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審決分類 審判 全部申し立て 判示事項別分類コード:533  C08J
審判 全部申し立て 2項進歩性  C08J
審判 全部申し立て 4項(5項) 請求の範囲の記載不備  C08J
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  C08J
審判 全部申し立て 特36 条4項詳細な説明の記載不備  C08J
管理番号 1044624
異議申立番号 異議1999-74071  
総通号数 22 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 1993-08-31 
種別 異議の決定 
異議申立日 1999-11-04 
確定日 2001-03-14 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第2889976号「ポリイミドフィルム及びその製造方法」の請求項1ないし4に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 訂正を認める。 特許第2889976号の請求項1ないし4に係る特許を維持する。 
理由 [1] 手続きの経緯
本件特許第2889976号発明は、平成4年2月10日に出願され、平成11年2月26日にその特許の設定がなされ、その後、須田 武、東レ・デュポン株式会社及び宇部興産株式会社より特許異議の申立がなされ、取消理由通知がなされ、その指定期間内である平成12年9月26日に訂正請求がなされたものである。
[2] 訂正の適否についての判断
1.訂正事項
(1)訂正事項1
本件明細書特許請求の範囲の記載
「【請求項1】 一般式(1)化1と一般式(2)化2とにより表される構造単位を1分子中に有するポリイミドにより成形されたフィルムにプラズマ処理が施されていることを特徴とするポリイミドフィルム。
【化1】

【化2】

(式中、Rは4価の有機基である。)
【請求項2】 前記プラズマ処理における雰囲気ガスがテトラフルオルメタン、酸素、窒素、アルゴン、二酸化炭素及びこれらの混合気体から選ばれるガスであることを特徴とする請求項1に記載するポリイミドフィルム。
【請求項3】 有機テトラカルボン酸二無水物と、4,4’-ジアミノジフェニルエーテル及びパラフェニレンジアミンとから生成されるポリアミド酸をフィルム状に成形するとともにポリイミドに転化させてポリイミドフィルムを製造した後、該ポリイミドフィルムにプラズマ処理を施すことを特徴とするポリイミドフィルムの製造方法。
【請求項4】 前記4,4’-ジアミノジフェニルエーテルとパラフェニレンジアミンとの添加割合がモル比で10:1〜1:5、より好ましくは5:1〜1:1であることを特徴とする請求項3に記載するポリイミドフィルムの製造方法。」
を、
「【請求項1】 ポリイミド系接着剤によって接着させられるポリイミドフィルムであって、一般式(1)化1と一般式(2)化2とにより表される構造単位を10:1〜1:5の割合で1分子中に有するポリイミドにより成形されたフィルムにプラズマ処理が施されていることを特徴とするポリイミドフィルム。
【化1】

【化2】

(式中、Rは4価の有機基である。)
【請求項2】 前記プラズマ処理における雰囲気ガスがテトラフルオルメタン、酸素、窒素、アルゴン、二酸化炭素及びこれらの混合気体から選ばれるガスであることを特徴とする請求項1に記載するポリイミドフィルム。
【請求項3】 ポリイミド系接着剤によって接着させられるポリイミドフィルムの製造方法であって、有機テトラカルボン二酸無水物と、4,4’-ジアミノジフェニルエーテル及びパラフェニレンジアミンとから生成されるポリアミド酸をフィルム状に成形するとともにポリイミドに転化させてポリイミドフィルムを製造した後、該ポリイミドフィルムにプラズマ処理を施すことを特徴とするポリイミドフィルムの製造方法。
【請求項4】 前記4,4’-ジアミノジフェニルエーテルとパラフェニレンジアミンとの添加割合がモル比で10:1〜1:5、より好ましくは5:1〜1:1であることを特徴とする請求項3に記載するポリイミドフィルムの製造方法。」
とする訂正
(2)訂正事項2
本件明細書、発明の詳細な説明の
「【0007】【課題を解決するための手段】
本発明に係るポリイミドフィルムの要旨とするところは、一般式(1)化1と一般式(2)化2とにより表される構造単位を1分子中に有するポリイミドにより成形されたフィルムにプラズマ処理が施されていることにある。
【化3】

【化4】

(式中、Rは4価の有機基である。)」
を、
「【0007】【課題を解決するための手段】
本発明に係るポリイミドフィルムの要旨とするところは、ポリイミド系接着剤によって接着させられるポリイミドフィルムであって、一般式(1)化1と一般式(2)化2とにより表される構造単位を10:1〜1:5の割合で1分子中に有するポリイミドにより成形されたフィルムにプラズマ処理が施されていることにある。
【化3】

【化4】

(式中、Rは4価の有機基である。)」
とする訂正
(3)訂正事項3
本件明細書、発明の詳細な説明の
「【0009】次に、本発明に係るポリイミドフィルムの製造方法の要旨とするところは、有機テトラカルボン酸二無水物と、4,4’-ジアミノジフェニルエーテル及びパラフェニレンジアミンとから生成されるポリアミド酸をフィルム状に成形するとともにポリイミドに転化させてポリイミドフィルムを製造した後、該ポリイミドフィルムにプラズマ処理を施すことにある。」
を、
「【0009】次に、本発明に係るポリイミドフィルムの製造方法の要旨とするところは、ポリイミド系接着剤によって接着させられるポリイミドフィルムの製造方法であって、有機テトラカルボン酸二無水物と、4,4’-ジアミノジフェニルエーテル及びパラフェニレンジアミンとから生成されるポリアミド酸をフィルム状に成形するとともにポリイミドに転化させてポリイミドフィルムを製造した後、該ポリイミドフィルムにプラズマ処理を施すことにある。」
とする訂正
2.訂正の目的の適否、訂正の範囲の適否および拡張・変更の存否
(1)訂正事項1について
訂正事項1は次の2つの訂正事項を含むものである。
即ち、(イ)請求項1及び請求項3において、ポリイミドフィルムについて「ポリイミド系接着剤によって接着させられる」と言う限定を付すとともに、(ロ)請求項1において、一般式(1)化1と一般式(2)化2とにより表される構造単位の割合を10:1〜1:5の割合に限定するものである。
先ず(イ)について検討する。
本件特許明細書の段落【0005】及び段落【0006】には、ポリイミドフィルムにプラズマ処理をすると接着性の改善が認められるが、接着剤としてポリイミド系の接着剤を用いた場合には接着性の改善が全く認められないと言う問題があり、この問題を解決するために研究を重ねた結果、ある特定の構造単位を有するポリイミドフィルムにプラズマ処理を施すことにより、実用的に充分な接着性の改善されたポリアミドフィルムを提供することができることが記載されている。
また、本件特許明細書の段落【0024】には、「また、本発明における接着強度はIPC-FC-241Aの方法に基づき、ポリイミドフィルムと銅箔とを公知の熱可塑性ポリイミド接着剤で接着し、硬質板上にフィルム面を固定し測定した。」と記載され、実施例はポリイミド接着剤を用いて接着したものであることが記載されている。
そうしてみると、ポリイミドフィルムについて「ポリイミド系接着剤によって接着させられる」とすることは訂正前の明細書に記載されていた事項であり(願書に添付した明細書に記載した事項でもある。)、この訂正はポリイミドフィルムを下位概念のものに限定するものであるから、この訂正は特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、願書に添付した明細書に記載した事項の範囲内の訂正であり、特許請求の範囲を実質上拡張し、又は変更するものではない。
次に(ロ)について検討する。
一般式(1)化1と一般式(2)化2とにより表される構造単位の割合を10:1〜1:5とすることは、訂正前の請求項4及び発明の詳細な説明の段落【0010】に記載されていたことであり(願書に添付した明細書に記載した事項でもある。)、両者の割合を数値的に限定することは特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、願書に添付した明細書に記載した事項の範囲内の訂正であり、特許請求の範囲を実質上拡張し、又は変更するものではない。
(2)訂正事項2について
訂正事項2は、特許請求の範囲の訂正に係る訂正事項1の(イ)及び(ロ)の訂正に伴い、それに整合するように発明の詳細な説明における段落【0007】の記載を訂正するものであるから、明りょうでない記載の釈明を目的とするものであり、願書に添付した明細書に記載した事項の範囲内の訂正であり、特許請求の範囲を実質上拡張し、又は変更するものではない。
(3)訂正事項3について
訂正事項3は、特許請求の範囲の訂正に係る訂正事項1の(イ)の訂正に伴い、それに整合するように発明の詳細な説明における段落【0009】の記載を訂正するものであるから、明りょうでない記載の釈明を目的とするものであり、願書に添付した明細書に記載した事項の範囲内の訂正であり、特許請求の範囲を実質上拡張し、又は変更するものではない。
3.独立特許要件
訂正後の特許請求の範囲に記載された事項により特定される発明は、特許出願の際独立して特許を受けることができるものであると認められる。
その理由は次の[3]特許異議申立についての判断において述べるのでここでは省略する。
4.むすび
以上のとおりであるから、上記訂正は、特許法等の一部を改正する法律(平成六年法律第百十六号、以下「平成六年改正法」という。)附則第6条第1項の規定によりなお従前の例によるとされる、特許法第120条の4第3項において準用する特許法第126条第1項ただし書き、第2項及び第3項の規定に適合するので、当該訂正を認める。
[3]特許異議申立についての判断
1.特許異議申立理由の概要
(1)特許異議申立人須田 武の申立理由
(イ)訂正前の本件請求項1〜4に係る発明は、同人の提出した甲第1〜7号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。
(ロ)本件明細書の記載は不備であるから、特許法第36条第3及び第4項の要件を満たしていない。
(2)特許異議申立人東レ・デュポン株式会社の申立理由
(イ)訂正前の本件請求項1および3に係る発明は、同人の提出した甲第1号証に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号の規定により特許を受けることができないものである。
(ロ)訂正前の本件請求項1および3に係る発明は、同人の提出した甲第1〜4号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものでるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。
(ハ)訂正前の本件請求項2および4に係る発明は、同人の提出した甲第1〜4号証に記載された発明に基づき当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。
(ニ)本件明細書の記載は不備であるから、特許法第36条第3及び第4項の要件を満たしていない。
(3)特許異議申立人宇部興産株式会社の申立理由
(イ)訂正前の本件請求項1〜4に係る発明は、同人の提出した甲第1号証に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号の規定により特許を受けることができないものである。
(ロ)訂正前の本件請求項1〜4に係る発明は、同人の提出した甲第1号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものでるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。
2.本件発明
本件特許第2889976号の訂正後の請求項1〜4に係る発明は、訂正明細書の記載から見て、その特許請求の範囲の請求項1〜4に記載された事項により特定される次のとおりのものである。
【請求項1】 ポリイミド系接着剤によって接着させられるポリイミドフィルムであって、一般式(1)化1と一般式(2)化2とにより表される構造単位を10:1〜1:5の割合で1分子中に有するポリイミドにより成形されたフィルムにプラズマ処理が施されていることを特徴とするポリイミドフィルム。
【化1】

