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審決分類 審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  A43B
審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備  A43B
審判 全部申し立て 2項進歩性  A43B
審判 全部申し立て 特29条特許要件(新規)  A43B
管理番号 1044487
異議申立番号 異議2000-71732  
総通号数 22 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 1999-03-02 
種別 異議の決定 
異議申立日 2000-04-26 
確定日 2000-12-25 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第2969518号「安全靴用軽量先芯」の請求項1ないし9に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 訂正を認める。 特許第2969518号の請求項1ないし2に係る特許を維持する。 
理由 1.手続の経緯
特許出願 平成10年5月15日 優先日 平成 9年6月11日
特許権設定登録 平成11年8月27日
特許異議申立(申立人株式会社シモン、請求項1ないし9に係る特許に対 して) 平成12年4月26日
特許異議申立(申立人矢部信彦、請求項1ないし9に係る特許に対して)
平成12年5月1日
特許異議申立(申立人月星化成株式会社、請求項1ないし9に係る特許に 対して) 平成12年5月2日
取消理由通知 平成12年8月17日
訂正請求 平成12年10月30日
2.訂正の適否
(1)訂正の内容
a.特許明細書の請求項1の記載を
「安全靴に装着され、外部荷重から着用者を保護する先芯において、繊維強化熱可塑性樹脂複合材料からなり、JIST8101における革製安全靴の普通作業用S種の規格に規定される性能を満足し、且つ、重量が1個当たり45g以下であることを特徴とする安全靴用軽量先芯。」
から、
「安全靴に装着され、外部荷重から着用者を保護する先芯において、繊維強化熱可塑性樹脂複合材料からなり、JIST8101における革製安全靴の普通作業用S種の規格に規定される性能を満足し、且つ、重量が1個当たり45g以下であり、JIST8101における先芯単体の圧迫試験による、1100kgf負荷時の先芯の底面とアーチ後端の最も変位の大きい箇所とのすきまが25mm以上である安全靴用軽量先芯であって、先芯の肉厚分布において、先芯立ち上がり部分の肉厚に比べて、立ち上がり部分から天井部分に移行する肩部の肉厚の方が厚くなっており、前記繊維強化熱可塑性樹脂複合材料が単層であり、かつ該複合材料における強化繊維が無方向的に分散されており、前記繊維強化熱可塑性樹脂複合材料における強化繊維の平均繊維長が10mm〜50mmの範囲であり、前記繊維強化熱可塑性樹脂複合材料における強化繊維の体積含有率が40%〜60%の範囲であり、前記繊維強化熱可塑性複合材料における強化繊維がガラス繊維であり、前記繊維強化熱可塑性樹脂複合材料における熱可塑性樹脂がナイロン6、ポリプロピレン、またはポリプロピレンの共重合体もしくは変位体を含むポリオレフィン系樹脂であることを特徴とする安全靴用軽量先芯。」へと訂正する。そして、これに伴って、特許明細書の請求項2〜8を削除する。
b.特許請求の範囲の【請求項9】を【請求項2】に繰り上げすると共に、請求項9中の「請求項1から8のいずれか」とあるのを「請求項1」に訂正する。
c.発明の詳細な説明の段落【0036】中の「(1)安全靴に装着され、外部荷重から着用者を保護する先芯において、繊維強化熱可塑性樹脂複合材料からなり、JIST8101における革製安全靴の普通作業用S種の規格に規定される性能を満足し、且つ、重量が1個当たり45g以下であることを特徴とする安全靴用軽量先芯。」を、「(1)安全靴に装着され、外部荷重から着用者を保護する先芯において、繊維強化熱可塑性樹脂複合材料からなり、JIST8101における革製安全靴の普通作業用S種の規格に規定される性能を満足し、且つ、重量が1個当たり45g以下であり、JIST8101における先芯単体の圧迫試験による、1100kgf負荷時の先芯の底面とアーチ後端の最も変位の大きい箇所とのすきまが25mm以上である安全靴用軽量先芯であって、先芯の肉厚分布において、先芯立ち上がり部分の肉厚に比べて、立ち上がり部分から天井部分に移行する肩部の肉厚の方が厚くなっており、前記繊維強化熱可塑性樹脂複合材料が単層であり、かつ該複合材料における強化繊維が無方向的に分散されており、前記繊維強化熱可塑性樹脂複合材料における強化繊維の平均繊維長が10mm〜50mmの範囲であり、前記繊維強化熱可塑性樹脂複合材料における強化繊維の体積含有率が40%〜60%の範囲であり、前記繊維強化熱可塑性複合材料における強化繊維がガラス繊維であり、前記繊維強化熱可塑性樹脂複合材料における熱可塑性樹脂がナイロン6、ポリプロピレン、またはポリプロピレンの共重合体もしくは変位体を含むポリオレフィン系樹脂であることを特徴とする安全靴用軽量先芯。」と訂正する。そして、これに伴って、明細書の段落番号【0037】〜【0043】の記載を削除する。
(2)訂正の目的の適否、新規事項の有無及び特許請求の範囲の拡張・変更 の存否
上記訂正事項a.は、訂正前の請求項1記載の発明に、他の請求項の内容を変えることなく付加し、技術的に限定を加えたものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
上記訂正事項b.、c.は、上記訂正事項a.の訂正に伴って、明瞭でなくなった記載を明瞭とするものであり、いずれも明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。
そして、訂正事項a.〜c.は、いずれも新規事項の追加に該当せず、また、実質的に特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。
(3)むすび
よって、上記訂正は、特許法第120条の4第2項及び同条第3項において準用する特許法第126条第2、3項の規定に適合するので、この訂正を認める。
3.特許異議の申立の概要
(1)申立人株式会社シモンは、下記の甲第1〜第16号証を提出し、請求項1ないし9に係る発明の特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものであるから、また、請求項1ないし2に係る発明に関する明細書の記載は、特許法第36条第4項または第6項違反であるから、請求項1ないし9に係る発明の特許を取り消すべき旨主張している。
甲第1号証 「安全衛生のひろば」、1997年5月号、1997年5月1 1日中央労働災害防止協会発行、「ACM樹脂トウ・キャップ 搭載(広告)」、p43
甲第2号証 「シモン50年史」、平成10年11月30日株式会社シモン 発行、「シモンの動き」、p210
甲第3号証 「’95緑十字展」(平成7年10月25〜27日、中央労働 災害防止協会主催)案内パンフレット
甲第4号証 「’95緑十字展」における株式会社シモンのブースの写真、 説明文
甲第5号証 日本経済新聞、平成7年10月24日発行、「安全靴改良に成 功 シモンとYKK先芯を樹脂化」(切り抜き記事)
甲第6号証 「RS-3」製造図面
甲第7号証 「YKK樹脂先芯評価RS-3量産品」報告書、平成8年2月 14日(株)シモン技術研究所
甲第8号証 「鋼製先芯重量証明」書、平成12年1月12日、日本発条株 式会社
甲第9号証 日本工業規格安全靴T8101:1997、JIST8101 -1987、日本規格協会発行、「革製安全靴」、p1-6
甲第10号証 欧州特許出願公開第100181号明細書(1984)
甲第11号証 実開平7-16603号公報
甲第12号証 特許第2567828号公報
甲第13号証 英国特許出願公開第2071989号明細書(1981)
甲第14号証 英国特許出願公開第2138272号明細書(1984)
甲第15号証 特開平9-109310号公報
甲第16号証 特開平7-184704号公報
(2)申立人矢部信彦は、下記の甲第1〜6号証を提出し、請求項1ないし9に係る発明の特許は、甲第1〜3号証の記載に基づいて容易に発明できたものであるから、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものであり、また、請求項1に係る発明に関する明細書の記載は、特許法第36条第4項または第6項違反であるから、請求項1ないし9に係る発明の特許を取り消すべき旨主張している。
