ポートフォリオを新規に作成して保存 |
|
|
既存のポートフォリオに追加保存 |
|
PDFをダウンロード |
審決分類 |
審判 全部申し立て 2項進歩性 F02B 審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載 F02B 審判 全部申し立て 1項1号公知 F02B 審判 全部申し立て 4項(5項) 請求の範囲の記載不備 F02B |
---|---|
管理番号 | 1044555 |
異議申立番号 | 異議1999-70971 |
総通号数 | 22 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許決定公報 |
発行日 | 1988-10-05 |
種別 | 異議の決定 |
異議申立日 | 1999-03-16 |
確定日 | 2001-03-03 |
異議申立件数 | 3 |
訂正明細書 | 有 |
事件の表示 | 特許第2799388号「過給機付エンジン」の特許請求の範囲第1項ないし第3項に記載された発明についての特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 |
結論 | 訂正を認める。 特許第2799388号の特許請求の範囲第1項に記載された発明についての特許を維持する。 特許異議申立人羽田綾子、中森繁雄による特許異議の申立てを却下する。 |
理由 |
1.手続きの経緯 特許第2799388号の特許請求の範囲第1〜3項に記載された発明についての出願は、昭和62年11月26日(優先権主張昭和61年11月27日)に特許出願され、平成10年7月10日のその特許の設定登録がなされ、その後、羽田綾子、庄司芳子及び中森繁雄よりそれぞれ特許異議の申立てがなされ、取消理由通知がなされた後、再度取消理由通知がなされ、その指定期間内である平成13年1月16日に訂正請求がなされたものである。 なお、平成11年9月15日差し出しの平成11年9月14日付け訂正請求書は、指定期間内のものでないので、平成12年9月14日付けで手続却下の決定がなされた。 2.訂正の適否についての判断 (1)訂正の内容 特許権者が求めている訂正の内容は以下のa、b、c、d、eのとおりである。 a.特許請求の範囲において、第1項及び第2項を削除し、第3項を第1項に繰り上げる。 b.(発明の目的)の「過給機付の」(本件特許公報の第3欄31行参照)を、「ターボ過給機を備えた」に訂正する。 c.(発明の構成)の「第1の発明は、(中略)また、第3の発明は、」(本件特許公報第3欄36行〜第4欄5行参照)を、「本発明は、」に訂正する。 d.(作用)の「上記第1の発明の(中略)加速性能が高められる。」(本件特許公報第4欄28行〜第5欄30行参照)を、「上記構成の過給機付エンジンによると、高速高負荷時及び低速高負荷時で加速初期以外は、吸気弁閉時期が遅らされることによりノッキングおよび排気温度上昇が抑制されつつ、高圧縮比化により熱効率が高められることで燃費改善が図られる。つまり、幾何学的圧縮比が8.5を越える高圧縮比とされるとともに上記吸気弁閉時期が遅らされ、これにより膨張比が稼がれながら有効圧縮比が適度に抑えられ、かつ、エンジン外部では過給機により加圧供給される吸気がインタークーラで冷却される。従って、高負荷域では、上記吸気弁閉時期が遅らされることによる圧縮量の減少分が過給によるエンジン外部の圧縮仕事で補われて充填量が確保されつつ、この外部の圧縮仕事による過給気の温度上昇がインタクーラで抑制されるとともに、上記吸気弁閉時期が遅らされることでエンジン内部での圧縮仕事による温度上昇が抑制されることにより、ノッキングおよび排気温度上昇を抑制する作用が高められる。そして、高圧縮比化により熱効率が高められ、燃費が改善される。また、過給量が比較的少ない低速域での加速初期には吸気弁閉時期が早められることによって吸気の吹返しが防止され、有効圧縮比が高められるため、加速性能が高められる。」に訂正する。 e.(発明の効果)の「以上のように本発明によると、(中略)また、特許請求の範囲第3項の記載によると、」(本件特許公報第12欄48行〜第13欄28行)を、「以上のように本発明によると、」に訂正する。 なお、d.に関して、訂正請求書の(3)「訂正事項」には、「・・・つまり、幾何学的圧縮比が8.5を張比が稼がれながら・・・」と訂正すると記載されており、該記載は訂正明細書の記載と一致しないが、dの事項に係る訂正は、上記訂正請求書の(3)「訂正事項」にではなく、訂正明細書に記載されたとおりのものであると認定した。 (2)訂正の目的の適否、新規事項の有無及び拡張・変更の存否 上記aの事項に係る訂正は、特許請求の範囲の減縮に該当し、また、b〜eの事項に係る訂正は、上記aの事項に係る訂正に伴った明りょうでない記載の釈明に該当する。そして、これらの訂正は、新規事項の追加に該当せず、実質的に特許請求の範囲を拡張又は変更するものではない。 (3)独立特許要件 訂正後の本件発明は、下記4「申立人庄司芳子による特許異議申立てについての判断」のとおり、特許出願の際独立して特許を受けることができるものである。 (4)むすび 以上のとおりであるから、上記訂正は、特許法等の一部を改正する法律(平成6年法律第116号)附則第6条第1項の規定によりなお従前の例によるとされる、平成11年改正前の特許法第120条の4第3項において準用する平成6年法律第116号による改正前の特許法第126条第1項ただし書き、第2項及び第3項の規定に適合するので、当該訂正を認める。 3.申立人羽田綾子及び中森繁雄による特許異議申立てについての判断 申立人羽田綾子及び中森繁雄が取消しを求めた特許第2799388号の特許請求の範囲第1項、第2項に記載された発明についての特許は、上記2.