【化2】

(式中、Rは4価の有機基である。)

【請求項2】 前記プラズマ処理における雰囲気ガスがテトラフルオルメタン、酸素、窒素、アルゴン、二酸化炭素及びこれらの混合気体から選ばれるガスであることを特徴とする請求項1に記載するポリイミドフィルム。
【請求項3】 ポリイミド系接着剤によって接着させられるポリイミドフィルムの製造方法であって、有機テトラカルボン二酸無水物と、4,4’-ジアミノジフェニルエーテル及びパラフェニレンジアミンとから生成されるポリアミド酸をフィルム状に成形するとともにポリイミドに転化させてポリイミドフィルムを製造した後、該ポリイミドフィルムにプラズマ処理を施すことを特徴とするポリイミドフィルムの製造方法。
【請求項4】 前記4,4’-ジアミノジフェニルエーテルとパラフェニレンジアミンとの添加割合がモル比で10:1〜1:5、より好ましくは5:1〜1:1であることを特徴とする請求項3に記載するポリイミドフィルムの製造方法。
そして、本件訂正明細書における実施例の表1の記載によれば、本件発明は、ポリイミド系接着剤を使用した場合において、本件発明の共重合ポリイミドを使用しプラズマ処理をすると、4,4’-ジアミノジフェニルエーテルあるいはパラフェニレンジアミンとテトラカルボン酸からの各ポリイミド単独重合体を使用しプラズマ処理をしたものに較べて優れた効果を奏することが認められ、また、上記の共重合ポリイミドを使用してもプラズマ処理をしないと優れた効果を奏しないことが認められるのである。
3.刊行物の記載事項
(1)刊行物1(特開平1-321687号公報、特許異議申立人須田 武が提出した甲第1号証)
該刊行物には、
「(1)グロー放電プラズマ処理により54dyne/cm以上の表面張力を付与したプラスチックフィルムの表面に、直接または樹脂層を介して金属蒸着層を設け、該金属蒸着層上に電気メッキ法でより厚膜の金属層を積層し、一体化したことを特徴とするフレキシブルプリント配線用基板。
(2)プラスチックフィルムが、……、ポリイミドフィルム、……から選ばれたものである請求項1記載のフレキシブルプリント配線用基板。」(請求項1、2)
「下式の繰返し単位を50モル%以上含むポリマーからなり、湿式あるいは該乾湿式製膜したフィルム、あるいは該フィルムを二軸延伸および/または熱処理せしめたフィルムも好ましく使用される。……

(ここで、XはH,CH3,F,Cl基、m,nは0〜3の整数を示す。)」
(第3頁右下欄下から第5行〜第4頁右上欄第2行)、
「本発明におけるグロー放電プラズマ処理とは、低圧下のガスの雰囲気下に、電極間に0.1〜10KV前後の直流あるいは交流を印加して開始、持続する放電、いわゆるグロー放電に該フィルムをさらし、グロー放電により生成した電子、イオン、励起電子、励起分子、ラジカル、紫外線などの活性粒子でフィルムの表面を連続的に処理するものである。グロー放電プラズマ処理の装置内のガス圧力は0.001〜50Torr、好適には0.01〜1Torrに保持する。ガス圧力が0.001Torr未満になるとフィルム表面が着色し、耐アルカリ特性に劣る傾向にある。また50Torrを越える場合は処理効果があまり認められず、金属層のわれ、繰返し屈曲性が低下する傾向にある。ガス圧力が0.01〜1Torrの範囲では処理効果が顕著であり、好適なガス圧力範囲である。前記した本発明で用いるプラスチックフィルムの要件である54dyne/cm以上という表面張力の値は、通常のコロナ放電処理、紫外線処理、電子線処理では達成しにくい。さらに前記したグロー放電プラズマ処理でも、電極電圧、周波数、処理時間、雰囲気ガスの種類、電極形状、電極配置などにより、該フィルムの表面張力は異なるので慎重な選択を行なう。印加電圧は特定されるものではなく、直流、低周波、高周波、マイクロ波などが使用できるが、特に50KHZから500KHZの高周波を用いて処理するのが好適である。グロー放電プラズマ処理する装置は、長尺で広幅のフィルムを連続的に処理できるものが好適であるが、特に限定されるものではない。」(第4頁右上欄16行〜同頁右下欄第6行)、
「本発明では、プラスチックフィルム上に真空蒸着(イオンビーム真空蒸着、イオンプレーテイング法を含む)またはスパッタ法によって金属薄膜を形成する前に、プラスチックフィルムと金属薄膜との間に樹脂層を設けることができる。前記樹脂層を構成する樹脂としては、プラスチックフィルムにも金属薄膜にも密着性が良く、かつエッチングなどの後加工に耐える必要があるため好適には熱硬化性樹脂、またはポリイミド樹脂系の中から選択できる。熱硬化性樹脂としては、接着性の良い飽和ポリエステル樹脂にエポキシおよび/またはメラミン樹脂を加えたものが好ましい。またポリエステルポリオールやアクリルポリオールにイソシアネートを添加したものも適している。また変性アクリル系樹脂に硬化剤を添加したもの、エポキシ樹脂に硬化剤を添加したものも適している。また芳香族ポリイミド、ポリアミドイミド、付加重合型ポリアミドなども適している。」(第5頁右上欄第13行〜同頁左下欄第10行)、
「実施例1〜8 厚さ25μのポリイミドフィルム“カプトン”1(米国デユポン社の登録商標)の片面に表1に示すアルゴンガスのグロー放電プラズマ処理を実施した。処理は高電圧を印加した棒状の電極に対して2cmの距離でフィルムを送膜し、かつ接地電極となっている電極対をもつ内部電極方式のプラズマ装置を使用した。アルゴンガス圧力は0.02Torr、一次側出力電圧2KV、高周波電源周波数110KHZの条件でシート速度1〜5m/分とかえて処理を行なって、グロー放電プラズマ層2を形成した。」(第7頁右上欄第5行〜第16行)
が記載されている。
(2)刊行物2(特開昭54-139978号公報、特許異議申立人須田 武が提出した甲第2号証)
該刊行物には、
「有機高分子基材を活性ガス存在下でプラズマ処理並びに金属析出処理してなる金属被覆層を表面に有する複合有機高分子材料であって、該被覆層と基材との180°剥離強度が1.5kg/cm以上、かつ該被覆層が純度99.5wt%以上の金属化合物からなることを特徴とする複合有機高分子材料。」(特許請求の範囲)、
「本発明は高純度の金属被覆層が強固に高分子基材表面に結合した複合高分子材料に関する。特に高密度プリント配線などの如く高度の精度、密度、微細性を要求される用途分野に好適な基板材料である。従来から金属を複合した有機高分子材料は真空蒸着法やスパッタリング法(マグネトロン・スパッタリング法を含む)等により提供されている。またこれらの複合材料の金属と基材との接着性を改善するために、例えば基材表面を溶剤やサンドブラスト、コロナ放電等により前処理する試みもなされている。しかしこれらの複合材料はいずれも金属と基材との接着力が弱い上に耐熱性、耐寒性、耐屈曲性等の性質に劣り、特にその金属層をエッチングして高度に微細なパターンを形成した場合、金属層が非常にもろいために加工中、熱的変化や屈曲作業などにより簡単に基材から浮き上がったり剥れたりし易い欠点があった。」(第1頁左下欄第11行〜同頁右下欄第6行)、
「かかる方法では作業性が劣る上に形成される金属層に不純物が混入し易く、通常純度は95%を下まわり、もろくて耐屈曲性に乏しいものしか得られない欠点があった。」(第1頁右下欄第11行〜第15行)、
「ポリイミドとしては一般式

