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審決分類 審判 訂正 判示事項別分類コード:813 訂正する H01L
審判 訂正 判示事項別分類コード:812 訂正する H01L
審判 訂正 旧特126条1項1号 請求の範囲の減縮 訂正する H01L
管理番号 1043857
審判番号 訂正2000-39163  
総通号数 22 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 1996-08-20 
種別 訂正の審決 
審判請求日 2000-12-22 
確定日 2001-03-03 
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第2659000号に関する訂正審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 特許第2659000号に係る明細書を本件審判請求書に添付された訂正明細書のとおり訂正することを認める。 
理由 1.請求の要旨
本件審判の請求の要旨は、特許第2659000号(昭和62年2月6日に出願された特願昭62年26677号の一部を特許法第44条第1項の規定により、平成7年12月18日に特願平7年328613号として特許出願し、平成9年6月6日設定登録)に係る明細書を審判請求書に添付した訂正明細書のとおりに訂正しようとするものである。

2.訂正事項の要旨
本件訂正審判請求書における訂正事項は、下記(a)〜(r)のとおりである。
(a)本件明細書の発明の名称(本件特許公報1頁1欄冒頭箇所)における
「トランジスタの製造方法」を
「薄膜トランジスタの製造方法」
に訂正する。
(b)本件特許請求の範囲の【請求項1】(本件特許公報1頁1欄2行目)の文頭に
「プラズマを発生させる放電室と、前記放電室で励起したプラズマ中のイオンをガラスからなる絶縁基板上の多結晶あるいは非晶質シリコン膜に照射する処理室と、前記放電室と前記処理室の間に設けられた電極と、前記電極と前記放電室を挟んで反対側に設けられた別の電極とを備えたイオンシャワードーピングのための装置を用い、」
を挿入する
(c)本件特許請求の範囲の【請求項1】(本件特許公報1頁1欄2行目)における
「絶縁基板」を
「ガラスからなる絶縁基板」
に訂正する。
(d)本件特許請求の範囲の【請求項1】(本件特許公報1頁1欄5〜6行)における
「ドレイン部に、プラズマ空間中で形成された」を
「ドレイン部に、前記ガラスからなる絶縁基板から離れた位置にある前記放電室のプラズマ空間中で形成された」
に訂正する。
(e)本件特許請求の範囲の【請求項1】(本件特許公報1頁1欄7〜8行)における
「不純物イオン及び水素イオンを前記プラズマ空間中から引出して同時に」を
「不純物イオン及び水素イオンを前記放電室のプラズマ空間中から前記別の電極の反対側へ引出し加速し前記処理室内のシリコン膜に同時に」
に訂正する。
(f)本件特許請求の範囲の【請求項1】(本件特許公報1頁1欄8行目)における
「照射してソース、」を
「照射して、不純物イオンの注入によって発生した前記シリコン膜の欠陥を水素イオンで補償しながら、ソース、」
に訂正する。
(g)本件特許請求の範囲の【請求項1】(本件特許公報1頁1欄9行目)における
「トランジスタの製造方法。」を
「薄膜トランジスタの製造方法。」
に訂正する。
(h)本件特許請求の範囲の【請求項2】(本件特許公報1頁1欄10行目)における
「絶縁基板」を
「ガラスからなる絶縁基板」
に訂正する。
(i)本件特許請求の範囲の【請求項2】(本件特許公報1頁1欄12〜13行)における
「トランジスタの製造方法。」を
「薄膜トランジスタの製造方法。」
に訂正する。
(j)本件特許請求の範囲の【請求項3】(本件特許公報1頁2欄1行目)における
「トランジスタの製造方法。」を
「薄膜トランジスタの製造方法。」
に訂正する。
(k)本件明細書【0003】(本件特許公報2頁3欄26〜27行)における
「バターン形成する」を
「パターン形成する」
に訂正する。
(l)本件明細書【0006】(本件特許公報2頁4欄9〜17行)における
「上記目的を達成するために……引出して同時に照射して前記ソース、ドレイン領域のを形成するトランジスタの製造方法を提供する。」を
「上記目的を達成するために本発明は、プラズマを発生させる放電室と、前記放電室で励起したプラズマ中のイオンをガラスからなる絶縁基板上の多結晶あるいは非晶質シリコン膜に照射する処理室と、前記放電室と前記処理室の間に設けられた電極と、前記電極と前記放電室を挟んで反対側に設けられた別の電極とを備えたイオンシャワードーピングのための装置を用い、
前記ガラスからなる絶縁基板上に、チャンネル部とソース、ドレイン部となる多結晶あるいは非晶質シリコン膜を形成した後、前記シリコン膜上に形成したマスクを用いて前記シリコン膜のソース、ドレイン部に、前記ガラスからなる絶縁基板から離れた位置にある前記放電室のプラズマ空間中で形成された周期律表III又はV族元素イオンを含む不純物イオン及び水素イオンを前記放電室のプラズマ空間中から前記別の電極の反対側へ引出し加速し前記処理室内のシリコン膜に同時に照射して、不純物イオンの注入によって発生した前記シリコン膜の欠陥を水素イオンで補償しながら、ソース、ドレイン領域を形成することを特徴とする薄膜トランジスタの製造方法を提供する。」
に訂正する。
(m)本件明細書【0010】(本件特許公報3頁5欄5行目)における
「処理室」を
「処理室11」
に訂正する。
(n)本件明細書【0010】(本件特許公報3頁5欄8行目)における
「均一なブラズマ」を
「均一なプラズマ」
に訂正する。
(o)本件明細書【0011】(本件特許公報3頁6欄7行目)における
「可能である」を
「可能である。」
に訂正する。
(p)本件明細書【0012】(本件特許公報3頁6欄15行目)における
「可能である」を
「可能である。」
に訂正する。
(q)本件明細書【0029】(本件特許公報5頁9欄26行目)における
「粒界(注2)制御」を
「粒界制御」
に訂正する。
(r)本件明細書【0033】(本件特許公報5頁10欄18行目)における
「均一なブラズマ」を
「均一なプラズマ」
に訂正する。

3.訂正の目的、新規事項、拡張、変更について
(3-1) 前記(a)の訂正は、特許請求の範囲の訂正に対応して、発明の名称をこれと整合するように訂正するものであるから、明りょうでない記載の釈明に相当する。
(3-2) 前記(b)の訂正は、本件明細書【0010】(本件特許公報3頁5欄1〜27行)及び図2の下記の記載を根拠に、「トランジスタの製造方法」をより下位概念である
