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審決分類 審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  C08L
審判 全部申し立て 2項進歩性  C08L
審判 全部申し立て 特36 条4項詳細な説明の記載不備  C08L
管理番号 1044779
異議申立番号 異議1998-72656  
総通号数 22 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 1991-10-02 
種別 異議の決定 
異議申立日 1998-05-28 
確定日 2001-04-25 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第2683613号「スチレン系樹脂から成る射出成形品」の請求項1に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 訂正を認める。 特許第2683613号の請求項1に係る特許を維持する。 
理由 1.手続きの経緯
本件特許第2683613号は、平成2年1月30日に出願され、平成9年8月15日にその特許の設定登録がなされたものであって、その後に滝口嘉三より特許異議の申立てがあり、それに基づく特許取消の理由通知に対し、平成12年2月10日付けで訂正請求がなされたものである。
2.本件訂正請求について
(1)訂正請求の内容
本件訂正請求は、本件明細書を訂正請求書に添付された訂正明細書のとおりに訂正することを求めるもので、その具体的内容は以下のとおりである。
[1]特許請求の範囲の請求項1の「分散しており、かつ、前記ゴム状重合体」を「分散しており、さらにゲル量が前記ゴム状重合体に対して、1.1〜4.0重量比で、その膨潤指数が5〜20であり、かつ、前記ゴム状重合体」に訂正する。
[2]明細書第5頁18行〜6頁6行(特許公報4欄11〜31行)の「すなわち、本発明は・・・・提供するものである。」を「すなわち、本発明は、(A)スチレン系重合体70〜92重量%と(B)ゴム状重合体30〜8重量%とから成るものであって、前記スチレン系重合体中に前記ゴム状重合体の粒子が分散しており、前記ゴム状重合体の粒子数の70%以上が内包オクルージョンを5個以下含有するオクルージョン構造を有しており、かつ、内包オクルージョンが1個であるゴム状重合体の粒子がオクルージョン構造のうちの60%以上を占めると共に、内包オクルージョンが1個であるゴム状重合体の粒子の外郭形状が対称面を有していて、面積平均粒子径が0.1〜0.7μmで、数平均粒子径に対する面積平均粒子径の比が1.0〜2.5の粒子として前記スチレン系重合体中に分散しており、さらにゲル量が前記ゴム状重合体に対して、1.1〜4.0重量比で、その膨潤指数が5〜20であり、かつ、前記ゴム状重合体の分散粒子が、関係式
K=φR{1-[〔(Ds/2)-λ〕/(Ds/2)]3}-1 (式中のφRはゴム変性スチレン系樹脂中のゴム状重合体の体積分率を示し、Dsはゴム状重合体の面積平均粒子径(直径)を示し、λはゴム状重合体相の厚さで0.10μm以下である)
で求められるKが0.18以上であること、
を特徴とするゴム変性スチレン系樹脂を成形して成る射出成形品を提供するものである。」に訂正する。
[3]明細書第13頁3〜9行(特許公報7欄28〜33行)の「該ゴム変性スチレン系樹脂・・・・望ましい。」を「該ゴム変性スチレン系樹脂においては、ゴム状重合体粒子は特定のミクロ構造を有している。すなわち、ゲル量がゴム状重合体に対して、1.1〜4.0重量比、好ましくは1.4〜3.6重量比の範囲にあり、その膨潤指数が5〜20、好ましくは7〜18の範囲にある。」に訂正する。
(2)訂正請求の可否
上記[1]の訂正は、訂正前の明細書の第13頁3〜9行(特許公報7欄28〜33行)の「該ゴム変性スチレン系樹脂においては、ゴム状重合体粒子は特定のミクロ構造を有していることが好ましい。すなわち、ゲル量がゴム状重合体に対して、1.1〜4.0重量比、好ましくは1.4〜3.6重量比の範囲にあることが望ましく、またその膨潤指数が5〜20、好ましくは7〜18の範囲にあることが望ましい。」における記載から、ゴム状重合体粒子のゲル量と膨潤指数についての規定を特許請求の範囲の請求項1に取り込んで、ゴム状重合体粒子を限定するものであるから、訂正前の明細書に記載された事項の範囲内での特許請求の範囲の減縮に該当するものである。
上記[2]および[3]の訂正は、上記の特許請求の範囲の訂正[1]に伴って、明細書の発明の詳細な説明における記載を整合させるものであるから、明細書の明りょうでない記載の釈明を目的とするものであって、訂正前の明細書に記載された事項の範囲内においてなされたものであることは明らかである。
そして、いずれの訂正も、実質上特許請求の範囲を拡張または変更するものでないことは明らかであって、しかも後記するように、訂正後の特許請求の範囲に記載されている事項により特定される発明が特許出願の際に独立して特許を受けることができない発明とも認められない。
したがって、本件訂正請求は、特許法第120条の4第2項ただし書第1号および第3号に掲げる事項を目的とし、かつ、同条第3項で準用する同法第126条第2項〜第4項の規定を満すものであり、本件訂正は適法なものと認めることができる。
3.本件発明の認定
本件特許請求の範囲の請求項に係わる発明は、上記のとおりに訂正された明細書における、その特許請求の範囲の請求項1に記載された次のとおりのものと認める。(以下、これを「本件発明」という。)
「(1)(A)スチレン系重合体70〜92重量%と(B)ゴム状重合体30〜8重量%とから成るものであって、前記スチレン系重合体中に前記ゴム状重合体の粒子が分散しており、前記ゴム状重合体の粒子数の70%以上が内包オクルージョンを5個以下含有するオクルージョン構造を有しており、かつ、内包オクルージョンが1個であるゴム状重合体の粒子がオクルージョン構造のうちの60%以上を占めると共に、内包オクルージョンが1個であるゴム状重合体の粒子の外郭形状が対称面を有していて、面積平均粒子径が0.1〜0.7μmで、数平均粒子径に対する面積平均粒子径の比が1.0〜2.5の粒子として前記スチレン系重合体中に分散しており、さらにゲル量が前記ゴム状重合体に対して、1.1〜4.0重量比で、その膨潤指数が5〜20であり、かつ、前記ゴム状重合体の分散粒子が、関係式