「訂正の適否についての判断」において示したように、訂正(削除)により、存在しないものとなった。 してみると、申立人羽田綾子及び中森繁雄による特許異議の申立ては、不適法な申立てであって、その補正をすることができないものであるので、特許法第120条の6第1項で準用する第135条の規定によって却下すべきものである。 4.申立人庄司芳子による特許異議申立てについての判断 (1)申立ての理由の概要 申立人は、証拠として、甲第1号証(「国産エンジンデータブック’86」)、甲第2号証(英国特許公開第2071761号明細書)、甲第3号証(「CIMAC Congress 1965 London」第603頁〜第636頁)及び甲第4号証(欧州特許公開第24994号明細書)を提出し、本件発明についての特許は、甲第3、4号証より、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものであるから取り消すべき旨主張している。 (2)本件発明 訂正明細書の特許請求の範囲第1項に記載された発明(以下、「本件発明」という。)の要旨は、訂正明細書の特許請求の範囲第1項に記載された次のとおりのものと認める。 「ターボ過給機を備えた火花点火式エンジンにおいて、ターボ過給機で加圧された空気を冷却するインタークーラを吸気通路に設け、エンジンの幾何学的圧縮比を8.5を越える高圧縮比に設定するとともに、吸気弁閉時期を、吸気弁がバルブリフト量1mmの位置まで閉じる時点をもって定義した場合に下死点よりクランク角で50deg以上遅れる第1閉時期と、この第1閉時期よりも早い第2閉時期とに変更可能とした吸気弁閉時期可変装置を設け、上記吸気弁閉時期を少なくとも高速高負荷時及び低速高負荷時で加速初期以外は上記第1閉時期とし、低速域における加速初期は上記第2閉時期とするように吸気弁閉時期可変装置を制御する制御装置を設けたことを特徴とする過給機付きエンジン。」 (3)甲第1〜4号証記載の発明 (3-1)甲第1号証 甲第1号証には、株式会社小松製作所行番6として、同社のガス機関「SA6N170」の仕様が示されており、該ガス機関の幾何学的圧縮比が10.5、吸気弁閉時期が40degであることが記載されている。 (3-2)甲第2号証 甲第2号証には、特許請求の範囲1の「火花点火式内燃機関」、図3の「圧縮比10.3」、特許請求の範囲4の「吸気弁の閉止を下死点後90度から140度の間まで遅らせる」との記載からみて、「火花点火式内燃機関の圧縮比を10.3に設定するとともに、吸気弁の閉止を下死点後90度から140度の間まで遅らせる」ことが記載されているものと認められる。 (3-3)甲第3号証 甲第3号証には、 「ターボ過給機で加圧された空気を冷却するインタークーラを吸気通路に設けること」(図4参照)、 「デュアルフュエルエンジンは点火プラグを持たない」(第603頁下から7行)、 「本報告は(中略)ガス燃焼4サイクル・エンジンに関するものである。多くの制約条件が両者に共通であるので、火花点火とデュアルフュエルの両方式が検討されている。(中略)ガスの送入は、燃料が未燃焼で排気弁から逃げて出力にならないことがないように、吸入と圧縮行程の間の下死点の近くで行われるように調節される。吸入弁は、吸入行程の下死点の前に閉止される。元来のディーゼル用の燃焼室は、デュアルフュエルおよび火花点火方式の両者ともそのままにされている。圧縮比は11.8:1で、これはディーゼル、デュアルフュエルおよび火花点火エンジンの標準である。」(第604頁7行〜18行)、 「デュアルフュエルエンジン(中略)このエンジンにおいては、始動の問題は吸入弁に可変タイミングを使用することによって処理される。図2に示される偏心器の回転によって、吸入弁の閉止がクランク角度で60度の範囲に進んだり遅れたりする。エンジンの回転中は、吸入弁の閉止時期は中間の位置に調整することができる。一般的な実施方法は、吸入弁の閉止をできるだけ遅らせてエンジンを始動し、負荷の増加に伴って閉止時期を早くする。」(第604頁23行〜42行)、 「火花点火エンジン(中略)始動時に高い圧縮温度が必要ないので、我々は、吸入弁の閉止時期を吸入工程の下死点前65度に設定することで火花点火エンジンの制御を単純化した。圧縮比は体積比で11.8:1である。点火プラグを除けば、燃焼室はこのエンジンのデュアルフュエル方式とディーゼル方式に使用されたものと同様である。」(第605頁27行〜40行)、 「それ故に、実際のエンジン設計上の問題は、限界となる圧縮比と自己着火の制限によって生じる制約を避けることである。(中略)吸入弁を下死点の前に閉じることによって、図8に示すように正味の有効圧縮低下がある。この線図は、吸入弁の閉止時期に対する吸入マニホールドの圧力と圧縮圧力との比を示すもので、非常に役立ち,容易に入手できるものである。」(第608頁49行〜第609頁4行) の記載からみて、 「ターボ過給機を備えた火花点火式エンジンにおいて、ターボ過給機で加圧された空気を冷却するインタークーラを吸気通路に設け、エンジンの幾何学的圧縮比を8.5を越える11.8に設定するとともに、吸入弁閉時期を下死点の前で変更可能とする偏心器を設けた、過給機付きエンジン。」(以下、「甲第3号証記載の発明」という。)が記載されているものと認められる。 なお、申立人は、甲第3号証の翻訳文7頁の「図11,12,13等に示されたエンジンの概要」の中で、ガスエンジンの吸入弁閉時期を、「下死点後65度」と記載しているが、甲第3号証第605頁の記載からみて、該記載は、「下死点前65度」の誤記と認められる。 (3-4)甲第4号証 甲第4号証(欧州特許公開第24994号明細書)には、 「本発明は、主に、エンジンの回転数に応じた有効圧縮率の選択変化によって内燃機関の効率を改良するための方法及び装置を対象にしている。