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審決分類 審判 全部申し立て 特29条の2  A61L
審判 全部申し立て 2項進歩性  A61L
審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備  A61L
管理番号 1044768
異議申立番号 異議2000-73762  
総通号数 22 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 1997-02-18 
種別 異議の決定 
異議申立日 2000-10-04 
確定日 2001-04-02 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第3029557号「脱臭フィルタ」の請求項1ないし5に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 訂正を認める。 特許第3029557号の請求項1ないし4に係る特許を維持する。 
理由
1.手続の経緯

特許第3029557号の請求項1〜5に係る発明は、平成7年8月7日に特許出願され、平成12年2月4日にその特許権の設定登録がなされ、その後、伊藤廣美により特許異議の申立てがなされ、平成12年11月30日付で取消理由通知がなされ、その指定期間内である平成13年2月13日付で訂正請求がなされたものである。


2.訂正の適否についての判断

(1)訂正の内容

・訂正事項a
特許第3029557号の明細書(以下単に明細書という)中の特許請求の範囲の請求項中、
「 【請求項1】 ハイシリカゼオライト及び遷移金属酸化物を含有する脱臭剤が多孔性基材に添着されていることを特徴とする脱臭フィルタ。
【請求項2】 前記ハイシリカゼオライトは前記脱臭剤中に40乃至95重量%含有され、前記遷移金属酸化物は前記脱臭剤中に5乃至60重量%含有されていることを特徴とする請求項1記載の脱臭フィルタ。
【請求項3】 前記遷移金属酸化物は、Cu、Mn及びFeからなる群から選択された1又は2以上の遷移金属元素の酸化物であることを特徴とする請求項1又は2に記載の脱臭フィルタ。
【請求項4】 前記脱臭剤は、化学吸着型消臭剤及び活性炭からなる群から選択された少なくとも1種の消臭剤が添加されていることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載の脱臭フィルタ。
【請求項5】 前記多孔性基材は、ネット状合成樹脂、ポリウレタンフォーム及び不織布からなる群から選択された1種であることを特徴とする請求項1乃至5のいずれか1項に記載の脱臭フィルタ。 」
とあるのを
「 【請求項1】ハイシリカゼオライト及び遷移金属酸化物を含有する脱臭剤が多孔性基材に添着されており、前記ハイシリカゼオライトは前記脱臭剤中に40乃至95重量%含有され、前記遷移金属酸化物は前記脱臭剤中に5乃至60重量%含有されていることを特徴とする脱臭フィルタ。
【請求項2】 前記遷移金属酸化物は、Cu、Mn及びFeからなる群から選択された1又は2以上の遷移金属元素の酸化物であることを特徴とする請求項1に記載の脱臭フィルタ。
【請求項3】 前記脱臭剤は、化学吸着型消臭剤及び活性炭からなる群から選択された少なくとも1種の消臭剤が添加されていることを特徴とする請求項1又は2に記載の脱臭フィルタ。
【請求項4】 前記多孔性基材は、ネット状合成樹脂、ポリウレタンフォーム及び不織布からなる群から選択された1種であることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載の脱臭フィルタ。 」
と訂正し、
・訂正事項b
明細書中の段落【0007】(特許第30295557号公報(以下単に特許公報という)第2頁第3欄第32〜35行)に
「 前記ハイシリカゼオライトは脱臭剤中に40乃至95重量%含有され、前記遷移金属酸化物は脱臭剤中に5乃至60重量%含有されていることが好ましい。 」
とあるのを
「 前記ハイシリカゼオライトは脱臭剤中に40乃至95重量%含有され、前記遷移金属酸化物は脱臭剤中に5乃至60重量%含有されている。 」
と訂正し、
・訂正事項c
明細書中の段落【0013】(特許公報第2頁第4欄第13〜22行)に
「 この脱臭剤中におけるハイシリカゼオライトの比率が40重量%未満であると、アンモニア及びアセトアルデヒド等の極性分子を除去する効果が低下する。一方、脱臭剤中におけるハイシリカゼオライトの比率が95重量%を超えると、メチルメルカプタン及び硫化水素等の硫黄性の悪臭分子を除去する効果が低下する。従って、脱臭剤中のハイシリカゼオライト及び遷移金属酸化物中の各比率は、ハイシリカゼオライトが40乃至95重量%、遷移金属酸化物が5乃至60重量%であることが望ましい。 」
とあるのを
「 この脱臭剤中におけるハイシリカゼオライトの比率が40重量%未満であると、アンモニア及びアセトアルデヒド等の極性分子を除去する効果が低下する。一方、脱臭剤中におけるハイシリカゼオライトの比率が95重量%を超えると、メチルメルカプタン及び硫化水素等の硫黄性の悪臭分子を除去する効果が低下する。従って、脱臭剤中のハイシリカゼオライト及び遷移金属酸化物中の各比率は、ハイシリカゼオライトが40乃至95重量%、遷移金属酸化物が5乃至60重量%である。 」
に訂正する
ものである。

