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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  C30B
審判 全部申し立て 特36 条4項詳細な説明の記載不備  C30B
管理番号 1044913
異議申立番号 異議2000-70253  
総通号数 22 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 1994-07-12 
種別 異議の決定 
異議申立日 2000-01-26 
確定日 2001-05-12 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第2923720号「シリコン単結晶引上げ用石英ルツボ」の請求項1ないし3に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 訂正を認める。 特許第2923720号の請求項1、2に係る特許を維持する。 
理由 〔一〕 本件特許は、平成4年(1992)12月26日に出願され、平成11年5月7日に特許権の設定の登録がされ(特許第2923720号。請求項数 3)、平成11年7月26日にその特許掲載公報が発行されたものである。
これに対して、平成12年1月26日付けで、(イ)本件特許の願書に添付した明細書(以下では、本件特許明細書という。)の請求項1から同3までの各請求項の構成の発明は、特許法第29条第1項に規定する発明に該当し、また、特許法第29条第2項の規定によって、特許を受けることができない発明であるから、本件特許は、同条の規定に違反して特許されたものであり、さらに、(ロ)本件特許は、特許法36条第4項又は第5項及び第6項の規定する要件を満たしていない出願に対して特許されたものであるから、本件特許は、取り消すべきものであるとの特許異議の申立てがされた。
当審は、上記(イ)及び(ロ)の理由による特許取消理由を通知し、本件特許権者は、特許異議意見書を提出するとともに、訂正請求書(請求項3の削除を含む。)を提出した。

〔二〕 訂正請求の成否
(1) 訂正請求の内容
(イ) 訂正事項1
本件特許の特許請求の範囲の請求項1を下記のとおり訂正する。
「(α)回転モールディング法により製造され、(β)原料石英粉体の内表面全体を加熱溶融した後に、(γ)熱源を底部中心部に向かって降ろし、(δ)重点的に加熱し、(ε)減圧脱気することによって(ζ)気泡含有率を段階的に制限し、(η)内周面部分よりも底面部分の気泡含有率を低減した石英ルツボであって、(θ)内表面に厚さ1mm以上の透明ガラス層を有し、(ι)内周面部分の透明ガラス層の気泡含有率が0.5%以下、(κ)内周面部分から底面部分に至る湾曲部分の透明ガラス層の気泡含有率が0.1%以下、(λ)底面部分の透明ガラス層の気泡含有率が0.01%以下であることを特徴とするシリコン単結晶引き上げ用石英ルツボ。」
ただし、上記中、(α)〜(λ)の符号は、審理の便宜上、当審が加入したものである。
(ロ) 訂正事項2
本件特許の特許請求の範囲の請求項2を下記のとおり訂正する。
「ルツボの両側周囲を形成する内周面部分の透明ガラス層の気泡含有率が0.5%以下、湾曲部分が内周面部分と底面部分の間であって底面中心より半径の2/3から半径の5/6に至る領域部分であり、この湾曲部分の透明ガラス層の気泡含有率が0.1%以下、底面部分が底面中心より半径2/3以内の部分であり、この底面部分の透明ガラス層の気泡含有率が0.01%以下である請求項1の石英ルツボ。」
(ハ) 訂正事項3
請求項3を削除する。
(ニ) 訂正事項4
本件特許明細書の段落【0005】の記載を下記のとおり訂正する。
「【発明の構成】本発明によれば以下のシリコン単結晶引上げ用石英ルツボが提供される。
(1)回転モールディング法により製造され、原料石英粉体の内表面全体を加熱溶融した後に、熱源を底部中心部に向かって降ろし、重点的に加熱し、減圧脱気することによって気泡含有率を段階的に制限し、内周面部分よりも底面部分の気泡含有率を低減した石英ルツボであって、内表面に厚さ1mm以上の透明ガラス層を有し、内周面部分の透明ガラス層の気泡含有率が0.5%以下、内周面部分から底面部分に至る湾曲部分の透明ガラス層の気泡含有率が0.1%以下、底面部分の透明ガラス層の気泡含有率が0.01%以下であることを特徴とするシリコン単結晶引き上げ用石英ルツボ。
(2)ルツボの両側周囲を形成する内周面部分の透明ガラス層の気泡含有率が0.5%以下、湾曲部分が内周面部分と底面部分の間であって底面中心より半径の2/3から半径の5/6に至る領域部分であり、この湾曲部分の透明ガラス層の気泡含有率が0.1%以下、底面部分が底面中心より半径2/3以内の部分であり、この底面部分の透明ガラス層の気泡含有率が0.01%以下である上記(1)の石英ルツボ。」
(ホ) 訂正事項5
本件特許明細書の段落【0008】の「上記範囲30、40の気泡含有率を各々0.1以下および0.01以下に制限する」の記載部分を下記のとおり訂正する。
「上記範囲30、40の気泡含有率を実施例に示すように内周面部分よりも底面部分の気泡含有率を低減し、かつその上限を各々0.1%以下および0.01%以下に制限する」
(ヘ) 訂正事項6
本件特許明細書の段落【0010】の「【実施例1】」の記載部分を「【参考例1、実施例2〜4】」と訂正する。
(ト) 訂正事項7
本件特許明細書の段落【0013】の表1を下記のとおり訂正する。
表1:石英ルツボの底面部分、湾曲部分、内周部分の気泡含有率(%)と単結晶化率(%)

│ 試料 │底面部分 │湾曲部分│内周面部分│単結晶化率│
│参考例1│0.01 │0.01│0.01 │ 91 │
│実施例2│0.005│0.10│0.10 │ 92 │
│実施例3│0.01 │0.05│0.05 │ 91 │
│実施例4│0.01 │0.10│0.50 │ 91 │
│比較例1│0.02 │0.02│0.02 │ 84 │
│比較例2│0.01 │0.15│0.15 │ 86 │

