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審決分類 審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  C02F
審判 全部申し立て 2項進歩性  C02F
管理番号 1044927
異議申立番号 異議2000-72329  
総通号数 22 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 1999-03-02 
種別 異議の決定 
異議申立日 2000-06-06 
確定日 2001-05-14 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第2986778号「水系中のレジオネラ属菌の除菌方法」の請求項1ないし3に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 訂正を認める。 特許第2986778号の請求項1ないし3に係る特許を維持する。 
理由 〔一〕 本件特許は、平成10年(1998)6月15日に出願され(特願平10-167593号、優先権主張日 平成9年6月13日)、平成11年10月1日に特許権の設定の登録がされ(特許第2986778号。請求項数 3)、平成11年12月6日にその特許掲載公報が発行されたものである。
そして、平成12月6月6日に、本件特許は、本件特許の願書に添付された明細書(以下では、本件特許明細書という。)の特許請求の範囲の請求項1から同3までの各請求項の発明は、(イ)特許法第29条第1項第3号に規定する発明に該当し、同条同項の規定に違反して、また、(ロ)特許法第29条第2項の規定に違反して、さらに、(ハ)特許法第36条第4項及び同第6項に規定する要件を満たしていない出願に対して特許されたものであるから、本件特許は取り消すべきであるとの特許異議の申立てがされた。
当審は、平成12年9月13日付けで、上記(ロ)の理由による特許取消理由通知をし、あわせて、本件特許権者に審尋した。本件特許権者は、平成12年11月27日に、この取消理由に対して特許異議意見書を、上記審尋に対して回答書を提出するとともに、本件特許明細書の訂正を請求した。
当審は、さらに、平成13年3月9日付けで取消理由を通知し、本件特許権者は、平成12年11月27日付けの訂正請求書を取り下げるとともに、平成13年3月15日に訂正請求書を提出した。以下では、この訂正請求書による訂正を本件訂正という。

〔二〕 本件訂正請求の成否
(1) 訂正の内容
(イ) 訂正事項a
本件特許明細書の特許請求の範囲の記載を下記のとおり訂正する。
「【請求項1】 レジオネラ属菌とアメーバとが共存している水系に、10〜500mg/Lの濃度で添加することにより水系中のアメーバ数を100mL当たり10個未満とするアメーバを殺滅することが可能な薬剤を10〜500mg/Lの濃度で添加した後、該水系に前記アメーバを殺滅することが可能な薬剤を補充して、水系中のアメーバ数を100mL当たり10個未満に維持することにより、レジオネラ属菌を除菌することを特徴とする水系中のレジオネラ属菌の除菌方法。
【請求項2】 前記アメーバを殺滅することが可能な薬剤が、ヒノキチオール化合物、またはグルタルアルデヒドである、請求項1に記載の水系中のレジオネラ属菌の除菌方法。
【請求項3】 前記アメーバがアカントアメーバである、請求項1又は2に記載の水系中のレジオネラ属菌の除菌方法。」
(ロ) 訂正事項b
本件特許明細書の段落【0008】の記載を下記のように訂正する。
「【課題を解決するための手段】上記のような本発明の目的は、レジオネラ属菌とアメーバとが共存している水系に、10〜500mg/Lの濃度で添加することにより水系中のアメーバ数を100mL当たり10個未満とするアメーバを殺滅することが可能な薬剤を10〜500mg/Lの濃度で添加した後、該水系に前記アメーバを殺滅することが可能な薬剤を補充して、水系中のアメーバ数を100mL当たり10個未満に維持することにより、レジオネラ属菌を除菌することを特徴とする水系中のレジオネラ属菌の除菌方法によって達成することができる。」と訂正する。
(ハ) 訂正事項c
本件特許明細書の段落【0009】中の「アメーバーを殺滅可能な薬剤」を「アメーバを殺滅することが可能な薬剤」と訂正する。

(2) 訂正の適法性
(イ) 訂正事項aの点
(イ-1) 訂正事項aは、本件特許明細書の特許請求の範囲の請求項1の(α)「水系に対してアメーバを殺滅可能な薬剤を、水系中のアメーバ数が100mL当たり10個未満となる濃度になるように、添加する」の記載を
(β)「水系に10〜500mg/Lの濃度で添加することにより水系のアメーバ数を100mL当たり10個未満とするアメーバを殺滅することが可能な薬剤を10〜500mg/Lの濃度で添加した後、」(γ)「該水系に前記アメーバを殺滅することが可能な薬剤を補充して、水系中のアメーバ数を100mL当たり10個未満に維持する」と訂正するものであるから、アメーバを殺滅することが可能な薬剤の添加量を10〜500mg/Lの濃度に限定し、その後、さらにアメーバを殺滅することが可能な薬剤を補充するように限定したものであるから、本件訂正は、訂正事項aの点で、特許請求の範囲を減縮することを目的としている。
(イ-2) 本件特許明細書の段落【0012】には、「水系中でのアメーバ数を、100mL当たり10個未満にまで低下させたのち、必要に応じて少量の薬剤を水系に補充することにより、水系中のアメーバ数が100mL当たり10個以上とならないように維持することが望ましい」と記載されていたのであるから、上記(β)と(γ)とを引き続き実施することは、本件特許明細書に記載されていたことであり、本件訂正は、その訂正事項aの点で、本件特許明細書の記載事項の範囲内でする訂正である。
(イ-3) 本件訂正は、その訂正事項aの点で、本件特許明細書の段落【0007】に記載されたという目的{下記〔三〕(ロ)参照}を何ら変更するものではないから、特許請求の範囲を実質上拡張するものでもなく、変更するものでもない。