(2)訂正の目的の適否、新規事項の有無及び拡張・変更の存否
訂正事項aは、請求項1を削除し請求項2〜5を繰り上げて請求項1〜4とするとともに、訂正前の請求項5において同請求項5自体をも引用していた誤りを正すものであるから、特許請求の範囲の減縮、又は誤記の訂正に相当するものであり、また当初明細書に記載した事項の範囲内のものである。
訂正事項b及び同cは、訂正事項aに伴って、対応する発明の詳細な説明の記載を訂正するものであり、いずれも明りょうでない記載の釈明に該当するものであり、また当初明細書に記載した範囲内のものである。
そして、上記訂正事項a〜cのいずれの訂正も、実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものではない。
以上のとおりであるから、上記訂正請求は、特許法第120条の4第2項及び同条第3項で準用する第126条第2〜3項の規定に適合するので、当該訂正を認める。


3.特許異議申立てについての判断

(1)本件特許の請求項1〜4に係る発明は、訂正後の特許請求の範囲に記載されたとおりのものと認められる。

(2)申立ての概要、及び当該申立てに基づいてなされた取消理由通知の概要
(A) 特許異議申立人伊藤廣美は、本件請求項1に係る発明は、甲第1号証(特願平7-94268号(特開平8-266866号))の出願当初の明細書に記載された発明と同一の発明であるから、特許法第29条の2の規定により特許を受けることができないものであり、本件請求項1〜5に係る発明は、いずれも甲第2号証(国際公開第91/16971号パンフレット)及び甲第3号証(特開平4-265153号公報)に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであると主張している。

(B) 上記(A)の申立ての内容を踏まえてなされた取消理由通知の概要は、以下のようなものである。
(1) 本件の請求項1〜5に係る発明は、刊行物1〜3(刊行物1:上記甲第2号証と同一。刊行物2:上記甲第3号証と同一。以下刊行物2という。刊行物3:特開平4-265153号公報。以下刊行物3という)に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。したがって、前記請求項1〜5の発明に係る特許は、いずれも、特許法第29条の規定に違反してなされたものである。
(2) 本件の請求項1に係る発明は、本件特許出願の日前の出願であって、その出願後に出願公開された出願A(上記甲第1号証の出願と同一)の願書に最初に添付した明細書(以下出願A明細書という)に記載された発明と同一であると認められ、しかも、この出願の発明者がその出願前の出願に係る上記の発明をした者と同一であるとも、またこの出願の時において、その出願がその出願前の出願に係る上記出願Aの出願人と同一であるとも認められないので、特許法第29条の2の規定により特許を受けることができないものである。したがって、前記請求項1の発明に係る特許は、特許法第29条の2の規定に違反してなされたものである。
(3) 本件明細書の表3において、比較例として挙げられているNo.2,No.3の脱臭フィルタは、ゼオライト自体としては同表3の実施例7〜12で採用されているのと同様の「ハイシリカゼオライト」が配合されており、かつ遷移金属酸化物も併せて配合されているから、比較例ではなくむしろ本件請求項1、3〜5のいずれかの発明の実施例であると認められるが、そのアンモニアやアセトアルデヒドの脱臭性能においては例えば表2の参考例と同程度か或いは劣ってさえいるから、少なくとも上記比較例No.2,No.3の態様下で、本件明細書記載のような脱臭性能に係る有利な作用が奏されるということはできない。
よって、発明の詳細な説明の項においては、少なくとも請求項1,3〜5いずれかの発明に係る脱臭フィルタのうちの任意のものについて、当業者が理解かつ実施し得る程度の合理的かつ明りょうな記載が十分になされているとすることはできないから、本件は、明細書の記載が、特許法第36条第4項に規定にする要件を満たしているとはいえず、本件請求項1、3〜5の発明に係る特許は、いずれも特許法第36条第4項に規定する要件を満たしていない特許出願に対してなされたものである。

