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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  H05B
管理番号 1044743
異議申立番号 異議2000-73390  
総通号数 22 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 1993-04-16 
種別 異議の決定 
異議申立日 2000-09-09 
確定日 2001-04-04 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第3017863号「EL素子とその製造方法」の請求項1ないし5に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 訂正を認める。 特許第3017863号の請求項1ないし5に係る特許を取り消す。 
理由 1.手続の経緯
特許第3017863号の請求項1ないし5に係る発明は、平成3年10月1日に特許出願(特願平3-280843号)され、平成11年12月24日に設定登録され、その後、申立人関西日本電気株式会社より全請求項に係る発明について特許異議の申立がなされ、取消理由通知がなされ、その指定期間内である平成13年1月22日に訂正請求がなされたものである。

2.訂正の適否についての判断
ア.訂正の内容
特許権者が求めている訂正の内容は、以下の(1)ないし(6)のとおりである。

(1)特許請求の範囲の請求項1の「吸収して」(特許公報第1欄第3行)を「吸収する厚さで前記EL発光層からの光とは」に訂正する。

(2)特許請求の範囲の請求項1の「設けられ」(特許公報第1欄第5行)を「圧着され」に訂正する。

(3)特許請求の範囲の請求項3の「蛍光層を」(特許公報第1欄第14行)の後に「上記EL発光層からの光をほぼ全て吸収する厚さに」を挿入する。

(4)明細書の発明の詳細な説明の欄の【0006】中の「EL光を吸収して」(特許公報第3欄第41行及び第42行)を、「EL光をほぼ全て吸収する厚さでEL光とは異なる色を」に訂正する。

(5)明細書の発明の詳細な説明の欄の【0006】中の「設けられ」(特許公報第3欄第43行)を、「EL発光層の上に圧着され」に訂正する。

(6)明細書の発明の詳細な説明の欄の【0014】中の「吸収して」(特許公報第5欄第25行)を、「ほぼ吸収する厚さで」に訂正する。

なお、訂正請求書に添付された全文訂正明細書の発明の詳細な説明において、段落番号が全て削除されているが、これは、全文訂正明細書の単なる誤記であると認められる。

イ.訂正の目的の適否、新規事項の有無及び拡張・変更の存否
(1)、(2)及び(3)の訂正事項は、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、当該訂正内容は特許明細書に記載されたもので、新規事項の追加に該当しない。
(4)、(5)及び(6)の訂正事項は、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載との整合をとるためものであり、明りょうでない記載の釈明に相当するもので、新規事項の追加に該当しない。
そして、上記(1)ないし(6)のいずれの訂正も実質上特許請求の範囲を拡張又は変更するものでもない。

ウ.むすび
以上のとおりであるから、上記訂正は、特許法第120条の4第2項及び同条第3項で準用する同法第126条第2項及び第3項の規定に適合するので、当該訂正を認める。

3.特許異議の申立てについての判断
ア.申立ての理由の概要
申立人関西日本電気株式会社は、請求項1ないし5に係る発明は甲第1号証(実開昭51-81577号)、甲第2号証(実開昭63-121397号)、甲第3号証(特開昭63-19796号)、甲第4号証(実開昭63-111795号)、甲第5号証(実開平2-29198号)、甲第6号証(特開平2-312185号)および甲第7号証(特開平2-24994号)に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2号の規定により特許を受けることができないものであり、特許を取り消すべきと主張している。