(ロ) 訂正事項bの点
(ロ-1) 本件訂正は、訂正事項bの点で、訂正事項aの訂正にともない、明りょうでない記載を釈明することを目的とする訂正である。
(ロ-2) 上記(イ-2)及び(イ-3)で、訂正事項aについて述べた理由と同一の理由によって、本件訂正は、その訂正事項bの点で、本件特許明細書の記載事項の範囲内で、かつ、特許請求の範囲を実質上拡張するものでも、変更するものでもない。

(ハ) 訂正事項cの点
本件訂正は、その訂正事項cの点で、明りょうでない記載を釈明することを目的とする訂正であって、かつ、本件特許明細書の記載事項の範囲内で、かつ、特許請求の範囲を実質上拡張するものでも、変更するものでもない。

(ニ) 以上(イ)及び(ロ)によれば、本件訂正は、適法な訂正であって、認めるべきものである。
以下では、訂正された本件特許明細書を単に本件特許明細書という。

〔三〕 本件特許明細書の記載
(イ)【0001】、【発明の属する技術分野】
「本発明は冷凍装置の循環冷却水や24時間風呂の循環温水などの、冷温水系あるいは蓄熱水系などにおける細菌類、特にレジオネラ属菌を除菌し、且つその増殖を防止する方法に関する。」
(ロ)【0007】、【発明が解決しようとする課題】
「 本発明は、水系におけるレジオネラ属菌、特にアメーバなどとの共存状態におけるレジオネラ属菌の、増殖を防止するための有効な手段がなかったことに鑑み、かかる水系中、特にアメーバ共存水系中のレジオネラ属菌を効果的に除菌する方法を提供することを目的とするものである。」
(ハ)【0011】、【発明の実施の形態】の一部
「本発明の水系中のレジオネラ属菌の除菌方法に用いられる、アメーバを殺滅可能な薬剤であるヒノキチオール化合物やグルタルアルデヒドなどは、例えば水系に対して1〜1000mg/Lの範囲、更に好ましくは10〜500mg/Lの範囲となるように添加し、かかる薬剤を含有する水を系内に循環させることにより、水系中の微生物を殺滅し、系内の洗浄を行う方法を用いることができる。」
(ニ)【0012】、【発明の実施の形態】の一部
「 このようにして水系中でのアメーバ数を、100mL当たり10個未満にまで低下させたのち、必要に応じて少量の薬剤を水系に補充することにより、水系中のアメーバ数が100mL当たり10個以上とならないように維持することことが望ましい。」
(ホ)【0026】、【実施例】の一部
「表4のデータに基づいて考察した結果、アメーバ数が多い水系ではレジオネラ属菌の増殖している場合が多く、アメーバ数が10個/100mL未満の水系では、レジオネラ属菌が100個/100mL以上の例がないところから、アメーバを完全に殺滅できないと、レジオネラ属菌の除菌も困難ではないかと考えるに至った。」
(ヘ)【0032】、(第1実施例)の一部
「表5の結果から、イソチアゾロン化合物は、表2よりレジオネラ属菌を殺菌する能力があることが明らかであるが、アメーバを完全に殺滅することが困難であって、レジオネラ属菌が短時間に再生して増殖を開始することが分かる。これに対して表6をみると、イソチアゾロン化合物と同様にレジオネラ属菌を殺菌する能力があることが、表2より明らかなヒノキチオールを、前記のイソチアゾロン化合物と同濃度で使用すると、アメーバを完全に殺滅することができ、また一旦殺菌されたレジオネラ属菌は容易に増殖しないことがわかる。」
(ト)【0039】、【発明の効果】
「本発明は、水系中にアメーバを殺滅できる薬剤を添加することにより、水系中のレジオネラ属菌を殺菌するもので、従来のレジオネラ属菌用の殺菌剤では除菌できなかったようなアメーバ共存下の水系中のレジオネラ属菌を、効果的に除菌することができるという効果がある。」

〔四〕 引例の記載
ただし、以下の摘示文中、「・・・」の部分は、当審が転記を省略した部分である。
(1)「MICROBIOLOGY and IMMUNOLOGY」、vol.35 No.9、1991(特許異議申立人が提示した甲第1号証。以下では、引例1という。)
(イ) 796頁、5〜7行
第1条件下では(G-24)、塔を実験の始めだけ洗浄した。第2条件下では(G-18)、塔を最終濃度約0.1%のグルタルアルデヒドで一度処理したが、レジオネラの生育可能数は103CFU/100mlまで増加した。」
(ロ) 798頁、3〜9行
「殺微生物処理を受けていない、G-24冷却塔(図2)の水中では、洗浄後1週間では微生物の生育可能数は低い。しかし、2週間後には、従属栄養菌の生育可能数は、104〜107CFU/mlの範囲で増加した。バクテリアの成長にしたがって、原生動物の成育可能数は102〜103MPN/100mlの範囲であった。」
(ハ) 798頁、18〜21行
「G-18冷却塔(図2)の場合は、グルタルアルデヒド添加直後に棲息していた微生物は検出水準より低い水準に減少した。しかし、添加後2週間内に、レジオネラを含むこれらの微生物群のサイズは以前と同じ水準に復帰した。」
(ニ) 799頁、4〜8行
「冷却塔で実際に殺微生物剤を使用するためには、次の要素を考慮すべきであろう。すなわち、1)効力、2)持続性、3)二次的環境汚染の危険、4)冷却塔の腐食、及び5)操業コスト。グルタルアルデヒドのような殺菌剤は、微生物を殺す点では効果的であるが、持続性を欠いている。さらに、それらの毒性は、頻回使用では注意を要する。」

