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審決分類 審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  G02B
管理番号 1044685
異議申立番号 異議2000-73795  
総通号数 22 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 1992-10-14 
種別 異議の決定 
異議申立日 2000-10-06 
確定日 2001-04-18 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第3030108号「多分岐光回路」の特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 訂正を認める。 特許第3030108号の特許を維持する。 
理由 1.手続の経緯
本件は、平成3年3月18日に特許出願され、平成12年2月4日に特許第3030108号として特許の設定登録がなされ、その後、日本電信電話株式会社より特許異議の申立てがなされ、取消理由通知がなされ、その指定期間内である平成13年2月19日に訂正請求がなされたものである。
2.訂正の適否についての判断
(1)訂正事項
a.特許請求の範囲の請求項1の記載「端部が基板の一方の側面に臨む第一段入射路から、端部が基板の対向側面に臨む最終段出射路に至るまでの間にY分岐部を2段以上有し、前記入、出射路の光軸を基板の前記側面の法線に平行としたツリー構造で第一段入射路からの入射光が各最終段出射路に均等に分岐する多分岐光回路において、第一段入射路の中心軸延長線を基準線として、第二段から最終段までの両方の最外側Y分岐部について、その分岐中心線と前記基準線とのなす角θが、後段にいくに従い、順次拡大する如くY分岐部を外向きに傾斜させたパターンとしたことを特徴とする多分岐光回路。」を「端部が基板の一方の側面に臨む第一段入射路から、端部が基板の対向側面に臨む最終段出射路に至るまでの間にY分岐部を2段以上有し、前記入、出射路の光軸を基板の前記側面の法線に平行としたツリー構造で第一段入射路からの入射光が各最終段出射路に均等に分岐する多分岐光回路において、第一段入射路の中心軸延長線を基準線として、第二段から最終段までの両方の最外側Y分岐部について、その分岐中心線と前記基準線とのなす角θが、後段にいくに従い、順次拡大する如くY分岐部を外向きに傾斜させ、且つ第一段Y分岐部と第二段Y分岐部の間の接続部を曲線導波路のみ、または直線導波路と曲線導波路を組み合わせて構成し、その曲線導波路は前記基準線からみて互いに離れるような凸状のパターンとしたことを特徴とする多分岐光回路。」に訂正する。
b.明細書の段落【0010】を「前記従来の問題点を解決するため本発明では、端部が基板の一方の側面に臨む第一段入射路22から、端部が基板の対向側面に臨む最終段出射路23・・・に至るまでの間にY分岐部を2段以上有し、前記入、出射路の光軸を基板の前記側面の法線に平行としたツリー構造で第一段入射路からの入射光が各最終段出射路に均等に分岐する多分岐光回路において、第一段入射路22の中心軸延長線CLを基準線として、第二段から最終段までの両方の最外側Y分岐部について、その分岐中心線と前記基準線とのなす角θが、後段にいくに従い、順次拡大する如くY分岐部を外向きに傾斜させて配置し、且つ第一段Y分岐部と第二段Y分岐部の間の接続部を曲線導波路のみ、または直線導波路と曲線導波路を組み合わせて構成し、その曲線導波路は前記基準線からみて互いに離れるような凸状とする全く新しい導波回路レイアウトパターンとした。」に訂正する。
(2)訂正の目的の適否、新規事項の有無及び拡張・変更の存否
上記訂正事項aは、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、また、上記訂正事項bは、訂正事項aの訂正に伴い、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明との整合を図るためのものであり、明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。
