• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 C03C
管理番号 1043926
審判番号 不服2000-7918  
総通号数 22 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 1991-08-22 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2000-05-26 
確定日 2001-07-19 
事件の表示 平成 1年特許願第507961号「スパッタリングによる多層色コンパチブル太陽光制御皮膜」拒絶査定に対する審判事件[平成 2年 5月17日国際公開、WO90/05439、平成 3年 8月22日国内公表、特表平 3-503755]について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 理由
1.手続の経緯、本願発明
本願は、1989年3月20日(優先権主張 1988年11月7日 米国)を国際出願日とする出願であって、その請求項1ないし16に係る発明は、平成12年5月26日付け手続補正書によって補正された明細書及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1ないし16に記載されたとおりのものであるところ、その請求項1に係る発明(以下、本願発明1という)は次のとおりである。
「【請求項1】両側に主面を有する透明ガラス板と、絶縁材料層間に挟装された少なくとも2個の銀金属層を有する前記ガラス板の一方の前記主面上の透明フィルム積層体と、前記フィルム積層体の反対側の透明保護カバーとを有する太陽光透過率を制御するためのグレージングユニットであって、前記銀金属層が80〜180オングストロームの厚さを有し、前記銀金属層の外側の前記絶縁材料層が200〜500オングストロームの厚さを有し、前記銀金属層間の前記絶縁材料層が400〜1500オングストロームの厚さを有しており、かつ前記フィルム積層体を横切る向きにシート抵抗が単位面積当り4.5オーム以下であり、前記絶縁材料層が酸化亜鉛からなり、前記透明ガラス板及び前記フィルム積層体の厚さが、グレージングユニット全体として少なくとも70%の測色光「A」透過率、各面について12.5%以下の測色光「C」反射率、少なくとも29%の全太陽光反射率及び42%以下の全太陽光透過率を有するように決定されることを特徴とするグレージングユニット。」
2.引用例
これに対して、原査定の拒絶の理由で引用された特開昭63-134232号公報(以下、引用例1という)には、高透過率を有する赤外反射物品に関し、次の事項が記載されている。
(a)「透明基板上に基板側から順次透明酸化物の第1層、銀の第2層、透明酸化物の第3層、銀の第4層、透明酸化物の第5層から成る5層コーテイングが設けられた赤外反射物品において、該銀層の厚みが110Å以下であり、可視光線透過率が70%以上であることを特徴とする高透過率を有する赤外反射物品。」(請求項1)
(b)「従来より、赤外反射物品として知られているものには、主として冷房負荷を軽減する目的で用いられるソーラーコントロールと呼ばれるタイプのものと、主に暖房負荷を軽減する目的で用いられるヒートミラーと呼ばれるタイプのものがある。後者に最低限必要とされる特性は可視域での高い透過率と赤外域での十分高い反射率とであるが、近赤外域での反射率をあげることができれば、同時にソーラーコントロールとしての働きも合わせ持つことになり、より好ましい。」(第1頁左欄第17行〜右欄第8行)
(c)「又、本発明の別の目的は、赤外域での非常に高い反射率と可視域での十分高い透過率とを有し、かつ近赤外域で反射率が鋭い立ち上がりを示すような新規な赤外反射物品を提供することにある。」(第2頁右上欄第18行〜左下欄第2行)
(d)「本発明の透明基板としては、ガラス、プラスチック等を使用することができる。本発明の透明酸化物としてはTiO2、ZrO2、In2O3、SnO2、ZnO、Ta2O5及びこれらの混合物などの屈折率の大きい材料、例えばn=1.7〜2.5の屈折率を有する材料が用いられる。」(第2頁左下欄第13〜18行)
