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審決分類 |
審判 全部申し立て 特29条の2 H05B 審判 全部申し立て 2項進歩性 H05B 審判 全部申し立て 特36 条4項詳細な説明の記載不備 H05B |
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管理番号 | 1044583 |
異議申立番号 | 異議1999-72843 |
総通号数 | 22 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許決定公報 |
発行日 | 1993-09-10 |
種別 | 異議の決定 |
異議申立日 | 1999-07-26 |
確定日 | 2001-03-17 |
異議申立件数 | 3 |
訂正明細書 | 有 |
事件の表示 | 特許第2851185号「有機エレクトロルミネセンス媒体を有するエレクトロルミネセンス装置」の請求項1に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 |
結論 | 訂正を認める。 特許第2851185号の請求項1に係る特許を維持する。 |
理由 |
(1)手続の経緯 本件特許第2851185号に係る出願は、平成3年7月25日に特許出願(優先権主張、1990年7月26日、米国)されたものであって、平成10年11月13日に設定登録がされた後、平成11年7月26日に特許異議申立人・渡辺忠雄より、平成11年7月27日に特許異議申立人・バンドー化学株式会社より、平成11年7月27日に特許異議申立人・粟井英一郎より特許異議申立がなされ、平成12年5月22日付けで取消理由が通知され、それに対して平成12年12月1日付けで訂正請求がされたものである。 (2)訂正の適否についての判断 イ、訂正の要旨 本件特許に係る訂正請求は、願書に添付した明細書(以下、「特許明細書」という。)の特許請求の範囲及び発明の詳細な説明の欄について、特許請求の範囲の減縮、誤記の訂正及び明瞭でない記載の釈明を目的として、以下のとおり訂正しようとするものである。 1)訂正事項1 特許明細書の請求項1において、「第三アミン成分」及び「芳香族成分」とあるのを、不明瞭な記載の釈明を目的として、それぞれ、「第三アミン部分」及び「芳香族部分」と訂正。 2)訂正事項2 特許明細書の請求項1において、「前記正孔輸送性芳香族第三アミンが少なくとも2つの第三アミン部分を含み、かつ第三アミン窒素原子に結合した少なくとも2つの縮合芳香族環を含有する芳香族部分を含んでなることを特徴とする有機エレクトロルミネセンス装置。」とあるのを、特許請求の範囲の減縮を目的として、「前記正孔輸送性芳香族第三アミンが少なくとも2つの第三アミン部分を含み(但し、当該第三アミン部分がビニル基に直接結合した六員環に導入されている場合を除く)、かつ第三アミン窒素原子に結合した少なくとも2つの縮合芳香族環を含有する芳香族部分を含んでなることを特徴とする有機エレクトロルミネセンス装置。」と訂正。 3)訂正事項3 特許明細書の段落【0008】中の「本発明は、前記正孔輸送性芳香族第三アミンが少くとも2つの第三アミン成分を含み、かつ第三アミンの窒素原子に結合した芳香族成分が少なくとも2つの縮合芳香族環を含むことを特徴とする。」を、訂正された請求項1の記載と整合させるため、不明瞭な記載の釈明を目的として、「本発明は、前記正孔輸送性芳香族第三アミンが少なくとも2つの第三アミン部分を含み(但し、当該第三アミン部分がビニル基に直接結合した六員環に導入されている場合を除く)、かつ第三アミン窒素原子に結合した少なくとも2つの縮合芳香族環を含有する芳香族部分を含んでなることを特徴とする。」と訂正。 4)訂正事項4 特許明細書の段落【0078】における、「1個以上のアミノ基が必要であることを示す。」を.誤記の訂正を目的として、「2個以上のアミノ基が必要であることを示す。」と訂正。 ロ、訂正発明 そして、上記の訂正により、請求項1について、 「【請求項1】アノードと、正孔輸送性芳香族第三アミンを含む層からなる有機正孔注入・輸送帯域と、有機電子注入・輸送帯域とカソードとを順次設けてなる内部接合有機エレクトロルミネセンス装置であって、 前記正孔輸送性芳香族第三アミンが少なくとも2つの第三アミン成分を含み、かつ第三アミン窒素原子に結合した少なくとも2つの縮合芳香族環を含有する芳香族成分を含んでなることを特徴とする有機エレクトロルミネセンス装置。」 を 「【請求項1】アノードと、正孔輸送性芳香族第三アミンを含む層からなる有機正孔注入・輸送帯域と、有機電子注入・輸送帯域とカソードとを順次設けてなる内部接合有機エレクトロルミネセンス装置であって、 前記正孔輸送性芳香族第三アミンが少なくとも2つの第三アミン部分を含み(但し、当該第三アミン部分がビニル基に直接結合した六員環に導入されている場合を除く)、かつ第三アミン窒素原子に結合した少なくとも2つの縮合芳香族環を含有する芳香族部分を含んでなることを特徴とする有機エレクトロルミネセンス装置。」 と訂正しようとするものである。 (以下、訂正請求に係る請求項1の発明を「訂正発明」という。) ハ、訂正の目的の適否及び拡張・変更の存否 訂正事項1は、第三アミンないし芳香族に係る「成分」を「部分」と訂正するものであって、「成分」という用語には「化合物を組成する各元素、又は混合物を構成する各物質という意味があるが、化合物そのものと誤解を生じるおそれがあるところを「部分」と訂正して意味を明瞭にしたものである。 したがって、訂正事項1は、明りょうでない記載の釈明を目的とするものであり、特許明細書に記載した事項の範囲内の訂正で、実質上特許請求の範囲を拡張又は変更するものではない。 訂正事項2は、請求項1の正孔輸送性芳香族第三アミンの範囲から、当該芳香族第三アミンの構造中の少なくとも2つの第三アミン部分において、この第三アミン部分がビニル基に直接結合した六員環に導入されている場合を除いて、正孔輸送性芳香族第三アミンの範囲を限定しようとするものである。したがって、この訂正は特許請求の範囲の減縮を目的とするものてある。 また、訂正事項2は、芳香族第三アミンの多様な構造から一つの構造を除くものであるから、特許明細書に記載した事項の範囲内の訂正で、実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものでもない。 訂正事項3は、訂正された請求項1の記載と整合させるため発明の詳細な説明の欄を訂正するもので、不明瞭な記載の釈明を目的とするものであり、特許明細書に記載した事項の範囲内の訂正であって、実質上特許請求の範囲を拡張又は変更するものではない。 訂正事項4は、段落【0078】における「1個以上のアミノ基」は、特許明細書の記載からみて、「2個以上のアミノ基」の明らかな誤記と認められるものである。 したがって、この訂正は、誤記の訂正を目的とするものであり、特許明細書に記載した事項の範囲内の訂正であって、実質上特許請求の範囲を拡張又は変更するものではない。 以上のとおりであるから、上記訂正は、特許法第120条の4第2項ただし書に規定する事項を目的とするものであって、特許明細書又は図面に記載した事項の範囲内のものであり、特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもないから特許法120条の4第3項で準用する平成6年改正前の同法第126条第1項ただし書及び第2項の規定に適合するものである。 ニ、独立特許要件の判断 1)訂正発明 訂正発明は、上記(2)ロに示した訂正後の請求項1に記載されたとおりのものである。 2)甲各号証記載の発明 これに対して、本件に係る出願の出願前に頒布された刊行物、或いは本件に係る出願の出願日前の出願に係る公開公報である特許異議申立人・渡辺忠雄が提示した甲第1、2号証には、次の発明が記載されている。 a,甲第1号証〔特開昭63-295695号公報〕(以下、「引用例1」という。) 引用例1には、「順次に、アノード、有機質ホール注入輸送帯、有機質電子注入輸送帯、およびカソードから成る電場発光デバイスであって; 上記有機質ホール注入輸送帯が、ホール注入性ポルフィリン化合物を含む上記アノードと接触している層と 上記ホール注入層および上記電子注入輸送帯との間に挿置されたホール輸送性芳香族三級アミンを含む層、と からなることを特徴とする、電場発光デバイス。」