また、上記訂正事項a及びbは、特許明細書段落【0023】の「以上に述べた第一の実施例では分岐部間の接続部を直線導波路のみで構成したが、曲線導波路のみ、または、直線導波路と曲線導波路を組み合わせて構成することもできる。図3は本発明による8分岐導波路の第二の実施例を示す要部平面図である。接続部8,9は直線導波路と曲げ角度θRの曲線導波路を組み合わせて構成し、他の接続部は直線導波路のみで構成している。」との記載及び段落【0026】の「接続部に曲線導波路を用いる場合、第一段Y分岐部と第二段Y分岐部の接続部を構成する2本の曲線導波路は、第二実施例で示したように基準線CLからみて互いに離れるような凸状である必要がある。」との記載及び図3に基づくものであり、願書に添付された明細書又は図面に記載された事項の範囲内でなされたものである。
さらに、上記訂正事項a及びbは、実質上、特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。
(3)むすび
以上のとおりであるから、上記訂正は、特許法第120条の4第2項の規定並びに同条第3項で準用する第126条第2項及び第3項の規定に適合するので、当該訂正を認める。
3.特許異議の申立てについての判断
(1)申立ての理由の概要
申立人日本電信電話株式会社は、甲第1号証として「Integrated Optics」Proceedings of the Third European Conference,ECIO’85、(1985年発行)、第229〜231ページを提出し、本件請求項1に係る発明は、甲第1号証刊行物に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号の発明に該当し、特許を受けることができないものであり、その特許を取り消すべきと主張している。
(2)訂正明細書の請求項1に係る発明
訂正明細書の請求項1に係る発明は、その特許請求の範囲の請求項1に記載された次の事項により特定されるものである。
「端部が基板の一方の側面に臨む第一段入射路から、端部が基板の対向側面に臨む最終段出射路に至るまでの間にY分岐部を2段以上有し、前記入、出射路の光軸を基板の前記側面の法線に平行としたツリー構造で第一段入射路からの入射光が各最終段出射路に均等に分岐する多分岐光回路において、第一段入射路の中心軸延長線を基準線として、第二段から最終段までの両方の最外側Y分岐部について、その分岐中心線と前記基準線とのなす角θが、後段にいくに従い、順次拡大する如くY分岐部を外向きに傾斜させ、且つ第一段Y分岐部と第二段Y分岐部の間の接続部を曲線導波路のみ、または直線導波路と曲線導波路を組み合わせて構成し、その曲線導波路は前記基準線からみて互いに離れるような凸状のパターンとしたことを特徴とする多分岐光回路。」(以下、「本件訂正発明」という。)
(3)甲第1号証に記載された発明
甲第1号証のFig.2には、「端部が基板の一方の側面に臨む第一段入射路から、端部が基板の対向側面に臨む最終段出射路に至るまでの間にY分岐部を3段有し、前記入、出射路の光軸を基板の前記側面の法線に平行としたツリー構造で第一段入射路からの入射光が各最終段出射路に分岐する多分岐光回路」が図示されている。
また、そのTable1には、各ポート(最終段出射路)からはほぼ等しい出力が得られることが示されている。
さらに、Fig.2には、「第一段入射路の中心軸延長線を基準線として、第二段から最終段までの両方の最外側Y分岐部について、その分岐中心線と前記基準線とのなす角が、後段にいくに従い、順次拡大する如くY分岐部を外向きに傾斜させたパターン」が記載されている。
したがって、甲第1号証には、
「端部が基板の一方の側面に臨む第一段入射路から、端部が基板の対向側面に臨む最終段出射路に至るまでの間にY分岐部を3段有し、前記入、出射路の光軸を基板の前記側面の法線に平行としたツリー構造で第一段入射路からの入射光が各最終段出射路に均等に分岐する多分岐光回路において、第一段入射路の中心軸延長線を基準線として、第二段から最終段までの両方の最外側Y分岐部について、その分岐中心線と前記基準線とのなす角θが、後段にいくに従い、順次拡大する如くY分岐部を外向きに傾斜させたパターンとした多分岐光回路。」の発明が記載されているものと認められる。
