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審決分類 審判 全部申し立て 5項1、2号及び6項 請求の範囲の記載不備  A61M
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  A61M
審判 全部申し立て 2項進歩性  A61M
審判 全部申し立て 特36 条4項詳細な説明の記載不備  A61M
管理番号 1043279
異議申立番号 異議1999-70324  
総通号数 21 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 1991-04-30 
種別 異議の決定 
異議申立日 1999-01-28 
確定日 2001-07-31 
異議申立件数
事件の表示 特許第2781447号「無沈殿透析溶液」の請求項1ないし23に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 特許第2781447号の請求項1ないし23に係る特許を取り消す。 
理由 〔1〕本件特許及び本件特許異議事件の手続の経緯
本件特許及び本件特許異議事件(特許第2781447号(以下「本件特許」という。)異議申立て)に係る手続の経緯の概要は、以下のとおりである。
1)本件特許の出願日:平成2年5月25日(優先権主張日:1989年5月26日)
2)特許権の設定の登録:平成10年5月15日
3)特許掲載公報の発行:平成10年7月30日
4)特許異議の申立て(異議申立人・中西みどり、請求項20〜23に係る特許に対して):平成11年1月28日付け
5)特許異議の申立て(異議申立人・株式会社ジェイ・エム・エス、全請求項に係る特許に対して):平成11年2月1日付け
6)特許異議の申立て(異議申立人・新井清司、請求項1、4、19、20に係る特許に対して):平成11年2月1日付け
7)審尋書(異議理由に対する特許権者の意見):平成11年8月10日付け
8)上申書(特許権者、意見を述べない旨の回答):平成11年8月10日付け
9)特許異議口頭審理説明書(異議申立人・中西みどり):平成11年11月18日付け
10)口頭審理陳述要領書(特許権者):平成11年11月18日付け
11)口頭による審尋(第1回):平成11年11月18日
12)口頭審理(第1回):平成11年11月18日
13)取消理由の通知:平成11年11月19日付け(発送日:平成11年12月7日)
14)特許異議意見書(特許権者):平成12年3月7日付け
15)訂正請求書:平成12年3月7日付け
16)口頭審理陳述要領書(異議申立人・株式会社ジェイ・エム・エス):平成12年5月23日付け
17)口頭審理陳述要領書(異議申立人・新井清司):平成12年5月24日付け
18)口頭審理陳述要領書(異議申立人・中西みどり):平成12年5月24日付け
19)口頭による審尋(第2回):平成12年5月24日
20)口頭審理(第2回):平成12年5月24日
21)訂正拒絶理由の通知:平成12年5月29日付け(発送日:平成12年6月9日)
22)期間延長の請求(特許権者):平成12年9月7日付け
23)意見書(特許権者):平成12年12月11日付け
24)弁駁書(異議申立人・中西みどり):平成13年2月20日付け
25)弁駁書(異議申立人・新井清司):平成13年2月27日差出
26)弁駁書(異議申立人・株式会社ジェイ・エム・エス):平成13年2月28日差出

〔2〕訂正の適否についての判断
1.本件訂正請求の内容は以下のとおりである。
a)特許請求の範囲の請求項1〜18、21を削除する。
b)特許請求の範囲の請求項19を請求項1とし、同項中の「透析溶液の製造方法において、」を「ツインチャンバーバッグ方式により、以下の組成を有するCAPD用透析溶液の製造方法において、
Ca2+ = 0.5 - 5 mval/l
Mg2+ = 0 - 3 mval/l
Cl- = 90.5 - 121 mval/l
Na+ = 128 - 145 mval/l
K+ = 0 - 4 mval/l
HCO3- = 25 - 40 mval/l」と訂正、「生理学上容認しうる酸」を「、塩酸、酢酸及び乳酸から選ばれる生理学上容認しうる酸」、「上記の酸添加により」を「上記の溶液を、ツインチャンバーバッグ方式の第1のチャンバーバッグであって圧力1バール下で表面積1m2当たりの24時間の水蒸気透過量を20℃ において測定したとき1g/m2/日/バール未満の水蒸気透過性並びに圧力1バール下で厚さ100μmで表面積1m2当たりの24時間の二酸化炭素透過量を20℃において測定したとき1cm3/100μm/m2/日/バール未満の二酸化炭素透過性を有する第1のチャンバーバッグに詰めて、上記の酸添加により」、「透析溶液」を「CAPD用透析溶液」、「水溶液を調整し」を「水溶液を、上記の第1チャンバーバッグと同じ水蒸気透過性と二酸化炭素透過性を有する、ツインチャンバーバック方式の第2のチャンバーバッグに詰めて、調整し」、「上記炭酸塩溶液と上記溶液と混合する」を、「上記炭酸塩溶液と上記溶液とを、第1のチャンバーバックと第2のチャンバーバッグとを連結させて混合する」と、それぞれ訂正する。
c)特許請求の範囲の請求項20を請求項2とし、同項中の「血液また腹膜の透析に適した透析液を製造するための」を「CAPD用透析液をツインチャンバーバッグ方式により製造するための」、「生理学上容認しうる酸」を「、塩酸、酢酸及び乳酸から選ばれる生理学上容認しうる酸」、「上記重炭酸ナトリウム含有水性濃縮液に加えること」を「上記重炭酸ナトリウム含有水性濃縮液に加えて、圧力1バール下で表面積1m2 当たりの24時間の水蒸気透過量を20℃ において測定したとき1g/m2/日/バール未満の水蒸気透過性並びに圧力1バール下で厚さ100μmで表面積1m2 当たりの24時間の二酸化炭素透過量を20℃ において測定したとき1cm3/100μm/m2/日/バール未満の二酸化炭素透過性を有するツインチャンバーバッグ方式の第1のチャンバーバッグに詰めて保持されていること」と、それぞれ訂正する。
d) 特許請求の範囲の請求項22を請求項3とし、訂正後の請求項2の従属項とする。
e) 特許請求の範囲の請求項23を請求項4とし、訂正後の請求項2の従属項とする。
f)発明の詳細な説明中(明細書第27頁第13行、本件特許公報第12欄第32行)の「約74ミリモル/l」を「約38ミリモル/l」と訂正する。