K=φR{1-[〔(Ds/2)-λ〕/(Ds/2)]3}-1 (式中のφRはゴム変性スチレン系樹脂中のゴム状重合体の体積分率を示し、Dsはゴム状重合体の面積平均粒子径(直径)を示し、λはゴム状重合体相の厚さで0.10μm以下である)
で求められるKが0.18以上であること、
を特徴とするゴム変性スチレン系樹脂を成形して成る射出成形品。」
4.特許異議申立人の主張の概要
特許異議申立人滝口嘉三は、下記の甲第1号証〜甲第4号証を提示し、本件発明は甲第1号証に記載された発明であるから、本件特許は特許法第29条第1項第3号の規定に違反してなされたものであり、また、本件発明は甲第1号証に記載された発明に基づき当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件特許は特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものであり、さらに、本件明細書には記載の不備があるから、本件特許は特許法第36条第3項、第4項および第5項の規定に違反してなされたものであり、本件特許は取り消されるべきである旨を主張している。
甲第1号証;特表昭57-502003号公報、
甲第2号証;計算報告書
甲第3号証;「材料大辞典」株式会社産業調査会(昭和59年2月5日)490〜492頁
甲第4号証;「プラスチック加工技術便覧」日刊工業新聞社(昭和44年12月5日)180〜187頁
5.特許異議申立てについての当審の判断
以下において、訂正後の本件発明について、特許異議申立人の主張する、本件特許の取消事由の有無を検討する。
(1)本件特許は特許法第29条第1項第3号の規定に違反してなされたものであるか否かについて
甲第1号証には「1.(a)ポリフェニレンエーテル樹脂、および(b)ゴム変性ポリスチレン樹脂からなり、上記ゴム変性ポリスチレン樹脂が、ジエンゴム膜のシェル中のポリスチレンのコアから大部分からなる分散粒子を含有する連続ポリスチレン相からなり、上記粒子が形が球状であり、平均直径0.3μで、約0.2〜0.4μの大きにおいて高度に均一であり、上記組成物は成形したとき高衝撃強さおよび表面光沢を有することを特徴とする熱可塑性組成物。」の発明について記載され(特許請求の範囲第1項)、発明の詳細な説明には、バスフ・コムパニーより市販されているゴム変性耐衝撃ポリスチレンであるBASF2791についての記載があり、「BASF2791の粒子の全ては単一細胞である。不連続粒状相は、薄いゴム(暗い部域)膜またはシェルでとりかこまれたポリスチレンの単一粒子(明るい部域)から大部分がなっていることが判る。・・・・ゴム含有量はゴム変性ポリスチレン成分の約6〜15重量%の範囲である。」と記載され(3頁左下欄〜右下欄)、実施例6には、PPO(ポリフェニレンエーテル)をBASF2791ゴム変性ポリスチレンと混合したものの実施例と、PPOを含まない即ちBASF2791単独の比較例についての、射出成形品における耐衝撃試験の結果が記載され、FIG.2にはこのBASF2791の電子顕微鏡写真において、ジエンゴム膜のシェル中のポリスチレンコアから大部分がなる分散粒子を含有する連続ポリスチレン相が示されている(なお、FIG.2とFIG.3は、図面の説明の記載における、倍率や粒子径などの記述からして、FIG.3とFIG.2の誤記と認められる。)。
そして、甲第1号証に記載の発明(以下、「引用発明」という。)におけるジエンゴム膜のシェル中のポリスチレンコアからなる分散粒子は、シェル/コア形といわれるオクルージョン構造に相当し、FIG.2の観察から、ゴム状重合体の粒子の大部分が内包オクルージョン構造を有しており、全てのオクルージョン構造が内包オクルージョンを1個有するものであり、かつ、ゴム状重合体の粒子の外郭形状が対称面を有しているると認められるから、これらのことは、本件発明で規定する「ゴム状重合体の粒子数の70%以上が内包オクルージョンを5個以下含有するオクルージョン構造を有しており、かつ、内包オクルージョンが1個であるゴム状重合体の粒子がオクルージョン構造のうちの60%以上を占めると共に、内包オクルージョンが1個であるゴム状重合体の粒子の外郭形状が対称面を有している」に相当すると認められる。
そこで、本件発明と引用発明とを対比すると、両発明は、「(A)スチレン系重合体85〜92重量%と(B)ゴム状重合体15〜8重量%とから成るものであって、前記スチレン系重合体中に前記ゴム状重合体の粒子が分散しており、前記ゴム状重合体の粒子数の70%以上が内包オクルージョンを5個以下含有するオクルージョン構造を有しており、かつ、内包オクルージョンが1個であるゴム状重合体の粒子がオクルージョン構造のうちの60%以上を占めると共に、内包オクルージョンが1個であるゴム状重合体の粒子の外郭形状が対称面を有していること、を特徴とするゴム変性スチレン系樹脂を成形して成る射出成形品。」である点においては共通しているが、本件発明が「面積平均粒子径が0.1〜0.7μmで、数平均粒子径に対する面積平均粒子径の比が1.0〜2.5の粒子として前記スチレン系重合体中に分散しており、さらにゲル量が前記ゴム状重合体に対して、1.1〜4.0重量比で、その膨潤指数が5〜20であり、かつ、前記ゴム状重合体の分散粒子が、関係式
K=φR{1-[〔(Ds/2)-λ〕/(Ds/2)]3}-1 (式中のφRはゴム変性スチレン系樹脂中のゴム状重合体の体積分率を示し、Dsはゴム状重合体の面積平均粒子径(直径)を示し、λはゴム状重合体相の厚さで0.10μm以下である)
で求められるKが0.18以上であること、