甲第1号証 英国特許出願公開第2071989号明細書(1981)
甲第2号証 特開平9-109310号公報
甲第3号証 特開平7-184704号公報
甲第4号証 JIST8101-1987、日本規格協会昭和62年3月1 日発行、「革製安全靴」、p1-13
甲第5号証 特開平7-164439号公報
甲第6号証 JIST8101-1997、日本規格協会発行、「安全靴」 、p1-19
(3)申立人月星化成株式会社は、下記の甲第1〜5号証を提出し、請求項1ないし2に係る発明は、発明未完成であるから、特許法第29条第1項柱書きに違反し、また、特許請求の範囲の記載では発明が明確でないから、特許法第36条第6項の規定に違反している。さらに、請求項1〜9に係る発明は、甲第1〜5号証の記載から容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項に違反して特許されたものである旨主張している。
甲第1号証 特開平9-109310号公報
甲第2号証 JIST8101-1997、日本規格協会発行、「安全靴」 、p1-13
甲第3号証 実開平7-16603号公報
甲第4号証 特開平9-155862号公報
甲第5号証 特開平5-269002号公報
4.特許異議申立についての判断
(1)本件発明
本件特許第2969518号の請求項1ないし2に係る発明(以下、「本件発明1」、「本件発明2」という。)は、訂正明細書の特許請求の範囲の請求項1ないし2に記載された事項により特定される次のとおりのものである。
「【請求項1】安全靴に装着され、外部荷重から着用者を保護する先芯において、繊維強化熱可塑性樹脂複合材料からなり、JIST8101における革製安全靴の普通作業用S種の規格に規定される性能を満足し、且つ、重量が1個当たり45g以下であり、JIST8101における先芯単体の圧迫試験による、1100kgf負荷時の先芯の底面とアーチ後端の最も変位の大きい箇所とのすきまが25mm以上である安全靴用軽量先芯であって、先芯の肉厚分布において、先芯立ち上がり部分の肉厚に比べて、立ち上がり部分から天井部分に移行する肩部の肉厚の方が厚くなっており、前記繊維強化熱可塑性樹脂複合材料が単層であり、かつ該複合材料における強化繊維が無方向的に分散されており、前記繊維強化熱可塑性樹脂複合材料における強化繊維の平均繊維長が10mm〜50mmの範囲であり、前記繊維強化熱可塑性樹脂複合材料における強化繊維の体積含有率が40%〜60%の範囲であり、前記繊維強化熱可塑性複合材料における強化繊維がガラス繊維であり、前記繊維強化熱可塑性樹脂複合材料における熱可塑性樹脂がナイロン6、ポリプロピレン、またはポリプロピレンの共重合体もしくは変位体を含むポリオレフィン系樹脂であることを特徴とする安全靴用軽量先芯。
【請求項2】
前記繊維強化熱可塑性樹脂複合材料は、テープ状の繊維強化熱可塑性樹脂複合材料を10mm〜50mmの長さにカットし、無方向的に分散させながら堆積させ、これを加熱および加圧成形してなるシート状であり、該シート状繊維強化熱可塑性樹脂複合材料をスタンピング成形することにより得られる請求項1に記載の安全靴用軽量先芯。」
(2)刊行物記載の事項
当審が通知した取消の理由に引用した刊行物1(英国特許出願公開第2071989号明細書、以下、「刊行物a」という。)には、
・安全靴の先芯がガラス等の繊維質の補強材料を用いたナイロン、ポリプ ロピレン等の熱可塑性樹脂から構成されていること(第1頁左欄)
・この先芯が、10〜50gであること(第1頁左欄)
・この先芯が、英国規格(BS953)を満たすものであり、この規格に よると、40〜200ジュールの落下試験によっても先芯上壁が20m m以上歪まないこと(第1頁左欄)が記載されている。
そして、該先芯は、安全靴に装着され、外部荷重から着用者を保護するものであることが把握できる。
同じく当審で通知した刊行物2(特開平9-109310号公報。以下、「刊行物b」という。)には、安全靴の先芯が記載され、「このロッドまたは板を所定の大きさ、すなわち3〜50mm、幅1〜40mm、厚さ0.1〜10mmの範囲の所定の大きさに切断し、ペレットまたは切断片にする(図1b)。・・・それを加熱、加圧して、強化繊維がランダムな平面方向に並んだ成形シート材料にする(図1d、e)。この材料は、平面的な全方向つまりランダムに強化繊維が並んでおり、しかもその含有量が多いので、これを用いて靴の先芯を作製すると、衝撃強度や圧迫強度の強い先芯ができる。」(【0008】)との記載、「また強化繊維の含有量が55wt%未満であると図3より明らかなように、S級先芯の社内基準強度1,500kg(JIS基準1,100kg×安全率)を達成しにくくなり、80wt%を超えると相対的に樹脂量が少なくなり・・・」(【0010】)との記載、「・樹脂(母材:マトリックス)-ポリアミド(ナイロン6、ナイロン66、ナイロン12)、ポリプロピレン・・・等の熱可塑性樹脂を挙げることが出来、このうちナイロン・・・が粘度が低く成形しやすいので好ましい。・強化繊維の種類ーガラス繊維(GF)・・・等を挙げることが出来る。」(【0011】)との記載があり、表1の先芯の耐圧迫強度比較表(先芯の22m/mまでの隙間強度)が記載からは、この先芯の耐圧迫強度が、S級区分で、JIS基準1,100kgを超える1970〜2290kgであることが理解できる。
同じく刊行物3(実開平7-16603号公報。以下、「刊行物c」という。)には、「合成樹脂製安全靴、作業靴先芯」に関して、「本考案は爪先曲げ部を他の部位より3〜10倍厚くし、通常3mm幅のスカート部を2〜5倍延長した合成樹脂製安全靴、作業用先芯である。本考案に使用する合成樹脂は熱可塑性樹脂、熱硬化樹脂、ガラス繊維等を強化材とした繊維強化樹脂(FRP)等いずれでもよい。」(【0004】)との記載、「次に肉厚2.5mmで爪先曲げ部の厚み7.5mm、スカート部の延長幅10mmの先芯について試験を行った結果、700kgと規格の数値を上回り、合格した。又、本考案に係る樹脂製先芯は鋼製先芯の重量より50%も軽量であった。」(【0006】)との記載がある。
同じく刊行物4(特開平7-164439号公報。以下、「刊行物d」という。)には、繊維強化熱可塑性樹脂シート及びその製造方法に関して、「熱可塑性樹脂と強化繊維からなる繊維強化熱可塑性シートであって、下記のA〜Cの要件を満たし且つ上記強化繊維が均一に分散されていることを特徴とする繊維強化熱可塑性樹脂シート。A.上記強化繊維が実質的に無撚であり、B.上記強化繊維の平均繊維長が10mm乃至50mmであり、C.上記繊維強化熱可塑性樹脂シート中の上記強化繊維の体積含有率が30%乃至80%である。」(特許請求の範囲【請求項1】)との記載、「本発明の繊維強化熱可塑性樹脂シートに用いられる熱可塑性樹脂の素材としては、ナイロン6、・・・ポリエチレンやポリプロピレンなどのポリオレフィン系樹脂、・・・などを選択するのが好ましい。」(【0011】)との記載、「本発明の繊維強化熱可塑性樹脂シート中の強化繊維の体積含有率は、30%乃至80%であることが必要である。体積含有率が30%未満の場合、目的の物性を得ることが困難であり、体積含有率が80%を超える場合、成形の際に成形品表層に強化繊維が暴露し易く成形品の外観を損なう可能性があるためである。」(【0016】)との記載、「本発明の繊維強化熱可塑性樹脂シートは、例えば・・・、安全靴の先芯などに適用することができる。」(【0037】)との記載がある。
同じく刊行物5(特開平7-184704号公報。以下、「刊行物e」という。)には、繊維強化熱可塑性樹脂製の安全靴用先芯及びその製造方法に関して、「下記A〜Dの要件を満たすシート状材料を成形してなることを特徴とする安全靴用先芯。A.上記シート状材料が強化繊維及び熱可塑性樹脂からなり、B.上記シート状材料中の強化繊維の体積含有率が30%乃至80%であり、C.上記強化繊維が実質的に無撚であり且つその平均繊維長が10mm乃至50mmであり、D.上記強化繊維が上記熱可塑性樹脂中に均一に分散されている。」(特許請求の範囲【請求項1】)との記載、「複合材料を2段階(テープ状材料、シート状材料)に分けて作成することとし、まず第1段階で熱可塑性樹脂による強化繊維の濡れの程度をある値以上としたテープ状材料を作製し、次にこのテープ状材料を用いてシート状とした複合材料を作製することにより、その後このシート状材料を成形して安全靴用先芯を製造する」(【0008】)との記載、「なお、強化繊維が熱可塑性樹脂中に均一に分散されている状態とは、強化繊維の分布状態に斑がなく、且つ、強化繊維に方向性がない状態をいう。」(【0015】)との記載、「本発明の安全靴用先芯の製造方法においてシート状材料をプレス成形して安全靴用先芯を製造する方法としては、・・・従来のホットスタンピング成形、高速圧縮成形などが考えられる」(【0019】)との記載がある。
