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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) G06F
管理番号 1044174
審判番号 審判1996-11157  
総通号数 22 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 1989-05-18 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 1996-07-11 
確定日 2001-08-27 
事件の表示 昭和62年特許願第285124号「二重化システムの制御方式」拒絶査定に対する審判事件[平成1年5月18日出願公開、特開平1-126752]について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1 手続きの経緯及び本願発明
本願は、昭和62年11月11日の特許出願であって、その発明(以下、「本願発明」という。)の要旨は、平成12年3月7日付け手続補正書により補正された明細書及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲に記載されたとおりの次のものである。
「2つのシステムの上位装置(10A)、(10B)のそれぞれに自系及び他系よりアクセス可能な少なくとも1以上のデータ記憶装置(12A)、(12B)を設け、
両システムの運用が開始された時に最初に運用を開始したシステムのデータ記憶装置のデータを読出して他方のシステムのデータ記憶装置に転送記憶し、
該転送開始後は各システムのデータ書込を両方のデータ記憶装置(12A)、(12B)に行うようにしたことを特徴とする二重化システムの制御方式。」
(なお、前掲の特許請求の範囲の記載中の「2つのシステムの上位装置(10A)、(10B)のそれぞれに自系及び他系よりアクセス可能な少なくとも1以上のデータ記憶装置(12A)、(12B)を設け」の部分は、当該特許請求の範囲の他の記載ないし発明の詳細な説明(図面を含む。)の記載からみて、本願発明になる制御方式が対象とする二重化システムの構成を指すものと解し、また、同記載中の「各システムのデータ書込」の部分は、同じく、“各上位装置からのデータ書込”の意味に解するのが相当である。)

2 引用発明
(1)一方、当審における合議の結果平成11年12月14日付けで通知した拒絶理由に引用した特開昭53-121429号公報(昭和53年10月23日特許庁発行。以下、「引用刊行物」という。)には、二重化記憶装置に関する発明が記載されており、これについて、次の各事項が図面と共に記載されている。
a「本発明は複数の計算機と2つの共有記憶装置をそれぞれインターフェースで接続し、複数の計算機からこの共有記憶装置をアクセス可能になっている二重化記憶装置に関し、複数の計算機からのアクセスを実行しつつ相互の記憶内容を一致させる転写動作を行うようにしたものである。」(1頁左下欄19行目ないし右下欄4行目)
b「従来信頼性の高い計算制御を実現する為に共有記憶装置(以下単に記憶装置と呼ぶ)を二重化する方式がよく採用されてきた。記憶装置を二重化する為には、記憶内容が同一である記憶装置が2個必要であり、アクセスする計算機(以下CPUと略称する)は両系に同じ内容を書き込み又、両系から読出して内容の一致をチェックする手段が必要であるばかりではなく下記手段が必要である。即ちシステム立上げ時、あるいは片系の記憶装置が故障してもう一方の系だけで運転している場合に、故障した系を修理し、二重化運転に戻して使用するためには、正常運転を続けていた記憶装置から、運転を開始する記憶装置へその内容を転写する手段が必要である。」(1頁右下欄5行目ないし18行目)
c「本発明の1つの目的は、複数のCPUからの全く非同期のアクセスを受付けつつ、そのオンライン・リアルタイム処理にほとんど悪影響を与えずに転写動作を実行し、又、転写動作も記憶内容の全番地について実行されると転写モードを終了し、以后は複数のCPUからのアクセスに対し、全くの時間のすき間がないように動作する二重化記憶装置を提供するにある。」(2頁右下欄8行目ないし16行目)