を特徴とするゴム変性スチレン系樹脂」と規定する構成を有するのに対して、引用発明にはこの構成が規定されていない点において、両発明は相違している。
この相違点を検討すると、特許異議申立人は甲第2号証の計算報告書を提出して、そこにおいては、甲第1号証におけるBASF2791単独の顕微鏡写真であるFIG.2を拡大して、それから粒子の長径およびゴム状重合体相の膜厚(λ)を測定し、それらの値を基に数平均粒子径、面積平均粒子径、これらの比、K値などを算出し、これらの値が本件発明で規定される数値範囲と重複することが示されている。
当計算報告書における計算方法に基づけば、これらの計算結果から、引用発明においても、本件発明における、面積平均粒子径、数平均粒子径に対する面積平均粒子径の比、およびK値と同一の数値を備えている可能性は窺えるけれども、本件発明が構成とする「ゴム状重合体粒子における、ゲル量が前記ゴム状重合体に対して、1.1〜4.0重量比で、その膨潤指数が5〜20である」点については、甲第1号証に記載も示唆もされていない。
したがって、両発明はこの構成において相違しており、本件発明は甲第1号証に記載された発明に該当するものではない。
よって、本件特許は特許法第29条第1項第3号の規定に違反してなされたものではない。
(2)本件特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものであるか否かについて
前記のとおりに、甲第1号証は、(a)ポリフェニレンエーテル樹脂、および(b)ゴム変性ポリスチレン樹脂からなる組成物の発明に関するものであり、その(b)成分が、本件発明に関わる、スチレン系重合体中に前記ゴム状重合体の粒子が分散しているゴム変性スチレン系樹脂であるが、本発明が構成とする「面積平均粒子径が0.1〜0.7μmで、数平均粒子径に対する面積平均粒子径の比が1.0〜2.5の粒子として前記スチレン系重合体中に分散しており、かつ、前記ゴム状重合体の分散粒子が、関係式
K=φR{1-[〔(Ds/2)-λ〕/(Ds/2)]3}-1 (式中のφRはゴム変性スチレン系樹脂中のゴム状重合体の体積分率を示し、Dsはゴム状重合体の面積平均粒子径(直径)を示し、λはゴム状重合体相の厚さで0.10μm以下である)
で求められるKが0.18以上であること、を特徴とするゴム変性スチレン系樹脂」については直接には何も記載されていない。
そして、前記のとおり、本件発明が構成とする「ゴム状重合体粒子における、ゲル量が前記ゴム状重合体に対して、1.1〜4.0重量比で、その膨潤指数が5〜20である」点については、甲第1号証に記載も示唆もされていない。
また、甲第3および4号証には、ゴム変性スチレン系樹脂の射出成形品についての一般的な記載がなされているだけで、本件発明の構成を示唆する記載は何もない。
一方、本件発明は、その効果においても明細書に記載のとおり、射出成型品において、光沢と剛性および耐衝撃性のバランスに優れる上、ウェルド部外観およびウェルド部強度が良好であり、家電製品やOA機器の部品などに好適に用いられる、という顕著な効果を奏するものである。
したがって、本件発明は、甲第1号証に記載の発明に基づいて、あるいは、これに甲第3および4号証の記載事項を併せてみても、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
よって、本件特許は特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものではない。
(3)本件明細書には記載の不備があり、本件特許は特許法第36条第3項、第4項および第5項の規定に違反してなされたものであるか否かについて
特許異議申立人は、本件明細書において(イ)「ゴム状重合体の粒子数が、分散している全部の粒子の数を示すのか、全部の粒子の中のオクルージョン構造を有する粒子の数を示すのか、不明であり、また、重合反応により得られるゴム状重合体の100%が、ゴム状重合体の粒子が内包オクルージョンが1個であるオクルージョン構造を有していることは技術的に有り得ない。」、(ロ)
「ゴム状重合体相の厚さλの下限が示されていない」、(ハ)「ゴム状重合体のK値の上限が示されていない」から、本件明細書には記載の不備があると主張している。
よって検討すると、(イ)については、明細書全体の記載、特に、特許請求の範囲における「スチレン系重合体中に前記ゴム状重合体の粒子が分散しており、前記ゴム状重合体の粒子数の70%以上が・・・・」の記載からして、ゴム状重合体の粒子数が、分散している全部の粒子の数を示すのは明らかである。また、重合反応により得られるゴム状重合体の100%が、ゴム状重合体の粒子が内包オクルージョンが1個であるオクルージョン構造を有していることは技術的に有り得ないとは、直ちにはいえず、この主張に対する具体的な根拠も示されていない。
(ロ)については、本件発明は、その発明の目的などからみて、λの上限を規定した点に特徴を有するものであり、下限を規定しないからといってこれにより本件明細書に記載不備があるとすることは妥当ではない。
(ハ)については、本件発明は、その発明の目的などからみて、K値の下限を規定した点に特徴を有するものであり、上限を規定しないからといってこれにより本件明細書に記載不備があるとすることは妥当ではない。
したがって、本件明細書に記載の不備があると
することはできず、本件特許は特許法第36条第3項、第4項および第5項の規定に違反してなされたものではない。
6.むすび
以上のとおりであるから、特許異議申立人の主張する理由および提示する証拠によっては本件特許を取り消すことはできない。
また、他に本件特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
スチレン系樹脂からなる射出成形品
(57)【特許請求の範囲】