(特許請求の範囲の欄)が記載されており、 また、ホール輸送材料として芳香族三級アミンの好ましい種類として、「テトラアルキルジアミンは式(VI)によって代表されるものを含み・・・・nは1から4の整数であり、そして、Ar、R7、R8およびR3は独立に選ばれるアリール基である。」(6頁左下欄13行〜同右下欄1行)点が記載されている。 したがって、引用例1には、 「アノードと、正孔輸送性芳香族第三アミンを含む層からなる有機正孔注入・輸送帯域と、有機電子注入・輸送帯域とカソードとを順次設けてなる内部接合有機エレクトロルミネセンス装置であって、 前記正孔輸送性芳香族第三アミンが少なくとも2つの第三アミン部分を含み、かつ第三アミン窒素原子に結合したアリール基を含んでなる有機エレクトロルミネセンス装置。」 が記載されている。 b,甲第2号証〔特願平2-49796号の願書に最初に添付した明細書及び図面(特開平3-200889号公報参照)〕(以下、「引用例2」という。) 引用例2には、「陽極および陰極と、これらの間に挟持された一層または複数層の有機化合物より構成される電界発光素子において、前記有機化合物層のうち少なくとも一層が下記一般式(I)又は一般式(II)で表される有機化合物を構成成分とする層であることを特徴とする電界発光素子が、上記課題に対し有効であることを見いだし、本発明を完成するに至った。・・・すなわち、本発明の電界発光素子は陽極および陰極の間に一層又は複数層の有機化合物による薄膜を挟持して成るものであり、特に薄層のうちの少なくとも一層を構成する主要化合物として前記一般式(I)又は一般式(II)で示される有機化合物を用いるものである。」(2頁右下欄4行〜3頁右上欄6行。なお、上記(I)、(II)式については引用例2に係る公報参照。)点が記載されている。 そして、上記一般式(II)には、正孔輸送性芳香族第三アミンが、XがN-R5である場合には、第三アミン部分がビニル基に直接結合した六員環に導入され、かつ第三アミン窒素原子に結合した少なくとも2つの縮合芳香族環(基を構成する環)を含有する芳香族部分を含んでなる電界発光素子が記載されているものと認められる。 また、本件に係る出願の出願前に頒布された刊行物である特許異議申立人・バンドー化学株式会社が提示した甲第1〜4号証には、次の発明が記載されている。 c,甲第1号証〔特開昭63-295695号公報〕(以下、「引用例1」という。) 上記aに同じ。 d,甲第2号証〔特開昭64-76059号公報〕(以下、「引用例3」という。) 引用例3には、その特許請求の範囲の欄に、 「下記一般式で示す化合物を含有する層を有することを特徴とする電子写真感光体。 一般式(省略。引用例3に係る公報参照。) 式中、Ar1およびAr2は置換基を有してもよい芳香環または複素環を示し、R1、R2、R3、R4、R5及びR6は置換基を有してもよいアルキル基、アラルキル基または芳香環基を示し、l及びmは同一または異なって、0または1の整数、nは2または3の整数である。」と記載されている。 したがって、引用例3には、Ar1およびAr2が複素環でR1、R2、R3、R4、R5及びR6が芳香環基である場合を考慮すると、 「第三アミンが少なくとも2つの第三アミン成分を含み、かつ第三アミン窒素原子に結合した少なくとも2つの縮合芳香族環を含有する芳香族成分を含んでなる電子写真感光体。」が記載されているものと認められる。 e,甲第3号証〔特開昭62-250459号公報〕(以下、「引用例4」という。) 引用例4には、その特許請求の範囲の欄に、 「下記一般式で示す化合物を含有する層を有することを特徴とする電子写真感光体。 一般式(省略。引用例4に係る公報参照。) ただし、式中R1は置換基を有してもよいアルキル基、アラルキル基を示す。R2、R3、R4、R5は置換基を有してもよいアルキル基、アラルキル基、アリール基、又は複素環基を示す。また、R2、R3又はR4、R5は窒素原子と共に5〜6員環を形成する残基を示す。 X1、X2は水素原子、ハロゲン原子、アルキル基、アルコトキ基、ニトロ基、シアノ基、トリフルオロメチル基を示す。」と記載されている。 したがって、引用例4には、R1、R2、R3、R4、R5が複素環基である場合を考慮すると、 「第三アミンが少なくとも2つの第三アミン成分を含み、かつ第三アミン窒素原子に結合した少なくとも2つの縮合芳香族環を含有する芳香族成分を含んでなる電子写真感光体。」が記載されているものと認められる。 f,甲第4号証〔電子写真学会誌第25巻第3号第16頁〜第22頁、「有機光導電体材料におけるキャリア輸送能向上のための分子設計」1986年〕(以下、「引用例5」という。) 引用例5には、有機光導電体材料におけるキャリア輸送剤として用いるトリフェニルアミン誘導体の分子の共鳴系を拡大するために、分子中の第3アミンに結合している基を芳香族環からなるものを用いると、キャリア輸送能が向上し、安定性が改善する点について記載されている。(特に、17頁の図2とその説明の記載を参照。) しかし、引用例5の図2や表1(19頁)をみると第3アミンに結合している基はいずれも縮合したものではなく、縮合したものを含むと認められる根拠もない。 また、本件に係る出願の出願前に頒布された刊行物である特許異議申立人・粟井英一郎が提示した甲第1〜2号証には、次の発明が記載されている。(なお、甲第3〜6号証は直接の証拠方法とはしていない。) g,甲第1号証〔特開昭63-295695号公報〕(以下、「引用例1」という。) 上記aに同じ。 h,甲第2号証〔特開平1-142657号公報〕(以下、「引用例6」という。) 引用例6には、電子写真用の感光体において、その特許請求の範囲の請求項1の欄には、(2)式として表される基本構造を有するジアミン誘導体が記載されている。((2)式については、引用例6に係る公報参照。) このジアミン誘導体は、上記式(2)からも明らかなように、少なくとも2つの第三アミン成分を含み、かつ第三アミン窒素原子に結合した少なくとも2つの縮合芳香族環を含有するものである。 したがって、引用例6には、 「第三アミンが少なくとも2つの第三アミン成分を含み、かつ第三アミン窒素原子に結合した少なくとも2つの縮合芳香族環を含有する芳香族成分を含んでなる」点が記載されているものと認められる。 3)対比・判断 a,新規性・進歩性について 〔引用例1について〕 そこで、訂正発明と引用例1に記載された発明とを対比してみると、これらの引用例1に記載された発明は上記のとおりのものであって、両者は 「アノードと、正孔輸送性芳香族第三アミンを含む層からなる有機正孔注入・輸送帯域と、有機電子注入・輸送帯域とカソードとを順次設けてなる内部接合有機エレクトロルミネセンス装置であって、 前記正孔輸送性芳香族第三アミンが少なくとも2つの第三アミン部分を含み、かつ第三アミン窒素原子に結合した芳香族部分(アリール基)を含んでなることを特徴とする有機エレクトロルミネセンス装置。」 である点で一致し、訂正発明においては芳香族部分が、「少なくとも2つの縮合芳香族環を含有する」ものであるのに対して、引用例1に記載された発明においてはアリール基がその定義上「少なくとも2つの縮合芳香族環を含有する」場合もあるが、そのような場合、すなわちアリール基のうちの少なくとも2つの縮合芳香族環を含有する基を用いる場合については記載がない点で相違する。 そこで、この相違点について検討すると、アリール基とは、特許権者提示に係る乙第1号証(岩波理化学事典)によれば芳香族炭化水素の核から水素1原子を除いた残基の総称であり、第三アミン窒素原子に結合したアリール基には多くの構造が考えられるものであるが、その中から「少なくとも2つの縮合芳香族環を含有する」場合について格別の効果(本件特許明細書の段落【0076】【0077】の表1、2及びそれについての説明に係る段落【0078】【0079】の記載参照。)を見出すことまでもが引用例1に記載されているとも、引用例1記載の発明から容易に想到できるものとも認めることはできない。 また、引用例3〜6について、上記相違点(芳香族部分が、「少なくとも2つの縮合芳香族環を含有する」点。)に係る記載ないし示唆の有無について検討する。(引用例2は特許法第29条の2に係る先の出願であるため、後述する。) 〔引用例3について〕 引用例3は上記ニ、2)dのように電子写真感光体に係る発明であって、感光材料が上記相違点に係る「第三アミンが少なくとも2つの第三アミン成分を含み、かつ第三アミン窒素原子に結合した少なくとも2つの縮合芳香族環を含有する芳香族成分を含んでなる」点が記載されている。 