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審決分類 審判 全部無効 特17条の2、3項新規事項追加の補正 無効とする。(申立て全部成立) E05C
管理番号 1046473
審判番号 無効2000-35491  
総通号数 23 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 1997-09-09 
種別 無効の審決 
審判請求日 2000-09-11 
確定日 2001-10-09 
事件の表示 上記当事者間の特許第2873445号発明「開き戸の地震時ロック装置、ロック方法、開き戸、吊り戸棚及び家具」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 特許第2873445号の請求項1ないし8に係る発明についての特許を無効とする。 審判費用は、被請求人の負担とする。 
理由 第1 経緯

本件特許第2873445号は、平成8年3月1日に出願(特願平8-84445号)されたものであって、平成8年11月19日付け、平成9年5月19日付け手続補正書により明細書が補正され、平成10年3月11日付けの拒絶理由通知に対して、平成10年5月3日付け手続補正書により明細書が補正され、平成11年1月14日に特許登録され、平成12年9月11日付けで松下電工株式会社より無効審判の請求があり、平成12年12月11日付けで被請求人より審判事件答弁書が提出され、平成13年3月9日付けで請求人より審判事件弁駁書及び上申書が提出された。

第2 当事者の主張

1 請求人の主張の概要
請求人は、審判請求書及び審判事件弁駁書において、特許第2873445号の特許はこれを無効とする、審判費用は被請求人の負担とする、との審決を求めることを請求の趣旨とし、本件特許の請求項1ないし8に係る発明(以下、本件発明1ないし8という)についての特許を無効とすべき理由として、概要次のように主張する。
(1)本件発明1ないし8は、甲第1号証の1または甲第2号証の1に記載された発明であって、特許法第29条第1項第3号の規定に違反し、特許法第123条第1項第2号の規定に該当する。
(2)本件発明1ないし8は、甲第1号証の1、甲第2号証の1、甲第3号証及び甲第4号証の1に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明できたものであるから、特許法第29条第2項の規定に違反し、特許法第123条第1項第2号の規定に該当する。
(3)本件発明1ないし8は、甲第5号証または甲第6号証の他の出願の出願当初の明細書または図面に記載された発明と同一であって、特許法第29条の2の規定に違反し、特許法第123条第1項第2号の規定に該当する。
(4)本件特許は、特許請求の範囲に記載された発明は、発明の詳細な説明に記載されたものでなく、また、明確でもないから、特許法第36条第4項、同第6項の規定に違反し、特許法第123条第1項第4号の規定に該当する。
(5)本件特許は、特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たさない、平成9年5月19日付手続補正書及び平成10年5月3日付手続補正書による明細書の補正をした特許出願に対してなされたものであるから、特許法第123条第1項第1号の規定に該当する。
(以下、上記(1)ないし(5)に記載された理由を、無効理由1ないし5という。)

2 被請求人の主張の概要
被請求人は、審判事件答弁書において、本件審判の請求は成り立たない、審判費用は請求人の負担とする、との審決を求め、請求人の無効理由1ないし5はいずれも当を得ておらず、無効理由はない旨主張する。

第3 無効理由についての検討

1 本件発明1ないし8の認定

本件発明1ないし8は、特許査定時の明細書(平成10年5月3日付けで補正された明細書)の特許請求の範囲の請求項1ないし8に記載された次のとおりのものである。
「【請求項1】家具、吊り戸棚等の本体内に固定された装置本体側に係止手段を設け該係止手段が開き戸の係止具に地震時に係止するロック方法においてゆれで動き可能な係止手段の動きを係止手段とは別体の振動可能に収納された振動手段が前記係止手段の動きを補助する開き戸の地震時ロック方法
【請求項2】振動手段が係止手段に接触することにより該係止手段の動きを補助する請求項1記載の開き戸の地震時ロック方法
【請求項3】地震のない状態では安定位置に静止する振動手段とした請求項1又は2記載の開き戸の地震時ロック方法
【請求項4】それ自体固有振動数を有する振動手段とした請求項1又は2記載の開き戸の地震時ロック方法
【請求項5】家具、吊り戸棚等の本体内に固定された装置本体側に係止手段を設け該係止手段が開き戸の係止具に地震時に係止するロック装置においてゆれで動き可能な係止手段の動きを係止手段とは別体の振動可能に収納された振動手段が前記係止手段の動きを補助する開き戸の地震時ロック装置
【請求項6】請求項1、2、3又は4記載の開き戸の地震時ロック方法を用いた開き戸
【請求項7】請求項1、2、3又は4記載の開き戸の地震時ロック方法を用いた吊り戸棚
【請求項8】請求項1、2、3又は4記載の開き戸の地震時ロック方法を用いた家具」