(1)(A)スチレン系重合体70〜92重量%と(B)ゴム状重合体30〜8重量%とから成るものであって、前記スチレン系重合体中に前記ゴム状重合体の粒子が分散しており、前記ゴム状重合体の粒子数の70%以上が内包オクルージョンを5個以下含有するオクルージョン構造を有しており、かつ、内包オクルージョンが1個であるゴム状重合体の粒子がオクルージョン構造のうちの60%以上を占めると共に、内包オクルージョンが1個であるゴム状重合体の粒子の外郭形状が対称面を有していて、面積平均粒子径が0.1〜0.7μmで、数平均粒子径に対する面積平均粒子径の比が1.0〜2.5の粒子として前記スチレン系重合体中に分散しており、さらにゲル量が前記ゴム状重合体に対して、1.1〜4.0重量比で、その膨潤指数が5〜20であり、かつ、前記ゴム状重合体の分散粒子が、関係式
K=φR{1-[〔(Ds/2)-λ〕/(Ds/2)]3}-1
(式中のφRはゴム変性スチレン系樹脂中のゴム状重合体の体積分率を示し、Dsはゴム状重合体の面積平均粒子径(直径)を示し、λはゴム状重合体相の厚さで0.10μm以下である)
で求められるKが0.18以上であること、
を特徴とするゴム変性スチレン系樹脂を成形して成る射出成形品。
【発明の詳細な説明】
[発明の属する技術分野]
本発明は新規なスチレン系樹脂から成る射出成形品、さらに詳しくは、光沢、剛性及び耐衝撃性のバランスに優れる上、ウエルド部外観及びウエルド部強度が良好で、家電製品やOA機器の部品などに好適に用いられるゴム変性スチレン系樹脂から成る射出成形品に関するものである。
[従来の技術]
近年、家電製品やOA機器などのハウジング材料には、ABS樹脂並の物性が要求されるようになってきており、例えば光沢度93%以上、ウエルド部のアイゾット衝撃強度6.5kg・cm/cm以上、曲げ弾性率20,000kg/cm2以上が要求されている。
しかしながら、従来のゴム変性スチレン系樹脂(サラミ構造を有するハイインパクトポリスチレン)を用いて、光沢やウエルド部外観が重視される家電製品、例えばVTRのフロントパネル、あるいは掃除機、エアコン、OA機器、ラジカセなどのハウジングを射出成形により作成しても、十分に満足しうる物性をもつものは得られないのが実状である。
ところで、スチレン系樹脂の耐衝撃性を改良する目的で、ポリスチレンにゴム状重合体をブレンドしたり、あるいはゴム状重合体の存在下に、スチレンを重合させることにより、該ゴム状重合体にスチレンが一部グラフト重合され、かつスチレンの残部がポリスチレンとなって、実質上ゴム状重合体/スチレンのグラフト共重合体とポリスチレンとが混合された状態とし、いわゆるゴム変性ポリスチレン樹脂組成物とすることが工業的に行われている。
このようなゴム変性ポリスチレン樹脂組成物においては、通常ゴム状重合体はスチレン系重合体中に、粒子状に分散しており、この粒子の大きさと、耐衝撃性及び光沢とは密接な関係を有することは、良く知られている。すなわち、光沢は、該ゴム状重合体の粒子が小さいほど優れているが、その反面、耐衝撃性は該ゴム状重合体の粒子が小さくなるのに比例して低下し、ある限度以下になると、実質的に耐衝撃性の改良効果がなくなる。
従来のゴム変性ポリスチレン樹脂組成物においては、所望の耐衝撃性を得るために、ゴム状重合体を、粒径が1μm以上、通常1〜10μmの範囲の粒子として、ポリスチレン樹脂相中に分散させているが、光沢などに劣るために、用途の制限を免れないという問題があった。
このような問題を解決するため、ゴム粒子の分散形態を、平均粒子径0.1〜0.7μm程度の単一オクルージョン構造(シェル/コア形といわれる)とすることにより、光沢や耐衝撃性の良好なものが得られることが知られている(西ドイツ公開特許公報第3,345,377号、特開昭63-112646号公報、特開平1-261444号公報)。しかしながら、この場合、光沢は改良されるものの、耐衝撃性、特に落錘衝撃強度については十分ではないという問題が生じる。
[発明が解決しようとする課題]
本発明はこのような事情のもとで、光沢、剛性及び耐衝撃性のバランスに優れる上、ウエルド部外観及びウエルド部強度が良好なスチレン系樹脂から成る射出成形品を提供することを目的としてなされたものである。
[課題を解決するための手段]
本発明者らは、光沢及び耐衝撃性特に落錘衝撃強度に優れたゴム変性スチレン系樹脂を開発するために研究を重ね、先にゴムのミクロ構造を特定することにより、光沢及び耐衝撃性特に落錘衝撃強度に優れたオクルージョン構造を有するゴム変性スチレン系樹脂を見い出した。
本発明者らはさらに鋭意研究を進めた結果、特定のオクルージョン構造を有するゴム変性スチレン系樹脂を用いて成形した射出成形品により、前記目的を達成しうることを見い出し、この知見に基づいて本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明は、(A)スチレン系重合体70〜92重量%と(B)ゴム状重合体30〜8重量%とから成るものであって、前記スチレン系重合体中に前記ゴム状重合体の粒子が分散しており、前記ゴム状重合体の粒子数の70%以上が内包オクルージョンを5個以下含有するオクルージョン構造を有しており、かつ、内包オクルージョンが1個であるゴム状重合体の粒子がオクルージョン構造のうちの60%以上を占めると共に、内包オクルージョンが1個であるゴム状重合体の粒子の外郭形状が対称面を有していて、面積平均粒子径が0.1〜0.7μmで、数平均粒子径に対する面積平均粒子径の比が1.0〜2.5の粒子として前記スチレン系重合体中に分散しており、さらにゲル量が前記ゴム状重合体に対して、1.1〜4.0重量比で、その膨潤指数が5〜20であり、かつ、前記ゴム状重合体の分散粒子が、関係式
K=φR{1-[〔(Ds/2)-λ〕/(Ds/2)]3}-1
(式中のφRはゴム変性スチレン系樹脂中のゴム状重合体の体積分率を示し、Dsはゴム状重合体の面積平均粒子径(直径)を示し、λはゴム状重合体相の厚さで0.10μm以下である)
で求められるKが0.18以上であること、
を特徴とするゴム変性スチレン系樹脂を成形して成る射出成形品を提供するものである。