(ここでRは2価の有機基)の如きイミド結合を構成単位とする重合体であって、代表的な例として

がある。」(第2頁左上欄末行〜同頁右上欄第4行)、
「本発明の活性ガスとはCO、CO2、NH3並びにグロー放電によってこれらのラジカル体を形成し得るガスである。活性ガスはこれら単独でもHe、Ne、Arなど通常の不活性ガスと混合された系でも適用される。本発明のプラズマ処理とは圧力5×10-2〜1×10-4Torrでのグロー放電によって発生するプラズマ内にて該基材表面を処理するものである。上記圧力範囲は安定かつ均一処理できるグロー放電を発生せしめるために不可欠である。」(第2頁左下欄第11行〜末行)、
「本発明の金属析出処理とは真空蒸着法又はマグネトロンスパッタリング法により金属を析出せしめるものをいう。マグネトロンスパッタリング法は磁場を与えて電子にらせん運動をさせ気体分子との衝突頻度を向上したものである。この方法は従来の二極スパッタリング法に比して約10倍も金属析出速度が速いのが特徴である。」(第2頁右下欄第1行〜第7行)、
「本発明の金属被覆層はCu,Al,Au,Ni,Cr並びにAg,Pt,Ti,Pd,Rh,Se,In,Znなどの金属やそれらからなる合金、更にはそれらからなる無機化合物などで構成されるが、好ましくはCu,Al,Au,Ni,Crから選ばれた金属又は合金で構成されたものである。」(第2頁右下欄第8行〜第13行)、
「かかる構成を採った時の本発明の複合高分子材料の180°剥離強度は300℃のハンダ浴に30秒間浸漬した後でさえ1.0kg/cmというすぐれた特徴を有する。」(第3頁左上欄第7行〜第11行)、
「本発明の金属被覆層は99.5%以上の純度を有するので特に金属単独又は合金で構成されている場合には伸び性並びにしなやかさにすぐれており、耐屈曲性、加工性に著しくすぐれている。」(第3頁左上欄第12行〜第15行)、
「かくして得られた金属被覆層を有する本発明の複合高分子材料は180°剥離強度1.5kg/cm以上という金属被覆層と該基材との接着力を有し、かつ該金属被覆層は99.5wt%以上という高純度の金属又は金属化合物から構成されている。しかも300℃のハンダ浴で30秒間熱処理したのちでさえ、1.0kg/cm以上の上記剥離強度を有するという著しい効果を有する。特に該金属膜自体の強さが著しく向上する点は特筆すべきである。更にかかる本発明の複合有機高分子材料は耐熱耐寒性、耐屈曲性並びに加工性にすぐれた特徴を有するものである。従って該金属層をエッチングして、微細かつ緻密なパターンを形成すること並びにこの微細なパターンへのハンダ付け作業をすることなど何ら問題なく行なえ、更に熱的変化の大きい用途や、屈曲摩擦が強いられる用途、その他装飾用途、コンデンサー、包装用途など多くの応用分野に好適な材料である。」(第3頁右下欄第14行〜第4頁左上欄第11行)、
「実施例1 ポリイミドフィルム“カプトン(KAPTON)”デユポン社製)を基板として、圧力5×10-3Torr、放電ガスとしてCO2/Ar=5/100容量比からなる混合ガス存在下で、周波数13.56MHZの高周波電力をを10W・sec/cm2のエネルギーにて印加し、電極間隔40mmでのRFマグネトロン・グロー放電によるプラズマで表面処理した。処理後20秒後に次いでこの被処理基板をその条件のまま焼いてRFマグネトロン・スパッタリングして厚さ3000Åの銅膜を該基板表面に析出せしめた。得られた複合フィルムは美しい金属光沢を有し、180°剥離強度は1850g/cmで金属層間剥離した。」(第4頁左上欄第13行〜同頁右上欄第5行)、
「測定方法 180°剥離強度:各サンプルフィルムはその金属被覆層上に更に電気メッキにより40〜50μmの銅膜を形成せしめられて補強される。……剥離強力で示した。」(第4頁右上欄第6行〜第14行)
「比較例1 実施例1の基材フィルムを用いて前処理しないで各種金属析出方法により3000Åの銅膜を該基材表面に析出複合させた。……。
(析出方法)がRFマグネトロンスパッタリングの場合180°剥離強度は830g/cm
実施例2・比較例2 実施例1の基材フィルムに各種放電による前処理を施したのち、比較例1の条件で銅を3000Å真空蒸着せしめた。……。
比較例2 (前処理方法)がコロナ放電の場合180°剥離強度は680g/cm
実施例2 (前処理方法)がマグネトロン・グロー放電の場合180°剥離強度は2175g/cm 」(第4頁右上欄第15行〜同頁右下欄の表)
が記載されている。
(3)刊行物3(特開昭57-210696号公報、特許異議申立人須田 武が提出した甲第3号証)
該刊行物には、
「1.マイクロ波放電プラズマ処理をしたプラスチックフィルムと金属箔とを、接着剤層を介して重ね合わせ、加熱加圧して一体化することを特徴とするフレキシブル印刷配線用基板の製造方法。
2.マイクロ波放電プラズマ処理をしたプラスチックフィルムであって、該フィルム処理面の水による接触角が60°以下であるものと、金属箔とを、接着剤層を介して重ね合わせ、加熱加圧して一体化することを特徴とするフレキシブル印刷配線用基板の製造方法。」(特許請求の範囲)、
「そのようなプラスチックフィルムは表面活性が乏しいので十分な強度で接着させることが難かしい。そのため、フィルムをクロム酸液、コロナ放電、サンドブラスト、ホーニング等の表面処理をした後接着する方法が従来から行なわれているが、何れも十分満足できる方法ではなかった。すなわち、クロム酸混液処理は接着効果が不十分で、そのうえ酸による腐食や排水処理等の問題が生ずる。コロナ放電処理は、高電圧を要し、処理が外気条件に左右されて安定性が乏しい。」(第1頁右下欄第16行〜第2頁左上欄第7行)、
「本発明は、前述に鑑み鋭意研究の結果、フレキシブル印刷配線用基板の機械的強度や絶縁破壊強度の電気絶縁性を低下させずに、優れた接着性を得るためには、プラスチックフィルムの接着面をマイクロ波放電プラズマ処理をすることが有効であり、またその処理面の水による接触角を測定するという手段を用い、その接触角を60°以下とすることにより達成されることの知見を得てなされたものである。」(第2頁左上欄第12行〜末行)、
「原料気体としては空気、酸素ガス、アルゴンガス等を1Torr前後の圧力で使用する。」(第2頁左下欄第4行〜第5行)、
「実施例1 厚さ50μのポリイミドフィルムをトリクレン洗浄後、マイクロ波発振部2450MHz1KW、プラズマガスとして酸素、圧力1.0Torrの条件で、プラズマ中心部から50cmの距離において3分間マイクロ波放電プラズマ処理し、水による接触角が8°のポリイミドフィルムを得た。このフィルムにニトリルゴム-エポキシ樹脂-ジアミン系接着剤を厚さ20μに塗布乾燥した後、厚さ35μの銅箔をロール方式により加熱圧着し、アフターキュアをして銅張板を作った。…この銅張板の特性を第1表に示す。」(第3頁左上欄第11行〜同頁右上欄第3行)、
「比較例3 厚さ50μのポリイミドフィルムをトリクレン洗浄しただけのフィルムを、実施例1と同様にして銅張板を得た。特性を第1表に示す。……であった。」(第3頁左下欄第10行〜第15行 )、
「比較例6 厚さ50μのポリイミドフィルムをトリクレン洗浄後、マイクロ波発振部2450MHz200W、プラズマガスとして酸素圧力1.0Torrの条件で、プラズマ中心部から100cmの距離において5秒間マイクロ波放電プラズマ処理し、水による接触角が68°のポリイミドフィルムを得た。このフィルムを実施例1と同様にして銅張板を作った。」(第4頁左下欄第1行〜第9行)、
「(JIS C6481による引きはがし強さ)が、実施例1の場合2.2kg/cmで、比較例3の場合1.0kg/cm。
(JIS P8115による耐折性)が、実施例1の場合100回で、比較例3の場合102回。
(JIS C6481による引きはがし強さ)が、実施例1の場合2.2kg/cmで、比較例6の場合1.2kg/cm、比較例3の場合1.0kg/cm。」(第4頁左上欄の第1表及び同頁右下欄の第3表)
が記載されている。
(4)刊行物4(特開昭59-218789号公報、特許異議申立人須田 武が提出した甲第4号証、同東レ・デュポン株式会社の提出した甲第2号証)
該刊行物には、
「1.プラスチックフィルム、ペーパーもしくはシートの低温プラズマ処理面に、接着剤層を介して金属箔を設けてなるフレキシブルプリント配線基板
2.フィルムもしくはシート状のプラスチック基板の表面を低温プラズマで処理し、この処理面に接着剤を介して金属箔を一体化することを特徴とするフレキシブルプリント配線基板の製造方法
3.前記低温プラズマが、減圧下に無機ガスを流通させながら電極間に4,000ボルト以上の放電電圧を与えてグロー放電を行わせることにより発生させた低温プラズマである特許請求の範囲第2項記載の製造方法」(特許請求の範囲)、
「他方コロナ放電処理は当初注目されたことがあったが、荷電の消失にしたがって接着力が弱くなるので、現実にはフレキシブルプリント基板に採用されていない。」(第1頁右下欄末行〜第2頁左上欄第4行)、
「本発明は従来のかかる技術的課題にかんがみ鋭意研究を重ねた結果、フィルム状もしくはシート状のプラスチック基体と金属箔との接着にあたって、該プラスチック基体の表面をあらかじめ低温プラズマ処理することによって、両者のきわめて強固な接着が達成されることを確認し本発明を完成した。」(第2頁右上欄末行〜同頁左下欄第6行)、
「本発明に使用されるフィルム状もしくはシート状のプラスチック基体としては各種のプラスチックが使用されるが、……、ポリイミドフィルム、……ならびにそれらのプラスチックのシート状体およびペーパーなどが例示される。」(第2頁右下欄第10行〜第16行)、
「本発明は上記プラスチックフィルムをまず低温プラズマ処理するのであるが、すぐれた接着強度を得るためには内部電極型低温プラズマ発生装置に該フィルムを入れ、減圧下に無機ガスを流通させながら電極間に4,000ボルト以上の放電電圧を与えてグロー放電を行わせることにより発生させた低温プラズマで処理することが望ましい。かかる低温プラズマ処理によりプラスチックフィルムに短時間の処理で顕著な接着性改良効果がもたらされる。上記低温プラズマ処理のための無機ガスとしては、ヘリウム、ネオン、アルゴン、窒素、酸素、空気、亜酸化窒素、一酸化窒素、二酸化窒素、一酸化炭素、二酸化炭素、シアン化臭素、亜硫酸ガス、硫化水素などが例示され、これらは単独にまたは二種以上のものが混合して使用される。」(第3頁左上欄第4行〜同頁右上欄第1行)、
「接着剤としては、ポリエステル樹脂、ポリウレタン樹脂、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、シリコーン樹脂等、あるいはこれらの変性体をベースにした熱硬化性接着剤あるいはポリアミド樹脂、エチレン-酢酸ビニル樹脂、エチレン-アクリレート樹脂、エチレン-グリシジルメタクリレート-酢酸ビニル樹脂、アイオノマー樹脂等の熱可塑性接着剤などが例示される。」(第4頁左上欄第16行〜同頁右上欄第5行)、
「実施例1 厚さ50μmのポリイミドフィルムを先に示した低温プラズマ処理装置の円筒陰極上に張り、槽内を減圧にした。内圧0.01トルに達した後、ガス導入管より槽内に酸素ガスを500cc/分で導入して槽内圧力を0.13トルとした。この状態で円筒陰極を回転させながら電極間に150kHz、13kWの高周波電力を印加し、フィルム面を15秒間低温プラズマ処理した。このときの電極間に生じた放電電圧は9,000ボルトであった。このようにして低温プラズマ処理したポリイミドフィルムの処理面に、エポキシベース接着剤〔コニシ(株)製、ボンドEセットクリアー〕を用いて電解銅箔を圧着し、常温で48時間硬化させることによりフレキシブルプリント配線基板を得た。この基板について、銅箔の引き剥し強さ(T型剥離強度kg/cm)をJIS K6854に基づき調べたところ、2.95kg/cmであり、また半田耐熱性(260℃×10秒)は異常がなかった。他方上記において低温プラズマ処理の際の高周波電源の出力電力を調整することにより放電電圧を、7,000、5,000、3,000ボルトと変化させた場合、ならびに低温プラズマを行わなかった場合について同様にT型剥離強度を調べたところ、下記のとおりであった。
放電電圧が7,000ボルトの場合はT型剥離強度は2.05kg/cm
放電電圧が5,000ボルトの場合はT型剥離強度は1.24kg/cm
放電電圧が3,000ボルトの場合はT型剥離強度は0.83kg/cm
プラズマ処理なしの場合はT型剥離強度は0.80kg/cm」(第4頁右下欄第4行〜第5頁左上欄末行)、
「実施例2 厚さ25μmのポリイミドフィルムを先に示した低温プラズマ処理装置の円筒陰極上に張り、槽内を減圧にした。内圧が0.01トルに達した後、ガス導入管より槽内にアルゴンガスを100cc/分で導入して槽内圧力を0.06トルとした。この状態で円筒陰極を回転させながら電極間に200kHz、7kWの高周波電力を印加し、フィルム面を1分間処理した。このときの電極間に生じた放電電圧は5,000ボルトであった。……異常がなかった。」(第5頁右上欄第1行〜末行)、
「実施例4 下記の各プラスチックフィルム、ペ-パー、ガラス補強フィルムを実施例2と同様の条件でプラズマ処理した。
……、2…ポリイミドフィルム(25μm)、……
処理後のフィルム等に次のような接着剤を膜厚25μmになるよう塗布した後、35μm電解銅箔を加熱ロールで貼着した。なお、c〜gの接着剤についてはさらに150℃24時間ポストキュアした。
a…エチレン-酢酸ビニル共重合体(酢酸ビニル28%)
b…アクリロニトリル-ブタジエンゴム(ニツポール10001:日本ゼオン)
c…ポリビニルブチラール-エポキシ樹脂混合物
d…エポキシ(エピコート828)変性ナイロン樹脂
e…アクリロニトリルゴム…エポキシ樹脂混合物
f…1液型シリコーンRTV(KE42RTV)
g…シアン酸エステル-ポリブタジエン変性エポキシ樹脂
上記のようにして得た各フレキシブルプリント配線基板についてT型剥離強度を調べたところ、次表に示すとおりの結果が得られた。なお、同表には比較のために、1〜9のフィルム等の基体についてプラズマ処理を全く行わなかったほかは同様ににして電解銅箔を貼着した場合の結果についてもかっこ書きで併記した。
(フィルム等No.)が2〔ポリイミドフィルム(25μm)〕の場合について
接着剤がaの場合はT型剥離強度は1.48kg/cm(0.45kg/cm)
接着剤がbの場合はT型剥離強度は1.58kg/cm(0.48kg/cm)
接着剤がcの場合はT型剥離強度は1.91kg/cm(0.75kg/cm)
接着剤がdの場合はT型剥離強度はフィルム破断(0.75kg/cm)
接着剤がeの場合はT型剥離強度は1.94kg/cm(0.78kg/cm)
接着剤がfの場合はT型剥離強度は1.30kg/cm(接着不能)
接着剤がgの場合はT型剥離強度は1.88kg/cm(0.65kg/cm)」(第5頁右下欄第2行〜第6頁下欄の表)
が記載されている。
(5)刊行物5(特開昭63-61030号公報、特許異議申立人須田 武が提出した甲第5号証)
該刊行物には、
「フィルム中の残揮発物量が0.45重量%以下で、且つフィルム表面の酸素/炭素比が0.01〜0.1増加している事を特徴とするポリイミドフィルム。」(請求項1)、
「ポリイミドフィルムの主要途であるフレキシブルプリント配線板ベース材や電気絶縁フィルム等の用途では、接着材を介し銅箔と接着されたり」(第1頁右下欄第4行〜第7行)、
「フィルム表面の酸素/炭素比を従来のポリイミドフィルムよりも0.01〜0.1増加させる具体的方法の例としては、コロナ放電処理、プラズマ処理等がある。しかし乍らプラズマ処理は大掛かりの設備を要するのでコロナ放電処理が簡便である。」(第3頁左上欄第10行〜第14行)、
「ピロメリット酸二無水物とパラフェニレンジアミン及び4,4’-ジアミノジフェニルエーテル(モル比1:4)とを用いて得られたポリイミドフィルムを処理すること」(第4頁右下欄第2表における実施例11)
が記載されている。
(7)刊行物6(有限会社エヌ・エヌ編集「接着応用技術」1991年4月3日、日経技術図書株式会社発行、第27頁〜第28頁、第81頁〜第82頁、特許異議申立人須田 武が提出した甲第6号証)
該刊行物には、
「4.4高分子の表面処理と接着性」の欄において
「ポリテトラフルオロエチレン(PTFE),ポリエチレン(PE)をはじめとする各種不活性表面を有する高分子の接着,印刷は,すでに古くから,コロナ処理に始まる各種表面活性化方法が試みられている。特にプラズマ処理は,表面のみを選択的に処理でき,固体としての性質を変化させないことから,接着性,印刷性の改良にすでに利用されている。」(第27頁左欄第17行〜第23行)、
「8.5プラスチックの表面処理」の欄において
「最近では,紫外線の照射やオゾン,さらにはアルゴンや酸素などのプラズマを用いた処理やスパッタエッチングなどの乾式処理が数多く検討されており,ポリオレフィンフィルムに対してのコロナ処理などは,古くから実用されている。いずれの表面処理方法も,表面処理後における表面のぬれ性の改善(接触角の低下)や接着強さの増加などから確認されている。」(第81頁左欄第10行〜第17行)
が記載されている。
(8)刊行物7(特開昭64-19789号公報、特許異議申立人須田 武が提出した甲第7号証、同東レ・デュポン株式会社が提出した甲第3号証)
該刊行物には、
「(1)少なくとも導体と絶縁材とを包含するフレキシブルプリント基板において、該絶縁材の線膨脹係数が2.0×10-5/℃以下で、且つ引張破断時の伸度が30%以上であることを特徴とするフレキシブルプリント基板。
(2)該絶縁材料がポリイミド化合物である特許請求の範囲第1項記載のフレキシブルプリント基板。
(3)該絶縁材が一般式