イ.本件発明
特許第3017863号の請求項1ないし5に係る発明は、訂正後の特許請求の範囲の請求項1ないし5に記載された次のとおりのものである。

「【請求項1】導電性基板上に、EL用の蛍光体を高誘電率バインダに混合したEL発光層が形成され、上記EL発光層からの光をほぼ全て吸収する厚さで前記EL発光層からの光とは異なる色を発光する蛍光染料を高誘電率バインダに配合した蛍光層が、上記EL発光層の上に圧着され、その外側に透明電極が積層され、さらに透明フィルムで被覆されて成ることを特徴とするEL素子。
【請求項2】上記蛍光層は数10μmの厚さに積層されて成ることを特徴とする請求項1記載のEL素子。
【請求項3】高誘電率バインダ中にEL用の蛍光体を混合したEL発光層を導電性基板上に印刷形成するとともに、透明電極を形成した透明基板の上記透明電極上に、EL光により発光する蛍光染料が高誘電率バインダ中に混合された蛍光層を上記EL発光層からの光をほぼ全て吸収する厚さに形成して、上記EL発光層と上記蛍光層とを互いに対面させて熱圧着し、上記蛍光層を上記透明電極と導電性基板の間に位置させることを特徴とするEL素子の製造方法。
【請求項4】上記蛍光層は、上記EL発光層からの光をほぼ全て吸収する厚さに印刷または塗布して形成することを特徴とする請求項3記載のEL素子の製造方法。
【請求項5】上記EL発光層と上記蛍光層とを互いに対面させて約120℃の温度で熱圧着することを特徴とする請求項3記載のEL素子の製造方法。」

ウ.引用刊行物に記載された事項
これに対し、当審が通知した取消理由通知で引用した刊行物には、それぞれ、以下の事項が記載されている。

刊行物1:実願昭50-3111号(実開昭51-81577号)のマイクロフィルム(異議申立人の提出した甲第1号証)
刊行物2:実願昭62-12770号(実開昭63-121397号)のマイクロフィルム(異議申立人の提出した甲第2号証)
刊行物3:特開平2-312185号公報(異議申立人の提出した甲第6号証)

上記刊行物1には、「電界発光灯」に関して以下の事項が図面とともに記載されている。
「第1図において、1は例えばアルミ箔よりなる裏面電極層、2は樹脂バインダ例えばエポキシ系樹脂中に反射物質例えばチタン酸バリウムを混合した絶縁兼反射層、3は同じく樹脂バインダ例えばエポキシ系樹脂中に、緑色蛍光体粉末例えば硫化亜鉛粉末を混入した蛍光体層、4は第2図に拡大して示したように透明樹脂フィルム例えばナイロンフィルム5上に、透明導電物質6例えば酸化インジウムと蛍光顔料7とを混入して塗着した表面電極層」(明細書第3頁第1行〜第10行)
「第3図は本考案の他の実施例を示すもので、第1図と異なるところは、蛍光体層3と表面電極層4との間に、第4図に拡大して示したような、別個の層、すなわち樹脂バインダ、例えばエポキシ系樹脂中に、蛍光顔料7を混入したフィルタ層9を介在させた点で、この場合、表面電極層4中の蛍光顔料7は不必要であるし、又このフィルタ層9を設けることにより、電極間の絶縁が十分となるから、絶縁兼反射層2を省略することもできる。」(同第3頁第12行〜第4頁第1行)
「蛍光体層上の蛍光体層以外の層に、蛍光顔料を混合したから、電界により発光した蛍光体の発光が、その上にある蛍光顔料を万遍無く刺激することができ、輝度並びに合成発光色を格段に優れたものとすることができる。」(同第4頁第2行〜第6行)
以上のことから、刊行物1には、
「裏面電極層上に、電界発光用の蛍光体を樹脂バインダに混合した蛍光体層が形成され、上記蛍光体層からの光に刺激されて異なる色を発光する蛍光顔料を樹脂バインダに配合したフィルタ層が、上記蛍光体層の上に設けられ、その外側に表面電極層が積層され、さらに透明樹脂フィルムで被覆されて成ることを特徴とする電界発光灯。」に係る発明が記載されている。

上記刊行物2には、EL素子に関し以下の事項が図面とともに記載されている。
「スクリーン印刷等の手段により場所ごとに厚みを変えて蛍光フィルタ4が形成されている。」(明細書第6頁第5行〜第6行)
「発光層3からの光が蛍光フィルタ4の肉薄部7を透過すると、ブルーグリーンと赤色との補色関係から、ブルーグリーンの光は白色に変化されるが、それよりも厚い中間厚部6や最も厚い肉厚部5を透過する光は、赤色の影響をより強く受けるため、それぞれ桃色、赤色に変化される。したがって、透明電極1上における蛍光フィルタ4の有無や該蛍光フィルタ4の厚みの違いに応じて、この電場発光装置はブルーグリーン、白色、桃色、赤色といった相異なる複数種類の発光色を呈する」(同第7頁第11行〜第20行)
「染料に代えて顔料を用いてもよいことは、言うまでもない。」(同第8頁第19行〜第20行)