(e)「本発明の好ましい態様における各層の膜厚範囲としては、使用する材料によって若干の変化があるが、おおよそ次の通りである。すなわち第1層としては200〜600Å、第2層としては80〜110Å、第3層としては400〜1200Å、第4層としては80〜110Å、第5層としては200〜600Åである。これらの膜厚範囲は、可視域での高透過率を実現させるために設定されたものであり、膜厚がこの範囲を逸脱すると、干渉条件からはずれ、反射防止効果が発揮されず、可視光線透過率が低下してしまう。特に銀層の膜厚は可視域での十分な透過率を確保するためと膜厚調整による反射色調の可変範囲を充分大きくとるために110Å以下である必要がある。すなわち、銀膜が厚くなると可視域での透過率が減少すると共に低反射率の波長範囲が狭くなり反射色調が紫系統になりやすいのである。一方膜厚を薄くしすぎると銀が島状態となってしまい、所期の特性が得られなくなるため、銀の膜厚として約80Å以上であることが望ましい。」(第2頁左下欄第19行〜右下欄第20行)
(f)「又、本発明の5層コーテイングは付着力や耐久性を向上させる等の目的により、その基板との界面又は各層間の界面又は空気との界面においてその光学的特性を変化させない程度の膜厚をもった境界層が挿入されてもよい。」(第3頁左上欄第7〜11行)
(g)「本発明において、第2層と第4層の銀層は近赤外域より長波長領域における反射率を上げる働きをする。この意味では銀層は厚い程好ましいが、可視域での透過率を上げるためには薄い方が良い。又、本発明において第1層、第3層及び第5層の透明酸化物層は銀膜の可視域における反射防止層として作用し、可視域の透過率を上昇させる働きをする。又、本発明において各層の膜厚を適当な範囲で調整することにより、可視域での高透過率と近赤外域〜赤外域における高反射率とを保持したまま、反射色調を相当自由に変化させることができる。」(第3頁左上欄第20行〜右上欄第13行)
(h)「実施例1 ガラス基板を真空槽にセットし、・・・亜鉛ターゲットを高周波マグネトロンスパッタして、基板上に第1層としてZnOの膜を形成した。このときの膜厚は約400Åとなるようにした。・・・第2層としてAgの膜を形成した。このときの膜厚は約100Åとなるようにした。・・・ZnOの第3層を約800Å形成した。・・・Agの第4層を約100Å形成した。・・・ZnOの第5層を約400Å形成した。」(第3頁右上欄第17行〜左下欄第11行)
(i)「可視光線透過率TV 80.2%、太陽エネルギー透過率TE 47.2%、可視光線反射率RV 6.0%、太陽エネルギー反射率RE 33.9%、10μにおける反射率R(10μ) 85%、反射色調 グリーン」(第3頁実施例1、表)
(j)「実施例2 第3層の厚みを850Åとした以外は実施例1と同じ条件で・・・」(第3頁右下欄中段)
(k)「TV 76.9%、TE 44.0%、RV 8.8%、RE 38.8%、R(10μ) 95%、反射色調 ブロンズ」(第3頁実施例2、表)
(l)「実施例3 第3層の厚みを950Åとした以外は実施例1と同じ条件で・・・」(第4頁左上欄第1〜3行)
(m)「TV 78.7%、TE 45.4%、RV 8.1%、RE 31.9%、R(10μ) 95%、反射色調 ブルーグリーン」(第4頁実施例3、表)
(n)「比較例1 ・・・第2層としてAgの膜を約100Å形成した。」(第4頁左下欄第1〜6行)
(o)「TV 84.0%、TE 83.8%、RV 5.9%、RE 22.3%、R(10μ) 85%、反射色調 青紫」(第4頁比較例1、表)」
(p)「比較例2 第2層の銀の厚みを約200Åとした・・・」(第4頁右下欄下から第10、9行)
(q)「TV 87.8%、TE 40.2%、RV 23.2%、RE 50.1%、R(10μ) 83%、反射色調 赤紫」(第5頁比較例2、表)
(r)「本発明によれば、十分高い可視光線透過率と非常に高い赤外反射率及び近赤外域での反射率の鋭い立上がりを有する赤外反射物品を得ることができる。」(第5頁左上欄下から第13〜10行)
(s)「本発明の好ましい実施態様としては、・・・複層窓の一部として用いることができるし、又、三重窓の一部として使用することもできる。」(第5頁左上欄下から第5行〜右上欄第1行)
