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審決分類 審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  A61F
審判 全部申し立て 2項進歩性  A61F
管理番号 1044802
異議申立番号 異議2000-71312  
総通号数 22 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 1996-09-10 
種別 異議の決定 
異議申立日 2000-04-04 
確定日 2001-04-16 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第2955222号「体液吸収性物品」の請求項1ないし7に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 訂正を認める。 特許第2955222号の請求項1ないし7に係る特許を維持する。 
理由 I.手続の経緯
特許第2955222号の請求項1に係る発明についての出願は、平成7年12月27日(国内優先権主張 平成6年12月28日)に出願され、平成11年7月16日にその発明について特許の設定登録がなされ、その後、勝野智子からその特許について特許異議の申立がなされ、取消理由通知がなされ、その指定期間内である平成12年12月25日に訂正請求がなされたものである。
II.訂正について
1.訂正の内容
(1)特許請求の範囲の請求項1において
「上記高吸収性ポリマーは、上記吸収表面には存在せず、主に上記繊維ウエブ中に分散配置されており、且つ上記吸収性シートを構成する親水性繊維に接着し固定化されており;」を
「上記高吸収性ポリマーは、上記吸収表面には存在せず、主に上記繊維ウエブ中に分散配置されており、且つ水の吸収による粘着性によって、上記吸収性シートを構成する親水性繊維に、その50重量%以上が接着し固定化されており;」と訂正する。
(2)同請求項7において
「上記吸収性シートの厚みが0.3〜1.5mmであり、上記高吸収性ポリマーの散布坪量が20〜70g/m2である吸収性シートから構成され、」を
「上記吸収性シートの厚みが0.3〜1.5mmであり、上記高吸収性ポリマーの散布坪量が20〜70g/m2である吸収性シートから構成され、
上記嵩高性の親水性繊維は、その繊維粗度が0.32〜lmg/m若しくはその断面の真円度が0.5〜1の嵩高性のセルロース繊維であるか、又は架橋セルロース繊維であり、」と訂正する。
(3)明細書段落【0017】中の
「上記高吸収性ポリマーは、上記吸収表面には存在せず、主に上記繊維ウエブ中に分散配置されており、且つ上記吸収性シートを構成する親水性繊維に接着し固定化されており;」を
「上記高吸収性ポリマーは、上記吸収表面には存在せず、主に上記繊維ウエブ中に分散配置されており、且つ水の吸収による粘着性によって、上記吸収性シートを構成する親水性繊維に、その50重量%以上が接着し固定化されており;」と訂正する。
(4)明細書段落【0018】中の
「上記吸収性シートの厚みが0.3〜1.5mmであり、上記高吸収性ポリマーの散布坪量が20〜70g/m2である吸収性シートから構成され、」を
「上記吸収性シートの厚みが0.3〜1.5mmであり、上記高吸収性ポリマーの散布坪量が20〜70g/m2である吸収性シートから構成され、
上記嵩高性の親水性繊維は、その繊維粗度が0.32〜lmg/m若しくはその断面の真円度が0.5〜1の嵩高性のセルロース繊維であるか、又は架橋セルロース繊維であり、」と訂正する。
(5)明細書段落【0028】中の
「上記高吸収性ポリマーは、上記吸収表面には存在せず、主に上記繊維ウエブ中に分散配置されており、且つ上記吸収性シートを構成する親水性繊維に接着し固定化されており;」を
「上記高吸収性ポリマーは、上記吸収表面には存在せず、主に上記繊維ウエブ中に分散配置されており、且つ水の吸収による粘着性によって、上記吸収性シートを構成する親水性繊維に、その50重量%以上が接着し固定化されており;」と訂正する。
(6)明細書段落【0084】中の
「上記高吸収性ポリマー16は、上記繊維ウエブ18を構成する親水性繊維の接着している。」を
「上記高吸収性ポリマー16は、水の吸収による粘着性によって、上記繊維ウエブ18を構成する親水性繊維の接着している。」と訂正し、
「上記高吸収性ポリマーは、その全量に基づき、50重量%以上が繊維に接着していることが好ましく、特に、70重量%」を
「上記高吸収性ポリマーは、その全量に基づき、50重量%以上が繊維に接着しており、70重量%」と訂正する。
(7)明細書段落【0101】中の
「上記高吸収性ポリマーの散布坪量が20〜70g/m2である吸収性シートである。」を
「上記高吸収性ポリマーの散布坪量が20〜70g/m2である吸収性シートであり、上記嵩高性の親水性繊維は、その繊維粗度が0.32〜lmg/m若しくはその断面の真円度が0.5〜1の嵩高性のセルロース繊維であるか、又は架橋セルロース繊維である吸収性シートである。」と訂正する。
2.訂正の適否についての判断
(1)訂正の目的の適否、新規事項の有無及び拡張・変更の存否
上記訂正(1)は、高吸収性ポリマーの親水性繊維に対する接着手法及び接着固定化される量を限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
同じく上記訂正(2)は、嵩高性の親水繊維の性質を限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
さらに、上記訂正(3)〜(7)は、特許請求の範囲の訂正により生じた詳細な説明中の記載の不一致を訂正するものであるから、明りょうでない記載の釈明に相当するものである。そして、上記訂正(1)は、明細書段落【0084】、【0108】、【0109】の記載に基づくものであり、上記訂正(2)は、明細書段落【0056】、【0058】、【0062】の記載に基づくものであるから、上記訂正(1)〜(7)は、願書に添付した明細書に記載した事項の範囲内においてするものであり、実質上特許請求の範囲を拡張・変更するものではない。
3.むすび
以上のとおりであるから、上記訂正請求は、特許法第120条の4第2項の規定に適合し、同条第3項で準用する同法第126条第2〜3項の規定に適合するので、当該訂正を認める。
III.本件発明
訂正明細書の請求項に係る発明は、訂正明細書の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1〜7に記載された、次のとおりのものである。
「【請求項1】少なくとも体液保持性の吸収層及び体液不透過性の防漏層を具備する体液吸収性物品において、
上記吸収層が、少なくとも親水性繊維及び熱溶融性接着繊維または紙力補強剤並びに高吸収性ポリマーを含む吸収性シートであって;
上記吸収性シートは繊維集合体及び繊維ウエブから構成されていると共に、該繊維集合体と該繊維ウエブとは一体化しており、上記繊維集合体は、上記吸収性シートが体液を吸収する吸収表面を有すると共に該吸収表面側には上記高吸収性ポリマーを含まず、上記繊維ウエブは、少なくとも上記親水性繊維から形成されており、上記高吸収性ポリマーは、上記吸収表面には存在せず、主に上記繊維ウエブ中に分散配置されており、且つ水の吸収による粘着性によって、上記吸収性シートを構成する親水性繊維に、その50重量%以上が接着し固定化されており;
上記高吸収性ポリマーの散布坪量は5〜300g/m2であり;
上記吸収性シートは、厚み0.3〜1.5mmである吸収性シートから構成されることを特徴とする体液吸収性物品。
【請求項2】上記繊維集合体の坪量が10〜200g/m2であり、上記繊維ウェブの坪量が10〜200g/m2である、請求項1記載の体液吸収性物品。
【請求項3】上記親水性繊維が嵩高性のセルロース繊維である、請求項1又は2記載の体液吸収性物品。
【請求項4】上記嵩高性のセルロース繊維は、その繊維粗度が0.3mg/m以上である、請求項3記載の体液吸収性物品。
【請求項5】上記嵩高性のセルロース繊維は、その繊維断面の真円度が0.5〜1である、請求項3記載の体液吸収性物品。
【請求項6】上記嵩高性のセルロース繊維が架橋セルロース繊維である、請求項3記載の体液吸収性物品。
【請求項7】少なくとも体液保持性の吸収層及び体液不透過性の防漏層を具備する体液吸収性物品において、
上記吸収層が、嵩高性の親水性繊維及び熱溶融性接着繊維または紙力補強剤から形成され、繊維ウエブと繊維集合体とを主体として一体的に構成された繊維のシート状物である繊維構造体と高吸収性ポリマー粒子とから構成される吸収性シートであって、
上記高吸収性ポリマー粒子は上記吸収性シートが体液を吸収する吸収表面には存在せず、上記繊維構造体中に分散固定されており、
上記吸収性シートの厚みが0.3〜1.5mmであり、上記高吸収性ポリマーの散布坪量が20〜70g/m2である吸収性シートから構成され、
上記嵩高性の親水性繊維は、その繊維粗度が0.32〜lmg/m若しくはその断面の真円度が0.5〜1の嵩高性のセルロース繊維であるか、又は架橋セルロース繊維であり、
上記吸収性物品は使用時に体液の吸収膨潤による違和感がないことを特徴とする体液吸収性物品。」
IV.特許異議の申立について
1.特許異議申立人の主張
異議申立人 勝野智子は、甲第1号証(特開平4-119156号公報)、甲第2号証(実公昭56-6098号公報)、甲第3号証(特開平6-287886号公報)、甲第4号証(機能紙研究会編、小林 監修「化繊紙から機能紙へ」ユニ出版(株)、第518頁〜第520頁、1988年10月25日発行)、甲第5号証(JIS P 8118:1998「紙及び板紙-厚さ及び密度の試験方法」)、甲第6号証(TAPPI スタンダード(日本語版)1979年版完全シート T234su-67「パルプ繊維の粗度」)を提出して、特許第2955222号の請求項1〜4に係る各発明は、前記甲第1号証に記載された発明であるから、請求項1〜4に係る各発明の特許は特許法第29条第1項に違反してされたものであり、また、請求項1〜7に係る各発明は、前記甲第1〜6号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項1〜7に係る各発明の特許は特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであるから取消されるべき旨主張している。
2.異議申立てについての判断
(1)請求項1に係る発明について
甲第1号証のものは、吸収体の密度・加圧下吸収量、吸収性、吸収性重合体の脱落率がある特定の範囲にコントロールされた吸収体を用いることにより薄型軽量で且つ吸収容量が大で漏れの少ない吸収体を目的としたもので(2頁左上欄)、実施例6によると「合成パルプの量を15重量部とし、粉砕パルプの量を34重量部とした以外は実施例4と同様にして坪量0.029g/cm2、密度0.30/cm3の本発明の吸収体(6)を得た。得られた吸収体(6)の加圧下吸収量は16.3g/g、吸水性重合体の脱落率は19%であった。」と記載され、また、実施例4によると「吸水性重合体c100重量部および合成パルプ(・・・)13重量部を20重量部の水を加えながら混合した。次いで、混合物を100重量部の粉砕パルプとミキサー中で乾式混合し、バッチ型空気抄造装置を用いてワイヤースクリーン上に空気抄造し、寸法14cmx40cmのウエブとした。得られたウエブの上下面を坪量0.0013g/cm2のティッシュペーパーで狭持し、その後150℃で1分間エンボスプレスして、坪量0.054g/cm2、密度0.27g/cm3の本発明の吸収体(4)を得た。」と記載されている。
この記載によると、少なくとも、甲第1号証に記載されている実施例6で得られる吸収体は、吸水性重合体および合成パルプを水を加えながら混合し、次いで、混合物を粉砕パルプとミキサー中で乾式混合し、バッチ型空気抄造装置を用いてワイヤースクリーン上に空気抄造してウエブとしたものであり、得られたウエブの上下面をティッシュペーパーで狭持し、その後150℃で1分間エンボスプレスして吸収体としたものである。
一方、本件請求項1に係る発明は、高吸収性ポリマー本来の吸収特性を損なうことなく高吸収性ポリマーが確実に固定された紙状形態の、体液を繰り返し吸収する場合においても高吸収性ポリマーがゲルブロッキングを起こさず、高吸収性ポリマー本来の吸収特性が発現し得る、薄い吸収シートを具備した極めて薄く、装着感に優れ、液吸収後でも違和感の生じない液体吸収物品を提供することを目的にされたものである(段落【0013】〜【0015】)。
その製造例1によると「化学パルプを水中に分散混合し、更に該パルプの乾燥重量100部に対し、紙力補強剤を樹脂成分で1部を水中に分散混合し、この分散混合液を湿式抄紙機のホーミングパートで乾燥坪量が40g/cm2になるように繊維ウエブを形成した。次いで、該繊維ウエブをサクションボックスにより、乾燥繊維ウエブ100部に基づき水分率200部になるまで、繊維ウエブを脱水した。次いで、プレスパート直前で、脱水後の湿潤した繊維ウエブに、高吸収性ポリマーを散布坪量50/cm2でほぼ均一に散布した。上記繊維ウエブのうち、上記高吸収性ポリマーを散布した面に、繊維集合体として、上記繊維ウエブと同様の配合組成を有する、予め抄紙しておいた吸収紙を重ね合わせ、かかる繊維ウエブと吸収紙との重ね合わせ体をドライヤーに導入し、130℃の温度にて乾燥、一体化することにより、内部に高吸収性ポリマーが固定されている一枚の吸収性シートを得た。」と記載されている。即ち、本件の吸収性シートは、分散混合液を湿式抄紙機のホーミングパートで乾燥坪量が40g/cm2になるように繊維ウエブを形成し、次いで、該繊維ウエブをサクションボックスにより、繊維ウエブを脱水し、次いで、プレスパート直前で、脱水後の湿潤した繊維ウエブに、高吸収性ポリマーをほぼ均一に散布し、上記繊維ウエブのうち、上記高吸収性ポリマーを散布した面に、繊維集合体として、上記繊維ウエブと同様の配合組成を有する、予め抄紙しておいた吸収紙を重ね合わせ、かかる繊維ウエブと吸収紙との重ね合わせ体をドライヤーに導入し、130℃の温度にて乾燥、一体化することにより、内部に高吸収性ポリマーが固定されている一枚の吸収性シートとしたものである。
そうすると、甲第1号証の吸収体も本件請求項1の吸収体も、高吸収性ポリマーの脱落を防止し、薄型で吸収容量が大きい吸収物品を得ることを目的とするものであるが、甲第1号証の吸収体と本件請求項1に記載の吸収体とでは、前記記載のとおり、吸収体を製造する方法が異なっており、それにより得られる吸収体の構造も異なるといえる。
してみると、両者の前記目的の解決方法については、その具体的な解決方法が相違するものであるから、甲第1号証の吸収体が、本件請求項1に記載の「上記高吸収性ポリマーは、上記吸収表面には存在せず、主に上記繊維ウエブ中に分散配置されており、且つ水の吸収による粘着性によって、上記吸収性シートを構成する親水性繊維に、その50重量%以上が接着し固定化されている」構成を有しているとはいえない。
したがって、本件請求項1の吸収性シートについては、甲第1号証に記載されているとはいえないし、示唆もされているとはいえない。
異議申立人は、訂正前の請求項1記載中の「上記高吸収性ポリマーは、上記吸収表面には存在せず、主に上記繊維ウエブ中に分散配置されており、且つ上記吸収性シートを構成する親水性繊維に接着し固定化されており;」(以下、技術事項fという。)について、甲第1号証の実施例6の吸収体では、吸収性重合体(高吸収性ポリマー)はウェブ(繊維ウェブ)を構成する親水性繊維に接着・固定され、ティッシュペーパー(繊維集合体)中には存在しないから、訂正前の技術事項fは甲第1号証の吸収物品も有しているという。
