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審決分類 審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備  C12G
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  C12G
審判 全部申し立て 2項進歩性  C12G
管理番号 1046681
異議申立番号 異議2000-73938  
総通号数 23 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 1999-02-23 
種別 異議の決定 
異議申立日 2000-10-18 
確定日 2001-06-06 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第3035592号「低アルコール清酒」の請求項1ないし4に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 訂正を認める。 特許第3035592号の請求項1ないし4に係る特許を維持する。 
理由 I.手続の経緯
本件特許第3035592号に係る発明についての出願は、平成10年4月14日(優先権主張平成9年6月4日)の出願であって、平成12年2月25日にその特許の設定登録がなされ、その後、西野 満より特許異議申立がなされ、取消理由通知がなされ、その指定期間内である平成13年4月25日に訂正請求がなされたものである。

II.訂正請求
1.訂正の内容
特許請求の範囲の請求項1に係る記載「エタノール濃度4.0〜12.0%、日本酒度-50〜-25,酸度1.5〜4.0,カプロン酸エチル濃度0.05〜10.0ppm、イソアミルアルコール濃度15.0〜90.0ppm、ノルマルプロパノール濃度10.0〜60.0ppm、イソブタノール濃度4.0〜40.0ppmであり、清酒の香味が保持された低アルコール清酒。」を、「エタノール濃度4.0〜12.0%、日本酒度-50〜-25,酸度1.5〜4.0,カプロン酸エチル濃度0.05〜10.0ppm、イソアミルアルコール濃度15.0〜50.0ppm、ノルマルプロパノール濃度10.0〜60.0ppm、イソブタノール濃度4.0〜40.0ppmであり、清酒の香味が保持された低アルコール清酒。」と訂正する。
2.訂正の目的の適否、新規事項の有無及び拡張・変更の存否
上記訂正事項は、イソアミルアルアルコール濃度を「15.0〜90.0ppm」を「15.0〜50.0ppm」に訂正するものであるから特許請求の範囲の減縮に該当する。
そして、上記いずれの訂正も新規事項に該当せず、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、または変更するものではない。

3.むすび
以上のとおりであるから、本件訂正請求は、特許法120条の4,2項及び同条3項で準用する126条2項及び3項の規定に適合するので、請求のとおり当該訂正を認める。

III.特許異議申立
1.特許異議申立書の理由の概要
訂正前の本件請求項1乃至4に係る発明は、甲第1乃至5号証に記載された発明に基づき当業者が容易に発明をすることができたものである、或いは、訂正前の本件明細書の記載には不備がある。

甲第1号証:「奈良県工業試験場 研究報告」No.20,18〜24頁(1994)
甲第2号証:「山梨県工業技術センター 研究報告」No.2、89〜94頁(1988)
甲第3号証:J.Brew.Soc.Japn.Vol.81,No.9,626〜632頁(1986)
甲第4号証:「醗酵工学」64巻、4号、253〜259頁(1986)
甲第5号証:平成10年7月17日付早期審査に関する事情説明書
2.判断
(特許法29条2項違反について)
甲第1号証には、「吟醸もろみ中の成分の経日変化」との表題で、「Table5」に、15日目における清酒のイソアミルアルコール濃度は、「87ppm」であることが、
甲第2号証には、「低発酵性ワイン酵母による低アルコール清酒の醸造」との表題で、「表9 低アルコール清酒の低沸点香気成分」に、「清酒モロミ 3日目」のイソアミルアルコール濃度は、「85ppm」であることが、
甲第3号証には、「糖化後発酵法における麹使用量の影響」との表題で、「第5表 製成酒の香気成分と官能検査結果」に、イソアミルアルコール濃度が、「76ppm」であることが、
甲第4号証は、「醪中のカプロン酸エチル」に関するもので、全ての条件下での3日目のカプロン酸エチル濃度は0.05〜10.0ppmであることが、
甲第5号証には、エタノール濃度が4.0〜12.0%、日本酒度が-50〜-25,酸度が1.5〜4.0である清酒は普通のものであることが、それぞれ記載されている。
よって検討するに、訂正後の請求項1に係る発明(以下、「本件発明1」という。)では、その成分であるイソアミルアルコール濃度が「15.0〜50.0ppm」であるところ、甲第1号証ではそれが87ppm、甲第2号証では、85ppm、甲第3号証では、76ppmであって、本件発明1の上限である50.0ppmを大きく上回っており、しかも、本件発明1のイソアミルアルコール濃度が、低アルコール清酒におけるイソアミルアルコール濃度として良好であることを教示するところはない。
そして、甲第4号証及び甲第5号証には、イソアミルアルコール濃度について言及しているところはない。
そうすると、本件発明1は、甲第1号証乃至甲第5号証に記載の発明に基づき当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。
また、訂正後の請求項2乃至4に係る発明(以下、「本件発明2乃至4」という。)に関して、本件発明2及び4は本件発明1を、本件発明3は本件発明1及び2を、それぞれ引用するものであるから、本件発明1についての判断と同じ理由により、甲第1号証乃至甲第5号証に記載の発明に基づき当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。
(明細書の記載不備について)
特許異議申立人は、本件発明1及び2においては、得られた所望の結果を羅列しているにすぎず、その結果を達成するための技術的特徴が含まれていない旨、主張している。
しかし、請求項1及び2には、本件発明1に係る「低アルコール清酒」に関し、「エタノール濃度、日本酒度,酸度,カプロン酸エチル濃度、イソアミルアルコール濃度、ノルマルプロパノール濃度、イソブタノール濃度」について、具体的数値で特定しているから、請求項1及び2の記載は明確であることは明らかである。
したがって、上記特許異議申立人の主張は失当である。
3.まとめ
以上のとおりであるから、特許異議申立の理由及び証拠によっては、本件発明1乃至4についての特許を取り消すことはできない。
また他に本件発明1乃至4についての特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
低アルコール清酒
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】 エタノール濃度4.0〜12.0%、日本酒度-50〜-25、酸度1.5〜4.0、カプロン酸エチル濃度0.05〜10.0ppm、イソアミルアルコール濃度15.0〜50.0ppm、ノルマルプロパノール濃度10.0〜60.0ppm、イソブタノール濃度4.0〜40.0ppmであり、清酒の香味が保持された低アルコール清酒。
【請求項2】 エタノール濃度6.0〜9.0%、日本酒度-45〜-30、酸度2.0〜4.0、カプロン酸エチル濃度0.05〜3.0ppm、イソアミルアルコール濃度15.0〜50.0ppm、ノルマルプロパノール濃度100〜40.0ppm、イソプタノール濃度4.0〜20.0ppmであり、清酒の香味が保持された低アルコール清酒。
【請求項3】 ピルビン酸濃度が90.0ppm以下である請求項1または請求項2に記載の清酒の香味が保持された低アルコール清酒。
【請求項4】 低アルコール清酒が穀物、麹、水および酵母による醸造酒であることを特徴とする請求項1に記載の清酒の香味が保持された低アルコール清酒。
