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審決分類 審判 全部無効 2項進歩性 無効としない G03F
管理番号 1044390
審判番号 無効2000-35347  
総通号数 22 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 1995-08-18 
種別 無効の審決 
審判請求日 2000-06-29 
確定日 2001-08-31 
事件の表示 上記当事者間の特許第2816091号発明「デジタル検版装置」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。 
理由 1.手続きの経緯
本件特許第2816091号の発明「デジタル検版装置」は、平成6年1月31日に出願され、平成10年8月14日に特許権の設定の登録がなされ、その後、特許異議の申立てがなされ、維持決定がなされた。
これに対して、平成12年6月29日付けで中央無線株式会社より特許無効の審判(平成12年審判第35347号)が請求され、その後、被請求人大日本スクリーン製造株式会社から平成12年9月20日付けで答弁書が提出され、その後、被請求人大日本スクリーン製造株式会社から平成13年3月16日付けで上申書が提出され、その後、当審は、平成13年4月20日に口頭審理を行った。
2.本件特許の請求項1〜3に係る発明
本件特許第2816091号の請求項1〜3に係る発明は、特許明細書及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1〜3に記載された次のとおりのものと認める。
請求項1
「印刷物を構成する各部品を編集、レイアウトして得た編集レイアウトデータをRIP展開することにより、ビットマップ形式の画像データに変換して出力する製版システムにおいて、電子的に検版作業を行う装置であって、
修正前の旧バージョンのRIP展開後の画像データを保存する保存手段、
修正後の新バージョンのRIP展開後の画像データと、前記保存手段に保存された旧バージョンのRIP展開後の画像データとを比較することにより、その差異点を検出するデータ比較手段、および前記データ比較手段により検出された差異点を表示する表示手段を備える、デジタル検版装置。」
請求項2
「前記製版システムから出力されるRIP展開後の画像データを低解像度化する低解像度化手段をさらに備え、
前記保存手段は、前記低解像度化手段により低解像度化された旧バージョンの画像データを保存し、前記データ比較手段は、前記低解像度化手段により低解像度化された新バージョンの画像データと、前記保存手段に低解像度で保存された旧バージョンの画像データとを比較することにより、その差異点を検出する、請求項1に記載のデジタル検版装置。」
請求項3
「前記製版システムにおいて発生する編集レイアウトデータを低解像度でRIP展開することにより、低解像度のビットマップ形式の画像データを出力する低解像度RIP展開手段をさらに備え、
前記保存手段は、前記低解像度RIP展開手段から出力される旧バージョンの画像データを保存し、 前記データ比較手段は、前記低解像度RIP展開手段から出力される新バージョンの画像データと、前記保存手段に保存された旧バージョンの画像データとを比較することにより、その差異点を検出する、請求項1に記載のデジタル検版装置。」
3.請求の趣旨
審判請求人は、本件の請求項1に係る特許発明は、甲第1号証と甲第2号証とに記載された発明に基づいて、或いは甲第1号証と甲第4号証とに記載された発明に基づいて、また、請求項2及び請求項3に係る特許発明は、甲第2号証と甲第3号証とに記載された発明に基づいて、それぞれ当業者が容易に発明できたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない発明であり、特許法第123条第1項第2号によりいずれも無効とされるべきであると主張している。
4.無効の請求の理由及び答弁についての概要
4.1 請求人中央無線株式会社が主張する無効理由の要旨
「(3)本件特許を無効とすべき理由
(3)‐1 本件特許発明の説明
(3)‐1‐1:請求項1に係る発明について
本件請求項1に係る特許発明は、明細書の請求項1に記載されたとおり
(A1)印刷物を構成する各部品を編集、レイアウトして得た編集レイアウトデータをRIP展開することにより、ビットマップ形式の画像データに変換して出力する製版システムにおいて、電子的に検版作業を行う装置であって、
(B1)修正前の旧バージョンのRIP展開後の画像データを保存する保存手段、
(C1)修正後の新バージョンのRIP展開後の画像データと、前記保存手段に保存された旧バージョンのRIP展開後の画像データとを比較することにより、その差異点を検出するデータ比較手段、および、
(D1)前記データ比較手段により検出された差異点を表示する表示手段を備える
(E1)デジタル検版装置。
を特許を受けようとする発明の構成に欠くことができない事項とするものである。
(3)‐1‐2:請求項2に係る発明について
本件請求項2に係る特許発明は、明細書の請求項2に記載されたとおり
(A2)前記製版システムから出力されるRIP展開後の画像データを低解像度化する低解像度化手段をさらに備え、
(B2)前記保存手段は、前記低解像度化手段により低解像度化された旧バージョンの画像データを保存し、
(C2)前記データ比較手段は、前記低解像度化手段により低解像度化された新バージョンの画像データと、前記保存手段に低解像度で保存された旧バージョンの画像データとを比較することにより、その差異点を検出する、
(E1)請求項1に記載のデジタル検版装置。
を特許を受けようとする発明の構成に欠くことができない事項とするものである。
(3)‐1‐3:請求項3に係る発明について
本件請求項3に係る特許発明は、明細書の請求項3に記載されたとおり
(A3)前記製版システムにおいて発生する編集レイアウトデータを低解像度でRIP展開することにより、低解像度のビットマップ形式の画像データを出力する低解像度RIP展開手段をさらに備え、
(B3)前記保存手段は、前記低解像度RIP展開手段から出力される旧バージョンの画像データを保存し、
(C3)前記データ比較手段は、前記低解像度RIP展開手段から出力される新バージョンの画像データと、前記保存手段に保存された旧バージョンの画像データとを比較することにより、その差異点を検出する、
(E1)請求項1に記載のデジタル検版装置。
を特許を受けようとする発明の構成に欠くことができない事項とするものである。
(3)‐2 証拠の説明
(3)‐2‐1:甲第1号証(特開昭56-118607号)の説明。
甲第1号証には、その第2ページ左下欄第6から第10行に、「フィルム原版(2)中の画像情報を光学センサーで読み取ってデジタル化した画像信号を抽出する。得られた画像信号は1時的に記憶機能(図示せず)に記憶しておく。」と記載され、また、左下欄第15行から右下欄第5行には、「光学センサーは再反転原版(3)上を走査開始線(9)と走査完了線(10)の間で再び走査し始め、その間の画像情報をデジタル化し、画像信号として抽出する。この抽出した画像信号は、前回の操作で抽出し、記憶機能に記憶しておいた画像信号と比較され、両者が一致すれば、さらに光センサーによる走査と、抽出された画像信号と前記工程で記憶させておいた画像信号との比較を行なっていくが、不一致であれば、再反転原版(3)上の該当する画像情報の位置に警告マーク(12)を印し、相違点の存在を示す。」と記載されている。
(3)-2‐2:甲第2号証「Adobe Photoshop2.5J ユーザガイド」の説明。
(3)-2‐2‐1:甲第2号証は、アドビシステムズジャバンが発行しているAdobe Photoshop2.5Jのマニュアルである。このユーザガイドの表紙の裏のページには、「1993 Adobe System Incorporated All rights Reserved.」と記載されていることから、この本はアドビシステムズジャパン社が1993年(平成5年)に発行したものであることが分かる。したがって、この甲第2号証は、本件特許の出願日である平成6年1月31日より前に、日本国内において頒布された刊行物である。
(3)‐2‐2‐2:同号証の第1ページ左欄、第3行から第6行に、「Adobe Photoshopは、写真のレタッチや画像編集、カラーペイントを行うことを目的にデザインされた画期的なソフトウェアです。」との記載があり、また、同欄の第10行から第19行に、このソフトウェアの用途について「アートディレクターや電子出版業者がカラー画像の合成や編集を行う場合、写真家が校正刷りのレタッチを行う場合、…その他にも印刷業者や…ご利用いただけます。」と記載している。
(3)‐2‐2‐3:同号証の第11ページ左欄第2行から第4行に、「Adobe Photoshopで効率的に作業を行うための秘訣は、ファイルのサイズを最小限に抑えることです。ファイルが小さいとすべての走査が速くなります。」とあり、同欄第15行から第17行に、
「解像度ファイルの作成
時間とスペースを節約する1つの方法は、72dpiバージョンのファイルを作成することです。」と、低解像度化することを記載している。
(3)‐2‐2‐4:同号証の第12ページ左欄第10行から第15行に「文字が含まれているAdobe IllustratorファイルをAdobe Photoshop内で開いたり配置したときに、なめらかで読みやすい文字を表示するためには、Adobe Type Manager(ATM)3.5Jが必要です。ATMは、Adobe Type 1アウトラインフオントを使用してモニタ表示やプリンタ出力のためのビットマップフオントを生成します。」と、記載されている。
(3)‐2‐2‐5:同号証の第27ページ左欄第11行から第13行に、「Adobe Photoshopで、写真又はスライドをデジタイズされたイメージに変換するプロセスを制御することができます。」と記載されている。
(3)‐2‐2‐6:同号証の第30ページ右欄第10行から第14行に、「EPSファイルをAdobe Photoshopの書類に配置するには:
1 ラスタライズされた画像の質を向上させるには、環境設定ダイアログボックスの[ポストスクリプトデータをアンチエイリアシングして配置]オプションを指定します。」と記載されている。
(3)‐2‐2‐7:同号証の第31ページ左欄第12行から第19行に、「Adobe Illustratorの画像を開いたり配置したりする際に、Adobe Photoshopは画像をラスタライズします。ラスタライズによって、Adobe Illustratorで描画したべクタ画像の数学的に定義された線や曲線は、Adobe Photoshopのグリッド上に表示される点(又はピクセル)に変換されます。Adobe Illustratorの画像をAdobe Photoshopの書類に取り込むには、前述の「EPS ファイルをAdobe Photoshopの書類に配置するには」の手順を参照してください。」と記載されている。
(3)‐2‐2‐8:同号証第31ページ左欄第20行から第29行には、「Adobe Illustratorの画像をAdobe Photoshopの書類として開くには:
1 ファイルメニューから「開く...」を選択し、…
2 ファイルの寸法、解像度及びモードを指示します。ファイルサイズを固定するには、[縦横比を固定]オプションを指定します。
3 [アンチエイリアシング]オプションを指定すると、開くときにラスタライズされている画質が向上します。」と記載されている。
(3)‐2‐2‐9:同号証第53ページ左欄第1行から第3行には、「Adobe Photoshopでは、文字ツールを使用してビットマップタイプの文字を画像に入力できます。」と記載されている。
(3)‐2‐2‐10:同号証第101ページ左欄第14行から第16行には、「画像のサイズと解像度について画像の解像度は、特定のファイル内の情報の密度を表し、1インチあたりのピクセル数(ppi)で表現されます。」と記載され、また同欄第30行から第33行には、「画像の解像度の調整画像の解像度を変更することをリサンプリングといいます。画像をスキャンした後で解像度を変更したい場合は、」と記載され、同ページ右欄第16行から第18行には、「リサンプルダウン(または画像の解像度を下げる)と、プログラムは希望の解像度を達成するために画像から情報を削除します。」と記載されている。
(3)‐2‐2‐11:同号証第107ページ左欄第1行から第5行に、「「画像解像度...」コマンドの使用方法「画像解像度...」コマンドを使用すると、像の解像度を制御しながら画像のサイズを変更することができます。画像の解像度を変更すると、画像に含まれる情報量を変更することになります。」と記載されている。
(3)‐2‐2‐12:同号証第132ページ左欄第12行から第17行には、「「複写...」コマンド
演算サブメニューの「複写...」コマンドは、チャンネルをコピーして、他の新しいチャンネルに入れます。「複写...」コマンドは、編集を行うためにあるチャンネルを他のチャンネルにコピーしたり、マスクとして使用するためにファイル間でチャンネルをコピーする場合などに便利です。」と記載され、また同ページ右欄第1行から第4行には、「「比較(明)...」および「比較(暗)...」コマンド
2つのチャンネルの対応するピクセルの明るさを比較して、明るい方、又は暗い方のピクセルのコピーを結果チャンネルに自動的に入れることができます。」と記載されている。さらに、同ページ右欄第12行から第24行には、「「差の絶対値...」コマンド
演算サブメニューの「差の絶対値...」コマンドは、画像1で指定したチャンネルの対応するピクセルの明るさの値から、画像2で指定したチャンネルの対応するピクセルの明るさの値を引きます。差の明るさの絶対値(結果が負の値の場合、符号を反転し正の値として扱います)に相当する明るさのピクセルが結果チャンネルに入ります。
「差の絶対値...」コマンドは、同じ背景を持つ2つの画像フレームの違いを見つける場合に便利です。たとえば、「差の絶対値...」コマンドを使用して、ビデオ画像からとった同じ背景を持ち前景の違う2つの画像フレームを比較した場合、結果チャンネルの明るい部分がフレーム内で違いのあった部分を表わします。」と記載されている。
(3)‐2‐3:甲第3号証(社団法人日本印刷技術協会、1992年2月14日発行の雑誌「page」)の説明
(3)‐2‐3‐1:同号証の第12ページ右欄下第3行から第13ページ左欄第2行目に、「また画像入力にサイテックスのスマートPSやスマートPSを使い、前のVISIONARYのようにDTPは低解像画像でレイアウトして出力時に高精細画像とすりかえるIPSOの製品群がある」と記載されている。
(3)‐2‐3‐2:同号証の第21ページ右欄下第3行から第22ページ左欄第2行目に、「例えば、当社のイメージセッタの場合はレゾリューションが300dpiから3000dpiまで可変である。RIPウェアで解像度を指定することによって自動的にその解像度でRIPする機能を持っている。」と記載されている。
(3)‐2‐4:甲第4号証(特開平5-107726号公報) (3)‐2‐4‐1:同号証の第3ページ第3欄第42行から第45行に、「図において、1は基準となる所望の集積回路パターンの設計データをビットマップ展開する第1のビットマップ展開回路、2はビットマップ展開回路1からのパターン画像を格納するメモリー回路」と記載されている。
(3)‐2‐4‐2:同号証の第2ページ第2欄第4行から第9行には、「従来の設計検証の作業は、…所望のパターンとなっているかを目視検証するものであった」と記載されている。
(3)‐2‐4‐3:同号証の第3ページ第4欄第9行から第11行に、「10は所望の集積回路パターンを格納したメモリー回路2とマスク光学画像を格納したメモリー回路9との電気信号を比較する比較演算回路である。」と記載されている。
(3)‐2‐4‐4:同号証の第4ページ第5欄第16行から第17行に、「両メモリー回路2および9に格納された画像は比較演算回路10で比較する」と記載されている。
(3)‐3 本件特許発明と証拠に記載された発明との対比
本件特許の請求項1に係る発明と甲第1号証とを比較すると、両者は、(A1)の構成のうちの「印刷物を構成する各部品を編集、レイアウトして得た編集レイアウトデータをデジタルデータに変換して電子的に検版作業を行う装置」の部分、また、(B1)の構成のうちの「修正前の旧バージョンの画像データを保存する保存手段」を有する部分、また、(C1)の「修正後の新バージョンの画像データと、前記保存手段により保存された旧バージョンの画像データとを比較することにより、その差異点を検出するデータ比較検出手段」を有する部分、(D1)の「前記データ比較手段により検出された差異点を表示する表示手段を備える」点および(E1)の「デジタル検版装置」である点で一致している。
一方、甲第1号証の発明には、(A1)、(B1)及び(C1)における「RIP展開」の構成が無い点が第1の相違点として挙げられる。
また、第2に、本件特許の請求項1に係る発明は、フルデジタルであり、紙等のハードコピーを中間に介在させないのに対し、甲第1号証の検版装置は、紙等のハードコピー上の編集レイアウトデータを光学的手段で読み取っている点で相違している。このことは、本件特許の請求項1に係る発明では、新旧バージョンの画像データを比較するとき、位置合わせが簡単にできるのに対し、甲第1号証の発明では、高度の位置合わせの作業が必要になるという効果の差を生じる。
そこで、上記2つの相違点について検討する。
(3)‐3‐1:第1の相違点について
(3)-3‐1‐1:上記甲第2号証「Adobe Photoshop2.5J ユーザガイド」は、(3)‐2‐2‐2で述べたように、「写真のレタッチや画像編集を目的にデザインされた画期的なソフトウェア」であり、「電子出版業者がカラー画像の合成や編集を行う場合、写真家が校正刷りのレタッチを行う場合、…ご利用いただけます。」と記載していることから、多様な印刷物において、印刷物を構成する各部品(文字、写真、描画等)を編集し、レイアウトし、校正する際に使用るソフトウェアである。
したがって、本件特許の「デジタル検版装置」の属する技術分野と、このソフトウェアの属する技術分野とは一致している。
(3)‐3‐1‐2:RIP展開について
RIP(ラスターイメージプロセッサ)とは、コンピュータを使った一種の図形処理方法で、ポストスクリプト(PS)データやエンカプセレイテッドポストスクリプト(EPS)データを読み込んで画像にする処理方法をいう。ここで、ポストスクリプトデータ(PS)とは、Adobe Systems社が開発したページ記述言語で、ソフトウェア上に形成された1ページの編集画像データを、全て数字や文字で表現したものである。たとえば、直線であれば、始点と終点の座標と勾配で表し、曲線はベジェ曲線を用いて表し、写真等の中間調は網点で表現する。或いは、写真や画像の位置を枠(座標)として指定しておき、この枠内に入れる写真や画像の収容されている場所を指定してそこから枠内に取り込むように指示する。こうして作成されたPSデータをコンピュータのソフトで読み込み、編集画像データを小さな点(画素)の集まり、つまり、ラスターデータ化するのがRIP展開である。
上記(3)‐2‐2‐4では編集データのうち、文字をビットマップデータに変換することが、(3)‐2‐2.5には、写真やイメージをデジタイズすることが、(3)‐2‐2‐7には、画像をラスタライズすることが、そして、(3)‐2‐2‐9には、Adobe Photoshopでは、文字ツールを使用してビットマップタイプの文字を画像に入力できることが、それぞれ記載されている。以上から、甲第2号証では、「画像データや文字データ等が、グリッド上に表示される点(又はピクセル)に変換される」ことが理解できる。