「プラズマを発生させる放電室と、前記放電室で励起したプラズマ中のイオンをガラスからなる絶縁基板上の多結晶あるいは非晶質シリコン膜に照射する処理室と、前記放電室と前記処理室の間に設けられた電極と、前記電極と前記放電室を挟んで反対側に設けられた別の電極とを備えたイオンシャワードーピングのための装置を用い、」
と限定しようとするものであり、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
なお、訂正の根拠とするところは、次のとおりである。
・「プラズマを発生させる放電室」:本件特許公報の3頁5欄3行及び図2の中では「プラズマ」と記載されている部分にプラズマを発生させる説明が示されている。
・「前記放電室で励起したプラズマ中のイオン」:本件特許公報の3頁5欄3〜4行に記載されている。
・「多結晶あるいは非晶質シリコン膜」:本件特許公報1頁1欄3行目に記載されている。
・「照射する処理室」:「処理室」は本件特許公報3頁5欄5行目に記載され、「照射」は本件特許公報1頁1欄8行目に記載されている。
・「前記放電室と前記処理室の間に設けられた電極」:本件特許公報3頁5欄23行目及び図2の「電極16」として記載されている。
・「前記電極と前記放電室を挟んで反対側に設けられた別の電極」:本件特許公報3頁5欄24〜25行に「別の電極17」と記載され、図2にも「電極17」として記載されている。
・「イオンシャワードーピングのための装置」:本件特許公報3頁5欄1行目に記載されている。
(3-3) 前記(c)の訂正は、本件明細書【0021】(本件特許公報4頁7欄27行目)の「ガラス基板」の記載を根拠に、「絶縁基板」をより下位概念である「ガラスからなる絶縁基板」と限定しようとするものであり、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
(3-4) 前記(d)の訂正は、本件明細書【0022】(本件特許公報4頁7欄47行目)の「放電室の出口から約15cm離れた位置で」の記載、及び図2の記載を根拠に、「ドレイン部に、プラズマ空間中で形成された」をより下位概念である「ドレイン部に、前記ガラスからなる絶縁基板から離れた位置にある前記放電室のプラズマ空間中で形成された」と限定しようとするものであり、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
(3-5) 前記(e)の訂正は、本件特許公報の図2を根拠に、より具体的に限定して明瞭化するものである。また「加速し」は、本件明細書【0007】(本件特許公報2頁4欄23行目)の「引き出して、これを低電圧加速により」、同【0008】(同頁同欄45〜46行)の「発生したリンイオン4,水素イオン5を加速し」、【0027】(5頁9欄8行目)の「6KeVでイオン加速し」の記載を根拠に、
「不純物イオン及び水素イオンを前記プラズマ空間中から引出し同時に」をより下位概念である「不純物イオン及び水素イオンを前記放電室のプラズマ空間中から前記別の電極の反対側へ引出し加速し前記処理室内のシリコン膜に同時に」と限定しようとするものであり、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
(3-6) 前記(f)の訂正は、本件明細書【0007】(本件特許公報2頁4欄34〜37行)の「不純物注入と同時に水素イオンが注入され、不純物注入時に誘起される欠陥を補償することができるため」、同【0007】及び【0018】(同3頁6欄50行〜4頁7欄13行)の「これに対し第3図Bの場合も同様に欠陥が発生すると思われる。しかしながら、本実施例のイオンシャワー方式の場合は不純物イオンとともに水素イオンも注入され、この水素イオンが不純物イオンの注入に伴って生じた欠陥を補償する役目を果たすものと思われる。特に半導体薄膜が非晶質シリコンの場合、初めから薄膜中に水素は導入されており、欠陥の補償の役目を果たすと思われるが、1個の不純物イオンの導入により発生する欠陥の数が多いため、初めから薄膜中に含まれていた水素だけでは十分に欠陥を補償できず、不純物イオン注入の際に水素イオンも同時に注入してやると、欠陥を十分に補償することができる。これにより、後の熱処理工程を低温で行うことが可能となる。」、同【0026】(同4頁8欄38〜41行)の「不純物イオンのドーピングとともに水素イオンも同時に注入され、不純物のドーピング時に生ずる欠陥による電気的特性を補償することになり」の記載を根拠に、「照射してソース、」をより下位概念である「照射して、不純物イオンの注入によって発生した前記シリコン膜の欠陥を水素イオンで補償しながら、ソース、」と限定しようとするものであり、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
なおこの現象は非晶質シリコンだけでなく、多結晶シリコンにも発現させていることは、本件明細書【0029】(本件特許公報5頁9欄22〜35行)の記載及び【0033】(本件特許公報5頁10欄4〜21行)の[発明の効果]の記載からも明らかである。
(3-7) 前記(g)、(i)及び(j)の訂正は、本件明細書【0007】(本件特許公報2頁4欄29〜33行)の「多結晶シリコン,非晶質シリコン薄膜トランジスタのソース・ドレイン領域の形成,浅い電極領域の形成,p,n任意の選択ドーピング等が容易に行え、薄膜トランジスタの製造にも好適となる」の記載を根拠に、「特徴とするトランジスタの製造方法。」をより下位概念である「特徴とする薄膜トランジスタの製造方法。」と限定しようとするものであり、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
(3-8) 前記(h)の訂正は、本件明細書【0021】(本件特許公報4頁7欄27行目)の「ガラス基板」の記載を根拠に、「絶縁基板」をより下位概念である「ガラスからなる絶縁基板」と限定しようとするものであり、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
(3-9) 前記(l)の訂正は、特許請求の範囲第1項の訂正に対応して、これと整合するように発明の詳細な説明の欄を訂正するものであるから、明りょうでない記載の釈明に相当する。
(3-10) 前記(m)の訂正は、「処理室」を「処理室11」と訂正するもので、「処理室」と【図2】における「11」との対応関係を明らかにするものであるから、明りょうでない記載の釈明に相当する。
(3-11) 前記(q)の訂正は、「粒界(注2)制御」を「粒界制御」と訂正するもので、対応箇所のない「(注2)」という明りょうでない記載を削除するものであるから、明りょうでない記載の釈明に相当する。
