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審決分類 審判 全部無効 4項(5項) 請求の範囲の記載不備 無効としない C08J
審判 全部無効 特36 条4項詳細な説明の記載不備 無効としない C08J
審判 全部無効 2項進歩性 無効としない C08J
審判 全部無効 1項3号刊行物記載 無効としない C08J
管理番号 1044400
審判番号 審判1999-35642  
総通号数 22 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 1988-09-14 
種別 無効の審決 
審判請求日 1999-11-05 
確定日 2001-09-03 
事件の表示 上記当事者間の特許第2573595号発明「ポリイミド膜」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。 
理由 1.手続の経緯
本件特許第2573595号は、昭和62年3月9日に出願された特願昭62-53592号の出願に係り、平成8年10月24日に設定の登録がなされたものである。
2.本件発明の要旨
本件発明の要旨は、設定登録時の明細書の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1(独立形式請求項)に記載された次のとおりのものと認める。
「一般式(4):



[式中、R1は、



で示される基を主成分とする4価の芳香族基である。]で表わされる反復単位と一般式(2):



[式中、R1は前に定義した通りである。]で表わされる反復単位とを有するか、又は一般式(4)で表わされる反復単位と一般式 (3):



[ 式中、R1は前に定義した通りであり、R3は1価の有機基である。]で表わされる反復単位とを有し、膜面内の全方向において複屈折率(Δn)が0.13以上の値を持つことを特徴とするポリイミド膜。」
3.請求人の主張の概要
請求人は、下記甲第1号証〜甲第9号証を提示し、本件発明は本件の出願前国内もしくは外国において頒布された甲第1号証又は甲第2号証に記載された発明であるから特許法第29条第1項第3号の規定により特許を受けることができないものであること(無効理由I)、本件発明は本件の出願前国内もしくは外国において頒布された甲第1号証〜甲第6号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであること(無効理由II)、そして本件明細書には特許法(昭和60年法律第41号による改正後のもの。)第36条第3、4項の規定を満足しない記載の不備があること(無効理由III)、を理由に、本件特許は無効とされるべきである旨、主張している。


甲第1号証:特開昭60-210629号公報
甲第2号証:カナダ国特許第849101号明細書
甲第3号証:「Journal of Applied Polymer Science」 Vol.31(1986)
p.101-110
甲第4号証:「繊維と工業」21巻、9S号(1965) 235〜243頁
甲第5号証:Proceedings of Second International Conference of Poly-
imides (1985) p.429-510
甲第6号証:カナダ国特許第844495号明細書
甲第7号証:「Journal of Applied Polymer Science」 Vol.26 (1981)
p.1383-1412
甲第8号証:東レ・デュポン株式会社カプトン開発室副部員沢崎孔一の実験 成績書
甲第9号証:東レ・デュポン株式会社カプトン生産部技術課主任部員久保道 弘の実験成績書

4.請求人の主張する無効理由についての判断
(1)無効理由I(新規性の欠如)について
(i)甲第1号証には以下の事項が記載されている。
(イ)「4,4'-ジアミノジフェニルエーテルとp-フェニレンジアミンとのモル比が90:10〜10:90からなるジアミン成分とピロメリット酸二無水物とを非プロトン性極性溶媒中、-10℃〜100℃で反応させて得たポリアミド酸ワニスを成形した後イミド化することを特徴とするポリイミド成形物の製造法。」(特許請求の範囲第1項)
