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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  G02B
管理番号 1044723
異議申立番号 異議2000-72966  
総通号数 22 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 1996-12-13 
種別 異議の決定 
異議申立日 2000-07-31 
確定日 2001-04-02 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第3003795号「検鏡支援装置」の請求項1ないし3に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 訂正を認める。 特許第3003795号の請求項1ないし3に係る特許を取り消す。 
理由 【1】手続の経緯
特許第3003795号の請求項1〜3に係る発明は、平成4年2月5日に出願された実用新案登録出願を、特許法第46条第1項の規定により平成8年1月25日に特許出願に変更したものであり、平成11年11月19日にその設定登録がなされ、その後、申立人 富岡康之より特許異議申立がなされ、取消理由通知がなされ、その指定期間内である平成12年12月21日に訂正請求がなされたものである。

【2】訂正の適否についての判断
《2-1》訂正の要旨
上記訂正請求書にて、特許権者が求めている訂正の内容は、以下のa〜cのとおりである。
訂正事項a:
特許請求の範囲の【請求項1】の記載を、特許請求の範囲の減縮を目的として、以下のとおり訂正する。
「【請求項1】 検鏡対象である標本を撮影する撮影手段と、
前記撮影手段が撮影した標本を示す標本像を記憶する画像記憶手段と、
検鏡に使用されている顕微鏡の拡大倍率を示す倍率情報を出力する倍率出力手段と、
前記標本が配置されたステージの座標を出力する座標出力手段と、
前記倍率情報および前記座標から、前記標本のうち現在検鏡している範囲を演算する演算手段と、
前記標本のうち検鏡済みの領域を記憶する検鏡済み領域記憶手段と、
前記画像記憶手段が記憶した標本像、前記演算手段が演算した現在検鏡している範囲、および前記検鏡済み領域記憶手段が記憶した検鏡済み領域を合成して出力する画像合成手段とを備えることを特徴とする検鏡支援装置。」

訂正事項b:
段落番号【0006】を明りょうでない記載の釈明を目的として下記のとおり訂正する。
「【0006】
【課題を解決するための手段】請求項1に記載の検鏡支援装置は、検鏡対象である標本を撮影する撮影手段(例えば、図1の画像取り込み装置3)と、撮影手段が撮影した標本を示す標本像を記憶する画像記憶手段(例えば、図1の画像記憶装置4)と、検鏡に使用されている顕微鏡の拡大倍率を示す倍率情報を出力する倍率出力手段(例えば、図1の拡大倍率読み取り器9M)と、標本が配置されたステージの座標を出力する座標出力手段(例えば、図1のX座標読み取り器8XおよびY座標読み取り器8Y)と、倍率情報および座標から、標本のうち現在検鏡している範囲を演算する演算手段(例えば、図1のコンピュータ6)と、標本のうち検鏡済みの領域を記憶する検鏡済み領域記憶手段(例えば、図1の検査済み領域記億装置7)と、前記画像記憶手段が記憶した標本像、演算手段が演算した現在検鏡している範囲、および検鏡済み領域記憶手段が記憶した検鏡済み領域を合成して出力する画像合成手段(例えば、図1の画像合成装置5)とを備えることを特徴とする。請求項2に記載の検鏡支援装置は、検鏡対象である標本を撮影する撮影手段(例えば、図1の画像取り込み装置3)と、撮影手段が撮影した標本を示す標本像を記憶する画像記憶手段(例えば、図1の画像記億装置4)と、検鏡に使用されている顕微鏡の拡大倍率を示す倍率情報を出力する倍率出力手段(例えば、図1の拡大倍率読み取り器9M)と、標本が配置されたステージの座標を出力する座標出力手段(例えば、図1のX座標読み取り器8XおよびY座標読み取り器8Y)と、倍率情報および座標から、標本のうち現在検鏡している範囲を演算する演算手段(例えば、図1のコンピュータ6)と、標本のうち検鏡済みの領域を記憶する検鏡済み領域記憶手段(例えば、図1の検査済み領域記億装置7)と、画像記憶手段が記憶した標本像、演算手段が演算した現在検鏡している範囲、および検鏡済み領域記憶手段が記憶した検鏡済み領域を合成して出力する画像合成手段(例えば、図1の画像合成装置5)と、画像合成手段が出力した合成像を表示する表示手段(例えば、図1のモニタ10)とを備えることを特徴とする。請求項3に記載の検鏡支援装置は、検鏡対象である標本全体を撮影する撮影手段(例えば、図1の画像取り込み装置3)と、撮影手段が撮影した標本全体を示す標本全体像を記憶する画像記憶手段(例えば、図1の画像記憶装置4)と、検鏡に使用されている顕微鏡の拡大倍率を示す倍率情報を出力する倍率出力手段(例えば、図1の拡大倍率読み取り器9M)と、標本が配置されたステージの座標を出力する座標出力手段(例えば、図1のX座標読み取り器8XおよびY座標読み取り器8Y)と、倍率情報および座標から、標本のうち現在検鏡している範囲を演算する演算手段(例えば、図1のコンピュータ6)と、標本のうち検鏡済みの領域を記憶する検鏡済み領域記憶手段(例えば、図1の検査済み領域記億装置7)と、画像記憶手段が記憶した標本全体像、演算手段が演算した現在検鏡している範囲、および検鏡済み領域記憶手段が記憶した検鏡済み領域を合成して出力する画像合成手段(例えば、図1の画像合成装置5)と、画像合成手段が
出力した合成像を表示する表示手段(例えば、図1のモニ夕10)とを備えることを特徴とする。」

訂正事項c:
段落番号【0007】を明りょうでない記載の釈明を目的として下記のとおり訂正する。
「【0007】請求項1に記載の検鏡支援装置においては、撮影手段が、検鏡対象である標本を撮影し、画像記憶手段が、撮影手段が撮影した標本を示す標本像を記憶し、倍率出力手段が、検鏡に使用されている顕微鏡の拡大倍率を示す倍率情報を出力し、座標出力手段が、標本が配置されたステージの座標を出力し、演算手段が、倍率情報および座標から、標本のうち現在検鏡している範囲を演算し、検鏡済み領域記憶手段が、標本のうち検鏡済みの領域を記憶し、画像合成手段が、前記画像記憶手段が記憶した標本像、演算手段が演算した現在検鏡している範囲、および検鏡済み領域記憶手段が記憶した検鏡済み領域を合成して出力する。請求項2に記載の検鏡支援装置においては、撮影手段が、検鏡対象である標本を撮影し、画像記憶手段が、撮影手段が撮影した標本を示す標本像を記憶し、倍率出力手段が、検鏡に使用されている顕微鏡の拡大倍率を示す倍率情報を出力し、座標出力手段が、標本が配置されたステージの座標を出力し、演算手段が、倍率情報および座標から、標本のうち現在検鏡している範囲を演算し、検鏡済み領域記憶手段が、標本のうち検鏡済みの領域を記憶し、画像合成手段が、画像記憶手段が記憶した標本像、演算手段が演算した現在検鏡している範囲、および検鏡済み領域記憶手段が記憶した検鏡済み領域を合成して出力し、表示手段が、画像合成手段が出力した合成像を表示する。請求項3に記載の検鏡支援装置は、撮影手段が、検鏡対象である標本全体を撮影し、画像記憶手段が、撮影手段が撮影した標本全体を示す標本全体像を記憶し、倍率出力手段が、検鏡に使用されている顕微鏡の拡大倍率を示す倍率情報を出力し、座標出力手段が、標本が配置されたステージの座標を出力し、演算手段が、倍率情報および座標から、標本のうち現在検鏡している範囲を演算し、検鏡済み領域記憶手段が、標本のうち検鏡済みの領域を記憶し、合成手段が、画像記憶手段が記憶した標本全体像、演算手段が演算した現在検鏡している範囲、および検鏡済み領域記憶手段が記憶した検鏡済み領域を合成して出力し、表示手段が、画像合成手段が出力した合成像を表示する。」