しかしながら、前記技術事項fは訂正されて、訂正された内容は技術的事項fとは異なったものになっており、技術的事項fについて甲第1号証に記載されているとしても、上記のとおり、訂正事項についてまでも甲第1号証に記載されているとすることはできない。
甲第2号証には、供給された液を広い範囲に亘って吸収剤中に拡散してゲル形成物質表面にもたらすことができるように工夫した(2欄24行〜27行)「繊維長約5mm以下のパルプ繊維と、多量の水とを接触した場合に膨潤してゲルを形成する如き、ゲル形成物質粒子とが繊維長10mm以上の長繊維から成るウエブ内に分散されている吸収性材料」が示され(特許請求の範囲)、製法として長繊維3から成る繊維ウエブを作り、この一方面から陰圧を加えながら反対面から開繊されたパルプ繊維2とゲル形成物質粒子4との混合粉末を供給して嵩高なウエブの内部に沈積させる方法、シートパルプに予めゲル形成物質を塗着しておき、これを開繊してゲル形成物質の付着したパルプ繊維を得る方法が示されている(3欄20行〜29行)。そして、長繊維3のウエブとゲル形成物質粒子4とが偏在的に分散していても良いことも示され、パルプ繊維2の充填された長繊維3のウエブ表面に、パルプ繊維2とゲル形成物質粒子4の混合物を堆積し、更にこの上に長繊維ウエブにパルプ繊維を充填した層を積層して製造することも示されている(3欄36行〜4欄4行)。
しかしながら、甲第2号証に記載のものは、供給された液を広い範囲に亘って吸収剤中に拡散してゲル形成物質表面にもたらすことができるように工夫されたものであり、本件発明の目的である高吸収性ポリマーの脱落を防止するためのものとは異なっており、しかも、吸収性シートの製法も異なる。
そうすると、甲第2号証の発明と本件請求項1に係る発明の目的はことなっており、しかも、甲第2号証の吸収体と本件請求項1に記載の吸収体とでは、吸収体を得る方法が異なっており、得られた吸収体も異なるといえるから、甲第2号証に記載の吸収体が本件請求項1に記載の「上記高吸収性ポリマーは、上記吸収表面には存在せず、主に上記繊維ウエブ中に分散配置されており、且つ水の吸収による粘着性によって、上記吸収性シートを構成する親水性繊維に、その50重量%以上が接着し固定化されている」構成を有しているとはいえない。
したがって、本件請求項1の吸収性シートについては、甲第2号証に記載されているとはいえないし、示唆もされているとはいえない。
甲第3号証には、高吸収性ポリマーを、嵩高セルロース繊維が50〜98重量%及び熱溶融性接着繊維が2〜30重量%よりなる表面層と、嵩高セルロース繊維が20〜80重量%及び親水性微細繊維が80〜20重量%よりなる基盤層からなる吸収紙の間で狭持した吸収体が示され(請求項7,9、【段落0046】)、従来の、フラッフパルプの吸収体では、吸収速度と拡散性を両立した吸収体が得られておらず依然として吸収性/漏れ防止性に関して不十分であった(【段落004】)ものを解決するために採られたものであり、その目的とすることは、嵩高性セルロース繊維を含む異なる特性を持たせた2種以上の層からなる吸収紙であることにより、表面層では液体を素早く吸収し、基盤層へスムーズに透過させる一方、基盤層では液体を表面層から強力に吸収し、且つ全体に拡散させる(【段落0025】)ことにより、吸収空間が大きく極めて吸収透過性があり、且つ極めて拡散性の高い高性能な吸収紙を得ること、及びその吸収紙を用いて極めて高吸収で漏れの少ない且つ極薄で装着者に快適な吸収物品を提供することである(【段落0007】)。そして、甲第3号証には、吸収体に高吸収性ポリマーを配合することは示されているが、それは、特に一枚の吸収紙2Aと高吸収性ポリマー2Bのみで吸収体2を構成し、吸収紙2Aの間に高吸収性ポリマー2Bを狭持している吸収体2の構造が望ましく、より簡略で高性能な吸収性物品が得られる(段落【0024】)というものであり、実施例5〜9によると、実施品1〜4の吸収紙2Aを用い、高吸収性ポリマー2Bを狭持している。そして、実施品1〜4の吸収紙は、実施例1〜4によると、積層(抄紙)した後、乾燥して吸収紙としこれで高吸収性ポリマーを狭持するものである。
これに対し、本件請求項1に係る発明は、高吸収性ポリマー本来の吸収特性を損なうことなく高吸収性ポリマーが確実に固定された紙状形態の、体液を繰り返し吸収する場合においても高吸収性ポリマーがゲルブロッキングを起こさず、高吸収性ポリマー本来の吸収特性が発現し得る、薄い吸収シートを具備した極めて薄く、装着感に優れ、液吸収後でも違和感の生じない液体吸収物品を提供する(段落【0013】〜【0015】)ものであり、それを達成するために、特に「上記高吸収性ポリマーは、上記吸収表面には存在せず、主に上記繊維ウエブ中に分散配置されており、且つ水の吸収による粘着性によって、上記吸収性シートを構成する親水性繊維に、その50重量%以上が接着し固定化されている」構成を採用したものであり、その製法は、高吸収性ポリマーが脱水直後の湿潤した繊維ウエブに高吸収性ポリマーを散布し、吸収紙を重ね合わせることにより吸収性シートとしているもの(製造例1〜5)である。
してみると、本件請求項1の吸収性シートと甲第3号証に記載された吸収性シートとは、その製法が異なっており、得られる吸収体の構造も異なるというべきであるから、解決すべき目的及びその手段が相違するものである。
したがって、本件請求項1の吸収性シートについては、甲第3号証に記載されているとはいえないし、示唆もされているとはいえない。
甲第4号証には、「化繊紙から機能紙へ」と題して、SWPの特性と用途に関して記載されているものの、高吸収性ポリマーとの関係については何ら記載がされているものではない。
甲第5号証には、「紙及び板紙-厚さ及び密度の試験方法」と題して、記載されいてるだけで、吸収性物品についての記載はない。
甲第6号証には、パルプ繊維の粗度について記載されているものの、吸収性物品についての記載はない。
結局、いずれの甲号証にも本件請求項1に記載の「上記高吸収性ポリマーは、上記吸収表面には存在せず、主に上記繊維ウエブ中に分散配置されており、且つ水の吸収による粘着性によって、上記吸収性シートを構成する親水性繊維に、その50重量%以上が接着し固定化されて」いる構成については記載がされているものではないし、それを示唆する記載もない。
そして、本件請求項1に係る発明は、請求項1に記載された構成を採用することにより、明細書記載の格別の効果を奏するものである。
したがって、本件請求項1に係る発明は前記甲第1〜6号証に記載された発明に基づいて容易に発明をすることができたものではない。
(2)請求項2〜6に係る各発明について
請求項2〜6に係る各発明は、請求項1またはそれを引用した請求項を引用した発明であるから、請求項1に係る発明と同様、甲第1号証に記載された発明であるとも、甲第1〜6号証に記載された発明から容易に発明をすることができたものともいえない。
(3)請求項7に係る発明について
甲第1号証には、使用される親水性繊維としてメカニカルパルプ、ケミカルパルプ、セミケミカルパルプ、溶解パルプ等の木材パルプ繊維、レーヨウン、アセテート等の人工セルロース繊維などが示され、好ましい例として木材パルプ繊維であることが示され(3頁右上欄)、具体的なものとして合成パルプ(商品名:SWP「UL-415」:三井石油化学(株)製)が例示されている。そして、甲第4号証によると、SWPはポリエチレンをパルプ状に繊維化したものであることが示されており、SWP(銘柄:UL-415)は、熱処理後でも親水性を保持しており、したがってこれをBINDERとして使用すれば、親水性のある製品を作ることができ、衛生材料などに使用できることが示されている(518頁,520頁)。また、甲第6号証には、繊維粗度について記載され、粗いパルプでは約30dgであることが示されている。
しかしながら、甲第4、6号証の記載を参照しても、甲第1号証に記載されている体液吸収性物品に使用される親水性繊維について、その繊維粗度が明らかとなるものではない。
してみると、甲第1号証には、本件請求項7に係る発明の「嵩高性の親水性繊維は、その繊維粗度が0.32〜lmg/m若しくはその断面の真円度が0.5〜1の嵩高性のセルロース繊維であるか、又は架橋セルロース繊維である」構成を有する体液吸収性物品が記載されているとはいえない。
また、甲第2号証には、繊維長約5mm以下のパルプ繊維としては、例えば普通の木材パルプシートを粉砕して得られたパルプフラックス等を用いることができること、繊維ウエブ10mm以上の長繊維には天然繊維、再生繊維、合成繊維の別なく使用可能であるが、木綿、ビスコースレーヨン、ベンベルグレーヨン等の親水性の繊維が好ましいことが示され(3欄11行〜17行)、吸収性材料1は、パルプ繊維2の充填された長繊維3のウエブ表面に、パルプ繊維2とゲル形成物質粒子4の混合物を堆積され、更にこの上に長繊維ウエブにパルプ繊維を充填した層を積層して製造することが示されている(3欄43行〜4欄4行)。
しかしながら、甲第2号証に記載されている親水性繊維については、その繊維粗度については何ら示されているものではないし、架橋セルロース繊を使用することについても示されていない。
してみると、本件請求項7に係る発明の「嵩高性の親水性繊維は、その繊維粗度が0.32〜lmg/m若しくはその断面の真円度が0.5〜1の嵩高性のセルロース繊維であるか、又は架橋セルロース繊維である」構成を有する体液吸収性物品については記載がされているとはいえない。
甲第3号証には、嵩高性セルロース繊維は、繊維形状が立体構造であり、その繊維形状は、捻じれ構造、クリンプ構造、屈曲及び/又は分岐構造等を有したセルロース繊維である。また濡れ状態でも嵩高構造を維持するために、セルロース繊維間及び分子間を適当な架橋剤で架橋させた架橋繊維が望ましく、ウエット時の弾性率を向上させた架橋セルロース繊維が望ましい。また嵩高性セルロース繊維は、その繊維断面積(W)が3.0x10-6cm2以上、特に5.0x10-6cm2以上であることが望ましく、また、繊維断面積(W)が3.0x10-6cm2以上にあっては、その繊維断面の真円度(O)が0.5以上であることが望ましい。このような範囲の嵩高性セルロース繊維は繊維間の界面面積、即ちその製造時の界面張力を容易に制御できる。嵩高性セルロース繊維の素材としては、上記繊維空間が構成できるものであれば特に制限はない。具体的には、パルプ、綿等の天然セルロースや、レーヨン、キュプラ等の再生セルロース繊維等が挙げられ、これらの内の一種又は二種類以上を混合して用いることができる。好ましくは、繊維断面積及び断面形状を自由に調整できる再生セルロース繊維、繊維断面を膨潤増大させたマーセル化パルプ及び嵩高構造を有する架橋パルプ等であり、特に架橋パルプは最も嵩高構造を発現し、安価に入手できる点で好ましいことが記載(4欄21行〜44行)されている。そして、これは、従来の、フラッフパルプの吸収体では、吸収速度と拡散性を両立した吸収体が得られておらず依然として吸収性/漏れ防止性に関して不十分であった(【段落004】)ものを解決するために採られたものであり、その目的とすることは、嵩高性セルロース繊維を含む異なる特性を持たせた2種以上の層からなる吸収紙であることにより、表面層では液体を素早く吸収し、基盤層へスムーズに透過させる一方、基盤層では液体を表面層から強力に吸収し、且つ全体に拡散させる(【段落0025】)ことにより、吸収空間が大きく極めて吸収透過性があり、且つ極めて拡散性の高い高性能な吸収紙を得ること、及びその吸収紙を用いて極めて高吸収性で漏れの少ない且つ極薄で装着者に快適な吸収物品を提供すること(【段落0007】)である。
そして、甲第3号証の吸収体は、特に一枚の吸収紙2Aと高吸収性ポリマー2Bのみで吸収体2を構成し、吸収紙2Aの間に高吸収性ポリマー2Bを狭持している吸収体2の構造が望ましく、より簡略で高性能な吸収性物品が得られる(段落【0024】)というものであり、実施例5〜9によると、実施品1〜4の吸収紙2Aを用い、高吸収性ポリマー2Bを狭持している。そして、実施品1〜4の吸収紙は、実施例1〜4によると、積層(抄紙)した後、乾燥して吸収紙としこれで高吸収性ポリマーを狭持するものである。
これに対し、本件請求項7に係る発明は、高吸収性ポリマー本来の吸収特性を損なうことなく高吸収性ポリマーが確実に固定された紙状形態の、体液を繰り返し吸収する場合においても高吸収性ポリマーがゲルブロッキングを起こさず、高吸収性ポリマー本来の吸収特性が発現し得る、薄い吸収シートを具備した極めて薄く、装着感に優れ、液吸収後でも違和感の生じない液体吸収物品を提供することを目的にされたもので(段落【0013】〜【0015】)、その解決すべき手段として、特に「嵩高性の親水性繊維は、その繊維粗度が0.32〜lmg/m若しくはその断面の真円度が0.5〜1の嵩高性のセルロース繊維であるか、又は架橋セルロース繊維である」構成を採用したものであり、これにより高吸収性ポリマーの分散性及び固定化の程度が一層向上するのみならず、湿式抄紙の際に繊維ウエブの排水性を一層容易にコントロールすることができ、高吸収性ポリマーが繊維ウエブ中に三次元的に埋没・分散、固定されやすくなり且つ高吸収性ポリマーのゲルブロッキングの発生も抑えることができる(段落【0052】)というものである。
そして、その製法は、高吸収性ポリマーが脱水直後の湿潤した繊維ウエブに高吸収性ポリマーを散布し、吸収紙を重ね合わせることにより吸収性シートとしているもの(製造例1〜5)であり、これにより高吸収性ポリマーの分散性及び固定化の程度が向上し、湿式抄紙の際に繊維ウエブの排水性が容易にコントロールできるものである。
してみると、本件請求項7の吸収性シートと甲第3号証に記載された吸収性シートとはその製法が異なっており、得られる吸収体の構造も異なるというべきであるから、解決すべき目的及びその手段が相違し、結局、本件請求項7に係る発明と甲第3号証に記載された発明とは相違するものである。
したがって、本件請求項7の吸収性シートについては、甲第3号証に記載されているとはいえないし、示唆もされているとはいえない。
甲第5号証には、「紙及び板紙-厚さ及び密度の試験方法」と題して、記載されいてるだけで、吸収性物品についての記載はない。
そして、本件請求項7に係る発明は、請求項7に記載された構成を採用することにより、明細書記載の格別の効果を奏するものである。
したがって、本件請求項7に係る発明は、前記甲第1号証に記載された発明とも、前記甲第1〜6号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたとすることもできない。
V.むすび
以上のとおりであるから、特許異議申立人の主張及び証拠方法によっては請求項1〜7に係る各発明の特許を取り消すことはできない。
また、他に請求項1〜7に係る各発明の特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
体液吸収性物品
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】 少なくとも体液保持性の吸収層及び体液不透過性の防漏層を具備する体液吸収性物品において、
上記吸収層が、少なくとも親水性繊維及び熱溶融性接着繊維または紙力補強剤並びに高吸収性ポリマーを含む吸収性シートであって;
上記吸収性シートは繊維集合体及び繊維ウエブから構成されていると共に、該繊維集合体と該繊維ウエブとは一体化しており、
上記繊維集合体は、上記吸収性シートが体液を吸収する吸収表面を有すると共に該吸収表面側には上記高吸収性ポリマーを含まず、
上記繊維ウエブは、少なくとも上記親水性繊維から形成されており、
上記高吸収性ポリマーは、上記吸収表面には存在せず、主に上記繊維ウエブ中に分散配置されており、且つ水の吸収による粘着性によって、上記吸収性シートを構成する親水性繊維に、その50重量%以上が接着し固定化されており;
上記高吸収性ポリマーの散布坪量は5〜300g/m2であり;