(4)対比・判断
本件訂正発明と甲第1号証に記載された発明を比較すると、両者は、ともに
「端部が基板の一方の側面に臨む第一段入射路から、端部が基板の対向側面に臨む最終段出射路に至るまでの間にY分岐部を2段以上有し、前記入、出射路の光軸を基板の前記側面の法線に平行としたツリー構造で第一段入射路からの入射光が各最終段出射路に均等に分岐する多分岐光回路において、第一段入射路の中心軸延長線を基準線として、第二段から最終段までの両方の最外側Y分岐部について、その分岐中心線と前記基準線とのなす角θが、後段にいくに従い、順次拡大する如くY分岐部を外向きに傾斜させたパターンとした多分岐光回路。」の発明である点で一致するものの、甲第1号証に記載された発明は、第一段Y分岐部と第二段Y分岐部の間の接続部を直線で構成しており、本件訂正発明の「第一段Y分岐部と第二段Y分岐部の間の接続部を曲線導波路のみ、または直線導波路と曲線導波路を組み合わせて構成し、その曲線導波路は前記基準線からみて互いに離れるような凸状のパターン」とする構成を備えていない。
そして、この構成により、本件訂正発明は、本件明細書の第24段落に記載されるように、また、本件図面の図4、図5において黒丸と白丸で比較されるように、第一段Y分岐部と第二段Y分岐部の間の接続部を直線で構成するものに比べて「展開部をさらに短くでき、小型化、低損失化を実現できる。」という効果を奏するものと認められる。
したがって、本件訂正発明が甲第1号証に記載された発明であるということはできず、また、甲第1号証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明できたものともいえない。
4.むすび
以上のとおりであるから、特許異議申立ての理由及び証拠によっては本件特許を取り消すことはできない。
また、他に本件特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
多分岐光回路
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】 端部が基板の一方の側面に臨む第一段入射路から、端部が基板の対向側面に臨む最終段出射路に至るまでの間にY分岐部を2段以上有し、前記入、出射路の光軸を基板の前記側面の法線に平行としたツリー構造で第一段入射路からの入射光が各最終段出射路に均等に分岐する多分岐光回路において、第一段入射路の中心軸延長線を基準線として、第二段から最終段までの両方の最外側Y分岐部について、その分岐中心線と前記基準線とのなす角θが、後段にいくに従い、順次拡大する如くY分岐部を外向きに傾斜させ、且つ第一段Y分岐部と第一段Y分岐部の間の接続部を曲線導波路のみ、または直線導波路と曲線導波路を組み合わせて構成し、その曲線導波路は前記基準線からみて互いに離れるような凸状のパターンとしたことを特徴とする多分岐光回路。
【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】
本発明は、Y分岐部を2段以上有するツリー構造の多分岐光回路に関し、特に素子を小型化し、損失を低減した単一モードの多分岐光回路に関する。
【0002】
【従来の技術】
従来のツリー構造の多分岐光回路を、8分岐光回路の場合について図6、図7に示す。図6のものは、第一段Y分岐部1、第二段Y分岐部2,3、第三段Y分岐部4,5,6,7の3段階のY分岐部を有する光回路を基板31に形成したものであり、これら分岐部は接続部8,9,10,11,12,13でツリー状に多段に接続され、第三段つまり最終段のY分岐部4,5,6,7と基板31側面の法線に平行な最終段出射路23,24,25,26,27,28,29,30は展開部14,15,16,17,18,19,20,21でなめらかに接続されている。
【0003】