《2-2》訂正の目的の適否、新規事項の有無及び拡張・変更の存否
上記訂正事項a〜cは願書に添付した明細書及び図面に記載した事項の範囲内で、それぞれ、特許請求の範囲の減縮、不明りょうな記載の釈明を目的とするものであり、これらの訂正は実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。

《2-3》むすび
以上のとおりであるから、上記訂正は、特許法第120条の4第2項及び第3項で規定する訂正について、平成6年12月14日法律第116号附則第6条第1項の規定により、なお従前の例によるとされる改正前の特許法第126条第1項ただし書き、同第2項にて規定する要件を満たすものである。

【3】特許異議の申立てについての判断
《3-1》申立ての理由の概要
申立人 富岡康之は、甲第1号証(特開昭64-20449号公報)を提示し、本件の請求項1〜3に係る発明は、甲第1号証の刊行物に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明できたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである旨主張している。

《3-2》本件の発明
本件の請求項1〜3に係る発明は、上記訂正請求書にて訂正された特許請求の範囲の請求項1〜3に記載された以下のとおりのものである。
「【請求項1】 検鏡対象である標本を撮影する撮影手段と、
前記撮影手段が撮影した標本を示す標本像を記憶する画像記憶手段と、
検鏡に使用されている顕微鏡の拡大倍率を示す倍率情報を出力する倍率出力手段と、
前記標本が配置されたステージの座標を出力する座標出力手段と、
前記倍率情報および前記座標から、前記標本のうち現在検鏡している範囲を演算する演算手段と、
前記標本のうち検鏡済みの領域を記憶する検鏡済み領域記憶手段と、
前記画像記憶手段が記憶した標本像、前記演算手段が演算した現在検鏡している範囲、および前記検鏡済み領域記憶手段が記憶した検鏡済み領域を合成して出力する画像合成手段とを備えることを特徴とする検鏡支援装置。
【請求項2】 検鏡対象である標本を撮影する撮影手段と、
前記撮影手段が撮影した標本を示す標本像を記憶する画像記憶手段と、
検鏡に使用されている顕微鏡の拡大倍率を示す倍率情報を出力する倍率出力手段と、
前記標本が配置されたステージの座標を出力する座標出力手段と、
前記倍率情報および前記座標から、前記標本のうち現在検鏡している範囲を演算する演算手段と、
前記標本のうち検鏡済みの領域を記憶する検鏡済み領域記憶手段と、
前記画像記憶手段が記憶した標本像、前記演算手段が演算した現在検鏡している範囲、および前記検鏡済み領域記憶手段が記憶した検鏡済み領域を合成して出力する画像合成手段と、
前記画像合成手段が出力した合成像を表示する表示手段とを備えることを特徴とする検鏡支援装置。
【請求項3】 検鏡対象である標本全体を撮影する撮影手段と、
前記撮影手段が撮影した標本全体を示す標本全体像を記憶する画像記憶手段と、
検鏡に使用されている顕微鏡の拡大倍率を示す倍率情報を出力する倍率出力手段と、
前記標本が配置されたステージの座標を出力する座標出力手段と、
前記倍率情報および前記座標から、前記標本のうち現在検鏡している範囲を演算する演算手段と、
前記標本のうち検鏡済みの領域を記憶する検鏡済み領域記憶手段と、
前記画像記憶手段が記憶した標本全体像、前記演算手段が演算した現在検鏡している範囲、および前記検鏡済み領域記憶手段が記憶した検鏡済み領域を合成して出力する画像合成手段と、
前記画像合成手段が出力した合成像を表示する表示手段とを備えることを特徴とする検鏡支援装置。」
(以下、請求項順に「本件発明1」ないし「本件発明3」という。)