2 無効理由5についての検討

2-1 請求人は、本件特許は、特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たさない理由として、平成9年5月19日付け手続補正書及び平成10年5月3日付け手続補正書による明細書の補正により、請求項1及び5において、
(ア)ゆれで動き可能な係止手段、
(イ)係止手段とは別体の振動可能に収納された振動手段、
(ウ)振動手段は係止手段の動きを補助する、
との事項が付加され、これらの事項は出願当初の明細書又は図面に記載された事項の範囲内のものではない旨主張する。

2-2 本件発明1及び5における「ゆれで動き可能な係止手段の動きを・・振動手段が・・補助する」の技術的意味について
本件発明1及び5の「ゆれで動き可能な係止手段の動きを・・振動手段が・・補助する」において、
「ゆれで動き可能な係止手段」は、
(1)係止手段がゆれによって独自に動き可能となっている態様と、
(2)係止手段が、ゆれを原因として動き可能となっている態様、
の2つの態様を含むと考えられ、
また、「補助」とは、通常、おぎない助けることや、その助けになるものを意味することから、「ゆれで動き可能な係止手段の動きを・・振動手段が・・補助する」は、
(1)ゆれで動き可能な係止手段が動いている状態で、振動手段が、さらにその動きを助けるように作用すること、
(2)ゆれで動き可能な係止手段が動いていない状態で、振動手段が、その動きを助けるように、つまり、係止手段が動くきっかけを与えるように作用すること、
の2つの態様を含むと考えられる。
(以下、補助に関する(1)、(2)に記載した態様をそれぞれ態様1、2という。)

