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審決分類 審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  B65D
審判 全部申し立て 2項進歩性  B65D
管理番号 1044521
異議申立番号 異議2000-72487  
総通号数 22 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 1992-11-16 
種別 異議の決定 
異議申立日 2000-06-20 
確定日 2001-02-26 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第2991526号「トレイ包装体」の請求項1ないし3に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 訂正を認める。 特許第2991526号の請求項1ないし2に係る特許を維持する。 
理由 I.手続の経緯
特許第2991526号は、平成3年4月16日に出願され、平成11年10月15日に特許権の設定登録がなされ、特許掲載公報が平成11年12月20日に発行され、その後、平成12年6月20日付けで有限会社ツヤチャイルドより特許異議の申立てがなされ、取消理由通知がなされ、その指定期間内である平成12年11月10日に意見書の提出と共に訂正請求がなされたものである。

II.訂正の適否についての判断
(1)訂正の内容
・訂正事項a
特許請求の範囲の
「【請求項1】 トレイならびにこのトレイ上に設置された内容物がフィルムにより包まれており、フィルムがトレイの底部ならびに縁部にてヒートシールされているトレイ包装体であって、前記フィルムは、バリヤー性樹脂層とヒートシール性樹脂層とを含む熱収縮性多層フィルムであることを特徴とするトレイ包装体。
【請求項2】 多層フィルムのガスバリヤー性樹脂層がエチレンビニルアルコール(EVOH)樹脂または塩化ビニリデン(PVDC)系樹脂を主体とし、ヒートシール性樹脂層がポリオレフィン(PO)系樹脂からなる請求項1記載のトレイ包装体。
【請求項3】 多層フィルムの少なくとも内容物に接する層が、防曇剤を含んでいる請求項1記載のトレイ包装体。」
という記載を、
「【請求項1】 トレイならびにこのトレイ上に設置された内容物がフィルムにより包まれており、フィルムがトレイの底部ならびに縁部にてヒートシールされているトレイ包装体であって、前記フィルムは、バリヤー性樹脂層とヒートシール性樹脂層とを含む熱収縮性多層フィルムであって、
その多層フィルムの構成が、
(a)外表層および/または内表層としてポリオレフィン(PO)樹脂からなるヒートシール性樹脂層が配置され、
(b)芯層としてエチレン・ビニルアルコール共重合体(EVOH)からなるバリヤー性樹脂層が配置され、かつ、
(c)前記芯層と共に内層としてポリアミド(PA)樹脂層が配置されているものである
熱収縮性多層フィルムであることを特徴とするトレイ包装体。
【請求項2】 多層フィルムの少なくとも内容物に接する層が、防曇剤を含んでいる請求項1記載のトレイ包装体。」
と訂正する。
・訂正事項b
明細書の段落【0004】の
「特徴とするトレイ包装体及びそのトレイ包装体がピロー包装機により包装されることを特徴とするトレイ包装体の製造方法である。」という記載を、
「特徴とするトレイ包装体である。」
と訂正する。
・訂正事項c
明細書の段落【0005】の
「多層フィルムの構成は、例えば、ガスバリヤー性樹脂層が、エチレンビニルアルコール(EVOH)樹脂またはポリ塩化ビニリデン(PVDC)系樹脂で、ヒートシール性樹脂層がポリオレフイン(PO)樹脂である。すなわちガスバリヤー性樹脂層となる例えばPVDC樹脂、EVOH樹脂は、これら単独ではヒートシール性が劣るため、ヒートシール層を別に設けている。」
という記載を、
「多層フィルムの構成は、ガスバリヤー性樹脂層が、エチレンビニルアルコール(EVOH)樹脂で、ヒートシール性樹脂層がポリオレフィン(PO)樹脂である。すなわちガスバリヤー性樹脂層となるEVOH樹脂は、これ単独ではヒートシール性が劣るため、ヒートシール層を別に設けている。」
と訂正する。
・訂正事項d
明細書の段落【0008】の
「エチレンビニルアルコール(EVOH)樹脂またはポリ塩化ビニリデン(PVDC)樹脂によるバリヤー層は、酸素バリヤー性を具備しているため、外気を遮断でき、内容物の保存性を高めることができる。」
という記載を、
「エチレンビニルアルコール(EVOH)樹脂からなるバリヤー層は、酸素バリヤー性を具備しているため、外気を遮断でき、内容物の保存性を高めることができる。」
と訂正する。
・訂正事項e
明細書の段落【0010】の
「本発明の第1の形態は、」
という記載を、
「本発明では、」
と訂正する。
・訂正事項f
明細書の段落【0013】の
「3)また必要に応じて強度保持のために、」
という記載を、
「3)また、強度保持のために、」
と訂正する。
・訂正事項g
明細書の段落【0014】の
「なお、強度、特に低温強度を要求しない場合には、上記構成において内層のPA層を除くこともできる。」という記載を削除する。
・訂正事項h
登録時明細書の段落【0017】乃至【0022】の記載を削除する。
・訂正事項i
登録時明細書の段落【0023】の
「本発明に使用される前記第1の形態と第2の形態の多層フィルムは、」
という記載を、
段落【0017】とし、「本発明に使用される前記の多層フィルムは、」
と訂正する。
・訂正事項j
登録時明細書の段落【0026】の
「図5に示すように、内容物11が乗せられたトレイ10が前記第1または第2の形態の多層フィルムFにより包まれ、」
という記載を、
段落【0020】とし「図5に示すように、内容物11が乗せられたトレイ10が前記の多層フィルムFにより包まれ、」
と訂正する。
・訂正事項k
登録時明細書の段落【0028】の
「以上の工程で、図5に示すように、EVOH樹脂またはPVDC系樹脂とPO樹脂との多層フィルムを使用したトレイ包装体が完成する。」
という記載を、
段落【0022】とし、「以上の工程で、図5に示すように、EVOH樹脂とPO樹脂との多層フィルムを使用したトレイ包装体が完成する」
と訂正する。
・訂正事項l
登録時明細書の段落【0030】の
「以下の実施例-1から実施例-6では、第1の形態の多層フィルム、すなわちEVOH樹脂をガスバリヤー層とし、PO樹脂をヒートシール層とした多層フィルムを使用し、実施例-7では、第2の形態の多層フィルム、すなわち、PVDC系樹脂をガスバリヤー層としPO樹脂をヒートシール層とした多層フィルムを使用した。」
という記載を、 .