(ロ)「従来ポリイミド成形物に用いるポリイミドとしては4,4'-ジアミノジフェニルエーテルとピロメリット酸二無水物とからなる縮合物が知られている。しかし、この縮合物は耐熱性の一つの目安となるガラス転移温度が400℃以下と低く、また引張強度もたかだか17kg/mm2前後と低いものである。・・・本発明は耐熱性及び強度にすぐれたポリイミド成形物の製造法を提供することを目的とする。」(1頁右下欄5〜16行)
(ハ)「上記方法によって得たポリアミド酸ワニスは、流延によってフィルム化したり、導体をワニス中に浸漬したり、あるいは基板上に塗布したりして成形した後、100℃以上に加熱するかあるいは脱水剤、例えば無水酢酸-ピリジンで処理することによってイミド化し、耐熱性強度及び絶縁性に優れたポリイミド成形物とする。」(2頁左下欄7〜13行)
(ニ)「実施例1 温度計、攪拌機および塩化カルシウム管をつけた300ml4つ口フラスコに4,4'-ジアミノジフェニルエーテル(以下「DDE」と称す)17.0g、p-フェニレンジアミン(以下PPDと略す)1.62gとN,N-ジメチルアセトアミド229.1gを入れ攪拌し溶解する。この溶液を10℃前後に保ちながらピロメリット酸二無水物(以下DMDAと略す)21.8gを徐々に添加した後3時間攪拌して還元粘度2.34dl/g(溶媒ジメチルアセトアミド、濃度0.1g/dl、温度25.0℃)のポリアミド酸ワニスを得た。このワニスをガラス板上に流延した後90℃で30分間乾燥してポリアミド酸からなる丈夫なフィルムを得た。フィルムをガラス板上より剥離し金枠に固定し200℃10分更に425℃で10分加熱してポリイミドフィルムを得た。得られたポリイミドフィルムの引張り強さおよび伸び率を測定したところそれぞれ20.2kg/mm2,72%であった。ガラス転移温度は407℃であり、400℃で30分間加熱した後の収縮率は0.3%で、吸湿率(25℃、75%RHにおける飽和吸湿率)は3.0%であった。また耐屈曲性は15000回以上であった。」(2頁左下欄17行〜右下欄末行)
(ii)上記のとおり、甲第1号証には、耐熱性及び強度の優れたポリイミド成形物の製造法として、特定された比率の4,4'-ジアミノジフェニルエーテル及びp-フェニレンジアミンの2種類のジアミンをピロメリット酸二無水物と縮合させ次いでイミド化する方法が記載され、ポリアミド酸ワニスからポリイミド成形物にする方法に関しては、「流延によってフィルム化したり、導体をワニス中に浸漬したり、あるいは基板上に塗布したりして成形した後、100℃以上に加熱するかあるいは脱水剤、例えば無水酢酸ーピリジンで処理することによってイミド化し、耐熱性強度及び絶縁性に優れたポリイミド成形物とする。」として種々の方法が採用されることは記載されているが、得られたポリイミド成形物について、その複屈折率の数値はもとより、これと熱的寸法安定性との関係に着目し、これを一定値以上とすることに関しては全く記載されておらず、該ポリイミド成形物の製造法を具体的に示した実施例を検討しても、本件発明のそれと実質的に同一であると認められるものはなく、本件発明で規定するポリイミド膜が甲第1号証には既に記載されていたと認めるに足りる根拠を見出すことはできない。
したがつて、本件発明は甲第1号証に記載された発明であるとすることはできない。
(iii)甲第2号証には以下の事項が記載されている。
(イ)「この発明は共重合ポリアミド酸及び共重合ポリイミドに関する。さらに特定的には本発明は少なくとも1種の芳香族テトラカルボン酸と2種の必須芳香族ジアミンとの新規な共重合ポリアミド酸及び新規な共重合ポリイミドを指向する。本発明によって、対応する共重合ポリアミド酸及び共重合ポリイミドを製造するために、(1)メタフェニレンジアミン又はパラフェニレンジアミンと(2)ビス(4-アミノフェニル)エーテル又はビス(4-アミノフェニル)サルファイドからなる2種の必須ジアミンと少なくとも1種のピロメリット酸二無水物等の芳香族二無水物とを組み合わせると、優れた特性を有する生成物が得られることが発見された。」(1頁1〜12行)