また、特許異議申立人株式会社シモンが提出した甲第10号証(欧州特許出願公開第100181号明細書(1984)。以下、「刊行物f」という。)には、安全靴の先芯に関して、先芯の前部と側部の前側部は、他の部位に比べて厚くなっていること、先芯の上端部は、端部に進むほど先細になっていること(第6〜7頁)が、図面とともに示されている。
同じく、甲第12号証(特許第2567828号明細書。以下、「刊行物g」という。)には、成形用シート材料及び安全靴先芯に関して、「【請求項1】強化繊維からなる織物又は編物で補強された繊維強化熱可塑性樹脂のコア層と、そのコア層の両側に接合され、強化繊維からなるランダムマット状物で補強された繊維強化熱可塑性樹脂のスキン層とを有するサンドイッチ構造を備えた成形用シート材料であって、前記ランダムマット状物がチョップドストランドマット又はコンティニュアスストランドマットのいずれか若しくはその組み合わせであることを特徴とする成形用シート材料。・・・【請求項5】請求項1から4のいずれか1項に記載の成形用シート材料を加熱、加圧成形して作成した安全靴先芯。【請求項6】強化繊維がガラス繊維であり、その含有率を40〜50重量%にしたことを特徴とする請求項5記載の安全靴用先芯。」(特許請求の範囲)との記載、「実施例-4熱可塑性樹脂としてナイロン6を用い、これに線径9μmのガラス繊維(長さ50mm)を38重量%混入したスキン層用のシート材を作成し、」(公報第7頁段落【0049】)との記載がある。
同じく、甲第14号証(英国特許出願公開第2138272号明細書(1984)。以下、「刊行物h」という。)には、
・安全靴の先芯が、ナイロン、ポリプロピレンなどからなり、ガラス等の 繊維補強がされているものであること(第1頁左欄)
・この先芯が10g〜50gの範囲にあること(第1頁左欄)
・この先芯が、英国規格(BS953:1979)を充足するものであり 、40〜200ジュールの落下試験において20mm以上歪まないもの であること(第1頁左欄)が記載されている。
そして、同申立人は、甲第1〜8号証につき、証人により、「樹脂複合材料からなり、JIST8101における革製安全靴の普通作業用S種の規格に規定される性能を満足し、かつ1個当たりの重量が45g以下である先芯」が本件出願前公知であったことを立証しようとしているものと推察できる。
さらに、特許異議申立人月星化成株式会社が提出した甲第4号証(特開平9-109310号公報。以下、「刊行物i」という。)には、「繊維強化熱可塑性樹脂シート」に関して、「熱可塑性樹脂と強化繊維とを主成分とし、ランダム強化タイプである下記3条件を満足する構成よりなることを特徴とする繊維強化熱可塑性樹脂シート。(1)強化繊維の重量含有率が50%から85%であり、熱可塑性樹脂の重量含有率が15%から50%であること。(2)強化繊維の平均繊維長が5mm〜50mmであること。(3)強化繊維が無方向に分散されていること。」(特許請求の範囲【請求項1】)との記載がある。
同じく、甲第5号証(特開平5-269002号公報。以下、「刊行物j」という。)には、「繊維強化樹脂先芯およびその製造方法」に関して、「多方向性強化樹脂シートは、その多方向性強化樹脂シートに占める長繊維の体積比率である長繊維体積含有率を40%〜60%とする。」(【0008】)との記載がある。
(3)対比・判断
1)本件発明1について
1)-1記載不備について
本件特許明細書の請求項1ないし2の記載は、上記2.(1)の訂正事項a.の訂正により、発明の構成が明確なものとなったので、本件発明1に係る特許は、特許法第36条第6項に規定する要件を満たさない特許出願に対してされたものであるとすることはできない。
1)-2特許法第29条第1項柱書違反について
本件特許明細書の請求項1ないし2の記載は、上記2.(1)の訂正事 項a.の訂正により、発明に必要な具体的な構成要件が追加されたことか ら、発明として未完成であるとすることはできない。
1)-3特許法第29条第2項違反について
本件発明1と上記刊行物a〜j記載のものとを対比すると、上記刊行物a〜jのいずれの刊行物にも、繊維強化熱可塑性樹脂複合材料における強化繊維の体積含有率を40%〜60%とした点についての記載はみあたらない。
上記刊行物dには、「繊維強化熱可塑性樹脂シート中の上記強化繊維の体積含有率が30%乃至80%である。」との記載があり、前記40%〜60%を含むものとなっている。しかし、上記刊行物dにおいてこのような限定を付した意味は、「体積含有率が80%を超える場合、成形の際に成形品表層に強化繊維が暴露し易く成形品の外観を損なう可能性があるためである。」との記載から明らかなように、「他方、60%より高い体積含有率では、シート状材料から安全靴用先芯を成形する際の材料の流動性が極めて悪くなり、いわゆるウエルド部分の強度が低い成形品になってしまう。」(本件明細書【0061】)という事項を踏まえた本件発明1の限定とは技術的な意味の異なるものとなっている。
また、上記刊行物jにも「長繊維の体積比率である長繊維体積含有率を40%〜60%とする。」との記載はあるが、これは、多方向性強化樹脂シートに関するものであって、本件発明1におけるような単層のものにおける体積比率とはその技術的意味が異なるものである。
そして、本件発明1は、このような構成を採用することにより、「また、前記強化繊維の体積含有率を40%〜60%とすれば、大きな補強硬化を得つつ、シート状材料から安全靴用先芯を成形する際の材料の流動性を維持して効率良く先芯を製造することができる。」(段落【0085】)という効果を奏するものと認められる。
なお、特許異議申立人株式会社シモンは、証人尋問を申請しているが、上記4.(2)でみたように甲第1〜甲第8号証には、安全靴用先芯の形状、材料についての記載は不十分であり、同申立人が証人尋問で立証しようとしているのは、「樹脂複合材料からなり、JIST8101における革製安全靴の普通作業用S種の規格に規定される性能を満足し、かつ1個当たりの重量が45g以下である先芯」についてであると推察されることから、該事項が立証されたとしても上記相違点についての立証は期待できないのでこれを行わない。
2)本件発明2について
本件発明2は、本件発明1の構成要件をすべて含み、さらに他の構成要件を付加したものに相当するから、上記「4.(3)1)本件発明1について」で示したと同様の理由により、刊行物a〜jに記載された発明に基づいて容易に発明をすることができたものとすることはできない。
3)発明の詳細な説明の記載不備について
また、本件明細書には、本件発明1ないし2の実施例についての具体的な記載がされている(発明の詳細な説明中、段落【0065】〜【0071】参照。)ことから、該発明を当業者が容易に実施することができる程度に記載されていないということはできず、特許異議申立人のいうような記載不備はない。
5.むすび
以上のとおりであるから、特許異議の申立の理由によっては本件発明1ないし2についての特許を取り消すことはできない。
また、他に本件発明1ないし2についての特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
安全靴用軽量先芯
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】 安全靴に装着され、外部荷重から着用者を保護する先芯において、繊維強化熱可塑性樹脂複合材料からなり、JIST8101における革製安全靴の普通作業用S種の規格に規定される性能を満足し、且つ、重量が1個当たり45g以下であり、JIST8101における先芯単体の圧’白試験による、1100kgf負荷時の先芯の底面とアーチ後端の最も変位の大きい箇所とのすきまが25mm以上である安全靴用軽量先芯であって、
先芯の肉厚分布において、先芯立ち上がり部分の肉厚に比べて、立ち上がり部分から天井部分に移行する肩部の肉厚の方が厚くなっており、
前記繊維強化熱可塑性樹脂複合材料が単層であり、かつ該複合材料における強化繊維が無方向的に分散されており、