上記刊行物3には、「電界発光灯」に関して以下の事項が図面とともに記載されている。
「この発明は、上記の課題を解決するために、(a)透明電極シートの透明電極層形成側にバインダー層を成膜して、第1のシートを製造する第1の工程と、(b)背面電極となるシートに少なくとも発光層を成膜して第2のシートを製造する第2の工程と、(c)前記第1のシートと前記第2のシートを貼り合わせる工程とを含んだことを特徴とする。」(第2頁左上欄第6行〜第13行)
「透明電極に積層されたバインダー層は、熱圧着によって溶融し、発光層の凹凸の凹の部分に流れ込むように作用し、透明電極シートと発光層の密着性を改善する。そのため本発明は発光輝度を高めるため発光層中の蛍光体の割合を高めたような時にも透明電極シートと発光層の密着力は十分であり、きめ細かい発光の有機分散型電界発光灯を提供する。」(第2頁左上欄第15行〜右上欄第2行)
「背面電極となるアルミ箔3上に絶縁層4及び発光層5を印刷形成する。」(第2頁左下欄第4行〜第5行)

エ.対比・判断
(1)請求項1に係る発明について
請求項1に係る発明と刊行物1に記載された発明を対比すると、刊行物1の「電界発光灯」は「EL素子」であること、「樹脂バインダ」が「高誘電率」のものであることは自明であるから、刊行物1記載のものにおける「裏面電極層」、「蛍光体層」、「表面電極層」および「透明樹脂フィルム」が、それぞれ請求項1に係る発明の「導電性基板」、「EL用の蛍光体を高誘電率バインダに混合したEL発光層」、「透明電極」および「透明フィルム」に相当する。
また、「光に刺激されて異なる色を発光する」ことは「光を吸収して異なる色を発光する」ことと同一の現象であるから、刊行物1記載のものにおける「フィルタ層」は、「EL発光層(刊行物1の「蛍光体層」が相当)からの光を吸収して異なる色を発光する蛍光材料を高誘電率バインダに配合した蛍光層」であるものと認められる。

そうすると、請求項1に係る発明と刊行物1に記載された発明は、
「導電性基板上に、EL用の蛍光体を高誘電率バインダに混合したEL発光層が形成され、上記EL発光層からの光を吸収して異なる色を発光する蛍光材料を高誘電率バインダに配合した蛍光層が、上記EL発光層の上に設けられ、その外側に透明電極が積層され、さらに透明フィルムで被覆されて成ることを特徴とするEL素子。」である点で一致し、
(a)「蛍光材料」に関し、請求項1に係る発明では、「蛍光染料」であるのに対し、刊行物1に記載された発明では「蛍光顔料」である点、
(b)「蛍光層」に関し請求項1に係る発明は、「EL発光層からの光をほぼ全て吸収する厚さ」であるのに対し、刊行物1に記載された発明では、EL発光層からの光の一部を透過させる程度の厚さである点、及び
(c)「蛍光層」に関し請求項1に係る発明では、「EL発光層の上に圧着され」ているのに対し、刊行物1に記載された発明では特に限定されていない点で、それぞれ相違する。

相違点(a)について検討すると、刊行物2に「染料に代えて顔料を用いてもよいことは、言うまでもない。」と記載されているように、「蛍光材料」としてどちらも慣用されているものであり、「蛍光染料」とする程度のことは、当業者が適宜選択すべき設計的事項にすぎない。
また、相違点(b)について検討すると、刊行物2に「蛍光フィルタ4の有無や該蛍光フィルタ4の厚みの違いに応じて、この電場発光装置はブルーグリーン、白色、桃色、赤色といった相異なる複数種類の発光色を呈する」と記載されており、「蛍光フィルタ4」自体は「赤色」を発光するものであるから、「赤色」の発光色を呈する厚みとは、「ブルーグリーン」の「発光層3」からの光を、「蛍光フィルタ4」が「ほぼ全て吸収」する厚みを有することを示している。これを、刊行物1に記載された発明の「蛍光層」に適用して、「EL発光層からの光をほぼ全て吸収する厚さで前記EL発光層からの光とは異なる色を発光する蛍光染料を高誘電率バインダに配合した蛍光層」とすることに格別の困難性は認められない。
さらに、相違点(c)について検討すると、「EL発光層」とその上の「バインダ層」を熱圧着する点は、上記刊行物3に記載されており、これを、刊行物1に記載された発明における「EL発光層」とその上の「蛍光層」(これも「バインダ層」の一態様である)に適用することに、格別の困難性は認められない。
そして、請求項1に係る発明は、上記刊行物1、2および3に記載された発明および慣用された技術を組み合わせたものに相当するが、そうすることにより、これらの公知技術が持つ効果の和以上の格別の効果を奏するものとも認められない。