【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、清酒の香味を有している低アルコール清酒に関する。
【0002】
【従来の技術】
通常の清酒は、エタノール濃度が20%前後の原料清酒を調合してエタノール濃度を15%前後としたものが一般的であるが、近年では低アルコール指向が進み、通常の清酒よりもエタノール濃度が低い清酒およびその製造方法について種々の検討がなされている。
【0003】
既にいくつかのタイプの低アルコール清酒が知られているが、2つのタイプの味に大別される。その1つのタイプは、日本酒度が-10以上、酸度が1.5以下で、清酒の香味はある程度残しているものの、水っぽい味のために清酒として消費者を満足させるものではない。一方、もう1つのタイプは、高糖・高酸タイプの低アルコール清酒で、日本酒度-80〜-70、酸度5.0〜7.0程度であるため、極度に甘酸っぱく、水っぽさはないものの、清酒とは異なる香味を呈する。
【0004】
これらの低アルコール清酒の製造方法としては、水を加えるタイプと水を加えないタイプに大別される。一般的に原料清酒に加水してエタノール濃度を13%以下にすると、水っぽさや苦味を有する好ましくない酒質になることが知られており(日本醸造協会誌80(5)298,同78(8)641)、水っぽさを克服するために、これまで種々の検討が行われてきた。
【0005】
すなわち、具体的に説明すると、加水した場合には、補糖補酸を行う方法(特許番号第2598847号)、もろみ発酵の最盛期に多量の追水を行ってアルコールを希釈し、麹四段を行ってさらに発酵を続けて味を調整する方法(日本醸造協会誌74(1)61)等が挙げられる。加水をしないで低アルコール化するためにアルコール発酵を途中で止める場合には、発酵途上で固液分離し、未溶解の基質を除去して再発酵させる方法(日本醸造協会誌68(12)938)、グルコースを非発酵性糖に酵素によって変換させることで発酵を途中で終了させる方法(特許番号第1404185号)、発酵能の弱い酵母や糸状菌を利用する方法(日本醸造協会誌79(10)691,特開平5-56774)、温度感受性酵母を用い加熱によってアルコール発酵を途中で止める方法(特開平7-236465)等が挙げられる。また、水を加えずに低アルコール化する別法として、原料清酒からエタノールを取り除く方法、具体的には蒸留もしくは逆浸透膜処理を行い、製成酒からエタノールを除去する方法(特開昭61-100183,特開平4-222585)等が挙げられる。しかし、これらのどの方法をもってしても、低アルコール化処理後に水っぽさや苦味を抑えた清酒の香味を有している低アルコール清酒を得るには充分ではない。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
上記の状況および酒類全般にわたる近年の低アルコール指向を満足させる低アルコール清酒が望まれているなかで、本発明は、上記の欠点のない、清酒の香味が保持された低アルコール清酒を提供することを目的として開発されたものである。
【0007】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、前記した要求を満足させる低アルコール清酒について鋭意検討した結果、エタノール濃度、日本酒度、酸度、カプロン酸エチル濃度、イソアミルアルコール濃度、ノルマルプロパノール濃度およびイソブタノール濃度を特定の範囲にすれば、清酒の香味が保持された低アルコール清酒、すなわち、清酒の香りを持ち、味の優れた低アルコール清酒が得られることを見いだした。また、このような低アルコール清酒は、減圧下で原料清酒に水蒸気を投入して気化した香り成分を冷却凝集して回収し、香り成分を回収した残りの液についてはエタノールを所望の濃度となるまで留去し、留去後の液に前記の香り成分を戻して調製することにより、容易に得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち、本発明は、エタノール濃度4.0〜12.0%、日本酒度-50〜-25、酸度1.5〜4.0、カプロン酸エチル濃度0.05〜10.0ppm、イソアミルアルコール濃度15.0〜50.0ppm、ノルマルプロパノール濃度10.0〜60.0ppm、イソブタノール濃度4.0〜40.0ppmであり、清酒の香味が保持された低アルコール清酒である。
【0009】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明は、以下のような原材料から得られる醸造酒(清酒)中のエタノール濃度を低下させた低アルコール清酒である。すなわち、
(1)米、米麹および水のみを原料として発酵させ、濾過して得られたもの、
(2)米、水、清酒粕、麦、あわ、とうもろこし、こうりゃん、きび、ひえ、でんぷんおよびこれらの麹から選ばれた材料を加えて発酵させて、濾過して得られたもの、好ましくは、米および米麹を必須成分とし、これに加える麦、あわ、とうもろこし、こうりゃん、きび、ひえ、でんぷんおよびこれらの麹から選ばれた材料の重量の合計が、麹米を含む米の重量を越えないもの、
(3)(2)において、米、水および米麹とともに他の(2)の原料を発酵させて、濾過して得られた清酒に、アルコール、焼酎、ぶどう糖、水あめ、こはく酸、乳酸、くえん酸、グルタミン酸ソーダ、水または/および清酒を加えて得られたもの、好ましくは、米および米麹を必須成分とするものであり、これにアルコール、焼酎を加える場合は、エタノール100%に換算して、麹米を含む米の重量の28v/w%以内となるように加えたもの、また、ぶどう糖、水あめ、こはく酸、乳酸、くえん酸、グルタミン酸ソーダ、水または/および清酒から選ばれた材料を加える場合は、これらの重量の合計が、麹米を含む米の重量を越えないように添加したもの、
(4)清酒に清酒粕を加えて濾過して得られたもの、
(5)発酵中に生じた米残渣や酵母が懸濁した、いわゆる“にごり酒”や、炭酸による発泡性を有する清酒、
が挙げられる。
【0010】
この中では、(1)の清酒が本発明の効果を顕著に得られるという点で最も好ましいが、(5)の清酒は、清酒の有する濁りや炭酸により、さらに清酒の水っぽさが解消されるという点で好ましい。
本発明の低アルコール清酒のエタノール濃度は4.0〜12.0%であり、40%未満となると、酒が水っぽくなりやすい。また、12.0%を超える場合は、エタノール濃度が高すぎ、特に本発明の低アルコール清酒を得るという目的に合致しない。好ましくはエタノール濃度6.0〜9.0%であり、さらには65〜8.5%のときに本発明の効果が顕著である。
【0011】
本発明の低アルコール清酒の日本酒度は-50〜-25であり、酸度は1.5〜4.0である。日本酒度が-25を越え、あるいは酸度が1.5未満になると、酒が水っぽくなりやすく、また、日本酒度が-50未満であり、あるいは、酸度が4.0を越えると、甘味や酸味が強くなりすぎ、清酒らしさが失われる。好ましくは日本酒度が-45〜-30、酸度が2.0〜4.0、さらに好ましくは日本酒度が-40〜-35、酸度が2.6〜3.5である。ここで日本酒度とは、国税庁所定分析法(国税庁発行)により定義される測度であり、15℃における清酒の比重を表す単位である。清酒の比重(g/cm3)と日本酒度の関係は、日本酒度=1443(1-比重)/比重である。また、酸度は国税庁所定分析法により定義される遊離酸の総量を表す測度であり、清酒10mlを1/10規定の水酸化ナトリウム溶液で中和したときの滴定ml数として求められる。
【0012】
本発明の低アルコール清酒は、エタノール濃度が低いにも関わらず清酒の香味を保持している。ここで、「清酒の香味を保持している」とは、原料清酒由来の揮発成分が清酒の香りと味を充分に発現し得る程度に含まれていることをいう。
具体的には、カプロン酸エチル濃度0.05〜10.0ppm、イソアミルアルコール濃度15.0〜90.0ppm、ノルマルプロパノール濃度10.0〜60.0ppm、イソブタノール濃度4.0〜40.0ppmである。
【0013】