2.そこで、上記訂正事項について検討する。
(1)訂正後の発明は、訂正明細書の特許請求の範囲の請求項1乃至請求項4に記載された以下のものにあると認める。なお、請求項1中の「K+=0-4」は、「K+= 0-4 mval/l」の、また、請求項1(ロ)中の「チャンバーバック」は「チャンバーバッグ」、請求項1中の二番目の「(ロ)」は「(ホ)」、および、請求項1の当該(ホ)中の「保持して」は「保持する条件下で」の、それぞれ明白な誤記であると認める。
「請求項1
ツインチャンバーバッグ方式により、以下の組成を有するCAPD用透析溶液の製造方法において、
Ca2+ = 0.5 - 5 mval/l
Mg2+ = 0 - 3 mval/l
Cl- = 90.5 - 121 mval/l
Na+ = 128 - 145 mval/l
K+ = 0 - 4 mval/l
HCO3- = 25 - 40 mval/l
(イ)8を越える最初のpH を有する重炭酸ナトリウムの水溶液へ、塩酸、酢酸及び乳酸から選ばれる生理学上容認しうる酸を加えることによりそのpHを7.6未満まで低下させ、
(ロ)上記の溶液を、ツインチャンバーバッグ方式の第1のチャンバーバッグであって圧力1バール下で表面積1m2当たりの24時間の水蒸気透過量を20℃ において測定したとき1g/m2/日/バール未満の水蒸気透過性並びに圧力1バール下で厚さ100μmで表面積1m2当たりの24時間の二酸化炭素透過量を20℃において測定したとき1cm3/100μm/m2/日/バール未満の二酸化炭素透過性を有する第1のチャンバーバッグに詰めて、上記の酸添加により発生する二酸化炭素を保持する条件下で溶液を滅菌し、
(ハ)CAPD用透析溶液を作るのに必要とされる他のイオンのすべてを含む水溶液を、上記の第1チャンバーバッグと同じ水蒸気透過性と二酸化炭素透過性を有する、ツインチャンバーバック方式の第2のチャンバーバッグに詰めて、調製し、
(ニ)上記水溶液を滅菌し、
ホ)上記重炭酸塩溶液へ加えた酸により発生する二酸化炭素を保持する条件下で、上記重炭酸塩溶液と上記水溶液とを、第1のチャンバーバックと第2のチャンバーバッグとを連結させて混合する、
ことからなる上記製造法。

請求項2
以下の1リットル当たり mvalの単位で表される成分
Ca2+ = 0.5 - 5
Mg2+ = 0 - 3
Cl- = 90.5 - 121
Na+ = 128 - 145
K+ = 0 - 4
HCO3- = 25 - 40
を含有するCAPD用透析液をツインチャンバーバッグ方式により製造するための、重炭酸イオンを実質的に含有しない第2のカルシウムイオン含有水性濃縮液と混合するための実質的にカルシウムイオンを含有しない重炭酸ナトリウム含有水性濃縮液であって、上記カルシウムイオン含有濃縮液と混合する前に上記重炭酸塩含有水性濃縮液のpH値を7.6以下にするために十分な量の、塩酸、酢酸及び乳酸から選ばれる生理学上容認しうる酸を上記重炭酸ナトリウム含有水性濃縮液に加えて、圧力1バール下で表面積1m2 当たり24時間の水蒸気透過量を20℃ において測定したとき1g/m2/日/バール未満の水蒸気透過性並びに圧力1バール下で厚さ100μmで表面積1m2 当たりの24時間の二酸化炭素透過量を20℃ において測定したとき1cm3/100μm/m2/日/バール未満の二酸化炭素透過性を有するツインチャンバーバッグ方式の第1のチャンバーバッグに詰めて保持されていることを特徴とする、上記重炭酸ナトリウム含有水性濃縮液。