d「第3図は本発明になる二重化記憶装置の全体構成を示すもので、CPU11,12と記憶装置13,14はそれぞれインターフェース15,16および15’,16’によつて接続され、記憶装置13,14は、インターフェース17によつて接続されている。」(3頁左上欄14行目ないし19行目)
e「本発明の一実施例を第4図に示す。第4図は、第3図における記憶装置13,14の具体的実施例である。ここで、記憶装置13,14の内部回路は全く同一であるので、一方のみ符号を付けて説明し、他は省略している。
記憶装置13は、第4図に示す如く、データを記憶する記憶部23と、メモリ制御部19から構成される。後者はさらに、記憶装置13にアクセスしてくる複数のCPU及び記憶装置14からの起動要求信号26〜28の1つを選択し、各起動要求に対して一語転送毎に順番に応答する選択回路20と,選択回路20にて選択したCPU又は記憶装置14に対応するデータ信号線24,25又は29の1つを記憶部23に電気的に接続するマルチプレクサ22と、さらに記憶装置13の内容を記憶装置14に転写する場合に、記憶装置14に対して起動要求信号を出力する転写制御回路21とから構成される。各データ信号線24,25,29は記憶装置に対するアドレスとデータを送受信するものである。
…(略)…。
以上の装置において、記憶装置13,14間における転写動作について詳細に記述すると、転写される記憶装置においては、転写する記憶装置からの起動要求信号を他のCPUからの起動要求信号と何ら区別することなく選択回路20にて選択するとともに、マルチプレクサ22により記憶部23と記憶装置13,14間のデータ信号線29とを電気的に結合し読出し動作を実行させるだけである。即ち、転写される記憶装置においては、CPUからのアクセスも転写する記憶装置からのアクセスも何ら動作として異なる点はない。
一方、転写する記憶装置においては、転写制御回路21が起動し、下記の動作を相手の記憶装置の記憶内容を全て転写するまで続ける。即ち、
(1) 一語転送毎に、相手の記憶装置に起動要求信号を出力する。
(2) 転写するメモリ・アドレスを0番地から、記憶装置の最大番地まで順次与える。
(3) 相手の転写される記憶装置には読出し動作要求を出し、自系の転写する記憶装置には書き込み動作を行なわしめる。
(4) 全アドレスについて転写が終了する以前のCPUからの自系記憶装置に対しての書き込み動作に応答して実行するが、読出し動作に対しては実行しない。
などの機能を有する。(4)の機能は、既に転写が終了済みの番地に対しての書き込み動作には応答しないと両系の記憶内容が異なるおそれがある為で、読出し動作に対して応答しないのは、転写が終了していない番地の内容は無意味な情報だからである。」(3頁右上欄3行目ないし4頁左上欄8行目)
f「第5図は、第4図のブロック図をさらに詳細に記述したものである。各データ信号線24,25,29と,メモリ制御部と記憶部間インターフェース30は読出し/書き込み指定信号線51,54,57,60と,アドレス及びデータ信号線53,56,59,62と,記憶部へのアクセス終了信号線52,55,58,61とから構成される。
選択回路20はプライオリティ・エンコーダ63及びデコーダ64及び後述の主系/従系を指示するフリップ・フロップ65から構成される。
…(略)…。
フリップフロップ65は記憶装置13と記憶装置14に対し、一方を主系、他方を従系にする。即ち主系とは、どのCPUからのアクセスを受付けるべきかを選択する系であり従系は、その、選択されたアクセス信号に応答する系である。本実施例では、先に正常運転動作をしている方を主系、後から立ち上がる系を従系としている。…(略)…従系の時は従系信号66によりエンコーダ64の出力が出されないように工夫されているので、どのCPUからのアクセスかを受付けるか選択できるのは主系だけである。
…(略)…。
さて、転写制御回路21は、転写するアドレスを送出する転写アドレスカウンタ69と、転写の終了アドレスを検出する終了アドレス検出回路70と、記憶装置13に起動要求信号26を出力するフリップフロップ71を有する。