とりわけ、本発明は、低速時で最大圧縮率を、また高速時で最小圧縮率を得ることができるように、エンジンの回転数による圧縮率の選択変化を可能にする方法及び装置に関するものである。その結果、エンジン効率を損なうことなく、またエンジンの始動品質を低下させることなく、高速時の機械的及び熱的負荷を引き下げることができる。」(第1頁6行〜21行)、及び、 「さらに本発明の方法のとりわけ興味深い特徴によれば、吸入弁の閉鎖は、低速については、好ましくは下死点到達後のカムシャフトの回転角度0から20゜の間、さらに好ましくは下死点到達後のカムシャフトの回転角度10ないし15゜の間で、下死点の近くに位置する。本発明の方法のとりわけ興味深い他の特徴によれば、高速時には、吸入弁の遅延された閉鎖タイミングは、下死点到達後のカムシャフトの回転数のおよそ30から65゜の間、好ましくは50から60゜の間に位置する。」(第4頁16行〜30行) が記載されている。 (4)対比・判断 本件発明と上記甲3号証記載の発明とを対比すると、後者の「吸入弁」、「偏心器」は、それらの機能からみて、前者の「吸気弁」、「吸気弁閉時期可変装置」に相当するから、両者は、「ターボ過給機を備えた火花点火式エンジンにおいて、ターボ過給機で加圧された空気を冷却するインタークーラを吸気通路に設け、エンジンの幾何学的圧縮比を8.5を越える高圧縮比に設定するとともに、吸気弁閉時期を変更可能とした吸気弁閉時期可変装置を設けた、過給機付きエンジン」で一致し、以下の点で相違する。 【相違点】吸気弁がバルブリフト量1mmの位置まで閉じる時点をもって定義した場合に、下死点よりクランク角で50deg以上遅れる吸気弁閉時期を第1閉時期とし、この第1閉時期よりも早い吸気弁閉時期を第2閉時期とするとき、前者では、吸気弁閉時期を、低速域における加速初期以外は上記第1閉時期とし、低速域における加速初期は上記第2閉時期とするように制御するのに対して、後者では、吸気弁閉時期を、下死点より前に設定しているだけで、該吸気弁閉時期をどのように制御しているのか明らかでない点。 上記相違点につき検討するに、本件発明の構成要件である、「吸気弁閉時期を、低速域における加速初期以外は上記第1閉時期とし、低速域における加速初期は上記第2閉時期とするように制御する」点は、甲第1、2号証のいずれにも記載されていない。 また、甲第4号証には、吸気弁の閉時期を、下死点より後で、低速時と高速時とで変更することが記載されているが、低速域の加速初期とそれ以外の時期とで、吸気弁の閉時期をどのように設けるかについては、何ら記載されていない。しかも、甲第4号証記載の技術は、上述のとおり、吸気弁の閉時期を下死点より後に設けるものであるから、吸気弁の閉時期を下死点より前に設ける甲第3号証記載の発明に、該甲第4号証記載の技術を組み合わせることは、当業者といえども容易に想到しうるとは認められない。 そして、本件発明は、上記の点を構成の一部とすることにより、「高負荷時で過給量が多いときのノッキングおよび排気温度上昇を抑制する一方、エンジン負荷の変動に対するターボ過給機の応答遅れにより過給量が比較的少ない低速域での過給初期には、吸気の吹き返しを抑制してエンジン出力を高めることができる。」という効果を奏している(発明の効果の項参照)。 してみれば、本件発明は、甲第1〜4号証記載の発明に基づき当業者が容易に発明をすることができたものである、とすることはできない。 (5)むすび 以上のとおりであるから、特許異議申立ての理由及び証拠によっては、本件発明についての特許を取り消すことはできない。 また、本件発明の特許については、他に取消理由を発見しない。 したがって、本件発明についての特許は、拒絶の査定をしなければならない特許出願に対してされたものとは認められず、特許法の一部を改正する法律(平成6年法律第116号)附則第14条の規定に基づく、特許法等の一部を改正する法律の施行に伴う経過措置を定める政令(平成7年政令第205号)第4条第2項の規定により、その特許は維持されるべきものである。 また、申立人羽田綾子及び中森繁雄による特許異議の申立ては、不適法な申立てであって、その補正をすることができないものであるので、特許法第120条の6第1項で準用する第135条の規定によって却下すべきものである。 よって、結論のとおり決定する。 |
発明の名称 |
(54)【発明の名称】 過給機付エンジン (57)【特許請求の範囲】 1.ターボ過給機を備えた火花点火式エンジンにおいて、ターボ過給機で加圧された空気を冷却するインタークーラを吸気通路に設け、エンジンの幾何学的圧縮比を8.5を越える高圧縮比に設定するとともに、吸気弁閉時期を、吸気弁がバルブリフト量1mmの位置まで閉じる時点をもって定義した場合に下死点よりクランク角で50deg以上遅れる第1閉時期と、この第1閉時期よりも早い第2閉時期とに変更可能とした吸気弁閉時期可変装置を設け、上記吸気弁閉時期を少なくとも高速高負荷時及び低速高負荷時で加速初期以外は上記第1閉時期とし、低速域における加速初期は上記第2閉時期とするように吸気弁閉時期可変装置を制御する制御装置を設けたことを特徴とする過給機付エンジン。 【発明の詳細な説明】 (産業上の利用分野) 本発明は過給機付エンジンであって幾何学的圧縮比を高圧縮比としたエンジンに関するものである。 (従来技術) 従来から、エンジンの吸気充填量を高めるため、過給機によって吸気を過給するようにしたエンジンは種々知られており(例えば実開昭56-171630号公報参照)、過給機としては、排気ガスで駆動されるターボ過給機、エンジン出力軸で駆動される機械式過給機等が知られている。 