また、(3)‐2‐2‐6には、Adobe Photoshopが、EPSファイルを取り扱うことが記載されている。そして、(3)‐2‐2‐7には、「ラスタライズによって、Adobe Illustratorで描画したベクタ画像の数学的に定義された線や曲線は、Adobe Photoshopのグリッド上に表示される点(又はピクセル)に変換されます。」及び「Adobe Illustratorの画像をAdobe Photoshopの書類に取り込むには、前述の『EPSファイルをAdobe Photoshopの書類に配置するには』の手順を参照してください。」という記載があることから、Adobe PhotoshopではEPSファイルからラスタライズされた画像を形成していることが理解でき、これはRIP展開をしていることを意味するものである。
以上のことから、甲第2号証には、本件特許発明の(A1)の構成における「RIP展開することにより、ビットマップ形式の画像データに変換する」構成、及び(B1)、(C1)における「RIP展開」の構成が記載されていることになる。
(3)‐3‐1‐3:新旧バージョンの比較について
上記(3)‐2‐2‐12には、編集を行うために、あるチャンネルのデータを他のチャンネルにコピーすると便利である、旨の記載がある。また、2つのチャンネルの対応するピクセルの明るさを比較して明るい方、又は暗い方のピクセルのコピーを結果チャンネルに自動的に入れることができます、という記載がある。さらに、『差の絶対値…』コマンドは、…差の明るさの絶対値に相当する明るさのピクセルが結果チャンネルに入ります、という記載もある。
甲第1号証には、新旧のバージョンを比較することが記載されており、甲2号証には、上述した通り、一部に相違を有する2つの編集画像データを比較する方法が記載されているので、甲第1号証の新旧の2つのバージョンの比較に、甲第2号証の2つのチャンネルの対応するピクセルの明るさの比較を付加すれば、RIP展開した新旧バージョンの画像データについて比較をすることができるようになる。また、明るい方又は暗い方のピクセルのコピーを結果チャンネルに自動的に入れることによって相違点を表示することも可能となる。
甲第2号証には、本件発明の「RIP展開した新旧バージョンの画像データの比較」が直接記載されていると言うこともできる。すなわち、(3)‐2‐2‐12に記載されたように、あるチャンネルのデータを他のチャンネルにコピーして比較するということは、そのままで、新旧バージョンの画像データを異なるチャンネルに入れて、比較できることを意味しているからである。より具体的に言えば、旧バージョンを1つのチャンネルに入れ保存し、新バージョンを別のチャンネルに入れて、2つのチャンネルの対応するピクセルの明るさを比較し、結果を第3のチャンネルに自動的に入れるのである。この場合、旧バージョンを入れるチャンネルが(B1)の「修正前の旧バージョンのRIP展開後の画像データを保存する保存手段」に対応し、比較結果を入れるチャンネルが、(D1)の「前記データ比較手段により検出された差異点を表示する表示手段」に対応することも論を待たない。
(3)‐3‐2:第2の相違点について
甲第1号証の検版装置は、紙等のハードコピー上の編集レイアウトデータを光学的手段で読み取っているのに対し、本件特許の請求項1に係る発明では、フルデジタルである、という相違について以下に検討する。
一般に、RIP展開により得られた画像データでは、ソフト上に形成された所望の大きさの仮想的な用紙の上に、当該ソフトによって定義される座標等に従って印刷物を構成する各部品が位置決めされている。校正により、一部又は全部の部品に修正が加わっても、その用紙における一つ一つの部品の位置は修正前後で全く変化しないことになる。したがって、ソフト上で新旧バージョンを重ねれば、容易に位置合わせできることになる。また、新旧のバージョンを異なるチャンネルに入れて比較するので、紙等のハードコピー上に編集レイアウトデータを打ち出す必要も全く無い。
したがって、甲第1号証に甲第2号証のRIP展開と、2つの編集画像データの比較とを単に付加すれば、中間に一切のハードコピーが介在する必要もなく、新旧画像データの重ね合わせも簡単にできるので、本件請求項1に係る特許発明と全く同じものとなる。以上から、本件の請求項1記載の特許発明は甲第1号証と甲第2号証とを単に寄せ集めて成されたものである。
(3)‐3‐3:甲第4号証と本件請求項1に係る特許発明との比較。
上記(3)‐2‐4‐1に記載された「基準となる所望の集積回路パターンの設計データをビットマップ展開する」という記載は、甲第4号証が、RIP展開を利していることを表している。
また、(3)‐2‐4‐2から(3)‐2‐4‐4の記載から、従来目視により比較していたものを、フルデジタルで比較することが明記されている。
以上のことから、甲第4号証は、本件請求項1に係る特許発明の、(A1)におけるRIP展開の構成と、(B1),(C1),(D1)の構成とが記載されていることになる。(A1)の残余の構成と、(E1)の構成とは、甲第1号証に記載されていることは疑問の余地はない。
ところで、この甲第4号証は、特許異議申立において、サカタインクス株式会社から証拠として挙げられたものである。そして、特許異議決定では、審判官は、この甲第4号証には、「修正後の新バージョンのRIP展開後の画像データと、前記保存手段に保存された旧バージョンのRIP展開後の画像データとを比較することにより、その差異点を検出する」ことが記載されていることは認めたものの、甲第4号証は、理想画像の存在を前提としたものであって、理想画像が存在しない検版装置の分野に甲第4号証の手段を適用することが容易であるとする根拠がない、として特許異議由立人の主張を退けた。
しかしながら、上記の判断は、特許法第29条第2項の「その発明の属する技術の分野(ここでは「検版装置の分野」である)における通常の知識を有する者」を窓意的に狭く判断したものである。
甲第4号証と本件特許発明とは、コンピュータによる画像処理技術、特に、画像比較という技術分野で共適している。すなわちコンピュータによって画像をデジタルデータ化し、2つの画像を比較する、ということで共通するものである。
一方、本件特許発明の検版装置を発明する者は、検版の知識を有するとともに、コンピュータのソフトウェアに関する知識、特に画像処理の知識と技能とを併せ持った者でなければならない。コンピュータの画像処理に関する知識を有する者であれば、本件特許発明を成すにあたり、甲第1号証の発明に、2つの画像を比較するという基本的な部分が共通する甲第4号証を適用することに特に困難はないものと思料する。
すなわち、本件請求項1に係る特許発明は、甲第1号証に甲第4号証を単に付加することによってなされたものである。
(3)‐4:請求項2及び請求項3記載の発明は、共に編集画像データを低解像度化することで共通している。そして、請求項2の発明ではRIP展開後の編集レイアウトデータを低解像度化し、請求項3の発明では、低解像度でRIP展開するという相違がある。また、発明の効果は共に、「記憶容量を大幅に節約できる」ことと「迅速に検版作業が終了する」ことで共通し、請求項3の効果として、「すべての修正作業が終了するまでは、製版用の高解像度のRIP展開を行う必要がない」という点を上げている。この効果は、「低解像度でリップ展開する」構成であれば、当然に得られるものである。
甲第2号証には、上記(3)‐2‐2‐3に記載したように、「効率的に作業を行うための秘訣は、ファイルのサイズを最小限に抑えることです。ファイルが小さいとすべての走査が速くなります」との記載があり、「低解像度ファイルの作成」ができることが記載されている。また、(3)‐2‐2‐10には、画像の解像度を多様に変更でき、画像をスキャンした後で解像度を変更することもできることが記載されている。また、(3)‐2‐2‐11にも「画像の解像度を制御しながら画像のサイズを変更することができます。画像の解像度を変更すると、画像に含まれる情報量を変更することになります。」と記載され、さらに、甲第3号証では、上記(3)‐2‐3‐1に、「VISIONARYのようにDTPは低解像画像でレイアウトして…」と記載されている。これらの全ては、実質的に本件特許の請求項2における(A2)、(B2)及び(C2)の構成を示すものである。
次に請求項3について検討する。甲第2号証の上記(3)‐2‐2‐8の「2 ファイルの寸法、解像度及びモードを指示します。ファイルサイズを固定するには、『縦横比を固定』オプションを指定します。」という記載は、低解像度でRIP展開できることを意味している。また、甲第3号証では、上記(3)-2‐3‐2に記載したように、「RIPウェアで解像度を指定することによって自動的にその解像度でRIPする機能を持っている。」の記載があり、低解像度でRIP展開できることが明示されている。
以上のことから、本件特許の請求項3における(A3)、(B3)及び(C3)の構成は、全て甲第2号証及び甲第3号証に記載されている。
したがって、本件特許の請求項2及び請求項3に記載された低解像度化は、甲第2号証又は甲第3号証に記載されているので、請求項2及び請求項3の特許発明は甲第2号証又は甲第3号証から容易に成されたものである。」
4.2 請求人中央無線株式会社が主張する無効理由に対する被請求人大日本スクリーン株式会社の主張の要旨
「7.理由
(7‐1)証拠の認否
本件審判請求人が提出した甲第1号証〜甲第4号証の成立は認める。
(7‐2)審判請求人の主張の認否
本件特許の請求項1〜請求項3を無効にすべきという本件審判請求人の主張はいずれも否認する(詳細な理由は後記する)。
(7‐3)検版の前提事項
本件請求項1〜3に記載の発明は、製版システムにおけるデジタル検版装置を対象としているが、「検版装置」は製版システムにおいて使用される特殊な装置であり、本件発明はそのような特殊事情と密接に関連しているため、その前提となる事項についてまず整理する。
なお、以下では、特に付記しない限り、「本件発明」とは、本件特許の請求項1〜請求項3の各発明を指す。
一般に製版プロセスにおいては、製版指示に従って、印刷物を構成する各画像部品(文字・イラスト・線画など)を頁内に空間配置して種々の処理を行い、最終的に印刷のための版を作成するが、それらにおいて版の画像を何度もチェックして、誤りが見つかると修正を行う。
一般に、印刷に使用する版の画像は、ワードプロセッサを用いて家庭内で簡単な文章を作成する場合とは異なり、1頁のサイズも大きいものが多く(例:新聞紙大やそれ以上)、また1頁に多量の文字・写真などの画像部品を複雑に配置することもしばしばである(例:スーパーマーケットの売り出しチラシ印刷)。