(2) 「平成6年度 ヒューマンサイエンス基礎研究事業 官民共同プロジェクト研究報告 第4分野 健康保持の基礎としての生体防御機構の解明」(平成7年11月20日、財団法人 ヒューマンサイエンス振興財団発行)(特許異議の申立人が提示した甲第2号証。以下では、引例2という。)
(イ) 162頁、下から7〜4行、「2、 研究目的」の一部
「しかし、本属菌は寄生性で、単独では増殖できず、外界ではアメーバ類やその他の細菌捕食性原生動物に寄生、人体内でも同様に貪食細胞中で増殖するものである。従って、上述の冷却水など実際の感染源となっている水系にはアメーバ等の宿主となり得る原生動物が繁殖していることを前提として考えなくてはならない。」
(ロ) 163頁、5〜9行、「2、 研究目的」の一部
「しかしながら、その対策の一つとして冷却水への殺菌剤の添加が行われているものの、実験室内で有効性が認められた薬剤が実際の冷却塔で効果を発揮しない場合も数多く認められている。この様な現象は、1)薬剤の有効濃度の維持が不十分なため、2)薬剤を作用させる冷却水のpH調整不備、あるいは3)バイオフィルム形成による薬剤浸透不備などの要因が考えられる。また、4)レジオネラ菌がアメーバに寄生することによって直接的な薬剤の侵襲を免れている可能性も考慮する必要があろう。」
(ハ) 164頁、「4-1-2、アメーバ類の検出状況」の項
「 冷却水から分離されたアメーバ類は多種類で8科におよんだ。全体での検出率は90%であった。なかでもバールカンフィア(53.3%)、ハルトマネラ(62.8%)、バンネラ(49.4%)あるいはフェキシフェラ(34.4%)が高率に検出された(表5)。
薬剤処理の有無とアメーバ類の検出率を表6に示したが、薬剤添加の有無にかかわらず95.5%および84.4%といずれも高い検出率であった。3-2、アメーバ類の生息とレジオネラ属菌の検出率
アメーバ類とレジオネラ属菌の検出率の関係を図3に示した。今回の試験水からは高頻度にアメーバ類が検出されたため、両者の関係が必ずしも判然としないが、アメーバの検出された水系におけるレジオネラ属菌の検出率は42.5%(69/162)で、アメーバ類が検出されなかった検体中のレジオネラ属菌の検出率は16.7%と低かった。ちなみにレジオネラ属菌が検出された水系においてアメーバが検出されなかった例は僅かに3ヶ所にすぎなかった。」
(ニ) 165頁、10〜12行、「5、考察」の一部
「 環境中でレジオネラ属菌に増殖の場を与えているのはアメーバなどの細菌捕食性の原生動物類で、水系におけるこれら宿主動物の繁殖がレジオネラ属菌の増殖には必須である。中でも、アメーバ類は水系の生物学的汚染のごく初期から出現することからレジオネラ属菌との関係で重要と考えられる。」
(ホ) 165頁、24〜29行、「5,考察」の一部
「 現在、薬剤処理を行っているもに拘らず、レジオネラ属菌が検出される冷却水が約25%存在しており(図1)、こうした冷却水系に対しては、殺菌剤の残留濃度管理、投入濃度、頻度の調整等の使用ソフト面からの改善を行い増殖抑制率を上げていく必要が有るとともにアメーバ類に着目した処理対応も必要である。現行の薬剤処理はレジオネラの宿主であるアメーバ類に対する増殖抑制は考慮されていないからである。通常の薬剤処理を行なった場合もアメーバ類に寄生しているレジオネラ属菌に対して殺菌の効果が行き届かず、充分な処理効果が得られない事も充分に考えられるところである。」
(ヘ) 165頁、下から6行〜166頁、1行、「5、考察」の一部
「ヒドラジンは最も一般的に用いられる殺菌剤であるが、今回の試験の結果ではレジオネラに対しては殺菌効果が期待できないものと判断された。然るに、実際にヒドラジンを添加している冷却水系に於いてはレジオネラ属菌の検出率は低下することが知られている。このことからヒドラジンが藻類を主体とするスライムの抑制とともに、アメーバ類の生育環境を破壊していることが考えられ、今後の研究課題である。
新規な殺菌剤である、ポリ-オキシエチレン(ジメチルイミニオ)エチレン(ジメチルイミニオ)エチレンジクロライドもヒドラジンと同様、レジオネラに対する直接的な殺菌効果は無いが、安全性が高い薬剤であり、アメーバ類の生育環境を破壊することによってレジオネラ属菌の増殖を抑制する効果が期待でき、今後の研究課題である。」

(3) 「呼吸」、Vol.4 No.10(1985.10)(特許異議の申立人が提示した甲第3号証。以下では、引例3という。)、1246頁右欄、8〜11行
(イ) 「 レジオネラ属菌が定着している冷却塔水や環境水からレジオネラを排除することはできない。冷却塔水では共生生物を少なくすることが有効ではないかと想像されるが、市販の殺藻剤の効果は期待できない。」

(4) 「岐阜大学医学部紀要」、第37巻第5号(平成元年9月、岐阜大学医学部)(特許異議の申立人が提示した甲第4号証。以下では、引例4という。)
(イ) 954頁右欄、6〜12行
「 冷却塔11基を用いたモデル実験では、3%H2O2を主成分とした洗浄剤あるいは、2%グルタールアルデヒドでの洗浄処理は非常に有効であったが、処理後に何の処置も施さなければ、約1〜2週間で処理前の状態まで菌数が復活するので、これによてlegionellaeを完全に除去することは出来ないと考えられる(図4-a,4-c,4-d)。」
(ロ) 954頁右欄、下から8行〜955頁左欄、4行
「 Legionella属菌は、水中のFischerella属のような藍藻類と共生し、またAcanthamoeba、Naegleriaのような原生動物の細胞内に寄生して増殖することが確認されているため、冷却塔水中の原生動物や藻類の生態もこの菌の汚染と密接な関連があると思われる。特に、冷却塔の内部に形成される藻類や微生物の膜(algal-bacterial mat)は、legionellaeの汚染巣になっている可能性が強く、・・・。また、殺菌剤も原生動物や藻類の細胞内に浸透するか否かでlegionellaeの除去効果を左右すると思われる。」