(チ) 訂正事項8
本件特許明細書の段落【0010】の「この結果を表1に示す。」の直後に下記の記載を追加する。
「同様にして、3種類の石英ルツボを製造し、気泡含有量及びこれらのルツボをシリコン単結晶引上げに用いた場合の単結晶歩留りを測定した。結果を表1に示す。なお、実施例2〜4の効果を対比する基準として、ルツボの内周面部分から湾曲部分および底面部分の気泡含有率が全て0.01%の石英ルツボを参考例1として示した。」
(リ) 訂正事項9
本件特許明細書の段落番号【0011】及びその記載内容を削除し、同段落番号【0012】を段落番号【0011】と訂正し、同段落中の【比較例2】の直前に段落番号【0012】を加入する。
(ヌ) 訂正事項10
本件特許明細書の段落【0003】の「こような観点から」の記載部分を「このような観点から」と訂正する。
(ル) 訂正事項11
本件特許明細書の段落【0004】の「検討した結果、関液ルツボ」の記載部分を「検討した結果、石英ルツボ」と訂正する。
(ヲ) 訂正事項12
本件特許明細書の段落【0006】の「比(W2/W2)」の記載部分を「比(W2/W1)」と訂正する。

(2) 訂正の適法性
本件訂正は、下記(2-1)から(2-9)に示す理由によって、適法な訂正であるから、認めるべきものである。
(2-1) 訂正事項1の点
(イ) 本件訂正は、訂正事項1の点で、本件特許明細書の特許請求の範囲の請求項1のシリコン単結晶引き上げ用石英ルツボが「(α)回転モールディング法により製造され、(β)原料石英粉体の内表面全体を加熱溶融した後に、(γ)熱源を底部中心部に向かって降ろし、(δ)重点的に加熱し、(ε)減圧脱気することによって(ζ)気泡含有率を段階的に制限し、(η)内周面部分よりも底面部分の気泡含有率を低減した石英ルツボ」であり、かつ、上記シリコン単結晶引き上げ用石英ルツボが「(θ)内周面部分から底面部分に至る湾曲部分の透明ガラス層の気泡含有率が0.1%以下」であるものに限定するものであるから、本件訂正は、訂正事項1の点で、特許請求の範囲を減縮することを目的とする訂正である。
ただし、上記中、(α)〜(θ)の符号は、審理の便宜上、当審が加入したものである。
(ロ)(a) 本件特許明細書の段落【0009】には、「即ち、(α)回転モールディング法において、(β)原料の石英粉末を回転するモールド内周面に充填した後に、石英粉体の内表面全体を加熱溶融し、さらに(γ)熱源を底部中心部に向かって降ろして(δ´)加熱し、(ε´)脱気する。」と記載され、同段落【0015】には、「しかも、本発明のルツボの製造に際しては、ルツボ底部中央部分を(δ)重点的に加熱して(ε)減圧脱気すればよい」と記載され、同段落【0004】には、「本発明はこの知見に基づき、(η´)石英ルツボの底面部分の気泡含有率を重点的に低減することによって」単結晶化率を格段に向上させたものであるとされている。
(ロ)(b) また、同段落【0008】には、「なお、好適な態様として、(ζ´)該内周面部分20から底面部分30に至る湾曲部分40の透明ガラス層11の気泡含有率を0.1%以下とし、底面部分30の透明ガラス層11の気泡含有率を0.01%以下に段階的に制限しても良い。」とも記載されている。
上記(ζ´)の記載部分は、上記内周面部分、上記湾曲部分と上記底面分との気泡含有率を段階的にすることを意味しており、結局、(ζ)「気泡含有率を段階的に制限」することを意味している。
(ロ)(c) また、同段落【0006】には、本発明の石英ルツボ10について、「(θ)内表面に厚さ1mm以上の透明ガラス層11を有し、その立設する(ι)内周面部分20の透明ガラス層11の気泡含有率が0.5%以下であり、さらに(λ)底面部分30の透明ガラス層11の気泡含有率が0.01%以下である。また好ましくは、(κ)該内周面部分から底面部分に至る湾曲部分40の透明ガラス層の気泡含有率が0.1%以下である。」と記載されている。
ただし、上記中、(α)〜(κ)並びに(δ´)、(ζ´)及び(η´)の符号は、当審が加入したものである。そして、(α)〜(κ)の符号は、当審が訂正事項1に加入した符号(α)〜(κ)と同一であり、(δ´)、(ζ´)及び(η´)は、それぞれ、(δ)、(ζ)及び(η)に一応対応していることを示す。
(ロ)(d) そうすると、本件訂正は、訂正事項1の点で、本件特許明細書に記載された事項の範囲内でする訂正である。

(ハ) そして、本件訂正は、訂正事項1の点で、実質上特許請求の範囲を拡張するものとも、変更するものでもない。

(2-2) 訂正事項2の点
(イ) 訂正事項2は、本件特許明細書の特許請求の範囲の請求項2の「内周面部分」が「ルツボの両側周囲を形成する」ものであることを明りょうにし、「湾曲面部分」が「内周面部分と底面部分の間であって底面中心より半径の2/3から半径の5/6に至る領域部分」であることを明りょうにし、「底面部分」が「底面中心より半径2/3以内の部分」であることを明りょうにするものであるから、本件訂正は、訂正事項2の点で、明りょうでない記載を釈明することを目的とする訂正である。
(ロ) 本件特許明細書の段落【0007】には、「両側周囲の内周面部分20」と記載され、また、同【0008】には、「ここで上記底面部分30とは、具体的には、底面中心より半径の2/3以内の範囲であり、また内周面部分から底面部分に至る湾曲部分とは、底面中心より半径の2/3から半径の5/6に至る範囲とすれば良い。」と記載されているから、訂正事項2は、本件特許明細書の記載事項の範囲内でする訂正である。
(ハ) そして、本件訂正は、訂正事項2の点で、実質上特許請求の範囲を拡張するものとも、変更するものでもない。