上記吸収性シートは、厚み0.3〜1.5mmである吸収性シートから構成されることを特徴とする体液吸収性物品。
【請求項2】 上記繊維集合体の坪量が10〜200g/m2であり、
上記繊維ウエブの坪量が10〜200g/m2である、請求項1記載の体液吸収性物品。
【請求項3】 上記親水性繊維が嵩高性のセルロース繊維である、請求項1又は2記載の体液吸収性物品。
【請求項4】 上記嵩高性のセルロース繊維は、その繊維粗度が0.3mg/m以上である、請求項3記載の体液吸収性物品。
【請求項5】 上記嵩高性のセルロース繊維は、その繊維断面の真円度が0.5〜1である、請求項3記載の体液吸収性物品。
【請求項6】 上記嵩高性のセルロース繊維が架橋セルロース繊維である、請求項3記載の体液吸収性物品。
【請求項7】 少なくとも体液保持性の吸収層及び体液不透過性の防漏層を具備する体液吸収性物品において、
上記吸収層が、嵩高性の親水性繊維及び熱溶融性接着繊維または紙力補強剤から形成され、繊維ウエブと繊維集合体とを主体として一体的に構成された繊維のシート状物である繊維構造体と高吸収性ポリマー粒子とから構成される吸収性シートであって、
上記高吸収性ポリマー粒子は上記吸収性シートが体液を吸収する吸収表面には存在せず、上記繊維構造体中に分散固定されており、
上記吸収性シートの厚みが0.3〜1.5mmであり、上記高吸収性ポリマーの散布坪量が20〜70g/m2である吸収性シートから構成され、
上記嵩高性の親水性繊維は、その繊維粗度が0.32〜1mg/m若しくはその断面の真円度が0.5〜1の嵩高性のセルロース繊維であるか、又は架橋セルロース繊維であり、
上記吸収性物品は使用時に体液の吸収膨潤による違和感がないことを特徴とする体液吸収性物品。
【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、生理用ナプキン、ハイジーンパッド、紙おむつ、メディカル用パッド及び母乳パッド等の体液吸収性物品に関するものであり、更に詳しくは、高吸収性ポリマーの脱落がなく且つ吸収性能が高い吸収性シートを含んで成る体液吸収性物品に関するものである。
【0002】
【従来の技術及び発明が解決しようとする課題】
従来、生理用ナプキンや紙おむつ等の体液吸収性物品における吸収体は、主にフラッフパルプ、吸収紙及び高吸収性ポリマーから構成されている。特に、高吸収性ポリマーは、吸収容量が大きいこと及び一旦吸収した体液をゲル状に固めて外へ漏らさないという特性を持つことから、現在では、殆どの体液吸収性物品において用いられている。
【0003】
しかし、高吸収性ポリマーは、このような特性を持っている反面、その形状が粉末状である為、▲1▼脱落(高吸収性ポリマーが体液吸収性物品から漏れてくる)しやすいという技術的課題がある。また、▲2▼高吸収性ポリマーが本来持つ吸収能力を更に高めたいという課題がある。特に、高吸収性ポリマーの脱落は、吸収性を含めた製品性能上の致命的な問題となるので、その脱落防止(固定化)を目的とした種々の技術が提案されている。
【0004】
例えば、米国特許第3,070,095号明細書は、図10に示すように、高吸収性ポリマー16をティッシュ30上に散布して、この上に別のティッシュ31を積層した後、ローラーによる圧着で高吸収性ポリマーをティッシュ内にプレスすることを開示している。しかしながら、この方法では、高吸収性ポリマーは、ティッシュ層の間に層状に固定されるのみであり、多量の高吸収性ポリマーを固定することはできない。従って、かかる吸収性シートを例えば体液吸収性物品の吸収体に用いたような場合には、着用者の運動等によって高吸収性16ポリマーがティッシュ30、31から分離して、ティッシュ30、31間に空間が生じ、液体が滞留してしまう場合がある。
【0005】
米国特許第3,670,731号明細書は、2つの紙層の間に高吸収性ポリマーを散布した後、エンボス加工又はキルト化して、高吸収性ポリマーを所定の位置に保持することを開示している。しかしながら、この方法も、上記ローラーによる圧着法と同様の欠点を有している。
【0006】
また、特公昭59-26467号公報、特開昭54-123293号公報及び特開昭54-141099号公報には、ティッシュにスチームを吹きかけたり水を散布して、ティッシュを湿潤化した後に、高吸収性ポリマーを散布して、高吸収性ポリマーに粘着性を付与することによって、ティッシュ間に高吸収性ポリマーを固定することが開示されている。また、図7に示すように、生理用ナプキン100において、フラッフパルプ2aに水を散布した後、この上に高吸収性ポリマー2eを散布し、この上に吸収紙2bを重ね合わせ、更にこれらを吸収紙2cで被覆して一体化した吸収体も用いられている。これらの方法によれば、高吸収性ポリマーをある程度固定できるものの、脱落を完全に防止することはできず、しかも固定量は依然として不十分である。また、体液を吸収すると、高吸収性ポリマーは層状に膨潤し、場合によってはゲルブロッキング等による吸収阻害を生じることもある。
【0007】
また、特開昭61-132697号公報には、抄紙工程内において、乾燥前の紙上に高吸収性ポリマーを散布した後、乾燥することにより、高吸収性ポリマーを含有した吸収紙を製造する方法が記載されている。この方法によれば、ある程度の量の高吸収性ポリマーを紙中に固定できるが、その固定量は高々10g/m2程度であり、決して十分な量とはいえない。また、得られた吸収性シートにおいては、液を吸収する表面にも高吸収性ポリマーが存在しているので、そのような高吸収性ポリマーは摩擦をはじめとする動的な作用によって容易に脱落してしまうという欠点を有している。
【0008】
更に、ティッシュ等の全面にホットメルト接着剤を塗布し、該接着剤によって高吸収性ポリマーを固定する方法も知られている。この方法によれば、高吸収性ポリマーを確実に固定することができる。しかしながら、ホットメルト接着剤によって高吸収性ポリマーの表面の大部分が被覆されてしまうので、高吸収性ポリマーの膨潤阻害及び体液の吸収阻害が生じてしまう。
【0009】
ホットメルト接着剤を用いた高吸収性ポリマーの固定化の別法として、ホットメルト接着剤をスパイラル状に塗布する方法がある。この方法によれば、上記膨潤阻害及び吸収阻害は少なく、しかも、効率良く高吸収性ポリマーを固定することができる。しかしながら、ホットメルト接着剤をスパイラル状に塗布することによって製造工程及び設備が複雑となってしまう。更に、多量の高吸収性ポリマーを層状に固定するので、体液を吸収したときに高吸収性ポリマーのゲルブロッキングが起こり、液体の膨潤阻害が生じる。
【0010】
一方、乾式法で製造された木材パルプを使用した吸収性シートも知られている。かかる吸収性シートにおいては、ケミカルバインダーや高配合の合成パルプ及び低融点合成繊維等を使用してシート強度を大きくしようとすると、吸収性シートが疎水化し吸収速度が低下する。シート強度が低いと、液体を吸収した場合、高吸収性ポリマーが膨潤し、吸収性シートを破って外側にはみ出すという欠点がある。また、吸収性シートの表面強度を大きくするため、クレープ紙を積層する場合もあるが、この場合、コストが高くなるという問題がある。しかも、いずれの場合にも高吸収性ポリマーの木材パルプヘの固着は不十分であり、高吸収性ポリマーが脱落しやすいという問題は改善されない。さらに、吸収性シートを強圧縮すると、その液吸収速度が低下することは避けられないという問題もある。
【0011】
上記の吸収性シートの他に、基材となる不織布上に高吸収性ポリマーを直接重合せしめて、不織布上に固定化させて吸収性シートを得る方法も知られている。しかしながら、不織布として親水性繊維から成る不織布を用いた場合には、重合の結果得られる高吸収性ポリマーが粒子状とはならず不織布全体に略均一に固定化されてしまうので、液体の吸収量が低下してしまうという欠点がある。一方、不織布として疎水性繊維から成る不織布を用いた場合には、上記親水性繊維から成る不織布の場合とは異なり、重合の結果得られる高吸収性ポリマーは粒子状となるが、吸収性シート全体として疎水性であるために、液体の吸収速度が遅いという欠点を有する。しかも、これらの方法では、未反応のモノマーの残存が避けられないので、該モノマーの人体への安全性の面から吸収性シートの用途が限定されてしまう。
【0012】
また、米国特許第4,605,402号明細書及び同第5,021,050号明細書等には、高吸収性ポリマーを散布した繊維ウエブに、繊維層を重ね合わせて製造された、厚み方向中央部に高吸収性ポリマーが繊維に分散、接着されている吸収体が開示されている。これらの吸収体は製造時に圧縮され薄型化されてはいるが、シート化されておらず、多種の用途に使用するにはまだ厚みが厚い。また、密度も低いため、表面の吸収性も弱い。更には、液体を吸収して湿潤した場合、吸収空間を得るため合成繊維の弾性を利用して元の厚さに回復しようとしているため、体液吸収性物品の薄型化には不十分である。
【0013】
従って、本発明の目的は、吸収層として用いられる吸収性シートとして、高吸収性ポリマー本来の吸収特性を損なうことなく高吸収性ポリマーが確実に固定された紙状形態の、薄い吸収性シートを具備する体液吸収性物品を提供することにある。
【0014】
また、本発明の目的は、体液を繰り返し吸収する場合においても高吸収性ポリマーがゲルブロッキングを起こさず、高吸収性ポリマー本来の吸収特性が発現し得る体液吸収性物品を提供することにある。
【0015】
更に、本発明の目的は、特に、極めて薄く、装着感に優れ、液吸収後でも違和感の生じない体液吸収性物品を提供することにある。
【0016】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、鋭意検討を重ねた結果、体液吸収性物品における吸収性シートを構成する繊維が湿潤した状態で、該繊維間に形成される空間に高吸収性ポリマーを埋没させることにより、高吸収性ポリマーのゲルブロッキングを効果的に防止し得、また、高吸収性ポリマーを大量に固定化させることもできることを知見した。
【0017】
本発明は、上記知見に基づきなされたものであり、少なくとも体液保持性の吸収層及び体液不透過性の防漏層を具備する体液吸収性物品において、
上記吸収層が、少なくとも親水性繊維及び熱溶融性接着繊維または紙力補強剤並びに高吸収性ポリマーを含む吸収性シートであって;
上記吸収性シートは繊維集合体及び繊維ウエブから構成されていると共に、該繊維集合体と該繊維ウエブとは一体化しており、
上記繊維集合体は、上記吸収性シートが体液を吸収する吸収表面を有すると共に該吸収表面側には上記高吸収性ポリマーを含まず、
上記繊維ウエブは、少なくとも上記親水性繊維から形成されており、
上記高吸収性ポリマーは、上記吸収表面には存在せず、主に上記繊維ウエブ中に分散配置されており、且つ水の吸収による粘着性によって、上記吸収性シートを構成する親水性繊維に、その50重量%以上が接着し固定化されており;
上記高吸収性ポリマーの散布坪量は5〜300g/m2であり;
上記吸収性シートは、厚み0.3〜1.5mmである吸収性シートから構成されることを特徴とする体液吸収性物品を提供することにより、上記目的を達成したものである。
【0018】
また、本発明は、少なくとも体液保持性の吸収層及び体液不透過性の防漏層を具備する体液吸収性物品において、
上記吸収層が、嵩高性の親水性繊維及び熱溶融性接着繊維または紙力補強剤から形成され、繊維ウエブと繊維集合体とを主体として一体的に構成された繊維のシート状物である繊維構造体と高吸収性ポリマー粒子とから構成される吸収性シートであって、
上記高吸収性ポリマー粒子は上記吸収性シートが体液を吸収する吸収表面には存在せず、上記繊維構造体中に分散固定されており、
上記吸収性シートの厚みが0.3〜1.5mmであり、上記高吸収性ポリマーの散布坪量が20〜70g/m2である吸収性シートから構成され、
上記嵩高性の親水性繊維は、その繊維粗度が0.32〜1mg/m若しくはその断面の真円度が0.5〜1の嵩高性のセルロース繊維であるか、又は架橋セルロース繊維であり、
上記吸収性物品は使用時に体液の吸収膨潤による違和感がないことを特徴とする体液吸収性物品を提供するものである。
【0019】
本明細書において、「繊維ウエブ」とは、高吸収性ポリマーを散布する前の湿潤状態において、構成繊維が、互いに全く拘束されていないか、又は機械的絡み合い及び摩擦力等によりごく僅かに拘束されて、極めて高い自由度を有する状態にあり、且つその乾燥後においては、構成繊維が、互いに強く拘束されてシート状の形態となる繊維の集合体を意味し、また、「繊維集合体」とは、繊維を主体として形成され、シート状の形態となる繊維の集合体であり、通常の紙、不織布及び織布等のほかに、上記繊維ウエブも包含し、また、「繊維構造体」とは、上記繊維ウエブと上記繊維集合体とを主体として一体的に構成された繊維のシート状物を意味する。
【0020】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の体液吸収性物品の好ましい実施形態を図面を参照しつつ説明する。なお、以下の説明においては、体液吸収性物品として生理用ナプキンを例にとるが、本発明は、ハイジーンパッド、紙おむつ、メディカル用パッド及び母乳パッド等の他の体液吸収性物品にも同様に適用することができる。また、本発明の要件を逸脱しない範囲内であれば、体液吸収性物品の構成素材及び製造方法等は、従来技術の範囲内で自由に改変可能である。
【0021】
まず、図1〜図6を参照しつつ、本発明の体液吸収性物品の好ましい実施形態について説明する。
ここで、図1は、本発明の体液吸収性物品の第1の好ましい実施形態としての生理用ナプキンの幅方向の断面を示す模式図である。また、図2〜図6は、本発明の体液吸収性物品の他の好ましい実施形態としての生理用ナプキンの幅方向の断面を示す模式図(図1相当図)である。
【0022】
図1に示す本発明の体液吸収性物品の第1の好ましい実施形態としての生理用ナプキン100は、体液吸収可能な表面層1、体液不透過性の防漏層3並びに該表面層及び該防漏層の間に介在する体液保持性の吸収層2を具備して成る。
【0023】
更に詳細には、上記生理用ナプキン100は、実質的に縦長に形成されており、上記生理用ナプキンの着用時には、上記表面層1が肌に接する側に位置し、上記防漏層3が下着に接する側に位置する。
【0024】
上記吸収層2は、後述するように、吸収性シート10、フラッフパルプ2a、該吸収性シート10及び該フラッフパルプ2aを被覆する吸収紙2bを具備する。上記防漏層3は、上記吸収層2の側面部及び底面部を被覆している。そして、上記吸収層2と上記防漏層3との組合せ体のすべての面を上記表面層1が被覆している。
【0025】
なお、上記表面層1としては、体液を上記吸収層2へ透過させることができるものであれば制限はないが、特に肌着に近い感触を有するものが好ましい。そのような表面層の例としては、例えば、熱可塑性樹脂の織布、不織布及び多孔性フィルム等が挙げられる。特に、低密度ポリエチレン等のポリオレフィンから成る開孔フィルムを好ましく用いることができる。
【0026】
また、上記防漏層3としては、体液不透過性のものであれば特に制限はないが、透湿性を有し且つ肌着に近い感触を有するものが好ましい。透湿性を有する体液不透過性の防漏層は、例えば、熱可塑性樹脂に無機化合物又は有機化合物のフィラーを添加したものを、Tダイやサーキュラーダイから溶融押出してフィルムを形成し、次いで、かかるフィルムを一軸又は二軸延伸して得ることができる。
【0027】
上記生理用ナプキン100の下着に接する側には、その長手方向に2本の粘着部4、4が筋状に形成されており、該粘着部4、4は、使用前には剥離紙5によって保護されている。また、図1において、符号6は、上記各部材間を接合するための接合部である。なお、その他、特に詳述しない点については、従来の生理用ナプキンと同様に構成されている。