(5) 「Applied and Environmental Microbiology」Volume 58 number8(AUGUST 1992)(特許異議の申立人が提示した甲第5号証。以下では、引例5という)。
(イ) 2420頁、要約の項
「 Acanthamoeba polyphagaの細胞内で生育し、それからポリヘキサメチレン ビグアニド(PHMB)、ベンズイソチアゾロン(BIT)、及び5-クロロ-N-メチルイソチアゾロン(CMIT)にさらされたLegionella pneumophilaに関して、生存試験を行った。鉄が十分な条件及び鉄不足条件下でのL. pneumophilaの感受性をも決定した。BITは、細胞成長に対して相対的に非効果的・・・であった。3種全部の殺微生物剤の活性は、アメーバ中で生育したL. pneumophilaに対しては、非常に低下した。PHMB(1×MIC)は、ブイヨン中で生育した株に対して6時間内で99.99%の生育可能数減少となり、24時間では検出可能な生存数はないが、アメーバ中で生育した細胞に対しては、6時間及び24時間で、それぞれ90及び99.9%にすぎない。A. polyphagaに対しても、これら3種の殺微生物剤の抗微生物性を決定した。BIT処理系から回復した大多数のアメーバは、あったとしても少数しかCMIT処理及びPHMB処理後に生き残れない。この研究は、L. pneumophilaの生理状態及び対抗微生物剤感受性に関するアメーバ内生育の広範な効果だけでなく、PHMBが効果的な水処理に対する潜在的な殺微生物剤であることも明らかにしている。この点で、PHMBは、その推奨使用濃度以下で宿主アメーバ及びL. pneumophilaの両者に対して重要な活性をもっている。」
(ロ)2420頁右欄、7〜11行
「われわれは、この微生物の、チオール反応性イソチアゾロン殺微生物剤(8)及び細胞壁を害する(6,17)ポリヘキサメチレン ビグアニド(PHMB)に対する感受性に対する、鉄欠乏及び細胞内成長の効果を別々に評価した。」
(ハ)2424頁左欄、下から11行〜同右欄、最終行、DISCUSSIONの項の一部
「奇妙なことに、水泳プールの衛生のために日常的に使用されている薬剤であるPHMBは、アメーバ内生育レジオネラに対してだけでなく、アメーバに対しても、効果的である。そのような効果は、PHMBの推奨使用レベルの10%(10μg/ml)の濃度で実証できる。これらの結果は、Kilvingoton(21)が観察した結果と同様である。イソチアゾロン系殺微生物剤は、その毒性のために、その適用性及びヒトが触れるかも知れない濃度に制限がある。PHMBは、そうではなく、相対的に無毒性であり、最近は眼鏡レンズ用の溶液の保存剤として使用されるものである。・・・。
・・・。ことに、これらのデータは、PHMBはすべての生理状態のレジオネラ及び宿主アメーバに対して有益な活性を有する、水処理用の潜在的な殺微生物剤であることを示している。」

(6) 「平成8年度 ヒューマンサイエンス基礎研究事業 官民共同プロジェクト研究報告 第5分野 健康保持の基礎としての生体防御機構の解明」(平成9年7月3日、財団法人 ヒューマンサイエンス振興財団)(特許異議の申立人が提示した甲第6号証。以下では、引例6という。)(当審注。 この刊行物は、本件特許の出願の優先権主張日の後に頒布された刊行物である。)
(イ) 155頁、「アメーバとLegionellaの相関」の項の一部
「いずれかの宿主アメーバが検出された32検水のうちの26例から同菌が分離された。一方、アメーバが検出されなかった7浴用水では1例から分離されたにすぎなかった。表-4には試料中の菌数分布とアメーバの検出の関係を示した。」

(7) 「検査と技術」、vol.26 no.3(1998.3)(特許異議の申立人が提示した甲第7号証。以下では、引例7という。)
(イ) 247頁左欄、10〜17行、「4.感染媒体(ベクター)としてのアメーバ」の項の一部
「 ところで、図3にもあるように、宿主アメーバ内で増殖するレジオネラは、結果的に多数の菌が細胞の食胞にパックされた状態になる。その菌数は径5μmの食胞でおよそ1,200程度になるという。この数はエアロゾルとして実験的にモルモットに感染されたときのLD501,000CFU(colony-forming unit)に匹敵する。すなわち、菌が充満したアメーバ1つを吸い込むことで感染が成立する計算になる。」