(2-3) 訂正事項3の点
本件訂正は、訂正事項3の点で、特許請求の範囲を減縮することを目的とし、記載を削除するものであるから本件特許明細書の記載事項の範囲内でするものであり、かつ、実質上特許請求の範囲を拡張するものでも、変更するものでもない。

(2-4) 訂正事項4の点
訂正事項4は、訂正事項1、訂正事項2及び訂正事項3に対応して、本件特許明細書の段落【0005】の記載を訂正するものであるから、明りょうでない記載を釈明することを目的とし、本件特許明細書の記載事項の範囲内でする訂正であり、実質上特許請求の範囲を拡張するものでもなく、変更するものでもない。

(2-5) 訂正事項5の点
(イ) 本件訂正は、訂正事項5の点で、「上記範囲30、40の気泡含有率を実施例に示すように内周面部分よりも底面部分の気泡含有率を低減」させることを明らかにする訂正であるから、明りょうでない記載を釈明することを目的とする訂正である。ただし、気泡含有率の単位として「%」を加入した部分は、誤記の訂正である。
(ロ) 本件特許明細書の段落【0004】には、「本発明はこの知見に基づき、石英ルツボの底面部分の気泡含有率を重点的に低減することによって単結晶化率を格段に向上させたものである」と記載され、同段落【0005】には、「(2)内周面部分の透明ガラス層の気泡含有率が0.5%以下、内周面部分から底面部分に至る湾曲部分の透明ガラス層の気泡含有率が0.1%以下、底面部分の透明ガラス層の気泡含有率が0.01%以下である」上記石英ルツボが記載され、かつ、本件特許明細の表1に記載されている実施例によれば、底面部分の気泡含有率が内周部分の気泡含有率よりも低減させられているから、本件訂正は、訂正事項5の点で、本件特許明細書の記載事項の範囲内でする訂正である。
(ハ) そして、本件訂正は、訂正事項5の点で、実質上特許請求の範囲を拡張するものでも、変更するものでもない。

(2-6) 訂正事項6及び訂正事項7の点
本件訂正は、訂正事項7の点で、訂正事項1及び訂正事項6に対応して、実施例1を参考例1とするものであるから、明りょうでない記載を釈明することを目的とする訂正であり、本件特許明細書の記載事項の範囲内でする訂正であり、実質上特許請求の範囲を拡張するものとも変更するものでもない。

(2-7) 訂正事項8の点
本件訂正は、訂正事項8の点で、表1の内容をその内容どおりに単に文言によって解説するものであって、表1の内容に新たな事項を付加するものではないから、明りょうでない記載を釈明することを目的とする訂正であり、本件特許明細書の記載事項の範囲内でする訂正であり、実質上特許請求の範囲を拡張するものでも、変更するものでもない。

(2-8) 訂正事項9の点
本件訂正は、訂正事項9の点で、明りょうでない記載を釈明することを目的とし、本件特許明細書の記載事項の範囲内で訂正し、実質上特許請求の範囲を拡張するものでも、変更するものでもない。

(2-9) 訂正事項10〜12
本件訂正は、訂正事項10〜12の点で、明らかの誤記を訂正することを目的とし、本件特許の願書に最初に添付した明細書の記載事項の範囲内でする訂正であり、実質上特許請求の範囲を拡張するものでも、変更するものでもない。

(2-10) 以上によれば、本件訂正請求は、適法な訂正を請求するものである。
以下では、本件訂正請求によって訂正された本件特許明細書を本件特許明細書という。

〔三〕 本件特許明細書の記載
(イ)【0002】の一部(3欄9〜15行)【従来技術とその課題】
「このため、ルツボ内表面付近に内在する微小気泡を減少させることによって単結晶化率を高めた石英ルツボが提案されている。例えば、特公平1-197382号公報では、ルツボ壁体の内周側部分の気泡含有率を0.1%以下に制御することによって約75%の単結晶化率が達成されている。」
(ロ)【0003】【発明の課題解決】
「このような観点から、単結晶化率をさらに向上させるには、石英ルツボ内表面の気泡含有率をさらに低減することが考えられる。しかし、石英ルツボの内表面全域にわたって気泡含有率を減少させるのは製造コストの大幅な上昇を招き、製造装置の構造や制御の複雑化が避けられない。このため、より経済的な方法で製造され得る高単結晶化歩留りの石英ルツボが求められていた。本発明は従来の上記課題を解決したシリコン単結晶引上げ用石英ルツボを提供することを目的とする。」
(ハ)【0004】【課題の解決手段】
「シリコン単結晶引上げ用石英ルツボの上記問題点について検討した結果、石英ルツボの周壁部分の気泡含有率よりも底面部分の気泡含有率がシリコン単結晶の単結晶化率に大きな影響を与えることが判明した。本発明はこの知見に基づき、石英ルツボの底面部分の気泡含有率を重点的に低減することによって単結晶化率を格段に向上させたものである。」
(ニ)【0007】の一部(4欄、17〜27行)、【発明の構成】
「シリコン単結晶の引上げでは、通常、石英ルツボの内表面が内部に溜まっている溶融シリコンによって0.1〜0.5mm程度溶損する。従って、この内表面部分に気泡が存在するとルツボ内表面が剥離し、シリコン単結晶を引上げる際にその単結晶化を妨げる。そこで本発明では、石英ルツボ10の基本的な構造として、まずルツボ内表面全体を層厚1mm以上の透明なガラス層11によって形成し、両側周囲の内周面部分20の気泡含有率を0.5%以下に制限する。一般にガラス層中の気泡含有量が増えるとガラス層が白濁して透明性を失う。」
(ホ)【0010】【参考例1、実施例2〜4】及び【0011】【比較例1】
「口径16インチのルツボ製造用モールドに石英粉を充填後、モールドの中心軸上、底面より400mm上方(モールド上端面と同一レベル)の位置にアーク電極先端部を設定し、300KW(200KW)の電力で15分(5分)間通電して石英粉を溶融し、(溶融した。次いで電極を200mm降下し、同じ電力で8分間通電して底部中央部の石英を重点的に加熱し、)通電中にモールド側より5分(6分)間減圧して内面に透明ガラス層を形成した。得られた石英ルツボについて気泡含有量を測定した。また、この石英ルツボを用いてシリコン単結晶の引上げを行った。この結果を表1に示す。」
ただし、上記中、()内の部分は、段落【0010】の記載部分であり、段落【0011】の記載部分である()前の記載部分に対応している。
(ヘ)【0013】、【表1】の部分
石英ルツボの底面部分、湾曲部分、内周部分の気泡含有率(%)と単結晶化率(%)