したがって、請求項1に係る発明は、上記刊行物1、2および3に記載された発明および慣用された技術に基づき当業者が容易に発明をすることができたものである。

(2)請求項2に係る発明について
請求項2に係る発明は、請求項1に係る発明の「蛍光層」の厚さを「数10μm」と限定したものであるが、刊行物2に「蛍光材料」が厚みに応じて「赤色」を呈する、即ち「光をほぼ全て吸収」することが示されており、そのための厚さをどの程度の数値範囲とするかは、当業者が適宜実証的に設定すべき設計事項であり、上記数値の限定に格別の困難性は認められない。

したがって、請求項2に係る発明は、上記刊行物1、2および3に記載された発明および慣用された技術に基づき当業者が容易に発明をすることができたものである。

(3)請求項3に係る発明について
ここで、EL素子において、発光層が「バインダ中にEL用の蛍光体を混合」したものであること、および、「バインダ」が「高誘電率」のものであることは自明であるから、刊行物3には、
「高誘電率バインダ中にEL用の蛍光体を混合した発光層を背面電極となるシート上に印刷形成するとともに、透明電極シートの透明電極形成側に、高誘電率バインダー層を形成して、上記発光層と上記バインダー層とを互いに対面させて熱圧着し、上記バインダー層を上記透明電極と背面電極となるシートの間に位置させることを特徴とするEL素子の製造方法。」に関する発明が記載されている。
請求項3に係る発明と刊行物3に記載された発明を対比すると、刊行物3の「電界発光灯」は「EL素子」であることは自明であり、発光層が「バインダ中にEL用の蛍光体を混合」したものであること、および、「バインダ」が「高誘電率」のものであることは自明であるから、刊行物3記載のものにおける「発光層」、「背面電極となるシート」、「透明電極シート」および「透明電極形成側」が、それぞれ請求項3に係る発明の「高誘電率バインダ中にEL用の蛍光体を混合したEL発光層」、「導電性基板」、「透明電極を形成した透明基板」および「透明電極上」に相当する。
そうすると、請求項3に係る発明と刊行物3に記載された発明は、
「高誘電率バインダ中にEL用の蛍光体を混合したEL発光層を導電性基板上に印刷形成するとともに、透明電極を形成した透明基板の上記透明電極上に、高誘電率バインダを含む層を形成して、上記EL発光層と上記高誘電率バインダを含む層とを互いに対面させて熱圧着し、上記高誘電率バインダを含む層を上記透明電極と導電性基板の間に位置させることを特徴とするEL素子の製造方法。」である点で一致し、
(d)請求項3に係る発明は、「高誘電率バインダを含む層」が「EL光により発光する蛍光染料が高誘電率バインダ中に混合された蛍光層」であり、「EL発光層からの光をほぼ全て吸収する厚さ」であるのに対し、刊行物3にに記載された発明では、「バインダ」のみからなる「高誘電率バインダー層」であって、その厚さについては特に限定されていない点で相違する。

相違点(d)について検討すると、刊行物1には、「EL発光層」と「透明電極」の間に「蛍光顔料を樹脂バインダに配合したフィルタ層」が介在する構成が記載されており、「蛍光材料」として「蛍光染料」も「蛍光顔料」も慣用されているものであるから、刊行物1に記載された当該「フィルタ層」が「EL光により発光する蛍光染料が高誘電率バインダ中に混合された蛍光層」に相当する。
また、「蛍光層」の厚さについても、(1)請求項1に係る発明についての相違点(b)で述べたように、刊行物2に記載されている。
そして、刊行物3に記載された発明の「高誘電率バインダー層」に代えて、刊行物1に記載の「フィルタ層」を適用し、その厚さを刊行物2に記載のようにすることより「EL素子の製造方法」として格別の効果を奏するものとも認められない。

