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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  G06K
管理番号 1043282
異議申立番号 異議1998-75930  
総通号数 21 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 1990-02-26 
種別 異議の決定 
異議申立日 1998-12-11 
確定日 2001-07-17 
異議申立件数
事件の表示 特許第2763327号「2つのデータ処理手段間での信号伝送用装置」の特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 特許第2763327号の特許を取り消す。 
理由 1.手続の経緯
本件特許第2763327号は、ビュル エス.アー.より出願されたものであって、昭和56年5月29日(パリ優先権主張 1980年5月30日 フランス国)に出願された特願昭56-81259号を原出願として、平成1年4月5に特許法第44条第1項に規定する特許出願として出願されたものであって、平成10年3月27日に特許第2763327号として特許権の設定登録がなされ、その後、工藤直一より平成10年12月11日に特許異議の申立てがなされ、平成11年7月23日に取消理由通知がなされ、その指定期間内である平成12年2月7日に特許異議意見書及び訂正請求書が提出され、平成12年5月18日に訂正拒絶理由通知がなされ、その指定期間内である平成12年11月30日に意見書が提出されたものである。

2.訂正の適否
(1)訂正明細書の発明
本件特許第2763327号の訂正明細書記載の発明は、明細書および図面の記載より見て、その特許請求の範囲の第1項に記載されたとおりの、
「第1及び第2のデータ処理手段を備え、少なくとも一方のデータ処理手段は携帯可能な担体中に組み込まれており、データ処理手段は各々、送信モードにあるときに信号を他方のデータ処理手段に送信するための送信手段と、受信モードにあるときに他方のデータ処理手段から送信されたメッセージを受信するための受信手段とを有している、2つのデータ処理手段間での信号伝送用装置において、
前記2つのデータ処理手段を解放可能に互い結合して、メッセージが信号の変化によってビット直列形態で伝送される単一の双方向信号線を与える結合装置を備え、
前記2つのデータ処理手段は各々、
当該データ処理手段が受信モードであるときに前記双方向信号線を第1の所定状態に維持して、メッセージを受信する準備ができているということを他方のデータ処理手段に知らせる第1の手段と、当該データ処理手段が送信モードにあるときに動作して前記双方向信号線の前記第1の所定状態を検出する第2の手段と、該第2の手段によって制御され、メッセージの最初のビットより先に生じる開始ビット信号を発生して、他方のデータ処理手段に送信する第3の手段と、当該データ処理手段が受信モードにあるときに動作し、受信したメッセージにエラーを検出したとき前記第1の所定状態とは異なった第2の所定状態に前記単一の双方向信号線を置き、受信したメッセージにエラーを検出しないとき前記第1の所定状態に前記単一の双方向信号線を置くことにより.他方のデータ処理手段に伝送エラーを知らせる第4の手段と、を備えている
ことを特徴とする2つのデータ処理手段間での信号伝送用装置。」
にあるものと認める。

(2)訂正の適否についての判断
A.訂正明細書の発明
訂正明細書の発明(以下、「訂正発明」と言う。)は、上記(1)に記載されたとおりのものである。
そして、訂正発明は、上記構成を採用することにより、二つの装置のうち他方にメッセージを伝送したい方の装置が、信号線が、他方の装置がメッセージを受信することができていることを示す第1の所定の状態であるかを、最初に検出するように定めることによって達成される。もし、信号線が第1の状態でなければ、他方の装置はメッセージを受信する準備ができていないので、送信側の装置は、他方の装置へ、制御信号であっても、信号を送らない。このため、他方の装置がメッセージを送っていれば、このメッセージは全く妨げられることはなく、一方の装置からの信号と他方の装置からの信号との間の衝突は起こり得ないと言う、高い安全性を提供するという効果を奏するものである。