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明成形品に用いられるゴム変性スチレン系樹脂における(A)成分のスチレン系重合体は、スチレン単独重合体であっても良いし、スチレンと共重合可能な単量体との共重合体であってもよい。該共重合可能な単量体としては、例えばα-メチルスチレン、ビニルトルエン、ビニルエチルベンゼン、ビニルキシレン、p-t-ブチルスチレン、α-メチル-p-メチルスチレン、ビニルナフタレンなどの芳香族モノビニル化合物、アクリロニトリル、メタクリル酸メチル、アクリル酸メチル、メタクリル酸、アクリル酸、無水マレイン酸、フェニルマレイミドなどを挙げることができる。これらの単量体は1種用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよいが、スチレンを含む全単量体に対して、通常50重量%以下、好ましくは40重量%以下の割合で用いられる。
一方、(B)成分のゴム状重合体の種類については特に制限はなく、従来ゴム変性スチレン系樹脂に慣用されているもの、例えば天然ゴムや、ポリブタジエンゴム、ポリイソプレンゴム、スチレン-ブタジエン系共重合体ゴム、スチレン-イソプレン系共重合体ゴム、ブチルゴム、エチレン-プロピレン系共重合体ゴムなどの合成ゴム、あるいはこれらのゴムとスチレンとのグラフト共重合体ゴムなどを用いることができるが、これらの中でスチレン-ブタジエン系ブロック共重合体ゴムが好適である。このスチレン-ブタジエン系ブロック共重合体ゴムとしては、分子量が50,000〜500,000の範囲にあり、かつスチレン類で形成される重合体ブロックの含有量が10〜60重量%の範囲にあるものが特に好ましい。該分子量が50,000未満のものでは耐衝撃性が十分ではないし、500,000を超えると成形時の流動性が低下するようになり、好ましくない。また、このスチレン-ブタジエン系ブロック共重合体ゴムに、分子量が50,000〜500,000程度のポリブタジエンゴムを適宜配合して用いてもよい。このゴム状重合体の分子量は、GPCによるポリスチレン換算値での重量平均分子量である。
該ゴム変性スチレン系樹脂においては、(B)成分のゴム状重合体は、対称面を持つオクルージョン構造を有し、かつ面積平均粒子径(直径)が0.1〜0.7μm、好ましくは0.2〜0.6μmで、数平均粒子径(直径)に対する面積平均粒子径の比が1.0〜2.5、好ましくは1.0〜1.8の粒子として、前記(A)成分のスチレン系重合体中に分散していることが必要である。
前記面積平均粒子径が0.1μm未満では耐衝撃性が十分でないし、0.7μmを超えると光沢が低下する傾向が生じる。また、数平均粒子径に対する面積平均粒子径の比が2.5を超えると光沢が低下する傾向がみられる。
さらに、ゴム状重合体の分散粒子は、対称面をもつオクルージョン構造を有することが必要である。該ゴム状重合体の分散粒子が対称面をもたないオクルージョン構造を有するものであると、耐衝撃性が不十分となるおそれがある。
ここで対称面を有するオクルージョン構造とは、一つのゴム粒子中に、コアがスチレン系重合体で、シェルがゴム状重合体から成る内包オクルージョンが5個以下含まれており、かつそのうちの少なくとも60%以上が内包オクルージョンが1個であり、かつそれは対称面を有する構造のことをいう。
該ゴム変性スチレン系樹脂は、分散ゴム形態が、前記のようなオクルージョン構造を70%以上有することが必要で、サラミ構造などの粒子が30%以上混在すると、良好な光沢が得られないおそれがある。したがって、本発明においては、内包オクルージョンを6個以上含有する、通常サラミ構造を有する耐衝撃性ポリスチレン(HIPS)を、ゴム粒子数で30%未満の割合であれば配合することもできる。
さらに、ゴム変性スチレン系樹脂としては、ゴム状重合体粒子の体積分率(φR)、ゴム状重合体粒子の面積平均粒子径(直径)(Ds)及びゴム状重合体相の厚さ(λ)を因子とする関係式
K=φR{1-[〔(Ds/2)-λ〕/(Ds/2)]3}-1 …(I)
(ただしλは0.10μm以下である)
で求められるKが0.18以上、好ましくは0.20以上、より好ましくは0.22以上であるものが好適である。このK値が0.18未満では落錘衝撃強度が不十分であり、例えば大型テレビのハウジングなどの素材としては必ずしも十分とはいえない。
前記ゴム状重合体粒子の体積分率(φR)は、

φR={[(1/WR)-1](ρR/ρPS)+1}-1 …(II)
によって求めることができる。
ここでρRはゴム状重合体の比重であり、0.90を用いる。またρPSはスチレン系重合体の比重であり、1.05を用いる。さらにWRはゴム変性スチレン系樹脂に含まれるゴム状重合体の重量分率で、式

で求めることができる。
ゴム状重合体粒子の面積平均粒子径(直径)(Ds)及び(Dn)は、次のようにして求めることができる。すなわち、配向の小さいゴム変性スチレン系樹脂のペレットを3重量%の四酸化オスミウム水溶液にて処理したものを超ミクロトームにより薄片化したのち、このものの透過型電子顕微鏡像を得、画像上のゴム状重合体粒子の長径方向の直径(D)を1000個の粒子について測定し、その面積平均値を次式に従って求めることにより、ゴム状重合体粒子の面積平均粒子径(直径)(Ds)及び(Dn)が得られる。

また、ゴム状重合体相の厚さ(λ)は、前記と同様にして透過型電子顕微鏡像を得、ゴム状重合体粒子のうち、ゴム状重合体相が周辺のみに存在するもの、すなわち、中心付近で切削されたゴム状重合体粒子のゴム状重合体相の厚さλiを100個の粒子について測定し、その数平均値を次式に従って求めることにより、得られる。
λ=(λ1+λ2+λ3+………+λ100)/100
また、同様にして透過型電子顕微鏡像を得、無作為に抽出した1000個の粒子に対するオクルージョン構造粒子の数の比率を求め、オクルージョン構造粒子の比率を評価した。
該ゴム変性スチレン系樹脂においては、ゴム重合体粒子は特定のミクロ構造を有している。すなわち、ゲル量がゴム状重合体に対して、1.1〜4.0重量比、好ましくは1.4〜3.6重量比の範囲にあり、またその膨潤指数が5〜20、好ましくは7〜18の範囲にある。該ゲル量が1.1重量比未満では耐衝撃性が十分でなくなるおそれがあり、4.0重量比を超えると光沢が低下するおそれがある。また該膨潤指数が前記範囲を逸脱すると衝撃強度が低下する傾向が生じる。
