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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  E04B
管理番号 1044461
異議申立番号 異議1999-70796  
総通号数 22 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 1990-02-05 
種別 異議の決定 
異議申立日 1999-03-03 
確定日 2001-01-15 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第2794418号「広域のアクテイブ制御が可能な免震方法」の請求項1に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 訂正を認める。 特許第2794418号の請求項1に係る特許を維持する。 
理由 〔1〕手続の経緯
本件特許第2794418号の請求項1に係る発明についての出願は、昭和63年7月22日に出願され、平成10年6月26日に設定登録がなされ、その後、トキコ株式会社により特許異議の申立てがなされ、平成12年7月5日付けで取消理由通知をなしたところ、その指定期間内の平成12年9月1日に訂正請求がなされたものである。

〔2〕訂正請求について
1.訂正請求の内容
本件訂正請求の趣旨は、本件特許第2794418号の明細書を訂正請求書に添付した訂正明細書のとおり訂正することを求めるものであり、その訂正の内容は以下のとおりである。
a 明細書の特許請求の範囲の
「【請求項1】基盤上の構造物を振動方向へのスムーズな移動が可能に支承部で支持せしめること、構造物と基盤とにそれぞれの振動を検出する振動センサーを設置すること、基盤と構造物の間に構造物の振動を減衰させる減衰力可変ダンパーを設置すること、前記振動センサーで検出した振動の卓越周期、最大加速度、最大速度、最大変位などに最適な減衰応答出力信号をリアルタイムに演算処理し出力する制御装置を設置すること、制御装置の前記最適な減衰応答出力信号により前記減衰力可変ダンパーを制御し、ダンパー応答特性をリアルタイムに無段階、連続的に最適に変化させてアクテイブに免震することを特徴とする、広域のアクテイブ制御が可能な免震方法。」を、
「【請求項1】基盤上の構造物を振動方向へのスムーズな移動が可能に支承部で支持せしめること、構造物と基盤とにそれぞれの振動を検出する振動センサーを設置すること、基盤と構造物の間に構造物の振動を摩擦力の大きさをコントロールして減衰させる摩擦減衰力可変ダンパーを設置すること、前記振動センサーで検出した振動の卓越周期、最大加速度、最大速度、最大変位などに最適な減衰応答出力信号をリアルタイムに演算処理し出力する制御装置を設置すること、制御装置の前記最適な減衰応答出力信号により前記摩擦減衰力可変ダンパーを制御し、ダンパー応答特性をリアルタイムに無段階、連続的に最適に変化させてアクテイブに免震することを特徴とする、広域のアクテイブ制御が可能な免震方法。」と訂正する。
b 明細書4頁23行の「振動を減衰させる減衰力」を、「振動を摩擦力の大きさをコントロールして減衰させる摩擦減衰力」と訂正する。
c 同4頁28行の「前記減衰力」を、「前記摩擦減衰力」と訂正する。
d 同5頁8行の「減衰力可変ダンパー3を」を、「摩擦減衰力可変ダンパー10を」と訂正する。
e 同5頁12行と13行を削除する。
f 同5頁14行の「まず、」を、「次に、」と訂正する。
g 同6頁7行の「本実施例の」を、「上記の」と訂正する。
h 同6頁21行の「第2の実施例」を、「本発明の実施例」と訂正する。
i 同6頁26行の「上記第1実施例と同じ」を、「上記第1図の例と同じ」と訂正する。
j 同7頁10行を削除する。
k 同7頁23行目の「本実施例の場合にも」を、「この例の場合にも」と訂正する。
l 同8頁1行の「本実施例のように」を、「この例のように」と訂正する。
m 同8頁4行を削除する。
n 同8頁26行の「実施例の場合にも、」を、「例の場合にも、」と訂正する。
o 同9頁6行を削除する。
p 同9頁12行目の「減衰力可変ダンパー」を、「摩擦減衰力可変ダンパー」と訂正する。