B.引用刊行物記載の発明
平成12年5月18日付け訂正拒絶理由通知において引用した刊行物1(特開昭54-46447号公報)には、データを記憶し処理するための携帯可能なデータ担体であって、「データ担体内に記憶されているデータの内部処理およびデータ担体に接続された処理装置とのデータ交換の外部処理のための処理装置を備えてお」(該刊行物第2頁左下欄第2〜5行目)り、該「データ担体は、電気的にプログラム可能な読出し専用メモリを備えたマイクロプロセッサを有する電子装置と組合わされた小さな寸法の携帯用物品によって形成されるもの」(同頁同欄第10〜14行目)が記載されており、その第1図およびその説明の欄には、「第1図は、本発明による電子回路の第1の具体例を示す。マイクロプロセッサ1は、アース9と端子7との間に接続されていて外部電源から調整された電圧を受ける。
PROM型のプログラム可能な読出し専用メモリ2は、アース9と端子8との間に接続されている。
この構成によれば、端子7が一定の電位にある間に書込み電圧を端子8に印加して、マイクロプロセッサに給電することができる。」(第3頁左上欄第8〜17行目)
「端子6は、入りデータおよび出データに対する唯一のアクセス手段であり、マイクロプロセッサは、転送方向に依存してデータを直列化したり直列分離することにより対話を司る。
マイクロプロセッサ1は、アドレス母線3およびデータ母線4を介してメモリ2を完全に制御される。
読出し要求が端子横からマイクロプロセッサに達すると・・・アクセスが許される。読出し相においては、アドレスは母線3から供給されて、データは母線4に読出される。
書込み要求が端子6から装置に達すると、・・・アクセスが許される。アドレスは母線3から与えられ、データは母線4から読出される。書込み指令は端子8の書込み電圧と同時に線路10を介してメモリ2に伝送される。」(同頁右上欄第6行〜同頁左下欄第1行目)
「第3図は、本発明によるデータ担体の一具体例を示す横断面図である。」(同頁左下欄第14〜15行目)
「段部によって形成された突出部と2つのシート材C1およびC3間に画定された空間内にはエポキシ樹脂層C4が配置されておって、このエポキシ樹脂層には2つの半導体モジュールのための開口が形成されている。これらモジュール内の1つのモジュールはマイクロプロセッサー・モジュールC7であり他のモジュールは、プログラム可能な読出し専用メモリC8である。」(同頁右下欄第2〜9行目)
「第5図は、第1図および第2図に示した回路の詳細を示す図である。この図において入りデータまたは出データは、データ担体の端子6に二進形態で表われる。データは、ゲート25を通りシフト・レジスタT24に記憶される。ゲート25は、該ゲート25を論理制御装置16に接続する線路36からの信号によって制御される。データは、やはり論理制御装置16への接続線路36の信号によって制御されるゲート26を通ってデータ担体を去る。」(第6頁左下欄第19行〜同頁右上欄第8行目)と記載されている。