好ましくは、カプロン酸エチル濃度0.05〜10.0ppm、カプリル酸エチル濃度0.01〜1.0ppm、酢酸イソアミル濃度0.05〜10.0ppm、アセトアルデヒド濃度2.0〜20.0ppm、イソブチルアルデヒド濃度0.002〜0.05ppm、イソバレルアルデヒド濃度0.001〜0.05ppm、イソアミルアルコール濃度15.0〜90.0ppm、ノルマルプロパノール濃度10.0〜60.0ppm、イソブタノール濃度4.0〜40.0ppmである。
【0014】
さらに好ましくは、カプロン酸エチル濃度0.05〜3.0ppm、カプリル酸エチル濃度0.01〜0.3ppm、酢酸イソアミル濃度0.05〜3.0ppm、アセトアルデヒド濃度2.0〜10.0ppm、イソブチルアルデヒド濃度0.002〜0.01ppm、イソバレルアルデヒド濃度0.001〜0.01ppm、イソアミルアルコール濃度15.0〜50.0ppm、ノルマルプロパノール濃度10.0〜40.0ppm、イソブタノール濃度4.0〜20.0ppmである。
【0015】
カプロン酸エチル、カプリル酸エチル、酢酸イソアミルは吟醸酒の香りに関与するものであり、アセトアルデヒド、イソブチルアルデヒド、イソバレルアルデヒドは清酒の熟成に関与するものであり、イソアミルアルコール、ノルマルプロパノールおよびイソブタノールはこれら自体の芳香とともに香気全体の調和に寄与するが、各々の成分は過剰であると香味を損なうことが、本発明者らの研究で判っている。これらの成分組成になるように試薬を添加しても、本発明と同じ効果は得られないが、清酒として許容される原料を発酵させ、かつ、これらの成分組成が上述の範囲内であるようにすると、総合的に好ましい清酒の香味、すなわち、味と香りを形成するものである。
【0016】
なお、前記の香味成分の分析はガスクロマトグラフィーにより行い、当該成分に相当する市販試薬により作製された検量線を用いて定量した。測定条件は以下のとおりである。
<ノルマルプロパノールおよびイソブタノールの測定条件>
測定機種:(株)島津製作所GC-14A,C-R7A
カラム :(株)島津製作所CBP20-M25-025 0.25φ×25m
測定方法:ヘッドスペースガスクロマトグラフィー
測定条件:カラム温度 初期温度 60℃、初期保持時間 8分
昇温速度 20℃/分
最終温度 200℃、最終保持時間 1分
キャリアガス ヘリウム(圧力 1.5kg/cm2)
Inj.温度 250℃
Range 101
Attenuation 0
【0017】
<ノルマルプロパノールおよびイソブタノール以外の測定条件>
測定機種:(株)島津製作所GC-14A,C-R4A
カラム :(株)島津製作所CBP20-M25-025 0.25φ×25m
測定方法:パージアンドトラップ(P&T)ガスクロマトグラフィー
測定条件:カラム温度 初期温度 50℃、初期保持時間 1分
昇温速度 3℃/分
最終温度 150℃、最終保持時間 36分
キャリアガス ヘリウム(圧力0.3kg/cm2)
Inj. 温度250℃
Range 101
Attenuation 3
【0018】
さらに、本発明の低アルコール清酒中のピルビン酸濃度が90.0ppm以下であると、未熟感が感じられて酒質を損う香味が少なくなり好ましい。より好ましい範囲は、40.0ppm以下である。通常、アルコール発酵が不充分なうちに上槽して低アルコール清酒にする場合に、ピルビン酸濃度が高くなる。比較試験例3において、ピルビン酸濃度が90.0ppmを越える種々の市販低アルコール清酒と本発明の低アルコール清酒を比較評価したが、ピルビン酸濃度が高い低アルコール清酒は、未熟感のする、好まれない酒質になる結果が得られた。なお、本発明において、ピルビン酸濃度の分析は旭化成工業(株)製ピルビン酸測定キットによった。ただし、分析はこの方法に限られるものではない。
【0019】
本発明の低アルコール清酒中の酵母溶出物である、S-アデノシルメチオニンとその加水分解物であるメチルチオアデノシンの濃度の合計(以下、酵母溶出物濃度と略す)は、0.3mM以下であると好ましい。より好ましい範囲は、0.2mM以下である。酵母溶出物濃度がこの範囲内のときに、苦味、渋味およびいわゆる雑味と称される、清酒のすっきりした味を打ち消す官能的特徴を有する味の少ない酒質の低アルコール清酒となる。通常、アルコール発酵能が弱い酵母を使用したり、アルコール発酵の途中で酵母を死滅させる等の方法で低アルコール清酒にする場合に、酵母溶出物濃度が高くなる。比較試験例4において、酵母溶出物濃度が0.3mMを越えるものも含め種々の市販低アルコール清酒と本発明の低アルコール清酒を比較評価したが、酵母溶出物濃度が高い低アルコール清酒は、雑味の多い、好まれない酒質になる結果が得られた。なお、本発明において、酵母溶出物濃度の分析は液体クロマトグラフィーを用いて行い、市販の試薬との比較により同定、定量した。測定条件は以下のとおりである。
【0020】
測定機種:(株)島津製作所LC-10AD
カラム :ケムコ(株)NUCLEOSIL 10SA 4.0φ×100mm
測定方法:UV260nmの吸光度
測定条件:カラム温度 30℃
移動相 A液とB液によるリニアグラジエント
0〜20分 A液100%
20〜30分 A液100%からB液100%のリニアグラジエント
30〜45分 B液100%
45〜50分 B液100%からA液100%のリニアグラジエント
S-アデノシルメチオニンのピークを38分前後に検出
A液;0.05Mリン酸アンモニア緩衝液(pH3.0)
B液;0.5Mリン酸アンモニア緩衝液(pH3.0)
流速 1.0ml/分
注入量 10μl
Attenuation 6
【0021】
以降、本発明の清酒の製造方法の例について説明する。
本発明に用いられる清酒の原料清酒は、一般的な発酵法を用いることができる。すなわち、酒母仕込み、酵母仕込み、また、醪の段仕込み等のいずれも使用することができる。麹菌にはAspergillus oryzae等を用いることができ、発酵は酵母によるアルコール発酵であるが、一部に乳酸菌による乳酸発酵が組み合わされる場合もある。また、米麹の一部をアミラーゼ等の酵素剤で代替することも可能である。
【0022】
ピルビン酸濃度を低くするためには、発酵を完了したもろみから製造した原料清酒を用いるとよく、酵母溶出物濃度を低くするためには,発酵完了後ただちに濾過するとよく、酵母が死滅するような操作は用いるべきでない。また、原料清酒の日本酒度および酸度は、清酒として許容される糖分や酸味料を添加するなどの方法の他に、米の酵素糖化や混在する乳酸菌の利用により調製することができる。
前記で得られた清酒のエタノール濃度を低下させる方法としては、例えば、次の方法が挙げられる。
【0023】
すなわち、成分を所定の範囲に調整した原料清酒を減圧蒸留し、まず、香り成分であるエステル成分を多く含む画分を原料清酒から分離する。次に、原料清酒中のエタノールを主成分とするアルコールの画分を原料清酒から分離することにより、原料清酒中のエタノール濃度を低減させる。この低アルコール化された原料清酒に、上記のエステル成分を多く含む画分を戻す。
【0024】
原料清酒からエステル成分などの香り成分を回収するための減圧蒸留を行うには、例えば、薄膜式気液向流方式の蒸留装置を用いることができる。この装置としては、例えば、垂直に設置された円筒状のカラム容器の中心に垂直に設置された回転軸を有し、下底の周を上向きにした円錐台形の側面を有し、かつ、円錐の回転対称軸が前記回転軸と重なるように回転軸に固定した回転板と、同じく下底の周を上向きにした円錐台形の側面を有し、かつ、円錐の回転対称軸がカラム容器内の回転軸と重なる位置でカラム容器の内壁に固定した固定板が、交互に複数設置された内部構造を持つ装置が考えられる。減圧蒸留は、該装置の容器内を減圧状態とし、前記回転軸を回転させながら原料清酒をカラム容器の上部から固定板上へ流下させることにより、原料清酒が固定板上の中心部へと流下し、固定板のすぐ下側にある回転板上に落下する。落下した原料清酒は、遠心力により回転板上に薄膜状に広がり、回転板より広く広がったとき、板から溢れ出てカラム容器の内壁に達した後、前記回転板のすぐ下側の固定板上に流下する。このプロセスを繰り返す一方、カラム容器の下部から蒸気を上昇させて気液向流接触をさせることにより、液体中のエステル成分やエタノール成分を該蒸気中に移行させることができる。
【0025】