および

[R1、R2は4価の芳香族基、R3は水素原子、水酸基、及びメチル基、メトキシ基から選ばれる1種または2種以上の基、nは1,2又は3の整数]
で表わされる反復単位を含有する芳香族ポリイミド共重合体である特許請求の範囲第2項記載のフレキシブルプリント基板。」(特許請求の範囲)
「本発明は、前述の如く、パターニング後エッチング乾燥に至る工程での寸法変化が大きかった従来のフレキシブルプリント基板の寸法安定性を、フレキシブルプリント基板の必須の条件であるフレキシビリテイーを損うことなく改良するものである。」(第2頁右上欄第11行〜第16行)、
「上記のフレキシブルプリント基板は、絶縁層と導体とが間に接着剤を介して、貼り合わされたもの、及びこれにパターンニング、エッチング処理等を施されたものをいい、該接着剤は通常のフレキシブルプリント基板の製造に用いられる接着剤を用いることが可能である。本発明に言う導体とは、銅、鉄、アルミニウムなどの金属、或いは金属箔に代表されるものであるが、これ以外のものでもよい。」(第2頁左下欄第6行〜第14行)、


基が特に効果的である。また一般式(A)及び(B)で表わされる反復単位のモル比は(A)/(B)が20/80から99/1の範囲にあることが好ましく、更に好ましくは50/50から99/1の範囲であることが本発明の効果を得るために望ましい。」(第3頁右上欄第2行〜第7行)、
「(2)芳香族テトラカルボン酸二無水物(a)とこれに対し過剰モル量の芳香族ジアミン化合物(b)とを有機極性溶媒中にて反応させ、両末端にアミノ基を有するプレポリマーを得る。続いてここに芳香族ジアミン化合物(c)を追加反応後、全ジアミン成分((b)+(c))と実質的に等モルになるように不足分の芳香族テトラカルボン酸二無水物(a)を添加反応する共重合法による方法。
(3)芳香族ジアミン化合物(b)及び(c)の混合物を有機極性溶媒中に溶解し、この総量((b)+(c))と実質的に等モル量となる芳香族テトラカルボン酸二無水物(a)とを反応させる共重合法による方法。
(4)〜(6) (1)〜(3)の方法において芳香族テトラカルボン酸二無水物を芳香族ジアミン化合物に、芳香族ジアミン化合物を芳香族テトラカルボン酸二無水物に置き替えた共重合法による方法。
(7) (1)〜(6)の方法によって得られた2種以上のポリアミド酸溶液を混合して製造する方法。
などの方法をあげることができ、特に(1)の方法が好ましい。上記のポリアミド酸溶液を得るために用いられる原料である芳香族テトラカルボン酸二無水物の例としては、ピロメリット酸二無水物、3,3’,4,4’-ビフェニルテトラカルボン酸、2’,3,3’4-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’-ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、ナフタレン-1,2,5,6-テトラカルボン酸二無水物などが挙げられる。これらの化合物は単独もしくは2種以上の組合わせで用いられる。芳香族ジアミン成分としては、4,4’-ジアミノジフェニルエーテルと、一般式

[n及びR3は前記と同じ]
で表わされる芳香族ジアミン化合物とを前述の成分(b)及び(c)として用いるのが望ましい。」(第3頁左下欄第3行〜第4頁左上欄下から第15行)、
「ついで、このポリアミド酸溶液からポリイミドからなる有機絶縁膜を製造する方法については、従来公知の方法を用いることができる。即ちi)熱的にポリイミドに転化する、ii)脱水剤及び触媒を用いて化学的にポリイミドに転化する方法が採用される。ここでいう脱水剤としては、例えば無水酢酸等の脂肪族酸無水物、ワタル酸無水物等の芳香族酸無水物などが挙げられる。また触媒としては、例えばトリエチルアミンなどの脂肪族第3級アミン類、N,N-ジメチルアニリンなどの芳香族第3級アミン類、ピリジン、ピコリン、イソキノリン、キノリンなどの複素環式第3級アミン類などが挙げられる。」(第4頁右下欄第15行〜第5頁左上欄第7行)、
「まず絶縁材に接着剤を塗布し、乾燥後約10μm〜70μmの銅などの金属箔などの金属箔を加圧下で熱ラミネートし、所定のポストキュアを行ない、フレキシブル基板を得ることができる。さらに金属面に所望の回路をパターンニングし、次にエッチング、水洗乾燥工程を経た後パターン化されたフレキシブル基板を得ることができる。接着剤としてはエポキシ/ナイロン系接着剤等通常フレキシブル基板の製造に用いられる接着剤を使用することができる。」(第5頁左上欄第16行〜同頁右上欄第5行)、
「寸法変化率及び耐折強度の点から、PMDA(無水ピロメリット酸)/ODA(4,4’-ジアミノジフェニルエーテル)ポリイミドフィルム(比較例1)、BPDA(3,3’、4,4’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物)/p-PDA(パラフェニレンジアミン)ポリイミドフィルム(比較例2)ではフレキシブルプリント基板に適さず、PMDA/ODA/p-PDAポリイミドフィルム(実施例1)が適当であること」(第5頁右上欄第10行〜第6頁左上欄末行)
が記載されている。
(8)刊行物8(特開昭62-162543号公報、特許異議申立人東レ・デュポン株式会社が提出した甲第1号証)
該刊行物には、
「1.表面に放電処理が施された芳香族ポリイミドフィルムの該放電処理面に弗素樹脂塗布層が形成されてなることを特徴とする弗素樹脂層を有するポリイミドフィルム。」(特許請求の範囲第1項)
「上記のような問題点を考慮して芳香族ポリイミドフィルムの表面に接着性を付与するための試みが既に行なわれており、その代表的な例の一つとして、芳香族ポリイミドフィルムの表面に弗素樹脂の分散液を塗布し、これを加熱することにより弗素樹脂塗布層を形成して接着層とする方法を挙げることができる。」(第2頁左上欄末行〜同頁右上欄第6行)、
「芳香族ポリイミドフィルムとしてはこれまでに各種の芳香族ポリイミドから得られたものが知られており、本発明のポリイミドフィルムはそのような任意の芳香族ポリイミドから得たフィルムであってよい。」(第2頁右下欄第12行〜第16行)、
「すなわち芳香族ポリイミドの芳香族テトラカルボン酸骨格としては、……、ピロメリット酸、……を挙げることができる。……。芳香族ポリイミドの芳香族ジアミン骨格としては、パラフェニレンジアミン、……、4,4’-ジアミノジフェニルエーテル、……などを挙げることができる。上記のような芳香族カルボン酸成分と芳香族ジアミン成分とを用いてポリイミドを製造する方法も各種知られている。たとえば、……、芳香族カルボン酸成分と芳香族ジアミン成分とを有機極性溶媒に溶解した状態にて室温付近の低温で重合反応を起させて、一旦ポリアミック酸としたのち、このアミック酸を塗布膜に形成してイミド化し、フィルム状のポリイミドを得る方法などが知られている。本発明において使用する芳香族ポリイミドは、いずれの方法によって得られたものであってもよい。」(第3頁左上欄第3行〜同頁左下欄第2行)、
「従って、芳香族ポリイミドフィルムの表面の放電処理も、その表面でコロナ放電あるいはプラズマ放電を発生させる方法などを利用することができる。」(第3頁右下欄第12行〜第15行)、
『本発明の弗素樹脂塗布層を有する芳香族ポリイミドフィルムは、その弗素樹脂塗布層とポリイミドフィルムとの間の接着性が優れているため、強いせん断力の付与などのような過酷な条件下に置かれた場合でも、弗素樹脂塗布層とポリイミドフィルムとの間の剥離あるいは「ずれ」などの好ましくない現象が発生しにくくなる。』(第4頁右上欄第8行〜第14行)
が記載されている。
(9)刊行物9(特開昭63-221138号公報、特許異議申立人東レ・デュポン株式会社が提出した甲第4号証)
該刊行物には、
「(1)一般式(1):