(3-12) 前記(k)、(n)、(o)、(p)、及び(r)の訂正は、明らかに誤記の訂正に相当する。
(3-13) 以上の如く(a)〜(r)の訂正は、いずれも、願書に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内においてなされたものであり、さらに、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

(4)独立特許要件の判断
(4-1) 本件訂正発明
訂正後の特許請求の範囲第1項の発明(以下「本件訂正発明」という。)は、次のとおりである。
「プラズマを発生させる放電室と、前記放電室で励起したプラズマ中のイオンをガラスからなる絶縁基板上の多結晶あるいは非晶質シリコン膜に照射する処理室と、前記放電室と前記処理室の間に設けられた電極と、前記電極と前記放電室を挟んで反対側に設けられた別の電極とを備えたイオンシャワードーピングのための装置を用い、
前記ガラスからなる絶縁基板上に、チャンネル部とソース、ドレイン部となる多結晶あるいは非晶質シリコン膜を形成した後、前記シリコン膜上に形成したマスクを用いて前記シリコン膜のソース、ドレイン部に、前記ガラスからなる絶縁基板から離れた位置にある前記放電室のプラズマ空間中で形成された周期律表III又はV族元素イオンを含む不純物イオン及び水素イオンを前記放電室のプラズマ空間中から前記別の電極の反対側へ引出し加速し前記処理室内のシリコン膜に同時に照射して、不純物イオンの注入によって発生した前記シリコン膜の欠陥を水素イオンで補償しながら、ソース、ドレイン領域を形成することを特徴とする薄膜トランジスタの製造方法。」

(4-2) 各刊行物に記載の発明
本件に関する平成12年(行ケ)第125号取消決定取消請求事件(平成10年異議第71457号事件の取消決定取消請求事件)においては、本件訂正前の発明と下記の刊行物に記載の発明との容易性が争点になっている。
刊行物1:特開昭61-48979号公報
刊行物8:特開昭56-138921号公報
(4-2-1) 刊行物1
刊行物1(特開昭61-48979号公報)には、以下の点が第2図と共に記載されている。
「(1)多結晶シリコン薄膜を用いた薄膜トランジスタにおいて、ソース領域及びドレイン領域をPH3(フオスフイン)またはB2H6(ジボラン)を含む反応性気体をプラズマ分解することによりドーピングして形成することを特徴とする多結晶シリコン薄膜トランジスタの製造方法。
(2)H2(水素)によって希釈されたPH3又はB2H6を含む反応性気体をプラズマ分解することを特徴とする特許請求の範囲第1項記載の多結晶シリコン薄膜トランジスタの製造方法。」(特許請求の範囲)
「(技術分野)本発明は大面積基板に低温プロセス(約600℃以下)により、ソース領域及びドレイン領域を形成して作製される多結晶シリコン薄膜トランジスタの製造方法に関する。」(第1頁左下欄第16行〜右下欄第2行)
「[目的]本発明は、耐熱温度の低いガラス基板上に、欠陥密度の少ないNチヤネル及びPチヤネル多結晶シリコン薄膜トランジスタを大面積にわたって作製することを可能にさせることが目的である。」(第2頁右上欄第15行〜第19行)
「(実施例)第2図は、本発明の実施例を示す図である。同(a)に示すようにガラス基板7上に、多結晶シリコン薄膜8を形成する。その上にゲート絶縁膜9を堆積させ、次いでゲート電極10を形成する。続いて同図(b)で示すように該ゲート電極10をマスクとしてゲート絶縁膜9に示すような形にパターニングしソース領域及びドレイン領域となる多結晶シリコン薄膜の表面を露出させる。そして、Nチヤネル薄膜トランジスタを作製する場合は、PH3プラズマ雰囲気中に、Pチヤネル薄膜トランジスタを作製する場合はB2H6プラズマ雰囲気中にさらすことにより、ソース領域11及びドレイン領域12を形成する。この時、H+も同時に膜中に取り込まれる。プラズマ発生装置としては、誘導結合型あるいは容量結合型の通常のプラズマCVD装置を応用できる。前記PH3ガスあるいはB2H6ガスはH2にて希釈されているのでプラズマ雰囲気の温度は300℃以下におさえる。
これは、膜中に取り込まれたH+が外へ放出されるのを防ぐためである。その後同図(c)に示すように層間絶縁膜13を堆積させ、コンタクトホールをあけてソース電極14及びドレイン電極15を形成して薄膜トランジスタが完成する。
(効果)本発明により、低温(600℃以下)で、多結晶シリコン薄膜トランジスタを作製することができる。しかも不純物拡散にイオン打込み装置を使わずプラズマ分解を用いるので、費用を大幅に低減させることができ、さらに、大面積基板に薄膜トランジスタを作製することが可能となる。まず、不純物の拡散にイオン打込み装置を使わなくてすむということで装置にかかる費用は大幅に削減できる。プロセスは低温でよいので安価なガラス基板を用いることができる。」(第2頁左下欄第5行〜右下欄第19行)
「従ってプラズマ雰囲気中にはH+も多量に発生しており、多結晶シリコン薄膜を水素プラズマ処理する効果も得られる。多結晶シリコンを水素プラズマ雰囲気にさらすと、結晶粒界付近に存在するダングリングボンドがH+によって終端化されSi-H結合が生成される。ダングリングボンドはトラップ中心として働くが、そのトラップ中心が減少するため、従って易動度が増大するという効果がある。本発明を実施すれば、ソース領域及びドレイン領域を形成すると同時に多結晶シリコン薄膜を水素プラズマ処理することができるので易動度の向上が計れるという大きな効果が期待できるものである。一方、水素プラズマによりトラップ中心を終端化しながらPあるいはBをドーピングするので、不純物原子の活性化率も向上するものである。
以上述べてきたように、本発明は、信頼性のよい多結晶シリコン薄膜を用い、安価なガラス基板上に大面積にわたって薄膜トランジスタを作り込むことを可能にする。しかも、多結晶シリコンに本質的に多量に含まれるダングリングボンドを低減させながらソース領域及びドレイン領域を形成するという優れた不純物拡散方法を用いているので薄膜トランジスタの易動度を増大させるという効果もあわせて持っている。」(第3頁左上欄第10行〜右上欄第14行)
以上の記載から、刊行物1には、耐熱温度の低いガラス基板上に、欠陥密度の少ないNチヤネル及びPチヤネル多結晶シリコン薄膜トランジスタを大面積にわたって作製することを可能にさせることを目的とする「ガラス基板上に、多結晶シリコン薄膜を形成した後、その上に形成したゲート電極をマスクとして用いて前記多結晶シリコン薄膜のソース領域、ドレイン領域を、H2によって希釈されたPH3又はB2H6を含む反応性気体をプラズマ分解したプラズマ雰囲気中にさらすことによりソース、ドレイン領域を形成することを特徴とする多結晶シリコン薄膜トランジスタの製造方法。」が記載されている。