しかし、訂正発明が有機エレクトロルミネッセンス装置に係るものであって、比較的低電圧(20ボルト程度)で発光させる表示或いは照明に係る装置であるのに対し、引用例3記載の電子写真感光体は複写機の感光ドラムに適用され、光を受けて帯電しトナーを吸着してから紙葉に転写し複写する装置に係るものである。 したがって、訂正発明と引用例3記載の発明とは、光のエネルギーと電気的エネルギーとの変換が生じるというきわめて上位の概念では共通する点があるが、産業上の利用分野は異なったものとみるのが相当である。 さらに、引用例3に係る電子写真感光体は、電荷輸送物質であることは明らかで(引用例3第2頁右上欄14〜18行参照。)、訂正発明のように正孔輸送性物質とは異なったものである。 また、有機化合物は多様なものが知られてはいるが、それらをどのような装置に適用したときどのような作用効果を奏するのかまでは一般には不明である。 本件訂正発明についての検討にあっては、引用例1記載の発明に引用例3記載の発明を適用するには単に阻害要因がないというだけでは足らず、それぞれの発明の作用機序からみて当業者であれば適用容易であると認めるに足る理由が必要と認められるところ、引用例1記載の発明に引用例3記載の発明を適用することが容易と認めるに足る根拠は何ら示されていない。 〔引用例4について〕 引用例4については、上記ニ、2)eに記載したように、訂正発明との対比の観点からみると引用例3に記載された電子写真感光体と何ら変わるところがない。 したがって、上記〔引用例3について〕で述べた理由と同じ理由により、引用例1記載の発明に引用例4記載の発明を適用することが容易と認めるに足る根拠は何ら示されていないものである。 〔引用例5について〕 引用例5については、上記ニ、2)fのように芳香族部分が、少なくとも2つの縮合されている芳香族環を含有するものである点が記載されているものとは認められない。 また、その用途も電子写真有機感光体デバイスと記載され、明らかにエレクトロルミネッセンス装置とは異なっている。 そして、これを引用例1記載の発明に適用することが容易と認めるに足る理由は見いだせない。 〔引用例6について〕 引用例6には、上記ニ、2)hに記載したように、「第三アミンが少なくとも2つの第三アミン成分を含み、かつ第三アミン窒素原子に結合した少なくとも2つの縮合芳香族環を含有する芳香族成分を含んでなる」点が記載されているものではあるが、これも引用例3と同様に電子写真感光体であり、かつ、電荷輸送能の向上を課題とするものであって正孔輸送性のものとは相違している。 したがって、上記〔引用例3について〕について述べた理由と同じ理由により、引用例1記載の発明に引用例4記載の発明を適用することが容易と認めるに足る根拠は何ら示されていないものである。 b,他の出願に係る発明との同一性について 〔引用例2について〕 上記ニ、2)bに記載したように、引用例2の特許請求の範囲の欄の一般式(II)には、正孔輸送性芳香族第三アミンが、XがN-R5である場合には、第三アミン部分がビニル基に直接結合した六員環に導入され、かつ第三アミン窒素原子に結合した少なくとも2つの縮合芳香族環(基を構成する環)を含有する芳香族部分を含んでなる電界発光素子が記載されている。 そして、このものは、電界発光素子であって、訂正発明に係る有機エレクトロルミネッセンス装置に相当する。 しかしながら、上記一般式(II)においてXがN-R5である場合は、訂正発明において、「少なくとも2つの第三アミン部分を含み(但し、当該第三アミン部分がビニル基に直接結合した六員環に導入されている場合を除く)」との訂正事項を含む特許請求に範囲の減縮を目的とする訂正がなされたものである。 すなわち、訂正発明は、引用例2に記載されていたXがN-R5である場合の一般式(II)で示される電界発光素子が除かれたから、訂正発明が引用例2に記載された発明と同一ということはできない。 なお、引用例2の全体の記載をみても、 「正孔輸送性芳香族第三アミンが少なくとも2つの第三アミン部分を含み(但し、当該第三アミン部分がビニル基に直接結合した六員環に導入されている場合を除く)、かつ第三アミン窒素原子に結合した少なくとも2つの縮合芳香族環を含有する芳香族部分を含んでなる」 点についての記載はなく、特に、第三アミン窒素原子に少なくとも2つの縮合芳香族環を結合して発光性能を向上させるという技術思想についてはその認識があったものとは認められない。 4)記載不備について 特許異議申立人・バンドー化学株式会社の申立理由によると、 「本件に係る特許明細書には4つの実施例についてだけ効果が確認されている。 しかし、請求項の記載で特定される芳香族第三アミンは無数存在し、その全てのものがエレクトロルミネッセンス装置の機能を向上させるものであるとは考えられず、効果も予測もできない。 したがって、特許明細書には当業者が容易にその発明の実施をすることができる程度に発明の目的、構成、効果が記載されておらず、請求項には発明の構成に欠くことができない事項のみが記載されているものでもない。」 旨主張している。 しかし、訂正発明は、第三アミン窒素原子に少なくとも2つの縮合芳香族環を含有する芳香族部分を結合するとエレクトロルミネッセンス装置の機能が向上するとの新しい知見のもとに、発明がなされ、それによって少なくとも4つの実施例では課題を達成しているものである。 したがって、当業者においては発明の目的、構成、効果は明らかであり実施できないものではなく、上記新しい知見に基づくものの範囲で訂正発明は構成が特定されているから、請求項の記載は発明の構成に欠くことができない事項のみが記載されていると認められるものである。 また、特許異議申立人・粟井英一郎は、ATA-14で示される実施例の第三アミンは縮合芳香族環を一つしか有しておらず、請求項記載の記載と矛盾し、不明瞭であると主張している。 しかし、特許明細書の【0016】【0017】【0018】欄の記載からみて、特許明細書では、縮合された基全体を「部分」「成分」と称し、縮合された基を構成する環を表すときは、「縮合芳香環」「縮合環」と称している。 これは必ずしも一般的な呼称ではないと認められるが、上記各欄の記述からするとATA-14で示される実施例の第三アミンは縮合芳香族環を二つ有しており、不明瞭とは云えない。 ホ、訂正の適否についてのむすび 以上のとおりであるから、本件に係る訂正は、特許請求の範囲の減縮、誤記の訂正、明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。 また、訂正発明は、引用例1、3ないし6に記載された発明であるとも、それらに記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとも認められない。 さらに、引用例2に記載された発明と同一と認めることもできない。 また、特許明細書には記載上の不備はない。 したがって、本件に係る訂正は特許法第120条の4第2項及び第3項で準用する平成6年改正前の同法第126条ただし書、第2、3項の規定に適合するので、当該訂正を認める。 (3)特許異議申立についての判断 イ、申立の理由の概要 特許異議申立人・渡辺忠雄は甲第1、2号証を提示して本件の請求項1に係る発明は、甲第1号証に記載された発明であり、すくなくとも甲第1号証記載の発明から当業者が容易に発明をすることができたものであるから特許法第29条第1項或いは第2項の規定により取り消されるべきと、また、甲第2号証に記載された発明と同一であるから特許法第29条の2の規定により取り消されるべきと主張している。 また、特許異議申立人・バンドー化学株式会社は甲第1〜4号証を提示して本件の請求項1に係る発明は、甲第1〜4号証記載の発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから特許法第29条第2項の規定により取り消されるべき旨、及び特許明細書には記載上の不備があるから特許法第36条の規定を満たしておらず取り消されるべき旨、主張している。 また、特許異議申立人・粟井英一郎は甲第1〜6号証を提示して本件の請求項1に係る発明は、甲第1号証に記載された発明であり、或いは甲第1、2号証記載の発明から当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第1項或いは第2項の規定により取り消されるべきと主張し、さらに特許明細書には記載上の不備があるから特許法第36条の規定を満たしておらず取り消されるべきと主張している。 ロ、判断 しかしながら、本件発明は、上記(2)に記載したとおりの理由で訂正が認められるものであって、その訂正が認められた発明(訂正発明)は上記(2)、ニで検討したように、上記引用例1ないし6の存在に拘わらず特許出願の際独立して特許を受けることができるものである。 そして、引用例1ないし6は、上記(2)、ニ、2)、a〜fに記載したように、三人の特許異議申立人の提示に係る証拠方法を全て含むものである。 また、訂正後の特許明細書には上記(2)、ニ、4)に記載したように、特許異議申立人主張のような記載上の不備はない。 (4)むすび 以上のとおりであるから、請求項1に係る発明の特許は、特許異議の申立の理由及び証拠によっては取り消すことができない。 また、他に請求項1に係る発明に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり決定する。 |