この装置を利用する場合、まず、原料清酒からエステル成分などの香り成分を分離回収し、次に、香り成分を分離した原料清酒からエタノールを低減させた原料清酒を得る。
当該装置の回転軸を毎分500〜1000回転の速度で回転させ、カラム容器上部から連続的に原料清酒を投入しながら、カラム容器下部から連続的に水蒸気を投入し、2〜20キロパスカルの圧力(絶対圧力、以降同様)で、20〜70℃の温度、特に清酒本来の香味を変化させないためには好ましくは20〜55℃の温度で、原料清酒から清酒の特有な香りの成分であるエステル類などをエタノールとともに蒸発させた後、冷却再凝縮させて香り成分の回収を行う。この際、原料清酒に含まれるエタノールの3.0〜20%を留去すれば、原料清酒から清酒特有な香りの成分であるエステル類などを充分に留去させることができる。
【0026】
次に、香り成分が除去された原料清酒を再度蒸留し、原料清酒中のエタノール濃度を目的濃度まで低減させ、低アルコール化された原料清酒を得る。このときの蒸留方法は、前記装置を用いて前記と同様の圧力、温度で行うことができるが、公知の一般的な蒸留方法でも行うことができる。
続いて、上記で回収した香り成分を低アルコール化された原料清酒に加え、清酒の香味を有する低アルコール清酒を調製してもよい。回収した香り成分は、任意の量を低アルコール化された原料清酒に戻すことができるが、戻す量は官能的に評価された結果により決定される。
【0027】
【発明の実施の形態】
次に、実施例、比較例を挙げて本発明をさらに説明するが、本発明の範囲は、これらに限定されるものではない。
【実施例1】
表1に示す仕込配合で、留後15日まで五段で発酵させて3800Lの原料清酒を製造した。
ここで四段は、蒸米に汲水を加えたものを酵素剤存在下で50〜60℃の温度で1晩処理したものである。また五段は、蒸米および米麹に汲水を加えたものを酵素剤存在下で60℃の温度で1晩処理し、これに追水2を加えて乳酸菌による発酵をさせたものである。
【0028】
この原料清酒を国税庁所定分析法に従って分析したところ、エタノール濃度は14.2%であり、日本酒度は-29であり、酸度は3.0であった(以降、エタノール濃度、日本酒度および酸度の測定は、国税庁所定分析法に従って行った)。また、パージアンドトラップガスクロマトグラフィー法およびヘッドスペースガスクロマトグラフィー法で分析したところ、カプロン酸エチル濃度が1.48ppm、カプリル酸エチル濃度が0.105ppm、酢酸イソアミル濃度が135ppm、アセトアルデヒド濃度が9.72ppm、イソブチルアルデヒド濃度が0.056ppm、イソバレルアルデヒド濃度が0.004ppm、イソアミルアルコール濃度が54.7ppm、ノルマルプロパノール濃度が52.4ppm、およびイソブタノール濃度が22.5ppmであった(以降、カプロン酸エチル、カプリル酸エチル、酢酸イソアミル、アセトアルデヒド、イソブチルアルデヒド、イソバレルアルデヒドおよびイソアミルアルコールの濃度の測定はパージアンドトラップガスクロマトグラフィー法、ノルマルプロパノールおよびイソブタノールの濃度の測定はヘッドスペースガスクロマトグラフィー法で行った)。また、旭化成工業(株)製ピルビン酸測定キットを用いてピルビン酸濃度を測定したところ、25.9ppmであった(以降、ピルビン酸濃度の測定は、前記測定キットを用いて測定した)。また、液体クロマトグラフィー法で酵母溶出物濃度を分析したところ、0.236mMであった(以降、酵母溶出物濃度の測定は、液体クロマトグラフィー法で行った)。
【0029】
この原料清酒1000Lを36℃に余熱した後、毎時500Lの速度で薄膜式気液向流接触装置のカラム上部から投入した。ここでいう薄膜式気液向流接触装置は、〔課題を解決するための手段〕に記載した装置である。なお、実施例で使用した当該装置のカラムには、回転円錐板と固定円錐板が約20組設置されており、回転円錐板と固定円錐板の直径はともに約300mmであった。
このときカラム内の回転円錐は、毎分700回転の速度で回転させ、カラム内圧を3.5キロパスカルに設定し、カラム下部より100℃の蒸気を毎時5Kgの速度で投入した。
【0030】
以上の条件でこの装置を運転すると、定常状態となり、カラム上部温度は38℃、カラム下部温度は40℃となった。カラム上部より清酒の香り成分を含むエタノールを主成分とする揮発性物質が気化して留出したので、その気体を-3℃のブラインを循環させたコンデンサーで冷却凝結し、毎時5Lの速度で総量10Lを回収した。また、回収された蒸留画分のエタノール濃度は70.4%であった。このときの原料清酒中のエタノール量を100%としたときの留去率(以下、単に留去率と称する)は6.3%であった。
【0031】
カラム下部より蒸留残液が、毎時499Lの速度で総量998L排出された。該排出液は直ちに15℃に冷却した。この排出液は、エタノール濃度13.3%、日本酒度-31、酸度3.0であった。
蒸留残液の全てを再び気液向流接触装置を用いて、前回と同様な方法で蒸留を行った。但し、このときの蒸留残液の投入は毎時250L、蒸気の投入は毎時20Kgの速度で行った。
カラム上部よりエタノールを主成分とする揮発性物質を留出させ、カラム下部より蒸留残液を毎時489Lの速度で総量978L排出させた。このときの留去率は47.9%であった。蒸留残液は直ちに15℃に冷却した。この蒸留残液は、エタノール濃度7.6%、日本酒度-41、酸度3.1であった。
【0032】
この蒸留残液に活性炭200g(乾燥重量、以降同称)を加えて活性炭で精製を行った後、最初の蒸留操作で回収した清酒の香り成分を含む蒸留画分の全量を加えた結果、エタノール濃度8.2%、日本酒度-39、酸度3.0、カプロン酸エチル濃度1.39ppm、カプリル酸エチル濃度0.095ppm、酢酸イソアミル濃度1.24ppm、アセトアルデヒド濃度5.75ppm、イソブチルアルデヒド濃度0.003ppm、イソバレルアルデヒド濃度0.002ppm、イソアミルアルコール濃度43.0ppm、ノルマルプロパノール濃度34.4ppm、イソブタノール濃度16.7ppm、ピルビン酸濃度25.6ppmおよび酵母溶出物濃度0.233mMの清酒が得られた。これを試験酒(1)とした。
【0033】
【表1】

【0034】
【実施例2】
表1において四段を1.5倍量とし、五段を3.0倍量とした以外は、表1と同様の仕込配合率で、留後15日まで発酵させて、エタノール濃度11.1%、日本酒度-39、酸度3.6、カプロン酸エチル濃度1.21ppm、カプリル酸エチル濃度0.089ppm、酢酸イソアミル濃度1.20ppm、アセトアルデヒド濃度7.78ppm、イソブチルアルデヒド濃度0.045ppm、イソバレルアルデヒド濃度0.003ppm、イソアミルアルコール濃度43.1ppm、ノルマルプロパノール濃度40.9ppm、イソブタノール濃度19.5ppm、ピルビン酸濃度22.6ppmおよび酵母溶出物濃度0.190mMの原料清酒を製造した。
【0035】
実施例1と同様の方法で小型の蒸留装置を用いて原料清酒2.0Lを蒸留し、清酒の香り成分を含む蒸留画分0.02Lと蒸留残液1.99Lを得た。このときの留去率は8.6%であった。蒸留画分はエタノール濃度69.9%であり、蒸留残液はエタノール濃度10.2%、日本酒度-42、酸度3.6であった。蒸留残液の分析には0.1Lを使用した。
蒸留残液を実施例1と同様の方法で小型の蒸留装置を用いて再び蒸留し、エタノール濃度7.6%、日本酒度-46、酸度3.7の蒸留残液1.86Lを得た。このときの留去率は32.9%であった。
【0036】
この蒸留残液に活性炭0.35gを加えて活性炭で精製を行った後、最初の蒸留操作で回収した清酒の香り成分を含む蒸留画分の全量を加えたところ、エタノール濃度8.2%、日本酒度-45、酸度3.6、カプロン酸エチル濃度1.10ppm、カプリル酸エチル濃度0.079ppm、酢酸イソアミル濃度1.09ppm、アセトアルデヒド濃度5.37ppm、イソブチルアルデヒド濃度0003ppm、イソバレルアルデヒド濃度0.002ppm、イソアミルアルコール濃度25.0ppm、ノルマルプロパノール濃度20.1ppm、イソブタノール濃度5.85ppm、ピルビン酸濃度20.2ppmおよび酵母溶出物濃度0.189mMの清酒が得られた。これを試験酒(2)とした。