(4-2-2) 刊行物8
刊行物8(特開昭56-138921号公報)には、以下の点が第2図と共に記載されている。
「被処理物が配置され、不純物又は不純物を含む物質が導入された容器内に放電を発生せしめ、該放電によって生ずる不純物又は不純物を含む物質のイオンを前記被処理物の表面に導入し、該被処理物表層部に不純物導入層を形成することを特徴とする不純物導入層の形成方法。」(特許請求の範囲)
「本発明は不純物導入層の形成方法にかかり、特に浅い不純物導入層の形成方法に関する。」(第1頁左下欄第11行〜第12行)
「又本発明の方法をイオン・ビーム・エッチング装置を用いて行う第2の実施例に於ては、第2図に示すように上部にマイクロ(μ)波導入窓8を有し、中間部にイオン加速電極9を有し、下部に絶縁された試料台10を有する真空容器3の試料台10上に被処理物例えばSi基板4を載置し、ガス導入管5から真空容器3内へ20[cc/分]の量で例えばPH3:H=1:99の組成を有する混合ガスを導入しながら、排気管6から排気を行って真空容器3内の混合ガスの圧力を例えば0.1[Torr]とする。
そして真空容器3の上部に配設された導波管11を通して、例えば2.45[GHz]のμ波を真空容器3内の混合ガスに照射し放電を起こさせ、この放電によって発生したP及びPとHの化合物のイオンを例えば600[V]の電位差を与えた加速電極9により加速し、イオン電流1[mA/cm2]の条件で例えば1[分]間Si基板4の表面に注入する。
そして上記注入条件に於てSi基板4の表層部に形成されるPの注入層即ちN+-Si層は、Pの表面濃度1020[個/cm2]程度で、深さ50[Å]程度の極めて薄い均一な層となり、この極めて薄いN+-Si層のP濃度や深さの値はP或いはPの化合物を含むガスの組成,流量及び圧力やイオンの加速電圧,イオン電流等の条件を一定にすれば極めて再現性よく形成することができる。
なおこの不純物導入層は活性化するために熱処理を施す場合もある。
又上記イオン・ビーム・エッチング装置を用いる方法に於てはイオン電流の測定が可能であるので不純物導入層の不純物濃度を極めて精度よく制御することができる。
上記第1,第2の実施例に於ては、何れも本発明を被処理基板の一面全体に薄い不純物導入層を形成する場合について説明したが、本発明の方法はフォト・レジスト等のマスク材を用いて基板面に選択的に不純物導入層を形成する際にも適用することができる。」(第2頁右上欄第2行〜左下欄第19行)
「以上説明したように本発明の方法によれば、不純物濃度が充分に制御された浅い不純物導入層を正確な深さに形成することができる。
又本発明の方法に於ては被処理基板を載置する電極或いは試料台全面に不純物イオンが同時に照射されるので、多数枚の被処理基板の同時処理が可能なので作業能率が大幅に向上するとともに、比較的安価なドライ・エッチング装置を兼用することができるので設備費を大幅に削減することができる。」(第2頁右下欄第19行〜第3頁左上欄第8行)
また、第2図の記載から、プラズマ空間は被処理物から離れた位置にあることは明らかである。
以上の記載から、刊行物8には、「上部にマイクロ(μ)波導入窓を有し、中間部にイオン加速電極を有し、下部に絶縁された試料台を有する真空容器の試料台上に被処理物を載置し、被処理物から離れた位置にあるプラズマ空間中で形成されたイオンをプラズマ空間中から引出して、被処理物に導入する不純物導入層の形成方法」が記載されている。

(4-3) 本件訂正発明と各刊行物に記載の発明との対比・判断
本件訂正発明と刊行物1,8に記載の発明とを対比すると、刊行物1,8には、本件訂正発明の必須の構成要件である「放電室と処理室の間に設けられた電極と前記放電室を挟んで反対側に設けられた別の電極を備えたイオンシャワードーピング装置」が記載されておらず、さらにこれらを示唆する記載もない。また、本件訂正発明は、前記構成要件を具備することにより、別の電極(背面電極)は、イオンが背面側に照射されることを防止し、結果として「均一なプラズマと所望のイオンを容易に得る事ができ、従って大面積基板に対し均一に短時間で薄膜トランジスタを製造することができる」(特許公報5頁10欄18〜20行)という効果を奏するものである。
ゆえに、本件訂正発明が、上記刊行物1,8に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとすることはできない。

(4ー4)独立特許要件の判断のむすび
他に本件訂正発明について特許を受けることができないものとするに足る理由を発見しない。
したがって、本件訂正発明は、特許出願の際独立して特許を受けることができるものである。

5.むすび
以上のとおりであるから、本件審判の請求は、平成6年法律第116号附則第6条第1項により、なお従前の例とされる改正前の特許法第126条第1項ただし書き、第2項及び第3項の規定に適合する。

よって、結論のとおり審決する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
薄膜トランジスタの製造方法
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】プラズマを発生させる放電室と、前記放電室で励起したプラズマ中のイオンをガラスからなる絶縁基板上の多結晶あるいは非晶質シリコン膜に照射する処理室と、前記放電室と前記処理室の間に設けられた電極と、前記電極と前記放電室を挟んで反対側に設けられた別の電極とを備えたイオンシャワードーピングのための装置を用い、
前記ガラスからなる絶縁基板上に、チャンネル部とソース、ドレイン部となる多結晶あるいは非晶質シリコン膜を形成した後、前記シリコン膜上に形成したマスクを用いて前記シリコン膜のソース、ドレイン部に、前記ガラスからなる絶縁基板から離れた位置にある前記放電室のプラズマ空間中で形成された周期律表III又はV族元素イオンを含む不純物イオン及び水素イオンを前記放電室のプラズマ空間中から前記別の電極の反対側へ引出し加速し前記処理室内のシリコン膜に同時に照射して、不純物イオンの注入によって発生した前記シリコン膜の欠陥を水素イオンで補償しながら、ソース、ドレイン領域を形成することを特徴とする薄膜トランジスタの製造方法。
【請求項2】ガラスからなる絶縁基板上に、ゲート電極、ゲート絶縁膜を形成したのち、シリコン膜を形成することを特徴とする特許請求の範囲第1項記載の薄膜トランジスタの製造方法。