(式中、R1は芳香環を形成する炭素原子上に結合手を有する4価の芳香族基であり、R2は芳香環を形成する炭素原子上に結合手を有する2価の芳香族基である)で表わされる反復単位を有し複屈折率(△n)が0.13以上の値を持つことを特徴とするポリイミド膜。
(2)一般式(1)で表わされる反復単位が一般式(2):

(式中、R1は前に定義したものである)また一般式(3):

(式中、R3は1価の有機基である)
で表わされる反復単位である特許請求の範囲第1項記載のポリイミド膜。
(3)一般式(1)で表わされる反復単位が一般式(4):

(式中、R1は前に定義したもの)
と一般式(2)で表わされる2種の反復単位であるか、あるいは一般式(4)と一般式(3)で表わされる2種の反復単位である特許請求の範囲第1項記載のポリイミド膜。
(4)一般式(4)の反復単位と一般式(2)の反復単位とのモル比あるいは一般式(4)の反復単位と一般式(3)の反復単位とのモル比が1:99から90:10までの値である特許請求の範囲第3項記載のポリイミド膜。」(特許請求の範囲)、
「近年、電子電気工業分野などにおいてますますその要求が高まっている微細加工プリント基板や、その他の電子材料例えば高密度磁気記録用分野などの基材として優れた寸法安定性と機械的諸特性を有するポリイミド膜が求められている。」(第2頁左上欄第18行〜同頁右上欄第3行)、
「次にこのポリイミド膜の製造方法について説明する。このポリイミド膜は、その前駆体であるポリアミド酸溶液から得られるが、ポリアミド酸溶液は、公知の方法で製造することができる。すなわち酸無水物成分とジアミン成分を実質等モル使用し、有機極性溶媒中で重合して得られる。2種以上の繰り返し単位を持つポリアミド酸溶液については、いかなる共重合方法を用いてもよい。さらには異種のポリアミド酸溶液の混合により得ることも可能である。ポリアミド酸溶液からポリイミド膜を得るには、ポリアミド酸溶液に化学量論以上の脱水剤と必要に応じ、触媒量の第3級アミン類等を加えて脱水するなどの化学的方法、または脱水剤などを加えず熱的に脱水閉環する方法を用いることができる。理由は不明であるが本発明の複屈折率(△n)が0.13以上のポリイミド膜を得るには化学的方法を用いるほうがはるかに容易に目的のポリイミド膜を得ることができる。製膜方法としてはポリアミド酸溶液を支持体上に流延または塗布して膜状と成し、その膜を150℃以下の温度で1〜30分間乾燥し、自己支持性の膜を得る。次いで、これを支持体より引き剥し、固定枠に固定した後、100〜500℃まで徐々に加熱し、化学的に脱水閉環する方法やポリアミド酸溶液を支持体上に流延または塗布し、約100〜500℃まで徐々に加熱しそのまま支持体上で熱的または化学的に脱水閉環する方法などがあるが、複屈折率(△n)が0.13以上のポリイミド膜を得るには理由は不明であるが前者の方法すなわち途中で一たん自己支持性の膜をひきはがす方法が好ましい。特に前者の方法において化学的脱水方法を用いる場合は非常に容易に目的のポリアミド膜を得ることができる。」(第3頁左下欄第2行〜同頁右下欄第16行)
が記載されている。
(10)刊行物10(ヨーロッパ特許公開公報:0258859 A2(特許異議申立人宇部興産株式会社が提出した甲第1号証)
該刊行物は、刊行物5の特許出願を優先権の基礎としてヨーロッパ特許庁に出願されたものの公開公報であり、該刊行物には、
「2 フィルム中の残揮発物量が0.45重量%以下に減少され、且つフィルム表面の酸素/炭素比が0.01〜0.1増加していることを特徴とするポリイミドフィルム。
3 フィルムがポリ(N,N’-P,P’-オキシジフェニレンピロメリット)イミドである請求項1または2に記載のポリイミドフィルム。
4 フィルムの厚みが10〜125μmである請求項1,2または3に記載のポリイミドフィルム。
5 フィルムの厚みが50〜125μmである請求項4に記載のポリイミドフィルム。
7 フィルム中の残揮発物量が0.45重量%以下であるポリイミドフィルムをコロナ放電またはプラズマ放電で処理する請求項2〜5に記載のポリイミドフィルムの製造法。」(クレーム2〜5及び7)、
「実施例11-14と同様の方法で各種出発原料からのポリイミドフィルムを50μm厚みにて作製し、残揮発物量、表面酸素/炭素比増加と接着強度を調べた。結果を表4に示す。表4から、本発明によれば高接着強度が得られることが判る。」、
「(酸無水物)PMDA、(ジアミン)PPDI/ODA4、(残揮発物量)0.237WT%、(酸素/炭素比増加)0.029、(接着強度)
A面2.5 5/6 B面2.3 5/6」(上記刊行物第9頁の第4表中の実施例21)、
「註(1)
PMDA:ピロメリット酸二無水物
BPDA:3,3’,4,4’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物
PPD:パラフェニレンジアミン
ODA:4,4’-ジアミノジフェニルエーテル
註(2)
PPD1/ODA4はPPD1モルに対してODA4モルの比率を意味する」(第9頁の表4の下方の「ノート(1)」及び「ノート(2)」)
が記載されている。
(11)刊行物11(特開昭59-53541号公報、特許異議申立人宇部興産株式会社が提出した甲第2号証)
該刊行物には、
「重合体主鎖に芳香族環と窒素原子とを有する有機高分子成形品を、装置内のいずれか一方がアースされた対放電電極を有する内部電極型低温プラズマ発生装置に入れ、減圧下に無機ガスを流通させながら両電極間に4,000ボルト以上の放電電圧を与えてグロー放電を行わせることにより発生させた低温プラズマで処理することを特徴とする有機高分子成形品の表面改質方法。」(特許請求の範囲)、
「本発明が対象とする有機高分子成形品は、重合体主鎖に芳香族環と窒素原子とを有する有機高分子、例えばポリイミド、……等の成形品であり、この成形品の種類についてはフィルム、シート……等が包含され、その形体については特に制限がない。上記有機高分子成形品の改質処理は、前記した対放電電極を有する内部電極型低温プラズマ発生装置に減圧下に無機ガスを流通させながらグロー放電を行わせることにより発生させた低温プラズマで行われるが、ここに使用される無機ガスとしてはヘリウム、ネオン、アルゴン、窒素、酸素、空気、亜酸化窒素、一酸化窒素、二酸化窒素、一酸化炭素、二酸化炭素、シアン化臭素、亜硫酸ガス、硫化水素などが例示され、これらは単独または二種以上のものが混合して使用される。」(第2頁左下欄第1行〜末行)
が記載されている。
(12)刊行物12(特公昭58-14452号公報、特許異議申立人宇部興産株式会社が提出した甲第3号証)
該刊行物には、
「低圧気体放電によって生じる低温プラズマを用いて基材を処理する方法において、低温プラズマを発生させるための少なくとも一対の電極と基材との間に遮蔽物を介在させ、該遮蔽物により基材に対する低温プラズマからの紫外線照射量を削減させて処理を行うことを特徴とする基材の低温プラズマ処理方法。」(特許請求の範囲)、
「本発明でいう低圧気体放電によって生じる低温プラズマとは、10-2Torrから100Torrの低圧下のAr,N2,O2,COなどのガス中でおこるグロー放電などによって生成される非平衡プラズマのことである」(第4欄第35行〜第39行)
が記載されている。
4.対比判断
〔イ〕本件請求項1に係る発明について
(1) 本件請求項1に係る発明と刊行物1に記載された発明を対比すると、刊行物1にはポリイミドフィルムについて記載はあるが本件請求項1に係る発明の共重合ポリイミド(請求項1に記載の【化1】と【化2】の構造単位を有する共重合ポリイミド)については記載がなく、また、樹脂層の樹脂として芳香族ポリイミドが挙げられているがこれが接着剤であるのか否かは明記されていない。
してみれば、本件請求項1に係る発明の構成要件である、特定の共重合ポリイミドフィルム、プラズマ処理及びポリイミド接着剤の組み合わせが、該刊行物1に記載されているとは言えない。
(2) 刊行物5と刊行物10は共通の出願に基づく公報であり記載内容に共通する部分が多いところ、これらの刊行物に記載された発明と本件請求項1に係る発明を対比すると、これらの刊行物には、本件請求項1に係る発明の共重合ポリイミドフィルムとプラズマ処理についての記載はあるが、接着剤についてはナイロン/エポキシ系接着剤が実施例に記載されているだけであって、ポリイミド系接着剤については何も記載されていない。
してみれば、本件請求項1に係る発明の構成要件である、特定の重合ポリイミドフィルム、プラズマ処理及びポリイミド接着剤の組み合わせが、該刊行物5、10に記載されているとは言えない。
(3) 刊行物1にはプラスチックフィルムの一例としてポリイミドフィルムが多数のプラスチックフィルムと共に例示されているだけであり、ポリイミドとしてはどのようなものが適しているのかと言うことについては何の示唆もない。また、刊行物5及び10の実施例には本件請求項1に係る発明の共重合ポリイミドフィルムを用いたものも記載されているが、接着剤として本件請求項1に係る発明のものと異なるナイロン/エポキシ系が記載されているだけである。
さらに、ポリイミド接着剤を使用することは後述するように刊行物2〜12のいずれにも記載がなく、また前述のように刊行物1においても、ポリイミドがその一例として示される樹脂層が接着剤であることが明確に記載されていない。
してみれば、刊行物1に記載された発明のポリイミドフィルムとして刊行物5及び10に記載された発明の共重合ポリイミドフィルムを使用することが、これらの刊行物に記載された発明から当業者が容易に考えつくものとは認めがたいし、先に本件発明の認定の項([3]2)で述べたように、本件請求項1に係る発明は接着剤としてポリイミドを使用した場合には優れた効果を奏するのである。そしてこの効果は予想しがたいものである。
刊行物2、3、4、8及び11には、ポリイミドフィルムにプラズマ処理を施すことが記載されているが、該ポリイミドとして本件請求項1に係る発明の共重合ポリイミドは記載されていないし、また、ポリイミド接着剤についても記載されていない。
刊行物7および9には、本件請求項1に係る発明の共重合ポリイミドについての記載はあるが、プラズマ処理をすることについての記載もなく、ポリイミド接着剤についても記載されていない。
刊行物6はプラスチックの表面処理としてのプラズマ処理についての一般的な記載に止まり、また、刊行物12は基体への低温プラズマ処理の方法の一般的な技術についての記載に止まり、本件請求項1に係る発明の共重合ポリイミドについてもポリイミド接着剤についても記載がされていない。
以上のように刊行物2〜4、6〜9、11及び12には、刊行物1、5及び10以上に本件請求項1に係る発明を示唆する記載はない。
したがって、本件請求項1に係る発明は、刊行物1〜7(特許異議申立人須田 武が提出した甲第1〜7号証)に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるということができないし、また、刊行物8(特許異議申立人東レ・デユポン株式会社が提出した甲第1号証)に記載された発明であるとも、刊行物8,4,7,9(特許異議申立人東レ・デユポン株式会社が提出した甲第1〜4号証、)に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるということができないし、さらに、刊行物10(特許異議申立人宇部興産株式会社が提出した甲第1号証)に記載された発明であるとも、刊行物10(特許異議申立人宇部興産株式会社が提出した甲第1号証)に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるともいうことができない。
〔ロ〕 本件請求項2に係る発明について
本件請求項2に係る発明は本件請求項1に係る発明におけるプラズマ処理において使用される雰囲気ガスの種類をさらに特定するものであるから、本件請求項1に係る発明と同様の理由により、本件請求項2に係る発明は、刊行物1〜7(特許異議申立人須田 武が提出した甲第1〜7号証)に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるということができないし、また、刊行物8,4,7,9(特許異議申立人東レ・デユポン株式会社が提出した甲第1〜4号証、)に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるということができないし、さらに、刊行物10(特許異議申立人宇部興産株式会社が提出した甲第1号証)に記載された発明であるとも、刊行物10(特許異議申立人宇部興産株式会社が提出した甲第1号証)に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるともいうことができない。
〔ハ〕 本件請求項3に係る発明について
本件請求項3に係る発明は、4,4’-ジアミノジフェニルエーテル及びパラフェニレンジアミンの使用割合が規定されていない点では請求項1に係る発明と相違するが、本件請求項1に係る発明のポリイミドフィルムの製造方法の発明に相当するものであるから、上記〔イ〕で述べたような理由と同様に、本件請求項3に係る発明は、刊行物1〜7(特許異議申立人須田 武が提出した甲第1〜7号証)に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるということができないし、また、刊行物8(特許異議申立人東レ・デユポン株式会社が提出した甲第1号証)に記載された発明であるとも、刊行物8,4,7,9(特許異議申立人東レ・デユポン株式会社が提出した甲第1〜4号証、)に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるということができないし、さらに、刊行物10(特許異議申立人宇部興産株式会社が提出した甲第1号証)に記載された発明であるとも、刊行物10(特許異議申立人宇部興産株式会社が提出した甲第1号証)に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるともいうことができない。
〔ニ〕 本件請求項4に係る発明について
本件請求項4に係る発明は本件請求項3において使用する4,4’-ジアミノジフェニルエーテル及びパラフェニレンジアミンの使用割合を限定するものであるから、本件請求項3に係る発明と同様の理由により、本件請求項4に係る発明は、本件請求項3に係る発明は、刊行物1〜7(特許異議申立人須田 武が提出した甲第1〜7号証)に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるということができないし、また、刊行物8,4,7,9(特許異議申立人東レ・デユポン株式会社が提出した甲第1〜4号証、)に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるということができないし、さらに、刊行物10(特許異議申立人宇部興産株式会社が提出した甲第1号証)に記載された発明であるとも、刊行物10(特許異議申立人宇部興産株式会社が提出した甲第1号証)に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるともいうことができない。
5.記載不備について
(1)特許異議申立人須田 武は本件発明は一般式(1)【化1】と一般式(2)【化2】の比率を必須とするものであるにもかかわらず請求項1にそれが記載されていないと主張するが、本件明細書が訂正され、請求項1には一般式(1)【化1】と一般式(2)【化2】の比率が規定されたので、特許異議申立人の主張はその前提となる根拠を失った。
(2)特許異議申立人須田 武は本件発明の効果を与えるにはプラズマ処理条件等の規定が必須であるがそれが請求項1に記載されておらず、その臨界的意義を示す効果を立証することもないと主張するが、先の4.の(3)で述べたように本件発明はプラズマ処理を行うことにより効果を奏するものであり、請求項1にもプラズマ処理は記載されているので、何等記載不備はない。
(3)特許異議申立人東レ・デュポン株式会社は本件明細書には本件発明はポリイミド系接着剤を用いた際の接着性改善を目的とするものであると記載されているにもかかわらず請求項にはそのようなことが記載されていないと主張するが、本件発明は、本件明細書が訂正され、ポリイミド系接着剤によって接着されるものとなった結果、特許異議申立人の主張はその前提となる根拠を失った。
したがって、本件明細書に記載不備は認められない。
[5]むすび
以上のとおりであるから、特許異議申立人須田 武、東レ・デユポン株式会社及び宇部興産株式会社が提出した特許異議申立の理由及び証拠によっては本件請求項1〜4に係る発明の特許を取り消すことはできない。
また、他に本件請求項1〜4に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
ポリイミドフィルム及びその製造方法
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】 ポリイミド系接着剤によって接着させられるポリイミドフィルムであって、一般式(1)化1と一般式(2)化2とにより表される構造単位を10:1〜1:5の割合で1分子中に有するポリイミドにより成形されたフイルムにプラズマ処理が施されていることを特徴とするポリイミドフィルム。
【化1】