したがって、請求項3に係る発明は、上記刊行物1、2および3に記載された発明および慣用された技術に基づき当業者が容易に発明をすることができたものである。

(4)請求項4に係る発明について
請求項4に係る発明は、請求項3に係る発明の「蛍光層」を「EL発光層からの光をほぼ全て吸収する厚さに印刷または塗布して形成する」と限定したものであるが、先に述べたように、刊行物2に「蛍光材料」が厚みに応じて「光をほぼ全て吸収」することが示されており、その厚さをどの程度とするかは、当業者が適宜実証的に設定すべき設計事項であって、上記厚さの限定に格別の困難性は認められない。
また、EL素子の層の形成方法として「印刷または塗布」することは慣用されており、この点を限定することにも格別の困難性は認められない。

したがって、請求項4に係る発明は、上記刊行物1、2および3に記載された発明および慣用された技術に基づき当業者が容易に発明をすることができたものである。

(5)請求項5に係る発明について
請求項5に係る発明は、請求項3に係る発明の「熱圧着」の温度を「約120℃」と限定したものであるが、温度をどの程度とするかは、バインダの材料、厚さに応じて当業者が適宜実証的に設定すべき設計事項であり、上記数値に限定することにより、格別の効果を奏するものとも認められず、該限定に格別の困難性は認められない。

したがって、請求項5に係る発明は、上記刊行物1、2および3に記載された発明および慣用された技術に基づき当業者が容易に発明をすることができたものである。

オ.むすび
以上の通りであるから、本件請求項1ないし5に係る発明についての特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。
したがって、本件請求項1ないし5に係る発明についての特許は、特許法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。