このため、最初に作成された版画像につき1回の修正で済むことはまれであり、チェックと修正とを何回も繰り返すことが通例である。
ここにおいて、たとえば最初に作成された版の画像(初校)に誤りがあるかどうかにつき、印刷の発注者またはそれに代わる者がチェックを行い、誤りがあれば修正指示を出す。この作業が「校正」である。
また、この校正結果に応じて製版技術者は版の画像修正を行うが、その画像修正が校正での「修正指示」通りになっているか否かを確認する作業が「検版」である。
なお、検版においても、用語としては「初校」(最初の校正対象の版)、「再校」(2度めの校正対象の版)というように「校正」の語も用いられるが、これは検版の対象となる版が何回目の校正にかかる版であるかどうかを指している。
そして、以上のような「検版」を行うに際して、従来は、新旧バージョンの画像のハードコピーをイメージリーダなどによって光電的に読み取ってデジタル画像データに変換し、それらをコンピュータなどでデジタル比較していた(以下「光電読取方式」)。
このような光電読取方式の装置では、比較工程は自動化されているが、製版用フィルムの読み取り時に高精度の位置決めが必要であり、製版用フィルムのセッティングに熟練が必要であるなどの問題がある(本件明細書0011段落)。
また、CTP(ダイレクト製版)やオンデマンド印刷機のように製版用フィルムを出力しないシステムには、このような光電読取方式の装置は対処できない(本件明細書0012段落)。
(7‐4) 本件発明の概要
(省略)
(7‐5)無効審判請求人の主張の要旨
(省略)
(7‐6) 請求項1の発明と甲各号証との比較
(省略)
(7‐7) 請求項2および請求項3の発明と甲各号証との比較
(省略)
5.被請求人大日本スクリーン製造株式会社が提出した平成13年3月16日付け上申書の要旨
「1) 上申の目的
本件特許無効審判に係る特許第2816091号明細書の特許請求の範囲に記載された発明(以下「本件発明」)と、無効審判請求人が提出した甲第1号証記載の技術との作用効果上の相違を明確にする目的で画像サンプルを提出し、それについてご説明いたします。
なお、本件発明の作用効果につきましては出願当初より本件明細書に記載されており、今回の画像サンプルはその具体例となっているにすぎません。したがいまして、今回の上申により本件発明の構成および作用効果につき追加または変更するものではありません。
(以下省略)」
6.口頭審理における両当事者の主張の概要
6.1 請求人中央無線株式会社の主張の概要
(1) 審判請求の趣旨及び請求の理由は、審判請求書(平成12年審判第35347号)及び本日付け口頭審理陳述要領書記載のとおり。
ただし、口頭審理陳述要領書の第7頁第7行から第18行目は削除する。
(2) 甲第6号証を参考資料に訂正する。
(3) これ以上の主張、立証はない。
6.1.1 請求人中央無線株式会社が提出した口頭審理陳述要領書の要旨
「5.陳述の要領
(1) 被請求人の主張に対する反論
(1)‐1 請求項1に係る発明について
被請求人は、平成12年9月20日付けの審判事件答弁書(以下「答弁書」という)で、以下の主張をしている。
要素技術としての「デジタル画像データ比較」は、本件特許が出願される前から公知であった。そして、「どのような目的で使用される装置において、何をデジタル画像比較の対象にしているか」という点に本件発明の意義がある。と述べ、本願発明には次のような効果があると述べている。
イ 検版の目的で各修正段階での製版用フィルムなどを作成・保存する必要が無い。
ロ 画像の光電的読み取りにおける位置合わせの熟練作業が不要になる。
ハ 製版フィルムを作成せず直接に印刷版に画像出力を行う製版システムにも適用できる。
そして、引用された甲第2号証と甲第4号証について、
a 甲第2号証は、汎用の画像処理ソフトであり、デジタル画像比較機能を持っているが、検版装置ではなく、検版装置への流用の動機付けがない。
b 甲第4号証は、検版装置ではなく、被検査画像と理想画像とを比較するものであり、理想画像のない検版装置に転用することはできない。
の2点を主張している。
また、平成13年3月16日付けの上申書では、本件の請求項1に係る発と甲第1号証の検版のやり方を縷々説明し、甲第2号証から甲第4号証については、これらは検版装置ではなく、検版結果というものがないので、比較できないと主張している。この主張は実質的には、上記a、bの主張と同一の主張と考える。
なお、請求項1に係る発明の効果として、
ニ ノイズの影響を受けない。
を追加している。
一方、甲第2号証と、甲第4号証に記載の発明が、RIP展開していること、ハードコピーの要らないフルデジタルの画像比較であること、の2点についての請求人の主張に対し、被請求人は否定していないことから、これらの2点を認めたものと考える。
すると、仮に上記a,bの被請求人の主張を考慮しなければ、甲第1号証に記載された「新旧バージョンのデジタル画像データを比較する」構成に、甲第2号証又は甲第4号証の「RIP展開した2つの画像データをフルデジタルで比較する」構成を付加すれば、本件特許の請求項1に係る発明になることは、明確なことになる。
そこで、上記a,bの2点の主張を検討する。
まず、最初に、特許庁は、「特許・実用審査基準」を改訂(以下「新審査基準」という)した。この新審査基準は、平成12年12月28日現在に継続中の審査、審判において、進歩性の審査に適用されるものである。
この新審査基準では、当業者について従来の定義に、「個人よりも、複数の技術分野からの「専門家からなるチーム」として考えた方が適切な場合もある。」という記載が加えられた。
これに基づき、進歩性の判断においては、「引用発明に基づいて当業者が請求項に係る発明に容易に想到できたことの論理づけができるか否かにより行う」としている。そして、具体的な論理づけは、引用発明の内容に動機づけとなり得るものがあるかどうかにより判断されるとしている。
この動機づけとなり得るものの例として、
(1)(原文は丸数字) 技術分野の関連性 この例として「引用発明の打止解除装置は、パチンコゲーム機に関するものであるが、これを同じゲーム機であり、計数対象がパチンコ玉かメダルかという差異はあるもののその所定数を計数してスロットマシンを停止する打止装置を有するスロットマシンに転用することは容易に想到し得るものであると認められる。(平8(行ケ)103)」という判例が記載されている。
(2)(原文は丸数字) 課題の共通性
この例として例2に、「鋸刃の厚みは刃長さによって種々異なることは普通であり、替え刃式鋸において、厚みの異なる鋸刃を交換して使用する技術的課題自体は、引用発明1に接した当業者であれば容易に予測できる。また、引用発明4〜7の挟持手段はナイフ等の厚みが異なっても弾性により挟持力で挟特できることは明らかであり、その構造自体が種々の厚みの刃物に対応して挟持させる技術思想のもとに製作されていると認められるので引用発明4〜7の技術思想は厚みの異なる刃物を交換使用する点で本願考案の技術的課題と共通している。従って、引用発明1の鋸刃の構成に引用発明4〜7の構成を転用することは当業者が極めて容易に着想することが可能というべきである。(平7(行ケ)5)」という判例が記載されている。
(3)(原文は丸数字) 作用、機能の共通性
請求項に係る発明の発明特定事項と引用発明特定事項との間で、作用、機能が共通することや、引用発明特定事項どうしの作用、機能が共通することは、当業者が引用発明を適用したり結びつけたりして請求項に係る発明に導かれたことの有力な根拠となる。
(4)(原文は丸数字) 引用発明の内容中の示唆
引用発明の内容に請求項に係る発明に対する示唆があれば、当業者が請求項に係る発明に導かれたことの有力な根拠となる。
などが挙げられている。上記(1)(原文は丸数字)から(4)(原文は丸数字)の1つでも該当すれば、動機づけがあることになる。
さらに、第4章「コンピュータ・ソフトウェア関連発明」では、進歩性の判断における「当業者の通常の創作能力の発揮に当たる例」として、「他の特定分野への適用」という項目が記載されている。ここには、「特定分野に関するソフトウェア関連発明に用いられている手順又は手段は、適用分野に供わらず機能又は作用が共通していることが多い。このような場合、ある特定分野に関するソフトウェア関連発明の手順又は手段を別の特定分野に適用しようとすることは、当業者の通常の創作能力の発揮に当たる。」と記載されている。
そして、「『ファイル検索システム』の引用発明が存在した場合、その機能又は作用が共通している手段(検索のための具体的構成)を医療情報システムに適用して『医療情報検索システム』を創作することは、当業者の通常の創作能力の発揮に当たる。」と記載されている。
以上の新審査基準によれば、引用発明は必ずしも請求項に記載された発明と同一の技術分野である必要はなく関種性があれば足り、引用発明の内容に動機づけとなり得るものがあるかどうかにより判断されるべきものである。
また、引用発明に、請求項に記載された発明と同じ課題が記載されている必要もない。
本件の場合、甲第1号証が検版装置であることは被請求人も認めている。
この検版装置に甲第2号証又は甲第4号証の発明を付加することが容易か否かという問題である。新審査基準によれば、甲第2号証から甲第4号証が検版装置である必要はなく.検版装置に転用される動機付けがあれば足りることになる。
そこで、上記の新審査基準を踏まえて、まず、上記aの甲第2号証の検版装置への流用の動機付けを検討する。本件特許の請求項1に係る発明と、甲第2号証とを比較すると、審判請求書の第3頁(3)‐2‐2‐2に記載したように甲第2号証の第1ページ左欄、第3行から第6行に、「Adobe Photshopは、写真のレタッチや画像編集、カラーペイントを行うことを目的にデザインされた画期的なソフトウェアです。」との記載があり、また、同欄の第10行から第19行に、このソフトウェアの用途について「アートディレクターや電子出版業者がカラー画像の合成や編集を行う場合、写真家が校正刷りのレタッチを行う場合、…その他にも印刷業者や…ご利用いただけます。」と記載されている。すなわち、甲第2号証には、カラー画像の合成や編集、写真家が校正刷りのレタッチを行う場合に利用できる、という記載がある。この記載は、甲第2号証が検版装置にも適用可能であることを十分に示唆しているものである。
