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審決分類 |
審判 全部申し立て 2項進歩性 D01F 審判 全部申し立て 5項1、2号及び6項 請求の範囲の記載不備 D01F |
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管理番号 | 1044664 |
異議申立番号 | 異議2000-71631 |
総通号数 | 22 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許決定公報 |
発行日 | 1992-07-31 |
種別 | 異議の決定 |
異議申立日 | 2000-04-18 |
確定日 | 2001-03-17 |
異議申立件数 | 1 |
訂正明細書 | 有 |
事件の表示 | 特許第2968343号「複合難燃繊維」の請求項1ないし3に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 |
結論 | 訂正を認める。 特許第2968343号の請求項1ないし2に係る特許を維持する。 |
理由 |
1.手続きの経緯 特許第2968343号の請求項1ないし3に係る発明は、平成2年12月11日に特許出願され、平成11年8月20日にその特許権の設定登録がなされ、その後、株式会社クラレより特許異議の申立がなされ、取消の理由が通知され、その指定期間内である平成13年1月4日に訂正請求がなされたものである。 2.訂正の適否についての判断 (1)訂正の内容 ア.訂正事項a 特許請求の範囲の、 「【請求項1】ハロゲンを17〜86重量%含む重合体よりなる繊維(A)80〜20重量部と、天然繊維および化学繊維のうちの少なくとも1種のセルロース系繊維(B)1〜79重量部と、ポリビニルアルコール系繊維(C)1〜79重量部との合計が100重量部になるように複合してなる複合難燃繊維。 【請求項2】前記ハロゲンを17〜86重量%含む重合体が、アクリロニトリル30〜70重量%、ハロゲン含有ビニル系重合体70〜30重量%およびこれらと共重合可能なビニル系単量体0〜10重量%よりなる共重合体である請求項1記載の複合難燃繊維。 【請求項3】請求項1記載の複合難燃繊維を用いて製造した布帛。」 との記載を 「【請求項1】ハロゲンを17〜86重量%含む重合体よりなる繊維(ただし、ポリクラール繊維を含まない)(A)80〜20重量部と、天然繊維および化学繊維のうちの少なくとも1種のセルロース系繊維(B)1〜79重量部と、ポリビニルアルコール系繊維(C)1〜79重量部との合計が100重量部になるように(A)、(B)および(C)の繊維を複合してなる複合難燃繊維。 【請求項2】請求項1記載の複合難燃繊維を用いて製造した布帛。」 と訂正する。 イ.訂正事項b 本件特許明細書段落【0008】の 「ハロゲンを17〜86%(重量%、以下同様)含む重合体よりなる繊維(A)80〜20部(重量%、以下同様)と、天然繊維および化学繊維のうちの少なくとも1種のセルロース系繊維(B)1〜79部と、ポリビニルアルコール系繊維(C)1〜79部との合計が100重量部になるように複合してなる複合難燃繊維」 との記載を、 「ハロゲンを17〜86%(重量%、以下同様)含む重合体よりなる繊維(ただし、ポリクラール繊維を含まない)(A)80〜20部(重量%、以下同様)と、天然繊維および化学繊維のうちの少なくとも1種のセルロース系繊維(B)1〜79部と、ポリビニルアルコール系繊維(C)1〜79部との合計が100部になるように(A)、(B)および(C)の繊維を複合してなる複合難燃繊維」 と訂正する。 ウ.訂正事項c 本件特許明細書段落【0009】の 「ハロゲンを含む重合体よりなる繊維」 との記載を、 「ハロゲンを含む重合体よりなる繊維(ただし、ポリクラール繊維を含まない)」 と訂正する。 エ.訂正事項d 本件特許明細書段落【0028】の 「単繊維の状態で混綿したり、混紡したりしてもよく、交撚してもよく、ポリマーブレンドやコンジュゲート紡糸による方法で」 との記載を、 「短繊維の状態で混綿したり、混紡したりしてもよく、交撚による方法で」と訂正する。 (2)訂正の目的の適否、新規事項の有無及び拡張・変更の存否 訂正事項aの「ハロゲンを17〜86重量%含む重合体よりなる繊維(A)」を「ハロゲンを17〜86重量%含む重合体よりなる繊維(ただし、ポリクラール繊維を含まない)(A)」とする訂正及び訂正前の請求項2を削除する訂正は、特許請求の範囲の減縮に相当する。 また、同じく訂正事項aの「合計が100重量部になるように複合してなる複合難燃繊維」を「合計が100重量部になるように(A)、(B)および(C)の繊維を複合してなる複合難燃繊維」とする訂正は、複合する繊維の種類が3種類であることを明確にするための訂正であり、明りょうでない記載の釈明に相当する。 訂正事項b、c及びdは、上記訂正事項aと整合を図るものであるから、明りょうでない記載の釈明を目的とした明細書の訂正に該当する。 そして、訂正事項a〜dは、いずれも、新規事項の追加に該当せず、実質的に特許請求の範囲を拡張又は変更するものではない。 (3)むすび 以上のとおりであるから、上記訂正は、特許法第120条の4第3項において準用する平成6年法律第116号による改正前の特許法第126条第1項ただし書き、第2項及び第3項の規定に適合するので、当該訂正を認める。 3.特許異議の申立てについての判断 (1)申立ての理由の概要 申立人株式会社クラレは、甲第1号証の1(特開昭61-124635号公報)、甲第1号証の2(特開昭53-6617号公報)、甲第1号証の3(特開平2-6611号公報)及び甲第2号証(特開昭61-89339号公報)を提出して、訂正前の請求項1及び3に係る発明は、甲第1号証の1〜3及び甲第2号証に記載された発明と同一であるから、当該請求項1及び3の発明に係る特許は特許法第29条第1項第3号の規定に違反してなされたものであり、また、訂正前の請求項1ないし3に係る発明は、甲第1号証の1〜3及び甲第2号証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、当該請求項1ないし3の発明に係る特許は特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものであるので、当該発明に係る特許を取り消すべきものである旨、主張している(主張1)。 また、本件特許明細書は、当業者が訂正前の請求項1〜3に係る発明を容易に実施できる程度に記載されておらず、特許法36条第4項(平成2年法))の規定に違反している旨、主張している(主張2)。 (2)本件の請求項1ないし2に係る発明 上記2.で示したように上記訂正が認められるから、本件の請求項1ないし2に係る発明(以下、「本件発明1」、「本件発明2」という)は、上記訂正請求に係る訂正明細書の特許請求の範囲の請求項1ないし2に記載された事項により特定される以下のとおりのものである。 請求項1:「ハロゲンを17〜86重量%含む重合体よりなる繊維(ただし、ポリクラール繊維を含まない)(A)80〜20重量部と、天然繊維および化学繊維のうちの少なくとも1種のセルロース系繊維(B)1〜79重量部と、ポリビニルアルコール系繊維(C)1〜79重量部との合計が100重量部になるように(A)、(B)および(C)の繊維を複合してなる複合難燃繊維」 請求項2:「請求項1記載の複合難燃繊維を用いて製造した布帛」 (3)甲各号証に記載された事項 特許異議申立人が証拠として提出した各甲号証には、それぞれ、以下のような発明が記載されている。 i)甲第1号証の1(特開昭61-124635号公報): 記載事項ア. 「ハロゲン含有重合体/部分アセタール化ポリビニルアルコールが・・・6/4〜4/6である重合体混合物に・・・Sb化合物を含有させた繊維85〜15重量部と、天然繊維及び化学繊維・・・から選ばれた少なくとも1種の繊維15〜85重量部から、総量が100重量部になるように複合した・・・複合難燃繊維」(特許請求の範囲) 記載事項イ. 「本発明は、難燃剤で高度に難燃強化したポリクラール繊維と他の繊維とを混合した、風合や吸湿性などに優れ、かつ難燃性を有する複合難燃繊維に関する。」(第1頁左欄下から第2行〜右欄第2行) 記載事項ウ. 「重量比でPVC:部分アセタール化PVA:三酸化アンチモン=49:51:15の・・・ポリクラール繊維を得た。・・・ポリクラール繊維・・・60部と綿40部とを混綿し、複合繊維を得た。」