前記繊維強化熱可塑性樹脂複合材料における強化繊維の平均繊維長が10mm〜50mmの範囲であり、
前記繊維強化熱可塑性樹脂複合材料における強化繊維の体積含有率が40%〜60%の範囲であり、
前記繊維強化熱可塑性樹脂複合材料における強化繊維がガラス繊維であり、
前記繊維強化熱可塑性樹脂複合材料における熱可塑性樹脂がナイロン6、ポリプロピレン、またはポリプロピレンの共重合体もしくは変性体を含むポリオレフィン系樹脂であることを特徴とする安全靴用軽量先芯。
【請求項2】 前記繊維強化熱可塑性樹脂複合材料は、テープ状の繊維強化熱可塑性樹脂複合材料を10mm〜50mmの長さにカットし、無方向的に分散させながら堆積させ、これを加熱および加圧成形してなるシート状であり、
該シート状繊維強化熱可塑性樹脂複合材料をスタンピング成形することにより得られる請求項1に記載の安全靴用軽量先芯。
【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、安全靴のつま先部に装着される先芯に関するものである。
【0002】
【従来の技術】安全靴の先芯は、重量物の落下等による圧迫および衝撃などの外部荷重から、着用者のつま先を保護するものである。従って、該先芯に要求される性能としては、強度と剛性が極めて重要となる。
【0003】前記先芯の材質について、日本工業規格(JIST8101)には以下のように規定されている。即ち、重作業用(H種)および普通作業用(S種)の革製安全靴としては、鋼(SK7)またはこれと同等以上の強さをもつ金属材料を用いる。また、軽作業用(L種)の革製安全靴としては、金属材料またはプラスチック材料を用い、最も一般的には鋼を用いる。
【0004】しかしながら、鋼製の先芯は重量が重く、安全靴全体が重くなってしまい、長時間にわたって着用すると疲れる,作業性が悪化する等の問題がある。
【0005】また、最近では、この種の靴にも意匠性が求められるようになり、スニーカータイプの安全靴が提供されている。しかし、靴底や表皮材料の軽量化に工夫がなされているにもかかわらず、先芯は鋼製のままであるために、つま先の重量が重く、安全靴の重量バランスが悪いため、歩きにくく、疲れやすいという問題がある。
【0006】以上のような問題を解決するため、以前から種々の樹脂製あるいは繊維強化樹脂複合材料製の先芯が提案されているが、未だに満足なものは得られていないのが実情である。
【0007】繊維強化樹脂複合材料製の安全靴先芯としては、ガラス繊維等の強化繊維からなる織物、編物、マット状物等と、熱硬化性樹脂や熱可塑性樹脂とを複合させて形成した繊維強化樹脂複合材料を、プレス成形などによって成形した安全靴先芯が提案されている。
【0008】例えば、(1)実開昭54-171947号には、炭素繊維とガラス繊維または高弾性有機繊維とを強化材料とした合成樹脂複合材料で爪先部を保護した安全靴が記載されている。
【0009】また、(2)実公昭61-42402号には、ガラス長繊維を熱可塑性樹脂マトリックスで複合した基材を、加熱、加圧成形してなる安全靴の先芯において、先芯の甲部先端に、外方に突出した薄肉部を形成した複合強化樹脂製安全靴先芯が記載されている。
【0010】また、(3)実開昭62-64304号には、先芯部が長繊維強化樹脂からなる安全靴が記載されている。
【0011】また、(4)特開平5-147146号には、強化繊維からなる織物または編物で補強された繊維強化熱可塑性樹脂層とランダムマット状物で補強された繊維強化熱可塑性樹脂層とをサンドイッチ構造にした成形用シート材料を、加熱、加圧成形してなる安全靴先芯が記載されている。
【0012】また、(5)特開平5-269002号および特開平6-141908号には、一方向に揃えた長繊維を含有する樹脂薄シートを用い、該樹脂薄シートを多方向に重層して一体的に構成した多層構造の多方向性強化樹脂シートからなる繊維強化樹脂先芯が記載されている。
【0013】さらに、(6)特開平6-245804号には、強化繊維と熱可塑性樹脂とからなる複合材の中心部または両面に7〜200メッシュの金網層を有する基材を形成し、該基材を成形してなる安全靴先芯が記載されている。
【0014】しかし、これら従来の繊維強化樹脂複合材料製の安全靴先芯には、以下のような課題がなお残されている。上記(1)、(2)、(3)には、長繊維で強化した樹脂複合材料を成形して得られる先芯について記載されているが、いずれも単に長繊維で強化した樹脂複合材料を用いているにすぎない。このような材料で成形されてなる安全靴先芯は、日本工業規格の革製安全靴(JIST8101)の普通作業用S種の規格に規定されている性能を、強度と剛性に関し、十分に満足するものではない。
【0015】即ち、前記(1)、(2)、(3)の明細書中には、繊維強化樹脂複合材料の製造方法が明確に示されていない。従って、前記各繊維強化樹脂複合材料は、それぞれの出願時点において公知の常法により作成されるものと考えられる。
【0016】前記常法とは、当業者に明らかなように、強化繊維からなる織物、編物又はランダムマット状物(チョップドストランドマット、スワールマット等)に樹脂を含浸させて、シート状の繊維強化樹脂複合材料を得る方法である。
【0017】前記樹脂として熱硬化性樹脂を用いる場合、該熱硬化性樹脂はその粘度を広範囲に亘って調節することができる為、前記常法によって比較的簡単にシート状の繊維強化樹脂複合材料を得ることができる。
【0018】しかしながら、熱硬化性複合材料は熱可塑性複合材料に比べて脆性で、衝撃特性に劣り、そのため、安全靴用先芯の用途には適さない。また、成形サイクルの短縮、リサイクルの容易さ、作業環境のクリーンさなどの観点から、安全靴先芯の材質としては、熱硬化性樹脂による複合材料よりも熱可塑性樹脂による複合材料の方が望ましい。
【0019】他方、繊維強化樹脂複合材料の樹脂として熱可塑性樹脂を用いる場合、常法では、該熱可塑性樹脂を強化繊維からなる織物、編物又はランダムマット状物に十分に含浸させることが極めて困難である。これは、該熱可塑性樹脂の溶融時における粘度の高さの為である。
【0020】例えば、フィルムスタッキング法と称されている常法によって、強化繊維に熱可塑性樹脂を充分に含浸させようとすると、極めて高い成形圧力と、長い成形時間とが必要になり、コストが非常に高くなってしまう。さらに、この方法では、強化繊維の含有率を高くすることが難しい。即ち、この方法では、低コスト化及び含浸性の向上の双方を同時に満足させることはできない。従って、コスト面を優先すると、熱可塑性樹脂の含浸状態が不十分な繊維強化熱可塑性樹脂複合材料しか得られず、従って、該複合材料を成形してなる安全靴用先芯の機械特性も満足なものとはならない。
【0021】また、強化繊維に熱可塑性樹脂を含浸させる別の常法としては、樹脂の粉末を強化繊維間に担持させ、この状態で該樹脂を溶融して含浸させる方法がある。しかしながら、この常法は、樹脂を粉末にするために製造コストの上昇を招く。また、強化繊維からなる織物、編物、ランダムマット状物に粉末樹脂を均一に担持させることは非常に困難である。従って、特に、強化繊維の長手方向間において樹脂付着量に差異が生じ易く、これにより得られる複合材料を成形してなる安全靴用先芯の機械特性も満足なものとはならない。
【0022】さらに、前記(2)実公昭61-42402号の実施例には、平均肉厚2.5mmの甲部の先端に薄肉部を設けた先芯は600kgの圧迫破壊強度を有し、鋼製先芯の強度に匹敵する旨記載されている。
【0023】しかしながら、JIST8101が要求する先芯の性能は、破壊強度に関するものではなく、所定の荷重を負荷させた状態での、足先を保護するために必要な先芯の低面とアーチ後端部の最も変位の大きい部位とのすきま(以下、これを残存高さと称する)に関するものである。即ち、JIST8101には、普通作業用のS種に用いられる先芯は1100kgfの荷重を負荷させた場合に前記残存高さが22mm以上必要であり、軽作業用のL種に用いられる先芯は450kgの荷重を負荷させた場合に前記残存高さが22mm以上必要である旨規定されている。従って、破壊荷重がこれらの数値を越えたからといって、残存高さが22mm以上確保できているとは限らない。
【0024】このように従来の発明、考案は破壊強度のみを対象に議論している。また、前記(1)、(2)及び(3)に記載されている先芯は、これらの出願時点における常法を考慮すれば、物性が不十分である。従って、前記従来の先芯は、JIST8101に規定されている普通作業用のS種はもちろんのこと、軽作業用のL種の規格でさえも満足することが困難であることは明白である。