(3)当審の判断

(A)(2)(B)の理由(1)について
刊行物1には、臭気物質等の有害ガスを選択吸着するガス吸着素子を具備する脱臭フィルタについて記載されており、特にAl2O3に対するSiO2のモル比(y)が8以上の疎水性高シリカゼオライトを吸着成分として採用することにより、臭気物質等をよりよく吸着するようになることが記載されており(例えば請求の範囲、第2頁第18〜26行)、上記モル比としてy≒200のものが具体的に示されてもいる(第5頁第2〜9行)。このことからみて、同刊行物1には、少なくともy=8〜約200の範囲、即ちSi成分及びAl成分の重量比(Si成分:Al成分)が10:1乃至50:1の範囲の値を包含する範囲をとり得るゼオライトが開示されていると認められる。
刊行物2には、一価銅化合物と固体酸性を有する無機物質とを共存させてなる脱臭防菌組成物について記載されており(例えば特許請求の範囲)、一価銅化合物として酸化第一銅が採用され得ること(第2頁左上欄第5〜6行)、該一価銅化合物は硫化水素やメルカプタンなどの臭気を無臭化すること(第2頁右上欄第15〜17行)、固体酸性を有する無機物質としてゼオライトが採用され得ること(第2頁左上欄第19〜20行)、該固体酸性を有する無機物質がアミンやアンモニアなどの塩基性臭気に対して強い吸着作用を示すこと(第2頁左下欄第2〜4行)が記載され、酸化第一銅及びY型ゼオライトを併せて採用した例も具体的に記載されている(第2〜3頁実施例1,2)。
刊行物3には、Fe及びMnの金属酸化物を主成分とする第一の脱臭剤と、ゼオライトを主成分とする吸着剤にAu及びFeの金属酸化物を担持した第二の脱臭剤から構成した脱臭剤よりなる脱臭フィルタについて記載されており(特許請求の範囲他)、一般的に悪臭成分は硫化水素、メルカプタン類に代表される含硫化合物とアンモニア、アミン類に代表される含窒化合物の混合した複合臭であること、この複合臭中の含硫化合物が第一の脱臭剤に、含窒化合物がゼオライトを主成分とする第二脱臭剤に、それぞれ選択的に吸着されることが記載されている(第2頁第2欄第36〜50行)。
ここで、本件請求項1に係る発明と刊行物1記載の発明を対比するに、両者は、ゼオライトを脱臭成分とする脱臭フィルタについて記載又は示唆されているという点において共通するが、
(イ)本件請求項1に係る発明では、ゼオライトとして本件明細書段落【0014】で定義される「ゼオライト中におけるSi成分及びAi成分の重量比(Si成分:Ai成分)が10:1乃至50:1」の「ハイシリカゼオライト」を採用するものであるのに対し、刊行物1にはそのようなSi:Alに係る特定重量比の範囲を包含するより広い範囲をとり得る旨の記載又は示唆があるとは認められるものの、上記の特定の重量比を満たす数値については具体的に記載されていない点、
(ロ)本件請求項1に係る発明では、上記「ハイシリカゼオライト」とともに遷移金属酸化物が各々特定の割合の範囲内で吸着剤中に含有されているのに対し、刊行物1には、ゼオライトと遷移金属酸化物を併用することについて具体的に記載されていない点、
について、少なくとも相違している。
この点に関し、刊行物2又は刊行物3中に記載されているゼオライトが、本件明細書で定義される「ハイシリカゼオライト」を一応その概念中に含むものであるにせよ、Si成分:Al成分として特定の重量比を有するハイシリカゼオライトを、遷移金属酸化物とともに特定の配合比で組み合わせて脱臭剤とすることについては、刊行物2又は刊行物3中で具体的に示唆されているわけではないし、また刊行物1〜3のいずれも、悪臭成分として特にタバコ臭を除去することを目的とするものである旨記載乃至示唆されているわけではないから、少なくとも、特にタバコ臭の効果的な除去を期待して、刊行物1記載の疎水性ゼオライトからSi成分:Al成分=10:1乃至50:1の「ハイシリカゼオライト」を採用し、かつ刊行物2又は3の記載に基づき前記「ハイシリカゼオライト」に対し遷移金属酸化物を併せて採用し、しかも「ハイシリカゼオライト」を脱臭剤中に40乃至95重量%含有せしめ、遷移金属酸化物を前記脱臭剤中に5乃至60重量%含有せしめたものとする、という技術事項が、当業者にとり直ちに想到し得たものであるとすることはできない。
そして、本件請求項1に係る発明は、上記のような(イ)、(ロ)の相違点に係る技術事項を同時に具備した脱臭剤を添着した脱臭フィルタとすることにより、本件明細書の表2に示されるように、タバコ臭の主成分とされるアンモニア、アセトアルデヒド、酢酸、硫化水素の全てに対し、通常のゼオライトを組み合わせた場合より脱臭性能に優れた脱臭フィルタが得られるという、本件明細書記載の効果が奏されるものである。
してみると、本件請求項1に係る発明が、刊行物1〜3に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとすることはできない。
また、請求項2〜4に係る発明は、請求項1に係る発明を、遷移金属酸化物の遷移金属元素、消臭剤の添加、又は多孔性基材の材質において、技術的に限定するものであるから、上で述べた理由から明らかなように、刊行物1〜3に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

