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審決分類 |
審判 全部申し立て 2項進歩性 C01B 審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載 C01B |
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管理番号 | 1044646 |
異議申立番号 | 異議1999-73410 |
総通号数 | 22 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許決定公報 |
発行日 | 1992-07-22 |
種別 | 異議の決定 |
異議申立日 | 1999-09-08 |
確定日 | 2001-03-22 |
異議申立件数 | 1 |
訂正明細書 | 有 |
事件の表示 | 特許第2867696号「四塩化ケイ素の精製方法」の請求項1に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 |
結論 | 訂正を認める。 特許第2867696号の請求項1に係る特許を維持する。 |
理由 |
〔一〕 本件特許は、平成2年(1990)11月29日に出願され(特願平2-333185号)、平成10年12月25日に特許権の設定の登録がされ(特許第2867696号。請求項数、1)、平成11年3月8日に特許掲載公報が発行されたものである。 これに対して、平成11年9月8日付けで、本件特許は特許法第29条第2項の規定に違反して特許されたものであるから、取り消すべきであるとの特許異議の申立てがされた。 当審は、本件特許発明は刊行物に記載された発明であり、また、刊行物に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明できた発明であるから、本件特許は、特許法第29条第1項第3号に規定する発明に該当し、同項の規定に違反して、また、同条第2項の規定に違反して特許されたものであり、取り消すべきものであるとの取消理由を通知した。 本件特許権者は、特許異議意見書及び訂正請求書を提出した。 なお、以下では、ケイ素は、引用する場合を除き、けい素と記す。 〔二〕 訂正請求について (1) 訂正請求の内容 (イ) 訂正事項a 特許請求の範囲を減縮することを目的として、本件特許の願書に添付した明細書(以下では、本件特許明細書という。)の特許請求の範囲の請求項1を下記のとおり訂正する。 「 モノメチルトリクロルシラン、ジメチルジクロルシラン及びトリメチルモノクロルシランから選ばれるメチルクロルシラン類を不純物として含有する四塩化ケイ素を塩素の存在下で20w/cm2以上の光照射強度で光照射して上記メチルクロルシラン類のメチル基を塩素化した後、蒸留精製して四塩化ケイ素から上記メチル基が塩素化されたメチルクロルシラン類を除去して、上記メチルクロルシラン類が1ppm以下に除去された四塩化ケイ素を得ることを特徴とする四塩化ケイ素の精製方法。」 以下では、上記構成の発明を本件訂正請求発明という。 (ロ) 訂正事項b 明りょうでない記載を釈明することを目的として、本件特許明細書第4頁、第1〜2行(上記公報第3欄、第24〜25行)の 「メチルクロルシラン類を含有する四塩化ケイ素を塩素の存在下で」の記載を 「モノメチルトリクロルシラン、ジメチルジクロルシラン及びトリメチルモノクロルシランから選ばれるメチルクロルシラン類を不純物として含有する四塩化ケイ素を塩素の存在下で20w/cm2以上の光照射強度で」と訂正する。 (ハ) 訂正事項c 明りょうでない記載を釈明することを目的として、本件特許明細書第5頁、9〜15行(上記公報第4欄、第3〜8行)の 「本発明は、メチルクロルシラン類を含有する四塩化ケイ素を塩素の存在下で光照射して上記メチルクロルシラン類のメチル基を塩素化した後、蒸留精製して四塩化ケイ素から上記メチル基が塩素化されたメチルクロルシラン類を除去することを特徴とする四塩化ケイ素の精製方法を提供する。」