【0025】これらの物性上の問題点を解決するために、前記(4)の特開平5-147146号には、強化繊維からなる織物または編物で補強された繊維強化熱可塑性樹脂層とランダムマット状物で補強された繊維強化熱可塑性樹脂層とをサンドイッチ構造にした成形用シート材料を、加熱、加圧成形してなる安全靴先芯が記載されている。この公報によれば、従来のマットや不織布で補強した成形用シート材料から作った成形品は強度が低く、安全靴先芯のように高強度を要求される用途には適さないとしている。そのために、先芯を形成する基材として、強化繊維からなる織物または編物で補強された繊維強化熱可塑性樹脂層とランダムマット状物で補強された繊維強化熱可塑性樹脂層とをサンドイッチ構造にしてなるものを提案している。
【0026】しかしながら、このような積層構造を形成するには積層の手間が掛かるうえ、織物などを使用するためにコスト高となる。また、織物強化材料をしわや折り目を発生させないように成形するには、複雑な形状のチャージパターンが必要になる。従って、シート状材料からチャージパターンに切断する際の材料ロスが多くなり、これによっても先芯のコスト高を招くという問題点もある。さらに、該公報に記載の先芯はL種の規格を満足する為のものである。従って、このような複雑な積層構造をもってしてもし種の規格は満足できたとしても、S種の規格を満足するにはほど遠い特性しか得られていない。
【0027】(5)の特開平5-269002号および特開平6-141908号公報には、一方向に揃えた長繊維を含有する樹脂薄シートを多方向に重層して一体的に構成した多層構造の多方向性強化樹脂シートからなる繊維強化樹脂先芯が提案されている。該公報には以下のように記載されている。即ち、単に長繊維で補強した樹脂先芯はJIST8101に規定されているL種またはS種に対して強度的に不十分である。これに対し、該公報に記載の先芯は、一方向強化タイプの強化樹脂シートを多方向に積層しているから、先芯成形時にその側壁面において傾斜した長繊維が垂直方向を向き、これにより、強度を増大させることができる。
【0028】しかしながら、先芯成形時には強化樹脂シートを樹脂の融点以上に加熱する為、以下の問題が生じる。即ち、先芯成形時には樹脂による強化繊維に対する拘束力はなくなり、成形時の樹脂の流動によって強化繊維の配向が乱れることになる。このことは、シートの状態では強化繊維は一方向に配向されているが、成形品である先芯の段階では強化繊維の配向を制御できないことを意味する。従って、該公報に記載の先芯は、性能が安定せず、歩留まり率にも影響を及ぼし、結果としてコスト高を招くという問題を引き起こす。さらに、該公報に記載の先芯も、L種の規格を満足させることを目的として提案されたものである。従って、たとえL種の規格を満足できたとしても、S種の規格を満足するにはほど遠い特性しか得られない。
【0029】さらに、(6)の特開平6-245804号公報には、強化繊維と熱可塑性樹脂とからなる複合材の中心部または両面に、7〜200メッシュの金網層を備えた基材を形成し、該基材を加熱、加圧成形してなる安全靴先芯が提案されている。この公報に記載の先芯は、S種の規格を満足することを目的としたものであり、該公報には、繊維強化熱可塑性樹脂だけではS種の規格を満足する高強度の先芯を得ることができないので、所定のメッシュの金網によってこれを補強する旨記載されている。
【0030】しかしながら、金網を入れるために繊維強化熱可塑性樹脂の製造工程が複雑になる上、金網のコストも上乗せされるのでコストが高くなってしまう。また、上述したように、先芯成形時には樹脂が溶融状態にあるために、繊維強化熱可塑性樹脂は流動する。他方、前記金網は流動しないため、金網が成形品の隅々にまで行き渡ることはなく、成形品の特性が安定しない。
【0031】さらには、金網が溶融状態の繊維強化熱可塑性樹脂を突き破り、成形品の表面に露出して、金型を傷めるという問題点もある。さらにまた、先芯のような深絞り形状に金網が変形して追従することができず、成形が非常に困難なものとなる。また、該公報には、圧迫強度が1100kgfを越えた旨の記載があるだけであり、残存高さが22mm以上確保できたかどうかについては言及されていない。従って、該公報に記載の先芯が、S種の規格を満足しているとは必ずしも言えない。
【0032】以上述べてきたように、前記従来技術に係る先芯は、圧迫強度のみによって強度検査がなされており、前記各公報の記載から判断すると、これらはJIS T8101に規定されている普通作業用のS種の規格する性能を満足するものとは考えられない。
【0033】前記S種の規格を満足するためには、1100kgfの荷重を負荷した際の残存高さが22mm以上必要であり、かつ致命的な破壊を起こしてはならないことが要求される。ここで、致命的な破壊とは、それ以上負荷を掛け続けても荷重値が上昇しない程の破壊が先芯に発生している状態を意味する。そして、該致命的な破壊をもたらす荷重が、従来から言われているところの圧迫強度である。従って、前記S種の規格を満足するために必要な先芯の圧迫強度としては、必然的に1100kgfよりかなり高い強度となる。
【0034】
【発明が解決しようとする課題】本発明の目的は、上記の従来からの問題点を解決し、安全靴先芯のJIST8101における普通作業用S種の規格に規定される性能を満足するとともに、従来の鋼製先芯に比べて大幅な軽量化を達成することのできる安全靴用軽量先芯を提供することにある。
【0035】
【課題を解決するための手段】本発明者らは、上記事情に鑑み、鋭意検討の結果、重量を大幅に軽減し、作業性にも優れた安全靴を提供し得る先芯材料を見出し、本発明に到達した。本発明は以下の構成を有する。
【0036】(1)安全靴に装着され、外部荷重から着用者を保護する先芯において、繊維強化熱可塑性樹脂複合材料からなり、JIS T 8101における革製安全靴の普通作業用S種の規格に規定される性能を満足し、且つ、重量が1個当たり45g以下であり、JIS T 8101における先芯単体の圧迫試験による、1100kgf負荷時の先芯の底面とアーチ後端の最も変位の大きい箇所とのすきまが25mm以上である安全靴用軽量先芯であって、先芯の肉厚分布において、先芯立ち上がり部分の肉厚に比べて、立ち上がり部分から天井部分に移行する肩部の肉厚の方が厚くなっており、前記繊維強化熱可塑性樹脂複合材料が単層であり、かつ該複合材料における強化繊維が無方向的に分散されており、前記繊維強化熱可塑性樹脂複合材料における強化繊維の平均繊維長が10mm〜50mmの範囲であり、前記繊維強化熱可塑性樹脂複合材料における強化繊維の体積含有率が40%〜60%の範囲であり、前記繊維強化熱可塑性樹脂複合材料における強化繊維がガラス繊維であり、前記繊維強化熱可塑性樹脂複合材料における熱可塑性樹脂がナイロン6、ポリプロピレンまたはポリプロピレンの共重合体もしくは変性体を含むポリオレフィン系樹脂であることを特徴とする安全靴用軽量先芯。
【0037】
【0038】
【0039】
【0040】
【0041】
【0042】
【0043】
【0044】(9)前記繊維強化熱可塑性樹脂複合材料は、テープ状の繊維強化熱可塑性樹脂複合材料を10mm〜50mmの長さにカットし、無方向的に分散させながら堆積させ、これを加熱および加圧成形してなるシート状であり、該シート状繊維強化熱可塑性樹脂複合材料をスタンピング成形することにより得られる安全靴用軽量先芯。
【0045】
【発明の実施の形態】先芯の性能は、それを構成する材料の強度、弾性率及び耐衝撃性等の性能と先芯形状とによって左右される。材料物性の低い材料を用いても、JIS規格S種の規格を満足する先芯を得ることはできるが、肉厚が非常に厚いものになってしまい、樹脂化する最大の目的である軽量化を達成できず、また、デザイン的にも実用に適さないものしか作れない。
【0046】安全靴の前後の重量バランスを改善し、歩きやすく且つ疲れにくい安全靴を提供する為には、現在用いられている鋼製先芯に対して先芯重量を少なくとも25%軽量化し、先芯1個当たり45g以下にすることが必要である。これ以上重いと、つま先が重く感じるため、歩きにくく、疲れやすくなる。より歩き易さ又は軽いという感触を得るには、40g以下であることが好ましく、25g〜40gの範囲がさらに好ましい。