(ロ)「共重合ポリアミド酸は、公知の、例えば約50℃以上の温度で加熱処理をしたり、無水酢酸単独、或はピリジンのような3級アミンと組み合わせた脱水剤を用いた化学処理をしたり、或いは化学処理と加熱処理を組み合わせた方法で対応する共重合ポリイミドに容易に転換できる。」(11頁16〜21行)
(ハ)「実施例12 メタフェニレンジアミンとビス(4-アミノフェニルエーテルとの40/60(モル比)混合物をN,N-ジメチルアセトアミドに約9重量部となるように溶解し、約10〜15℃まで冷却した。この温度を維持しながら、メタフェニレンジアミンとビス(4-アミノフェニル)エーテルとの合計量を基準として約0.98モルのピロメリット酸二無水物を乾燥状態でゆっくりと添加した。次いで約10重量部となるようにN,N'-ジメチルアセトアミドに溶解した約0.02モルのピロメリット酸二無水物を添加し、固有粘度が2より大きい共重合ポリアミド酸を製造した。この溶液に無水酢酸とベータピコリンの、ポリマーのモル当たりそれぞれ4.4モル及び1.9モルの有効な混合物を連続的に添加した。この溶液を120℃に加熱したドラムの上に連続的にキャストした。強くて自己支持性のゲルフィルムが得られた。これを輻射ヒーターで加熱され内部の空気温度が約250℃のテンターフレーム乾燥機で乾燥した。得られたフィルムは次の特性を持っていた。
モジュラス・・・ 引張強度・・・ 伸び率・・・ 衝撃強度・・・
引裂強度・・・」(17頁1〜23行)
(ニ)実施例19 ビス(4-アミノフェニル)エーテル(16.0g,0.08モル)とパラフェニレンジアミン(2.16g,0.02モル)とを240mlのN,N-ジメチルアセトアミドに溶解し、ピロメリット酸二無水物(21.8g,0.10モル)を徐々に加えた。固形分15%の粘稠な溶液を更に5分間攪拌した。固有粘度1.98(0.5%濃度のN,N-ジメチルアセトアミド溶液、30℃)の共重合ポリアミド酸が得られた。上記の固形分15%の溶液15gに無水酢酸1.8gとイソキノリン0.3gを添加した。共重合ポリアミド酸のフィルムをキャストし、100℃で1分間加熱した。続いて300℃で30分間加熱して乾燥し共重合ポリイミドに転化した。物性は以下のとおりであった。
モジュラス・・・ 引張強度・・・ 伸び率・・・ 衝撃強度・・・」(22頁25行〜23頁10行)
(iv)甲第2号証には、上記のとおり、(1)メタフェニレンジアミン又はパラフェニレンジアミンと(2)ビス(4-アミノフェニル)エーテル又はビス(4-アミノフェニル)サルファイドからなる2種の必須ジアミンと少なくとも1種のピロメリット酸二無水物等の芳香族二無水物とを組み合わせると優れた特性を有する生成物が得られることか記載されているが、得られたポリイミド成形物についてその複屈折率の数値はもとより、これと熱的寸法安定性との関係に着目し、これを一定値以上とすることに関しては全く記載されておらず、該ポリアミド成形物の具体的製造法を示した実施例を検討しても、本件発明のそれと実質上同一といえるものはなく、本件発明で規定するポリイミド膜が甲第2号証には既に記載されていたと認めるに足りる根拠を見出すことはできない。
したがって、本件発明は甲第2号証に記載されていた発明であるとすることはできない。
(v)請求人は、本件明細書には、本件発明のポリイミド膜の製造法について、ポリアミド酸溶液は公知のいかなる共重合方法で製造したものでも用いられること、ポリイミド膜はポリアミド酸溶液に脂肪酸無水物、芳香族酸無水物等の脱水剤と必要に応じ触媒量のピリジン、イソキノリン等の第3級アミンを加えて脱水する化学的方法で脱水閉環する方法、或は脱水剤を加えず熱的に脱水閉環する方法を採用できること、また、製膜は、ポリアミド酸溶液を支持体上に流延又は塗布し膜状となし、150℃以下の温度で1〜30分間乾燥し、自己支持膜を作り、この膜を支持体から引き剥がし固定枠に固定して100〜500℃まで徐々に加熱し、熱的又は化学的に脱水閉環する方法、或はポリアミド酸溶液を支持体上に流延又は塗布し、約100〜500℃まで徐々に加熱し、そのまま支持体上で熱的又は化学的に脱水閉環する方法で行うことが記載され(本件特許公報7欄)、甲第1号証及び甲第2号証に具体的に記載されている方法は上記の本件明細書に記載の方法に包含されるから、本件のポリイミド膜はこれら刊行物に記載されたものであると主張している。