の記載を 「本発明は、モノメチルトリクロルシラン、ジメチルジクロルシラン及びトリメチルモノクロルシランから選ばれるメチルクロルシラン類を不純物として含有する四塩化ケイ素を塩素の存在下で20w/cm2以上の光照射強度で光照射して上記メチルクロルシラン類のメチル基を塩素化した後、蒸留精製して四塩化ケイ素から上記メチル基が塩素化されたメチルクロルシラン類を除去して、上記メチルクロルシラン類が1ppm以下に除去された四塩化ケイ素を得ることを特徴とする四塩化ケイ素の精製方法を提供する。」と訂正する。 (ニ) 訂正事項d 明りょうでない記載を釈明することを目的として、本件特許明細書第7頁、第8〜9行(上記公報第4欄、第37〜38行)の 「モノメチルトリクロルシラン、ジメチルジクロルシランといった」の記載を 「モノメチルトリクロルシラン、ジメチルジクロルシラン及びトリメチルモノクロルシランから選ばれる」と訂正する。 (ホ) 訂正事項e 明りょうでない記載を釈明することを目的として、本件特許明細書第7頁、最終行〜第8頁、第1行(上記公報第4欄、第48〜49行)の 「反応させることが好ましい。」の記載を「反応させる。」と訂正する。 (ヘ) 訂正事項f 誤記を訂正することを目的として、本件特許明細書第11頁、第7行(上記公報第6欄、第24行)の「シランルシラン類」を「シラン類」と訂正する。 (2) 訂正の可否 A. 独立特許要件以外の要件 (a) 訂正事項aについて (イ) 訂正事項a中の(α)「モノメチルトリクロルシラン、ジメチルジクロルシラン及びトリメチルモノクロルシランから選ばれる」の記載を付加する部分は、メチルクロルシラン類をけい素に結合した水素原子を有しないメチルクロルシラン類に限定するものであり、(β)「メチルクロルシラン類を含有する四塩化ケイ素」を「メチルクロルシラン類を不純物として含有する四塩化ケイ素」と訂正する部分は、メチルクロルシラン類の含有形態を限定するものであり、(γ)「光照射して」を「20w/cm2以上の光照射強度で光照射して」と訂正する部分は、光照射の強度を限定するものであり、また、(δ)「上記メチル基が塩素化されたメチルクロルシラン類を除去する」を「上記メチル基が塩素化されたメチルクロルシラン類を除去して、上記メチルクロルシラン類が1ppm以下に除去された四塩化ケイ素を得る」と訂正する部分は、四塩化けい素の精製度を限定するものであるから、本件訂正請求は、その訂正事項aにおいて、特許請求の範囲を減縮することを目的とする訂正を請求するものである。 (ロ) (α)本件特許明細書の第1表(特許掲載公報3欄)には、Me3SiCl、Me2SiCl2及びMeSiCl3が(ただし、MeはCH3を示す。)記載され、本件特許明細書の特許請求の範囲のメチルクロルシラン類としてモノメチルトリクロルシラン、ジメチルジクロルシラン及びトリメチルモノクロルシランが認識されていることは明らかであり、(β)本件特許明細書の〔発明が解決しようとする課題〕(特許掲載公報3欄、15〜19行)には、「本発明は上記事情に鑑みなされたもので、金属ケイ素と塩化水素との反応で合成される四塩化ケイ素中に不純物として含まれるメチルクロルシラン類を1ppm以下に除去し得る四塩化ケイ素の精製方法を提供することを目的とする。」と記載され、また、(γ)本件特許明細書の〔課題を解決するための手段及び作用〕(特許掲載公報4欄、46〜49行)の項には、「この場合、本発明ではメチルクロルシラン類と塩素との反応は比較的遅いことから、光照射強度が20w/cm2以上の領域で塩素と反応させることが好ましい。」と記載されているから、本件訂正請求は、訂正事項a〔上記(イ)(α)〜(δ)参照〕において、本件特許明細書の記載事項の範囲内でする訂正である。 (ハ) また、上記(ロ)に指摘した記載からみて、本件訂正請求は、その訂正事項aにおいて、特許請求の範囲の記載を実質上拡張するものとも、変更するものとも認められない。 (b) 訂正事項b〜訂正事項eについて 上記各訂正事項は、訂正事項aに対応して、明りょうでない記載を釈明することを目的とし、本件特許明細書の記載事項の範囲内で、しかも特許請求の範囲を実質上拡張又は変更することなく、本件特許明細書を訂正することを請求している。 (c) 訂正事項fについて 本件特許明細書の〔実施例〕(特許掲載公報6欄、24行)の記載中の「メチルクロルシランルシラン類」の語は意味をなさず、実施例の趣旨からみて、メチルクロルシラン類の誤記であることは明らかであり、訂正事項fは、本件特許の願書に最初に添付した明細書の記載事項の範囲内で、しかも特許請求の範囲を実質上拡張又は変更することなく、本件特許明細書を訂正するものである。 B. 独立特許要件 なお、基としてのクロルは、以下では、クロロという。 (イ) (α)Chemical Abstracts Vol.102(1985), p.466(102:192147xの欄)(異議申立人が提示した参考資料1。以下では、引例1という。)には、四塩化けい素中に不純物としてモノメチルトリクロロシラン(MeSiCl3)が含有されていること、(β)CHEMICAL ENGINEERING EDUCATION IN A CHANGING ENVIRONMENT(1988)(United Engineering Trustees, Inc.)(異議申立人が提示した甲第1号証。以下では、引例3という。)のpp.361〜370には、四塩化けい素中に不純物として水素元素を含有する化合物、例えば、炭化水素化合物が含有されていることが記載され、かつ、四塩化けい素を光ファイバーを製造するための原料として用いる場合には、これらの不純物を除去する必要があることが記載されている。そして、(γ)小竹無二雄監修、「大有機化学 18 有機金属化合物」(昭和32年12月5日、株式会社朝倉書店発行)、p.162(メチルトリクロルシランの項)(異議申立人が提示した甲第2号証。以下では、引例4という。)には、メチルトリクロロシラン(bp 65.7°)を光塩素化すると、ClCH2SiCl3(bp 117°)、Cl2CHSiCl3(bp 142°)およびCl3SiCl3(bp 156°, mp 116°。当審注。これは、Cl3CSiCl3の誤記と認める。)を生成することが記載されている。さらに、(δ)特開昭53-100193号(以下では、引例2という。)には、不純物トリクロロシラン(SiHCl3)を、引例3には、不純物である炭化水素化合物を、それぞれ光塩素化して除去することが記載され、(ε)特開昭63-250331号公報(以下では、引例5という。本件特許異議申立人が提示した参考資料2)には、「実質的にm-クロロトルエンだけ」を高度に塩素化し、o/p-クロロトルエンを精製することが記載されている。 しかしながら、引例1から引例5までのいずれの刊行物にも、「モノメチルトリクロルシラン、ジメチルジクロルシラン及びトリメチルモノクロルシランから選ばれるメチルクロルシラン類を不純物として含有する四塩化ケイ素を塩素の存在下で20w/cm2以上の光照射強度で光照射して上記メチルクロルシラン類のメチル基を塩素化した後、蒸留精製して四塩化ケイ素から上記メチル基が塩素化されたメチルクロルシラン類を除去」すれば、「上記メチルクロルシラン類が1ppm以下に除去」できることを示唆する記載はない。 なお、引例2に記載されている実施例では、容量100Wの高圧水銀灯を使用し、その後、単蒸留して精製することが記載されてはいるものの、塩素化反応性が比較的小さく、かつ微量の不純物であるメチルクロロシラン類を効率的に塩素化するためには、20w/cm2以上の光照射強度で光照射する必要があることは記載されていないし、また、一般に不純物量が少なくなればなるほど蒸留によって不純物を除去することが困難となり、実際には、しばしば期待どおりに、効率よく不純物を蒸留によって除去できるとは限らないから、上記各刊行物の記載は、具体的に、本件訂正請求発明におけるようにメチルクロロシラン類を1ppm以下に除去できることまでをも示唆しているものとは認められない。また、引例3の不純物炭化水素の記載はメチルクロロシラン類をも包含する概念であるかどうか不明であり、まして、メチルクロロシラン類を効率的に除去する条件を示唆しているとは、到底認められない。