(第4頁左下欄第13行〜右下欄第4行)。 記載事項エ. 「なお本明細書における繊維とは、・・・織物、編物、不織布などのごとき繊維製品をも含む概念である。」(第4頁左上欄第9〜12行) ii)甲第1号証の2(特開昭53-6617号公報): 記載事項オ. 「本発明は、ポリクラール繊維と他の繊維を混合してなる、難燃性および風合、吸湿性などの他の性能がともにすぐれた複合繊維に関する。」(第2頁左上欄第9〜11行) 記載事項カ. 「本発明の複合繊維は・・・ポリクラール繊維90〜25部に対してポリエステル繊維、アクリル繊維および木綿よりなる群から選ばれた繊維10〜75部を混合したものである。」(第5頁右上欄第5〜8行) 記載事項キ. 「本発明の複合繊維は・・・織物、編物、不織布・・・として使用することができる。(第5頁右上欄第14〜16行) iii)甲第1号証の3(特開平2-6611号公報) 記載事項ク. 「ポリ塩化ビニルを主成分とする塩化ビニルエマルジョンとポリビニルアルコール水溶液を固形分重量比で50:50で混合した・・・ものを紡糸原液とし、難燃性ポリマーブレンド繊維を得た。このようにして得られた難燃性繊維と・・・木綿繊維・・を混綿し・・・得られた紡績糸を丸編みにより・・・布状物を作製」(第3頁左下欄第1行〜右下欄第7行) iv)甲第2号証(特開昭61-89339号公報) 記載事項ケ. 「ハロゲンを17〜86重量%含む重合体に・・・Sb化合物を含有させた繊維85〜15重量部と、天然繊維および化学繊維よりなる群から選ばれた少なくとも1種以上の繊維15〜85重量部とを100重量部になるように混合した複合難燃繊維」(特許請求の範囲第1項) 記載事項コ. 「前記重合体がアクリロニトリル30〜70重量%、ハロゲン含有ビニル系単量体70〜30重量%およびこれらと共重合可能なビニル系単量体0〜10重量%よりなる共重合体である・・・複合難燃繊維」(特許請求の範囲第2項) (4)上記主張1についての対比・判断 本件発明1(前者)と甲第1号証の1に記載されている発明(後者)を対比すると、前者は、ハロゲンを含む重合体よりなる繊維(ただし、ポリクラール繊維を含まない)(A)と、天然繊維および化学繊維のうちの少なくとも1種のセルロース系繊維(B)と、ポリビニルアルコール系繊維(C)の3種類の繊維を複合しているのに対し、後者はハロゲン含有重合体/部分アセタール化ポリビニルアルコールの重合体混合物からなる繊維と天然繊維及び化学繊維から選ばれた少なくとも1種の繊維の2種類の繊維を複合している点で相違している。 そして、甲第1号証の1には、ハロゲン含有重合体/部分アセタール化ポリビニルアルコールの重合体混合物からなる繊維をそれぞれ別個の繊維として紡糸し、複合する点については記載も示唆もされていないのであるから、本件発明1は甲第1号証の1に記載された発明と同一であるとすることはできない。 また、甲第1号証の2、甲第1号証の3及び甲第2号証にも複合難燃繊維が記載されているが、いずれもポリマーブレンドされた繊維と天然繊維等2種類の繊維を複合したものであり、3種類の繊維を複合した本件発明1とは異なるものである。 そして、本件発明1は特許明細書に記載された作用・効果を奏するものである。 したがって、本件発明1はこれら甲各号証に記載された発明と同一であるとも、またそれらに基いて当業者が容易に発明をすることができたものということはできない。 また、本件発明2は、本件発明1の複合難燃繊維を用いて製造した布帛であるので、本件発明1について述べた理由と同様の理由により、甲各号証に記載された発明と同一であるとも、それらに基いて当業者が容易に発明をすることができたものということはできない。 (5)上記主張2についての検討 異議申立人は、PVA及びPVCのポリマーブレンド繊維であるポリクラール繊維をPVA系繊維とみなすのか、それともハロゲン含有繊維とPVA系繊維の複合繊維とみなすのか不明である。よって、従来周知のポリクラール繊維を用いて本件特許発明を実施しようとする場合、ポリクラール繊維以外にハロゲン含有繊維を併用する必要があるのかどうか、さらに、この際のポリクラール繊維の複合割合をどのようにすればよいのか、本件特許明細書の記載からは判断できない、と主張している。 