発明の名称 |
(54)【発明の名称】 有機エレクトロルミネセンス媒体を有するエレクトロルミネセンス装置 (57)【特許請求の範囲】 【請求項1】 アノードと、正孔輸送性芳香族第三アミンを含む層からなる有機正孔注入・輸送帯域と、有機電子注入・輸送帯域とカソードとを順次設けてなる内部接合有機エレクトロルミネセンス装置であって、 前記正孔輸送性芳香族第三アミンが少なくとも2つの第三アミン部分を含み(但し、当該第三アミン部分がビニル基に直接結合した六員環に導入されている場合を除く)、かつ第三アミン窒素原子に結合した少なくとも2つの縮合芳香族環を含有する芳香族部分を含んでなることを特徴とする有機エレクトロルミネセンス装置。 【発明の詳細な説明】 【0001】 【産業上の利用分野】 本発明は、有機エレクトロルミネセンス装置に関する。より詳細には、本発明は、個別に正孔輸送帯域と電子輸送帯域を含む有機エレクトロルミネセンス装置に関する。 【0002】 【従来の技術】 エレクトロルミネセンス装置(以下、「EL装置」とも称する)には、電極がエレクトロルミネセンス媒体により分離され間隔をあけた状態で含まれているが、このエレクトロルミネセンス媒体は、電極間に印加した電位差に応答して電磁放射線、典型的には光を発する。このエレクトロルミネセンス媒体は、ただ単に発光することができなければならないばかりでなく連続状に作製できなければならず(即ち、ピンホールがあってはならない)、そして容易に作製されるとともに装置の動作に耐えるに十分な程度に安定でなければならない。 【0003】 従来の有機EL装置の代表例として、メール等(Mehl et al)による米国特許第3,530,325号、ウイリアムズ(Williams)による米国特許第3,621,321号、タング(Tang)による米国特許第4,356,429号、バンスリーケ等(VanSlyke et al)による米国特許第4,539,507号及び第4,720,432号並びにタング等による米国特許第4,769,292号及び第4,885,211号が挙げられる。 【0004】 【発明が解決しようとする課題】 内部接合有機EL装置の性能に関する課題の一つは装置の動作寿命中にルミネセンスの低減にあった。ルミネセンスを変化しないまま維持するために装置を漸増する電圧下で駆動する場合には、駆動回路によって都合よく供給できない程の電圧レベルが必要であるか、あるいは電極から離れた層の誘電ブレークダウン強度を超えるフィールド勾配を生じ、最終的に装置の破滅的な故障をもたらす。 【0005】 バンスリーケ等の米国特許第4,539,507号には、フェニル基又はフェニレン基を含む第三級アミン類(ジアミン類を含む)を内部接合有機EL装置の正孔注入・輸送帯域に使用すると、光出力の安定性が向上し、それによって動作寿命が延びることが認められる。バンスリーケ等の米国特許第4,720,432号では、正孔注入・輸送帯域を2つの層、即ち1つはカソードに接触した正孔注入層ともう1つは電子注入・輸送帯域とで接合を形成する隣接の正孔輸送層として作製することでさらに高レベルの安定性が実現できることが認められる。バンスリーケ等の米国特許第4,720,432号は、正孔輸送層に第三アミンを使用し、そして正孔注入層にタングの米国特許第4,356,429号で公表されている種類のポリフィリン化合物を使用する。 【0006】 バンスリーケ等の発見によって内部接合有機EL装置の改良はなされているが、内部接合有機EL装置のルミネセンスは、初めのうちはまだ比較的早い速度で低減する。一定電流で装置が駆動される場合、最初の動作の数時間はルミネセンスが急激に低減し、その後はルミネセンスが徐徐に低減することがよくある。例えば、典型的な装置では、動作の初期の10〜20時間以内に、動作の300時間をかけて低減する総ルミネセンスの低減の半分を示し、さらに初期の10〜20時間以内の低減のほとんどが動作の最初の1〜2時間に起こる。 【0007】 本発明の目的は、長時間の動作にわたり初期ルミネセンスが高率で保持され、かつ長時間の動作にわたり従来の装置よりも平均して高レベルのルミネセンスを示すような内部接合有機EL装置を提供することにある。 【0008】 【課題を解決するための手段】 本発明の一態様によれば、アノードと、正孔輸送性芳香族第三アミンを含む層からなる有機正孔注入・輸送帯域と、有機電子注入・輸送帯域とカソードとを順次設けてなる内部接合有機エレクトロルミネセンス装置が提供される。本発明は、前記正孔輸送性芳香族第三アミンが少なくとも2つの第三アミン部分を含み(但し、当該第三アミン部分がビニル基に直接結合した六員環に導入されている場合を除く)、かつ第三アミン窒素原子に結合した少なくとも2つの縮合芳香族環を含有する芳香族部分を含んでなることを特徴とする。 【0009】 本発明に従う内部接合有機エレクトロルミネセンス(EL)装置100を図1に概略図として図示する。アノード102は有機エレクトロルミネセンス媒体106を介してカソード104と離されており、この媒体106は正孔注入・輸送帯域108と電子注入・輸送帯域112より構成されている。これらの2つの帯域はそれらの界面で接合110を形成する。 【0010】 アノードとカソードは、それぞれ導体116及び118で外部電源114に接続されている。この電源は、連続直流若しくは交流電流電圧源であっても、断続電流電圧源であってもよい。適当なスイッチ回路を含んで、カソードに対してアノードを正にバイアスできる適当な通常の電源を用いることができる。アノードかカソードは大地電位であることができる。 【0011】 内部接合有機EL装置は、アノードがカソードより高い電位であるとき順方向にバイアスされるダイオードとみなすことができる。これらの条件下で、略図的に120で示されるように下部有機帯域108への正孔(正電荷キャリヤー)の注入が生じ、一方、略図的に122で示されるように上部有機帯域112へ電子が注入される。注入された正孔及び電子は、矢印124及び126でそれぞれ示されるように逆に荷電した電極に向かって移動する。接合110を横切る正孔は、電子注入・輸送帯域112内で正孔と電子の再結合をもたらす。移動電子が伝導帯電位から価電子帯に降下するとき、エネルギーが光として放出される。別の構成を選ぶことで、電極を分離している有機エレクトロルミネセンス媒体の一つ以上の端128を介するか、アノードを介するか、カソードを介するか、あるいはそれらの組み合わせを介して放出された光が有機エレクトロルミネセンス媒体から放射されうる。有機エレクトロルミネセンス媒体はかなり薄いため、通常、二つの電極のうちの一つを介して光を放射することが好ましい。 【0012】 電極の逆方向バイアスにより、可動電荷移動方向が逆になり、有機エレクトロルミネセンス媒体の可動電荷キャリヤーが枯渇し、そして光の放射が終了する。AC電源を用いると、内部接合有機EL装置が各周期の一部分で順方向にバイアスされ、そして周期の残りの部分で逆にバイアスされる。 図2に示される内部接合有機EL装置200は、本発明の好ましい態様の一つを略図的に示すものである。有機EL装置の従来の開発によれば、通常、透明アノードが使用されてきた。これは透明な絶縁基板上に光伝導性の比較的高い仕事関数の金属層又は金属酸化物層を堆積してアノード204を形成することによって達成される。有機エレクトロルミネセンス媒体206は、図1の帯域112に対応する単一層の形状で有機電子注入・輸送帯域212を含む。有機正孔注入・輸送帯域は、正孔注入層208と正孔輸送層210に分けられている。カソード214は、通常、有機エレクトロルミネセンス媒体の上層への堆積によって形成される。 【0013】 図3に示される内部接合有機EL装置300は、本発明のもう一つの好ましい態様を図示するものである。