《3-3》甲第1号証刊行物の記載事項
甲第1号証(特開昭64-20449号公報)
[1]
第1頁左下欄5行〜9行に「診断センタにいる病理学者が、診断センタから離れた場所にある試料に関連して病理学的な診断見解を表明できるようにするシステムにおいて、上記離れた場所にある顕微鏡であって」と記載され、第4頁右上欄下から4行目〜左下欄下から6行目に「好ましい実施例によれば、このシステムは、位置信号を発生するように顕微鏡に関連された手段を備えており、これにより、観察される点のX、Y及びZ座標が両方向性の通信手段を経て病理学者のワークステーションへ送られる。更に、好ましい実施例では、病理学者のワークステーションに第1のマイクロプロセッサを備えていると共に、離れた位置に第2のマイクロプロセッサを備えており、第1のマイクロプロセッサは、両方向性の通信手段を経て送られるべき制御信号を処理すると共に、受信した位置信号を処理し、そして第2のマイクロプロセッサは、両方向性の通信手段を経て送られるべき位置信号を処理すると共に、受信した制御信号を処理する。又、この好ましいシステムは、試料の形状を表わしているマップを形成してこれを第2モニタ上にグラフ表示すると共に、そのとき観察されている顕微鏡視野の相対的な位置をこのマップ上に表示するための手段も備えている。」と記載されている。
[2]
第7頁右上欄1行目〜11行目に「第3図は、本発明の好ましいシステムの主たるシステム機能を概略的に示している。試料は、スライド(スライドガラス)42にのせられ、…試料の像は、顕微鏡44のレンズによって拡大され、ビデオカメラ46によってピックアップされて電子的な映像信号に変換される。この映像信号は、通信リンク48を経て病理学者のワークステーション52に送られ、ビデオ表示モニタ56において病理学者によって観察される。」と記載され、
第7頁左下欄15行〜20行に「第4図は、別の好ましい実施例のシステムを概略的に示している。ここに示す実施例は、電子的な像の記録及び写真再現機能を備えている。第3図に示す実施例の場合のように、ビデオカメラ62は、ロボットで制御される顕微鏡64によって発生された像を映像信号に変換し、」と記載されている。
[3]
第8頁左上欄10行目〜17行目に「第5図は、本発明の好ましい実施例により構成されたロボット制御式顕微鏡及びその機能を表わす概略図である。好ましい実施例で用いられる顕微鏡82は、その対物レンズに対する試料の相対的な位置を変えるために・・・電動式の試料段83を備えたオリンパスバノックス・・・のようなコンピュータ制御の電動式の光学顕微鏡であるのが好ましい。」と記載されている。
[4]
第9頁右下欄11行目〜15行目に「第8図に示された最も好ましい実施例によれば、ワークステーンョンは、観察されている試料のマップ207、即ち、試料の形状を表わすものを作り出してグラフ表示するためのマップ形成・追跡手段も備えている。」、
第10頁左上欄9行目〜10行目に「試料202は、ガラススライド201上にのせられ、カバースリップ204が被せられる。」、第10頁右上欄12行目〜14行目に「マップ形成・追跡手段は、試料のスライド全体の像を収集するための第2のビデオカメラを備えているのが最も好ましい。」と記載されている。
ここで、第11頁左下欄1行目〜3行目に「第8図は、本発明の最も好ましい実施例による病理学者ワークステーションのマップ形成機能を示す図である。」と記載されているので、第8図のワークステーンョンは、第3図におけるワークステーション52に対応するものである。これらの記載および第8図からこの実施例では、ガラススライド201上にのせられた試料 202(検鏡対象である標本)のスライド全体の像が第2のビデオカメラによって撮影されている。
[5]
第9頁右下欄20行目〜第10頁左上欄8行目に「このマップ207は、制御モニタ103上に表示されることが好ましい。マップが形成されて表示された後に、観察されている視野の相対的な位置が,例えば、色の付いた中空きの円209によってこのマップ上に示される。マップ上のこの円209の直径が、モニタ101上でそのとき観察されている顕微鏡視野211の実際の直径を表わし、即ち、選択された倍率に基づいて円のサイズが調整されるのが最も好ましい。」と記載されている。
ここでいう「選択された倍率」は、第10頁左下欄6行目〜第11頁左上欄2行目の「…又、当該点を観察した倍率を各座標対と共に記憶して、自動的にそれらに復帰できるようにすることも所望される。」における「当該点を観察した倍率」であり、「観察されている視野の相対的な位置」が「当該点を観察した倍率」と共に記憶されている。
[6]
第10頁左上欄10行目〜右上欄11行目に「マップ形成・追跡手段は、マップ207、即ち、試料の形状を示すシルエットを制御モニタ103の窓内に形成する。…又、制御モニタ上には、患者に関する識別情報219及び試料に関する識別情報221も現われ、これらは、遠隔位置から入力されておそらくはワークステーンョンにおいて追加されたものである。又、病理学者が引出し126内のキーボードを用いてその特定の試料に対する彼の診断見解を入力するようにするために制御モニタ103にはスペース223が設けられている。更に、制御モニタは、そのとき観察されている視野のX及びY座標215のような他の顕微鏡パラメータも表示する。これらの座標は、顕微鏡から送られた位置信号によって得られ、これは、スライドの左下の隅をX=0及びY=0として用いることによって決定されるのが好ましい。又、制御モニタは、試料がそのとき拡大されているところの倍率217も表示しなければならない。典型的に、倍率は、選択された特定の対物レンズに対応する。更に、制御モニタ103は、試料の光照射レベルを示すこともできる。」と記載されている。
[7]
第10頁左下欄6行目〜第11頁左上欄2行目に「或いは又、マップ形成・追跡手段は、試料全体を走査させる制御信号を発生するようにプログラムされたデジタルコンピュータを備えてもよい。このコンピュータは、更に、受け取った映像信号を解釈して、試料の周囲のX及びY座標を決定し、上記マップを形成するようにプログラムされる。このマップは、その後、第8図に示すように、制御モニタ上にシルエットとして表示される。更に、コンピュータは、そのとき観察されている視野のマップ上に位置を表示するようにプログラムされる。これは、顕微鏡から受け取った位置信号をX及びY座標に変換することによって行なわれる。又、好ましいマップ形成・追跡手段のデジタルコンピュータは、観察中に病理学者によって選択された点に対するX及びY座標の対を記憶するようにプログラムされる。これらの座標対は、デジタルコンピュータにより、試料をこれらの選択された点に自動的に復帰させるように使用することができる。この復帰を容易にするためのボタンが設けられており、これを押すと、制御信号が自動的に発生され、顕微鏡の当該視野がモニタ101に復帰するまでスライドを移動させる。…これらのボタンは、選択された視野の順序に対応している。即ち、7番目のボタンを押すと、病理学者によって選択された7番目の視野がモニタ101に復帰するようにスライドが復帰される。ボタン124は、その試料に対してどれほど多くの点が選択されたかを指示するように点灯できるのが好ましい。…又、当該点を観察した倍率を各座標対と共に記憶して、自動的にそれらに復帰できるようにすることも所望される。」と記載されている。

以上の記載事項及び第3、4、5、6、8図の内容を総合すると甲第1号証刊行物には、
「検鏡対象である試料202を撮影するビデオカメラ46、62、81、第2のビデオカメラと、(・・・記載事項[2],[3],[4]参照)
試料202のマップ207(試料の形状を示すシルエット)を制御モニタ103の窓内に形成するマップ形成・追跡手段、大量記憶装置54、77と(・・・記載事項[5], [6],[7], 第3、4図参照)
検鏡に使用されている顕微鏡の拡大倍率を示す倍率217を出力する手段と、(・・・記載事項[5],[6]参照)
前記試料202が配置された電動式の試料段の座標を顕微鏡から送られた位置信号に基づいて、スライドの左下の隅をX=0及びY=0とすることによって決定する手段と、(・・・記載事項[5],[6]参照)
前記倍率217および前記座標から、マップが形成されて表示された後に、観察されている視野の相対的な位置を示す、マップ上の色の付いた中空きの円209の直径をモニタ101上で観察されている顕微鏡視野211の実際の直径、即ち、選択された倍率に基づいて円のサイズを調整し、前記試料202の観察されている視野の相対的な位置を示す、マップ上の色の付いた中空きの円209を演算する、マップ形成・追跡手段のコンピュータと、(・・・記載事項[5],[6],[7]参照)
前記試料202のうち、観察中に病理学者によって選択された点に対するX及びY座標の対と当該点を観察した倍率とを各座標対と共に記憶して、デジタルコンピュータにより試料を選択された点に自動的に復帰させるように制御するために、当該選択された点に対するX及びY座標の対と当該点を観察した倍率とを各座標対と共に記憶する手段と、(・・・記載事項[7]参照)
試料の像(マップ207)、観察されている視野の相対的な位置を示すためのマップ上の色の付いた中空きの円209、を合成して出力するための、マップが形成されて表示された後に、観察されている視野の相対的な位置を色の付いた中空きの円209によって第2モニタ(制御モニタ103)のマップ上に表示する手段と(・・・記載事項[1],[6],[7]参照)
を備えることを特徴とするシステム。」
なる発明が記載されている。