しかし、上記2のように特許明細書は適法に訂正された結果、ハロゲンを含む重合体よりなる繊維にはポリクラール繊維を含まないこと、複合繊維を製造する方法としては、ポリマーブレンドやコンジュゲート紡糸による方法は含まないこと、また、本件特許に係る複合難燃繊維は3種類の繊維を複合したものであることが明らかとなったので、上記異議申立人の主張はもはや妥当とはいえない。 (6)むすび 以上のとおりであるから、特許異議申立の理由及び証拠によっては、本件請求項1ないし2に係る特許を取り消すことはできない。 また、他に本件請求項1ないし2に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。 したがって、本件発明についての特許は拒絶の査定をしなければならない特許出願に対してされたものとは認めない。 よって、結論のとおり決定する。 |
発明の名称 |
(54)【発明の名称】 複合難燃繊維 (57)【特許請求の範囲】 【請求項1】 ハロゲンを17〜86重量%含む重合体よりなる繊維(ただし、ポリクラール繊維を含まない)(A)80〜20重量部と、天然繊維および化学繊維のうちの少なくとも1種のセルロース系繊維(B)1〜79重量部と、ポリビニルアルコール系繊維(C)1〜79重量部との合計が100重量部になるように(A)、(B)および(C)の繊維を複合してなる複合難燃繊維。 【請求項2】 請求項1記載の複合難燃繊維を用いて製造した布帛。 【発明の詳細な説明】 【0001】 【産業上の利用分野】 本発明は、ハロゲンを含む重合体よりなる繊維とセルロース系繊維とポリビニルアルコール系繊維とを複合した、風合いや吸湿性に優れ、高度な難燃性を有する複合難燃繊維に関する。 【0002】 【従来の技術】 近年、衣食住の安全性確保の要求が高まり、従来のようにインテリア素材だけでなく、衣料や寝具用繊維製品においても難燃化が強く要望され、しかも難燃性以外の視感、風合い、吸湿性、耐洗濯性、耐久性などに対する要望も強まってきている。 【0003】 繊維の難燃化に関する研究は、モダアクリル系繊維、ポリクラール系繊維、ポリエステル系繊維、ビスコースレーヨンなどの特定の繊維の単独物についての研究が多く、1種の単独物では難燃性に優れたものもえられているが、消費者の多様化し、高度化する要求には充分こたえられていないというのが実情である。 【0004】 このような要求にこたえるべく、難燃剤を大量に添加し高度に難燃化した繊維と、難燃化していない他の繊維とを組み合わせて、難燃化していない繊維の特徴を有する複合難燃繊維をうる研究が行われており(特開昭61-89339号公報)、綿、レーヨンのように衣料として優れた風合い、吸湿性、感触を有する繊維と難燃化した繊維とを混合した複合繊維にすることにより、風合い、吸湿性、触感などの改良された複合難燃繊維も開発されている。 【0005】 しかし、この複合難燃繊維に用いる難燃化繊維は、難燃剤を大量に添加する必要があり、製造時に大量の難燃剤分散液の準備、貯蔵、紡糸原液への添加など大規模な設備と手間がかかり、製造コストが高くなり、製品価格も高くなる、難燃化繊維の物性(強伸度)が低いなどの問題がある。 【0006】 【発明が解決しようとする課題】 本発明は、従来の複合難燃繊維では、優れた風合い、吸湿性、触感などを有するばあいには高度の難燃性を有せしめることができず、高度の難燃性を付与するには大量の難燃剤の添加が必要であり、製造コスト、製品価格が高くなり、繊維の物性低下が生じるという問題を解決し、しかも製造の容易な複合難燃繊維をうるためになされたものである。 【0007】 【課題を解決するための手段】 本発明者らは、前記問題を解決するために鋭意検討を重ねた結果、ハロゲンを含む重合体よりなる繊維(以下、ハロゲン含有繊維という)に、セルロース系繊維を複合した繊維およびハロゲン含有繊維にポリビニルアルコール系繊維を複合した繊維は、いずれもハロゲン含有繊維単独のばあいにくらべてその難燃性が低下するが、前記ハロゲン含有繊維にセルロース系繊維およびポリビニルアルコール系繊維を複合すると、驚くべきことには、前記2成分の複合繊維からえられる難燃性の程度からは予想することのできない高い難燃性を示し、ばあいによってはハロゲン含有繊維単体の難燃性を維持しながら、風合い、触感、吸湿性に優れた複合繊維がえられることを見出し、本発明を完成するにいたった。 