請求項3
pH 値が7.2から7.4の生理学的範囲内にあることを特徴とする、請求項2記載の重炭酸ナトリウム含有水性濃縮液。

請求項4
pH 値が、塩酸により調製されることを特徴とする請求項2記載の重炭酸ナトリウム含有水性濃縮液。」

(2)これに対して、当審が平成12年5月29日付け訂正拒絶理由通知書で示した刊行物1:「ザ インターナショナル ジャーナル オブ アーティフィシャルオーガンズ」(The International Journal Of Artifitial Organs)1985年8巻第3号第121〜124頁には、重炭酸塩を緩衝剤とする腹膜透析液に関して、以下の事項が記載されている。
「血液透析に用いる重炭酸塩を緩衝剤とする透析液の調整方法
1.バッチ方法
バッチ方法では、重炭酸塩を緩衝剤とする透析液のカルシウム塩とマグネシウム塩を除いた全ての成分は、おおよそ最終量の水に溶かされる。そのカルシウム塩とマグネシウム塩を、もし他の成分と同時に添加したならば、以下に記述する反応により不溶性の炭酸カルシウムと炭酸マグネシウムを形成し、沈殿するだろう。・・・
不溶性炭酸塩の形成は、バッチに塩化カルシウムと塩化マグネシウムを添加する前に、透析液の炭酸ガス分圧(PCO2)を高めておくことにより防止される。透析液の炭酸ガス分圧(PCO2)は、重炭酸塩含有溶液に少量の酸(例えば約2〜3.5mmol/Lの乳酸、酢酸または塩酸)を加えることで高めることができる(17,18)。酸は重炭酸と反応し、炭酸ガスと水を生成する(19,20)。その結果として生じる炭酸ガス分圧は、pHを7.6以下に下げる(例えば、mmol/Lの重炭酸と70mmHgの炭酸ガス分圧でpHは7.32になるだろう。)このようなpHであれば、2価の陽イオンを溶液に加えることができる(18,21)。このようなpHが維持されれば、上述した反応式は十分に左方向へ進み、不溶性炭酸塩の形成を防ぐだろう。」(第12頁左欄下から8行〜同右欄第19行、異議申立人株式会社ジェイ・エム・エスの提出した異議申立書の甲第1号証訳文の第1頁第21行〜第2頁第8行参照)
その他、刊行物1には、「腹膜透析に用いる重炭酸塩を緩衝剤とする透析液の調整方法」や「重炭酸塩を緩衝剤とした腹膜透析液の臨床評価」に関しても記載されている。
同刊行物2:特公昭63-52009号公報には、人工腎臓透析液の連続製造方法において、最終透析液のpHが7.0〜7.5になるように透析液原液のpHを調整することなどが記載されている。
次に、同刊行物3:特開昭61-355号公報には、重炭酸塩含有液用容器及び重炭酸塩含有液の製造方法に関して以下の事項が記載されている。
a)「二室袋状物の内側フィルムとして水蒸気透過性および二酸化炭素透過性の小さい有機重合体を用いる」(特許請求の範囲第5項)
b)「積層物が最高1の水蒸気透過性(DIN53122号による)および最高20cm3/m2・日・bar(圧力差)の二酸化炭素透過性を示(す)」(特許請求の範囲第9項)
c)「継続的に通院生体透析(CAPD)する場合には、透析液を患者の腹膜室中に導入(する)」(第2頁右上欄第3〜4行)
d)「上記積層物の外側フィルムに替わるこの保護被覆と本発明の袋状装置との間に、好ましくは気体状のCO2を、重炭酸塩含有液中のCO2部分圧を少なくとも相殺する程度の圧力で入れて置いてもよい。要するにこれによって重炭酸塩の分解が抑制される。かかる装置は、約0.4〜0.6mmの壁厚を有する普通のPVC袋状物を外側フィルムを貼り付けることなしに両方の液を入れる為に用いる場合に特に有利である。」(第5頁左下欄第10〜18行)
e)「上記積層物の外側フィルムに替わるこの保護被膜と本発明の袋状装置との間に、好ましくは気体状のCO2を、重炭酸塩含有液中のCO2部分圧を少なくとも相殺する程度の圧力で入れて置いてもよい。要するにこれによって重炭酸塩の分解が抑制される。かかる装置は、約0.4〜0.6mmの壁厚を有する普通のPVC袋状物を外側フィルムを貼り付けることなしに両方の液を入れ替える為に用いる場合に特に有利である。」(第5頁左下欄第10〜18行)
f)「カルシウム-およびマグネシウム塩を含有する酸性溶液は本発明によると次の濃度-ミリバル(ミリ当量)/水1lで示す-を有している:
Ca2+ = 1 - 10
Mg2+ = 0 - 6
Cl- = 1 - 16
CH3CHOOH = 4 - 6
重炭酸塩含有溶液は次の成分-ミリバル/水1l-を含有している:
Na+ = 256 - 290
K+ = 0 - 8
HCO3- = 56 - 76
Cl- = 180 - 238
重炭酸塩含有溶液中の炭酸水素ナトリウムの代わりに炭酸ナトリウムも使用でき、この場合にはその時、塩基性溶液は120〜128ミリバル/lの炭酸塩をそして酸性溶液は60〜64ミリバル/lの HClを含有している。
両方の溶液を互いに1:1の割合で混合する。この場合、最終溶液は次の組成(ミリバル/l)を有している:
Ca2+ = 0.5 - 5
Mg2+ = 0 - 3
Cl- = 90.5 - 121
CH3CHOOH = 2 - 3
Na+ = 128 - 145
K+ = 0 - 4
HCO3- = 28 - 38
混合物中に存在する酢酸は、混合物中に物理的に溶解される2〜3mmol/lのCO2を放出しながら炭酸水素イオンと反応し、その際に一定の過剰圧が溶液中に生ずる。この過剰圧は部分圧PCO2 に依存しており、約50〜80mm/Hg である。
炭酸ナトリウムを塩基剤として用いる限り、この炭酸ナトリウムが酸性溶液中の塩基と、殆んど等量のCO2 と重炭酸塩イオンを形成しながら反応する。このCO2量も袋状物に捕らえられ得る。」(第6頁左上欄第11行〜左下欄第7行)
g)「第一の室12中に1500 mlの重炭酸塩溶液を有しそして第二の室14中に500mlの酸溶液を有する容器10を製造する(要するに、2l の重炭酸塩溶液を含有する)。この充填された二室袋状物を通例の方法で約120℃のもとで殺菌し、6ヶ月以上貯蔵する。この場合、未混合溶液は安定のままであり、その化学的組成は全く変化していない。・・・混合した溶液は混合4日後でも安定している。」(第7頁左下欄第15行〜同右下欄第7行)
同刊行物4:特開昭56-20511号公報には、「透析溶液用濃厚水性原剤」に関して、二種類の溶液(A)および(B)および希釈水を配合することによって、水素イオンが炭酸水素ナトリウムの少部分と反応してCO2を生成し、これによって、透析液中に残存してアルカリ土類炭酸塩の生成を避け、且つ透析液のpH値を調整することによって透析液を安定にすることができることなどが記載されている。