しかしながら、本件発明で規定する特定のポリイミド膜を得るには、例えばその実施例に具体的に示されている如き一定の工程の連結が必要と解され、上記本件明細書に記載の手段を量的検討を加えることなく単に個別に選択して常に目的とするものが得られるとは認められないのであるから、かかる請求人の主張は採用の限りでない。
(vi)以上、本件発明が甲第1号証又は甲第2号証に記載されていた発明であると認めることはできない。
(2)無効理由II(進歩性の欠如)について
(i)各刊行物の記載事項
(イ)甲第3号証には、「種々の芳香族ポリイミドの熱膨張挙動」と題して記載され、「ポリイミドは、優れた耐熱性と強靱性により高性能プラスチックと認められてきた。・・・著者はポリイミドの化学構造と種々の性質、すなわちイミド化反応性、吸水量、熱分解速度などとの関係を研究してきた。しかしながら、ポリイミドの熱膨張特性は余り注目されてこなかった。事実、長い間、ポリイミドを含めて、ポリマーは、金属やセラミックに比し高い熱膨張係数を持つと信じられてきた。この研究において、著者はある種の芳香族ポリイミドは非常に低い熱膨張率を持つことを示す。」(101頁17〜33行)、「熱膨張係数 5mm幅、65mm長さ(チャック間)、厚さ20〜100μmのフィルムをサンプルとして用いた。サンプルを熱機械分析装置(真空理工社製、・・)にセットし、空気中5℃/分の条件で長さの変化を測定した。熱膨張係数は温度依存性があるので、50〜250℃の間の平均値を代表値として使用した。」(102頁表の下10〜16行)、 「イミド化するときに、フィルムの寸法を固定することによって熱膨張係数が小さくなり、また異方性になるのは棒状のポリマー分子の配列によるものと考えられた。固定なし加熱の場合は、向きは不規則であった。これに対し、固定した場合は、加熱による収縮が規制された方向に配向した。かくして、一方向固定加熱フィルムでは規制された方向(UFX-X)の熱膨張が抑えられて熱膨張係数が小さくなり、その規制された方向と直角方向(UFX-Y)の熱膨張係数は小さくならなかった。二方向固定加熱フィルムでは、棒状のポリマー分子がフィルムの平面内で配向すると考えられた。このようにしてフィルムの平面方向の熱膨張係数は小さくなった。そして、フィルムの垂直方向の熱膨張係数はUFX-Y方向と同様に大きいと考えられる。」(109頁5〜18行)等の記載がなされている。
(ロ)甲第4号証には、「結晶性高分子の結晶および非結晶相の配向とその評価 III」と題して記載され、「複屈折は屈折率の異方性に基づく二重屈折である。」と説明され、図44〜図47には、低密度ポリエチレン、アイソタクチックポリプロピレン、アタクチックポリビニルアルコール、ポリエチレンテレフタレートの各ポリマーについて延伸と複屈折との関係が示され、延伸倍率を高めると複屈折が大きくなることが示されている。
(ハ)甲第5号証には、「低熱膨張性ポリイミドの化学構造及び特性」と題して記載され、「種々の芳香族ポリイミドの熱膨張係数を表1に示す。この表中で四角に囲んだ数値は熱膨張係数が2×10-5K-1以下のものを示す。」(495頁3〜5行)、「共重合体及びポリアミック酸をブレンドして得たポリイミドの熱膨張係数を図3に示す。低い熱膨張係数を持つ一方のポリイミドはp-PDAとs-BPDAとの組合せから得られた。高い数値を持つ一方はDDEとs-BPDAとの組合せから得られた。高い熱膨張係数のポリイミドの重量比率が高くなる程、熱膨張係数が高くなる。熱膨張係数とモノマー比とは比例関係にあるように見えた。ポリアミック酸をブレンドして得たポリイミドの方が共重合体ポリイミドよりも小さな熱膨張係数を持つように見える。」(497頁8〜17行)と記載されている。
(ニ)甲第6号証には、「配向したポリイミドフィルム」に関する発明が記載され、「これらの操作には一般的な装置が使用できる。フィルムはテンターフレーム装置に固定、あるいは延伸でき、バッチ式でも連続式でもよく、また一方向延伸でも二方向延伸でもよく、フィルムを把持するのに様々な手段が使用できる。ピン、クリップ、クランプ、及びロールの種々のタイプが含まれる。延伸は多くの場合、機械方向にフィルムを引っ張り、異なる速度で運転されるニップロールと幅方向にフィルムを引っ張るある種のテンターフレームによって行われる連続的な操作である。」(31頁1〜11行)と記載されている。