【0047】先芯重量を軽くするためには、先芯の肉厚を薄くすれば良いが、薄いと変形しやすくなるため、前記JISにおけるS種の規格に規定される性能を満足できなくなってしまう。該S種の規格に規定される性能とは、先芯単体の圧迫性能において、1100kgf負荷時の先芯の底面とアーチ後端の最も変位の大きい箇所とのすきまが、22mm以上であることであるが、これと同時に、実際問題としては、先芯が靴に組み込まれた安全靴の状態での性能も重要である。要求される安全靴の状態での性能は、1100kgf負荷時の安全靴における残存高さ(中底上面と先芯天板下面との間隙)が15mm以上であることである。
【0048】本発明者らは鋭意検討の結果、安全靴の状態での残存高さは、靴の構造、特に靴底の構造に非常に影響を受けることを見出した。靴底の厚みが薄い場合は、1100kgf負荷時の先芯の沈み込みが小さいため、靴の状態での残存高さを確保しやすいが、履き心地が悪くなる。他方、靴底の厚みを厚くすれば、履き心地は良くなるが、その反面、1100kgf負荷時の先芯の沈み込みが大きくなり、靴の状態での残存高さを確保しにくくなる。特に、安全靴の履き心地をより向上させるために、最近の靴底の素材は柔らかくなってきており、益々、靴の状態での残存高さを確保しにくくなっている。
【0049】これらのことを考慮すると、先芯単体の圧迫性能において、1100kgf負荷時の残存高さが、25mm以上であることが推奨される。好ましくは28mm以上、さらに好ましくは28mm〜35mmの範囲であれば、靴底の設計にバリエーションを持たせることができ、より履き心地のよい安全靴を提供することができる。
【0050】靴の状態での残存高さを確保するための簡易な手段としては、先芯自身の高さを高くすることが考えられるが、むやみに高くすると、デザイン性(美感)を損なうばかりでなく、先芯重量が重くなってしまう。従って、先芯の高さを高くすることなく、先芯重量を45g以下に保ちながら、さらに、先芯単体の圧迫性能において、1100kgf負荷時の残存高さを25mm以上確保することが重要である。
【0051】この目的を達成するためには、上述したように先芯に用いる材料の性能と、先芯の形状及び肉厚分布とが重要な要因となる。荷重が負荷された場合に先芯に発生する応力を合理的に分散し、最も高い応力が発生する部分の肉厚を厚くし、それほど応力が掛からない部分の肉厚を薄くするといった偏肉構造を採ることによって、先芯重量の増加を最小限に抑えつつ、荷重負荷時における変形の少ない,デザイン性に優れた先芯を提供することが可能になる。具体的には、図1に示すように、最も高い応力が発生する先芯肩部3の肉厚を最も厚く、且つ、該先芯肩部3の変形によって変位量は最も大きくなるが、自らはあまり変形しない天井部分1の肉厚を薄くすることが望ましい。
【0052】この点において、従来の先芯は、前述したように圧迫破壊強度を高めることのみに重点が置かれている為、図2に示すように、先芯の立ち上がり部分2の肉厚を最も厚く、肩部3から天井部分1にかけて肉厚を徐々に減少するような形状のものが一般的であった。
【0053】しかしながら、重要なのは先芯重量の増加を最小限に押さえつつ、変位量を少なくすることである。即ち、図2に示す従来の先芯のように、荷重を支える先芯の立ち上がり部分の肉厚、特に、つま先の立ち上がり部分2の肉厚を厚くすれば、先芯の圧迫強度を高めることは可能であるが、これは天井部分1の変位量を小さく押さえることにはならない。天井部分1の変位量を小さくする為には、図1に示すように、立ち上がり部分1よりもむしろ、肩部3の肉厚を厚くすることの方が有効である。
【0054】上記のような偏肉構造を採るためには、先芯成形時に材料の流動性が良好であることが必要であり、そのため、本発明においては繊維強化熱可塑性樹脂複合材料を用いている。本発明に係る安全靴用軽量先芯に使用する繊維強化熱可塑性樹脂複合材料は、単層であることが推奨され、その強化繊維が無方向的に分散された、いわゆるランダム強化タイプであることが推奨される。従来の技術の欄で述べたように、物性上の問題を解決する簡易な手段としては、連続強化繊維を使用することもできるが、これによると、シート状材料の製造コストや先芯成形上の問題等、他の問題が生じることを考慮したものである。
【0055】即ち、例えば、織物とランダムマット状物とを積層することによって、10材料物性は向上するが、その反面、シート状材料の製造工程において、異なる強化形態の材料を積層することによる製造コストの上昇を招くことになる。また、先芯成型時に、金型への材料のチャージが困難である,織物に皺が入り易い等の成形上の問題が発生する。これに対し、前述のように、シート状材料として、ランダム強化タイプの単層を用いれば、その成形流動性の良さにより、先芯形状を容易に偏肉構造とすることができるので、先芯の合理的な設計が可能となり、従って、軽量で且つ高性能の先芯を得ることができる。
【0056】なお、該強化繊維は無撚であることが好ましい。これは、該強化繊維への熱可塑性樹脂の含浸を容易にするためである。
【0057】また、本発明の目的を達成するためには、高い物性を有した材料を用いることが必要である。具体的には、例えば、本発明者らの出願による特開平7-164439号に示す繊維強化熱可塑性樹脂複合材料が推奨される。このシート状の繊維強化熱可塑性樹脂複合材料は、テープ状の繊維強化熱可塑性樹脂複合材料を10mm〜50mmの長さにカットし、無方向的に分散させながら堆積させ、これを加熱および加圧して得られるランダム強化タイプのシート状材料である。前記テープ状には種々の寸法が含まれるが、例えば、幅5mm〜30mm,好ましくは5mm〜20mmで、且つ、厚さ0.1mm〜0.5mm,好ましくは0.1mm〜0.2mmのものを用いることができる。
【0058】このようにあらかじめテープ状とされた繊維強化熱可塑性樹脂複合材料を用いることにより、従来の強化繊維の織物、編物又はランダムマット状物に熱可塑性樹脂を含浸する方法では得ることのできない、高い繊維含有率のシート状材料を作製することができ、且つ含浸状態も良好なものが得られる。従って、斯かるシート状材料を成形して得られる安全靴用先芯の性能も向上させ得るものである。
【0059】上記のようなランダム強化タイプのシート状材料は、その製造方法から明らかなように単層である。ここでいう単層とは、強化形態の異なる繊維強化熱可塑、性樹脂複合材料を積層することによる明確な層や、異種材料の混入が無いことを意味する。例えば、織物強化タイプとランダム強化タイプとを積層したもの、或いは一方向強化タイプのものを多方向に積層したものなどは、積層することによる明確な層が存在するため単層ではない。また、繊維強化熱可塑性樹脂複合材料の中に、補強を目的とする金網等の異種材料を設けたようなものも単層ではない。なお、上記単層のシート状材料を加熱および加圧成形して得られる本発明に係る安全靴用軽量先芯は、必然的に単層構造になることはいうまでもない。
【0060】上記シート状材料並びにそれを加熱及び加圧成形して得られる本発明の安全靴用軽量先芯における強化繊維の平均繊維長は、10mm〜50mmの範囲が好適である。10mmより短い繊維長ではその補強効果が小さいので、性能の優れた先芯を得ることができず、逆に、性能を向上させようとすると肉厚が厚くなってしまい、大幅な軽量化を達成することができない。他方、50mmより長い繊維長では、シート状材料を作製する際における,カットしたテープ状材料を無方向的に分散させながら堆積する工程において、無方向的に均一に分散させるのが困難となる。したがって、安全靴用先芯のように、比較的サイズの小さい成形品を成形する場合、成形品中の強化繊維の配向状態に片寄りが発生し、返って成形品の性能がばらつき、安定した性能の先芯を得ることができない。
【0061】上記シート状材料並びにそれを加熱及び加圧成形して得られる安全靴用軽量先芯における強化繊維の含有率は、体積で40%〜60%の範囲が好適である。40%より低い体積含有率ではその補強効果が小さいので、性能の優れた先芯を得ることができず、逆に、性能を向上させようとすると肉厚が厚くなってしまい、大幅な軽量化を達成することができない。他方、60%より高い体積含有率では、シート状材料から安全靴用先芯を成形する際の材料の流動性が極めて悪くなり、いわゆるウェルド部分の強度が低い成形品になってしまう。最悪の場合は、正規の成形品形状に成形できないショートショット状態になってしまう。先芯性能と成形流動性とのバランスを考慮すると、上記体積含有率は45%〜55%の範囲がより好まい。