(3)そこで、訂正明細書の請求項1〜4に記載された発明と上記刊行物記載の発明とを対比する。
まず、訂正後の請求項1に係る発明と刊行物1に記載された発明とを対比すると、両者は、透析溶液の製造方法において、不溶性炭酸塩の生成を防止する目的で、重炭酸含有溶液に塩化カルシウムと塩化マグネシウムを加える前に少量の乳酸、酢酸または塩酸から選ばれた少量の酸を加えることによって、そのpHを7.6未満まで低下させるという技術思想において共通するものと認められる。
また、訂正後の請求項1に係る発明と刊行物3に記載された発明とを対比すると、両者は、「ツインチャンバーバッグ方式により、以下の組成を有するCAPD用透析溶液の製造方法であって、
Ca2+ = 0.5 - 5 mval/L
Mg2+ = 0 - 3 mval/L
Cl- = 90.5 - 121 mval/L
Na+ = 128 - 145 mval/L
K+ = 0 - 4 mval/L
HCO3- = 25 - 40 mval/L
(ロ)上記の溶液を、ツインチャンバーバッグ方式の第1のチャンバーバッグであって圧力1バール下で表面積1m2 当たりの24時間の水蒸気透過量を20℃において測定したとき1g/m2/日/バール未満の水蒸気透過性並びに圧力1バール下で厚さ100μmで表面積1m2当たりの24時間の二酸化炭素透過量を20℃において測定したとき1cm3/100μm/m2/日/バール未満の二酸化炭素透過性を有する第1のチャンバーバッグに詰めて、上記の酸添加により発生する二酸化炭素を保持する条件下で溶液を滅菌し、
(ハ)CAPD用透析溶液を作るのに必要とされる他のイオンのすべてを含む水溶液を、上記の第1チャンバーバッグと同じ水蒸気透過性と二酸化炭素透過性を有する、ツインチャンバーバック方式の第2のチャンバーバッグに詰めて、調整し、
(ニ)上記水溶液を滅菌し、
(ホ)上記重炭酸塩溶液へ加えた酸により発生する二酸化炭素を保持する条件下で、上記炭酸塩溶液と上記溶液とを、第1のチャンバーバックと第2のチャンバーバッグとを連結させて混合する」点で、実質的に一致するものと認められる。一方、前者が、「(イ)8を越える最初のpH を有する重炭酸ナトリウムの水溶液へ、塩酸、酢酸及び乳酸から選ばれる生理学上容認しうる酸を加えることによりそのpHを7.6未満まで低下させ」ているのに対して、後者には、重炭酸ナトリウム水溶液のpHが示されていない点で相違する。
この相違点について検討すると、透析液のpHに着目して最終透析液のpHを調整することは、刊行物2〜4に示されるように本件特許の出願前広く行われていることであり、とくに刊行物1には、不溶性炭酸塩の形成を防ぐために、重炭酸含有溶液に塩化カルシウムと塩化マグネシウムを加える前に、少量の乳酸、酢酸または塩酸から選ばれた少量の酸を加えることにより、そのpHを7.6未満まで低下させることが示されており、相違点に係る手段は、本件特許の出願前すでに行われあるいは知られたことにすぎない。
そうすると、刊行物3に記載されている発明に、不溶性炭酸塩の形成を防ぐために、重炭酸含有溶液に少量の乳酸、酢酸または塩酸から選ばれる少量の酸を加える刊行物1の方法を適用して、重炭酸含有溶液のpHを7.6以下にすることは当業者には容易になし得ることというべきである。
なお、特許権者は、平成12年12月11日付け意見書において、「刊行物1と刊行物3の発明とは、全くその技術を異にするものであるから、刊行物1記載の手法を刊行物3の発明に適用しようとすること自体、当業者が想起するものではなく、また、そうしようとする動機付けは、そもそも刊行物1及び3のいずれにも全く存在しない」旨主張する。しかしながら、刊行物1に記載された血液透析と刊行物3に記載された腹膜透析は、膜が天然物(腹膜)であるか合成物(人工透析膜)であるかの点で相違するにすぎず、同一の技術分野に属し、その原理においても共通するものである。刊行物1にも、「腹膜透析に用いる重炭酸塩を緩衝剤とする透析液調製の為の基礎的な原理は、血液透析に用いるものの調製と同様であ(る)」(第12頁左欄第31〜34行、異議申立人株式会社ジェイ・エム・エスの提出の甲第1号証訳文の第1頁第18〜19行参照)旨も記載されている。したがって、本件発明(および刊行物3記載)のツインチャンバーバッグ方式によるCAPDと刊行物1記載のバッチ方式による血液透析とが、特許権者がいうように「全く異なる技術」であるとはいえない。
また、特許権者は、平成12年12月11日付け意見書において、「そのような重炭酸ナトリウム濃縮溶液を用いることによる本件発明の優れた効果、即ち、pHを7.6未満あるいは以下に調製し第1のチャンバーバッグに詰めた重炭酸ナトリウム濃縮液を、第2のチャンバーバッグに詰めた水溶液と混合して得られるCAPD透析液は、CAPDの透析期間、例えば6時間という長時問に亘って炭酸カルシウムの沈殿の生成を押えることかできる、という優れた効果についても、勿論、刊行物3には記載も示唆もされていない。」という。しかしながら、pH 調整に実質的な意味のある透析液の使用時におけるpHは、本件発明がおよそ7.3(例2)であるのに対して、刊行物3のものは平均7.2(実施例)とほとんど変わらず、刊行物3中の実施例でも混合した溶液が安定したものであることが示されている。また、刊行物1に記載された透析液およびツインチャンバーバッグは本件発明のものと実質的に同一のものであるから、本件発明の効果は、刊行物1記載の手段を刊行物3の腹膜透析のためのツインチャンバーバッグに適用すれば当然に奏せられる効果にすぎないものでもある。

