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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 B62K
管理番号 1046483
審判番号 不服2001-4930  
総通号数 23 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 1999-12-21 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2001-02-22 
確定日 2001-10-24 
事件の表示 平成10年特許願第202674号「動揺均衡補助装置付懸架系をもつ自動車」拒絶査定に対する審判事件〔平成11年12月21日出願公開、特開平11-348862、請求項の数(1)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 【1】手続の経緯・本件発明
本件出願は、平成10年6月12日に特許出願されたものであり、その請求項1に係る発明は、平成10年6月18日付け及び平成10年10月5日付け手続補正により補正された明細書及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1に記載された次の事項により特定されるとおりのものと認める。
なお、平成13年3月22日付け手続補正は、特許法第53条第1項の規定により決定をもって却下された。
「【請求項1】 動揺中心を車体左右中心面内に軸支する可撓シーソー・ビーム(1)で走行部(3)を車体(4)に結合し、同じく車体左右中心面内に動揺中心を軸支し両端を可撓シーソー・ビーム(1)に連結する緩衝バネ(2)とで形成する懸架系に、緩衝バネ(2)の動揺中心軸(12)と車体間に介在する動揺位置制御機(5)と、揺動錘機構(16)を結合し車体(4)に固定した流路変換弁(6)と、原動機(14)で駆動される液体ポンプ(7)を流路系(8)で継合した装置を取り付け構成したことを特徴とする動揺均衡補助装置付懸架系をもつ自動車。」
【2】引用例
これに対して、原査定の拒絶の理由に引用された実公昭58-51609号公報(以下「刊行物1」という。)、実公昭50-34426号公報 (以下「刊行物2」という。)、実公昭61-27284号公報(以下「刊行物3」という。)には、それぞれ次の事項が記載されているものと認める。
1.刊行物1
イ)「本考案は、操向ハンドルのかじ取り操作とは別個に行なう運転者の操作により、動力を利用して車体を左右に傾斜させる車両における車体傾斜装置に関する。」(第1欄第27〜30行)
ロ)「第三に、重錘等の遠心力を感知する装置により旋回による遠心力の方向と大きさとを検知し、これによって車体下面に設置された油圧シリンダ等を適宜作動させて、車体を自動的に旋回内側に傾斜させるようにしたものがある。」(第2欄第23〜28行)
ハ)「本考案は、上記の各種の欠点を除去するためになされたものであり、中立状態においては乗員や積荷の状況によって車体が傾斜しないようにする一方、簡単な構造にて運転者の意識的な操作によりかじ取り操作と同時に又は別個に作動させることができ、かつ、車体傾斜の内側に重心を移動させることにより横転に対する安全性を高めることができる車体傾斜装置を提供することを目的とする。」(第2欄第37〜第3欄第8行)
ニ)「車体傾斜機構10は、アッパーアーム31,31′と、ローアアーム32,32′と、車軸33,33′と、ダンパー付スプリング34,34′と、ベルクランク35とからなる。上記アッパーアーム31,31′及びローアアーム32,32′は、いずれもその基端が車体7の上下軸42(第1図参照)の近傍にて車体に回動自在に軸着され、その他端は互いに平行状態に車輪36,36′の方に伸びている。車軸33,33′は、その縦部の上下端が上記アッパーア一ム31,31′及びローアアーム32,32′の他端に回動自在に枢着されている。ベルクランク35は、上記アッパーアーム31,31′の上方にて、車体7の上下軸42上に位置する(第1図参照)ピン37によって車体に回動自在に軸着されている。ダンパー付スプリング34,34′は、その下端がローアアーム32,32′の中間部に回動自在に軸着され、その上端は、上記ベルクランク35の左右腕38,39の先端に回動自在に軸着されている。上記ベルクランク35の縦腕40の上端は、駆動体6の作動杆9に回動自在に軸着されている。従って、上記作動杆9を第2図上で左右に伸縮作動させることによって、ベルクランク35がピン37のまわりに回動して、左右の車輪36,36′を互いに反対方向に上下揺動させ、従って車体を左または右に傾斜させることができる。」(第5欄第4〜29行)
ホ)「次に本考案による車体傾斜装置の作動について説明する。第2図において向って右側に旋回する場合、操作ハンドル1を右まわりにかじ取り操作すると共に、図に矢印44,45で示すように、右側を押し左側を持ち上げるように車体傾斜操作をする。このとき操作杆5は上方に持ち上げられ、ロッド24及び検出装置4のシャフト26が上方に持ち上げられる。従って、スプール弁12は上方に移動し、検出装置4の油通路13及び14が開かれ、鎖線矢印で示すように、配管20から上記油通路13を通って作動油が駆動体6の作動シリンダ15内に流入し、ピストン16を押して作動杆9を左方に引く。このとき作動シリンダ15から流出した作動油は上記油通路14及び配管21を通つてリザーバ17へ環流する。作動杆9が左方に引かれると、ベルクランク35はピン37のまわりに反時計方向(矢印46)に回動し、右方のダンパー付スプリンク34′を持ち上げ、左方のダンパー付スブリンク34を押し下げる。従って、右方のローアアーム32′が持ち上げられ、左方のローアアーム32が押し下げられて、右車輪36′が上方に、左車輪36が下方にそれそれ揺動する。従つて、車体7全体としては、第3図に示すように、車体7の右側がより地面に近くなり左側が地面から離れて、右側へ傾斜することになる。」(第5欄第39行〜第6欄第20行)