また、甲第2号証には、審判請求書の第5頁(3)‐2‐2‐12に記載したように、2つの画像をフルデジタルで比較して相違する部分を表示するという内容の記載がある。これは、請求項1に係る発明の「新旧バージョンの比較」と同一の内容である。
これらのことから、請求項1に係る発明と甲第2号証の発明とは、両者の技術分野は同一か、少なくとも関連性を有するということができる。これは、上述したパチンコゲーム機とスロットマシンとの関係と同じである。また、「2つの画像を比較して相違する部分を表示する」という課題が共適しているので、ナイフの挟持手段と鋸刃の挟持手段との関係と同じである。したがって、甲第2号証は、請求項1に係る発明の検版装置を十分に示唆していると言える。
また、請求項1に係る発明は、コンピュータ・ソフトウェアを利用したデジタル画像比較の技術であるが、甲第2号証も汎用の画像処理ソフトであって、デジタル画像比較が可能である。したがって、請求項1に係る発明は甲第2号証のデジタル画像比較を単に転用したものに過ぎない。これは、上述した『ファイル検索システム』を『医療情報検索システム』に転用したのと同じ関係である。
さらに、甲第5号証(最新DTP/PDF標準テキスト 『日経BP社』1999年7月19日発行)の第1頁下4〜8行に、「DTPとは、机上での作業状態をモニタ上に擬似的に作り上げた作業環境(Macintosh のOSではこれをDesk Topと呼んだ)上で、パソコンを使って出版物の制作を行うことをいう。ここでいう出版物の制作とは単に画像処理ソフトやページレイアウトソフトを使って紙のドキュメントを得るために制作することだけを指すのではなく、情報を加工して編集、デザインする行為全般を含めている。」との記載がある。また、同号証第3ページには「DTPの生い立ち」についての記載があり、5つの枠の下にある記載の第6〜8行に、「1990年、パソコン用画像処理ソフトAdobe Photoshop(Adobe Systems社)が登場したことで、DTPの守備範囲にフルカラー画像処理が加わり、現在では、フルカラーを含めあらゆる印刷物をDTPで作成できるようになっている。」と記載されている。また、同号証第5ページの図には、Adobe Photoshopが1990年に発表されたことが記載されている。
また、DTPと検版装置の関係であるが、DTPによって作成された印刷用データを検版装置に移動して、新旧バージョンについて検版するようになっている。したがって、検版装置の当業者がDTPの技術を知らないはずがない。
以上の甲第5号証の記載から、甲第2号証のAdobe Photoshopが、DTPに使用される画像処理ソフトであることが分かる。したがって、甲第2号証は、検版装置と非常に密接な関係にある技術分野であり、検版装置の当業者であれば、甲第1号証に甲第2号証を付加することは容易にできたものである。
[第7頁第7行〜第18行削除]
もし、特殊な態様ではあるが、検版装置の当業者にとっては自明のことである、というのであれば、記載する必要はないが、転用も容易ということになる。
また、特許請求の範囲にも被請求人が主張する特殊な態様に対応する記載が無い。したがって、被請求人の「特殊な対応」の主張は、特許請求の範囲の記載に基づかない主張である。
さらに、検版の本来の意味は、版を検収するという意味である。そして、この版とは製版フィルム、刷版及び紙などのハードコピーを指す。すなわち、新旧バージョンについてハードコピーを作成し、両者の相違点を探すのが検版の本来の意味である。一方、被請求人は請求項1に係る発明はフルデジタルであってハードコピーが不要であると主張している。すると、請求項1に係る発明は「検版装置」ではないことになる。では何かと言えば、単なる画像データの比較にすぎない。つまり、フルデジタルの検版装置の本質は、画像データの比較のことである。
甲第2号証には正しく画像データの比較が記載されているのであるから、この点からも当業者にとって甲第1号証に甲第2号証を付加することは容易である。
次に、上記bの甲第4号証は、被検査画像と、理想画像とを比較するものであり、理想画像の無い検版装置に転用することは困難である、という主張について検討する。
甲第4号証は、半導体デバイスの製造における位相シフトマスクの検査を画像比較によって行う技術であり、検版装置そのものではない。しかし、上述したように新審査基準によれば、甲第4号証が同じ検版装置である必要はない。上述したパチンコゲーム機とスロットマシンのように技術分野が関連性を有するとか、鋸刃の挟持装置とナイフの挟持装置のように課題の共通性があればよい。この観点から、請求項1に係る発明と甲第4号証とを比較すれば、共にフルデジタルの画像比較ということであるから両者の技術分野には共通性がある。 また、甲第4号証は、理想画像と被検査画像であるが、この被検査画像は、複数回作成してその都度理想画像と比較して相違点をチェックするものである。すなわち、初校、再校、と新旧バージョンを繰り返し重ねて比較して相違点をチェックする検版装置と非常によく似た作業を行うものである。従って、請求項1に係る発明と甲第4号証とは、少なくとも、よく似た2つの画像の相違点を求める、という課題の共通性を有する。また、「よく似た2つの画像を繰り返し重ねて比較する」という作用、機能の共通性も有している。
すなわち、甲第1号証と甲第4号証とは相互に関連した技術分野であり、甲第1号証には新旧バージョンを比較することが記載されているのであるから、甲第4号証の「よく似た2つの画像をフルデジタルで比較する」という技術的な思想を取り出し、甲第1号証に付加することは当業者であれば容易に想到できたことである。甲第4号証の理想画像に本件特許の旧バージョンの画像を置き換え、被検査画像に本件特許の新バージョンの画像を置き換えればよいことは、当業者であれば、容易に想到できたことである。
さらに、甲第4号証を検版装置に転用することは、新審査基準の「ある特定分野に関するソフトウェア関連発明の手順又は手段を別の特定分野に適用しようとすることは当業者の通常の創作能力の発揮に当たる。」に該当するもので、単なるソフトウェアの転用にすぎず、この点からも進歩性が否定されるべきである。
なお、被請求人は検版には理想画像が存在しないと主張するが、検版においても理想画像の存在する場合がある。たとえば、注文先から完成したデジタル画像データの原稿を預かって、これと同じものを印刷する(DTPデジタル原稿によるデジタル入稿)場合に、システムによっては預かった原稿をそのまま製版用として使用できない場合がある。このような場合には、新たに製版用データを作成することになるが、入稿された原稿が商品のパッケージ等であった場合には、入稿されたデータを理想画像として正確な再現が要求されることになる。こうして作成した製版用データをRIP展開してビットマップデータとし、同様にDTPデジタル原稿をビットマップデータ化する。この両者をデジタル画像のままで重ねて検版する。という方法を採用する。この場合、注文主から預かったデジタル画像データは不変であり、理想画像となる。そして、作成した版下のデジタル画像が被検査画像ということになる。すなわち、半導体デバイスの製造における位相シフトマスクの検査をそっくりそのまま転用することができる。
次に、被請求人が主張する上記発明の効果イ、ロ、ハ、ニについて検討する。
まず、イの「検版の目的で各修正段階での製版用フィルムなどを作成・保存する必要が無い。」という効果であるが、甲第1号証に甲第2号証を単に付加すれば、ハードコピーが不要なフルデジタルになるので、当然に、「検版の目的で各修正段階での製版用フィルムなどを作成・保存する必要が無い。」という効果を奏する。
次に、ロの「画像の光電的読み取りにおける位置合わせの熟練作業が不要になる。」という効果であるが、甲第2号証のデジタル画像どうしを比較する場合も、位置合わせが容易であることも当然である。
ハの「製版フィルムを作成せず直接に印刷版に画像出力を行う製版システムにも適用できる。」も上記イ及びロの効果から当然に派生する効果であり、甲第1号証に甲第2号証を単に付加すれば、この効果を奏することは当然である。
ニの「ノイズの影響を受けない」効果も、甲第2号証又は甲第4号証のデジタル画像比較を付加すれば当然生じる効果である。
以上から、請求項1に係る発明は、甲第1号証に甲第2号証を単に付加しただけであり、効果も予測される範囲内のものにすぎない。
(1)‐2 甲第6号証について(甲第2号証による検版の例)
被請求人は、甲第2号証では検版が具体的ではないと主張しているので、甲第2号証の汎用画像処理ソフトを検版装置として使用できることを甲第6号証で立証する。
この甲第6号証は、Adobe Photoshop 2‐5で作成すべきであるが、これはかなり古いもので既に請求人の手元には無かった。そのため、Adobe Photoshop 5.5で作成した。しかし、ここで用いた検版機能に関してはAdobe Photoshop 2.5も同じ機能である。
甲第2号証の第132ページ右欄第12行から第24行には、「『差の絶対値…』コマンド
演算サブメニューの『差の絶対値…』コマンドは、画像1で指定したチャンネルの対応するピクセルの明るさの値から、画像2で指定したチャンネルの対応するピクセルの明るさの値を引きます。差の明るさの絶対値(結果が負の場合、符号を反転して正の値として扱います)に相当する明るさのピクセルが結果チャンネルに入ります。」と記載されている。
甲第6号証は、3枚の画像からなるが、これらは甲第2号証の上記の記載に基づいて作成されたものである。各画像は、本来は電気信号であって、紙上にプリントされるものではないが、便宜的にプリントされたものである。