〔五〕 特許を維持する理由
(1) 特許法第29条第1項第3号及び同条第2項の要件
(1-1) 引例1から引例7(引例6を除く。)までの各引例には、レジオネラ属菌がアメーバに寄生しているから、レジオネラ属菌を除菌するためにには、宿主のアメーバを除去する必要があることが記載されている{上記〔四〕(1)〜(5)及び(7)参照}が、アメーバを殺滅することが可能な薬剤によって、そのレジオネラ属菌を殺菌する活性の有無にかかわらず、レジオネラ属菌を除菌するために必要な具体的条件は記載されていない。
ただ、引例1には、冷却塔水を殺微生物剤(例えば、最終濃度約0.1%のグルタルアルデヒド)で一度処理すると、レジオネラ属菌及び微生物の生育可能な数は減少することが記載され{上記〔四〕(1)(イ)〜同(ハ)参照}、また、引例1の798頁の図2によれば、このとき、アメーバ数が急激に0近くに減少していることが認められるから、引例1の記載から、約0.1%濃度のグルタルアルデヒドによって、「水系中のアメーバ数が100mL当たり10個未満となる」ようにすることができることはわかる。
しかしながら、引例1の上記図2によれば、1週間後にはアメーバ菌数が100程度に増加し、2週間後には1000以上に増加しているから、グルタルアルデヒドを0.1%程度(当審注。 約1000mg/Lに相当する。)加えても、それだけでは、レジオネラ属菌を除菌できないこともまたわかる。
しかるに、本件特許の特許請求の範囲の請求項1の発明(以下では、本件特許発明1という。)は、「レジオネラ属菌とアメーバとが共存している水系に、」「アメーバを殺滅することが可能な薬剤(例えば、グルタルアルデヒド、ヒノキチオール)を10〜500mg/Lの濃度で添加」すること、また、その後、「水系に前記アメーバを殺滅することが可能な薬剤を補充して、水系中のアメーバ数を100mL当たり10個未満に維持することにより、レジオネラ属菌を除菌する」ものであるところ、引例1から引例7(引例6を除く。)までのいずれの引例にも、レジオネラ属菌を除菌するためには、アメーバを殺滅することが可能な薬剤を最大濃度でも500mg/Lまで添加し、かつ、アメーバ数を100mL当たり10個未満に維持するようにすればよいことは示唆されていない。
そして、本件特許発明1は、レジオネラ属菌を除菌することができるという、優れた効果を奏したものと認めることができる。
そうすると、本件特許発明1は、引例1から引例5まで、及び引例7の各引例に記載されている発明でもないし、これらの発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができた発明であるとは認められない。

(1-2) 本件特許明細書の請求項2及び同3の構成は、同1の構成を引用するものであるから、同2及び同3の構成の発明についても、本件特許発明1についてした上記(1)の判断と同様の判断となる。

(2) 特許法第36条の要件
引例6及び引例7には、アメーバを殺滅しても、必ずしもレジオネラ属菌を除菌できない場合があることがごく一般的に指摘されているだけであるから、これらの刊行物の記載を根拠に、本件特許明細書に本件特許発明1を実施できるように説明されていないとすることはできない。