さらに、引例5は、たかだか、塩素化によって不純物の沸点を高めることによって不純物を除去し、目的物を精製するという一般的技術的思想を示唆しているものであって、やはり、塩化シランからメチルクロロシラン類という特定不純物を効率的に除去する条件を具体的に示唆しているとは認められない。 そすうると、本件訂正請求発明は、引例1から引例5までの各刊行物に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができた発明であるとは、認められない。 (ロ) また、引例1に四塩化けい素がメチルトリクロロシランを含有している場合があることが記載されてはいるが、引例2の四塩化けい素中のトリクロロシラン以外の不純物の詳細は明らかでなく、かつ、実施例では光塩素化物を四塩化けい素から単蒸留によって除去していることからみて、ただちには、メチルクロロシラン類を1ppm以下にまで精製していたものとは認められない。 そうすると、本件訂正請求発明は、引例2に記載されていた発明であるとも認められない。 (ハ) 以上(イ)及び(ロ)の理由によって、本件訂正請求発明は、引例1から引例5までの各引例に記載された発明によって、独立して特許を受けることができないとすることはできない。 他に、当審は、本件訂正請求発明が独立して特許を受けることができないとする理由を発見しない。 C. したがって、本件訂正請求は、適法な訂正を請求するものであるから、これを認める。 〔三〕 本件特許は、上記〔二〕(2)B.に述べた理由と同一の理由によって、特許異議申立人の申立てには理由がなく{ただし、上記〔二〕(2)B.(イ)参照}、拒絶の査定をしなければならない出願について特許されたものとは認められない。 よって、平成7年政令205号の第4条第2項の規定にしたがい、結論のとおり決定する。 |
発明の名称 |
(54)【発明の名称】 四塩化ケイ素の精製方法 (57)【特許請求の範囲】 【請求項1】 モノメチルトリクロルシラン、ジメチルジクロルシラン及びトリメチルモノクロルシランから選ばれるメチルクロルシラン類を不純物として含有する四塩化ケイ素を塩素の存在下で20w/cm2以上の光照射強度で光照射して上記メチルクロルシラン類のメチル基を塩素化した後、蒸留精製して四塩化ケイ素から上記メチル基が塩素化されたメチルクロルシラン類を除去して、上記メチルクロルシラン類が1ppm以下に除去された四塩化ケイ素を得ることを特徴とする四塩化ケイ素の精製方法。 【発明の詳細な説明】 〔産業上の利用分野〕 本発明は、四塩化ケイ素中に不純物として含まれるメチルクロルシラン類を四塩化ケイ素から分離除去して四塩化ケイ素を精製する方法に関する。 〔従来の技術〕 従来より、四塩化ケイ素は湿式又は乾式法シリカ微粉末、半導体用特殊材料ガス、合成石英、光ファイバー用の製造原料等として使用されており、最近では光ファイバー用途として重要視されている。 この四塩化ケイ素は、金属ケイ素と塩素又は塩化水素とを反応させることにより合成されるものであるが、金属ケイ素と塩化水素から四塩化ケイ素を製造する場合には、金属ケイ素中に含まれる微量カーボンが反応によりメチル源となり、モノメチルトリクロルシラン、ジメチルジクロルシラン等のメチルクロルシラン類が同時に微量副生する。即ち、工業的に四塩化ケイ素合成に用いられる原料の金属ケイ素中には数百ppm程度のカーボンが含まれており、これを塩化水素と反応させた場合には数十〜数百ppmのメチルクロルシラン類の副生は避け得ない。 これらのメチルクロルシラン類の沸点は四塩化ケイ素の沸点と近接しているため、一般の蒸留などの方法によってメチルクロルシラン類を完全に除去することはできない。 〔発明が解決しようとする課題〕 しかし、近年の光ファイバには伝送特性に悪影響を与えない高純度の原料が求められるが、上述したメチルクロルシラン類を含む四塩化ケイ素を光ファイバー製造用の原料として使用すると、得られる光ファイバーは、その組織中にメチルクロルシラン類に由来する微量のカーボンが生成してしまい、この微量カーボンは光ファイバーの伝送特性に悪影響を与えてしまう。 