【0028】
次いで、上記第1の実施形態の体液吸収性物品の特徴部分について説明する。
上記第1の実施形態の体液吸収性物品としての生理用ナプキン100は、体液保持性の吸収層2を具備する。該吸収層2は、少なくとも親水性繊維及び熱溶融性接着繊維または紙力補強剤並びに高吸収性ポリマーを含む吸収性シートであって;
上記吸収性シートは繊維集合体及び繊維ウエブから構成されていると共に、該繊維集合体と該繊維ウエブとは一体化しており、
上記繊維集合体は、上記吸収性シートが体液を吸収する吸収表面を有すると共に該吸収表面側には上記高吸収性ポリマーを含まず、
上記繊維ウエブは、少なくとも上記親水性繊維から形成されており、
上記高吸収性ポリマーは、上記吸収表面には存在せず、主に上記繊維ウェブ中に分散配置されており、且つ水の吸収による粘着性によって、上記吸収性シートを構成する親水性繊維に、その50重量%以上が接着し固定化されており;
上記高吸収性ポリマーの散布坪量は5〜300g/m2であり;
上記吸収性シートは、厚み0.3〜1.5mmである吸収性シートから構成されている。
【0029】
かかる吸収性シートを用いることによって、高吸収性ポリマーの脱落及びゲルブロッキングがない体液吸収性物品を得ることができる。しかも、かかる吸収性シートは、その単一の構造中に、体液の吸収・透過及び拡散並びに体液の保持機能を有しているので、従来の体液吸収性物品のように、上記各機能を有する部材を組み合わせる必要がないので、極めて薄型の体液吸収性物品を得ることができる。かかる体液吸収性物品の厚さは、上記吸収性シートの厚さ(0.3〜1.5mm)に表面層、防漏層等の厚さ(0.2〜1.0mm)を加えてものであり、極めて薄いものである。なお、かかる吸収性シートの詳細については後述する。
【0030】
図1に示す本発明の体液吸収性物品の第1の好ましい実施形態によれば、体液は、上記表面層1を通して生理用ナプキン100に吸収される。その後、上記フラッフパルプ2a中を透過して、上記吸収性シート10中に分散されている高吸収性ポリマーに吸収・保持される。この場合、上記吸収性シート10を、上記吸収表面を有する繊維集合体が上記表面層1の側に位置するように配置する。上記吸収性シート10をこのように配置することで、上記フラッフパルプ2aが吸収した体液をよりスムーズに上記吸収性シート10に導くという好ましい効果が得られる。
【0031】
後述するように、上記吸収性シート10は、高吸収性ポリマー本来の吸収特性が損なわれることなく該高吸収性ポリマーが確実に固定されているので、該吸収性シート10を具備して成る生理用ナプキン100は、体液の保持容量が大きい。しかも、図1に示す生理用ナプキン100は、上記吸収性シート10に加えてフラッフパルプ2aも具備するので、体液の保持容量は一層大きくなる。従って、本実施形態の体液吸収性物品は、長時間装着する夜用の生理用ナプキンとして好適である。
【0032】
次に、本発明の体液吸収性物品の第2〜第6の好ましい実施形態を図2〜図6に示す。なお、第2〜第6の実施形態において上記第1の実施形態と同じ点については、特に詳述しないが、上記第1の実施形態において詳述した説明が適宜適用される。また、図2〜図6において図1と同じ部材については同じ符号を付した。
【0033】
図2に示す本発明の体液吸収性物品の第2の好ましい実施形態としての生理用ナプキン100においては、吸収層は、上記吸収性シート10のみから成っており、該吸収性シート10の側面部及び底面部が上記防漏層3によって被覆されている。そして、上記吸収性シート10と上記防漏層3との組合せ体のすべての面を上記表面層1が被覆している。なお、本実施形態においても、上記第1の実施形態と同様に、上記吸収性シート10を、上記吸収表面を有する繊維集合体が上記表面層1の側に位置するように配置する。
【0034】
かかる生理用ナプキン100は、それを構成する部材の数が少なく、しかもそれぞれの部材は薄いので、極めて薄い生理用ナプキンとすることができる。更に、上記吸収性シート10には、高吸収性ポリマー本来の吸収特性が損なわれることなく該高吸収性ポリマーが確実に固定されているので、薄いにもかかわらず、体液の保持容量は大きい。その結果、快適な装着感を有すると共に、体液の保持容量の大きな生理用ナプキンが得られる。
【0035】
図3に示す本発明の体液吸収性物品の第3の好ましい実施形態としての生理用ナプキン100においては、吸収層は、上記吸収性シート10のみから成っており、該吸収性シート10は、C字状に折り曲げられている。そして、上記吸収性シート10は、その側面部及び底面部が上記防漏層3によって被覆されている。更に、上記吸収性シート10と上記防漏層3との組合せ体のすべての面を上記表面層1が被覆している。なお、本実施形態においては、上記吸収性シート10を、上記吸収表面を有する繊維集合体が上記表面層1の側に位置するように折り曲げて配置する。
【0036】
かかる生理用ナプキン100は、上記吸収性シート10がC字状に折り曲げられている分だけ、図2に示す生理用ナプキンよりも厚くなるが、それでも、吸収層2にフラッフパルプを用いた図1に示す生理用ナプキンよりも薄くすることができる。しかも、上記吸収性シート10がC字状に折り曲げられているので、体液の保持容量は大きい。その結果、快適な装着感を有すると共に、体液の保持容量の大きな生理用ナプキンが得られる。
【0037】
図4に示す本発明の体液吸収性物品の第4の好ましい実施形態としての生理用ナプキン100においては、吸収層は、上記吸収性シート10、10、・・が複数枚重ねられて成る(図4においては3枚重ね)。そして、重ねられた上記吸収性シート10、10、・・は、その側面部及び底面部が上記防漏層3によって被覆されている。更に、上記吸収性シート10、10、・・と上記防漏層3との組合せ体のすべての面を上記表面層1が被覆している。なお、本実施形態においても、上記第1の実施形態と同様に、上記吸収性シート10を、上記吸収表面を有する繊維集合体が上記表面層1の側に位置するように配置する。
【0038】
かかる生理用ナプキン100は、上記吸収性シート10が複数枚重ねられている分だけ、図2に示す生理用ナプキンよりも厚くなるが、それでも、吸収層2にフラッフパルプを用いた図1に示す生理用ナプキンよりも薄くすることができる。しかも、上記吸収性シート10が複数枚重ねられているので、体液の保持容量は大きい。その結果、快適な装着感を有すると共に、体液の保持容量の大きな生理用ナプキンが得られる。
【0039】
図5に示す本発明の体液吸収性物品の第5の好ましい実施形態としての生理用ナプキン100においては、上記吸収性シート10が、体液吸収可能な表面層と体液保持性の吸収層との機能を兼用している。即ち、本実施形態の生理用ナプキン100は、体液吸収可能な表面層と体液保持性の吸収層が一体化されて成る吸収性シート10を具備して成り、上記吸収性シート10の側面部及び底面部を上記防漏層3によって被覆して成るものである。なお、本実施形態においては、上記吸収性シート10を、上記吸収表面を有する繊維集合体が肌に接する側に位置するように配置する。
【0040】
かかる生理用ナプキン100は、構成部材の数が少なくなり、しかも、厚さを一層薄くすることができる。その結果、快適な装着感を有すると共に、簡便なプロセスで且つ低コストで製造できる生理用ナプキンが得られる。
【0041】
図6に示す本発明の体液吸収性物品の第6の好ましい実施形態としての生理用ナプキン100においては、上記吸収性シートが、体液吸収可能な表面層、体液保持性の吸収層及び体液不透過性の防漏層の3つの機能を兼用している。即ち、本実施形態の生理用ナプキン100は、体液吸収可能な表面層、体液保持性の吸収層及び体液不透過性の防漏層が一体化されて成る。更に詳細には、上記吸収性シート10及び該吸収性シートの体液を吸収する面とは反対の面に接合・一体化した体液不透過性のシート3’を具備して成る。なお、本実施形態においては、上記吸収性シート10を、上記吸収表面を有する繊維集合体が体液を吸収する側に位置するように配置させる。また、該吸収表面とは反対の面に上記体液不透過性のシート3’を接合させることが特に好ましい。
【0042】
かかる生理用ナプキン100は、構成部材の数が少なくなり、しかも、厚さを更に一層薄くすることができる。その結果、一層快適な装着感を有すると共に、一層簡便なプロセスで且つ低コストで製造できる生理用ナプキンが得られる。なお、本実施形態の体液吸収性物品は、図6に示すような生理用ナプキンに加えて、母乳パッドやハイジーンパッドのような体液を吸収する量の少ない体液吸収性物品としても好適である。
【0043】
次に、本発明の体液吸収性物品に用いられる上記吸収性シートについて図面を参照しつつ詳説する。ここで、図8は、上記吸収性シートの断面を示す模式図であり、図9は好ましい吸収性シートの断面を示す模式図である。
【0044】
上記吸収性シート10は、図8に示すように少なくとも親水性繊維及び熱溶融性接着繊維または紙力補強剤、並びに高吸収性ポリマー16を含んでいる。また、上記吸収性シート10は、体液を吸収する吸収表面12を有し、該吸収表面12には上記高吸収ポリマー16は存在せず、上記高吸収性ポリマー16は、上記吸収性シート10の内部に分散配置されている。また、上記高吸収性ポリマー16は、上記吸収性シート10を構成する上記親水性繊維に接着している。
【0045】
また、上記吸収性シート10は、詳細には、図9に示すように、繊維集合体15及び繊維ウエブ18から構成されている。該繊維集合体15は、吸収表面12を有すると共に、該吸収表面12側には上記高吸収性ポリマー16を含まない。
一方、上記繊維ウエブ18は、少なくとも親水性繊維から構成されている。
また、図9に示すように、上記繊維集合体15と上記繊維ウエブ18とは一体化している。更に、上記高吸収性ポリマー16は、主に上記繊維ウエブ18の内部に配置されている。
【0046】
このように、上記吸収性シート10は、繊維集合体15及び繊維ウエブ18を含み且つ高吸収性ポリマー16がその内部に含まれた一体構造を有していることが特徴の一つである。更に詳しくは、上記吸収性シート10は、上記繊維集合体15を構成する繊維と上記繊維ウエブ18を構成する繊維との間での機械的絡み合い、水素結合(及び紙力補強剤)並びに熱融着等により、上記繊維集合体15と上記繊維ウエブ18とが一体化している。かかる構造を有することにより、上記高吸収性ポリマー16が上記吸収性シートの内部に確実に固定され、その脱落を防止することができる。しかも、上記吸収表面12から吸収された体液の透過性が一層向上し、スムーズに上記高吸収性ポリマー16に到達する。また、体液を吸収した上記高吸収性ポリマー16のゲルブロッキングも抑えられる。従って、上記吸収性シート10は、2枚の吸収紙の間に高吸収性ポリマーを層状に挟持した従来の吸収性シート(図10)とは全く異なった構造を有する(つまり、従来の吸収性シートは2プライであるが、上記吸収性シート10は1枚のシートである)。
かかる一体化は、後述するように、湿式抄紙による重ね合わせによって達成されることが好ましい。
【0047】
なお、図8に示す吸収性シート10においては、吸収表面12とは反対の面側に、サイズ処理した吸収紙や、撥水性の不織布、例えば、ポリエチレンやポリプロピレン等を原料とするメルトブローンを貼り合わせることも好ましい。かかる吸収性シートは、上述した本発明の体液吸収性物品の第6の実施形態(図6)のような生理用ナプキンを作製する場合に特に好ましい。
【0048】
上記繊維ウエブ18は、上記高吸収性ポリマー16の散布前には湿潤した状態にあり、上記繊維ウエブ18を構成する繊維が互いに極めて高い自由度を有していることが重要である。かかる状態の繊維ウエブ18上に上記高吸収性ポリマー16を散布することにより、上記高吸収性ポリマー16は上記繊維ウエブ18中に、即ち、その表面から内部にかけて三次元的に分散固定される。また、上記繊維ウエブ18は、該繊維ウエブ18と上記繊維集合体15とを一体化させた後に上記高吸収性ポリマー16が上記吸収性シート10の表面に析出しない程度の強度を有していることも重要である。この目的のために、上記繊維ウエブ18はJIS-P-8113により測定した湿潤強度が50g以上であることが好ましく、100g以上であることが更に好ましい。上記繊維ウエブ18に湿潤強度を付与するためには、後述するように、熱溶融性接着繊維、或いは紙力補強剤を配合する。また、更に水素結合を形成するような木材パルプ又は非木材パルプを配合することも好ましい。
【0049】
上記繊維ウエブ18は、その坪量が好ましくは10g/m2〜200g/m2であり、更に好ましくは10g/m2〜100g/m2であり、一層好ましくは20g/m2〜80g/m2である。上記坪量が10g/m2に満たないと、上記高吸収性ポリマー16の膨潤時に該高吸収性ポリマー16が上記繊維ウエブ18を突出して脱落してしまうおそれがある。一方、上記坪量が200g/m2を超えると上記繊維ウエブの密度が上がり過ぎ、上記吸収性シート10が固くなりすぎ、上記高吸収性ポリマー16を三次元的に固定できなくなったり、体液の透過性が悪くなったり、更には装着感が悪くなる場合があるので、上記範囲内とすることが好ましい。
【0050】
上記繊維ウエブは少なくとも親水性繊維を含む。かかる親水性繊維としては、親水性表面を有する繊維であって、その湿潤状態において、繊維どうしが互いに極めて高い自由度を有する繊維ウエブを形成できるものであれば、特に制限なく用いることができる。そのような親水性繊維の例には、針葉樹クラフトパルプや広葉樹クラフトパルプのような木材パルプ、木綿パルプ及びワラパルプ等の天然セルロース繊維、レーヨン及びキュプラ等の再生セルロース繊維、ポリビニルアルコール繊維及びポリアクリロニトリル繊維等の親水性合成繊維、並びにポリエチレン繊維、ポリプロピレン繊維及びポリエステル繊維等の合成繊維を界面活性剤により親水化処理したものなどが挙げられるが、それらに限定されるものではない。これらの親水性繊維は1種又は2種以上を用いることができる。
【0051】
上記親水性繊維は、上記繊維ウエブ100重量部に基づき好ましくは30重量部以上含まれ、更に好ましくは50重量部以上含まれる。
【0052】
上記親水性繊維のうち、好ましいものは、セルロース繊維である。セルロース繊維は、安定な親水性表面を持ち、特に湿潤後も親水性を維持するので好ましい。特に、天然セルロース繊維及び再生セルロース繊維のような嵩高性のセルロース繊維が好ましい。コストの点からは、木材パルプを用いることが好ましく、特に針葉樹クラフトパルプが好ましい。かかる嵩高性のセルロース繊維を用いることによって、高吸収性ポリマーの分散性及び固定化の程度が一層向上するのみならず、湿式抄紙の際に繊維ウエブの排水性を一層容易にコントロールすることができる。更に、嵩高性のセルロース繊維は、嵩高で空隙率の高い繊維ウエブを形成できるので、高吸収性ポリマーが繊維ウエブ中に三次元的に埋没・分散、固定されやすくなり且つ高吸収性ポリマーのゲルブロッキングの発生も抑えることができる。なお、上記嵩高性のセルロース繊維の平均繊維長に特に制限はないが、一般的な範囲として、1〜20mmであることが好ましい。また、PET、PE、PP等の合成繊維を親水化処理して得られた繊維も嵩高性の親水性繊維として本発明において好ましく用いられる。
なお、本明細書において「嵩高性の繊維」とは、繊維形状が、捻れ構造、クリンプ構造、屈曲及び/又は分岐構造等の立体構造をとるか、又は繊維断面が極太(例えば繊維粗度が0.3mg/m以上)である繊維をいう。
【0053】
上記嵩高性のセルロース繊維は、上記繊維ウエブ100重量部に基づき、好ましくは30重量部以上含まれ、更に好ましくは50〜99重量部含まれる。
【0054】