(t)「このようにして本発明を用いることにより、十分高い可視光線透過率と多彩な反射色調を有するヒートミラーを構成することができ、ビルや一般住宅などにおける暖房負荷を効果的に軽減することができる。」(第5頁右上欄第2〜6行)
3.対比・判断
上記(s)から引用例1の赤外反射物品は窓として使用されることが明らかであり、上記(f)から引用例1では、耐久性を増すために空気との界面に境界層を設けることが記載されている。
また、引用例1において、上記(g)には、各層の膜厚を調整することが記載されており、その結果、上記(i)、(k)、(m)から明らかなように、実施例では「可視光線透過率、太陽エネルギー透過率、可視光線反射率、太陽エネルギー反射率、10μにおける反射率、反射色調」と6つの指標で、ガラス基板上に5層コーテイングが形成されたものの特性を表示している。
してみると、引用例1において、透明ガラス基板及び5層コーテイングの厚さが、少なくとも可視光線透過率、太陽エネルギー透過率、可視光線反射率、太陽エネルギー反射率で決定されていることは明らかである。
したがって、引用例1には、「透明ガラス基板上に透明酸化物層に挟装された少なくとも2個の銀層を有する5層コーテイングが設けられた窓であって、空気との界面に境界層を設けられており、
前記銀層が80〜110Åであり、
前記銀層の外側の透明酸化物層が200〜600Åであり、
前記銀層間の透明酸化物層が400〜1200Åであり、
前記透明酸化物層が酸化亜鉛からなり、
前記透明ガラス基板及び5層コーテイングの厚さが、可視光線透過率、太陽エネルギー透過率、可視光線反射率、太陽エネルギー反射率で決定された窓。」という発明(以下、引用例1発明という)が記載されていると云える。
そこで、本願発明1と引用例1発明とを対比する。
引用例1発明の「境界層」は耐久性を増すために設けられたものであるから保護カバーと云え、窓に使用する以上透明であることは自明である。してみると、引用例1発明の「境界層」は、本願発明1の「透明保護カバー」に相当する。
また、引用例1発明の「銀層」、「透明酸化物層」、「5層コーテイング」は、本願発明1の「銀金属層」、「絶縁材料層」、「透明フィルム積層体」にそれぞれ相当する。
また、一般に測色光「A」、測色光「C」は、国際照明委員会が測色において標準の光として定めたものであるから、引用例1発明の「可視光線透過率」、「可視光線反射率」は、本願発明1の「測色光「A」透過率」、「測色光「C」反射率」に相当するとしても格別の問題はなく、また、可視光線反射率は、透明ガラス板と透明フィルム積層体の各面についての数値と云える。
また、引用例1発明の「太陽エネルギー透過率」、「太陽エネルギー反射率」は、本願発明1の「全太陽光透過率」、「全太陽光反射率」にそれぞれ相当する。
してみると、両者は「両側に主面を有する透明ガラス板と、絶縁材料層間に挟装された少なくとも2個の銀金属層を有する前記ガラス板の一方の前記主面上の透明フィルム積層体と、前記フィルム積層体の反対側の透明保護カバーとを有するグレージングユニットであって、前記銀金属層、絶縁材料層の厚さが規定され、前記絶縁材料層が酸化亜鉛からなり、前記透明ガラス板及び前記フィルム積層体の厚さが、グレージングユニット全体として少なくとも測色光「A」透過率、各面について測色光「C」反射率、全太陽光反射率及び全太陽光透過率で決定されるグレージングユニット。」で一致している。
ここで、本願発明1と引用例1発明とでは、「銀金属層」と「絶縁材料層」の厚さの数値範囲は重複し、また、引用例1の絶縁材料層として酸化亜鉛を使った実施例では、低い数値から並べると可視光線透過率は76.9、78.7、80.2%、太陽エネルギー透過率は44.0、45.4、47.2%、可視光線反射率は6.0、8.1、8.8%、太陽エネルギー反射率は31.9、33.9、38.8%であるから、本願発明1と引用例1発明では、測色光「A」透過率、測色光「C」反射率、全太陽光反射率の数値範囲は重複していると云える。
結局、両者は、(1)本願発明1では、フィルム積層体を横切る向きにシート抵抗が単位面積当り4.5オーム以下であるのに対して、引用例1発明ではその点が触れられていない点、
(2)本願発明1では、全太陽光透過率の数値範囲が42%以下であるのに対して、引用例1発明では、実施例では44.0〜47.2%である点で相違している。