段落【0024】とし、「以下の実施例-1から実施例-6では、EVOH樹脂をガスバリヤー層とし、PO樹脂をヒートシール層とした多層フィルムを使用した。」
と訂正する。
・訂正事項m
登録時明細書の段落【0056】乃至【0058】の記載を削除する。
・訂正事項n
登録時明細書の段落【0059】の
「トレイ包装体用のフィルムとしてエチレンビニルアルコール(EVOH)樹脂またはポリ塩化ビニリデン(PVDC)などのバリヤー層とポリオレフィン(PO)樹脂などのヒートシール層との多層フィルムを使用し、」
という記載を、
段落【0046】とし、「トレイ包装体用のフィルムとしてエチレンビニルアルコール(EVOH)樹脂からなるバリヤー層とポリオレフィン(PO)樹脂などのヒートシール層との多層フィルムを使用し、」
と訂正する。
・訂正事項o
登録時明細書の段落【0060】の
「またポリ塩化ビニリデン(PVDC)をバリヤー層として使用した電子線照射された多層フィルムの場合には耐熱性に優れているため、ヒートシール部に破れ(メルトホール)が生じることがなく、外観の良好な包装体を得ることができる。」
という記載を削除する。
(2)訂正の目的の適否、新規事項の追加及び拡張・変更の存否
訂正事項aは、特許明細書の特許請求の範囲の請求項1に記載された「バリヤー性樹脂層とヒートシール性樹脂層とを含む熱収縮性多層フィルム」について、「その多層フィルムの構成が、
(a)外表層および/または内表層としてポリオレフイン(PO)樹脂からなるヒートシール性樹脂層が配置され、
(b)芯層としてエチレン・ビニルアルコール共重合体(EVOH)からなるバリヤー性樹脂層が配置され、かつ、
(c)前記芯層と共に内層としてポリアミド(PA)樹脂層が配置されているものである」
熱収縮性多層フィルムに限定しようとするものである。
本件発明で使用する熱収縮性多層フィルムが、外表層および/または内表層としてポリオレフィン(PO)樹脂からなるヒートシール性樹脂層を有するものであることは、本件明細書(訂正前の明細書)の段落番号【0010】、【0012】、【0014】、【0032】に記載されており、芯層としてエチレン・ビニルアルコール共重合体(EVOH)を使用することは、本件明細書(訂正前の明細書)の段落番号【0005】、【0008】、【0010】〜【0014】、【0031】、【0032】に記載されており、前記芯層と共に内層としてポリアミド(PA)樹脂層を配置することは、本件明細書(訂正前の明細書)の段落番号【0013】に記載があり、【0014】や実施例(【0032】)などに支持する記載がある。
また、当初の請求項2の削除は、請求項1において、バリヤー性樹脂層及びヒートシール性樹脂層の材質を限定する訂正を行ったことに伴うものであり、請求項3を請求項2に訂正する補正は、当初の請求項2の削除に伴うものである。
したがって、訂正事項aは特許請求の範囲の減縮に該当し、新規事項の追加ではなく、実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものでもない。
訂正事項bないしoは、いずれも特許請求の範囲の減縮に伴い、それに対応させるためのものであるから、明りょうでない記載の釈明に該当する。
(3)むすび
したがって、訂正事項aないしoは、いずれも特許法等の一部を改正する法律(平成6年法律第116号)附則第6条第1項の規定によりなお従前の例によるとされる、特許法第120条の4第3項において準用する平成6年法律第116号による改正前の特許法第126条第1項ただし書、第2項および第3項の規定に適合するので、当該訂正を認める。

III.特許異議の申立てについての判断
(1)請求項1および2に係る発明
本件請求項1および2に係る発明(以下、「本件発明1」、「本件発明2」という。)は、前記訂正が認められた結果、平成12年11月10日付けで提出された全文訂正明細書の特許請求の範囲の請求項1および2に記載された以下のとおりのものである。
「【請求項1】 トレイならびにこのトレイ上に設置された内容物がフィルムにより包まれており、フィルムがトレイの底部ならびに縁部にてヒートシールされているトレイ包装体であって、前記フィルムは、バリヤー性樹脂層とヒートシール性樹脂層とを含む熱収縮性多層フィルムであって、
その多層フィルムの構成が、
(a)外表層および/または内表層としてポリオレフィン(PO)樹脂からなるヒートシール性樹脂層が配置され、
(b)芯層としてエチレン・ビニルアルコール共重合体(EVOH)からなるバリヤー性樹脂層が配置され、かつ、
(c)前記芯層と共に内層としてポリアミド(PA)樹脂層が配置されているものである
熱収縮性多層フィルムであることを特徴とするトレイ包装体。
【請求項2】 多層フィルムの少なくとも内容物に接する層が、防曇剤を含んでいる請求項1記載のトレイ包装体。」
(2)申立ての理由の概要
申立人有限会社ツヤチャイルドは、証拠として
・甲第1号証:PPS REPORT NO.38、1991年1月
・甲第2号証:「Packaging Digest」SEPTEMBERI990,表紙およびp50
・甲第3号証:特開昭64-87345号公報
・甲第4号証:特開昭58-20663号公報
・甲第5号証:特開平2-187441号公報
・甲第6号証:「プラスチック押出成形の最新技術」1993年6月25日
pl17〜119
を提出し、本件の(登録時の)請求項1ないし3に係る特許は、出願前に頒布された刊行物である甲第1号証または甲第2号証に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、あるいは、出願前に頒布された刊行物である甲第1号証ないし甲第5号証に記載された各発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、取り消されるべきものであると主張している。
(3)申立人が提出した甲各号証の記載事項
・甲第1号証
バリヤ性シュリンクフイルムによるターキーのガス置換包装について以下の記載がある。
ア)「トレイに入れてガス置換シュリンク包装されたターキーのシエルフライフは、冷蔵で10日間であり、小売価格は1.99ドル/ポンド(570円/Kg)である。従来は、発砲PSトレイにターキーを入れ、バリヤ性の無いフィルムでオーバラップシールを行っていたがシエルフライフは短かかった。現在は、発砲PSトレイにターキーを置き、バリヤ性の共押出シュリンクフイルムの袋に入れ、炭酸ガスと酸素の混合ガスで置換し、少し脱気してから完全気密包装を行い、ヒートトンネルを通し収縮させている。」(4〜13行)
