の特許請求の範囲の請求項1の記載は、本件に係る発明の構成に欠くことができない事項のみ記載したものではないから、本件に係る出願は特許法第36条第4項に規定された要件を満たしておらず、特許法第123条第1項第4号の規定に該当するから無効とされるべきであると主張している。 そして、記載上の不備があると主張する理由は、審判請求書の、「7請求の理由」の記載からみて次のとおりのものと認められる。 イ、請求項1においては、「光スポットの面積」の意義が客観的に特定されるような記載が存在すべきであるが、かかる記載は請求項1中に全く見い出せない。(審判請求書第4頁第9〜11行) ロ、請求項1の記載によれば、「面積を進行的に変化させる」対象としての「光スポット」は、構成要件Cの「光学装置(12)」により形成される。ところが、この「光学装置(12)」は「除去されるべき角膜の前記ゾーン上に前記ビームを指向させて、前記ゾーンの部分上に光スポットを形成させる」だけのものであって、単なる凸レンズ(明細書に添付の図面参照)のような“集光レンズ”でしかない。 面積を可変ないし増加・減少できるような光スポットであると仮定するなら、光スポットの外延(スポットの内側と外側の境界)を明確にするような手段、例えばスリットを設けたアパーチャやダイヤフラムなどの光学手段が設けられるべきであるが、かかる手段は構成要件Cには全く示されていない。(審判請求書第4頁第14〜23行) ハ、およそ光源から出射される光スポットは光源の発光機構や光の性質等の特性上、不均一な光量分布を持っており、殊にエキシマレーザーは一方向ではほぼ均一な光量分布を持つと共に、それに直交する方向では中心から周辺にいくにつれて徐々に光強度は低くなるガウシアンの光量分布を持つ矩形形状のスポットになるという特徴がある。「ダイヤフラム」はかかるスポット光の中から光量が低い外延部分を遮光し、比較的光量が均一なスポット部分を利用する事を可能にし、これによって初めて「面積」を云々することが可能となる。・・・・・・しかりとすれば、構成要件Dには面積の云々を可能にする手段、すなわち光スポットの内外の境界を明確にする手段が請求項1中で特定されるべきであるが、参照符号として「13」など付記するだけで、文言上は全く明らかにされていない。(審判請求書第5頁第25行〜第6頁第16行) ニ、光源からの「ナマ」の光スポットはガウシアン分布を必然的に持っており、その外延は定まらない。仮に、光スポットの内外の境界を明瞭にできる特殊な光源を使用するのなら、これを構成要件Bの「光源(31)」として明瞭にすべきであり、特殊なレンズ等で内外の境界を明瞭にするのなら、これは構成要件Cの「光学装置(12)」として特定すべきである。さらに、「走査するための手段(8,13,15,20,21,23)]によって内外の境界を明瞭にするのなら、参照番号をクレーム中で附記することで誤魔化したりせず、文言で明確にすべきである。(審判請求書第8頁第7〜14行) 4、判断 審判請求人の主張は、審判請求書第6頁第22行〜第8頁第2行の、「(5)訂正前の記載との関係」の項の記載を参酌すると、訂正前の、「光スポットの領域」を「光スポットの面積」と訂正したことにより、ガウス分布を持つ光スポットの内外を仕切る手段ないし手法が、発明の構成に必須のものになったという認識のもとに、上記3、イ〜ニに示す主張をしているものと認められる。 ただし、当該訂正は認容され確定しており、特許法第128条の規定から本件出願に係る明細書は訂正明細書に記載されたとおりのものであり、記載上の不備は訂正明細書の記載についてのみ検討されるべきものであるから、この「(5)訂正前の記載との関係」に係る主張そのものは採用できないものである。 そこで、審判請求人の主張について順次検討する。 a,「3、イ」の主張について 「光スポットの面積」の意義が客観的に特定されるような記載が請求項1に見い出せないとの主張は、特許法第36条第4項の、「発明の構成に欠くことができない事項のみを記載しなければならない」旨の規定に照らし、結局、「光スポットの面積」との記載は発明の構成要件としての形状、構造、機能等を何ら特定していないとの主張としか解することができない。 しかし、本件発明は、「光源(31)と、切除されるべき角膜の前記ゾーン上に前記ビームを指向させて、前記ゾーンの部分上に光スポットを形成させる光学装置(12)」を備えた「目の角膜の曲率を修正するための外科的な装置」であるから、光スポットが存在することは明らかである。 そして、「角膜上の前記光スポットの面積を進行的に変化させることにより、除去されるべき前記ゾーンの全てを前記光スポットによって走査するための手段(8、13、15、20、21、23)」との記載からみて、光スポットが照射される部分はある面積を有することは、明らかであり、概念上面積を有しない「点」のようなものではない。 また、これらの点は発明の詳細な説明及び図面の記載からも明らかである。 そして、「光スポットの面積」という文言自体にも何ら不明瞭な点は見いだせない。 b,「3、ロ」の主張について 請求人の、「面積を可変ないし増加・減少できるような光スポットであると仮定するなら、光スポットの外延(スポットの内側と外側の境界)を明確にするような手段、例えばスリットを設けたアパーチャやダイヤフラムなどの光学手段が設けられるべきであるが、かかる手段は構成要件Cには全く示されていない。」