【請求項3】シリコン膜上にゲート絶縁膜、ゲート電極を形成したのち、イオンを照射することを特徴とする特許請求の範囲第1項記載の薄膜トランジスタの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】
近年のOA化・情報化にともない民生用あるいは産業用を問わず情報の入力装置および表示装置の大型化が必須となりつつある。特に入力装置としての密着型薄膜イメージセンサや表示装置としての液晶ディスプレイ等では、情報量の増加に伴なって大面積化や高速処理が要望されるようになってきた。これらの装置は光センサ及び薄膜トランジスタなどから構成され、これらの大面積および低コストプロセスの開発が強く望まれる。
【0002】
【従来の技術】
上述の光センサの構成材料としては主として非晶質シリコンが用いられ、また薄膜トランジスタの構成材料としては非晶質シリコンとともに多結晶シリコンが用いられている。非晶質シリコンを用いた光センサや薄膜トランジスタの電極コンタクト部やソース・ドレイン領域の形成には高濃度で低抵抗の浅い(〜200Å)不純物導入層の形成が不可欠で、従来はこれをプラズマ化学的気相成長法(P-CVD)を用いて形成していたが不純物を導入した薄膜の堆積後に不必要な領域を写真蝕刻法により除去する必要があり、加えて通常行われる有機感光材料を用いた選択的な不純物導入層の形成は不可能であった。
【0003】
第9図に従来のP-CVD法を用いて大面積用の逆スタガ構造の非晶質シリコン薄膜トランジスタを作製するプロセスを示す。絶縁基板100上に、Cr等の金属ゲート電極101,ゲート絶縁膜である窒化シリコン膜102,能動層となる非晶質シリコン膜103,パッシベーションとなる窒化シリコン104を第9図Aに示す如く形成した後、全面にソース・ドレイン領域形成用のn+非晶質シリコン膜105を全面に堆積した後(第9図B)、ソース・ドレイン領域を残し、写真蝕刻法で層105を選択的にエッチング除去するか、第9図Cの構造を形成するプロセスとして第9図Aの構成を形成するかわりにゲート絶縁膜102,非晶質シリコン103,パッシベーション膜104を連続的に形成した後、パッシベーション膜104を第9図Aの如く形成した後第9図Bの如く全面にP-CVD法でn+非晶質シリコンを形成し、写真蝕刻法で第9図Cの如くパターン形成する事もある。しかる後金属電極6を形成する事により、非晶質シリコン薄膜トランジスタが形成される(第9図D)。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
一般に単結晶シリコン基板を用いた通常の半導体集積回路におけるMOSトランジスタのソース・ドレインの形成にはイオン注入法が適用されるが、大面積基板上への形成が容易な非晶質シリコンは、通常のイオン注入で必要な熱処理を行うことができず、第9図のごとくn+非晶質シリコン層105の形成および選択除去という手間のいる工程が必要となり、工程の増加をもたらしている。すなわち、非晶質シリコンを用いた薄膜トランジスタの形成には、イオン注入法は不純物導入後の活性化と欠陥除去のため高温の熱処理を必要とする等のため不適当である。また、第9図の方法では、ソース・ドレイン用のn+膜105は膜103上に堆積されるため、ゲート絶縁膜102と能動層となるシリコン膜103界面のチャンネル領域107とソース・ドレイン間の距離が大きくこの間の抵抗が大きく、トランジスタ特性が悪くなる欠点があった。
【0005】
【課題を解決するための手段】
本発明は、このような問題を解決することのできるトランジスタの製造方法を提供するものであって、大面積基板の形成が容易である多結晶あるいは非晶質シリコン薄膜が形成された基板を用いて、不純物層の堆積工程がなく工程数の少ない薄膜トランジスタの製造方法を提供することを目的としている。また、チャンネル領域と、ソース・ドレイン間の抵抗が少ないトランジスタの製造方法を提供することを目的としている。さらに、大面積基板に対して均一な処理を短時間で行えるトランジスタの製造方法を提供することを目的としている。
【0006】
上記目的を達成するために本発明は、プラズマを発生させる放電室と、前記放電室で励起したプラズマ中のイオンをガラスからなる絶縁基板上の多結晶あるいは非晶質シリコン膜に照射する処理室と、前記放電室と前記処理室の間に設けられた電極と、前記電極と前記放電室を挟んで反対側に設けられた別の電極とを備えたイオンシャワードーピングのための装置を用い、
前記ガラスからなる絶縁基板上に、チャンネル部とソース、ドレイン部となる多結晶あるいは非晶質シリコン膜を形成した後、前記シリコン膜上に形成したマスクを用いて前記シリコン膜のソース、ドレイン部に、前記ガラスからなる絶縁基板から離れた位置にある前記放電室のプラズマ空間中で形成された周期律表III又はV族元素イオンを含む不純物イオン及び水素イオンを前記放電室のプラズマ空間中から前記別の電極の反対側へ引出し加速し前記処理室内のシリコン膜に同時に照射して、不純物イオンの注入によって発生した前記シリコン膜の欠陥を水素イオンで補償しながら、ソース、ドレイン領域を形成することを特徴とする薄膜トランジスタの製造方法を提供する。
【0007】
本発明のプロセス技術は、不純物元素イオンと同時に水素イオンを基板に導入するため、大面積に集積された非晶質シリコン及び多結晶シリコン等への不純物注入を容易かつ確実に行える。すなわち本発明に用いる技術は高周波プラズマ空間中から不純物元素イオン及び水素イオンを引き出して、これを低電圧加速により所定の温度に加熱した基板にイオンをシャワー状に照射して不純物導入(ドーピング)を行うプラズマプロセス技術(イオンシャワードーピング技術)を用い、この技術により半導体LSIプロセスで使用されている自己整合技術が大面積に対しても応用でき、素子を高性能化し、かつプロセスを簡略化することが可能となり、多結晶シリコン,非晶質シリコン薄膜トランジスタのソース・ドレイン領域の形成,浅い電極領域の形成,p,n任意の選択ドーピング等が容易に行え、薄膜トランジスタの製造にも好適となる。そして、特に非晶質シリコンの場合、非晶質シリコンヘの不純物注入と同時に水素イオンが注入され、不純物注入時に誘起される欠陥を補償することができるため、熱処理温度は、非結晶シリコンが結晶化しない低温で行うことができ、良質な不純物導入層や接合の形成が可能となる。
【0008】
【発明の実施の形態】
まず、本発明に用いる技術の概略を述べる。第1図はこのイオンシャワードーピング技術の概念図である。例えば石英管よりなる真空容器1,外部に印加した高周波電力用電極2,電磁石3にて形成される外部磁場を備え、真空容器1中に導入された例えばH2希釈PH3ガスを電磁界励起し、発生したリンイオン4,水素イオン5を加速し、基板台6におかれた試料10にマスク7を用いて選択ドービングする。