上記従来の多分岐光回路は、第一段入射路22の中心軸延長線CLを基準線として、すべてのY分岐部1,2,3,4,5,6,7の分岐中心線が前記基準線CLと平行で、かつ、第一段入射路22から最終段出射路23,24,25,26,27,28,29,30までの導波経路長が等しくなるような回路パターンで製作されていた。
【0004】
図7に示す別の従来例は、基板31に形成した第一段Y分岐部1、第二段Y分岐部2,3、第三段Y分岐部4,5,6,7を接続部8,9,10,11,12,13でツリー状に多段に接続し、第三段Y分岐部4,5,6,7と基板31側面の法線に平行な最終段出射路23,24,25,26,27,28,29,30を展開部14,15,16,17,18,19,20,21でなめらかに接続し、Y分岐部1,2,3,4,5,6,7の分岐中心線を前記基準線CLと平行とした点は図6のものと同じである。
【0005】
図6のものと異なる点は、図6の場合よりもY分岐部の配置が高密度化され、また、展開部14,15,16,17,18,19,20,21では、最終段出射路よりも小さな間隔で前記基準線CLに平行に展開された後、最終段出射路の間隔まで再展開されるパターンとなっている。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
上記従来の多分岐光回路のうち、図6のものは、第一段入射路22から最終段出射路23,24,25,26,27,28,29,30までの導波経路が対称的で等しく、設計が非常に簡単であるという利点はあるものの、最終段出射路の間隔からY分岐部の位置が決まり特に第一段Y分部1の分岐中心線と第二段Y分岐部2,3の分岐中心線の間隔が大きくなるため、接続部8,9に大きな曲げ角度の曲線導波路を用いる必要があった。このため光回路の素子長が長くなり、伝搬損失が増大し、挿入損失が大きくなる問題があった。一方、素子長が短くなるように設計すると接続部8,9の曲線導波路の曲率半径を小さくする必要があるため、曲がり損失が増大し、やはり挿入損失が大きくなる問題があった。
【0007】
図7のものは、第一段入射路22から最終段出射路23,24,25,26,27,28,29,30までの導波経路を等しくしない構成としてY分岐部の配置を高密度化することにより、小型化していた。しかし、図6の場合ほどではないが、接続部8,9の曲線導波路の曲げ角度が大きくなり素子長が長くなる問題があった。また、展開部では、最終段出射路よりも小さな間隔で前記基準線CLに平行に展開した後、最終段出射路の間隔まで再展開しているため、展開部が長くなる問題があった。
【0008】
光回路における展開部の長さは、展開する間隔が最大である最外側展開部14,21が最も長くなる。したがって展開部を最短に設計した場合、最終段(図示例で第三段)のY分岐部4の接続点における展開部14の接線と前記基準線CLのなす角度β、および、最外側展開部14,21で展開する間隔で決まる。
【0009】
図7の場合、βは常に最終段Y分岐部の分岐角の1/2になるため最外側展開部14,21で展開する間隔によって展開部の長さが決ってしまい、最短に設計しても小型化が不十分であった。また、展開部の長さを短くするためには、最終段Y分岐部の分岐角を大きくしなければならず、分岐損失が増大する問題があった。
【0010】
【課題を解決するための手段】
前記従来の問題点を解決するため本発明では、端部が基板の一方の側面に臨む第一段入射路22から、端部が基板の対向側面に臨む最終段出射路23・・・に至るまでの間にY分岐部を2段以上有し、前記入、出射路の光軸を基板の前記側面の法線に平行としたツリー構造で第一段入射路からの入射光が各最終段出射路に均等に分岐する多分岐光回路において、第一段入射路22の中心軸延長線CLを基準線として、第二段から最終段までの両方の最外側Y分岐部について、その分岐中心線と前記基準線とのなす角θが、後段にいくに従い、順次拡大する如くY分岐部を外向きに傾斜させて配置し、且つ第一段Y分岐部と第二段Y分岐部の間の接続部を曲線導波路のみ、または直線導波路と曲線導波路を組み合わせて構成し、その曲線導波路は前記基準線からみて互いに離れるような凸状とする全く新しい導波回路レイアウトパターンとした。