ところで、従来の過給機付の火花点火式エンジンでは、圧縮比を高くすると高過給領域でノッキングが生じ易くなるため、エンジンの幾何学的圧縮比は8.5以下の比較的低い値に設定されていたが、圧縮比を低くすると、エンジンのサイクル効率が低下する傾向がある。また、過給機付エンジンにおいては高過給時に排気温度の過度の上昇を抑制して排気系の信頼性を確保する必要があり、このため従来は、高速高負荷時に空燃比をリッチにすることにより排気温度を引下げるようにしていたが、このようにすると出力上の要求量より余分に燃料が供給されることとなる。 これらの事情により、従来の過給機付エンジンでは燃費が充分に改善されておらず、とくに高速高負荷域での燃費が高くなり、このような点についての対策が要求されていた。 (発明の目的) 本発明は上記の事情に鑑み、ターボ過給機を備えた火花点火式エンジンにおいて、熱効率を向上し、燃費を大幅に改善することができる過給機付エンジンを提供するものである。 (発明の構成) 本発明は、ターボ過給機を備えた火花点火式エンジンにおいて、ターボ過給機で加圧された空気を冷却するインタークーラを吸気通路に設け、エンジンの幾何学的圧縮比を8.5を越える高圧縮比に設定するとともに、吸気弁閉時期を吸気弁がバルブリフト量1mmの位置まで閉じる時点をもって定義した場合に下死点よりクランク角で50deg以上遅れる第1閉時期と、この第1閉時期よりも早い第2閉時期とに変更可能とした吸気弁閉時期可変装置を設け、上記吸気弁閉時期を少なくとも高速高負荷時及び低速高負荷時で加速初期以外は上記第1閉時期とし、低速域における加速初期は上記第2閉時期とするように吸気弁閉時期可変装置を制御する制御装置を設けたものである。 なお、吸気弁および排気弁の開閉時期については一般にその定義が統一されていないため、上記各発明の構成では有効に吸,排気が行なわれる時期を考慮し、バルブリフト量1mmとなる時点をもって開閉時期を定義している。以下、明細書中で単に吸気弁閉時期、開弁オーバラップ期間というときは、上記定義に従うものを意味する。また、幾何学的圧縮比とは、シリンダのピストン下死点での容積と隙間容積(上死点での容積)との比をいう。 (作用) 上記構成の過給機付エンジンによると、高速高負荷時及び低速高負荷時で加速初期以外は、吸気弁閉時期が遅らされることによりノッキングおよび排気温度上昇が抑制されつつ、高圧縮比化により熱効率が高められられることで燃費改善が図られる。つまり、幾何学的圧縮比が8.5を越える高圧縮比とされるとともに上記吸気弁閉時期が遅らされ、これにより膨張比が稼がれながら有効圧縮比が適度に抑えられ、かつ、エンジン外部では過給機により加圧供給される吸気がインタークーラで冷却される。従って、高負荷域では、上記吸気弁閉時期が遅らされることによる圧縮量の減少分が過給によるエンジン外部の圧縮仕事で補われて充填量が確保されつつ、この外部の圧縮仕事による過給気の温度上昇がインタークーラで抑制されるとともに、上記吸気弁閉時期が遅らされることでエンジン内部での圧縮仕事による温度上昇が抑制されることにより、ノッキングおよび排気温度上昇を抑制する作用が高められる。そして、高圧縮比化により熱効率が高められ、燃費が改善される。 また、過給量が比較的少ない低速域での加速初期には吸気弁閉時期が早められることによって吸気の吹返しが防止され、有効圧縮比が高められるため、加速性能が高められる。 (実施例) 第1図は本発明の第1実施例を示し、この図において、1は火花点火式エンジンであって、その各気筒2の燃焼室には吸気ポート3および排気ポート4が開口しており、これらのポート3,4には図外の動弁機構により開閉作動される吸気弁5および排気弁6が装備されている。 上記各気筒2の吸気ポート3には吸気通路7が接続されている。この吸気通路7は、下流端が各気筒2の吸気ポート3に連通する独立吸気通路8と、各独立吸気通路8の上流端に接続されたサージタンク9と、このサージタンクの上流側に接続された共通吸気通路10とで構成され、共通吸気通路10の上流端はエアクリーナ11に接続されている。 上記共通吸気通路10には、吸入空気量を検出するエアフローメータ12と、吸入空気量を調整するスロットル弁13と、吸気を過給する過給機14とが設けられている。この過給機14は、当実施例ではエンジンで駆動されるルーツ式等の機械式過給機で形成され、図外のエンジン出力軸に電磁クラッチ等を介して連結されている。また、上記共通吸気通路10における過給機14の直上流と直下流とはバイパス吸気通路15によって連通され、このバイパス吸気通路15の途中には、このバイパス吸気通路15を開閉するバイパス弁16が設けられている。上記各気筒2の吸気ポート3に連通する独立吸気通路8にはそれぞれ、燃料を噴射供給する燃料噴射弁17が設けられるとともに、この燃料噴射弁17の上流に、全開状態と小開度に閉じて独立吸気通路8を絞る状態とにわたって開閉可能な絞り制御弁18が配設されている。この各絞り制御弁18はアクチュエータ19に連結されて、このアクチュエータ19により同時に開閉作動されるようになっている。そして、エンジン回転数を検出する回転数センサ21およびエンジン負荷に相当するスロットル開度等を検出するセンサ22からの信号を受けるコントロールユニット20により、上記アクチュエータ19に制御信号が出力されて、後述のように運転状態に応じて絞り制御弁18の開閉作動が制御される。 このような過給機付エンジンにおいて、エンジンの幾何学的圧縮比は8.5を越えるように設定され、従来の過給機付エンジン(幾何学的圧縮比が7.5〜8.5程度)と比べて高圧縮比に設定されている。 また、第2図に示すような吸気弁5と排気弁6のバルブリフト特性において、吸気弁5の開閉時期(I.OおよびI.C)ならびに排気弁6の開閉時期(E.OおよびE.C)は次のように設定されている。