│ 試料 │底面部分 │湾曲部分│内周面部分│単結晶化率│
│参考例1│0.01 │0.01│0.01 │ 91 │
│実施例2│0.005│0.10│0.10 │ 92 │
│実施例3│0.01 │0.05│0.05 │ 91 │
│実施例4│0.01 │0.10│0.50 │ 91 │
│比較例1│0.02 │0.02│0.02 │ 84 │
│比較例2│0.01 │0.15│0.15 │ 86 │

(ト)【0015】【発明の効果】
「本発明の石英ルツボを使用した場合、単結晶化率が90%を超える優れた効果を得ることができる。しかも、本発明のルツボの製造に際しては、ルツボ底部中央部分を重点的に加熱して減圧脱気すればよいので、従来考えられていたようなルツボ全体について気泡含有率を減少させる必要はなく、製造装置やその制御が簡略である。従って、製造が容易であり、また製造コストの点で経済的に有利である。」

〔四〕 特許を維持する理由
なお、以下では、引用する場合を除き、「ルツボ」は、「るつぼ」と記す。
〔四-1〕 記載要件について
本件訂正前の本件特許明細書の特許請求の範囲の記載は、るつぼの内周面部分と底面部分又はるつぼの内表面全部分の気泡含有率を0.01%以下となる場合を包含していたことを前提として、本件特許は特許法第36条に規定する要件を備えていない出願について特許されたものであるとの、本件特許異議申立人の主張は、本件訂正請求によって、少なくとも、るつぼの内周面部分よりも底面部分の気泡含有率を低減したものとなったから、理由がないものとなった。

〔四-2〕 特許要件について
A.引例の記載
(1)特開平1-197382号公報(以下では、引例1という。)
(イ)特許請求の範囲
「(1) ルツボ壁体の内周側部分の気泡含有率が0.1%以下であるシリコン単結晶引上げ用石英ルツボ。」
(2) ルツボ内表面から0.7mm厚の範囲の気泡含有率が0.1%以下である請求項1の石英ルツボ。」
以下では、上記請求項1の構成の発明を引例1発明という。
(ロ)〔発明の構成〕の一部(1頁、右下欄1〜7行)
「この場合、ルツボ壁体(周壁及び底壁)の内表面付近に気泡が内在すると、上記加熱の際に内部気泡が熱膨張してルツボ内表面を部分的に剥離させ、剥離した石英小片が単結晶に混入して単結晶化歩留まり(シリコン多結晶が単結晶になる割合)を低下させる原因となる。」
(ハ)〔発明の構成〕の一部(2頁、右上欄7〜10行)
「 本発明において、ルツボ壁体の内周側部分とは、ルツボ壁体の内表面から外表面に至る範囲において、ルツボに充填される溶融シリコンにより内周面に沿って浸食される部分を云う。」
(ニ)〔実施例及び比較例〕の一部(2頁、右下欄9〜13行)
「 次表に示す如く、ルツボの周壁および底壁の内周側部分と外周側部分の気泡含有率を変えた以外は同一の原料を用い、同一の方法により複数の石英ルツボを製造し、此れ等の石英ルツボを用いて、シリコン単結晶の引上げを行った。」
(ホ)〔実施例及び比較例〕の一部(3頁、表の一部)
試料No. 気泡含有率(%) 単結晶
内周側 中央部 外周側 化率(%)
1 0.09 1.2 1.5 75
2 0.09 0.09 1.5 75
3 0.09 0.09 0.1 75
4 0.5 0.09 0.1 50
5 1.0 1.2 1.5 45