【0009】
なお試料10は絶縁基板8上に形成された非晶質シリコン半導体層9である。10は中性分子を示す。
【0010】
イオンシャワードーピングのための装置は第2図に示すように、13.56メガヘルツ(1メガ=106)の高周波電力と磁場を放電室に印加して、励起したプラズマ中のイオンを1〜10キロボルトの電圧で処理室11に引き出し、所定の温度に加熱した大面積集積素子10(第1図の試料)にイオンをシャワー状に照射するものである。この装置は、イオンの発生を高周波電力を利用して行っているため、均一なプラズマを作成でき、大面積にわたって一括処理することが可能であり、更に、磁場印加による大電流のイオンビームが得られるため、非晶質シリコンを用いたA4サイズに集積した薄膜トランジスタヘの不純物注入の際に、処理時間もおよそ1分程度とすることが可能となる。また装置構成もイオン注入装置と比較して非常に簡便なものとなっている。1は真空容器を構成する石英管で、ガス導入管12から導入された例えば水素希釈で2%のPH3ガスを真空ポンプで排気しつつ例えば10-4Torr台に維持し、石英管1の外部に設置された高周波電極2及び電磁石3により励起放電し少なくともリンイオン4及び水素イオン5を含むプラズマを形成する。処理時間、注入量によっては磁場を印加しなくてもよい。13は塩化ビニルを用い放電室と基板台14を含むチャンバー15とを絶縁する絶縁体フランジである。電極16は石英管を真空シールするとともに直流電圧(1〜10KV)印加される。17は別の電極で現装置では、電極16と同電位に保たれているがもちろん電極16に対し正電圧を印加してもよい。18は基板台14を加熱する交流電源で、基板台14上に大面積集積素子10を形成すべき試料を置く。素子の材料、構成によっては、この加熱手段を用いなくてもよい。19は真空フランジ、20はヒーター、21は開口部、22は電離真空計である。
【0011】
この装置の特長は、
1)A4サイズのような大面積集積素子へのドーピングが可能である。
2)装置構成は極めて簡単で低価格である。(イオン注入装置の約1/3以下)
3)磁場を印加した高効率イオン化方式を用いているため、大電流イオンビームが得られ、ドーピングをA4サイズで約1分と短時間で行うことが可能である。
【0012】
4)加速エネルギーが10KeV以下でイオンの照射を行うことができ、高濃度の浅いドーピング層(〜20nm)を形成することが可能である。
5)有機感光材料等のマスクを用いた選択的なドーピングが可能なため、特に非晶質シリコンデバイスにおけるプロセスの簡略化や新規構造デバイスの製造が可能である。
【0013】
この新規プラズマプロセス技術により、薄膜トランジスターを集積化した大面積長尺デバイスの量産化が容易となり、OA機器・画像処理端末機器等の入力及び表示用のキーデバイスを作成するための重要な基本技術になる。
【0014】
次表にドーピング技術比較表を示す。
【0015】
【表1】

【0016】
さらに第3図に示すように任意の領域にp型・n型の任意の伝導層を形成する選択ドーピングが浅く行えるため、非晶質シリコンデバイスの応用領域を飛躍的に拡大することが可能となる。第3図Aは従来のイオン注入法、第3図Bは本実施例のイオンシャワー方式を模式的に示したものである。第3図Aの場合、不純物イオンのみを半導体薄膜に注入しており、不純物の注入の際に元素どうしの結合が切れて欠陥が発生し、その数は1個の不純物イオンに対し、数百と考えられる。
【0017】
これに対し第3図Bの場合も同様に欠陥が発生すると思われる。しかしながら、本実施例のイオンシャワー方式の場合は不純物イオンとともに水素イオンも注入され、この水素イオンが不純物イオンの注入に伴って生じた欠陥を補償する役目を果たすものと思われる。
【0018】
特に半導体薄膜が非晶質シリコンの場合、初めから薄膜中に水素は導入されており、欠陥の補償の役目を果たすと思われるが、1個の不純物イオンの導入により発生する欠陥の数が多いため、初めから薄膜中に含まれていた水素だけでは十分に欠陥を補償できず、不純物イオン注入の際に水素イオンも同時に注入してやると、欠陥を十分に補償することができる。これにより、後の熱処理工程を低温で行うことが可能となる。
【0019】
なお、薄膜9が非晶質シリコンの場合、第3図Aのイオン注入法は、イオン注入後の必要な熱処理を行おうとすると、非晶質シリコンが結晶化してしまう温度になってしまうため、適用不可能である。これに対し、第3図Bのイオンシャワー方式では、不純物イオンと共に水素イオンを用いてドーピングを行っているため、イオンシャワー終了後の熱処理工程が、非晶質シリコンが結晶化しない温度で行える。したがって、イオンシャワー方式は、非晶質シリコンに対しても適用可能である。
【0020】
次に、上記装置を使用して、非晶質シリコンを用いた薄膜トランジスタの作成に応用する場合について説明する。
【0021】
第4図Aに於いて8はガラス基板で30はCr等の金属ゲート電極で例えばチャネル長10μである。31はゲート絶縁膜SiH4ガスとNH3ガスの混合ガスを用いてP-CVD法で基板温度300℃で約3000ÅのSiN膜を形成する。9はトランジスタの能動層すなわちチャンネル部とソース・ドレイン部となる非晶質シリコン基板温度250℃で約1000Å形成する。32はパッシベーション膜で同様にP-CVDで基板温度250℃で約3000ÅのSiN膜を形成する。しかる後感光性樹脂被膜を塗布した後、第4図Bに示すようにパッシベーション膜32を写真蝕刻し一部を残す。このときのチャネル長方向の寸法は例えば5μとする。
【0022】
しかる後残された膜32をマスクとして、前述のイオンシャワードーピング技術を用いて非晶質シリコンに不純物導入をする。まずn型の不純物導入の場合について述べる。放電室に水素希釈のPH3ガスを導入放電する。このときの放電条件の例として外部高周波電力は2〜10W外部磁場50ガウス,真空度は5×10-4Torrであった。又水素希釈のPH3濃度として0.5%の場合、放電室の出口から約15cm離れた位置で、3.5KeVで加速されたイオンシャワー32を非晶質シリコン9に基板温度300℃で照射したとき不純物の導入と同時に非晶質シリコンのエッチングが生じた。PH3濃度が2%のときにはドーピングが主でエッチングはほとんど観測されなかった。又PH3濃度が、10%では非晶質シリコン膜上にPの堆積が生じた。非晶質シリコン9の厚さが1000Åのときイオン加速エネルギーが3.5KeVのときはPのドーピング深さ(投影飛程)が約50Åのため分布の広がりを考えてもソース・ドレイン領域部の非晶質シリコン膜の表面領域にのみ高濃度層34(点線より上)が形成されることになる。非晶質シリコンの厚さを薄く例えば500Åとしイオンの加速エネルギーを10KeV,ピーク濃度を1020/cm3としたとき、非晶質シリコン9の深さ500Åのところでの濃度は1015/cm3となる。