従って、上記方法により得られる四塩化ケイ素を光ファイバーの製造原料として使用する場合には、不純物であるメチルクロルシラン類を5ppm以下に除去する必要がある。 本発明は上記事情に鑑みなされたもので、金属ケイ素と塩化水素との反応で合成される四塩化ケイ素中に不純物として含まれるメチルクロルシラン類を1ppm以下に除去し得る四塩化ケイ素の精製方法を提供することを目的とする。 〔課題を解決するための手段及び作用〕 本発明者は、金属ケイ素と塩化水素から合成する際生成するメチルクロルシラン類を微量不純物として含有する四塩化ケイ素を精製する方法について鋭意検討を重ねた結果、モノメチルトリクロルシラン、ジメチルジクロルシラン及びトリメチルモノクロルシランから選ばれるメチルクロルシラン類を不純物として含有する四塩化ケイ素を塩素の存在下で20w/cm2以上の光照射強度で光照射することによって、メチルクロルシラン類のメチル基を塩素化し、より沸点の高い化合物に変換した後、蒸留によってこれを四塩化ケイ素から除去し、不純物としてメチルクロルシラン類が1ppm以下で実質的にこれらを含まない四塩化ケイ素を得ることができることを見い出した。 即ち、上述したように、メチルクロルシラン類を不純物として含む四塩化ケイ素から常法に従って蒸留で直接メチルクロルシラン類を完全に除去することは、第1表に示すように、沸点が近いため事実上不可能である。 しかし、塩素存在下における光照射により、メチルクロルシラン類はメチル基が塩素化されて沸点のより高い化合物に変換され、例えばモノメチルトリクロルシランの場合は沸点が117℃のクロルメチルトリクロルシランに変換し得、このため四塩化ケイ素との沸点差は9℃から60℃になり、従って蒸留により容易に分離精製することが可能となることを見い出し、本発明をなすに至ったものである。 従って、本発明は、モノメチルトリクロルシラン、ジメチルジクロルシラン及びトリメチルモノクロルシランから選ばれるメチルクロルシラン類を不純物として含有する四塩化ケイ素を塩素の存在下で20w/cm2以上の光照射強度で光照射して上記メチルクロルシラン類のメチル基を塩素化した後、蒸留精製して四塩化ケイ素から上記メチル基が塩素化されたメチルクロルシラン類を除去して、上記メチルクロルシラン類が1ppm以下に除去された四塩化ケイ素を得ることを特徴とする四塩化ケイ素の精製方法を提供する。 なお、特許第1103308号(特公昭56-45855号公報)には≡Si-H結合を有するシラン類を不純物として含む四塩化ケイ素にハロゲンの存在下光を照射することで四塩化ケイ素を精製する技術が開示されているが、この特許発明は下記反応を利用している。なお、この特許発明は不純物である≡Si-H結合を有するシランを製品である四塩化ケイ素に転化回収することも一方の目的とするものである。 X2+光 → 2X・ X・+HSiX3 → HX+・SiX3 X・+・SiX3 → SiX4 これに対して、本発明においては、例えば不純物としてモノメチルトリクロルシランを例にとると、下記に示すようにメチル基と塩素原子との反応を利用するもので、原理は全く異なる。 X2+光 → 2X・ X・+CH3SiCl3→ HX+・CH2SiCl3 X2+・CH2SiCl3→ XCH2SiCl3+X・ 従って、反応速度上も上記特許発明に比べ速度が遅く、それ故反応条件も異なる。また、本発明では不純物であるメチルクロルシラン類は製品である四塩化ケイ素には転化し得ず、高沸点化することにより不純物として四塩化ケイ素から除去するもので、蒸留分離操作が不可欠であり、これらの点から上記特許発明と本発明とは本質的に異なるものである。 以下、本発明について更に詳しく説明する。 本発明方法によって精製される四塩化ケイ素は、金属ケイ素と塩化水素との反応で合成されるもので、不純物として、モノメチルトリクロルシラン、ジメチルジクロルシラン及びトリメチルモノクロルシランから選ばれるメチルクロルシラン類を含むものである。 