(2)特開平1-148782号公報(以下では、引例2という。)
(イ)特許請求の範囲の第1項
「 1. 直径10〜250μmの気泡を1cm2当たり20,000個以上含む半透明石英ガラス層と、この層の内表面に一体融合的に形成された実質的に無気泡でかつ表面が平滑な透明石英ガラス層とからなることを特徴とする単結晶引き上げ用石英ルグボ。」
以下では、上記構成の発明を引例2発明という。
(ロ)〔従来の技術〕の一部(2頁、左上欄11〜16行)
「 半透明石英ルツボは、粉体を原料として使用する事により透明石英ルツボよりも高強度な物が容易に製造でき、また大口径の物が比較的低コストで製造できること、更に含有する微小気泡により透明石英ルツボよりも均一な熱分布が得られる事から、工業的に広く利用されている。」
(ハ)〔作用〕(3頁、左下欄)
「 直径が10〜250μm、存在密度が20,000個/cm2以上の気泡を有する半透明石英ガラス層上にこれに一体融合させた無気泡で表面平滑な透明石英ガラス層を形成する。前記直径と存在密度の気泡を有する半透明石英ガラス層はルツボの外周を加熱するヒーターからの熱を均一にルツボ内の溶融シリコンに伝達し、溶融シリコンの滑らかな対流を乱すことがない。また、前記透明石英ガラス層はクリストバライトをほとんど生じさせないばかりでなく、シリコン融液表面の振動を生じさせない。」
(ニ)〔実施例〕の一部(4頁、左上欄10行〜同、右上欄8行) 「 前記透明石英ガラス層3における実質的に無気泡であるという基準は、通常の半導体用透明石英ガラスに比べてその含有する気泡が極めて少ないということである。・・・。本発明における無気泡の具体的な例としては、倍率30倍の顕微鏡の視野約8mm2の範囲で、6個の未使用の石英ルツボを各ルツボにつき側壁内表面4ヶ所、底部1ヶ所の計5ヶ所で総計30ヶ所について観察した結果、直径20μm以上の気泡が2〜3ヶ所でわずかに認められる程度である。その1例として、前記30ヶ所の測定点で直径20μm以上の気泡が2個見られたのは1ヶ所、1個見られたの2ヶ所であり、気泡の存在密度は0.13個/8mm2(1cm2に換算すると約1.6個/cm2)であり、極めて均質性の高い層となっている。」
(ホ)〔実施例〕の一部(4頁、右上欄末行〜同、左下欄3行)
「尚、この透明石英ガラス層はルツボの使用が完全に終了するまで必要であり、このためには少なくとも0.3mm、実際には0.8〜1mm以上であることが望ましい。」
(ヘ)〔実施例4〕の表2(単結晶インゴットの単結晶化率)、6頁、右下欄
使用ルツボ 単 結 晶 化 率
1本目 2本目
本発明試料1 100% 90%
本発明試料2 98% 80%
比較試料 1 90% 40%
比較試料 2 80% 42%
(ト)〔実施例4〕の一部(6頁、右下欄、下から5〜末行)
「 次に上記のシリコン単結晶の引き上げに用いた、本発明の石英ルツボ及び従来の石英ルツボの透明石英ガラス層中の直径20μm以上の気泡数を表3に示し、また、直胴部と底部の縦断面の状態を第7図および第8図に示す。」
(チ)〔実施例4〕の表3 単結晶引き上げ後の石英ルツボの物性
石英ルツボ 透明石英ガラス層中の20μm
φ以上の気泡数〔個/cm2〕
本発明試料 5以下
比較試料 500以上

(3)特開平2-172888号公報(以下では、引例3という。)
(イ)特許請求の範囲
「(1)チョクラルスキー法で、シリコン単結晶の引き上げに使用する気泡入りシリカガラス製のるつぼにおいて、
前記るつぼ内面の底部に、直径がるつぼの内径以下で、シリコンの融点付近において気泡の発生しない、気泡無しのシリカガラス板が設置されていることを特徴とするシリコン単結晶引き上げ用るつぼ。
(2)気泡無しシリカガラス板の設置は、前記シリカガラス板の全面または一部がるつぼ底面に溶着により行われてあることを特徴とする請求項1に記載のシリコン単結晶引き上げ用るつぼ。
(3)前記気泡無しシリカガラス板の下面は、るつぼ底部の曲面と同じ曲面を有することを特徴とする請求項1に記載のシリコン単結晶引き上げ用るつぼ。
(4)気泡無しシリカガラス板は、下部に補強用の足または梁を有することを特徴とする請求項1に記載のシリコン単結晶引き上げ用るつぼ。」
以下では、上記請求項1の構成の発明を引例3発明という。
(ロ)〔作用〕(2頁、左下欄6〜15行)
「 るつぼ内の対流はるつぼ壁にそって上昇する熱対流とシリコン単結晶の回転によって起きる強制対流に分けることができる。るつぼ側面で生成した気泡は、前記熱対流によりすぐには融液表面に到達してしまい、単結晶の育成を阻害することはない。それに対して前記強制対流により、るつぼ中央部で下から上に上昇する流れが生じ、これによってるつぼ底部のシリコン単結晶直下で生成した気泡は、上昇してシリコン単結晶と融液の界面に到達し、単結晶育成を阻害する。」