【0037】
【実施例3】
表1において四段を0.2倍量とし、五段を省略した以外は、表1と同様の仕込配合率で、留後15日まで発酵させて、エタノール濃度17.1%、日本酒度-12、酸度2.6、カプロン酸エチル濃度1.81ppm、カプリル酸エチル濃度0.120ppm、酢酸イソアミル濃度1.65ppm、アセトアルデヒド濃度12.0ppm、イソブチルアルデヒド濃度0.070ppm、イソバレルアルデヒド濃度0.005ppm、イソアミルアルコール濃度67.2ppm、ノルマルプロパノール濃度65.0ppm、イソブタノール濃度29.1ppm、ピルビン酸濃度31.8ppmおよび酵母溶出物濃度0.294mMの原料清酒を製造した。
【0038】
実施例2と同様の方法で原料清酒2.0Lを蒸留し、清酒の香り成分を含む蒸留画分0.02Lと蒸留残液1.99Lを得た。このときの留去率は5.3%であった。蒸留画分はエタノール濃度70.7%であり、蒸留残液はエタノール濃度16.3%、日本酒度-13、酸度2.6であった。蒸留残液の分析には0.1Lを使用した。
蒸留残液を実施例2と同様の方法で再び蒸留し、エタノール濃度7.6%、日本酒度-27、酸度2.7の蒸留残液1.84Lを得た。このときの留去率は57.0%であった。
【0039】
この蒸留残液に活性炭0.35gを加えて活性炭で精製を行った後、最初の蒸留操作で回収した清酒の香り成分を含む蒸留画分の全量を加えたところ、エタノール濃度8.2%、日本酒度-26、酸度2.6、カプロン酸エチル濃度1.69ppm、カプリル酸エチル濃度0.109ppm、酢酸イソアミル濃度1.50ppm、アセトアルデヒド濃度6.49ppm、イソブチルアルデヒド濃度0003ppm、イソバレルアルデヒド濃度0.003ppm、イソアミルアルコール濃度30.4ppm、ノルマルプロパノール濃度24.7ppm、イソブタノール濃度6.90ppm、ピルビン酸濃度31.3ppmおよび酵母溶出物濃度0.296mMの清酒が得られた。これを試験酒(3)とした。
【0040】
【実施例4】
実施例1記載の原料清酒2.0Lを実施例2と同様の方法で蒸留し、清酒の香り成分を含む蒸留画分0.02Lと蒸留残液1.99Lを得た。このときの留去率は6.7%であった。蒸留画分はエタノール濃度70.1%であり、蒸留残液はエタノール濃度13.3%、日本酒度-31、酸度3.1であった。蒸留残液の分析には0.1Lを使用した。
蒸留残液を再び実施例2と同様の方法で蒸留して、エタノール濃度5.9%、日本酒度-43、酸度3.1の蒸留残液1.85Lを得た。このときの留去率は59.5%であった。
【0041】
この蒸留残液に活性炭0.35gを加えて活性炭で精製を行った後、最初の蒸留操作で得られた清酒の香り成分を含む蒸留画分の全量を加えたところ、エタノール濃度6.5%、日本酒度-41、酸度3.1、カプロン酸エチル濃度1.40ppm、カプリル酸エチル濃度0.098ppm、酢酸イソアミル濃度1.22ppm、アセトアルデヒド濃度4.95ppm、イソブチルアルデヒド濃度0003ppm、イソバレルアルデヒド濃度0.002ppm、イソアミルアルコール濃度24.0ppm、ノルマルプロパノール濃度19.4ppm、イソブタノール濃度5.17ppm、ピルビン酸濃度25.7pPmおよび酵母溶出物濃度0.234mMの清酒が得られた。これを試験酒(4)とした。
【0042】
【実施例5】
実施例2記載の原料清酒2.0Lを実施例2と同様の方法で蒸留し、清酒の香り成分を含む蒸留画分0.02Lと蒸留残液1.99Lを得た。このときの留去率は8.6%であった。蒸留画分はエタノール濃度69.9%であり、蒸留残液はエタノール濃度10.2%、日本酒度-42、酸度3.6であった。蒸留残液の分析には0.1Lを使用した。
蒸留残液を実施例2と同様の方法で再び蒸留し、エタノール濃度5.8%、日本酒度-49、酸度3.6の蒸留残液1.85Lを得た。このときの留去率は49.1%であった。
【0043】
この蒸留残液に活性炭0.35gを加えて活性炭で精製を行った後、最初の蒸留操作で回収した清酒の香り成分を含む蒸留画分の全量を加えたところ、エタノール濃度6.5%、日本酒度-47、酸度3.6、カプロン酸エチル濃度1.13ppm、カプリル酸エチル濃度0.082ppm、酢酸イソアミル濃度1.04ppm、アセトアルデヒド濃度4.52ppm、イソブチルアルデヒド濃度0.002ppm、イソバレルアルデヒド濃度0.002ppm、イソアミルアルコール濃度21.0ppm、ノルマルプロパノール濃度17.2ppm、イソブタノール濃度5.01ppm、ピルビン酸濃度20.2ppmおよび酵母溶出物濃度が0.192mMの清酒が得られた。これを試験酒(5)とした。
【0044】
【実施例6】
実施例3記載の原料清酒2.0Lを実施例2と同様の方法で蒸留し、清酒の香り成分を含む蒸留画分0.02Lと蒸留残液1.99Lを得た。このときの留去率は5.3%であった。蒸留画分はエタノール濃度70.7%であり、蒸留残液はエタノール濃度16.3%、日本酒度-13、酸度2.6であった。蒸留残液の分析には0.1Lを使用した。
蒸留残液を実施例2と同様の方法で再び蒸留し、エタノール濃度5.9%、日本酒度-30、酸度2.7の蒸留残液1.85Lを得た。このときの留去率は66.4%であった。
【0045】
この蒸留残液に活性炭0.35gを加えて活性炭で精製を行った後、最初の蒸留操作で回収した清酒の香り成分を含む蒸留画分の全量を加えたところ、エタノール濃度6.5%、日本酒度-28、酸度2.7、カプロン酸エチル濃度1.69ppm、カプリル酸エチル濃度0.113ppm、酢酸イソアミル濃度1.50ppm、アセトアルデヒド濃度5.75ppm、イソブチルアルデヒド濃度0.003ppm、イソバレルアルデヒド濃度0.002ppm、イソアミルアルコール濃度27.2ppm、ノルマルプロパノール濃度22.2ppm、イソブタノール濃度6.11ppm、ピルビン酸濃度31.5ppmおよび酵母溶出物濃度0.291mMの清酒が得られた。これを試験酒(6)とした。
【0046】
【実施例7】
表1において四段を0.4倍量とし、五段を省略した以外は、表1と同様の仕込配合率で、留後15日まで発酵させて、エタノール濃度16.5%、日本酒度-18、酸度1.7、カプロン酸エチル濃度1.92ppm、カプリル酸エチル濃度0.099ppm、酢酸イソアミル濃度1.73ppm、アセトアルデヒド濃度12.2ppm、イソブチルアルデヒド濃度0.090ppm、イソバレルアルデヒド濃度0.006ppm、イソアミルアルコール濃度84.5ppm、ノルマルプロパノール濃度75.4ppm、イソブタノール濃度53.6ppm、ピルビン酸濃度27.0ppmおよび酵母溶出物濃度0.290mMの原料清酒を製造した。
【0047】
実施例2と同様の方法で前記の原料清酒2.0Lを蒸留し、清酒の香り成分を含む蒸留画分0.02Lと蒸留残液1.99Lを得た。このときの留去率は5.5%であった。蒸留画分はエタノール濃度70.2%であり、蒸留残液はエタノール濃度15.7%、日本酒度-20、酸度1.7であった。蒸留残液の分析には0.1Lを使用した。
蒸留残液を実施例2と同様の方法で再び蒸留し、エタノール濃度3.8%、日本酒度-39、酸度1.7の蒸留残液1.85Lを得た。このときの留去率は77.6%であった。
【0048】
この蒸留残液に活性炭0.35gを加えて活性炭で精製を行った後、最初の蒸留操作で回収した清酒の香り成分を含む蒸留画分の全量を加えたところ、エタノール濃度4.5%、日本酒度-38、酸度1.7、カプロン酸エチル濃度1.81ppm、カプリル酸エチル濃度0.091ppm、酢酸イソアミル濃度1.57ppm、アセトアルデヒド濃度5.01ppm、イソブチルアルデヒド濃度0.003ppm、イソバレルアルデヒド濃度0.002ppm、イソアミルアルコール濃度29.1ppm、ノルマルプロパノール濃度22.1ppm、イソブタノール濃度9.71ppm、ピルビン酸濃度26.5ppmおよび酵母溶出物濃度0.286mMの清酒が得られた。これを試験酒(7)とした。
【0049】
【比較例1】
