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審決分類 審判 一部申し立て 発明同一  H01L
管理番号 1044662
異議申立番号 異議2000-70806  
総通号数 22 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 1994-08-19 
種別 異議の決定 
異議申立日 2000-02-25 
確定日 2001-03-26 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第2940328号「電力用半導体素子」の請求項1、3、4に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 訂正を認める。 特許第2940328号の請求項1、3に係る特許を維持する。 
理由 [1]手続の経緯
本件特許第2940328号(平成5年2月5日出願、平成11年6月18日設定登録)は、異議申立人依田昌三により特許異議の申立てがなされ、
取消理由が通知され、その指定期間内である平成12年11月28日に訂正請求がなされたものである。

[2]訂正の適否についての判断
(1)訂正事項
(1-1)願書に添付した明細書及び図面(以下、「特許明細書」という。)の特許請求の範囲の請求項1に記載された「半導体基板の・・・加圧接触する」を、「半導体基板の周縁部で制御電極に制御電極引き出し端子の先端部が加圧接触し、加圧接触するための圧力が制御電極引出し端子の弾性力である」と訂正する。
また、特許明細書の段落【0009】に「一実施例」とあるのを「一参考例」と訂正し、同段落【0010】に「別の実施例」とあるのを「一実施例」と訂正し、同段落【0011】に「さらに別の実施例」とあるのを「別の参考例」と訂正する。
さらに、特許明細書の【図面の簡単な説明】の【図1】に「一実施例」とあるのを「一参考例」と訂正し、【図5】に「別の実施例」とあるのを「一実施例」と訂正し、【図7】に「さらに別の実施例」とあるのを「別の参考例」と訂正する。

(1-2)同請求項2を、「【請求項2】容器に収容される半導体基板の両主面上にそれぞれ主電極、一主面上に半導体基板と絶縁された制御電極を有し、主電極と容器両面の端子板との間に接触板が介在するものにおいて、半導体基板の主面上に絶縁して設けられ、制御電極と導線によって接続された中継電極に制御電極引き出し端子の先端部が加圧接触することを特徴とする電力用半導体素子。」と訂正する。

(1-3)同請求項4を削除する。

(1-4)同段落【0007】、【0008】、および【0012】を、
「【0007】【課題を解決するための手段】上記の目的を達成するために、本発明は、一容器に収容される半導体基板の両主面上にそれぞれ主電極、一主面上に半導体基板と絶縁された制御電極を有し、主電極と容器両面の端子板との間に接触板が介在するものにおいて、半導体基板の周縁部で制御電極に制御電極引き出し端子の先端部が加圧接触し、加圧接触するための圧力が制御電極引出し端子の弾性力であるものとする。あるいは、半導体基板の主面上に絶縁して設けられ、制御電極と導線によって接続された中継電極に制御電極引き出し端子の先端部が加圧接触するものとする。そして、制御電極と同一主面上に存在する主電極のための接触板の制御電極引き出し端子に対向する部分に凹部あるいは切り欠き部を有することが有効である。」、 「【0008】【作用】制御電極と制御電極引き出し端子との接続も直接あるいは中継電極を介しての加圧接触によることにより、導線のボンディングによる場合に比してボンディングツールのためのスペースが必要でなく、また引き出し端子の位置などに対する制約もなくなるので、容器の寸法が小さくなる。そして、加圧接触するための圧力が制御電極引出し端子の弾性力であることから、皿ばねが不要になる。また、主電極接触板制御電極引き出し端子に対向して切り欠き部あるいは凹部を形成することにより、一層の小形化が可能になる。」、および
「【0012】【発明の効果】本発明によれば、制御電極と制御電極引き出し端子とを加圧接触によって接続することにより、導線のボンディングによって接続する場合に比して各種の制約がなくなり、容器寸法の小形化が可能となった。また、半導体基板の周縁部で制御電極と引き出し端子を加圧接触させ、加圧接触するための圧力が制御電極引出し端子の弾性力であることにより、接触板および上端子板の形状が簡単となり、容器組み立ても簡単になる効果が生ずる。」
と訂正する。