【0023】
第4図Bに続き第4図Cに示す如く非晶質シリコンを9のトランジスタ部以外除去した後、ソース・ドレイン電極35,36を形成する。
【0024】
以上の方法により、プロセス工程の著しい簡略化,大面積化が容易になるだけでなく、第5図に示すごとくソース及びドレイン高濃度領域層34とチャネル37間の非晶質シリコンの高抵抗領域が少なくなる。すなわち、非晶質シリコン9にl1の深さのソース領域が形成され、ソース,チャンネル間距離がl2と短くでき、抵抗Rを小さくできる。
【0025】
従来は非晶質シリコンに対し、イオン注入を行った後、必要な熱処理を行おうとすると、非晶質シリコンが結晶化してしまう温度になってしまうため、イオン注入ではソース領域を形成できなくなる。そこで、非晶質シリコン9の上にソースを堆積形成することになり、抵抗Rを小さくできなかった。しかし、本発明のイオンシャワー方式では、不純物イオンと共に水素イオンを用いてドーピングを行っているため、イオンシャワー終了後の熱処理工程が、非晶質シリコンが結晶化しない温度で行え、ソースを堆積形成する必要はない。
【0026】
さらに、非晶質シリコン9の膜厚、イオン加速エネルギー、基板温度等のパラメータを最適化することにより、ソース・ドレイン領域を非晶質シリコン厚さ全体に形成できるため入力信号の損失を緩和したり、非晶質薄膜トランジスタのスイッチング速度の向上等の効果も生じる。又不純物イオンのドーピングとともに水素イオンも同時に注入され、不純物のドーピング時に生ずる欠陥による電気的特性を補償することになり、水素含有が必要な非晶質シリコンに好適となる。この時水素イオンの量には最適値がある。PH3を用いた不純物導入では、水素中0.5〜10%が最適であるが、例えばPH3ガスをHeガス中で希釈するような場合はPのドーピングとは別に水素イオンをドーピングしてもよい。PF3ガスを用いる場合でも同様である。もちろん水素希釈のPH3ガスの場合でも別工程の水素イオンのドーピングや水素或は水素を含むプラズマ放電中で処理してもよいことはいうまでもない。
【0027】
この技術を多結晶シリコンや非晶質シリコンを用いて自己整合的にソース・ドレイン領域を形成する場合の実施例を第6図に示す。第6図8は例えば石英ガラス基板で、50は減圧CVD法で形成した約2000Åの多結晶シリコン、51は〜1000Å熱酸化膜のゲート絶縁膜、52は約3000Åのゲート多結晶シリコンである。第6図に示すようにパターン形成後、自己整合的例えば水素希釈で2%のPH3ガスのプラズマ放電中から6KeVでイオン加速し、矢印のごとくイオンシャワーとして不純物導入する。しかる後900℃,30分間N2ガス中で、アニールする。その後通常の方法でトランジスタを作成する。この方法では、大面積基板においてもイオンシャワーの走査を必要とすることなく均一かつ全体に同時にドーピングが可能となる。
【0028】
多結晶シリコンでなく非晶質シリコンを能動層に用いる場合はゲート絶縁膜として、光CVD法やECRプラズマCVD法による絶縁膜を熱酸化膜の代りに用いアルミニウムや他の金属,金属シリサイドをゲート電極として第6図の如くパターン形成した後、基板を200〜300℃で昇温し、イオンシャワードーピングすることにより簡単にトランジスタを作成することが可能である。
【0029】
本発明の技術を多結晶シリコンを用いた薄膜トランジスタの製造に適用する場合、第3図に示したようにソース・ドレイン領域の形成や水素ガスのプラズマ放電から引き出したイオンシャワーによる多結晶シリコンの粒界制御に応用することが可能である。薄膜トランジスタの電気特性の一例を第7図に示す。
【0030】
さらに、本発明のプラズマプロセス技術の有用性を確認するため、非晶質シリコンを用いた光センサと多結晶シリコンを用いた薄膜トランジスタを、石英基板上に一体化して集積化ラインセンサを試作した。トランジスタについては5桁以上のオン/オフ特性が得られ、このトランジスタによる駆動回路とセンサを一体化し、2桁以上の光電流/暗電流比が得られた。この素子の構成および特性を図8に示す。
【0031】
本発明は、図3に示したように、ドーピングの際のイオンの加速エネルギーが従来のイオン注入の場合に比べて低いため、マスクを用い、ソース、ドレイン領域に極めて浅い高濃度の不純物層を形成することができる。例えば半導体薄膜が非晶質シリコンでマスク材料がシリコン窒化膜のときイオン加速エネルギー3.5KeVで、P原子で5×1014/cm2、基板温度250℃でドーピングすることにより〜200Å以下で〜10-3(Ω・cm)-1の伝導度を示す層が形成できた。比較としてイオン注入法で形成する場合通常0.1μm以上となる。
【0032】
また、本発明においては、P,n任意の周期律表第V族,第IIIの導入に適用することができる。
【0033】
【発明の効果】
周期律表第III族又は第V族イオンと同時に水素イオンを高周波プラズマ空間中から引出し、ソース、ドレインとなる領域にドーピングしているため、不純物注入時に誘起される欠陥を補償でき、低温での熱処理にてソース、ドレインの表面領域に電極形成用の高濃度層を堆積法を用いずに容易かつ確実に形成することが出来る。特に、大面積基板の形成が容易なシリコン膜が形成された基板に対して、堆積方法を用いず不純物を導入でき、薄膜トランジスタの製造工程数を少なくすることができる。また、トランジスタのチャンネル領域とソース・ドレイン間の距離を小さくして抵抗を小さくすることができる。さらに、磁場印加下で高周波プラズマ空間中でイオンを発生させ、ここから引き出して照射するため、均一なプラズマと所望のイオンを容易に得る事ができ、従って大面積基板に対し均一に短時間で薄膜トランジスタを製造することができるという産業上の効果を発揮するものである。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明に用いるイオンシャワー方式による不純物導入法の概念図
【図2】イオンシャワードーピング装置の概略図
【図3】(A)イオン注入法の状態図
(B)イオンシャワー方式の状態図
【図4】本発明の一実施例の薄膜トランジスタの製造工程断面図
【図5】図3(C)のトランジスタの部分拡大断面図
【図6】多結晶シリコントランジスタの製造工程断面図
【図7】薄膜トランジスタの電気特性図
【図8】(A)アモルファシシリコンセンサと薄膜トランジスタの一体化平面図
(B)同(A)のX-X’線断面図