【0008】 すなわち本発明は、ハロゲンを17〜86%(重量%、以下同様)含む重合体よりなる繊維(ただし、ポリクラール繊維を含まない)(A)80〜20部(重量部、以下同様)と、天然繊維および化学繊維のうちの少なくとも1種のセルロース系繊維(B)1〜79部と、ポリビニルアルコール系繊維(C)1〜79部との合計が100部になるように(A)、(B)および(C)の繊維を複合してなる複合難燃繊維および該複合難燃繊維を用いて製造した布帛に関する。 【0009】 【実施例】 本発明の複合難燃繊維におけるハロゲンを含む重合体からなる繊維(ただし、ポリクラール繊維を含まない)は、ハロゲンを17〜86%、好ましくは17〜73%含むものである。 【0010】 本発明に用いる前記ハロゲンを17〜86%含む重合体としては、たとえばハロゲンを含有する単量体の重合体、前記ハロゲンを含有する単量体とハロゲンを含有しない単量体との共重合体、ハロゲンを含有する重合体とハロゲンを含有しない重合体とのポリマーブレンド物または後加工によりハロゲンを導入したハロゲン含有重合体などがあげられるが、これらに限定されるものではない。 【0011】 前記ハロゲンを含有する重合体の具体例としては、たとえば塩化ビニル、塩化ビニリデン、臭化ビニル、臭化ビニリデンなどのハロゲン含有ビニル系単量体の単独重合体または2種以上の共重合体、アクリロニトリル-塩化ビニル、アクリロニトリル-塩化ビニリデン、アクリロニトリル-臭化ビニル、アクリロニトリル-塩化ビニル-塩化ビニリデン、アクリロニトリル-塩化ビニル-臭化ビニル、アクリロニトリル-塩化ビニリデン-臭化ビニルなどのハロゲン含有ビニル系単量体とアクリロニトリルとの共重合体、前記以外の塩化ビニル、塩化ビニリデン、臭化ビニル、臭化ビニリデンなどのハロゲン含有ビニル系単量体の1種以上とアクリロニトリルおよびこれらと共重合可能なビニル系単量体との共重合体、あるいはアクリロニトリル単独重合体にハロゲン含有化合物を添加・重合させた重合体、ハロゲン含有ポリエステルなどがあげられるが、これらに限定されるものではない。また前記単独重合体や共重合体を適宜混合して使用してもよい。 【0012】 前記共重合可能なビニル系単量体としては、たとえばアクリル酸、そのエステル、メタクリル酸、そのエステル、アクリルアミド、メタクリルアミド、酢酸ビニル、ビニルスルホン酸、その塩、メタリルスルホン酸(CH2=C(CH3)-CH2-SO3H)、その塩、スチレンスルホン酸、その塩などがあげられ、それらの1種または2種以上が用いられうる。 【0013】 前記ハロゲンを17〜86%含む重合体が、ハロゲン含有ビニル系単量体70〜30%、アクリロニトリル30〜70%およびそれらと共重合可能なビニル系単量体0〜10%、好ましくはハロゲン含有ビニル系単量体60〜40%、アクリロニトリル40〜60%およびそれらと共重合可能なビニル系単量体0.1〜8%からなる重合体のばあいには、えられる繊維が所望の難燃性を有しつつアクリル繊維の風合を有するためとくに好ましい。また共重合可能なビニル系単量体の少なくとも1つがスルホン酸基含有ビニル系単量体のばあいには、染色性が向上するので好ましい。 【0014】 前記ハロゲン含有ビニル系単量体およびアクリロニトリルからの単位を含む共重合体の具体例としては、たとえば塩化ビニル50部、アクリロニトリル49部、スチレンスルホン酸ナトリウム1部よりなる共重合体、塩化ビニリデン43.5部、アクリロニトリル55部、スチレンスルホン酸ナトリウム1.5部よりなる共重合体などがあげられる。 【0015】 なお、前記ハロゲンを17〜86%含む重合体中のハロゲン含有量が前記範囲未満では、繊維を難燃化することが困難になり、また前記範囲を超えると、製造された繊維の物性(強度、伸度、耐熱性など)、染色性、風合などの性能が充分でなくなり、いずれも好ましくない。 【0016】 本発明に使用しうるセルロース系繊維としては、たとえば綿、麻などの天然繊維、レーヨン、キュプラ、アセテートなどの化学繊維があげられるが、その中でも綿、レーヨンが吸湿性、着ごこちの点からとくに好ましい。