旨の主張は、光スポットの外延を明確にするような手段が発明の構成に欠くことができないものとの前提に立つものである。 しかし、本件発明は、「角膜上の前記光スポットの面積を進行的に変化させることにより、除去されるべき前記ゾーンの全てを前記光スポットによって走査する」ものであるから、本件特許明細書で従来技術として述べられているいわゆるレーザーメスのように出来るだけ幅の小さい切れ目を形成することが望ましいといったものではなく、光スポットの面積が変化すれば実施可能な装置である。 そして、光スポットの面積が変化する際にその外延が明確でなければならない理由は何ら見いだせない。 したがって、光スポットの外延を明確にするような手段が発明の構成に欠くことができない事項であるとは認められない。 c,「3、ハ」の主張について 請求人の、「光源から出射される光スポットは光源の発光機構や光の性質等の特性上、不均一な光量分布を持っており、殊にエキシマレーザーは一方向ではほぼ均一な光量分布を持つと共に、それに直交する方向では中心から周辺にいくにつれて徐々に光強度は低くなるガウシアンの光量分布を持つ矩形形状のスポットになるという特徴がある。」との事実認識はそのとおりのものである。 しかし、光スポットの外延が明確でなくとも、波長が0.2μm近傍のビームははっきり「面積」と認識できる照射部分を形成し得るものと認められる。 しかもその外延部の光量が漸次減少するようなことがあっても、「角膜上の前記光スポットの面積を進行的に変化させる」本件発明にあっては格別の不都合は生じず、本件発明が実施できないということにもならない。 したがって、「ダイヤフラム」などの光量が低い外延部分を遮光する手段を記載しなければ「面積」はその技術的意義が不明であるとの主張は理由がない。 d,「3、ニ」の主張について 請求人の、「光スポットの内外の境界を明瞭にできる特殊な光源を使用するのなら、これを構成要件Bの「光源(31)」として明瞭にすべきであり、特殊なレンズ等で内外の境界を明瞭にするのなら、これは構成要件Cの「光学装置(12)」として特定すべきである。さらに、「走査するための手段(8,13,15,20,21,23)]によって内外の境界を明瞭にするのなら、参照番号をクレーム中で附記することで誤魔化したりせず、文言で明確にすべきである。」旨の主張については、既に述べたように、光スポットの外延が明確でなくとも、「角膜上の前記光スポットの面積を進行的に変化させる」本件発明にあっては格別の不都合は生じず、本件発明が実施できないということもないから、根拠のない主張である。 本件発明に係る光スポットは、光源、光学装置、走査するための手段等によって、仮に、光スポットの外延が通常のレーザー光よりもさらに外延部の光量が減少するようなものとなっても、光が当たる部分が一応の「面積」を形成すれば足りるものである。 仮に、曖昧な外延を持つ光スポットを用いた場合であっても、「光スポットの面積」という概念が形成できないとは認めることができず、そのような光スポットを用いた場合にあっても、角膜の切除部分の周縁部について切除量が少なくなることが推定されるが、それは角膜の切除が実施できないということではない。 5、むすび 以上のとおりであるから、審判請求人の「光スポットの領域」を「光スポットの面積」と訂正したことにより、ガウス分布を持つ光スポットの内外を仕切る手段ないし手法が、発明の構成に必須のものになったという主張は採用することができない。 また、本件に係る明細書の特許請求の範囲の請求項1の記載は、本件に係る発明の構成に欠くことができない事項のみ記載したものではないから、本件に係る出願は特許法第36条第4項に規定された要件を満たしていない旨の主張は理由がない。 したがって、審判請求人の主張によっては、本件発明に係る特許を無効とすることはできない。 審判に係る費用については、特許法第169条第2項の規定で準用する民事訴訟法第61条の規定により、請求人が負担すべきものとする。 よって、結論のとおり決定する。 |
審理終結日 | 2001-02-16 |
結審通知日 | 2001-03-02 |
審決日 | 2001-03-13 |
出願番号 | 特願昭61-500810 |
審決分類 |
P
1
112・
532-
Y
(A61F)
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最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 鈴木 寛治、和田 志郎 |
特許庁審判長 |
佐藤 洋 |
特許庁審判官 |
和泉 等 藤本 信男 |
登録日 | 1997-01-13 |
登録番号 | 特許第2125313号(P2125313) |
発明の名称 | 目の角膜の曲率を修正するための外科的装置 |
代理人 | 寺崎 史朗 |
代理人 | 塩田 辰也 |
代理人 | 山田 行一 |
代理人 | 栗田 忠彦 |
代理人 | 栗田 忠彦 |
代理人 | 小林 泰 |
代理人 | 今井 庄亮 |
代理人 | 小林 泰 |
代理人 | 小林 泰 |
代理人 | 社本 一夫 |
代理人 | 栗田 忠彦 |
代理人 | 長谷川 芳樹 |
代理人 | 社本 一夫 |
代理人 | 今井 庄亮 |
代理人 | 小林 泰 |
代理人 | 増井 忠弐 |
代理人 | 増井 忠弐 |
代理人 | 栗田 忠彦 |