(2)訂正の目的の適否、新規事項の追加の有無、及び拡張・変更の存否
(2-1)上記訂正事項(1-1)は、特許明細書の請求項1に記載された「半導体基板の・・・加圧接触する」を、より下位概念である「半導体基板の周縁部で制御電極に制御電極引き出し端子の先端部が加圧接触し、加圧接触するための圧力が制御電極引出し端子の弾性力である」に限定したものであり、この訂正は特許明細書の段落【0011】に記載されている。
したがって、この訂正は特許請求の範囲の減縮に該当する。
また、特許明細書の段落【0009】〜【0011】、および【図面の簡単な説明】における訂正は、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載との整合を図るためものであり、明りょうでない記載の釈明に該当する。

(2-2)上記訂正事項(1-2)は、同請求項2を独立項としたものであり、明りょうでない記載の釈明に該当する。

(2-3)上記訂正事項(1-3)は、同請求項4を削除したものであり、特許請求の範囲の減縮に該当する。

(2-4)上記訂正事項(1-4)は、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載との整合を図るためのものであり、明りょうでない記載の釈明に該当する。

そして、上記訂正事項(1-1)〜(1-4)は、いずれも願書に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内であり、また実質上特許請求の範囲を拡張し、変更するものでもない。

(3)独立特許要件
上記訂正事項(1-2)における請求項2に係る訂正は、異議申立てがされていない請求項についての訂正である。しかしながら、この訂正は請求項1を引用する請求項2を独立項とする訂正であり、明りょうでない記載の釈明に該当するものの、引用する請求項1に係る訂正が特許請求の範囲の減縮に該当するから、訂正後の請求項2に係る発明について独立特許要件を検討する。

(3-1)本件発明2
訂正後の明細書(以下、「訂正明細書」という。)の請求項2に係る発明
(特許明細書の請求項2に対応する。以下、「本件発明2」という。)は、特許請求の範囲の請求項2に記載された以下のとおりのものである。
「【請求項2】容器に収容される半導体基板の両主面上にそれぞれ主電極、一主面上に半導体基板と絶縁された制御電極を有し、主電極と容器両面の端子板との間に接触板が介在するものにおいて、半導体基板の主面上に絶縁して設けられ、制御電極と導線によって接続された中継電極に制御電極引き出し端子の先端部が加圧接触することを特徴とする電力用半導体素子。」

(3-2)先願明細書の記載事項
本件特許に係る出願日前の特許出願であって、その出願後に出願公開された特願平4-15621号の願書に最初に添付した明細書又は図面(以下、「先願明細書」という。)には、圧接型半導体素子のゲート電極の圧接構造に関する発明が図1〜8とともに開示され、さらに以下の事項が記載されている。

産業上の利用分野について
「本発明は、圧接型半導体素子に係り、特に圧接型半導体素子のゲート電極の圧接構造に関するものである。」(段落【0001】)

図5に記載された構造について
「10はアルミニウム等の材質からなりゲート電極5に圧接される円筒状のゲートリング、11は金属等の材質からなる平板状の座金、12は皿バネ、13は金属等の材質からなる平板状の座金、・・・15はゲートリング10に溶接またはろう付けされ、コバール等の材質からなるシール部19を通して外部へ接続されるゲートリードである。」(段落【0003】)

図1に記載された構造について
「本実施例においては、銅ポスト1Aとアノード電極23との間に熱緩衝板22が介設されており、カソード側の銅ポスト8の外周面に円筒状の絶縁体9を介してゲートリング10、座金11、皿ばね12、座金13および絶縁リング14を嵌挿して第1のゲート圧接部30Aを形成するとともに、アノード側の銅ポスト1の外周面に円筒体24を介して同じく座金11、皿バネ12、座金13およびゲートリング10と同形状の円筒体25を嵌挿して第2のゲート電極圧接部30Bが形成されている。」(段落【0015】)

実施例について
「本発明の各実施例による圧接型半導体素子は、ゲートターンオフサイリスタと同様に圧接により外部電極に接続される半導体素子であるダイオード、サイリスタ、静電誘導サイリスタ、IGBT(絶縁ゲート形バイポーラトランジスタ)および絶縁ゲート付きサイリスタにも適用できる。」(段落【0024】)

さらに、図1〜8及びその関連する記載からみて、以下の事項が認められる。
図1〜図8のそれぞれには、圧接型ゲートターンオフサイリスタの断面構造が記載されている。すなわち、絶縁筒体16を有する容器状構造体に収納されたシリコンウエハ3の上面にカソード電極6が設けられ、その上方に銅ポスト8が熱緩衝板7を介してカソード電極6に加圧接触可能に配置されている。同様にシリコンウエハ3の下面にはアノード電極23が設けられ、その下方に銅ポスト1Aが熱緩衝板22を介してアノード電極23に加圧接触可能に配置されている。そして、シリコンウエハ3の上面周緑部にはゲート電極5が設けられ、該電極5に対してゲートリング10が銅ポスト8の外周凹部に収納された皿バネ12によって熱緩衝板7の外周囲において加圧接触可能に配置され、該ゲートリング10は外部接続されるゲートリード15の先端に接続されている。