すなわち、第2図中に示すように、クランク角で表わした吸排気弁の開弁オーバラップ期間をX(deg)とし、下死点(BDC)からのクランク角で表わした吸気弁閉時期をY(degABDC)とすると、バルブリフト量1mmとなる時点をもって吸排気弁の開閉時点を定義した場合に上記両者の関係が Y≧-1.75X+10 ……▲1▼ となるように設定されている。また、後述のように吸気弁5の遅閉じによって断熱圧縮より断熱膨張を大きくする作用をもたせるため、下死点までのクランク角で表わした排気弁開時期Z(degBBDC)と上記吸気弁閉時期Yとの関係は[Y>Z]となるように設定されている。 このような設定を従来の過給機付エンジンと比べると、従来の一般的な過給機付の火花点火式エンジンでは吸気弁閉時期が20〜40degABDC程度、開弁オーバラップ期間が-30〜-20deg程度となっており、これでは上記▲1▼式を満足しないのに対し、本発明では、吸気弁閉時期Yおよび開弁オーバラップ期間Xの双方を従来よりも大きくするか、少なくともいずれか一方を従来より大きくすることにより、上記▲1▼式の条件を満足するように設定される。 また、上記開弁オーバラップ期間を格別に大きくせずに、主に吸気弁遅閉じによる作用で高過給時のノッキングおよび排気温度上昇を抑制しつつ燃費改善を図ろうとする場合には、上記吸気弁閉時期を約50degABDC以上に遅い時期で、かつ、有効圧縮比が8.5以下となるような時期(幾何学的圧縮比が9.5程度以上においてはこの条件を満足すべく吸気弁閉時期を50degABDCよりもさらに大きく遅らせた時期)に設定しておく。 以上のような過給機付エンジンによると、幾何学的圧縮比の高圧縮比化によってサイクル効率の向上が図られつつ、高過給域でもノッキングを防止する作用および排気温度を引下げる作用が得られる。 すなわち、吸気弁5の閉時期Yを遅らせると、吸気弁5が閉じられてから排気弁6が開かれるまでの間で、圧縮行程と比べて膨張行程が大きくなり、有効圧縮比が引下げられつつ膨張比が稼がれることとなる。従って、幾何学的圧縮比に対応する膨張行程での仕事によりサイクル効率が高められるとともに、有効圧縮比が引下げられることにより、過給量が多い高速高負荷域での耐ノック性が高められ、かつ、断熱圧縮による温度上昇に比べて断熱膨張による温度低下が大きくなることにより排気温度が引下げられる。 また、開弁オーバラップ期間Xを大きくすると、過給圧が排気圧を上回る過給領域において、上記開弁オーバラップ期間に燃焼室内の残留排気ガスを掃気する作用が高められ、この掃気作用によって燃焼室内の温度が引下げられるため、耐ノック性が高められるとともに排気温度が引下げられる。そして、耐ノック性が高められることによりエンジンの高圧縮比化が可能となってサイクル効率が高められる。 このように、吸気弁閉時期を遅らせることと、開弁オーバラップ期間を大きくすることは、共に高圧縮比の下で耐ノック性を高めるとともに排気温度を引下げる作用をなし、両者は互いにその作用を補い合うような関係を有する。 この関係を耐ノック性について調べると第3図のようになる。すなわち、第3図は、幾何学的圧縮比を9.4とし、吸気弁閉時期Yおよび開弁オーバラップ期間Xを種々変えた場合の、エンジン回転数1500rpmでのノック限界時の平均有効圧力Pe(kg/cm2)を示したものであり、図中の線P1〜P4は平均有効圧力が等圧のラインである。なお、このデータにおいてエンジン回転数を1500rpmとしたのは、使用頻度が高くて代表例としてふさわしいためである。また、幾何学的圧縮比は9.4以外の高圧縮比に設定しても、傾向としては第3図に示すものと同様となる。 この図のように、吸気弁閉時期Yを一定値に固定して開弁オーバラップ期間Xを変化させた場合、図中の線Aよりも左側まで開弁オーバラップ期間Xが小さくなるとノック限界時の平均有効圧力が極端に下がる傾向が生じ、つまりこのような領域ではノッキングが生じ易くなる。従って、吸気弁閉時期Yに対して開弁オーバラップ期間Xは、線Aより右側の斜線を付した領域内とすることが、耐ノック性にとって望ましいものとなる。また、図中の線Bよりも右側の領域では吸気の吹抜けにより平均有効圧力が低下するので、線Aと線Bとの間が望ましい領域である。 この図から、上記線Aを吸気弁閉時期Yと開弁オーバラップ期間Xとの関係式で求めると、 Y=-1.75X+100 (バルブリフト量0mmでX,Yを定義) もしくは Y=-1.75X+10 (バルブリフト量1mmでX,Yを定義) となる。よって、前記の▲1▼式を満足するように吸気弁閉時期Yと開弁オーバラップ期間Xとを設定しておけば、幾何学的圧縮比を高くしても耐ノック性を高めることが可能となる。 本発明において上記開弁オーバラップ期間Xを約-23degに設定した場合の、幾何学的圧縮比および吸気弁閉時期Yの望ましい領域は第4図および第5図のようになる。 すなわち、第4図は、幾何学的圧縮比を横軸、有効圧縮比を縦軸にとり、吸気ポート閉時期をパラメータとして、これらの関係を示している。この図において、破線の斜線を付した範囲は従来の過給機付エンジンによる場合の設定範囲を示し、このように従来の過給機付エンジンでは、幾何学的圧縮比が7.5〜8.5、吸気ポート閉時期が20〜40degABDC程度に設定されており、この範囲で高過給時のノッキング防止および燃焼安定性の確保のための適度の有効圧縮比が得られるようにしている。これに対し、本発明において開弁オーバラップ期間を上記設定とした場合、幾何学的圧縮比および吸気弁閉時期Yの望ましい範囲とそれに対応する有効圧縮比の範囲は、実線の斜線を付した領域となる。つまり、幾何学的圧縮比を8.5より高い高圧縮比とする一方、吸気弁閉時期を50degABDC以上に遅い時期で、かつ、有効圧縮比が膨張比よりも小さくて8.5以下となるような時期(幾何学的圧縮比が9.5程度以上においてはこの条件を満足すべく吸気弁閉時期を50degABDCよりもさらに大きく遅らせた時期)に設定することにより、有効圧縮比を従来と同程度とすることができる。