(ii)進歩性の有無についての判断
甲第1号証及び甲第2号証には、上記で示したとおり、2種のジアミンを併用してポリイミド膜を形成することは記載されているが、得られたポリイミド膜についてその複屈折率に関する記載はなく、その実施例をみても本件発明におけるそれと一致するものはなく、本件発明で規定するポリイミド膜が既に記載されていたと認めることはできない。
甲第3号証には、芳香族ポリイミドの熱膨張係数について記載され、イミド化工程において、固定することにより、加熱収縮が規制され、その結果配向が起こること、二方向固定によりフィルムの平面内で配向すると考えられ、このようにして熱膨張係数は小さくなったとして、イミド化の際の固定方法により熱膨張係数を小さくすることが記載されているが、複屈折率と熱膨張係数との関係については記載がなく、まして複屈折率値を特定の数値以上
とすることの具体的手段については全く記載されていない。
甲第4号証は、「結晶性高分子の結晶および非結晶相の配向とその評価 III」と題する論文で、そこには、複屈折による非結晶配向の評価法が記載され、延伸倍率を高めると複屈折率は増大することが記載されているが、ポリイミドについての記載はなく、本件の実施例で採用されている配向度を向上させる手段が記載されている訳でもない。
甲第5号証には、種々の芳香族ポリイミドについて、熱膨張係数が記載され、低い熱膨張係数を持つポリイミドはp-PDA(注:493頁にp-フェニレンジアミンであると記載されている。)とs-BPDA(注:494頁に3,3',4,4'-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物であると記載されている。)の組合せから得られること、モノマー比と熱膨張係数には直線的関係があることの記載があり、その根拠として示された共重合体にp-PDAとDDE(4,4'-ジアミノジフェニルエーテル)をジアミン成分とするものが記載されているが、複屈折率との関係は全く記載されていない。
甲第6号証には、ポリイミドの延伸操作が記載されているが、それと複屈折率との関係は全く記載されていない。
以上、甲第3号証〜甲第6号証には、延伸、熱膨張係数、複屈折率等について個別に記載されてはいるものの、ポリイミド膜において、特定の複屈折率を得るための手段あるいはその効果といった記載はなく、これら記載を甲第1号証及び甲第2号証の記載に併せ検討しても、これから本件発明が当業者の容易に想到されるものとすることはできない。
請求人は、甲第2号証記載の実施例12に順じて実際にポリイミドフィルムを作成した実験報告書(甲第8号証)及び甲第2号証の実施例12および甲第6号証記載の延伸方法に準じて実際にポリイミドフィルムを作成した実験報告書(甲第9号証)を提示し、これらでは、線膨張係数はそれぞれ1.7×10-5/℃、1.6×10-5/℃、及び1.6×10-5/℃、1.4×10-5/℃であったと主張している。
しかし、甲第8号証の追試では、m-フェニレンジアミンに代えてp-フェニレンジアミンを用いていること、甲第9号証の追試では、このモノマーの変更に加えて、脱水剤と脱水触媒の量を変更していることから、いずれも同号証実施例12の忠実な追試結果とは認められず、これらは、本件発明の提示を受けた、いわば目的を提示された上でなされたものといわざるを得ず、この結果により先の認定が左右されるものでもない。
以上、甲第8号証及び甲第9号証の実験報告書を参酌しても、本件発明が甲第1号証〜甲第6号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとすることはできない。
(3)無効理由III(明細書の記載不備)について
(i)請求人は、本件明細書に関し、下記の点で記載不備であることを主張している。