次に、同じく、平成12年5月18日付け訂正拒絶理由通知において引用した刊行物2(特開昭51-150933号公報)には、電子計算機と端末装置間のデータ伝送方式であって、「第1図はこの発明の実施例のうち、伝送制御装置から端末装置へデータ伝送を行なう場合の信号の様子を示すもので、図おいて(1)はポーリング信号、(2)は端末からの制御情報信号、(3)はデータ信号、(4)は端末からの制御情報信号、(5)は、(1)、(2)、(3)、(4)の各信号が多重化されて伝送される伝送路上の信号である。
今伝送制御装置からデータを伝送する際には、ポーリング信号(1)を出すことにより、通常低レベルに保たれている伝送路を高レベルとする。これにより端末装置は、接続開始を検出し、データの受入れ可能状態にあればT2のタイミングに於いて応答信号を出さない。またデータの受入れが不可能な状態にあっては、低レベル信号をT2のタイミングに於いて出力することにより、伝送路を低レベルに落す。」(該刊行物第1頁右下欄第7行〜第2頁左上欄第2行目)
「T2のタイミングに於いて伝送路が高レベルに保たれている場合にはT3のタイミング以降データの伝送を行なう。」(第2頁左上欄第7〜9行目)
「次にタイミングT5に於いて端末装置側でT3〜T5迄のデータ伝送中に誤りが検出されている場合には低レベル誤りが検出されていない場合には高レベルの制御情報信号(4)を送出する。このように制御装置から端末装置へのデータ伝送がポーリング信号の立上りを基準としたタイミングT2、T3、T5に於いて制御情報及びデータを相互に時分割に伝送することにより実現される。この伝送の様子が(5)に示されている。
第2図は端末装置から制御装置へのデータ伝送を行なう場合の信号の様子を示すもので、図に於いて(6)はポーリング信号、(7)は端末からの制御情報信号、(8)はデータ信号、(9)は(6)、(7)、(8)の各信号が多重化されて伝送される伝送路上の信号である。
まず制御装置から端末装置に対してポーリング信号(6)が送られる。端末装置はポーリング信号を検出して、T2のタイミングに高レベルの制御信号を出力する。タイミングT3に於いて、制御装置からのデータの伝送が行なわれない時には、端末装置から制御装置へのデータをタイミングT4より伝送する。制御装置に於いてタイミングT4からT6迄に受信したデータに誤りを発見した場合には、タイミングT6に於いて低レベル信号を端末装置に送る。端末装置はタイミングT6に伝送路が低レベルであれば、伝送誤りが発生したことを検知して、訂正等の処置を実行する。」(第2頁左上欄第11行〜同頁右上欄第18行目)
「制御装置から端末装置へデータを伝送する場合には、制御回路(11)によりタイミングカウンタ(10)へ刻時パルスが印加され、タイミングカウンタ(10)から第1図に示す各タイミング信号(T1〜T5)が発生する。ポーリング信号発生器(12)はタイミングカウンタからの信号によってポーリング信号を発生し、ラインドライバ(18)を駆動して、信号線(20)を高レベルにする。次にタイミングT2に於いてラインレシーバ(19)からの信号により端末ビジー検出器(15)が端末の状態を判定し、端末側がデータ受信可能の時、データ・レジスタとパラレル/シリアル変換器で構成される出力データ変換回路(13)からタイミングT3よりデータがライン・ドライバーを介して信号線(20)に送られる。
タイミングT5に於いてライン・レシーバー(19)からの信号を伝送エラー検出器(17)が端末装置から低いレベル信号を返送してきたか否かを判定する。制御装置が端末からのデータを受信する場合にはポーリング信号発生器(12)からライン・ドライバー(18)を介して信号線(20)を高レベルとし、端末装置から信号線(20)を介して送られるデータをライン・レシーバー(19)を通して入力データ変換器(16)に導入する。入力データ変換器(16)はシリアル/パラレル変換器とデータレジスタにより構成される。端末から送られたデータ中に誤りを検出するとエラー応答回路(14)がタイミングT6に於いて低レベル信号をライン・ドライバー(18)及び信号線(20)を介して端末に伝達する。」(第2頁左下欄第8行〜同頁右下欄第16行目)
「第4図は本発明の実施例である。端末装置の構成を示すものであり、(22)はタイミングカウンター、(23)は制御回路、(24)は端末が受信不能の場合に低レベル信号を発生するビジー応答回路、(25)はデータ・レジスタとパラレル/シリアル変換器で構成される出力データ変換器、(26)は受信データに誤りを検出した際にタイミングT5に於いて低レベル信号を出力するエラー応答回路、(27)はタイミングT3に於いて制御装置からデータが送信されているか否かを判定する送受信モード判定器、(28)はデータレジスタとシリアル/パラレル変換器により構成される入力データ変換器、(29)はタイミングT6に於いて端末からの送信データに誤りがあったか否かを判定するエラー検出器、(30)はライン・レシーバーを介して信号線にポーリング信号が送出されたか否かを検出するポーリング信号検出器、(31)はライン・ドライバー、(32)はライン・レシーバー、(20)は信号線、(21)は信号線(20)と共に制御装置に接続されるアース線を示す。
端末装置に於いては、まずポーリング信号検出器(30)が信号線(20)にポーリング信号が制御装置により送出されたことを検出すると、制御回路(23)よりタイミングカウンタ(22)に刻時パルスが与えられ、タイミングカウンタより各種のタイミングを発生する。タイミングT2に於いて端末が受信不能状態であればビジー応答回路(24)がライン・ドライバー(31)を介して信号線に低レベル信号を出力する。タイミングT3に於いて送受信モード判定器(27)が信号線に低レベル信号を検出すると端末を受信モードとし、高レベル信号を検出すると送信モードとする。受信モードに於いては入力データ変換器(28)にてラインレシーバ(32)からのデータを受信してパラレルデータに変換する。受信終了後データ伝送に誤りがあった場合、タイミングT5に於いてエラー応答回路がライン・ドライバー(31)を介して信号線に低レベル信号を出力する。
送信モードに於いてはタイミングT4より出力データ変換器(25)からライン・ドライバー(31)を介してデータを信号線(20)に出力する。送信終了後タイミングT6に於いて送信データに誤りがなかったかどうか、制御装置からの応答をライン・レシーバー(32)を介してエラー検出器(30)で検出する。」(第2頁右下欄第17行〜第3頁左下欄第1行目)と記載されている。