イ)「ガス置換し袋の開口部をヒートシールする前に、少し脱気する。袋の開口部をヒートシールする前に、上部から板が降りて来て、全体を押してパッケージの容積を小さくしてから開□部のヒートシールを行う。」(22〜25行)
ウ)右上図および右中図には、包装体の前後縁部がシールされていることが示されている。
・甲第2号証
エ)「口から供給されるフィルムはトレイにいれた肉のまわりをくるんでトレイの底部でヒートシールされる(右図)」(右下図説明文)
オ)「往復運動をするシールヘッド(上図)が制御された時間、温度および圧力の下にシールされて、確実に密封したシールをつくる。」(中央図説明文)
・甲第3号証
多層熱収縮性包装フィルムに関するものであり、以下の記載がある。
カ)「熱収縮性の熱可塑性フィルムは非食品および食品製品、例えば肉、チーズ家きんなどの包装に使用されている。」(2頁左上欄10〜12行)
キ)「第1外側層のエチレン-酢酸ビニルのメルト・インデックスが第2外側層のエチレン-酢酸ビニルのメルト・インデックスと異なる第1及び第2外側エチレン-酢酸ビニル共重合体層と該外側層の間の中心バリヤ層とを含んでなり、且つエチレン-酢酸ビニル層が実質的に同一のメルト・インデックスのエチレン-酢酸ビニルである対比しうる多層フィルムの配向速度よりも約20%速い速度で配向せしめた熱可塑性、多層、熱収縮性の包装フィルム」(特許請求の範囲請求項2)
ク)「バリヤ層は、塩化ビニリデン共重合体(通常サランとして公知)を含んでいる層からなっていてよく、或いは好ましくは少なくとも約50%、最も好ましくは約99%以上まで加水分解したエチレン-酢酸ビニル(EVOH)を含んでなる層からなっていてもよく、或いは塩化ビニリデン共重合体を含んでなる層及びEVOHを含んでなる層の両方からなっていてよい。(EVOHはエチレン-ビニルアルコール共重合体としても公知である。)」(6頁左上欄6〜15行)
ケ)「そのようなフィルムを袋にする場合、熱シール層1はそれが袋の内側になるから「内部」又は「内側」層であり、そして「外側」層は袋の外側となった。」(10頁右上欄3〜6行)
・甲第4号証
包装用ストレッチフィルムに関するものであり、以下の記載がある。
コ)「前記樹脂100重量部に対し0.1〜4.5重量部の防曇剤を添加してなることを特徴とする特許請求の範囲第1項記載の包装用ストレッチフィルム」(特許請求の範囲第2項)
サ)「得られたストレッチフィルムを用い発泡スチロール製トレイ(サイズ80m/m×200m/m)上に胡瓜7本をのせて自動ストレッチ包装機(大森機械工業(株)製ST-6090型機)にて自動包装を行った。」(4頁左上欄17〜21行)
・甲第5号証
防曇性に優れた熱収縮性ポリプロピレン系フィルムに関するものであり、以下の記載がある。
サ)「界面活性剤を添加したフィルムであって、高含水物を包装し、(1)1℃、(2)15℃、(3)30℃で保存した場合に、内面に水滴ないしは水膜が付着した状態でのへイズが各々(1)7.0%以下、(2)6.0%以下、(3)5.0%以下であることを特徴とする防曇性に優れた熱収縮性ポリプロピレン系フィルム。」(特許請求の範囲請求項1)
シ)「これらのうち、熱収縮性ポリプロピレン系フィルムは、透明性、光沢、防湿性、ヒートしシール強度、結束性、シール時に塩酸ガスが発生しない等の衛生性に優れており、力ツプめん、乳酸菌飲料、ピザ、かまぼこ、箱物の菓子等の食品のみならず、エアゾール缶、ノート等の非食品にも広く使用されている。」(1頁右下欄18行〜2頁左上欄4行)
・甲第6号証
ス)T型多層ダイの機構とその進歩について、「多層フィルム・シート成形技術としては、コ・工クストルージョン,T-ダイ法による方法が最も普及しているので、・・・」と記載されている。
(4)当審の判断
1)請求項1に係る発明について
本件発明1と甲第1号証および甲第2号証記載の発明とを対比すると、両者は、トレイならびにこのトレイ上に設置された内容物がフィルムにより包まれており、フィルムがトレイの底部ならびに縁部にてヒートシールされているトレイ包装体であって、前記フィルムは、バリヤー性とヒートシール性とを有する熱収縮性多層フィルムである点で共通するものであるが、多層フィルムの具体的構成において相違するものである。すなわち、本件発明1の多層フィルムは、「(a)外表層および/または内表層としてポリオレフィン(PO)樹脂からなるヒートシール性樹脂層が配置され、(b)芯層としてエチレン・ビニルアルコール共重合体(EVOH)からなるバリヤー性樹脂層が配置され、かつ、(c)前記芯層と共に内層としてポリアミド(PA)樹脂層が配置されているものである」のに対し、甲第1号証および甲第2号証記載の発明の多層フィルムは、全体としてバリヤー性とヒートシール性とを有するものであることは明らかであるが、バリヤー性を有する層とヒートシール性を有する層とが各別の層であること、それらの層が前記(a)および(b)の材質のものであること、は明らかではない。(甲第1号証・下から3行目参照)さらに、前記(c)の層を有することについては全く不明である。
そして、本件発明1は甲第1号証および甲第2号証にはない前記構成を有することにより、気密性に優れ、食品の日持ちを向上させることができることに加えて、落下等に対しても破壊することがない包装体を得ることができるという優れた効果を奏するものである。
申立人は、甲第1号証の記載アおよびイは、多層フィルムがバリヤー性樹脂層とヒートシール性樹脂層とよりなることを示すものである旨主張するが、この記載は前述のように各層の具体的構成を開示や示唆するものではなく、多層フィルムが全体として バリヤー性とヒートシール性を有することを開示するに留まるものであるから、この主張は採用できない。
申立人はさらに、甲第3号証の記載を参酌すれば、甲第1号証または甲第2号証記載の多層フィルムがバリヤー性樹脂層とヒートシール性樹脂層とを有するものであることを当業者が容易に理解できるものであると主張する。
しかしながら、前述のとおり、甲第1号証または甲第2号証記載の多層フィルムが、各別のバリヤー性樹脂層とヒートシール性樹脂層とを有するものであることは明確ではなく、甲第3号証にバリヤー性樹脂層とヒートシール性樹脂層とからなる多層フィルムが記載されているからといって、甲第1号証または甲第2号証記載の多層フィルムが、一義的に各別のバリヤー性樹脂層とヒートシール性樹脂層とを有するものであると理解する根拠とはなりえず、この主張も採用できない。