【化2】

(式中、Rは4価の有機基である。)
【請求項2】 前記プラズマ処理における雰囲気ガスがテトラフルオルメタン、酸素、窒素、アルゴン、二酸化炭素及びこれらの混合気体から選ばれるガスであることを特徴とする請求項1に記載するポリイミドフィルム。
【請求項3】 ポリイミド系接着剤によって接着させられるポリイミドフィルムの製造方法であって、有機テトラカルボン酸二無水物と、4,4′-ジアミノジフェニルエーテル及びパラフェニレンジアミンとから生成されるポリアミド酸をフィルム状に成形するとともにポリイミドに転化させてポリイミドフィルムを製造した後、該ポリイミドフィルムにプラズマ処理を施すことを特徴とするポリイミドフイルムの製造方法。
【請求項4】 前記4,4′-ジアミノジフェニルエーテルとパラフェニレンジアミンとの添加割合がモル比で10:1〜1:5、より好ましくは5:1〜1:1であることを特徴とする請求項3に記載するポリイミドフィルムの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】
本発明はポリイミドフィルムに関し、特に接着性が改良されたポリイミドフィルムに関する。
【0002】
【従来の技術】
ポリイミドフィルムは耐熱性、耐寒性、耐薬品性、電気絶縁性、機械的強度などの優れた諸特性を有することが知られており、電線の電気絶縁材、断熱材、フレキシブルプリント配線板(FPC)のベースフィルム、ICのテープオートメーティッドボンディング(TAB)用キャリアテープのベースフィルム、ICのリードフレーム固定用テープなどに広く利用されている。このうち、FPC、TAB用キャリアテープ、リードフレーム固定用テープなどの用途においては、通常、種々の接着剤を介してポリイミドフイルムと銅箔とが接着されて用いられている。ところが、ポリイミドフィルムはその化学構造及び高度な耐薬品(溶剤)安定性により、銅箔との接着性が不十分な場合が多いことから、現状ではポリイミドフィルムに後処理として各種の表面処理(たとえばアルカリ処理、カップリング剤塗布処理、サンドブラスト処理、コロナ放電処理、プラズマ処理など)を施した後、接着している。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】
ポリイミドフィルムの表面処理におけるたとえばアルカリ処理、カップリング剤塗布処理、サンドブラスト処理などはフィルムの製膜後、アルカリ処理などの各処理を施した後、更に、洗浄、乾燥などの別工程を要することから、生産性、安定性、コストの面だけでなく、環境保全面でも問題を含んでいる。一方、コロナ放電処理、プラズマ処理は従来、紙、グラステックスなどの表面への印刷性を改善することを中心に行われて来たものである。そして、周知のごとく、その装置の簡便さからフィルム製膜装置への組み込み(インライン化)も可能であり、前述の後処理に比較し有利な処理である。
【0004】
このため、本発明者らはポリイミドフィルムに対する接着性を改善するためにコロナ放電処理を検討した結果、原料の異なる種々のポリイミドフィルムにおいて、コロナ放電処理により若干の接着性の改善が認められた。しかし、接着剤としてポリイミド系の接着剤を用いた場合には接着性の改善は全く認められず、実用的な処理として問題のあることを見出した。
【0005】
更に、本発明者らはポリイミドフィルムに対する接着性を改善するためにプラズマ処理を検討した結果、通常のポリイミドフィルム、すなわちピロメリット酸二無水物と4、4′-ジアミノジフェニルエーテルとを原料とするポリイミドフィルム、及びビフェニルテトラカルボン酸二無水物とパラフェニレンジアミンとを原料とするポリイミドフィルムなどにおいては、プラズマ処理をすることにより若干、接着性が改善するのが認められた。しかし、同様に、接着剤としてポリイミド系の接着剤を用いた場合には接着性の改善は全く認められず、実用的な処理として問題のあることを見出した。
【0006】
そこで、本発明者らは上記問題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、ある特定の構造単位を有するポリイミドフィルムにプラズマ処理を施すことにより、実用的に充分な接着性の改善されたポリイミドフィルムを提供できることを見出し、本発明に至ったのである。
【0007】
【課題を解決するための手段】
本発明に係るポリイミドフィルムの要旨とするところは、ポリイミド系接着剤によって接着させられるポリイミドフィルムであって、一般式(1)化1と一般式(2)化2とにより表される構造単位を10:1〜1:5の割合で1分子中に有するポリイミドにより成形されたフィルムにプラズマ処理が施されていることにある。
【化3】