(B)(2)(B)の理由(2)について
出願A明細書には、気相反応用触媒担体にMn-Cu系脱臭触媒およびSiO2/Al2O3が15以上のゼオライト粉末を担持させてなる、悪臭を有する空気の脱臭処理に使用する脱臭フィルターについて記載されており(特許請求の範囲第2項、段落【0001】)、上記ゼオライト粉末は上記脱臭触媒に対して15〜40重量%の範囲で担持させることが望ましい旨記載されており(段落【0014】)、実施例として、SiO2/Al2O3=150の疎水性ゼオライト及びMn-Cu系脱臭触媒・カロライト(米国カラス社製品)を担体に担持させてなる、脱臭触媒担持量40g/m2、疎水性ゼオライト短寺領10g/m2の脱臭フィルタが記載されている(段落【0020】〜【0024】)。
しかしながら、出願A明細書記載のゼオライト粉末が、本件明細書で定義される「ハイシリカゼオライト」を包含するものであるとはいえるものの、同Mn-Cu系脱臭触媒が本件発明にいう遷移金属酸化物と同一のものであるか否かは判然としてはいない。しかも、仮に同Mn-Cu系脱臭触媒が本件発明にいう遷移金属酸化物と同一のものであるとしても、ゼオライト中におけるSi成分及びAi成分の重量比(Si成分:Ai成分)が10:1乃至50:1であるハイシリカゼオライト、及び遷移金属の酸化物を、併せて同時に脱臭剤の成分として採用し、さらに当該ハイシリカゼオライトが脱臭剤中に40乃至95重量%含有され、当該遷移金属酸化物が脱臭剤中に5乃至60重量%含有されているという事項を同時に具備してなる脱臭剤については、少なくとも出願A明細書中に具体的に記載されているわけではない。
よって、本件請求項1に係る発明は、出願A明細書に記載された発明と同一であるということはできない。

(C)(2)(B)の理由(3)について
請求項1、3〜5は、上記訂正事項aにより、「前記ハイシリカゼオライトは前記脱臭剤中に40乃至95重量%含有され、前記遷移金属酸化物は前記脱臭剤中に5乃至60重量%含有されている」旨の限定がなされたか、又は限定がなされた請求項を引用しているので、明細書の不備は解消した。
よって、本件特許は特許法第36条第4項に規定する要件を満たす特許出願に対してなされたものである。