q 同9頁20行の「第1図〜第5図は本発明に係る免震装置の異なる構成の実施例を」を、「第2図は本発明の免震方法の、第1図と第3〜第5図は他の免震方法の異なる実施形態を」と訂正する。

2.訂正の適否
(1)訂正の目的等について
上記訂正について検討すると、訂正aは、明細書の特許請求の範囲の請求項1に記載された「減衰力可変ダンパー」を、「摩擦力の大きさをコントロールして減衰させる摩擦減衰力可変ダンパー」に限定するものであって、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、また、b〜qの訂正は、上記特許請求の範囲の訂正に整合させて発明の詳細な説明の記載を訂正するものであって、明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。
そして、これらの訂正は、願書に添付した明細書の6頁22行〜7頁9行(本件特許公報5欄39行〜6欄11行)の記載、及び図面の第2図の記載に基づくものであって、願書に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内においてなされたものであり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
(2)独立特許要件について
ア.訂正明細書の請求項1に係る発明
訂正明細書の請求項1に係る発明(以下、「訂正発明」という。)は、訂正明細書の特許請求の範囲の請求項1に記載された次のとおりのものである。
「【請求項1】基盤上の構造物を振動方向へのスムーズな移動が可能に支承部で支持せしめること、構造物と基盤とにそれぞれの振動を検出する振動センサーを設置すること、基盤と構造物との間に構造物の振動を摩擦力の大きさをコントロールして減衰させる摩擦減衰力可変ダンパーを設置すること、前記振動センサーで検出した振動の卓越周期、最大加速度、最大速度、最大変位などに最適な減衰応答出力信号をリアルタイムに演算処理し出力する制御装置を設置すること、制御装置の前記最適な減衰応答出力信号により前記摩擦減衰力可変ダンパーを制御し、ダンパー応答特性をリアルタイムに無段階、連続的に最適に変化させてアクテイブに免震することを特徴とする、広域のアクテイブ制御が可能な免震方法。」
イ.引用刊行物の記載事項
当審で通知した取消理由で引用した刊行物1及び2の記載事項は、以下のとおりである。
刊行物1:特開昭62-88836号公報(特許異議申立人が提出した甲第2号証)
刊行物1には、機械装置などを地震などの振動から保護するための免震装置に関し、
「(7)は第1,第2の基盤(1),(2)間で、中心柱(4)の軸の回りに配置された支持体であり、第1の基盤(1)を第2の基盤(2)上に揺動自在に支持する。」(2頁左上欄4〜6行)、
「(6)は第1の基盤(1)と第2の基盤(2)の間に設置された従来と同様の目的で使用される流体ダンパ、(8)は流体ダンパ(6)の減衰力をバイパス回路(6a)によって調節可能なダンパバルブ、(9)は例えば地震時の第1の基盤(1)の許容振動の限界値に基き、免震装置の応答の制限を設定値として設定するためのリミット設定器、(10)は例えば免震装置の第1の基盤(1)の一軸方向の加速度を検出する加速度計(10a)と、第1と第2基盤(1),(2)の相対変位を検出するための変位計(10b)を備えた振動検出器、(11)は振動検出器(10)とリミット設定器(9)の信号を受け、両信号の比較によって、その結果を比較信号Pとして出力する比較器、(12)は比較器(11)からの比較信号Pを受けてダンパバルブ(8)の開度を制御するバルブ制御器である。」(2頁右下欄8行〜3頁左上欄2行)、
「この時の第1の基盤(1)に発生している加速度Asと第1と第2の基盤(1)、(2)の相対変位Bsはそれぞれ加速度計(10a)と変位計(10b)によって計測され、常に比較器(11)へ入力される。比較器(11)はリミット設定器(9)からの信号と、振動検出器(10)からの信号を比較し、その結果から例えば第1表に示す比較信号Pをバルブ制御器(12)に出力する。」(3頁左上欄15行〜右上欄3行)、
「以上の動作によって、第1の基盤(1)の加速度Asが大きくなりすぎたときには、流体ダンパ(6)の減衰力を少なくして免震効果を高めるように働き、逆に第1と第2の基盤(1),(2)の相対変位Bsが大きくなりすぎたときには流体ダンパ(6)の減衰力を大きくして免震効果を下げるように動作する。」(3頁左下欄3〜8行)、