本発明においては、このメチルクロルシラン類を不純物として含む四塩化ケイ素をまず塩素の存在下で光照射し、メチルクロルシラン類のメチル基を塩素化する。光を照射するための光源としては、低圧又は高圧水銀灯、キセノンランプ等の波長200nm〜380nmの紫外線に富むものを使用することが望ましいが、中でも高圧水銀灯の使用が好ましい。この場合、本発明ではメチルクロルシラン類と塩素との反応は比較的遅いことから、光照射強度が20w/cm2以上の領域で塩素と反応させる。 また、塩素の使用量は不純物であるメチルクロルシラン類と理論的に当モルであるが、数〜数十倍モル過剰に使用することが好ましい。 反応の方法は、メチルクロルシラン類を含有する四塩化ケイ素中に精製した塩素を導入して溶解させ、次いで光を照射するか、あるいは光の照射下に塩素を導入すれば良い。この場合の反応温度は室温乃至四塩化ケイ素の還流温度とすることができる。反応時間は、上述した特許発明に比べ反応速度が遅いことから、より長時間の照射をすることが好ましく、例えば上記特許発明の反応では水銀灯を30分照射して≡Si-H結合を全て≡Si-Cl結合に変換しているが、本発明では含有される不純物の量にもよるが、原料中に含まれるメチル基を全てクロルメチル基に変換するためには45分以上、特に1時間以上照射することが推奨される。 以上のようにして光反応を十分に行なわせた後、四塩化ケイ素中には四塩化ケイ素と沸点差が十数℃以内のメチルクロルシラン類はもはや含まれておらず、不純物はメチルクロルシラン類のメチル基が光反応で塩素化された高沸点のクロルメチル化クロルシラン類である。即ち、この反応で生成し得るいくつかの化合物のうち、最も沸点が近いモノクロルメチルトリクロルシランの沸点(117℃)を例にとると、反応前のモノメチルトリクロルシランの沸点(66℃)に比べて、新しく生成した炭素-塩素結合によって約50℃上昇するため、その結果四塩化ケイ素の沸点(57℃)とは60℃離れ、容易に蒸留分離してメチルクロルシラン類を含まない四塩化ケイ素を得ることができる。 このようにして光反応を行ない、次いで蒸留するという手順で精製された四塩化ケイ素中にはメチルクロルシラン類及びこれの塩素化物などの不純物は実質的に含まれておらず、一般的に残留するメチルクロルシラン類を1ppm以下とすることができる。 従って、本発明方法により精製された四塩化ケイ素は光ファイバーの原料として極めて良好であり、カーボンを全く含有せず、伝送特性が非常に良い光ファイバーを得ることができる。 〔発明の効果〕 以上説明したように、本発明の四塩化ケイ素の精製方法によれば、容易にしかも確実に光ファイバー用等に適したメチルクロルシラン類を含有しない高純度の四塩化ケイ素を得ることができる。 以下、実施例と比較例を示し、本発明を具体的に説明するが、本発明は下記の実施例に制限されるものではない。 〔実施例〕 ステンレス製充填物を詰めた塔径20φ,長さ700mmの蒸留塔、ガス吹き込み管、温度計及び高圧水銀灯(容量500w)を備えたガラス製500mlの反応蒸留装置に、不純物として63ppmのモノメチルトリクロロシラン及び11ppmのジクロロジメチルシランを含有する純度99.9%の四塩化ケイ素500gを仕込み、乾燥窒素ガスで置換した後、乾燥塩素ガス約1gを添加溶解させた。 次いで、外部から冷却しながら水銀灯を1時間点灯して光反応を行ないガスクロマトグラフィーで不純物ピークの消失を確認した後、続いて反応生成物を還留比を2:1にして蒸留した。 この留出物をガスクトマトグラフィーで分析したところ、トリクロロメチルシランやジクロロジメチルシランはもちろん、その他のメチルクロルシラン類は全く(1ppm以下)検出されなかった。 〔比較例〕 実施例で用いたものと同一の不純物としてモノメチルトリクロロシランとジクロロジメチルシランを含む四塩化ケイ素を使用したが、これらのメチルクロロシラン類の除去を塩素ガスとの光反応を行なわずに精留塔だけを用いて実施した。 即ち、実施例1で使用したものと同じ反応蒸留フラスコで還留比を変えて運転し、留出物をガスクロマトグラフィーで分析した。 結果を第2表に示す。 第2表の結果から明らかなように、メチルクロルシラン類は四塩化ケイ素との沸点差が少ないため、精留だけで完全に除去することは不可能だった。 |