4.むすび

以上のとおりであるから、特許異議申立の理由及び証拠、ならびに当該特許異議申立ての理由及び証拠を踏まえてなされた上記取消理由通知の理由及び証拠によっては、本件請求項1〜4に係る発明の特許を取り消すことはできない。
また、他に取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
脱臭フィルタ
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】 ハイシリカゼオライト及び遷移金属酸化物を含有する脱臭剤が多孔性基材に添着されており、前記ハイシリカゼオライトは前記脱臭剤中に40乃至95重量%含有され、前記遷移金属酸化物は前記脱臭剤中に5乃至60重量%含有されていることを特徴とする脱臭フィルタ。
【請求項2】 前記遷移金属酸化物は、Cu、Mn及びFeからなる群から選択された1又は2以上の遷移金属元素の酸化物であることを特徴とする請求項1に記載の脱臭フィルタ。
【請求項3】 前記脱臭剤は、化学吸着型消臭剤及び活性炭からなる群から選択された少なくとも1種の消臭剤が添加されていることを特徴とする請求項1又は2に記載の脱臭フィルタ。
【請求項4】 前記多孔性基材は、ネット状合成樹脂、ポリウレタンフォーム及び不織布からなる群がら選択された1種であることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載の脱臭フィルタ。
【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】
本発明は密閉空間内の悪臭を除去するためにエアコン及び空気清浄機等に使用され、脱臭性能が高く、たばこ臭も除去することができる脱臭フィルタに関する。
【0002】
【従来の技術】
一般的に、エアコン及び空気清浄機等に使用されている脱臭フィルタの脱臭剤は、その主原料が活性炭であり、粉末活性炭又は粒状活性炭がフィルタの表面に添着されている。このフィルタ面を、密閉空間内の悪臭を含む空気が通過することにより、密閉空間内の悪臭が除去される。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、従来の脱臭フィルタに添着されている脱臭剤の主原料である活性炭には、タバコ臭を除去する効果が十分ではないという問題点がある。これは、活性炭の脱臭機構は、悪臭のもとである分子が活性炭の表面にある細孔内に物理吸着することによるものであり、タバコ臭の主成分であるアンモニア、アセトアルデヒド及び酢酸等の中で、極性分子であるアンモニア及びアセトアルデヒドは活性炭に吸着されにくいからである。
【0004】
また、活性炭は比重が小さいため、フィルタ表面の活性炭への悪臭分子の吸着重量を増加させるために、多量の活性炭が必要となる。そして、この多量の活性炭を含む脱臭剤をフィルタ表面に脱落しないように添着するためには、多量のバインダーを使用しなければならない。その結果、活性炭の表面がバインダーで覆われて、本来の活性炭が有する脱臭能力が著しく低下する。
【0005】
本発明はかかる問題点に鑑みてなされたものであって、製造コストが低く、厚さを薄くすることができると共に、脱臭性能が高く、タバコ臭をも除去することができる脱臭フィルタを提供することを目的とする。
【0006】
【課題を解決するための手段】
本発明に係る脱臭フィルタは、ハイシリカゼオライト及び遷移金属酸化物を含有する脱臭剤が多孔性基材に添着されていることを特徴とする。
【0007】
前記ハイシリカゼオライトは脱臭剤中に40乃至95重量%含有され、前記遷移金属酸化物は脱臭剤中に5乃至60重量%含有されている。
【0008】
この遷移金属酸化物は、例えば、Cu、Mn及びFeからなる群から選択された1又は2以上の金属元素の酸化物である。
【0009】
また、この脱臭剤には、化学吸着型消臭剤又は活性炭を添加することができる。
【0010】
多孔性基材としては、例えば、ネット状合成樹脂、ポリウレタンフォーム又は不織布がある。
【0011】
【作用】
本願発明者等が前記課題を解決するために鋭意実験研究を重ねた結果、ハイシリカゼオライト及び遷移金属酸化物を含有する脱臭剤を多孔性基材に添着することにより、従来の脱臭フィルタでは脱臭効果が不十分であったタバコ臭を除去することができることを見い出した。
【0012】