(4)次に、訂正明細書の請求項2に係る発明を刊行物3の発明とを対比すると、両者は、前者が、カルシウムイオン含有濃縮液と混合する前に重炭酸塩含有水性濃縮液のpHを7.6以下にするために十分な量の塩酸、酢酸及び乳酸から選ばれる生理学上容認し得る酸を重炭酸ナトリウム含有水性濃縮液に加えているのに対して、後者は、ナトリウムイオン、カリウムイオンを重炭酸塩緩衝透析液に加えたものを容器に充填している点で相違する。
しかし、不溶性炭酸塩の形成を防ぐために、少量の乳酸、酢酸または塩酸から選ばれた少量の酸を加えることにより、そのpHを7.6未満まで低下させる重炭酸含有溶液は刊行物1に記載されており、刊行物3に記載された発明に、不溶性炭酸塩の形成を防ぐために、刊行物1に記載された少量の乳酸、酢酸または塩酸から選ばれる少量の酸を加える重炭酸含有溶液を適用することにより、請求項2に係る発明も、請求項1に係る発明と同様に当業者には容易になし得るものというべきである。

(5)同じく請求項3に係る発明について検討すると、刊行物1には、重炭酸含有水溶液のpH 値が7.2から7.4であることも記載されているので、請求項3に係る発明も、請求項1、2に係る発明と同様に当業者には容易になし得るというべきである。

(6)同じく請求項4に係る発明について検討すると、刊行物1には、塩酸により重炭酸含有水溶液のpH 値を調整することも記載されているので、請求項4に係る発明も、請求項1〜3に係る発明と同様に当業者には容易になし得るというべきである。
なお、特許権者は、本件特許の対応EPO特許が異議申立てにも拘わらず維持されたとして、参考資料3:EPO0399549(B2)号公報の写しを提出しているが、他国における審理の結果が本件特許を維持すべき根拠とは何らなり得る筈がない(東京高裁平成12年行ケ第291号判決(平成13年2月6日判決言渡)参照)。

3.以上によれば、訂正後における特許請求の範囲に記載されている事項により構成される発明は、刊行物1乃至4に記載された発明に基づいて当業者が容易になし得るものであって、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。
したがって、本件訂正請求は認めない。

〔3〕取消理由についての判断
1.本件特許の特許請求の範囲(請求項1〜23)の記載は、次のとおりである。
「請求項1
重炭酸イオン少なくとも25から40ミリ当量/lの重炭酸ナトリウムを含有する水溶液を含む、少なくとも1個の液体用出口をもち、圧力1バール下で表面積1m2当たりの24時間の水蒸気透過量を20℃において測定したとき 1g/m2/日/バール未満の水蒸気透過性を有する容器において、上記重炭酸ナトリウム含有水溶液のpHが7.6以下であり、上記容器が、圧力1バール下で厚さ100μm で表面積1m2当たりの24時間の二酸化炭素透過量を20℃において測定したとき1cm3/100μm/m2/日/バール未満の二酸化炭素透過性を有することを特徴とする、上記容器。

請求項2
重炭酸ナトリウム溶液は7.2から7.4のpH をもつ、請求項第1項記載の容器。

請求項3
少なくとも1個の液体用入口および少なくとも1個の液体用出口を有し、0.1から10ミリ当量/lの Ca2+、0から6ミリ当量/lの Mg2+、90.5から121ミリ当量/lのCl-、180から290ミリ当量/lの Na+を含有する水溶液を含む、請求項第1項記載の容器と共に使用するための容器。

請求項4
透析などに供する重炭酸ナトリウム含有液体を送り出すための供給系において、
(イ)重炭酸イオン少なくとも25から40ミリ当量/l の重炭酸ナトリウムを含有する水溶液を含む、少なくとも1個の液体用出口をもち、圧力1バール下で表面積1m2当たりの24時間の水蒸気透過量を20℃において測定したとき1g/m2/日/バール未満の水蒸気透過性を有する容器、
(ロ)少なくとも1個の液体用入口および少なくとも1個の液体用出口を有し、 0.1から10ミリ当量/lの Ca2+、0から6ミリ当量/lの Mg2+、90.5から121ミリ当量/lのCl-、180から290ミリ当量/lの Na+ を含有する水溶液を含む溶液からなり、そして(イ)の出口が(ロ)の入口に連結している上記供給系であって、(イ)の重炭酸ナトリウム含有水溶液のpHが7.6以下であり、(イ)の溶液が圧力1バール下で厚さ100μmで表面積1m2当たりの24時間の二酸化炭素透過量を20℃において測定したとき1cm3/100μm/m2/日/バール未満の二酸化炭素透過性を有することを特徴とする、上記供給系。