有機EL装置開発の伝統的な類形と対象的に、装置300からの光の放射は光透過性(例えば、透明又は実質的に透明な)カソード314を介する。装置300のアノードが装置200と同様に形成されるので、光の放射はアノードとカソードの両者を介して可能であるが、装置300で示される好ましい態様では、アノード302の形成に比較的高い仕事関数の金属基板のような不透明な電荷伝達元素を用いる。有機エレクトロルミネセンス媒体306とそれの各層308,310及び312は、それぞれ媒体206と各層208,210及び212に相当するのでさらなる説明は不要である。装置200と300との間の有意な差異は、後者が有機EL装置にほとんどの場合に常用される不透明カソードの位置に光透過性(例えば、透明又は実質的に透明な)薄いカソードが用いられ、普通に使用されている光透過性アノードに代え不透明なアノードが用いられる点にある。 【0014】 有機EL装置200及び300の両者から見られるように、本発明が正極性基板又は負極性基板のいずれかの上に装置を設える選択の自由があることは明らかである。 この発明の内部接合有機EL装置の有機エレクトロルミネセンス媒体を形成するには少なくとも2種の有機層が必要である。有機層の一つは、電子注入・輸送帯域を形成し、他の有機層少なくとも一つは正孔注入・輸送帯域を形成することが必要である。 【0015】 この有機EL装置の正孔輸送層は、少なくとも1種の正孔輸送性芳香族第三アミンを含み、この第三アミンは炭素原子のみが結合する三価の窒素原子を少なくとも一つ含み、その少なくとも一つは芳香族環の環員であるものと理解されている。 本発明は、特に選択された芳香族第三アミン類が装置の初期動作付近での改良されたレベルの安定性を示し、その後の装置の動作をとうして高レベルの安定を示すことによりルミネセンス装置の安定性を著しく改良するとの発見に基づく。これらの利点は、選択された芳香族第三アミン類を使用して正孔注入・輸送帯域全体(図1の108で示される)を作製するか、あるいは正孔注入・輸送帯域の正孔輸送層(図2及び3の210及び310で示される)を作製するときに得ることができる。 【0016】 本発明の内部接合有機EL装置の性能を改良できる特に選択された芳香族第三アミン類は、(1)少なくとも2個の第三アミン成分を含んでなり、そして(2)第三アミンの窒素原子に結合した少なくとも2個の縮合芳香族環を含有する芳香族成分を含んでなる。以下に少なくとも2個の縮合芳香族環と10〜24個の環炭素原子を含有する芳香族化合物を例示する。 【0017】 ナフタリン、 アズレン、 ヘプタレン、 as-インダセン、 s-インダセン、 アセナフチレン、 フェナレン、 フェナントレン、 アントラセン、 フルオロアンスレン、 アセフェナトリレン、 アセアントリレン、 トリフェニレン、 ピレン、 クリセン、 ナフタセン、 プレイアデン、 ピセン、 ペリレン、 ペンタフェン、 ヘキサフェン、 ルビセン、及び コロネン。 【0018】 第三アミンの縮合芳香環成分は、約10〜16個の環炭素原子を有することが好ましい。不飽和5〜7員環を芳香6員環(即ち、ベンゼン環)と縮合して有用な縮合芳香環成分を形成できるが、縮合芳香環成分が少なくとも2個の縮合ベンゼン環を含むことが一般的に好ましい。2個の縮合ベンゼン環を含有する縮合芳香環成分の最も簡単な形態は、ナフタリンである。したがって、好ましい芳香環成分はナフタリン成分であるが、ナフタリン成分はナフタリン環構造を含有する全ての化合物が含まれる。一価の形態では、ナフタリン成分は、ナフチル成分であり、そして二価の形態では、ナフタリン成分はナフチレン成分である。 【0019】 縮合芳香族環成分の芳香族環炭素が選択された芳香族第三アミンの第三級窒素原子の一つに直接結合している。本発明の実施に際して用いられる選択された芳香族第三アミン類には少なくとも2個の第三アミン成分が存在するので、種々の関係式が可能である。縮合芳香族環成分は、選択された第三アミンに存在する第三アミン窒素原子の1個以上の置換基として存在することができ、縮合芳香族環成分は選択された芳香族第三アミンの第三アミン窒素原子間の二価の結合を形成でき、そして1個以上の縮合芳香族環成分が存在する場合には単一の選ばれた芳香族第三アミンで両条件を満たすこともできる。 【0020】 好ましい種類の選択された芳香族第三アミン類は、少なくとも2個の芳香族第三アミン成分を含むものである。このような化合物としては、以下の構造式(I)で表されるものが挙げられる。 【0021】 【化1】 【0022】 式中、Q1及びQ2は、それぞれ独立して芳香族第三アミン成分であり、 Gは、アリーレン基、シクロアルキレン基、アルキレン基又は炭素-炭素結合であり、 Q1,Q2及びGの少なくとも1つは上記のような縮合芳香族環成分を含む。特に好ましい各Q1及びQ2の形態は、アミン窒素原子に結合した縮合芳香族環成分、最適には縮合ナフチル成分を含む。Gがアリーレン成分のときは、フェニレン、ビフェニレン又はナフチレン成分が好ましい。 【0023】 式(I)を満足しそして2個のトリアリールアミン成分を含む特に好ましい種類のトリアリールアミン類は、以下の構造式(II)を満足するものである。 【0024】 【化2】 【0025】 式中、R1及びR2は、各々独立して水素原子、アリール基又はアルキル基を表すか、R1とR2がいっしょになってシクロアルキル基を完成している原子を表し、 R3及びR4は、各々独立して、下式(III)で示されるようなジアリール置換アミノ基で置換されたアリール基を表す。 【0026】 【化3】 【0027】 式中、R5及びR6は、それぞれ独立して選択されたアリール基である。式(III)のアミン窒素原子に結合したアリール基の少なくとも1個は、上記したような縮合芳香族環成分である。特に好ましい態様では、R5及びR6の少なくとも1個が縮合芳香族環成分、最適にはナフチル基である。 別の好ましい種類の選択された芳香族第三アミンは、テトラアリールジアミンである。テトラアリールジアミンは、アリーレン基を介して結合した式(III)で示されるようなジアリール基を2個含むことが好ましい。好ましいテトラアリールジアミンとしては、下記式(IV)により表されるものが挙げられる。 【0028】 【化4】 【0029】 式中、Ar,Ar1,Ar2及びAr3は独立して、フェニル、ビフェニル及びナフチル基から選択され、 Lは二価のナフチレン基又はdnであり、 dはフェニレン基であり、 nは1〜4の整数であり、そしてLがdnのときはAr,Ar1,Ar2及びAr3の少なくとも1個がナフチル基である。 【0030】 上記の構造式(I),(II),(III)及び(IV)の種々のアルキル、アルキレン、アリール及びアリーレン成分は、各々置換されていてもよい。典型的な置換基としては、例えば、アルキル基、アルコキシ基、アリール基、アリールオキシ基並びにフッ素、塩素及び臭素等のハロゲンが挙げられる。種々のアルキル及びアルキレン成分は、典型的には、炭素数が約1〜6である。シクロアルキル成分の炭素数は3〜約10であるが、典型的には、5個、6個又は7個の環炭素原子を含み、例えば、シクロペンチル、シクロヘキシル及びシクロヘプチル環構造を有している。アリール及びアリーレン成分は、フェニル及びフェニレン構造であることが好ましい。 【0031】 有機エレクトロルミネセンス媒体の正孔輸送層全体を上記タイプの単一の選択された芳香族第三アミンで形成できるが、選択された芳香族第三アミン類の組み合わせも有利に使用でき、さらに上記タイプの選択された芳香族第三アミン類とバンスリケ等の米国特許第4,720,432号で公表されるタイプの芳香族第三アミン類(即ち、縮合芳香族環成分を欠いた芳香族第三アミン類)との組み合わせも使用できる。各種具体的に記載したものとは別に、バンスリーケ等の米国特許第4,720,432号(引用することによって本明細書の内容となる)に教示するものも、一般的に、本発明の内部接合有機EL装置に使用可能である。 【0032】 有用な選択された(縮合芳香族環含有)芳香族第三アミン類の具体例を以下に列挙する。 