《3-4》対比
《3-4-1》本件発明1
本件発明1と甲第1号証刊行物に記載された発明(以下、「引用発明」という。)とを対比する。
引用発明における
(1)「試料202」、
(2)「ビデオカメラ46、62、81、第2のビデオカメラ」、
(3)「試料202のマップ207(試料の形状を示すシルエット)」、
(4)「倍率217を出力する手段」、
(5)「電動式の試料段」、
(6)「座標を顕微鏡から送られた位置信号に基づいて、スライドの左下の隅をX=0及びY=0とすることによって決定する手段」、
(7)「前記倍率217および前記座標から、マップが形成されて表示された後に、観察されている視野の相対的な位置を示す、マップ上の色の付いた中空きの円209の直径をモニタ101上で観察されている顕微鏡視野211の実際の直径、即ち、選択された倍率に基づいて円のサイズを調整し、前記試料202の観察されている視野の相対的な位置を示す、マップ上の色の付いた中空きの円209を演算する、マップ形成・追跡手段のコンピュータ」、
(8)「前記試料202のうち、観察中に病理学者によって選択された点に対するX及びY座標の対と当該点を観察した倍率とを各座標対と共に記憶して、デジタルコンピュータにより試料を選択された点に自動的に復帰させるように制御するために、当該選択された点に対するX及びY座標の対と当該点を観察した倍率とを各座標対と共に記憶する手段」及び
(9)「試料の像(マップ207)、観察されている視野の相対的な位置を示すためのマップ上の色の付いた中空きの円209、を合成して出力するための、マップが形成されて表示された後に、観察されている視野の相対的な位置を色の付いた中空きの円209によって第2モニタ(制御モニタ103)のマップ上に表示する手段」
は、それぞれ、本件発明の
(1)「標本」、
(2)「撮影手段」、
(3)「標本像」、
(4)「倍率情報を出力する倍率出力手段」、
(5)「ステージ」、
(6)「座標出力手段」、
(7)「前記倍率情報および前記座標から、前記標本のうち現在検鏡している範囲を演算する演算手段」、
(8)「前記標本のうち検鏡済みの領域を記憶する検鏡済み領域記憶手段」及び
(9)「前記画像記憶手段が記憶した標本像、前記演算手段が演算した現在検鏡している範囲、および前記検鏡済み領域記憶手段が記憶した検鏡済み領域を合成して出力する画像合成手段」のうち、「前記画像記憶手段が記憶した標本像、前記演算手段が演算した現在検鏡している範囲を合成して出力する画像合成手段」
に相当する。
また、引用発明のシステムは、記載事項[7]によれば、病理学者が顕微鏡による観察を補助するものであるから、検鏡支援装置に属するものである。
してみると、両者は
「検鏡対象である標本を撮影する撮影手段と、
検鏡に使用されている顕微鏡の拡大倍率を示す倍率情報を出力する倍率出力手段と、
前記標本が配置されたステージの座標を出力する座標出力手段と、
前記倍率情報および前記座標から、前記標本のうち現在検鏡している範囲を演算する演算手段と、
前記標本のうち検鏡済みの領域を記憶する検鏡済み領域記憶手段と、
前記画像記憶手段が記憶した標本像、前記演算手段が演算した現在検鏡している範囲を合成して出力する画像合成手段とを備えることを特徴とする検鏡支援装置。」
の点で一致し、以下の[相違点1]及び[相違点2]の点で相違する。

[相違点1]
本件発明1の検鏡支援装置は撮影手段が撮影した標本を示す標本像を記憶する画像記憶手段を備えるのに対して、引用発明はこの手段を明記していない点。

[相違点2]
本件発明1の検鏡支援装置は画像合成手段が検鏡済み領域記憶手段が記憶した検鏡済み領域をも合成するのに対して、引用発明は画像合成手段が検鏡済み領域記憶手段が記憶した検鏡済み領域を合成するとは明記していない点。

《3-4-2》本件発明2
本件発明2は、本件発明1の構成に「画像合成手段が出力した合成像を表示する表示手段」を付加したものである。
これに対して、引用発明は、画像合成手段が出力した合成像、すなわち試料の像(マップ207)と、観察されている視野の相対的な位置を示すためのマップ上の色の付いた中空きの円209とを合成して出力するため、マップが形成されて表示された後に、観察されている視野の相対的な位置を色の付いた中空きの円209によって第2モニタ(制御モニタ103)のマップ上に表示する手段を備えているのであるから、引用発明は、画像合成手段が出力した合成像を表示する表示手段を備えていることは明らかである。
よって、両者を比較すると、前記[相違点1]及び[相違点2]の点で相違し、その他の点で一致する。ただし、前記[相違点1]及び[相違点2]中の「本件発明1」は「本件発明2」と読み替えるものとする。

《3-4-3》本件発明3
本件発明3は、本件発明2の構成のうち、撮影手段の対象である「標本」を「標本全体」とし、記憶手段及び画像合成手段の対象である「標本像」を「標本全体像」と規定したものである。
これに対して、引用発明において、記載事項[1]、[4]、[5]、[7]からみて、標本像である「試料202のマップ207(試料の形状を示すシルエット)」は試料202の全体を表す像であることが明らかであり、本件発明3において「標本像」を「標本全体像」と規定したことによって新たな相違点は生じない。
よって、両者を比較すると、前記[相違点1]及び[相違点2]の点で相違し、その他の点で一致する。ただし、前記[相違点1]及び[相違点2]中の「本件発明1」は「本件発明3」と読み替えるものとする。

《3-5》判断
上記[相違点1]を検討する。甲第1号証刊行物の記載事項[7]によれば、「マップ形成・追跡手段は、試料全体を走査させる制御信号を発生するようにプログラムされたデジタルコンピュータを備えてもよい。このコンピュータは、更に、受け取った映像信号を解釈して、試料の周囲のX及びY座標を決定し、上記マップを形成するようにプログラムされる。このマップは、その後、第8図に示すように、制御モニタ上にシルエットとして表示される。」と記載されている。よって、引用発明も受け取った映像信号(標本像の信号)をコンピュータが受け取り、かつ、解釈するのであるから、当該映像信号を記憶する何らかの記憶手段を有していることは明らかであり、相違点1は、本件発明1〜3と引用発明との実質的な相違とは認められない。