「なお、上記実施例では、ダンパバルブ(8)を開、半開き、閉の3状態で制御しているが、減衰力が連続的に変化するように制御すれば、より高精度な免震装置が得られる。」(3頁右下欄13〜16行)
の記載がある。
そして、上記「ダンパバルブ(8)を…減衰力が連続的に変化するように制御すれば、より高精度な免震装置が得られる」との記載からみて、流体ダンパ6が減衰力可変ダンパーであること、及び前記免震装置が、中小の地震から大地震までの広い領域にわたって最適な免震効果を発揮するようにした制御が可能な免震装置であることは当業者にとって明らかであるから、以上の記載及び第1図〜第4図の記載からみて、刊行物1には、以下のような発明が記載されているものと認める。
「第2の基盤上の第1の基盤を振動方向へのスムーズな移動が可能に支持体7で支持せしめること、第1の基盤に振動を検出する振動検出器を設置すること、第2の基盤と第1の基盤の間に第1の基盤の振動を減衰させる減衰力可変ダンパーを設置すること、前記振動検出器で検出した振動、加速度、相対変位などに最適な比較信号をリアルタイムに演算処理し出力する比較器を設置すること、比較器の前記最適な比較信号により前記減衰力可変ダンパーを制御し、ダンパー応答特性をリアルタイムに無段階、連続的に最適に変化させて免震することを特徴とする、広域の制御が可能な免震方法」
刊行物2:武田寿一編、「構造物の免震・防振・制振」、第1版、1988年(昭和63年)5月1日、技報堂出版株式会社発行、第116〜118頁、及び第207〜209頁(同甲第1号証)
刊行物2には、構造物の免震・防振・制振方法に関し、
「地盤振動に対する検討が必要と判断される場合には,その地点の観測波形を入力波として応答計算する.…・関東ローム層の卓越周期は0.2秒前後である.同図よりわかることは,人間が振動を感じる量は点線で示すとおり右上がりの加速度軸でほぼ評価されるが,応答スペクトル曲線は表層地盤の卓越周期約0.2秒より長周期側において加速度が減少している.」(117頁19〜28行)
の記載がある。
ウ.対比・判断
訂正発明と刊行物1記載の発明とを対比すると、刊行物1記載の発明の「第1の基盤」、「第2の基盤」、「支持体」、「振動検出器」、及び「比較信号をリアルタイムに演算処理し出力する比較器」は、それぞれ訂正発明の「構造物」、「基盤」、「支承部」、「振動センサー」、及び「減衰応答出力信号をリアルタイムに演算処理し出力する制御装置」に対応する。また、刊行物1記載の発明の免震方法も、その構成からみて訂正発明と同様な、アクテイブに免震するアクテイブ制御が可能な免震方法であると認められるから、両者は、「基盤上の構造物を振動方向へのスムーズな移動が可能に支承部で支持せしめること、構造物に振動を検出する振動センサーを設置すること、基盤と構造物の間に構造物の振動を減衰させる減衰力可変ダンパーを設置すること、前記振動センサーで検出した振動、加速度、変位などに最適な減衰応答出力信号をリアルタイムに演算処理し出力する制御装置を設置すること、制御装置の前記最適な減衰応答出力信号により前記減衰力可変ダンパーを制御し、ダンパー応答特性をリアルタイムに無段階、連続的に最適に変化させてアクテイブに免震することを特徴とする、広域のアクテイブ制御が可能な免震方法」である点で一致し、以下の点で相違している。
相違点1
振動センサーが、訂正発明では、構造物と基盤とにそれぞれ設置されているのに対し、刊行物1記載の発明では、構造物には設置されているが、基盤に設置されているのか明らかではない点。
相違点2
減衰力可変ダンパーが、訂正発明では、摩擦力の大きさをコントロールして減衰させる摩擦減衰力可変ダンパーであるのに対し、刊行物1記載の発明では流体ダンパである点。
相違点3
制御装置が、訂正発明では、構造物と基盤とにそれぞれに設置した振動センサーで検出した振動の卓越周期、最大加速度、最大速度、最大変位などに最適な減衰応答出力信号をリアルタイムに演算処理し出力しているのに対し、刊行物1に記載の発明では、振動センサーで検出した振動、加速度、相対変位などに最適な減衰応答出力信号をリアルタイムに演算処理し出力する点。