訂正の要旨 |
(請求の要旨) (イ) 訂正事項a 特許請求の範囲を減縮することを目的として、本件特許の願書に添付した明細書(以下では、本件特許明細書という。)の特許請求の範囲を下記のとおり訂正する。 「 モノメチルトリクロルシラン、ジメチルジクロルシラン及びトリメチルクロルシランから選ばれるメチルクロルシラン類を不純物として含有する四塩化ケイ素を塩素の存在下で20W/cm2以上の光照射強度で光照射して上記メチルクロルシラン類のメチル基を塩素化した後、蒸留精製して四塩化ケイ素から上記メチル基が塩素化されたメチルクロルシラン類を除去して、上記メチルクロルシラン類が1ppm以下に除去された四塩化ケイ素を得ることを特徴とする四塩化ケイ素の精製方法。」 (ロ) 訂正事項b 明りょうでない記載を釈明することを目的として、本件特許明細書第4頁、第1〜2行(上記公報第3欄、第24〜25行)の 「メチルクロルシラン類を含有する四塩化ケイ素を塩素の存在下で」の記載を 「モノメチルトリクロルシラン、ジメチルジクロルシラン及びトリメチルクロルシランから選ばれるメチルクロルシラン類を不純物として含有する四塩化ケイ素を塩素の存在下で20w/cm2以上の光照射強度」と訂正する。 (ハ) 訂正事項c 明りょうでない記載を釈明することを目的として、本件特許明細書第5頁、9〜15行(上記公報第4欄、第3〜8行)の 「本発明は、メチルクロルシラン類を含有する四塩化ケイ素を塩素の存在下で光照射して上記メチルクロルシラン類のメチル基を塩素化した後、蒸留精製して四塩化ケイ素から上記メチル基が塩素化されたメチルクロルシラン類を除去することを特徴とする四塩化ケイ素の精製方法を提供する。」の記載を 「本発明は、モノメチルトリクロルシラン、ジメチルジクロルシラン及びトリメチルクロルシランから選ばれるメチルクロルシラン類を不純物として含有する四塩化ケイ素を塩素の存在下で20w/cm2以上の光照射強度で光照射して上記メチルクロルシラン類のメチル基を塩素化した後、蒸留精製して四塩化ケイ素から上記メチル基が塩素化されたメチルクロルシラン類を除去して、上記メチルクロルシラン類が1ppm以下に除去された四塩化ケイ素を得ることを特徴とする四塩化ケイ素の精製方法を提供する。」と訂正する。 (ニ) 訂正事項d 明りょうでない記載を釈明することを目的として、本件特許明細書第7頁、第8〜9行(上記公報第4欄、第37〜38行)の 「モノメチルトリクロルシラン、ジメチルジクロルシランといった」の記載を 「モノメチルトリクロルシラン、ジメチルジクロルシラン及びトリメチルクロルシランから選ばれる」と訂正する。 (ホ) 訂正事項e 明りょうでない記載を釈明することを目的として、本件特許明細書第7頁、最終行〜第8頁、第1行(上記公報第4欄、第37〜38行)の 「反応させることが好ましい。」の記載を「反応させる。」と訂正する。 (へ) 訂正事項f 誤記を訂正することを目的として、本件特許明細書第11頁、第7行(上記公報第6欄、第24行)の「シランルシラン類」を「シラン類」と訂正する。 |
異議決定日 | 2001-03-01 |
出願番号 | 特願平2-333185 |
審決分類 |
P
1
651・
113-
YA
(C01B)
P 1 651・ 121- YA (C01B) |
最終処分 | 維持 |
前審関与審査官 | 八原 由美子 |
特許庁審判長 |
吉田 敏明 |
特許庁審判官 |
新居田 知生 唐戸 光雄 |
登録日 | 1998-12-25 |
登録番号 | 特許第2867696号(P2867696) |
権利者 | 信越化学工業株式会社 |
発明の名称 | 四塩化ケイ素の精製方法 |
代理人 | 西川 裕子 |
代理人 | 流 良広 |
代理人 | 小島 隆司 |
代理人 | 小島 隆司 |
代理人 | 西川 裕子 |
代理人 | 流 良広 |
代理人 | 庄子 幸男 |