以下に、3枚の画像のそれぞれについて説明する。画像1(デジタル検版初校)これは、初校のデジタル画像で、本件の請求項1に係る発明では旧バージョンに対応する画像である。Adobe Illustratorで印刷すべき画像をレイアウト及び編集してEPSファイルを作成する。これをAdobe Photoshopで読み取ればRIP展開されることになる。このとき、解像度の指定ができるようになっていて、解像度を低く設定すれば、低解像度でRIP展開がされることになる。こうしてRIP展開したものを1つのチャンネルに入れて保存する。
画像は、一番上の左側に青色の楕円形をバックにした「モニタ」の文字と、右側に緑色の楕円形をバックにした「プリンタ」の文字があり、それぞれの下に多数の風船が写った写真がある。左の写真がモニタの画像、右の写真がプリンタの画像という意味である。
風船の写真の下には3枚の小さい写真がある。左から「砂漠」、「雲」、「船」の写真となっている。
その下には、文字が記載されている。文字は色や字体や大きさが異なったものが含まれている。
画像2(デジタル検版再校)
再校のデジタル画像で、新バージョンに対応する画像である。Adobe Illustratorで、RIP展開する前の初校の画像データをコピーし、校正してから、EPSファイルとし、Adobe Photoshopで読み取ってRIP展開して別のチャンネルに入れたものである。
ここでは、次のような変更をしている。
(1)(原文は丸数字) 「モニタ」と「プリンタ」のバックの色を変更した。
(2)(原文は丸数字) プリンタ側の風船の写真の色調を、モニタ側の色調に一致させた。
(3)(原文は丸数字) 「船」の写真と「砂漠」の写真を入れ替えた。
(4)(原文は丸数字) 文字の部分では、「カラーマネジメント CMS」の色を変更し、「ICCプロファイル」の字体を変更し、「プルーファプロファイル」を追加し、その他、用語の訂正(広い→狭い、大きい→小さいなど)を行っている。
画像3(デジタル検版結果)
初校と再校とをデジタル信号の状態で相互比較した検版結果を示す。初校と再校で全く一致している部分は白くなり、何もプリントされていない状態となる。不一致の部分は、初校と再校とが重なり合った画像となってプリントされている。
すなわち、
(1)(原文は丸数字)「モニタ」と「プリンタ」の文字は、完全に一致しているので白く抜け、バックが初校と再校の色を重ねた色になっている。
(2)(原文は丸数字)プリンタ側の風船の写真が、色調の差分による薄い画像となっている。
(3)(原文は丸数字)「砂漠」と「船」の写真が重なって左右に表れている。
(4)(原文は丸数字)文字は、色の変更された部分(「カラーマネジメント CMS」の部分、「広」→「狭」、「大き」→「小さ」、「しながらも、変換を行います」→「しながら変換を行います」などの訂正された部分、字体が変更された部分(ICCプロファイル)、追加された文字部分(「プルーファプロファイル」の部分)が表示されている。
これらの画像から、甲第2号証の画像比較がそのまま検版に適用可能であることが理解できる。すなわち、甲第1号証と甲第2号証とは同じ技術分野であり、甲第1号証に甲第2号証を付加することは当業者にとっては容易なことである。
(1)‐3 請求項2と請求項3に係る発明について、
請求項2に係る発明は、高分解能でRIP展開した画像を低分解能に変換する。
請求項3に係る発明は、RIP展開の段階で画像データを低分解能化する。
というもので、これらの効果は、共に、記億容量の低減と、処理速度の向上にある。
まず、甲第3号証が甲第1号証に付加可能か否か、すなわち、甲第3号証の発明の技術分野が甲第1号証の検版装置の技術分野と関連しているか否かについて検討する。甲第3号証が印刷に関連した技術であることは、発行者が「社団法人日本印刷協会」であることや「電算写植」の語があることから明確なことである。印刷に関する技術であれば、検版と関連することも論ずるまでもない。
被請求人は、答弁書の第10頁第18〜23行で、
(1)(原文は丸数字)したがって、低解像度化することによって画像情報の密度が低下しても検版においては画像比較に実質的な支障は少ない。これに対して一般の画像修正の場合には、(中略)低解像度化すると実質的な画像情報が抜け落ちてしまい、修正前後の画像の比較に支障が生じることがある、と述べ、
また、第10頁の下から3行目〜第11頁第5行目には、
(2)(原文は丸数字)一般の画像修正の場合に低解像度化するのは、実際の出力に利用するか、
画像の索引情報として利用するだけのものであり、検版のために相互比較するという検版特有の利用形態は開示されていない、という趣旨の主張をしている。
しかしながら、上記の(1)(原文は丸数字)の低解像度化すると実質的な画像情報が抜け落ちる可能性は、本件特許の請求項1に係る発明についても同様であり、特に請求項2又は3に係る発明なら問題ないとする理由は理解できない。
次に、上記(2)(原文は丸数字)についてであるが、審判請求書の第12頁(3)‐4に記載したように、甲第2号証、甲第3号証には、「高分解能でRIP展開した画像を低分解能に変換する」構成や「RIP展開の段階で画像データを低分解能化する」構成が記載されている。このような構成が開示されているのであれば、「検版のために相互比較する」ことも容易に可能であり、これを請求項1に係る発明に付加するのに何らの困難性はない。」
6.2 被請求人大日本スクリーン製造株式会社の主張の概要
(1) 答弁の趣旨及び答弁の理由は、平成12年9月20日付け答弁書、平成13年3月16日付け上申書、平成13年4月20日付け口頭審理陳述要領書(1)及び平成13年4月20日付け口頭審理陳述要領書(2)記載のとおり。
(2) 甲第1号証ないし甲第5号証の成立を認める。
(3) これ以上の主張、立証はない。
6.2.1 被請求人大日本スクリーン製造株式会社が提出した口頭審理陳述要領書の要旨
6.2.1.1 陳述要領書(1)の概要
「(2) 陳述の概要
(2‐1) 甲第1号証には原版フィルムなどの光電読取りによって得られた新旧バージョンの画像の比較による検版装置(光電読取型の検版装置)が開示されているが、この光電読取型の検版装置では、 イ)画像読取りの際の位置決め誤差や画像ノイズなどの外乱の影響によって、正確な検版が困難である、
ロ)検版の目的で各修正段階での製版用フィルムなどを作成・保存する必要がある、
ハ)原版フィルムを使用しないCTP製版方式などでは、原版フィルムからの画像読取りによる比較ができない、
などの問題がある。
(2‐2) 甲第2号証は、画像比較機能を持つ画像処理ソフトの取扱説明書である。この甲第2号証の技術は汎用の画像処理ソフトであり、種々の用途に利用することは可能であるが、それぞれの機能をどのように利用するかはユーザの創意工夫に委ねられているものであり、特定の用途(特に検版)への利用態様を具体的に説明しているものではない。
(2‐3) 一方、本件請求項1記載の発明は、
イ)画像読取りを必要としないため、位置決め誤差や画像ノイズなどの外乱の影響がなく、正確な検版が可能である、
ロ)検版の目的で各修正段階での製版用フィルムなどを作成・保存する必要がない、
ハ)画像読取りを必要としないため、原版フィルムを使用しないCTP製版方式などでも検版が可能である、
など、検版装置という分野に固有の技術的効果がある。
このうち「イ)」の事項については、上記上申書に添付した参考資料によっても具体的に確認できる。
(2‐4) これに対して、甲第2号証には、そこで開示されている技術を「検版装置においてRIP展開した新旧バージョンの製版用のデジタル画像を比較する」という目的に利用すれば上記のような固有の技術的効果を奏することを指摘しておらず、また示唆もされたいないため、甲第1号証の検版装置と組み合わせる動機となり得ない。
すなわち、仮に甲第1号証と甲第2号証を寄せ集めても、「検版装置に画像比較を利用する」という漠然とした構成だけであり、「RIP展開した新旧バージョンの製版用のデジタル画像を比較する」という本件発明に特徴的な構成、およびそれによって得られる上記のような検版特有の技術的効果については、これらの証拠から予想されるものではない。
(2‐5)一方、甲第4号証では、半導体基板上にパターンを転写するための位相シフトマスクを検査するにあたって、原設計パターンの画像データ(理想画像)と、実際の製品の設計に利用されるパターンの画像データ(被検査画像)とをデジタル比較するものである。この甲第4号証の技術では、「理想画像」の存在が必須であるが、「理想画像」に相当するものが存在しない検版の分野には適用できない。
また、この甲第4号証は画像処理技術を利用してはいるものの、上記のように半導体製造の分野での事情に応じた技術であるから、製版分野の当業者が当然に知得すべき文献には相当しない。
(2‐6) さらに、甲第3号証は低分解能化に関する開示があるだけであり、請求項1の発明の特徴的構成に関係する記載はない。
(2‐7) したがって、甲第1号証と甲第2号証(または甲第1号証と甲第4号証)の記載から容易に請求項1の発明を得ることはできないし、さらに甲第3号証の開示を考慮しても請求項1の発明を得ることはできない。
(2‐8)また、請求項2および請求項3の発明は、請求項1の発明に技術的限定を付加した発明であり、上記のように請求項1の発明に進歩性があることから、請求項2および請求項3の発明については、甲第3号証の存在の有無にかかわらず進歩性がある。
(3) 以上より、本件特許の請求項1〜請求項3のそれぞれに記載された発明は、甲第1号証〜甲第4号証の開示から当業者が容易に発明できたものではなく、特許法第29条第2項に違反して特許されたものではない。
このため、本件特許は同法第123条第1項第2号の規定による無効とされるべきものではなく、本件審判請求は理由がないとの審決を求める。
6.2.1.2 陳述要領書(2)の概要
平成13年4月20日付の審判請求人の陳述要領書に対する被請求人の見解は以下の通りです。
なお、以下では請求項1〜請求項3の各発明に共通の特徴について述べます。
(1‐1) 甲第2号証および甲第4号証(特に甲第2号証)について
審判請求人はその陳述要領事において特許・実用新案に関する「新審査基準」を引用するとともに、甲第2号証や甲第4号証にはそれらを検版装置に使用する「動機付けがある」と主張している。
しかしながら、甲第2号証および、審判請求人の陳述要領書に添付された甲第5号証や参考画像が示すところは、