上記相違点1〜3について検討すると、刊行物2には、構造物の免震・防振・制振方法に関して、地盤振動に対する検討が必要と判断される場合に、振動センサーによって検出される卓越周期、加速度、速度、変位などを考慮して建物の応答値を求めることが記載されており、相違点3における訂正発明の構成は示唆されているが、相違点1及び2における訂正発明の構成については、記載されていないし、示唆もされていない。
そして、訂正発明は、相違点1及び2の構成を備えることことにより、「広範囲な振動領域にわたり、確実な免震、除振の効果が得られ、免震建物、免震床、免震架台それぞれの免震性能の向上に大きく寄与する」こと、「しかも構造物1が建物であるか床であるか架台であるか等々、その種類や規模の大小如何を問わず、全く同様な仕様で実施できる便利さもあり、実用性が高い」という特有の効果を奏するものと認める。
したがって、訂正発明は、刊行物1及び2記載の発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとすることはできないから、特許出願の際独立して特許を受けることができるものである。
(3)まとめ
以上のとおりであるから、訂正a〜qは、特許法等の一部を改正する法律(平成6年法律116号)附則6条1項の規定によりなお従前の例によるとされる、特許法120条の4条3項において準用する平成6年法律116号による改正前の特許法126条1項ただし書、2項及び3項の規定に適合するので、本件訂正請求を認める。

〔3〕特許異議の申立てについて
1.特許異議の申立ての理由の概要
特許異議申立人トキコ株式会社は、甲第1号証及び甲第2号証を提出し、本件請求項1に係る発明は、甲第1号証及び甲第2号証記載の発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであって、特許法29条2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件請求項1に係る発明の特許は取り消されるべきである旨主張している。

甲第1号証:武田寿一編、「構造物の免震・防振・制振」、第1版、1988年 (昭和63年)5月1日、技報堂出版株式会社発行、116〜118頁、207〜209頁(刊行物2)
甲第2号証:特開昭62-88836号公報(刊行物1)
2.本件請求項1に係る発明
本件請求項1に係る発明は、訂正明細書の特許請求の範囲の請求項1に記載されたとおりのものと認める。(上記〔2〕2.の「(2)独立特許要件について」のウ.参照。)
3.特許異議の申立ての理由についての検討
本件請求項1に係る発明は、上記〔2〕2.の「(2)独立特許要件について」で述べたように、甲第1号証(刊行物2)及び甲第2号証(刊行物1)に記載の発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとすることはできない。
4.むすび
以上のとおりであるから、特許異議申立人の主張する理由及び提出した証拠方法によっては、本件請求項1に係る発明の特許を取り消すことはできない。
また、他に本件請求項1に係る発明の特許を取り消すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
広域のアクティブ制御が可能な免震方法
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】基盤上の構造物を振動方向へのスムーズな移動が可能に支承部で支持せしめること、
構造物と基盤とにそれぞれの振動を検出する振動センサーを設置すること、
基盤と構造物の間に構造物の振動を摩擦力の大きさをコントロールして減衰させる摩擦減衰力可変ダンパーを設置すること、
前記振動センサーで検出した振動の卓越周期、最大加速度、最大速度、最大変位などに最適な減衰応答出力信号をリアルタイムに演算処理し出力する制御装置を設置すること、
制御装置の前記最適な減衰応答出力信号により前記摩擦減衰力可変ダンパーを制御し、ダンパー応答特性をリアルタイムに無段階、連続的に最適に変化させてアクティブに免震することを特徴とする、広域のアクティブ制御が可能な免震方法。
【発明の詳細な説明】
産業上の利用分野
この発明は、免震技術の分野に属し、免震建物、又はコンピューターなどが設置されている免震床(フリーアクセスフロアー)、あるいは電子顕微鏡などが設置される免震架台などに広範に適用できる、広域のアクティブ制御が可能な免震方法に関する。
従来の技術
従来、免震建物などに実施される免震支持方法及び免震装置は既に広く周知に属し、多くの実施例もあるが、いずれもパッシブ型である。