表1において四段を0.5倍量とした以外は、表1と同様の仕込配合率で留後15日まで発酵させて、エタノール濃度14.8%、日本酒度-21、酸度3.1、カプロン酸エチル濃度1.58ppm、カプリル酸エチル濃度0.109ppm、酢酸イソアミル濃度1.47ppm、アセトアルデヒド濃度10.1ppm、イソブチルアルデヒド濃度0.060ppm、イソバレルアルデヒド濃度0.004ppm、イソアミルアルコール濃度59.0ppm、ノルマルプロパノール濃度57.1ppm、イソブタノール濃度25.4ppm、ピルビン酸濃度27.5ppmおよび酵母溶出物濃度が0.253mMの原料清酒を製造した。
実施例2と同様の方法で原料清酒2.0Lを蒸留し、清酒の香り成分を含む蒸留画分0.02Lと蒸留残液1.99Lを得た。このときの留去率は5.7%であった。蒸留画分はエタノール濃度70.3%であり、蒸留残液はエタノール濃度14.0%、日本酒度-23、酸度3.0であった。蒸留残液の分析には0.1Lを使用した。
【0050】
蒸留残液を実施例2と同様の方法で再び蒸留して、エタノール濃度2.9%、日本酒度-42、酸度3.1の蒸留残液1.85Lを得た。このときの留去率は80.7%であった。
この蒸留残液に活性炭0.35gを加えて活性炭で精製を行った後、最初の蒸留操作で得られた清酒の香り成分を含む蒸留画分の全量を加えたところ、エタノール濃度3.5%、日本酒度-41、酸度3.1、カプロン酸エチル濃度1.39ppm、カプリル酸エチル濃度0.100ppm、酢酸イソアミル濃度1.35ppm、アセトアルデヒド濃度3.97ppm、イソブチルアルデヒド濃度0.002ppm、イソバレルアルデヒド濃度0.002ppm、イソアミルアルコール濃度19.5ppm、ノルマルプロパノール濃度15.6ppm、イソブタノール濃度4.36ppm、ピルビン酸濃度25.6ppmおよび酵母溶出物濃度0.252mMの清酒が得られた。これを比較酒(1)とした。
【0051】
【比較例2】
表1において四段および五段を省略した以外は、表1と同様の仕込配合率で留後18日まで発酵させて、エタノール濃度18.4%、日本酒度+1.5、酸度2.7、カプロン酸エチル濃度1.57ppm、カプリル酸エチル濃度0.122ppm、酢酸イソアミル濃度1.49ppm、アセトアルデヒド濃度9.62ppm、イソブチルアルデヒド濃度0.065ppm、イソバレルアルデヒド濃度0.005ppm、イソアミルアルコール濃度56.0ppm、ノルマルプロパノール濃度64.5ppm、イソブタノール濃度28.2ppm、ピルビン酸濃度20.5ppmおよび酵母溶出物濃度0.562mMの原料清酒を製造した。
【0052】
実施例2と同様の方法で原料清酒2.0Lを蒸留し、清酒の香り成分を含む蒸留画分0.02Lと蒸留残液1.99Lを得た。このときの留去率は4.9%であった。蒸留画分はエタノール濃度70.8%であり、蒸留残液はエタノール濃度17.6%、日本酒度+0.5、酸度2.7であった。蒸留残液の分析には0.1Lを使用した。
蒸留残液を実施例2と同様の方法で再び蒸留し、エタノール濃度5.8%、日本酒度-19、酸度2.7の蒸留残液1.82Lを得た。このときの留去率は69.8%であった。
【0053】
この蒸留残液に活性炭0.35gを加えて活性炭で精製を行った後、最初の蒸留操作で回収した清酒の香り成分を含む蒸留画分の全量を加えたところ、エタノール濃度6.5%、日本酒度-19、酸度2.8、カプロン酸エチル濃度1.45ppm、カプリル酸エチル濃度0.114ppm、酢酸イソアミル濃度1.34ppm、アセトアルデヒド濃度4.45ppm、イソブチルアルデヒド濃度0.003ppm、イソバレルアルデヒド濃度0.002ppm、イソアミルアルコール濃度21.8ppm、ノルマルプロパノール濃度21.0ppm、イソブタノール濃度5.72ppm、ピルビン酸濃度20.1ppmおよび酵母溶出物濃度0.560mMの清酒が得られた。これを比較酒(2)とした。
【0054】
【比較例3】
表1において四段を1.5倍量とし、五段を4.0倍量とした以外は、表1と同様の仕込配合率で留後15日まで発酵させて、エタノール濃度10.4%、日本酒度-39、酸度4.1、カプロン酸エチル濃度1.10ppm、カプリル酸エチル濃度0.080ppm、酢酸イソアミル濃度1.05ppm、アセトアルデヒド濃度7.28ppm、イソブチルアルデヒド濃度0.042ppm、イソバレルアルデヒド濃度0.003ppm、イソアミルアルコール濃度41.5ppm、ノルマルプロパノール濃度39.4ppm、イソブタノール濃度18.1ppm、ピルビン酸濃度20.4ppmおよび酵母溶出物濃度0.178mMの原料清酒を製造した。
【0055】
実施例2と同様の方法で原料清酒2.0Lを蒸留し、清酒の香り成分を含む蒸留画分0.02Lと蒸留残液1.99Lを得た。このときの留去率は8.2%であった。蒸留画分はエタノール濃度63.6%であり、蒸留残液はエタノール濃度9.6%、日本酒度-41、酸度4.1であった。蒸留残液の分析には0.1Lを使用した。
蒸留残液を実施例2と同様の方法で再び蒸留し、エタノール濃度7.6%、日本酒度-45、酸度4.1の蒸留残液1.86Lを得た。このときの留去率は28.4%であった。
【0056】
この蒸留残液に活性炭0.35gを加えて活性炭で精製を行った後、最初の蒸留操作で回収した清酒の香り成分を含む蒸留画分の全量を加えたところ、エタノール濃度8.1%、日本酒度-43、酸度4.1、カプロン酸エチル濃度1.02ppm、カプリル酸エチル濃度0.075ppm、酢酸イソアミル濃度0.963ppm、アセトアルデヒド濃度5.14ppm、イソブチルアルデヒド濃度0.003ppm、イソバレルアルデヒド濃度0.002ppm、イソアミルアルコール濃度25.0ppm、ノルマルプロパノール濃度19.9ppm、イソブタノール濃度5.61ppm、ピルビン酸濃度20.2ppmおよび酵母溶出物濃度0.175mMの清酒が得られた。これを比較酒(3)とした。
【0057】
【比較例4】
表1において四段を2.0倍量とし、五段を3.0倍量とした以外は、表1と同様の仕込配合率で留後15日まで発酵させて、エタノール濃度10.5%、日本酒度-46、酸度3.4、カプロン酸エチル濃度1.14ppm、カプリル酸エチル濃度0.079ppm、酢酸イソアミル濃度1.01ppm、アセトアルデヒド濃度7.37ppm、イソブチルアルデヒド濃度0.042ppm、イソバレルアルデヒド濃度0.003ppm、イソアミルアルコール濃度41.6ppm、ノルマルプロパノール濃度38.9ppm、イソブタノール濃度18.2ppm、ピルビン酸濃度20.1ppmおよび酵母溶出物濃度0.178mMの原料清酒を製造した。
【0058】
実施例2と同様の方法で原料清酒2.0Lを蒸留し、清酒の香り成分を含む蒸留画分0.02Lと蒸留残液1.99Lを得た。このときの留去率は8.1%であった。蒸留画分はエタノール濃度63.6%であり、蒸留残液はエタノール濃度9.7%、日本酒度-47、酸度3.4であった。蒸留残液の分析には0.1Lを使用した。
蒸留残液を実施例2と同様の方法で再び蒸留し、エタノール濃度5.8%、日本酒度-54、酸度3.4の蒸留残液1.87Lを得た。このときの留去率は45.7%であった。
【0059】
この蒸留残液に活性炭0.35gを加えて活性炭で精製を行った後、最初の蒸留操作で回収した清酒の香り成分を含む蒸留画分の全量を加えたところ、エタノール濃度6.3%、日本酒度-53、酸度3.4、カプロン酸エチル濃度1.07ppm、カプリル酸エチル濃度0.072ppm、酢酸イソアミル濃度0.933ppm、アセトアルデヒド濃度4.43ppm、イソブチルアルデヒド濃度0.002ppm、イソバレルアルデヒド濃度0.002ppm、イソアミルアルコール濃度21.1ppm、ノルマルプロパノール濃度16.6ppm、イソブタノール濃度4.90ppm、ピルビン酸濃度18.7ppmおよび酵母溶出物濃度0.176mMの清酒が得られた。これを比較酒(4)とした。
【0060】
【比較例5】
表1において四段を0.1倍量とし、五段を省略した以外は、表1と同様の仕込配合率で、留後15日まで発酵させて、エタノール濃度17.4%、日本酒度-10、酸度2.7、カプロン酸エチル濃度1.84ppm、カプリル酸エチル濃度0.129ppm、酢酸イソアミル濃度1.73ppm、アセトアルデヒド濃度12.2ppm、イソブチルアルデヒド濃度0.069ppm、イソバレルアルデヒド濃度0.005ppm、イソアミルアルコール濃度69.8ppm、ノルマルプロパノール濃度65.8ppm、イソブタノール濃度29.4ppm、ピルビン酸濃度32.5ppmおよび酵母溶出物濃度0.295mMの原料清酒を製造した。