【化4】

(式中、Rは4価の有機基である。)
【0008】
かかる本発明のポリイミドフィルムにおいて、前記プラズマ処理における雰囲気ガスがテトラフルオルメタン、酸素、窒素、アルゴン、二酸化炭素及びこれらの混合気体から選ばれたガスであることにある。
【0009】
次に、本発明に係るポリイミドフィルムの製造方法の要旨とするところは、ポリイミド系接着剤によって接着させられるポリイミドフィルムの製造方法であって、有機テトラカルボン酸二無水物と、4,4′-ジアミノジフェニルエーテル及びパラフェニレンジアミンとから生成されるポリアミド酸をフイルム状に成形するとともにポリイミドに転化させてポリイミドフィルムを製造した後、該ポリイミドフィルムにプラズマ処理を施すことにある。
【0010】
また、かかるポリイミドフィルムの製造方法において、前記4,4′-ジアミノジフェニルエーテルとパラフェニレンジアミンとの添加割合がモル比で10:1〜1:5、より好ましくは5:1〜1:1であることにある。
【0011】
【作用】
本発明者らは上記のある特定の分子構造を有するポリイミドフィルムにプラズマ処理を施すことにより、高接着性のフィルムを得ることを見出したのである。しかし、そのメカニズムは必ずしも明確ではなく、本発明で用いた特定の分子構造を有するポリイミドフィルムの表面が他の分子構造のポリイミドフィルムと比較し、その特殊な分子構造を有することに起因してプラズマ処理によって改質され易いことにより、本発明の効果が奏されるものと推定される。
【0012】
かかる本発明のポリイミドフィルムは有機テトラカルボン酸二無水物と、4,4′-ジアミノジフェニルエーテル及びパラフェニレンジアミンとから生成されるポリアミド酸を転化させて得られる。ここで、4,4′-ジアミノジフェニルエーテルとパラフェニレンジアミンの添加割合は任意に設定し得るものであるが、好ましくはモル比で10:1〜1:5、より好ましくは5:1〜1:1であるのが好ましい。本発明に係るポリイミドフィルムが用いられる一例であるフレキシブルプリント配線板などにおいては、曲げて使用する時、硬すぎず且つ柔らかすぎないフィルムが好ましい。一方、パラフェニレンジアミンの添加割合が多いとポリイミドフィルムは硬くなり、逆に少なくなるとポリイミドフィルムは柔らかくなる。したがって、かかる添加割合の範囲にあるとき、上記条件に適合したポリイミドフィルムを得ることができる。
【0013】
【実施例】
次に、本発明に係るポリイミドフィルムの実施例を詳細に説明する。
本発明において、先ず、プラズマ処理に供するポリイミドフィルムは、一般式(3)化5
【化5】

(式中、Rは4価の有機基である。)
で表されるたとえばピロメリット酸二無水物などの有機テトラカルボン酸二無水物と、4,4′-ジアミノジフェニルエーテル及びパラフェニレンジアミンとを原料として用いることにより得られる一般式(1)と一般式(2)とで表される構造単位を1分子中に有するポリイミドフィルムである。すなわち、かかるポリイミドフィルムは、有機ジアミンである4,4′-ジアミノジフェニルエーテル及びパラフェニレンジアミンを有機溶媒に溶解させた溶液と、一般式(3)で表される有機テトラカルボン酸二無水物とを反応させて得られたポリイミド前駆体であるポリアミド酸の有機溶媒溶液を公知の製膜法によりフィルム状に成形した後、公知のポリアミド酸重合法により脱水閉環させて得られる。
【0014】
ここで、一般式(1)、一般式(2)及び一般式(3)中の4価の有機基Rは脂肪族基又は化6
【化6】

(式中、R1及びR2はそれぞれ水素原子又はメチル基である。)
から選ばれる有機基である。
【0015】
また、上記一般式(3)で表される有機テトラカルボン酸二無水物の具体例として、ピロメリット酸二無水物、2,3,6,7-ナフタレンテトラカルボン酸二無水物3,3′,4,4′-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、3,3′,4,4′-ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、ナフタレン-1,2,5,6-テトラカルボン酸二無水物、2,2′,3,3′-ジフェニルテトラカルボン酸二無水物、2,3,5,6-ピリジンテトラカルボン酸二無水物、2,2-ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)プロパン二無水物、ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)スルホン二無水物、3,4,9,10-ペリレンテトラカルボン酸二無水物、ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)エーテル二無水物、1,2,4,5-ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、1,2,5,8-ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、2,2-ビス(2,3-ジカルボキシフェニル)プロパン二無水物、1,1-ビス(2,3-ジカルボキシフェニル)エタン二無水物、1,1-ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)エタン二無水物、ビス(2,3-ジカルボキシフェニル)メタン二無水物、ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)メタン二無水物、ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)スルホン二無水物、ベンゼン-1,2,3,4-テトラカルボン酸二無水物、3,4,3′,4′-ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物などの他、これらの2種以上の混合物が挙げられる。それらのうちでは特にピロメリット酸二無水物などが好ましい。
【0016】
有機ジアミンのうち本発明に用いられる4,4′-ジアミノジフェニルエーテル又はパラフェニレンジアミンは有機溶媒に溶解させて用いられる。4,4′-ジアミノジフェニルエーテルとパラフェニレンジアミンは予めそれぞれの所定量を有機溶媒に溶解させておき、その溶液に有機テトラカルボン酸二無水物を添加して、所定の粘度を有するポリアミド酸溶液を得ても良いが、4,4′-ジアミノジフェニルエーテルとパラフェニレンジアミンのうちいずれか一方を有機溶媒に溶解させておき、この溶液に有機テトラカルボン酸二無水物を添加して撹拌した後、他方の有機ジアミンを添加して所定の粘度を有するポリアミド酸溶液を得るようにしても良い。
【0017】
ここで、4,4′-ジアミノジフェニルエーテルとパラフェニレンジアミンの添加割合は特に限定されるものではなく、少なくとも両者が添加されていることを要する。ただし、4,4′-ジアミノジフェニルエーテルとパラフェニレンジアミンの添加割合は、パラフェニレンジアミンの添加割合が多くなるとポリイミドフィルムは硬くなり、逆にパラフェニレンジアミンの添加割合が少なくなるとポリイミドフィルムは柔らかくなる。このため、ポリイミドフィルムの用途に応じて両者の添加割合を設定するのが好ましい。たとえば、得られたポリイミドフィルムをフレキシブルプリント配線板などに用いる場合、フィルムの特性として硬すぎず且つ柔らかすぎないのが好ましく、かかる条件に適合するポリイミドフィルムを得るには、4,4′-ジアミノジフェニルエーテルとパラフェニレンジアミンの添加割合が10:1〜1:5、より好ましくは5:1〜1:1の範囲にあるのが好ましい。
【0018】
本発明に用いられる有機溶媒はたとえば、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、N,N-ジエチルホルムアミド、N,N-ジエチルアセトアミド、N,N-ジメチルメトキシアセトアミド、ジメチルスルホキシド、ヘキサメチルホスホルアミド、N-メチル-2-ピロリドン、ジメチルスルホンなどの他、これらの2種以上の混合物、あるいはこれらの溶媒とベンゼン、トルエン、キシレン、ベンゾニトリル、ジオキサン、シクロヘキサンなどとを適宜混合させたものなどが挙げられる。それらのうちで、4,4′-ジアミノジフェニルエーテル及びパラフェニレンジアミンに対して良好な溶媒であるとともに上記一般式(3)で表される有機テトラカルボン酸二無水物及び生成するポリアミド酸に対しても良好な溶媒であることが必要であることから、特にN,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド、N-メチル-2-ピロリドン又はこれらの2種以上の混合物が好ましく、更に有機極性溶媒がより好ましい。
【0019】
4,4′-ジアミノジフェニルエーテル及びパラフェニレンジアミンと上記一般式(3)で表される有機テトラカルボン酸二無水物とから得られたポリアミド酸を公知の重合法により重合させてポリイミドに転化させる。ポリアミド酸をポリイミドに転化させる方法はたとえばポリアミド酸を加熱して脱水閉環させたり、脱水閉環剤又は脱水閉環剤と触媒をポリアミド酸溶液に添加して化学的に脱水閉環させたり、あるいはこれらを組み合わせて脱水閉環させる方法が、通常用いられる。なお、得られるポリイミドフィルムの機械的性質などを更に改善するために、種々の添加剤をポリアミド酸溶液に加えても良く、何ら限定されるものではない。
【0020】
ここで、脱水閉環剤としては、たとえば有機カルボン酸無水物、N,N′-ジアルキルカルボジイミド類、低級脂肪酸ハロゲン化物、ハロゲン化低級脂肪酸ハロゲン化物、ハロゲン化低級脂肪酸無水物、アリルホスホン酸ジハロゲン化物などの他、これらの混合物が挙げられる。それらのうちでは特に無水酢酸が好ましく、その他好ましい脱水閉環剤としてはケテンや安息香酸無水物などが挙げられる。また、触媒としては、ピリジン、イソキノリン又は第三級アミン類が挙げられる。その具体例として、3,4-ルチジン、3,5-ルチジン、4-メチルピリジン、4-イソプロピルピリジン、N-ジメチルベンジルアミン、4-ベンジルピリジン又は4-ジメチルドデシルアミン、ピコリン類、トリエチルアミンなどが挙げられる。それらのうちではイソキノリンが特に好ましい。
【0021】
得られたポリイミド前駆体であるポリアミド酸の溶液は粘性が高いことから、通常キャスティングドラムあるいはエンドレスベルトの上にポリアミド酸溶液をフィルム状に押出しあるいは流延塗布し、そのドラム又はベルトの上で脱水閉環させてポリイミドに転化させる。ポリイミドに転化させられたフイルムを少なくとも自己支持性を備える程度に硬化させた後、そのポリイミドフィルムをドラムあるいはベルトから剥離して、ポリイミドフィルムを製造する。製造されたポリイミドフィルムは更に必要に応じて熱処理などが施され、安定なポリイミドフィルムにして、用いられる。
【0022】
次に、本発明におけるプラズマ処理の方法はグロー放電などの公知の方法が採用される。また、プラズマ処理の条件は任意に選択することが可能であるが、グロー放電によるプラズマ処理の場合、放電出力20〜2000W・mm/m2、圧力1Torr以下が好ましい。プラズマ処理の雰囲気ガスも任意に選択することが可能であるが、好ましくはテトラフルオルメタンCF4、酸素、窒素、アルゴン、二酸化炭素又はこれらの2種以上の混合気体など、非反応性ガスあるいは反応性ガスが採用される。プラズマ処理はポリイミドフィルムの片面にのみ施しても良い、両面に施しておいても良く、何ら限定されない。また、プラズマ処理を施した後、ポリイミドフィルムに帯電した静電気を除去するように、静電気とは逆極性のイオンをフィルム表面に当てても良い。
【0023】
次に、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0024】
実施例におけるポリアミド酸の粘度はB型粘度計での測定による。また、本発明における接着強度はIPC-FC-241Aの方法に基づき、ポリイミドフィルムと銅箔とを公知の熱可塑性ポリイミド接着剤で接着し、硬質板上にフィルム面を固定し測定した。
【0025】
実施例 1
N,N-ジメチルホルムアミド815gにODA(4,4′-ジアミノジフェニルエーテル)70.28gを溶解し、これにPMDA(ピロメリット酸二無水物)102.07gを添加して1時間攪拌した後p-PDA(パラフェニレンジアミン)約12.65gを加え、粘度を2500poiseに調整したポリアミド酸溶液を得た。添加した有機ジアミンのモル比はODA:p-PDA=3:1である。このポリアミド酸溶液を用い、公知の方法により厚み25μmのポリイミドフィルムを得た。
【0026】
得られたポリイミドフィルムにプラズマ処理を、気圧10-1Torr、アルゴン雰囲気下で放電出力1000W・min/m2のグロー放電により施した。得られたフィルムの接着強度は表1に示す通りであった。
【0027】
実施例 2
N,N-ジメチルホルムアミド815gにODA(4,4′-ジアミノジフェニルエーテル)63.70gを溶解し、これにPMDA(ピロメリット酸二無水物)104.09gを添加して1時間攪拌した後、p-PDA(パラフェニレンジアミン)約17.20gを加え、粘度を2500poiseに調整したポリアミド酸溶液を得た。添加した有機ジアミンのモル比はODA:p-PDA=2:1である。このポリアミド酸溶液を用い、公知の方法により厚み25μmのポリイミドフィルムを得た。
【0028】
得られたポリイミドフィルムにプラズマ処理を、気圧10-1Torr、アルゴン雰囲気下で放電出力1000W・min/m2のグロー放電により施した。得られたフィルムの接着強度は表1に示す通りであった。
【表1】