請求項5
容器(イ)中の重炭酸ナトリウム溶液は7.2から7.4のpH をもつ請求項第4項記載の供給系。

請求項6
重炭酸ナトリウム含量は両チャンバー中の混合液体の炭酸水素塩含量を少なくとも20ミリモルとするのに十分である、請求項第4項記載の供給系。

請求項7
両チャンバー中の混合液体の炭酸水素塩含両は重炭酸塩25から40ミリモルである、請求項第6項記載の供給系。

請求項8
生理学上容認しうる酸によりpH値を調節する、請求項第4項記載の供給系。

請求項9
酸は塩酸または炭酸である、請求項第8項記載の供給系。

請求項10
酸は炭酸である、請求項第6項記載の供給系。

請求項11
容器は、
(イ)少なくとも二つのチャンバーをもつ有機重合体の外部バッグ構造物、
(ロ)重炭酸塩含有溶液で満たした上記チャンバーのうちの第一のチャンバー、
(ハ)他のイオン溶液で満たした上記チャンバーのうちの第二のチャンバー、
(ニ)上記第二のチャンバーに対する唯一の入口あるいは出口である、第一のチャンバーを第二のチャンバーと連結する開口のできる流れ遮断弁、および
(ホ)上記の外部バッグに対しシールされており、かつこれを通り抜けて上記第一のチャンバー中に通じ、取り除くことのできる留め具を付けた少なくとも1個の放出管である、請求項第4項記載の供給系。

請求項12
上記第一のチャンバーは、等張溶液を予定された高い浸透圧へ上昇させるのに十分な量で浸透圧に効果を及ぼす物質を更に含有する、請求項第11項記載の供給系。

請求項13
第一のチャンバーの溶液と第二のチャンバーとは、これらを合わせたとき、腹膜の自然の防御機構を阻害しない生理学的pH 値の溶液を生ずる、請求項第11項記載の供給系。

請求項14
pHは7.2である、請求項第13項記載の供給系。

請求項15
容器はツインチャンバーバッグの形式をとり、その第一及び第二のチャンバーは分割手段により互いに分離されている、請求項第11項記載の供給系。

請求項16
分割手段はバッグを横断して走る溶接継ぎ目の形式をとり、遮断弁はそれを通して開くことができる遮断された通路である、請求項第15項記載の供給系。

請求項17
ツインチャンバーバッグは水蒸気と二酸化炭素に対して低い透過性をもつ有機重合体の内側ホイルからなる、請求項第15項記載の供給系。

請求項18
外側ホイルはポリアミド、PVC、ポリ塩化ビニリデン、ポリエチレンテレフタレートまたは他のポリエステルである、請求項第17項記載の供給系。

請求項19
透析溶液の製造法において、
(イ)8を越える最初のpH を有する重炭酸ナトリウムの水溶液へ生理学上容認しうる酸を加えることによりそのpHを7.6未満まで低下させ、
(ロ)上記の酸添加により発生する二酸化炭素を保持する条件下で溶液を滅菌し、
(ハ)透析溶液を作るのに必要とされる他のイオンのすべてを含む水溶液を調製し、
(ニ)上記水溶液を滅菌し、
(ホ)上記重炭酸塩溶液へ加えた酸により発生する二酸化炭素を保持する条件下で、上記重炭酸塩溶液と上記水溶液とを混合する、ことからなる上記方法。

請求項20
以下の1l当たりmvalの単位で表される成分
Ca2+ = 0.5 - 5
Mg2+ = 0 - 3
Cl- = 90.5 - 121
Na+ = 128 - 145
K+ = 0 - 4
HCO3- = 25- 40
を含有する血液また腹膜の透析に適した透析液を製造するための、重炭酸イオンを実質的に含有しない第二のカルシウムイオン含有濃縮液と混合するための実質的にカルシウムイオンを含有しない重炭酸ナトリウム含有水性濃縮液であって、上記カルシウムイオン含有濃縮液と混合する前に上記重炭酸塩含有水性濃縮液のpH値を7.6以下にするために十分な量の生理学上容認し得る酸を上記重炭酸ナトリウム含有水性濃縮液に加えることを特徴とする、
上記重炭酸ナトリウム含有水性濃縮液。

請求項21
重炭酸ナトリウム含有水性濃縮液が実質的に水蒸気と二酸化炭素とを透過しない容器中に保持されることを特徴とする、請求項第20項記載の重炭酸ナトリウム含有水性濃縮液。