あるいは、幾何学的圧縮比を高くすると隙間容積が小さくなって残留ガスの減少により燃焼安定性が高められるため、有効圧縮比を従来よりも低くするように設定することもできる。 有効圧縮比を上記のような所定範囲内とするには、幾何学的圧縮比と吸気弁閉時期Yとの関係が第5図に斜線を付して示した範囲となるように、幾何学的圧縮比を高くするほど吸気弁閉時期の遅れを大きくすればよい。 このような設定による場合の作用効果を確認した実験データを第6図(a)〜(c)に示す。 第6図(a)〜(c)は種々の平均有効圧力下での燃費率、吸気負圧、排気温度を、本発明による場合と従来の過給機付エンジンによる場合および無過給エンジンによる場合について調べたデータを示したものである。これら各図においてそれぞれ、実線は本発明のエンジンで幾何学的圧縮比を9.4、吸気弁閉時期を約60degABDC、開弁オーバラップ期間を-23degに設定した場合のものであり、また、破線は従来の過給機付エンジンで幾何学的圧縮比を7.9、吸気弁閉時期を約30degABDCとした場合、二点鎖線は無過給エンジンで幾何学的圧縮比を9.4、吸気弁閉時期を約30degABDCとしたものである。エンジン回転数は1500rpm、空燃比はλ=1としている。 これらの実験データから明らかなように、本発明において上記設定とした過給機付エンジンによると、従来の過給機付エンジンおよび無過給の高圧縮比エンジンのいずれと比べても、燃費率が低くなる。さらに、吸気負圧が小さくなることから、低,中負荷域でポンピングロスを低減する効果も得られる。このような傾向は他のエンジン回転数域でもみられる。また、排気温度は従来の過給機付エンジンと比べて低くなり、従って、高速高負荷時に排気温度の過度の上昇を抑制するためにも従来の過給機付エンジンほど空燃比のリッチ化が必要でないことがわかる。 なお、上記データは、吸気弁閉時期を遅らせた場合のものであるが、ノッキングを抑制しつつ高圧縮比を達成することによる燃費改善および排気温度低下の効果は前述のように開弁オーバラップ期間Xを大きくすることによっても可能となる。 また、このように吸気弁閉時期や開弁オーバラップ期間を大きくした場合、アイドル等の低速軽負荷域では排気ガスの逆流等により燃焼安定性が多少悪化する傾向があるが、第1図に示す実施例ではこのような傾向を是正するため、独立吸気通路8に絞り制御弁18が設けられている。そして、第7図に示すように、低速軽負荷域では、上記絞り制御弁18が小開度に閉じられる。これにより、例えば開弁オーバラップ期間Xが大きく設定されている場合に、第8図に示すように、開弁オーバラップ期間中の排気ガスの逆流を抑制する作用が得られる。 すなわち、第8図は吸排気弁のバルブリフト特性に対応させて、低速軽負荷域での平均排気圧Pe、平均吸気圧Pb、絞り制御弁18を閉じた場合の独立吸気通路8での吸気圧Pb1、と気筒内圧力Pc、絞り制御弁18を設けない場合の気筒内圧力Pc´を示している。このように低速軽負荷域では、平均吸気圧Pbが平均排気圧Peよりも低くなることにより、排気ガスが各独立吸気通路8に逆流するが、絞り制御弁18を閉じると、ここで排気ガスの逆流が止められるので、これより下流側の独立吸気通路18内および気筒2内の圧力が上昇し、この圧力上昇により排気圧との圧力差が小さくなるため、排気系から気筒および独立吸気通路8への排気ガスの逆流が抑えられる。こうして燃焼安定性が高められることとなる。 第9図は本発明の第2実施例を示し、この実施例では、吸気弁閉時期Yおよび開弁オーバラップ期間Xを運転状態に応じて変更可能としている。すなわち、この図において、エンジン1の各気筒2の燃焼室には主吸気ポート31、副吸気ポート32および排気ポート33が開口し、これらのポートが主吸気弁34、副吸気弁35および排気弁36によってそれぞれ開閉される。そして、後述のように主吸気弁34と副吸気弁35の開弁期間が異なっている。 上記各吸気ポート31,32とサージタンク37との間には、主吸気ポート31に連通する主吸気通路38と副吸気ポート32に連通する副吸気通路39とが、互いに独立して形成され、上記副吸気通路39にはこの通路を開閉するシャッター弁40が設けられており、これらにより吸気弁閉時期(および開弁オーバラップ期間)を変更可能とする吸気弁閉時期可変装置41が構成されている。上記シャッター弁40は、コントロールユニット42によりアクチュエータ43を介してエンジン回転数を検出する回転数センサ44と、スロットル弁47下流の吸気通路内圧力を検出する圧力センサ45と、スロットル弁47の開度を検出するスロットル開度センサ46とからの各検出信号が入力されている。 また、過給機50は、当実施例ではターボ過給機が用いられ、排気通路53に設けられたタービン51と、吸気通路54に設けられたコンプレッサ52とを備え、排気ガスにより駆動されて吸気を過給するようになっている。上記吸気通路54における過給機50のコンプレッサ52の下流には、過給機50から吐出された過給気を冷却するインタークーラ56が設けられている。なお、55は上記主,副吸気通路38,39に燃料を噴射する燃料噴射弁、57は過給機50のタービン51をバイパスするウエストゲート通路、58は上記ウエストゲート通路57に設けられたウエストゲートバルブである。 このエンジン1でも、その幾何学的圧縮比は8.5を越えるの高圧縮比に予め設定されている。 また、上記主吸気弁34、副吸気弁35および排気弁36のバルブリフト特性は第10図のように設定され、副吸気弁35は主吸気弁34よりも開弁期間が長くなっている。