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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  C03C
管理番号 1045014
異議申立番号 異議2000-72663  
総通号数 22 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 1992-11-13 
種別 異議の決定 
異議申立日 2000-07-07 
確定日 2001-08-20 
異議申立件数
事件の表示 特許第3001018号「金属調の光沢をもつ琺瑯製品及びその製造法」の請求項1及び2に係る発明の特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 特許第3001018号の請求項1及び2に係る発明の特許を維持する。 
理由 I.手続の経緯、本件発明
本件特許第3001018号は、平成3年4月25日に特許出願され、平成11年11月12日に特許の設定登録がなされ、その後、岡田浩司より特許異議の申立がなされたものであって、その請求項1及び2に係る発明は、明細書の特許請求の範囲に記載される次のとおりのものである。
【請求項1】金属素地に少なくとも下釉層と上釉層とを設けた琺瑯製品であって、上釉層中に酸化チタンまたは酸化鉄をもって表面を被覆された雲母粉を含み、かつ上釉層中にフッ素を含み、その含有率を多くとも1%としたことを特徴とする金属調の光沢をもつ琺瑯製品。
【請求項2】金属素地に下釉層を形成した後該下釉層上に、フッ素を含み、その含有量を多くとも1%として酸化チタンまたは酸化鉄をもって表面を被覆された雲母粉の少量を添加した上釉泥漿を掛けて乾燥後焼成することを特徴とする金属調の光沢をもつ琺瑯製品の製造法。

II.特許異議申立の概要
特許異議申立人は、証拠として、
甲第1号証(特開昭63-176334号公報)、
甲第2号証(森盛一著、「琺瑯工業」、昭和15年7月29日再版、
有限會社 修教社書院、第370及び371頁)、
甲第3号証(「Vitreous Enamels」、1965年、Borax Consoli
dated Limited(London)、APPENDIX I 第55頁)、
を提示し、本件請求項1及び2に係る発明は、甲第1〜3号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明することができたものであって、特許法第29条第2項の規定に違反して特許されたものであり、したがって、それらの特許は取り消されるべきである旨主張する。

III.証拠の記載
甲第1号証には、
「二酸化チタン又はフェライト被覆した雲母粉を分散させたうわぐすりを、素地金属上に直接又はうわぐすり層を形成させた素地上にくすりがけし、乾燥後焼成することを特徴とする金属光沢を有するほうろう製品の製法。」(特許請求の範囲)、
「本発明は、上述のような従来法の問題点を改善するもので、簡単な技術的手段によって、優れた金属光沢を有するほうろう製品を製造しようとするものである。」(第2頁左上欄第17行〜右上欄第1行)、
「(実施例)
素地金属として、厚み1.6mmでその周辺を巾20mmに折り曲げ加工した300mm角の市販のほうろう用極低炭素鋼板パネルを用意した。
・・・・・・・・・・・・・。
うわぐすりB:耐酸性透明うわぐすりにフェライトで被覆した薄片状雲母をフリット100重量部に対して5重量部添加したもの。
・・・・・・・・・・・・・。
下ぐすりをかけたパネルに、うわぐすりBをくすりがけし、乾燥後810℃で3分間焼成して、シルバーグレー色の金属光沢を有するパネルを得た(No.3)。」(第2頁左下欄第9行〜第3頁左上欄第4行)ことが記載されている。
甲第2号証には、三種の耐酸琺瑯釉に関する例が記載され、その内、No.3(耐酸釉)につき、
「 成分百分率
SiO2 51.19 Al2O3 5.26
K2O 1.18 Na2O 14.38
B2O3 9.35 CaO 3.34
MgO 0.85 ZnO2 1.55
ZrO2 12.40 F 0.76」(第370頁下段)であることが記載されている。なお、耐酸琺瑯釉のNo.3以外のものについては、そのフッ素含有量を計算によって求めると、明らかに1%超えるものである。
甲第3号証には、鋳鉄用のエナメルに関して5種の調製例が記載されており、その中で、湿式エナメルの耐酸性クリアーのものにつき、
ホウ砂29.0、石英46.3、ソーダ灰15.5、硝酸ナトリウム8.4、炭酸バリウム1.6、チタニア13.5、硝酸カリウム4.1、フルオロ珪酸ナトリウム1.0、チャイナクレー7.3、ピロリン酸ナトリウム1.9からなる組成(第55頁右下段)が記載されている。なお、湿式エナメルのその他の種類のものについては、そのフッ素含有量を計算によって求めると、明らかに1%超えるものである。