請求項22
pH値が7.2から7.4の生理学的範囲内にあることを特徴とする、請求項第20項または第21項記載の重炭酸ナトリウム含有水性濃縮液。

請求項23
pHが塩酸により調節されることを特徴とする、請求項第20項記載の重炭酸ナトリウム含有水性濃縮液。」

2.これに対して、当審では、平成11年11月19日付けで、請求項1ないし23(全請求項)に係る特許に対して、取消拒絶理由を通知した。

3.各請求項に係る特許についての判断
(1)請求項1に係る特許について
取消拒絶理由に引用した刊行物1:「ザ インターナショナル ジャーナル オブ アーティフィシャル オーガンズ」(The International Journal Of Artifitial Organs)1985年8巻第3号121〜124頁には、40mmol/lの重炭酸塩を含有しpHが約7.33 の透析液をガラスボトルまたはプラスチックで調製することなどが記載されており(第12頁「Single-container Method」の項)、同じく引用した刊行物2:特公昭63-52009号公報には、混合槽において27mEq/l の HCO3- イオンを含有しpH が7.0〜7.5 になるように透析液を調整することが記載されており、同じく刊行物3:特開昭61-355号公報には、少なくとも1個の液体用出口及び少なくとも1個の液体用入り口をもつ容器の水蒸気透過性を最高1(DIN53122号による)とし、二酸化炭素透過性を最高20cm3/m2・日/bar(圧力差)とし、その容器内に重炭酸塩含有溶液を保持する重炭酸塩含有液用容器が記載されており、同じく刊行物4:特開昭56-20511号公報には、透析溶液用濃厚水性原剤に関して、二種類の溶液および希釈水を配合することによって水素イオンが炭酸水素ナトリウムの少部分と反応してCO2 を生成させ、これによって透析液中に残存してアルカリ土類炭酸塩の生成を避け、かつ透析液のpH 値を調整することによって透析液を安定にすることができることが記載されている。
本件発明(容器)は、刊行物1および刊行物2に記載された公知の透析液、刊行物3に記載された水蒸気透過性および二酸化炭素透過性を有する透析液容器に基づいて当業者が容易になし得たものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。

(2)請求項2に係る特許について
請求項2で限定した透析液のpH 7.2〜7.4は刊行物1に記載された範囲と実質的に変わらないので、請求項2に係る発明も、請求項1に係る発明と同様に刊行物1〜3に記載された発明に基づいて当業者が容易になし得たものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。

(3)請求項3に係る特許について
請求項3では、「・・・180から290ミリ当量/lの Na+を含有する水溶液・・・」としているが、発明の詳細な説明中には「使用範囲128-145、特に適当な範囲135-140(mval/l)」と記載され、「180から290ミリ当量/lの Na+を含有する水溶液」とする点については「発明の詳細な説明」の項中のどこにも見あたらない。したがって、この点においても旧特許法第36条第4項の規定に違反する。
この結果、本件特許は、実際に使用するNa+ の量が不明瞭であり、旧特許法(平成2年法第30号改正前)第36条第3項に規定する「その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易にその実施をすることができる程度に、その発明の目的、構成及び効果を記載し(た)」ものとはいえない。また、請求項3の記載は、同条第4項に規定する「特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載したもの」ともいえない。
なお、請求項3に係る発明は、発明の詳細な説明の記載を考慮すると、「128-145ミリ当量/lの Na+を含有する水溶液を使用するものと解されるが、刊行物1には、Ca2+=3.5、Mg2+=1.0、Cl-=91、Na+ =132、K+ =0ミリ当量/lを含む水溶液が記載されており、重炭酸を含む溶液と酸溶液とを別の容器に保持することも刊行物3にみられるように本件特許の出願前に広く行われていることであるから、請求項3に係る発明も、請求項1、2に係る発明と同様に刊行物1〜3に記載された発明に基づいて当業者が容易になし得たものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。

(4)請求項4に係る特許について
請求項4中も、請求項3と同様に「・・・180から290ミリ当量/lの Na+を含有する水溶液・・・」という記載があるが、発明の詳細な説明中には「使用範囲128-145、特に適当な範囲135-140(mval/l)」と記載され、「180から290ミリ当量/lの Na+を含有する水溶液」とする点については「発明の詳細な説明」の項中のどこにも見あたらないので、旧特許法第36条第3項及び第4項の規定に違反する。
なお、請求項4に係る発明は、発明の詳細な説明の記載を考慮すると、請求項3に係る発明と同様「128-145ミリ当量/lの Na+を含有する水溶液を使用するものと解され、また、刊行物3には、第一の室に重炭酸塩を充たし、第二の室に酸溶液を充たし、両者を混合した重炭酸ナトリウム含有溶液を送り出すための供給系についても記載されている。
したがって、請求項4に係る発明も、請求項3に係る発明と同様に刊行物1〜3に記載された発明に基づいて当業者が容易になし得たものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。

(5)請求項5〜18に係る特許について
請求項5〜18は、請求項4の従属項であるから、請求項4と同様、旧特許法第36条第3項及び第4項の規定に違反する。また、請求項5〜18に係る発明を発明の詳細な説明及び図面の記載を参酌して認定したとしても、請求項1〜4に係る発明と同様に、刊行物1および刊行物2は記載された公知の透析液、刊行物3に記載された水蒸気透過性および二酸化炭素透過性を有する透析液容器に基づいて当業者が容易になし得たものものである。
したがって、請求項1〜4に係る発明と同様に特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。