【0029】
比較例 1
実施例1と同様にして、厚み25μmのポリイミドフィルムを得た。但し、プラズマ処理は施さなかった。得られたフィルムの接着強度は表1に示す通りであり、実施例1と比較して大幅に劣っていた。
【0030】
比較例 2
実施例2と同様にして、厚み25μmのポリイミドフィルムを得た。但し、プラズマ処理は施さなかった。得られたフィルムの接着強度は表1に示す通りであり、実施例2と比較して大幅に劣っていた。
【0031】
比較例 3
N,N-ジメチルホルムアミド815gにODA(4,4′-ジアミノジフェニルエーテル)88.37gを溶解し、これにPMDA(ピロメリット酸二無水物)94.33gを添加して、粘度を2500poiseに調整したポリアミド酸溶液を得た。このポリアミド酸溶液を用い、公知の方法により厚み25μmのポリイミドフィルムを得た。得られたフィルムの接着強度は表1に示す通りであった。
【0032】
比較例 4
比較例3と同様にして、厚み25μmのポリイミドフィルムを得た。得られたポリイミドフィルムにプラズマ処理を、気圧10-1Torr、アルゴン雰囲気下で放電出力1000W・min/m2のグロー放電により施した。得られたフィルムの接着強度は表1に示す通りであった。比較例3と比較して接着強度が若干改善されたが、p-PDAを添加した実施例1や実施例2と比較して接着強度が大幅に劣っていた。
【0033】
比較例 5
N,N-ジメチルホルムアミド815gにp-PDA44.58gを溶解し、これにビフェニルテトラカルボン酸二無水物129.459を添加して、粘度を2500poiseに調整したポリアミド酸溶液を得た。このポリアミド酸溶液を用い、公知の方法により厚み25μmのポリイミドフィルムを得た。得られたフィルムの接着強度は表1に示す通りであった。
【0034】
比較例 6
比較例5と同様にして、厚み25μmのポリイミドフィルムを得た。得られたポリイミドフィルムにプラズマ処理を、気圧10-1Torr、アルゴン雰囲気下で放電出力1000W・min/m2のグロー放電により施した。得られたフイルムの接着強度は表1に示す通りであった。比較例5と比較して接着強度が若干改善されたが、ODAを添加した実施例1や実施例2と比較して接着強度が大幅に劣っていた。
【0035】
【発明の効果】
表1から明らかな通り、本発明によるポリイミドフィルムは、プラズマ処理を施さないフィルム及び他の分子構造のポリイミドフィルムに対し、接着性が顕著に向上する。したがって、フレキシブルプリント配線板への用途など、広い分野で好適に使用できる。
【0036】
また、かかるポリイミドフィルムを4,4′-ジアミノジフェニルエーテルとパラフェニレンジアミンとの添加割合がモル比で10:1〜1:5、より好ましくは5:1〜1:1の範囲に設定して製造することにより、フレキシブルプリント配線板などにとって硬すぎず且つ柔らかすぎない最適の特性を備えたポリイミドフィルムを製造することができる。
 
訂正の要旨 訂正の要旨
特許第2889976号発明の明細書を本件訂正請求書に添付された訂正明細書のとおりにすなわち、
(a)本件明細書特許請求の範囲の記載
「【請求項1】 一般式(1)化1と一般式(2)化2とにより表される構造単位を1分子中に有するポリイミドにより成形されたフィルムにプラズマ処理が施されていることを特徴とするポリイミドフィルム。
【化1】

【化2】

(式中、Rは4価の有機基である。)
【請求項2】 前記プラズマ処理における雰囲気ガスがテトラフルオルメタン、酸素、窒素、アルゴン、二酸化炭素及びこれらの混合気体から選ばれるガスであることを特徴とする請求項1に記載するポリイミドフィルム。
【請求項3】 有機テトラカルボン酸二無水物と、4,4’-ジアミノジフェニルエーテル及びパラフェニレンジアミンとから生成されるポリアミド酸をフィルム状に成形するとともにポリイミドに転化させてポリイミドフィルムを製造した後、該ポリイミドフィルムにプラズマ処理を施すことを特徴とするポリイミドフィルムの製造方法。
【請求項4】 前記4,4’-ジアミノジフェニルエーテルとパラフェニレンジアミンとの添加割合がモル比で10:1〜1:5、より好ましくは5:1〜1:1であることを特徴とする請求項3に記載するポリイミドフィルムの製造方法。」
を、特許請求の範囲の減縮を目的として、
「【請求項1】 ポリイミド系接着剤によって接着させられるポリイミドフィルムであって、一般式(1)化1と一般式(2)化2とにより表される構造単位を10:1〜1:5の割合で1分子中に有するポリイミドにより成形されたフィルムにプラズマ処理が施されていることを特徴とするポリイミドフィルム。
【化1】

【化2】

(式中、Rは4価の有機基である。)
【請求項2】 前記プラズマ処理における雰囲気ガスがテトラフルオルメタン、酸素、窒素、アルゴン、二酸化炭素及びこれらの混合気体から選ばれるガスであることを特徴とする請求項1に記載するポリイミドフィルム。
【請求項3】 ポリイミド系接着剤によって接着させられるポリイミドフィルムの製造方法であって、有機テトラカルボン二酸無水物と、4,4’-ジアミノジフェニルエーテル及びパラフェニレンジアミンとから生成されるポリアミド酸をフィルム状に成形するとともにポリイミドに転化させてポリイミドフイルムを製造した後、該ポリイミドフィルムにプラズマ処理を施すことを特徴とするポリイミドフィルムの製造方法。
【請求項4】 前記4,4’-ジアミノジフェニルエーテルとパラフェニレンジアミンとの添加割合がモル比で10:1〜1:5、より好ましくは5:1〜1:1であることを特徴とする請求項3に記載するポリイミドフィルムの製造方法。」
と訂正する。
(b)本件明細書、発明の詳細な説明の
「【0007】【課題を解決するための手段】 本発明に係るポリイミドフィルムの要旨とするところは、一般式(1)化1と一般式(2)化2とにより表される構造単位を1分子中に有するポリイミドにより成形されたフィルムにプラズマ処理が施されていることにある。
【化3】

【化4】

(式中、Rは4価の有機基である。)
を、明りょうでない記載の釈明を目的として、
「【0007】【課題を解決するための手段】 本発明に係るポリイミドフィルムの要旨とするところは、ポリイミド系接着剤によって接着させられるポリイミドフィルムであって、一般式(1)化1と一般式(2)化2とにより表される構造単位を10:1〜1:5の割合で1分子中に有するポリイミドにより成形されたフィルムにプラズマ処理が施されていることにある。
【化3】

【化4】

(式中、Rは4価の有機基である。)」
と訂正する。
(c)本件明細書、発明の詳細な説明の
「【0009】次に、本発明に係るポリイミドフィルムの製造方法の要旨とするところは、有機テトラカルボン酸二無水物と、4,4’-ジアミノジフェニルエーテル及びパラフェニレンジアミンとから生成されるポリアミド酸をフィルム状に成形するとともにポリイミドに転化させてポリイミドフィルムを製造した後、該ポリイミドフィルムにプラズマ処理を施すことにある。」を、明りょうでない記載の釈明を目的として、
「【0009】次に、本発明に係るポリイミドフイルムの製造方法の要旨とするところは、ポリイミド系接着剤によって接着させられるポリイミドフイルムの製造方法であって、有機テトラカルボン酸二無水物と、4,4’-ジアミノジフェニルエーテル及びパラフェニレンジアミンとから生成されるポリアミド酸をフィルム状に成形するとともにポリイミドに転化させてポリイミドフィルムを製造した後、該ポリイミドフィルムにプラズマ処理を施すことにある。」と訂正する。
異議決定日 2001-02-15 
出願番号 特願平4-57337
審決分類 P 1 651・ 121- YA (C08J)
P 1 651・ 532- YA (C08J)
P 1 651・ 533- YA (C08J)
P 1 651・ 531- YA (C08J)
P 1 651・ 113- YA (C08J)
最終処分 維持  
前審関与審査官 増田 亮子  
特許庁審判長 三浦 均
特許庁審判官 船岡 嘉彦
中島 次一
登録日 1999-02-26 
登録番号 特許第2889976号(P2889976)
権利者 鐘淵化学工業株式会社
発明の名称 ポリイミドフィルム及びその製造方法  
代理人 藤村 元彦  
代理人 蛯谷 厚志  
代理人 楠本 高義  
代理人 楠本 高義  

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