本発明においては、脱臭フィルタ用の脱臭剤として、ハイシリカゼオライト及び遷移金属酸化物を使用するが、このハイシリカゼオライトはアンモニア及びアセトアルデヒド等の極性分子を除去する効果が優れている。また、遷移金属酸化物はメチルメルカプタン及び硫化水素等の硫黄性の悪臭分子を除去する効果が優れている。従って、これらの脱臭剤を組み合わせることにより、脱臭性能が優れた脱臭フィルタを得ることができる。その結果、従来の活性炭を使用した脱臭フィルタの性能と比較して、脱臭性能が同等のものであれば、本発明は多孔性基材上に添着する脱臭剤の量を少なくすることが可能となるため、従来の脱臭フィルタよりも薄くすることができる。
【0013】
この脱臭剤中におけるハイシリカゼオライトの比率が40重量%未満であると、アンモニア及びアセトアルデヒド等の極性分子を除去する効果が低下する。一方、脱臭剤中におけるハイシリカゼオライトの比率が95重量%を超えると、メチルメルカプタン及び硫化水素等の硫黄性の悪臭分子を除去する効果が低下する。従って、脱臭剤中のハイシリカゼオライト及び遷移金属酸化物の各比率は、ハイシリカゼオライトが40乃至95重量%、遷移金属酸化物が5乃至60重量%である。
【0014】
ゼオライトは、A型、X型、Y型若しくはハイシリカゼオライト等の合成ゼオライト又は各種天然ゼオライト等もあるが、ハイシリカゼオライトを使用すると最も優れた脱臭性能が得られる。なお、ハイシリカゼオライトとは、ゼオライト中におけるSi成分及びAl成分の重量比(Si成分:Al成分)が10:1乃至50:1のものを示すが、特にこの重量比が40:1乃至50:1のハイシリカゼオライトを使用することが好ましい。
【0015】
また、使用する遷移金属酸化物は、Cu、Mn又はFe等の各種酸化物の中から任意に選択することができるが、脱臭性能面ではCu-Mn系複合酸化物、Fe-Mn系複合酸化物又はMn酸化物を使用することが望ましい。
【0016】
更に、本発明における脱臭剤に化学吸着型消臭剤を添加することにより、アンモニア分子及び酢酸分子の除去効果がより一層優れたものとなる。一方、活性炭を添加すると、より優れた酢酸分子の除去効果を示す。
【0017】
本発明においては、脱臭剤を多孔性基材に添着させる。一般に多孔性基材とは、その表面をガスが通過することができる穴を多量に有する基材を総称しており、例えば、多孔性合成樹脂、ポリウレタンフォーム、不織布、ループ状積層体、又はセラミックス、金属、紙若しくは樹脂製の各種ハニカムから任意に選択することができるが、ネット状合成樹脂、ポリウレタンフォーム又は不織布を多孔性基材に使用すると、脱臭フィルターを薄くすると共に、経済性の点で望ましい。
【0018】
これらの多孔性基材に添着する脱臭剤の添着量が10g/m2未満であると脱臭性能が不十分であり、脱臭剤の添着量が1000g/m2を超えると優れた脱臭性能を示すものの、通気抵抗が10mmAq以上となるため、フィルタとしての使用に適さない。従って、多孔性基材に添着する脱臭剤の添着量は、10乃至1000g/m2の範囲で、使用する脱臭フィルタに要求される脱臭性能、通気抵抗及び経済性によって任意に選択できる。
【0019】
【実施例】
以下、本発明に係る脱臭フィルタの実施例についてその比較例と比較して具体的に説明する。
【0020】
本発明に係る脱臭フィルタは、バインダーとしては例えばカルボキシルメチルセルロース(CMC)及び酢酸ビニルが使用され、脱臭剤とバインダーとの比率を例えば17対1として、配合液中の総固形物量を25%に調整したスラリーを多孔性基材に含浸させて、目詰まりをとばした後に乾燥させて作製する。
【0021】
先ず、脱臭剤中の各種遷移金属酸化物に対する脱臭性能を比較するために、下記表1に示す遷移金属酸化物を使用した実施例に関して、悪臭分子の除去率を脱臭性能として評価した。但し、ゼオライトはハイシリカゼオライト(Si成分:Al成分=40:1乃至50:1)を使用して、これと遷移金属酸化物との重量比を60対40とし、多孔性基材としてポリエステル製ネットを使用した。比較例としては、脱臭剤の原料に活性炭を使用して脱臭フィルタを作製した。これらの脱臭性能の評価結果を下記表1に併せて示す。なお、悪臭分子の濃度は測定を開始してから5分後の値を採用し、下記数式1に示す方法で除去率を計算した。
【0022】
【数1】
除去率(%)={(入口濃度-出口濃度)/入口濃度}×100
【0023】
また、悪臭分子としては、タバコ臭の主成分であるアンモニア、アセトアルデヒド、酢酸及び硫化水素の4成分を選定して測定した。但し、アセトアルデヒドについては、製造した脱臭フィルタのサンプルを4枚重ねて測定した。
【0024】
【表1】