また、甲第3号証記載の発明は、フィルム自体またはこのフィルムから作った袋を熱収縮させて包装するものに関するものであり、本件発明1のようにトレイの熱収縮包装を目的とするものではなく、さらに、本件発明1と甲第3号証記載の発明における多層フィルムとは(a)層の材質が異なり、後者は(c)層を有しないので、甲第3号証記載の多層フィルムを甲第1号証または甲第2号証記載のトレイ包装体に適用しても、本件発明1の構成を得ることはできない
したがって、本件発明1は、甲第1号証または甲第2号証記載の発明であるとも、甲第1号証ないし甲第3号証記載のものから当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえず、本件請求項1に係る特許は、特許法第29条第1項第3号または同法第29条第2項の規定に違反してなされたものではない。
2)請求項2に係る発明について
本件発明2は、請求項1に係る発明を防曇剤を含むものとして更に構成を限定したものであるから、甲第4号証および甲第5号証の存在をもってしても、前記請求項1に係る発明についての判断と同様の理由により、甲第1号証または甲第2号証記載の発明であるとも、甲第1号証ないし甲第3号証記載のものから当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえず、本件請求項2に係る特許は、特許法第29条第1項第3号または同法第29条第2項の規定に違反してなされたものではない。
(5)むすび
したがって、特許異議の申立ての理由及び証拠によっては、本件特許請求の範囲の請求項1および2に係る特許を取り消すことはできない。また、他に本件特許請求の範囲の請求項1および2に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
トレイ包装体
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】 トレイならびにこのトレイ上に設置された内容物がフィルムにより包まれており、フィルムがトレイの底部ならびに縁部にてヒートシールされているトレイ包装体であって、前記フィルムは、バリヤー性樹脂層とヒートシール性樹脂層とを含む熱収縮性多層フィルムであって、
その多層フィルムの構成が、
(a)外表層および/または内表層としてポリオレフィン(PO)樹脂からなるヒートシール性樹脂層が配置され
(b)芯層としてエチレン・ビニルアルコール共重合体(EVOH)からなるバリヤー性樹脂層が配置され、かつ、
(c)前記芯層と共に内層としてポリアミド(PA)樹脂層が配置されているものである
熱収縮性多層フィルムであることを特徴とするトレイ包装体。
【請求項2】 多層フィルムの少なくとも内容物に接する層が、防曇剤を含んでいる請求項1記載のトレイ包装体。
【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】
本発明は、食品などがトレイ内に設置された状態でトレイと共にフィルムにより包まれているトレイ包装体に係り、特にバリヤー性のフィルムを使用したトレイ包装体に関する。
【0002】
【従来の技術】
従来から、畜肉加工品、生肉、鮮魚、生菓子などが、発泡ポリスチレン(PSP)製などのトレイに設置され、これらの内容物とトレイとがフィルムにより包まれたトレイ包装体が使用されている。従来のこの種のトレイ包装体に使用されているフィルムとしては、ポリ塩化ビニル(PVC)、ポリエチレンなどのポリオレフィン、ポリブタジエンなどのストレッチフィルムが使用されている。このトレイ包装体の包装形態としては、トレイならびに内容物に対し上方からフィルムがかぶせられ、このフィルムの縁部がトレイの底部にて互いにオーバラップした状態に畳まれている。そしてフィルムに包まれた状態のトレイがホットテーブル上に送られ、トレイの底部に重ねられたフィルムがホットプレートにて加熱され、フィルムの縁部どうしが互いに熱圧着された状態になっている。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら従来のこの種のトレイ包装体では、包装用フィルムとして前述のポリ塩化ビニル、ポリエチレンなどのように酸素や水蒸気に対するバリヤー性に欠ける樹脂フィルムが使用されており、さらにトレイ底部におけるフィルムのオーバラップ部分がホットテーブルにより弱く熱圧着されているだけであるため、気密性の劣るものとなっている。よって従来のトレイ包装体では食品などの長期間の保存に適せず、内容物の日持ちが悪く、またある程度日数を経ると内容物の変質や目減りが生じるなどの不都合がある。特に従来のトレイ包装体に使用されているフィルムは酸素に対するバリヤー性がないため、内容物と共に脱酸素剤を入れたとしても、内部の酸素濃度を低下させることはできない。そのため従来のこの種のトレイ包装体は、日配食品などのように保存性を要しない分野においてのみ使用されている。本発明は、上記従来の課題を解決するものであり、気密性に優れ、食品などの日持ちをよくし、また脱酸素剤を封入することもでき、従来の日配食品以外の保存食品にも適用できるトレイ包装体を提供することを目的としている。
【0004】
【課題を解決するための手段】
本発明は、トレイならびにこのトレイ上に設置された内容物がガスバリヤー性樹脂層とヒートシール性樹脂層とを含む熱収縮性多層フィルムにより包まれており、このフィルムがトレイの底部ならびに縁部でヒートシールされていることを特徴とするトレイ包装体である。
【0005】
多層フィルムの構成は、ガスバリヤー性樹脂層が、エチレンビニルアルコール(EVOH)樹脂で、ヒートシール性樹脂層がポリオレフィン(PO)樹脂である。すなわちガスバリヤー性樹脂層となるEVOH樹脂は、これ単独ではヒートシール性が劣るため、ヒートシール層を別に設けている。また、包装される内容物特にトレイとフィルムとが密着していることが包装品の外観をよくすることになり、よって熱収縮性の多層フィルムが使用されている。さらに、多層フィルムの、少なくとも内容物に面する層に、防曇剤を含有させることが好ましい。
【0006】
本発明では、ガスバリヤー性樹脂層と、ヒートシール性樹脂層とを含み且つ熱収縮性を付与された多層フィルムを使用し、この多層フィルムによりトレイならびに内容物を包装したいわゆるピロー包装の形態としている。このピロー包装の形態は、トレイならびに内容物を多層フィルムによりピロー包装機で包装して、前記ヒートシール性樹脂層により、トレイの底部ならびに縁部にて多層フィルムどうしをヒートシールすることにより気密性を高める。さらにシール完了後に、多層フィルムを熱収縮させたものである。