該ゴム変性スチレン系樹脂においては、スチレン系重合体とゴム状重合体は、それぞれ70〜92重量%及び30〜8重量%、好ましくは72〜90重量%及び28〜10重量%の割合で含有することが必要である。ゴム状重合体の含有量が8重量%未満では耐衝撃性の改良効果が十分に発揮されないし、30重量%を超えると光沢や流動性が低下する傾向が生じる。
また、該ゴム変性スチレン系樹脂においては、ゴム状重合体相の厚さ(λ)が0.10μm以下であることが好ましい。ゴム状重合体相の厚さ(λ)が0.10μm以上にするためには、使用されるゴム状重合体の分子量を高くする必要がある(例えば、スチレン-ブタジエン系ブロック共重合体ゴムを用いる場合、ブタジエン重合体ブロック部の分子量をおよそ800,000以上にする必要がある)。
このような高分子量のゴム状重合体を用いて、ゴム変性スチレン系樹脂を製造すると、重合反応溶液の粘度が著しく高くなり好ましくない。ゴム状重合体相の厚さ(λ)は0.005〜0.07μmにすることが好ましい。
該ゴム変性スチレン系樹脂は、ゴム状重合体の存在下に、スチレン又はスチレンと共重合可能な単量体とを重合させることによって調製することができる。この重合方法については特に制限はなく、従来慣用されている方法、例えば乳化重合法、塊状重合法、溶液重合法、懸濁重合法、あるいは塊状-懸濁二段重合法のような多段重合法などを用いることができる。
次に、塊状-懸濁二段重合法によるゴム変性スチレン系樹脂の好適な製造方法の1例について説明すると、まずスチレン又はスチレンと共重合可能な単量体との混合物に、ゴム状重合体を添加し、必要に応じ加熱して溶解させる。この溶解はできるだけ均一に行うことが好ましい。
次に、この溶液に、アルキルメルカプタンなどの分子量調節剤(連鎖移動剤)及び必要に応じて用いられる有機過酸化物などの重合開始剤を加え、70〜150℃程度の温度に加熱しながら、撹拌下に重合度が10〜60%になるまで塊状重合法による予備重合を行う。この予備重合工程において該ゴム状重合体は撹拌により粒子状に分散される。
次いで、前記予備重合液を第三リン酸カルシウムやポリビニルアルコールなどを懸濁剤として、水相に懸濁し、通常、重合度が100%近くなるまで懸濁重合(主重合)を行う。なお、必要に応じ、この主重合工程の後、さらに加熱を続けてもよい。
前記分子量調節剤としては、例えばα-メチルスチレンダイマー、n-ドデシルメルカプタン、t-ドデシルメルカプタン、1-フェニルブテン-2-フルオレン、ジペンテン、クロロホルムなどのメルカプタン類、テルペン類、ハロゲン化合物などを挙げることができる。
また、所望に応じて用いられる重合開始剤としては、例えば1,1-ビス(t-ブチルペルオキシ)シクロヘキサン、1,1-ビス(t-ブチルペルオキシ)-3,3,5-トリメチルシクロヘキサンなどのべルオキシケタール類、ジクミルペルオキシド、ジ-t-ブチルペルオキシド、2,5-ジメチル-2,5-ジ(t-ブチルペルオキシ)ヘキサンなどのジアルキルペルオキシド類、ベンゾイルペルオキシド、m-トルオイルペルオキシドなどのジアリールペルオキシド類、ジミリスチルペルオキシジカーボネートなどのべルオキシジカーボネート類、t-ブチルペルオキシイソプロピルカーボネートなどのペルオキシエステル類、シクロヘキサノンペルオキシドなどのケトンペルオキシド類、p-メンタンヒドロペルオキシドなどのヒドロペルオキシド類などの有機過酸化物などを挙げることができる。
なお、ゴム状重合体相の厚さλは、ゴム状重合体として、例えばスチレン-ブタジエン系ブロック共重合体ゴムを用いる場合、ブタジエン重合体ブロック部の分子量を変化させることにより制御することができる。すなわち、ブタジエン重合体ブロック部の分子量を小さくすればλは減少し、大きくするとλは増大する。一方、ゴム状重合体粒子の半径Rは重合中の撹拌温度、ゴム状重合体としてスチレン-ブタジエン系ブロック共重合体ゴムを用いる場合はスチレン重合体ブロック部の分子量、さらに連鎖移動剤の使用の有無、スチレン-ブタジエン系ブロック共重合体に配合されるポリブタジエンゴムの有無などによって制御することができる。すなわち、重合中の撹拌速度が速いとRは減少し、遅いと増大する。スチレン重合体ブロック部の分子量を大きくするとRは減少し、小さくするとRは増大する。また、連鎖移動剤を使用しない場合Rは小さいが、使用すると増大するし、ポリブタジエンゴムを用いるとRは増大するが、使用しない場合Rは小さい。
次に、このようにして得られたスラリーを、通常の手段により処理して、ビーズ状反応物を取り出し、乾燥したのち、常法に従いペレット化することにより、所望のゴム変性スチレン系樹脂が得られる。このようにして得られたゴム変性スチレン系樹脂のマトリックス部の分子量は100,000〜300,000、好ましくは130,000〜280,000の範囲にあるのが有利である。この分子量が100,000未満では耐衝撃性に劣るし、300,000を超えると成形時における流動性が不十分となる。
本発明においては、前記のオクルージョン構造を有するゴム変性スチレン系樹脂を単独で射出成形してもよいし、場合により得られる成形品の光沢をさらに良好なものとするために、該ゴム変性スチレン系樹脂20重量%以上、好ましくは30〜85重量%と汎用ポリスチレン80重量%以下、好ましくは70〜15重量%との混合物を射出成形してもよい。この場合、汎用ポリスチレンの量が80重量%を超えるとその量の割には光沢は向上しない上、耐衝撃性が低下する。
この汎用ポリスチレンについては特に制限はなく、スチレンモノマーを塊状重合、懸濁重合、塊状-懸濁重合などの重合方法によって重合させることにより得られる一般に市販されているものを用いることができる。