【0061】
この清酒2.0Lに活性炭0.4gを加えて活性炭で精製を行った後、汲水で2.12倍希釈したところ、エタノール濃度8.2%、日本酒度-2、酸度1.2、カプロン酸エチル濃度0.862ppm、カプリル酸エチル濃度0.058ppm、酢酸イソアミル濃度0.815ppm、アセトアルデヒド濃度5.74ppm、イソブチルアルデヒド濃度0.030ppm、イソバレルアルデヒド濃度0.002ppm、イソアミルアルコール濃度32.7ppm、ノルマルプロパノール濃度30.4ppm、イソブタノール濃度13.3ppm、ピルビン酸濃度15.4ppmおよび酵母溶出物濃度0.140mMの清酒が得られた。これを比較酒(5)とした。
【0062】
【比較例6】
表1に示す仕込配合率で留後9日まで発酵させて、エタノール濃度12.5%、日本酒度-38、酸度2.8、カプロン酸エチル濃度2.25ppm、カプリル酸エチル濃度0.223ppm、酢酸イソアミル濃度2.05ppm、アセトアルデヒド濃度6.11ppm、イソブチルアルデヒド濃度0.075ppm、イソバレルアルデヒド濃度0.008ppm、イソアミルアルコール濃度104ppm、ノルマルプロパノール濃度37.8ppm、イソブタノール濃度22.9ppm、ピルビン酸濃度99.2ppmおよび酵母溶出物濃度0.050mMの原料清酒を製造した。
【0063】
実施例2と同様の方法で原料清酒2.0Lを蒸留し、清酒の香り成分を含む蒸留画分0.02Lと蒸留残液1.99Lを得た。このときの留去率は6.8%であった。蒸留画分はエタノール濃度67.9%であり、蒸留残液はエタノール濃度11.7%、日本酒度-39、酸度2.8であった。蒸留残液の分析には0.1Lを使用した。
蒸留残液を実施例2と同様の方法で再び蒸留し、エタノール濃度7.5%、日本酒度-46、酸度2.8の蒸留残液1.87Lを得た。このときの留去率は40.8%であった。
【0064】
この蒸留残液に活性炭0.35gを加えて活性炭で精製を行った後、最初の蒸留操作で回収した清酒の香り成分を含む蒸留画分の全量を加えたところ、エタノール濃度8.1%、日本酒度-45、酸度2.8、カプロン酸エチル濃度2.10ppm、カプリル酸エチル濃度0.208ppm、酢酸イソアミル濃度1.86ppm、アセトアルデヒド濃度3.90ppm、イソブチルアルデヒド濃度0.004ppm、イソバレルアルデヒド濃度0.004ppm、イソアミルアルコール濃度55.9ppm、ノルマルプロパノール濃度17.0ppm、イソブタノール濃度6.40ppm、ピルビン酸濃度98.7ppmおよび酵母溶出物濃度0.050mMの清酒が得られた。これを比較酒(6)とした。
【0065】
【比較例7】
実施例1記載の試験酒(1)に、カプロン酸エチル濃度11.4ppm、カプリル酸エチル濃度1.09ppm、酢酸イソアミル濃度11.2ppm、アセトアルデヒド濃度25.8ppm、イソブチルアルデヒド濃度0.053ppm、イソバレルアルデヒド濃度0.052ppmになるように市販試薬を添加した。これを比較酒(7)とした。
【0066】
【比較例8】
実施例1記載の試験酒(1)に、イソアミルアルコール濃度93.0ppm、ノルマルプロパノール濃度64.4ppm、イソブタノール濃度46.7ppmになるように市販試薬を添加した。これを比較酒(8)とした。
【0067】
【比較例9】
実施例1記載の原料清酒2.0Lを実施例2と同様の方法で蒸留し、清酒の香り成分を含む蒸留画分0.02Lと蒸留残液1.99Lを得た。このときの留去率は6.7%であった。蒸留画分はエタノール濃度70.1%であり、蒸留残液はエタノール濃度13.3%、日本酒度-31、酸度3.1であった。蒸留残液の分析には0.1Lを使用した。
蒸留残液を再び実施例2と同様の方法で蒸留して、エタノール濃度5.9%、日本酒度-43、酸度3.1の蒸留残液1.85Lを得た。このときの留去率は59.5%であった。
【0068】
この蒸留残液1.5Lに活性炭0.3gを加えて活性炭で精製を行い、エタノール濃度5.9%、日本酒度-43、酸度3.1、カプロン酸エチル濃度0.002ppm、カプリル酸エチル濃度0.002ppm、酢酸イソアミル濃度0.003ppm、アセトアルデヒド濃度3.65ppm、イソブチルアルデヒド濃度0.003ppm、イソバレルアルデヒド濃度0.001ppm、イソアミルアルコール濃度20.0ppm、ノルマルプロパノール濃度15.0ppm、イソブタノール濃度3.50ppmの清酒を得た。
【0069】
この清酒1.0Lに、汲水0.93Lおよび96%エタノール0.07Lを加えたところ、エタノール濃度6.3%、日本酒度-14、酸度1.6、ピルビン酸濃度12.8ppmおよび酵母溶出物濃度0.120mMの清酒が得られた。この清酒の香味成分濃度は、ガスクロマトグラフィー法の測定限界付近にあり、正確な分析が困難であったため、加えた汲水および96%エタノールによる希釈率から、この清酒の香味成分濃度を算出した。算出した濃度は、カプロン酸エチル濃度0.001ppm、カプリル酸エチル濃度0.001ppm、酢酸イソアミル濃度0.0015ppm、アセトアルデヒド濃度1.83ppm、イソブチルアルデヒド濃度0.0015ppm、イソバレルアルデヒド濃度0.0005ppm、イソアミルアルコール濃度10.0ppm、ノルマルプロパノール濃度7.50ppm、イソブタノール濃度1.75ppmである。これを比較酒(9)とした。
【0070】
【比較例10】
表1に示す仕込配合率で留後20日まで発酵させて、エタノール濃度14.8%、日本酒度-23、酸度2.9、カプロン酸エチル濃度1.03ppm、カプリル酸エチル濃度0.077ppm、酢酸イソアミル濃度0.910ppm、アセトアルデヒド濃度5.81ppm、イソブチルアルデヒド濃度0.049ppm、イソバレルアルデヒド濃度0.004ppm、イソアミルアルコール濃度35.1ppm、ノルマルプロパノール濃度46.2ppm、イソブタノール濃度19.1ppm、ピルビン酸濃度15.3ppmおよび酵母溶出物濃度0.489mMの原料清酒を製造した。
【0071】
実施例2と同様の方法で原料清酒2.0Lを蒸留し、清酒の香り成分を含む蒸留画分0.02Lと蒸留残液1.99Lを得た。このときの留去率は6.4%であった。蒸留画分はエタノール濃度70.2%であり、蒸留残液はエタノール濃度13.9%、日本酒度-24、酸度2.9であった。蒸留残液の分析には0.1Lを使用した。
蒸留残液を実施例2と同様の方法で再び蒸留し、エタノール濃度7.6%、日本酒度-36、酸度3.0の蒸留残液1.85Lを得た。このときの留去率は50.0%であった。
【0072】
この蒸留残液に活性炭0.35gを加えて活性炭で精製を行った後、最初の蒸留操作で回収した清酒の香り成分を含む蒸留画分の全量を加えたところ、エタノール濃度8.2%、日本酒度-35、酸度2.9、カプロン酸エチル濃度0.971ppm、カプリル酸エチル濃度0.071ppm、酢酸イソアミル濃度0.830ppm、アセトアルデヒド濃度3.35ppm、イソブチルアルデヒド濃度0.002ppm、イソバレルアルデヒド濃度0.002ppm、イソアミルアルコール濃度17.0ppm、ノルマルプロパノール濃度19.1ppm、イソブタノール濃度4.88ppm、ピルビン酸濃度15.1ppmおよび酵母溶出物濃度0.486mMの清酒が得られた。これを比較酒(10)とした。
【0073】
【比較試験例1】
実施例および比較例で製造した試験酒(1)、(2)、(3)、(4)、(5)、(6)、(7)および比較酒(1)、(2)、(3)、(4)、(5)を、酒類の開発およびきき酒の仕事に携わり3年以上の経験を有するきき酒の能力を持つパネル・メンバー18名で、各パネル・メンバーの個々の判断基準に従い、評価1として、水っぽくなく清酒らしさを保持しているか否かについての官能評価を行った。評価は3点法(1-水っぽい、2-やや水っぽい、3-水っぽくない)で評価してもらい、全メンバーの点の平均点を算出した。また、評価2として、酸味あるいは甘味が強すぎず清酒らしさを保持しているか否かについての官能評価を行った。評価は3点法(1-酸味あるいは甘味が非常に強く清酒らしくない、2-酸味あるいは甘味がやや強いが清酒として認められる、3-清酒らしい酸味および甘味)で評価してもらい、全メンバーの点の平均値を算出した。表2に各比較試験酒のエタノール濃度、日本酒度、酸度およびパネル・メンバー18名の官能評価の平均値を示す。