▲1▼ 例えば特公昭61-17984号公報に記載された免震装置は、第6図に例示したとおり、上下の端板a,aの間にドーナツ形状の鋼板cとゴム板bとを交互に積み重ね貼り合わせて柱状に形成すると共に、その中心部に振動エネルギー吸収用として鉛柱dを立設し複合化せしめた構成とされている。
▲2▼特開昭60-16887号公報に記載された免震装置は、第7図に例示したとおり、鋼板。とゴム板bとを交互に積層して柱状に形成した支承部Aと、粘性流体のせん断抵抗を利用して振動エネルギーを吸収する粘性ダンパーBとを組合わせた構成とされている。この粘性ダンパーBは、基盤C上に固定した容器eに粘性流体fを収容せしめ、構造物Dに取り付けた抵抗板hを前記容器eの底との間に狭い平衡間隙gをあけた配置とし、構造物Dと共に抵抗板hが水平移動すると粘性流体fのせん断抵抗が作用して減衰力を発揮するのである。
▲3▼特開昭61-151377号公報に記載された免震装置は、第8図に例示したとおり、鋼板とゴム板とを交互に積層してなる支承部Aと、振動エネルギーを吸収する棒状ダンパーEとから成る構成とされている。棒状ダンパーEは、丸鋼棒mの下端を基盤Cヘプレートnによって支持せしめ、上端は構造物Dに固定したプレートqのルーズ孔へ通した構成とされている。
本発明が解決しようとする課題
(I)地震の大きさは,群発する小地震から、数年に1度あるいは数10年に1度と言われる破壊的な大地震まで広範囲の領域にわたっている。また、コンピュターを設置する免震床(フリーアクセスフロアー)や精密機械の免震架台などは、交通などが原因の微細振動でも免震、除振する作用効果が期待されている。
(II)ところが、従来の上記▲1▼▲2▼▲3▼に述べたような免震装置は、振動エネルギー吸収用のダンパーとして鉛柱dや鋼棒mの塑性変形によるエネルギー吸収作用、又は粘性流体fのせん断抵抗を利用したエネルギー吸収作用を期待する所謂パッシブ型であるため、微細振動及び小地震から大地震までの広範囲の領域にわたって適切に減衰力を発揮する構成とはなり得ない。
(III)例えば上記▲1▼に述べた鉛柱dの塑性変形をダンパーに利用した免震装置、又は上記▲3▼に述べた鋼棒mの塑性変形をダンパーEに利用した免震装置は、それぞれ大地震に対して優れた減衰特性を発揮する構成であり、そのような目的で設計し実施されるものである。したがって、中小の地震時のように鉛柱d、綱棒mの変形量が小さい範囲では、材料が塑性化しないため、減衰効果がない。のみならず、逆に鉛柱d、鋼棒mが抵抗材として働き、免震効果を著しく減少させる欠点がある。
(IV)また、上記▲2▼に述べたように粘性流体のせん断抵抗を利用する粘性ダンパーBによる免震装置は、微細振動及び中小の地震に対して優れた減衰特性を発揮するが、大地震用の大きな減衰力を確保することは他のダンパーよりも能力的に不足する場合が多く、大規模構造物の大地震用の免震装置としては適切でないことが欠点とされている。
要するに、従来の免震装置は、中小の地震用又は大地震用という具合いに各々適用範囲が予め決められてしまい、その適用範囲外の振動に対してはなす術がないという問題があり、これが解決すべき問題となっている。
したがって、本発明の目的は、交通などに原因する微細振動、あるいは群発する中小の地震から破壊的な大地震まで全ての領域にわたってダンパーが最適なダンパー応答特性を発揮するように改良した、広域のアクティブ制御が可能な免震方法を提供することにある。
課題を解決するための手段
上記従来技術の課題を解決するための手段として、この発明に係る広域のアクティブ制御が可能な免震方法は、
基盤上の構造物を振動方向へのスムーズな移動が可能に支承部で支持せしめること、
構造物と基盤とにそれぞれの振動を検出する振動センサーを設置すること、
基盤と構造物の間に構造物の振動を摩擦力の大きさをコントロールして減衰させる摩擦減衰力可変ダンパーを設置すること、
前記振動センサーで検出した振動の卓越周期、最大加速度、最大速度、最大変位などに最適な減衰応答出力信号をリアルタイムに演算処理し出力する制御装置を設置すること、
制御装置の前記最適な減衰応答出力信号により前記摩擦減衰力可変ダンパーを制御し、ダンパー応答特性をリアルタイムに無段階、連続的に最適に変化させてアクティブに免震することを特徴とする。
作用