【0011】
【作用】
最終段のY分岐部4の接続点における最外側展開部14の接線と第一段入射路22の中心軸延長線CLのなす角度βを、このY分岐部の分岐角α3の1/2よりも大きくすることができるため、Y分岐部の分岐角を大きくせずに展開部を短くできる。
【0012】
また、Y分岐部1,2,3,4,5,6,7の分岐中心線と第一段入射路22の中心軸延長線とを平行に配列しないので、接続部8,9に大きな曲げ角度の曲線導波路を用いる必要がなく、接続部を短くできる。これらにより素子長が短くなり伝搬損失を低減できる。
【0013】
さらに、素子長を従来のものと同一に設計すると、従来よりも曲率半径の大きな曲線導波路を用いることが可能になり、曲がり損失を低減できる。
【0014】
【実施例】
以下、本発明を図面に示した実施例について詳細に説明する。図1は本発明による8分岐光回路の第一の実施例を示す平面図、図2は図1のうち要部を拡大して示す平面図である。
【0015】
基板31に形成した第一段Y分岐部1、第二段Y分岐部2,3、第三段(最終段)Y分岐部4,5,6,7は、直線導波路のみで構成された接続部8,9,10,11,12,13でツリー状に多段に接続され、第三段Y分岐部4,5,6,7と、基板31側面の法線に平行な最終段出射路23,24,25,26,27,28,29,30は、展開部14,15,16,17,18,19,20,21でなめらかに接続されている。
【0016】
一例として、第一段Y分岐部の分岐角α1=1°、第二段Y分岐部の分岐角α2=1°、第三段Y分岐部の分岐角α3=1°とし、第一段入射路22の中心軸延長線CLを基準線として、最外側Y分岐部の中心線と前記基準線CLとのなす角θは、第二段Y分岐部2,3でθ2=α2/2、第三段Y分岐部4,7でθ3=(α1+α2)/2であり、後段にいくに従い順次拡大している。
【0017】
上記構成では、Y分岐部1,2,3,4,5,6,7の分岐中心線と前記基準線CLとを平行に配列しないので、接続部8,9に大きな曲げ角度の曲線導波路を用いることなく、接続部を短くできる。また、最終段である第三段Y分岐部4の接続点における最外側展開部14の接線と第一段入射路22の中心軸延長線CLとのなす角度β=(α1+α2+α3)/2>α3/2であり、α3を大きくせずに展開部を短くできる。これらの作用により素子を小型化し、損失を低減できる。この例では、第一段入射路長=5mm、最終段出射路長=5mm、最終段出射路間隔=250μm、素子長=42mm、曲線導波路の曲率半径=150mmとした。
【0018】
本発明で各段のY分岐部の分岐角α1、α2、α3・・・は、分岐損失が増加しないように1°以下であることが望ましい。また、第一段入射路22を中心として最内側に位置する展開部17と18の最小間隔は、導波路間でモード結合が生じない間隔であることが望ましい。第一段から最終段までのY分岐部の分岐角がすべて同一である必要はないが、前記基準線CLに対して線対称の位置にあるY分岐部の分岐角は少なくとも同一であることが望ましい。
【0019】
上述した本発明の第一実施例の単一モード8分岐光回路と、比較例として図6の単一モード8分岐光回路を2段自然イオン交換法で作製した。この比較例の8分岐光回路の第一段入射路長、最終段出射路長、最終段出射路間隔、素子長は第一実施例と同一とした。曲線導波路は、この条件で使用できる最大の曲率半径80mmを用いた。
【0020】
なお、2段自然イオン交換法の詳細については、菅原らが昭和62年の電子情報通信学会半導体・材料部門全国大会で報告した論文(論文番号369)等に述べられているが、簡単に説明すると、ガラス基板表面をイオン透過防止マスク膜で被覆し、このマスク膜には所定の導波路パターンで開口を形成しておき、このマスク膜被覆ガラス基板を、ガラスの屈折率を増大させる一価陽イオンを含む溶融塩と接触させて塩中のイオンとガラス中のイオンとを交換させ、これにより、屈折率がマスク開口部から内部に向けて次第に減少する分布を持つ断面が略半円形の高屈折率領域を形成する。ついで、マスク膜を除去した後、ガラスの屈折率減少に効果のある一価陽イオンを含む溶融塩にガラス基板を接触させる。この第二段イオン交換処理により、前記高屈折率領域の最大屈折率中心が基板表面から深部へ移動するとともに、高屈折率領域全体の断面形状がほぼ円形になる。