C.対比
そこで、発明と上記刊行物1に記載の発明とを対比すると、刊行物1に記載の発明における「データ担体」、「マイクロプロセッサ」は、それぞれ本件訂正発明における「携帯可能な担体」、「データ処理装置」に相当するので、両者は共に、データ処理手段を備え、データ処理手段は携帯可能な担体中に組み込まれており、データ処理手段は、送信モードにあるときに信号を送信するための送信手段と、受信モードにあるときに送信されたメッセージを受信するための受信手段とを有している、信号伝送用装置において、メッセージが信号の変化によってビット直列形態で伝送される単一の双方向信号線を与えるものである点では同じである。
ただ、(a)本件訂正発明においては、データ処理手段は、第1及び第2の2つのデータ処理手段を備えており、少なくとも一方のデータ処理手段が携帯可能な担体中に組み込まれており、2つのデータ処理手段は、解放可能に互い結合して、2つのデータ処理手段間での信号伝送を行なっているのに対して、刊行物1のものにおいては、他方のデータ処理手段についての記載は存在せず、2つのデータ処理手段間での信号伝達を行なっていることも記載されていない。
また、(b)本件訂正発明においては、2つのデータ処理手段は各々、当該データ処理手段が受信モードであるときに前記双方向信号線を第1の所定状態に維持して、メッセージを受信する準備ができているということを他方のデータ処理手段に知らせる第1の手段と、当該データ処理手段が送信モードにあるときに動作して前記双方向信号線の前記第1の所定状態を検出する第2の手段と、該第2の手段によって制御され、メッセージの最初のビットより先に生じる開始ビット信号を発生して、他方のデータ処理手段に送信する第3の手段と、当該データ処理手段が受信モードにあるときに動作し、受信したメッセージにエラーを検出したとき前記第1の所定状態とは異なった第2の所定状態に前記単一の双方向信号線を置き、受信したメッセージにエラーを検出しないとき前記第1の所定状態に前記単一の双方向信号線を置くことにより.他方のデータ処理手段に伝送エラーを知らせる第4の手段と、を備えているのに対して、刊行物1のものには、そのような伝送手段が記載されていない点で、両者は相違している。