本回路による転写の方法は下記の通りである。相手系が正常運転状態であることを示す信号72,と自系が運転開始することを示す信号73のAND条件で起動要求信号フリップフロップ71をセットすることにより記憶装置13に対して、起動要求信号26と、読出し指示を信号線57を通して行うとともに、自系記憶装置14に対しても書き込み指示を信号線74を通して行う。選択回路20にて本起動要求が選択されると、記憶装置13,14間のデータ信号線29がメモリ制御部19と記憶部23間のインターフェースと接続され、読出し動作が行なわれ、アクセス終了信号61が出力されると信号線58を通して記憶装置14へ報告され、記憶装置14が書き込み動作を開始する。転写アドレス・カウンタ69は、記憶装置14アクセス終了信号61により+1,づつカウント・アップする。又、終了アドレス検出回路70にて転送の終了が検出されると、起動要求信号フリップフロップをリセットし、起動要求信号26を出力しないようにして転写を終了する。」(4頁左上欄9行目ないし右下欄末行)
(2)以上の記載事項から、引用刊行物に記載された発明は、2つのCPUと該2つのCPUよりアクセス可能な2つの記憶装置とからなるシステムを対象とする発明であって、次の各事項を特徴とするものであることが読み取れる。
A 転写終了後は、各CPUからの書き込み動作は、転写する記憶装置と転写される記憶装置の2つの記憶装置に実行させること
(前記(1)bには、複数のCPUが、2つの記憶装置に同じ内容を書き込むことが記載され、同cには、2つの記憶装置は、転写の終了後は、複数のCPUからのアクセス、即ち、読出し動作及び書き込み動作に対して動作するものであることが記載されている。)
B 転写終了前は、各CPUからの読出し動作は転写する記憶装置のみに実行させるが、各CPUからの書き込み動作は2つの記憶装置に実行させること
(前記(1)eには、転写される記憶装置は、転写が終了する前は、各CPUからの読出し動作に対しては実行しないが、既に転写済みの番地に対しての書き込み動作には応答しないと転写する記憶装置の内容と異なる恐れがあるため、各CPUからの書き込み動作には応答して実行することが記載されている。(なお、転写する記憶装置が、転写の終了・未終了にかかわらず各CPUからの読出し動作及び書き込み動作に対して応答して実行するものであることは特に説明をする必要のないことである。))
C 転写は、少なくとも両記憶装置の運転が開始された時に最初に運転を開始した記憶装置の内容を読出して他方の記憶装置に書き込むことで行なわれること
(前記(1)fには、運転を開始した記憶装置が、相手の記憶装置が正常運転状態であることを示す信号と自分が運転を開始したことを示す信号のAND条件で、相手の記憶装置に対しては読出し指示を出して内容を読み出させ、自分の記憶装置に対しては書き込み指示を出して前記読み出された内容を書き込むようにすることにより転写を行うことが記載されているが、該記載によれば、運転を開始した記憶装置が状態をチェックするのは、各CPUではなく、相手の記憶装置だけであり、また、前記のAND条件の成立が、前記相手の記憶装置が自分より先に、即ち、最初に運転を開始したことを意味するものであることは明らかである。)
(3)そして、前記(2)AないしBを併せると、“転写開始後は各CPUからの書き込み動作を2つの記憶装置に実行させる”ということになるから、以上を本願発明の構成に準じて整理すれば、引用刊行物には、次の事項により構成される発明(以下、「引用発明」という。)が記載されているということができる。
2つのCPUと該2つのCPUよりアクセス可能な2つの記憶装置とからなり、
少なくとも両記憶装置の運転が開始された時に最初に運転を開始した記憶装置の内容を読み出して他方の記憶装置に書き込み、即ち、転写し、
該転写開始後は各CPUからの書き込み動作を両方の記憶装置に実行させるようにしたことを特徴とする前記2つのCPUと該2つのCPUよりアクセス可能な2つの記憶装置とからなるシステムの制御方式

3 本願発明と引用発明との対比・判断
(1)そこで、前記1に認定の本願発明と前記2(3)に認定の引用発明とを対比すると、
ア 本願発明の「上位装置」は、引用発明の「CPU」を包摂し、本願発明の「データ記憶装置」は、引用発明の「記憶装置」と同義であり、本願発明でいう「運用」、「データ記憶装置のデータ」、及び「転送記憶」は、それぞれ、引用発明でいう「運転」、「記憶装置の内容」及び「転写」と同義である。