ヘ)「第2図において、向って左側に傾斜させるには、操作ハンドル1を上記と逆方向に操作すれば、全て逆方向に作動して車体は左側に傾斜する。上記いずれの場合も、操作ハンドル1を中立位置に戻せば車体7は水平に戻る。」(第6欄第30〜35行)
等の記載があり、併せて図面を参照すると、刊行物1には、
“動揺中心を車体左右中心面内に軸支するアッパーアーム31,31′、ローアアーム32,32′で車輪36,36′を車体7に結合し、同じく車体左右中心面内に動揺中心を軸支しかつ両端をそれぞれダンパー付スプリング34,34′を介してローアアーム32,32′に連結するベルクランク35とで形成する懸架系に、ベルクランク35と車体7間に介在する駆動体6と、操作ハンドル1を結合した検出装置4と、エンジン駆動の油圧ポンプ18を油通路13,14及び配管20,21で継合した装置を取り付け構成した運転者の操作による車体傾斜装置付き懸架系をもつ自動車”
が記載されているものと認める。
2.刊行物2
刊行物2には、
ト)「車体を個々のばね定数が比較的大きい左右一対の油圧緩衝器で支持し、これ等両側の油圧緩衝器の油室内を連絡油路で互いに連通し、その連絡油路内に、車輛のカーブ路走行時における遠心力に応動してその連絡油路を絞り或いは遮断する制御弁を介装した車輛における車体の自動安定化装置。」(第1欄第19〜24行)
チ)「遠心力による車体のロール力が一側の緩衝器S又はS′に作用するもその力が連絡油路8を介して他側の緩衝器S′又はSに伝達されることが抑制或は阻止されるので、車体のロール力は一側のみのばね定数の大なる気体ばね6または6′により支えられ車体が過度にローリングすることなく安定した曲路走行姿勢が得られる。」(第4欄第7〜14行)
等の記載があり、併せて図面を参照すると、
“車体を個々のばね定数が比較的大きい左右一対の油圧緩衝器で支持し、これ等両側の油圧緩衝器の油室内を連絡油路で互いに連通し、その連絡油路内に、車輛のカーブ路走行時における遠心力に応動してその連絡油路を絞り或いは遮断する制御弁を介装し、曲路走行時に前記連絡油路を絞り或いは遮断することによって、一側のみのばね定数の大なる気体ばね6または6′により車体のロール力を支えて、過度にローリングすることをなくした、車体の自動安定化装置。”
が記載されているものと認める。
3.刊行物3
刊行物3には、
リ)「田植機の前後揺動又は左右揺動の自動スイング制御装置は、……重錘等のセンサーにより田植機の前後揺動または左右揺動を感知し、該重錘等の信号により、ロータリー式の油圧方向制御弁を作動して、油圧シリンダーの伸縮を行い、スイングケースを上下に作動しラグ車輪を上下させ、機体の前後揺動を水平にし、左右揺動をも水平にしようとするものである。」(第1欄第21行〜第2欄第1行)
ヌ)「本考案は、田植機の前後揺動または左右揺動の自動スイング制御装置において、機体の揺動を感知してスイングケース回動用の油圧シリンダーを伸縮させる油圧方向制御弁を、「中立」位置において、ポンプ22と油圧シリンダー15の油室と圧油排出口16bとが連通すべく構成し、田植機本体の揺動角θの大小に関わらず、該ロータリー式油圧方向制御弁の切換操作角度αだけ回動した位置より、左右揺動を水平に修正する方向へ圧油を切換えるべく構成した」(第5欄第23〜32行)
等の記載があるものと認める。
【3】対比・判断
1.本件請求項1に係る発明と上記刊行物1に記載されたものとを対比すると、
本件請求項1に係る発明の「動揺中心を車体左右中心面内に軸支する可撓シーソー・ビーム(1)」とは、明細書及び図面の記載を斟酌すると、中央部分が動揺中心として車体左右中心面内に軸支されてシーソー状に動揺し、また、路面の凹凸に応じて左右の走行部(3)がそれぞれ上下運動し得るように、中央部分の軸支点を中心に左右部分がそれぞれ上下に揺動するように形成されたビームを意味するものと認められるから、刊行物1に記載されたものにおける、アッパーアーム31,31′及びローアアーム32,32′は、本件請求項1に係る発明の「可撓シーソー・ビーム(1)」に相当するものと認められ、また、刊行物1に記載されたものにおける車輪36,36′が、本件請求項1に係る発明の「走行部(3)」に相当し、また、刊行物1に記載されたものにおいて、ダンパー付スプリング34,34′は、駆動体6からベルクランク35を介して伝達される動揺力をローアアーム32,32′に作用しているものと認められるから、
両者は、
動揺中心を車体左右中心面内に軸支する可撓シーソー・ビームで走行部を車体に結合し、該可撓シーソー・ビームと可撓シーソー・ビームに動揺力を伝達するように可撓シーソー・ビームに連結する緩衝バネとで形成する懸架系に、車体左右中心面内に動揺中心を軸支し動揺力を伝達する部材と車体間に介在する動揺位置制御機と、流路変換弁と、原動機で駆動される液体ポンプを流路系で継合した装置を取り付け構成した動揺均衡装置付懸架系をもつ自動車.