上記嵩高性のセルロース繊維の好ましいものの例として、繊維粗度が0.3mg/m以上のセルロース繊維が挙げられる。繊維粗度が0.3mg/m以上のセルロース繊維は、嵩高な状態でセルロース繊維が集積するので、上記繊維ウエブ内に嵩高なネットワーク構造が形成され易いので好ましい。また、体液の移動抵抗が小さく、体液の通過速度が大きくなるので好ましい。
【0055】
本発明において、「繊維粗度」とは、木材パルプのように、繊維の太さが不均一な繊維において、繊維の太さを表す尺度として用いられるものであり、例えば、繊維粗度計(FS-200、KAJANNI ELECTRONICS LTD.社製)を用いて測定することができる。
【0056】
上述の通り、上記嵩高性のセルロース繊維は、繊維粗度が0.3mg/m以上であることが好ましく、より好ましい繊維粗度は0.3〜2mg/mであり、更に好ましい繊維粗度は0.32〜1mg/mである。
【0057】
繊維粗度が0.3mg/m以上のセルロース繊維の例としては、針葉樹クラフトパルプ(Federal Paper Board Co.製の「ALBACEL」(商品名)、及びPT Inti Indorayon Utama 製の「INDORAYON」(商品名))等が挙げられる。
【0058】
上記嵩高性のセルロース繊維の好ましいものの他の例として、繊維断面の真円度が0.5〜1、特に好ましくは0.55〜1であるセルロース繊維が挙げられる。繊維断面の真円度が0.5〜1であるセルロース繊維は、体液の移動抵抗が小さく、体液の透過速度が大きくなるので好ましい。なお、繊維断面の真円度の測定方法は後述する。
【0059】
上述の通り、セルロース繊維として木材パルプを使用することが好ましいが、一般に木材パルプの断面は、脱リグニン化処理により偏平であり、その殆どの真円度は0.5未満である。このような木材パルプの真円度を0.5以上にするためには、例えば、かかる木材パルプをマーセル化処理して木材パルプの断面を膨潤させればよい。
【0060】
このように、上記嵩高性のセルロース繊維としては、木材パルプをマーセル化処理して得られる真円度が0.5〜1であるマーセル化パルプも好ましい。本発明において用いることのできる市販のマーセル化パルプの例としては、ITT Rayonier Inc.製の「FILTRANIER」(商品名)や同社製の「POROSANIER」(商品名)等が挙げられる。
【0061】
また、繊維粗度が0.3mg/m以上で、且つ繊維断面の真円度が0.5〜1であるセルロース繊維を用いると、嵩高なネットワーク構造が一層形成され易くなり、体液の通過速度も一層大きくなるので好ましい。
【0062】
上記嵩高性のセルロース繊維の好ましいものの別の例として、セルロース繊維の分子内及び/又は分子間を架橋させた架橋セルロース繊維がある。かかる架橋セルロース繊維は湿潤状態でも嵩高構造を維持し得るので好ましい。
【0063】
セルロース繊維を架橋するための方法には特に制限はないが、例えば、架橋剤を用いた架橋方法が挙げられる。かかる架橋剤の例としては、ジメチロールエチレン尿素及びジメチロールジヒドロキシエチレン尿素等のN-メチロール系化合物;クエン酸、トリカルバリル酸及びブタンテトラカルボン酸等のポリカルボン酸;ジメチルヒドロキシエチレン尿素等のポリオール;ポリグリシジルエーテル系化合物の架橋剤などが挙げられる。特に、架橋時に人体に有害なホルマリン等を発生しないポリカルボン酸やポリグリシジルエーテル系化合物の架橋剤が好ましい。
【0064】
上記架橋剤の使用量は、上記セルロース繊維100重量部に対して、0.2〜20重量部とするのが好ましい。使用量が0.2重量部未満であると、上記セルロース繊維の架橋密度が低い為、湿潤時に弾性率が大きく低下してしまう場合があり、使用量が20重量部を超えると上記セルロース繊維が剛直になり過ぎ、応力がかかった時に上記セルロース繊維が脆くなってしまう場合があるので、上記範囲とするのが好ましい。
【0065】
上記架橋剤を用いて上記セルロース繊維を架橋するためには、例えば、上記架橋剤の水溶液に必要に応じて触媒を添加したものに、上記セルロース繊維を含浸させ、架橋剤水溶液が設計付着量となる様に上記セルロース繊維を脱水し、次いで架橋温度に加熱するか、又は、スプレー等により架橋剤水溶液を上記セルロース繊維に設計付着量となる様に散布し、その後、架橋温度に加熱し、架橋反応させる。
【0066】
なお、市販の架橋セルロース繊維としては、Weyerhaeuser Paper Co.製の「High Bulk Additive」等が挙げられる。
【0067】
上述した嵩高性のセルロース繊維に加えて、繊維粗度が0.3mg/m以上であるパルプ等のセルロース繊維の分子内及び/又は分子間を上述の方法で架橋した嵩高性のセルロース繊維も好ましい。
【0068】
また、繊維断面の真円度が0.5〜1であるパルプの分子内及び/又は分子間を上述の方法で架橋した嵩高性のセルロース繊維も好ましい。
【0069】
また、繊維断面の真円度が0.5〜1であるマーセル化パルプの分子内及び/又は分子間を上述の方法で架橋した嵩高性のセルロース繊維も好ましい。
【0070】
更に、繊維粗度が0.3mg/m以上であり且つ繊維断面の真円度が0.5〜1であるパルプ(特に、平均繊維長が2〜5mm)も好ましい。
【0071】
一層好ましい上記嵩高性のセルロース繊維は、繊維粗度が0.3mg/m以上であり且つ繊維断面の真円度が0.5〜1であるパルプを上述の方法で架橋したものである。
【0072】
特に好ましい上記嵩高性のセルロース繊維は、繊維粗度が0.3mg/m以上であるパルプをマーセル化によって真円度を0.5〜1した後、上述の方法で架橋したものである。
【0073】
上記吸収性シートが湿潤したときでもその構造を安定に保つようにするためには、上記繊維ウエブに湿潤強度を付与することが必要であり、このために熱溶融性接着繊維または紙力補強剤を配合する。
【0074】
また、上記セルロース繊維の繊維間の水素結合を強化させ吸収性シートの強力向上には、上記熱溶融性接着繊維または上記紙力補強剤に代わり、通常のセルロース繊維、即ち、木材パルプや非木材パルプ等を配合するのも効果的である。しかし、十分に吸収性シートの湿潤時の強度を得るには、熱溶融性接着繊維、或いは紙力補強剤と併用して配合することが好ましい。
【0075】
上記熱溶融性接着繊維としては、加熱により溶融し相互に接着する繊維を用いることができ、具体的には、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン及びポリビニルアルコール等のポリオレフィン系繊維、ポリエステル系繊維、ポリエチレン-ポリプロピレン複合繊維、ポリエチレン-ポリエステル複合繊維、低融点ポリエステル-ポリエステル複合繊維、繊維表面が親水性であるポリビニルアルコール-ポリプロピレン複合繊維、並びにポリビニルアルコール-ポリエステル複合繊維等を挙げることができる。複合繊維を用いる場合には、芯鞘型複合繊維及びサイド・バイ・サイド型複合繊維の何れをも用いることができる。これらの熱溶融性接着繊維は、各々単独で用いることもでき、又は2種以上を混合して用いることもできる。本発明において好ましく用いられる熱溶融性接着繊維としては、熱水で溶解するポリビニルアルコール繊維、芯鞘型のポリエステル繊維等を挙げることができる。
【0076】
上記熱溶融性接着繊維は、一般にその繊維長が2〜60mmであることが好ましく、繊維径は0.1〜3デニール(特に0.5〜3デニール)であることが好ましい。
【0077】
また、上述の通り、上記繊維ウエブには、紙力補強剤としてのポリアミン・エピクロルヒドリン樹脂、ジアルデヒドデンプン、カイメン、カルボキシメチルセルロースなどを添加する。これらの紙力補強剤は、上記繊維ウエブ100重量部に基づき0.01〜30重量部、好ましくは0.01〜20重量部添加することができる。
【0078】
上記熱溶融性接着繊維を用いる場合、上記繊維ウエブは、繊維ウエブ100重量部に基づき、上記親水性繊維を30〜99重量部、上記熱溶融性接着繊維を1〜50重量部含んで成ることが好ましい。更に好ましくは、繊維ウエブ100重量部に基づき、上記親水性繊維を50〜97重量部、上記熱溶融性接着繊維を3〜30重量部含んで成る。
【0079】
上記繊維ウエブは、例えば、好ましくは、ビニロン繊維(ポリビニルアルコール繊維)1〜10重量部、更に好ましくは、2〜5重量部を含んで成る。上記ビニロン繊維は、湿熱で溶解するビニロン繊維を用いることが好ましい。
【0080】
別の例としては、上記繊維ウエブは、好ましくは、芯鞘構造からなる熱溶融性接着繊維1〜30重量部、更に好ましくは、5〜20重量部を含んで成る。芯鞘構造からなる上記熱溶融性接着繊維の具体例としては、融点が70℃〜150℃のポリエチレン-酢酸ビニル樹脂、ポリエチレン樹脂、若しくは変性ポリエステル樹脂又は湿熱溶解性のポリビニルアルコールを鞘部とし、且つポリプロピレン樹脂又はポリエステル樹脂を芯部とする芯鞘構造からなる合成繊維を挙げることができる。
【0081】
一方、上記紙力補強剤を用いる場合、上記繊維ウエブ100重量部に基づき、上記親水性繊維が30〜100重量部、その他の繊維が0〜50重量部、上記紙力補強剤が0.01〜30重量部含まれることが好ましい。更に好ましくは、上記繊維ウエブ100重量部に基づき、上記親水性繊維が50〜100重量部、その他の繊維が0〜20重量部、上記紙力補強剤が0.01〜20重量部含まれる。
【0082】
例えば、上記繊維ウエブは、該繊維ウエブ100重量部に基づき、上記嵩高性のセルロース繊維を30〜99重量部、上記木材パルプ又は非木材パルプを1〜70重量部、及び上記紙力補強剤を0.01〜30重量部含んで成ることが好ましい。更に好ましくは、繊維ウエブ100重量部に基づき、上記嵩高性のセルロース繊維を50〜95重量部、上記木材パルプ又は非木材パルプを5〜50重量部、及び上記紙力補強剤を0.01〜20重量部含んで成る。
【0083】
次に、上記吸収性シートン0の内部に含まれる上記高吸収性ポリマー16について説明する。
図8に示すように、上記高吸収性ポリマー16は、上記吸収性シート10の内部に含まれており、該吸収性シート10を構成する繊維間に形成される空間に分散されている。更に詳細には、図9に示すように、上記高吸収性ポリマー16は、主として上記繊維ウエブ18の内部に、即ち、該繊維ウエブ18と上記繊維集合体15との界面から該繊維ウエブ18の内部にかけて含まれており、該繊維ウエブ18を構成する繊維間に形成される空間に分散されている。その結果、上記高吸収性ポリマー16は、上記吸収性シート中に確実に固定され且つゲルブロッキングの発生が抑えられる。なお、ここで「高吸収性ポリマーが吸収性シートの内部に含まれている」とは、上記高吸収性ポリマーが上記吸収性シートの表面にまったく存在しないことを意味するものではなく、後述する上記吸収性シートの好ましい製造方法において、不可避的に該吸収性シートの表面に存在する微量の高吸収性ポリマーは許容するものであり、上記高吸収性ポリマーのほとんどが上記吸収性シートの内部に存在することをいう。
【0084】
また、上記高吸収性ポリマー16は、水の吸収による粘着性によって、上記繊維ウエブ18を構成する親水性繊維に接着している。従って、高吸収性ポリマー16の固定が一層強固なものとなり、そのゲルブロッキングが一層抑えられる。ここで、上記高吸収性ポリマー16は、主に親水性繊維に接着しているが、吸収性シートを構成する他の繊維、例えば熱溶融性繊維に接着していても問題はない。また、そのすべての粒子が繊維に接着している必要はない。上記高吸収性ポリマー16は、その全量に基づき、50重量%以上が繊維に接着しており、70重量%以上が繊維に接着していることが好ましい。なお、上記高吸収性ポリマー16を繊維に接着させる方法については後述する。
【0085】
また、上記高吸収性ポリマーとして、球状のポリマーを一次粒子としてそれを凝集させて二次粒子とした粒子凝集タイプの高吸収性ポリマーを使用した場合には、一次粒子の全てが繊維に接着してなくてもよく、二次粒子の一部が繊維に接着していれば、その高吸収性ポリマーは繊維に固定されることになる。
【0086】
好ましくは、上記高吸収性ポリマー16は、上記吸収性シート10中に層状に分散されているのではなく、図8に示すように、三次元状に分散されている。従って、高吸収性ポリマーを多量に分散させることができる。即ち、高吸収性ポリマー16を層状(つまり、二次元状)に分散させる従来の吸収性シートにおける高吸収性ポリマーの散布坪量の上限が一般に約50〜100g/m2であるのに対して、上記吸収性シート10においては上記高吸収性ポリマー16を三次元状に分散させることができるので、上記高吸収性ポリマー16の散布坪量の上限を約200〜300g/m2とすることができ、該高吸収性ポリマー16の散布坪量を従来の吸収性シートの約3倍に増量することができる。従って、上記吸収性シートン0は、従来の吸収性シートに比して、体液の吸収量が飛躍的に増大する。更に、上記高吸収性ポリマー16が三次元状に分散されているので、該高吸収性ポリマー16本来の吸収性能が一層効果的に発現される。即ち、従来の吸収性シートと同量の高吸収性ポリマーを使用した場合でも、吸収性能を一層向上させることができ、且つ吸収性シートを極薄化することができる。その上、散布坪量を増量できるので、大きな吸収容量を必要とする紙おむつ等の吸収層としても好適に使用することができる。
【0087】
上記高吸収性ポリマーは、その散布坪量が5〜300g/m2であり、10〜250g/m2であることが好ましい。また、体液の吸収量が多くない用途に使用するときは、吸収性シートを極薄にするために、20〜70g/m2とすることが好ましい。散布坪量が5g/m2に満たないと、吸水力が足りず、十分な機能を発揮し得ない。一方、散布坪量が300g/m2より多いと、上記繊維ウエブと上記繊維集合体との接着力が低下し、高吸収性ポリマーが脱落しやすくなるので、上記範囲内とすることが好ましい。
【0088】
上記高吸収性ポリマー16としては、自重の20倍以上の体液を吸収・保持でき且つゲル化し得るものが好ましい。形状は特に問わず、球状、塊状、ブドウ状、粉末状又は繊維状であり、好ましくは大きさが1〜1000μm(より好ましくは10〜500μm)の粒子状のものである。そのような高吸収性ポリマーの例としては、デンプンや架橋カルボキシルメチル化セルロース、アクリル酸又はアクリル酸アルカリ金属塩の重合体又は共重合体等、ポリアクリル酸及びその塩並びにポリアクリル酸塩グラフト重合体を挙げることができる。ポリアクリル酸塩としては、ナトリウム塩を好ましく用いることができる。また、アクリル酸にマレイン酸、イタコン酸、アクリルアミド、2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸、2-(メタ)アクリロイルエタンスルホン酸、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート又はスチレンスルホン酸等のコモノマーを高吸収性ポリマーの性能を低下させない範囲で共重合せしめた共重合体も好ましく使用し得る。
【0089】
次に、上記吸収性シート10における吸収表面12を有する上記繊維集合体15について説明する。
ここで、上記「吸収表面」とは、上記吸収性シート10が体液を吸収する際に主として、最初に体液を吸収する面のことをいう。即ち、上記吸収性シート10においては、上記繊維集合体15側から体液を吸収させる。
【0090】
上記繊維集合体は、その吸収表面側には上記高吸収性ポリマーを含まない(上記高吸収性ポリマーが存在しない)。ここで、「高吸収性ポリマーを含まない」とは、上記繊維集合体がその吸収表面側に上記高吸収性ポリマーをまったく含まないことを意味するものではなく、後述する上記吸収性シートの好ましい製造方法において不可避的に混入する微量の高吸収性ポリマーは許容するものの実質的にその吸収表面側に高吸収性ポリマーを含まないことを意味する。