2-3 願書に最初に添付した明細書又は図面に記載した事項について
しかしながら、願書に最初に添付した明細書又は図面において、「ゆれで動き可能な係止手段の動きを・・振動手段が・・補助する」は、以下で検討するように、態様2のみが記載されているにすぎないと考えられる。
(1)願書に最初に添付した明細書又は図面において、「ゆれで動き可能な係止手段の動きを・・振動手段が・・補助する」事項に関して、直截的に明確に説明した記載は認められないが、明細書において、振動手段を有するものの説明として次の記載が認められる(段落番号0008、0009)。
「図11及び図12は本発明の地震時ロック装置を示し、該地震時ロック装置は特に図10(類似するが)に示した地震時ロック装置と比較し次の特徴を有する。すなわち該地震時ロック装置は横向きであり係止手段(4)は地震時には前進し係止具(5)の磁石(5c)に引っ張られて(重力でなく)ロック状態に至る。地震時ロック装置を横向きにすれば開き戸(2)が長期使用で(蝶番のがたで)下方に垂れ下がつた場合でも係止手段(4)と係止具(5)の係合が可能になるという特徴がある。地震時ロック装置を横向きにする場合は装置本体(3)をポリアセタール樹脂等の静止摩擦係数が0.2(980ガルの0.2倍は約200ガルでこれは震度5.3程度の最大加速度に相当し開き戸のロックは少なくともこの震度以上で作動させるべきであるからである)以下の樹脂材料で形成し地震時の感度を確保すべきである。次にマグネットキャッチ(7)は2個のマグネット(7a)(7a)をコ字状の磁性体板(7b)内に収納しそれらの間に板状の2個の磁性体板(7d)(7d)が挾持される。2個の磁性体板(7d)(7d)は磁性体板(7b)の背面の開口を貫通して後方に延び軸(7e)で装置本体(3)に取り付けられる。磁性体板(7d)(7d)と磁性体板(7b)はセパレーター(7f)で磁気ショート防止される。磁性体板(7d)(7d)の先端には爪がありマグネット(7a)(7a)の抜け止めが図られている。次に係止手段(4)はその後端両側に突起を設けてストッパー(4g)とし装置本体(3)の両側の内壁段部のストッパー(3h)と係合することで停止(ロック力発揮)される。次に装置本体(3)には振動路(11)及び振動体(10)からなる振動手段が設けられる(あくまで実施例であるが図示の実施例では振動路(11)はわん曲面及び振動体(10)は鋼、プラスチック等の球が図示される)。振動手段としては板ばね、コイルばね等のばね振動手段、吊下げ振り子振動手段等も適用可能である。振動体(10)は地震のない状態では図11に図示する安定位置に静止しており係止手段(4)には接触しない。しかし地震時には振動手段(振動体(10))は振動しその固有振動数を例えば1.75Hz程度にしておけば地震のゆれ(多くは1〜3Hz程度)に対して共振することになる。地震以外の衝撃(高周波成分が多い)等に対しては振動手段はあまり動かないことになり誤動作の防止が図られる。いずれにしても振動が大きくなると振動手段(振動体(10))は係止手段(4)に接触しこれを動き開始させる(動き始めるとその摩擦は静止摩擦から動摩擦に変わり摩擦係数が相当程度低下する)。
すなわち係止手段(4)がロック作動開始することを意味しこれにより係止手段(4)は磁石(5c)と磁性体板(5f)で形成された磁場により吸引されロック状態となる。磁性体板(5f)がL字状にされその立ち上がり部が係止手段(4)の正面にあることは緩やかな(調整の容易な)磁場の形成と共に係止手段(4)の直線的な動きで吸着されて来るという重要な役割りを果たす。振動手段としては係止手段(4)自体でこれを兼ねてもよい(係止手段(4)自体が振動する)。更には係止手段(4)に振動手段を内蔵、取り付け等の方法により組み込んで構成してもよい。次に係止具(5)は基体Aと端体Bから構成されそれらをねじCで結合し図11の上下(図11の上下とは装置が横向きであるため実際は左右)に端体Bを移動調整可能にしている。これは現場での取り付け作業の容易化と共に磁石(5c)の磁力による係止手段(4)の吸引力が変化することにより地震のゆれに対する感度の調整も兼ねている。
【0009】【発明の効果】本発明の地震時ロック装置の実施例は以上の通りでありその効果を次に列記する。
(1)本発明の地震時ロック装置は特に振動手段の振動によりロック作動開始する場合は地震のゆれとその他のゆれを識別可能になり誤動作が少なく確実に作動する。
(2)本発明の地震時ロック装置は特にポリアセタール樹脂等の静止摩擦係数が0.2以下の樹脂材料で少なくとも装置本体を形成した場合にはロックが確実になる。」
(2)以上の明細書における記載及び図11、図12から、願書に最初に添付した明細書又は図面において、地震のない状態においては図11に示すように、係止手段4は装置本体3内において右方の位置にあり、振動手段の振動体10は、振動路11のわん曲面の安定した位置にあって、係止手段4と振動体10とは接触していないが、地震時には、振動手段の振動体10が振動し、地震のゆれと共振し、振動が大きくなると振動手段の振動体10が係止手段4に接触し、係止手段4を動き開始させ、係止手段がロック作動開始して、これにより係止手段4は磁石5cと磁性体板5fで形成された磁場により吸引され係止具5とロック状態となるものと認められる。
即ち、係止手段4は、振動体10が共振によって振動して係止手段に接触するまでは、係止手段が独自に動き開始することはなく、振動体10が接触して初めて動き開始するものである。
(3)願書に最初に添付した明細書又は図面において、振動手段を有する場合に「ゆれで動き可能な係止手段の動きを・・振動手段が・・補助する」の具体的態様としては上記の記載が認められるにすぎず、他の態様は全く記載されていない。
そうすると、願書に最初に添付した明細書又は図面において、振動手段を有する場合に「ゆれで動き可能な係止手段」については、係止手段が、地震のゆれで独自に動き可能なのではなく、地震のゆれを契機、即ち、きっかけとして、つまり、図に示されたものにおいては、振動手段の振動体10が係止手段4に接触することによって、初めて動くことが可能となっていることが記載されているにすぎない。
また、係止手段4は、地震のゆれを契機、即ち、きっかけとして、振動手段の振動体10が係止手段4に接触することによって、初めて動くことが可能となっていることから、「係止手段の動きを・・補助」については、停止した状態の係止手段を動き始めるように、動きを助けること、つまり、係止手段4が、未だ動き始める地震の大きさのでない状態において、振動手段の振動体10が係止手段4に接触することによって、係止手段4が動くきっかけを与えることが記載されているにすぎない。
(4)以上のように、願書に最初に添付した明細書又は図面においては、「ゆれで動き可能な係止手段の動きを・・振動手段が・・補助する」の態様として、2-2に記載した態様2のみが記載されているにすぎない。
したがって、態様1も含むようにした平成10年5月3日付け手続補正書による明細書の補正は、願書に最初に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内の補正ということはできない。