(6)請求項19に係る特許について
請求項19に係る発明と刊行物3に記載された発明とを対比すると、刊行物3には、重炭酸塩含有溶液は溶液中に生理学上容認し得る酸である Cl-イオンを含有すること、袋状物が二酸化炭素透過性の小さい有機重合体を用いること、重炭酸塩溶液を入れた第一の室と他のイオンのすべてを含む水溶液を入れた第にの室とを殺菌すること、第一の室に入れられた溶液と第二の室に入れられた溶液とを混合することが記載されているので、両者は、「透析溶液の製造法において、重炭酸ナトリウムの水溶液へ生理学上容認しうる酸を加え、
(ロ)上記の酸添加により発生する二酸化炭素を保持する条件下で溶液を滅菌し、
(ハ)透析溶液を作るのに必要とされる他のイオンのすべてを含む水溶液を調製し、
(ニ)上記水溶液を滅菌し、
(ホ)上記重炭酸塩溶液へ加えた酸により発生する二酸化炭素を保持する条件下で、上記重炭酸塩溶液と上記水溶液とを混合する、ことからなる上記方法。」である点で一致する。一方、本件請求項19に係る発明が、8を越える最初のpH を有する重炭酸ナトリウムの水溶液へ生理学上容認しうる酸を加えることによりそのpHを7.6未満まで低下させるのに対して、刊行物3に記載された発明は、pH について言及していない点で相違する。しかしながら、すでに、「〔2〕訂正の適否についての判断」において指摘したように、透析液のpH 値に着目して最終透析液のpH を調整することは、刊行物2〜4に示されるように本件特許の出願前広く行われていることであり、とくに刊行物1には、不溶性炭酸塩の形成を防ぐために、重炭酸含有溶液に塩化カルシウムと塩化マグネシウムを加える前に、少量の乳酸、酢酸または塩酸から選ばれた少量の酸を加えることによって、そのpHを7.6未満まで低下させることが示されており、相違点に係る手段は、本件特許の出願前すでに行われあるいは知られたことにすぎない。
そうすると、刊行物3に記載されている発明に、不溶性炭酸塩の形成を防ぐために、重炭酸含有溶液に少量の乳酸、酢酸または塩酸から選ばれる少量の酸を加える刊行物1の方法を適用して、重炭酸含有溶液のpHを7.6以下にすることは当業者には容易になし得ることというべきである。
したがって、請求項19に係る発明は、刊行物1ないし4に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。

(7)請求項20に係る特許について
請求項20に係る発明と刊行物1に記載された発明とを対比すると、刊行物1には腹膜透析のために重炭酸をを含有する水溶液を第1の容器に保持し「酸性」溶液を第2の容器に保持し、オートクレーブを用いて別々に滅菌し、その後混合し、最終透析液が、ナトリウム132、カルシウム1.75、マグネシウム0.5、塩化物91、重炭酸40mmol/Lを含有するようにした液ないし製造方法が記載されており、さらに、塩化カルシウムおよび塩化マグネシウムを重炭酸塩緩衝透析液のすべての成分に加える前に、少量の酸(例えば、乳酸、酢酸または塩酸)を重炭酸含有溶液に加え、pHを7.6以下にすることにより、不溶性炭酸塩の形成を防ぐことも記載されている。
したがって、本件請求項20に係る発明は、刊行物1に記載された発明であって、特許法第29条第1項第3号の規定により特許を受けることができないものである。

(8)請求項21に係る特許について
請求項21に係る発明は、請求項20に係る発明において、重炭酸ナトリウム含有水性濃縮液が実質的に水蒸気と二酸化炭素とを透過しない容器中に保持された点を限定したものであるが、刊行物3に記載されたものにおいても重炭酸ナトリウム含有水性濃縮液が実質的に水蒸気と二酸化炭素とを透過しない容器中に保持しているので、請求項21に係る発明は、刊行物1に記載されている発明に刊行物3に記載されている発明を適用することにより、当業者が容易になし得るものというべきである。
したがって、請求項21に係る発明は、刊行物1ないし3に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。

(9)請求項22に係る特許について
請求項22に係る発明と刊行物1に記載された発明とを対比すると、刊行物1には、不溶性炭酸塩の形成を防ぐために重炭酸含有溶液に塩化カルシウムと塩化マグネシウムを加える前に少量の酸を加えることにより、そのpHを7.32未満まで低下させることも記載されている。
したがって、本件請求項22に係る発明は、刊行物1に記載された発明であって、特許法第29条第1項第3号の規定により特許を受けることができないものである。

(10)請求項23に係る特許について
請求項23に係る発明と刊行物1に記載された発明とを対比すると、刊行物1には、不溶性炭酸塩の形成を防ぐために重炭酸含有溶液に塩化カルシウムと塩化マグネシウムを加える前に、少量の塩酸を加えることも記載されている。
したがって、本件請求項23に係る発明は、刊行物1に記載された発明であって、特許法第29条第1項第3号の規定により特許を受けることができないものである。

〔4〕むすび
以上のとおりであるから、本件請求項1ないし請求項23に係る特許は、いずれも拒絶の査定をしなければならない特許出願に対してされたものであるから、平成6年政令第205号第1項及び2項により、取り消されるべきものである。
よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2001-03-12 
出願番号 特願平2-136933
審決分類 P 1 651・ 121- ZB (A61M)
P 1 651・ 534- ZB (A61M)
P 1 651・ 113- ZB (A61M)
P 1 651・ 531- ZB (A61M)
最終処分 取消  
前審関与審査官 山中 真  
特許庁審判長 青山 紘一
特許庁審判官 長崎 洋一
和泉 等
登録日 1998-05-15 
登録番号 特許第2781447号(P2781447)
権利者 フレゼニウス アクチエンゲゼルシャフト
発明の名称 無沈殿透析溶液  
代理人 川島 利和  
代理人 佐藤 公博  
代理人 浅村 皓  
代理人 乕丘 圭司  
代理人 長沼 暉夫  
代理人 浅村 肇  
代理人 歌門 章二  
代理人 庄司 隆  
代理人 鎌田 耕一  
代理人 池内 寛幸  

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