次に上記[相違点2]を検討する。検鏡支援装置に属する甲第1号証刊行物の記載事項[7]によれば、「コンピュータは、更に、受け取った映像信号を解釈して、試料の周囲のX及びY座標を決定し、上記マップを形成するようにプログラムされる。このマップは、その後、第8図に示すように、制御モニタ上にシルエットとして表示される。更に、コンピュータは、そのとき観察されている視野のマップ上に位置を表示するようにプログラムされる。これは、顕微鏡から受け取った位置信号をX及びY座標に変換することによって行われる。又、好ましいマップ形成・追跡手段のデジタルコンピュータは、観察中に病理学者によって選択された点に対するX及びY座標の対を記憶するようにプログラムされる。これらの座標対は、デジタルコンピュータにより、試料をこれらの選択された点に自動的に復帰させるように使用することができる。」と記載されている。つまり、引用発明も、検鏡済み領域を記憶しているのであって、当該領域を、画像合成手段によって他の画像と合成することが明示されていないだけである。ところで、引用発明は病理学者が顕微鏡による観察を補助するものであるから、引用発明に接した当業者にとって、病理学者がより容易に必要な点に復帰させ得るように、復帰可能な点(検鏡済み領域)を視覚化して病理学者に提示しようとするのは当然のことであって、引用発明は検鏡済み領域を記憶しているのであるから、画像合成手段が出力した合成像、すなわち試料の像(マップ207)に、色の付いた中空きの円209とともに、当該記憶されている検鏡済み領域を合成して出力することに格別の困難はなく、当業者が容易に想到できる事項である。

そして、本件発明1〜3の構成によって生じる効果は甲第1号証刊行物の記載から予測される範囲のものである。

よって、本件発明1〜3は、甲第1号証刊行物に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明できたものである。

《3-6》むすび
従って、本件の請求項1〜3に係る発明は、特許法第29条第2項の規定に違反して特許されたものであり、特許法等の一部を改正する法律(平成6年法律第116号)附則第14条の規定に基づく、特許法等の一部を改正する法律の施行に伴う経過措置を定める政令(平成7年政令第205号)第4条第2項の規定により取り消されるべきものである。
よって、結論のとおり決定する。