D.上記相違点についての当審の判断
そこで上記相違点(a),(b)について検討すると、(a)の点については、刊行物1の発明における携帯可能な担体は、いわゆるICカードであって、一般的に言って、ICカードは、他のデータ処理手段を解放可能に互いに結合して、該他のデータ処理手段との間でメッセージの送受信を行なうものであるので、上記刊行物1の発明においても、携帯可能な担体中に組み込まれているデータ処理手段は、他のデータ処理手段との間で信号伝送を行なっていることは当業者にとって自明の事項にすぎないものと認められ、本件訂正発明と、刊行物1に記載された発明との相違点(a)は、格別の相違点であるものとは認められない。
つぎに、(b)の点については、上記刊行物2に記載されている、制御装置と端末装置間のメッセージ伝送手段は、データを伝送する際には、受信装置側の信号線の電圧を送信装置側で検出し、それが第1の所定状態であるときには、受信装置が受入れ可能状態であると送信装置側で検出してメッセージの伝送を行い、次に、受信装置側で、メッセージ伝送中にエラーが検出された場合には、前記所定状態とは異なった第2の所定状態に該信号線を置くことにより、送信装置側に伝送エラーを知らせるものであって、これは、本件訂正明細書記載の発明の2つのデータ処理手段間のメッセージ伝送手段である、当該データ処理手段が受信モードであるときに前記双方向信号線を第1の所定状態に維持して、メッセージを受信する準備ができているということを他方のデータ処理手段に知らせる第1の手段と、当該データ処理手段が送信モードにあるときに動作して前記双方向信号線の前記第1の所定状態を検出する第2の手段と、該第2の手段によって制御され、他方のデータ処理手段に送信する第3の手段と、当該データ処理手段が受信モードにあるときに動作し、受信したメッセージにエラーを検出したとき前記第1の所定状態とは異なった第2の所定状態に前記単一の双方向信号線を置き、受信したメッセージにエラーを検出しないとき前記第1の所定状態に前記単一の双方向信号線を置くことにより.他方のデータ処理手段に伝送エラーを知らせる第4の手段と同じである。
また、メッセージの最初のビットより先に開始ビット信号を送信して、メッセージの送信開始を受信装置側に知らせることについて、特許権者は、平成12年2月7日付け提出の特許異議意見書中において、本件訂正発明における「メッセージの最初のビットより先に開始ビット信号を発生して他方のデータ処理手段に送信する」構成は、担体と装置間における対話の実行を可能にするという技術的課題を解決するものである。すなわち、本件訂正発明によれば、いずれの装置から送られるいずれのメッセージも妨げられない。このことは、二つの装置のうち他方にメッセージを伝送したい方の装置が、信号線が、他方の装置がメッセージを受信する準備ができていることを示す第1の所定の状態であるかどうかを、最初に検出するように定めることによって達成される。もし、信号線が第1の状態でなければ、送信側の装置は、他方の装置へ信号を送らない。このため、他方の装置がメッセージを送っていれば、このメッセージは全く妨げられることはないので、一方の装置からの信号と他方の装置からの信号との間の衝突は起こり得ない。これに対して、刊行物2の発明においては、他方の装置へメッセージを送信したいいずれかの装置は、タイミングT1において伝送路を高レベルとすることによって他方の装置へメッセージを送信するので、他方の装置がどのような状態であっても、この操作が行われる。他方の装置は、受信準備ができていれば、タイミングT2において伝送路を高レベルに維持することによって応答し、送信側の装置は、メッセージ送信を開始する。他方の装置は、受信準備ができていなければ、タイミングT2において伝送路を低レベルとすることによって応答し、送信側の装置は、メッセージ送信を開始しない。しかしながら、他方の装置がどのような状態であっても、タイミングT1において伝送路を高レベルとすることによって、送信側の装置は、送信中の他方の装置のメッセージとの衝突を起こす可能性があり、この衝突は、受信側の装置が送信側の装置に、メッセージを受信する準備ができていないことを知らせるT2のタイミングより後になって初めてとまる。すなわち、刊行物2の装置は、タイミングT1およびT2の間に衝突が起こることを認めるものである。したがって、本件訂正発明は、刊行物2の装置によっては得られない、高い安全性を有している旨の主張をしている。
しかしながら、本件訂正発明は、その特許請求の範囲の記載からも明らかなように、第1及び第2のデータ処理手段を備え、少なくとも一方のデータ処理手段は携帯可能な担体中に組み込まれているものであって、その2つのデータ処理手段間でのみ信号伝送をするものであるので、一方のデータ処理手段が送信モードにあってデータを送信中であるときは、他方のデータ処理手段は、必ず、該一方のデータ処理手段が送信しているデータを受信している受信モードの状態にあるので、その時に該他方のデータ処理手段が該一方のデータ処理手段に対してデータ送信のための動作を開始することは考えられず、本件訂正発明においては、メッセージの衝突が生じる可能性は全く考えられないのである。そして、刊行物2記載の発明には、ポーリング信号を用い、制御装置より送信するデータがあるかを端末装置に問い合わせ、送信データがある場合には、送信モードとして、問い合わせに続いてデータを送信し、送信データがない場合には受信モードとする、ポーリング手法が記載されているので、刊行物2の発明においては、伝送制御装置または端末装置の一方の側から他方の側へのデータ伝送中には、送信側の装置である一方の側の装置は送信モードにあり、受信側の装置である他方の側の装置は受信モードにあるので、その時に、受信モードにある該他方の側の装置が該一方の側の装置に対してデータ送信のための動作を開始することは考えられず、メッセージの衝突が生じる可能性がないことは本件訂正発明と同じである。
したがって、上記刊行物1に記載された2つのデータ処理手段間のメッセージ伝送手段として、上記刊行物2に記載されているメッセージ伝送手段を適用して本件訂正発明のようにすることは、当業者が容易に発明をすることができたものと認められるので、上記相違点(b)も、格別の相違点であるものとは認められない。