B. 判断
(イ) 本件特許明細書の特許請求の範囲の請求項1及び請求項2の構成の発明(以下では、本件特許発明と総称する。)は、るつぼを「回転モールディング法」によって製造し、るつぼ内面が「原料石英粉体の内表面全体を加熱溶融」させて形成した透明ガラス層とするにあたり、少なくとも、「重点的に加熱し、減圧脱気することによって」、「気泡含有率を段階的に制限し、内周面部分よりも底面部分の気泡含有率を低減し」、かつ、るつぼの底面部分の透明ガラス層の気泡含有率が0.01%以下としたシリコン単結晶引き上げ用石英るつぼの発明である。
引例1発明、引例2発明及び引例3発明は、いずれも、本件特許発明の上記構成を備えていない。
(ロ) 引例1発明及び引例2発明は、シリコン単結晶化率に及ぼす気泡の影響を考慮しているが、気泡の影響がるつぼの内表面の部分によって異なることを考慮していない。
引例3発明のるつぼは、「るつぼ内面の底部に、直径がるつぼの内径以下で、シリコンの融点付近において気泡の発生しない、気泡無しのシリカガラス板が設置」するというものである。
そして、引例3には、るつぼの側面から発生する気泡は、シリコン単結晶の成長を阻害しないが、るつぼの底面から上昇する気泡がシリコン単結晶の成長を阻害することが記載されている{上記A.(3)(ロ)参照}。
しかしながら、引例3発明は、本件特許発明の、「回転モールディング法」によるシリコン単結晶引上げ用石英ガラスるつぼにおいて、その「気泡含有率を段階的に制限し、内周面部分よりも底面部分の気泡含有率を低減し」、その気泡含有率が内周面部分で0.5%以下で、底面部分で0.01%以下であるようにすることまでを示唆するものではない。
(ハ) そして、本件特許発明は、シリコン単結晶引上げ用石英ガラスるつぼの内周面部分、湾曲部分及び底面部分の透明ガラス層の気泡含有率を0.01%にしたときと同程度以上のシリコン単結晶化率を達成するという、優れた効果を奏している{上記〔三〕(ヘ)及び(ト)参照}。
(ニ) そうすると、本件特許発明は、引例1発明、引例2発明及び引例3発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができた発明であるとは認められない。
〔五〕 当審は、他に本件特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
シリコン単結晶引上げ用石英ルツボ
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】 回転モールディング法により製造され、原料石英粉体の内表面全体を加熱溶融した後に、熱源を底部中心部に向かって降ろし、重点的に加熱し、減圧脱気することによって気泡含有率を段階的に制限し、内周面部分よりも底面部分の気泡含有率を低減した石英ルツボであって、内表面に厚さ1mm以上の透明ガラス層を有し、内周面部分の透明ガラス層の気泡含有率が0.5%以下、内周面部分から底面部分に至る湾曲部分の透明ガラス層の気泡含有率が0.1%以下、底面部分の透明ガラス層の気泡含有率が0.01%以下であることを特徴とするシリコン単結晶引き上げ用石英ルツボ。
【請求項2】 ルツボの両側周囲を形成する内周面部分の透明ガラス層の気泡含有率が0.5%以下、湾曲部分が内周面部分と底面部分の間であって底面中心より半径の2/3から半径の5/6に至る領域部分であり、この湾曲部分の透明ガラス層の気泡含有率が0.1%以下、底面部分が底面中心より半径の2/3以内の部分であり、この底面部分の透明ガラス層の気泡含有率が0.01%以下である請求項1の石英ルツボ。
【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】
本発明は、多結晶シリコンを溶融して単結晶シリコンを製造する際に用いられる石英ルツボであって、単結晶化歩留りの良い石英ルツボに関する。
【0002】
【従来技術とその課題】
半導体用シリコン単結晶は、現在、主にチョクラルスキー法(CZ法)により製造されている。該CZ法では、多結晶シリコンを石英ルツボ内部に充填し、約1450℃に加熱溶融して該溶融シリコンからシリコン単結晶を引き上げる。この場合、使用するルツボの壁体(周壁及び底壁)中に気泡が存在すると、上記加熱の際に該内部気泡が熱膨張してルツボ内表面を部分的に剥離させる。剥離した石英小片が単結晶に混入すると、製造されるシリコンの単結晶化歩留りが低下する。そこで、従来、ルツボ壁体中の内部気泡を減少することが試みられ、肉眼では殆ど内部に気泡が観察されない石英ルツボが開発されている。しかしながら、この種のルツボは、ルツボ壁体全体の平均気泡含有率は小さいものの、ルツボ内表面付近に微小な気泡(マイクロバブル)が偏在しており、ルツボの加熱時に、該微小気泡が熱膨張して前述と同様の問題が生じる。このため、ルツボ内表面付近に内在する微小気泡を減少させることによって単結晶化率を高めた石英ルツボが提案されている。例えば、特公平1-197382号公報では、ルツボ壁体の内周側部分の気泡含有率を0.1%以下に制御することによって約75%の単結晶化率が達成されている。
【0003】
【発明の解決課題】
このような観点から、単結晶化率をさらに向上させるには、石英ルツボ内表面の気泡含有率をさらに低減することが考えられる。しかし、石英ルツボの内表面全域にわたって気泡含有率を減少させるのは製造コストの大幅な上昇を招き、製造装置の構造や制御の複雑化が避けられない。このため、より経済的な方法で製造され得る高単結晶化歩留りの石英ルツボが求められていた。本発明は従来の上記課題を解決したシリコン単結晶引上げ用石英ルツボを提供することを目的とする。
【0004】
【課題の解決手段】
シリコン単結晶引上げ用石英ルツボの上記問題点について検討した結果、石英ルツボの周壁部分の気泡含有率よりも底面部分の気泡含有率がシリコン単結晶の単結晶化率に大きな影響を与えることが判明した。本発明はこの知見に基づき、石英ルツボの底面部分の気泡含有率を重点的に低減することによって単結晶化率を格段に向上させたものである。