〔六〕 当審は、本件特許を他に取り消すべき理由を発見しない。
したがって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
水系中のレジオネラ属菌の除菌方法
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】 レジオネラ属菌とアメーバとが共存している水系に、10〜500mg/Lの濃度で添加することにより水系のアメーバ数を100mL当たり10個未満とするアメーバを殺滅することが可能な薬剤を10〜500mg/Lの濃度で添加した後、該水系に前記アメーバを殺滅することが可能な薬剤を補充して、水系中のアメーバ数を100mL当たり10個未満に維持することにより、レジオネラ属菌を除菌することを特徴とする水系中のレジオネラ属菌の除菌方法。
【請求項2】 前記アメーバを殺滅することが可能な薬剤が、ヒノキチオール化合物、またはグルタルアルデヒドである、請求項1に記載の水系中のレジオネラ属菌の除菌方法。
【請求項3】 前記アメーバがアカントアメーバである、請求項1又は2に記載の水系中のレジオネラ属菌の除菌方法。
【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は冷凍装置の循環冷却水や24時間風呂の循環温水などの、冷温水系あるいは蓄熱水系などにおける細菌類、特にレジオネラ属菌を除菌し、且つその増殖を防止する方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
空調設備や冷蔵あるいは冷凍庫などに用いられる冷凍装置では、熱交換を効率的に行なうために、開放型の冷却塔などを用いて冷却した循環水を利用することが多い。また24時間風呂などでは加温した温水を濾過器を通しながら循環している。かかる循環水中には外部から微生物などが入り込んで増殖し易く、スライムなどによる熱交換器の熱交換効率の低下や、濾過器の詰まりなどの障害を起こすほか、病原細菌、特にレジオネラ属菌などが増殖して飛散すると、特殊な肺炎たとえば在郷軍人病やポンチアック熱のような病気の原因となる。
【0003】
このような微生物による問題の対策として、循環水系に抗菌剤を注入して細菌類の増殖を抑制する方法や、装置内を機械的に清掃洗浄しあるいは洗浄剤を用いて洗浄する方法などが用いられてきた。そして従来から、レジオネラ属菌を防除する殺菌剤として、例えば、5-クロロ-2-メチル-4-イソチアゾリン-3-オンなどのインチアゾロン系化合物や、2-ブロモ-2-ニトロプロパン-1,3-ジオール(一般名:ブロノポール)などのニトロアルコール系化合物等、種々の化合物が提案されている。しかしこれら従来から提案された薬剤は、実験室内では有効な殺菌性能を示しても、実際に稼働している水系に使用してみると、必ずしも十分な効果が得られないことが多かった。
【0004】
ところで自然界におけるレジオネラ属菌は、アメーバなどの細菌捕食性原生動物等に捕食されてもなお寄生して繁殖し、共生することが知られている。しかしこのようなアメーバなどとレジオネラ属菌との共生関係が、レジオネラ属菌の殺菌剤抵抗性にどのように影響するかについては、明らかではなかった。
【0005】
一方、ヒノキチオールが抗菌活性を有することは良く知られており、従来から食品の保存剤(例えば特開昭59-22467号など)、化粧品や医薬品などの保存用添加剤(例えば特開平5-214364号、特開平7-97600号、特開平7-138155号、特開平7-173053号、特開平8-59419号、特開平9-12423号など)、植物の病害予防剤(例えば特開昭51-22819号、特開昭64-90102号、特開昭64-90103号、特開昭64-90104号、特開平4-182408号など)、生花、野菜、果物などの鮮度保持剤(例えば特開平5-4678号、特開平5-221807号など)等として用いることが、それぞれ提案されている。
【0006】
そしてまた、抗微生物剤(例えば特開平3-77801号)、外用の殺菌消毒剤(例えば特開平6-279271号、特開平7-53360号、特開平7-53369号、特開平7-69873号など)、抗ウイルス剤(特開平8-259439号)等として用いる提案や、排水口用除菌剤として用いる提案(特開平9-20604号)もあるが、水系中の細菌を除去するために用いるという提案はなかった。
【0007】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、水系におけるレジオネラ属菌、特にアメーバなどとの共存状態におけるレジオネラ属菌の、増殖を防止するための有効な手段がなかったことに鑑み、かかる水系中、特にアメーバ共存水系中のレジオネラ属菌を効果的に除菌する方法を提供することを目的とするものである。
【0008】
【課題を解決するための手段】
上記のような本発明の目的は、レジオネラ属菌とアメーバとが共存している水系に、10〜500mg/Lの濃度で添加することにより水系のアメーバ数を100mL当たり10個未満とするアメーバを殺滅することが可能な薬剤を10〜500mg/Lの濃度で添加した後、該水系に前記アメーバを殺滅することが可能な薬剤を補充して、水系中のアメーバ数を100mL当たり10個未満に維持することにより、レジオネラ属菌を除菌することを特徴とする水系中のレジオネラ属菌の除菌方法によって達成することができる。
【0009】
【発明の実施の形態】
本発明において用いられるアメーバを殺滅することが可能な薬剤としては、例えばヒノキチオール化合物やグルタルアルデヒドなどが有効であるが、これらに限られるものではなく、水系中でのアメーバ数を、100mL当たり10個未満にまで抑制できる薬剤であれば、利用することができる。
【0010】
本発明の水系中のレジオネラ属菌の除菌方法に用いられるヒノキチオール化合物としては、精製されたヒノキチオールのほか、未精製のヒノキチオールや、ヒノキチオールを含むヒノキ油やヒバ油などの精油などを用いることもでき、また化学的に合成したヒノキチオール(即ち、2-ヒドロキシ-4-イソプロピル-2,4,6-シクロヘプタトリエン-1-オン)を用いてもよい。これらのヒノキチオール化合物は単独で用いてもよいほか、例えばシクロデキストリンなどとの包接化合物の形態で用いることもできる。また更に好ましいヒノキチオール化合物として、ヒノキチオールの例えばナトリウム、カリウムなどの塩、あるいはヒノキチオールの、例えば銅や亜鉛、銀などの金属錯体があり、これらの金属塩や金属錯体は昇華性が抑制されていて安定でもあるので、効果が優れているほか取扱上でも有利である。
【0011】
本発明の水系中のレジオネラ属菌の除菌方法に用いられる、アメーバを殺滅可能な薬剤であるヒノキチオール化合物やグルタルアルデヒドなどは、例えば水系に対して1〜1000mg/Lの範囲、更に好ましくは10〜500mg/Lの範囲となるよう添加し、かかる薬剤を含有する水を系内に循環させることにより、水系中の微生物を殺滅し、系内の洗浄を行う方法を用いることができる。
【0012】
このようにして水系中でのアメーバ数を、100mL当たり10個未満にまで低下させたのち、必要に応じて少量の薬剤を水系に補充することにより、水系中のアメーバ数が100mL当たり10個以上とならないように維持することが望ましい。この際、アメーバを殺滅可能な薬剤を添加すると共に、レジオネラ属菌を殺菌可能な薬剤を併せて添加してもよい。
【0013】
本発明の水系中のレジオネラ属菌の除菌方法に従って、レジオネラ属菌とアメーバとが共存している水系中にアメーバを殺滅可能な薬剤を添加することによって、水系中のアメーバ数を100mL当たり10個未満に低下させると、レジオネラ属菌はアメーバとの共生が実質的に不能となるため、水系中のレジオネラ属菌の数も減少し、効果的に除菌されるに至る。
【0014】
【実施例】
(第1参考例)
表1に示した配合組成を有するBCYEα平板培地上に、レジオネラ(Legionella pneumophila)を接種して36℃で2日間培養した。
【0015】
【表1】
BCYEα平板培地
純水 1000 mL
酵母エキス 10.0 g
ACESバッファー 10.0 g
L-システイン1塩酸塩 0.4 g
可溶性ピロ燐酸鉄 0.25g
αケトグルタル酸 1.0 g
活性炭粉末 1.5 g
寒天 15 g
pH 6.9
【0016】
次に、ヒノキチオール化合物として、ヒノキチオール、ヒノキチオールのナトリウム塩、及びヒノキチオールの銅錯体を用意し、またイソチアゾロン系化合物を含む薬剤として、ローム・アンド・ハース社のKATHON WT(10.1%の5-クロロ-2-メチル-4-インチアゾリン-3-オンと3.8%の2-メチル-4-イソチアゾリン-3-オンとを含む薬剤)、及び2-ブロモ-2-ニトロプロパン-1,3-ジオール(一般名:ブロノポール)を用意した。
【0017】
そして、前記の培養レジオネラをpH7の燐酸緩衝液に104個/mLオーダーとなるように接種したのち、その液の一部をBCYEα平板培地に塗布し、36℃で5日間培養後のコロニー数をカウントすることにより、生菌数を測定したところ、2.9×104個/mLであることを確認した。次いでこの液をそれぞれの培養フラスコに分けて入れ、殺菌剤無添加のものと、上記の各殺菌剤をそれぞれ1、5及び10mg/Lの濃度となるよう添加したものとを調製し、37℃で24時間振盪培養したのち、それぞれの生菌数(個/mL)を上記と同様にして測定した。こうして得た培養後の生菌数の値を、表2に示した。
【0018】
【表2】