【0025】
上記表1に示すように、比較例1の従来の活性炭フィルタと比較して、実施例1乃至3は悪臭分子となる4成分全てについて、脱臭性能が向上した。その中でも、特に、脱臭剤として有効な遷移金属酸化物はCu-Mn系酸化物であり、以下、Mn酸化物、Fe-Mn系酸化物の順である。
【0026】
次に、脱臭剤中のゼオライトに対する脱臭性能を比較するために、下記表2に示すゼオライトを使用した実施例に関して、悪臭分子の除去率を脱臭性能として評価した。但し、遷移金属酸化物は前記表1の評価で最も優れた脱臭効果を示したCu-Mn系酸化物を使用して、その他の条件は表1と同様に設定した。これらの脱臭性能の評価結果を下記表2に併せて示す。
【0027】
【表2】

【0028】
上記表2に示すように、比較例1の従来の活性炭フィルタと比較して、実施例1及び参考例6については悪臭分子となる4成分全てについて、脱臭性能が向上し、特に、脱臭剤として有効なゼオライトはハイシリカゼオライトであった。また、参考例4及び5についても、酢酸を除く3成分について、良好な脱臭効果を示した。
【0029】
また、脱臭剤中におけるゼオライト及び遷移金属酸化物の重量比に対する脱臭性能を比較するために、下記表3に示す重量比である脱臭剤原料を使用した実施例及び比較例について、悪臭分子の除去率を脱臭性能として評価した。但し、ゼオライト及び遷移金属酸化物は前記表1及び2の評価で最も優れた脱臭効果を示したハイシリカゼオライト及びCu-Mn系酸化物を使用して、その他の条件は表1と同様に設定した。なお、多孔性基材に添着する脱臭剤の添着量は250g/m2とした。これらの脱臭性能の評価結果を下記表3に併せて示す。
【0030】
【表3】

【0031】
上記表3に示すように、比較例2及び3は脱臭剤中におけるゼオライトの重量比が本発明の範囲から外れ、40重量%未満であるので、アンモニア、アセトアルデヒド及び酢酸に対する脱臭効果が低い。また、比較例4は脱臭剤が全てゼオライトからなっているので、硫化水素に対する除去効果がない。一方、実施例1及び7乃至12は脱臭剤中におけるゼオライト及び遷移金属酸化物の重量比が本発明の範囲内であるので、全ての悪臭分子について良好な脱臭性能を示した。
【0032】
次に、脱臭剤として最も有効なゼオライト及び遷移金属酸化物を使用した実施例1に、下記表4に示す消臭剤を25%の割合で添加した脱臭剤に関して、前記表1乃至3に示す評価と同様に、悪臭分子の除去率を脱臭性能として評価した。但し、活性炭は100メッシュ以下の粉末活性炭を使用した。これらの脱臭性能の評価結果を下記表4に併せて示す。
【0033】
【表4】

【0034】
上記表4に示すように、実施例1の消臭剤の添加がないものと比較して、実施例13は特にアンモニアに関して、脱臭性能が向上した。実施例14はアンモニア及び酢酸に関して高い脱臭効果を示し、実施例15は酢酸に関して脱臭性能が向上した。
【0035】
更に、比較例1、実施例1乃至3及び13乃至15について、たばこの処理本数試験を行った。但し、たばこの処理本数試験は、(社)日本電気工業会の空気清浄機脱臭性能試験に関する自主基準における性能試験方法に準拠して評価した。これらの評価結果を下記表5に示す。
【0036】
【表5】

【0037】
上記表5に示すように、実施例1乃至3及び13乃至15は比較例1に対して、たばこの処理本数が著しく向上した。
【0038】
また、多孔性基材の種類に対する脱臭フィルタの性能を比較するために、下記表6に示す多孔性基材に、脱臭剤原料として実施例1と同様に、ハイシリカゼオライト及びCu-Mn系酸化物を60対40の重量比で混合したものを250g/m2添着した各種多孔性基材に関して、通気抵抗、素材厚さ、たばこ処理本数を測定した。更に、それらの多孔性基材の経済性も考慮して総合的に評価した。これらの測定結果及び評価結果を下記表6に併せて示す。但し、通気抵抗の測定条件は、面風速を1m/secとした。
【0039】
【表6】

【0040】
上記表6に示すように、実施例1、16及び18は通気性が特に優れ、実施例18及び19は、たばこの処理本数が高い値を示している。しかしながら、エアコン又は空気清浄機等への適応を素材の厚さ及び経済性等より考慮すると、多孔性基材としてネット状合成樹脂、ポリウレタンフォーム又は不織布が最適である。
【0041】
前記表1乃至6に示すように、本発明は従来の活性炭による脱臭フィルタと比較して著しく良好な性能を有する脱臭フィルタを得ることができた。
【0042】
【発明の効果】
以上詳述したように本発明によれば、ゼオライト及び遷移金属酸化物を含有する脱臭剤が多孔性基材に添着されているので、たばこ臭に対する脱臭効果が向上し、ゼオライトとしてハイシリカゼオライトを使用し、脱臭剤に化学吸着型消臭剤又は活性炭を添加すると、脱臭効果がより一層優れたものとなる。また、多孔性基材にネット状合成樹脂、ポリウレタンフォーム又は不織布を使用すると、製造コストが低く、脱臭フィルターを薄くすることができる。
 