E.特許権者の主張について
本件特許権者ビュル エス.アー.は、平成12年11月30日提出の意見書中において、以下のように反論している。
「相違点(b)について以下に説明いたします。
本発明の「当該データ処理手段が受信モードにあるときに前記双方向信号線を第1の所定の状態に維持して、メッセージを受信する準備ができていることを他方のデータ処理手段に知らせる第1の手段」(請求項1)は、第1の所定の状態が「静的な」状態である点において顕著なものです。
「静的」とは、他の装置からの要求に応じて特定の動作を行うことによって動的にもたらされるのではなく、当該装置の電圧を確立する結果としてデフォルトでもたらされる状態であることを意味します。
本発明の請求項1には、「受信モードにあるときに・・・第1の所定の状態に維持して」とあることから第1の状態が上記の「静的な」状態であることは明らかです。
本特許公報の第11図は、受信側の装置が、静的な状態(1)から動的な状態(0、すなわち開始信号)への変化を検出するために線l3(第4図)の状態を繰り返しテストすることによって、送信側の装置からの開始信号を探す手順を示しています。
「静的な」状態に維持することの利点は、二つの装置間の通信の間の所定の時間においてまたは、線の状態の変化などの所定の事象が発生した後に検出しなければならない動的な状態に比較して、送信側の装置が簡単に検出を行うことができることです。「静的な」状態に維持する他の利点は、「静的な」状態は動的な状態の場合よりもずっと大きな、電気レベルを保持するためのキャパシティを有するので、線l3上で発生しうる電気ノイズに実質的に影響されないことです。
刊行物2に記載されたものは、本発明とは異なり、時間T2に受信側の装置が、時間T1に他方の装置から受信した要求に応じて、メッセージを受信する準備ができていることを他方の装置に知らせます。
受信側の装置の応答は、受信モードにあるときに維持される本発明の第1の所定の状態のように「静的な」状態ではなく、動的な状態であり、以下の理由から送信側の装置が検出するのが困難であるという欠点を有するものです。
第1に、受信側の装置は動的な状態を生成するために特定の動作を行う必要があります。
第2に、時間T1において他方の装置から受信した要求後の所定の時間に、送信側の装置はこの事象を探す必要があります。
第3に、動的な状態は、線l3で発生しうる電気ノイズに実質的に影響される危険があります。
結論として、本発明は刊行物2に記載されたものに類似していますが、本発明においては、「静的な」電気状態の検出に基づいて通信が開始されます。送信側の装置からの要求に応じて生成される動的な電気状態の検出に基づいて通信が開始される刊行物2に記載されたものに比較して、本発明の上記の方式には、簡潔性、安全性に関する種々の利点があります。
このような利点は、本発明と刊行物2に記載されたものとの相違点(b)によってもたらされる格別のものです。」