(3-3)対比・判断
本件発明2と上記先願明細書に記載された発明とを対比すると、先願明細書に記載された「絶縁筒体16」、「シリコンウエハ3」、「カソード電極6、アノード電極23」、「ゲート電極5」、「銅ポスト1A、8」、「熱緩衝板7、22」、および「ゲートリング10、ゲートリード15」は、それぞれ本件発明2の「容器」、「半導体基板」、「主電極」、「制御電極」、「端子板」、「接触板」、および「制御電極引き出し端子」に相当し、かつ、先願明細書には「IGBT(絶縁ゲート形バイポーラトランジスタ)および絶縁ゲート付きサイリスタ」への適用が記載されており、また、前記の「ゲート電極5」が「シリコンウエハ3(半導体基板)」と絶縁されていることは明らかである。
してみると、本件発明2と先願明細書に記載された発明とは、「容器に収容される半導体基板の両主面上にそれぞれ主電極、一主面上に半導体基板と絶縁された制御電極を有し、主電極と容器両面の端子板との間に接触板が介在する電力用半導体素子。」の点で一致する。
しかしながら、本件発明2が、「半導体基板の主面上に絶縁して設けられ、制御電極と導線によって接続された中継電極に制御電極引き出し端子の先端部が加圧接触する」構成を有するのに対し、先願明細書に記載された発明は、このような構成を有していない点で相違する。
そこで、上記相違点についてみると、本件発明2の上記構成については周知の技術ではないし、先願明細書に記載された「ゲートリング10、ゲートリード15」に替えて本件発明2の上記構成を採用することは、適宜にできる単なる設計的事項であるとすることもできない。
したがって、本件発明2は、先願明細書に記載された発明と同一であるとすることはできない。

(4)まとめ
以上のとおりであるから、上記訂正は、特許法第120条の4第3項において準用する平成6年法律第116号による改正前の同法第126条第1項ただし書、および第2、3項の規定に適合するので、当該訂正を認める。

[3]異議申立てについて
(1)異議申立ての概要
申立人依田昌三は、証拠として甲第1号証(上記先願明細書に対応する。)を提出して、特許明細書の請求項1、3、4に係る発明は、上記甲第1号証に記載された発明と同一であるから特許法第29条の2第1項の規定により同請求項1、3、4に係る発明についての特許を取り消すべき旨主張している。

(2)本件発明1、3
訂正明細書の請求項1、3に記載された発明(特許明細書の請求項1、3に対応する。以下、「本件発明1、3」という。)は、それぞれ特許請求の範囲の請求項1、3に記載された、以下のとおりのものである。
「【請求項1】容器に収容される半導体基板の両主面上にそれぞれ主電極、一主面上に半導体基板と絶縁された制御電極を有し、主電極と容器両面の端子板との間に接触板が介在するものにおいて、半導体基板の周縁部で制御電極に制御電極引き出し端子の先端部が加圧接触し、加圧接触するための圧力が制御電極引出し端子の弾性力であることを特徴とする電力用半導体素子。
【請求項3】制御電極と同一主面上に存在する主電極のための接触板の制御電極引き出し端子に対向する部分に凹部あるいは切り欠き部を有する請求項1あるいは2のいずれかに記載の電力用半導体素子。」