【0007】
ここで、フィルムのヒートシール強度は800g/15mm以上、好ましくは1000g/15mm以上が望ましい。ヒートシール強度が800g/15mmに満たないと熱収縮時にシール部からやぶれが生じることがある。また、フィルムの熱収縮率は、90℃、3秒でフィルムの長手方向及び横手方向共に20%以上、好ましくは25%以上が望ましい。
【0008】
エチレンビニルアルコール(EVOH)樹脂からなるバリヤー層は、酸素バリヤー性を具備しているため、外気を遮断でき、内容物の保存性を高めることができる。またポリオレフィン(PO)樹脂などのヒートシール層を含み且つ熱収縮性が付与された多層フィルムを使用し、トレイの底部ならびに縁部にてヒートシール層どうしをヒートシールした後に加熱室(シュリンクトンネル)を通過させて多層フィルムを熱収縮させたピロー包装体の形態としているため、多層フィルムとトレイとが密着して密閉性のよい包装体となる。また少なくとも多層フィルムの内容物と面する層に防曇剤を含ませることにより、冷蔵庫から取り出した後に水滴による曇りが生じることがなく、外観の良好な包装体を得ることができる。
【0009】
本発明によるトレイ包装体は、従来のものと異なり酸素バリヤー性を具備しているものであるため、脱酸素剤を入れることにより内部の酸素濃度を低下させることができる。またトレイを多層フィルムにて包む際に、その内部をガス置換することにより、内部の雰囲気を望ましい組成に長時間維持できるようになる。よってポリ塩化ビニルなどを使用した従来のトレイ包装体では予期し得ないような格段の鮮度保持が可能となる。
【0010】
以下本発明の構成を詳細に説明する。
(多層フイルムの構成)
本発明では、エチレン・ビニルアルコール共重合体(EVOH)をバリアー層(芯層)とし、ポリオレフィン(PO)樹脂をヒートシール層(外表層および/または内表層)とした熱収縮性を有する多層フィルムを使用している。
【0011】
1)芯層となるEVOHとしては、一般に市販のエチレン含有量が29〜44モル%、ケン化度が99%以上のEVOHまたはその変性品を使用し得るがこれに限定されるものではない。
【0012】
2)外表層または内表層となるポリオレフィン(PO)樹脂としては、一般に押出グレードの低密度ポリエチレン(LDPE)、直鎖状低密度ポリエチレン(LLDPE)、極低密度ポリエチレン(VLDPE)、エチレン酢酸ビニル共重合体(EVA)などが適宜使用可能である。
【0013】
3)また、強度保持のために、前記芯層と共に内層としてポリアミド(PA)樹脂層が使用されるが、このポリアミド樹脂としては、公知の脂肪族PA、例えば6-Ny、6-66Nyの共重合体、6-12Nyの共重合体、または6-66Nyと6-12Nyとの共重合体、芳香族PA例えばSelarPA(デュポン社製)などで、これらの単一またはポリマーアロイ(ブレンド物)が用いられる。
【0014】
4)さらに、上記1)から3)の各層からなる多層フィルムを共押出しするに当たり、公知の接着剤層が適宜用いられる。本発明の第1の形態の多層フィルムの具体的な構成例としては、外表層(包装体の外に向く面)から内表層(内容物に向く面)へ順に、
a)EVA/接着性樹脂/PA/EVOH/接着性樹脂/VLDPE
厚さは例えば順に(3/1.5/6/4/1.5/14)(単位はμm)
b)VLDPE/接着性樹脂/PA/EVOH/接着性樹脂/VLDPE
厚さは例えば順に(3/1.5/6/4/1.5/14)(単位はμm)
などである。また耐熱性を要求される場合は、外表層または内表層の少なくとも一方のEVAやVLDPEに置き代えて、耐熱性、透明性の優れたポリエステル(PET)、コーポリエスチル(CO-PET)を適宜用いることができる。さらに、内表層(内容物に面する層)となるEVAやVLDPEなどに、曇りを防止する為に防曇剤を添加することが好ましい。
【0015】
この防曇剤は市販のものでいわゆる防曇剤または防滴剤と称されるものであり、内層のポリオレフィン樹脂との相溶性があるものが使用される。その例としては、ソルビタン脂肪酸エステル、グリセリン脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、プロピレングリコール脂肪酸エステル、特殊多価アルコール脂肪酸エステル、エチレンオキサイド付加物(ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル)などの中から適宜選ばれたもの、またはそれらの混合物などが用いられる。なお防曇剤としてはこれらに限られるものではない。
【0016】
防曇剤の使用量(添加量)は対樹脂で0.05〜3重量%程度が一般に用いられるが、防曇効果を得るために適宜調整できる。一般的には、防曇剤の添加量として対樹脂で0.05重量%より少ないと、十分な防曇効果は得られず、対樹脂で3重量%よりも多いと防曇剤がブリードするおそれが生じ、フィルムの外観、特に高級感が失われる。
【0017】
本発明に使用される前記の多層フィルムは、公知のインフレーションプロセスまたはバブルプロセスと呼ばれる工程にて製造される。本発明のトレイ包装体に使用される多層フィルムの各層の厚さは前述のとおりであるが、フィルム全体の厚さとしては15〜80μm程度のものであり、最も好ましい厚さは20〜40μm程度である。
【0018】
(使用するトレイ)
本発明のトレイ包装体に使用されるトレイは、従来から使用されているものであり、例えば発泡ポリスチレン(PSP)トレイ、ハイインパクトポリスチレン(HIPS)トレイ、延伸ポリスチレン(OPS)トレイ、ポリプロピレン(PP)トレイなどである。
【0019】
(使用する脱酸素剤)
脱酸素剤を内容物と共に包装する場合に、脱酸素剤としては、例えば三菱瓦斯化学株式会社製の「エージレス」(登録商標)、や日本曹達株式会社製の「セキュール」(登録商標)などが用いられる。
【0020】
(包装体の製造方法)
本発明のトレイ包装体の製造方法はいわゆるピロー包装であり、完成した状態では、図5に示すように、内容物11が乗せられたトレイ10が前記の多層フィルムFにより包まれ、ヒートシール層によりトレイ底部にて多層フィルムどうしがセンターシール(S1で示す)され、さらにトレイ10の縁部がヒートシール(S2で示す)され、加熱工程により多層フィルムFが熱収縮されたものである。
【0021】