ATA-1 4,4′-ビス〔N-(1-ナフチル)-N-フェニルアミノ〕ビフェニル ATA-2 4,4″-ビス〔N-(1-ナフチル)-N-フェニルアミノ〕-p-ターフェニル ATA-3 4,4′-ビス〔N-(2-ナフチル)-N-フェニルアミノ〕ビフェニル ATA-4 4,4′-ビス〔N-(3-アセナフテニル)-N-フェニル-アミノ〕ビフェニル ATA-5 1,5-ビス〔N-(1-ナフテニル)-N-フェニルアミノ〕-ナフタレン ATA-6 4,4′-ビス〔N-(9-アンスリル)-N-フェニルアミノ〕ビフェニル ATA-7 4,4″-ビス〔N-(1-アンスリル)-N-フェニルアミノ〕-p-ターフェニル ATA-8 4,4′-ビス〔N-(2-フェニルアンスリル)-N-フェニルアミノ〕-ビフェニル ATA-9 4,4′-ビス〔N-(8-フルオランセニル)-N-フェニルアミノ〕ビフェニル ATA-10 4,4′-ビス〔N-(2-ピレニル)-N-フェニルアミノ〕ビフェニル 【0033】 ATA-11 4,4′-ビス〔N-(2-ナフタセニル)-N-フェニルアミノ〕-ビフェニル ATA-12 4,4′-ビス〔N-(2-ペリレニル)-N-フェニルアミノ〕ビフェニル ATA-13 4,4′-ビス〔N-(1-コロネニル)-N-フェニルアミノ〕ビフェニル ATA-14 2,6-ビス(ジ-p-トリルアミノ)ナフタレン ATA-15 2,6-ビス〔ジ-(1-ナフチル)アミノ〕ナフタレン ATA-16 2,6-ビス〔N-(1-ナフチル)-N-(2-ナフチル)-アミノ〕ナフタレン ATA-17 N,N,N′,N′-テトラ(2-ナフチル)-4,4″-ジアミノ-p-ターフェニル ATA-18 4,4′-ビス{N-フェニル-N-〔4-(1-ナフチル)フェニル〕アミノ}ビフェニル ATA-19 4,4′-ビス〔N-フェニル-N-(2-ピレニル)アミノ〕ビフェニル ATA-20 2,6-ビス〔N,N-ジ(2-ナフチル)アミノ〕フルオレン ATA-21 1,5-ビス〔N-(1-ナフチル)-N-フェニルアミノ〕ナフタレン 【0034】 最も簡単で好ましい装置の構成では、正孔注入・輸送帯域が上記選択された(縮合芳香族環)を含む単一層を形成する。これらの第三アミン類並びに縮合芳香族環を欠いた芳香族第三アミン類の組み合わせも個別の層で一緒に使用することができるものと認められている。芳香族第三アミン類の組み合わせが隣接層に存在する場合、アノードと接触する際にもっとも低い酸化電位を有するアミンを置くことが好ましい。次に、この層は正孔注入層として役立つ。 【0035】 本発明の内部接合有機EL装置は、選択された(縮合芳香族環)第三アミン類を、有機EL装置の電子注入・輸送帯域とアノードと接触しポルフィリン化合物を含む正孔注入層が形成する正孔注入帯域と接触し、そして接合を形成する正孔輸送層中に含めるが好ましい。ポルフィリン化合物は、天然であるか合成であるか、ポルフィリン構造から誘導されるか若しくはそれを含むかのいずれであってもよく、またポルフィリン自体も含む。アルダー等(Alder et al)の米国特許第3,935,031号又はタングの米国特許第4,356,429号で公表されるいずれのポルフィリン系化合物も使用することができる。 【0036】 好ましいポルフィリン系化合物としては、下記の構造式(V)で示されるものが挙げられる。 【0037】 【化5】 【0038】 式中、Qは-N=又は-C(R)=であり、 Mは金属、金属酸化物又は金属ハロゲン化物であり、 Rは水素、アルキル、アラルキル、アリール又はアルクアリールであり、 T1及びT2は、水素を表すか、いっしょになって不飽和6員環を形成するが、この不飽和6員環はアルキルかハロゲン等の置換基を含んでいてもよい。好ましい6員環は、炭素、イオウ及び窒素環原子の形成するものである。好ましいアルキル基は、炭素約1〜6を含み、一方フェニルが好ましいアリール成分を構成する。 【0039】 別の好ましい態様では、ポルフィリン系化合物は、下記式(VI)で示されるように金属原子が2個の水素で置換していて構造式(V)の化合物と異なる。 【0040】 【化6】 【0041】 有用なポルフィリン系化合物の非常に好ましい例は、金属を含まないフタロシアニン類及び金属含有フタロシアニン類である。一般的にポルフィリン系化合物、特にフタロシアニン類は、いずれの金属を含有してもよく、この金属は2価以上の正の原子価を有することが好ましい。好ましい金属としては、例えば、コバルト、マグネシウム、亜鉛、パラジウム、ニッケル、そして特に銅、鉛及び白金が挙げられる。 【0042】 有用なポルフィリン系化合物の例を以下に挙げる。 PC-1: ポルフィン PC-2: 1,10,15,20-テトラフエニル-21H,23H-ポルフィン銅(II) PC-3: 1,10,15,20-テトラフエニル-21H,23H-ポルフィン亜鉛(II) PC-4: 5,10,15,20-テトラキス(ペンタフルオロフェニル)21H,23H-ポルフィン PC-5: シリコンフタロシアニンオキシド PC-6: アルミニウムフタロシアニンオキシド PC-7: フタロシアニン(金属を含まない) PC-8: ジリチウムフタロシアニン PC-9: 銅テトラメチルフタロシアニン PC-10:銅フタロシアニン PC-11:クロムフタロシアニンフッ化物 PC-12:亜鉛フタロシアニン PC-13:鉛フタロシアニン PC-14:チタンフタロシアニンオキシド PC-15:マグネシウムフタロシアニン PC-16:銅オクタメチルフタロシアニン 【0043】 カソードに隣接して有機エレクトロルミネセンス媒体の層を形成する際には、通常の電子注入・輸送性化合物(一種以上)を用いることができる。この層は、アントラセン、ナフタリン、フェナントレン、ピレン、クリセン、ペリレン等の従来から教示されているエレクトロルミネセンス材料並びにガーニー等(Gurnee et al)による米国特許第3,172,862号、ガーニーによる米国特許第3,173,050号、ドレスナー(Dresner)、「アントラセンにおける二重注入エレクトロルミネセンス(Double Injection Electroluminescence)」、アールシーエイ・レビュー(RCA Review)、第30巻、322〜334(1969)及びドレスナーによる米国特許第3,710,167号に例示されているような約8個以下の縮合環を含有する他の縮合環ルミネセンス材料により形成できる。このような縮合環ルミネセンス材料はそれ自体で薄い(<1μm)膜を形成し難く、そしてそれ自体では達成できる最高レベルのEL装置性能を達成し難いとはいえ、この発明で構成される上記のようなルミネセンス材料を含む有機EL装置は従来のEL装置に比べて性能及び安定性において改良を示す。 【0044】 電子注入・輸送帯域化合物のうち、薄膜を形成するのに有用なものは、上記したタングによる米国特許第4,356,429号に開示されている1,4-ジフェニルブタジエン及びテトラフェニルブタジエン等のブタジエン類;クマリン類;並びにトランススチルベン等のスチルベン類である。 カソードに隣接する層を形成するのに使用することができるさらに他の薄膜形成性電子輸送化合物は、螢光増白剤、特に上記したバンスリケ等による米国特許第4,539,507号に開示されているものである。有用な螢光増白剤としては、例えば、構造式(VII)及び(VIII)を満足するものが挙げられる。 【0045】 【化7】 【0046】 又は 【0047】 【化8】 【0048】 式中、R1,R2,R3及びR4は、それぞれ独立して水素;炭素数が1〜10の飽和脂肪族炭化水素、例えば、プロピル、t-ブチル、ヘプチル等;炭素数が6〜10のアリール、例えば、フェニル及びナフチル;又はクロロ、フルオロ等のハロ;又はR1とR2又はR3とR4は、いっしょに、必要に応じてメチル、エチル、プロピル等の炭素数1〜10の少なくとも一個の飽和脂肪族炭化水素を有する縮合芳香環を完成するのに必要な原子を構成し; 【0049】 R5は、メチル、エチル、n-エイコシル等の炭素数1〜20の飽和脂肪族炭化水素;炭素数6〜10のアリール、例えば、フェニル及びナフチル;カルボキシル;水素;シアノ;又はハロ、例えば、クロロ、フルオロ等であるが、但し、式(VIII)においては、R3,R4及びR5のうちの少なくとも2つは、炭素数3〜10の飽和脂肪族炭化水素、例えば、プロピル、ブチル、ヘプチル等であり; Zは、-O-、-NH-又は-S-であり;そして Yは、-R6-(CH=CH-)R6-、 【0050】 【化9】 【0051】 -CH=CH-、 -(CH=CH-)R6-(CH=CH-)n-、 【0052】 【化10】 【0053】 又は 【0054】 【化11】 【0055】 (式中、mは、0〜4の整数であり; nは、炭素数6〜10のアリーレン、例えば、フェニレン及びナフチレンであり;そして Z′及びZ″は、各々独立してN又はCHである)を表す。 