(3)甲第1号証の記載事項
上記甲第1号証の記載事項については、上記[2](3-2)において開示したとおりである。

(4)対比・判断
(4-1)本件発明1について
本件発明1と甲第1号証に記載された発明とを対比すると、甲第1号証の
「絶縁筒体」、「シリコンウエハ3」、「カソード電極6、アノード電極23」、「ゲート電極5」、「銅ポスト1A、8」、「熱緩衝板7、22」、および「ゲートリング10、ゲートリード15」は、それぞれ本件発明1の「容器」、「半導体基板」、「主電極」、「制御電極」、「端子板」、「接触板」、および「制御電極引き出し端子」に相当し、かつ、甲第1号証には「IGBT(絶縁ゲート形バイポーラトランジスタ)および絶縁ゲート付きサイリスタ」への適用が記載されており、また、前記の「ゲート電極5」が「シリコンウエハ3(半導体基板)」と絶縁されていることは明らかである。
してみると、本件発明1と甲第1号証に記載された発明とは、「容器に収容される半導体基板の両主面上にそれぞれ主電極、一主面上に半導体基板と絶縁された制御電極を有し、主電極と容器両面の端子板との間に接触板が介在するものにおいて、半導体基板の周縁部で制御電極に制御電極引き出し端子の先端部が加圧接触する電力用半導体素子。」の点で一致する。
しかしながら、本件発明1が、「加圧接触するための圧力が制御電極引出し端子の弾性力である」構成を有するのに対し、甲第1号証に記載された発明では、「ゲートリング10、ゲートリード15」は「皿バネ12,圧縮バネ29」により「ゲート電極5」に加圧接触している点で相違する。
そこで、上記相違点についてみると、本件発明1の上記構成については周知の技術ではないし、甲第1号証に記載された「ゲートリング10、ゲートリード15」を加圧接触させる手段として、本件発明1のように「ゲートリング10、ゲートリード15」の弾性力によりゲート電極5に加圧接触させる手段を採用することは、適宜にできる単なる設計的事項であるとすることもできない。
したがって、本件発明1は甲第1号証に記載された発明と同一であるとすることはできない。

(4-2)本件発明3について
本件発明3は、請求項1あるいは2のいずれかを引用する請求項3に係る発明であって、上記[2](3-3)及び[3](4-1)において説示したように、本件発明1、2は甲第1号証に記載された発明と同一ではないから、本件発明3についても甲第1号証に記載された発明と同一であるとすることはできない。