【0005】
【発明の構成】
本発明によれば以下のシリコン単結晶引上げ用石英ルツボが提供される。
(1)回転モールディング法により製造され、原料石英粉体の内表面全体を加熱溶融した後に、熱源を底部中心部に向かって降ろし、重点的に加熱し、減圧脱気することによって気泡含有率を段階的に制限し、内周面部分よりも底面部分の気泡含有率を低減した石英ルツボであって、内表面に厚さ1mm以上の透明ガラス層を有し、内周面部分の透明ガラス層の気泡含有率が0.5%以下、内周面部分から底面部分に至る湾曲部分の透明ガラス層の気泡含有率が0.1%以下、底面部分の透明ガラス層の気泡含有率が0.01%以下であることを特徴とするシリコン単結晶引き上げ用石英ルツボ。
(2)ルツボの両側周囲を形成する内周面部分の透明ガラス層の気泡含有率が0.5%以下、湾曲部分が内周面部分と底面部分の間であって底面中心より半径の2/3から半径の5/6に至る領域部分であり、この湾曲部分の透明ガラス層の気泡含有率が0.1%以下、底面部分が底面中心より半径の2/3以内の部分であり、この底面部分の透明ガラス層の気泡含有率が0.01%以下である上記(1)の石英ルツボ。
【0006】
以下、図面を参照して本発明を詳細に説明する。本発明の石英ルツボ10は、図示するように、内表面に厚さ1mm以上の透明ガラス層11を有し、その立設する内周面部分20の透明ガラス層11の気泡含有率が0.5%以下であり、さらに底面部分30の透明ガラス層11の気泡含有率が0.01%以下である。また好ましくは、該内周面部分から底面部分に至る湾曲部分40の透明ガラス層の気泡含有率が0.1%以下である。なお、ここで気泡含有率とは、石英ルツボの一定面積(W1)に対する気泡占有面積(W2)の比(W2/W1)をいう。ここで定義した気泡含有率は、光学的な検出手段を用いて非破壊的に測定することができる。表面から一定深さに至るまでの気泡含有率を測定するには、検出手段の焦点を表面から深さ方向に走査すればよい。このような非破壊的気泡含有率測定法は、例えば、特願平1-221567号に詳述されている。
【0007】
シリコン単結晶の引上げでは、通常、石英ルツボの内表面が内部に溜まっている溶融シリコンによって0.1〜0.5mm程度溶損する。従って、この内表面部分に気泡が存在するとルツボ内表面が剥離し、シリコン単結晶を引上げる際にその単結晶化を妨げる。そこで本発明では、石英ルツボ10の基本的な構造として、まずルツボ内表面全体を層厚1mm以上の透明なガラス層11によって形成し、両側周囲の内周面部分20の気泡含有率を0.5%以下に制限する。一般にガラス層中の気泡含有量が増えるとガラス層が白濁して透明性を失う。内周面部分を気泡含有率0.5%以下の透明ガラス層とすれば上記問題をかなりの程度防止することができる。
【0008】
さらに本発明の石英ルツボは、底面部分30の透明ガラス層11の気泡含有率が0,01%以下に制限される。なお、好適な態様として、該内周面部分20から底面部分30に至る湾曲部分40の透明ガラス層11の気泡含有率を0.1%以下とし、底面部分30の透明ガラス層11の気泡含有率を0.01%以下に段階的に制限しても良い。ここで上記底面部分30とは、具体的には、底面中心より半径の2/3以内の範囲であり、また内周面部分から底面部分に至る湾曲部分とは、底面中心より半径の2/3から半径の5/6に至る範囲とすれば良い。上記範囲30、40の気泡含有率を実施例に示すように内周面部分よりも底面部分の気泡含有率を低減し、かつその上限を各々0.1%以下および0.01%以下に制限することによって単結晶化歩留りが80〜90%以上まで改善される。
【0009】
本発明の石英ルツボは、回転モールディング法により製造することができる。具体的には、底面部分を段階的に加熱することによって得られる。即ち、回転モールディング法において、原料の石英粉末を回転するモールド内周面に充填した後に、石英粉体の内表面全体を加熱溶融し、さらに熱源を底部中心部に向かって降ろして加熱し、脱気する。加熱時間や加熱温度、脱気時の真空度等の具体的条件は原料の石英粉末、ルツボの口径などの製造条件に応じて適宜定められる。
【0010】
【参考例1、実施例2〜4】
口径16インチのルツボ製造用モールドに石英粉を充填後、モールドの中心軸上、底面より400mm上方(モールド上端面と同一レベル)の位置にアーク電極先端部を設定し、200kWの電力で5分間通電して石英粉を溶融した。次いで電極を200mm降下し、同じ電力で8分間通電して底部中央部の石英を重点的に加熱し、通電中にモールド側より6分間減圧して内面に透明ガラス層を形成した。得られた石英ルツボについて気泡含有量を測定した。また、この石英ルツボを用いてシリコン単結晶の引上げを行なった。この結果を表1に示す。同様にして、3種類の石英ルツボを製造し、気泡含有量及びこれらのルツボをシリコン単結晶引上げに用いた場合の単結晶化歩留りを測定した。結果を表1に示す。なお、実施例2〜4の効果を対比する基準として、ルツボの内周面部分から湾曲部分および底面部分の気泡含有率が全て0.01%の石英ルツボを参考例1として示した。
【0011】
【比較例1】
口径16インチのルツボ製造用モールドに石英粉を充填後、モールドの中心軸上、底面より400mm上方(モールド上端面と同一レベル)の位置にアーク電極先端部を設定し、300kWの電力で15分間通電して石英粉を溶融し、通電中にモールド側より5分間減圧して内面に透明ガラス層を形成した。得られた石英ルツボについて気泡含有量を測定した。また、この石英ルツボを用いてシリコン単結晶の引上げを行なった。この結果を表1に示す。
【0012】
【比較例2】
比較例1と同様にして石英ルツボを製造し、気泡含有量及びこれらのルツボをシリコン単結晶引上げに用いた場合の単結晶化歩留りを測定した。結果を表1に示す。
【0013】
【表1】