これらのセルロース系繊維は単独で用いてもよく、2種以上併用してもよい。 【0017】 本発明に使用しうるポリビニルアルコール系繊維には、たとえばビニロン、ポリクラール繊維などがあげられるが、これらに限定されるものではない。これらのポリビニルアルコール系繊維は、単独で用いてもよく、2種以上併用してもよい。 【0018】 前記ポリビニルアルコール系繊維において、通常、水酸基の一部または全部がアセタール化されている。 【0019】 本発明に使用しうるハロゲン含有繊維および(または)ポリビニルアルコール系繊維には、要求される難燃性に応じて、難燃剤の付与を行ってもよい。 【0020】 使用される難燃剤は、スズ化合物、アンチモン化合物、臭素化合物、燐化合物などよりなる群がら選ばれた1種以上の化合物よりなり、たとえば酸化第2スズ、メタスズ酸、オキシ八口ゲン化第1スズ、水酸化第1スズなどの無機スズ化合物、3酸化アンチモン、アンチモン酸、オキシ酸化アンチモンなどの無機アンチモン化合物、ヘキサブロモベンゼン、デカブロモジフェニルオキサイドなどの芳香族ハロゲン化合物、塩化パラフィンなどの脂肪族ハロゲン化合物、トリス(2,3-ジブロモプロピル)ホスフェートなどの含ハロゲン燐化合物、ジブチルアミノホスフェートなどの有機燐化合物、ポリ燐酸アンモニウムなどの無機化合物などがあげられ、それらを単独で使用しても、2種以上を組み合わせて使用してもよい。 【0021】 これら難燃剤の添加量は要求される難燃性の程度に応じて変りうるが、通常、前記ハロゲン含有繊維および(または)ポリビニルアルコール系繊維の重合体に対して0〜50%の範囲で使用される。なお作業服、消防服のように、とくに高い難燃性を要求されるばあいには、ハロゲン含有重合体繊維にスズ系またはアンチモン系の難燃剤を重合体に対し1%以上添加することが、難燃性を安定に保つ意味から望ましい。 【0022】 本発明におけるハロゲン含有繊維(A)、セルロース系繊維(B)およびポリビニルアルコール系繊維(C)の混合割合は、えられる複合難燃繊維から製造される最終製品に要求される難燃性と製品強力、吸水性、風合い、吸湿性、耐洗濯性、耐久性などに応じて決定されるが、一般に、ハロゲン含有繊維(A)80〜20部、好ましくは70〜30部、とくには60〜40部、セルロース系繊維(B)1〜79部、好ましくは5〜65部、とくには5〜55部およびポリビニルアルコール系繊維(C)1〜79部、好ましくは5〜65部、とくには5〜55部の合計が100部になるように複合せしめられる。前記ハロゲン含有繊維(A)の量が20部未満のばあいには、えられる複合難燃繊維の難燃性が不足し、一方、80部を超えるばあいには、難燃性には優れてはいるが、その他の風合い、吸湿性などが充分でなくなる。 【0023】 また、セルロース系繊維(B)およびポリビニルアルコール系繊維(C)の量は、いずれも1部以上であり、いずれかが1部未満のばあい、セルロース系繊維(B)とポリビニルアルコール系繊維(C)との相乗効果は充分にはえられず、ハロゲン含有繊維(A)とセルロース系繊維(B)、またはハロゲン含有繊維(A)とポリビニルアルコール系繊維(C)の二者の複合繊維の難燃性とほとんど差がなくなる。 【0024】 本発明においては、前記ハロゲン含有繊維(A)とセルロース系繊維(B)とポリビニルアルコール系繊維(C)からなる複合難燃繊維を製造する際に、該複合難燃繊維100部に対してその他の繊維、たとえばポリエステル、ナイロン、羊毛、綿などの繊維を0〜30部程度を複合させ、その性質を改良してもよい。 【0025】 また、本発明に使用するハロゲン含有繊維として難燃剤を大量に添加した従来のハロゲン含有の難燃強化繊維を用いれば、さらに高度な難燃性を必要とする分野で、従来不可能であった優れた風合い、触感、吸湿性を持つ製品の製造が可能となる。 【0026】 本発明の複合難燃繊維が優れた難燃性を持つ理由はさだかではないが、燃焼時にハロゲン含有繊維(A)から発生するハロゲン化合物とポリビニルアルコール系繊維(C)から発生する水分とセルロース系繊維の炭化しやすさが相乗効果となり、優れた難燃性を示すと考えられる。 【0027】 なお、本発明において繊維とは、長繊維、短繊維のごときいわゆる繊維のみならず、糸をも含む概念である。 