図6は、市販のピロー自動包装機の構造の概略を示し、図1から図4まではこの自動包装機による包装工程を順に示している。まず図6において(A)で示すように、荒挽きロングウインナーソーセージなどの内容物11が入れられたトレイ10(図1参照)が搬送コンベア21により送りこまれる。次に図6に示す原反Rから前記多層フィルムFが引出され、図1に示すようにトレイ10上に多層フィルムFが被せられる。図6の(B)で示す位置では、トレイ10とフィルムFが共に矢印方向へ送られ、図2に示すように、フィルムFの幅方向両縁部F1とF2がガイド部材により導かれて合掌(Fin)状態に合わされ、さらに図3に示すように、ロータリーシーラー22によりトレイ10の底部にて前記縁部F1とF2がセンターシール(S1で示す)される。その後図6における(C)の位置にて、多層フィルムFの前後の縁部F3とF4がエンドシーラ23と24により溶着され且つ溶断される。この溶着状態は図4に示す。なお溶着後に切断するカッターをエンドシーラ23、24と別個に設けてもよい。これにより図5に示すように、トレイの前後縁部にて多層フィルムFがエンドシール(S2で示す)される。さらに図6において25で示す加熱室へ送られ、多層フィルムFが熱収縮されて多層フィルムFがトレイ10に密着する。
【0022】
以上の工程で、図5に示すように、EVOH樹脂とPO樹脂との多層フィルムを使用したトレイ包装体が完成する。なお、前記シール線S1とS2を形成する際に、フィルムF内の空気抜きを行なってもよい。このようにしてフィルムFの縁部を溶着したトレイ包装体は、内部が完全に密閉されたものとなる。よって内容物11と共に前記脱酸素剤を入れることにより、内部の酸素濃度を低下させることができる。また上記の包装工程において、包装体内部の空気を保護ガス(用途によって変わるが、例えば窒素などを主体とするガス)と置換することも可能である。
【0023】
上記において説明したピロー包装の構造では、図3ならびに図5に示すように、多層フィルムFの縁部F1ならびにF2および多層フィルムの前縁F3と後縁F4をトレイに近い位置にてヒートシールしているが、多層フィルムの各縁部をトレイ10から離れた位置にてヒートシールしてS1とS2で示すシール部を形成し、このシール部ならびにトレイから延びているフィルムをトレイ底部に折りたたむようにしてもよい。
【0024】
【実施例】
以下本発明の実施例を説明する。以下の実施例-1から実施例-6では、EVOH樹脂をガスバリヤー層とし、PO樹脂をヒートシール層とした多層フィルムを使用した。
【0025】
(実施例-1)
(1)使用したフィルム
本実施例に使用したフィルムは、エチレンビニルアルコール(EVOH)樹脂をガスバリヤー層とするポリオレフィン(PO)樹脂との多層フィルムからなる二軸延伸フィルムである。具体的には呉羽化学工業株式会社製の「HT-10」(商品名)で、厚さ30μmの多層フィルムを使用した。この多層フィルムの構成ならびに各層の厚さは以下のとおりである。
【0026】
まず層の構成は外表層から内表層に向かって順に、
EVA/接着性樹脂/PA/EVOH/接着性樹脂/VLDPEで、各層の内容は、
EVA:(VAC含有量7.5%)
PA:(6-66Ny共重合体と6-12Ny共重合体の7:3ブレンド品)
EVOH:エチレン含有量47モル%
VLDPE:比重0.905、融点121℃
接着性樹脂:EVA(VAC含有量9%)
であり、その各層の厚さは順に、
3/1.5/8/4/1.5/14 (単位はμm)
合計30μmである。
この多層フィルムの内表層となるVLDPE(上記の最右部に記載されたもの)には、防曇剤としてジクリセリンモノオレートを0.6重量%を添加した。なお、多層フィルムの物性は次の表1の通りである。
【0027】
【表1】
(厚み) 30μm(多層フィルム)
(酸素透過度)ASTM-D-1434.66による酸素透過度(気温30℃、相対湿度100%)は、120cc/m2・24hr・atm
(透湿度)ASTM-E-96-66による透湿度(気温40℃、相対湿度90%)は、20g/m2・24hr
(熱水収縮率)100℃の沸水内3秒での収縮率は30%(縦、横)
(2)使用したトレイ
市販の発泡ポリスチレン(PSP)トレイを使用した。サイズは(190mm×117mm×14mm)である。
(3)使用した脱酸素剤
日本曹達株式会社製の商品名「セキュールex」(登録商標)を使用した。
(4)内容物
製造直後の荒挽きロングウインナーソーセージ(直径1.7cm、長さ17〜19cm)を8本使用した。
(5)包装形態
【0028】
前記トレイに内容物(荒挽きロングウイナーソーセージを8本)ならびに前記脱酸素剤を入れ、図6に示したような市販のピロー包装機を使用し、図1から図5に示したのと同じ工程でピロー包装によるトレイ包装体を製造した。完成した包装体は図5に示したとおりである。多層フィルムによる包装が完了した後に、130℃、5秒で加熱室(シュリンクトンネル)25を通過させて、フィルムを収縮させた。
【0029】
(比較例)
比較例としては、実施例-1と同じトレイに同じ内容物を入れ、ポリエチレンストレッチラップフィルムにより包装した。また実施例-1と同じ脱酸素剤を入れた。この比較例において使用した前記ポリエチレンストレッチラップフィルムの物性は次の表2に示す通りである。
【0030】
【表2】
(厚み) 15μm(単層フィルム)
(酸素透過度)
ASTM-D-1434.66による酸素透過度(気温30℃、相対湿度65%)は、1.1×104cc/m2・24hr・atmであった。
(透湿度)
ASTM-E-96-66による透湿度(気温40℃、相対湿度90%)は、52g/m2・24hrであった。
(評価方法)
前記実施例-1ならびに比較例の各トレイ包装体(包装試料)に対して保存テストを実施した。この保存テストでは、各包装試料を、蛍光灯(1300Lux)の下(直下100cm)で10℃の温度にて保存し、以下の各評価を行なった。
(評価項目)
(1)褪色:
肉眼で褪色度合いを比較した。
(2)包装体内部の酸素濃度:
東レ株式会社製のジルコニア式酸素分析計を使用して包装体内部の酸素濃度を測定した。
(3)臭い:
開封後直ちに官能によりテストした。
(4)ウインナーソーセージ表面の乾燥度:
ソーセージ表面のシワの発生具合を肉眼で判定した。
(5)落体テスト:
段ボール箱(サイズ:440mm×350mm×100mm)にそれぞれの試料を別々に10個ずつ詰め、それぞれの段ボール箱を76cmの高さから異なる面を下にして3回落下させ、試料の包装フィルムのピンホールの発生の有無を目視で検査した。
(6)防曇性:
各試料を内部温度が5℃の冷蔵庫に貯蔵した後に20℃の外気中に取り出し、そのときのフィルム表面の曇り状態を肉眼で観察した。