そこで相違点(1)について検討する。
本願発明1において、銀金属層、絶縁材料層はスパッタリングにより形成されている(本願公表公報第7頁右上欄第21行)。また、引用例1発明においても、上記(h)から明らかなように高周波マグネトロンスパッタリングで形成されている。
そうすると、本願発明1と引用例1発明の銀金属層、絶縁材料層からなるフィルム積層体は、どちらも同様な方法で形成しており、各層の厚さの数値範囲が重複しているから、形成方法と厚さが一致する以上、引用例1発明のフィルム積層体のシート抵抗の数値範囲が本願発明1のそれと重複することは自明であり、この相違点は実質的な相違点ではない。
次に相違点(2)について検討する。
上記(t)の記載から明らかなように、引用例1の「グレージングユニット」は空調負荷と関係しビルや一般住宅に取り付けられるものであるが、上記(b)、(c)、(g)、(r)からみて、引用例1の「グレージングユニット」が近赤外域での反射率を上げていることから、冷房負荷も考慮したソーラーコントロールの働きをも合わせ持つことになることが明らかである。
そして、上記(g)には、銀金属層が近赤外域より長波長領域における反射率を上げる働きをすることが記載されているが、このことは逆に言うと銀金属層が「近赤外域より長波長領域における透過率」を下げることが示唆されているということに他ならない。
このことは上記(n)〜(q)から、銀金属層が厚くなると、太陽エネルギー反射率が上がり、それに反して太陽エネルギー透過率が下がっていることからも明らかである。
してみると、引用例1には、引用例1の「グレージングユニット」がソーラーコントロールの働きをも合わせ持ち、「近赤外域〜赤外域における反射率」を高位に、「近赤外域〜赤外域における透過率」を低位に保持するということが示唆されていると云える。
ここで、近赤外域〜赤外域における反射率及び透過率は、引用例1で云う太陽エネルギー反射率、太陽エネルギー透過率に、ひいては本願発明1で云う全太陽光反射率及び全太陽光透過率に関係するから、結局、引用例1には、「グレージングユニット」がソーラーコントロールの働きをも合わせ持ち、高い測色光「A」透過率と高い全太陽光反射率及び低い全太陽光透過率を保持するという技術的思想が示唆されているものと認められる。
したがって、引用例1発明の全太陽光透過率の数値範囲を引用例1の実施例の下限の44%に近い42%以下という数値範囲とすることは当業者が容易に想到し得るものであり、その差の2%に基づく効果も当業者の予測される範囲を出ないものと認める。
なお、出願人は平成12年6月23日付けの手続補正書(審判請求書)において、コンピュータを用いたシミュレーションにより、全太陽光透過率の2%低減の効果について述べているが、このシミュレーションは狭い密閉空間である自動車における計算であり、そのような狭い密閉空間での計算において、2%低減でも効果があることは当然予測することができ、上述のように引用例1には全太陽光透過率を下げることも示唆されているし、加えて 本願明細書(本願公表公報第3頁右下欄第15〜20行)には、「グレージングユニット」が空調負荷と関係し、車両だけでなく、建物にも取り付けられること記載されているから、本願発明1の「グレージングユニット」が建物に取り付けられることがあると認められ、したがって、本願発明1は自動車に適用が限られているわけではないから、その主張は採用することができない。
4.むすび
したがって、本願発明1は、上記引用例1記載の発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2001-02-14 
結審通知日 2001-02-20 
審決日 2001-03-07 
出願番号 特願平1-507961
審決分類 P 1 8・ 121- Z (C03C)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 鈴木 紀子  
特許庁審判長 吉田 敏明
特許庁審判官 唐戸 光雄
野田 直人
発明の名称 スパッタリングによる多層色コンパチブル太陽光制御皮膜  
代理人 大島 陽一  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