 
発明の名称 (54)【発明の名称】
検鏡支援装置
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】 検鏡対象である標本を撮影する撮影手段と、
前記撮影手段が撮影した標本を示す標本像を記憶する画像記憶手段と、
検鏡に使用されている顕微鏡の拡大倍率を示す倍率情報を出力する倍率出力手段と、
前記標本が配置されたステージの座標を出力する座標出力手段と、
前記倍率情報および前記座標から、前記標本のうち現在検鏡している範囲を演算する演算手段と、
前記標本のうち検鏡済みの領域を記憶する検鏡済み領域記憶手段と、
前記画像記憶手段が記憶した標本像、前記演算手段が演算した現在検鏡している範囲、および前記検鏡済み領域記憶手段が記憶した検鏡済み領域を合成して出力する画像合成手段とを備えることを特徴とする検鏡支援装置。
【請求項2】 検鏡対象である標本を撮影する撮影手段と、
前記撮影手段が撮影した標本を示す標本像を記憶する画像記憶手段と、
検鏡に使用されている顕微鏡の拡大倍率を示す倍率情報を出力する倍率出力手段と、
前記標本が配置されたステージの座標を出力する座標出力手段と、
前記倍率情報および前記座標から、前記標本のうち現在検鏡している範囲を演算する演算手段と、
前記標本のうち検鏡済みの領域を記憶する検鏡済み領域記憶手段と、
前記画像記憶手段が記憶した標本像、前記演算手段が演算した現在検鏡している範囲、および前記検鏡済み領域記憶手段が記憶した検鏡済み領域を合成して出力する画像合成手段と、
前記画像合成手段が出力した合成像を表示する表示手段とを備えることを特徴とする検鏡支援装置。
【請求項3】 検鏡対象である標本全体を撮影する撮影手段と、
前記撮影手段が撮影した標本全体を示す標本全体像を記憶する画像記憶手段と、
検鏡に使用されている顕微鏡の拡大倍率を示す倍率情報を出力する倍率出力手段と、
前記標本が配置されたステージの座標を出力する座標出力手段と、
前記倍率情報および前記座標から、前記標本のうち現在検鏡している範囲を演算する演 算手段と、
前記標本のうち検鏡済みの領域を記憶する検鏡済み領域記憶手段と、
前記画像記憶手段が記憶した標本全体像、前記演算手段が演算した現在検鏡している範囲、および前記検鏡済み領域記憶手段が記憶した検鏡済み領域を合成して出力する画像合成手段と、
前記画像合成手段が出力した合成像を表示する表示手段とを備えることを特徴とする検鏡支援装置。
【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、顕微鏡によって例えば生物標本のように様々な形体がある標本を検査することを支援する検鏡支援装置に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
従来、顕微鏡によって標本を検査する場合、観察者は、目で標本を観察して標本の形状を記憶し、標本の拡大像を検査していた。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】
上述の従来の方法では、観察者が、標本全体の形状およびスライドガラス上の標本の数等を、頭で記憶していたため、検鏡の際、標本の一部分の検査を見落としたり、標本の同一部分を重複して検査する危険性が高かった。
【0004】
特に、遠隔地において顕微鏡画像を検査する場合、実際の標本全体の形状を把握できないため、標本の検査の見落としや、標本の重複検査を行う可能性が高くなる。
【0005】
本発明は、従来のこのような問題点を解決すべくなされたもので、標本の検査の見落としや、標本の重複検査を防止する検鏡支援装置を提供することを目的とする。
【0006】
【課題を解決するための手段】請求項1に記載の検鏡支援装置は、検鏡対象である標本を撮影する撮影手段(例えば、図1の画像取り込み装置3)と、撮影手段が撮影した標本を示す標本像を記憶する画像記憶手段(例えば、図1の画像記憶装置4)と、検鏡に使用されている顕微鏡の拡大倍率を示す倍率情報を出力する倍率出力手段(例えば、図1の拡大倍率読み取り器9M)と、標本が配置されたステージの座標を出力する座標出力手段(例えば、図1のX座標読み取り器8XおよびY座標読み取り器8Y)と、倍率情報および座標から、標本のうち現在検鏡している範囲を演算する演算手段(例えば、図1のコンピュータ6)と、標本のうち検鏡済みの領域を記憶する検鏡済み領域記憶手段(例えば、図1の検査済み領域記憶装置7)と、前記画像記憶手段が記憶した標本像、演算手段が演算した現在検鏡している範囲、および検鏡済み領域記憶手段が記憶した検鏡済み領域を合成して出力する画像合成手段(例えば、図1の画像合成装置5)とを備えることを特徴とする。請求項2に記載の検鏡支援装置は、検鏡対象である標本を撮影する撮影手段(例えば、図1の画像取り込み装置3)と、撮影手段が撮影した標本を示す標本像を記憶する画像記憶手段(例えば、図1の画像記憶装置4)と、検鏡に使用されている顕微鏡の拡大倍率を示す倍率情報を出力する倍率出力手段(例えば、図1の拡大倍率読み取り器9M)と、標本が配置されたステージの座標を出力する座標出力手段(例えば、図1のX座標読み取り器8XおよびY座標読み取り器8Y)と、倍率情報および座標から、標本のうち現在検鏡している範囲を演算する演算手段(例えば、図1のコンピュータ6)と、標本のうち検鏡済みの領域を記憶する検鏡済み領域記憶手段(例えば、図1の検査済み領域記憶装置7)と、画像記憶手段が記憶した標本像、演算手段が演算した現在検鏡している範囲、および検鏡済み領域記憶手段が記憶した検鏡済み領域を合成して出力する画像合成手段(例えば、図1の画像合成装置5)と、画像合成手段が出力した合成像を表示する表示手段(例えば、図1のモニタ10)とを備えることを特徴とする。請求項3に記載の検鏡支援装置は、検鏡対象である標本全体を撮影する撮影手段(例えば、図1の画像取り込み装置3)と、撮影手段が撮影した標本全体を示す標本全体像を記憶する画像記憶手段(例えば、図1の画像記憶装置4)と、検鏡に使用されている顕微鏡の拡大倍率を示す倍率情報を出力する倍率出力手段(例えば、図1の拡大倍率読み取り器9M)と、標本が配置されたステージの座標を出力する座標出力手段(例えば、図1のX座標読み取り器8XおよびY座標読み取り器8Y)と、倍率情報および座標から、標本のうち現在検鏡している範囲を演算する演算手段(例えば、図1のコンピュータ6)と、標本のうち検鏡済みの領域を記憶する検鏡済み領域記憶手段(例えば、図1の検査済み領域記憶装置7)と、画像記憶手段が記憶した標本全体像、演算手段が演算した現在検鏡している範囲、および検鏡済み領域記憶手段が記憶した検鏡済み領域を合成して出力する画像合成手段(例えば、図1の画像合成装置5)と、画像合成手段が出力した合成像を表示する表示手段(例えば、図1のモニタ10)とを備えることを特徴とする。
【0007】請求項1に記載の検鏡支援装置においては、撮影手段が、検鏡対象である標本を撮影し、画像記憶手段が、撮影手段が撮影した標本を示す標本像を記憶し、倍率出力手段が、検鏡に使用されている顕微鏡の拡大倍率を示す倍率情報を出力し、座標出力手段が、標本が配置されたステージの座標を出力し、演算手段が、倍率情報および座標から、標本のうち現在検鏡している範囲を演算し、検鏡済み領域記憶手段が、標本のうち検鏡済みの領域を記憶し、画像合成手段が、前記画像記憶手段が記憶した標本像、演算手段が演算した現在検鏡している範囲、および検鏡済み領域記憶手段が記憶した検鏡済み領域を合成して出力する。請求項2に記載の検鏡支援装置においては、撮影手段が、検鏡対象である標本を撮影し、画像記憶手段が、撮影手段が撮影した標本を示す標本像を記憶し、倍率出力手段が、検鏡に使用されている顕微鏡の拡大倍率を示す倍率情報を出力し、座標出力手段が、標本が配置されたステージの座標を出力し、演算手段が、倍率情報および座標から、標本のうち現在検鏡している範囲を演算し、検鏡済み領域記憶手段が、標本のうち検鏡済みの領域を記憶し、画像合成手段が、画像記憶手段が記憶した標本像、演算手段が演算した現在検鏡している範囲、および検鏡済み領域記憶手段が記憶した検鏡済み領域を合成して出力し、表示手段が、画像合成手段が出力した合成像を表示する。請求項3に記載の検鏡支援装置は、撮影手段が、検鏡対象である標本全体を撮影し、画像記憶手段が、撮影手段が撮影した標本全体を示す標本全体像を記憶し、倍率出力手段が、検鏡に使用されている顕微鏡の拡大倍率を示す倍率情報を出力し、座標出力手段が、標本が配置されたステージの座標を出力し、演算手段が、倍率情報および座標から、標本のうち現在検鏡している範囲を演算し、検鏡済み領域記憶手段が、標本のうち検鏡済みの領域を記憶し、合成手段が、画像記憶手段が記憶した標本全体像、演算手段が演算した現在検鏡している範囲、および検鏡済み領域記憶手段が記憶した検鏡済み領域を合成して出力し、表示手段が、画像合成手段が出力した合成像を表示する。