IV.対比、検討
請求項1に係る発明について
本願請求項1に係る発明(以下、適宜、「本件発明」という)と甲第1号証に記載の発明とを対比する。
甲第1号証に記載のものでは、二酸化チタン又はフェライト被覆した雲母粉を分散させたうわぐすりを、素地金属上にうわぐすり層を形成させた素地上にくすりがけして、金属光沢を有するほうろう製品とするものである。
この場合、フェライトは酸化鉄の一種に他ならず、また、金属素地上のうわぐすり層は本件発明の下釉層に相当し、更に、うわぐすり層を形成させた素地上にくすりがけして得られるものは本件発明の上釉層に相当する。
よって、両者は、
「金属素地に少なくとも下釉層と上釉層とを設けた琺瑯製品であって、上釉層中に酸化チタンまたは酸化鉄をもって表面を被覆された雲母粉を含む、金属調の光沢をもつ琺瑯製品」である点で、軌を一にするものである。
しかし、本件発明は、「上釉層中にフッ素を含み、その含有率を多くとも1%とした」という構成を、更に、具備するものであるが、甲第1号証に記載のものでは、フッ素の含有に関し具体的に示されるものはなく、当然のこととして、上釉層中にフッ素を含み、その含有率を多くとも1%とすることについて示唆されず、この点で、両者は、相違する。
以下、この相違点が、当業者の容易に想到できるものであるか否かにつき検討する。
本件明細書の記載(実施例の表1の実施例と比較例とを比較する記載、及び、これに関連する記載)によれば、本件発明は、琺瑯製品において、表面を被覆された雲母粉を含む上釉層につき、その「上釉層中にフッ素を含み、その含有率を多くとも1%とした」という構成を具備することにより、その余の構成と相俟って、美しく均一な金属調の光沢を有する琺瑯製品を得ることができたというものである。
一方、甲第1号証のものは、うわぐすり層を形成させた素地上に施すうわぐすりがけにおいて、上記するようにフッ素を用いることに関し示されことはなく、また、このようなフッ素の挙動ないしは作用につき教示することが何もない。
次に、甲第2号証及び甲第3号証の記載をみると、そこには、耐酸性琺瑯釉ないしはその原料の組成として、0.76%及び(計算によって求めると)約0.5%のフッ素を含有する例が示されるものの、これら甲第2及び3号証のものでは、そこに含まれるところのフッ素につき、その挙動ないしは作用につき説明されることは何もなく、また、それらの組成のものを表面が被覆された雲母粉を含む層に用いた場合に、本件発明のように美しく均一な金属調の光沢を呈する琺瑯製品が得られることにつき、教示されることがないものである。
してみれば、甲第1号証の記載に甲第2及び3号証の記載を併せてみても、美しく均一な金属調の光沢を呈する琺瑯製品を得るための構成であるところの、「上釉層中にフッ素を含み、その含有率を多くとも1%とした」ということが、容易に導き出せるものではない。
したがって、本件発明は、甲第1〜3号証に記載される発明に基づいて当業者が容易に発明できるものであるということはできない。

請求項2に係る発明について
本件請求項2に係る発明と甲第1号証に記載される発明とを対比すると、両者は、
「金属素地に下釉層を形成した後該下釉層上に、酸化チタンまたは酸化鉄をもって表面を被覆された雲母粉の少量を添加した上釉泥漿を掛けて乾燥後焼成する金属調の光沢をもつ琺瑯製品の製造法」である点で、軌を一にするものであるが、一方、本件発明は、更に、該上釉泥漿につき、「フッ素を含み、その含有量を多くとも1%と」するとの構成を具備するのに対し、甲第1号証に記載のものではこのことが示されず、かかる点で、両者は相違する。
そして、本件明細書の記載(実施例の表1の実施例と比較例とを比較する記載、及び、これに関連する記載)によれば、琺瑯製品の製造法において、表面を被覆された雲母粉を添加した上釉泥漿につき、「フッ素を含み、その含有量を多くとも1%と」するという構成を具備することにより、その余の構成と相俟って、美しく均一な金属調の光沢を有する琺瑯製品を容易に提供することができたというものである。
ところが、甲第1〜3号証に記載のものでは、このように美しく均一な金属調の光沢を有する琺瑯製品を容易に提供するための構成である、上釉泥漿につき、「フッ素を含み、その含有量を多くとも1%と」することについては、教示することが何もなく、このことは、前記する請求項1に係る発明の判断の箇所で説示したとおりである。
してみれば、本件請求項2に係る発明は、甲第1〜3号証に記載される発明に基づいて当業者が容易に発明できるものであるということはできない。

IV. まとめ
以上のとおりであり、特許異議申立の理由及び証拠によっては、本件請求項1及び2に係る発明の特許を取り消すことができない。
また、他に本件請求項1及び2に係る発明の特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2001-07-31 
出願番号 特願平3-122520
審決分類 P 1 651・ 121- Y (C03C)
最終処分 維持  
前審関与審査官 鈴木 紀子▲高崎▼ 久子  
特許庁審判長 多喜 鉄雄
特許庁審判官 山田 充
唐戸 光雄
登録日 1999-11-12 
登録番号 特許第3001018号(P3001018)
権利者 日本碍子株式会社 日本フリット株式会社
発明の名称 金属調の光沢をもつ琺瑯製品及びその製造法  

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