【0028】 複合難燃繊維を製造する方法としては、短繊維の状態で混綿したり、混紡したりしてもよく、交撚による方法で複合化してもよい。また前記各複合化の方法を組み合わせることもできる。 【0029】 本発明の複合難燃繊維には必要に応じて、帯電防止剤、熱着色防止剤、耐光性向上剤、白度向上剤、失透性防止剤などを含有せしめてもよい。 【0030】 このようにしてえられる本発明の複合難燃繊維は、所望の難燃性を有し、風合い、触感、吸湿性などの優れた特性を有している。 【0031】 本発明の複合難燃繊維を用いて布帛などを製造すると、本発明の複合難燃繊維が有する優れた特性、すなわち優れた難燃性を有し、風合い、触感、吸湿性などの優れた特性を有する布帛がえられる。該布帛とは、織物、編物、不織布、紐類などを含む概念である。 【0032】 これら布帛の製造には特別の方法は必要でなく、従来から一般に用いられている製造法がそのまま用いられうる。 【0033】 本発明の布畠の製造において、必要とされる難燃性を損わない範囲で、他の所望の合成繊維、化学繊維および天然繊維を本発明の複合難燃繊維と共に使用して製造することができる。 【0034】 以下、実施例をあげて本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はかかる実施例のみに限定されるものではない。 【0035】 なお実施例における繊維の難燃性は酸素指数(LOI法)によって下記のようにして測定した。これは、一般に繊維の難燃性は織物、編物の状態で測定、評価されているが、織物、編物では糸の撚数、太さ、打ち込み本数などにより難燃性に差が生じ、繊維自体の難燃性を正しく評価しえないためである。 【0036】 (難燃性) 所定の割合で混綿した綿を2g取り、これを8等分して約6cmのコヨリを8本作って酸素指数試験器のホルダーに直立させ、この試料が5cm燃え続けるのに必要な最小酸素濃度を測定し、これをLOI値とした。LOI値が大きいほど燃えにくく、難燃性が高い。 【0037】 [製造例1] アクリロニトリル49.0%および塩化ビニル51.0%よりなる共重合体をアセトンに樹脂濃度が28%になるように溶解した。えられた樹脂溶液に難燃剤として樹脂に対して3%のメタスズ酸を添加し、紡糸原液とした。この紡糸原液をノズル口径0.08mmおよび口数300ホールのノズルを用い、30%のアセトン水溶液中に押し出し、水洗したのち120℃で乾燥し、ついで3倍に延伸してから、さらに140℃で5分加熱処理を行うことにより、ハロゲン含有繊維をえた。えられた繊維のハロゲン含有量は、ハロゲンを含む重合体重量の29.0%であった。 【0038】 [実施例1および比較例1〜3] 製造例1でえられたハロゲン含有繊維、セルロース繊維である綿およびポリビニルアルコール系繊維としてビニロンを表1に示す割合で混綿し、燃焼試験用試料を作成しLOI値を測定した。それらの結果を表1に示す。 【0039】 また、えられた複合繊維が衣料として適するか否かについて、官能試験を行った。それらの結果も表1に示す。なお表1の○、×は、衣料として重要な肌触り、蒸れにくさ、着心地を中心に、総合的に評価したもので、綿と同等のものを○、綿より劣っているものを×とした。 【0040】 【表1】 【0041】 表1の結果から明らかなように、実施例1のハロゲン含有繊維と綿とビニロンの複合難燃繊維は、難燃剤を大量に添加せずとも混綿前のハロゲン含有繊維と同等の難燃性を維持しているとともに衣料としての着心地、触感に優れている。 【0042】 [製造例2] アクリロニトリル51%および塩化ビニリデン48%およびパラスチレンスルホン酸ソーダ1%よりなる共重合体をジメチルホルムアミドに樹脂濃度が30%になるように溶解した。えられた樹脂溶液に樹脂に対して15%の3酸化アンチモンおよび樹脂に対して10%のデカブロモジフェニルオキサイドを添加し、紡糸原液とした。えられた原液を50%ジメチルホルムアミド水溶液中へ押し出したほかは、製造例1と同様な方法にて紡糸し、ハロゲン含有繊維をえた。えられた繊維のハロゲン含有量はハロゲン含有共重合体重量の36.3%であった。 【0043】 [実施例2〜4および比較例4〜6] 製造例2でえられたハロゲン含有繊維と、レーヨン短繊維とビニロンを表2に示す割合で混綿し、実施例1と同様にLOI値、官能試験を実施した。 