【0091】
上記繊維集合体は、繊維の機械的絡み合いや物理的絡み合い及び熱接着等によって得られるものであり、例えば、紙や不織布などを用いることができる。紙としては、湿式抄造により得られる紙やそれをクレープ加工したものなどを使用することができる。一方、不織布としては、レーヨンやキュプラ等の合成セルロース繊維や綿等の天然セルロース繊維を主体としたカード法不織布、スパンボンド不織布、スパンレース不織布のような各種不織布を用いることができる。
【0092】
上記繊維集合体は、好ましくは、親水性繊維を含む。かかる親水性繊維としては、上記繊維ウエブにおいて用いられるものと同様のものを使用することができる。上記親水性繊維は、上記繊維集合体100重量部に基づき好ましくは30重量部以上含まれ、より好ましくは、50〜99重量部含まれる。
【0093】
上記繊維集合体には、上記繊維ウエブと同様に、湿潤強度が付与されていることが好ましい。湿潤強度を付与することにより、上記吸収性シートが湿潤した場合にも、その形態を安定に維持し得るからである。上記繊維集合体の湿潤強度は、JIS-P-8113により測定した湿潤強度が50g以上であることが好ましく、更には100g以上であることが好ましい。上記繊維集合体に湿潤強度を付与するためには、上記繊維ウエブの場合と同様に、上述した熱溶融性接着繊維、或いは紙力補強剤を配合する。また、更に水素結合を形成するような木材パルプ又は非木材パルプを配合することも好ましい。この場合、上記熱溶融性接着繊維は、上記繊維集合体100重量部に基づき好ましくは1〜50重量部含まれ、より好ましくは、3〜30重量部含まれる。また、上記紙力補強剤は、上記繊維集合体100重量部に基づき好ましくは0.01〜30重量部含まれ、より好ましくは、0.02〜20重量部含まれる。
【0094】
上記繊維集合体は、特に好ましくは、上記繊維ウエブを形成する繊維及び成分と同様の配合により形成されている。
【0095】
また、上記繊維集合体は不織布から成ることも好ましく、特に乾式法不織布、例えばカード法不織布から成ることが好ましい。特に、図5及び図6に示す実施形態の体液吸収性物品においては、上記吸収性シートが体液透過性の表面層を兼用しているので、上記繊維集合体として合成繊維の不織布を用いることによって、サラット感が一層向上した体液吸収性物品を得ることができる。
【0096】
上記繊維集合体は、その坪量が10〜200g/m2であることが好ましく、10〜100g/m2であることが更に好ましい。上記坪量が10g/m2に満たないと、上記高吸収性ポリマーの膨潤時に該高吸収性ポリマーが上記繊維集合体を突出して脱落してしまうおそれがある。一方、坪量が200g/m2を超えると上記繊維集合体の密度が上がり過ぎ、吸収性シートが固くなりすぎる場合があるので、上記範囲内とすることが好ましい。
【0097】
上記繊維集合体は、上記繊維ウエブを製造する前に予め製造しておいてもよく、また、上記吸収性シートを製造する際に、上記繊維ウエブと同時に製造してもよい。
【0098】
上記吸収性シートにおいては、上記繊維集合体の坪量が10〜200g/m2であり、上記高吸収性ポリマーの散布坪量が5〜300g/m2であり、上記繊維ウエブの坪量が10〜200g/m2であることが好ましく、上記繊維集合体の坪量が10〜100g/m2であり、上記高吸収性ポリマーの散布坪量が5〜200g/m2であり、上記繊維ウエブの坪量が10〜100g/m2であることが更に好ましい。
【0099】
また、上記吸収性シートのトータルの坪量は、21〜500g/m2であることが好ましく、30〜300g/m2であることが更に好ましく、50〜200g/m2であることが一層好ましい。
【0100】
また、上記吸収性シートは、その繊維密度が0.1g/cm3以上であることが好ましく、0.1〜0.4g/cm3であることが更に好ましく、0.1〜0.2g/cm3であることが一層好ましい。繊維密度をかかる範囲にすることにより、上記高吸収性ポリマーのゲルブロッキングが一層効果的に防止される。このような範囲の繊維密度は、嵩高性の親水性繊維(特に嵩高性のセルロース繊維)を用いることによって、容易に実現できる。
【0101】
上記吸収性シートの特に好ましい実施形態としては、嵩高性の親水性繊維及び熱溶融性接着繊維または紙力補強剤から形成され、繊維ウエブと繊維集合体とを主体として一体的に構成された繊維のシート状物である繊維構造体と高吸収性ポリマー粒子とから構成され、
上記高吸収性ポリマー粒子は上記吸収性シートが体液を吸収する吸収表面には存在せず、上記繊維構造体中に分散固定されており、
上記吸収性シートの厚みが0.3〜1.5mmであり、上記高吸収性ポリマーの散布坪量が20〜70g/m2であり、上記嵩高性の親水性繊維は、その繊維粗度が0.32〜1mg/m若しくはその断面の真円度が0.5〜1の嵩高性のセルロース繊維であるか、又は架橋セルロース繊維である吸収性シートである。かかる吸収性シートは、その厚さが極めて薄い。また、多量の体液を吸収しないのであれば、体液の吸収後も、厚さの増加はほとんどない。従って、かかる吸収性シートを例えば生理用ナプキンの吸収層等に用いた場合には、経血の吸収後でも、違和感のない装着感が得られる。
【0102】
上記吸収性シートを生理用ナプキンの吸収層として用いる場合には、該吸収性シートにおける高吸収性ポリマーの散布坪量は好ましくは10〜100g/m2、更に好ましくは20〜70g/m2であり、繊維集合体の坪量は好ましくは10〜80g/m2、更に好ましくは15〜50g/m2であり、繊維ウエブの坪量は好ましくは10〜80g/m2、更に好ましくは15〜50g/m2であり、吸収性シートの厚みは好ましくは0,3〜1.5mmである。
一方、上記吸収性シートを使い捨ておむつ等の多液保持用の吸収層として用いる場合には、該吸収性シートにおける高吸収性ポリマーの散布坪量は好ましくは50〜300g/m2、更に好ましくは100〜250g/m2であり、繊維集合体の坪量は好ましくは20〜200g/m2、更に好ましくは20〜100g/m2であり、繊維ウエブの坪量は好ましくは20〜200g/m2、更に好ましくは20〜100g/m2であり、吸収性シートの厚みは好ましくは0.5〜1.5mmである。
【0103】
上記吸収性シートの厚みは、高吸収性ポリマーが分散されて繊維に接着されていることにより、吸収効率が良好であるため、薄型化することが可能となった。特に嵩高性のセルロース繊維を使用した場合には、高吸収性ポリマーの分散状態が更に向上されるため好ましい。
即ち、上記吸収性シートは、2.5g/cm2加重下での厚みが0.3〜1.5mmであり、0.5〜1.2mmであることが好ましい。このように、上記吸収性シートは極薄である。しかも、体液の吸収後も厚みの増加は小さい。この理由は、体液を吸収すると、高吸収性ポリマーが大きくなり繊維間距離が押し広げられ、その結果として、吸収性シートの厚みが増すのみであり、米国特許第4,605,402号や同第5,021,050号のように繊維の弾性および高吸収性ポリマーの繊維開放による厚みの増加はないからである。
【0104】
上記吸収性シートの厚みは、上記繊維集合体15と上記繊維ウエブ18とが一体化された後の厚みであり、この厚みは一体化される前に較べると薄い。かかる一体化は、吸収性シートに配合された上記熱溶融性接着繊維または上記紙力補強剤も寄与しているところが大きい。
また、上記吸収性シートにおいては、上述の通り、高吸収性ポリマーが分散されて繊維に接着されていることにより、吸収効率が良好であるため、薄型化することが可能となった。特に嵩高性のセルロース繊維を使用した場合には、高吸収性ポリマーの分散状態が更に向上されるため好ましい。かかる高吸収性ポリマーは繊維並びに上記繊維集合体15と上記繊維ウエブ18に密着しているため、体液の高吸収性ポリマーへの伝達がスムーズとなる。
また、上記繊維集合体15と上記繊維ウエブ18は、熱溶融性接着繊維または紙力補強剤により接合しているため、湿潤しても構造が安定に保たれ、高吸収性ポリマーへの液伝達性及び高吸収性ポリマーの固定性に優れている。
また、上記吸収性シートの厚みは、上述の通り、米国特許第4,605,402号や同第5,021,050号等とは異なり、湿潤後増大しにくい。特に嵩高性のセルロース繊維を親水性繊維として使用した場合、低密度になり繊維による空間が形成されるため、高吸収性ポリマーの分散性、液伝達性に優れ、特に粘度が高い体液の吸収に優れる。また、繊維による空間が確保されているため、厚みが大きく増大することなく湿潤後の吸液性にも優れる。
このように、上記吸収性シートにおいては、高吸収性ポリマーの固定性及び吸収効率を向上させたため、薄型化が可能となった。また、上記繊維集合体15と上記繊維ウエブ18の一体化及びシート化や、湿潤時の構造安定化に寄与する熱溶融性接着繊維若しくは紙力補強剤の使用も、薄型化への要因の一つである。
【0105】
次に、上記吸収性シートを製造するための好ましい方法について図面を参照して説明する。ここで図11は、上記吸収性シートを製造するために好ましく用いられる装置を示す概略図である。
この方法は、少なくとも親水性繊維及び熱溶融性接着繊維または紙力補強剤並びに高吸収性ポリマーを含む吸収性シートの製造方法であって、
少なくとも親水性繊維及び熱溶融性接着繊維または紙力補強剤を含む水スラリーを湿式抄紙して抄造された、湿潤した繊維ウエブ上に高吸収性ポリマーを散布し、
その上に親水性繊維及び熱溶融性接着繊維または紙力補強剤を含む繊維集合体を重ね合わせ、そしてこれらを乾燥し、一体化させる工程を含むことを特徴とする。
かかる方法によれば、高吸収性ポリマーを、上記吸収性シートが体液を吸収する吸収表面には存在させず、且つ該吸収性シートの内部に分散配置させることを容易に行うことができる。また、上記吸収性シートを構成する親水性繊維に、高吸収性ポリマーを、容易に接着・固定化させることができる。更に、上記吸収性シートの厚みを0.3〜1.5mmという極薄にすることが容易となる。
【0106】
上記方法について詳述すると、まず、上記親水性繊維を含む上記繊維ウエブを形成する。上記繊維ウエブを形成する方法に特に制限はなく、例えば、乾式抄紙法などを用いることができるが、好ましくは、湿式抄紙法を用いる。これは、後述するように、上記高吸収性ポリマーを上記繊維ウエブに散布する際に、上記繊維ウエブは湿潤し且つ繊維の自由度が極めて高い状態でなければならないので、湿式抄紙法により上記繊維ウエブを形成すれば、それは直ちに湿潤状態を実現することになるので、別工程をもって湿潤状態にする手間が省けるからである。また、湿式抄紙法により得られる繊維ウエブは、その乾燥前には繊維どうしが互いに十分には結合していないので、その状態で上記高吸収性ポリマーを散布すると、かかる高吸収性ポリマーが繊維間に形成される空間中に三次元的に埋没しやすく、多量の高吸収性ポリマーを散布することができるという利点も有する。
【0107】
上記繊維ウエブを湿式抄紙する場合には、上記繊維ウエブを形成する繊維及び成分等、好ましくは、上記親水性繊維、及び上記熱溶融性接着繊維又は紙力補強剤等を所定の濃度になるように、水に分散せしめてスラリーを形成する。上記親水性繊維、及び上記熱溶融性接着繊維又は紙力補強剤等のスラリー中における濃度は、一般の湿式抄紙における濃度にすればよい。また、上記親水性繊維、及び上記熱溶融性接着繊維又は紙力補強剤等間の相対的な配合割合は、湿式抄紙して得られる繊維ウエブ中におけるそれらの配合割合が上述した範囲となるようにすればよい。
【0108】
このようにして得られた繊維ウエブに、その湿潤状態において、上記高吸収性ポリマーを散布する。繊維ウエブの湿潤状態は、乾燥繊維ウエブ100重量部に基づき水を20〜500重量部含む程度が好ましく、更に好ましくは、50〜300重量部の水を含む。水の量が20重量部に満たないと、散布された高吸収性ポリマーが水を吸収して湿潤し、粘着性を得ることができないので、高吸収性ポリマーの固定性が不十分となり、水の量が500重量部を超えると高吸収性ポリマーが吸水過剰となり、後述する乾燥工程で乾燥不良となることがあるので、上記範囲内とすることが好ましい。
【0109】
湿潤状態の繊維ウエブに、上記高吸収性ポリマーを散布する。これにより、上記高吸収性ポリマーが水を吸収して粘着性を帯び、上記繊維ウエブを構成する繊維中に埋没し、その後の乾燥により繊維に接着・固定化する。また、湿潤した状態の繊維ウエブは、それを構成する繊維が未だ互いに結合しておらず自由度を有しているので、上記高吸収性ポリマーを三次元的に分散せしめることができる。従って、従来の吸収性シートに比して、一層多量の高吸収性ポリマーを安定に固定することができる。上記高吸収性ポリマーを散布する場合、上記高吸収性ポリマーは、湿潤した上記繊維ウエブの全面に均一に散布しても良く、或いは必要に応じて湿潤した上記繊維ウエブの長手方向に間隔をおいて筋状に部分散布したり、湿潤した上記繊維ウエブの長手方向にショット状に間歇散布することもできる。
【0110】
次いで、上記繊維ウエブにおける上記高吸収性ポリマーを散布した面に、上記繊維集合体を重ね合わせる。この時点では、上記繊維ウエブ中の繊維は未だ自由度を有しているので、上記高吸収性ポリマーは、上記繊維ウエブ中に一層埋没するのと共に、上記繊維ウエブ中の繊維と上記繊維集合体中の繊維とが容易に絡み合う。
【0111】
引き続き、上記繊維ウエブと上記繊維集合体との重ね合わせ体を乾燥することによって、上記繊維どうしが絡み合い、更には、水素結合や熱融着の作用も加わり、上記繊維ウエブと上記繊維集合体とが一体化すると共に繊維に粘着した高吸収性ポリマーが乾燥・固着して、上記吸収性シートが得られる。乾燥温度は、使用する繊維等の種類にもよるが、100〜180℃の範囲であることが好ましく、更に好ましい乾燥温度は105〜150℃の範囲である。乾燥及び一体化により、上記繊維ウエブ及び上記繊維集合体が一体化し、しかも、上記繊維ウエブを構成する繊維どうしが互いに結合してシート化される。なお、乾燥手段に特に制限はなく、例えばヤンキードライヤーやエアースルードライヤー等を用いることができる。
【0112】
特に好ましくは、上記吸収性シートは、湿式抄紙機を用いたインラインの単一工程により製造される。即ち、図11に示すように、湿式抄紙機のフォーミングパート40で上記繊維ウエブ18を形成し、サクション脱水工程42で該繊維ウエブ18を脱水し(乾燥繊維ウエブ100重量部に基づき水を20〜500重量部含む程度に脱水)、プレスパート44直前で該繊維ウエブ18上に上記高吸収性ポリマー16を散布すると共にその上に上記繊維集合体15を重ね合わせ、次いで、コンベア45によってドライヤー46に導き、ドライヤー46でこれらを乾燥し一体化する。かかる方法により、上記吸収性シート10を、高速で且つ簡便に製造することができる。
【0113】
湿式抄紙機としては、通常の抄紙機を使用することができ、そのような抄紙機には例えば、長網抄紙機、丸網抄紙機などがある。なお、上記した以外の工程については、通常の抄紙法における工程を適宜用いることができる。
【0114】
なお、上記吸収性シートの製造方法をその好ましい実施形態に基づいて説明したが、上記吸収性シートの製造方法は、かかる方法に限定されないことはいうまでもない。
【0115】
上記吸収性シートは、高吸収性ポリマーの脱落が少なく、高吸収性ポリマーの膨潤によるシートの裂けを防ぐことができる。従って、上記吸収性シートを単独で体液吸収性物品として使用することもできる。
上記吸収性シートには、製造時に、脱臭剤、殺菌剤等を配合し、本発明の体液吸収性物品の他の機能を高めることもできる。
【0116】
【実施例】