【0056】 本明細書で使用されている用語「脂肪族炭化水素(aliphatic)」には、未置換脂肪族炭化水素だけでなく置換脂肪族炭化水素も含まれる。置換脂肪族炭化水素の場合における置換基としては、例えば、炭素数1〜5のアルキル、例えば、メチル、エチル、プロピル等;炭素数6〜10のアリール、例えば、フェニル及びナフチル;クロロ、フルオロ等のハロ;ニトロ;及び炭素数1〜5のアルコキシ、例えば、メトキシ、エトキシ、プロポキシ等が挙げられる。 【0057】 有用であるさらに他の螢光増白剤は、1971年発行の「ケミストリー・オブ・シンセティック・ダイズ(Chemistry of Synthetic Dyes)の第5巻の第618〜637頁及び第640頁に列挙されている。まだ薄膜形成性となっていないものは、脂肪族炭化水素成分を一方又は両方の末端環に結合させることにより薄膜形成性とすることができる。 【0058】 本発明の有機EL装置の電子注入・輸送層の形成に使用するのに特に好ましいものは、オキシンのキレート(一般的に「8-キノリノール」又は「8-ヒドロキシキノリン」とも称する)をはじめとする金属キレートオキシノイド化合物である。このような化合物は、両方とも性能が高レベルであり、そして容易に薄膜に作製できる。 【0059】 使用できるオキシノイド化合物として、以下の構造式(IX)を満足するものが挙げられる。 【0060】 【化12】 【0061】 式中、Meは、金属を表し; nは、1〜3の整数であり;そして Zは、各々独立して少なくとも2個の縮合芳香環を有する核を完成している原子を表す。 上記のことから明らかなように、金属は、一価、二価又は三価の金属である。金属は、例えば、リチウム、ナトリウム若しくはカリウム等のアルカリ金属;マグネシウム若しくはカルシウム等のアルカリ土類金属;又は硼素若しくはアルミニウム等の土類金属であることができる。一般的には、有用なキレート金属であることが知られている一価、二価又は三価の金属を用いることができる。 【0062】 Zは、少なくとも2個の縮合芳香環(少なくとも1個はアゾール又はアジン環である)を含有する複素環核である。必要に応じて、脂肪族環と芳香環の両方を含めたさらなる環を、2個の必要な環と縮合できる。機能を向上することなく分子の嵩が増加するのを避けるために、環原子の数は、18個以下に維持することが好ましい。 【0063】 有用なキレートオキシノイド化合物を以下に例示する。 CO-1: アルミニウムトリソキシン 〔トリス(8-キノリノール)アルミニウムとも称される〕 CO-2: マグネシウムビオキシン 〔ビス(8-キノリノール)マグネシウムとも称される〕 CO-3: ビス〔ベンゾ{f}-8-キノリノール〕亜鉛 CO-4: アルミニウムトリス(5-メチルオキシン) 〔トリス(5-メチル-8-キノリノール)アルミニウムとも称される〕 CO-5: インジウムトリソキシン 〔トリス(8-キノリノール)インジウムとも称される〕 CO-6: リチウムオキシン 〔8-キノリノールリチウムとも称される〕 CO-7: ガリウムトリス(5-クロロオキシン) 〔トリス(5-クロロ-8-キノリノール)ガリウムとも称される〕 CO-8:カルシウムビス(5-クロロオキシン) 〔ビス(5-クロロ-8-キノリノール)カルシウムとも称される〕 CO-9: ポリ〔亜鉛(II)-ビス(8-ヒドロキシ-5-キノリニル)メタン〕 CO-10:ジリチウムエピンドリジオン 【0064】 ある例では、正孔-電子の再結合に応答する発光の可能な色素を電子注入・輸送帯域に組み込むことによって動作中の有機EL装置の安定性を高めることができるし、また電子注入・輸送帯域由来の発光波長を変性することができる。この目的に有用であるには、色素は、それが分散されているホスト材料よりも長くないバンドギャップを持たねばならず、そしてホスト材料の還元電位よりも低い陰性を持たねばならない。タングらの米国特許第4,769,292号は、電子注入・輸送帯域のホスト材料に分散された各種のものから選択される色素を含有する内部接合有機EL装置を公表する。 【0065】 本発明の内部接合有機EL装置においては、有機ルミネセンス媒体の総厚さを1μm(10,000オングストローム)未満に限定することにより、比較的低い電極間電圧を用いながら、効率的な発光と両立する電流密度を維持することが可能である。1μm未満の厚さで、20ボルトの電圧を印加すると、2×105ボルト/cmを超えるフィールドポテンシャルが得られ、これは、効率的な発光と両立する。有機ルミネセンス媒体の厚さが一桁減少(0.1μm、即ち、1000オングストロームに減少)すると、印加電圧を更に減少できそして/又はフィールドポテンシャルをさらに増加できるので、電流密度は、十分に装置構造の能力範囲内である。 【0066】 有機ルミネセンス媒体が行う機能の一つは、有機EL装置の電気的バイアスで電極が短絡するのを防止するために絶縁バリヤーを提供することである。ただ一つのピンホールが有機エレクトロルミネセンス媒体を通って延びても、短絡が生じる。例えば、アントラセン等の単一の高結晶性ルミネセンス材料を用いた従来の有機EL装置とは異なり、本発明の内部接合EL装置は、短絡なしに、有機ルミネセンス媒体の総厚さが極めて小さい状態に作製できる。この理由の一つは、3層に重畳した層が存在するので、電極間に伝導路を形成するように整列されている層にピンホールが生じる可能性が減少するからである。このことにより、有機ルミネセンス媒体の層のうちの一層又は2層でさえも、許容できるEL装置の性能と信頼性を保持しながら、コーティングでフィルムを形成するには理想的でない材料から形成できる。 【0067】 有機エレクトロルミネセンス媒体を形成するのに好ましい材料は、薄膜の形態に作製できるもの、即ち、厚さが0.5μm(5000オングストローム)未満の連続層の形態に作製できるものである。 有機ルミネセンス媒体の一層以上の層を溶媒塗布するときには、被膜形成性高分子バインダーを活物質とともに共堆積して、ピンホール等の構造欠陥のない連続層を確実に形成することができる。もしバインダーを用いるならば、バインダーは、それ自体、高絶縁耐力、好ましくは少なくとも約2×106ボルト/cmを示さなければならないことは言うまでもない。多種多様な既知の溶液流延付加及び縮合重合体から適当なポリマーを選ぶことができる。適当な付加重合体を例示すると、スチレン、t-ブチルスチレン、N-ビニルカルバゾール、ビニルトルエン、メチルメタクリレート、メチルアタリレート、アクリロニトリル及びビニルアセテートの重合体及び共重合体(ターポリマーも含む)が挙げられる。適当な縮合重合体を例示すると、ポリエステル、ポリカーボネート、ポリイミド及びポリスルホンが挙げられる。活物質が不必要に希釈されるのを避けるために、バインダーは、層を形成する材料の総重量に対して50重量%未満に限定することが好ましい。 【0068】 有機エレクトロルミネセンス媒体を形成する活物質は、薄膜形成性材料であるとともに真空蒸着できるものが好ましい。真空蒸着では、極めて薄く欠陥のない連続層が形成できる。具体的には、十分なEL装置性能を維持しながら、個々の層を約50オングストロームと非常に薄くすることができる。真空蒸着ポルフィリン化合物を正孔注入層として用い、薄膜形成芳香族第三アミンを正孔輸送層(ここでは、トリアリールアミン層及びテトラアリールジアミン層が順次設けられている)として用い、そしてキレートオキシノイド化合物を電子注入・輸送層として用いるとき、約50〜5000オングストロームの範囲の厚さが可能であるが、層厚さは、100〜2000オングストロームが好ましい。有機ルミネセンス媒体の総厚さは、少なくとも約1000オングストロームが好ましい。 【0069】 内部接合有機EL装置のアノード及びカソードは、常用の都合のよいいずれの形態、例えば、タングらの米国特許第4,885,211号に公表される多様な形態のいずれをとってもよい。その特許明細書の内容は引用することにより本明細書の内容となる。好ましい透明アノードはインジウム錫酸化物(ITO)のような伝導性酸化物で作製する。アノードが透明であることを意図しない場合には、少なくとも仕事関数が4.0eVの広範な金属のいずれかで作製できる。好ましいカソードは、仕事関数4.0eV未満のものと他の金属、好ましくは仕事関数が4.0eVより高い金属の組み合わせから構成されるものである。これらの高い仕事関数の金属と低い仕事関数の金属は非常に幅広い比率で使用でき、すなわち1%未満から99%を超えて分布する他の金属を有してもよく、好ましくはより高い仕事関数の金属(例えば、仕事関数>4.0eVを有するもの)を分布させてカソードのバランスをはかる。