よって、結論の通り決定する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
EL素子とその製造方法
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】 導電性基板上に、EL用の蛍光体を高誘電率バインダに混合したEL発光層が形成され、上記EL発光層からの光をほぼ全て吸収する厚さで前記EL発光層からの光とは異なる色を発光する蛍光染料を高誘電率バインダに配合した蛍光層が、上記EL発光層の上に圧着され、その外側に透明電極が積層され、さらに透明フィルムで被覆されて成ることを特徴とするEL素子。
【請求項2】 上記蛍光層は数10μmの厚さに積層されて成ることを特徴とする請求項1記載のEL素子。
【請求項3】 高誘電率バインダ中にEL用の蛍光体を混合したEL発光層を導電性基板上に印刷形成するとともに、透明電極を形成した透明基板の上記透明電極上に、EL光により発光する蛍光染料が高誘電率バインダ中に混合された蛍光層を上記EL発光層からの光をほぼ全て吸収する厚さに形成して、上記EL発光層と上記蛍光層とを互いに対面させて熱圧着し、上記蛍光層を上記透明電極と導電性基板の間に位置させることを特徴とするEL素子の製造方法。
【請求項4】 上記蛍光層は、上記EL発光層からの光をほぼ全て吸収する厚さに印刷または塗布して形成することを特徴とする請求項3記載のEL素子の製造方法。
【請求項5】 上記EL発光層と上記蛍光層とを互いに対面させて約120℃の温度で熱圧着することを特徴とする請求項3記載のEL素子の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【産業上の利用分野】
この発明は、いわゆる分散型のEL(エレクトロルミネセンス、以下ELと称す)素子に関し、特に所望の色の光を発するようにしたEL素子とその製造方法に関する。
【従来の技術】
従来、分散型のEL素子は、通常アルミ基板上に、ZnSをバインダ中に混合したEL発光層を印刷形成し、その上に、透明電極が形成された透明フィルムの透明電極側をEL発光層に接するようにして熱圧着し、両者を接合させてEL素子を形成していた。
また、特開平3-15191号公報に開示されているように、ELによる光は緑青色系の光に限られるが、さらに白色光を得たい場合等に、上記と同様の積層構造のEL素子の表面に、桃色光を発する蛍光染料を印刷したものがある。これによって、ELによる光に励起され上記蛍光染料層が桃色光を発し、緑青色光と桃色光で白色系の光を出す様にしたものもある。さらに、EL発光層の中に赤色蛍光染料を混入し、EL発光層の中で、ELによる光とEL光に励起されて発した赤色系の光とにより、白色系の光を得るものもある。
【発明が解決しようとする課題】
上記従来の技術の前者の場合、上述のように従来のEL素子は赤色光を発するものがなく、たとえば液晶表示パネルのバックライト等に上記EL素子を使用すると、フルカラーの表示パネルはできないという問題があった。また、上記従来の技術の後者の場合、赤色系の蛍光染料をEL素子の表面に印刷すると、EL発光による光は、透明電極及びフィルムを通過することになり、透過損失が大きく、これをさらに蛍光発光用に使用すると輝度が落ち、十分な明るさが得られないという問題があった。さらに、従来のEL素子は、EL発光層と透明電極が熱圧着により接合されているが、透明電極とEL層のバインダとは、バインダが乾燥した後は、接着力が弱く、接着むらによる空気層ができやすく、空気層によって、EL層にかかる電界の強さが不均一になり、パネル全面で均一な輝度が得られないという問題があった。
この発明は上記従来の技術の問題点に鑑みて成されたもので、所望の色の光をパネル全面で均一に発光するEL素子とその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
この発明は、導電性基板上に、EL作用をするEL蛍光体を高誘電率バインダに混合したEL発光層が形成され、その上にEL光をほぼ全て吸収する厚さでEL光とは異なる色を発光する蛍光染料を高誘電率バインダに配合した蛍光層がEL発光層の上に圧着され、その上に透明電極が積層し、導電性基板と透明電極でEL発光層と蛍光層を挟んだ構造のEL素子である。上記蛍光層は、上記EL発光層からの光をほぼ全て吸収するように、数10μmの厚さに積層され、異なる色の光を発する。
この発明は、高誘電率バインダ中にEL作用をするEL蛍光体を混合したEL発光層を、導電性基板上に印刷形成するとともに、透明電極を形成した透明基板の上記透明電極上に、EL光により発光する蛍光染料を高誘電率バインダ中に混合した蛍光層を積層し、この後上記EL発光層と上記蛍光層とを対面させて熱圧着するEL素子の製造方法である。上記蛍光層は、上記EL発光層からの光をほぼ全て吸収する厚さに印刷または塗布して形成する。また、上記EL発光層と上記蛍光層は、約120℃の温度で熱圧着する。
【作用】
この発明のEL素子は、ELを利用して所望の色の光を発することができ、高誘電体のバインダどうしが接合されているので接着強度が高く、空気層もできないので均一な発光が得られるものである。
【実施例】
以下この発明の一実施例について図面に基づいて説明する。この実施例のEL素子は、パネル支持、背面電極、放熱、光反射等の各機能を有したアルミ板又はアルミを蒸着したアルミナ板等の導電性基板10と、耐熱性のあるPET等の透明フィルム12の内側に形成された透明電極14との間に、EL発光層16と、蛍光層18が形成されている。透明電極14は、ITO又は、Zn02等の薄膜で形成され、EL発光層16は、ZnS等のEL作用をするEL蛍光体20が、シアノ系レジン等の高誘電率バインダ22中に混合されたものである。蛍光層18は、赤色の蛍光を出す蛍光染料、例えば、パイロニン染料に属する赤色塩基性染料である「Rhodamine B」が配合された高誘電率バインダ24を塗布したものである。透明電極14と導電性基板10には、EL発光を起こさせるための駆動電源26が接続される。
この実施例のEL素子の製造方法について図2を基にして説明する。先ず(A)に示すように、導電性基板10にEL蛍光体20が混合された高誘電率バインダ22を、約数10μmの厚さでスクリーン印刷しEL発光層を形成する。また(B)に示すように、透明フィルム12に透明電極14を蒸着により形成する。そして、(C)に示すように、透明電極14に、赤色の蛍光を出す蛍光染料が配合された高誘電率バインダ24を、数10μmの厚さに印刷又は塗布して蛍光層18を形成する。この後、(D)に示すように、蛍光層18とEL発光層16とを約120℃の温度で加熱しながら約1分間加圧し、蛍光層18とEL発光層16とを接合させる。
この実施例のEL素子は、EL発光層16から出た光は、直接蛍光層18内の蛍光染料に吸収され、蛍光染料がEL光により励起されてフォトルミネセンスにより赤色光を発するものである。この場合、EL光は、ほぼ全て蛍光層18内で吸収あるいは遮断され、外部に発せられる光は、蛍光染料から出た赤色光だけとなるように蛍光層18の厚さや蛍光染料の割合が設定される。また、高誘電率バインダ22,24は、液状のうちに印刷等された場合は、透明電極14等との接着性が良いが、乾燥した後熱圧着する場合は、接着性が悪い。従って、透明電極14にも、蛍光層18を形成する高誘電率バインダ24を塗布することにより、透明電極14と高誘電率バインダ24は強固に接合するものである。また、高誘電体22,24との間は、同種の材料であり熱圧着によっても接着性は良い。
この実施例のEL素子によれば、赤色発光するEL素子を形成することができ、緑色発光のEL素子と、青色発光のEL素子とにより、フルカラーの表示パネルや液晶パネルのバックライトとして使用できるものである。しかも、EL発光層16と蛍光層18が直接熱圧着され、同様の誘電体同士であるので接着性がよく、高誘電体であるので、蛍光層18が透明電極14の下に積層されても、電界の強さは大きく低下せずEL発光には影響が少ない。
なお、この発明のEL素子は、上記実施例に限定されず、蛍光染料の種類は、赤色発光以外に他の色を発光するものでも良く、適宜の種類の蛍光染料を選択できるものである。また、導電性基板は、樹脂フィルム上にアルミニウム等をコートしたものでも良い。
【発明の効果】
この発明のEL素子は、導電性基板上に、高誘電率バインダにEL蛍光体を混合したEL発光層が形成され、その上にEL光をほぼ全て吸収する厚さで所定の波長の光を発する蛍光染料を高誘電率バインダ中に混合した蛍光層が設けられ、その上に透明電極とこの透明電極が形成されたフィルムが積層されているので、EL光が透明電極で減衰する前に効率良く蛍光層に吸収され、EL発光では得られない波長の光を発することができる。しかも、EL発光層と蛍光層との接着性がよくELの発光むらがなく、パネル状にしても均一な発光が得られるものである。また、蛍光層とEL発光層とを熱圧着して基板側と透明電極側とを接合するようにしたので、各層の接着性が良く、熱圧着部も強固に接合され、接着部に空気層もできず、発光むらも生じない。
【図面の簡単な説明】
【図1】
この発明のEL素子の一実施例の縦断面図である。
【図2】
この実施例のEL素子の製造工程を示す縦断面図である。
【符号の説明】
10 導電性基板
12 透明フィルム
14 透明電極
16 EL発光層
18 蛍光層
20 EL蛍光体
22,24 高誘電率バインダ
 