【0062】上記シート状材料並びにそれを加熱及び加圧成形して得られる安全靴用軽量先芯に用いられる強化繊維としては、例えば、ガラス繊維、炭素繊維や、アラミド繊維に代表される高弾性有機繊維等を挙げることができるが、特にこれらに限定されるものではない。これらの中でもガラス繊維を主体として使用し、これに炭素繊維やアラミド繊維などを併用して用いることが好適であり、特にコストを重視する場合には、ガラス繊維のみを使用することがより好適である。該強化繊維への熱可塑性樹脂の含浸を容易にするため、強化繊維は可能な限り無撚であることが好ましく、さらに熱可塑性樹脂との接着性をよくするための表面処理が施されていることが好ましい。
【0063】一方、上記強化繊維に含浸させる熱可塑性樹脂も、特に限定されるものではないが、物性、成形性及びコストなどの観点からポリプロピレンおよびその共重合体や変性体等を含むポリオレフィン系樹脂、ナイロン6,ナイロン66又はナイロン12等のポリアミド系樹脂、ポリエチレンテレフタレート,ポリブチレンテレフタレートおよびその共重合体等を含むポリエステル系樹脂、ポリカーボネート、ポリフェニレンサルファイド、または上記熱可塑性樹脂を2種以上併用したポリマーアロイ等を好適な例として挙げることができる。これらの中でも、成形性、コスト及び軽量性の観点から、ナイロン6、ポリプロピレンおよびポリプロピレンの共重合体や変性体等を含むポリオレフィン系樹脂が推奨される。なお、上記熱可塑性樹脂には、酸化防止剤、加水分解防止剤などの種々の添加剤、各種充填剤、顔料などを目的に応じて添加することができる。
【0064】上記シート状材料から本発明に係る安全靴用軽量先芯を成形する方法としては、一般的なプレス成形、スタンピング成形等の方法を挙げることができる。この中でも、スタンピング成形は、成形サイクルが非常に短い成形方法であり好適に適用できる。該スタンピング成形とは、前記シート状材料から安全靴用先芯を成形するのに必要な形状(チャージパターン)に切断し、赤外線ヒータ等の加熱手段を用いて、シート状材料を構成する熱可塑性樹脂の軟化点または融点以上の温度にまで加熱し、速やかに金型にチャージし、型締めすることによって安全靴用先芯を成形する方法である。前記金型温度は前記熱可塑性樹脂の軟化点または融点以下の温度に保持され、金型内で成形品は冷却・固化される。なお、金型温度は使用する熱可塑性樹脂によって異なり、各々の樹脂に適した温度が選択される。
【0065】
【実施例】以下、実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。なお、各評価については以下の通りに行った。
【0066】安全靴および安全靴用先芯の圧迫試験は、JIS T 8101の普通作業用S種の規格に従い、インストロン型万能試験機により圧迫荷重を負荷し、1100kgf負荷時の残存高さを粘土にて測定した。
【0067】(実施例1)ダイ内において、溶融させたポリプロピレンを連続ガラス繊維束に含浸させ、幅20mm、厚さ0.13mm、繊維体積含有率50%のテープ状繊維強化熱可塑性樹脂複合材料を得た。これをギロチン方式のカッターを用いて、長さ20mmに切断し、無方向的に分散させながら金型内に堆積させ、加熱冷却プレスを用いて、成形温度220℃、成形圧力10kgf/cm2、成形時間5分の条件箏で加熱溶融した。その後、100℃まで冷却し、厚さ3.5mmのランダム強化タイプのシート状材料を得た。
【0068】上記シート状材料から、所定の形状に材料を切り出し、赤外線ヒーターにてポリプロピレンが完全に溶融する220℃まで加熱し、速やかに金型にチャージし、金型温度100℃、成形圧力70kgf/cm2、成形時間30秒の条件でスタンピング成形を行い、安全靴用先芯を得た。肉厚分布は概ね、図1のような偏肉構造となっており、その重量は37g/個で、1100kgfにおける先芯単体の残存高さは29.2mmであった。
【0069】得られた軽量先芯を安全靴に組み込み、インジェクション法によって安全靴を作製した。靴に組み込んだ状態での残存高さは17.5mmであり、JIS規格S種が規定する性能を十分にクリアしていた。さらに、該規格性能に対し余裕があり、従って、履き心地をより改良できる優れた軽量先芯であると言える。
【0070】(実施例2)ダイ内において、溶融させたナイロン6を連続ガラス繊維束に含浸させ、幅20mm、厚さ0.13mm、繊維体積含有率50%のテープ状の繊維強化熱可塑性樹脂複合材料を得た。実施例1と同様に、該材料を長さ20mmに切断し、無方向的に分散させながら金型内に堆積させ、加熱冷却プレスを用いて、成形温度250℃、成形圧力10kgf/cm2、成形時間5分の条件で加熱溶融した。その後、150℃まで冷却し、厚さ3.5mmのランダム強化タイプのシート状材料を得た。
【0071】上記シート状材料から、所定の形状に材料を切り出し、赤外線ヒーターにてナイロン6が完全に溶融する250℃まで加熱し、速やかに金型にチャージし、金型温度150℃、成形圧力70kgf/cm2、成形時間30秒の条件でスタンピング成形し、安全靴用先芯を得た。肉厚は実施例1と同様で、その重量は39g/個であった。1100kgfにおける絶乾状態での先芯単体の残存高さは、29.7mmであった。ナイロン6は吸湿しやすい樹脂であり、吸湿すると物性は低下することが知られている。その吸湿量は公定水分率が目安となり、ナイロン6の場合は4.5%である。そこで、先芯の樹脂分に対して4.5%吸湿させ、吸湿後の残存高さを評価したところ、28.6mmであった。
【0072】得られた軽量先芯を、絶乾状態と4.5%吸湿状態とのそれぞれの状態下に、安全靴に組み込み、インジェクション法によって安全靴を作製した。靴に組み込んだ状態での残存高さは、絶乾状態が18.7mm、4.5%吸湿状態が16.7mmであり、絶乾状態はもちろん吸湿状態においても前記JIS規格S種が規定する性能を十分にクリアした。さらに、該規格性能に対し余裕があり、従って、履き心地をより改良できる優れた軽量先芯であると言える。
【0073】(比較例1)従来のランダム強化タイプの成形材料として、ガラスマットにポリプロピレンを含浸させた,いわゆるスタンパブルシートを用意した。ガラス繊維の含有量は重量含有率で40%、体積含有率では19%であった。また、該シートの厚みは3.8mmであった。該シートを用い、実施例1と同様にスタンピング成形を行って安全靴用先芯を得た。実施例1と同じ肉厚では、JIS規格S種が規定する性能を満足できなかったので、チャージ量を徐々に増やして行き、該規格性能を満足できるまで肉厚を厚くした。
【0074】得られた先芯を安全靴に組み込み、インジェクション法によって安全靴を作製した。先芯単体及び靴に組み込んだ状態での残存高さを測定した結果、それぞれ、26.3mm及び15.5mmであり、前記JIS規格S種が規定する性能を満足できたが、その一方、先芯重量は50g/個であり、目的の軽量化は達成できなかった。
【0075】(比較例2)実施例1で用いたテープ状の繊維強化熱可塑性樹脂複合材料を長さ5mmに切断し、実施例1と同様の条件下に、厚さ3.5mmのランダム強化タイプのシート状材料を得た。この材料を用いて、実施例1と同様にスタンピング成形を行い、安全靴用先芯を得た。実施例1と同じ肉厚では、JIS規格S種が規定する性能を満足できなかったので、チャージ量を徐々に増やして行き、該規格性能を満足できるまで肉厚を厚くした。
【0076】得られた先芯を安全靴に組み込み、インジェクション法によって安全靴を作製した。先芯単体および靴に組み込んだ状態での残存高さを測定した結果、それぞれ、27.5mm及び16.0mmであり、JIS規格S種が規定する性能を満足できたが、その一方、先芯重量は47g/個であり、目的の軽量化は達成できなかった。
【0077】(比較例3)実施例1で用いたテープ状の繊維強化熱可塑性樹脂複合材料の繊維体積含有率を30%にした他は、実施例1と同様にして厚さ3.5mmのランダム強化タイプのシート状材料を得た。この材料を用いて、実施例1と同様にスタンピング成形を行い、安全靴用先芯を得た。実施例1と同じ肉厚では、JIS規格S種が規定する性能を満足できなかったので、チャージ量を徐々に増やして行き、該規格性能を満足できるまで肉厚を厚くした。
【0078】得られた先芯を安全靴に組み込み、インジェクション法によって安全靴を作製した。先芯単体及び靴に組み込んだ状態での残存高さを測定した結果、それぞれ、27.8mm及び16.5mmであり、JIS規格S種が規定する性能を満足できたが、その一方、先芯重量は48g/個となり、目的の軽量化は達成できなかった。
【0079】(比較例4)実施例1で用いたテープ状の繊維強化熱可塑性樹脂複合材料の繊維体積含有率を65%にした他は、実施例1と同様の条件で厚さ3.5mmのランダム強化タイプのシート状材料を得た。この材料を用いて、実施例1と同様にスタンピング成形を行ったところショートショットになってしまい、安全靴用先芯を得ることができなかった。