(イ)甲第7号証によれば、フィルムの複屈折率は主配向方向(Z方向)、主配向方向と直角な方向(Y方向)及び厚さ方向(X方向)の3方向について測定された屈折率Nz、Ny,Nxによって導き出される、Δzy=Nz-Ny、Δzx=Nz-Nx、Δyx=Ny-Nxの3つで表される。本件明細書でいう「膜面内の全方向において複屈折率(Δn)」は、上記通常の3つの複屈折率の全てを指すものと解されるが、文言どおりに膜面内に沿った面の全方向の複屈折率を指すものとも解され、不明確である。
(ロ)本件明細書には、複屈折率の測定方法について刊行物2つを挙げているが、フィルムから試料を採取する方法の具体的記載がなく、本件発明でいう「膜面内の全方向において複屈折率(Δn)」を測定することができない。
(ii)よって、以下これらについて検討すると、
(イ)について
フイルムについての複屈折率とは一般論としては、甲第7号証にも記載されているとおり、フィルムの延伸方向、これとフィルム面に平行で直交する方向、及び厚み方向の3方向について各屈折率の差をいうものであることは請求人の主張するとおりであると認められる。
ただし、この場合、「膜面内の全方向において複屈折率(Δn)が0.13以上」となることとは相容れないものである。本件発明でいう「膜面内の全方向において複屈折率が0.13以上」ということは、膜面に平行な全方向において、これと直交する即ち厚さ方向との屈折率の差が0.13以上であると解するほかはないのである。
確かに、「膜面内の全方向において複屈折が・・以上」という表現は、わかりにくく、その点では適切さを若干欠くものといわざるを得ないが、さりとて、これが特許法(昭和60年法律第41号による改正後のもの、36条の規定に関する限り以下同じ。)第36条第4項に規定する要件を欠くほどの不備とすることもできない。
(ロ)について
本件明細書には、複屈折率の測定法に関しては、図書2冊を引用するだけで、特にその測定法の詳細については記載されていない。
請求人は、また、審判事件弁駁書(第2回)で、試料の取り方と光の当てる方向に関しては、2とおりの方法があり、その一方の方法である図2を採用したとしても試料の幅をどの程度にするかは不明であるとも主張している。
しかしながら、偏向顕微鏡によりフィルムの複屈折率を測定する方法自体は、被請求人が本件明細書で図書名を引用して記載しているとおり、既に確立されているものと認められ、いずれにしても、その目的が達成されない手段は採用されるはずもないのであるから(フィルム面内の面に平行な方向とこれと直交する厚さ方向との屈折率差を測定する場合、図1による測定は採用されるはずもなく、試料の幅についても測定値に誤差が出ないよう適宜設定されることも当然のことと認められる。)、これとて特許法第36条第3項に規定する不備とすることはできない、
以上示したとおり、本件明細書の記載は、十分適切とはいえないにしても、これをもって特許法第36条第3、4項に規定する要件を満足しない程の不備とすることは妥当でない。
5.むすび
以上のとおりであるから、請求人の提示する証拠及び主張する理由によっては、本件特許を無効とすることはできない。
そして、審判に関する費用に関しては、特許法第169条で準用する民事訴訟法第61条の規定により、請求人の負担とすべきである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2001-06-26 
結審通知日 2001-07-02 
審決日 2001-07-18 
出願番号 特願昭62-53592
審決分類 P 1 112・ 531- Y (C08J)
P 1 112・ 532- Y (C08J)
P 1 112・ 121- Y (C08J)
P 1 112・ 113- Y (C08J)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 増田 亮子  
特許庁審判長 柿崎 良男
特許庁審判官 小島 隆
佐野 整博
登録日 1996-10-24 
登録番号 特許第2573595号(P2573595)
発明の名称 ポリイミド膜  
代理人 田中 宏  
代理人 鈴江 武彦  
代理人 橋本 良郎  
代理人 樋口 榮四郎  

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