さらに、本発明においては、前記ゴム変性スチレン系樹脂に、本発明の目的を損なわない範囲で必要に応じ公知の各種添加成分、例えば炭酸カルシウム、タルク、マイカ、シリカ、アスベストなどの無機充てん剤、ガラス繊維、炭素繊維、金属ウイスカーなどの補強剤、さらには、ステアリン酸、ベヘニン酸、ステアリン酸亜鉛、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸マグネシウム、エチレンビスステアロアミドなどの滑剤や、有機ポリシロキサン、ミネラルオイル、あるいは2,6-ジ-t-ブチル-4-メチルフェノール、ステアリル-β-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート、トリエチレングリコール-ビス-3-(3-t-ブチル-4-ヒドロキシ-5-メチルフェニル)プロピオネートなどのヒンダードフェノール系やトリス(2,4-ジ-t-ブチルフェニル)ホスファイト、4,4’-ブチリデンビス(3-メチル-6-t-ブチルフェニル-ジ-トリデシル)ホスファイトなどのリン系の酸化防止剤、紫外線吸収剤、難燃剤、帯電防止剤、離型剤、可塑剤、染料、顔料、他のポリマーなどを添加し、射出成形することができる。
本発明の射出成形品は、前記ゴム変性スチレン系樹脂及び場合により用いられる汎用ポリスチレンや各種添加成分を混練し、通常の射出成形法によって成形することにより作成することができる。この際、一般に、射出成形温度は180〜280℃、射出成形圧力は50〜140kg/cm2・G、スクリュー回転数は50〜300rpmの範囲で選ばれる。
このようにして得られた本発明の射出成形品は、光沢、剛性及び耐衝撃性のバランスに優れる上、ウエルド部外観及びウエルド部強度が良好であって、特に光沢や、ウエルド部外観、ウエルド部強度が要求される家電製品、OA機器などの部品、例えばVTRフロントパネル、あるいは掃除機、エアコン、OA機器、ラジカセなどのハウジングなどに好適に用いられる。
[実施例]
次に、実施例により本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの例によってなんら限定されるものではない。
なお、ゴム変性ポリスチレン及び射出成形品の物性は次のようにして求めた。
・ゴム変性ポリスチレンの物性
(1)ゲル量、膨潤指数
サンプルWc(g)をトルエンに溶解し、15000rpmで60分間遠心分離後、上澄液をデカンテイションし、膨潤した不溶成分量Ws(g)を求め、次にこの膨潤した不溶成分を60℃で24時間真空乾燥して、乾燥不溶成分量Wg
(g)を求める。
ゲル量(wt%)=(Wg/Wc)×100
膨潤指数=Ws/Wg
(2)光沢度
JIS K-7105に準拠して求めた。
(3)アイゾット衝撃強度
JIS K-7110(23℃、ノッチ付)に準拠して求めた。
(4)落錘衝撃強度
270×70×3mmの射出成形板のゲート位置(成形板の末端)より125mm地点で板幅(70mm)の中央部にて、荷重3.76kg、速度3.5m/秒、試料固定部の穴径2インチ、温度23℃の条件で、レオメトリックス社製自動落錘衝撃試験機RDT5000を用いて測定し、力と変位の曲線で最初に力が急激な減少を示す時点までのエネルギーを求め、落錘衝撃強度とした。
(5)曲げ弾性率
ASTM D-790に準拠して求めた。
(6)メルトインデックス[MI]
ISO R-1133に準拠して求めた。
・射出成形品の物性
(7)ウエルド部外観
東芝機械(株)製IS-200CNの射出成形機と第1図に示す短冊金型(幅120×長さ420×厚み3mm)を使用して成形を行い、流動末端部に挿入した円筒入子後方に生じるウエルドの長さを測定し、その長さでウエルド部外観(目立ち)の判定を行った。
(8)ウエルド部強度
東芝機械(株)製IS-150Eの射出成形機と第2図に示す新配向金型を使用して、ウエルド部強度測定用試験片を作製し、JIS K-7110に準拠して、ウエルド部のアイゾット衝撃強度を求めた。
製造例1 単一オクルージョンゴム変性ポリスチレンの製造
内容量5Lのオートクレーブに重量平均分子量10万、スチレン単位の含有量22.6重量%のSBブロック共重合体〔日本ゼオン(株)製、商品名:ZLS-01〕1167g、スチレン3000g及び連鎖移動剤としてのn-ドデシルメルカプタン1gを入れ、300rpmで撹拌しながら130℃、4時間反応を行った。
次いで10Lのオートクレーブに、前記反応混合物3000g、水3000g、懸濁安定剤としてのポリビニルアルコール10g、重合開始剤としてのべンゾイルペルオキシド6g及びジクミルペルオキシド3gを入れ、300rpmで撹拌しながら、80℃から30℃/hrの昇温速度で140℃まで昇温し、その温度でさらに4時間反応させて、ゴム変性ポリスチレンのビーズを得た。
次に、得られたビーズを220℃の単軸押出機にてペレット化したのち、成形を行った。
得られた成形品の物性の測定結果及びゴム変性ポリスチレンの特性を第1表に示す。
製造例2 単一オクルージョンゴム変性ポリスチレンの製造
内容量5LのオートクレーブにSBブロック共重合体〔日本ゼオン(株)製、商品名:ZLS-01、スチレン単位の含有量22.6重量%、分子量10万〕704g、スチレン3000g及び連鎖移動剤としてのn-ドデシルメルカプタン1gを入れ、300rpmで撹拌しながら130℃、4時間反応を行い、予備重合物(I)を得た。
また、同様にポリブタジェン〔旭化成(株)製、商品名:NF35AS〕409gとn-ドデシルメルカプタン1gを用いて予備重合物(II)を得た(ゴム構造はそれぞれ下記のような懸濁重合条件でビーズを合成し電子顕微鏡にてそれぞれ0.4μmのオクルージョンと1.2μmのサラミ構造を確認した)。次いで、10Lのオートクレーブに得られた予備重合物(I)2550g、予備重合物(II)450g、水3000g、懸濁安定剤としてのポリビニルアルコール10g、重合開始剤としてのべンゾイルペルオキシド6g及びジクミルペルオキシド3gを入れ500rpmで撹拌しつつ、80℃から30℃/時間の昇温速度で140℃まで昇温し、さらに4時間反応させてゴム変性ポリスチレンのビーズを得た(電子顕微鏡にてオクルージョンが0.4μm、サラミが1.2μmであることを確認した)。得られたビーズを220℃の単軸押出機にてペレット化したのち、成形を行った。