構造物1が受ける地震の大きさが破壊的な大地震であれ、又はやっと体感できる程度の小地震であれ、あるいは交通などが原因の微細振動であっても、その振動をセンサー4が検出すると、制御装置5が、その振動の卓越周期、最大加速度、最大速度、最大変位などに最適な減衰応答出力信号をリアルタイムに演算処理して出力し、摩擦減衰力可変ダンパー10を制御してダンパー応答特性をリアルタイムに無段階、連続的に最適に変化させるから、大小地震には大きな減衰力で、小地震にはそれなりに小さい減衰力で免震作用を働き、振動領域の大小を問わず広域の免震及び除振の作用効果を発揮する。
次に、第1図は、減衰力可変オイルダンパー3による免震方法を実施した免震建物を示している。即ち、コンクリート基礎のような基盤6の上に、支承部2,2によって建物等の構造物1が支持されている。そして、一側(反力側)を基盤6ヘピンヒンジ機構7により取り付けて反力をとった略水平姿勢の減衰力可変オイルダンパー3の他側(出力側)が、やはりピンヒンジ機構9によって構造物1へ取り付けられ、基盤6に反力をとって構造物1に減衰力を作用する構成とされている。
ちなみに、支承部2は、第7図に詳示したように、鋼板とゴム板とを交互に積み重ね貼り合わせて柱状に形成された積層ゴム柱である。したがって、この支承部2は、構造物1の重量を支持し、地震等の振動方向へはスムーズに移動(変形)して基盤6から構造物1への地震入力を防ぐ働きをする。
基盤6及び構造物1の振動(地震)は、基盤6及び構造物1へそれぞれ設置しセンサー4,4で常時検出される。そして、各センサー4の検出信号はマイクロコンピューターの如き制御装置5へ入力される。制御装置5は、前記検出信号を処理し、地盤特性の影響を含む振動の卓越周期、最大加速度、最大速度、最大変位などを解析し、これらを勘案した上でその振動及び地盤に最適なダンパー応答特性を演算して出力する。即ち、制御装置5は、前記の出力で減衰力可変オイルダンパー3を制御し、そのダンパー応答特性をリアルタイムに無段階、連続的に最適に変化させ、地震の規模に応じた減衰力を発揮するようにリアルタイムにアクティブ制御する。
上記の減衰力可変オイルダンパー3は、近年、乗用車のサスペンションに採用されて公知に属する、電子制御で減衰力を変えられる可変式ダンパー(例えばNIKKEI MECHANICAL1983,5,9号のP89〜P99に記載)を巨大荷重用に設計変更したに等しい構成のものである。即ち、ロータリーバルブによってオイルが流通するオリフィスの開閉又は絞りを変化させて減衰力を変える構成であり、前記ロータリーバルブを駆動するアクチュエータ3aにはステッピングモーターを使用し、このアクチュエータ3aを制御装置5で制御する構成とされている。
一般に、振動が小さい場合はダンパーの減衰力が効きすぎるにもかかわらず、構造物がガタガタと揺れて揺れ心地が悪い。逆に、遠隔地の大地震では表面波の影響が表われてやや長周期の波動特性を受け、免震構造にとって最も注意を要する状態となる。その対策としては、最大限度の減衰力を発揮せしめて相対変位を抑えることが肝要であるから、制御装置5は、そのように減衰力可変ダンパー3のダンパー応答特性をアクティブ制御するシステムを内蔵した構成とされている。
本発明の実施例
第2図は、摩擦力の大きさをコントロールして最適な減衰力を発生する摩擦減衰力可変ダンパー10による免震方法を実施した免震建物を示している。
即ち、コンクリート基礎のような基盤6の上に積層ゴム柱による支承部2で構造物1の重量を支持せしめ、かつ振動方向へのスムーズな移動を可能ならしめている点は、上記第1例と同じである。
本実施例の摩擦減衰力可変ダンパー10は、前記構造物1の下面に一方の摩擦板11を固定し、これに圧接される他方の摩擦板12は、基盤6上に固定して垂直に立てた油圧ジャッキ8,8の出力軸に取付け、油圧ジャッキ8によって摩擦面に所定大きさの垂直力を付与する構成とされている。
基盤6及び構造物1の振動(地震)は各々に設置したセンサー4,4で常時検出し、その検出信号は制御装置5へ入力する。この制御装置5は前記検出信号を処理し、振動の卓越周期、最大加速度などを勘案した減衰応答出力信号を出力して油圧ジャッキ8を制御し、その振動及び地盤特性に最適なダンパー応答特性を発揮させる。即ち、2枚の摩擦板11と12の摩擦係数を前提として、最適な減衰力(摩擦力)に至当な垂直力を演算し、リアルタイムで油圧ジャッキ8の軸力制御を油圧制御として行うのである。