【0019】
表2の結果から、ヒノキチオール化合物、イソチアゾロン化合物、及びブロノポールは、いずれもレジオネラに対して優れた殺菌力を示すことが分かる。
【0020】
(第2参考例)
日本国内で稼働中の、空調装置などの60施設の冷却水系から試験水をそれぞれ採取し、これらの試験水中のレジオネラ属菌数とアメーバ数を、それぞれ後記の試験方法に従って測定し、それらの分布を調査した結果を表4に示した。
なお、これらの冷却水系の49か所では、何らかの微生物防除剤を使用していた。
【0021】
(レジオネラ属菌の検出試験方法)
試料水400mLを6000rpm、30分間の冷却遠心沈殿処理により100倍に濃縮し、50℃、20分間の加熱処理をする。その後、その50μLを表3に示した配合組成を有するWYOα培地に塗布し、37℃で好気的に培養する。培養7日目にコロニーの状況からレジオネラ属菌と判断されたコロニーを数個釣菌して、各コロニー毎にBCYEα平板培地と5%血液寒天培地の2種類の培地に植え継ぎ、37℃で好気的に培養する。培養2日目にBCYEα平板培地に生育し、5%血液寒天培地に生育しなかったコロニーを、L-システイン要求性からレジオネラ属菌と確定し、WYOα培地上の同種のコロニー数を計数する。この方法による検出限界は、20個/100mLである。
【0022】
【表3】
WYOα培地
純水 1000 mL
酵母エキス 10.0 g
ACESバッファー 10.0 g
L-システイン1塩酸塩 0.4 g
可溶性ピロ燐酸鉄 0.25g
αケトグルタル酸 1.0 g
グリシン 3.0 g
アンホテリシンB 80.0 mg
ポリミキシンB 100000 U
バンコマイシン 5.0 mg
活性炭粉末 1.5 g
寒天 15.0 g
pH 6.9
【0023】
(アメーバの検出試験方法)
試料水50mLを、1000rpmで10分間の遠心分離を行い、約1mLに濃縮する。この濃縮水1mLを後記の方法で調製した大腸菌塗布寒天培地上に拡げ、液が流れない程度に風乾した後、乾燥を防ぐために非透湿性袋内に入れて密封し、30℃で培養して2週間観察を続ける。そして、寒天上のアメーバのコロニー及びプラークの数を計測すると共に、倒立位相差顕微鏡で形態の観察を行い、アメーバ種の同定を行う。なお、この方法による検出限界は、2個/100mLである。
【0024】
(大腸菌塗布寒天培地の調製方法)
細菌分析用寒天を濃度が1.5%(W/V)となるようにイオン交換水に溶かし、121℃、15分間の滅菌後、径90mmの滅菌シャーレに15〜20mL分注して寒天平板を作成する。次いで、別途に標準寒天平板培地で培養した大腸菌を適当な量採取し、滅菌イオン交換水に懸濁して濃厚な大腸菌懸濁液を作成し、これを60℃、1時間加熱処理した後、滅菌イオン交換水でODが0.5となるよう希釈する。そして、この液0.3mLを前記の寒天平板の全面に塗布して、大腸菌が寒天の表面に固定される程度に乾燥させ、大腸菌塗布寒天培地を調製する。
【0025】
【表4】

【0026】
表4のデータに基づいて考察した結果、アメーバ数が多い水系ではレジオネラ属菌の増殖している場合が多く、アメーバ数が10個/100mL未満の水系では、レジオネラ属菌が100個/100mL以上の例がないところから、アメーバを完全に殺滅できないと、レジオネラ属菌の除菌も困難ではないかと考えるに至った。
【0027】
(第1実施例)
空調装置に組み込まれた循環水冷却塔(冷凍能力が3冷凍トン、保有水量100L、1日に8時間運転)から試料水を採取し、前記のアメーバの検出試験方法に従ってアメーバの数を計測すると共に、アメーバ種の同定を行った。その結果、アメーバ数は4800個/100mLであり、アメーバ種として、アカントアメーバ(Acanthamoeba(AC))、ハルトマネラ(Hartmannella(HT))、バンネラ(Vannella(VN))、バルカンフィーダ(Vahlkampfiidae(VK))、フェキシリフェラ(Vexillifera(VX))を検出した(+)。またヌクレリア(Nuclearia(NC))は検出されなかった(-)。
また別途に採取した水試料について、前記のレジオネラ属菌の検出試験方法に従って、レジオネラ属菌の存在を調べたところ、生菌数が9.6×103個/100mLであった。
【0028】
この循環水中に、前記のイソチアゾロン化合物(KATHON WT)を、100mg/Lの濃度となるように添加して稼働運転を継続し、レジオネラ属菌数とアメーバ数、及びアメーバの種類の経日変化を調べた。これらの結果を表5に示したが、一時的にレジオネラ属菌数とアメーバ数の減少が認められたものの、菌数は再び増加に転じ、完全な除菌はできなかった。
【0029】
【表5】

【0030】
そこで、レジオネラ属菌数が6.6×103個/100mLに戻った循環水中に、前記のヒノキチオールを、100mg/Lの濃度となるように添加して稼働運転を継続し、レジオネラ属菌数とアメーバ数、及びアメーバの種類の経日変化を調べた。その結果を表6に示したが、レジオネラ属菌数とアメーバ数は共に減少し続け、3日後にはほぼ完全に除菌できた。
【0031】
【表6】