【0080】
【発明の効果】本発明によれば、繊維強化熱可塑性樹脂複合材料を用いて安全靴用先芯を形成するようにしたので、従来、得ることができなかった,JIS T 8101における革製安全靴の普通作業用S種の安全靴の規格に規定される性能を満足しつつ、且つ、1個当たりの重量が45g以下である先芯を得ることができ、従来の鋼製先芯に対して大幅な軽量化を達成することができる。その結果、安全靴全体の軽量化に寄与することはもちろん、安全靴の前後の重量バランスを改善し、歩き易く、長時間着用しても疲れにくい安全靴を提供することができる。
【0081】また、JIS T 8101における先芯単体の圧迫試験による,1100kgf負荷時の先芯の底面とアーチ後端の最も変位の大きい部位とのすきまが25mm以上有するようにすれば、素材が柔らかな靴底の安全靴に適用しても、前記JIS規格を満足させることができ、デザインの自由度をより向上させることができる。
【0082】また、先芯立ち上がり部分の肉厚に比して、該立ち上がり部分から天井部分に移行する肩部の肉厚を厚くすれば、先芯重量の増加を最小限に抑えつつ、荷重負荷時における変位量を抑えることができる。従って、デザインの自由度を向上させることができる。
【0083】また、前記繊維強化熱可塑性樹脂複合材料を、強化繊維が無方向的に分散されてなるランダム強化タイプの単層とすれば、該複合材料の製造工程がシンプルである為に、材料のコスト低廉化を図ることができる。また、該複合材料は、先芯成型時における流動性が良く、容易に偏肉構造を得ることができる為、軽量で且つ高性能な先芯の設計自由度を向上させることが可能となる。
【0084】また、前記強化繊維の平均繊維長を10mm〜50mmとすれば、大きな補強効果を得つつ、強化繊維を無方向的に均一に分散させることができ、製品の歩留まりを向上させることができる。
【0085】また、前記強化繊維の体積含有率を40%〜60%とすれば、大きな補強効果を得つつ、シート状材料から安全靴用先芯を成形する際の材料の流動性を維持して効率良く先芯を製造することができる。
【0086】また、前記強化繊維をガラス繊維とすれば、製品コストの低廉化を図ることができる。
【0087】また、前記熱可塑性樹脂をナイロン6、ポリプロピレン、又はポリプロピレンの共重合体もしくは変性体を含むポリオレフィレン系樹脂とすれば、成形性、コスト及び軽量性を向上させることができる。
【0088】さらに、前記繊維強化熱可塑性樹脂複合材料を、テープ状の繊維強化熱可塑性樹脂複合材料を10mm〜50mmの長さにカットし、無方向的に分散させながら堆積させ、これを加熱および加圧成形してなるシート状とし、該シート状繊維強化熱可塑性樹脂複合材料をスタンピング成形することにより先芯を成形すれば、前記複合材料における繊維含有率を高め、且つ、含浸状態も良好なものとすることができる。従って、斯かるシート状材料を成形して得られる安全靴用先芯の性能も向上させ得る。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の一実施の形態に係る安全靴用軽量先芯の概略断面図
【図2】従来の複合材料製安全靴用先芯の概略断面図
【符号の説明】
1 天井部分
2 立ち上がり部分
3 肩部
4 アーチ後端
5 底面
 
訂正の要旨 訂正事項
a.特許明細書の請求項1の記載を「安全靴に装着され、外部荷重から着用者を保護する先芯において、繊維強化熱可塑性樹脂複合材料からなり、JIST8101における革製安全靴の普通作業用S種の規格に規定される性能を満足し、且つ、重量が1個当たり45g以下であることを特徴とする安全靴用軽量先芯。」から、「安全靴に装着され、外部荷重から着用者を保護する先芯において、繊維強化熱可塑性樹脂複合材料からなり、JIST8101における革製安全靴の普通作業用S種の規格に規定される性能を満足し、且つ、重量が1個当たり45g以下であり、JIST8101における先芯単体の圧迫試験による、1100kgf負荷時の先芯の底面とアーチ後端の最も変位の大きい箇所とのすきまが25mm以上である安全靴用軽量先芯であって、先芯の肉厚分布において、先芯立ち上がり部分の肉厚に比べて、立ち上がり部分から天井部分に移行する肩部の肉厚の方が厚くなっており、前記繊維強化熱可塑性樹脂複合材料が単層であり、かつ該複合材料における強化繊維が無方向的に分散されており、前記繊維強化熱可塑性樹脂複合材料における強化繊維の平均繊維長が10mm〜50mmの範囲であり、前記繊維強化熱可塑性樹脂複合材料における強化繊維の体積含有率が40%〜60%の範囲であり、前記繊維強化熱可塑性複合材料における強化繊維がガラス繊維であり、前記繊維強化熱可塑性樹脂複合材料における熱可塑性樹脂がナイロン6、ポリプロピレン、またはポリプロピレンの共重合体もしくは変位体を含むポリオレフィン系樹脂であることを特徴とする安全靴用軽量先芯。」に訂正する。そして、これに伴って、特許明細書の請求項2〜8を削除する。
b.特許請求の範囲の【請求項9】を【請求項2】に繰り上げすると共に、請求項9中の「請求項1から8のいずれか」とあるのを「請求項1」に訂正する。
c.発明の詳細な説明の段落【0036】中の「(1)安全靴に装着され、外部荷重から着用者を保護する先芯において、繊維強化熱可塑性樹脂複合材料からなり、JIST8101における革製安全靴の普通作業用S種の規格に規定される性能を満足し、且つ、重量が1個当たり45g以下であることを特徴とする安全靴用軽量先芯。」を、「(1)安全靴に装着され、外部荷重から着用者を保護する先芯において、繊維強化熱可塑性樹脂複合材料からなり、JIST8101における革製安全靴の普通作業用S種の規格に規定される性能を満足し、且つ、重量が1個当たり45g以下であり、JIST8101における先芯単体の圧迫試験による、1100kgf負荷時の先芯の底面とアーチ後端の最も変位の大きい箇所とのすきまが25mm以上である安全靴用軽量先芯であって、先芯の肉厚分布において、先芯立ち上がり部分の肉厚に比べて、立ち上がり部分から天井部分に移行する肩部の肉厚の方が厚くなっており、前記繊維強化熱可塑性樹脂複合材料が単層であり、かつ該複合材料における強化繊維が無方向的に分散されており、前記繊維強化熱可塑性樹脂複合材料における強化繊維の平均繊維長が10mm〜50mmの範囲であり、前記繊維強化熱可塑性樹脂複合材料における強化繊維の体積含有率が40%〜60%の範囲であり、前記繊維強化熱可塑性複合材料における強化繊維がガラス繊維であり、前記繊維強化熱可塑性樹脂複合材料における熱可塑性樹脂がナイロン6、ポリプロピレン、またはポリプロピレンの共重合体もしくは変位体を含むポリオレフィン系樹脂であることを特徴とする安全靴用軽量先芯。」と訂正する。そして、これに伴って、明細書の段落番号【0037】〜【0043】の記載を削除する。
異議決定日 2000-11-21 
出願番号 特願平10-132816
審決分類 P 1 651・ 1- YA (A43B)
P 1 651・ 536- YA (A43B)
P 1 651・ 537- YA (A43B)
P 1 651・ 121- YA (A43B)
最終処分 維持  
前審関与審査官 平瀬 知明  
特許庁審判長 大久保 好二
特許庁審判官 岡本 昌直
岡田 和加子
登録日 1999-08-27 
登録番号 特許第2969518号(P2969518)
権利者 ミドリ安全株式会社 東洋紡績株式会社
発明の名称 安全靴用軽量先芯  
代理人 鈴木 活人  
代理人 掛樋 悠路  
代理人 平井 安雄  
代理人 関 仁士  
代理人 小原 健志  
代理人 掛樋 悠路  
代理人 関 仁士  
代理人 三枝 英二  
代理人 斎藤 健治  
代理人 三枝 英二  
代理人 中川 博司  
代理人 大月 伸介  
代理人 舘 泰光  
代理人 藤井 淳  
代理人 鈴木 活人  
代理人 斎藤 健治  
代理人 長瀬 成城  
代理人 舘 泰光  
代理人 関 仁士  
代理人 掛樋 悠路  
代理人 小原 健志  
代理人 小原 健志  
代理人 斎藤 健治  
代理人 大月 伸介  
代理人 藤井 淳  
代理人 中野 睦子  
代理人 中川 博司  
代理人 舘 泰光  
代理人 三枝 英二  
代理人 中野 睦子  
代理人 中野 睦子  
代理人 藤井 淳  
代理人 中川 博司  

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