第3図は、リニアモータ15を減衰力可変ダンパー(磁気ダンパー)として使用した免震方法を実施するコンピュータールームなどの免震床(フリーアクセスフロアー)を示している。
即ち、鉄骨床架台の如き構造物1は、建物のコンクリートスラブに相当する基盤6上に、ボールベアリングを使用した支承部2で振動方向へのスムーズな移動が可能な状態に支持されている。この支承部2は、構造物1の下面及び基盤6の上面に支圧板13,13を固定し、両支圧板13,13の間にボール14を介在せしめた構成であり、構造物1は水平方向への移動を軽い力で行えるようになっている。
一方、減衰力可変ダンパーであるリニアモータ15は、その永久磁石15bを基盤6の反力台へ水平横向きに取付け固定し、励磁コイル15aを構造物1へ固定した構成とされている。
この例の場合にも、基盤6及び構造物1の振動は各々へ取付けたセンサー4、4で常時検出し、その検出信号は制御装置5へ入力される。制御装置5は前記検出信号を処理し、振動の卓越周期、最大加速度などを勘案して最適なダンパー応答特性(減衰力)を発揮するようにリニアモータ15を制御する。即ち、制御装置5は、最適な減衰力に至当な電磁力を演算し、リニアモータ15の励磁コイル15aへ供給する電流の大きさをリアルタイムでコントロールするのである。
この例のように減衰力可変ダンパーとしてリニアモーター15を使用すると、油圧アクチエ一夕等に比して汚れ発生の心配がなく、コンピュータールームやクリーンルーム等に最適である。
第4図は油圧アクチュエータ20を減衰力可変ダンパーとしており、第5図は磁性流体又は電気流動流体で駆動されるピストン・シリンダ形の減衰力可変ダンパー18を使用した免震方法によるコンピュータールーム等の免震床(フリーアクセスフロアー)を示している。
第4図及び第5図において、鉄骨床架台の如き構造物1は、建物のコンクリート床に相当する基盤6上にボールベアリングを使用した支承部2で振動方向へのスムーズな移動が可能な状態に支持されている。
第4図の油圧アクチュエータ20、及び第5図の減衰力可変ダンパー18は、各々の本体側を基盤6の反力台16へ水平横向きに固定し、出力ロッド側を構造物1の受台17へ結合し、センサー4で検出した振動情報(検出信号)に基づいて制御装置5がそれぞれを制御して、最適なダンパー応答特性を発揮させる構成とされている。
ところで、第5図の減衰力可変ダンパー18に関しては、電圧の大小によって粘性が変わる電気流動流体を応用したピストン・シリンダ形に構成されているが、このような原理構造のダンパーは例えばNIKKEI MECHANICALの1986,2,10号のP35〜P36に記載されて既に公知に属する。即ち、電気流動流体とは、主成分が油で、これに直径10ミクロン程度の多孔質ポリマ粒子を懸濁させたものであり、これがシリンダ内に満たされている。そして、ピストンの前室と後室を連通させたバイパスの途中に電極室を設け、同電極室内に設置した電極に電圧を加えると、磁性流体は流れにくくなり、ピストンの速度と軸力の関係(つまり、減衰力)を自由に変えられるようになっている。
第4図及び第5図の例の場合にも、基盤6及び構造物1の振動は各々に設置したセンサー4,4で常時検出し、その検出信号は制御装置5へ入力される。制御装置5は前記検出信号を処理し、振動の卓越周期、最大加速度などを勘案して最適なダンパー応答特性(減衰力)を演算して出力し、油圧アクチュエータ20(第4図)、又は第5図の減衰力可変ダンパー18が制御される。第4図の実施例では、制御装置5は油圧アクチエータ20の軸力を油圧制御でコントロールし、第5図の制御装置5は最適な減衰力に至当な電圧を演算し、減衰力可変ダンパー18の電極へ加える電圧の大きさをコントロールするのである。
精密印刷機械や電子顕微鏡などが設置される免震架台についても、およそ上記免震床と同様な構成で免震方法が実施される。
本発明が奏する効果
この発明に係る広域のアクティブ制御が可能な免震方法は、現実に発生する大小様々なあらゆる地震、又は交通などに原因する地盤振動、建物床などの振動に対して、リアルタイムに摩擦減衰力可変ダンパーをアクティブ制御し、最適なダンパー応答特性を発揮せしめるから、広範囲な振動領域にわたり、確実な免震、除振の効果が得られ、免震建物、免震床、免震架台それぞれの免震性能の向上に大きく寄与する。