・甲第2号証の画像処理ソフトは、印刷物の制作を含めて種々の用途に利用できる汎用画像処理ソフトである。
・甲第2号証の画像処理ソフトは、画像比較機能を持っている。
という程度であり、それ以上のものではない。
すなわち、甲第2号証などには、「この画像処理ソフトは、印刷物の制作のうち検版工程については、フルデジタルでの新旧バージョンの画像を対象として画像比較機能を使用する…」というような各要素の有機的結合ないしは技術的思想についての説明も示唆もなく、本件発明への具体的な動機付けになり得るものではない。
(1‐2) 甲第4号証について
甲第4号証は「理想画像」と「被検査画像」との比較が開示されているだけであり、一般に「理想画像」が存在しない検版装置への転用はできないとの点は、被請求人が繰り返して主張しているところである。
これにつき、審判請求人は、「検版においても理想画像がある場合」を掲げているが、レイアウト済のものをRIP展開したビットマップ形式で比較できるような「理想画像」があればそれを利用して製版をすればよいと思われ、そのビットマップ形式の画像が、「デジタル画像比較には使用できるが(システムの制限上で)製版には利用できない場合がある」という趣旨が不明である。
また、仮にそのようなものがあったとしても、それは、「新たに作成した画像が発注元の画像と同じになっているかどうか」を見るための「新規作成画像」のチェック工程であって、「修正前後の画像を比較することにより、修正に過不足がなかったかどうかを確認する」という検版本来の意義からはずれた態様であるから、甲第4号証の開示の延長上に本件発明があるとは言い難い。
また、審判請求人は「よく似た2つの画像をフルデジタルで比較する」という点で甲第4号証は検版装置と類似していると指摘するが、そもそも「画像比較」は、ある程度似た画像を比較するために行うことが多く、全く関連性がない画像を相互に比較しても意味はない。
画像比較では、「よく似た画像」として、どのようなプロセスで得られた、どのような画像を比較対象とするのか、そしてその比較がどのような効果をもたらすかという点が技術思想として重要である。
(1‐3) 「検版」の用義について
審判請求人はその陳述要領書において、
「検版とは『版を検収する』という意味だから、検版はハードコピーの存在を必須としており、本件発明は検版装置ではない」という趣旨の指摘をしている。
しかし、「検版」とはその実状からして「製版用の画像の修正検査」という程度の意味であろう。また、仮に審判請求人が主張するような用語の定義が正しいとしても、これは、「従来は、版の修正ごとに必ずハードコピーを作成しなければならなかった」という歴史的経緯が用語上で表現されているだけであり、むしろ、審判請求人のこの指摘は、従来の既成概念を本件発明がうち破ったという、本件発明の技術的意義を示していることにほかならない。
(1‐4)本件発明の効果について
本件発明の効果に関しての審判請求人の陳述要領書での議論は、「当然」、「予測できる範囲のもの」というような抽象的主張だけであり、具体的な根拠がない。」
7.甲第1〜5号証の記載内容
7.1 甲第1号証の記載内容
4.1 請求人中央無線株式会社が主張する無効理由の要旨の(3)-2-1に記載されたとおり。
7.2 甲第2号証の記載内容
4.1 請求人中央無線株式会社が主張する無効理由の要旨の(3)-2-2に記載されたとおり。
7.3 甲第3号証の記載内容
4.1 請求人中央無線株式会社が主張する無効理由の要旨の(3)-2-3に記載されたとおり。
7.4 甲第4号証の記載内容
4.1 請求人中央無線株式会社が主張する無効理由の要旨の(3)-2-4に記載されたとおり。
7.5 甲第5号証の記載内容
甲第5号証(最新DTP/PDF標準テキスト 『日経BP社』1999年7月19日発行)の第1頁下4〜8行に、「DTPとは、机上での作業状態をモニタ上に擬似的に作り上げた作業環境(Macintosh のOSではこれをDesk Topと呼んだ)上で、パソコンを使って出版物の制作を行うことをいう。ここでいう出版物の制作とは単に画像処理ソフトやページレイアウトソフトを使って紙のドキュメントを得るために制作することだけを指すのではなく、情報を加工して編集、デザインする行為全般を含めている。」との記載がある。また、同号証第3ページには「DTPの生い立ち」についての記載があり、5つの枠の下にある記載の第6〜8行に、「1990年、パソコン用画像処理ソフトAdobe Photoshop(Adobe Systems社)が登場したことで、DTPの守備範囲にフルカラー画像処理が加わり、現在では、フルカラーを含めあらゆる印刷物をDTPで作成できるようになっている。」と記載されている。また、同号証第5ページの図には、Adobe Photoshopが1990年に発表された旨記載されている。
8.対比、判断
8.1 本件請求項1に係る発明と甲第1号証及び甲第2号証との対比
甲第1号証の、「フイルム原版」、「画像情報」、「記憶機能」、「前回の操作で抽出し、記憶機能に記憶しておいた画像信号と比較」及び「警告マークを印し相違点の存在を示す」ことが、それぞれ、本件請求項1に係る発明の、「印刷物」、「編集レイアウトデータ」、「画像データを保存する保存手段」、「保存手段に保存された旧バージョンのの画像データとを比較」及び「データ比較手段により検出された差異点を表示する表示」に相当することを考慮すると、本件請求項1に係る発明と甲第1号証記載の発明は、「印刷物を構成する各部品を編集、レイアウトして得た編集レイアウトデータを画像データに変換して出力する製版システムにおいて、
修正前の旧バージョンの画像データを保存する保存手段、
修正後の新バージョンの画像データと、前記保存手段に保存された旧バージョンの画像データとを比較することにより、その差異点を検出するデータ比較手段、および前記データ比較手段により検出された差異点を表示する表示手段を備える、デジタル検版装置。」において一致し、本件請求項1に係る発明が、「編集レイアウトデータをRIP展開することにより、ビットマップ形式の画像データに変換して出力する製版システムにおいて、電子的に検版作業を行う装置であって、
修正前の旧バージョンのRIP展開後の画像データを保存する保存手段、
修正後の新バージョンのRIP展開後の画像データと、前記保存手段に保存された旧バージョンのRIP展開後の画像データとを比較することにより、その差異点を検出するデータ比較手段、および前記データ比較手段により検出された差異点を表示する」構成を有するのに対し、甲第1号証記載の発明は、「編集レイアウトデータをRIP展開する」構成ではなく、また、「修正前の旧バージョンのRIP展開後の画像データを保存する保存手段、
修正後の新バージョンのRIP展開後の画像データと、前記保存手段に保存された旧バージョンのRIP展開後の画像データとを比較する」(以下、「本件請求項1に係る発明の特徴的構成」という。)構成ではない点で両者は相違する。
両者の相違に関して、請求人は、「甲第1号証の発明には、(A1)、(B1)及び(C1)における「RIP展開」の構成が無い点が第1の相違点として挙げられる。
また、第2に、本件特許の請求項1に係る発明は、フルデジタルであり、紙等のハードコピーを中間に介在させないのに対し、甲第1号証の検版装置は、紙等のハードコピー上の編集レイアウトデータを光学的手段で読み取っている点で相違している。」(4.1 請求人中央無線株式会社が主張する無効理由の要旨 (3)-3 本件特許発明と証拠に記載された発明との対比)と主張し、本件請求項1に係る発明は、「甲第1号証に甲第2号証のRIP展開と、2つの編集画像データの比較とを単に付加すれば、中間に一切のハードコピーが介在する必要もなく、新旧画像データの重ね合わせも簡単にできるので、本件請求項1に係る特許発明と全く同じものとなる。以上から、本件の請求項1記載の特許発明は甲第1号証と甲第2号証とを単に寄せ集めて成されたものである」(上記4.1の(3)-3-2)と主張する。
上記請求人の主張を検討すると、甲第2号証は、画像比較機能を持つ画像処理ソフトの取扱説明書であって、甲第2号証の技術は汎用の画像処理ソフトであり、種々の用途に利用することは可能であるが、それぞれの機能をどのように利用するかはユーザの創意工夫に委ねられているものであり、特定の用途(特に検版)への利用態様を具体的に説明しているものではない。
甲第2号証には、第1ページ左欄、第3行から第6行に、「Adobe Photoshopは、写真のレタッチや画像編集、カラーペイントを行うことを目的にデザインされた画期的なソフトウェアです。」との記載、同欄の第10行から第19行に、このソフトウェアの用途について「アートディレクターや電子出版業者がカラー画像の合成や編集を行う場合、写真家が校正刷りのレタッチを行う場合、…その他にも印刷業者や…ご利用いただけます。」との記載、第11ページ左欄第2行から第4行に、「Adobe Photoshopで効率的に作業を行うための秘訣は、ファイルのサイズを最小限に抑えることです。ファイルが小さいとすべての走査が速くなります。」との記載、同欄第15行から第17行に、
「解像度ファイルの作成
時間とスペースを節約する1つの方法は、72dpiバージョンのファイルを作成することです。」との記載、第12ページ左欄第10行から第15行に、「文字が含まれているAdobe IllustratorファイルをAdobe Photoshop内で開いたり配置したときに、なめらかで読みやすい文字を表示するためには、Adobe Type Manager(ATM)3.5Jが必要です。ATMは、Adobe Type 1アウトラインフオントを使用してモニタ表示やプリンタ出力のためのビットマップフオントを生成します。」との記載、第27ページ左欄第11行から第13行に、「Adobe Photoshopで、写真又はスライドをデジタイズされたイメージに変換するプロセスを制御することができます。」との記載、第30ページ右欄第10行から第14行に、「EPSファイルをAdobe Photoshopの書類に配置するには:
1 ラスタライズされた画像の質を向上させるには、環境設定ダイアログボックスの[ポストスクリプトデータをアンチエイリアシングして配置]オプションを指定します。」と記載されている。
(3)‐2‐2‐7:同号証の第31ページ左欄第12行から第19行に、「Adobe Illustratorの画像を開いたり配置したりする際に、Adobe Photoshopは画像をラスタライズします。ラスタライズによって、Adobe Illustratorで描画したべクタ画像の数学的に定義された線や曲線は、Adobe Photoshopのグリッド上に表示される点(又はピクセル)に変換されます。Adobe Illustratorの画像をAdobe Photoshopの書類に取り込むには、前述の「EPS ファイルをAdobe Photoshopの書類に配置するには」の手順を参照してください。」との記載、第31ページ左欄第20行から第29行には、「Adobe Illustratorの画像をAdobe Photoshopの書類として開くには:
1 ファイルメニューから「開く...」を選択し、…
2 ファイルの寸法、解像度及びモードを指示します。ファイルサイズを固定するには、[縦横比を固定]オプションを指定します。
3 [アンチエイリアシング]オプションを指定すると、開くときにラスタライズされている画質が向上します。」との記載、第53ページ左欄第1行から第3行には、「Adobe Photoshopでは、文字ツールを使用してビットマップタイプの文字を画像に入力できます。」との記載、第101ページ左欄第14行から第16行には、「画像のサイズと解像度について画像の解像度は、特定のファイル内の情報の密度を表し、1インチあたりのピクセル数(ppi)で表現されます。」との記載、同欄第30行から第33行には、「画像の解像度の調整画像の解像度を変更することをリサンプリングといいます。画像をスキャンした後で解像度を変更したい場合は、」との記載、同ページ右欄第16行から第18行には、「リサンプルダウン(または画像の解像度を下げる)と、プログラムは希望の解像度を達成するために画像から情報を削除します。」との記載、第107ページ左欄第1行から第5行に、「「画像解像度...」コマンドの使用方法「画像解像度...」コマンドを使用すると、像の解像度を制御しながら画像のサイズを変更することができます。画像の解像度を変更すると、画像に含まれる情報量を変更することになります。」との記載、第132ページ左欄第12行から第17行には、「「複写...」コマンド
演算サブメニューの「複写...」コマンドは、チャンネルをコピーして、他の新しいチャンネルに入れます。「複写...」コマンドは、編集を行うためにあるチャンネルを他のチャンネルにコピーしたり、マスクとして使用するためにファイル間でチャンネルをコピーする場合などに便利です。」と記載され、また同ページ右欄第1行から第4行には、「「比較(明)...」および「比較(暗)...」コマンド
2つのチャンネルの対応するピクセルの明るさを比較して、明るい方、又は暗い方のピクセルのコピーを結果チャンネルに自動的に入れることができます。」との記載及び同ページ右欄第12行から第24行には、「「差の絶対値...」コマンド
演算サブメニューの「差の絶対値...」コマンドは、画像1で指定したチャンネルの対応するピクセルの明るさの値から、画像2で指定したチャンネルの対応するピクセルの明るさの値を引きます。差の明るさの絶対値(結果が負の値の場合、符号を反転し正の値として扱います)に相当する明るさのピクセルが結果チャンネルに入ります。
「差の絶対値...」コマンドは、同じ背景を持つ2つの画像フレームの違いを見つける場合に便利です。たとえば、「差の絶対値...」コマンドを使用して、ビデオ画像からとった同じ背景を持ち前景の違う2つの画像フレームを比較した場合、結果チャンネルの明るい部分がフレーム内で違いのあった部分を表わします。」との記載がされているが、上記記載は、対比すべき画像をRIP展開して比較することに留まり、検版作業で通常行われるように、画像の対比を繰り返し、画像を修正することについては、記載又は当該記載の示唆がされていない。
上記画像の対比を繰り返し、画像を修正することは、検版作業に伴うものであって、甲第2号証に開示されている技術から自明に導き出せる程度の事項とはいえない。
してみると、本件請求項1に係る発明は、甲第1号証と甲第2号証を単に寄せ集めたものではなく、甲第2号証記載の発明の画像比較の構成に、画像の対比を繰り返すという構成を加え、甲第1号証記載の検版装置にこれらの構成を適用したものであって、上記本件請求項1に係る発明の特徴的構成を有することにより、「イ)画像読取りを必要としないため、位置決め誤差や画像ノイズなどの外乱の影響がなく、正確な検版が可能である、
ロ)検版の目的で各修正段階での製版用フィルムなどを作成・保存する必要がない、
ハ)画像読取りを必要としないため、原版フィルムを使用しないCTP製版方式などでも検版が可能である」(6.2.1.1の(2-3))という、甲第1号証記載の発明と甲第2号証記載の技術手段を合わせてみても得られない効果を奏するに至ったものであるから、請求人が主張するように、「本件請求項1に係る発明は、甲第1号証に甲第2号証のRIP展開と、2つの編集画像データの比較とを単に付加すれば、中間に一切のハードコピーが介在する必要もなく、新旧画像データの重ね合わせも簡単にできるので、本件請求項1に係る特許発明と全く同じものとなる。」とはいえない。
そうすると、本件請求項1に係る発明が、甲第1号証と甲第2号証に基づいて容易に発明できたとすることができない。
なお、口頭審理において、請求人は、甲第5号証を提出し、甲第5号証には、上記7.5が記載されているから、「甲第5号証の記載から、甲第2号証のAdobe Photoshopが、DTPに使用される画像処理ソフトであることが分かる。したがって、甲第2号証は、検版装置と非常に密接な関係にある技術分野であり、検版装置の当業者であれば、甲第1号証に甲第2号証を付加することは容易にできたものである」(上記6.1.1)と主張するが、甲第5号証は、1999年7月19日に発行されたものであり、本件出願時点で当業者が甲第5号証の記載事項を認識していたことを証明するものではないから、請求人の上記主張を採用することはできない。
8.2 本件請求項1に係る発明と甲第1号証及び甲第4号証との対比
請求人は、本件請求項1に係る発明は、「本件請求項1に係る特許発明は、甲第1号証に甲第4号証を単に付加することによってなされたものである」(上記4.1の(3)-3-3)と主張する。
甲第4号証は、半導体基板上にパターンを転写するための位相シフトマスクを検査するにあたって、原設計パターンの画像データ(以下、「理想画像」という。)と、実際の製品の設計に利用されるパターンの画像データとをデジタル比較するものである。
この甲第4号証の技術は、理想画像の存在が必須であるが、あらかじめ理想画像に相当するものが前提として存在しない検版の分野に、この甲第4号証の技術を適用したとき、修正した画像と修正前の画像を比較すると、修正前の画像(理想画像に相当する)に再修正することになるから、実際上検版という作業はできず、検版作業と、甲第4号証の作業は矛盾している。
従って、甲第4号証の手段を甲第1号証に適用するには適用阻害要因がある。
また、この甲第4号証は画像処理技術を利用してはいるものの、半導体製造の分野での事情に応じた技術であるから、製版分野の当業者が当然に知得すべき文献には相当しない。
また、本件請求項1に係る発明は、「イ)画像読取りを必要としないため、位置決め誤差や画像ノイズなどの外乱の影響がなく、正確な検版が可能である、
ロ)検版の目的で各修正段階での製版用フィルムなどを作成・保存する必要がない、
ハ)画像読取りを必要としないため、原版フィルムを使用しないCTP製版方式などでも検版が可能である」(6.2.1.1の(2-3))という、甲第1号証記載の発明と甲第4号証記載の技術手段を合わせてみても得られない効果を有する。
従って、構成比較するまでもなく、本件請求項1に係る発明は、甲第1号証と甲第4号証に基づいて容易に発明できたとすることができない。
また、本件請求項1に係る発明が有する、上記6.2.1.1の(2-3)に記載された効果についても、甲第1号証及び甲第4号証から導くことができない。
なお、口頭審理において、請求人は、「検版においても理想画像の存在する場合がある」とし、本件請求項1に係る発明が、甲第1号証と甲第4号証に基づいて容易に発明できたと主張するが、理想画像に相当するものが前提として存在しない検版の分野には、上記主張を採用することができない。
8.3 本件請求項2及び3に係る発明と甲第1号証〜甲第4号証との対比
請求項1に係る発明を引用し、請求項1に係る発明さらに限定した請求項2及び3に係る発明は、上記8.1、8.2と同様に甲第1〜5号証に基づいて容易に発明できたものとすることができない。
9.結論
以上のとおりであるから、請求人が甲第1〜5号証に基づいて主張する無効理由及び提出した証拠方法によっては、本件特許を無効とすることができない。
審判に関する費用については、特許法第169条第2項の規定で準用する民事訴訟法第61条の規定により、請求人が負担すべきものとする。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2001-06-27 
結審通知日 2001-07-03 
審決日 2001-07-17 
出願番号 特願平6-9352
審決分類 P 1 112・ 121- Y (G03F)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 山鹿 勇次郎  
特許庁審判長 高橋 美実
特許庁審判官 辻 徹二
森 正幸
登録日 1998-08-14 
登録番号 特許第2816091号(P2816091)
発明の名称 デジタル検版装置  
復代理人 高垣 泰志  
代理人 中倉 和彦  
代理人 有田 貴弘  
復代理人 中島 了  
代理人 吉田 茂明  
代理人 吉竹 英俊  

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