【0044】 それらの結果を表2に示す。官能試験については、レーヨン触感、着心地を有するものを○、不足しているものを×とした。 【0045】 【表2】 【0046】 表2の結果から明らかなように、実施例2〜4のハロゲン含有繊維とレーヨンとビニロンの複合難燃繊維は、ハロゲン含有繊維とレーヨン、およびハロゲン含有繊維とビニロンという2者を複合した繊維のばあいよりLOI値が高く、触感、着心地にも優れている。また、実施例2〜4の全てについて、比較例6のハロゲン含有繊維100%使用布畠のLOI値と同等の高いLOI値を示しており、従来不可能であったより高度の難燃性を必要とする分野で触感、風合いの優れた製品を作ることができる。 【0047】 【発明の効果】 本発明の複合難燃繊維および該繊維を用いて製造した布畠は、高度の難燃性を維持し、かつ風合い、吸湿性など着心地、触感などに優れたものである。 |
訂正の要旨 |
(3)訂正の要旨 ▲1▼訂正事項a 特許請求の範囲の請求項1ないし3の記載 「 [請求項1] ハロゲンを17〜86重量%含む重合体よりなる繊維(A)80〜20重量部と、天然繊維および化学繊維のうちの少なくとも1種のセルロース系繊維(B)1〜79重量部と、ポリビニルアルコール系繊維(C)1〜79重量部との合計が100重量部になるように複合してなる複合難燃繊維。 [請求項2] 前記ハロゲンを17〜86重量%含む重合体が、アクリロニトリル30〜70重量%、ハロゲン含有ビニル系重合体70〜30重量%およびこれらと共重合可能なビニル系単量体0〜10重量%よりなる共重合体である請求項1記載の複合難燃繊維。 [請求項3] 請求項1記載の複合難燃繊維を用いて製造した布吊。」 を、 「 [請求項1] ハロゲンを17〜86重量%含む重合体よりなる繊維(ただし、ポリクラール繊維を含まない)(A)80〜20重量部と、天然繊維および化学繊維のうちの少なくとも1種のセルロース系繊維(B)1〜79重量部と、ポリビニルアルコール系繊維(C)1〜79重量部との合計が100重量部になるように(A)、(B)および(C)の繊維を複合してなる複合難燃繊維。 [請求項2] 請求項1記載の複合難燃繊維を用いて製造した布帛。」 と訂正する。 ▲2▼訂正事項b (i)[0008]の「ハロゲンを17〜86%(重量%、以下同様)含む重合体よりなる繊維(A)80〜20部(重量部、以下同様)と、天然繊維および化学繊維のうちの少なくとも1種のセルロース系繊維(B)1〜79部と、ポリビニルアルコール系繊維(C)1〜79部との合計が100重量部になるように複合してなる複合難燃繊維」を、「ハロゲンを17〜86%(重量%、以下同様)含む重合体よりなる繊維(ただし、ポリクラール繊維を含まない)(A)80〜20部(重量部、以下同様)と、天然繊維および化学繊維のうちの少なくとも1種のセルロース系繊維(B)1〜79部と、ポリビニルアルコール系繊維(C)1〜79部との合計が100部になるように(A)、(B)および(C)の繊維を複合してなる複合難燃繊維」と訂正する。 (ii) [0009]のrハロゲンを含む重合体からなる繊維」を、「ハロゲンを含む重合体からなる繊維(ただし、ポリクラール繊維を含まない)」と訂正する。 (iii)[0028]の「単繊維の状態で混綿したり、混紡したりしてもよく、交撚してもよく、ポリマーブレンドやコンジュゲート紡糸による方法で」を、「短繊維の状態で混綿したり、混紡したりしてもよく、交撚による方法で」と訂正する。 |
異議決定日 | 2001-02-28 |
出願番号 | 特願平2-401385 |
審決分類 |
P
1
651・
121-
YA
(D01F)
P 1 651・ 534- YA (D01F) |
最終処分 | 維持 |
前審関与審査官 | 中島 庸子 |
特許庁審判長 |
藤井 彰 |
特許庁審判官 |
蔵野 雅昭 寺本 光生 |
登録日 | 1999-08-20 |
登録番号 | 特許第2968343号(P2968343) |
権利者 | 鐘淵化学工業株式会社 |
発明の名称 | 複合難燃繊維 |
代理人 | 佐木 啓二 |
代理人 | 朝日奈 宗太 |
代理人 | 佐木 啓二 |
代理人 | 朝日奈 宗太 |