【0008】
【発明の実施の形態】図1は、本発明の検鏡支援装置の一実施例の構成を示す。全範囲観察装置1は、透過照明装置11上に固定された基準位置決め装置12に位置決めされたスライドガラス13G上の標本13の全体(すなわちスライドガラス13Gの2/3の領域13A(図5参照))を観察できるものである。
【0009】図2、図3および図4は、図1の基準位置決め装置12の一構成例を示す正面図、平面図および側面図である。図5および図6は、図1の標本13用のスライドガラス13Gの一例を示す平面図および側面図である。基準位置決め装置12の前基準面12F、右基準面12Rおよび底基準面12Bは、それぞれ、標本用スライドガラス13Gの基準前面13F、基準右端面13Rおよび基準底面13Bに対応している。
【0010】画像取り込み装置3は、基準位置決め装置12すなわち標本用スライドガラス13Gの上方に配置されるように透過照明装置11の支柱11Pに取り付けられたテレビカメラ装置36からなっている。テレビカメラ装置36は、マクロレンズ34と、CCD35とを有する。画像取り込み装置3は、スライドガラス13Gの領域13Aすなわち標本13の全体を撮影する。撮影された標本13の全体を示す画像は、画像記憶装置4に記憶される。
【0011】座標読み取り可能ステージ8は、標本用スライドガラス13Gを位置決めする位置決め部材8Pを有している。位置決め部材8Pの右基準面8Rおよび前基準面8Fは、基準位置決め装置12の右基準面12Rおよび前基準面12Fにそれぞれ一致している。また、座標読み取り可能ステージ8は、X軸座標読み取り器8XおよびY軸座標読み取り器8Yを有する。X軸座標読み取り器8XおよびY軸座標読み取り器8Yは、それぞれ、ステージ8のX座標およびY座標を読み取って、読み取った座標値をコンピュータ6に供給する。前述のように、ステージ8の位置決め部材8Pの右基準面8Rおよび前基準面8Fは、画像取り込み装置3のための基準位置決め装置12の右基準面12Rおよび前基準面12Fにそれぞれ一致しているので、ステージ8のX座標およびY座標を読み取ることにより、標本13全体に対するステージ8の現在位置を知ることができる。
【0012】座標読み取り可能ステージ8は、拡大倍率読み取り可能顕微鏡9に取り付けられている。拡大倍率読み取り可能顕微鏡9は、座標読み取り可能ステージ8に位置決めされた標本用スライドガラス13G上の標本13を検鏡するためのもので、倍率読み取り器9Mを有している。倍率読み取り器9Mによって読み取られた顕微鏡9の拡大倍率は、コンピュータ6に供給される。
【0013】コンピュータ6は、X軸座標読み取り器8XおよびY軸座標読み取り器8Yから供給されたステージ8のX座標およびY座標、ならびに倍率読み取り器9Mから供給された顕微鏡9の拡大倍率から、標本13のうち現在検鏡している範囲を演算により求める。
【0014】検査済み領域記憶装置7は、標本13のうち検鏡済みの領域を記憶する。コンピュータ6は、検査済み領域記憶装置7から標本13の検鏡済みの領域を読み出し、自ら演算により求めた現在検鏡している範囲と比較し、検鏡済みの領域と現在検鏡している範囲とが区別できる態様で、両者を画像合成装置5に供給する。また、コンピュータ6は、画像記憶装置4から標本13の全体像を読み出して、画像合成装置5に転送する。画像合成装置5は、コンピュータ6から供給された検鏡済みの領域および現在検鏡している範囲、ならびに画像記憶装置4から転送された標本13の全体像を合成した合成画像を出力する。モニタ10は、画像合成装置5が出力する合成像を表示する。
【0015】図7は、図1の実施例の動作例を示す。以下、図7を参照して図1の実施例の動作を説明する。まず、観察者は、標本13が配置されたスライドガラス13Gを位置決め装置12に載置し(ステップS1)、テレビカメラ装置36によって標本13の全体画像を撮影する(ステップS2)。撮影された標本13の全体画像は、画像記憶装置4に記憶される。
【0016】次に、観察者は、標本13が配置されたスライドガラス13Gをステージ8に載置し、位置決め部材8Pによってガラス13Gを位置決めし(ステップS3)、顕微鏡9によって標本13を観察する。このとき、X軸座標読み取り器8XおよびY軸座標読み取り器8Yからステージ8のX座標およびY座標が、コンピュータ6に供給されるとともに、倍率読み取り器9Mから顕微鏡9の拡大倍率が、コンピュータ6に供給される(ステップS4)。これに応じて、コンピュータ6は、標本13のうち現在検鏡している範囲を演算により求める(ステップS5)。
【0017】次に、コンピュータ6は、検査済み領域記憶装置7から標本13の検鏡済みの領域を読み出し(ステップS6)、自ら演算により求めた現在検鏡している範囲と比較し、検鏡済みの領域と現在検鏡している範囲とが区別できる態様で、両者を画像合成装置5に供給する(ステップS7)。また、コンピュータ6は、画像記憶装置4から標本13の全体像を読み出して、画像合成装置5に転送する。画像合成装置5は、コンピュータ6から供給された検鏡済みの領域および現在検鏡している範囲、ならびに画像記憶装置4から転送された標本13の全体像を合成した合成画像を作成する(ステップS8)。モニタ10は、画像合成装置5が出力する合成像を表示する(ステップS9)。
【0018】図8は、図1のモニタ10の一表示例を示す。図8に示されているように、モニタ10には、標本13の全体像80上に、現在検鏡している領域82および検査済み領域84が異なる色で表示される。また、ステージ8の座標および顕微鏡の拡大倍率が変化すると、それに応じて、現在検鏡している領域82および検査済み領域84の表示が変化する。従って、観察者は、標本13の全体像に対する現在検鏡している領域および検査済み領域の位置を確実に把握できるので、標本の検査の見落としや、標本の重複検査を行ってしまうことがなくなる。
【0019】なお、上記実施例においては、全体画像取り込み装置3として、テレビカメラ装置36を使用しているが、この代わりに、フィルムスキャナ装置を使用してもよい。
【0020】
【発明の効果】以上のように、請求項1に記載の検鏡支援装置、請求項2に記載の検鏡支援装置、および請求項3に記載の検鏡支援装置によれば、画像記憶手段が、撮影手段が撮影した標本像を記憶し、演算手段が、倍率情報および座標から、標本のうち現在検鏡している範囲を演算し、合成手段が、画像記憶手段が記憶した標本像、演算手段が演算した現在検鏡している範囲、および検鏡済み領域記憶手段が記憶した検鏡済み領域を合成して出力するようにしたので、観察者は、標本の全体像、現在検鏡している範囲および検鏡済み範囲を、表示された合成像から把握することができるので、標本の検査の見落としや、標本の重複検査を防ぐことが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の検鏡支援装置の一実施例の構成を示すブロック図である。
【図2】図1の基準位置決め装置12の一構成例を示す正面図である。
【図3】図1の基準位置決め装置12の一構成例を示す平面図である。
【図4】図1の基準位置決め装置12の一構成例を示す側面図である。
【図5】図1の標本用スライドガラス13Gの一例を示す平面図である。
【図6】図1の標本用スライドガラス13Gの一例を示す側面図である。
【図7】図1の実施例の動作例を示すフローチャートである。
【図8】図1のモニタ10の一表示例を示す図である。
【符号の説明】
1 全範囲観察装置
3 画像取り込み装置
4 画像記憶装置
5 画像合成装置
6 コンピュータ
7 検査済み領域記憶装置
8 座標読み取り可能ステージ
8X X軸座標読み取り器
8Y Y軸座標読み取り器
9 拡大倍率読み取り可能顕微鏡
9M 倍率読み取り器
10 モニタ
12 基準位置決め装置
13 標本
13G 標本用スライドガラス
 