である点において一致するものの、
(1) 本件請求項1に係る発明は、車体左右中心面内に動揺中心を軸支し動揺力を伝達する部材が緩衝ばね(2)であって、当該緩衝ばね(2)の両端を可撓シーソー・ビーム(1)に連結し、緩衝バネ(2)の動揺中心軸(12)と車体間に動揺位置制御機(5)を介在しているのに対して、上記刊行物1に記載されたものは、車体左右中心面内に動揺中心を軸支し動揺力を伝達する部材がベルクランク35であり、緩衝ばねは一端がベルクランク35に軸着されたダンパー付スプリング34,34′で構成され、動揺位置制御機はベルクランク35の揺動位置を制御するものである点
(2) 本件請求項1に係る発明は、流路変換弁が、揺動錘機構(16)を結合し車体(4)に固定したもので、車体に対する揺動錘の向きによって切り換えられ、動揺均衡動作を補助するものであるのに対して、刊行物1に記載されたものは、流路変換弁が、運転者が操作するハンドルの動きによって切り換えられて、運転者の動揺均衡動作に応動するものである点
で相違する。
2.そこで、上記相違点について検討する。
上記刊行物2に記載されたものは、車輛のカーブ路走行時における遠心力に応動して、油圧緩衝器のばね定数を変更するようにしたものにすぎず、また、動揺均衡動作を補助するものとも認められないから、上記相違点1及び2における本件請求項1に係る発明の構成を開示または示唆するものではない。
また、刊行物3に記載されたものは、田植機において、重錘等の信号により、ロータリー式の油圧方向制御弁を作動して、油圧シリンダの伸縮を行い、スイングケースを上下に作動しラグ車輪を上下させ、機体の前後揺動を水平にし、左右揺動をも水平にしようとするものにすぎず、同様に、上記相違点1における本件請求項1に係る発明の構成を開示または示唆するものではなく、また、直接スイングケースを上下に作動しラグ車輪を上下させるものであるから、刊行物3に記載された油圧方向制御弁又は油圧シリンダの、刊行物1に記載されたものの流路変換弁(検出装置4)又は位置制御機(駆動体6)への置き換えを当業者が容易に想到し得るものでもない。
したがって、刊行物1〜3に記載されたものを寄せ集めても、本件請求項1に係る発明の特定事項である「車体左右中心面内に動揺中心を軸支し両端を可撓シーソー・ビーム(1)に連結する緩衝バネ(2)とで形成する懸架系に、緩衝バネ(2)の動揺中心軸(12)と車体間に介在する動揺位置制御機(5)と、揺動錘機構(16)を結合し車体(4)に固定した流路変換弁(6)と、原動機(14)で駆動される液体ポンプ(7)を流路系(8)で継合した装置を取り付け構成した」点を、当業者が容易に構成しうるものとすることはできない。
【4】むすび
以上のとおりであるから、本件請求項1に係る発明は、上記刊行物1〜3に記載されたものに基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとすることはできない。
また、他に本件特許出願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審決日 2001-10-01 
出願番号 特願平10-202674
審決分類 P 1 8・ 121- WY (B62K)
最終処分 成立  
前審関与審査官 増岡 亘  
特許庁審判長 蓑輪 安夫
特許庁審判官 鈴木 法明
藤井 昇
発明の名称 動揺均衡補助装置付懸架系をもつ自動車  

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