そして、上記シャッター弁40が開かれた状態では、副吸気弁35の開弁期間が各気筒の実質上の吸気弁開弁期間となり、このときの吸気弁閉時期Ysおよび開弁オーバラップ期間Xsは前述の▲1▼式を満足するように大きく設定されている。一方、上記シャッター弁40が閉じられた状態では、主吸気弁34の開弁期間が各気筒の実質上の吸気弁開弁期間となり、このときの吸気弁閉時期Ypおよび開弁オーバラップ期間Xpは比較的小さく、従来と同程度となるように設定されている。なお、この第2実施例でも、主に吸気弁遅閉じによる作用で高過給時のノッキングおよび排気温度上昇を抑制しつつ燃費改善を図ろうとする場合には、シャッター弁40が開かれたときの実質上の吸気弁閉時期(副吸気弁35の閉時期)Ysを約50degABDC以上としておけばよい。 また、上記シャッター弁40は、コントロールユニット42により、少なくとも高速高負荷域では開かれる一方、低速で過給量が少ない所定高負荷時には閉じられるように制御される。例えば第11図に示すように、エンジン回転数が所定回転数Ns(1700rpm程度)以上の高速域でシャッター弁40を全開とし、所定回転数Ns未満の低速域では加速初期に閉じられるように制御される。 この制御を第12図のフローチャートにより説明すると、このフローチャートにおいては、ステップS1でエンジン回転速度Eを読込み、次にステップS2での判定に基づき、エンジン回転速度Eが所定回転数Ns以上と判定したときはシャッター弁40を開く(ステップS4)。また、所定回転数Ns未満のときは、ステップS3での判定に基づき、加速開始後所定時間(たとえば2秒)以内の加速初期と判定したときはシャッター弁40を閉じ(ステップS5)、それ以外はシャッター弁40を開く。 上記制御をさらに第13図のタイムチャートによって具体的に説明すると、低速域でもスロットル開度が小さい低負荷時にはシャッター弁40を開くが、スロットル開度が大きくなる加速初期にはシャッター弁40を閉じ、その後は吸気通路内圧力の上昇に応じてシャッター弁40を次第に開く(第13図の実線参照)。この場合、低速段での加速により過給圧が充分に上昇する前にエンジン回転数が所定回転数Nsに達したときは、その時点でシャッター弁40を全開する(第13図の破線参照)。 このような当実施例の構造によると、上記シャッター弁40が開かれたときは、両吸気ポート31,32から吸気が燃焼室に供給されて、副吸気弁35の開閉時期が各気筒の実質上の吸気弁開閉時期となる。これにより、幾何学的圧縮比は従来の過給機付エンジンと比べて高く設定されていながら、吸気弁閉時期Ys、開弁オーバラップ期間Xsが大きくされることにより、第1実施例と同様に高速高負荷域でもノッキングを抑制するとともに排気温度を引下げる作用が得られる。 つまり、上記吸気弁閉時期Ysを遅らせると、膨張比と比べて有効圧縮比が小さくされることにより、過給量が多い高速高負荷域で耐ノック性が高められるとともに排気温度が引下げられ、また、上記開弁オーバラップ期間Xsを大きくすると、高過給時に開弁オーバラップ期間中の掃気作用により耐ノック性が高められるとともに排気温度が引下げられる。さらに、吸気通路8に過給気を冷却するインタークーラ56が設けられていると、上記吸気弁閉時期Ysが遅らされることに伴う圧縮量の減少分が過給によるエンジン外部の圧縮仕事で補われて充填量が確保されつつ、上記インタークーラ56による冷却作用で過給気の温度が低く保たれ、上記吸気弁閉時期Ysが遅らされることによる温度上昇抑制作用が有効に発揮されて、ノッキングおよび排気温度上昇を抑制する作用が高められる。 また、中,低負荷域では、吸気弁閉時期が遅らされることによるポンピングロス低減作用が得られる。 一方、低速域での加速初期には、吸気弁開閉時期可変装置41のシャッター弁40が閉じられ、副吸気ポート32からの吸気供給が停止されて、主吸気弁34の開閉時期が実質的な吸気弁開閉時期となり、これによって有効にエンジン出力が高められ、加速性能の低下が防止される。つまり、高負荷でもエンジン回転数が低ければ過給量が比較的少なく、とくにターボ過給機50はエンジン負荷の変動に対する応答遅れ(いわゆるターボラグ)によって加速初期の過給量が少ないので、このときに吸気弁閉時期および開弁オーバラップ期間が大きくされれば、吸気の吹返しや排気ガスの逆流等によって出力が低下する可能性がある。そこでこのような加速初期の低過給状態にあるときは吸気弁閉時期が早められるとともに開弁オーバラップ期間が小さくされ、これによって吸気の吹返しおよび排気ガスの逆流が防止されるとともに有効圧縮比が高められるため、加速性能が高められることとなる。 なお、この実施例においても、過給機50には上記ターボ過給機の代りにエンジンで駆動される機械式過給機を用いてもよい。また、この実施例の構造において、副吸気弁35の閉時期Ysを50degABDC以上とした場合に、実質上の吸気弁閉時期を副吸気弁35の閉時期Ysとする(シャッター弁40を開く)領域と主吸気弁34の閉時期Ypとする(シャッター弁40を閉じる)領域とを第14図に示すように設定しておいてもよく、とくに上記機械式過給機が用いられる場合はこのような領域設定に基づいて制御すればよい。すなわち、上記機械式過給機が用いられる場合も、第14図に斜線を付して示した高速高負荷域および中,低負荷域(アイドル域を除く)ではシャッター弁40を開いて実質上の吸気弁閉時期を副吸気弁35の閉時期Ysとすることにより、高速高負荷域でのノッキング防止および排気温度引下げ等の作用と中,低負荷域でのポンピングロス低減作用が得られる。一方、エンジン回転数が低くて過給量が少ない領域では、シャッター弁40を閉じて実質上の吸気弁閉時期を主吸気弁34の閉時期Ypとすることにより、有効圧縮比が高められてエンジン出力向上に有利となる。 