各項目の評価結果は以下の表3の通りである。
【0031】
【表3】

【0032】
以上の如く、実施例-1によるトレイ包装体は、比較例のトレイ包装体に比べて、内容物のウインナーソーセージの褪色、臭気、表面の乾燥度などの面で良好であり、また落体強度の点でも強いことが判った。
【0033】
(実施例-2)
内容物を荒挽きロングウインナーソーセージの代りに、スキンレスウインナーソーセージ、スライスロースハム、スライスベーコン、スライスチョップドハムとし、このそれぞれを内容物として、前記実施例-1ならびに比較例と同じ形態のトレイ包装体を製作し、前記と同じ評価方法により同じ項目について評価した。その結果実施例-1の場合と同様の顕著な効果の差が認められた。
【0034】
(実施例-3)
実施例-1と同じフィルムで同じトレイと同じ内容物(荒挽きロングウインナーソーセージ)を包装して、実施例-1と同じ包装形態のトレイ包装体を製造した。ただし本実施例では脱酸素剤を使用せず、ガス置換包装(CAP包装)した。この包装体を製造するにあたっては、実施例-1と同じ市販のピロー包装機を使用し、トレイに多層フィルムをかぶせる際に、その内部にガスフラッシュできるようにした。また比較例としては、実施例-1における比較例と同じフィルムを用いて前記比較例と同じ形態のトレイ包装体を製造し、これについても本実施例と同様に脱酸素剤を入れずに包装内部をガス置換した。
【0035】
この場合の置換ガスの組成は、窒素(N2)/炭酸ガス(CO2):80/20vol%であり、ガス置換率は実施例-3ならびに比較例共に97%以上であることを確認した。(ここでいうガス置換率とは、東レ株式会社製のジルコニア式酸素分析計によって測定した空間部の酸素量を示し、この酸素量をxVol%として、{(21-x)/21}×100で表わされる。)
【0036】
結果は以下の表4の通りである。表4から判るように、ここでも、比較例であるポリエチレンストレッチラップ品に比較し、実施例-3の包装体は、退色、臭いの他、保存性の点で格段の効果が認められた。
【0037】
【表4】

【0038】
(実施例-4)
内容物をスライスした生肉に変え、実施例-3と同様に内部をガス置換したトレイ包装体を製造した。比較例についても、スライスした生肉を内容物として実施例-3における比較例と同じようにガス置換したトレイ包装体を製造した。この場合の置換ガスの組成は、酸素(O2)/炭酸ガス(CO2)=80/20vol%のものを用いた。トレイは発泡ポリスチレントレイであり、サイズは、180mm×127mm×30mmのものを使用した。内容物となる生肉の量は100g、また包装体内部のガス置換率は97%であった。
この実施例-4と比較例との保存テストの結果は以下の表5の通りである。
【0039】
【表5】

【0040】
(実施例-5)
本実施例では、実施例-1と同じフィルムで同じ包装形態とし、内容物を荒挽きロングウインナーソーセージに代えて、饅頭(生菓子)とした。また比較例としては、実施例-1における比較例と同じ包装形態とし、内容物を饅頭とした。実施例-5ならびに比較例共に脱酸素剤を用い、それぞれのトレイ包装体を20℃で保存テストした。
(内容物) 饅頭:6ケ(つぶあん入り)
(脱酸素剤)エージレスS、1ケ
結果は表6の通りである。(EVOHを使用)
【0041】
【表6】

【0042】
本実施例では、特に目減り防止と日持ちに顕著な効果が認められた。
【0043】
(実施例-6)
実施例-3のガス置換の包装形態において、内容物を荒挽きロングウインナーソーセージから鮮魚の切り身に変え、置換ガスの組成を、窒素(N2)/炭酸ガス(CO2)=70/30vol%とした。また比較例も同様にして製造し、それぞれ5℃で保存テストをした。なお、ガス置換率は97%であった。
(内容物)鮮魚の切り身としてハマチ100gを用いた。
結果は表7の通りである。(保存温度5℃)
【0044】
【表7】

【0045】
本実施例では、ハマチの切り身の鮮度保存にも有効である。
【0046】
【発明の効果】
以上のように、本発明によれば、トレイ包装体用のフィルムとしてエチレンビニルアルコール(EVOH)樹脂からなるバリヤー層とポリオレフィン(PO)樹脂などのヒートシール層との多層フィルムを使用し、このヒートシール層により多層フィルムを熱溶着したため、従来のトレイ包装体では得られなかった酸素ならびに水蒸気のバリヤー性を期待できるようになり、気密性に優れ長期保存が可能なトレイ包装体を得ることができるようになる。また包装体内部に脱酸素剤を入れ、または包装体内部をガス置換した場合、多層フィルムのバリヤー性により包装体内部の雰囲気を食品などの保存に適した状態に維持でき、食品の日持ちなどが大幅に向上される。よって従来は目配食品などに限られていたトレイ包装体を、ある程度の期間継続して店頭に並べる包装体をして使用できるようになる。
【0047】
さらに、電子線照射や、強度保持層を配することでエチレンビニルアルコール(EVOH)樹脂をバリヤー層とするポリオレフィン(PO)樹脂を含む多層フィルムは包装体全体の強度を高めることできる。
さらに、少なくとも内表層に防曇剤を含ませることにより、冷蔵後に外気に触れたときにフィルムに水滴による曇が生じなくなり、外観の良好なトレイ包装体を得ることができるようになる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明によるトレイ包装体を製作する工程のうちトレイに多層フィルムが被せられた状態を示す斜視図。
【図2】多層フィルムの縁部があわせられる状態を示す斜視図。
【図3】多層フィルムがトレイの底部にてセンターシールされる状態を示す正面図。
【図4】多層フィルムがエンドシールされる状態を示す斜視図。
【図5】ピロー包装が完了したものを示す斜視図。
【図6】ピロー包装工程の一例を示す側面図。
【符号の説明】
10 トレイ
11 内容物
F 多層フィルム
S1 センターシール
S2 ヒートシール(エンドシール)
 
訂正の要旨 訂正の要旨
特許第2991526号発明の明細書を、
(A)特許請求の範囲の減縮を目的として、
特許請求の範囲の
「【請求項1】 トレイならびにこのトレイ上に設置された内容物がフィルムにより包まれており、フィルムがトレイの底部ならびに縁部にてヒートシールされているトレイ包装体であって、前記フィルムは、バリヤー性樹脂層とヒートシール性樹脂層とを含む熱収縮性多層フィルムであることを特徴とするトレイ包装体。