イ また、本願発明と引用発明とは、少なくとも両データ記憶装置の運用が開始されなければ転送記憶を行い得ないものである点で一致する。
ウ 更に、本願発明が対象とする二重化システムと引用発明が対象とするシステムは、少なくとも、“2つの上位装置と該2つの上位装置よりアクセス可能な2つの記憶装置とからなるシステム”である点で一致する。
エ そして、その他には特に論じる程の違いはないから、結局のところ、本願発明と引用発明とは、
2つの上位装置と該2つの上位装置よりアクセス可能な2つの記憶装置とからなり、
少なくとも両データ記憶装置の運用が開始された時に最初に運用を開始したデータ記憶装置のデータを読み出して他方のデータ記憶装置に転送記憶し、
該転送開始後は各上位装置からのデータ書込を両方のデータ記憶装置に行うようにしたことを特徴とする前記2つの上位装置と該2つの上位装置よりアクセス可能な2つの記憶装置とからなるシステムの制御方式
である点で一致し、次の2点で相違する。
〈相違点〉
相違点1
対象とするシステムが、本願発明では、2つの上位装置と該2つの上位装置よりアクセス可能な2つの記憶装置とからなるシステムというに留まらず、前記2つのシステムの上位装置のそれぞれに自系及び他系よりアクセス可能な少なくとも1以上のデータ記憶装置を設けた二重化システムであるのに対して、引用発明では、単に、2つの上位装置と該2つの上位装置よりアクセス可能な2つの記憶装置とからなるシステムである点
相違点2
運用の開始が、本願発明では、システムの運用の開始に伴うものであるのに対して、引用発明では、単に、データ記憶装置の運用の開始というものである点
(2)前記相違点について検討すると、
ア 相違点1について
それぞれが1つの上位装置と1つのデータ記憶装置とからなる2つの系統で構築される二重化システムは、例を挙げるまでもなく本件特許出願前に当業者に周知であって、引用発明において、この相違点に係る構成を本願発明のようにすることは、本件特許出願前に当業者が容易に想到実施し得たことに過ぎないから、この相違点は格別のものとすることはできない。
イ 相違点2について
運用を開始する単位をどのようなものとするかは、本来、当業者がその適用に応じて適宜になすべき設計事項の範囲に属する事柄というべきところ、2つの上位装置と該2つの上位装置よりアクセス可能な2つのデータ記憶装置とからなるシステムをそれぞれが1つの上位装置と1つのデータ記憶装置とからなる2つの系統で構築される二重化システムとした場合、その運用の開始を前記系単位で行うものとすることは、本件特許出願前に当業者が通常採用することであり、また、前記アに述べたように、引用発明において、その対象とするシステムを前記二重化システムとすることは、本件特許出願前に当業者が容易に想到実施し得たことであるから、結局のところ、この相違点も格別のものとすることはできない。
(3)以上のとおりであるから、本願発明は、本件特許出願前に引用発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであると言う外はない。

4 結び
以上のとおりであって、本願発明は、本件特許出願前に頒布された刊行物に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができた発明に相当し、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本願は、当審における合議の結果通知した前記拒絶理由により拒絶するものとする。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2001-06-19 
結審通知日 2001-06-29 
審決日 2001-07-10 
出願番号 特願昭62-285124
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (G06F)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 野仲 松男  
特許庁審判長 西川 正俊
特許庁審判官 石井 茂和
大橋 隆夫
発明の名称 二重化システムの制御方式  
代理人 竹内 進  
代理人 竹内 進  

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