(C)同(A)の特性図
【図9】従来の非晶質シリコン薄膜トランジスタの工程断面図
【符号の説明】
3 電磁石
4 リンイオン
5 水素イオン
8 絶縁基板
9 非晶質シリコン半導体層
10 マスク
34 高濃度不純物導入層
 
訂正の要旨 訂正の要旨
本件訂正審判請求書における訂正の要旨は、下記(a)〜(r)のとおりである。
(a)明りょうでない記載の釈明を目的として、本件明細書の発明の名称(本件特許公報1頁1欄冒頭箇所)における
「トランジスタの製造方法」を
「薄膜トランジスタの製造方法」
に訂正する。
(b)特許請求の範囲の減縮を目的として、本件特許請求の範囲の【請求項1】(本件特許公報1頁1欄2行目)の文頭に
「プラズマを発生させる放電室と、前記放電室で励起したプラズマ中のイオンをガラスからなる絶縁基板上の多結晶あるいは非晶質シリコン膜に照射する処理室と、前記放電室と前記処理室の間に設けられた電極と、前記電極と前記放電室を挟んで反対側に設けられた別の電極とを備えたイオンシャワードーピングのための装置を用い、」
を挿入する
(c)特許請求の範囲の減縮を目的として、本件特許請求の範囲の【請求項1】(本件特許公報1頁1欄2行目)における
「絶縁基板を」を
「ガラスからなる絶縁基板」
に訂正する。
(d)特許請求の範囲の減縮を目的として、本件特許請求の範囲の【請求項1】(本件特許公報1頁1欄5〜6行における
「ドレイン部に、プラズマ空間中で形成された」を
「ドレイン部に、前記ガラスからなる絶縁基板から離れた位置にある前記放電室のプラズマ空間中で形成された」
に訂正する。
(e)特許請求の減縮を目的として、本件特許請求の範囲の【請求項1】(本件特許公報1頁1欄7〜8行)における
「不純物イオン及び水素イオンを前記プラズマ空間中から引き出して同時に」を
「不純物イオン及び水素イオンを前記放電室のプラズマ空間中から前記別の電極の反対側へ引出し加速し前記処理室内のシリコン膜に同時に」
訂正する。
(f)特許請求の範囲の減縮を目的として、本件特許請求の範囲の【請求項1】(本件特許公報1頁1欄8行目)における
「照射してソース、」を
「照射して、不純物イオンの注入によって発生した前記シリコン膜の欠陥を水素イオンで補償しながら、ソース、」
に訂正する。
(g)特許請求の範囲の減縮を目的として、本件特許請求の範囲の【請求項1】(本件特許公報1頁1欄9行目)における
「トランジスタの製造方法。」を
「薄膜トランジスタの製造方法。」
に訂正する。
(h)特許請求の範囲の減縮を目的として、本件特許請求の範囲の【請求項2】(本件特許公報1頁1欄10行目)における
「絶縁基板」を
「ガラスからなる絶縁基板」
に訂正する。
(i)特許請求の範囲の減縮を目的として、本件特許請求項の【請求項2】(本件特許公報1頁1欄12〜13行)における
「トランジスタの製造方法。」を
「薄膜トランジスタの製造方法。」
に訂正する。
(j)特許請求の範囲の減縮を目的として、本件特許請求の範囲の【請求項3】(本件特許公報1頁2欄1行目)における
「トランジスタの製造方法。」を
「薄膜トランジスタの製造方法。」
に訂正する。
(k)誤記の訂正を目的として、本件明細書【0003】(本件特許公報2頁3欄26〜27行)における
「バターン形成する」を
「パターン形成する」
に訂正する。
(l)明りょうでない記載の釈明を目的として、本件明細書【0006】(本件特許公報2頁4欄9〜17行)における
「上記目的を達成するために……引出して同時に照射して前記ソース、ドレイン領域のを形成するトランジスタの製造方法を提供する。」を「上記目的を達成するために本発明は、プラズマを発生させる放電室と、前記放電室で励起したプラズマ中のイオンをガラスからなる絶縁基板上の多結晶あるいは非晶質シリコン膜に照射する処理室と、前記放電室と前記処理室の間に設けられた電極と、前記電極と前記放電室を挟んで反対側に設けられた別の電極とを備えたイオンシャワードーピングのための装置を用い、
前記ガラスからなる絶縁基板上に、チャンネル部とソース、ドレイン部となる多結晶あるいは非晶質シリコン膜を形成した後、前記シリコン膜上に形成したマスクを用いて前記シリコン膜のソース、ドレイン部に、前記ガラスからなる絶縁基板から離れた位置にある前記放電室のプラズマ空間中で形成された周期律表III又はV族元素イオンを含む不純物イオン及び水素イオンを前記放電室のプラズマ空間中から前記別の電極の反対側へ引出し加速し前記処理室内のシリコン膜に同時に照射して、不純物イオンの注入によって発注した前記シリコン膜の欠陥を水素イオンで補償しながら、ソース、ドレイン領域を形成することを特徴とする薄膜トランジスタの製造方法を提供する。」
に訂正する。
(m)明りょうでない記載の釈明を目的して、本件明細書【0010】(本件特許公報3頁5欄5行目)における
「処理室」を
「処理室11」
に訂正する。
(n)誤記の訂正を目的として、本件明細書【0010】(本件特許公報3頁5欄8行目)における
「均一なブラズマ」を
「均一なプラズマ」
に訂正する。
(o)誤記の訂正を目的として、本件明細書【0011】(本件特許公報3頁6欄7行目)における
「可能である」を
「可能である。」
に訂正する。
(p)誤記の訂正を目的として、本件明細書【0012】(本件特許公報3頁6欄15行目)における
「可能である」を
「可能である。」
に訂正する。
(q)明りょうでない記載の釈明を目的として、本件明細書【0029】(本件特許公報5頁9欄26行目)における
「粒界(注2)制御」を
「粒界制御」
に訂正する。
(r)誤記の訂正を目的として、本件明細書【0033】(本件特許公報5頁10欄18行目)における
「均一なブラズマ」を
「均一なプラズマ」
に訂正する。
審決日 2001-02-14 
出願番号 特願平7-328613
審決分類 P 1 41・ 812- Y (H01L)
P 1 41・ 811- Y (H01L)
P 1 41・ 813- Y (H01L)
最終処分 成立  
前審関与審査官 中西 一友宮崎 園子  
特許庁審判長 内野 春喜
特許庁審判官 張谷 雅人
橋本 武
登録日 1997-06-06 
登録番号 特許第2659000号(P2659000)
発明の名称 薄膜トランジスタの製造方法  
代理人 池内 寛幸  
代理人 鎌田 耕一  
代理人 佐藤 公博  
代理人 黒田 茂  
代理人 鎌田 耕一  
代理人 黒田 茂  
代理人 佐藤 公博  
代理人 辻丸 光一郎  
代理人 乕丘 圭司  
代理人 乕丘 圭司  
代理人 池内 寛幸  
代理人 辻丸 光一郎  

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