【0074】
【表2】

【0075】
評価1では試験酒(1)、(2)、(3)、(4)、(5)、(6)および(7)は、水っぽく感じられなかったが、エタノール濃度3.5%の比較酒(1)は、甘味酸味が強いにもかかわらず、水っぽく感じられると答えたパネル・メンバーが多かった。日本酒度-19の比較酒(2)および希釈型の低アルコール清酒で日本酒度-2、酸度1.2の比較酒(5)も、水っぽく感じられると答えたパネル・メンバーが多かった。また、試験酒(3)、(6)および(7)は、比較酒よりも水っぽさが少なかったが、より好ましい範囲の試験酒(1)、(2)および(4)よりは若干水っぽく感じられると答えたパネル・メンバーが多かった。
【0076】
評価2では、試験酒は酸味あるいは甘味が強いとは感じられなかったが、日本酒度-43、酸度4.1の比較酒(3)および日本酒度-53、酸度3.4の比較酒(4)は、酸味あるいは甘味が強く感じられると答えたパネル・メンバーが多かった。また、試験酒(5)は比較酒より酸味あるいは甘味が強いとは感じられなかったが、より好ましい範囲の試験酒(1)、(2)および(4)よりは若干酸味あるいは甘味が強く感じられると答えたパネル・メンバーが多かった。
したがって、試験酒は極度の甘酸っぱさがなくても、水っぽさを感じさせない味を呈し、全体としての評価が高い清酒であった。なかでも試験酒(1)、(2)および(4)の評価が高かった。
【0077】
【比較試験例2】
実施例および比較例で製造した試験酒(1)、(4)および比較酒(7)、(8)、(9)を、比較試験例1と同じパネル・メンバー18名で清酒らしい香りについて官能評価を行った。
清酒らしい香りについての評価は、この清酒の持つ香りを清酒らしく感じるか否かを官能評価で総合的に判断し、5点法(1-清酒らしく感じない、3-普通、5-清酒らしく感じる)で評価してもらい、全メンバーの点の平均値を算出した。表3にパージアンドトラップガスクロマトグラフィ一法およびヘッドスペースガスクロマトグラフィー法により求めた香気成分の濃度、およびパネル・メンバー18名の官能評価の平均値を示す。
【0078】
【表3】

【0079】
きき酒による官能評価もあわせて行った結果、本発明の清酒である試験酒(1)および(4)には、清酒らしい香りが認められたが、本発明に該当しないもの、すなわち、試薬添加により高級アルコール以外の香気成分を強化した比較酒(7)は、香気が強く不自然さが目立ち、清酒らしく感じられないと答えたパネル・メンバーが多かった。また、試薬添加により高級アルコールの香気成分を強化した比較酒(8)は、苦味や渋味、あるいは水っぽさが感じられ、全体として清酒の味のバランスが崩れていたと答えたパネル・メンバーが多かった。希釈により香気成分を弱めた比較酒(9)は、香気成分が少ないと同時に、味が少なくなって水っぽさが感じられたと答えたパネル・メンバーが多かった。
【0080】
【比較試験例3】
実施例および比較例で製造した試験酒(1)、(4)および比較酒(6)を、比較試験例1と同じパネル・メンバー18名で、各パネル・メンバーの個々の判断基準に従って、未熟感のする香味があるか否かについて官能評価を行った。評価は3点法(1-未熟感のする香味が強くある、2-未熟感のする香味がややある、3-未熟感のする香味を感じない)で評価してもらい、全メンバーの点の平均値を算出した。表4に各試験酒のピルビン酸濃度、およびパネル・メンバー18名の官能評価の平均値を示す。
【0081】
【表4】

【0082】
ピルビン酸濃度の低い試験酒(1)および(4)には、未熟感のする香味はあまり認められなかったが、発酵を中断したもろみから製造したピルビン酸濃度の高い比較酒(6)には、未熟感のする香味が認められたと答えたパネル・メンバーが多かった。
また、市販の低アルコール清酒(エタノール濃度8.2%〜10.9%)および一般清酒(エタノール濃度14%〜16%)を、上記と同様に官能評価を行った。表5に市販の低アルコール清酒および一般清酒のピルビン酸濃度、およびパネル・メンバー18名の官能評価の平均値を示す。
【0083】
【表5】

ピルビン酸濃度の低い市販一般清酒には、未熟感のする香味はあまり認められなかったが、ピルビン酸濃度の高い市販低アルコール清酒には、未熟感のする香味がある程度認められたと答えたパネル・メンバーが多かった。
【0084】
【比較試験例4】
実施例および比較例で製造した試験酒(1)、〈2)および比較酒(2)、(10)を、比較試験例1と同じパネル・メンバー18名で、各パネル・メンバーの個々の判断基準に従って、苦味、渋味および雑味等について官能評価を行った。評価は3点法(1-苦味、渋味および雑味等が強くある、2-苦味、渋味および雑味等がややある、3-苦味、渋味および雑味等を感じない)で評価してもらい、全メンバーの点の平均値を算出した。表6に各試験酒のS-アデノシルメチオニンとその加水分解物であるメチルチオアデノシン、両者の合計である酵母溶出物濃度、およびパネル・メンバー18名の官能評価の平均値を示す。
【0085】
【表6】

【0086】
酵母溶出物濃度の低い試験酒(1)および(2)には、苦味、渋味および雑味等はあまり認められなかったが、酵母溶出物濃度の高い比較酒(2)および(10)には、苦味、渋味および雑味等が認められたと答えたパネル・メンバーが多かった。
また、市販の低アルコール清酒および一般清酒を用いて、同様に官能評価を行った。表7に市販の低アルコール清酒および一般清酒のS-アデノシルメチオニンとその加水分解物であるメチルチオアデノシン、両者の合計である酵母溶出物濃度、およびパネル・メンバー18名の官能評価の平均値を示す。
【0087】
【表7】

酵母溶出物濃度の高い市販低アルコール清酒(4)および(8)には、苦味、渋味および雑味等が認められたと答えたパネル・メンバーが多かった。
【0088】
【発明の効果】
本発明の低アルコール清酒は、いわゆる吟醸香、芳醇香、麹香などの清酒の香りの強さと清酒自体の風味とのバランスがよく、清酒特有の香りが保持されている。また、低アルコールであっても水っぽさがない上、酸味および甘味が適度な清酒らしさの保持された低アルコール清酒を得ることができる。
 
訂正の要旨 (訂正の要旨)
特許請求の範囲の請求項1に係る記載「エタノール濃度4.0〜12.0%、日本酒度-50〜-25,酸度1.5〜4.0,カプロン酸エチル濃度0.05〜10.0ppm、イソアミルアルコール濃度15.0〜90.0ppm、ノルマルプロパノール濃度10.0〜60.0ppm、イソブタノール濃度4.0〜40.0ppmであり、清酒の香味が保持された低アルコール清酒。」を、特許請求の範囲の減縮を目的として「エタノール濃度4.0〜12.0%、日本酒度-50〜-25,酸度1.5〜4.0,カプロン酸エチル濃度0.05〜10.0ppm、イソアミルアルコール濃度15.0〜50.0ppm、ノルマルプロパノール濃度10.0〜60.0ppm、イソブタノール濃度4.0〜40.0ppmであり、清酒の香味が保持された低アルコール清酒。」と訂正する。
異議決定日 2001-05-15 
出願番号 特願平10-117874
審決分類 P 1 651・ 121- YA (C12G)
P 1 651・ 537- YA (C12G)
P 1 651・ 536- YA (C12G)
最終処分 維持  
前審関与審査官 深草 亜子  
特許庁審判長 徳廣 正道
特許庁審判官 田中 久直
大高 とし子
登録日 2000-02-25 
登録番号 特許第3035592号(P3035592)
権利者 旭化成株式会社
発明の名称 低アルコール清酒  
代理人 田中 光雄  
代理人 清水 猛  
代理人 青山 葆  
代理人 清水 猛  

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