以下、実施例及び比較例により本発明を更に詳細に説明するが、本発明は、これらの実施例に限定されないことはいうまでもない。なお、以下の記載において「部」は、特に説明しない限り「重量部」を示す。
【0117】
〔製造例1〕
吸収性シートの製造
繊維粗度0.18mg/m、繊維断面の真円度が0.32の化学パルプ〔針葉樹クラフトパルプ、Skeena Cellulose Co.製のSKEENA PRIME(商品名)〕を水中に分散混合し、更に該パルプの乾燥重量100部に対し、紙力補強剤〔ポリアミドエピクロルヒドリン樹脂、商品名;カイメンWS-570、会社名;日本PMC(株)〕を樹脂成分で1部を水中に分散混合し、この分散混合液を湿式抄紙機のフォーミングパートで乾燥坪量が40g/m2になるように繊維ウエブを形成した。次いで、該繊維ウエブをサクションボックスにより、乾燥繊維ウエブ100部に基づき水分率200部になるまで、繊維ウエブを脱水した。次いで、プレスパート直前で、脱水後の湿潤した繊維ウェブ上に、高吸収性ポリマー〔花王(株)のポリマーQ(商品名)〕を散布坪量50g/m2でほぼ均一に散布した。
【0118】
上記繊維ウエブのうち、上記高吸収性ポリマーを散布した面に、繊維集合体として、上記繊維ウエブと同様の配合組成を有する、予め抄紙しておいた吸収紙(坪量40g/m2)を重ね合わせ、かかる繊維ウエブと吸収紙との重ね合わせ体をドライヤーに導入し、130℃の温度にて乾燥、一体化することにより、内部に高吸収性ポリマーが固定されている一枚の吸収性シートを得た。この吸収性シートを吸収性シートAとする。
【0119】
なお、上記繊維ウエブ及び上記吸収紙において使用した化学パルプの繊維粗度及び繊維断面の真円度は以下のように測定した。
【0120】
<繊維粗度の測定>
繊維粗度計FS-200(KAJAANl ELECTROMCS LTD.製)を用いて測定した。先ず、上記化学パルプの真の重量を求めるために、上記化学パルプを真空乾燥機内で100℃で1時間乾燥させ、上記化学パルプ中に存在している水分を除去する。
素早く上記化学パルプを±0.1mg精度において約1g正確に計りとる。次に上記化学パルプに損傷を与えないように、上記化学パルプを繊維粗度計に付属のミキサーで150mlの水中で完全に離解させ、これを5000mlになるまで水で薄め、得られた希釈液から50mlを正確に計りとり、これを繊維粗度測定溶液とし、上記繊維粗度計の操作手順に従って繊維粗度を求めた。
【0121】
<繊維断面の真円度の測定>
上記化学パルプの断面を面積が変化しないように、断面方向に垂直にスライスし、電子顕微鏡により断面写真をとり、該断面写真を画像回析装置〔日本アビオニクス社製の「Avio EXCEL」(商品名)〕により解析し、下記に示す式を用いて上記化学パルプの繊維断面の真円度を求めた。尚、該真円度は、任意の上記化学パルプの繊維断面を100点測定し、その平均値とした。
【0122】
【数1】

【0123】
〔製造例2〕
吸収性シートの製造
繊維粗度0.36mg/m、繊維断面の真円度が0.80のマーセル化パルプ〔ITT RAYONIER INC.製の「POROSANIER-J」(商品名)〕95部、及び太さ1デニール、長さ3mmのポリビニルアルコール繊維〔熱溶融性接着繊維、三昌(株)製のフィブリボンド(商品名)、以下「PVA繊維」という〕5部を水中に分散混合し所定の濃度とした後、この分散混合液を湿式抄紙機のフォーミングパートで乾燥坪量が40g/m2になるように繊維ウエブを形成した。次いで、該繊維ウエブをサクションボックスにより、乾燥繊維ウエブ100部に基づき水分率150部になるまで、繊維ウエブを脱水した。次いで、プレスパート直前で、脱水後の湿潤した繊維ウエブ上に、高吸収性ポリマー〔花王(株)のポリマーQ(商品名)〕を散布坪量50g/m2でほぼ均一に散布した。
【0124】
上記繊維ウエブのうち、上記高吸収性ポリマーを散布した面に、繊維集合体として、上記繊維ウエブと同様の配合組成を有する、予め抄紙しておいた吸収紙(坪量40g/m2)を重ね合わせ、かかる繊維ウエブと吸収紙との重ね合わせ体をドライヤーに導入し、130℃の温度にて乾燥、一体化することにより、内部に高吸収性ポリマーが固定されている一枚の吸収性シートを得た。この吸収性シートを吸収性シートBとする。
【0125】
〔製造例3〕
吸収性シートの製造
繊維粗度0.32mg/m、繊維断面の真円度が0.30の架橋処理パルプ〔Weyerhauser Paper製の「High Bulk Additive HBA-S」(商品名)〕70部、及び繊維粗度0.18、繊維断面の真円度が0.32の針葉樹クラフトパルプ〔Skeena Cellulose Co.製の「SKEENA PRIME」(商品名)〕30部を水中に分散混合し、更に上記混合したパルプの乾燥重量100部に対し、紙力補強剤〔ポリアミドエピクロルヒドリン樹脂、商品名;カイメンWS-570、会社名;日本PMC(株)〕を樹脂成分で1部を水中に分散混合し、所定の濃度とした後、この分散混合液を湿式抄紙機のフォーミングパートで乾燥坪量が40g/m2になるように繊維ウエブを形成した。次いで、該繊維ウエブをサクションボックスにより、乾燥繊維ウエブ100部に基づき水分率100部になるまで、繊維ウエブを脱水した。次いで、プレスパート直前で、脱水後の湿潤した繊維ウエブ上に、高吸収性ポリマー〔花王(株)のポリマーQ(商品名)〕を散布坪量50g/m2でほぼ均一に散布した。
【0126】
上記繊維ウエブのうち、上記高吸収性ポリマーを散布した面に、繊維集合体として、上記繊維ウエブと同様の配合組成を有する、予め抄紙しておいた吸収紙(坪量40g/m2)を重ね合わせ、かかる繊維ウエブと吸収紙との重ね合わせ体をドライヤーに導入し、130℃の温度にて乾燥、一体化することにより、内部に高吸収性ポリマーが固定されている一枚の吸収性シートを得た。この吸収性シートを吸収性シートCとする。
【0127】
〔製造例4〕
吸収性シートの製造
繊維粗度0.32mg/m、繊維断面の真円度が0.30の架橋処理パルプ〔Weyerhauser Paper製の「High Bulk Additive HBA-S」(商品名)〕95部、及び上記PVA繊維5部を水中に分散混合し所定の濃度とした後、この分散混合液を湿式抄紙機のフォーミングパートで乾燥坪量が40g/m2になるように繊維ウエブを形成した。次いで、該繊維ウエブをサクションボックスにより、乾燥繊維ウエブ100部に基づき水分率100部になるまで、繊維ウエブを脱水した。次いで、プレスパート直前で、脱水後の湿潤した繊維ウエブ上に、高吸収性ポリマー〔花王(株)のポリマーQ(商品名)〕を散布坪量50g/m2でほぼ均一に散布した。
【0128】
上記繊維ウエブのうち、上記高吸収性ポリマーを散布した面に、繊維集合体として、上記繊維ウエブと同様の配合組成を有する、予め抄紙しておいた吸収紙(坪量40g/m2)を重ね合わせ、かかる繊維ウエブと吸収紙との重ね合わせ体をドライヤーに導入し、130℃の温度にて乾燥、一体化することにより、内部に高吸収性ポリマーが固定されている一枚の吸収性シートを得た。この吸収性シートを吸収性シートDとする。
【0129】
〔製造例5〕
吸収性シートの製造
繊維粗度0.32mg/m、繊維断面の真円度が0.30の架橋処理パルプ〔Weyerhauser Paper製の「High Bulk Additive HBA-S」(商品名)〕90部、及び太さ1.1デニール、長さ5mmの低融点ポリエステル接着繊維〔帝人(株)製のTM-07N(商品名)〕を10部を水中に分散混合し所定の濃度とした後、この分散混合液を湿式抄紙機のフォーミングパートで乾燥坪量が40g/m2になるように繊維ウエブを形成した。次いで、該繊維ウエブをサクションボックスにより、乾燥繊維ウエブ100部に基づき水分率100部になるまで、繊維ウエブを脱水した。次いで、プレスパート直前で、脱水後の湿潤した繊維ウエブ上に、高吸収性ポリマー〔花王(株)のポリマーQ(商品名)〕を散布坪量50g/m2でほぼ均一に散布した。
【0130】
上記繊維ウエブのうち、上記高吸収性ポリマーを散布した面に、表面を親水化処理を施した太さ2.2デニール、長さ38mmのポリエチレン/ポリプロピレン複合繊維〔チッソ(株)製〕を用い、カード機によって製造した乾式熱接着不織布(坪量40g/m2)を重ね合わせ、かかる繊維ウエブと不織布との重ね合わせ体をドライヤーに導入し、130℃の温度にて乾燥、一体化することにより、内部に高吸収性ポリマーが固定されている一枚の吸収性シートを得た。この吸収性シートを吸収性シートEとする。
【0131】
〔比較製造例1〕
吸収性シートの製造
製造例1で用いた繊維粗度0.18mg/m、繊維断面の真円度が0.32の化学パルプ〔Skeena Cellulose Co.製のSKEENA PRIME(商品名)〕を坪量40g/m2で予め抄紙した吸収紙を用いて吸収性シートを製造した。
即ち、上記吸収紙の上に、上記吸収紙(乾燥)100部に基づき200部になるまで水を散布する。次いで、湿潤した上記吸収紙の上に高吸収性ポリマー〔花王(株)のポリマーQ(商品名)〕を散布坪量50g/m2でほぼ均一に散布した。
【0132】
上記吸収紙のうち、上記高吸収性ポリマーを散布した面に、上記吸収紙と同様の配合組成を有する坪量40g/m2の吸収紙を重ね合わせ、かかる2枚の吸収紙の重ね合わせ体を圧着一体化した後、ドライヤーで乾燥し、トータル坪量130g/m2の吸収性シートを得た。この吸収性シートにおける、高吸収性ポリマーを散布した吸収紙は、湿潤した繊維ウエブの状態ではなく、パルプ繊維が互いに強く抱束されたものであり、しかも、2枚の吸収紙の間に高吸収性ポリマーが層状にサンドイッチされたものである。この吸収性シートを吸収性シートFとする。
【0133】
〔比較製造例2〕
吸収性シートの製造
比較製造例1と同様の吸収紙の上に、該吸収紙(乾燥)100部に基づき10部になるまで水を散布する。次いで、湿潤した上記吸収紙の上に高吸収性ポリマー〔花王(株)のポリマーQ(商品名)〕を散布坪量50g/m2でほぼ均一に散布した。
【0134】
上記吸収紙のうち、上記高吸収性ポリマーを散布した面に、上記吸収紙と同様の配合組成を有する坪量40g/m2の吸収紙を重ね合わせ、かかる2枚の吸収紙の重ね合わせ体を、縦及び横方向に5mmの区間で仕切られた格子エンボスロールを通してエンボス圧着・一体化した後、ドライヤーで乾燥し、トータル坪量130g/m2の吸収性シートを得た。この吸収性シートにおける、高吸収性ポリマーを散布した吸収紙は、湿潤した繊維ウエブの状態ではなく、パルプ繊維が互いに強く抱束されたものであり、しかも、2枚の吸収紙の間に高吸収性ポリマーがエンボスにより圧着されたものである。この吸収性シートを吸収性シートGとする。
【0135】
〔比較製造例3〕
吸収性シートの製造
比較製造例1と同様の吸収紙の上に、接着剤〔ヘキスト合成(株)のモビニール710(商品名)〕を坪量20g/m2で塗布し、次いで、その上に高吸収性ポリマー〔花王(株)のポリマーQ(商品名)〕を散布坪量50g/m2でほぼ均一に散布した。
【0136】
上記吸収紙のうち、上記高吸収性ポリマーを散布した面に、上記吸収紙と同様の配合組成を有する坪量40g/m2の吸収紙を重ね合わせ、かかる2枚の吸収紙の重ね合わせ体を圧着一体化した後、ドライヤーで乾燥し、トータル坪量150g/m2の吸収性シートを得た。この吸収性シートにおける、高吸収性ポリマーを散布した吸収紙は、湿潤した繊維ウエブの状態ではなく、パルプ繊維が互いに強く抱束されたものであり、しかも、2枚の吸収紙の間に高吸収性ポリマーが接着剤により層状に固定されたものである。この吸収性シートを吸収性シートHとする。
【0137】
〔比較製造例4〕
吸収性シートの製造
合成パルプ及び高吸収性ポリマーを含む乾式吸収性シートを製造した。
即ち、ポリエチレンの合成パルプ25部、及び化学パルプ75部からなるパルプシート〔針葉樹パルプ、ハーキュリーズ(株)製〕をハンマーミルで解繊し、坪量80g/m2の乾式吸収性シートを形成する際に、高吸収性ポリマー〔日本触媒(株)製のアクアリックCAW-4(商品名)〕を50g/m2になるように原料中に混合し、その後熱風処理により、ポリエチレン合成パルプを融着させ、一体化させた。この乾式吸収性シートは、その表面にも高吸収性ポリマーが存在するものである。この吸収性シートを吸収性シートIとする。
【0138】
〔比較製造例5〕
吸収性シートの製造
エアーレイド法により形成した坪量45g/m2のパルプシート〔針葉樹パルプ、ハピックス(株)製〕の間に、高吸収性ポリマー〔日本触媒(株)製のアクアリックCAW-4(商品名)〕を坪量50g/m2になるように散布し、次いでケミカルバインダーでパルプを固定させた吸収性シートを製造した。この吸収性シートを吸収性シートJとする。
【0139】
製造例1〜5における吸収性シートA〜E及び比較製造例1〜5における吸収性シートF〜Jの配合組成及び製造方法をそれぞれ表1及び表2に示す。
【0140】
【表1】

【0141】
【表2】

【0142】
吸収性シートA〜Jについて、以下に述べる方法により種々の試験を行った。その結果を表3に示す。
【0143】
<厚み>
適当な大きさに切断した吸収性シートの上面に荷重面積10cm2(半径17.8mmの円板)で2.5g/cm2の荷重をかけ、厚み計でその厚みを測定した。計10点の平均値をとって、その厚みとした。
【0144】
<高吸収性ポリマーの脱落試験>
70×200mmに切り出した吸収性シートの重量を測定した後、これを長さ280mm×幅200mmのチャック付きのポリ袋に入れ、この状態で50回手で振りながら振動を加える。試験終了後、吸収性シートの重量変化を測定するとともに、ポリ袋中に脱落した高吸収性ポリマーが肉眼でよく観察できるよう、青色一号で染色した色水(0.3g/水100ml)をポリ袋中に加え、高吸収性ポリマーを膨潤させ、目視で脱落の程度を判定する。
○・・・高吸収性ポリマーの脱落が殆ど認められない。
△・・・高吸収性ポリマーの脱落が多少認められる。
×・・・高吸収性ポリマーの脱落がかなり認められる。
測定は10回の試験を行い、その平均値をもって脱落量とした。
【0145】
<吸収性シートの湿潤時のシート強さ>
200mm×200mmに切り出した吸収性シートを手に持ち、机上に、青色一号で染色した色水(0.3g/水100ml)10gを滴下し、手に持った吸収シートで色水をふき取った。くり返し計3回のふき取りテストを実施し(計30g吸収性シートに吸収させる)、吸収性シート表面のシートの破れ、及び高吸収性ポリマーの脱落試験を行った。
○・・・吸収性シート表面は破れず、高吸収性ポリマーの脱落もない。
△・・・吸収性シート表面は若干破れるが、高吸収性ポリマーの脱落はない。
×・・・吸収性シート表面が破れ且つ高吸収性ポリマーの脱落もみられる。
【0146】
<飽和吸収量>
5cm角の吸収性シートを不織布で作製した袋に入れ、袋ごとイオン交換水に10分間浸漬した。袋をイオン交換水から取り出した後、空気中に1時間吊るし、付着している水を落とした後、重量を測定し、吸収性シート1g当たりの重量の増加分を飽和吸収量(g/g)とした。
【0147】
<吸収速度>
図12に示すように、15cm角の吸収性シート10の中央に、直径1cmの孔をあけた10cm角の透明なアクリル板20及び重り22を乗せ、吸収性シート10に5g/cm2の荷重をかけた状態で、上記孔を通して生理食塩水20mlを注入し、生理食塩水の吸収に要する時間を吸収速度とした。なお、吸収速度の測定は2回行ったが、2回目の注入(再吸収速度)は1回目の測定から1分後に行った。
【0148】
<液戻りの測定>
吸収速度を測定後、10分経過した吸収性シート上に、図13に示すように、15cm角の濾紙24(東洋濾紙TYPE2)を10枚重ね、更にその上に15cm角のアクリル板26と重り22を、50g/cm2の荷重となる様に1分間かけ、その後濾紙24を取り出し、濾紙24に吸収された生理食塩水の重量を液戻り量とした。