訂正の要旨 訂正の要旨
上記訂正請求書にて、特許権者が求めている訂正の内容は、以下のa〜cのとおりである。
訂正事項a:
特許請求の範囲の【請求項1】の記載を、特許請求の範囲の減縮を目的として、以下のとおり訂正する。
「【請求項1】 検鏡対象である標本を撮影する撮影手段と、
前記撮影手段が撮影した標本を示す標本像を記憶する画像記憶手段と、
検鏡に使用されている顕微鏡の拡大倍率を示す倍率情報を出力する倍率出力手段と、
前記標本が配置されたステージの座標を出力する座標出力手段と、
前記倍率情報および前記座標から、前記標本のうち現在検鏡している範囲を演算する演算手段と、
前記標本のうち検鏡済みの領域を記憶する検鏡済み領域記憶手段と、
前記画像記憶手段が記憶した標本像、前記演算手段が演算した現在検鏡している範囲、および前記検鏡済み領域記憶手段が記憶した検鏡済み領域を合成して出力する画像合成手段とを備えることを特徴とする検鏡支援装置。」
訂正事項b:
段落番号【0006】を明りょうでない記載の釈明を目的として下記のとおり訂正する。
「【0006】
【課題を解決するための手段】請求項1に記載の検鏡支援装置は、検鏡対象である標本を撮影する撮影手段(例えば、図1の画像取り込み装置3)と、撮影手段が撮影した標本を示す標本像を記憶する画像記憶手段(例えば、図1の画像記憶装置4)と、検鏡に使用されている顕微鏡の拡大倍率を示す倍率情報を出力する倍率出力手段(例えば、図1の拡大倍率読み取り器9M)と、標本が配置されたステージの座標を出力する座標出力手段(例えば、図1のX座標読み取り器8XおよびY座標読み取り器8Y)と、倍率情報および座標から、標本のうち現在検鏡している範囲を演算する演算手段(例えば、図1のコンピュータ6)と、標本のうち検鏡済みの領域を記憶する検鏡済み領域記憶手段(例えば、図1の検査済み領域記億装置7)と、前記画像記憶手段が記憶した標本像、演算手段が演算した現在検鏡している範囲、および検鏡済み領域記憶手段が記憶した検鏡済み領域を合成して出力する画像合成手段(例えば、図1の画像合成装置5)とを備えることを特徴とする。請求項2に記載の検鏡支援装置は、検鏡対象である標本を撮影する撮影手段(例えば、図1の画像取り込み装置3)と、撮影手段が撮影した標本を示す標本像を記憶する画像記憶手段(例えば、図1の画像記億装置4)と、検鏡に使用されている顕微鏡の拡大倍率を示す倍率情報を出力する倍率出力手段(例えば、図1の拡大倍率読み取り器9M)と、標本が配置されたステージの座標を出力する座標出力手段(例えば、図1のX座標読み取り器8XおよびY座標読み取り器8Y)と、倍率情報および座標から、標本のうち現在検鏡している範囲を演算する演算手段(例えば、図1のコンピュータ6)と、標本のうち検鏡済みの領域を記憶する検鏡済み領域記憶手段(例えば、図1の検査済み領域記億装置7)と、画像記憶手段が記憶した標本像、演算手段が演算した現在検鏡している範囲、および検鏡済み領域記憶手段が記憶した検鏡済み領域を合成して出力する画像合成手段(例えば、図1の画像合成装置5)と、画像合成手段が出力した合成像を表示する表示手段(例えば、図1のモニタ10)とを備えることを特徴とする。請求項3に記載の検鏡支援装置は、検鏡対象である標本全体を撮影する撮影手段(例えば、図1の画像取り込み装置3)と、撮影手段が撮影した標本全体を示す標本全体像を記憶する画像記憶手段(例えば、図1の画像記憶装置4)と、検鏡に使用されている顕微鏡の拡大倍率を示す倍率情報を出力する倍率出力手段(例えば、図1の拡大倍率読み取り器9M)と、標本が配置されたステージの座標を出力する座標出力手段(例えば、図1のX座標読み取り器8XおよびY座標読み取り器8Y)と、倍率情報および座標から、標本のうち現在検鏡している範囲を演算する演算手段(例えば、図1のコンピュータ6)と、標本のうち検鏡済みの領域を記憶する検鏡済み領域記憶手段(例えば、図1の検査済み領域記億装置7)と、画像記憶手段が記憶した標本全体像、演算手段が演算した現在検鏡している範囲、および検鏡済み領域記憶手段が記憶した検鏡済み領域を合成して出力する画像合成手段(例えば、図1の画像合成装置5)と、画像合成手段が
出力した合成像を表示する表示手段(例えば、図1のモニタ10)とを備えることを特徴とする。」
訂正事項c:
段落番号【0007】を明りょうでない記載の釈明を目的として下記のとおり訂正する。
「【0007】請求項1に記載の検鏡支援装置においては、撮影手段が、検鏡対象である標本を撮影し、画像記憶手段が、撮影手段が撮影した標本を示す標本像を記憶し、倍率出力手段が、検鏡に使用されている顕微鏡の拡大倍率を示す倍率情報を出力し、座標出力手段が、標本が配置されたステージの座標を出力し、演算手段が、倍率情報および座標から、標本のうち現在検鏡している範囲を演算し、検鏡済み領域記憶手段が、標本のうち検鏡済みの領域を記憶し、画像合成手段が、前記画像記憶手段が記憶した標本像、演算手段が演算した現在検鏡している範囲、および検鏡済み領域記憶手段が記憶した検鏡済み領域を合成して出力する。請求項2に記載の検鏡支援装置においては、撮影手段が、検鏡対象である標本を撮影し、画像記憶手段が、撮影手段が撮影した標本を示す標本像を記憶し、倍率出力手段が、検鏡に使用されている顕微鏡の拡大倍率を示す倍率情報を出力し、座標出力手段が、標本が配置されたステージの座標を出力し、演算手段が、倍率情報および座標から、標本のうち現在検鏡している範囲を演算し、検鏡済み領域記憶手段が、標本のうち検鏡済みの領域を記憶し、画像合成手段が、画像記憶手段が記憶した標本像、演算手段が演算した現在検鏡している範囲、および検鏡済み領域記憶手段が記憶した検鏡済み領域を合成して出力し、表示手段が、画像合成手段が出力した合成像を表示する。請求項3に記載の検鏡支援装置は、撮影手段が、検鏡対象である標本全体を撮影し、画像記憶手段が、撮影手段が撮影した標本全体を示す標本全体像を記憶し、倍率出力手段が、検鏡に使用されている顕微鏡の拡大倍率を示す倍率情報を出力し、座標出力手段が、標本が配置されたステージの座標を出力し、演算手段が、倍率情報および座標から、標本のうち現在検鏡している範囲を演算し、検鏡済み領域記憶手段が、標本のうち検鏡済みの領域を記憶し、合成手段が、画像記憶手段が記憶した標本全体像、演算手段が演算した現在検鏡している範囲、および検鏡済み領域記憶手段が記憶した検鏡済み領域を合成して出力し、表示手段が、画像合成手段が出力した合成像を表示する。」
異議決定日 2001-02-07 
出願番号 特願平8-10495
審決分類 P 1 651・ 121- ZA (G02B)
最終処分 取消  
特許庁審判長 森 正幸
特許庁審判官 柏崎 正男
綿貫 章
登録日 1999-11-19 
登録番号 特許第3003795号(P3003795)
権利者 株式会社ニコン
発明の名称 検鏡支援装置  
代理人 渡辺 隆男  
代理人 渡辺 隆男  

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