[5]むすび
以上のとおりであるから、特許異議の申立ての理由によっては本件発明1、3についての特許を取り消すことはできない。
また、他に本件発明1、3についての特許を取り消すべき理由を発見しない。
したがって、本件発明1、3についての特許は拒絶の査定をしなければならない特許出願に対してされたものとは認めない。
よって、平成6年法律第116号附則第14条の規定に基づく、平成7年政令第205号第4条第2項の規定により、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
電力用半導体素子
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】容器に収容される半導体基板の両主面上にそれぞれ主電極、一主面上に半導体基板と絶縁された制御電極を有し、主電極と容器両面の端子板との間に接触板が介在するものにおいて、半導体基板の周縁部で制御電極に制御電極引き出し端子の先端部が加圧接触し、加圧接触するための圧力が制御電極引出し端子の弾性力であることを特徴とする電力用半導体素子。
【請求項2】容器に収容される半導体基板の両主面上にそれぞれ主電極、一主面上に半導体基板と絶縁された制御電極を有し、主電極と容器両面の端子板との間に接触板が介在するものにおいて、半導体基板の主面上に絶縁して設けられ、制御電極と導線によって接続された中継電極に制御電極引き出し端子の先端部が加圧接触することを特徴とする電力用半導体素子。
【請求項3】制御電極と同一主面上に存在する主電極のための接触板の制御電極引き出し端子に対向する部分に凹部あるいは切り欠き部を有する請求項1あるいは2のいずれかに記載の電力用半導体素子。
【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】
本発明は、主電流制御用のゲート電極をもち、ゲート電圧によりオン・オフ動作をする絶縁ゲートバイポーラトランジスタ(以下IGBTと略す)、MOS型電界効果トランジスタなどの電力用半導体素子に関する。
【0002】
【従来の技術】
上記のような電力用の半導体素子は、半導体チップを金属などの基板上に固定し、主電極と絶縁されたゲート電極とゲート端子とは、その電極面に設けられたゲートパッド部にボンディングされる導線により接続される。通常、半導体チップの固定基板側は、ドレイン電極(あるいはコレクタ電極)となっており、半導体チップの表面側、すなわち固定基板側と反対の側の主電極は、ソース電極(あるいはエミッタ電極)となっている。ソース電極への接続は、導線によるボンディング方法が用いられることが多い。
【0003】
しかし、ソース電極側も金属などの固定基板を接触させる構造のものが考えられている。ドレイン電極およびソース電極の両面に固定基板を接触させることで、素子の放熱効率をよくすることができ、チップあたりの電流容量を向上させることができる。また、従来のボンディング配線による電圧低下がなくなり、その分飽和電圧を低くすることができる。同時に、ボンディング配線によるインダクタンス成分もなくなり、電圧の跳ね上がり等も抑えることができる。さらに、チップが破壊した場合の爆発をボンディング方法よりも小さく抑えることができる。
【0004】
図2(a)、(b)は両面加圧接触構造のIGBT素子を示し、IGBTチップ1の上面のソース電極2にソース接触板3が、下面の図示しないコレクタ電極にコレクタ接触板4が接合され、上、下端子板51、52および絶縁性側壁53からなる容器内に収容されている。接触板3、4および端子板51、52はいずれも金属よりなる。チップ1上のゲート電極の縁部に設けられたゲートパッド電極6は、側壁53を貫通するゲート端子71の端部と導線72により接続されている。上、下端子板51、52と接触板3、4との間の電気的、熱的導通は、外部からの圧力による接触によって行われる。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
図2のようなIGBT素子を組み立てるには、チップ1のドレイン電極側とソース電極2とにコレクタ接触板4およびソース接触板3をはんだ付けなどで接着したのち、チップを容器に入れる。その後、チップ1のゲートパッド電極6にゲート引き出し導線72をゲート端子71へとボンディング法により接続する。容器側壁53は、金属線よりなるゲート端子71を貫通させる必要があり、またそのゲート端子の位置もボンディングの関係からチップ1の近傍で、しかもチップと同程度の高さにする必要がある。また、チップのゲートパッド電極6にゲート引き出し導線72をゲート端子71と接続のためボンディングするために、ボンディングツールがはいるだけのスペースが必要である。このような理由から、容器の寸法が大きくなる。また、ボンディングツールがはいるようにソース接触板3をゲートパッド電極6の部分だけかなり削らなければならないなどの制約がある。
【0006】
本発明の目的は、このような観点から、ゲートパッド電極とゲート端子の接続構造を工夫することにより、コンパクトな容器寸法の電力用半導体素子を提供することにある。
【0007】
【課題を解決するための手段】
上記の目的を達成するために、本発明は、一容器に収容される半導体基板の両主面上にそれぞれ主電極、一主面上に半導体基板と絶縁された制御電極を有し、主電極と容器両面の端子板との間に接触板が介在するものにおいて、半導体基板の周縁部で制御電極に制御電極引き出し端子の先端部が加圧接触し、加圧接触するための圧力が制御電極引出し端子の弾性力であるものとする。あるいは、半導体基板の主面上に絶縁して設けられ、制御電極と導線によって接続された中継電極に制御電極引き出し端子の先端部が加圧接触するものとする。そして、制御電極と同一主面上に存在する主電極のための接触板の制御電極引き出し端子に対向する部分に凹部あるいは切り欠き部を有することが有効である。
【0008】
【作用】