上記各実施例に示すように、吸気弁の開閉時期は一定であってもよいし変更可能としてもよいが、少なくとも高速高負荷域で、前記の▲1▼式を満足するように吸気弁閉時期および開弁オーバラップ期間を設定し、吸気弁閉時期を遅らせる場合は50degABDC以上に設定する。 また、吸気弁開閉時期を変更可能とする場合に、吸気弁閉時期可変装置としては、上記実施例に示したもののほかにも、例えば副吸気弁35に対してその作動を停止可能とする弁停止機構を設け、あるいは、吸気弁の駆動タイミングを可変とするタイミング可変機構を設けてもよい。 (発明の効果) 以上のように本発明によると、吸気弁閉時期を下死点よりクランク角で50deg以上遅れる第1閉時期とこれよりも早い第2閉時期とに変更可能とし、少なくとも高速高負荷時及び低速高負荷時で加速初期以外は上記第1閉時期とし、低速域における加速初期は上記第2閉時期とするように制御しているため、高負荷時で過給量が多いときのノッキングおよび排気温度上昇を抑制する一方、エンジン負荷の変動に対するターボ過給機の応答遅れにより過給量が比較的少ない低速域での過給初期には、吸気の吹き返しを抑制してエンジン出力を高めることができる。 【図面の簡単な説明】 第1図は本発明の第1実施例を示す過給機付エンジン全体の概略図、第2図はこの実施例における吸気弁と排気弁のバルブリフト特性を示す図、第3図はこの実施例における吸気弁閉時期および開弁オーバラップ期間とノッキング限界時の平均有効圧力との関係を示す図、第4図は開弁オーバラップ期間を一定値に設定した場合の幾何学的圧縮比と吸気弁閉時期と有効圧縮比との関係を示す図、第5図は第4図に示した関係に基づく上記幾何学的圧縮比および吸気弁閉時期の好ましい範囲を示す図、第6図(a)〜(c)は燃費率と吸気圧力と排気温度とについて本発明の一実施例による場合と従来のエンジンによる場合とを比較した実験データ、第7図は絞り制御弁の開閉制御の領域設定を示す図、第8図はエンジンの軽負荷域での吸気圧と排気圧の関係を示す特性図、第9図は第2実施例を示す過給機付エンジン全体の概略図、第10図は第2実施例による場合の吸気弁および排気弁のバルブリフト特性を示す図、第11図は第2実施例におけるシャッター弁の制御の領域設定を示す図、第12図は上記シャッター弁の制御のフロ一チャート、第13図は同制御のタイムチャート、第14図は第2実施例における制御の領域設定の別の例を示す図である。 1…エンジン、2…気筒、3,34,35…吸気弁、6,36…排気弁、14,50…過給機 |
訂正の要旨 |
訂正の要旨 特許第2799388号発明の明細書中、 a.特許請求の範囲において、特許請求の範囲の減縮を目的として、第1項及び第2項を削除し、第3項を第1項に繰り上げる。 b.(発明の目的)の「過給機付の」(本件特許公報の第3欄31行参照)を、明りょうでない記載の釈明を目的として、「ターボ過給機を備えた」に訂正する。 c.(発明の構成)の「第1の発明は、(中略)また、第3の発明は、」(本件特許公報第3欄36行〜第4欄5行参照)を、明りょうでない記載の釈明を目的として、「本発明は、」に訂正する。 d.(作用)の「上記第1の発明の(中略)加速性能が高められる。」(本件特許公報第4欄28行〜第5欄30行参照)を、明りょうでない記載の釈明を目的として、「上記構成の過給機付エンジンによると、高速高負荷時及び低速高負荷時で加速初期以外は、吸気弁閉時期が遅らされることによりノッキングおよび排気温度上昇が抑制されつつ、高圧縮比化により熱効率が高められることで燃費改善が図られる。つまり、幾何学的圧縮比が8.5を超える高圧縮比とされるとともに上記吸気弁閉時期が遅らされ、これにより膨張比が稼がれながら有効圧縮比が適度に抑えられ、かつ、エンジン外部では過給機により加圧供給される吸気がインタークーラで冷却される。従って、高負荷域では、上記吸気弁閉時期が遅らされることによる圧縮量の減少分が過給によるエンジン外部の圧縮仕事で補われて充槙量が確保されつつ、この外部の圧縮仕事による過給気の温度上昇がインターラで抑制制されるとともに、上記吸気弁閉期が遅らされることでエンジン内部での圧縮仕事による温度上昇が抑制されることにより、ノッキングおよび排気温度上昇を抑制する作用が高められる。そして、高圧縮比化により熱効率が高められ、燃費が改善される。また、過給量が比較的少ない低速域での加速初期には吸気弁閉時期が早められることによって吸気の吹返しが防止され、有効圧縮比が高められるため、加速性能が高められる。」に訂正する。 e.(発明の効果)の「以上のように本発明によると、(中略)また、特許請求の範囲第3項の記載によると、」(本件特許公報第12欄48行〜第13欄28行)を、明りょうでない記載の釈明を目的として、「以上のように本発明によると、」に訂正する。 |
異議決定日 | 2001-02-13 |
出願番号 | 特願昭62-299324 |
審決分類 |
P
1
651・
113-
YA
(F02B)
P 1 651・ 111- YA (F02B) P 1 651・ 121- YA (F02B) P 1 651・ 532- YA (F02B) |
最終処分 | 維持 |
前審関与審査官 | 山本 穂積 |
特許庁審判長 |
西川 恵雄 |
特許庁審判官 |
清田 栄章 西野 健二 |
登録日 | 1998-07-10 |
登録番号 | 特許第2799388号(P2799388) |
権利者 | マツダ株式会社 |
発明の名称 | 過給機付エンジン |
代理人 | 花田 久丸 |
代理人 | 小谷 悦司 |
代理人 | 植木 久一 |
代理人 | 小谷 悦司 |
代理人 | 樋口 次郎 |
代理人 | 椎原 英一 |
代理人 | 樋口 次郎 |
代理人 | 高橋 昌久 |
代理人 | 植木 久一 |