【0021】
第一実施例の8分岐光回路の過剰損失を測定した結果を下記の表に示す。

【0022】
本発明によりいずれの測定波長でも従来法に対して大幅に低損失化できた。損失低減効果は、曲がり損失が長波長側で増大するので、導波路の屈折率差が小さく曲がり損失が発生し易い単一モード導波路の場合、あるいは、長波長側(1.55μm)で効果が大きくなる。
【0023】
以上に述べた第一の実施例では分岐部間の接続部を直線導波路のみで構成したが、曲線導波路のみ、または、直線導波路と曲線導波路を組み合わせて構成することもできる。図3は本発明による8分岐導波路の第二の実施例を示す要部平面図である。接続部8,9は直線導波路と曲げ角度θRの曲線導波路を組み合わせて構成し、他の接続部は直線導波路のみで構成している。
【0024】
この例ではβ=(α1+α2+α3+2θR)/2であり、第一実施例よりも展開部をさらに短くでき、小型化、低損失化を実現できる。θRは最内側展開部17と18の間隔がモード結合が生じない間隔になるように設定することが望ましい。また、θRは曲がり損失が増大しないように10°以下であることが望ましい。
【0025】
この例では、第一段Y分岐部の分岐角α1=0.5°、第二段Y分岐部の分岐角α2=1°、第三段Y分岐部の分岐角α3=1°、θR=0.25°とした。また、第一段入射路長=5mm、最終段出射路長=5mm、最終段出射路間隔=250μm、曲線導波路の曲率半径=150mmとした。
【0026】
接続部に曲線導波路を用いる場合、第一段Y分岐部と第二段Y分岐部の接続部を構成する2本の曲線導波路は、第二実施例で示したように基準線CLからみて互いに離れるような凸状である必要がある。しかし、第二段Y分岐部以降の接続部を構成する曲線導波路については、一般にその必要はない。16分岐以上で必要となる第四段Y分岐部以降の接続部については、むしろ接続部の曲線導波路が前記基準線CLに対して全て凸状である方が望ましい。
【0027】
次に、本発明の第一、第二実施例の各8分岐光回路と、従来構造による8分岐光回路(図6、図7に示したもの)について素子長の計算を行った結果の一例を図4及び図5に示す。
【0028】
計算条件として、Y分岐部は、長さ=2mm、終端の導波路間隔=20μm、分岐角=1°ですべて同一とし、第一段入射路長=0μm、最終段出射路長=0μmとした。また、本発明の両実施例と図7の従来構成については、接続部終端の導波路間隔=40μm、展開部の最小導波路間隔≧40μmとした。さらに、本発明の第二実施例の構成では曲線導波路の曲げ角度θR=0.5°とした。最終段出射路の間隔、曲線導波路の曲率半径はすべて同一とし、これらを振って素子長を計算した。
【0029】
図4と図5に示された結果から、本発明により8分岐光回路が大幅に小型化できることが明らかである。第一実施例では曲率半径=150mm、最終段出射路の間隔=500μmの時、素子長が36.1mmとなり、図6に示す従来構造に対して19.8mm短くなる。図7の8分岐光回路は、図6のものに対して最終段出射路の間隔が大きければ素子長を短くする効果が大きいが、本発明の8分岐光回路と比較すれば小型化が不十分であることがわかる。また、第二実施例では、第一実施例に対して素子長が約2mm短くなる程度であるが、第一段入射路から最終段出射路までのY分岐部の段数が多くなるにしたがって効果が大きくなり、Y分岐部が4段以上になる16分岐以上の多分岐光回路では、大きな効果がある。以上の作用により素子を小型化し、損失を低減した多分岐光回路を実現できる。
【0030】
【発明の効果】
本発明によれば、多分岐光回路において、展開部や接続部の長さを短くできるため、素子を小型化でき、過剰損失を低減できる。また、素子長を従来構造と同一にすると、従来構造よりも曲率半径の大きな曲線導波路を用いることが可能であり、曲がり損失を低減できる。以上の効果により、素子を小型化し、損失を低減した多分岐導波路を実現できる。また本発明は、ガラス導波路の他に、石英系導波路,Ti拡散LiNbO3導波路、化合物半導体導波路、プラスチック導波路等を用いた光分岐回路にも適用出来る。