制御電極と制御電極引き出し端子との接続も直接あるいは中継電極を介しての加圧接触によることにより、導線のボンディングによる場合に比してボンディングツールのためのスペースが必要でなく、また引き出し端子の位置などに対する制約もなくなるので、容器の寸法が小さくなる。そして、加圧接触するための圧力が制御電極引出し端子の弾性力であることから、皿ばねが不要になる。また、主電極接触板制御電極引き出し端子に対向して切り欠き部あるいは凹部を形成することにより、一層の小形化が可能になる。
【0009】
【実施例】
図1(a)、(b)は本発明の一参考例のIGBT素子を示し、図2と共通の部分には同一の符号が付されている。図1(b)はIGBTチップ上方から見た平面図で、チップ1の大きさ20mm角であり、その中央に0.3mm角のゲートパッド電極6が配置され、その周囲全面にソース電極2が設けられている。ソース電極2の点線60で囲まれた区域にはソース電極2およびシリコン基板上と絶縁されたゲート電極が形成されており、ゲートパッド電極6はその表面に接触している。また、チップ周辺には耐圧向上のためのガードリング11が設けられている。このチップ1の下面の図示しないコレクタ電極には図1(a)に示すコレクタ接触板4を、上面のソース電極2にはソース接触板3をはんだ付け法で接合する。ソース接触板3には、図3に示すように中央に穴31が明いている。そして図1(b)の線30がソース接触板3とソース電極2との接合区域を示している。この一体化したチップ1、ソース接触板3、コレクタ接触板4を、下端子板52と絶縁性側壁53とからなる容器下部内に組み込んだのち、ソース接触板3の穴31にゲート引き出し端子7の先端部73を挿入する。次いで、ゲート引き出し端子71の入る溝54を有する上端子板51をかぶせ、容器側壁53の上端と結合する。ゲート引き出し端子は図4に詳細に示すように直径0.5mmの銅線71の先端の直径1mmの円板部73が、ソース接触板3の凹部55内に収容される絶縁板81で絶縁された皿ばね8の力によりゲートパッド電極6と加圧接触する。そして、銅線71の周りなどにはふっ素樹脂のような絶縁物74が取り囲んで、上端子板51およびソース接触板3との絶縁をとっている。上、下端子板51、52は通常の平形半導体素子と同様にインバータなどの接続電極体と加圧接触により接続することができ、その際上端子板51とソース接触板3ならびに下端子板52とコレクタ接触板4も加圧接触する。しかし、それぞれを加圧した状態でろう付けしてもよい。また、外部のゲート配線は、ゲート引き出し端子7の銅線71の先端と接続する。
【0010】
図5(a)、(b)、(c)は本発明の一実施例をIGBT素子を示し、(a)が横断面図、(b)は図(a)の下方から、(c)は図(a)の右方から見た断面図であり、前述の各図と共通の部分には同一の符号が付されている。この場合は、IGBTチップの一隅にゲート配線中継板9を接着剤を用いて固定している。この中継板9は図6に拡大して示すような形状を有し、1辺1mm程度で厚さ1mm程度のふっ素樹脂基板91の表面にAlよりなる電極板92を接着したものである。このゲート配線中継板9の電極板92とチップ一隅のゲートパッド電極6を導線72のボンディングで接続する。上端子板51には、ゲート引き出し端子用の溝と皿ばね用の凹部があり、絶縁物74に囲まれたゲート引き出し端子7はその溝54に収容されて固定され、ゲート引き出し端子7の先端部73は、凹部55に収容された皿ばね8によってゲート配線中継板9の電極板92に対して加圧される。この素子の使用方法も上記の参考例の素子と同様である。
【0011】
図7は本発明の別の参考例のIGBT素子を示し、前述の各図と共通の部分には同一の符号が付されている。この場合は、ソース接触板3の中央に穴31が明いていることは図1の場合と同様であるが、ゲート引き出し端子7のゲートパッド電極6への加圧を皿ばねによらないで、ゲート引き出し端子7の金属線75に弾力性のあるものを使用し、その弾性力によっている。この素子は、IGBTチップ1の両面にコレクタ接触板4およびソース接触板をはんだ付け法にて接合したのちゲート引き出し端子7の先端部73を手で持ち上げ、それと反対側の端部を図(b)に示すように容器側壁53の穴56に通した後手を離す。手を離したとき、先端部73がチップ1の表面に向かって近づくように金属線が曲がるようにすれば、ゲートパット電極6にゲート引き出し端子7の先端部73が加圧接触し、良好な電気的接続が行われる。この構造によれば、皿ばねが不要になると共に、上端子板51の結合の前にゲート引き出し端子7をゲートパッド電極6に接続することができ、組立てが容易になる。またこの構造は、図5に示した構造の素子にも適用できる。
【0012】
【発明の効果】
本発明によれば、制御電極と制御電極引き出し端子とを加圧接触によって接続することにより、導線のボンディングによって接続する場合に比して各種の制約がなくなり、容器寸法の小形化が可能となった。また、半導体基板の周縁部で制御電極と引き出し端子を加圧接触させ、加圧接触するための圧力が制御電極引出し端子の弾性力であることにより、接触板および上端子板の形状が簡単となり、容器組み立ても簡単になる効果が生ずる。
【図面の簡単な説明】
【図1】
本発明の一参考例のIGBT素子を示し、(a)が縦断面図、(b)がチップ平面図
【図2】
従来のIGBT素子を示し、(a)が横断面図、(b)が縦断面図
【図3】
図1の素子のソース接触板の斜視図
【図4】
図1のゲート引き出し端子の斜視図
【図5】
本発明の一実施例のIGBT素子を示し、(a)はチップ平面図、(b)は縦断面図、(c)は(b)と垂直の縦断面図
【図6】
図5の素子のゲート配線中継板の斜視図
【図7】
本発明の別の参考例のIGBT素子を示し、(a)は縦断面図、(b)は(a)のA部斜視図
【符号の説明】
1IGBTチップ
2ソース電極
3ソース接触板
31穴
4コレクタ接触板
51上端子板
52下端子板
55凹部
6ゲートパッド電極
7ゲート引き出し端子
71銅線
72導線
73ゲート引き出し端子先端部
74絶縁物
75弾力性金属線
8皿ばね
9ゲート配線中継板
 