訂正の要旨 (1)特許請求の範囲の請求項1の「吸収して」(特許公報第1欄第3行)を特許請求の範囲の減縮を目的として「吸収する厚さで前記EL発光層からの光とは」に訂正する。
(2)特許請求の範囲の請求項1の「設けられ」(特許公報第1欄第5行)を特許請求の範囲の減縮を目的として「圧着され」に訂正する。
(3)特許請求の範囲の請求項3の「蛍光層を」(特許公報第1欄第14行)の後に特許請求の範囲の減縮を目的として「上記EL発光層からの光をほぼ全て吸収する厚さに」を挿入する。
(4)明細書の発明の詳細な説明の欄の【0006】中の「EL光を吸収して」(特許公報第3欄第41行及び第42行)を、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載との整合をとるために明りょうでない記載の釈明をする目的で、「EL光をほぼ全て吸収する厚さでEL光とは異なる色に」に訂正する。
(5)明細書の発明の詳細な説明の欄の【0006】中の「設けられ」(特許公報第3欄第43行)を、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載との整合をとるために明りょうでない記載の釈明をする目的で、「EL発光層の上に圧着され」に訂正する。
(6)明細書の発明の詳細な説明の欄の【0014】中の「吸収して」(特許公報第5欄第25行)を、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載との整合をとるために明りょうでない記載の釈明をする目的で、「ほぼ吸収する厚さで」に訂正する。
異議決定日 2001-02-13 
出願番号 特願平3-280843
審決分類 P 1 651・ 121- ZA (H05B)
最終処分 取消  
前審関与審査官 山岸 利治  
特許庁審判長 田中 秀夫
特許庁審判官 藤本 信男
熊倉 強
登録日 1999-12-24 
登録番号 特許第3017863号(P3017863)
権利者 北陸電気工業株式会社
発明の名称 EL素子とその製造方法  
代理人 西浦 嗣晴  
代理人 西浦 嗣晴  

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