よって、上記主張について検討すると、発明の詳細な説明の欄のには、「第5図は、データ線路すなわち導体l3を介して伝送されるメッセージの時系列シーケンスを 図解するためのものである。・・・(中略)
受信機は、導体l3を初期電位V0(信号PR)にすることによってメッセージの受信が可能である旨、送信機に告知する。この信号は、開始信号の伝送前少なくとも1時間ステップの間発生される。」と、記載されており、また、特許請求の範囲第1項には、「前記2つのデータ処理手段は各々、当該データ処理手段が受信モードであるときに前記双方向信号線を第1の所定状態に維持して、メッセージを受信する準備ができているということを他方のデータ処理手段に知らせる第1の手段と、当該データ処理手段が送信モードにあるときに動作して前記双方向信号線の前記第1の所定状態を検出する第2の手段」と、記載されている。
これらの記載によると、本件発明においては、一方のデータ処理手段の導体l3の電位は、通常は初期電位V0(信号PR)にに維持されており、他方のデータ処理装置に受信可能であることを知らせているものと認められるので、そのことを特許権者は、上記意見書中において、「静的な」状態であると主張しているものと認められる。

そこで、上記刊行物2を参照すると、そこには、「第1図はこの発明の実施例のうち、伝送制御装置から端末装置へデータ伝送を行なう場合の信号の様子を示すもので、図おいて(1)はポーリング信号、(2)は端末からの制御情報信号、(3)はデータ信号、(4)は端末からの制御情報信号、(5)は、(1)、(2)、(3)、(4)の各信号が多重化されて伝送される伝送路上の信号である。
今伝送制御装置からデータを伝送する際には、ポーリング信号(1)を出すことにより、通常低レベルに保たれている伝送路を高レベルとする。これにより端末装置は、接続開始を検出し、データの受入れ可能状態にあればT2のタイミングに於いて応答信号を出さない。またデータの受入れが不可能な状態にあっては、低レベル信号をT2のタイミングに於いて出力することにより、伝送路を低レベルに落す。」(該刊行物第1頁右下欄第7行〜第2頁左上欄第2行目)
「T2のタイミングに於いて伝送路が高レベルに保たれている場合にはT3のタイミング以降データの伝送を行なう。」(第2頁左上欄第7〜9行目)と記載されている。
すなわち、刊行物2の発明においても、端末装置(本件発明の「(一方の)データ処理手段」に相当する。)の制御情報信号は、通常は、高レベルに保たれており、伝送制御装置(本件発明の「他方のデータ処理装置」に相当する。)から送信信号が来た時に、受信可能であれば応答信号を出さず、受信可能であることを知らせているので、本件発明も、刊行物2の発明も、共に、送信側の装置から送信信号が来た時に、受信装置が受信可能である場合には、該受信装置は、積極的に応答信号をせずに、通常の電位状態を維持することによって、送信側の装置に受信可能であることを知らせているので、刊行物2の発明も、本件発明と同様に、「静的な」電気状態の検出に基づいて通信を開始しているものと認められる。