訂正の要旨 訂正の要旨
(1)特許請求の範囲の減縮を目的として、願書に添付した明細書及び図面(以下、「特許明細書」という。)の特許請求の範囲の請求項1に記載された「半導体基板の・・・加圧接触する」を、「半導体基板の周縁部で制御電極に制御電極引き出し端子の先端部が加圧接触し、加圧接触するための圧力が制御電極引出し端子の弾性力である」と訂正する。
また、明りょうでない記載の釈明を目的として、特許明細書の段落【0009】に「一実施例」とあるのを「一参考例」と訂正し、同段落【0010】に「別の実施例」とあるのを「一実施例」と訂正し、同段落【0011】に「さらに別の実施例」とあるのを「別の参考例」と訂正する。
さらに、明りょうでない記載の釈明を目的として、特許明細書の【図面の簡単な説明】の【図1】に「一実施例」とあるのを「一参考例」と訂正し、【図5】に「別の実施例」とあるのを「一実施例」と訂正し、【図7】に「さらに別の実施例」とあるのを「別の参考例」と訂正する。
(2)明りょうでない記載の釈明を目的として、同請求項2を、「【請求項2】容器に収容される半導体基板の両主面上にそれぞれ主電極、一主面上に半導体基板と絶縁された制御電極を有し、主電極と容器両面の端子板との間に接触板が介在するものにおいて、半導体基板の主面上に絶縁して設けられ、制御電極と導線によって接続された中継電極に制御電極引き出し端子の先端部が加圧接触することを特徴とする電力用半導体素子。」と訂正する。
(3)特許請求の範囲の減縮を目的として、同請求項4を削除する。
(4)明りょうでない記載の釈明を目的として、同段落【0007】、【0008】、および【0012】を、 「【0007】【課題を解決するための手段】上記の目的を達成するために、本発明は、一容器に収容される半導体基板の両主面上にそれぞれ主電極、一主面上に半導体基板と絶縁された制御電極を有し、主電極と容器両面の端子板との間に接触板が介在するものにおいて、半導体基板の周縁部で制御電極に制御電極引き出し端子の先端部が加圧接触し、加圧接触するための圧力が制御電極引出し端子の弾性力であるものとする。あるいは、半導体基板の主面上に絶縁して設けられ、制御電極と導線によって接続された中継電極に制御電極引き出し端子の先端部が加圧接触するものとする。そして、制御電極と同一主面上に存在する主電極のための接触板の制御電極引き出し端子に対向する部分に凹部あるいは切り欠き部を有することが有効である。」、
「【0008】【作用】制御電極と制御電極引き出し端子との接続も直接あるいは中継電極を介しての加圧接触によることにより、導線のボンディングによる場合に比してボンディングツールのためのスペースが必要でなく、また引き出し端子の位置などに対する制約もなくなるので、容器の寸法が小さくなる。そして、加圧接触するための圧力が制御電極引出し端子の弾性力であることから、皿ばねが不要になる。また、主電極接触板制御電極引き出し端子に対向して切り欠き部あるいは凹部を形成することにより、一層の小形化が可能になる。」、および
「【0012】【発明の効果】本発明によれば、制御電極と制御電極引き出し端子とを加圧接触によって接続することにより、導線のボンディングによって接続する場合に比して各種の制約がなくなり、容器寸法の小形化が可能となった。また、半導体基板の周縁部で制御電極と引き出し端子を加圧接触させ、加圧接触するための圧力が制御電極引出し端子の弾性力であることにより、接触板および上端子板の形状が簡単となり、容器組み立ても簡単になる効果が生ずる。」
と訂正する。
異議決定日 2001-03-07 
出願番号 特願平5-17753
審決分類 P 1 652・ 161- YA (H01L)
最終処分 維持  
前審関与審査官 田中 永一  
特許庁審判長 関根 恒也
特許庁審判官 中澤 登
池田 正人
登録日 1999-06-18 
登録番号 特許第2940328号(P2940328)
権利者 富士電機株式会社
発明の名称 電力用半導体素子  
代理人 篠部 正治  
代理人 篠部 正治  

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