2-4 被請求人の主張に対して
被請求人は、審判事件答弁書において、
(ア)「ゆれで動き可能な係止手段」、「補助」については、願書に最初に添付した明細書又は図面に明確に開示されている旨(答弁書18頁)、
(イ)「ゆれで動き可能」の意味について、「係止手段自体がゆれで動く」ことは、特許公報3欄38行からの「動く」、4欄8行からの「動く」、6欄13行からの係止手段の摩擦の説明の記載を参照すれば「係止手段は振動手段によってのみ動かされるのではなくゆれで直接動く(能動的に動く)ことは明らかである旨(答弁書4頁1行ないし5頁19行)、
(ウ)「振動手段が・・補助する」については、6欄37行からの記載から、振動手段が感度よく係止手段を動かす(動き開始させる)ことを、「ゆれで動き可能な係止手段の動きを振動手段が補助」と表現し、振動手段の感度で動かされるという意味で「振動手段により補助」されている旨(同5頁22行ないし6頁20行)主張する。
しかしながら、(ア)については、上記2-3で検討したように願書に最初に添付した明細書又は図面には、態様2が開示されているにすぎず、態様1は開示されていない。
次に、(イ)については、願書に最初に添付した明細書又は図面において、図1ないし図10に記載された係止手段は地震のゆれによって動くが、これらに記載されたものは、振動手段を有さないものであって、振動手段を有し、その振動手段と密接な関係のある本件発明1及び5に関する図11、図12の係止手段4の作用と同じとすることはできない。
また、本件発明1及び5に関する、地震時ロック装置本体を静止摩擦計数が0.2以下の材料で形成して地震時の感度を確保すべき旨の記載(特許公報6欄13行以下参照)は、被請求人の主張するように、係止手段4が地震のゆれのみで直接動く(能動的に動く)ことが記載されているということはできない。さらに、「係止手段4は地震時は前進し・・」(同6欄3行ないし6行参照)という記載は、係止手段4が振動手段の振動体によって前進することを排除するものではなく、「動き始めるとその摩擦は静止摩擦から動摩擦に変わり摩擦係数が相当程度低下する」(同6欄43行ないし45行参照)という記載は、ただ単に、動き始めた後の摩擦係数である動摩擦係数は静止した状態の静止摩擦係数よりも小さいという一般的な物理的現象をいうものであって、被請求人の主張するように、係止手段4が地震のゆれで能動的に滑って動くことが記載されているということはできない。
次に(ウ)については、願書に最初に添付した明細書又は図面に記載されたものが、振動手段の振動体により係止手段が感度よく動くものであるとしても、係止手段は、振動体が接触するまでは動かないのであるから、係止手段が、振動体に接触して初めて動き開始することにかわりはなく、そのように、係止手段が振動体に接触して初めて動き開始するように助けることを「係止手段の動きを補助する」といっていることにかわりはない。答弁書においても、被請求人は「「振動手段が感度よく係止手段を動かす(動き開始させる)」ことを「ゆれで動き可能な係止手段の動きを振動手段が補助」と表現した」(答弁書5頁22行ないし6頁20行)と記載している。
したがって、被請求人の主張を考慮しても、願書に最初に添付した明細書又は図面においては、態様2が記載されているにすぎない。

2-5 無効理由5についてのまとめ
願書に最初に添付した明細書又は図面においては、本件発明1及び5における「ゆれで動き可能な係止手段の動きを・・振動手段が・・補助する」に関して、態様2のみが記載されているにすぎないのに関わらず、平成10年5月3日付け手続補正書によって補正された本件発明1及び5においては、態様1をも含むように補正されたのであるから、少なくとも平成10年5月3日付け手続補正書による明細書の補正は、願書に最初に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内の補正ということはできず、特許法第17条の2第3項の要件を満たさない補正である。

第4 まとめ

以上のとおりであるから、他の無効理由について検討するまでもなく、本件特許は、特許法第17条の2第3項の要件を満たしていない補正をした特許出願に対してされたものであり、同法第123条第1項第1号に該当する。
審判に関する費用については、特許法第169条第2項の規定で準用する民事訴訟法第61条の規定により、被請求人の負担とすべきものとする。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2001-04-27 
結審通知日 2001-05-15 
審決日 2001-05-28 
出願番号 特願平8-84445
審決分類 P 1 112・ 561- Z (E05C)
最終処分 成立  
前審関与審査官 五十幡 直子  
特許庁審判長 田中 弘満
特許庁審判官 鈴木 憲子
鈴木 公子
登録日 1999-01-14 
登録番号 特許第2873445号(P2873445)
発明の名称 開き戸の地震時ロック装置、ロック方法、開き戸、吊 り戸棚及び家具  
代理人 橋爪 英彌  
代理人 小松 陽一郎  
代理人 平野 和宏  

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