【請求項2】 多層フィルムのガスバリヤー性樹脂層がエチレンビニルアルコール(EVOH)樹脂または塩化ビニリデン(PVDC)系樹脂を主体とし、ヒートシール性樹脂層がポリオレフィン(PO)系樹脂からなる請求項1記載のトレイ包装体。
【請求項3】 多層フィルムの少なくとも内容物に接する層が、防曇剤を含んでいる請求項1記載のトレイ包装体。」
という記載を、
「【請求項1】 トレイならびにこのトレイ上に設置された内容物がフィルムにより包まれており、フィルムがトレイの底部ならびに縁部にてヒートシールされているトレイ包装体であって、前記フィルムは、バリヤー性樹脂層とヒートシール性樹脂層とを含む熱収縮性多層フィルムであって、
その多層フィルムの構成が、
(a)外表層および/または内表層としてポリオレフィン(PO)樹脂からなるヒートシール性樹脂層が配置され、
(b)芯層としてエチレン・ビニルアルコール共重合体(EVOH)からなるバリヤー性樹脂層が配置され、かつ、
(c)前記芯層と共に内層としてポリアミド(PA)樹脂層が配置されているものである
熱収縮性多層フィルムであることを特徴とするトレイ包装体。
【請求項2】 多層フィルムの少なくとも内容物に接する層が、防曇剤を含んでいる請求項1記載のトレイ包装体。」
と訂正する。
(B)明りょうでない記載の釈明を目的として、
1)明細書の段落【0004】の
「特徴とするトレイ包装体及びそのトレイ包装体がピロー包装機により包装されることを特徴とするトレイ包装体の製造方法である。」という記載を、
「特徴とするトレイ包装体である。」
と訂正する。
2)明細書の段落【0005】の
「多層フィルムの構成は、例えば、ガスバリヤー性樹脂層が、エチレンビニルアルコール(EVOH)樹脂またはポリ塩化ビニリデン(PVDC)系樹脂で、ヒートシール性樹脂層がポリオレフイン(PO)樹脂である。すなわちガスバリヤー性樹脂層となる例えばPVDC樹脂、EVOH樹脂は、これら単独ではヒートシール性が劣るため、ヒートシール層を別に設けている。」
という記載を、
「多層フィルムの構成は、ガスバリヤー性樹脂層が、エチレンビニルアルコール(EVOH)樹脂で、ヒートシール性樹脂層がポリオレフィン(PO)樹脂である。すなわちガスバリヤー性樹脂層となるEVOH樹脂は、これ単独ではヒートシール性が劣るため、ヒートシール層を別に設けている。」
と訂正する。
3)明細書の段落【0008】の
「エチレンビニルアルコール(EVOH)樹脂またはポリ塩化ビニリデン(PVDC)樹脂によるバリヤー層は、酸素バリヤー性を具備しているため、外気を遮断でき、内容物の保存性を高めることができる。」
という記載を、
「エチレンビニルアルコール(EVOH)樹脂からなるバリヤー層は、酸素バリヤー性を具備しているため、外気を遮断でき、内容物の保存性を高めることができる。」
と訂正する。
4)明細書の段落【0010】の
「本発明の第1の形態は、」
という記載を、
「本発明では、」
と訂正する。
5)明細書の段落【0013】の
「3)また必要に応じて強度保持のために、」
という記載を、
「3)また、強度保持のために、」
と訂正する。
6)明細書の段落【0014】の
「なお、強度、特に低温強度を要求しない場合には、上記構成において内層のPA層を除くこともできる。」
という記載を削除する。
7)登録時明細書の段落【0017】乃至【0022】の記載を削除する。
8)登録時明細書の段落【0023】の
「本発明に使用される前記第1の形態と第2の形態の多層フィルムは、」
という記載を、
段落【0017】とし、「本発明に使用される前記の多層フィルムは、」
と訂正する。
9)登録時明細書の段落【0026】の
「図5に示すように、内容物11が乗せられたトレイ10が前記第1または第2の形態の多層フィルムFにより包まれ、」
という記載を、
段落【0020】とし、「図5に示すように、内容物11が乗せられたトレイ10が前記の多層フィルムFにより包まれ、」
と訂正する。
10)登録時明細書の段落【0028】の
「以上の工程で、図5に示すように、EVOH樹脂またはPVDC系樹脂とPO樹脂との多層フィルムを使用したトレイ包装体が完成する。」
という記載を、
段落【0022】とし、「以上の工程で、図5に示すように、EVOH樹脂とPO樹脂との多層フィルムを使用したトレイ包装体が完成する。」
と訂正する。
11)登録時明細書の段落【0030】の
「以下の実施例-1から実施例-6では、第1の形態の多層フィルム、すなわちEVOH樹脂をガスバリヤー層とし、PO樹脂をヒートシール層とした多層フィルムを使用し、実施例-7では、第2の形態の多層フィルム、すなわち、PVDC系樹脂をガスバリヤー層としPO樹脂をヒートシール層とした多層フィルムを使用した。」
という記載を、
段落【0024】とし、「以下の実施例-1から実施例-6では、EVOH樹脂をガスバリヤー層とし、PO樹脂をヒートシール層とした多層フィルムを使用した。」
と訂正する。
12)登録時明細書の段落【0056】乃至【0058】の記載を削除する。
13)登録時明細書の段落【0059】の
「トレイ包装体用のフィルムとしてエチレンビニルアルコール(EVOH)樹脂またはポリ塩化ビニリデン(PVDC)などのバリヤー層とポリオレフィン(PO)樹脂などのヒートシール層との多層フィルムを使用し、」
という記載を、
段落【0046】とし、「トレイ包装体用のフィルムとしてエチレンビニルアルコール(EVOH)樹脂からなるバリヤー層とポリオレフィン(PO)樹脂などのヒートシール層との多層フィルムを使用し、」
と訂正する。
14)登録時明細書の段落【0060】の
「またポリ塩化ビニリデン(PVDC)をバリヤー層として使用した電子線照射された多層フィルムの場合には耐熱性に優れているため、ヒートシール部に破れ(メルトホール)が生じることがなく、外観の良好な包装体を得ることができる。」
という記載を削除する。
異議決定日 2001-01-30 
出願番号 特願平3-111076
審決分類 P 1 651・ 121- YA (B65D)
P 1 651・ 113- YA (B65D)
最終処分 維持  
前審関与審査官 溝渕 良一  
特許庁審判長 佐藤 雪枝
特許庁審判官 鈴木 美知子
杉原 進
登録日 1999-10-15 
登録番号 特許第2991526号(P2991526)
権利者 呉羽化学工業株式会社
発明の名称 トレイ包装体  
代理人 西川 繁明  
代理人 須藤 阿佐子  
代理人 西川 繁明  

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