したがって、特許権者の係る主張には根拠がなく、採用することができない。

F.むすび
以上のとおりであるので、訂正発明は、刊行物1に記載された発明に刊行物2に記載された発明を適用することによって、当業者が容易に発明をすることができたものであるので、本件訂正明細書の発明は、特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができるものとは認められないので、訂正請求は、特許法第120条の4第3項の規定により準用する特許法第126条第4項の規定に違反するので、この訂正は認められない。

3.特許異議申立についての判断
(1)本件発明
本件の特許請求の範囲の第1項に記載された発明(以下、「本件発明」と言う。)は、特許公報の明細書および図面の記載からみて、その特許請求の範囲の第1項に記載されたとおりの
「第1及び第2のデータ処理手段を備え、少なくとも一方のデータ処理手段は携帯可能な担体中に組み込まれており、データ処理手段は各々、送信モードにあるときに信号を他方のデータ処理手段に送信するための送信手段と、受信モードにあるときに他方のデータ処理手段から送信されたメッセージを受信するための受信手段とを有している、2つのデータ処理手段間での信号伝送用装置において、
前記2つのデータ処理手段を解放可能に互い結合して、メッセージが信号の変化によってビット直列形態で伝送される単一の双方向信号線を与える結合装置を備え、
前記2つのデータ処理手段は各々、
当該データ処理手段が受信モードであるときに前記双方向信号線を第1の所定状態に維持して、メッセージを受信する準備ができているということを他方のデータ処理手段に知らせる第1の手段と、当該データ処理手段が送信モードにあるときに動作して前記双方向信号線の前記第1の所定状態を検出する第2の手段と、該第2の手段によって制御され、メッセージの最初のビットより先に生じる開始ビット信号を発生して、他方のデータ処理手段に送信する第3の手段と、当該データ処理手段が受信モードにあるときに動作し、受信したメッセージにエラーを検出したとき前記第1の所定状態とは異なった第2の所定状態に前記単一の双方向信号線を置き、受信したメッセージにエラーを検出しないとき前記第1の所定状態に前記単一の双方向信号線を置くことにより.他方のデータ処理手段に伝送エラーを知らせる第4の手段と、を備えている
ことを特徴とする2つのデータ処理手段間での信号伝送用装置。」
にあるものと認められる。

(2)引用刊行物
当審が通知した取消理由に引用した刊行物1(特開昭54-46447号公報),刊行物2(特開昭51-150933号公報)の発明は、上記「2(2)B.」に記載したとおりのものである。
(3)対比
本件発明は訂正発明と同じであるので、本件発明と上記刊行物1に記載されているものとを対比すると、両者の一致点及び相違点は、上記「2(2)C.」に記載したところと同じである。

(4)上記相違点についての当審の判断
本件発明と上記刊行物1との相違点についての判断も、上記「2(2)D.」に記載したところと同じである。

(5)むすび
以上のとおりであるので、本件発明は、刊行物1に記載された発明に刊行物2に記載された発明を適用することによって、当業者が容易に発明をすることができたものと認められるので、本件発明は、特許法第29第2項の規定により特許を受けることができないものである。

4.まとめ
したがって、本件発明についての特許は、特許法第113条第2号の規定に該当し、取り消されるべきものである。
よって結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2001-02-28 
出願番号 特願平1-86706
審決分類 P 1 651・ 121- ZB (G06K)
最終処分 取消  
前審関与審査官 大橋 隆夫松尾 浩太郎徳永 民雄  
特許庁審判長 川名 幹夫
特許庁審判官 日下 善之
橋本 正弘
登録日 1998-03-27 
登録番号 特許第2763327号(P2763327)
権利者 ビュル エス.アー.
発明の名称 2つのデータ処理手段間での信号伝送用装置  
代理人 中村 至  
代理人 船山 武  
代理人 川口 義雄  

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