【0149】
【表3】

【0150】
〔実施例1〕
図1に示す構成の生理用ナプキンを製造した。
即ち、吸収性シート10として、長さ175mm、幅73mmの吸収性シートAを用い、その吸収表面上に坪量300g/m2で厚み4.5mmに調整した長さ175mm、幅73mmのフラッフパルプ2aを積層した。この吸収性シートAとフラッフパルプとの組合せ体の側面部及び上面部を、坪量18g/m2、幅130mm、長さ175mmの木材パルプからなる湿式吸収紙2bで被覆し、吸収層2を作製した。
【0151】
防漏層3として防水紙(湿式吸収紙にポリエチレンをラミネートした紙、長さ205mm、幅95mm)を用い、かかる防水紙で、得られた吸収層2の側面部及び底面部を被覆した。この吸収層2とポリラミ紙との組合せ体のすべての面を、後述する体液吸収可能な表面層1(長さ205mm、幅172mm)により被覆し且つ固定剤6として用いたホットメルト粘着剤によってこれらの部材を固定した。更に、上記表面層1の反対面側に坪量30g/m2、幅20mm、長さ115mmのホットメルト粘着剤を粘着部4として2本塗工した。このようにして、図1に示す構成の生理用ナプキン(本発明品1)を得た。
【0152】
なお、上記表面層1としては、ポリエチレン開孔フィルムを用いた。この表面層1は、坪量30g/m2のポリエチレンフィルムに開孔を施したものであり、ひとつの開孔径が0.5mmで開孔面積率として20%開孔しているものである。
【0153】
〔実施例2〕
実施例1で用いた吸収性シートAの代わりに、吸収性シートDを用いる以外は、実施例1と同様にして、図1に示す構成の生理用ナプキン(本発明品2)を得た。
【0154】
〔実施例3〕
図3に示す構成の生理用ナプキンを製造した。
即ち、吸収性シート10として、長さ175mm、幅145mmの吸収性シートBを用い、その両側縁部が吸収体のほぼ中央で相対するようにC字状に折り曲げ圧縮し、幅73mmにした。この吸収性シートBを吸収層として使用した。
その後は、実施例1と同様にして、図3に示す構成の生理用ナプキン(本発明品3)を得た。
【0155】
〔実施例4〜6〕
実施例3で用いた吸収性シートBの代わりに、吸収性シートC、D及びEをそれぞれ用いる以外は、実施例3と同様にして、図3に示す構成の生理用ナプキン(それぞれ、本発明品4、5及び6)を得た。
【0156】
〔比較例1〕
図7に示す構成の生理用ナプキンを製造した。
即ち、坪量300g/m2で厚み4.5mmに調整した、長さ175mm、幅73mmにフラッフパルプ2aの上に、少量の水を散布した後、高吸収性ポリマー2e〔日本触媒(株)製のアクアリックCAW-4(商品名)〕を幅60mm、長さ175mmの面積に約0.53gほぼ均一に散布して散布坪量を坪量50g/m2とした。この上に、坪量18g/m2で長さ175mm、幅73mmの木材パルプからなる湿式吸収紙2bを重ね、これらの組合せ体の全ての面を、坪量18g/m2で長さ175mm、幅130mmの木材パルプからなる湿式吸収紙2cで被覆して一体化した吸収層2を作製した。その後は、実施例1と同様にして図7に示す構成の生理用ナプキン100(比較品1)を作製した。
【0157】
〔比較例2〜4〕
実施例1で用いた吸収性シートAの代わりに、吸収性シートF、G及びHをそれぞれ用いる以外は、実施例1と同様にして、図1に示す構成の生理用ナプキン(それぞれ、比較品2、3及び4)を得た。
【0158】
〔比較例5〜7〕
実施例3で用いた吸収性シートBの代わりに、吸収性シートF、I及びJをそれぞれ用いる以外は、実施例3と同様にして、図3に示す構成の生理用ナプキン(それぞれ、比較品5、6及び7)を得た。
【0159】
実施例1〜6における本発明品1〜6及び比較例1〜7における比較品1〜7について、ポリマー固定化能及び吸収性能を評価するため、下記に示す方法によってポリマー脱落試験、製品厚み、吸収時間、動的液戻り量、漏れ試験を行った。それぞれの結果を表4に示す。
【0160】
<高吸収性ポリマーの脱落試験>
実施例1〜6及び比較例1〜7の生理用ナプキンの重量を測定した後、これを長さ280mm×幅200mmのチャック付きのポリ袋に入れ、この状態で50回手で振りながら振動を加える。試験終了後、生理用ナプキンの重量変化を測定するとともに、ポリ袋中に脱落した高吸収性ポリマーが肉眼でよく観察できるよう、青色一号で染色した色水(0.3g/水100ml)をポリ袋中に加え、高吸収性ポリマーを膨潤させ、目視で脱落の程度を判定する。
○・・・高吸収性ポリマーの脱落が殆ど認められない。
△・・・高吸収性ポリマーの脱落が多少認められる。
×・・・高吸収性ポリマーの脱落がかなり認められる。
測定は10回行い、その平均値をもって脱落量とする。
【0161】
<製品厚さの測定>
図14に示すが如く、生理用ナプキンを10枚重ね合わせ、その上方より重さ500gのアクリル板を載せて10枚分の厚さを測定し、1枚あたりの製品厚さを求めた。
【0162】
<吸収時間(5g)、再吸収時間(10g)、動的液戻り量の測定>
図12に示す吸収速度の測定装置を使用した。即ち、図12に示す吸収性シート10に代えて、実施例1〜6及び比較例1〜7で得られた生理用ナプキンを水平に置き、直径1cmの注入口のついたアクリル板20を載せ、この上に重り22を載せて生理用ナプキンに5g/cm2の荷重がかかるようした。
次いで、注入口から脱繊維馬血〔日本バイオテスト研究所(株)製〕5gを注入し、脱繊維馬血が完全に吸収されるまでの吸収時間(秒)を求める。脱繊維馬血が完全に吸収されてから、20分間そのまま放置し、再び脱繊維馬血5gを注入し、再吸収時間(10g)を求め、同様に20分間放置した。
その後、坪量30g/m2で長さ195mm、幅75mmの針葉樹パルプからなる吸収紙を10枚、生理用ナプキンの上面(肌当接面側)に置き、図15に示す可動式女性腰部モデル90に、図16に示すように生理用ナプキン80を装着したショーツをはかせた後、100秒/分(50m/分)の歩行速度で1分間歩行させた。
歩行終了後、生理用ナプキン80及び吸収紙10枚を取り出し、吸収紙に吸収された脱繊維馬血の重量を液戻り量(g)として求めた。各々5点について測定し、それぞれの平均値を求め、吸収時間、再吸収時間及び動的液戻り量とした。
【0163】
<漏れ試験(漏れ発生回数)>
実施例1〜6及び比較例1〜7で得られた生理用ナプキン80を、図16に示す如く、可動式女性腰部モデル90に装着させ、ショーツをはかせた後、100歩/分(50m/分)の歩行速度で10分間歩行させた。
次いで、歩行させながら、チューブ91によって脱繊維馬血を生理用ナプキン80に5g注入した後、同じ速度で20分間歩行させた時点(5g吸収)、及びその後更に脱繊維馬血5gを注入した後同じ速度で20分間歩行させた時点(10g吸収)、それぞれの時点でサンプル数10枚中のうち、漏れが発生した枚数を数えた。
【0164】
【表4】

【0165】
表3及び表4に示す結果から明らかな様に、繊維ウエブと繊維集合体とが一体化し且つ高吸収性ポリマーがその内部に含まれる吸収性シートを用いる本発明の体液吸収性物品は、従来の吸収性シート(水散布やエンボス一体化や接着剤による一体化で得られる吸収性シート)を有する体液吸収性物品に比べ、高吸収性ポリマーの固定性に優れ、且つ極薄の2〜3mmの吸収性シートを用いた場合でも、吸収速度や液戻り量等の吸収特性に優れていることがわかる。
【0166】
フラッフパルプを用いる厚み約6mmの体液吸収性物品間での比較では(実施例1〜2と比較例1及び2〜4との比較)、フラッフパルプを多量に用いている為に、吸収性の向上の程度は小さいが、実施例1〜2の体液吸収性物品では高吸収ポリマーの脱落が生じず、高吸収性ポリマーの固定性が非常に優れていることがわかる。なお、実施例1と比較例2〜4とでは、吸収性シートの構造は異なるが、同じパルプから製造したものであることに留意すべきである。
【0167】
本発明の体液吸収性物品のより好ましい使用例としては、上記吸収性シートを用いた、従来の体液吸収性物品の厚さの約半分以下の厚さである2〜3mmの体液吸収性物品が挙げられる。本発明の体液吸収性物品の厚さを極めて薄くできることについては、実施例3〜5と比較例5〜7の比較より明らかである。
【0168】
【発明の効果】
本発明によれば、極めて薄いにもかかわらず、多量の高吸収性ポリマーを固定することのできる体液吸収性物品を提供することができる。
特に、嵩高性のセルロース繊維から形成した吸収性シートを用いて、本発明の体液吸収性物品を構成した場合、高吸収性ポリマーの固定性のみならず、体液の吸収速度が高くなり、液戻り量が少なくなり、しかも漏れ発生数も少なく、極薄で高吸収性能を有する体液吸収性物品を提供することができる。
また、上記吸収性シートは、繊維ウエブと繊維集合体とが一体化し且つ高吸収性ポリマーがその内部に保持された構造を有しているので、該吸収性シートを具備する本発明の体液吸収性物品を着用して激しい運動等をした場合であっても高吸収性ポリマーが吸収性シートから分離して吸収性能が低下することもない。
更に、上記吸収性シートは、その内部に予め高吸収性ポリマーを含有しているが故に、本発明の体液吸収性物品を製造する最終加工プロセスで高吸収性ポリマーを散布する設備も不要となり、簡略な加工設備を提供する事が出来る。しかも、上記吸収性シートのみで吸収層を構成する場合には、1枚の吸収性シートのみをカットするだけで良く、極めて簡略で高速生産できる加工設備となる。
【図面の簡単な説明】
【図1】
本発明の体液吸収性物品の第1の実施形態としての生理用ナプキンの断面を示す概略図である。
【図2】
本発明の体液吸収性物品の第2の実施形態としての生理用ナプキンの断面を示す概略図である。
【図3】
本発明の体液吸収性物品の第3の実施形態としての生理用ナプキンの断面を示す概略図である。
【図4】
本発明の体液吸収性物品の第4の実施形態としての生理用ナプキンの断面を示す概略図である。
【図5】
本発明の体液吸収性物品の第5の実施形態としての生理用ナプキンの断面を示す概略図である。
【図6】
本発明の体液吸収性物品の第6の実施形態としての生理用ナプキンの断面を示す概略図である。
【図7】
従来の生理用ナプキンの断面を示す概略図である。
【図8】
吸収性シートの断面を示す模式図である。
【図9】
好ましい吸収性シートの断面を示す模式図である。
【図10】
従来の吸収性シートの断面を示す模式図である。
【図11】
吸収性シートの好ましい製造方法を表す模式図である。
【図12】
吸収速度の測定を表す模式図である。
【図13】
液戻り量の測定を表す模式図である。
【図14】
生理用ナプキンの厚さの測定を表す模式図である。
【図15】
可動式女性腰部モデルを表す図である。
【図16】
可動式女性腰部モデルの股部に生理用ナプキンを装着した状態を表す模式図である。
【符号の説明】
1 体液吸収可能な表面層
2 体液保持性の吸収層
3 体液不透過性の防漏層
4 粘着部
5 剥離紙
6 接合部
10 吸収性シート
12 吸収表面
15 繊維集合体
16 高吸収性ポリマー
18 繊維ウエブ
30、31 ティッシュ
40 フォーミングパート
42 サクション脱水工程
44 プレスパート
46 ドライヤー
100 生理用ナプキン
 
訂正の要旨 訂正の内容
特許第2955222号の明細書を、次のとおり訂正する。
(1)特許請求の範囲の請求項1において
「上記高吸収性ポリマーは、上記吸収表面には存在せず、主に上記繊維ウエブ中に分散配置されており、且つ上記吸収性シートを構成する親水性繊維に接着し固定化されており;」を、特許請求の範囲の減縮を目的に、
「上記高吸収性ポリマーは、上記吸収表面には存在せず、主に上記繊維ウエブ中に分散配置されており、且つ水の吸収による粘着性によって、上記吸収性シートを構成する親水性繊維に、その50重量%以上が接着し固定化されており;」と訂正する。
(2)同請求項7において
「上記吸収性シートの厚みが0.3〜1.5mmであり、上記高吸収性ポリマーの散布坪量が20〜70g/m2である吸収性シートから構成され、」を、特許請求の範囲の減縮を目的に、
「上記吸収性シートの厚みが0.3〜1.5mmであり、上記高吸収性ポリマーの散布坪量が20〜70g/m2である吸収性シートから構成され、
上記嵩高性の親水性繊維は、その繊維粗度が0.32〜1mg/m若しくはその断面の真円度が0.5〜1の嵩高性のセルロース繊維であるか、又は架橋セルロース繊維であり、」と訂正する。
(3)明細書段落【0017】中の
「上記高吸収性ポリマーは、上記吸収表面には存在せず、主に上記繊維ウエブ中に分散配置されており、且つ上記吸収性シートを構成する親水性繊維に接着し固定化されており;」を、明りょうでない記載の釈明を目的に、
「上記高吸収性ポリマーは、上記吸収表面には存在せず、主に上記繊維ウエブ中に分散配置されており、且つ水の吸収による粘着性によって、上記吸収性シートを構成する親水性繊維に、その50重量%以上が接着し固定化されており;」と訂正する。
(4)明細書段落【0018】中の
「上記吸収性シートの厚みが0.3〜1.5mmであり、上記高吸収性ポリマーの散布坪量が20〜70g/m2である吸収性シートから構成され、」を、明りょうでない記載の釈明を目的に、
「上記吸収性シートの厚みが0.3〜1.5mmであり、上記高吸収性ポリマーの散布坪量が20〜70g/m2である吸収性シートから構成され、
上記嵩高性の親水性繊維は、その繊維粗度が0.32〜1mg/m若しくはその断面の真円度が0.5〜1の嵩高性のセルロース繊維であるか、又は架橋セルロース繊維であり、」と訂正する。
(5)明細書段落【O028】中の
「上記高吸収性ポリマーは、上記吸収表面には存在せず、主に上記繊維ウエブ中に分散配置されており、且つ上記吸収性シートを構成する親水性繊維に接着し固定化されており;」を、明りょうでない記載の釈明を目的に、
「上記高吸収性ポリマーは、上記吸収表面には存在せず、主に上記繊維ウエブ中に分散配置されており、且つ水の吸収による粘着性によって、上記吸収性シートを構成する親水性繊維に、その50重量%以上が接着し固定化されており;」と訂正する。
(6)明細書段落【0084】中の
「上記高吸収性ポリマー16は、上記繊維ウエブ18を構成する親水性繊維の接着している。」及び「上記高吸収性ポリマーは、その全量に基づき、50重量%以上が繊維に接着していることが好ましく、特に、70重量%」を、明りょうでない記載の釈明を目的に、
「上記高吸収性ポリマー16は、水の吸収による粘着性によって、上記繊維ウエブ18を構成する親水性繊維の接着している。」及び「上記高吸収性ポリマーは、その全量に基づき、50重量%以上が繊維に接着しており、70重量%」と訂正する。
(7)明細書段落【0101】中の
「上記高吸収性ポリマーの散布坪量が20〜70g/m2である吸収性シートである。」を、明りょうでない記載の釈明を目的に、
「上記高吸収性ポリマーの散布坪量が20〜70g/m2である吸収性シートであり、上記嵩高性の親水性繊維は、その繊維粗度が0.32〜lmg/m若しくはその断面の真円度が0.5〜1の嵩高性のセルロース繊維であるか、又は架橋セルロース繊維である吸収性シートである。」と訂正する。
異議決定日 2001-03-27 
出願番号 特願平7-341716
審決分類 P 1 651・ 113- YA (A61F)
P 1 651・ 121- YA (A61F)
最終処分 維持  
前審関与審査官 内田 淳子  
特許庁審判長 吉村 康男
特許庁審判官 深津 弘
谷口 浩行
登録日 1999-07-16 
登録番号 特許第2955222号(P2955222)
権利者 花王株式会社
発明の名称 体液吸収性物品  
代理人 羽鳥 修  
代理人 羽鳥 修  

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