【図面の簡単な説明】
【図1】
本発明の第一実施例を示す平面図
【図2】
図1の光回路の要部を拡大して示す平面図
【図3】
本発明の第二実施例を示す要部平面図
【図4】
本発明による8分岐光回路と従来構造による8分岐光回路について素子長の計算を行った結果の一例を示す図
【図5】
本発明による8分岐光回路と従来構造による8分岐光回路について素子長の計算を行った結果の別の例を示す図
【図6】
従来の多分岐光回路の一例を示す平面図
【図7】
従来の多分岐光回路の別の例を示す平面図
【符号の説明】
1....第一段Y分岐部
2,3..第二段Y分岐部
4,5,6,7...第三段Y分岐部
8,9,10,11,12,13...接続部
14,15,16,17,18,19,20,21....展開部
22...第一段入射路
23,24,25,26,27,28,29,30....最終段出射路
31...基板
 
訂正の要旨 訂正の要旨
a.特許請求の範囲の請求項1の記載「端部が基板の一方の側面に臨む第一段入射路から、端部が基板の対向側面に臨む最終段出射路に至るまでの間にY分岐部を2段以上有し、前記入、出射路の光軸を基板の前記側面の法線に平行としたツリー構造で第一段入射路からの入射光が各最終段出射路に均等に分岐する多分岐光回路において、第一段入射路の中心軸延長線を基準線として、第二段から最終段までの両方の最外側Y分岐部について、その分岐中心線と前記基準線とのなす角θが、後段にいくに従い、順次拡大する如くY分岐部を外向きに傾斜させたパターンとしたことを特徴とする多分岐光回路。」を「端部が基板の一方の側面に臨む第一段入射路から、端部が基板の対向側面に臨む最終段出射路に至るまでの間にY分岐部を2段以上有し、前記入、出射路の光軸を基板の前記側面の法線に平行としたツリー構造で第一段入射路からの入射光が各最終段出射路に均等に分岐する多分岐光回路において、第一段入射路の中心軸延長線を基準線として、第二段から最終段までの両方の最外側Y分岐部について、その分岐中心線と前記基準線とのなす角θが、後段にいくに従い、順次拡大する如くY分岐部を外向きに傾斜させ、且つ第一段Y分岐部と第二段Y分岐部の間の接続部を曲線導波路のみ、または直線導波路と曲線導波路を組み合わせて構成し、その曲線導波路は前記基準線からみて互いに離れるような凸状のパターンとしたことを特徴とする多分岐光回路。」に訂正する。
b.明細書の段落【0010】を「前記従来の問題点を解決するため本発明では、端部が基板の一方の側面に臨む第一段入射路22から、端部が基板の対向側面に臨む最終段出射路23・・・に至るまでの間にY分岐部を2段以上有し、前記入、出射路の光軸を基板の前記側面の法線に平行としたツリー構造で第一段入射路からの入射光が各最終段出射路に均等に分岐する多分岐光回路において、第一段入射路22の中心軸延長線CLを基準線として、第二段から最終段までの両方の最外側Y分岐部について、その分岐中心線と前記基準線とのなす角θが、後段にいくに従い、順次拡大する如くY分岐部を外向きに傾斜させて配置し、且つ第一段Y分岐部と第二段Y分岐部の間の接続部を曲線導波路のみ、または直線導波路と曲線導波路を組み合わせて構成し、その曲線導波路は前記基準線からみて互いに離れるような凸状とする全く新しい導波回路レイアウトパターンとした。」に訂正する。
異議決定日 2001-03-16 
出願番号 特願平3-78642
審決分類 P 1 651・ 113- YA (G02B)
最終処分 維持  
前審関与審査官 岡田 吉美福田 聡  
特許庁審判長 豊岡 静男
特許庁審判官 稲積 義登
町田 光信
登録日 2000-02-04 
登録番号 特許第3030108号(P3030108)
権利者 日本板硝子株式会社
発明の名称 多分岐光回路  
代理人 茂見 穰  
代理人 茂見 穰  
代理人 澤井 敬史  

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