しかも構造物1が建物であるか床であるか架台であるか等々、その種類や規模の大小如何を問わず、全く同様な仕様で実施できる便利さもあり、実用性が高いのである。
【図面の簡単な説明】
第2図は本発明の免震方法の、第1図と第3図〜第5図は他の免震方法の異なる実施形態を説明用に簡単化して示した正面図、第6図〜第8図は従来の免震装置の異なる例を示した断面図又は正面図である。
1……構造物、2……支承部
3……減衰力可変オイルダンパー
10……摩擦減衰力可変ダンパー
15……リニアモータ、18……減衰力可変ダンパー
4……センサー、5……制御装置
 
訂正の要旨 〔訂正の要旨〕
特許第2794418号の明細書を、特許請求の範囲の減縮を目的として下記aのとおり、明瞭でない記載の釈明を目的として下記b〜qのとおり訂正する。
a 明細書の特許請求の範囲の
「【請求項1】基盤上の構造物を振動方向へのスムーズな移動が可能に支承部で支持せしめること、構造物と基盤とにそれぞれの振動を検出する振動センサーを設置すること、基盤と構造物の間に構造物の振動を減衰させる減衰力可変ダンパーを設置すること、前記振動センサーで検出した振動の卓越周期、最大加速度、最大速度、最大変位などに最適な減衰応答出力信号をリアルタイムに演算処理し出力する制御装置を設置すること、制御装置の前記最適な減衰応答出力信号により前記減衰力可変ダンパーを制御し、ダンパー応答特性をリアルタイムに無段階、連続的に最適に変化させてアクティブに免震することを特徴とする、広域のアクティブ制御が可能な免震方法。」を、
「【請求項1】基盤上の構造物を振動方向へのスムーズな移動が可能に支承部で支持せしめること、構造物と基盤とにそれぞれの振動を検出する振動センサーを設置すること、基盤と構造物の間に構造物の振動を摩擦力の大きさをコントロールして減衰させる摩擦減衰力可変ダンパーを設置すること、前記振動センサーで検出した振動の卓越周期、最大加速度、最大速度、最大変位などに最適な減衰応答出力信号をリアルタイムに演算処理し出力する制御装置を設置すること、制御装置の前記最適な減衰応答出力信号により前記摩擦減衰力可変ダンパーを制御し、ダンパー応答特性をリアルタイムに無段階、連続的に最適に変化させてアクティブに免震することを特徴とする、広域のアクティブ制御が可能な免震方法。」と訂正する。
b 明細書4頁23行の「振動を減衰させる減衰力」を、「振動を摩擦力の大きさをコントロールして減衰させる摩擦減衰力」と訂正する。
c 同4頁28行の「前記減衰力」を、「前記摩擦減衰力」と訂正する。
d 同5頁8行の「減衰力可変ダンパー3を」を、「摩擦減衰力可変ダンパー10を」と訂正する。
e 同5頁12行と13行を削除する。
f 同5頁14行の「まず、」を、「次に、」と訂正する。
g 同6頁7行の「本実施例の」を、「上記の」と訂正する。
h 同6頁21行の「第2の実施例」を、「本発明の実施例」と訂正する。
i 同6頁26行の「上記第1実施例と同じ」を、「上記第1図の例と同じ」と訂正する。
j 同7頁10行を削除する。
k 同7頁23行目の「本実施例の場合にも」を、「この例の場合にも」と訂正する。
l 同8頁1行の「本実施例のように」を、「この例のように」と訂正する。
m 同8頁4行を削除する。
n 同8頁26行の「実施例の場合にも、」を、「例の場合にも、」と訂正する。
o 同9頁6行を削除する。
p 同9頁12行目の「減衰力可変ダンパー」を、「摩擦減衰力可変ダンパー」と訂正する。
q 同9頁20行の「第1図〜第5図は本発明に係る免震装置の異なる構成の実施例を」を、「第2図は本発明の免震方法の、第1図と第3〜第5図は他の免震方法の異なる実施形態を」と訂正する。
異議決定日 2000-12-25 
出願番号 特願昭63-183305
審決分類 P 1 651・ 121- YA (E04B)
最終処分 維持  
前審関与審査官 伊波 猛  
特許庁審判長 佐田 洋一郎
特許庁審判官 鈴木 憲子
鈴木 公子
登録日 1998-06-26 
登録番号 特許第2794418号(P2794418)
権利者 株式会社竹中工務店 藤田 隆史
発明の名称 広域のアクテイブ制御が可能な免震方法  
代理人 山名 正彦  
代理人 山名 正彦  
代理人 山名 正彦  
代理人 三戸部 節男  

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