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審決分類 審判 査定不服 特36 条4項詳細な説明の記載不備 特許、登録しない。 C07F
管理番号 1043979
審判番号 審判1998-7387  
総通号数 22 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 1991-06-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 1998-05-11 
確定日 2001-07-12 
事件の表示 平成 2年特許願第210113号「ビシナルジ(ヘテロ)アルキレンオルガノメタレートおよびそれを使用するアミンの製造方法」拒絶査定に対する審判事件[平成 3年 6月25日出願公開、特開平 3-148286]について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 【1】手続の経緯・本願発明

本願は、1990年8月8日(優先権主張1989年8月8日、米国)の出願であって、その請求項に係る発明は、平成9年11月26日付で補正された明細書の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1〜3に記載されたとおりのものと認められ、請求項1及び2には、次のとおり記載されている(以下まとめて単に「本願発明」という)。

「1.100〜250m2/gの表面積を有する一種以上の金属酸化物を一種以上のアミノ化合物、グリコール化合物またはそれらの混合物と、隣位ジ(ヘテロ)アルキレン-オルガノメタレートをもたらすのに十分な温度および圧力で接触させることを特徴とする、隣位ジ(ヘテロ)アルキレン-オルガノメタレートの製造方法。
2.100〜250m2/gの表面積を有する一種以上の金属酸化物を一種以上のアルカノールアミン、アルキレンアミン、アルキレングリコールまたはそれらの混合物と、隣位ジ(ヘテロ)アルキレン-オルガノメタレートをもたらすのに十分な温度および圧力で接触させることを特徴とする、隣位ジ(ヘテロ)アルキレン-オルガノメタレートの製造方法。」

【2】原査定の理由

原査定の拒絶の理由の概要は、本願明細書には、隣位ジ(ヘテロ)アルキレン-オルガノメタレート化合物が製造され、存在することを技術的に裏付ける記載が全くみられないので、発明の詳細な説明の項の記載には当業者が各請求項記載の発明を容易に実施することができる程度の十分な記載がなされていないから、明細書の記載が特許法第36条第3項に規定する要件を満たしていないというものである。

【3】当審の判断

(1) そこで、本願明細書(出願当初の明細書を浄書した平成2年11月9日付手続補正書における明細書。以下同様)の発明の詳細な説明の記載を検討するに、まず、同明細書に記載されている実施例は、いずれも、アミン化合物からアミンを製造する反応方法及びその結果を裏付け得るにとどまるものであり、その反応途上において、例えば明細書第116頁第1行〜第120頁第15行の化学反応式で表されるような、隣位ジ(ヘテロ)アルキレン-オルガノメタレートの生成を含む化学反応過程を経ることが、具体的なデータ等を以て確認されているわけではない。そして、上記化学反応過程中で生じた当該隣位ジ(ヘテロ)アルキレン-オルガノメタレートを得たことを裏付ける同定データ等について何等具体的な記載がないのみならず、実施例以外の箇所をみても、当該隣位ジ(ヘテロ)アルキレン-オルガノメタレートを単離する方法や、単離しないまでもその存在を何等かの手段によって確認する方法について、何等具体的に記載されているわけでもない。
(2) 一般に、化学物質を化学反応によって製造することができるか否かは、本願出願時のみならず今日においても、実際に実験してみなければわからないものであって、化学理論上進行し得ると考えられる反応でも現実には進行しない場合があるということは、当業者が日常経験するところである。そして、それ故に、本願発明のような、化学反応を用いる製造方法の発明等において、特許法第36条第3項所定の、「容易にその実施をすることができる程度に、その発明の目的、構成及び効果を記載」したとするためには、明細書の発明の詳細な説明に、製造方法を追試可能な程度に記載するとともに、目的とする化学物質の同定データ等、目的とする化学物質が現実に得られたことを客観的に裏付けるに足りる具体的な記載を要するものである。
(3) これに対し、発明の詳細な説明において、上記目的とする化学物質の製造方法に係る記載や目的とする化学物質が現実に得られたことを客観的に裏付けるに足りる具体的な記載が十分になされているとはいえないことは、上記(1)で述べたとおりであるから、本願明細書の記載によっては、本願出願時の技術常識を参酌しても、本願発明の製造方法における目的物である隣位ジ(ヘテロ)アルキレン-オルガノメタレートを製造することは、当業者にとり容易になし得ないことであるというほかはない。
(4) 請求人は、本願明細書には、上記実施例に加え、隣位ジ(ヘテロ)アルキレン-オルガノメタレートの化学式や当該隣位ジ(ヘテロ)アルキレン-オルガノメタレートが生成する化学理論が記載されていることから、本願発明は明細書の記載から当業者が容易に実施し得る程度に記載されている旨主張する。
しかしながら、上記化学理論が本願出願前既に確立されていて、かかる化学理論に従う化学反応は必ず進行するものとして本願出願時周知であった、とは認められないし、上述のように、本願明細書中には、隣位ジ(ヘテロ)アルキレン-オルガノメタレートを製造できることを裏付ける記載はないのであるから、上記化学理論が本願明細書において実証されているものとも言えない。
さらに、本願明細書中の他の箇所において「実際の反応機構が異なるかも知れないことは認められる。」(第119頁下から第8〜9行)と記載されていることからみても、隣位ジ(ヘテロ)アルキレン-オルガノメタレートの生成に係る化学理論が本願出願前既に確立されているものであるとは到底言えない。
(5) 以上のことからすると、結局、上記化学理論に関する本願明細書の記載は、理論的な可能性を予測して記載したに過ぎないものであると解さざるを得ず、本願出願時の技術水準からみて、本願発明の隣位ジ(ヘテロ)アルキレン-オルガノメタレートが現実に得られると当業者が認識できるとは必ずしもいえない。
してみれば、本願明細書については、当業者が本願発明を容易に実施し得る程度の十分な記載がなされているものであるとすることはできない。
(6) なお、請求人は、本願明細書が当業者にとり容易に実施し得る程度に記載されているといえる合理的な理由や具体的な証拠について何等あらたな提示をしているわけでもない。この点に関し、審尋書に対する回答書においては、平成10年6月8日付審判請求理由補充書における参考資料3(米国特許第5101074号明細書)及び同参考資料3に係る前記補充書の第7頁第14行〜第10頁第4行の記載を再度引用している他、一般的に化学中間体は必ずしも単離されない場合があること、及び、本願の基礎出願である米国出願が前記参考資料3にみられるように既に特許されており、該米国出願の審査過程では前記審尋の内容に相当するような問題は提起されなかったことから、明細書の記載が当業者にとり容易に実施し得る程度の明確かつ十分なものといえること、を主張するが、これらのことが上記判断を覆すに足るものであるともいえない。
したがって、結局、請求人の主張は採用できない。

【4】むすび

以上のとおりであるから、本願明細書の発明の詳細な説明の項には、本願の請求項1,2に係る発明について、当業者がその実施をすることができる程度に、発明の目的、構成及び効果が記載されているとすることはできない。
したがって、本願は、明細書の記載が特許法第36条第3項に規定する要件を満たしていないから、特許法第36条第3項の規定により特許を受けることができない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2001-01-29 
結審通知日 2001-02-09 
審決日 2001-02-20 
出願番号 特願平2-210113
審決分類 P 1 8・ 531- Z (C07F)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 唐木 以知良  
特許庁審判長 吉村 康男
特許庁審判官 大久保 元浩
深津 弘
発明の名称 ビシナルジ(ヘテロ)アルキレンオルガノメタレートおよびそれを使用するアミンの製造方法  
代理人 高木 文生  
代理人 高木 六郎  

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