得られた成形品の物性の測定結果及びゴム変性ポリスチレンの特性を第1表に示す。

製造例1、2共に、電子顕微鏡にてゴム状重合体は対称面を有することを確認した。
実施例1
製造例1で得た対称面をもつオクルージョン構造を有するゴム変性ポリスチレン(オクルージョンHIPS)を2000トンの型締圧を有する射出成形幾[東芝機械(株)製、IS-200CN]を用いて、射出成形温度200℃、射出成形圧力120kg/cm2・G、スクリュー回転数80rpmの条件で、第1図に示す短冊金型(幅120x長さ420×厚み3mm)に射出成形を行い、ウエルド長さを測定してウエルド部外観を評価した。
また、150トンの型締圧を有する射出成形機[東芝機械(株)製、IS-150E]を用いて同様に射出成形を行い、ウエルド部強度(アイゾット衝撃強度)を測定した。なお、この際、金型として第2図に示す新配向金型(肉厚3mm)を用いた。その結果を第2表に示す。
実施例2
実施例1において、製造例1で得たオクルージョンHIPSと汎用ポリスチレン(GPPS)[出光スチロールHH30、出光石油化学(株)製、MI4]とを、重量比50:50の割合でブレンドして用いた以外は、実施例1と同様に実施した。その結果を第2表に示す。
実施例3
実施例1において、製造例1で得たオクルージョンHIPSの代わりに、製造例2で得た対称面を持つオクルージョンHIPSを用いた以外は、実施例1と同様に実施した。その結果を第2表に示す。
比較例1
実施例1において、製造例1で得たオクルージョンHIPSの代わりに、サラミ構造を有するゴム変性ポリスチレン(サラミHIPS)[出光スチロールHT55、出光石油化学(株)製、MI2.0]を用いた以外は、実施例1と同様に実施した。その結果を第2表に示す。
比較例1
実施例2において、オクルージョンHIPSの代わりにサラミHIPS「出光スチロールHT55」を用いた以外は、実施例2と同様に実施した。その結果を第2表に示す。

光沢、ウエルド部外観が重視される家電製品やOA機器の部品用射出成形品には、通常ウエルド部アイゾット衝撃強度6.5kg・cm/cm以上、曲げ弾性率20,000kg/cm2以上及び光沢度93%以上の特性が要求される。
実施例1、2及び3においては、前記特性を満たすとともに、ウエルド部外観が良好であるが、比較例1(HT55単独)では光沢及びウエルド部外観に劣り、比較例2(HT55/H T30重量比50/50の混合物)ではウエルド部外観及びウエルド部衝撃強度が劣る。
[発明の効果]
本発明のスチレン系樹脂から成る射出成形品は、オクルージョン構造を有するゴム変性スチレン系樹脂を射出成形して成るものであって、光沢、剛性及び耐衝撃性のバランスに優れる上、ウエルド部外観及びウエルド部強度が良好であり、例えば家電製品、OA機器の部品などに好適に用いられる。
【図面の簡単な説明】
第1図はウエルド部外観を評価するための射出成形品の作成に用いられる短冊金型の説明図、第2図はウエルド部強度を評価するための射出成形品の作成に用いられる新配向金型の説明図である。図中符号1はウエルド、2は入子、3はゲート、数値の単位はmmである。
 
訂正の要旨 (訂正の要旨)
[1]特許請求の範囲の請求項1の「分散しており、かつ、前記ゴム状重合体」を「分散しており、さらにゲル量が前記ゴム状重合体に対して、1.1〜4.0重量比で、その膨潤指数が5〜20であり、かつ、前記ゴム状重合体」に訂正する。
[2]明細書第5頁18行〜6頁6行(特許公報4欄11〜31行)の「すなわち、本発明は・・・・提供するものである。」を「すなわち、本発明は、(A)スチレン系重合体70〜92重量%と(B)ゴム状重合体30〜8重量%とから成るものであって、前記スチレン系重合体中に前記ゴム状重合体の粒子が分散しており、前記ゴム状重合体の粒子数の70%以上が内包オクルージョンを5個以下含有するオクルージョン構造を有しており、かつ、内包オクルージョンが1個であるゴム状重合体の粒子がオクルージョン構造のうちの60%以上を占めると共に、内包オクルージョンが1個であるゴム状重合体の粒子の外郭形状が対称面を有していて、面積平均粒子径が0.1〜0.7μmで、数平均粒子径に対する面積平均粒子径の比が1.0〜2.5の粒子として前記スチレン系重合体中に分散しており、さらにゲル量が前記ゴム状重合体に対して、1.1〜4.0重量比で、その膨潤指数が5〜20であり、かつ、前記ゴム状重合体の分散粒子が、関係式
K=φR{1-[〔(Ds/2)-λ〕/(Ds/2)]3}-1
(式中のφRはゴム変性スチレン系樹脂中のゴム状重合体の体積分率を示し、Dsはゴム状重合体の面積平均粒子径(直径)を示し、λはゴム状重合体相の厚さで0.10μm以下である)
で求められるKが0.18以上であること、
を特徴とするゴム変性スチレン系樹脂を成形して成る射出成形品を提供するものである。」に訂正する。
[3]明細書第13頁3〜9行(特許公報7欄28〜33行)の「該ゴム変性スチレン系樹脂・・・・望ましい。」を「該ゴム変性スチレン系樹脂においては、ゴム状重合体粒子は特定のミクロ構造を有している。すなわち、ゲル量がゴム状重合体に対して、1.1〜4.0重量比、好ましくは1.4〜3.6重量比の範囲にあり、その膨潤指数が5〜20、好ましくは7〜18の範囲にある。」に訂正する。
異議決定日 2001-03-29 
出願番号 特願平2-17767
審決分類 P 1 651・ 113- YA (C08L)
P 1 651・ 121- YA (C08L)
P 1 651・ 531- YA (C08L)
最終処分 維持  
前審関与審査官 松井 佳章岡崎 美穂  
特許庁審判長 吉村 康男
特許庁審判官 小島 隆
柿崎 良男
登録日 1997-08-15 
登録番号 特許第2683613号(P2683613)
権利者 出光石油化学株式会社
発明の名称 スチレン系樹脂から成る射出成形品  
代理人 矢野 裕也  
代理人 久保田 藤郎  

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