訂正の要旨 ・訂正事項a
特許請求の範囲の減縮又は誤記の訂正を目的として、特許第3029557号明細書の特許請求の範囲に
「 【請求項1】 ハイシリカゼオライト及び遷移金属酸化物を含有する脱臭剤が多孔性基材に添着されていることを特徴とする脱臭フィルタ。
【請求項2】 前記ハイシリカゼオライトは前記脱臭剤中に40乃至95重量%含有され、前記遷移金属酸化物は前記脱臭剤中に5乃至60重量%含有されていることを特徴とする請求項1記載の脱臭フィルタ。
【請求項3】 前記遷移金属酸化物は、Cu、Mn及びFeからなる群から選択された1又は2以上の遷移金属元素の酸化物であることを特徴とする請求項1又は2に記載の脱臭フィルタ。
【請求項4】 前記脱臭剤は、化学吸着型消臭剤及び活性炭からなる群から選択された少なくとも1種の消臭剤が添加されていることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載の脱臭フィルタ。
【請求項5】 前記多孔性基材は、ネット状合成樹脂、ポリウレタンフォーム及び不織布からなる群がら選択された1種であることを特徴とする請求項1乃至5のいずれか1項に記載の脱臭フィルタ。 」
とあるのを
「 【請求項1】ハイシリカゼオライト及び遷移金属酸化物を含有する脱臭剤が多孔性基材に添着されており、前記ハイシリカゼオライトは前記脱臭剤中に40乃至95重量%含有され、前記遷移金属酸化物は前記脱臭剤中に5乃至60重量%含有されていることを特徴とする脱臭フィルタ。
【請求項2】 前記遷移金属酸化物は、Cu、Mn及びFeからなる群から選択された1又は2以上の遷移金属元素の酸化物であることを特徴とする請求項1に記載の脱臭フィルタ。
【請求項3】 前記脱臭剤は、化学吸着型消臭剤及び活性炭からなる群から選択された少なくとも1種の消臭剤が添加されていることを特徴とする請求項1又は2に記載の脱臭フィルタ。
【請求項4】 前記多孔性基材は、ネット状合成樹脂、ポリウレタンフォーム及び不織布からなる群から選択された1種であることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載の脱臭フィルタ。 」
と訂正し、
・訂正事項b
明りょうでない記載の釈明を目的として、特許第3029557号明細書中の段落【0007】(特許第3029557号公報第2頁第3欄第32〜35行)に
「 前記ハイシリカゼオライトは脱臭剤中に40乃至95重量%含有され、前記遷移金属酸化物は脱臭剤中に5乃至60重量%含有されていることが好ましい。 」
とあるのを
「 前記ハイシリカゼオライトは脱臭剤中に40乃至95重量%含有され、前記遷移金属酸化物は脱臭剤中に5乃至60重量%含有されている。 」
と訂正し、
・訂正事項c
明りょうでない記載の釈明を目的として、特許第3029557号明細書中の段落【0013】(特許第3029557公報第2頁第4欄第13〜22行)に
「 この脱臭剤中におけるハイシリカゼオライトの比率が40重量%未満であると、アンモニア及びアセトアルデヒド等の極性分子を除去する効果が低下する。一方、脱臭剤中におけるハイシリカゼオライトの比率が95重量%を超えると、メチルメルカプタン及び硫化水素等の硫黄性の悪臭分子を除去する効果が低下する。従って、脱臭剤中のハイシリカゼオライト及び遷移金属酸化物中の各比率は、ハイシリカゼオライトが40乃至95重量%、遷移金属酸化物が5乃至60重量%であることが望ましい。 」
とあるのを
「 この脱臭剤中におけるハイシリカゼオライトの比率が40重量%未満であると、アンモニア及びアセトアルデヒド等の極性分子を除去する効果が低下する。一方、脱臭剤中におけるハイシリカゼオライトの比率が95重量%を超えると、メチルメルカプタン及び硫化水素等の硫黄性の悪臭分子を除去する効果が低下する。従って、脱臭剤中のハイシリカゼオライト及び遷移金属酸化物中の各比率は、ハイシリカゼオライトが40乃至95重量%、遷移金属酸化物が5乃至60重量%である。 」
と訂正するものである。
異議決定日 2001-03-06 
出願番号 特願平7-201193
審決分類 P 1 651・ 536- YA (A61L)
P 1 651・ 121- YA (A61L)
P 1 651・ 16- YA (A61L)
最終処分 維持  
特許庁審判長 吉村 康男
特許庁審判官 谷口 浩行
大久保 元浩
登録日 2000-02-04 
登録番号 特許第3029557号(P3029557)
権利者 株式会社神戸製鋼所
発明の名称 脱臭フィルタ  
代理人 藤巻 正憲  
代理人 藤巻 正憲  

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