【0032】
表5の結果から、イソチアゾロン化合物は、表2よりレジオネラ属菌を殺菌する能力があることが明らかであるが、アメーバを完全に殺滅することが困難であって、レジオネラ属菌が短期間に再生して増殖を開始することが分かる。これに対して表6をみると、インチアゾロン化合物と同様にレジオネラ属菌を殺菌する能力があることが、表2より明らかなヒノキチオールを、前記のインチアゾロン化合物と同濃度で使用すると、アメーバを完全に殺滅することができ、また一旦殺菌されたレジオネラ属菌は容易に増殖しないことがわかる。
【0033】
(第2実施例)
連続24時間運転で、冷却水の濃縮倍数を5倍に保つようにブロー水量と補給水量を制御(従って、添加薬剤の半減期は、薬剤の分解その他の損失がないとして、約1.7日である。)している、空調装置の水系に組み込まれた循環水冷却塔(冷凍能力が1000冷凍トン、保有水量100m3、)から、運転中に採取した試料水について、レジオネラ属菌数とアメーバ数、及びアメーバの種類を、前記と同様な方法により調べた。そして、水系に前記のインチアゾロン化合物(KATHON WT)を、50mg/Lの濃度となるように添加して稼働運転を継続し、レジオネラ属菌数とアメーバ数、及びアメーバの種類の経日変化を調べた。その結果を表7に示したが、一時的にレジオネラ属菌数とアメーバ数の減少が認められたものの、菌数は再び増加に転じ、除菌はできなかった。
【0034】
【表7】

【0035】
また、レジオネラ属菌数やアメーバ数が増加した循環水中に、前記のブロノポールを、30mg/Lの濃度となるように添加して稼働運転を継続し、レジオネラ属菌数とアメーバ数、及びアメーバの種類の経日変化を調べた。その結果を表8に示したが、一時的にレジオネラ属菌数とアメーバ数の減少が認められたものの、菌数は再び増加に転じ、除菌はできなかった。
【0036】
【表8】

【0037】
その後、レジオネラ属菌数やアメーバ数が増加した循環水中に、グルタルアルデヒドを200mg/Lの濃度となるように添加して稼働運転を継続、更に50日後にグルタルアルデヒドを50mg/Lの濃度となるように添加して、レジオネラ属菌数とアメーバ数、及びアメーバの種類の経日変化を調べた。そして、レジオネラ属菌、アメーバとも一旦死滅したのち再び増加するまでの経過を、表9に示した。その結果、アメーバを完全に殺滅すると、レジオネラ属菌も共に除菌でき、その効果は長期間維持されることが分かった。
【0038】
【表9】

【0039】
【発明の効果】
本発明は、水系中にアメーバを殺滅できる薬剤を添加することにより、水系中のレジオネラ属菌を殺菌するもので、従来のレジオネラ属菌用の殺菌剤では除菌できなかったようなアメーバ共存下の水系中のレジオネラ属菌を、効果的に除菌することができるという効果がある。
 
訂正の要旨 (訂正請求の要旨)
(イ) 訂正事項a
特許請求の範囲を減縮することを目的として、本件特許明細書の特許請求の範囲の記載を下記のとおり訂正する。
「【請求項1】 レジオネラ属菌とアメーバとが共存している水系に、10〜500mg/Lの濃度で添加することにより水系中のアメーバ数を100mL当たり10個未満とするアメーバを殺滅することが可能な薬剤を10〜500mg/Lの濃度で添加した後、該水系に前記アメーバを殺滅することが可能な薬剤を補充して、水系中のアメーバ数を100mL当たり10個未満に維持することにより、レジオネラ属菌を除菌することを特徴とする水系中のレジオネラ属菌の除菌方法。
【請求項2】 前記アメーバを殺滅することが可能な薬剤が、ヒノキチオール化合物、またはグルタルアルデヒドである、請求項1に記載の水系中のレジオネラ属菌の除菌方法。
【請求項3】 前記アメーバがアカントアメーバである、請求項1又は2に記載の水系中のレジオネラ属菌の除菌方法。」
(ロ) 訂正事項b
明りょうでない記載を釈明することを目的として、本件特許明細書の段落【0008】の記載を下記のように訂正する。
「上記のような本発明の目的は、レジオネラ属菌とアメーバとが共存している水系に、10〜500mg/Lの濃度で添加することにより水系中のアメーバ数を100mL当たり10個未満とするアメーバを殺滅することが可能な薬剤を10〜500mg/Lの濃度で添加した後、該水系に前記アメーバを殺滅することが可能な薬剤を補充して、水系中のアメーバ数を100mL当たり10個未満に維持することにより、レジオネラ属菌を除菌することを特徴とする水系中のレジオネラ属菌の除菌方法によって達成することができる」と訂正する。
(ハ) 訂正事項c
明りょうでない記載を釈明することを目的として、本件特許明細書の段落【0009】中の「アメーバーを殺滅可能な薬剤」を「アメーバを殺滅することが可能な薬剤」と訂正する。
異議決定日 2001-04-18 
出願番号 特願平10-167593
審決分類 P 1 651・ 121- YA (C02F)
P 1 651・ 113- YA (C02F)
最終処分 維持  
前審関与審査官 斉藤 信人関 美祝  
特許庁審判長 吉田 敏明
特許庁審判官 唐戸 光雄
西村 和美
登録日 1999-10-01 
登録番号 特許第2986778号(P2986778)
権利者 アクアス株式会社
発明の名称 水系中のレジオネラ属菌の除菌方法  
代理人 瀧野 秀雄  
代理人 瀧野 秀雄  

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