タング等の米国特許第4,885,211号のMg:Agカソードが一つの好ましいカソード構造物を構成する。マグネシウムが少なくとも0.05(好ましくは少なくとも0.1)%構成し、そしてアルミニウムが少なくとも80(好ましくは少なくとも90)%を構成するアルミニウム・マグネシウムカソードが他の好ましいカソードの構成物である。 【0070】 【実施例】 本発明とその利点を、以下具体的実施例によりさらに説明する。用語「原子%(atomic percent)」は、金属原子の存在総数に対する特定の金属の存在百分率を示す。換言すれば、モル%に類似しているが、モル基準ではなく原子基準である。実施例で用いられる用語「セル(cell)」とは、有機EL装置を意味する。接尾辞Eを付けた数の実施例は、本発明の実施態様を表し、一方、接尾辞Cを付けた数の実施例は、バリエーションの比較のためにもうけたものである。 【0071】 例1E:好ましいセルの構成 本発明の要件を満足する内部接合有機EL装置を以下のように構成した。 a)酸化インジウム錫塗布ガラスからなる透明アノードを、市販の洗剤で超音波処理し、脱イオン水ですすぎ、トルエン蒸気で脱脂し、次いで強酸化剤と接触した。 【0072】 b)正孔注入PC-10(375オングストローム)層をアノード上に真空蒸着した。PC-10は、タングステンフィラメントを用いて石英ボートから蒸発させた。 【0073】 c)次に、正孔輸送ATA-1(375オングストローム)層を、PC-10層の上に蒸着した。ATA-1も、タングステンフィラメントを用いた石英ボートから蒸発させた。 d)次に、電子注入・輸送CO-1(600オングストローム)層を、ATA-1層上に蒸着した。CO-1も、タングステンフィラメントを用いた石英ボートから蒸発させた。 【0074】 e)CO-1層上に、10:1原子比のMgとAgからなる2000オングストロームのカソードを蒸着した。 作製したセルの安定性は、大地に接触したアノードとカソードに正電位を印加する一定電流20mA/cm2を用いて評価した。初期強度は、表示用途で要求される値を十分に超えるレベルの0.44mW/cm2であった。初期強度を標準値1.0に設定し、400時間にわたる相対的出力を表1に示す。表2は、動作の最初の50時間にわたる強度の減少と動作の400時間全体にわたる強度の減少を示す。 【0075】 例2E〜4E,5C及び6C:各種正孔輸送層 各種芳香族第三アミン類でATA-1を置き換えた以外は例1を繰り返えした。mW/cm2で測定した初期の光出力は、0.32(2E);0.44(3E);0.24(4E);0.32(5C)及び0.38(6C)であった。動作中の作用として挙動を表1及び2にまとめる。 【0076】 【表1】 * 動作375時間から外挿法によって推定した。 C1 4,4′-ビス(ジ-p-トリルアミノ)ビフェニル C2 ビス(N-1-ナフチル)(N-2-ナフチル)アミン 【0077】 【表2】 * 動作375時間から外挿法によって推定した。 C1 4,4′-ビス(ジ-p-トリルアミノ)ビフェニル C2 ビス(N-1-ナフチル)(N-2-ナフチル)アミン 【0078】 表1及び2から、本発明の内部接合有機EL装置の優れた安定性が明らかである。本発明のセルは、動作の最初の50時間を通してそれらの初期強度のわずかのパーセントが低下するにすぎない。さらに、本発明のセルは、動作400時間後にそれらの初期強度の非常に高いパーセントを示す。例5Cは、2個の縮合芳香族環を有するアミン置換基は、動作の最初の数時間において高レベルの安定性を得るのに必要であることを示す。例6Cは、アミン置換基がたとえ2個以上の縮合芳香族環を現に含む場合であっても、長期間高レベルの安定性を保持するには2個以上のアミノ基が必要であることを示す。 【0079】 【発明の効果】 本発明は、内部接合有機EL装置の動作寿命を通して初期ルミネセンスレベルが高い割合を示する前記EL装置を提供する。より具体的には、本発明の内部接合有機EL装置は一定電流で駆動したとき、動作の最初の数時間後にそれらの初期ルミネセンスが高い割合で保持できる。例えば、動作の50〜100時間後のルミネセンスが初期ルミネセンスの80%を超える点に代表される。本発明の内部接合有機EL装置は初期ルミネセンスを高い割合で保持することにより、それらの動作の最初から数百時間にわたり比較の従来装置よりも有意に高い強度で発光する。 【0080】 【図面の簡単な説明】 【図1】 EL装置の概略図である。 【図2】 EL装置の概略図である。 【図3】 EL装置の概略図である。 個々の層の厚さが非常に薄く、そして種々の要素の厚さの差が非常に大きいために、スケールにあわせて描いたり、都合のよい比例スケールとすることができないので、図面ではやむを得ず概略的に示している。 【符号の説明】 100…EL装置 102…アノード 104…カソード 106…有機エレクトロルミネセンス媒体 108…正孔注入・輸送帯域 110…接合 112…電子注入・輸送帯域 114…外部電源 116…導体 118…導体 120…正孔 122…電子 124…矢印(正孔の移動路) 126…矢印(電子の移動路) 128…装置の端 200…EL装置 202…絶縁性基板 204…アノード 206…有機エレクトロルミネセンス媒体 208…正孔注入層 210…正孔輸送層 212…電子注入・輸送帯域 214…カソード 300…EL装置 302…アノード 306…有機エレクトロルミネセンス媒体 308…正孔注入層 310…正孔輸送層 312…電子注入・輸送帯域 314…カソード |
訂正の要旨 |
訂正の要旨 1)訂正事項1 特許明細書の請求項1において、「第三アミン成分」及び「芳香族成分」とあるのを、不明瞭な記載の釈明を目的として、それぞれ、「第三アミン部分」及び「芳香族部分」と訂正。 2)訂正事項2 特許明細書の請求項1において、「前記正孔輸送性芳香族第三アミンが少なくとも2つの第三アミン部分を含み、かつ第三アミン窒素原子に結合した少なくとも2つの縮合芳香族環を含有する芳香族部分を含んでなることを特徴とする有機エレクトロルミネセンス装置。」とあるのを、特許請求の範囲の減縮を目的として、「前記正孔輸送性芳香族第三アミンが少なくとも2つの第三アミン部分を含み(但し、当該第三アミン部分がビニル基に直接結合した六員環に導入されている場合を除く)、かつ第三アミン窒素原子に結合した少なくとも2つの縮合芳香族環を含有する芳香族部分を含んでなることを特徴とする有機エレクトロルミネセンス装置。」と訂正。 3)訂正事項3 特許明細書の段落【0008】中の「本発明は、前記正孔輸送性芳香族第三アミンが少くとも2つの第三アミン成分を含み、かつ第三アミンの窒素原子に結合した芳香族成分が少なくとも2つの縮合芳香族環を含むことを特徴とする。」を、訂正された請求項1の記載と整合させるため、不明瞭な記載の釈明を目的として、「本発明は、前記正孔輸送性芳香族第三アミンが少なくとも2つの第三アミン部分を含み(但し、当該第三アミン部分がビニル基に直接結合した六員環に導入されている場合を除く)、かつ第三アミン窒素原子に結合した少なくとも2つの縮合芳香族環を含有する芳香族部分を含んでなることを特徴とする。」と訂正。 4)訂正事項4 特許明細書の段落【0078】における、「1個以上のアミノ基が必要であることを示す。」を.誤記の訂正を目的として、「2個以上のアミノ基が必要であることを示す。」と訂正。 |
異議決定日 | 2001-02-21 |
出願番号 | 特願平3-186312 |
審決分類 |
P
1
651・
531-
YA
(H05B)
P 1 651・ 121- YA (H05B) P 1 651・ 16- YA (H05B) |
最終処分 | 維持 |
前審関与審査官 | 山岸 利治 |
特許庁審判長 |
佐藤 洋 |
特許庁審判官 |
藤本 信男 熊倉 強 |
登録日 | 1998-11-13 |
登録番号 | 特許第2851185号(P2851185) |
権利者 | イーストマン コダック カンパニー |
発明の名称 | 有機エレクトロルミネセンス媒体を有するエレクトロルミネセンス装置 |
代理人 | 藤井 幸喜 |
代理人 | 西山 雅也 |
代理人 | 石田 敬 |
代理人 | 青木 朗 |
代理人 | 戸田 利雄 |
代理人 | 牧野 逸郎 |
代理人 | 藤井 幸喜 |
代理人 | 青木 朗 |
代理人 | 戸田 利雄 |
代理人 | 石田 敬 |
代理人 | 西山 雅也 |