【0014】
上記結果に示されるように、内表面全体を平均して見た場合、例えば、比較例1のルツボは、実施例4のルツボよりも気泡含有率が低いが、比較例1の単結晶化率は84%であるのに対して実施例4では90%を上回る単結晶化率が達成されており、本発明において優れた効果が得られることが判る。他の実施例においても、本発明の石英ルツボを使用した場合にはいずれも90%以上の単結晶化歩留りが示され、その効果は顕著である。
【0015】
【発明の効果】
本発明の石英ルツボを使用した場合、単結晶化率が90%を超える優れた効果を得ることができる。しかも、本発明のルツボの製造に際しては、ルツボ底部中央部分を重点的に加熱して減圧脱気すればよいので、従来考えられていたようなルツボ全体について気泡含有率を減少させる必要はなく、製造装置やその制御が簡略である。従って、製造が容易であり、また製造コストの点で経済的に有利である。
【図面の簡単な説明】
【図1】 本発明に係る石英ルツボの中央から側壁にかけての概略断面図
【符号の説明】 10-石英ルツボ、11-透明ガラス層、20-内周面部分、30-底面部分、40-湾曲部分
 
訂正の要旨 (訂正の要旨)
(イ) 訂正事項1
特許請求の範囲を減縮することを目的として本件特許の特許請求の範囲の請求項1の記載を、下記のとおり訂正する。
「回転モールディング法により製造され、原料石英粉体の内表面全体を加熱溶融した後に、熱源を底部中心部に向かって降ろし、重点的に加熱し、減圧脱気することによって気泡含有率を段階的に制限し、内周面部分よりも底面部分の気泡含有率を低減した石英ルツボであって、内表面に厚さ1mm以上の透明ガラス層を有し、内周面部分の透明ガラス層の気泡含有率が0.5%以下、内周面部分から底面部分に至る弯曲部分の透明ガラス層の気泡含有率が0.1%以下、底面部分の透明ガラス層の気泡含有率が0.01%以下であるシリコン単結晶引上げ用石英ガラスルツボ。」
(ロ) 訂正事項2
明りょうでに記載を釈明することを目的として、本件特許の特許請求の範囲の請求項2を下記のとおり訂正する。
「ルツボの両側周囲を形成する内周面部分の透明ガラス層の気泡含有率が0.5%以下、弯曲部分が内周面部分と底面部分の間であって底面中心より半径の2/3から半径の5/6に至る領域部分であり、この弯曲部分の透明ガラス層の気泡含有率が0.1%以下、底面部分が底面中心より半径2/3以内の部分であり、この底面部分の透明ガラス層の気泡含有率が0.01%以下である請求項1の石英ルツボ。」
(ハ) 訂正事項3
特許請求の範囲を減縮することを目的として、請求項3を削除する。
(ニ) 訂正事項4
明りょうでない記載を釈明することを目的として、本件特許明細書の段落【0005】の記載を下記のとおり訂正する。
「本発明によれば以下ののシリコン単結晶引上げ用石英ルツボが提供される。
(1)回転モールディング法により製造され、原料石英粉体の内表面全体を加熱溶融した後に、熱源を底部中心部に向かって降ろし、重点的に加熱し、減圧脱気することによって気泡含有率を段階的に制限し、内周面部分よりも底面部分の気泡含有率を低減した石英ルツボであって、内表面に厚さ1mm以上の透明ガラス層を有し、内周面部分の透明ガラス層の気泡含有率が0.5%以下、内周面部分から底面部分に至る湾曲部分の透明ガラス層の気泡含有率が0.1%以下、底面部分の透明ガラス層の気泡含有率が0.01%以下であるシリコン単結晶引上げ用石英ガラスルツボ。
(2)ルツボの両側周囲を形成する内周面部分の透明ガラス層の気泡含有率が0.5%以下、湾曲部分が内周面部分と底面部分の間であって底面中心より半径の2/3から半径の5/6に至る領域部分であり、この湾曲部分の透明ガラス層の気泡含有率が0.1%以下、底面部分が底面中心より半径2/3以内の部分であり、この底面部分の透明ガラス層の気泡含有率が0.01%以下である上記(1)の石英ルツボ。」
(ホ) 訂正事項5
明りょうでない記載を釈明することを目的として、本件特許明細書の段落【0008】の「上記範囲30、40の気泡含有率を各々0.1%以下および0.01%以下に制限する」の記載部分を下記のとおり訂正する。
「上記範囲30、40の気泡含有率を実施例に示すように内周面部分よりも底面部分の気泡含有率を低減し、かつその上限を各々0.1%以下および0.01%以下に制限する」
(ヘ) 訂正事項6
明りょうでない記載を釈明することを目的として、本件特許明細書の段落【0010】の「【実施例1】」の記載部分を「【参考例1、実施例2〜4】」と訂正する。
(ト) 訂正事項7
明りょうでない記載を釈明することを目的として、本件特許明細書の段落【0013】の表1を下記のとおり訂正する。
表1:石英ルツボの底面部分、弯曲部分、内周部分の気泡含有率(%)と単結晶化率(%)

(チ) 訂正事項8
明りょうでない記載を釈明することを目的として、本件特許明細書の段落【0010】の「この結果を表1に示す。」の直後に下記の記載を追加する。
「同様にして、3種類の石英ルツボを製造し、気泡含有量及びこれらのルツボをシリコン単結晶引上げに用いた場合の単結晶歩留まりを測定した。結果を表1に示す。なお、実施例2〜4の効果を対比する基準として、ルツボの内周面部分から湾曲部分および底面部分の気泡含有率が全て0.01%の石英ルツボを参考例1として示した。」
(リ) 訂正事項9
明りょうでない記載を釈明することを目的として、本件特許明細書の段落【0011】の記載を削除し、同段落番号【0012】を段落番号0011】と訂正し、同段落中の【比較例2】の直前に段落番号【0012】を加入する。
(ヌ) 訂正事項10
誤記を訂正することを目的として、本件特許明細書の段落【0003】の「こような観点から」の記載部分を「このような観点から」と訂正する。
(ル) 訂正事項11
誤記を訂正することを目的として、本件特許明細書の段落【0004】の「検討した結果、関液ルツボ」の記載部分を「検討した結果、石英ルツボ」と訂正する。
(ヲ) 訂正事項12
誤記を訂正することを目的として、本件特許明細書の段落【0006】の「比(W2/W2)」の記載部分を「比(W2/W1)」と訂正する。
異議決定日 2001-04-18 
出願番号 特願平4-358254
審決分類 P 1 651・ 121- YA (C30B)
P 1 651・ 531- YA (C30B)
最終処分 維持  
前審関与審査官 山田 勇毅  
特許庁審判長 吉田 敏明
特許庁審判官 西村 和美
唐戸 光雄
登録日 1999-05-07 
登録番号 特許第2923720号(P2923720)
権利者 三菱マテリアルクォーツ株式会社
発明の名称 シリコン単結晶引上げ用石英ルツボ  
代理人 千葉 博史  
代理人 大家 邦久  
代理人 大家 邦久  
代理人 千葉 博史  
代理人 高 雄次郎  

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